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本物よりも珍しい?

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「こりゃ、ニセモノだね」
 メガネ越しにそのおやじは言った。
(でもこれは、本物の天使の涙よりも見ないものだな。物好きには高く売れそうだ)
 宝石を見せていた若い男はがっくりとうなだれる。
「なんだよ。この前来ていた露店で買ったんだよ。こんなにきれいな天使の涙はめったにないと思って」
「そりゃ、ニセモノだからな、いろいろ盛ってたんだろ。そう言う加工も今じゃ出来るからな。で、どうするんだい?」
 おやじは尋ねた。
「ニセモノじゃ仕方ない。あーあ、指輪にしてあの子にプレゼントしようと思ったのに。天使の涙が欲しいって言ってたからさ。ところで、買い取ってもらえるのか?」
「そうだな、これくらいでどうだ」
 親父が出した金額に若者はがっくりと肩を落とす。
「まあ、ニセモノじゃしょうがないよな。あーあ、大損だ。あの露天商め、見つけたらただじゃおかないぞ」

「ニセモノの宝石が出回っているらしいんです」
 木原・元宏(歩みを止めぬ者・h01188)はそう言ってARのスクリーンに白い涙型の石を映す。
「これは天使の涙と呼ばれる宝石で√ドラゴンファンタジーのある地方の特産物です。白いパール状の涙型の石で光にかざすと半透明になり七色に輝くと言うとても珍しいものです。これの偽物が√ドラゴンファンタジーのとある街で出回っているそうです。みなさんには偽物を扱っている露天商を見つけて偽物の出所を探して欲しいのです」
 そう言うと、元宏は困った顔をした。
「これの出所は恐らくダンジョンで、その主のモンスターが関わっているはずなんですけど、詳しく予知するここが出来ませんでした。ですのでまずは店主を問い詰めて偽物について詳しく聞いてもらえないでしょうか。ダンジョンの場所がわかればそこに行って原因となっているモンスターを倒すことが出来るはずです」
 元宏はもう一つ、宝石の画像を映した。
「これが偽物です。偽物は光にかざしても半透明にならずに白いままです。七色の光も出ません。ただ、光にかざさない時の光沢感や美しさは本物よりも上だそうです。ぱっと見はわからないと思いますので、気になったら光にかざしてみるといいでしょう。それではこの偽物を作っているモンスターの退治をお願いします。
 元宏はそうお願いした。

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第1章 日常 『魔法露天商』


ルカ・クロガネ

 休日の駅前は適度な賑わいを見せていた。山間部の小さな街だった。冬晴れの空が広がっている昼下がりの街をルカ・クロガネ(ドラゴンプロトコルの屠竜騎士・h04155)は歩いていた。歩行者天国には小さな露店が軒を並べている。チュロスをねだる彼女のために並んでいる高校生くらいの男の子や、ホットドッグを頬張りながらビールを飲んでいるおじさん、アイスクリームを食べている家族連れ、そんな平和な光景が広がっていた。
「露店巡りは嫌いじゃない、目当てのモノ以外の所を見ちゃうのは、仕方ない事なんだ。良い道具や武器があるかもしれないんだし」
 キリッとした男性に見えなくもないルカだが、売られている品物に目移りしながら歩いていた。別に来た理由を忘れてるわけじゃないからな? と、自分に言い聞かせながら通りを歩く。武器や探索に使えそうな小道具を扱う店を中心に回ると、思いのほか実入りがあった。どうやらこのあたりにはダンジョンが多く、おもしろい品物が手に入ることが多いようだった。
「変わったダンジョン? そうだな、あっちの通りの店でそう言うものを扱ってるよ。目利きのばあさんだ。いけばわかるさ」
 そう店主に言われるとルカは小路の隅にある店にたどり着いた。
(天使の涙の偽物か。わざわざ似たような物にするのは、わけでもあるのかねぇ?)
 そう思って品物を手に取る。店のおばあさんはにこりとして言う。
「お客さん、お目が高いね。それは海沿いの崖でしか取れない天使の涙だよ。ほら、こんなにつやもいい。彼女に送れば喜ばれることうけあいさ」
「そうなのか? オレにも似合ったりするのか?」
 ルカが女性だと知ると店主はなおさら熱心に勧めてきた。
「似合いますよ。キリッとした顔によく映える。どうです?」
 ルカは手に取ると軽く太陽の光にかざした。
「これは偽物だね。本物なら光にかざすと七色の光が出るはずだ。これはこれできれいだから、似た別物として世に出せば、価値は出たかもなのになぁ。」
「なんだい、あんた。ケチをつけるんじゃないよ。きれいなことには変わりないだろう?」
 店主は偽物をひったくった。
「こいつを使って、ダンジョンで実入りの良くなったヤツはいないのか?」
「いないだろうね。大事なのは知名度さ。こっちの方が珍しい石だけどね。価値はないんだよ。私も買いたたいてるしね」
 憤慨しつつ店主は言う。
「それじゃ、なんでそいつはこれを取ってきてるんだ?」
「楽に作れるらしいね。偽物だとしても小遣い稼ぎにはなるんだと。私もそいつがどこから取ってきてるかは知らないよ。一つ何か買ってくれたら私の口も滑るかもしれないね」
 にやりと笑って店主は言う。食えない感じだ。
「そうだな、ならこいつを頼む」
 と、ルカが赤い宝石を掴むとさすがにお目が高いね、と店主は言った。
「そいつは本物だよ。魔法の言葉をかけると光るヤツだ。目が利くあんたには融通してやるよ。顔に刀傷が2つある40絡みの男さ」
 そう言って店主はルカに商品とメモ書きを渡した。
「毎度あり。何か入り用なら言ってくれないかい? 特別に取っておくよ」
 店主は笑顔でルカを見送った。

逢魔時・マドカ
夜雨・蜃

「成る程、本物を偽った石の出所を探ると。相わかった。微力ながら、拙者も聞き込みをするでござる」
 夜雨・蜃(月時雨・h05909)は話を聞くと即座に行動を開始する。
「現地での露天商巡りでござるなぁ」
 賑やかな駅前には楽しそうな浮かれた雰囲気が溢れ、道行く人も露店の商品に目を奪われていた。
「やや、あれは中々綺麗な石が付いた…根付けでござる?すとらっぷ?こういう小物は手頃で、心を擽ぐられるでござるな」
 目的の店を見つけるとさりげなく商品を眺める。…さて、今日も天使の涙はあるかどうか。
「偽物を売りつけるなんて同じ商売人としてそれは許せません。でも私結構コミュ症だから強くは言えないんですよね」
 パーカーのフード越しにそう呟いたのは逢魔時・マドカ(猫神憑きの護霊「プリズマティック・ブルー」・h02779)だった。例の店は目と鼻の先、近づくのはちょっとだけ気が引けた。それでも店に近づいたのは偽物の天使の涙とおぼしき品を手に取る小柄な少年を見たからだった。
「店主殿。これを定期的に仕入れてくるのは、さぞ腕の良い業者なのでござろうな。…その人物について、詳しく話を聞きたい」
 蜃は小声で店主の老婆に聞く。
「あんた、珍しいことを聞くね。こう言うのは信用が大事なんだよ。一見さんには話せないね」
「あれ? この石よく見たら、天使の涙よりきれいな石じゃないですか」
 と声をかけたのはマドカだ。一瞬だけ店主の顔が渋くなった。
「そんな詐欺まがいな商売はしないで天使の涙より綺麗な石として商売したほうがみんな幸せになりますよ!」
「やれやれ、今日は鼻がきく客が多いね。困ったことだよ」
 店主はため息をついた。
「で、お嬢ちゃん方、あんたらの狙いはなんだい? まさかアタシの商売の邪魔をしに来たってわけじゃないんだろ?」
「私も曲がりなりにも商売をしている人なんです。私は怒りませんから、なんでこんなことしてるのか教えてください」
 マドカは尋ねた。この人はなんで人を陥れるようなことをするのだろう、マドカには不思議だった。店主は笑いながら。
「おもしろいね。アタシは商売だって言ったんだよ。値段をつけてそれを十分だと思うヤツが買う。それだけのことさ。まあ、こう言うのはお嬢ちゃんにはわからないだろうね。アタシはね、お客がどれだけ目が利くかを試してるんだ。価値のわからないヤツにはそれなりのものを、価値がわかるヤツにもそれなりのものを売ってるってだけさ。見るヤツが見ればここは宝の山さ」
 と言うと、やって来た40くらいの男に言う。
「なあ、あんた。あんたもそう思うだろ?」
 男の手には布で出来た小さな袋が握られている。店主はそれをひっつかむと中身を露店の棚に広げる。天使の涙の偽物だった。
「なにすんだよ。今日のもいい出来だぜ。わかってるんだろ?」
 男は不機嫌な顔をして言ったが、男を挟むように立つ蜃とマドカが射抜くような視線を向けていることに気づいた。
「あんたに客だよ。アタシはこいつから買ったものをただ売ってるだけさ。安く仕入れて高く売る、商売ってのはそういうもんさ。で、こいつを見つけてやったんだ、一つ貸しと行こうじゃないか?」
 店主は事もなげに言う。
「おい、俺を売るつもりか!?」
 蜃は少し考えるそぶりを見せてから店主と男に言った。
「この石…何がとは言うまい、秘密は守るで御座るよ。どこから持ってきたものかを教えてもらえればでござるが」
 マドカは不満そうな顔をする。蜃はマドカの方を申し訳なさそうにみてから店主達に向き直った。
「話がわかる坊ちゃんだね。アタシはいいよ」
「ち、仕方ねえな。裏の山にダンジョンがあるんだ。岩陰に隠れていて知ってるヤツはほとんどいない。宝の山みたいなところだ。もちろん全部偽物だけどな。一番奥の宝物庫に宝箱がある。全部罠がかかってる。そのどれかに口に赤いシミがついてるやつがある。そいつが目当てのやつだ。そいつはミミックで、たぶんダンジョンの主だ。誘ってるんだよ、偽物で。そいつに涙型の石やプラスチックを食わせてしばらくしたら脇を叩くんだ。そうすると唾液にまみれて半分溶けた石が吐き出される。後はそいつを水に晒せばできあがりだ」
 男はそう言って袋から出した偽物をながめる。
「けっこう手がかかってるんだぜ。危険もあるしな」
「偽物は偽物です。もうこんなことはやめてください」
 マドカは男に釘を刺す。
「そうさ、きれいだから価値があるんじゃない。本物だから価値があるのさ」
 店主が言うと、マドカは店主に言い返す。
「これは私のお願いですが、今度からは人を騙すことはやめてくださいね」
 店主はニコリとしたきり何も言わなかった。帰り際に蜃が言った。
「お代は出すので一つ頂くでござる。例え本物の天使の涙で無くとも、美しい石に変わりは無いのだから」
「あんた、わかってるね。そう言うこったね。まけとくよ」
 そう言うと店主は蜃に代金を告げる。それは天使の涙の十分の一以下の価格だった。
「ただでやってもいいんだけどね。商売ってのは信用をやり取りするもんさ。それがそいつの本当の価値だよ。いい買い物がしたかったらし尿出来る客になることだね」
 そう言うと店主は笑った。

第2章 冒険 『モンスターの正体を追え』


 偽物の天使の涙が取れるダンジョンの位置とモンスターの種類はわかった。洞窟の奥に行くと、言われたとおり偽の財宝で埋め尽くされた宝物庫があった。そこには宝箱がいくつか置いてあった。本物の敵、ミミックは口のところに赤いシミがついているらしかった。まずはどれがミミックか見極める必要がある。ミミックに気づかれないようにしてどれがミミックかを見つけることが出来ればこの後の戦いを有利にすることが出来るだろう。
黒塚・いろは

 洞窟に入るとそこはきれいに作られた玄室のような場所だった。入ってすぐの袋小路の真ん中に人が入りそうな大きさの四角い石の箱があり、隣の部屋には湧き水と大きな瓶が置いてある。ダンジョンにあるのはそれだけに見えた。
「まあ、これだけであるはずはないわけだね」
 黒塚・いろは(人間災厄「影の煩ひ」・h05231)は顎に手を当てて考える。あーでもないこーでもないと試していたら少し疲れてきた。瓶に腰掛けると瓶が少し沈んだ。
「ほお? お前さんがカギなのかい」
 どうやら重しを置くと何かのスイッチが入る仕組みらしかった。いろはは瓶に水を入れてみる。なかなかの重労働だったが瓶を水でいっぱいにするとガチャリと音がした。どうやら隣の部屋からのようだ。いろはは石の箱のある部屋に向かった。箱の様子が少しおかしい。
「開けてみるか」
 箱の蓋を開けてみると箱の底に下の階へと続く階段が見えていた。いろはは満足そうに頷くと階下へと降りていった。

夜雨・蜃
ルカ・クロガネ

 玄室の階段から地下に降りると、一本道が奥へと続いている。そこに灯りはなく真っ暗闇だがルカ・クロガネ(ドラゴンプロトコルの屠竜騎士ドラゴンスレイヤー・h04155)は持ってきていた携帯照明を灯す。辺りの様子を確認すると、上階と同じようにぴっちりとした石の壁が続いている。
「備えあれば、と言うヤツでござるな。ルカ殿は用意がいいでござる」
 夜雨・蜃(月時雨・h05909)が明るく言った。そう言う蜃も目印を付けるための顔料を持ってきていたりと、準備に抜かりはない。しばらく歩くと金属製の扉があり、いかにも中に何かありそうな雰囲気を漂わせていた。
「マッピングするまでもなかったな」
 ルカはそう言ったがもしも中が複雑な迷路になっていたらその準備がなければ面倒なことになっていただろう。準備とは何も起こらないときでもしておくものだから、ダンジョンの中では何が起きるかわからないのだから。幸い扉には鍵がかかっていなかった。入り口の仕掛けが全てなのか、それとも例の男が鍵を開けてそのままになっているのかはわからなかったが、中に入ることが出来た。
「うーん、偽物とはわかっていても輝かしい…。 これは、偽物とわからなければ喜び勇んで運び出していたところでござる」
 蜃は偽物の宝石と金で出来た宝が山のように置かれているその部屋を見てそう言った。金色の王冠、真珠と宝石がついた首飾り、赤い石がついた指輪、部屋を探すと本物と言ってもおかしくないようなものが次々に出てきた。もちろん全て偽物だ。しかもできるだけ価値が出ないように作られているようだった。
「悪質だな」
 ルカは渋い顔をする。部屋の中には7つの宝箱があった。
「…そのミミックは口に赤いシミがある、と」
 丹念に宝箱の口を見ていくと白っぽい木で出来た箱の口に赤い色のシミがいくつも着いている箱が一つだけあった。その一つ一つは小さく、まるで食べこぼしを服につけた子供のようだった。よく見るとその宝箱のまわりが一番光り輝いている、ここに一番価値があるものがあると言っているようだった。
「あのミミックもあの擬似餌で狩りをするのでござろうな」
 蜃はミミックの周りにある宝玉を見ながらそう言った。ルカは他の宝箱が本物かどうか確かめるために物陰から石を投げて宝箱に当ててみた。そのほかの宝箱は何も反応がない。開けてみると中身は空だったり、偽物の金貨が詰まっているだけだったりとまったく実になら無いものばかりだった。
「全てが撒き餌だと言う事か」
 ルカはさもありなんという顔をしてミミックの方を向いた。
「どんな動きをするとか、宝石を生み出すところが見れるなら、観察をしておくか」
「先人の知恵にならって、こちらも餌で釣るでござるか」
 蜃はそう言うと涙型の石をミミックの前に放り投げる。ミミックは石を認めると赤い舌を伸ばしてそれを口の中へ運んだ。赤い唾液が地面に垂れるとシューッと言う音とともに床を溶かすが唾液はそのうち固まってキラキラと光り始めた。
「ほう、これが宝石の元か。赤いシミは唾液だったわけだ」
 ルカはなるほどと言う顔をする。
「せっかくでござる」
 蜃がミミックの横にそろりと回り込むと箱の脇を蹴ってみる。ミミックはビックリしたように口を開けて何かを吐き出した、さっき口に入れた涙型の石だった。一回り小さくなった石にはミミックの唾液がまとわりついている。ミミックが動かなくなるのを待って水をかけると見る間に光沢が出て宝石のようになった。
「これでござるなあ」
 それが確認できると蜃はミミックに塗料を吸わせた布玉を投げつける。真っ赤に染まった箱は一目でそれとわかるようになった。
「あとは倒すだけだな」
 ルカは刀を構えながらそう言った。

第3章 ボス戦 『呪われしバイティア』


 赤い塗料を塗られたミミックは√能力者達にまだ気づいてはいない。今なら先手を打つ事も可能だろう。ミミックを倒せば、遺産を封印することができるだろう。ただし、宝石に見えたものは全てただの石ころに変わってしまうだろうけど。
白姫・ニャンフェルト・ニャオンリンデ・梓乃

 宝物庫の奥に赤い塗料のついた宝箱が置いてある。近づいてみるとそれはなんとも魅力的な魔力を放っていた。
「不用意に開けるとパクって言うわけやね」
 白姫・ニャンフェルト・ニャオンリンデ・梓乃(無影孤月・h05908)は足を忍ばせてミミック、『呪われしバイティア』へと近づくと様子を窺う。何をすればこの敵が一番困るのか……。
「閉じられなくなればいいんやろ?」
 梓乃は探偵事務所から先の尖った鉄の棒を取り寄せるとネコらしいしなやかな足取りでバイティアへと近づく。そして蓋をポンッと叩くとバイティアが大きな口を開けた。すかさず胡椒を巻く梓乃。バイティアがむせている間に取り寄せた鉄の棒を箱の口と蓋に突き刺す。棒が突き刺さったバイティアは蓋を閉じることが出来なくなり藻掻く。
「一仕事済んだね。これであいつを倒すのも楽になると思うで。ここの宝が全部偽物ってのも残念なことやわ」
 そう言うと梓乃はその場を後にしたのだった。

ルカ・クロガネ
夜雨・蜃

「事は偽の宝石から始まったものだが…宝物に目が眩んで、あのミミックの犠牲になった者はそれなりにいるでござろうな。此処で逃すわけにはいかないでござる」
 夜雨・蜃(月時雨・h05909)はそう言うと一足飛びにバイティアに迫ると日本刀を一閃する。ガァァアと嫌な叫び声を残してバイティアは身もだえる。バイティアは闇雲に口の中の宝物を叩きつけて蜃を狙うが霧を纏って姿を消した蜃を捉えることが出来ない。
「アアアアアァ!」
 奇怪な声を上げるとバイティアの姿が4つに分裂した。蜃は驚いた。
「あのミミック、分身の術を!」
 それを見ていたルカ・クロガネ(ドラゴンプロトコルの屠竜騎士・h04155)は楽しそうな顔をした。
「いいじゃねえか。色々と手間かけたが、これでようやく暴れられるな! てめぇとオレ等の喧嘩だ。今更どうこう言わせねぇぜ!」
 ルカの屠龍大剣は刀だった。ただし竜を殺せるほどに重い、扱える人間の限られる一振りだった。ルカは分裂したバイティアの正面に立ち、全てを見透かすような目でバイティアを見る。本物はただ一つ。バイティアがにじり寄り次々にルカに襲いかかる。鋭い刃がかすめ、血を流すルカだがどこかに余裕がある。蜃が投げつけた顔料のおかげで一つだけ赤く染まった個体がいるからだ。なぜすぐに斬らないのか、それは相手の呼吸を掴もうとしているから。リズムがあった。ルカが大剣を横薙ぎに振るうとバイティアは真っ二つになった。
「ギギギァァァ」
 のたうち回るバイティアだがまわりから分身が近づくと分身を吸収しながらみるみる修復されていく。そのまま宝物庫の宝箱に紛れると偽の宝を作り出してその中に隠れた。
「身を隠すスキルに長けたモンスターなのでござるな。ルカ殿、背中はまかせていただきたいでござる」
「頼むぜ!」
 息の詰まるような時間が続く。時折ガサガサと何かが動く音がするがバイティアは姿を見せない。ルカの目の前でゴトリと音がした。一瞬気を取られるルカ。バイティアはルカのがら空きのはずの背中に大きな口を広げて飛びかかるが。
「目には目をでござる」
 切を纏っていた蜃が忽然と現れるとバイティアの口に刀を突き入れる。蜃とルカはその場を飛び退きバイティアへと向き直るとバイティアからこぼれたつばが床を焼いていた。
「助かったぜ。このまま一気に叩き潰すぞ!」
「そうでござるな!」
 ルカが大剣でバイティアをたたき切るとバイティアは真っ二つになったように見えた。
「偽物でござるな。拙者がおびき出すでござる」
 バイティアはどうやら宝箱と自分の位置を入れ替えたらしい。蜃は陽動もかねて宝箱を壊していってバイティアの退路を断とうとする。赤い色をした宝箱を意図的にはずして壊していく。ルカはその赤い宝箱を見ている。バイティアが最後の力で飛びかかってくる瞬間を。残りの宝箱が2つになった。しびれを切らしてバイティアが蜃に飛びかかる。それを刀で受けるルカ。
「オレの最大火力っ…付き合ってもらうぜ!」
 そう宣言するとバイティアと相対し相手の最大の攻撃を待つ。全身を戦慄かせてルカに飛びかかるバイティア。次の瞬間、だんっと音がしてバイティアは真っ二つになって倒れた。ルカの刃がバイティアのそれよりも早くバイティアを両断していた。ことりと白い壺がバイティアから吐き出された。これがバイティアの核であり遺産らしい。
「…黄泉路への案内仕る」
 蜃が遺産を真っ二つにすると。ダンジョンの様子が変わっていった。全てがくすんだ白い石に変わっていく。
「…そうか、主人が居なくなった偽の宝物は全て石に。夢幻の様な遺跡でござったな。しかしこれでもう、犠牲者が生まれることもなし」
「そういや、ここを儲けのタネにしてた奴は、ここを使えなくなりゃ、結局別のとこで似たような事をするんだろうかね。そういうのを見つける事だけは凄いなと思うよホント」
 ダンジョンの跡地を後にするときルカはそんなことを思った。

「やれやれ、あんた達ずいぶん腕が立つね」
 例の露店の店主は2人の顔を見るなりそう言った。手には偽物の天使の涙だった石を乗せている。
「拙者の天使の涙(偽)も石になったのは少し残念でござる」
 店主は笑いながら言う。
「あたしもさ。こうなるとわかっているから売り物にはならないんだよ。ただね、こいつの方が綺麗だとは思うね。価値ってのは人が決めるもんさ、あたしぐらいがこいつの価値を認めてやっても罰は当たらないだろうさ」
 蜃もつられて笑った。
「ところで、面白いモノは入ってないか?」
 ルカが聞くと店主は奥の棚から一つかんざしを取り出した。黒いつややかな石のついた黒塗りのかんざしだった。
「お嬢ちゃんにはこれはどうだい? 挿してもいい石を握って念じると硬くなって武器にもなる。その大物だけだと近づかれたときに使えるものが欲しいだろ?」
 ちょっと悩むルカだが安くするよ、と言われて買うことにした。
「よし、もらおう。でも、なぜ値札がないんだ」
「売ってるものの名前もここにはないのさ。あるのはものだけ、価値を決めるのはあんた達お客ってわけさ。聞かれれば値段は言うがね」
 店主はにやりと笑う。
「なるほどでござるな。ともあれ、これにて一件落着でござる! 拙者も何か買うでござるよ」
 店主は蜃にもおすすめを出してくると、蜃はそれを喜んで買ったのだった。

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