シナリオ

|接竜《つぎりゅう》テロリズム

#√ドラゴンファンタジー #喰竜教団

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●|喰竜教団《しょくりゅうきょうだん》
「嗚呼……! なんという天啓! わたくしに、真竜の加護が降り注いでいる……!」
 喰竜教団教祖『ドラゴンストーカー』。
 青く変色した肌、朽ちた竜の両翼、ボンテージアーマーに、波打つ巨剣。
 感動に打ち震えるように両腕を上げて、視線を上空へと向けた。
 瞳が絢爛に光り輝く。ドラゴンストーカーが視ているのは星――ゾディアック・サインだ。
「嗚呼……嗚呼……! 素晴らしい! わたくしの崇高な行いを、真竜は見てくださっているのですね……! このわたくしに、次なる不死を手に入れるドラゴンプロトコルの居場所を、指し示してくれるとは……!」
 燦々と輝く瞳に映るのは、とある学園。
 机の上で、けだるげにスマートフォンを見つめる、金翼、金髪の少女だ。
「与えなければなりません……ドラゴンプロトコルに安寧に満ちた死を……! そして、わたくしを糧に、真竜となるのです……! 輝かしき竜の時代は、すぐ其処に在るのですね……!」

●嵐の前の静けさ
「うー……」
 放課後。机に顎を置いて、その先にスマートフォンを見つめる。
 流れているのは、とある動画サイトのライブ放送だ。どうやら、冒険者の冒険譚を語る放送のようだ。
 瞳を輝かせて冒険を語る冒険者のパーティたち。その様子を見つめながら、金の翼と金の角、長い金髪を持つドラゴンプロトコルの少女――|金城《きんじょう》・|優花《ゆいか》は、その光景を見つめながら納得がいかなそうな表情を浮かべていた。
「良いなぁ……冒険者。私も√能力が使えれば……」
 片手を見つめて、ぐぬぬぬ……と力を込める。
 けれど、魔法の炎を浮かべることも、何か特別な力が発現することもない。
 はあ、と息を吐いて、机の上に置かれていた補習テストから視線を逸らして、妄想の世界へと旅立った。
「もし私が√能力を使えれば……冒険者になってモンスターをズバズバッと倒して……それに近所の不良とかも簡単にねじ伏せることができちゃったりして……」
 むふふ、とまんざらでもない表情。
 この少女――どうやら、|そっち系《中二病》のようであった。
 椅子の背もたれに体を預けて背を伸ばす。
「あーあ、つまんない。学園にテロリストとか乗り込んでこないかなぁ。……なんて、あるはずないか」
 はぁ、とまた深い溜息を吐いた優花であるが。

 すぐそこに、それは迫っている。

●喰竜教団の企みを阻止せよ
「みんなはあの予兆を視たかな。喰竜教団……そしてその教祖。ドラゴンプロトコルを殺害して、その亡骸を自分の体に縫合することで、真竜の力を取り戻そうとしているとんでもない連中だ」
 √汎神解剖機関で起こりそうな事案であるが、まさか竜の魔力に満ちた√ドラゴンファンタジーで起こるなど、星読みである黒辻・彗(自在変異の『|黒蓮《ブラック・ロータス》』・h00741)も思ってもみなかったようだ。
「それで……俺の通っている学園の生徒がターゲットになったみたいなんだ。金城・優花さん、ドラゴンプロトコルの女の子で、俺と一緒の|年齢《16歳》かな」
 学園内に友達がいないから会ったこともないし、会話したこともないけど、と遠い目で呟いた彗の言葉は、集まっていた√能力者たちには聞こえていたのかどうか。
「優花さんはその……どうやらテストの点数があまり良くなくて補習してたみたいでね。学園のその一校舎内にはもう彼女しかいない。教団側にとっては、絶好の機会というわけだ」
 それで、と彗が続けた。
「みんなにはあらかじめ手を打っておいて欲しいんだ」
 教団が攻めてくるまでに時間の猶予はある。
 校舎内を理解したり、校舎内に罠などを仕掛けるのも良いかもしれない。
「相手はドラゴンプロトコル至上主義の簒奪者だ。ドラゴンプロトコル以外は虫けら以下だと思っているみたいだから、問答無用で殺しに来るよ」
 校舎内に残っている生徒が、彼女一人になっていることだけは不幸中の幸いというべきか。
「こんな醜悪な行い、許せるはずがないよね。……みんな、どうか気を付けて」
 行先は、√ドラゴンファンタジー。学園の校舎内にて事前準備を行い、喰竜教団の企みを阻止せよ。

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第1章 日常 『護衛のお仕事』


ベル・スローネ

 夕焼けが窓から差し込む。
 斜陽の光が落ちたテスト用紙を見つめていた優花は、教室のドアが開いた音に気付くだろう。
「えっと……?」
 現れたのは、小学生ぐらいの少年だった。
「あ、えっと……ごめんなさい、職員室を探してたんだけど……」
 おずおずと聞いてきた銀髪の少年――ベル・スローネ(虹の彼方へ・h06236)へ、優花は近づいた。
「今は私一人だけなんだけど……もしかして、先生探してる感じ?」
「……学園に勤めてるお兄ちゃんを迎えに来たけど、職員室を探して迷っちゃったみたい……」 
 しょんぼりするベルに、優花はにこりと微笑んだ。
「あーそっか。ここ校舎多いもんね。職員室は逆側の校舎の1階。ここは高等生の校舎よ」
「そ、そうなんだ……! ありがとう!」
 そこで、ベルは優花が片手で持っているスマホから漏れ出る音に気付く。
「もしかして、冒険者のライブ放送!? 冒険者に興味あるんだ!」
「あ、うん。まー、私素質ないからどうにもできないんだけどねぇ」
 気まずそうに視線を逸らした優花に、ベルは目をキラキラさせて口を開く。
「俺も冒険者に憧れてるんだ!」
「えっ、そうなの!? じゃあこの――」
 優花が嬉しそうに、ライブ放送をしていた冒険者のメンバーについて話し出す。
 ダンジョンに潜ることを夢見る少女の話を聞きながら、ベルは何度も頷いて冒険者とダンジョンに関する話を聞いていった。
「……そうしたら、勉強もできないこんな私でも誰かの役に立てるんじゃないかな、なんて」
 小さく、憂いを含んで小さくなっていく言葉に、ベルはおや、と心の中で首を傾げた。
 この少女は――自分の価値と未来に、大きな不安を持っているのかもしれない。
 しばらく話し合いをするうちに、優花もベルに心を許したようだ。
 ちらり、と教室に備え付けられていた時計を見つめて、ベルは声をかける。
「もうこんな時間! そろそろ俺は失礼するね」
 そっか、と微笑んだ優花へと、ベルは続けて口を開いた。
「最近物騒な事件が多いみたいだから気を付けてね」
「ん? もう日も暮れちゃうしねー」
「そうそう。もしもの時は大きな声で助けを呼ぶんだよ。近くに居る冒険者の人たちが、きっと助けに来てくれるから!」
 目をぱちくりさせた優花は、ベルをじっと見つめていた。
「…って、お兄ちゃんが言ってた!」
 視線から逃れるように、ベルは教室を後にする。


 校舎の陰に隠れて、ふぅ、と小さく息を吐いた。
「ドラゴンプロトコルの人たちが襲撃されたり行方不明になってる、って前にニュースで見た事あったけど……まさかこんな場所にまで乗り込んでくるなんてね」
 予兆を知り、少女を匿おうとすればその未来が変わってしまう。
 それ故に、この窮地から彼女を救うためには、喰竜教団を迎え撃つしか術がない。
 ベルが校舎を見つめれば、どうやら他の√能力者たちも動き始めたらしい。√能力が発動し、校舎が未知の輝きによって包み込まれていく。
 ベルの行動によって、信用できる人物ができた優花は、√能力者たちの言葉に素直に従ってくれることだろう。
 夕焼けに染まる校舎を見つめながら、ベルは次なる行動に移るべく、身を翻したのだった。

レイ・イクス・ドッペルノイン

『テセウスの船っていう概念を教えてあげたいよね、そいつに』
 ゲーミングPCと筐体を魔改造したドッグ型ゲームコントローラーを介して声が聴こえる。
 |レイ・イクス・ドッペルノイン《RX-99》(人生という名のクソゲー・h02896)は、Ankerの九十九・玲子(その辺にいるゲーマー・h02906)の尖った物言いに、やれやれと肩を竦める。
「またバグ混入してやろうって考えているでしょ玲子」
『そうだよ』
 なんの否定もなく、間を開けることなく返答が返ってきた。
 とりあえず、注意喚起。
「バグ技は教祖が登場してからにしてね? 先ずは拠点防衛の準備を――」
 向こうから、ふふふ、と怪しい笑い声が漏れたのを、レイは聞いてしまった。
『もうバグ技の仕込みは始まっているんだよ』
 校舎を見上げていたレイは、起動していく無数の実行パッチに声を漏らす。
『トキソプラズマから「スーパーアーマー付与」と「耐久値上昇」を選んで校舎自体に付与して』
 内容さえも理解できないMODが纏められた強化パッチ集「トキソプラズマ」。
 そこから、スーパーアーマー付与と耐久値上昇のMODを起動させて、校舎全体に適用する。
 現実と仮想は折り重なり、具現化する――!
「校舎自体が壊れにくかったら、隠れる時や盾にする時に役に立ちそうだよね」
『まぁ、それもあるけどさ。バグ技に耐え切れなくて自壊したら困るし』
 えぇ、とレイが声を漏らした。
 どうやっても、|裏技《バグ》を使用するらしい。
「目的それ? また周囲に影響与える系使うつもり?」
『影響を与えないバグなんて無いだろ』
 ゲームコントローラーの操作音が聞こえてくる。どうやら、自分の役目が終わったから正真正銘の|ゲーム《クソゲー》を起動したようだ。
『ついでにピリオドブルーで校舎含めてここら辺全部マッピングしておきなよ』
「……はいはい、了解」
 外部記憶装置を兼ねるネックレス「ピリオドブルー」を起動する。
 校舎はCの字に、直角に2つ折り曲がった構造をしているようだ。
 校舎は3階建て、入口は1階の正面玄関と、2階、3階に続く外の非常階段の入口だ。
 校舎そのものを強化したおかげで、滅多なことでは壊れない|設定《・・》になったようだ。

石動・悠希
サティー・リドナー

 予期せぬ来訪者を迎え、テストの解答を書き終えた優花が立ち上がる。
 と、その瞬間。
「失礼します」
「ひゃっ!?」
 教室のドアがいきなり大きな音を立てて開けられたのだ。いきなり入ってきたのは、サティー・リドナー(人間(√EDEN)の|錬金騎士《アルケミストフェンサー》・h05056)だ。
「え、あの……ど、どちらさま……?」
 駆け出すと同時に、優花の眼の前に立ったサティーは、他の錬金騎士も唸るほどの所作で跪く。
「突然ですが、貴女の命が狙われてます」
「え、えっ?」
「このままでは、お先真っ暗闇です。邪悪な狂信者が迫りつつあります」
「じ、邪悪な狂信者……!?」
 おろおろと視線を彷徨わせる優花の手を取る。
「私は、サティー、貴女の強い願いにより、ドラゴンファンタジーから駆けつけました。どうか安全になるまで貴女の身を、守らせてください」
 そうして、忠誠の誓いとばかりに手にキスを落とす。
 ぽかん、とした表情を浮かべていた優花だったが、すぐに頬を赤くした。
「え、あの……ドッキリか何か……? 邪悪な狂信者、って……」
「いいや、全部本当の話だ」
 その後ろから現れたのは、石動・悠希(ベルセルクマシンの戦線工兵・h00642)である。
 男性的な所作でやれやれと頭を掻きながら、動揺している優花へと続けて口を開いた。
「ドラゴンプロトコルが襲撃されてる、ってのはニュースで見たことあるんじゃないか? 今回はその襲撃事件の犯人のターゲットが……」
 指先を優花へと向ける。
「え、ええええええええっ!?」
「まあ、護衛は自分たちに任せてくれってことだ」
 戸惑う優花に、サティーと悠希が顔を見合わせる。
「仲間たちも来てますよ。護衛なら――私に任せてください」
 【|戦闘錬金術《プロエリウム・アルケミア》】の√能力で、竜漿兵器である詠唱錬成剣が大剣へと変貌していく。
 その様子を見て、優花は目を輝かせていた。
「も、もしかして本物の冒険者さん!? うひゃー! 間近で見るのは初めて!」
 騒ぎ出した優花を嗜めるように、サティーがにこやかに対応する中。
 悠希は、その後姿をじっと見つめていた。
(組織の規模を考慮すると無謀だろうし護衛しますが…この子。いや、これもしかして…)
 ふむ、と小さく声を漏らす。
(ぶっちゃけ素材としてはオブラートに包んだうえで言えば賢さ以外は高水準だろう)
 敵も狙うのも当然か、と悠希は独りごちる。
(最悪の場合を想定するなら彼女が死にかけたら…まぁ敵に取られる前にこっちで回収かな)
 ベルセルクマシンとしての思考は、かなり危険なものへと偏っているようだが、とにかく護衛に関しては十分な戦力だろう。
 テストを提出するために職員室に行こうとしていた優花だったが、完全に思考から吹き飛んだようだ。

ベネディクト・ユベール

「ドラゴンプロトコルの命を奪い、真竜の力を取り戻す、か……身勝手だな。私たちの事情や言葉はお構いなしか」
 校舎内を確認しながら、ドラゴンプロトコルであるベネディクト・ユベール(ドルイド・h00091)は、呆れたように呟く。
 彼にとっても他人事ではない。ベネディクトにはかの教団へ対抗する力があるが、今回標的にされた少女はなんの力も持たないドラゴンプロトコルだ。
(ならば理不尽な凶刃から守ってみせよう)
 それが、かつての守護竜としての自分の役目だ、と。

 校舎は3階建てだ。
 C型の、直角に2つ折れ曲がった構造となっている。1階の入口は正面玄関、2階、3階と校舎内の階段を上がっていけば、2階3階それぞれ通路の先に非常階段が備え付けられている。
 ここになにか仕掛けるのも良いかもしれないが……。
「とはいえ、罠の才能は私にはないのだよな……」
 ふむ、と琥珀色の瞳を校舎内へ向ける。
 それならば、と。校舎内の情報をインプットしながら、少女を護るための場所を探しておくのがベネディクトの役目だ。
 ――煌々と輝き出した瞳は、√能力の発現の兆し。
 3階の中央部分に音楽室が存在しているようだ。
 隣に備え付けられている倉庫には、周囲には使われていない机と椅子が積み上がっている。
 敵の侵入方法を鑑みれば、3階のこの場所で守りに徹するのも良いかもしれない。
 それに、先行した√能力者が、この校舎そのものを強固に創り変えている。
 強大な簒奪者との戦いはともかくとして、その下っ端の攻撃では校舎そのものを壊したり、窓から侵入するような芸当はできないだろう。
「うむ、少女にはここに来てもらうとしよう」
 そうして、√能力は発現する。
 【|萌芽《ジェルメ》】によって、ベネディクトの失われた過去に所持していた竜の力が励起する。
 圧倒的な竜気が身を包み、その全身の「魅力」を増大させる――!
 喰竜教団、ドラゴンプロトコルの殺害。
 今回に至っては、ベネディクトの力は、異端の教徒を誘導する強大な|挑発《ヘイト》となるだろう。
「――好きにはさせんぞ、喰竜教団」
 竜の気の奥に閃いた眼光は、かつての守護竜の覇気そのものだった。

御剣・峰

「なるほど、護衛場所は3階の音楽室の倉庫か」
 他の√能力者からの情報連携だ。
 校舎はCの形をした、2回直角に折れ曲がった形をしている。
 他の√能力者による校舎の強化によって、敵からの侵入ルートは正面玄関と非常階段に絞られた。
 ならば、そこから一番遠い場所で護衛をするのが道理だろう。
 辿り着いた教室の扉を開けてみれば、先行した√能力者へ怒涛の質問をしている|護衛対象《優花》の姿があった。
 御剣・峰(蒼炎の獅子妃・h01206)は少女に近づいて、ふむ、と唸る。
「あなたを護衛するための場所へ連れて行くから、付いてきて」
「あ、は、はいっ!」
 少し狼狽えた様子だったが、新しい冒険者が来たと思ったのだろう。
 すぐにきらきらとした瞳で峰を見つめてくる。
「強くなりたいのか? あなたは」
「そ、その通りです! 将来は冒険者になって……!」
 将来設計を嬉々とした表情でマシンガントークである。
 その様子を見ながら、峰は口に出さすに思考を巡らす。
(まぁ、出来なかったことが出来るようになった時の喜びは癖になるが、闘うことは怖くて、それから逃げないことなんだが、まだそれを理解することはできないか)
 一番大切なのは、その現実を理解し、自分が立っている場所を認識することだ。
 きっと、優花にとって冒険者は憧れの存在なのだろう。
 だがそれでも――悲劇は存在する。
「でも私、勉強がダメダメで……」
「勉強ができないからと言って生きていけないわけじゃない」
 優花を3階の音楽室へ誘導しながら、峰は言葉を続けた。
「自慢じゃないが、私は中学までしか通ってないぞ」
「えっ!? そ、そうなの……!?」
「ああ、それでもこうして生きていけている。仕事は、モデルだ。まぁ。成り行きでやることになってな。稼ぎとしては悪くない
「ふえぇ……モデル……確かにとってもスタイル良いしかっこいいし……!」
「あなたの目指す夢は素晴らしいものだが、自分が本当にしたいことを今から探すのも悪くないんじゃないか?」
 峰の言葉になるほどと呟いた優花は、無事に音楽室の倉庫内へ移動した。
 自分のしたいことかー、と呟く少女から離れて、峰は他の√能力者からの連絡を待つのだった。

シルバー・ヒューレー

「……学校、校舎内に不法侵入、無断で入ろうとするとは……強引で迷惑……」
 優雅な所作で校舎内を歩みながら、シルバー・ヒューレー(銀色の|シスター《聖堂騎士》 ・h00187)は、は簒奪者の卑劣な作戦に呆れているようだった。
 同じ神に仕える身なれど、喰竜教団は邪教と言っても過言ではない教団だ。
「……信仰すべき存在は違いますが、……彼等を放っておく訳にはいきません。……何としても守らねばですね」
 抑揚のない声音は、なんの感情も映していないように見える、が。
 そのヴァイオレットの瞳は、静かな覚悟を宿していた。

 こつり、と足音が響く。
 校舎の非常口へと赴いたシルバーは、懐から取り出した聖書のページを一つ破り取る。
 非常口の扉を閉めてそれを貼り付ければ、聖なる加護が宿る護符として機能し始めた。
 邪悪なものを祓い除ける聖書の護符は、非常口からの敵の侵入を防ぐ要となるだろう。
「……今の私ではこまで頑強な結界は貼れませんが、これで少しは足止め、そして侵入に素早く気付く為の知らせになるでしょう」
 敵の策略によって、かつての力は封印されてしまってはいるが、喰竜教団の好きにさせるつもりはない。
「あとは……護衛をつけておきましょう」
 指先に集った光は、銀の鳥となってそこに具現化する。
 √能力者のみが視える神秘の鳥は、シルバーに付き従う清浄の使徒だ。
 銀の翼を羽ばたかせて、3階の音楽室の倉庫内に移動していた優花へと飛んでいく。
 両手を重ね、祈るように。
 しばしの間目を閉じたシルバーは、その後ゆっくりと目を開く。
「……さて、これで私の一通り準備は終わりました」
 窓から差し込む斜陽は、ひどく眩い。
 まるで血のごとく差し込む夕焼けに、シルバーは小さく呟いた。
「……出来れば来ないで欲しいですが……無理な願いでしょうね」
 邪悪はすでに、すぐそこに迫っている。

夜白・青
不動・影丸

「邪教とは正にこのことか」
「脅威がダンジョンから来るこの√じゃ警戒しにくいしねい」
 校舎内を巡回していた二人の√能力者は、標的の少女を守り抜くための術を模索していた。
 不動・影丸(蒼黒の忍び・h02528)は、喰竜教団の所業に渋面を浮かべている。
「それにしても、憧れを持つのはいいことだけど、地に足をつけた部分も大事だからねい。赤点にならないように頑張ってほしいところ……」
 √能力を持たない彼女にとって、冒険者の夢はあまりにも遠い。
 夜白・青(語り騙りの社神・h01020)の言葉は尤もで、今はテストが再び赤点にならないことを祈るばかりだ。
「予兆を知るオレたちが駆け付けないといけないねい」
「優花くんを守り抜く。この忍務、必ず成し遂げよう」
 すでに優花は3階の音楽室の倉庫に身を潜めている。
 ならば、と3階に続く階段へ腰掛けて、青はふぅ、と呼気を深く――そうして紡ぐ。

「それでは語ろうかねい、妖精と妖怪のおはなしを」

 ――とあるダンジョンには、妖精の棲む花畑があるらしいねい。

 呟かれた|物語《フェアリーテイル》は、幻影の妖精となって姿を現した。

 ――そうして満月の夜には、百鬼が彷徨し――

 超常は現出し、妖精と妖怪の幻影が通路を覆っていく。
 【御伽語り・|妖妖《フェアリーテイル》】。喚び出された妖精と妖怪の幻影は、敵対者の悪意に満ちた行いに対する予防措置となる。

 その間に、影丸もまた準備を終えている。
 がたり、と頭上の天上が開けば、身軽な動きで影丸が降り立つ。
 周囲の壁に手を当てれば、くるりと反転するどんでん返しが出来上がっていた。
 この校舎はすでに忍者屋敷といっても過言ではないだろう。
「こんなものだろう。では――」
 指を輪にして口笛を鳴らせば、出来上がった無数の死角に、忍鼠、忍猫、忍犬が喚び出された。
 窓の外では、忍鴉たちが鴉羽を舞い踊らせて空を羽撃いている。
 敵対者の認知、対策。その全てが万全な状況と為る。
 音楽室前に座り込んだ忍犬へ、影丸は口を開く。
「しっかり匂いを覚えておくんだぞ」
 小さく鳴いた忍犬に頷いた後に、影丸は座って詠唱を続けていた青と顔を合わせた。
「こっちの準備も終わったねい。もしどんでん返しが壊れても、修理できるから安心してねい」
「ああ、助かるよ」
 夕闇が迫りつつある。
 赤い夕焼けに目を向けて、√能力者たちは決意を胸に。
「準備万端だ。必ず守り抜こう」

ウィズ・ザー

 校舎内を歩むのは、闇一色のスーツに身を包んだ白髪の男――否、√能力者だ。
 ウィズ・ザー(闇蜥蜴・h01379)は嫌悪感を込めながらも独りごちる。
「キッショい事には変わり無ェが慣れて来たかも。イニシャルGを常から考えないのと同じなだけで目の前に出たらやっぱキモいンだろうなァ、ドラゴンストーカー」
 自身の信仰がどれほどいびつなものなのかも、喰竜教団たちは気付いてもいないだろう。
 そういう意味では、今回の簒奪者はクセモノだ。
「さァて、泡沫の刻だな」
 すでに校庭は調査済み、他の√能力者たちが校舎を拠点として活動し始めている以上、この場所を防衛するのが理にかなっている。
 無数の妖精と妖怪の幻影が校舎内を揺蕩い、どんでん返しや天井裏など、その全てがまるで忍者屋敷のように置き換わっている。
 侵入経路は正面玄関、および避難通路だが、避難通路の扉は別の√能力者が施した結界によって守られた。
 その他、校舎そのものが頑強な要塞の如き硬さとなり、気にするべきは校舎内の侵入の阻害、といったところだろうか。
 √能力【|星脈精霊術【薄暮】《ポゼス・アトラス》】が励起し、校舎内全体に張り巡らされるのは5760本の切断吸収能力を持つ虚無の銃口――爪牙。
「これで護衛代わりにもなンだろ。もう音楽室に避難しているみたいだけどなァ」
 豪英対象の優花は他の√能力者によって、3階の音楽室倉庫に移動済みだ。
「後は……保険は張っておくかァ」
 √能力【|星脈精霊術【刻遡行】《ポゼス・アトラス》】が校舎の一部を覆い尽くす。あらゆる破壊、負傷を10分以内に全快させる力だ。
 先の√能力者の力によって、並の敵ではこの校舎を破壊することはできなさそうではあるが、万が一に備えるのも√能力者たちの役目である。
 この罠に満ちた校舎内を歩める侵入者が本当にいるのだろうか――とは言っても、敵は狂気に満ちた簒奪者、油断はできない。
「しっかしここが|彗《星読み》の通ってる所か。興味深ぇわ」
 ちらり、と目に入ったのは、空き教室の黒板だ。
 その上をじっ、と見つめて。
「アヒル隊長こっそり置いたら怒られっかな」
 あまりにも緊張感が凄い中、侵入者側がそれに気付いたらそれはそれで二度見しそうではある。
「ま、これで準備は終わりだなァ。後は来るのを待つだけだぜェ」
 √能力者たちによる防衛準備は完了した。
 ――真っ赤に燃える黄昏時、校舎に侵入しようとする多数の陰を、映し出す。

第2章 集団戦 『ボーグル』


●異端の尖兵
 校舎内へ、侵入を試みる者たちがいる。
 喰竜教団の尖兵――しかしそれは、冒険者にとっては馴染みのあるモンスターだ。
 狂気に満ちた獣人の成れの果て。モンスター『ボーグル』たちは、巨大な大鉈を携えて、その強靭な四肢で校舎内を徘徊し始める。
 どのようにしてモンスターをけしかけてきたのか、などと問うのはもはや愚問だろう。
 自身にドラゴンプロトコルの四肢を縫合する教団であれば、獣人など|竜に至ることもできない背教者《・・・・・・・・・・・・・・・》に他ならない。
 ならばこのモンスターたちは、おそらく教団によって|調達《・・》されたモンスターだ。

 ボーグルは、校舎内の異質な雰囲気に、強烈な危険を感じている。
 飛び交う妖精と妖怪の幻影。
 忍者屋敷のように、至る所に存在するどんでん返しと隠し通路は、いかなる状況でも奇襲を受けることを意味している。
 他のボーグルたちが、|別の通路《避難通路》から侵入を試みようとして失敗し、正面玄関から次々と侵入してきたようだ。
 √能力者が施した護符の加護によって、避難通路の扉をこじ開けられなかった結果だろう。
 無論、校舎そのものが√能力者の魔改造によって破壊困難になっているのも要因だ。
 自身の怪力が通用しないことを悟り、苛立ったように唸り声を上げていたボーグルが、校舎内を駆け出した。
 竜の気配が多数あることに、ボーグルは更に混乱し始めている。
 優花の居場所が3階の音楽室倉庫へと変わった関係上、そこに至るまで相当な時間を要するに違いない。
 √能力者は、武器を取る。
 邪悪なる教団の野望を、阻止するために。
 
【MSより】
 √能力者たちの事前の準備によって、ボーグルは校舎の1階正面玄関からしか侵入できません。
 また、校舎そのものが強化されたため、ボーグルが校舎を破壊しながら突き進んでくることもありません。
 さらに、√能力者にドラゴンプロトコルが存在しているため、ボーグルの集団が分散します。
 事前の√能力発動による妨害、攻撃によって、√能力者たちは無条件で先制攻撃、奇襲攻撃が可能です。
石動・悠希

 校舎内を駆け回る、モンスターの足音が聞こえる。
 ボーグルたちの集団は、まるで狙いすましたかのように3階への階段を駆け上がる、その時だった。
「事前準備のおかげで、とりあえずは敵集団の奇襲ということに対してはどうにかなったし、ある程度数が分散してくれたのはありがたい事」
 立ちふさがる、√能力者。
 石動・悠希(ベルセルクマシンの戦線工兵・h00642)は、攻め込んできたボーグルたちへと相対する。
「…何だけど。同時に厄介事、ひいては想定外が起こるのは世の常ですね。特にこういう護衛任務の場合は」
 まるで、ターゲットがどこにいるのか分かっているような挙動だ。
 3階に移動し、鉄壁の防御となったはずの校舎内が、明らかに攻略手順をしっかりと踏まれている、そんな不穏さ。
 簒奪者もまた、星詠みによって未来を見通す。
 ならば、わずかにずれたその未来をも、喰竜教団の教祖は見通しているのかもしれない。
(妙に意図的なものを感じるな)
 ボーグルが咆哮を撒き散らす。
 獣人の長の記憶が覚醒し、目の前の敵を叩き潰そうと「腕力」が強化された――!
 襲い来る大鉈へ、悠希は機会の腕を前に掲げた。
 凄まじい金属音と共に拮抗した一撃、その刹那、鉄杭は現れる。

 激突、爆砕。

 反撃を食らい校舎の壁に叩きつけられたボーグルの一体は、その肉体をひしゃげさせて無惨にこと切れた。
「ここから先に行かせるわけにはいかないな」
 短機関銃の弾丸が、ボーグルの集団を貫き、爆ぜる――!
 激烈な爆発が巻き起こったが、校舎は他の√能力者によって強化されている。この程度であれば、壊れることはないだろう。
 さて、と後ろを向いて、悠希は音楽室を見やった。
「……ちゃんと引きこもってくれればいいんだけど」
 この騒ぎで、音楽室内から優花がパニックになって飛び出さないことを祈るばかりだ。

サティー・リドナー
夜白・青

 ボーグルたちが、その大足で校舎内を踏みしめる。
 校舎内の異様さを目の当たりにしたボーグルたちは、足取りは遅い。
 階段を上がろうと一段目に足を置いた瞬間だった。
「皆んなの力でここまで鉄壁の防御になって心強いねい」
 階段の上から、声がした。
 階段に座り込んでいるのは、夜白・青(語り騙りの社神・h01020)だ。
「密集してたら、一網打尽よね!」
 それに賛同するように佇んでいるのは、サティー・リドナー(人間(√EDEN)の|錬金騎士《アルケミストフェンサー》・h05056)である。
 フード付きトレンチコートに身を包み、片手で魔導書を広げる。
「侵入ルートもひとつで壁を壊したりする乱入の心配もなしと、やりたい放題できるねい。――ここは通行止めだよ」
「この階段を上がることは許しません!」
 √能力【御伽語り・妖妖】と【ウィザード・フレイム】が重なり合う。
 詠唱と詠唱は火炎を生み出し、妖精と妖怪の幻影が校舎内を漂い始めた。

 激烈な閃光と、火炎の奔流が巻き起こる。

 階段を上がろうとしていたボーグルたちが目を押さえて大鉈を振り回した。が、次に飛んだ妖精が、その一撃を反射し、別のボーグルへと誘導して撥ね飛ばす――!
 妖精と妖怪の幻影が宙を舞う。
 この状況下で、毒棘を武器とした近接攻撃など無意味だ。
「うん、私たちがこの階段を守る選択をしたのは正解ですね!」
「滅多なことでは突破されないねい」
 一体のボーグルが、両目を潰されながら特攻してくる。
 大鉈をブンブンと振り回し、校舎の壁と激突しながら、しかし階段に座り込む青とその場で佇んでいるサティーへと襲いかかってきたのだ。
 だが、すでに布石は置いている。

 青の真後ろに隠れていた妖精と妖怪の幻影たちが、その行動を制した。

 再び反射によって後ろへと仰け反ったボーグルへと、サティーの火球がその体躯を燃やし尽くす。
「潜伏しているボーグルはいないでしょうか?」
「いたとしても、オレの妖精と百鬼たちが校舎内を漂っているから、対処可能だねい。他の人たちに任せるねい」
 喧騒が聞こえるが、ボーグルたちの気配はこの集団のみだ。
 もしかしたら、下の階で別の√能力者が戦闘を行っているのかもしれない。
 それなら良かった、と一呼吸置いて、サティーは3階を見上げる。
(錬金騎士としても、あの子は絶対に守らないと)
 絶対に守る、と宣言した以上、錬金騎士として、相応に立ち振る舞わなければ、と。
 ボーグルの気配を辿りながら、青とサティーは警戒を続けたのだった。

ベネディクト・ユベール
御剣・峰
ベル・スローネ

 正面玄関から侵入してきたボーグルの集団たちが、目の前で槍と盾を構える少年の冒険者を視界に映す。
「他の皆が入念に準備をしてくれたおかげで、敵が侵入してくる道をかなり制限出来たね。……けど、油断は大敵」
 大盾を構えて、モンスターたちの攻撃を防ごうと立ち塞がる。
「優花さんのところには、これ以上一歩も近付かせないからね!」
 ボーグルたちが咆哮を上げて冒険者を叩き潰そうと突進する。
 が、√能力者は彼一人ではない。

 冴えた軌跡が空間を翻る。

 黒の竜爪がボーグルの胴を薙ぎ払い、拳の一撃がボーグルを叩き伏せ、吹き飛ばす――!
「味方たちは皆頼もしいな」
「さて、目当ての相手が来るまで雑魚の相手をするか」
 √能力【|樫竜《オーク》】によって、両腕に黒の竜鱗を纏ったベネディクト・ユベール(ドルイド・h00091)と、自身の拳でボーグルを圧倒する御剣・峰(蒼炎の獅子妃・h01206)もまた、正面玄関前で臨戦態勢に入った。
 ぶわり、と周囲に発散する圧倒的な竜気が校舎内へと解き放たれる。ボーグルの集団が、目の前にいる存在が何者か理解したようだ。
「そら、お望みのドラゴン・プロトコルだぞ。お前たちは私を如何とする」
 グル、とボーグルが唸り声をあげる。まるで、怖気づいたかのように硬直するボーグルを見て、峰はその拳をもう片方の手に当てた。
「目当ての相手が来るまで雑魚の相手をするか。なに、安心しろ。なぶる様な趣味はない。みんな仲良く三途の川を渡らせてやる」
 竜の力と、闘気宿る拳を構えて、二人の√能力者はボーグルへとそれを振るった。
 竜爪が空間を縦横無尽に切り裂き、集団で行動しようとするボーグルたちが尾の一撃によって弾き飛ばされた。
 獣人の長の記憶を覚醒させたボーグルが、峰を切り裂こうと腕力を強化して大鉈を振りかぶる。

 一瞬の、銀の煌めき。

 割り込んできたのは、大盾を構えていたベルだ。激烈な一撃はしかし、ベルのジャストガードによって完全に防御される。
「援護するよ!」
「ああ、助かる」
 峰の全身に魔力が巡る。肉体能力を限界以上に引き上げ、その腰を深く落とした。
 【百錬自得拳】の発現だ。握りしめた拳の連撃は、螺旋状に解き放たれ、貫くような力の移動は、ボーグルの体躯を穿ち切るほどの破壊力を以て解き放たれる。
 集団行動をしていたボーグルの群れが、破壊の衝撃によって弾き飛ばされこと切れる。
「弱い。所詮この程度か。さっさと教祖様に出てきて欲しいものだな」
 吼えたボーグルの数体が、峰を大鉈で真っ二つにしようと再び集い始める、が。
 ――恐るべき、黒の暴風。
 残像を伴って、ベネディクトが竜鱗に覆われた両腕でボーグルの首を一瞬で掴んだのだ。
「今の私は早いぞ。捕らえられるものならば捕らえてみるがいい」
 竜の一撃を喰らったボーグルが無惨に斬り裂かれた。
 皮膚から生えた毒棘で敵を潰そうと、ボーグルたちの突進が、来る。

「これで……終わりだ!」

 ベルの√能力が、ついに発動した。
 【アイアン・フォート】。バスターランスの結晶が、まるで太陽のように光り輝いた。
 みしり、と音を立てて樹状に伸びていったバスターランス、その力を解き放たれた――!
 衝撃波の伴う、一撃必殺の如き薙ぎ払いだ。爆音が轟き、圧倒的な威力を秘めたランスの一撃が、ボーグルたちの胴体を真っ二つに斬り裂いたのだった。

レイ・イクス・ドッペルノイン

 のっしのっし、と校舎内を歩く音。
 ボーグルたちは、目的の人物を探すために校舎内を見回しているようだ。
 が、その様子を見ていた√能力者は。
『あ、雑魚集団だ』
「呑気な事言ってる場合じゃないよ!相手強そう!」
 ぼそぼそ、と掃除用具入れの中で潜伏中なのは、|レイ・イクス・ドッペルノイン《RX-99》(人生という名のクソゲー・h02896)である。
『このモードになったら目視以外では存在や気配が分からなくなるって事ね』
 ふーん、と感心したような声。
 少し頭が痛くなってきたような、そうでないような状態のレイが、小さくため息を漏らした。
「掃除道具入れの中に入った所で見つかるのも時間の問題だって...さっき付与したMODで壊れにくくなったけど」
『でもバグはどうかな?』
「えっ」
 ぐる、と一人のボーグルが、掃除用具入れをその視界に移した。
 明らかに、何か声がしたような……といった面持ちだ。
 掃除用具入れに近付いて、じっ、と見つめて。
 大鉈で、掃除用具入れをぶった斬ろうと――。
『『グリッチ・メイルシュトローム』発動ー』
「ア!!」
 素っ頓狂な声をあげたレイだったが、時すでに遅し。
【メソッド・グリッチメイルシュトローム】の力によって、物体や敵を巻き込むバグが現実に具現化する。

 殴りかかろうとした掃除用具入れが、すっごいブルブルし始めている。

 流石にボーグルもぎょっ、としたのか、振り上げていた大鉈をストップ。触れようとした刹那、ブルブルしまくる掃除用具入れによってすっごい反発力で弾き飛ばされた!!
『おー、レイが入った掃除道具入れ、凄い荒ぶってるじゃん、草生える』
「私ごと武器にしないで!気持ち悪ッ! よ、酔う!!」
 なんとか肉体改造で持ちこたえるレイ。中にいる人の身にもならないバグであった。
『そんな事したらあんたの身体もバグるって...まあいいや、巻き添え出来るし』
 吹っ飛んでいった仲間を見て恐れをなしたのか、ブルブル震えまくる掃除用具入れから他のボーグルたちが逃亡していく。
 少なくとも、優花への危機は去ったようだった。

シルバー・ヒューレー

「……信仰する事、入信はどんな方でも自由に……ですが、……彼等は信者ではなさそうですね」
 校舎内に満ちている悪意を感じて、シルバー・ヒューレー(銀色の|シスター《聖堂騎士》・h00187)が小さく呟いた。
(最も、信者だったとしてもやる事は変わりませんが)
 視線を横に逸らして、銀の鳥へと合図を送る。
 音楽室から羽搏き、飛翔した神聖の鳥が、校舎内を征く。
 その鳥が視界に入ったのだろう。数体のボーグルが、それを叩き落とそうと大鉈を振り回す。
 ひらりと器用に宙を舞う銀の鳥は、ボーグルの速度と合わせるように飛び――そして。
 階段にさしかかったところで、待機していたシルバーの肩へ留まった。
「――申し訳ありませんが、これより先は部外者は立ち入り禁止です。お引き取りを。……もし素直にお引き取り願えないのでしたら――力ずくで還らせて貰います」
 ボーグルたちが獣じみた咆哮をあげた。
 皮膚から生えた毒棘を露出させて、ボーグルは階段を駆け登る。
 目の前にいるのは、√能力者。そして、自らの任務を邪魔する者。
 ――獣人の本能が、殺せと叫んでいる。
 突進してきたボーグルへと、シルバーは『外典・ウリエル』と『熾天銃・ミカエル』を突きつける――!

「――ショット」

 激烈な閃光と火炎が、視界を覆う。
 【銀の行程】。
 銀の炎が空間を満たし、爆ぜて爆散する。
 焼却の銀の炎が視界を包み、突進してきたボーグルたちが回避も許されずに熾天の炎によって焼き尽くされた。
 銀の力を込めた弾丸は、他の√能力者による校舎の強化によって、敵のみを一瞬で焼却したようだ。
 獣の声を漏らし、炎の余波を受けてうつ伏せに転がる残りボーグルへと、シルバーは階段から降りてその頭に銃口を突きつけた。
「魔よ、還りなさい」
 撃鉄の音が、轟いた。

ウィズ・ザー

 ボーグルたちはすでに、自らが死地にあることを理解している。
 そして獣人故に、本能が逃走を望んでいる。
 数少ないボーグルたちは、校舎から退避しようと行動を開始した。
 が。
「クカカ、フルボッコじゃねェか!! コレが噂に名高いボーグル殺しのボーグルか? 正に鬼だな!」
 正面玄関前に立ち塞がる√能力者――ウィズ・ザー(闇蜥蜴・h01379)は、闇一色のスーツを身に纏った人間の姿で、逃走を望むボーグルたちへ相対する。
「さァ、泡沫の刻だ」
 瞬間、すでに設置されていた刻爪刃が、ボーグルたちの行動を阻害する。
 何が起きたのか分からずに――しかし大鉈を振り回しながら脱出を試みようとするボーグルへ、ウィズは冷たく告げる。
「サッカーしようぜ。お前がボール、俺がゴールだ」
 【レイジオブビースト】によって、ボーグルたちの耐久が増大する。
 獣の咆哮を上げながら、立ち塞がる√能力者を斬り伏せようと突進する――!
「耐久速度を上げようと蹂躙と数が増えれば逃げられ無ェと思うぜ。あぁ、勿論、出入り口は封鎖済みだ。通れば先は俺の中。お前らに逃げ場は無ェンだよ。諦めな?」
 虚無の銃口がボーグルを狙い撃つ。
 爪牙が切り刻み、闇が満ちる。
 ボーグルはすでに、包囲されていた。
「死骸含め、全部纏め綺麗に食ってやるよ」
 闇が肥大化し、そうして爆ぜた。
 膨大な虚無を宿した闇の顎が、逃走を図ろうとしたモンスター全てを飲み込んだのだった。

不動・影丸

 校舎内に響く仲間たちの断末魔の声に、ボーグルたちはその獣人の本能を刺激されていた。
 単純で、簡単な仕事だったはずだ。とある少女を八つ裂きにし、自分たちを使役する者へと捧げる。
 そんな、簡単な仕事だったはず。
 校舎内を見渡せば、驚くほど沈静に満ちている。
 響き渡っていた仲間の断末魔は収まり、一瞬の静寂に包まれた。

 ――近くの壁が、ぐるり、と動く。

「行くぞ、相棒達。優花くんの命と未来を守り抜こう」

 壁の裏から、天井裏から、数多の忍獣たちが姿を現す。
 不動・影丸(蒼黒の忍び・h02528)は天井裏から身軽に跳躍して着地すると、倶利伽羅剣を構えてボーグルへと対峙する。
 ボーグルが集団戦術を用いて現れた影丸に襲いかかろうと大鉈を振りかざし――しかしその行動は失敗に終わる。
 なぜなら、足元に集った鼠の群れが、その行動を阻害したからだ。
 まるで津波のように襲い来る忍鼠の群れに、ボーグルが両腕を振り回して抵抗する。
 その刹那、周囲から襲いかかってきたのは忍猫と忍鴉だ。
 忍犬もどんでん返しの後ろから現れて、ボーグルたちへ噛みつき、吼える。
「ここから先へと通す訳にはいかない。優花くんの命と未来を守り抜く」
 片手で印を結んで、刃へと伝わせる。

「ノーマクサーマンド! バーサラ! ダンカン!」

 不動明王の真言と共に、倶利伽羅剣に煉獄の如き炎が纏わりついた。
 翻った刃はボーグルの防具ですら一刀両断する炎の刃と化して、たちまちに焼却した。
 目の前を覆う炎を払うようにボーグルが大鉈を振り回す。

 ――すでに、そこに影丸の姿はない。

 いや、影丸はもちろん、忍獣たちの姿も一瞬で消えてしまった。
 再び静寂に満ちた校舎の中を、朱色の斜陽を差し込んでくる。
 ボーグルたちの影が、伸びていく。
 とにかくここは危険だ、と。踵を返して撤退を開始したボーグルたちであるが、それは影丸が許さないだろう。

 伸びた影の奥から、二つの双眸が瞬いた。
 瞬間、影に潜んでいた巨大ガマの舌がボーグルの足元を掬う――!
 その勢いで大鉈がボーグルの手から離れた。
 ぎゃりぎゃり、と床を削りながら転がっていく大鉈を、影丸はその先で足で止めた。
「教団の手駒とは哀れだが、守りたいものがある。だから加減はなしだ」
 再び倶利伽羅剣に炎が宿る。
 【不動明王利剣呪】によって剣に纏わりついた業火が、すべてを焼却する炎の怒涛と化した。
 ボーグルの絶叫が響き渡り、四肢さえも炭化させて消え失せていった。
「また蘇るのだろうけど、今は静かに眠れ」
 倶利伽羅剣を鞘に押し込んで、小さく呟く。ダンジョンに現れるモンスターは、竜漿の力に侵され、√能力を持ち得なかった者の果てでもある。
 たとえ教団に利用されたモンスターたちだとしても――そこに暴虐があるのであれば、阻止しなくてはならない。
 遠くに見える夕焼けが、やがて深省に変わっていく頃。

「嗚呼……! これが、これがわたくしに与えられた試練なのですね……!」

 諸悪の根源は、現れる。

第3章 ボス戦 『喰竜教団教祖『ドラゴンストーカー』』


●教義遂行
 校舎1階、正面玄関前にて、竜の部位をツギハギに縫い合わせた青肌の女性が、心酔するように両腕を天に掲げている。
「わたくしどもの天啓を拒む者たち……嗚呼、なんと罪深いのでしょう! ドラゴンプロトコルの皆様、どうか恐れないでください! √能力者であるわたくしと共に在れば、いずれ真竜へと至ることができるのですから!」
 歓喜に満ちた表情。教義を遵守する喰竜教団教祖『ドラゴンストーカー』は、集った√能力者たちを見渡して、その中にドラゴンプロトコルの√能力者がいることに気付くだろう。
「嗚呼……これがさらなる天啓なのですね! かの少女だけでなく、わたくしと共に在ろうとするドラゴンプロトコルの方々が、こんなにも……!」
 いびつな大剣を構えて――細腕に宿る膂力はおそらく、竜のそれだろう――ドラゴンストーカーは戦闘態勢に入った。
「ですが……真竜に至るために、邪魔をする愚か者たちがいるようですね。仕方ありません……この試練、わたくしの力を以て突破してみせましょう!」
 狂気に満ちた教祖を撃破し、この襲撃を阻止するために。
 √能力者は、行動を開始するのだった。
石動・悠希

「…やっと犯人のお出ましか」
 喰竜教団の教祖、ドラゴンプロトコルを自身の体に縫合し、真竜の到達を手助けする者。
 しかし実際は、ドラゴンプロトコルを虐殺する狂気の教団だ。
(狂信者って怖いね)
 目の前に映る悪徒は、自身が崇高な行いをしていると信じ切っている。それこそ、目の前の簒奪者の内に宿る邪悪そのものだ。
 ――彼女は一体、どう思っているのか。
 石動・悠希(ベルセルクマシンの戦線工兵・h00642)は思案する。
(まあ、自分も似たようなものだけどな)
 けれど。けれども――。
 
「お前の大層な話に付き合うつもりはない」

 ――ここまで酷い方向に拗れているのであれば、問答無用で叩き潰すのみ。
「なんと愚かしい……! わたくしの力を思い知りなさい!」
 ドラゴンストーカーの片腕が、竜の巨腕に変貌していく。みしり、と変形した片腕が、悠希に振りかざされる――!
 ベルセルクマシンとしての動体視力、そして反射神経。肉体改造によって四肢に力を込めて、悠希はその一撃から飛び退いた。
 構えたのはマルチツールガンとアサルトウェポンだ。
 光線を連射し、アサルトウェポンの一撃が、ドラゴンストーカーを撃ち貫く。
 だが、竜化と化した部位は強靭な防御力をも秘めている。大きな爪でその連撃を受け止めながら、ドラゴンストーカーは忌々しそうに呪詛を吐き出し続ける。
「真竜となるドラゴンプロトコルの一部に、なんと浅はか……なんと冒涜的なのでしょう!」
「お前の話に付き合うつもりはない、って言ったはずだけど」
 銃弾の弾幕が覆う中、悠希はドラゴンストーカーへと刹那の内に肉薄する。
 ドラゴンストーカーが再び竜化した片腕を振るう、が悠希は見事に回避し、カウンターを叩き込む。

 エネルギーブレイドの一撃。

「ぐ、が……ッ! わ、わたくしにこのような……!」
「まだ終わりじゃない」
 飛び退く悠希の手元から、アサルトウェポンの銃口が突きつけられた。そこから、炸裂弾は放たれる。
 【|LINK-AGE《リンケージ》】による連続攻撃。目を見開いたドラゴンストーカーだが、回避する余裕はない。
 瞬間、爆裂の轟音と共に、校舎が揺れた。
「彼女はお前の素材じゃないから」
 短く言い切る。
 簒奪者は竜化することでなんとかその一撃を受け止めたようだが、甚大なダメージであるのは言うまでもないだろう。

ベネディクト・ユベール

「嗚呼、ドラゴンプロトコルの御方ですね……! 不死であるわたくしと共に参りましょう……!」
 ドラゴンプロトコルであるベネディクト・ユベール(ドルイド・h00091)へ丁寧に頭を下げるドラゴンストーカーは、慈愛に満ちた眼差しを向けている。
 それが、独りよがりの虚構であることは明白だった。
 ベネディクトは、深く息を吐く。
「多少なり、言葉を交わす意味はあろうかと思っていたが、これはどこまで行っても平行線だな。考えも言葉も交わりはすまい」
 屠竜大剣を抜き放ち、ドラゴンストーカーへと対峙する。
 明確な拒絶に、ドラゴンストーカーに悲しそうに眉尻を下げた。
「どうか、些細な死を恐れないで下さい! わたくしは、貴方様を真竜へ――」
 ベネディクトの全身が、竜気に包まれた。
 みしり、としなった双腕が、あらゆるものを叩き潰す膂力を湛えて大剣と共に振りかざされる!
 【|萌芽《ジェルメ》】によって強化されたのは腕力。その一撃が、ドラゴンストーカーの大剣と拮抗する。
「生憎貴殿らと共に歩む道はない。貴殿からは竜の死臭と嘆きが酷く臭う……死した竜の嘆きの声など聞こえはしないだろうな」
「嘆きなど……! わたくしは……わたくしたちは……!」
「貴殿らのしていることは思想の押し付けと虐殺だ。我らの意思などまるで意に介さない貴殿らに預ける身など、無い――!」
 大剣の重撃によって、ドラゴンストーカーが後方へと弾き飛ばされる。
 ドラゴンストーカーはしかし、その片腕を肥大化させる。
 竜と化した片腕。ベネディクトの体を切断しようと、大剣が振りかざされた。

 激烈な、激突音。

 甲高い金属音は、屠竜大剣とドラゴンストーカーの大剣が拮抗する音だ。
「わたくしの一部となり、真竜へと至るのです!」
 竜化した部位から、竜化暴走の魔力が渦巻く。ベネディクトに纏わりついた邪悪の魔力。
「――継ぎ接ぎの竜の力になぞ押し負けはしない」
 腕力と、腕力の勝負。
 ぎしり、としなったベネディクトの大剣が、ドラゴンストーカーの竜化部位ごと、その刃によって斬り裂いて唸る――!
「そんな……! わたくしの竜の力が押し負けるなど……!」
「邪悪な魔力、これが死臭の原因の一つかもしれんな」
 屠竜大剣が、再び大気を斬り裂いた。

「貴殿らのいう救いも我らには天啓も不要だ。お帰り願おうか」

 爆ぜた鮮血。ドラゴンストーカーの肩口が、その圧倒的な膂力の一撃によって斬り裂かれたのだった。

シルバー・ヒューレー

「なんということ……! わたくしの力が、押されているなど……!」
 悲痛に満ちた声音で、天を仰ぎ見るドラゴンストーカー。
 √能力者たちの猛攻によって傷を負いながらも、数多のドラゴンプロトコルの体を縫合しているためか、その生命力も尋常ではない。

「――すみませんが、お静かに」

 廊下の先から、歩み出る靴の音が聞こえた。
 二丁拳銃を携えながら、シルバー・ヒューレー(銀色の|シスター《聖堂騎士》 ・h00187)は静かに告げる。
「……現在、この校舎には将来の為に頑張る者が補修、勉学に励んでいる学生がいるのです」
 ゆっくりと、その銃口をドラゴンストーカーへと突きつけて。
「その彼女の邪魔をする、未来を奪うつもりなのであれば――その行い、否定させて貰います」
「わたくしの道を阻むなど――!」
 瞬間、ミカエルとウリエルの銃口が火を噴いた。激烈な弾幕攻撃が、ドラゴンストーカーを覆い尽くす。
「この程度で、真竜に至るための神体を汚そうなど――ッ!?」
 弾幕の中に輝く光芒があった。
 それは、シルバーの銀の鳥。流星の如く空間に線を引いて、ドラゴンストーカーを弾き飛ばす――!
「ぐ……っ!?」
「申し訳ありませんが学校の関係者以外を校舎に立ち入らせる訳にはいきません。お話なら外で伺いましょう」
 シルバーの周囲が絢爛に光り輝く。
 √能力の発現によって纏うのは銀の火炎。
 【銀の灯火】によって強化された速度を活かし、シルバーは拳銃で牽制しながら、ドラゴンストーカーへと肉薄する。
 ドラゴンストーカーが√能力を使う隙さえも与えない、神速の連撃。

 ――|真実の剣《鏡の剣》に、銀が宿る。

 銀の火炎を纏い振り下ろされた一撃は、ドラゴンストーカーの皮膚を鋭く断ち切った。
 苦痛に呻くドラゴンストーカーから距離を置いて、シルバーは心の中で独りごちる。
(……まあ、私も部外者ですが)
 とはいえ、目の前の暴挙を阻止する側でもある。部外者、という言葉では片付けられない事案となっている状況だ。
 剣に宿った銀の火炎を払いながら、シルバーは次なる√能力者に場を譲るのだった。

御剣・峰

「わたくしの体になんということを……!」
 忌々しそうに√能力者を睨みつけるドラゴンストーカーへと、御剣・峰(蒼炎の獅子妃・h01206)は歩み出る。
「愚かなのはどっちだか。死んだら進むも何も無い。死んだ者は二度と動かないし進むこともないんだ」
「そんなことはありません……! わたくしの体となったドラゴンプロトコルの皆様は、いずれ真竜へと至ることができるのです……!」
 過ぎた狂信に、峰はしばらくドラゴンストーカーを見つめた後、ふぅ、と小さく息を吐いた。
「いや、お前に言うだけ無駄か。せいぜいその歪んだ思想に浸っていれば良い」
 獅子吼・破軍を抜き放ち、その刃先を突きつける。

「引導を渡してやる」

 ドラゴンストーカーが、その言葉に相対するように周囲に漂うインビジブルへ告げる。
「わたくしの体を喰らい――」
 響き渡った声はしかし、神速の攻撃によって断ち切られた。
 峰の全身が金色に包まれる。
 √能力は発現し――峰が纏うのは太古の神霊「古龍」。自身の残像が空間を奔り、突き抜ける――!

 それはまさに、荒れ狂う嵐だった。
 ドラゴンストーカーを喰らおうと集まってきたインビジブルをその速度を以て斬り裂き、四散させる。
 鋭い刃が空間に軌跡を生んで、疾風の如く駆け巡った。
「――ッ!」
「遅い」
 √能力【古龍降臨】。
 音さえも置き去りにするような、そんな尖く――かつ、流麗な一撃だった。
 ドラゴンストーカーに霊剣術・古龍閃が刻まれる――!
 激痛の声と共に体を抱き包むドラゴンストーカーへと、峰は冷たく告げた。
「だから言ったろう? 死んだ者は何もできないんだよ。それが、天地普遍の真理だ」

サティー・リドナー

 数多の√能力者たちの攻撃によって疲弊していくドラゴンストーカーは、それでもドラゴンプロトコルを殺害しようと何度でも立ち上がる。
「ドラゴンプロトコルの皆様を真竜へと昇華させるために……!」
 空を仰ぎ見て、狂乱に身を委ねる教祖は、それ故に気付かなかっただろう。

 ――校舎の上階から、接近する√能力者を。

 アクセルブーツの機構が爆ぜる。
 滑るように駆けるのは、サティー・リドナー(人間(√EDEN)の|錬金騎士《アルケミストフェンサー》・h05056)の瞳は、覚悟に満ちていた。
 拳が瞬き、そうして√能力は発現する――!
 【|錬金無限流輪舞拳打《メビウスブロー》】。激烈な速度を伴って、鉄拳がドラゴンストーカーへと突き刺さる。
 甲高い音が響き渡れば、サティーの圧倒的な速度による攻撃を、ドラゴンストーカーは大剣の腹で受けきっていた。
「わたくしの隙を、このような……!」
「優花さんを守る、音楽室の前には、行かせない」
 籠手型竜漿暗器から、隠し武装が展開した。
 受けきったと思っていたドラゴンストーカーは、突然の不意打ちに目を大きく見開き、そのまま後ろへと後退する。
「わたくしは……! わたくしはドラゴンプロトコルの皆様のために、すべてを捧げます……!」
 √能力発現の兆しだ。
 ドラゴンストーカーの片腕が、竜の膂力を内包した巨腕へと変貌する。
 ただ、力任せに。ドラゴンストーカーは、竜の腕を振り払う。
 呆然と立ち尽くしていたサティーの表情は、絶望か、はたまた逃避か。
 勝機と見たドラゴンストーカーは凶悪に笑顔を浮かべる。

 しかし。

 それは決して、絶望の表情ではなかった。
「あなたがそういう傲慢強欲な人だって、分かってました」
 サティーの右掌が掲げられた。
 再び、√能力発現の輝きが満ちる。
 光り輝く右掌は、あらゆる超常を否定する。
 それがたとえ、破壊の膂力を秘めた竜の腕でさえも。
 【|能力取消光拳《ルートキャンセラー》】の光に呑まれたドラゴンストーカーの腕が、光の奔流によって灼き尽くされた。
 元の腕へ戻ってしまった教祖の驚愕の隙を、サティーは見過ごすわけがない。
「これで終わりです!」
 拳打の一撃が、ドラゴンストーカーの体へと鋭い衝撃を放ちながら突き刺さったのだった。

レイ・イクス・ドッペルノイン

『よく拒絶反応や精神崩壊せずいられるよね』
 オペレーターであるAnkerのどこか感心したような――もしくは呆れか。
 |レイ・イクス・ドッペルノイン《RX-99》(人生という名のクソゲー・h02896)は、その言葉に応答する。
「それほど狂信的なんだと思うよ」
 やれやれ、と呆れるような言動が向こうから伝わってくる。
 それなら、とAnkerの声が再び聞こえた。
『体は所詮他人の寄せ集め、神経と細胞を騙してバグらせな』
「了解」
「わたくしは今、ドラゴンプロトコルの皆様と共に在るのです……!」
 ドラゴンストーカーの片腕が異形のごとく巨腕化する。
 竜の腕と化したそれは、圧倒的な破壊力を秘めているだろう。
 襲いかかろうとしたドラゴンストーカーは――しかし、自らの身体に起きた異変に瞠目する。
「な、ん……こ、これは一体……!?」
 びきり、と腕だけでなく、全身の細胞が沸き立つように活性化したのだ。
 まるで肉塊のように肥大化していく身体に、ドラゴンストーカーは身動きが取れずにうめき声を上げ続ける。
「竜化症状を反転させて免疫機能を誤作動・暴走させる…だったっけ?」
『物分りがいいね?免疫系の異常で自己崩壊か異形化する、多分ね』
 √能力【|メソッド・消すと増える《ストライサンド》】によって、激烈な震動を受けながら、ドラゴンストーカーは異形化する身体を抑えきれない。
「あの、割り込みの猶予フレームは」
『5フレームも無いね。トキソプラズマの【限界突破】MODで機械細胞の【パフォーマンス】向上させて反射速度強化しときな』
 飛来してきたのは、まるで肉の柱のような尖く巨大な肉の槍だ。
 あやうく命中しそうになったそれをレイはなんとか回避しながら、ペネトレイターを構えて振りかざす――!
 びちり、と飛び散った肉片と共に、ドラゴンストーカーはその威力そのままに後方へと吹き飛ばされたのだった。

ベル・スローネ

「わたくしは、ドラゴンプロトコルの皆様を真竜へ導くための依代なのです……! わたくしこそが……!」
 自己に心酔するように、ドラゴンストーカーは天を仰ぐ。
 しかしそれは、あまりにも行き過ぎたものだ。
「もっともらしいことを言ってるつもりになって、結局独りよがりでドラゴンプロトコルの人たちを手にかけてるだけじゃないか!」
 蘇芳の瞳に火を灯して、ベル・スローネ(虹の彼方へ・h06236)は盾を構える。
「優花さんの夢は、憧れは。そんなものに奪われていいものじゃないんだ!」
「ドラゴンプロトコルの皆様の望み、それは真竜へ至ること……!」
 ドラゴンストーカーは、溢れ出るエゴの塊だ。
 片腕が竜の巨腕へと転じていく。激突すればその膂力によって叩き潰されるだろう。

 ――だが。

 ベルは迎え撃った。優花の夢を、願いを。そのすべてを、自らの信心という邪悪で否定する教祖を、自らの正しさで否定するために。

 激突。
 恐るべき轟音と共に、ベルのミスリルシールドと拮抗した。あまりの膂力に、床が陥没する――!
「真竜の力を思い知りなさい!」
「くっ……! 悪い奴の親玉なだけあって、とんでもないパワーの持ち主……! でも!」
 ミスリルシールドに込める力は緩めない。
 ここは――竜さえも押し留める、絶対の防壁だ。
「――勇気を見せるんだ!」
 火花が散るように、ベルの双眸から光が爆ぜた。
 √能力【エンジェリック・コール】によって、純白の腰翼が具現化する。
 ぎちり、としなった大盾を、ベルは力を逃がすように振り抜いた。瞬間、ドラゴンストーカーは竜の腕ごと体勢を崩す。
「な……ッ!?」
「これが俺の……全力だぁ!」
 大きく仰け反ったドラゴンストーカーへ、バスターランスの一撃が突き刺さった。
 激烈な閃光と共に生み出された一撃。
 まるでカウンターの如きベルの膂力によって、ドラゴンストーカーはその身体に甚大なダメージを負ったのだった。

夜白・青

(校舎は強化されてるし、優花さんを巻き込む心配がないのは嬉しいねい)
 目の前に立ちはだかる邪教の主、ドラゴンストーカーは、それでも立ち上がる。
 ドラゴンプロトコルを真竜へ導くために、殺し続ける。
「嗚呼……! ドラゴンプロトコルの方ですね! わたくしの一部となりましょう!」
「優花さんもそうだろうし、オレだって手足も尻尾も角ももがれたくはないしねい」
 拒否の言葉に、ドラゴンストーカーは悲しそうに眉尻を下げる。
「いいえ! 貴方様は望んでいるはずです! また再び真竜となるために……!」
 ドラゴンストーカーの片腕が、竜の巨腕へと変質していく。
 夜白・青(語り騙りの社神・h01020)を自らの一部とするために、ドラゴンストーカーは巨爪を振りかざした。
 青の宝石に手を触れて、しばし目を瞑ると、意を決したように、青は√能力を発動する。
 四肢が肥大化し、あらゆる構造は上書きされる。
 それこれ、真竜。
 【ドラゴンプロトコル・イグニッション】。ドラゴンストーカーが望んでやまない、真なる竜。
「嗚呼……! なんと素晴らしい……! ですが、√能力による仮初の再臨ではないのです……! 完全なる真竜へと至りましょう!」
 竜爪が真竜化した青に襲いかかるが、無敵化している青は、何も感じない。
「お断りだよう。こっちの力が尽きるまでの真っ向勝負。他のドラゴンプロトコルから奪った体、返してもらうよう!」
 真竜に変異した青による、灼熱のブレスがドラゴンストーカーへと襲いかかる。
 圧倒的な熱の奔流を、変異した片腕で抑え込もうとするが、その威力はドラゴンストーカーの許容量を超えている――!
 竜漿が尽きれば終わる。しかし、ドラゴンストーカーもまたブレス攻撃によって身動きが取れない。
 やがて、竜の息吹は減じていく。
「どうやら、真竜の力もこれまでのようですね……! 嗚呼、どうか気を落とさずに――」
「この姿の攻撃は、ブレスだけじゃないねい!」
 真竜が大きく吼えた。
 それは、ドラゴンストーカーと同質の攻撃――すなわち巨大な爪による薙ぎ払いだ。
 安心しきっていたドラゴンストーカーを打ち据える、強烈な一撃。
 爪によって体は引き裂かれ、ドラゴンストーカーは地面へと弾き飛ばされたのだった。

不動・影丸

「嗚呼……! なぜわたくしの邪魔をするのです! 真竜へ至るためには、不死であるわたくしと共に歩むしかないというのに……!」
 声を荒げるドラゴンストーカーと相対し、不動・影丸(蒼黒の忍び・h02528)は不愉快そうに目を細めた。
(正しく狂信者。この女は、、いや、女の姿に見えるのも奪った肉体の為かも知れないが……)
 数多のドラゴンプロトコルを縫合してきた教祖の元の体は、どのようもものだったのかも不明ではある。
 しかし、この教祖の本質はどこまでもエゴに満ちていた。
(どうして狂気に陥ったのだろう。欠落に関係しているのか…?)
 訊いたところで、ドラゴンプロトコルにしか興味を示さない狂人が答えを返すとは思えなかった。
 影丸は、剣を構える。
「……これまでの犠牲者の安寧と。優花くんやこれからの犠牲になるかも知れない人たちを守るため、今ここで倒す」
 印を結び、詠唱を開始する。
 周囲に満ちた魔法陣は、影丸を強化する神秘の曼荼羅だ。
「ドォマキ・サラ!ムウン! 光出でよ、汝、倶利伽羅龍王!」
 而して、【口寄せ・倶利伽羅龍王】は発動した。
 倶利伽羅龍王が顕現する――目の前の敵を認識したようだ。
「この忍務、必ず成し遂げる」
「ドラゴンプロトコルの皆様のためにも……! 愚か者を叩き潰さなければ!」
 影丸の声で、校舎内に偲んでいた忍獣たちが現れる。
 巨大な竜の腕へと変質させて、巨剣を片手にドラゴンストーカーは襲い来る――!
 顕現した倶利伽羅龍王が、なんの躊躇いもなく突進してくる敵を見下ろしながら焔の息を吐き出した。
 すべてを焼却せんとする黒炎はしかし、ドラゴンストーカーの竜の腕の防御力によっていなされる。
 しかし、ドラゴンストーカーにとっての障害はそれだけではない。

 飛び交う忍鴉から、羽の手裏剣を四方八方から投擲したのだ。

 竜化していない部位は無防備。たまらず大剣の風圧で薙ごうとしたが、忍獣はさらに、増える。
 ドラゴンストーカーの足元がぐらり、と揺らいだ。
 見れば、無数の鼠たちが、動きを阻害している。
「竜にも劣る愚かな動物たちが、このような……!」
 その隙を見逃さず忍犬や忍猫たちが、ドラゴンストーカーに四方八方から噛みついた。
 ドラゴンプロトコルの恩恵を受けているのだろう、ただの皮膚でさえも、協力な防御力を持っている。
 血は出ない、が。
「竜化部位は常に一つ。ならば、裁けるわけはない」
 龍王剣が大きく轟いた。黒炎が覆い、爆ぜる。
「そして……いかに忍獣たちの攻撃が手緩くとも、積み重なれば痛いぞ」
「わ、わたくしが……このような……ッ!」
 終わりだ、と。
 龍王剣の一閃。
 そして、立ち昇る大火炎。
 ドラゴンプロトコルの身体を持つドラゴンストーカーといえども、その威力は想定外だ。
 断末魔を上げながら、ドラゴンストーカーは燃え尽きていく。
 すべてが炭化し、消え失せた後、校舎には夕刻の斜陽が満ちていた。
「優花くんを守り抜けたな。よくやったな」
 集まっていた忍獣たちの頭を撫でた後、影丸は目を瞑った。
 あの教祖の犠牲になったドラゴンプロトコルが、安らかに眠りにつけるように、と。

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