シナリオ

機械のモズは贄を求めて蠢く

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●シュライクたちの襲撃
 巨大な円盤を背負った機械のバケモノたちが、√EDENの街を徘徊していた。
 夕暮れの駅前。日が沈みかけて冷たい風が吹く中、家路を急ぐ人々が駅舎の入り口から出てくる。寒さでうつむきがちになった人々は、近づく異形にまだ気づかない。
 そんな人々に、戦闘機械群ウォーゾーンより現れた『シュライク』たちが襲いかかる。
「生命体反応アリ。捕獲する」
 シュライクの頭上にある円盤型のマシンから金属の爪が伸びる。
 その先にいたのは――どこかの学校の制服を着た少女。
「な、なに……きゃぁぁぁ!」
 不幸にも最初にターゲットとなった少女は、なすすべもなく捕獲された。
 異変に気付いた周囲の人々が顔を上げる。けれど、既に手遅れだった。彼ら、彼女らが逃げようとするよりも早く、シュライクたちは動き出していた。
 重力弾が逃亡の足を止めて、金属爪と伸びる槍が容赦なく人々を捕らえていく。
 駅の外に出てきた人がいなくなれば、次は駅や隣接する商業施設の建物にも――。
 その場から無事に逃れられたのは1人だけ――ウォーゾーンの戦闘機械群を呼び込んだ邪悪な√能力者だけだった。

●星詠みからの依頼
 ゾディアック・サインを受け取った御津海・恵美理(戦渦をつかさどる天使・h02882)は、√能力者たちを少人数用のレンタルスペースに呼び出した。
 ブラインドを閉めた暗い部屋。集まった人々を見回して、彼女はメモ帳を閉じる。
「√ウォーゾーンの戦闘機械群が街を襲撃してきます。何者かが呼び込んだようです」
 前置きもなしに、恵美理は告げた。
「戦闘機械群の目的は√EDENの資源ですが、今回現れる敵はインビジブルだけでなく、『生きた人間』を捕らえるつもりのようです」
 放っておけば、多くの人々が捕獲されて、連れ去られてしまうということだ。
 現場は東北地方に存在するとある都市の駅前。恵美理は予知した詳しい場所を√能力者たちに伝える。
 予知された場所は積雪などもないようだ。
「敵はシュライクと呼ばれるタイプです。頭部のUFO型の機械で生命体を捕獲する能力を持っています」
 金属爪や伸びる穂先による物理的な攻撃を行う他、UFO型機械から重力弾を飛ばすこともできる。
「残念ながら、シュライクたちが√EDENに雪崩れ込んでくることは止められませんが、急げば襲撃から人々を守ることはできそうです」
 敵を呼び込んだ何者かの追跡も無理そうだと、恵美理は付け加える。
「シュライクを撃破しても、おそらくは増援が行われます。他の量産型の敵を送り込んでくるか、それとも指揮官自身が出てくるかは皆さんの活躍次第でしょう」
 いずれにしても、人々を守るためにさらなる敵との戦いが予想されるということだ。
「……それと、駅に隣接する商業施設の中に、大きなゲームセンターがあるみたいです。行ったついでに、遊んできてみてもいいかもしれませんね」
 通信対戦ができる大型のゲームが充実しているらしい。
 けれど、楽しく遊ぶためにも――敵を撃退しなくてはならない。
「簒奪者の襲撃を迎え撃つことができるのは、あなたがた√能力者だけです。どうか、よろしくお願いします」
 恵美理はそう言って、頭を下げた。

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第1章 集団戦 『シュライク』


ゼグブレイド・ウェイバー
八海・雨月

●駅前の攻防
 夕闇の中、駅前に近づく異形たち。その敵を目指して√能力者たちは移動していた。
「やれやれ……何か変なものが飛んでいるであるなぁ……人を襲うなら助けねばならぬし……科学者としてあれもどういった構造なのか気になるところであるな」
 ゼグブレイド・ウェイバーは遠目に謎のオブジェクトを頭に着けた機械の集団を観察する。
 敵……シュライクたちをながめる視線は好奇心に満ちていた。
「堂々と殴り込みを掛けて来るなんて感心ねぇ……」
 八海・雨月はわざとらしくそんな言葉を吐いた。
「なんて言う訳ないでしょぉ、なに人攫いなんてしてるのよぉ」
 一転してその声が怒りに変わる。
 戦闘機械群は駅から出てくる人々に近づいていっている。
「痛いのであまりやりたくはないであるが…致し方なし、であるな……融合するであるぞ、ヴェノム!」
 鞄からフラスコを取り出し、中の液体を宙に注ぐと、それは動き出してゼクブレイドの身体にまとわりつく。
 自らが生み出した毒の生命体、『アシッド・ヴェノム』と融合しているのだ。
 重なりあった部分に激痛が走るのをどうにかこらえると、それはヒーローのような紫のアーマーとなって彼の身を包んだ。
「個々の人間に愛着は無いけどぉ……わたしらの物を掠めて行くのは気に食わないわぁ」
 雨月が腕にかけた人化の術を解くと、そこに巨大な鋏角が現れる。
「迂闊に手を出すと鋏まれるってことを教えてあげるわぁ」
 鋸歯状の歯を持った鋏角を打ち鳴らし、身構える。
 そして、√能力者たちはシュライクと人々の間に割って入るべく、駆け出した。

●ウォーゾーンを打ち砕け!
 予知されていた悲鳴が、響くことはなかった。
「一緒に仕掛けるぅ? タイミング合わせるわよぉ」
「よかろう。我輩も協力することに異存はない」
 巨大な鋏角を振り上げた女と、紫のアーマーをまとった男が、シュライクたちの前に割り込んだからだ。
「何者だ? 邪魔をするなら死ね!」
 シュライクたちの頭部と融合したUFOが動き出す。前方の敵は金属爪を振るい、後方の敵は重力弾を生成。
 だが、それよりも先に、√能力者たちは攻撃を放った。
「耳を澄ませば潮の音が聞こえる……気がするのよねぇ」
 雨月は前方の敵に接近し、鋏角を大きく薙ぎ払う。
 敵の金属爪と鋏角がぶつかって硬い音を立てる。そのまま金属爪を弾いて、雨月は目立つUFO部分を吹き飛ばす。
 同時に、後方の敵をゼクブレイドが狙っていた。
「あの変な弾丸がやっかいそうであるな……効くかはわからないであるが纏めて撃ち落としながら敵を叩くであるか!」
 紫のアーマーからアシッド・ヴェノムが伸びる。
「攻撃開始……気をつけるであるぞ? 毒であるがゆえ当たると痛くて苦しいであるからな!」
 広がる毒が重力弾を絡め取り、そしてシュライクたちを猛毒に冒していく。
 2人の攻撃で少なくないシュライクたちが残骸となる。
「ふむ……これがこやつらの構造か」
「こいつらクラゲみたいな見た目して硬いわねぇ、食いでが無さそうだわぁ」
 ゼクブレイドが分析し、雨月は嘆息する。
 もっとも、倒れた敵はまだ一部。倒れた敵を乗り越え、後続のシュライクたちがさらに√能力者たちに迫る。
「退かずにガンガン行くわよぉ……人間に被害を出す訳にはいかないものぉ」
「同意であるな」
 即興の連携を続けて、2人は敵をさらに迎え撃つ。

御門・雷華
風宮・ワタル

●久方ぶりの世界
 シュライクに挑む√能力者たちは他にもいる。御門・雷華と風宮・ワタルの師弟だ。
 ワタルは√EDENの風景を懐かしげに見回した。もっとも……彼が知る場所には不似合いな化け物どもが、すぐに目に入る。
 巨大なUFOを頭部にくっつけた、機械の怪物たち
 シュライクたちは、仲間が倒されてもひるむことなく、駅前に向かって進軍を続けている。
「まずは、機械のバケモン共を片付けねぇとな」
 弟子の様子を見て、雷華が声をかける。
「ワタル。久々の実戦、ヘマするんじゃないわよ?」
 煽ってくる師匠を横目で見て、ワタルも負けじと応酬する。
「そっちこそ、慣れねぇ場所だからって精霊の制御に失敗すんなよ?」
「上等」
 軽口を叩き合い、2人はシュライクとの戦場に加わっていく……。

●モズたちの壊滅
 シュライクたちは数を減らしていたが、それでもなお脅威と言っていい数を保っている。
 だが、ワタルは岩のごとく硬く拳を握って、恐れることなくそこに突っ込んでいく。
 雷華は精霊拳銃を構えて、落ち着いた物腰で遠距離から敵を狙う。
 シュライクたちが操る金属の爪と穂先が、あたかも壁のごとく2人に襲いかかる。
 雷華の銃口を避けて、シュライクたちは回避機動を取る。そして、金属爪の間合いに捉えようとしてくる。
 だが、雷華は引き金を引かず、即座に跳躍した敵の着地点へと銃口を動かす。
 契約精霊の力で雷をまとった弾丸が、シュライクの足元で爆発を起こして吹き飛ばす。
「素早く正確な判断ね。素晴らしいわ……動きが読みやすくて」
 多数の金属爪をすべてかわすことはできないが、帯電して強化された雷華にとってさしたる打撃ではない。
 アスファルトを蹴って踏み込み、鍛え上げた蹴りを、敵が姿を消した場所に叩き込む。
「電撃で痺れているうちに、やらせてもらうわよ」
 光学迷彩が解けて、砕けた敵たちが姿を見せる。
「さて、ワタルの方は大丈夫かしら?」
 周囲の敵を片付けたところで、雷華は弟子の方を振り返った。
 その間に、ワタルも戦いを続けていた。
 岩をも砕くほどに鍛え上げた拳を強く握ると、彼はそれをシュライクたちへと叩きつける。
 金属の穂先が、反撃とワタルヘ伸びてくる。それを右手で受け止めた瞬間、穂先は力を失って落下した、
「無駄だぜ!」
 無防備になった敵に、至近距離から破壊の炎を叩き込んで、打ち砕く。
 勢いのまま、ヒカルは後ろにいた別のシュライクにも拳と炎をぶつけて撃破する。
 だが、数体倒したところで、横合いからも金属の穂先が飛んできた。
「クソ、思ったより速ぇな!?」
 両腕を交差させて、とっさにそれをガードする。
 次の瞬間、敵が雷に包まれた。迷わず拳を繰り出し、トドメを刺す。
「まだまだ詰めが甘いな、ヒカル」
「別に、このくらい自分でどうにかできたぜ」
 雷華の言葉に強がりで返し、ヒカルは周囲を見回す。
 今の敵が、どうやら最後だったらしい。
 ひとまずの襲撃は退けたが、これで終わりでないことは星詠みから既に聞いている。
 雷華やヒカルを含めた√能力者たちは、油断なく周囲を見回し、警戒を続けた。

第2章 集団戦 『バトラクス』


●丸くて凶悪な機械の群れ
 つぶらな瞳が、たくさん並んでいた。
 武骨な4脚に乗った球形の頭部。張り付いた瞳はどことなくコミカル。
 けれど、それが微笑ましい存在であるはずがない。
 シュライクの群れを撃破した√能力者たちのもとに、√ウォーゾーンからさらなる敵が押し寄せてきているのだ。
「捕獲失敗! 捕獲失敗!」
「殲滅! 殲滅!」
 機械音が物騒な言葉を吐き出して、駅に向けて押し寄せようとしている。
 装備された大砲や爆弾、そして機銃が、凶悪な光を放っていた。
八海・雨月
ゼグブレイド・ウェイバー
深雪・モルゲンシュテルン

●機械群を押さえろ
 増援として現れた√ウォーゾーンの丸い頭の機械たち。
 その前に、サイボーグの少女が立ちはだかる。
「航空部隊が迎撃されたとしても、その隙に陸上の大戦力で駅周辺を制圧する魂胆でしたか。皆さんが合流するまでは、私が抑えます」
 深雪・モルゲンシュテルンは接近する敵を青い瞳で静かに見つめる。
 そして、場と絡子に向けて、その背に浮いていた巨大な砲台が動き出した。
 発射軌道が放物線を描くように――そう思考するだけで、美幸の望むままに砲台は動く。
「<氷界>コネクション確立。射線上に僚機なし。凍結グレネードを使用します」
 狙う場所は戦闘のバトラクスよりも、少し後方。炸裂した砲弾が、なるべく多くの敵を巻き込むように。
「この兵装なら、広範囲の敵を殲滅し、さらに残った敵も低温で足止めできるはず」
 氷の砲弾が、目論見通りに放物線軌道で飛んでいく。
 バトラクスたちの真ん中に着弾したそれが、冷気と氷をまき散らす。着弾地点付近にいた敵が、凍り付き、砕け散った。
 生き延びた戦闘機械たちが、深雪に反撃してくる。
 無数の人間狂化爆弾が、狂気を与えようと迫ってくるのだ。
「すべて――撃ち落とします」
 対WZマルチライフルをビームバルカンモードに切り替えて、美幸はそれらを撃ち落としていく。
「殲滅されるのは、あなた達の方ですよ」
 もっとも、いつまでも爆弾を撃ち落とし続けられるわけではない。
 敵の数は、まだまだ残っていた。

●駆けつける仲間たち
 シュライクの群れを撃破した√能力者たちは、新しい敵の接近を察知して急ぎ移動した。
「おやおや……新手であるな? 何やら物騒なものまで持っているであるなぁ……仕方ない、あれも片づけるであるか」
 ゼグブレイド・ウェイバーは身体に走る融合の痛みをこらえて、ため息を吐いた。
「そうねぇ。せっかくおかわりが来たんだからぁ。別物が来てくれると飽きなくて良いわねぇ」
 八海・雨月が好奇心に目を輝かせる。
 夕闇迫る√EDENの駅前を、能力者たちが走っていく。
 戦っている深雪の横に、2人が並ぶ。
「貴殿もかの敵に対抗しているのであるな。ならば、我輩と協力するのはいかがか」
「もちろん、歓迎です。数には数で対抗しましょう」
 ゼグブレイドの提案に、深雪が頷く。
「みょうちきりんな恰好をしてるけどぉ……付いてる物が可愛くないわぁ。こいつらも全部平らげるわよぉ」
「同意します。殲滅いたしましょう」
 爆弾を撃ちながら近づいてくるバトラクスを、雨月は深雪とともに油断なく観察する。
 雨月は一本銛に似た変性殻槍を手に、ひるむことなくバトラクスたちの群れに突っ込んでいく。
 ゼグブレイドは自らに融合してアーマーと化したアシッド・ヴェノムに呼びかける。
「殲滅! 殲滅!」
 敵が増えたことを理解しているのかいないのか。
 バトラクスたちは、ただただ√能力者に押し寄せてきていた。

●新たなる敵を撃て
 近づいてくる敵が機銃を起動する。それが放たれるのと同時、ゼグブレイドの紫のアーマーから4つの首が現れる。
「まぁやることは変わりなく、であるな……連続攻撃は厄介であるが……ヴェノム、全てさばききるであるぞ!」
 首のうち2つを用い、アシッド・ヴェノムによる毒を、ゼグブレイドは敵へ放った。
 機銃に次いで飛んできた粘着弾のうち、自分に直撃するコースのものに毒をぶつけて防ぐ。
 突撃してくる敵を、残った2つの首が大口を開けて飲み込む。
 何体もの敵による突撃の勢いを殺しきれず、ゼグブレイドの身体が少し押される――それでも、少年は笑顔だった。
「お前たちも是非解析したいところである……な?」
 笑顔のまま、彼は受け止めたバトラクスを、敵側へと投げ飛ばした。
 雨月はそんな敵を飛び越えて、敵中へと一気に踏み込む。
「あなた不味そうねぇ。中身はどうかしらぁ」
 銛の穂先にある返しが、鋸刃状の捕食形態に変化する。内部を抉り、損壊させる形状だ。
「球体は突き刺し難くて嫌ねぇ……」
 狙い目は関節部や排気口。バトラクスの1体に飛び乗って、兵装とのつなぎ目に変性殻槍を突き入れる。鋸刃が機械部品を損壊させて、バトラクスが動きを止める。
 他の敵から、人を凶化させる爆弾が飛んできた。
「攻撃がこっちに向く分には好都合なのよねぇ」
 爆弾によって湧き出す狂暴な衝動に、雨月はそのまま身を任せた。
「わたしは頑丈だし、あなた達と違ってこっちは連携の取れる仲間がいるものぉ」
 好き勝手に暴れても、ゼグブレイドや深雪、他の仲間がなんとかしてくれるはずだ。そう考えて、雨月は槍を振るう。
 バトラクスたちの数は多い。
 けれど、雨月が前線で暴れるうちに、深雪が放つ氷の砲弾が、ゼグブレイドの仕掛ける毒が、敵の数を徐々に減らしていった。

御門・雷華
風宮・ワタル

●背中を任せて
 駅舎へ向かおうとするバトラクスを迎え撃つ√能力者たちの中に、金髪のエルフと黒髪の少年も加わっていた。
「ワタル。あなたは、さっきみたいに片っ端からぶっ壊して行きなさい」
「ん? よくわかんねぇけど、構わねえぜ」
 御門・雷華に声をかけられ、風宮・ワタルが応じる。
 師匠が考えていることがなにかは、わからない。けれど、少なくとも信じていいことは、わかっている。
「背中は任せたぜ!」
 だから、ワタルはまっすぐに敵へと駆け出した。
 迷うことなく走っていく弟子の背中を見やり、雷華は銃を抜く。
「私たちがサポートするわ」
 活発そうな見た目をした少女が、同時にそこに出現する。雷華と契約した雷の精霊だ。
 バトラクスたちが、近づいてゆくワタルに気づいて、迎撃態勢を取った。
 けれど、装備された無数の武器を恐れる2人ではない。
 戦闘機械群との戦いに、他の√能力者たちと共に、ワタルと雷華も加わった。

●砕け散る機械たち
 走っていくワタルに向かって、バトラクスキャノンの砲口が向けられる。
 だが、雷華はそれが火を吹く前に、引き金を引いた。
「行くわよ。相棒」
 精霊拳銃から、雷鳴をまとう銃弾が飛び出す。バトラクスの1体を撃ち抜くと、一瞬敵の身体に放電が走る。
 そのまま、攻撃を受けたバトラクスは砕けて散った。
 次々に放つ銃弾が、敵の数を減らしていく。
 けれども、すべてを攻撃前に倒し切ることはできない。
 バトラクスキャノンがワタルに向かって火を吹いた。
 真正面から飛んでくる砲弾……それに向けて、ワタルは右掌を突き出した。
 √能力を無効化する力が宿った掌で受け止めると、大砲は破壊力を失う。
「こいつは返すぜ!」
 ただの鉄の塊と化した砲弾を大きく振りかぶって、ワタルはバトラクスへ向かって投げ飛ばした。
 雷華の援護があってもすべてを無効化できるわけではないが、少なくとも接近する隙はできた。
 一部の敵は別の相手……雷華を狙い出したようだ。
 そのまま、ワタルはさらに走り抜ける。
 援護射撃をしていた雷華は視線と銃口を敵に向けたまま、側方へとダッシュする。
「させないわよ」
 狙いを修正しようとする敵の爆弾を、素早い動きで雷華は撃ち抜く。
 撃ち抜ききれない爆弾が飛んできたところで、ダッシュの勢いを乗せて跳躍。
「ついてこられるかしら?」
 立体機動でできるだけ攻撃をかわしながら、雷華は銃を撃ち続ける。
 それでも、すべての攻撃をかわしきることなどできない。人の心を狂わす爆弾は追いすがってくる。
 だが、それが雷華に届く寸前、ワタルが接敵する。
「やっと、たどり着いたぜ!」
 固めた拳にまとうのは、√能力者だけに見える破壊の炎。
「さぁ、殴らせろよ!」
 炎をまとった鉄拳がバトラクスの1体を吹き飛ばす。炎がそのまま、周りにいた敵をも巻き込む。
 炎の外にいた敵が、大砲を放った。両腕を交差させて、ワタルはそれを受け止める。
 衝撃で彼の身体が押されるが、転倒はなんとか避ける。
「ちっ、面倒だぜ!」
 雷華の銃弾が雷と共に飛び、攻撃してきたバトラクスを撃ち抜いた。
「行け、ワタル! 残りは少ない!」
「ああ! 全部、燃やしてやるぜぇ!」
 他の√能力者たちも戦いを続けている。バトラクスの数は残りわずかだった。
 銃弾と炎が戦場を走る。
 そして、最後の1体をワタルの鉄拳が吹き飛ばし、雷華の銃弾がトドメを刺す。
 燃えた装甲が雷に包まれ、最後の敵が爆発する。
 雷華は冷静に周囲を見回した。
「終わったのか?」
「ああ。もう増援はないようだ」
 敵がもう現れないのを確認して、2人は息を吐く。
 他の仲間たちもそれぞれに勝利を喜んでいる。
 √能力者たちは、無事に人々を守りきったのだ。

第3章 日常 『ゲームセンターで遊ぼう』


●ゲーセンに行こう!
 √ウォーゾーンからの侵略者たちはすべて撃退した。
 駅前の街は、何事もなかったかのように静けさを取り戻している。
 多くの人々が駅舎から出て、家路を急ぐ……が、主に若者たちを中心に、駅のすぐそばにある建物へと向かう人たちがいた。
 電飾の大きな看板が、夕暮れの街に輝く。
『GAME』と縦書きに書かれた青い大きな立て看板が入り口にある。
 入り口にいくつか並んだクレーンゲーム。
 けれど、それよりも目を引くのは、大型の通信対戦ゲームがいくつもあることだ。
 さまざまな種類の対戦格闘ゲームや、クイズゲームにパズルゲーム、カードゲーム。麻雀や競馬などのゲームもある。
 星詠みが、戦闘が終わったら遊んでいってはどうかと言っていたことを、√能力者たちは思い出した。
 さて……遊んでいってもいいだろうか?
風宮・ワタル
御門・雷華
深雪・モルゲンシュテルン
ゼグブレイド・ウェイバー

●ゲーセンに行こう!
 電飾が薄暗い街並みを明るく照らす。
 店の看板を、深雪・モルゲンシュテルンは見上げていた。
「これが√EDENのゲームセンター……私の出身地にも戦闘シミュレーター類はありましたが、純粋な娯楽用筐体がこんなに並んでいる所は初めて見ます」
 珍しげにながめる深雪の後ろから、他の√能力者たちが近づいてきた。
「お、ゲーセンか。懐かしいな~」
 風宮・ワタルが口の端を上げて目を細める。
「ゲームセンター。知識として知ってはいるけど、入ったことはないわね」
 その隣では御門・雷華が興味深そうに建物を見つめていた。
「ん、雷華は入ったことないんだっけ?」
「そうね」
 言葉をかわす師弟に、深雪が顔を向ける。
「先ほどはお疲れ様でした。お2人とも、寄っていかれるのですか?」
 問われたワタルが思案顔をする。
「そっすねー……。ま、せっかくだし、寄ってこうぜ、雷華?」
 仕方ないといった風に、雷華は弟子に肩をすくめて見せた。
「ゲーセン、楽しいっすよー」
 深雪にそう告げて、ワタルは雷華と共に店に入っていく。
「……ふむ」
 ゼグブレイド・ウェイバーも、会話に気づいてゲームセンターに近づいてきた。
「あなたも、ゲームセンターに興味が?」
「……吾輩、こういったところには来たことがなかったであるからな……否定はできないのである」
 深雪に問われて、ゼグブレイドが答える。
「ここまできたんであるし……経験、しにいくのも一興であるな」
 周囲を見回しながら、ゼグブレイドも店に入っていく。
「私も……折角恵美理さんが勧めてくれたのですから、少し試してみましょうか」
 それを見送ってから、意を決して深雪もまた、店に踏み込んだ。

●クレーンゲームは久しぶり
 ずっと修行と戦いばかりだった日々だったが、久々に遊べる。
 そんなことを考えながら、ワタルは入り口付近に集まっているクレーンゲームの筐体をながめた。
 ふと、師匠が見ている先にあるものに気づく。
(あれは、ぬいぐるみか?)
 雷華は大きな景品が1つだけ置かれた筐体をながめていた。
「それが気になるのか?」
 不意に声をかけられ、思わず目をそらす。
「……ちょっと気になっただけ」
「そんじゃ、久しぶりにやってみるか」
「できるのか?」
「まぁ、見てなって」
 コインを投入し、しっかりぬいぐるみの大きさを見極めて、そこにクレーンを下ろす……下ろしたはずだったが、アームは大きなぬいぐるみの胴体をこすっただけで、引っかからずに上がっていった。
 2回目は、引っかかりはしたものの、ちょっと持ち上げてずらしたところで、アームが外れた。手がかりを失ったアームが勢いよく閉じた。
(あ、あれ? おかしいな。久しぶりだから、勘が鈍っちまったか?)
 ちょっと焦った3回目。アームはぬいぐるみの胴体を真上から押しただけだった。
「……ま、手本はこれくらいにして。後は自分でやってみるか?」
 取り繕うが、雷華は別に気にした様子もなく、ただ筐体を見ている。
(なるほど、あのレバーを動かして、景品を掴んで、穴に落とす)
 ワタルの操作を反すうして、頭の中で動きをイメージしているのだ。
「ん、分かったわ」
 コインを投入した1回目と2回目は、ぬいぐるみをずらしただけだった。ワタルが声を上げるが、雷華は気にしない。獲物は目当ての場所と向きに動いた。
 そして3回目。持ち上がったぬいぐるみは、軽い音とともにコーナーに落ちた。
「けっこう楽しいものね」
 ぬいぐるみを取り出して、雷華はワタルに笑みを見せた。

●科学者はパズルゲームに挑戦する
 ゼグブレイドはクレーンゲームの透明なプラスチックに張り付いて、中の景品を眺めていた。
 大小のぬいぐるみはもちろん、菓子らしきものや、箱に入った人形もある。
(しかし、取るのは容易ではない様子であるな)
 ワタルや雷華のやり取りを見てゼグブレイドは思った。
 それよりも、その奥にある大型の筐体が気になった。
 可愛らしいキャラクターの横に枠があり、上から下に様々な色のアイコンが移動していく。1番下に落ちたものは、なんらかの条件を満たせば消えるようだ。
 いわゆる落ちものパズルと呼ばれるタイプのゲームだった。
「……面白そうであるな、どれ吾輩も挑戦していくである」
 実際やってみると、シンプルそうに見えて容易ではない。どうやら対戦形式で、相手の操作によっては邪魔なアイコンが出現するようだ。
 枠の横で、キャラクターが苦悩するポーズを取り始め、最後には泣き顔になってゲームが終わる。
(ぐむむ……なかなか思うようにならないのであるな)
 ただ自分側の枠だけを見るのでなく、相手が攻撃してくるタイミングも気を使わねばならない。
 ただ、対戦相手の動きは見本にもなる。だんだんとコツがつかめてきた。
「……なるほど、ちょっと工夫すれば割と簡単にいけるであるな、どんどんスコアを伸ばしていくであるぞー!」
 すっかりハマった様子で、ゼグブレイドは連勝を続けていった。

●プリクラコーナーに入れるのは……
 クレーンゲームの前から離れたあと、雷華は奥まった位置にある、ビニールのカーテンがかかった機械に目を留めた。
「あれは、写真を撮る機械だったわよね?」
 √EDENの知識を記憶から掘り起こすと、彼女はワタルに声をかける。
「ワタル。あれにしましょう」
「え、オレは別に」
 指さした先のエリアを見て、ワタルは即座に否定した。だが、雷華は取り合わずにワタルを引っ張っていく。
「お、おい!?」
 ワタルの目に『男性のみでのご利用はご遠慮ください』という看板が映る。
 そのエリアにいるのは、どう見ても同年代の女性ばかり。
 もちろん、雷華が一緒ならルール上は問題ないはずだが……そのコーナーにいるわずかな男性は、見るからにデート中だった。
「確か、二人以上で撮るものと聞いたわ。早く来なさい」
「わ、わかったよ」
 ワタルは諦めて、なるべく周りを見ないようについていく。
 今度は手本も見せられない。カーテンの中で画面を見ながら2人でどうにか写真を撮る。
 できあがった写真が、シールになって筐体から出てくる。
「……たまにはこういうのも悪くない」
 それを眺めて、雷華が微笑む。
「……そうだな。久しぶりに楽しかったぜ」
 シールをちらっと見て、ワタルはそれをポケットにしまった。

●争いのある未来
 深雪は戦場にいた。
 もっとも、戦場は画面の中で、さらに戦っているのは見慣れた√ウォーゾーンの決戦兵器ではなかったが。
「√ウォーゾーンの戦場では見ない場所でも戦うのですね」
 どうやら、宇宙移民時代――その、戦争をテーマにしたアニメが原作となったゲームらしい。
 人類ははるか未来になっても、なお争いを続けている世界に、深雪も加わってみることにした。
「これなら実戦経験を多少は活かせるでしょうか」
 使い慣れたウォーゾーンのものとは違う、スティックとボタンて操作する兵器。けれど、なにか通じる部分はあるかもしれない。
 3Dで描かれた世界では、自分が操る機械が、自分ではなくアニメキャラクターの声と顔で会話をしている。
 それが、少し不思議な気がした。
 障害物を利用し、僚機と連携をして敵と戦う。最初は操作がよくわからずにすぐ負けてしまった。
 けれど、その1回でだいたい操作は理解した。それから……どうやら、相手は機械ではなく、他のプレイヤーらしいということも。
(まず重要なのはステージを……戦場を把握すること。そして……敵がなにを考えているかを知ること……)
 位置取りが重要なのは、現実もゲームも変わらない。敵が攻撃しにくい位置はどこか。自分がしかけるべきはどこか。
 幾度かの挑戦で、深雪が操るマシンの砲撃が敵に直撃し、画面の中で爆散して9時れ落ちる。
「……ようやく勝てましたね」
 楽しくなってきて、深雪の頬に笑みが浮かぶ。
 けれど、それで連戦連勝とはいかない。
(……どう考えても、こちらより複雑な動きをしてくる相手がいます。なにか、私が知らない操作テクニックがあるみたいですね)
 上級者であろう相手の技術には、戦術と駆け引きだけでは勝ちきれない。
 しばらく戦いを続けた後、勝率を頭の中で計算する。
(はじめてにしては上出来……といっていいでしょうが、課題も多く残る結果ですね)
 後ろにいつの間にか他のプレイヤーが並んでいたので、深雪は席を譲る。
「……戦況が許すなら、ですが、いずれまた練習してみましょう」
 呟いて、深雪は歩き出した。

 外はいつの間にか真っ暗になっているが、ゲームセンターには煌々と明かりがついている。
 √能力者たちは、それぞれにゲームを楽しんでいた。

挿絵申請あり!

挿絵申請がありました! 承認/却下を選んでください。

挿絵イラスト