シナリオ

古い竜の物語~喰竜教団肉体簒奪事件~

#√ドラゴンファンタジー #喰竜教団

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●√ドラゴンファンタジーのとある山中にて
「カーッ!!!何してるか貴様らあぁぁあ!!!!」
「やべっ!ドラゴン婆だ逃げろ!」
 辺り一帯に響くような怒鳴り声を上げ、それを聞いて逃げ出す若者達の背中を見て一人のドラゴンプロトコルがふんと鼻を鳴らす。外見は十代前後の少女、しかし日に焼けあちこちが荒れている肌は彼女が外見通りではない長い年月を過ごしている事を物語っていた。
「最近はインターネットでこの辺りが危険とはわかっているだろうに、年々若い奴は馬鹿になっておる……」
 ぶつぶつと文句を言いながら少女は落ち葉をかき分けその下に隠れていたキノコを掘り出すと、焼却炉に投げ込んで携帯に連絡を入れる。
「おい役所、例のキノコを燃やすからさっさと許可降ろさんか……はぁ!数日待て!?そんな悠長にしてたらここら一帯キノコに覆われるわ!」
 その場で地団太を踏みながらさっさと話をつけろ!とだけ言い残し少女は携帯の電源を切る。直後、大声を出した影響か少し苦しそうに咳込みながら少女は山の中の探索を始めるのだった。

●今回の作戦内容
「はい、ヤベーやつが現れました!」
 そう宣言した真心・観千流(真心家長女にして生態型情報移民船壱番艦・h00289)は、二つの人体模型を用意しながら自身の見えた星詠みを語る。
「ドラゴンプロトコルから肉体を簒奪する邪教『喰竜教団』による事件が予知されました!彼らはドラゴンファンタジーのとある山中に住む女性、松下ミチコさんからその身体を奪おうと計画しているようです!」
 ちょいやと片方のマネキンに蹴りを入れてバラバラにした観千流は、そのパーツをもう一つのマネキンに接続する事で喰竜教団が行おうとしている冒涜的な計画を暗に伝える。恐ろしいのは教団はこれをドラゴンプロトコルの為になるという歪んだ善意で実行している事だろう。
「よって皆様にはミチコさんの護衛を頼みたいのですが……ちょっと彼女、気難しい人のようでして……」
 見た目は十代の少女のミチコだが、その正体は失楽園戦争の時代から生き地上の復興に尽力した街の英雄とも言える人物だ。しかし長い年月は彼女の活躍を忘れさせ、さらに自分の土地である山に侵入してきた人物を怒鳴りながら追い出すので若い世代からはよくわからないヤバい人という認識を持たれ、それを知りながらも本人は自らの態度を変えようとしない、典型的な昔の人という人物像だ。
「ですが彼女の態度にも理由はありまして、彼女が住む山には繁殖力が高く危険な毒キノコが群生しているんです。これが人々に被害を出さないように厳しく管理しているうちに人々に疎まれ心が荒れ……という経緯があるようです」
 軽い人間不信に陥っているミチコに護衛を申し出ても聞く耳を持たれないだろう、下手をすると侵入者と判断されて追い掛け回される危険もある。
「しかしそんな鬼ごっこをしている間にも教団の計画は進行しています、よって今回も二つの選択肢があります」
 一つはミチコの話を聞き、適切な対応を行って彼女に気に入られる事。時間が掛かる上に彼女の仕事を手伝わされる可能性もあるが最も平和的に終わるだろう。
 もう一つはミチコの話を適当に聞き流し無理矢理護衛を敢行する事、とても荒れるだろうし騒ぎを聞きつけた教団もまた強引な手段でミチコを狙ってくるが上手く行けば迅速に守りを固める事ができる。
「どちらにせよ教団は最終的に武力でミチコさんの身体を狙って来ます、戦闘時のミチコさんのフォローは忘れないようにしてください」
 そこまで言うと観千流は一度息を吸い、√能力者達へ頭を下げる。
「今回の目的は護衛ですが、同時に一人日の当たらない戦いを続けた彼女を労う機会でもあります!どうかよろしくお願いします!」

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第1章 日常 『老害なんて呼ばないで』


フォー・フルード
天神・珠音

●偽らざる言葉は心を解かす
「さて、難しい方のようですがそちらは大丈夫でしょうか」
「わたしは…その、多少の大声はお母さんでなれているので平気です」
 機械的で淡々としているものの、それ故の一種の誠実さに満ちたフォー・フルード(理由なき友好者・h01293)の言葉に天神・珠音(どこにでもはいないトウテツ・h00438)は柔らかく微笑みながら心配はないと返す。
 二人が居るのは護衛対象であるミチコが住んでいる山中の一軒家。臆した様子もなくフォーが呼び鈴を鳴らすと、一分もしない内に玄関の扉が開きドラゴンプロトコルの少女が現れる。
「……なんだい子供だけでこんな所に、迷子かい?」
 珠音はともかくとして大柄なフォーを見ても子供と言い放ったミチコは睨みつけるように目を細めているが、その言葉に拒絶の色は無い。その様子に彼女は悪い人物ではないと確信したフォーはミチコの前で礼儀正しく頭を下げる。
「始めましてフォー・フルード と言います、少しお話が……」
「アタシは話す事なんてないよ、警察呼ぶからそこで待ってな」
「ま、待ってください…!困り事があると聞いてここに足を運んだんです…!」
 つっけどんに扉を閉めようとするミチコに対して珠音が慌てて言葉を紡ぐと、ミチコの目がますます鋭く細められる。しかし扉を閉めようとする動きが止まったのは好機とフォーは説明を続けた。
「有害なキノコの駆除をお一人でしていると聞きました、その影響で人々から邪険されてしまっている事も」
「手伝わせてください、その困り事を……」
 背筋を正し、真剣な表情で自身を見つめる二人に対してミチコは溜息を吐くとお茶くらい出してやるよと言って背中を向ける。一先ず最初の壁は乗り越えたようだと、二人は互いの顔を見合って小さく頷いた。
 玄関を上がり、テーブル代わりであろう一人用の炬燵が置かれた居間に着いた三人はミチコの出した湯気の立つお茶を手にしながら卓を囲む。
「……それで、このドローンを使えば広い範囲でキノコの探索と山に勝手に入る人物の見張りができるわけです」
「私は、力仕事であればお手伝いできます」
 いざとなればキノコを食べる事ができる、という事は余計なトラブルを生みそうなので伏せつつフォーと珠音は自分に何ができるかをミチコに説明する。それを聞いたミチコは顎をさすりながら何かを探るように二人の目を見つめた。
「随分と用意周到だねえ。正直に言いな、目的はなんだい?」
 長い人生経験から来る直感か、二人がただ手伝いに来ただけでない事を見抜いたミチコが吐き捨てるようにそう言うと珠音は少し不安そうにフォーを見る。その視線に対して彼は任せてほしいと片手を上げて合図を返すと、真っ直ぐミチコの目を見つめ返した。
「ミチコさん、貴方は命を狙われています。喰竜教団というカルト集団によって」
「……はぁ?」
「冗談じゃありません、信じてください」
 フォーの言葉に呆けたような表情をしたミチコだったが、真剣な珠音の表情を見て姿勢を正す。二人の誠実な態度によって、とりあえず話を聞いてくれる心持ちにはなったようだ。

リベンジマン・花園守
アヤメイリス・エアレーザー

●昔と今と
「……で、なんだって?喰竜教団?それがアタシの身体を狙ってると」
「そう、昔はそこら中に居た種族至上主義思想の奴等よ」
「あなたがずっと街の人達を守って来たように、今度は俺達にあなたを守らせてください!」
 拳を固く握りしめ、そう熱く宣言するリベンジマン・花園守(√EDENを守る正体不明の熱血ヒーロー!・h01606)を前にミチコは若干助けを求めるような視線をアヤメイリス・エアレーザー(未完成の救世主・h00228)に送るが、悪戯っぽく笑いながら肩を竦めるだけの彼女を見て盛大に溜息を吐く。
「街を守ってたなんて大層なもんじゃないよ。この辺りはちょいと毒性が強いキノコが生えてね、小さい子供やアタシみたいなジジババだと胞子を吸い込むだけで危ないから育たないうちに抜いてるのさ」
「それは、充分立派な事じゃないですか!」
「放置したら世界が滅びるようなものではないのよ。繫殖力が強いと言っても山を飛び出て街に被害を出すようなものではない……現代ではね」
 何か知っているような含みのある言い方に、リベンジマンは思わずアヤメイリスとミチコの顔を交互に見る、彼女達──というよりもミチコ──は互いに目を合わせないながらもどこか昔を懐かしむような声色で話を続ける。
「昔は道路も土塊で建物も木製だったからそこら中に生えてたわよね、一つ見つけたら大騒ぎだったわ」
「……昔の事は良いんだよ、それよりもそっちの赤い坊主」
 明確に自分に話を振られリベンジマンはより一層背筋を正す。その態度を見て真面目なやつだねえ、とミチコは頭を掻きながら彼の目を見つめた。
「その護衛っていうのはどれくらい必要なんだい?」
「わかりませんが、星詠みが見た脅威が去るまでは続くかと」
「場所は?ここに居ていいのかい」
「無理に移動しろとは言いません、松下さんの意向に従います」
「アンタらみたいなのはどれくらい居る?」
「状況によって変わりますが、現状だと十人前後かと」
「なるほどね……」
 何かを考えるように顎をさすりながらミチコはちらとアヤメイリスに視線を向ける、その瞳には思えが何か吹き込んだのかという疑念がありありと浮かんでいた。
「ロビー活動は妾の専門分野だけど、今回は自主的なボランティアの集まりよ。たまには若い力を頼りなさないな」
 昔のアンタみたいなね、そう言いながら笑顔を浮かべるアヤメイリスを見てミチコは不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「それじゃあこき使ってやるから表に出な、今日の内に刈っておきたい物もあるんだ」
「はい!任せてください!」
 マスクを貫通して伝わってくるリベンジマンの爽やかな笑顔にミチコは何度目かわからない溜息を吐く、その様子を見てアヤメイリスは活き活きしてきたじゃないと一人呟くのであった。

八木橋・藍依
レミィ・カーニェーフェン
シルバー・ヒューレー

●耳を傾けるべきは
「申し訳ありません、大勢で来るのであれば事前に連絡を入れるべきだったのですが……」
「いいよ別に、馬鹿は嫌いだが堅苦しいのも面倒くさい」
 深々と頭を下げるシルバー・ヒューレー(銀色のシスター・h00187)に対してミチコは手で相手を遠ざけるような仕草をしながら手にした鎌でキノコを刈り取る、それを見たシルバーもまた借りた小さな鎌でキノコの回収を始めた。
 どうにかして護衛の許可をもらった√能力者達だったが、その代わりとして求められたのがミチコのキノコ狩りの手伝いだった。整備のされていない山道での作業はそれなりの労力が必要なはずだが、ミチコはまるで苦でもないように黙々と鎌を振るい続けている。
「今のところ私達以外に山で動いている人は居なさそうですね」
「そいつは残念、この人数なら捕まえて金を取れたかもしれないのに」
 ドローンを使って山全体の様子を見ている八木橋・藍依(常在戦場カメラマン・h00541)からの言葉を聞いてミチコは歯を剥き出すような笑顔を浮かべる。当初は真意の読めないぶっきらぼうな態度を取っていたミチコだったが、共に作業をするようになって警戒が解けてきたのか多少の冗談を言う程度には打ち解けてきた。
「ここらは結構山菜とかが取れてね、それ目的の奴がちょいちょい入ってくるのさ」
「大変ですね、ダンジョンで無くとも山の中には危険が多いのに……それらの管理に加えて人の対処もしないといけないなんて」
 レミィ・カーニェーフェン(雷弾の射手・h02627)の漏らした言葉にミチコはふんと鼻を鳴らす。気に障る事を言ってしまったかと咄嗟に手で口を塞ぐレミィだったが、アンタに怒ってるんじゃないよと言いながらもミチコは不機嫌そうに言葉を続ける。
「実際ダンジョンに慣れた若い奴等にとっちゃこんな山の中遊び場みたいなもんだろうさ、本物に潜る前の練習とか言ってた奴も居たね」
「それは……」
 自分達の世代の事にレミィは思わず口ごもってしまう。インターネットで輝かしい冒険の軌跡が見る事のできる今、それに憧れて無謀な行為や周囲の迷惑になるような事をする若者は決して少なくない。冒険者であった父から直接話を聞いていたレミィでもその恐怖よりも輝かしい伝説が心に刻まれているのだ、話が誇張されやすいネットの伝聞に影響を受けた人々の盲信は計り知れないだろう。
「メディアの発達は良くも悪くも人々の心に与える影響を大きくしました、情報を伝える者としてその事は心苦しく思います」
 そんなレミィに助け船を出すように一つ咳払いした藍依が真剣な表情でミチコの隣に立つ、その手には自分が見聞きした事を忘れないという志を見せるように手帳とペンが握られていた。
「だから伝えていきたいと思います、ダンジョンやモンスター以外にも存在している身近な危険を。ご協力いただけないでしょうか?」
 藍依の真剣な瞳に見つめられミチコは根負けしたように大きく息を吐き出すと、こっちに来なと三人を集め籠に詰めていたキノコを一つ手に取る。
「毒の強さはかなり強い、素手で触っただけで手が被れるし一口食べれば大の大人でもお陀仏さ。しかも厄介な事に成長しきると傘を爆発させて胞子を撒き散らす性質がある」
 そう言いながらミチコがキノコに亀裂を入れるとそこから粉混じりの白い液体が流れ落ちる、成長すると共にこの液体がガスとなって傘の中に溜め込まれるのだという。
「鳳仙花のような性質ですね、わざと枯らす事などはできないのでしょうか?」
「色々試したけど周りの植物も一緒に枯れるから禿山ができるだけだね、燃やすしかないよ」
「では、そのキノコを好んで食べる動物などは居るでしょうか?」
「見たことないね、近くで鼠が死んでたりする事はある」
 シルバーの質問にそうミチコが答えると、ならばと言いながらシルバーが口笛を吹いて森の動物達をこの場に集める。突然の事にミチコが目を丸くしていると、シルバーは動物の輪の中心でしきりに頷いた後彼女の方に向き直った。
「動物達もキノコを避けているようですね、場所は聞けたのでそちらに向かいましょう」
「なんだか、御伽噺みたいですね……」
 感嘆とした様子のレミィの言葉にシルバーは信仰の力ですと静かに返す。どちらかというと仏陀の逸話みたいだなという藍依の感想は、喉の奥にグッと飲み込まれるのであった。

深雪・モルゲンシュテルン
石川・ゴブ衛門
鬼龍・葵

●彼女は何故ここに居るのか
「ご苦労様です、お茶を用意しました」
 山のキノコ狩りを終えて戻って来たミチコに深雪・モルゲンシュテルン(明星、白く燃えて・h02863)が暖かいお茶を出す、水とガスは使わせてもらったが茶葉はこちらで用意したものだ。
「わしの事務所でも調べて見たが、竹みたいなキノコじゃの。害はあるが社会を崩壊させる程ではなく、さりとて人手を割くには数が多い……ひひっ、上手い事金を払いたくない生態をしてるの」
「でもそんな危険なキノコが生えてるんなら普通人が寄り付かないだろ、なんだってちょいちょい人が入って来るんだ?」
 鬼龍・葵(人間(√EDEN)の|載霊禍祓士《さいれいまがばらいし》・h03834)の質問に石川・ゴブ衛門(|小悪鬼《ゴブリン》探偵・h05599)は甘い甘いと指を振る。
「人間のくだらなさを舐めちゃいけねえ。山菜が取れるから、ダンジョンに潜る前の腕試し……デッカい理由なんて必要ないのさ、好奇心が理性を上回れば人は簡単に間違いを起こす」
 ゴブ衛門の言葉に葵は自らも覚えがあるように眉を顰める。触れてはいけない祠、入ってはいけない禁域、人も社会も注意しているにも関わらずそれらに触れて痛い目に会う人々。
「分かる、身に染みるほど分かる……管理する側の気持ちにもなってほしいもんだ」
「なんだ、アンタも山持ちかい」
 口元を抑えて溜息を吐く葵の隣にミチコは不躾に座ると湯気の立つお茶をお冷のように一息に飲み始める。年老いたと言えどドラゴン、身体の頑丈さは人より上らしい。
「嫌になるよなぁ、山で事故が起きれば持ち主の管理責任だ……まぁアンタが気を張ってるのはそれだけじゃないような気がするけどな?」
「不躾だねアンタ、人を値踏みするような物言いは嫌われるよ?」
「おっと失礼、職業病だ許してくれ」
 ゴブ衛門とミチコの間に火花が散り始めるのを感じ、深雪が視線を切るようにお茶菓子を二人の間に置く。あまり自己主張しない性格もあってかなんだか侍女のような振舞になってきた。
「勝手ながらこちらに来る前に色々と情報を調べてきました、近頃体調が芳しくないそうですが大丈夫でしょうか?」
 ゴブ衛門の口から直接聞くと色々と厄介な事になると判断し、深雪が間に立ってミチコから情報を探る。それに対して少しだけ睨むように深雪を見つめていたミチコだったが、それで悪事をするわけではないと察したのかお茶菓子の包装を剥がしながら口を開き始める。
「なんて事はないさ、ちょっとばかし胞子を吸い込んだだけ。少しすれば良くなるさ」
「……待ってください、こちらの調べた情報だと胞子にも毒性があると出ているのですが」
「そうだよ、だから弱っちい子供が吸わないように早いうちから燃やしてるのさ。どんな馬鹿でも死んだら悲しむ奴がいるからね」
 ミチコの話を聞いてゴブ衛門は内心でなるほどと頷く。つまる所彼女は優しくて、とても心配性なのだ、顔も知らない誰かの家族を案じてしまうほどに。
「……偉い!あんた偉いと思うよお婆ちゃん!」
「私も、あなたの強さに敬意を払います」
「子供に褒められても嬉しかないよ」
 口ではそう言っているが、内心ではどこか気恥ずかしさを感じているのかミチコはぷいと二人から目を反らす。その様子を面白がって見ていたゴブ衛門だったが、キッと睨みつけられて誤魔化すように明後日の方向を見ながら口笛を吹いた。
「そんなわけで、こんな身体を盗ったってボロボロで役に立たないよ。なんだってその教団はアタシを狙っているのさ」
「……恐らく正気ではないのだと思います、実体験として身体部位を幾らか付け替えた所で神秘的変異など起きないのですが」
「そんなもんだよ宗教なんてのは、実際の効果のあるなしよりはそれをする事で心の安寧を保つのが目的なのさ」
 それが呪いになるとしてもね、という葵の言葉に深雪は考え込むように自らの手を見つめる。竜の身体を繋ぎ合わせる事で完全な竜となる、ならば彼らからすれば全身に機械を繋げた私は完全な機械であるというのか。
「ま、そういう馬鹿から護衛するために私達が来てるんだ。大船に乗った気持ちで……」
 話を切り替えながらなんとなく窓の外を見た葵は、そこで訝しげに目を細めた。
「……どうかしましたか?」
「敵が動いた、ミチコさんから離れないでくれ」
 真剣な葵の言葉に深雪とゴブ衛門もそれぞれの獲物を持って周囲を警戒する、どうやら事件はここからが本番のようだ。

第2章 冒険 『マジカルファンガス群生地』


●幕間
 何も知らぬものが見れば、それは一面の雪景色に見えただろう。
 しかし空から降り注ぐ雪の正体はキノコの胞子、吸い込めば人を死に至らしめる可能性のある毒が山一面に広がっているのである。
「なんだいコイツは……ここら一帯がダンジョンにでもなったのかい!?」
 ミチコですら始めて見る現象なのだろう、驚愕に目を丸くした彼女だったがハッと何かに気が付いたように電話に飛びつきどこかに連絡をかけるが、すぐに叩き付けるように受話器を本体に戻した。
「連絡が付かない!この胞子の量じゃ間違いなく街に広がる……さっさと山を降りるよ!」
 そういうが否や、ミチコは街にこの異常事態を伝えるために瞬く間に家を飛び出してしまう。√能力者達にもあまり考えている時間は残されてないようだ。

●分岐について
 今回の章に置いて「A:街へ辿り着くことを優先する」か「B:ミチコの護衛を優先する」かによって三章で戦う状況が変化します。
 どちらを選んでも三章の開幕でミチコが死亡するなどNPCの生死に関わるような現象は起きないため、PCのやりたい行動を優先して問題ありません。
アヤメイリス・エアレーザー
リベンジマン・花園守
鬼龍・葵

●雪国のようなそこは……
「松下さん!」
 家から飛び出したミチコを追いリベンジマン・花園守(√EDENを守る正体不明の熱血ヒーロー!・h01606)も外へ出る。降り注ぐ胞子は未だにその勢いを増しており、一歩踏み出せば足首が埋もれるほど積み重なっていた。
(松下さんすら見たことがないようなキノコの大量発生……!街も心配だけど、そう思わせる事が喰竜教団の狙いかもしれない!)
 胞子の毒性はリベンジマンであれば無視できるものだがミチコもそうであるとは限らない、弱って身動きが取れなくなった所を狙ってくる可能性も十分ある。ゆえに街よりもミチコの護衛を優先させたリベンジマンの頬を、不意に高速で飛翔する何かが掠めた。
「ぶべっ!?」
 直後、前方を走っていたミチコが背を弓なりに反らせて盛大に地面に転がる。敵の奇襲かとリベンジマンが素早く背後を見ると、そこには銃口から煙を立ち上らせるアヤメイリス・エアレーザー(未完成の救世主・h00228)と金勘定のように札を数える葵の姿があった。
「気持ちはわかるが待ちなよミチコさん、そのまま行ってもできる事は限られてる」
 そう言って葵は両手に挟んだ札を投擲すると、札は瞬く間に増殖していき胞子を防ぐトンネルを形成する。
「秘技万乗弾幕符……ってね、結構キツいから早めに街に着いてもらえると助かるよ」
 軽快に笑って見せる葵だが、本人の言う通り体力の消耗が激しいのかその額には汗が浮かんでいる。それを見たアヤメイリスはすぐ終わらせるわと言って地面に倒れたミチコの口にタオルを巻かせた。
「アレを吸ったら不味いのはアンタが一番よく知ってるでしょ、せめてマスクくらい着けなさい」
「……今転ばされた衝撃でしこたま吸ったかもしれないね」
「そう、問題なさそうね」
 恨みがましいミチコの視線を涼しい顔で受け流すと、アヤメイリスはリベンジマンを手招きしてその耳元に顔を寄せる。
「私の弾丸でミチコの生命力を増やした、トンネルもあるからしばらく毒は大丈夫だけど……代わりに今の彼女は一歩も動けないわ」
 任せたわよ、そう言ってアヤメイリスが胸部装甲を叩くとリベンジマンは力強く頷いてミチコの身体を担ぎ上げる。
「あー、ごめんヒーロー……集中したいから私もお願いできる?」
「任せてください!」
 葵の言葉にリベンジマンは彼女の身体も持ち上げると左肩にミチコを担ぎ、右腕に葵を抱え、背中にアヤメイリスが貼り付く運搬スタイルとなる。
「……そちらは自分の脚で歩けるのでは?」
「いいでしょう?さっきみたいに背後から奇襲を受けても私が盾になれるわよ?」
「何でもいいから街に急ぐんだよ!!!」
 ミチコからの叱責を受けてリベンジマンは慌てて山を駆け下りる。隙間なく敷き詰められた札でできたトンネルは胞子を通さない代わりに一切の光も無いが改造されたリベンジマンの目であれば問題なく進むことができた。
「あのカルトどもは、街に辿り着いた瞬間を狙っているのかもしれないわ」
 トンネルの中をある程度進んだ所で、警告するようにアヤメイリスが呟く。
「その時は妾達に任せなさい、アンタはアンタの心の赴くままにすれば大丈夫だから」
「……わかってるよ」
 そう答えるミチコの身体はとても細く、不安になる程軽いものだった。

フォー・フルード
天神・珠音
深雪・モルゲンシュテルン

●白き山を抜け行く先は
「……来ましたね」
「おばあちゃん、こっちです!」
 味方の作ったトンネルの出口で待っていた深雪・モルゲンシュテルン(明星、白く燃えて・h02863)と天神・珠音(どこにでもはいないトウテツ・h00438)は合流した√能力者達からミチコを受け取ると、深雪の乗る神経接続型エアバイクに座らせる。
「ヘルメットを、念のため吸塵防止フィルターも着いています」
「仰々しいねえ……口にタオル巻いてりゃ充分だよこんなの」
「万が一もありますから、ちゃんと着けてください」
 渋い顔をするミチコに珠音がヘルメットを被せると、深雪が地面を蹴り出し三人を乗せたエアバイクが発進する。そして三人から少し遅れるようにして木の上に身を隠していたフォー・フルード(理由なき友好者・h01293)も動き出した。
(胞子の大量発生、狙いが松下さんの誘導だけであれば良いのですが……)
 フックショットを飛ばし木から木へと飛び移りながらフォーは周囲に目を配る、観察するのはミチコ達ではなく森そのものの状況だ。胞子の毒は体躯の小さい動物達には致命的なようで、既に新たなインビジブルが発生し始めている。
(もし相手の目的がインビジブルの獲得である場合、この状況を放置するのはマズい)
 エアバイクを追いかけながら森の被害を概ね把握したフォーは、ミチコにバレないよう同乗する二人に合図を送る。それを見た珠音は指でOKサインを作ると、√能力を使い自らの背に無数の口を生成し始めた。
(おばあちゃんを死なせるわけには…いきません!)
 理性を塗りつぶしてしまいそうな強烈な飢餓感をミチコを守るという思いで抑え込み、珠音は背中の口で降り注ぐ胞子を吸い込み喰らい始める。その影響で響き始めた風切り音を不審に思ったのかミチコが後ろを振り返るが、それを誤魔化すように深雪がエアバイクの出力を上昇させた。
 甲高く響くエンジン音に風の音はかき消され、周囲の景色はそれを認識する前に遠く彼方に去っていく。急な加速を訝しむ様子を見せながらも胞子の数が激減している事には気が付かなかったのか、ミチコは再び前を向いた。
「ありがとうございます、おばあちゃんはこういう事していると分かったら凄く気にしてしまいそうなので……」
「いえ、すぐに街へ辿り着きたかったので丁度良かったです」
 ヘルメットに付けられた通信機で自分達だけに聞こえるよう言葉を交えた二人は、後方のフォーから胞子とインビジブルの数が減った旨の合図を受け取り現状を維持したまま街へ向かう。即ちエアバイクを加速させつつ、珠音は胞子を喰らい続けたまま。
「すぐ街に辿り着けないこと……誰かが死んでしまう事よりも恐ろしいことはない、ですよね?もう少しの辛抱ですよ」
 誰の顔を見るでもなく深雪は励ましの言葉を言うと、エアバイクをさらに加速させる。
 その様子を見守りながらも周囲を警戒していたフォーだったが、敵が接近してくる様子は無い。高速で動いている事に加えて√能力者達がミチコを護衛しているため迂闊に近づけないのだろう。
(であれば、戦闘は目的地である街に着いてからなりますね……先に向かった方々を信じましょう)
 祈るような気持ちで山を降りる√能力者達の目に麓の街が見え始める、そこには既に建物が白く化粧された景色が広がっていた。

レミィ・カーニェーフェン
八木橋・藍依
石川・ゴブ衛門
シルバー・ヒューレー

●一人でも多くを救うために
「プライベートを覗いてしまう形で申し訳ないですが……」
 新聞記者としての良心に悩まされながらも八木橋・藍依(常在戦場カメラマン・h00541)は電話の発信履歴を呼び出しミチコがどこに連絡しようとしたのかを確かめる。真っ先に彼女が頼ろうとした相手だ、何かこの状況を打破できるものがあるかもしれないと考えての行動だったが、意外な事に画面に映し出されたのは藍依にも見覚えのある数字だった。
「119、消防救急無線?」
 事件の規模に対して不釣り合いに見える三つの数字に藍依は一瞬首を傾げるが、すぐに間違いに気が付く。√ドラゴンファンタジーではダンジョンを始めとする非現実的な現象を国家が認知している、その初期対応に行政機関を頼るのはおかしな事ではない。
 逆に言えば半世紀以上ダンジョンやモンスター対策を続けてきているはずの通信インフラが機能していない異常事態が今だ、想像よりも状況は悪いのかもしれない。
「ミチコさんは他の方が護衛しています!私達は街への到着を最優先にしましょう!」
「それなら外に車があります!皆さんも乗って!」
 ミチコ宅の固定電話同様に自身のスマートフォンも繋がらない事を確かめたレミィ・カーニェーフェン(雷弾の射手・h02627)が慌てて外に出ようとした所を自身のキャンピングカーに誘導した藍依は、他の√能力者も同様に車へ乗せてエンジンを回す。
「運転は私が、そちらは情報発信の手立てが無いか調べてください」
「わしは薬や防毒面を用意しておくか、婆を揶揄おう思ったら先に行かれたしの」
 シルバー・ヒューレー(銀色の|シスター《聖堂騎士》 ・h00187)が運転席に座り、後部座席では石川・ゴブ衛門(|小悪鬼《ゴブリン》探偵・h05599)が自身の探偵事務所から胞子対策のための道具を取り寄せ始める。そして操作方法を確かめるように座席周りを指さし確認したシルバーは、これ以上の逡巡は不要と勢いよくアクセルを踏み込んだ。
「私が道を誘導します!」
 車が動き出した直後、レミィは車のルーフに飛び移ると雷の精霊を呼び出し波動状に変化させて周囲に放つ。その反響と自身の視力によって周囲の地形を把握したレミィは、進むべき最短経路を示すために輝く雷の弾を放った。
 弾丸の軌跡に沿う様にシルバーがキャンピングカーを走らせる最中、藍依とゴブ衛門はどうにかして街と連絡が取れないか試しつつ探偵事務所から取り寄せた道具がすぐに使えるよう整理を始める。
「レミィさんが山の様子を写真に撮ってくれています、これを見せれば現状はわかってもらえると思いますが……」
「物はあっても届かなきゃ文字通りお荷物よ、せめて街の様子に詳しい婆と話せりゃのう」
 舌を出して思考を巡らせていたゴブ衛門だったが、そこでふと自分とミチコの間に立ったサイボーグの少女の事を思い出す。試す価値はあるかとWZ搭載の通信機器を立ち上げたゴブ衛門の耳に、硝子を爪で引っ掻いているかのような甲高いエンジン音が突き刺さった。
「おー、婆が随分ご機嫌なもんに乗っとるようじゃの?」
『ああん!?さっきの爺かい!?何用だよ!』
 賭けに勝った、流石の相手もウォーゾーンの劣悪な環境下で使用される通信装置の妨害は難しかったらしい。さっさと役所なり消防なりの場所を教えてもらおうとゴブ衛門が地図を広げた瞬間、突然の浮遊感が彼を襲った。
「……ん?」
 それが何かを理解する前に車内を激しい衝撃が襲い、ゴブ衛門は床に顔を強かに打ち付ける。敵の襲撃かと思い藍依が窓の外を覗いた瞬間、再びの浮遊感と共に景色が上方向に流れていった。
 落ちている、そう理解した瞬間藍依が反射的に座席にしがみつくと激しい衝撃と共に車全体が軋みをあげる。
「レミィさん!?道を間違えていませんか!?」
「問題ありません、これが一番安全に落ちる事のできるルートです!」
 問題しかないレミィの発言に藍依が呆然としている間にキャンピングカーは三度目の断崖跳躍を行う。元々は新聞社の皆や友人達と遊びに行くために用意したキャンピングカーである、きっとレジャーシーズンには大活躍するであろう自慢の愛車である、それは重力に従って緩やかに崖から落下し、走行不能になるギリギリの落下エネルギーを伴い地面に半ばめり込むようにしながら着地する。
「……人命が最優先です!!!!」
「お心遣い感謝します!」
 色々な葛藤を飲み込んだ藍依の言葉に最大限の感謝の思いを乗せて返したシルバーはより激しい運転に耐えられるよう銀の鎧を身に纏いこの時間を早く終わらせるため最高速で山を駆け下りる。
 その甲斐があったのだろう。いつの間にかキャンピングカールートエデン号は胞子の雨を置き去りにし、麓の街に何よりも早く辿り着いた。
「私が役所に向かいます!皆さんは街の人達の避難誘導を!」
 街に着くや否やレミィはルーフから飛び降りると、ミチコから聞き出した街のメモが書かれた地図を片手に真っ直ぐ役所へと向かう。ダンジョン内ではいざ知らず街中で精霊銃を持っている上に、無理な下山の影響で身体中に擦り傷や打撲痕を付けているレミィに市役所の職員は驚いて病院に連絡しようとするが、レミィはそれを手で制すると冒険者登録証と山中の様子を撮影したスマートフォンを見せた。
「冒険者のレミィ・カーニェーフェンです、松下ミチコさんからキノコの異常発生の知らせを受けて連絡に来ました!」
 ミチコの名前を出したのが功を奏したのか、そこからの動きは早かった。幸いにも通信異常は街まで影響を及ばしては居なかったようで防災無線で街の人々に呼びかける事に成功し、迅速に避難始まった。ゴブ衛門の用意した胞子対策道具もある為被害は最小限に抑えられるだろう。
(……とは言え、街の人全員が避難できる時間は残されていませんね)
 山から徐々に近づいてくる胞子の雨を睨みつけながら、シルバーは自らの拳を固く握りしめる。
「目的の為に無関係の人々を巻き込む喰竜教団、必ずその企みを阻止せねば……!」

第3章 ボス戦 『喰竜教団教祖『ドラゴンストーカー』』


●幕間
「……あら?あらあらあらあら?」
 胞子の雨と共に√能力者達から少し遅れて街に到着したその女──喰竜教団教祖『ドラゴンストーカー』──は、街の様子を見ると同時に不思議そうに首を傾げる。
「これは如何したものでしょうか?ミチコ様が真竜に至る前に心残りを解消して差し上げるつもりでしたのに……一人も倒れていないではありませんか?これでは竜化させたキノコ様達も骨折り損というもの……」
 心の底から無念だというように涙を浮かべるドラゴンストーカーだったが、ですがの一言と共に一転して笑顔を浮かべる。
「それならそれで、皆様にミチコ様が真なる竜へ戻る第一歩を見届けてもらう事ができますね!大変めでたい事です!さあ拍手を持ってお見送りいたしましょう!!!」
「……なぁ、アイツは何を言っているんだい?」
 正気とは思えないドラゴンストーカーの言動にミチコが眉を顰めて√能力者達に尋ねるが、その正確な心理を言えるものはこの場に居ないだろう。
「避難を手伝いたいが、ワタシが動くと逆に街を危険にさらしちまうね……なら足手まといにならないくらいには頑張るさ」
「最期のお話は終わりましたでしょうか?それでは儀式を始めましょう!」
 そう宣言すると同時にドラゴンストーカーは大剣を引き抜く。街には毒の胞子が降り注いでおり、まだ避難途中の人々も居る、相手はミチコ一人を狙っては居るが周囲の被害はなどお構いなしで戦闘を行うだろう。
 守るべきものが多い中で、この事件最後の戦いが幕を開けた。

●ミチコの戦闘能力について
 ミチコは武器を持っておらず√能力も使用できない一般人ですが、汎用戦技問わず任意の技能を取得しているものとして扱います。
 ドラゴンストーカーにダメージを与えたり√能力を防ぐことはできませんが、プレイングで指示すれば相手の隙を作る事はできるかもしれません。
夜白・青
鬼龍・葵

●天から罰を与えるは
「迷惑な奴だ、余計なお世話って言葉を知らないのかい?」
「不完全な生にミチコ様を縛り付ける貴方達こそ迷惑千万、そこをお退きなさい」
「嫌だね、竜の神様が降りてきたってミチコさんは渡さんよ」
 そう言い放ち刀を構える鬼龍・葵(人間(√EDEN)の|載霊禍祓士《さいれいまがばらいし》・h03834)を前にドラゴンストーカーはでは、と呟きながら大剣を振り上げ……迷いなく自らの身体に突き刺した。
「なっ……!?」
「我らが敬愛する真竜のお姿を見せてあげましょう」
 そう告げるドラゴンストーカーの身体から流れ落ちた血が地面に広がり、広大な血の海を作り出す。これはマズいと葵が距離を取ろうとした瞬間、赤い飛沫を上げながら巨大な竜が血の海面から飛び出した。
「ああ我らが偉大なる真竜様!愚かなる人の子にその神威をお見せください!」
 陶酔したドラゴンストーカーの言葉に答えるように竜の口から灼熱のブレスが溢れ出す。迷っている時間は無い、一か八か葵が刀に纏わせた霊気でブレスを反らそうと意識を集中させた時だった。
「光芒万丈音波震天、急急如律令!」
 葵の背後からミチコの詠唱が響く、山で歩く際に使用する獣避けの魔法である。仰々しい呪文とは裏腹にちょっとした花火程度の音と光しか出さない威嚇用のそれは、空気を震わせる轟音と熱すら感じる白熱の光となって辺り一帯に広がった。
(わあ、なんだか凄いことになっちゃったよう?)
 その様子を屋根の上から眺めていた夜白・青(語り騙りの社神・h01020)は歌いながら街全体を観察する。
 彼の歌はそれが絶対に不可能な事でない限り√能力を持たない人々が起こす行動を必ず成功させる効果がある。
 動けない人は動ける人が背負う、運送用のトラックに沢山の人を乗せる、消防隊が避難できていない人を見つけ出し安全な場所へ運ぶ。誰かを助けようと少しでも行動を起こせばそれは必ず成功するのだ、当然ミチコが葵を助けるために使った魔術にもその効果は及ぶ。
(目的のために街一つを巻き添えにした天罰かな、神様ってのはちゃんと見てくれているんだねい)
 歌を止めないように青は喉の奥でくっくと笑う。住民の避難は殆ど終わっている、人命に関してはこれ以上悩む事は無いだろう。
 後は相手を叩くのみ、そんな青の考えに呼応するように葵が動く。
 燃え上がる義眼はミチコ本人すら目を回している彼女の魔法によってドラゴンストーカーが致命的な隙を生み出している事を見抜いていた。心臓に向けて真っ直ぐ突き出された霊刀は、しかし獣の如き爪を生やしたドラゴンストーカーの右手に防がれる。
「驚きましたが、この程度で竜の身体が貫けるなど──」
 ドラゴンストーカーの口から出た挑発の言葉は、最後まで音になることはなかった。
 葵の義眼から出た圧縮霊波が喉を貫き、切っ先から炸裂した霊気が竜化した腕を内側から爆発させる。防げると思っている事が真の隙、それを理解できなかったドラゴンストーカーは爆発の衝撃で近くの建物に叩き付けられるのであった。

フォー・フルード
天神・珠音

●望まぬものを望まれるままに
「わたしはあなたの言うことを認めるつもりはありません」
 その身を守るようにミチコの前に立つ天神・珠音(どこにでもはいないトウテツ・h00438)は、ドラゴンストーカーを見据えながら迷いなくそう告げる。
「ミチコさんは、今で充分幸せなのに…!」
 その言葉には他者の思惑に振り回され望まぬ力を手に入れてしまった珠音自身の思いも込められているのだろう。常人であれば思わず退いてしまいそうな彼女の凄みを前に、ドラゴンストーカーは心の底から憐れむような涙を浮かべた。
「可哀想に、自ら幸福の範囲を狭めてしまっているのですね……いいでしょう!貴女もミチコ様と一つになれば私達の教えの素晴らしさがわかるはずです!」
 刃と同時に狂った思想を振りかざしたドラゴンストーカーは、矢のような速さで珠音に向かって飛び掛かる。多くの竜の血を吸ってきた狂信の剣は、珠音の身体に触れる寸前で甲高い炸裂音と共にドラゴンストーカーの手から弾き飛ばされた。
「なっ……!?」
 驚愕で目を見開くドラゴンストーカーの姿をスコープ越しに見つめていたフォー・フルード(理由なき友好者・h01293)は、相手が珠音から距離を取れないようその両膝を撃ち抜く。
(元々の意味での確信犯という物でしょう……ならば、交渉の余地はない)
 先に大剣に当てた一撃はフォーの目に周囲の未来を映し出す未来予測の弾丸、その効果により味方と敵が次に取る全ての行動を把握したフォーは秒間数発の精確な狙撃を戦場に叩き込む。
 両膝を撃ち抜かれた上に自身を釘付けにするように放たれ続ける銃弾により身動きが取れなくなったドラゴンストーカーへ珠音がゆっくりと手を伸ばす、それに対してもはや逃げる事は叶わないと悟ったのかドラゴンストーカーも自らの腕を鋭い爪の生えた竜の腕に変えて珠音に突き出した。
 交錯する人と竜の手。一見すれば珠音が不利に見えるその勝負は、掌に生えた咢により竜の腕が食い千切られるという形で決着が着いた。
「あぁああぁああ!!?真竜様に捧げる腕がぁああ!?」
「こんなもの、いくら食べても虚しいだけです……!」
 口をから伝わる竜の味に珠音は涙を浮かべる。その意味を理解しようともせず食われた腕を取り戻そうと我武者羅に手を伸ばすドラゴンストーカーの額に、フォーの狙撃が突き刺さるのだった。

石川・ゴブ衛門
リベンジマン・花園守

●怒りの炎よ迸れ
「このキノコはやっぱり喰竜教団が…絶対許さん!」
「ただまあ、それならおんしをぶった切ればこの騒ぎも止まりそうじゃな」
 ドラゴンストーカーの言を聞いたリベンジマン・花園守(√EDENを守る正体不明の熱血ヒーロー!・h01606)は怒りに拳を震わせ、石川・ゴブ衛門(|小悪鬼《ゴブリン》探偵・h05599)は口調こそ冷静ながら明確な殺意で瞳を爛々と輝かせている。
 しかし当のドラゴンストーカーは彼らの言葉など耳に入っていないのか、全身を戦慄せながら天を仰いでいた。
「ああ、正しき事のわからない愚かな方達……!もはや分かり合う事はできないようですねええ!」
 絶叫するドラゴンストーカーの口が歪に前へ伸び、背中の翼が肥大化していく。それを見たゴブ衛門は素早くWZに搭乗してミチコを担ぎ上げると、街から離れるように移動を始めた。
「矮小な小鬼風情が、ミチコ様の御身体をぉ!?」
「通すか!松下さんもこの街も、俺が守る!」
 ゴブ衛門達を追おうとするドラゴンストーカーの前にリベンジマンが立ちはだかるが、彼女は翼を大きくはためかせると遥か上空へと跳躍する。邪魔な物は無視してミチコ一人に注力するつもりなのだろう、しかし地面に取り残されたリベンジマンは両手に銃を握ると遮蔽物のない上空に逃げたドラゴンストーカーへ照準を合わせた。
「通さないと、言っただろう!」
 冷静さを欠き無防備に背を見せた相手に対してリベンジマンは両手のリベンジ・ガンとリベンジ・ブラスターに加え、新たに一基の大型砲リベンジ・キャノンを召喚し一斉に発射する。その一撃は竜の翼を千切り飛ばし、爆風によって空に逃げたドラゴンストーカーを簡単に地面へ叩き落した。
「カアアァァァ!!」
 だがドラゴンストーカーもむざむざ落とされて終わるつもりはない、血走った眼でゴブ衛門を睨んだ彼女は変異した口から唾を吐き出すように灼熱の炎を放つ。詳細は不明ながら触れれば確実に悪影響を起こす炎を前に、ゴブ衛門は側にあった学校のプールにミチコを放り投げるとWZの装甲で炎を受け止めた。
「それこそ竜化を起こす祝福の炎!竜の素晴らしさを貴方もその身で──」
 炎に包まれるWZを見て歓喜の笑みを浮かべるドラゴンストーカーだったが、直後軌道を反転させ急速に接近してきたWZに組み付かれその身体を拘束される。
「すまんのぅ、小鬼に裏をかかれるようなおつむの小さい竜になるのはお断りじゃ」
 そう挑発的な笑みを浮かべながら、ゴブ衛門は手にした長ドスでWZごとドラゴンストーカーを叩き斬る。怒声とも悲鳴ともつかない声と共に、真っ赤な火柱が街中に立ち上った。

アヤメイリス・エアレーザー
夜白・青

●真なる竜の身体とは
「おのれ、おのれおのれおのれえ……!」
 度重なる攻撃を受け全身に傷を付けたドラゴンストーカーは竜の身体を傷つける愚か者達への怒りで真っ赤に目を血走らせる。
「かくなる上は、再び姿をお見せください真竜様!そして愚かなる背信者達へ浄化の炎をお恵みください!!」
 喉を裂かんばかりの絶叫と共にドラゴンストーカーが自らの身体に大剣を突き刺した瞬間、二つの弾丸が戦場に飛来する。
 その内一発は何にぶつかるまでもなく空中で弾け、もう一発はドラゴンストーカーの身体に突き刺さり大剣ごと彼女の身体を大きく抉る。
 強力な一撃だが遅い、儀式は既に行われている。偉大なる真竜の降臨を前にドラゴンストーカーは口角を吊り上げるが、流れ落ちた血はただ地面に広がるのみでそこに何かが現れる気配はなかった。
「……なぜ?真竜様!?何故姿をお見せにならないのですか!」
「真竜様も忙しいのかも、代わりにオレの真竜を見せてあげようかねい?」
 その声にドラゴンストーカーが咄嗟に上を向くと、夜白・青(語り騙りの社神・h01020)がこちらに向かって飛び降りてきているのが見えた。
「おお!透き通る空のような蒼穹の身体を持つドラゴンプロトコルの方、私を助けてくださるのですか!?」
「褒めてくれたところ悪いけど、それは勘違いだねい」
 そう言って青は首から下げた宝石を軽く握りしめると、その尻尾が身の丈を越えるほど長く伸び、それに合わせるように角も荘厳な形状に変化する。そうして長大な龍を思わせる姿となった青は至近距離から灼熱のブレスをドラゴンストーカーへ浴びせた。
「ああ素晴らしいぃ!!一つとなる前にこの身を清めようというのですねえ!?」
「違うわ、その炎はアンタのためのものじゃない」
「ていうか気持ち悪いよアンタ、燃やされて喜ぶとか変態かい?」
 青の炎に燃やされ歓喜の声を上げるドラゴンストーカーだったが、不意に聞こえてきたミチコの声に思わず振り向いてしまう。そうして出来た隙に、アヤメイリス・エアレーザー(未完成の救世主・h00228)はドラゴンストーカーの頭部に未だ硝煙の立ち上る銃口を押し当てた。
「それは供養の炎よ、アンタに好き勝手されたドラゴンプロトコル達のね」
 それだけ告げるとアヤメイリスは引き金を引きドラゴンストーカーの頭部を打ち砕く。そうして銃と顔についた返り血をハンカチで拭き取ると、汚らわしいものへ触れたように道端へ放り捨てた。
「……そこの、ちょっと火をわけてくれないかい。プールに落とされて寒いんだよ」
「はいはい、すぐ暖かくしてあげるねい」
 そしてその背後には青の放つ炎に手を翳して水に濡れた身体を乾かしているミチコの姿があるのであった。

八木橋・藍依
深雪・モルゲンシュテルン

●閃光は刹那に戦場を制す
「ミチコさん、なんというか……ほっとけないというか味方してあげたくなるというか……彼女のこと、気に入ってしまったんですよね」
『ふーん?』
 八木橋・藍依(常在戦場カメラマン・h00541)の呟いた言葉にスマートフォンの向こうから妹の桔梗が奇妙な抑揚の声を上げる。
『HDBECだっけ?まあこの多様性の時代に色々言う気はないけどさ、最低でも80超えてるお婆ちゃんは向こうの気持ちも聞かないとダメじゃない?』
「深掘りはしませんからね」
 藍依の返事に桔梗はつれないなーと退屈そうに声を上げながら街の地図と座標と送る、雑談をしながらでも準備は進めていたようだ。
「では、行動を開始しましょう」
 藍依のスマートフォンに映る情報を把握した深雪・モルゲンシュテルン(明星、白く燃えて・h02863)は三十を超える浮遊砲台を召喚し、ドラゴンストーカーを取り囲むように一斉に展開させる。一機一機が√能力者に匹敵する性能を持つ砲台は瞬く間に敵対者の包囲を完了し、それを見たドラゴンストーカーは嘆かわしそうに顔を歪めた。
「撃ちますか?良いでしょう……ですが√能力者同士であればわかるはず、この戦いに意味は無いと」
「……」
 言葉を返さず、ただ無言で自身を見つめるだけの深雪にドラゴンストーカーは諭すように話を続ける。
「我々は不滅、ここで殺してもいずれ蘇ります。ミチコ様の寿命が尽きるまで同じような事を繰り返すおつもりですか?」
「必要であれば」
 ドラゴンストーカーの問いかけに、深雪は静かなれど迷いなく答える。
「あなた方の誇大妄想が更なる被害を生む前に、何度でも抹殺します……真の滅びを迎えるその時まで」
「そうですか……非常に残念ですね!」
 問答を終えたドラゴンストーカーが大剣を振りかざし深雪へ飛び掛かろうとした瞬間、彼女達の周囲に轟音と共に何かが降り注ぐ
「なにっ……!?」
 ドラゴンストーカーが咄嗟に周囲を確認すると、自分達を取り囲むように鋼鉄の壁が築かれている事に気が付いた。藍依が桔梗に新たに開発させた対√能力者用バリケード、自身を逃がさない為の鳥籠のつもりかと考えるドラゴンストーカーだったが、すぐにそれが当たらずも遠からずの答えである事に気が付く。
「掃射」
 深雪の宣言と共に砲台が一斉に閃光を放つ。四方から放たれるその攻撃はドラゴンストーカーの身体を貫通し、バリケードによって反射され再び彼女の身体に突き刺さった。
「ばっ──!?」
 口から出た言葉を最後まで紡ぐ事もできず、バリケードの内側で乱反射したレーザーがドラゴンストーカーの身体を焼き払う。破れかぶれに大剣を振るうも当然そのような攻撃が当たるはずもなく、深雪が両手に握った鎖鋸によってドラゴンストーカーは全身をバラバラに引き裂かれた。
「今まで奪ってきたものを、√ドラゴンファンタジーの大地に返して貰います」
 深雪の言葉にドラゴンストーカーは空気を震わすほどの絶叫を上げる。するとそれを呼び水にしたかのように彼女の身体から流れる血が集まり、巨大な竜の姿を形成し始めた。
「真竜降臨の儀……」
 それはインビジブルに身を捧げる事ができれば死亡した後でも効果が継続する√能力。完全に発動する前に深雪がドラゴンストーカーの首を斬り落とそうと鎖鋸を振り上げた瞬間、カメラのレンズがドラゴンストーカーの前に突き出された。
「ドラゴンプロトコルを狙う驚異、そのトップの恐るべき実態……最高のスクープじゃないですか」
 深雪が戦闘を始めると同時にカメラを構え、最高のシャッターチャンスを待っていた藍依はようやく来たその瞬間に思わず笑みを浮かべる。
「我が新聞社の記事にして差し上げましょう!それでは自然体で……3、2、1、ゼロ!」
 カウントダウンと共にカメラから溢れ出したフラッシュにより、辺りに広がっていたドラゴンストーカーの血が瞬く間に蒸発する。その身を捧げる事に失敗したドラゴンストーカーの叫びは徐々に小さくなり、やがてその場で限界が来たように崩れ落ちた。

レミィ・カーニェーフェン
シルバー・ヒューレー

●終わりの後も生は続く
「何を信仰するか、信仰の為にどのような行動をするか、それは人それぞれであり自分の考えと違うからという理由で否定される事ではありません」
 自身の教義に殉じ行動するドラゴンストーカーに対し、シルバー・ヒューレー(銀色の|シスター《聖堂騎士》・h00187)は祈るように手を組みながら語り始める。
「しかし、信仰を盾に他者を傷つけ犠牲にすることは……許される事ではありません」
 自身もまた神を信じ仰ぐ者であるゆえに、シルバーの言葉は誠実なる怒りに溢れていた。それを聞いたレミィ・カーニェーフェン(雷弾の射手・h02627)もまた迷いを振り切るように父から受け継いだ精霊銃を強く握りしめる。
「ドラゴンプロトコルの皆さんを真なる竜に戻すという目的が悪いことかどうかは、私には分かりません……ですがその為にミチコさんを殺すのは間違っていますし、無関係の人達を巻き込むのはもっと間違っています!」
 二人の言葉を聞き、ドラゴンストーカーは愉快そうに口元を歪める。予想外のリアクションに思わず肩を跳ねさせるレミィを守るよう前に立つシルバーを、ドラゴンストーカーは心底気に入らないという目で睨みつけた。
「大層な言葉を並べて……お前が気に入らないから殺すと、一言で済ませれば良い話ではありませんかぁ!」
 地面に落ちていた大剣を拾い上げミチコに向かってドラゴンストーカーは駆け出す……という動きを、レミィは既に予測していた。
 並外れた視力で動きの起こりを見抜いたレミィは地面を通じて大剣に電気を流し込む。そうと知らず剣の柄を握りしめたドラゴンストーカーの全身に文字通り電気が走り、石のように筋肉が硬直した。
「今です!」
 敵の動きが止まった事を確認したレミィが精霊銃を構えると同時に、シルバーも天使の力を宿す二丁の拳銃をドラゴンストーカーに向ける。
「精霊装填完了、発射準備よし──」
「──ショット」
 二人の銃口から雷と銀の弾丸が放たれると、ドラゴンストーカーの眼前で弾けて辺り一面に万華鏡のような輝きが広がる。
「やったかい!?」
「いえ、まだです」
 強力な一撃を見て閃光に目を細めながらも戦闘を見守っていたミチコが思わず叫ぶが、即座に否定したシルバーの言葉の通りドラゴンストーカーは大剣を杖のようにして身体を支えているもののまだ健在だ。
「相手の√能力はどれも強力です!使う隙を与えないで!」
「承知しています!」
 攻撃の手を休めず次々と弾丸をドラゴンストーカーの身体に叩き込む二人だが、全身から血を噴き出しながら攻撃を受けるドラゴンストーカーは不気味なまでに動こうとしない。何か策があるのかと精霊に周囲を探らせたレミィは、ドラゴンストーカーを中心にインビジブルが集まりつつある事に気が付いた。
「真竜降臨の儀が来ます!」
「発動前に殺しきる事は!」
「賭けになります!」
 できなくはないが分が悪い、というレミィの言葉にシルバーは覚悟を決めたように短く息を吐くと視線だけをミチコの方に向ける。
「松下さん、会って間もない間柄で言う事ではないのですが……私を信用して、守らせてください。貴女とこの街の人々を」
「だから堅苦しいのは面倒だって言ったろう」
 シルバーの言葉に、ミチコは頭を掻きながら溜息を吐く。
「信用だの守るだの仰々しい言葉はいらないよ、やりたい事をやってきな」
 その言葉にシルバーは右手に持つウリエルをしまうと、ドラゴンストーカーに向かって一直線に駆け出す。先程の一撃により銀と雷の力をその身に宿したシルバーは瞬く間に相手との距離を詰め、強力な真竜を呼び出しつつあるドラゴンストーカーと零距離まで接近した。
「申し訳ありませんが、その奇跡は否定させてもらいます」
 儀式が成功すれば一瞬で消し炭にされるであろう危険な間合いで、シルバーは自らの右掌をドラゴンストーカーの身体にねじり込む。ガラスが割れるような音と共に周囲のインビジブルが離れていくのを感じたシルバーがドラゴンストーカーを上空に殴り飛ばすと、再びレミィと共に放つ雷と銀の弾幕によりドラゴンストーカーの全身を縫合部位から引き裂いていく。
「どう、して……」
 その疑問の言葉は誰に言ったのか、それを定かにする前にドラゴンストーカーの肉体はこの世界から消滅するのだった。



「それじゃ世話になったね、ここからはこっちの仕事さ」
 ドラゴンストーカーを倒した事で胞子の雨は止まったが、既に積もってしまったものが消えることは無かった。しばらくの間はこれらの処理に頭を悩ませる事になるだろう。
「ですが、この状況を見過ごすことはできません!私達も手伝いを……」
「いらないよ、ここでアンタらが手助けしたら次も助けられる前提で物を考えるやつが出てきちまう……自分達に何ができて何ができないかを知るいい機会だ」
 そう言いながらミチコはかつて大地があった空を見つめる。ミチコの言葉を聞いてなおまだ何か言いたげなレミィだったが、シルバーがその肩に優しく手を置いて首を横に振った。
「苦難は忍耐を、 忍耐は練達を、練達は希望を生む、貴女達に神の祝福があらんことを」
「はいはい、洒落た応援ありがとうね」
「……ですが、神は試練を与えると同時に必ずそれを助ける道を作ることを忘れないでください」
「結局アンタも手伝いたいんじゃないか」
 ミチコの言葉に気付かれましたかとシルバーは真顔で答える。試練は残れど和やかな雰囲気の中、古い竜を巡る物語は一度幕を閉じるのであった。

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