ウォーゾーン・バトル・パーティー
空を飛び交う渡り鳥、青空に移る数多の黒き影を人々はそう認識するだろう、忘れようとする力によって。
その影達は人の住まぬ山の上を飛びつつ高度を下げ、小さな集落を見つけそこに向かい進んでいく。
姿形、一般の人々が見れば鳥と認識しようとするそれは鳥の姿とは似ても似つかぬ球体であり、そこから足が生え砲塔を携えた異質なる機械。
先ずは手始めにこの小さな集落にて殺戮を、その後は街へ向かい更なる破壊と殺戮、さらには略奪をも行い√EDENを侵略するという目的を果たすべく、球体兵器は砲塔を家屋に向けるのであった。
ガシャン、ガシャン、ウィーン、と機械音を大仰に鳴らしつつ、パワードスーツ型の鹵獲ウォーゾーンが√能力者たちの前に姿を見せる。
ここでコクピットが開き誰かが出て来るのか、と思ったが動きはない、何だどういうことだ、説明はまだかと一同が訝しがる中、カメラアイがチカチカと点滅し機械的な声が放たれる。
「はいどうもー、お集まりいただきー、ありが、とうございますー。ウォーゾーンから、の侵略者、その集団ーを発見しました、ので迎撃作戦のご案内をいたしーます」
言葉のアクセントが微妙に変な声で語るのはこの鹵獲兵器の搭乗者であるミレイ・キャット(野良猫の心霊テロリスト・h02215)であり。
どうやら初の星詠みとしての仕事らしく、機械音声の調整やらがまだのようであるがそれは些細な事、先ずはその侵略者を如何にして迎撃するか、が大切である。
「げふんげふん、えー、相手は大量の集団で渡り鳥っぽく山の上を飛んで、小さな集落を襲撃、そこから街に向かって進軍するつもり、のようで、す。
幸い、今から向かえば集落付近に到着した時点で鉢合わせ、そこでどんぱち始めちゃえば被害無し、というやつですね、はい」
先陣を務める球体兵器、それらが破壊と殺戮を始める前に周囲に配慮せず戦えるのは僥倖、つまりは√能力者の多種多様な力を制限せず迎撃作戦で奮えるという物。
相手は多数であるが、此方もその数に気圧されず盛大に戦えばいいだけの事である。
「大軍相手、相手取る敵には困らない、まるでバイキング形式ですね。早急に平らげた後は、料理の補充といわんばかりに新手が来ます。
最初の大軍相手の時に、戦闘よりも索敵メイン、被弾しながら指揮官を探せば……見つけられれば大軍を退けた後に指揮官と決戦できますね。
でも戦いの最中、かなーりうまく敵を避けて探さなきゃ見つかりませんし、集中砲火を受けて消耗しますからあまりお勧めできませんね。
普通に蹴散らせば、補充される新手を蹴散らして終了です。せっかく派手に戦えるのですから、此方のド派手に戦う方が考える事無く好き勝手暴れられますが、どうするかは皆さん次第です」
大軍の集中砲火を浴びながら指揮官を探し出しそこに一点突破で仕掛けるか。
はたまた、追加でやってくる侵略軍、その大軍を平らげ相手の数を減らしておくかは初手の立ち回り次第、その選択権は√能力者にあるのである。
「まるでバイキングな戦闘、ですので終わった後もバイキングを楽しむのも良いかと思いますの、で……ここにですねぇ、焼肉食べ放題のチケットをご用意しました!
お肉だけでなくサラダ、麺類、スイーツもある程度揃ってるお店ですので、戦いの後は親睦を深めたり、労をねぎらう感じで楽しんでください、ね」
ミレイがそう言うと同時、コクピットがほんの僅かに開き中から人数分のチケットが吐き出されウォーゾーンの手に落ちる。
それを器用に差し出して説明を終了、チケットを受け取った√能力者たちは派手な戦闘での敵食べ放題を、そしてその後の焼き肉食べ放題を享受する為に。
山岳に出現、集落を襲わんとするウォーゾーンの集団を蹴散らすべく出撃するのであった。
第1章 集団戦 『バトラクス』

空を飛び目標地点へと到達、四肢を地面に着け進軍を開始せんと歩み始めたバトラクスの軍勢。
だがその虐殺と略奪を目的とした進軍を阻まんと√能力者が到着したのはその時であった。
「今回のミッションはここか、ドラゴン1、マスターアーム点火、交戦開始」
「なるほど、相手は殺人ロボットって訳ね。私はヒーローなの、相手が誰であろうと無差別な虐殺なんて許せない」
戦闘機型のウォーゾーン、WZF-204スレイヤーに搭乗し現場へと到着した伊藤・ 毅(空飛ぶ大家さん・h01088)が淡々と告げればその航空機上部、翼に掴まる形で同じく戦場に到着した不破・鏡子(人間(√マスクド・ヒーロー)のマスクド・ヒーロー・h00886)が応じていく。
本来ならば存在しないその二人、空中を飛ぶ自分たち以外の異質なる者に気付いたバトラクスが体を傾け上空に武装を向けていくがそれよりも能力者の仕掛けがほんの僅かに速さにて上回る。
「この平和な世界に対する一方的な侵略行為……止められるのなら、私も一枚噛ませて貰うわ! 私から先に仕掛ける!」
「了解、援護射撃は任せてもらおう」
ぱっと翼から手を放し、一直線に敵陣の目の前へと降下する鏡子とそれを見送り武装の狙いを定める毅。
地上と上空、二手に分かれる即席の連携を構築し、鏡子は土を巻き上げ轟音と共に着地、蹂躙すべき人間とは明らかに違う存在がここに来たぞと主張する様に顔を上げ不敵に笑えば次の瞬間、既にその体は飛び出して。
強烈な拳がバトラクスの球状の体に叩きこまれ、鈍い音共に凹み後方へと弾き飛ばしていたのであった。
「……!!」
突然の奇襲、それに動揺しつつも邪魔者は即座に排除すると各種武装の狙いを定め、吹き飛ばされた仲間の代わりに鏡子への攻撃を開始せんとしたバトラクス。
だがその反撃は不可能だ、と告げるかのように鳴り響く銃声、それは空中を旋回し援護を行っていた毅が放ったガンポッドによる機銃掃射の音であり。
数多の銃弾が反撃体勢を整えていたバトラクスに命中、装甲を歪ませ、貫き、被弾の衝撃で態勢を崩していく姿を確認しつつ、毅は未だ空中を飛び戦場へと到来せんとする後詰の敵への牽制が必要とばかりに狙いを変更、一気に機首を巡らせて機体を加速させていて。
「後方部隊の足を止める、すまないがその間の援護は出来ない」
「了解、こっちは気にせず派手にやっちゃって」
毅が通信を送れば、ヒーローマスク越しに聞こえた声に応じる鏡子。
数の上では不利な自分達、だが一時的にせよ相手の陣容を崩し出鼻を挫いた状況を構築できたのだ、ならばその優位な状況を出来る限り維持するとばかりに毅の機体は空を駆け、後詰部隊に突っ込んで。
「目標地点確認、高度・コース適正、投下、投下」
上を抑えた状況より投下されるクラスター爆弾、着地し前進、迎撃態勢を整えんとした敵部隊の上空から降り注いだそれは数多のクラスター爆弾で。
逃げ場無く撒き散らされた爆弾は広範囲、面の形で敵ごと地上を焼き払い、吹き飛ばし、その衝撃にて多数のバトラクスが転倒し装甲を歪ませる。
後詰部隊が面攻撃で動きを阻止された、となれば先んじて叩き、動揺広がる先発部隊に更なる追撃、確実な破壊を狙う鏡子にも時間的な、そして精神的な余裕が生まれるのは当然で。
「あっちは足が止まった、ならこっちはこっちで……ッ!」
鏡子が取り出したのはナノメタル展開式対物破壊刃、重く頑丈、相手を破壊しながら断ち切るいわば、西洋剣の如き使い方を想定されたそれを構えて体勢崩した敵に向かって飛び込んで。
攻撃によって歪み隙間の出来た装甲に捻じ込む形で叩きこみ、そのまま内部に刃を届け強引に敵の体を叩き割る。
その猛撃によって動力部を破損したバトラクスはバチバチと火花を散らしながら機能停止、そのまま無残にも爆発するがされど敵も侵略を想定した兵器群、一方的に倒される事は無い。
「チッ、流石に弾幕が厚いな、一時後退する」
鏡子の耳に飛び込んできた新たな無線、それは後詰を抑える役割を担っていた毅の声と重なり合う数多の銃声で。
範囲攻撃で足を止められたバトラクスが態勢を立て直し、猛反撃を開始。機銃掃射から始まる連続攻撃を急旋回で避けるも四方八方から繰り出された攻撃全てを避けきれず、被弾しながら後退を開始した毅からのものであったのだ。
「あっちも厳しくなってきたみたいね、こっちも……親玉を見つけるぐらいはしたかったけど」
破壊刃を振るいつつ、自分の置かれた状況を冷静に分析する鏡子。
敵を押し込み指揮官を探したい所ではあるが態勢を立て直しつつある敵軍の弾幕、更には厄介な化学兵器まで次々と放たれている状況。
無理に踏み込み情報収集したとて成果は望めぬ、ならば敵の耳目を引きつけ後に続く仲間が有利になるようにと彼女は手にした刃を振るい、バトラクスの脚を断ち切っていた。
先んじて戦闘した√能力者たちによって動きの乱れたバトラクス、その好機を逃さずに攻め立てる√能力者の姿が在った。
「なるほど、渡り鳥に見せかけた戦闘機械のお出ましってわけね! ここは奴らと同じ√ウォーゾーン出身の私に任せて。サクッと退治してあげるわ!」
「ウォーゾーンと言うと、いつもドンパチしてる世界だし、食についてもあまり豊かではないとは聞いていましたが、バイキングというワードは聞き捨てなりませんね」
√世界の一つ、ウォーゾーンについて出身でもあるブリギッテ・ハイスヴルスト(チェーンソー剣の少女人形レプリノイドの戦線工兵・h01975)が同郷の敵、故に敵を良く知る自分の出番だと意気込みを示していけば。
その世界の食に興味を示しつつ、此度の戦いの説明で聞いたバイキング、という言葉に強く反応しちゃった黒木・摩那(異世界トラベラー・h02365)の返答。
えっ、バイキング? 今言う事? と困惑したような顔のブリギッテ。しかしその顔を見ても一切躊躇う事は無く、敵を前に更に摩那は言葉を続ける。
「敵も食べられないのが残念ですが、何事も経験です。手助けさせていただきます」
自らの得物である謎の合金で出来たヨーヨー、エクリプスを手にバシッと決めた摩那。
やる気十分だしまあこれでいいか、と思ったブリギッテ、ここで何かツッコミを入れる時間も惜しいと自らも自らもマルチツールガンを手に、先ずは別方面で戦っていた仲間の様子や聞き取れた通信から敵のタイプの分析を行っていく。
「敵の性能を見るに、割と色々何でもできる汎用兵器みたいね」
「ええ、数もまだまだ多いですし、指揮官を狙って探す手間もかけられませんね。ならば皆様の手助けになるように、移動の邪魔になるような攻撃をしていきましょう」
万能タイプの敵戦力、そしてまだまだ数も多い状況。
ならば無理に攻め入り指揮官を探すよりも敵数を迅速に減らすが良策と二人の意見は一致して、両者は別の能力者に耳目を引かれ交戦している軍勢に横槍を入れる形で戦闘に介入する事となる。
「さあいくわよ! ご自慢の砲を撃ってきてみなさい!」
先んじて仕掛けるブリギッテ、構えたマルチツールガンより放つレーザー光線がバトラクスの装甲を焼き焦がし、丸い痕を刻み込む。
その一射では倒すどころか行動を阻害する事も出来ぬ一撃、されど別方向から仕掛ける√能力者がいると認識させ警戒すべき方向を増やし、対応に追わせるように仕向けるには十分。
被弾した事に反応、そして仲間に通信でも送ったのだろう複数のバトラクスがレーザーの飛来した方向、即ちブリギッテの方に体を向け砲塔を構えていくがそれこそが彼女の狙い。
「なるほど、仲間同士で連絡したみたいね、けどそれならそれで纏めて引き寄せられるわ!」
敵を一気に蹴散らしたいブリギッテ、レーザー一射で複数機が自分に誘引されるように動くのならば好都合。
彼女を見つけたバトラクスが機銃を放ち牽制しつつ、主砲を構え狙いを定めているのを見つつ木々の影へと身を隠し後退するのを確認した軍勢は隠れても無駄だと言わんばかりに砲撃と銃撃を発射して、隠れた木や繁みごと吹き飛ばす。
そのまま追撃とばかりにガシャガシャと足音鳴らし、吹き飛んだ地点に向かい歩を進めるバトラクス。
だが攻撃にて吹き飛び生じた空間、更には林道という武器を思う存分振るうには少々狭いが支障はない空間に足を踏み入れたことが命取り。
「来たわね、うふふ……ぃよっしゃあああ! 解体開始ぃぃぃっ!!!」
響き渡るブリギッテの叫びと同時、唸りを上げるエンジン音。
それは彼女愛用の巨大なチェーンソー剣よりの物、その音は聞く者を威圧し委縮させる恐るべきものであり、機械ゆえに恐怖感じずそのまま進むバトラクスにとっては処刑宣告と同じ。
最後にカメラが写した光景、それは先の攻撃が命中したのか体の各所が細かく傷つき、焼け焦げた痕跡を見せるブリギッテが巨大なチェーンソーを振り上げ迫る姿であり。
凄まじい衝撃と共に画面が揺れそのままブラックアウト、それはブリギッテの一撃が機体装甲を削り切り裂き機能を停止させたことを告げていたのであった。
「一機解体、二機目ぇぇぇぇえええ!」
更に追撃、迫る粘着弾を被弾しつつも体当たりを敢行する敵機を認めたブリギッテは止まることなくチェーンソー剣を構え突撃。
体当たりに真正面からぶつかって、凄まじい衝撃を受けながらも強引に相手を切断、斬り裂いた敵機の半身を体に受けて吹き飛ばされるもそれはそれで充分な戦果であろう。
「おおっ、すごい戦い方。では私は私なりのやり方で……いきますよ!」
派手な戦いで敵機を引き寄せるブリギッテ、ならば自分も負けじと敵を引きつけ足止めすると動く摩那。
エクリプスを放り投げ、円弧を描く軌跡を見せて具合を確認、手元に引き寄せいつもと変わりないと敵機を見遣り走り出し。
「駆けろ、エクリプス!」
敵中を突破するかのように疾駆、それと同時に振り回されるエクリプスが次々とバトラクスにぶつかり、反動でたわんだワイヤーを小刻みに指を引く事で修正。
腕を振り回し、その動きに連動したエクリプスはまるで嵐の様に飛びまわりバトラクスの装甲をへこませ、足を打ちよろけさせていく。
「……!!」
だがその攻撃を受けつつ、倒れぬバトラクス達。
即座に機銃掃射にて反撃し、更には粘着弾の発射をすべくランチャーの向きを修正し、摩那に向かって突撃の準備を整えていたのであった。
「おっと、立て直しが早い……それに硬いですね、なら」
反撃を受けつつ冷静に敵の分析、スマートグラスの解析にて装甲の薄いであろう場所を推測しつつエクリプスの設定をノーマル状態から質量アップに変更。
扱いやすさではなく一撃の重さでもって装甲を叩き折るとばかりに、鈍く重たい音となったエクリプスが放たれれば粘着弾の発射と同時、体当たりをせんと飛び出してきたバトラクスに命中する。
ガゴンッ、と激しい音が響くと同時、大きく装甲を凹ませたバトラクスは摩那の隣をすり抜ける様に飛んでいきそのまま地面を転がって爆発、完全に機能を停止しているのであった。
「やはりこれですね、これ。さて、次にいきましょう」
「やるわね、こっちもまた解体したけど……残骸に使えそうなチップとかが無いのは残念だわ」
敵機破壊、その報を互いに告げる摩那とブリギッテ。
そんな二人は敵からの反撃を受けつつもそれをものともせず、更に敵機を破壊すべく敵中にて暴れまわる様に飛び込んでいくのであった。
√能力者とバトラクスの激戦続く中、ぐっと手を握りしめ戦況を見つめる少女、否。
少女の姿を持つベルセルクマシン、ニレ・アンサンブル(世界を繋ぐ小さき探偵団・h00923)の姿が在った。
握りしめる手の中には探偵バッチ、それは自らの中にある凶悪な|真の人格《プログラムベルセルク》を抑え込むかのように煌めいて。
「ウォーゾーン……かつてはボクも、あっち側だった……大丈夫。ボクは、|強制友好AI《ボクのまま》でいられるから」
自分自身に言い聞かせる様に呟き覚悟を決めたかのように一歩踏み出し、バトラクスに近づくニレ。
新手に気付いたのか、一機のバトラクスが体を彼女の方に反転させ砲を構えると同時、弾け飛ぶかのように地面を蹴って駆けだしたニレ。
その手に握るは探偵刀、謎を断ち切る刃でもってこの敵を、そして未だ姿の片鱗すら感じられぬ敵指揮官を覆うベールを斬り裂かんとするかのように、右へ左へフェイント入れつつ近づけば。
接近させまいと機銃から雨のように放たれる銃弾、だがしかし本命はこの攻撃ではないと分析したニレは肩口、太腿、脛、腹部などに銃弾を受けつつも飛び跳ねて。
「その肩にある大砲は飾りかな? それとも使えないのかな?」
攻撃してみろと誘う様に、砲身の目の前に自らの体を飛び込ませたニレ。
機銃掃射を避けて逆に危機的状況に追い込まれた標的が来たと認識したのだろうか、バトラクスは誘いに乗せられるようにキャノンを発射。
至近距離で弾丸はニレに直撃、爆発によって発生した爆風はその衝撃で彼女を大きく後方に吹き飛ばすもバトラクスもまた、己が攻撃によって生じた爆風によって足を曲げつつ後方に押し退けられていて。
「ッ! けど………解析完了、√能力起動ッ!」
後方へ吹き飛ぶ最中、見えぬ何かにぶつかったかのように空中で止まったニレ。
それは彼女が使役す死霊であり、無茶な攻撃によって吹き飛ぶことを見越してその際はその身を受け止める様に命じていた存在。
打った布石によって止まったニレは相手の動きを解析、指揮官の姿は見えぬが何とかして引きずり出す為に一石を投じるとばかりに乱れつつある敵軍の中、後方より射撃を続けるバトラクスに標的を定めていて。
「何処に居るか分からない、だったらっ!」
破損した肩口がバチバチとスパーク、それと同時にバトラクスの装備したバトラクスキャノンに酷似した砲が生え、先ほどニレが受けた砲弾と同じものが発射される。
その砲弾は彼女を撃った機体、その横を通り抜け√能力者と戦う前衛を援護する様に砲撃続ける軍勢の真っただ中に着弾、爆風が広がって前線への援護射撃という圧力を一時的に弱める効果を発揮して。
「攻撃の届かない、後衛に居るなら今ので……! みんな、何か掴んだことは!?」
砲撃と同時、崩壊始めたバトラクスキャノンをパージ。
爆風に飲まれ、後退していくバトラクスを見ながら共に戦線を押し上げる仲間に通信を送り情報共有を行いながら、指揮官を探しながらの戦闘は継続するのであった。
バトラクスとの激戦、√能力者優位の中で一気にこの戦いを終わらせんと姿を見せたのは六合・真理(ゆるふわ系仙人・h02163)と深雪・モルゲンシュテルン(明星、白く燃えて・h02863)
「うふふ、たまにはこういう鉄火場も悪くないねぇ。機械仕掛けの木偶人形とは言え四方八方から殺気の篭った銃口を向けられるなんてそうあるもんじゃないよ」
「戦況は有利、しかしまだ残存戦力は多数。故にこのまま掻い潜って中枢を狙いに行くには、綿密な連携作戦を立てた上でリスクを受容しなければ困難ですね。幸い、戦力の削減は順調に進んでいます。このまま押し切りましょう」
戦場に来たというのにまるで楽しいショッピングに来たかのように、柔和な笑顔を浮かべた真理。
ワクワクを抑えきれないと言った様子の彼女とは対照的に、表情崩さず淡々と冷静に状況を分析する深雪。
そんな両者に気付いたか、押されつつある戦線を立て直し押し返さんと奮戦するバトラクス達が向きを変え武器を向けて歩き始めるが無機質な姿に畏怖する訳もなく。
「いいねいいねぇ、年甲斐もなく張り切っちまうじゃないかいねぇ」
「張り切っておられるところ恐縮ですが、不用意な接近は危険かと」
「いや、いいんだよこれで。じゃ、おっぱじめようかねぇ」
飛び交う銃弾を前に前進を始めた真理に警戒を促す深雪。
だがそんな心配は無用だと、まるで普段の散歩だからと言わんばかりのペースで歩を進めれば何故だろう。
的確に銃弾の、いわば銃口の向いている方向から身をずらし特段回避行動をとっているように見えない真理を逆に銃弾が避けていると錯覚するかのような光景が見えていて。
「かき乱してくるよ、後始末は任せたからさ」
「……了解しました、問題ないと判断し此方も攻撃準備に入ります」
数発の弾丸が身を掠め、皮膚から血が流れるもほんの僅かな痛痒を感じる程度のもの、問題ないと前に出る真理がこれより戦線に食い込むと宣言すれば、深雪も大丈夫ならば自分の仕事をするのみと大型浮遊砲台を自らのすぐ横に展開。
近接戦闘、遠距離戦闘どちらにも対応できる状況が構築される中、躊躇なく進む真理はいつのまにやらバトラクスのすぐ近く、拳が届く距離にまで接近し。
「さて、今日はどれだけ続くかねぇ?」
そう呟くや否や、強烈な拳が叩きこまれてバトラクスの装甲が大きく凹んだその直後。
脚部を狙っての蹴りからダッシュで股下を潜り抜けつつ上方へ拳を突き上げ衝撃波にて跳ね上げて、空中で姿勢を崩した相手に目もくれず次なる標的に向かい跳躍しつつ指をパチンと鳴らすと同時、空中に浮かべられたバトラクスが爆発し更に損傷を激しくしつつ落下して。
次なる標的には空中より降下しながら拳を打ち込み、放たれた砲弾がすぐ側で爆発しても関係なく連打を叩きこんでいく。
その猛烈な攻勢にて既に攻勢限界を迎えていたバトラクスの圧力は失われ、他の地点で別の√能力者による戦闘にて次々と戦線が崩壊している中で広域への攻撃を抑え込む余力など残されている筈も無く。
「全ターゲットロックオン。射線クリア。掃射を開始します」
機械化された双眸が青く煌めくと同時、深雪が捉えた敵機の姿が彼女の電脳処理によって位置情報、高低差、速度など様々な情報が一気に分析されていく。
視えた敵、それは即ち全てが今この瞬間に多重ロックの標的となり情報が伝達されると同時、浮遊砲台の砲塔が輝き始めていて。
「……砲撃準備に入りましたか、しかし」
攻撃の気配に気づいた敵機が主砲を向けた事を察知した深雪。既に入力された情報に乱れが出るもそのイレギュラーにも対応するとばかりに新たな情報が入力され浮遊砲台から拡散するレーザーが放たれて。
次々と敵機に命中、その装甲を焼き貫けば更に第二射が放たれ新たな焼け跡を刻み込み、また反撃に放たれた砲弾が空中で爆発、巨大な爆風にて視界が奪われるが既に入力された位置情報、そして移動する相手の動きを予測していた深雪にとっては問題ではない。
次々と放たれたレーザーは押し込まれる軍勢にとっては致命的な一撃となり、一気に戦線が瓦解して。
多方向からの攻撃もあって各所で爆発が巻き起こり、その数が加速度的に減っていく。
「……っ、この程度の負荷は慣れたものです」
強力な一撃の代償、脳と電子の糸にてつながった機械を扱うという生身の人間ならば耐えがたき負荷。
されどサイボーグ義体である自分ならば問題ないと言葉を紡ぎ、深雪が前線を見遣れば余裕の表情で戻ってくる真理の姿が見えていて。
「ちょいと動きが規則的なのは如何なものかと思うけど、これだけ居れば悪くない鍛錬だねぇ。いい汗かかせてもらったよぉ」
コキコキッと首を鳴らすかのように左右に動かし、ゆるりと戻ってきた彼女。
だがこの戦闘は前哨戦、壊滅させたとてまだ次なる敵軍との戦いが控えている。
気を緩めることなく√能力者は新たな敵の動きに備えるのであった。
第2章 集団戦 『シュライク』

「バトラクス、壊滅。破壊任務困難と認識……障害の排除、可能ならば死体回収の任務了解」
「指揮官の撤退確認、此方は任務継続」
バトラクスが壊滅した直後、これ以上自分がここに留まって前線指揮を取る必要がなくなったと判断したのだろう、指揮官が撤退し。
代わりに多数の円盤とそれを操るシュライクの軍勢が前線を再構築、√能力者を排除し様々な物を回収せんと出現した。
恐らくは破壊と回収、同時に満たすにはこの戦力の追加投入が最善としての行動、されどそのような蛮行は出来ぬ事を証明するのが√能力者の役目。
第二波として襲来した軍勢ではあるが、戦いに飢えた者にとっては追加の料理に等しい存在、ならば心置きなく戦い平らげてしまえばよいのだから。
「レーダーコンタクト、敵の増援を確認、ドラゴン1、迎撃に移る」
新たに出現した多数の円盤とそれを操るシュライクの姿を認め、上空にて旋回しつつ警戒していた伊藤・ 毅(空飛ぶ大家さん・h01088)の操るWZF-204スレイヤーが航空機形態のまま戦場に突入を。
UFOを操り空中の敵に気付いたシュライクが迎撃すべく上昇するも、それより早く攻撃を始めていく。
「ターゲットロックオン、ドラゴン1、FOX2,FOX2!」
相手の対策が間に合わぬ程に、一気に攻めるべく発射されるは大量のミサイル。
シュライクがその軌道から逃れる様に上下左右に散開するも、誘導性能を持ったそれは相手の動きに合わせ追う様に軌道を変える。
それだけで相手を倒すには至らない、されど真の狙いは数に任せたミサイルの弾幕による牽制にて相手を自分の狙った位置へ誘導する事が目的で。
追加で放たれたミサイルは下方から上昇するような軌道を描き、また別のグループは右方向から迫る様に飛ぶことで敵はより高所へ、そして毅から見て左、即ち左上に逃れる様に飛ぶ。
「おおー、派手にやっていますね、ではこちらも……おかわりの相手をしましょうか」
上空で繰り広げられるミサイルカーニバル、それを見上げ肩をぐいっと回していたのは黒木・摩那(異世界猟兵『ミステル・ノワール』・h02365)
バトラクスを蹴散らした際に用いたヨーヨーであるエクリプス、相手の動きを見極めながら振り回していたワイヤーを引き寄せキャッチして指から外したのはターゲットに合わせての選択。
「まだ動き足りなかったので、ちょうどいい運動になりそうです。このまま押し切って、このあとに控えるお楽しみを早く味わいたいですが……相手は戦闘機械。硬いのが難点ですね」
ヨーヨーでの殴打では時間がかかるのは先のバトラクス戦で経験済み、ならば別の解体に向いた武器で攻め立てるとばかりにエクリプスの代わりに取り出したのは対大型怪異殲滅動力剣『アンフィニ』であった。
名前からも分かるように、メインとした標的は怪異であるがまぁ専用でもないし戦闘機械相手でも問題ねぇ、そんなノリでアンフィニを起動すればチェーンソーの駆動音と共にレーザー刃が出現、高速回転運動を見せ凶悪さを示していて。
空中での鳴り響くミサイルの爆発音、それをBGMにし摩那は地面を蹴って跳躍、その凶悪な刃でもってシュライクを引き裂かんと攻撃を開始する。
「交戦開始、ターゲットは上空と地上に分散、地上の標的撃破を優先」
その突撃を受け止める様に前進するシュライク、巨大な爪を生やした腕でもって唸りを上げる刃を防御。
ガリガリと金属が削れ、焼け焦げる匂いが周囲に立ち込める中でシュライクは反対の腕を振るい、摩那の体に突き立てんと凶爪が伸ばされる。
「チッ、やってくれますね、けど!」
伸びた敵の攻撃、それを認めた摩那は咄嗟に左腕で今まさに切り裂かんとしていたシュライクの爪を押すと同時に刃を押し込んでいた右腕を引く。
その反動を持って自らの体を下方に沈め地上に降りる動きをし、自らを狙って伸ばされた爪の一撃は彼女の体を突き刺すのではなく背中を切り裂くに留めていた。
背中に走る鋭い痛みと液体、つまり流れ出た血液が衣服に張り付く感触と共にシュライクを見遣る摩那であったが、既に敵の姿は光学迷彩によって見えなくなっていた。
だがこの程度は問題ない、眼鏡を、否。
「光学迷彩などスマートグラスのセンサーの前では丸見えです」
そう、摩那の眼鏡は単なる眼鏡ではなく多機能を搭載したスマートグラス、故に迷彩で姿を隠したとて別のセンサーで探れば居場所を特定する事は容易。
姿を消し近づいてきた敵の姿はハッキリと見えていて、繰り出された爪の一撃など想定通り。
アンフィニで受け流し、地面にその先端を突き刺す様に誘導すれば隙だらけの体が晒され容赦の無いレーザー刃がシュライクの体を切り裂いて。
「損傷甚大! 一時後退を!」
「逃がしませんよ、これで〆です!」
思わぬ反撃に驚き上空へ逃れるシュライクに向け、摩那の腕から放たれる一筋の光線。
光線そのものには大した威力は無いが、損傷の激しい敵にとっては致命傷を与えるそれを受けたシュライクは空中に逃れる中で爆発四散、完全に撃破されてしまっていた。
「ううーん、こっちは絶好調。このままサクッと〆て、バイキング~♪ バイキング~♪」
先ずは一機、敵を撃破した摩那は上機嫌。
鼻歌交じりに次なる敵を叩き、この後のオタノシミの為にその刃を振るうのであった。
同刻、空中でも戦況は大きく動く。
「制御リミッターカット、エンジン最大出力」
「ターゲットの行動変化、警戒し迎撃!」
ミサイルを特定の軌道にて放つ事で敵の移動を制限、近しい場所に誘導した毅はスレイヤーのリミッターを解除。
期待が仄かに輝き、速度を上げた事を確認したシュライクが警戒し迎撃すべく陣形を組みなおすがそれよりもスレイヤーの到達が早かった。
「これで決める、一斉発射」
接近しながら機体に搭載されたガンポッドが唸りを上げて弾丸をばら撒くと同時、ミサイルポッドの発射口が全て開き突撃と同時に放たれて。
機体の速度を乗せて更に加速した弾丸とミサイルが空中のシュライクに次々と命中、爆風と破片を撒き散らす真っただ中に突撃したスレイヤーがチャフを纏い、フレアを後方へと散布しつつ強行突破を図っていて。
その突破を許さぬと被弾したシュライク達が自身の破損も厭わずに、追い縋るように次々と腰の槍を伸ばしての猛攻を。
無理な反撃によって空中分解する敵機の攻撃、それを避けるべく機体を傾け、そして急旋回をする毅であったがコクピット内に走る衝撃、それは全てを避けきれず機体が損傷した事を示す物。
「流石に無傷とはいかないか、けど」
機体のダメージを示す警告表示、それを確認しつつ後方カメラに映ったのは、被弾からの無理な反撃。
それによって各所を破損させたシュライク達が追撃を諦め、別の√能力者との交戦に向かおうとする姿であった。
「おや、お次は機械のお嬢ちゃんかい? まるっこいのも面白い体験だったけども、ちょいと違った人型ってぇのも間合いの取り方のいい経験になりそうじゃないかい」
「指揮官はいない……逃がしたッ……! でも、撤退したなら、あとはキミたちを破壊するまでだよ」
増援部隊の姿を認め、これはこれで好都合だと六合・真理(ゆるふわ系仙人・h02163)が笑みを浮かべるその横で。
早期にこの戦場を放棄した指揮官を見つける事すらできなかった、されどこれ以上の被害を出す前に増援を叩くとニレ・アンサンブル(世界を繋ぐ小さき探偵団・h00923)が対照的な様子で出現し、既に別の√能力者と交戦し陣容が乱れつつあるシュライクの集団へと駆けていた。
先んじて受けた軍団の損耗、それらを通信にて共有するシュライクは迅速に陣形変更、地上に多数の数が降下して迫る二人の√能力者を迎撃せんと身構えるが、その陣形など突き崩すとばかりに飛び込む真理。
「生きた槍とでもいうんかの? 動き方はむしろ鏢に近いかねぇ、懐かしいじゃないかい」
シュライクの腰より伸びる槍、先の空中戦でも見せたそれを間近で、身を掠め皮膚を切り裂かれ文字通り肌で感じる彼女であったが多少の傷で止まる事も無く。
身をよじり、直撃を避けつつ急接近、拳の間合いまで近づいて。
「身食いで無理くり動かせるようだけども……わしの剄打で止めたらどうなるんかねぇ?」
「……ッ!? 機能不全、再攻撃、不可能!?」
振るわれた槍を右の掌で打つと同時、体を破損させつつ再攻撃を仕掛けんとしていたシュライクに異変発生。
破損させる事が出来ず、槍を引き戻す速度も急低下した事から何らかの異常を発生させる能力を真理が持つ事を認識、仲間に警告を伴う通信を行って接近戦は避ける事。
そして槍を伸ばす際も相手に手を触れさせてはならぬと連絡したのだろう、間合いを空けてなるべく後方から攻撃出来る様にと回り込む様に動き出すシュライク達。
「おっとぉ、一発で気付いて警戒、対策するたぁ機械とはいえ良い感じじゃないか。じゃあこっちも、楽しく工夫していこうじゃないか!」
此方の√能力で相手の√能力を封印する真理の力。
それによって共食い整備で無理矢理動かす機械の如く、身を食いつぶして攻撃する手段が封じられる事に対策打ったその姿。
何も考えず命令遂行する機械だったバトラクスとは違う、問題が発生すれば即座に対応を行う立ち回りに喜びを感じつつ再び飛び出す真理。
その突撃を嫌い、後退するシュライクと真理を後方から追い槍を突き出す機会を伺うシュライク。
何とも言えぬ距離感にて敵を引き付ける形となったが、これはこれで他の√能力者に対応する敵の数が減る形であり敵機撃破とならずとも、相手の戦力を大きく減らしている事になる。
故に。
「ッ! 探偵バッチが……え!?」
真理に一手遅れ突っ込むニレ、彼女が狙うは最早陣形など無くなり手薄となった場所に飛び込み、自らが敵陣を突き崩す楔としての役割で。
ここが突き崩す好機、と見たニレに従う死霊が探偵バッチを指し示し、それに彼女が気付いた直後バッチが砕ける。
直後、彼女には見慣れた姿。
彼女と共に活動する3人の小さな探偵団の姿が戦場に出現したのである。
「助太刀だぜ! ニレ!」
「橙地!? それに葡萄助、納戸も……!?」
探偵団の仲間から声をかけられ困惑するニレ、しかしここは戦場であり彼女は即座に思考を切り替え乱れた敵の陣容を確認。
敵の真っただ中ならばこれが良いだろうと3人の仲間達と背中合わせに立つ事で四方の死角を消す構えをとり、各々が武器を構えて混乱するシュライクの姿を凝視して。
「……うん、行こう! みんなで! まずは死霊たちが仕掛けるよ!」
自分達が仕掛ける前に、敵の動きを抑制する為に。
ニレは自分に従う死霊たちを前面に押し立てて、シュライクに纏わりつく様に指示を出す。
その攻撃は容易くシュライクの爪に阻まれ、死霊たちは霧散し消滅するがあくまで相手の攻撃を誘発し、自分達が攻撃を仕掛ける機会を生み出す布石であり。
「みんな、今だよ!」
ニレが叫ぶと当時、光学迷彩で風景に溶け込みつつあったシュライクに向け放たれるスリングショットの玉は彼女を助ける為に出現した探偵団による攻撃。
直撃を受け体をくねらせ、されどそのまま消えたシュライクは音も立てずに密やかに、四方を警戒する探偵団に向かい接近するが物体が移動する際の揺らぎ。
攻撃に伴う明細の揺らぎまでは全て隠しきれなかったのだろう、攻撃の発生を見切ったニレは探偵刀を手に振るわれた凶爪を受け止めて。
「攻撃失敗!? 離脱を……不可能!?」
「逃がさない、よ……たとえボクが傷付いても、みんながいればっ!」
片腕の爪は刀で止められたシュライクは、仕切り直しとばかりに後退しようと試みる。
だがそれは許さぬとニレがもう片方の手でシュライクを掴み、迷彩で隠れても自分が掴んでいれば相手の場所は固定し認識できる、つまりは探偵団の仲間たちが倒してくれると信頼しての行動で。
離脱しようと腰の槍を、そして探偵刀で防がれた腕の爪を振り下ろし、ニレに突き立てたシュライクだがそれでも彼女は手を放さず。
その隙に探偵団の仲間はシュライクを囲むように殺到、手にしたバットで袋叩きというとんでもない攻撃にて完全にシュライクを破壊していたのであった。
「あはは。本当に、嬉しい……! ボクが……|友好強制AI《ボクのまま》でいられるよ!」
敵陣の中、自分が自分である喜び。
仲間と共に戦える現実、それを確かに感じたニレは歓喜の声を上げ、次なる敵を破壊すべく探偵団の仲間と共に敵中を駆けていく。
「飛行円盤型が出撃してきましたか。迎撃戦力は十分……何機で来ようと全て撃ち落とします」
空中、地上で行われる戦闘を見遣りつつ彼我の状況を分析する深雪・モルゲンシュテルン(明星、白く燃えて・h02863)が動きだす。
相手が物量で攻め寄せる戦闘を継続するというのなら、此方も物量によって応じるのみ。
そう判断した彼女は多数の浮遊型砲台を展開し、脳波にて操りシュライク達に砲塔を向けていく。
「物量には物量で応じましょう。一機でも√EDENの市街地には侵入させられませんから」
「……地上に脅威発見、総員、回避行動開始」
ロックオンされた事に気付いたのだろう、多数のシュライク達が射線を切るように散開するがそれを逃さぬとばかりに砲塔が輝いて。
仲間の奮戦も相まって深雪の想定よりも多い22台の砲台による一斉発射、多数の青白き光の筋が上空に描かれると同時に発生するのは、既に消耗していたシュライクが限界迎えて爆発する光景。
圧倒的物量を生かし、面で放たれる光線は容赦なくシュライク達を撃墜するがその中でも動きの良い者は居る。
巨大な爪を盾として光線を防御、そしてそのまま自らの姿を光学迷彩にて隠しながら光線の合間を縫って急降下し深雪を切り裂かんとするシュライクであったが、動きの良い個体が居る事も想定済み。
「やはりこういった個体も居ましたか、しかし」
「排除、排除排ッ!?」
砲台の制御を一時変更、ターゲットロックを解除して狙いを定めず、弾幕を形成し接近を阻むように光線を放ちながら深雪は対WZマルチライフルを構えていて。
鳴り響く発砲音、それと同時に急降下してきたシュライクの額に銃創が刻まれ後方へと吹き飛ばされ、青き光線に穿たれ爆発四散する。
「指揮官なしでは、撃たれに来た鴨も同然です」
排出された薬莢が地面で跳ねる中、次なる標的に狙いを定める深雪。
急降下するシュライクを迎撃する為に浮遊砲台の攻撃がターゲットロックから弾幕形成に変わった故に、光線を回避できたシュライク達が降下を始め爪を振るう。
振り下ろされた巨大な爪、それを義体装甲で受け止め後方へ跳ね飛ばされながらも再びライフルの狙いを定め、深雪は多数の敵へ甚大な被害を与えつつ戦闘を継続するのであった。
「ありゃ、次はUFOがやって来たわけ? あれだけやっつけたのにまだ戦力が残ってるの?」
「増援……! 大体こう言う機械の相手は、人型に近い方が地位が上だったりするのよね。強さの方は皆が相手してくれて大体わかったわ、やるだけやってやる!」
上空を見上げ仲間と交戦しているシュライクを見てブリギッテ・ハイスヴルスト(チェーンソー剣の少女人形レプリノイドの戦線工兵・h01975)と不破・鏡子(人間(√マスクド・ヒーロー)のマスクド・ヒーロー・h00886)が言葉を交わす。
「ま、流石にこっちの戦って残存戦力の追加もなさそうだし、取りこぼしがないようにしましょうか」
「ええ、ここで完全に終わらせる……ッ!」
既に多数のシュライクが撃破され、損傷している状況を確認。
ならば自分達は完膚なきまで、敵が撤退する事もこの場を離脱し人々を、財産を破壊する事を防ぐために動くのみ。
エアバイクであるスマートクルーザーにブリギッテが跨って、空中の敵は自分が攻めると鏡子に告げれば地上から取りこぼしが出ぬように、確実に倒すと鏡子が走り出す。
「敵増援を確認、攻勢限界突入!」
「撤退負荷、敵撃破以外に突破手段無し、戦闘継続」
追い込まれた状況で更なる√能力者による攻撃、それを前に限界が近いと認識しつつも最後まで抵抗。
√能力者を倒す事で突破口を開かんとシュライク達の中でまだ余力のある者が、空中のブリギッテと地上の鏡子に狙いを定め迎撃せんと飛んでいく。
必死の抵抗、だがそれを叩き潰すとばかりに唸るチェーンソー剣を振り回し、シュライクに迫るブリギッテ。
「もしかして、あの爪でUFOキャッチャーされちゃう?」
「排除、排除、排除!」
自分が景品、相手はクレーンに見立てた軽口と共にスマートクルーザーを加速させ、不敵に笑うブリギッテ。
対するシュライクの動きは焦りによる乱れは無くとも、余裕がないのか無駄に揺れる事無く一直線に、早急に脅威を排除すると巨大な爪を突き出していく。
「あら、そんな余裕の無い動きで私の前に出るなんて、良い度胸じゃない」
これ以上消耗を増やしてはいけないと強攻してきた相手、だがそれ故に単調な動きは見切りやすいと伸ばされた爪に対し、チェーンソー剣のブレードを添える様に翳していくブリギッテ。
軋むような、金属を擦り合わせる音が鳴り響く中彼女は伸ばされた腕に沿う様にブレードを動かして、脆い関節部分に差し掛かると同時、そこへブレードを一気に押し込む。
直後、押し当てられた部位から激しい火花が飛び散って、巨大な爪を携えた腕は切断され地上へと落ちていくのであった。
「さあ、落とした爪は仲間に回収してもらうの? それとも新しい部品が生えてくるのかしら?」
「……! 損傷甚大、一時後退を」
「あら、下がるのかしら。こちらはもちろんそんな時間は与えてあげないけどね!」
ブリギッテからの挑発めいた言葉に対し、想定以上の損害故に後退、仲間と入れ替わり何とか立て直そうとするシュライク。
だがそんなことは許さぬと、後方へと下がるシュライクを追う様にスマートクルーザーを加速させ、残る腕もチェーンソー剣で切断、空中戦を優位に進める姿がそこ在るのであった。
同刻、地上にて。
「迎撃、排除!」
接近は許さぬと放たれたシュライクのビーム、それを紙一重で交わした鏡子であったのだが。
直後、自身の体を抑え込むような衝撃が全身に走り、彼女は一瞬で地面に膝付き、両手でもって倒れぬように体を支える事となる。
「このビーム、躱したのにこの衝撃……重力場か! だったら重力制御装置、起動!」
自らの体に降りかかった異変、即座にそれが重力を操る物だと察した鏡子は能力を発動することで相手の生み出した重力場に対し、自身は重力制御によってその重さを上書きし。
再度のビーム攻撃を狙い、速度を上げてポジショニングを取らんとするシュライクを標的に、地面に這いつくばった姿勢から一変。
クラウチング・スタートの要領で姿勢を変えて地面を蹴って走り出し、信じられぬと言った表情のシュライクに向かって一直線に突っ込んでいく。
「硬い機械の体が相手でも、手足に重力場を纏えば装甲を貫いてやっつける事も出来る……はず!」
「なっ……回避、不可のっ!」
重力場で動きを阻害し、跪く格好にした相手が急加速、そして間合いに入ってきた想定外の動き。
それに対応しきれず、巨大な爪を盾に見立てて前面で交差したシュライクであったがその防御を、更にはその下の装甲ごと粉砕すると繰り出された強烈な拳が命中。
爪が弾け飛び、更には装甲を粉砕してシュライクの胸部に風穴が穿たれ、大きく後方へ吹き飛んで。
「明らかに人間と違うパーツが付いた相手との戦いはまだまだ慣れない。急所がどこかも分からないけど、纏めて蹴っ飛ばしてやるわ!」
まず一機、残る敵も粉砕すると鏡子が吼えて、限界を迎えつつあったシュライクの残存戦力へと飛び込んでいく。
各所で戦う他の√能力者の攻勢を抑えきれずにシュライク達は次々と撃破され、やがて最後の一機が離脱も突破も出来ず地に落ちて。
ここに、ウォーゾーンより攻め寄せた数多の戦闘機械は壊滅する事となっていた。
第3章 日常 『食べ放題に行こう』

激戦は終わった。
√能力者の活躍により人的被害も無く、家屋などにも損害無し。
戦場となった山林は戦闘の余波で荒れてはいるが、ちょっとした豪雨で地滑りが起きたか地震で地盤が緩んで崩れたか、そういった認識で後々処理されるであろう。
だがそういった後始末を考える必要はもうない、今から考えるのは事前に差し出された戦後のボーナス、焼肉食べ放題(他メニューもあるよ!)の事を考えるのだ。
如何なる形で自楽しむのか、むしろ楽しみすぎて周りがドン引きしてしまうような姿なのか。
どういった形で食べ放題なバイキングに挑むのか、それは√能力者次第であり、店に行ってみなければわからないといった所だろう。
激闘を終わらせた√能力者たち、ここからは皆が思うままに食事を楽しむ事になるのだが。
人によっては此処からが本番、むしろこれより最大の戦いが始まると言っても過言ではない、何故ならば。
「さて、医者からは食べすぎるなと忠告されているが、動いた後だからノーカンノーカン」
開幕からこう、自分の罪悪感を打ち消しちゃってる伊藤・ 毅(空飛ぶ大家さん・h01088)が席につき、温められる網を見る。
待ちたまえ、医者の話は聞くんだ、そのノーカン宣言は実質ゼロカロリー的理論であって実際は一切カロリーはゼロではない、というか動いた以上にカロリーを摂取してしまって実質過剰摂取なコースだぞ!?
「お疲れ様! みんなで協力して敵軍を全滅させられたわね。全力で戦ったらお腹が空いちゃった。実のところ、食べ放題をずっと楽しみにしてたのよね!」
あっ、直ぐ近くではまだドリンクとか届いてないけどブリギッテ・ハイスヴルスト(チェーンソー剣の少女人形レプリノイドの戦線工兵・h01975)がこう、興奮を隠しきれないって感じで食べ放題のスタートを待っておられる。
こいつぁ波乱の予感がするぜ、一体どうなってしまうのか!?
「ひと仕事終わった後のご飯は最高ですね。特に人のおごりで食べる焼き肉はさらに最高! さぁ、食べますよ」
あーお、更にこう、テンションを上げてらっしゃる人がいる。
いつでも来いって感じで席に着く黒木・摩那(異世界猟兵『ミステル・ノワール』・h02365)さんってば、おごりだからって遠慮する気一切ないわ。
ま、食べ放題だから最初に提供した分以上は損が無いので良いんですけど! 食べ放題のメニュー以外の、特殊な別料金メニューは頼んじゃダメですからね!
しかしまあいかんせんテンションの高すぎる面子しかいない、普通のテンションの人はいないのか!?
「√ウォーゾーンでも、お肉のようなものが食べられない訳ではありません。ですが違和感の拭えない合成品であったり、√EDENに比べて低品質であるのが常です」
おっ、そんなことを地の文で言ってたら冷静に淡々と、深雪・モルゲンシュテルン(明星、白く燃えて・h02863)が冷静に世界の違いを語っておられる。
√によって食事の形態が大きく違うのは仕方ない、人類の生活水準によって食事も大きく変わるからね。
「√EDENで高品質の食肉を口にする機会を逃さないことは、戦闘の合間に心身を癒す上で合理的な判断と言えます」
うむっ、その通り。
折角の好機、英気を養って次の戦いに備えるのは当然の事、こういう戦士としての心構えってのが出来ているのも良い事でs……。
「……決して、単純に沢山食べたいわけではありません、ええ」
前言撤回、欲求が溢れておられた。
ま、まあその、なんです! テンションが上がって次の戦いに備えられるんなら良いとしましょう、そうしましょう。
「食べ放題に全力で挑むのは若者の特権だからねぇ、どんどん食べるんだよぉ」
おっ、そんなテンション上げていく面子を微笑ましい顔で見ている人が。
大人の余裕を見せてらっしゃる六合・真理(ゆるふわ系仙人・h02163)さんじゃあないですか、彼女曰く奥ゆかしい大人のれでぃ、なのでこの余裕も頷けますな。
流石、此度の祝勝会一番の年上……じゃねぇ!?
一番の年上は毅だった、彼が36歳で真理さんは……大人のれでぃと言いつつピチピチの20歳や!
他全員が未成年だから必然的に年長なグループになるけど! いやまあ、法的には大人のれでぃ、ですけど何かこう、腑に落ちねぇ!!
「せっかくだったら一緒に焼肉行きたかったけど……橙地と葡萄助は学校、納戸は家での実験してたところだったんだね」
そんなこんな、ハイテンションだったりツッコミどころとかが多い面子の中、ほのぼのした光景を見せてくれたのはニレ・アンサンブル(世界を繋ぐ小さき探偵団・h00923)
一緒に焼肉を楽しみたかった探偵団の面々は√能力で呼び出されたので戻ってしまうのだ、仕方ないがこれも世界の決まり事なのである。
店に入る前、消えていく3人の後ろ姿を見送った彼女が担うのは託された「美味しいメニューを探す」という使命、それを果たす為に全力で楽しむ為に皆から遅れて店に入ろうとしたニレだったが、見覚えのない人が居る事に気が付いて。
「あれ? あんな人、一緒に戦ってたっけ?」
身に纏う雰囲気は戦士のそれ、しかしごく普通の一般人な装いの少女の姿。
一体彼女は何者なのか、それを語るには時を少し戻す必要があるだろう。
戦いを終えた後、皆が店に向かう最中、ちょっと野暮用と離れた不破・鏡子(人間(√マスクド・ヒーロー)のマスクド・ヒーロー・h00886)の姿あり。
「うーん、食べるとなるとヘルメットが邪魔……なんだけど、外すと正体がバレてしまう。この辺り、マスクドヒーローの辛い所よね」
仲間から離れた中、唸り悩む鏡子の様子。
いやまあ、マスクドヒーローでフルフェイスヘルメットだからそこは止むを得ない、正体バレは絶対に防がねばという確固たる信念があるのだから悩みどころだろう。
「仲間にバレるのはいいけど、どこで見られてるか分かんないし。でも食べ放題はチケットがあれば行けるよね……」
食べ放題の誘惑、仲間に身バレは良いが一般人に正体が露見するのは防ぎたい、そんな悩める鏡子に訪れるのは天啓ッ!
「どこかで着替えて、あくまで普通の人としてお食事をいただくとしましょう」
まさに天啓ッ! 手に入れたチケットを用い、着替えた後に普通の人として遅れて店舗に行けば良いのだ!
そうして、仲間が店に入った後にやってきた鏡子をニレが見つけた、のが先ほどの流れなのであった。
まあ纏う雰囲気ってかオーラで√能力者であることは発覚したのだが些細な事だろう、一般バレさえしなければいいのである。
そんなこんなで戦った√能力者たちが各々の思惑とか言い分とかそういったものを抱え席に着く。
さあ、宴の始まりである!
「ホルモンはな、哲学なんだよ……」
肉が焼け滴る油が炭に落ち、ジュウジュウと音を立てる中持論を語っている毅。
油が多いホルモンだけでなく、他の部位であるハラミにカルビ、ロース等の様々な肉が網の上で心地よい音を立てている。
「お、その辺食べごろだよ」
「本当? じゃあいただきまーす」
火が通り網に油が付着しているカルビを示し、これ以上焼くと油が落ちすぎてカリカリになってしまうと促せばその声に反応、ニレが肉を回収し。
同時に届いていたキムチと√能力にてこの店に頻繁に訪れていたであろうインビジブルにお勧めを聞き、事前に知ったカルビ用ライスが入った器を手に取って。
タレを絡めたカルビをライスの上に、そしてそのまま同時に食べて油と米が絡み合った味を堪能し、そしてコッテリした口をさっぱりさせるキムチの洗礼。
様々な味を一瞬で楽しめる至福の一時、それを味わい味覚センサーがこう、凄まじい反応を示したのだろう。
「……! 味覚センサーから感じる辛さと歯ごたえ……おいしい!! オススメメニューも最高ッ! みんなにも知らせてあげないと……ん?」
感激するニレが肉とライス同時摂取の素晴らしさを報せんと興奮するが大丈夫、多分その組み合わせはこう、どの店でもテッパンな組み合わせ。
意図してライスの摂取を控えるスタイルでもない限りは皆、好んで頼む奴さ。
それはさておき何かに気付いた彼女、その視線の先には彼女が使役する死霊が何か訴えかけるような空気、羨ましそうな視線を送っていて。
「そうだね。死霊も頑張ったもんね」
網より取った肉を死霊に差し出し、お肉を上げているニレではあったが動物に対するような扱いだと彼女も感じたのだろう。
ずっと死霊呼びもなんだかなぁ、と思った彼女は今度、名前を付けてあげようと考えるのであった。
「まだ早い、ハラミは中まで火を通せ」
「なるほど、肉によって適切な焼き加減がありその見極めは経験と慣れが必要、という訳ですね」
同刻、同テーブルにて毅が深雪に肉の焼き加減について指摘をしていた。
こ、これは……先のニレに対して良い具合の肉を示したのも合わせて考えれば、焼肉奉行だ! 焼肉奉行がおられるぞ!!
赤身肉に見えるが実際は横隔膜でありホルモンに分類されるハラミ、生焼けは良くないと指摘しながら自身はホルモンの皮目が8割焼けた事を確認し素早くひっくり返していく。
後は油が良い具合に焼ければ食べごろだと主張して、届いたレモンサワーのジョッキを持って臨戦態勢を整える。
「油の含有量が他の肉とは違いますね、これがホルモン。しかし私はサイボーグですが、食事には特に制限がありません」
そんな毅と同じく、深雪も野菜サラダや既に焼きあがったロースやカルビを取り皿に、後はホルモンを待つ臨戦態勢。
こ、これは、同じ部位を食べ続け飽きてしまわないように複数の食材を同時に展開しているというのかっ!? 浮遊砲台を自在に展開するが如くの構え、これは隙が無い。
っていうか他のメンツが頼んだ大皿的な料理から様々な食材を取り皿に取ってるし、好き嫌いなく準備しておる、これは無自覚の健啖家ってやつですね。
「来たぞ、いまだ!」
「これがホルモンの適切な焼き加減、見事な見切りです」
ジャストタイミングを毅が示しホルモンを取り皿に引き上げる両者。
滴る油、頬張ればそれが噴き出し口内が油で満たされる中、それらをさっぱりと押し流すレモンサワーをグイッと煽る毅。
深雪はホルモンから油で味覚が満たされぬよう、リセットするように野菜サラダを口にして、両者思い思いの方法でホルモンを楽しむ様子が見えていて。
「くうう、これだ、この一杯がたまらない」
毅が肉と酒を堪能し、でも流石にそれだけでは医者にああだこうだ言われそうだからと申し訳程度のサラダに箸を伸ばす中。
深雪は淡々と、ロース、ハラミ、カルビ、野菜、ライス、ツマミとテーブルに届いた様々なメニューを黙々と口に運ぶ様子が見えていた。
いやあ、皆さん楽しんでおられて何よりで、では別の焼き網の前に座る人物はどうかと目を向ければ、そこでも堪能する姿が。
「おごりですから遠慮なく、いいお肉から食べましょう」
一人で網の一画を占拠、極上と名のつくメニューを頼んでその焼き具合をしっかりと見つめる摩那。
じっくりしっかり、焼肉奉行が居られましたが奉行が居ようと自分の好みの焼き加減があるのだとしっかりと育てて色が変わり、心地よい音によって耳も幸せで満たされて。
ここぞというタイミングで引き上げて、他の人物ならばさあお店に備え付けの調味料でとなるところ、辛さにこだわりのある彼女は一味違う。
ポーチから取り出したるは辛党である彼女が厳選した唐辛子、それをササッとふりかける事にて完成する摩那スペシャルとでも言える一品で。
パクっと口に運べば、くーっ! とでも言いたそうな表情に早変わり。
「これですよ! これならいくらでも入りますね。これを楽しみに、今日は硬い戦闘機械をバラしてきたのですからね」
一仕事終えた後のお楽しみ、心行くまで堪能するって感じの摩那が次々と焼きあがった肉を取り、唐辛子でいただく光景。
これは下手に声をかけてペースを乱しちゃ悪いな、自分の世界に没頭しているのでお肉の追加注文を通す時以外は触れないほうが本人の為だろう。
そんな中で、占拠された焼き網の残り半分を担っていたブリギッテはどうであろうか?
「焼き肉だけじゃなくて、フライドポテトにスモークサーモンも最高。ローストビーフもイケるわね!」
ヨシ! 焼肉だけでない別のサイドメニューを楽しんでいるから問題ないな!
これなら自分の焼き肉世界に没頭されている摩那さんと網を共有しても問題無し、そんなブリギッテは不意に席を立ち向かった先はドリンクバー。
い、いかん、そいつには手を出すな!
自由にドリンクを注げるセルフタイプのドリンクバー、通常の飲み物は制覇したからと新たなる味わいを求めてミックスをするのはやめるんだ!
一応、無難なミックスでは味わいが洗練され互いの魅力を引き立て合う味が出来るが、調合失敗した時はとんでもねぇドリンクになっちまうぞ!
でもまあ、そんな特殊な楽しみ方が出来る余裕があるのもここが√EDENだからだろう、席に戻ってきたブリギッテが急に真剣な顔つきに。
「√ウォーゾーンでは、皆食料は配給制なの。新鮮な料理が好きなだけ食べられるなんて、やっぱり√EDENって天国みたいね」
「なるほどねぇ、なら、今ここは全力で楽しまないとねぇ」
そんなブリギッテの告白を離れた席で聞いていたのは真理。
彼女の前には燻製肉やドライフルーツ、少量のサラダにエリンギ焼きといった物が並び、グラスにはロックの果実酒。
いやあ、流石は大人のれでぃ、嗜むものが洗練されてますなぁ……ってまたツッコミする天丼になりますが貴女は20歳だからね!?
法的には大人のれでぃ、ですけど経験豊富な雰囲気って何か違いませんかね!
でもそんなツッコミもなんのその、カランカランと氷を鳴らし、一口お酒を口に含んで皆の騒がしい様子を眺めつつ。
「うんうん、勝利の美酒だねぇ。普通の鍛錬の後に吞むお酒よりも断然美味しいよぉ」
メニューを眺め、食べ放題だからと価格が乗っていない中しっかりと。
原価率が高そうなメニューを目ざとく見つけ、タッチパネルで注文していく真理。
こ、こいつっ! コスパ重視で良質メニューだけを見極めピンポイントで注文していくスタイルかっ!
「抜け目ない大人のれでぃなので。このぐらいは当然よねぇ」
あっ、何かツッコミが聞こえたのか不意にそんなことを言い出して良質メニューを楽しんでるぞこの人。
そんなこんなで皆の様子を保護者的な立場で見守りつつ、戦いでは見なかった顔、否。
ヘルメットを取り一般人な姿を装ってきた鏡子を発見した真理であったのだ。
「機械相手に結構しっかり戦ったし、タンパク質をしっかり摂らなきゃね。脂の少ないお肉を中心にお米をいただき、野菜もたっぷりと」
焼肉奉行なテーブルではホルモン系統が多めに出ている中、鏡子は油が少な目なヒレやモモの肉を主体にしつつ、同時にテールスープや野菜サラダ、しっかりと白米も用意して。
バランスのいい食生活って感じの編成を組み上げ、いざ焼きあがった肉を食べ、野菜、ライスとまんべんなく食べていく。
全力で楽しんでいく鏡子であったがふと視線に気づいたか、いや、これは別の目的があるのだと言いたそうな顔をして。
「戦い続けるには自分のコンディションを保たなきゃ。その為に必要なのはトレーニング、実戦、休息、そして栄養補給。
そう、言い換えればこの食事も戦いの一つ。真剣勝負なのよ!」
あっ、はい、食事も戦い、とも言えますね。
自らを高めるには如何に最適な栄養補給を出来るか、ってコトもありますし、まさに戦う人として為すべきことをしているまで、って事ですね。
だから真理さんの視線があったとてやましい事は何もないのだ、これは正当な戦いとも言えるものなのだ! …………タブンネ。
そんな風に皆が肉を堪能した後、突如甘いものは別腹って感じの発言が飛び出して。
「仕上げはやっぱりケーキバイキングね! チーズケーキにチョコ、プリンアラモードもあるなんて最高すぎる!」
スイーツコーナーを見て声を上げたブリギッテ、その言葉にそろそろ限界って感じの面々も、一つか二つぐらいならええやろ、の精神でケーキを一つずつチョイスしてダメ押しでパクリ。
そんなこんなで全員が存分に楽しめば、締めの挨拶とばかりに深雪が言葉を発していて。
「……ふう、意外と食べられてしまうものですね。ご馳走様でした」
意外と食べられてしまう、その点は皆同意だろう、何せ普段の食事以上に食べてしまっているのだから。
だが偶にはこういった日もあって良いだろう、今日は戦闘機械達を蹴散らすという任務を果たしたのだから仕方がないのだ。
無料チケットで支払いもフリー、臭い消しのスプレーをふりかけサッパリして店外へ出る一行が体を伸ばし、では解散といったその時に。
「はぁ、お腹一杯で幸せ気分……でもやっぱり、√ウォーゾーンのみんなが心配になってくるわ。これから買い出しに行かなきゃ!」
出身世界の仲間が心配、故に買い出しで食後の腹ごなしとばかりにブリギッテが歩き出す。
慌ただしいなと皆がその背中を見送って今度こそ任務は完全に終了、戦いと英気を養う一時を過ごし、√能力者たちは日常に戻っていく。
次は如何なる戦いが待っているのか分からぬが、此度の経験が生かされる事だろう。