戦線は未だ侵攻せず
「レギオーン! レギオンだ!」
「くそっ! 相も変わらず数ばかり揃えやがって!」
ドルッルルと重低音を奏でるマシンキャノン。
沢山の戦闘機械を撃ち落とし、あるいはその攻撃を味方のWZが止めている。
「やばいな。続々と来るぞ」
「何時もの事だろ? カンザスでもフェニックスでも好きな方にぶっ飛びな!」
「ここはアメリカじゃあねえつーの! てか、デカブツまで来てね?」
奥の方にトーチカあるいはタンクタイプの敵が出て来た。
更にその奥に、指揮個体らしき肉厚の装甲が見える。
「そろそろサイボーグ用のライフルやプチバズーカ系じゃなんともならんな」
「かといって武器を変える余裕なんぞないぞ。撃ちまくれ!」
やって来るのは鋼の軍団。対するは唸りを上げる銃声ばかり。
負けて居ない筈なのに、その戦線は徐々に押し込まれていったのである。
●
「やあ、とある町に敵が襲来してきてね。良くある話なんだけど少し敵の戦線が厚い。補給や増援が送られる前に、擦り切れる程の攻勢を受けたって訳」
ルベウス・エクス・リブリスが説明を始めた。
星詠みの力で得られた情報らしい。
「敵は重厚な布陣で攻めて来る。だから広範囲・連射・貫通系、なんでも使いまくって押し返すしかないね。芸がないけれど、何かしらの得意分野がある方が良いと思う。もちろんバランス型で何でも使って何時間でも粘れる人も歓迎だけれどね」
そう言って簡単な地図と、敵の攻勢をルベウスは説明したのであった。
第1章 集団戦 『レギオン』

●
「数が多いな……」
「うーん、これはまた凄い数だね。壮観だ」
クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)とルーネシア・ルナトゥス・ルター(銀狼獣人の職業暗殺者・h04931)が唸りを挙げた。見える範囲に雲と見まがう浮遊機械の群れ、その向こうに大型のメカが見え隠れする。
「√能力があっても数の差を一瞬でひっくり返すようなことはできない。少しずつでも地道に削っていくしかないな」
クラウスは簡単に地形を見ると、利用できそうな場所を俯瞰した。
向こうだって曲射出来るかもしれないし、楽観はしない。だが利用しないという手もあるまい。
「そうだね。此処は機動戦で範囲攻撃を繰り返しながらってところかな。千里の道も一歩からという感じで」
悲観的な彼と違って、ルーネシアはそれほど気にした風もない。
マイナスに捉えがちなクラウスと、自然現象の様に対処すれば良いというルーネシアとの差であろう。また、WZを操って駆けるのと獣人のフィジカルを活かすという点も対照的であった。
「先に行く。皆で力を合わせて敵を押し返そう」
本陣であり絶対防衛線にしている丘から滑り降りるようにクラウスの決戦用WZ『蒼月』が出撃した。まずは命中精度に問題あれど、気軽に範囲を巻き込めるグレネードを射出しながら、蒼白く輝いて戦場を疾駆する。
「プリズムランチャーセット、発射。……グレネードの残りにも気を付けないとな」
クラウスはボタンを次々に押して割り振った行動を先行入力して行く。
他にも操縦方法はあるのだが、彼は操縦桿とボタンを愛用している。
こういうアナログで枯れた技術の方が信用置けるし、万が一電子的に潰されても強制的に再起動を掛けられるからだ。
「速い……いや判断が早いな。じゃあ、こっちも撹乱しないとねぇ」
ルーネシアはその姿を見ながらエレメンタルバレットを調整した。
選ぶのは雷属性の弾丸『雷霆万鈞』。
その力は着弾した周辺を吹き飛ばすと同時に、迸る電流が周囲に居る仲間を強化するのである。
「マチェットの方は接近用だから、今回はあまり出番はなさそうだ。悪くはないんだけど……あの数を相手に肉薄はしたくないかなぁ」
ルーネシアは精霊銃を持っているが、白兵戦武器もないではない。
だが、敵は絶対多数なのだ。その刃がいかに肉厚であろうとも、今はその時ではあるまい。
『……』
「来たな。やはり、ただやられてはくれないか。圧殺されない様にだけは気を付けないと」
敵は無数のミサイルを放って来た。
元の数が数だけに、途方もない量である。
クラウスは蒼月の速度に物を言わせ、地形を縦に振り切って、盾を構えながら射撃し続けた。もちろん接近されたらマウントしている白兵戦武器を抜刀したり、光線砲も予備兵装のレーザーライフル(ライフルが予備扱いとは)などに持ち替えるつもりであった。
「物量で押されているのを押し返すのは中々疲れるんだよね。目に見えての逆転劇というものが無いからねぇ。ただ……まぁそれでも『雷霆万鈞』を撃ち続ける単純作業の繰り返しも意外と私は楽しいというのが新たな発見かな」
ルーネシアはそんな中でも銃を撃ちながら笑みを浮かべていた。
徒労の様に続く雪かき作業から、包装用のプチプチを潰す余暇を始めた子供のように。
「さて、なんだかんだで少しずつ押し返してきているようだ。私達も諦めずに抵抗を続けてきた結果だね。これから補給と増援が来てくれれば一気に楽になる。もう一踏ん張りだ、みんなも頑張って持ち堪えよう」
そしてミサイルを避ける合間に、ルーネシアはゾディアックサインを刻んで仲間を励ます伝言をしたのであった。
●
「あっちこっちからうじゃうじゃと、まるで蝗害ね」
|鋼河・桜《こうが・さくら》(風遁の討魔忍・h06126)は洗練された様々なパーツを持つエクストラ的な存在であるとも言える。だが、その彼女をしてあの数には一人で抗し得ない。数の暴力とはそう言う物だし、何とかなるなら文明圏は滅びかけていないのだ。
「せめて補給や増援がくるまで持ち堪えるようお手伝いができるといいのですけど……」
そんな彼女にくっついてアメリア・ウィスタリア(博士の作品・h03849)は戦場に出て来た。お茶の時間が大好きな娘であるが、この町の危機とあっては放置できなかったのだろう。両親が作ってくれた生態パーツを駆使して、人々を守るために戦って居る。
「愚痴っててもしょうがないわよね、忍務開始っと」
そんな小さな子までもが戦って居ると知って、桜は奮起した。
高精度のパーツを持ち高性能の兵器で戦う、オトナの忍者。本業が魔を対峙するモノとはいえ、ここで下がってはオンナがすたるという所であろうか?
「はい。準備Okです……」
そんな彼女の勇姿に導かれるように、アメリアも戦う覚悟を決めた。
レイン兵器の砲撃戦を準備し、自身もまたプリズムランチャーを構える。
「良い? 軍勢のど真ん中にぶっ放す! それだけよ! 私の何て、怪異や悪魔もブチ抜く【貫通|攻撃《弾》】よ、小型無人兵器なんて【衝撃波】が掠めただけで消し飛ぶわ」
特に意識したわけでもないのだが、桜はお姉さんらしく戦って居る。
誰よりも激しく、誰よりもエレガントに……というのをあえて目指したわけでもないが、前に出るべきは自分であろうと、大型の対魔ライフルをぶっ放し……。
「あら、やだ。それで見つからないつもり? 風遁! 烈風斬!!」
『……』
回り込もうとした敵に桜はジャンプしながら斬りつけた。
討魔ブレードを翻し、先んじて敵を切裂いたのである。
そして空気を歪める光学迷彩で一度姿を消し、仲間の元に戻って戦線の再構築を図った。
「つってもホント雲霞の如くってやつ? 減ってる気がしないわね……っとぉ!!! 大丈夫?」
「ええ。問題ありませんわ」
桜が戻って来た時、アメリアはレインの砲撃を掛けた後、地形の起伏に隠れてランチャーを放っていた。向こうからくるミサイル群は、一発の火力が低かろうと楽観視は出来ない。
「ジリ貧ねぇ……でも忍者は耐え忍ぶ者、この程度では諦めないわ」
そして戦場を振り返り、なんとかなると励ますように拳を握ったのである。
●
「ここはレイン砲台を最大限に活用。手数を利用して押し返します」
リズ・ダブルエックス(ReFake・h00646)は今こそ、その力を解き放つべきだと判断した。我が技にして、我がモノにあらず。世界にあって世界に溶け、世界を動かす存在の力である。
「味方の救援及び敵勢力の排除開始であります!」
リズは周囲に居るレイン『たち』に声を掛けた。
よくある砲台型もあれば、火力を高めたタイプもある、電子戦用もあれば、シールド型まであった。
「私はレイン兵器の気持ちがわかるのであります! って言ったら信じます?」
そーれ! と言うべきか、それとも空と言うべきか。
大気に宿る決戦兵器レインの精霊の力を借り、今必殺の!
レイン兵器群乱れ撃ち! 牽制に普通のレインを使うという贅沢使用! 特に敵が居る戦線には、高火力型を複数台送り込んで積極的に破壊して行く。
『……』
「来ましたね。直接、お相手しましょう!」
リズは敵は放つミサイルを、意志思って曲がるレーザーで撃ち落としながら空中へと飛ぶ。もちろんその力もレインからもたらされたものである。イオノクラフトとか言ってはいけない。
「でいやー!」
そして大型ブレードに備えたエネルギー砲を使いつつ、敵を薙ぎ払っていった。
●
「此度は宜しくお願いするでござる」
|夜雨・蜃《よさめ・しん》(月時雨・h05909)は参戦に際し、真緒tモに戦ってはどうしようもないと判断した。いや、出来なくはないが、かなり難しいだろうと。
「戦線は徐々に押されている様でござるな……微力ながら助太刀するでござる」
その時、蜃に雷光の様な閃きが生じた。
個人の力ではなく、集団の力で勝つために出来ることはないだろうか?
いや、出来る。その為の装備と言うものが世界には存在するのだ。決して何処かの正義のロボットの総司令官の様に『私に良い考えがある』という状態ではない。
「此方、設置するタイプの自動機関銃とかはないでござる?」
「小隊火器を? そりゃあるけれど……」
蜃のアイデアとは、設置して使用するタイプの重マシンガンを用意する事だ。
それも自分で使うという訳でもない。ここからが真骨頂である。
「良ければ、拙者が設置しに行くでござる。爆発物を仕掛けて良いエリアを教えてくだされば、拙者が何とかするでござるよ!」
そう言って薄い胸を叩いた。
ちなみに少年なので、心は弾むが胸は弾まない。
何が言いたいかというと、√能力者の体力で重火器を輸送し、あるいはその脚力と隠密の能力で戦場工作を設置。後はみんなで撃ちまくり、そして不要になったら必要とされる場所にデリバリーする所存!
「あー。なるほど。良い考えだね。可能な範囲で融通するよ。終わったら別の場所に動かして欲しい」
「楽しくなって来たでござるなぁ」
こうして彼のアイデアは実行に移される。
もちろん実際に苦労するのは彼であるが、苦労に見合っただけの価値があるだろう。
「後はこうするでござるよ! 恨みあらば、ついて参られよ!」
そして飛苦無を投げて敵を範囲攻撃で倒すと同時に、周囲の味方を強化して一斉攻撃だ! そう、小隊火器を設置して味方に渡したのは、この強化を活かすためでもある。逃げながらトラップのあるエリアまで誘引できれば言うことなしであろう。
「とはいえ、敵は多いでござるな……人には休息も必要。拙者、眠気覚ましにこーひーを所望するでござる」
そして重い荷物を背負い戦場を走り回った蜃は、息も絶え絶えに陣地へと戻り、コーヒーを堪能するのであった。
●
「今がチャンスなのです」
|森屋・巳琥《もりや・みこ》(人間(√ウォーゾーン)の量産型WZ「ウォズ」・h02210)は戦場が動く気配を感じた。何がどうという訳ではない。だが、消耗戦の果てに隙間を見出したのだ。
「圧し込まれる予見の戦線の押し返しをするのです。今が逆転の時です」
仲間たちが各地で戦い、少しずつ勝利を積み重ねて来た。
あるいは様々な工夫を行い、地道に戦い続けた結果なのであろう。
巳琥はその雰囲気を感じとると、この流れを推し進めることにした。そうすれば押し返せると判断したのだ。
「増援の到着ですよー」
「ああ、すまないね。とても助かるよ」
巳琥は自分にそっくりな素体を連れていた。
彼女たちにお願いして、物資を輸送していくのだ。
「地力が上がればそれだけ戦略的な耐久力も上がるはずなのです」
敵は数多く、戦いは果てしない。
ゆえに一度に大火力で勝つというよりは、各地で戦う人々を守り癒し、あるいは士気を向上させて戦い抜く維持させたのだ。そうすれば押し込まれつつある戦場も、以前のように戦えるであろう。
「今撃ち込んでるのは、少しずつ効いてくるやつです。渡した装備も使って、みんなで盛り返すのです」
「おお! これならやれるぞ!」
そして戦線の維持が出来たと見て取ると、それだけではジリ貧であることを見抜いていた。巳琥は対症療法だけではなく、自信が腐食性の侵食弾による狙撃をして相手を弱らせたり、武装や防具を改造したものを戦線を維持する人々に供給したのであった。
「まずは制圧して敵を押し返せているという印象が今回の状況的に士気に良い影響が与えそうな感じなのです。その為にも能力者達で戦術単位で勝利を重ねていければ、という所です」
全体の指揮と装備更新により、少しずつ全体を保った。
その上で、一か所ずつ戦線を押し返し、次はその隣で押し返し、最終的に全体で盛り返せば良いと判断したのだ。一人一人の力は小さくとも、全員でなら何とかなる。少なくとも、少し前の戦線では何とかなっていたのだから。
●
「フハハハ、我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスが大幹部、コマンダー・オルクス!」
戦場に現われたコマンダー・オルクス(悪の秘密結社オリュンポスの大幹部・h01483)は盛大に見栄を切った。もちろんCMにも利用できそうな、壮大なポーズである!
「ほう、中々、|厳しい《面白い》状況になっているな……」
コマンダー・オルクスはその様子を見てニヤリと笑った。
社会的には提携先企業の危機に駆けつけた義勇軍なのだが、彼の心の中では別の意味を持っている。
「え?」
「なんです?」
その時、戦闘車両に乗ってブラブラしていたメンツが漸く気が付いた。
そこには一体と、十三体。妙な計算だが気にしてはいけない。
感覚的には兵員輸送車両にスクランブル装置とか武装が付いた感じだと思えば良い。何がスクランブルするのかって? 今から説明するさ。
「ククク……丁度いい。我が組織の新型機たちの経験にもってこいだ!」
コマンダー・オルクスはまるで悪の組織の幹部の様な事を口にした。
世間体に同であるかは置いておくとして、彼の心の中ではそうだった。
もちろん全国のジョシコウセイの中には、『貴方の中ではそうなのでしょうね。貴方の中では』というかもしれない。だが、彼の所属する会社の幹部たちは概ねそう考えていた。
「クハハハ、私こそ、悪の秘密結社オリュンポスの幹部候補(仮)にして、血塗られし背徳の機甲魔女ヘカテー!」
もっともヘカテー・ディシポネー(悪の秘密結社オリュンポスの女幹部候補生(仮)・h06417)の様にそう考えない者もいる。彼女は社長派なのか、特にそんな事は考えてなかった。
(「……なんで、戦闘前に無駄に名乗らなくちゃいけないの? 様式美って何!?」)
ヘカテーは高性能なロジックで、許されることならば地球を七回転半くらいするくらいに首を傾げたかった。どう考えても戦闘の前に名乗る必要を感じない。ああ、世界を制圧するスーパーロボットでも持って居れば話は別だ。スーパーロボット……そうか、そうね、そう考えるべきなの? と自問自答し始める。
(「なるほど! そういう事あったのですね。きっと、企業提携先の一つが、ピンチとか故に、実戦経験も兼ねて招集されたのでしょう」)
なお、ウェスタ・プロメシアン(PR会社『オリュンポス』の|量産型戦闘冥土《ジェネリックメイドトルーパー》・h05560)は純粋に自分の事を社員だと思っていた。正確には備品ではあるがマス・プロダクトの成功により、特別に社員格を許されたゴールデンマター(最終生産品)であると感じていたのである。
「ヤー、コマンダー! 『少女分隊』集結完了なのです」
「「なのですx12」」
「よろしい!」
元気よく挨拶するウェスタにコマンダー・オルクスは頷いた。
挨拶は大事、戦力が欠けて居たら大変だからね。
「私達が攻勢を担当するのは……判ったわ。コマンダーは?」
「私は何をするのかと? 愚問な事よ! 今回の私は、本来の本分である|指揮官《コマンダー》としての役割に徹しさせてもらうぞ!」
なお、今まで指揮官らしいところを見て居なかったのでヘカテーは素直に尋ねてみた。だが、今日ばかりは普通に指揮官するらしい。『なん……ですって』と心の中で思ったかもしれない。だが、その時、彼女の中にチュピーン! と奔るモノを感じた。
「コマンダーより、任務受諾。|お掃除《戦い》の時間なのです! 各ウェスタたちは、前線に入り、レーザーライフルで、ミサイルの迎撃しつつ、ドローンを撃破しながら、後退した戦線を押し上げるのです」
「「ヤー! x12」」
ウェスタは何やらコマンドを受領した模様。
もちろん精神汚染ではないので安心して欲しい。
傍目からは11歳の少女がおっさんに見つめられ、何か付帯されたかに見えなくもない。
「さぁ、我が華麗なる指揮のもと、『総力戦体制』に移行せよ! 先ずは、遮蔽物を利用し、戦線の押し上げだ!」
(「くっ、かつての同志たちを無理矢理攻撃させるなんて…何ていう辱め!?」)
なお、ヘカテーはかなり現代文明に汚染されている。
だってそうじゃない? √ウォーゾーンの連中は派閥でも争うからね。
同志たちを無理やり攻撃させるなんて概念は存在しないのだ。つまり、そう考えている時点でオリュンポスの思想に身も心も染め上げられているのだと言えた。
『……』
「負傷したウェスタは、近場のウェスタがサポートしながら、一時後退なのです。私たちの後ろには、歴戦の指揮官がいるのです。コマンダーだけに!」
放たれるミサイル群を迎撃し、負傷して行く少女たち。
そんな中で果敢に戦い続ける彼女たちはまるでワルキューレの様ではないか! さらりと放たれたギャグが通じないのは、オヤジギャグだからではなく予備ボディにはそんな感性が付いてないからである。
(「ああ。何という事……いっそ殺してくれたら……でも、私の|量産型《ウェスタ》たちには負けたくなーい!」)
負けず嫌いというか、ヘカテーは自分を元にした量産型に劣っているとは思われたくなかった。自分が試験機ならばまだ判る、優秀な試験機などアニメの世界だけだ。だが、彼女はもっと別の存在なのだ。決戦兵器たるレインに命じて、次々に砲撃を放たせる。広範囲を薙ぎ払い、レーザーライフルを構えて地形の起伏に隠れながら攻撃し始めたのである。ああ敏感な精神性と敏捷性は、今までの五割増しで動いてしまうのだ。
「流石、|原型機《プロトタイプ》! 私たちも負けないのです」
なお、ウェスタの方は素直というか、ジェネリック機がオリジナルに嫉妬など抱きはしない。用途が違うのだと完全に割り切り、原型機であるヘカテーは凄いね。と尊敬の目で見ていたという(それが余計に屈辱を感じさせる模様)。
(「やはり、あの名乗りは一考の余地ありだな……」)
そして社会人でもあるコマンダー・オルクスは本日の総括をしていた。業務的な報告に、個人的な感想を書いていたという。
第2章 日常 『我が愛機を見よ!』

●
「トーチカを叩けた! 今のうちに整備や補給をしてくれ!」
「あんたんところのは、どんな弾を持ってくれば良いんだ? 装甲板は!?」
みなの活躍により、かろうじて戦線を押し返した。
だが戦場には負傷者も多く、そして弾丸を使い果たしたり、装甲が削れた者もいるだろう。
「なあ? この装備は何が優れているんだ? 量産とかできるのか?」
「うちでも手足が飛んじまって、機械に置き換えた奴も多いぜ。それに、物資を持ってきてくれた仲間も居る。今のうちに休んでいてくれや。整備や治療が終わったら、また頼むからさ」
本陣には帰還した仲間達が一時の休息を行い、同時に整備や治療を行っていく。
駆けつけた増援の能力たちはどうするだろうか?
今は帰還して必要があればまた訪れるのか?
それとも、自慢のパーツやWZについて語るのだろうか?
自分たちも息を吐き、そして同じように休む者たちと語らうのも良いだろう。
●
「あぁ……ひとまずの静寂が訪れたね」
ルーネシア・ルナトゥス・ルター(銀狼獣人の職業暗殺者・h04931)は周囲の声に気が付いた。第一陣のドローン群を突破し、その向こうに居たトーチカやタンクにダメージを与えていた。
「さて、私は一旦本陣へ撤収しようか」
ここで双方が引いて、泥仕合を収集したのだ。
軍隊というものは惰性で戦い続けても効率が良くないのだ。
維持というモノが存在しない機械たちは、衝撃力を維持するために、人間よりも先に下がって再編成を始めたようだ。
「暫しの休息だけど、共に戦場を駆け抜けた仲間で再会の喜びを分かち合おうか。それに人にも補給は必要だからね」
ルーネシアは色んな意味でホっとひと息を吐いた。
戦いが終わって、どこかで見た顔が居る。
何と幸せな事か。日常の中では当たり前のことが戦場では幸福なのだ。戦場は変わらない、ここで押し返したとしても進行を阻んだだけ。みんなで無理をすれば退却まで追い込めたかもしれないが、そんな事をすれば、きっと周囲が血に染まっていたに違いあるまい。
(「よく食べよく寝る。体力を維持するにあたっての基本的な事だけど、戦場で実践するのは中々難しいんだ」)
誰かに諭すように自分に語り掛けていた口をつぐむ。
月を見るたびに思い出す悪夢のような光景を見なくて済んだ。
今日はゆっくり眠れそうだと思う。なんと幸せな時間だろう。戦場であるのに、ふとルーネシアはそんな事を思うのだ。
「よう。今日は堅いパンだけじゃなく野菜があるぜ。差し入れがあったんだ」
(「食事が喉を通らないなんて普通だし、戦場でしっかりと寝られるなんて心の何処かが擦り切れてないとね」)
すれ違った誰かが手を挙げて、食料を分けてくれた。
野菜タップリのスープにガチガチのパンを千切り、浸して柔らかくして食べると意外と美味しかった。きっとこれは幸せの味だろう。例え血の滴る肉を食べても、無残な光景の中では歯磨粉以下の味しかしないのだから。
(「でも戦場というのは、そういった事を継続できなかった人から順にリタイアしていくものさ。さ、味気ないレーションかもしれないが、ありがたい補給だ。しっかり食べようか。今日は野菜スープが着いてくるだけマシだものね」)
怪我をして青い顔をしている仲間、大怪我を負って構想される親しい人を見守る仲間。そんな人々にルーネシアは声を掛け、あるいは空元気の微笑みを見せて食事を続けた。
(「……とはいえ、甘い物が食べたいなぁ……」)
そんな中で、ルーネシアは野菜の袋に赤いナニカが入って来たのを見た。√ウォゾーン産には見えない。リンゴか何かがあるだろうか? そう期待して拡げられていく補給品に歩いて行くのだった。
●
これは少し前の事。補給物資に追加の差し入れがあった時のこどだ。
「おいおい。結構なブツじゃないか。こんなにホイホイ配っていいのかい?」
「もちろん無償じゃない。此処を支えるのが目的だ。判るだろう?」
コマンダー・オルクス(悪の秘密結社オリュンポスの大幹部・h01483)はズタ袋に入った食料を山のように積んだ。中には潰れているモノもあるが、それでも√ウォーゾーンでは貴重品だ。
「すまんな。何か出来ることがあったら言ってくれ。何でもする」
「ははは。何でもというのは剛毅だな。その時はそうさせてもらおう」
補給担当の男の言葉にコマンダー・オルクスはニヤリと笑った。
もちろんホモホモしい会話ではない。これは暗黙の了解を、ザザっと互いに行ったのだ。
「コマンダー。全隊、集結しました」
「御苦労。今は待機……おっと、オリュンポス戦闘員たちよ。戦場の残骸が今後の戦闘で、邪魔にならないように、敵の動きには十分索敵し、注意しつつ、目ぼしいものを回収しておくのだ! 残骸のリサイクルは、重要案件の一つだからな」
ウェスタ・プロメシアン(PR会社『オリュンポス』の|量産型戦闘冥土《ジェネリックメイドトルーパー》・h05560)が持ち込んでいた量産型wzを並べた時、コマンダー・オルクスはその本性を現した。もちろん中身がメイドさんなwzを見て愉しんでいるわけではない。これには先ほどの交渉の意味がるのだ。
「流石、コマンダーなのです」
ウェスタはその言葉に目を輝かせた。
他の√で手に入れたドロップ品の食料などの物資を提供し、残骸を回収。
√ウォーゾーンの技術ならば、十分に元が取れるだろう。ドロップ品だから無料なのも良い(時間は浪費したが)。先ほどの会話は、『鹵獲品を持って行っても良いよな?』『バレなきゃ良いぜ』というやり取りだったのだ!
「適度な戦場での緊張の後、戦力を援軍のように、後出しする事で、士気を引き出しつつ、先程の戦闘で敵が得た情報をも利用し、こちらの戦力を敵に見誤らせる事も狙いなのですね」
「ん? そう言う事もあるだろう。だが真似られても困る、大っぴらにすべきでは無いな」
ウェスタは『戦力の逐次投入ではなく、フェイク情報を掴ませる意味もあったのですね』というと、コマンダー・オルクスはCEO譲りの誤魔化しを行った。判ったふりをして自信満々に適当に頷いて居れば何とかなるものだ。
(「何をやってるのかしらね……」)
その時、ヘカテー・ディシポネー(悪の秘密結社オリュンポスの女幹部候補生(仮)・h06417)は黄昏ていた、背中が煤けていたとも言う。
(「見せ札……ね。馬鹿馬鹿しい」)
ヘカテーは並べられていくwzが、士気高揚のための見せ札であると気が付いた。
負けている人間たちは援軍が来ただけで指揮を盛り返すし、向かって来る戦闘兵器たちは、本陣に『機動戦力だけでは』突っ込むことを躊躇うだろう。おそらく、陣列を整えての蹂躙攻撃が可能になるまで待つだろう。もちろん戦闘に参加させても良いのだが、量産型は所詮量産……と思った所で気が付いたのだ。
「昔の人は言っていたのです。備えあれば嬉しいな! と」
(「それは過程が違うっての。っていうか……アレは、私の本体じゃないか!?」)
ウェスタが目を輝かせてwzを見上げる中で、ヘカテーはとあるモノに気が付いた。それは親の顔をより何度も見たというか、見るが当然のシロモノであった。
「三段階変形はロマンだと言って、|アイツ《コマンダー》に持ち去られて以降、何処に行ったのかと思ったらこんなところに……あぁ、懐かしい私の身体……って、何だこれは!?」
それはヘカテーがベルセルクマシンであった頃のボディであった。
しかし、よく見れば全く違う。そりゃ今のレプリノイドのボディに移されているよりマシだが、装備とかいろいろ違ってしまっている。なんんてったて偶像……じゃなくて決戦型のwzに改造されてしまっているのだ。
「クッ、ここまでして私を汚したいというのか……けど、なんか色々と武装も増えてるわね……。…これはこれで、ありなの……?」
なんて事でしょう。知らない間にwzに改造されてしまった彼女の本体。
かつて持ってなかった装備や追加装甲兼スタビライザを見て、まるで女の子がドレスアップしたような表情でデータを眺めた。そう、元がマシンであるヘカテーにとって、性能がUPするのは良い事なのだ。人間の感性を植え付けられたことで、少し変化したのが問題であろう。なお、特定の方向に圧迫して思考パターンを替えることを、教育とか調教とか言う(本来の調教はいやらしい言葉ではない)。
「やっぱり、|量産型《ジェネリック》に、斧は必須なのです!」
その頃、ウェスタは武骨な装備にニンマリしていた。
武人の蛮用耐える頑丈さに、重さは強さというシンプルでコストの安い装備だ。殴り合う時に重要な火力と使用時間の全てを兼ね備えていると、量産品が持つのに、これほど優れた装備はないだろう(槍は状況により過ぎる)。
「フハハハ、現場での交渉とディールは大切だ。これで我が組織は、更なる飛躍をすることだろう」
そしてコマンダー・オルクスは荷下ろしされた場所に、代わりに積まれた残骸や鹵獲兵器を見て満足していた。ゴミではあるが宝の山。野戦陣地ではそれでも使う事があるが、ただより高い物はないと補給物資で黙らせたのだ。誰の文句も無い、これを笑わずしてはおれまい。
こうして続々と整いつつある本陣は、息を吹き返していた。
●
「休息の時期!」
(「……といっても実質作戦中なので中休みとして装備整備、拠点内を巡るのです」)
|森屋・巳琥《もりや・みこ》(人間(√ウォーゾーン)の量産型WZ「ウォズ」・h02210)は真っ暗闇の様な危険が日常であった。束の間の休息がピクニックに見えても仕方がない。命の危険なしにデータを知れるのは良い事だ。
「ふ~、やっと一息つけるわね~」
|鋼河・桜《こうが・さくら》(風遁の討魔忍・h06126)は髪を撫でつけるような仕草をした。するとたちまち頭から足まで風が巻き起こり、空冷化する。これは彼女が風遁を応用したテクニックであった。
(「えーっと、誰も見てないわよね」)
桜は戦闘モードを切ると、次の戦闘に備えて休憩を始めた。
男性が居ないとみて、オーバーヒート寸前のサイボーグアームやレッグを空冷排熱する。もちろん忍者である彼女はお色気も武器だと理解している。だが、それは無駄に見せつける事を意味しない。ついでに言うと情報管理は重要だ。
「一時の休息で御座るな。拙者は補給物資の調達を手伝うで御座るよ」
「それはすまないねえ」
|夜雨・蜃《よさめ・しん》(月時雨・h05909)は小隊火器である設置型の機関砲を本陣に戻し、代わりに弾薬や食料を担いで配給を始めた。
「ほうほう、義肢に武器を仕込んだ御仁もいるでござるか」
「前に戦場でやっちまってコレもんよ。でもまあ、こいつはリンクしてるから精度が良くてね」
蜃が最初に見たのは腕にビームガンを仕込んだ男だ。
隠密作戦で奇襲する時は内臓エネルギーだけで戦うが、今日みたいな時は外付けのカートリッジや放熱フィンを用意するのだという。
「鹵獲したり一部解析して武器は同じようなもんなんだ。当ればいけるさ」
「そうで御座るな。よっと、これで補充終了で御座る」
そんな感じでヨタ話に付き合い、笑みを浮かべて心の余裕を取り戻すお手伝い。
よく見ると彼の様に走り回っている女の子がいる。しかも十四歳の蜃より若い六歳だ(ぷらいばしーなのです)。
「装甲状態チェック、基礎フレームはそうでもない? 推進剤補充や武器のクリーニングとかが優先ですかね?」
巳琥は自身もWZを使っている事から、かって知ったるなんとやらで修理を始めた。自分がこうして欲しいと思う事は、結構他人も思っている事なのだ。
「私自身は√EDENの出身だけど、この手足は√ウォーゾーンから提供された技術で作られてるわ。WZの装甲補修剤とか貰えれば、【烈風斬】で消耗したブレードの応急処置に流用できるかも?」
「ちとお待ちくだされ」
桜が合金製のブレードを見せると、蜃は程よい金属板と充填剤らしきものを取り出した。現実世界だと戦車の傷に鉄の板切れを張り付けて、溶接して終わりという事も少なくはない。だが、ウォーゾーンの技術は一歩も二歩も違う。
「仕込み刀と同じ様に、隠し武器で御座るな! 男の浪漫が詰まっているで御座るー。さて、取りだしたりまするは蝦蟇型の敵が内部に有していた充填剤。アクリルやハンダとは格が違うで御座る!」
笑顔でブレードの欠けを眺めると、そこに金属片を置き充填剤を注いだ。するとソレは金属状になって固着化させるのだ。要するに常温になると液状化が終了する金属みたいなナニカである。
「後はヤスリかグラインダーで削ると良いかと。あ……?! いや……失礼、事情も知らずに勝手な事を」
「このレベルなら構わないわよ」
蜃がしゃべり続ける中、桜はクスクスと笑った。
機密情報の類は伏せているし、まさしく『このレベルまでならば良い』という範囲なのである。彼女は忍者なので警戒を呼びかけるような識別マークなんかつかわない。機密は見られないようにするし、もし機密を見られたら殺すかさもなければ……。いや、今はその時ではない。
「そういえば、こちらで手を入れた品を提供したのですが、どうなのです?」
「見たところ、各々の所持する武器はどれも立派に御座るが……規格も別々であれば、物資の補給も大変で御座るな」
巳琥の問いに蜃は色々と見回り、汎用武装や装甲板はともかくそれ以外がワンオフなどである事に気が付いた。巳琥が供給した物もあるがそれ以外も多い。いわゆるサイバーパーツは取り換えが効かないし、出来たとしてもサイバー手術を必要とするタイプで、アタッチメント型は少ないのだ。
「その辺りは名簿などに纏めておいた方がわかりやすそうで御座る」
そんな中で、蜃はデータがまとめられていないことに気が付いた。
要するに以前からの慣例というか、適当に自分で補充したり、補給担当が沢山持って回って終了なのだ。持ち場の重要性や負傷などで、トリアージが効いて居ればまだ良い方だろう。おおよその名簿を作成し、この場に残る気でいる者や、その内に去る自分達のような分類を簡単に書いて行った。
「汎用品に近い物は問題ない……と。使用感の変わる仕様差はないつもりだったので、そこはホっとしたのです。でも、他の人たちがワンオフというのは確かに盲点でした」
巳琥は基本量産品使いなので、それほど変わったことをしたつもりはなかった。それ自体は正しいのだが、問題は能力者と言う者はみんな好き好きにやっているという事だ。汎用品を消耗させ、ここぞというところで自前のを使いたがる傾向がある。
「|決戦型《ワンオフ》には憧れるし乗りたいですが、量産型の取り回しの良さも良いものですよねぇ」
そんな中で巳琥は新たな量産品のWZを見かけた。どこかで見た機体であり、シャークマウスのペイントくらいしか差はない。
「おーい! こいつを持ってくれ! WZの武装を取り替えたいんだが、片腕がイっちまってな」
「この忙しさ。いつだって万全、というものはないので御座ろうなぁ……。後は拙者がやっておくので、休める時は休むで御座るよ」
居てる傍から蜃たちが呼ばれ、数人集まってきたが能力者は居なかった。そこで自分がそうであると告げ、地元出身の一般人たちを中心に休ませたのだ。
「私もお手伝いするのです。もし腕自体を取り換えるなら、起動しますね」
「そこまでは良いつーか、時間はねえよ。嬢ちゃんの機体は大事にしてやんな。体の代わりだからな」
そして降りて来たパイロットと、WZ乗り同士がWZの外でお話するという、珍しい光景にホッコリした。
とはいえ、大切な休息時間はあっという間に過ぎていくものだ。
「大口径対魔ライフルは貫通力単体特化、対結界ミサイルは爆破の衝撃で構造物の破壊が得意よ。主に使う能力はこの辺ね」
「あたしはハンマー振り回すタイプだね。体を痛めるんでやりたかないが、連続攻撃も出来るよ」
対照的に桜の方は、現地の能力者と話し込んでいた。
星詠みに派遣されたタイプではなく、この辺りで活動しているらしい。
「短時間だけなのはいただけないけど、中途半端よりはパンチ力があるのは良いかもね。仲間内に一人、大勢なら二名くらいかな? そのくらいなら心強いと思うわ」
「なるほどです。そう言う局面で投入すべきなのですね。ひとまずこれで次は更に動きが良くなるのです」
桜の他にも巳琥が自身の戦術に関して、他者の意見を参考に強化しようとしていた。もちろん自分が好きで提供するものだ。博士の研究のために役立てばそれで良い。だが、それでもちゃんとデータを取って、微調整することは重要なのである。
こうして一同は、どうやって戦線を支えるかなどをお互いに相談するのであった。
●
「お。随分と店を拡げやがったなあ」
「しかもレイン兵器のバリエーションかよ」
本陣の一角で航空ショーならぬ兵器展覧会があった。
この場合の店とは、布を並べて商品を置く露店を例えたものである。
「ええ。私の装備は全てレイン兵器に関連したものです」
先ほど、ベルセルクマシンを元に人格移植したレプリカントが居た。リズも似たようなものだが、彼女は既にこの世を満喫している。機械のシャドーペルソナ? 言いたいことは言わせておけ、偽装人格の人生設計に宵越しの自慢は存在しない。
「先ずは各種レイン砲台。高い汎用性を誇る通常型。粒子が四角形状に展開します」
みーっ! とでも音がしそうな勢いで軽く発射してみた。
そこにエネルギー保存のために自重するという言葉はない。
補給物資を無駄にするな? 手持ちをリサイクルしているので問題ない。
「特殊波形の電波を展開する電子戦型。中空に電撃が発生するのが特徴」
「電信戦型かあ。言われてみればエネルギーをコントロールすんのに、そう差はねえなあ。粒子砲とビームは違うが、ビームとメーザーは似たようなもんだもんな」
リズの言葉にとある整備兵が感心した。
キラキラと輝く砲台の動き自体が綺麗であり、まるでドローンショーの様に見える。それが様々なエネルギーを放射するのだ。テクノロジスト系の人間には面白く感じられるのだろう。
「六角形の防壁が美しいシールド型。そして粒子が結晶化した高火力型。みんな良い子達なんですよ」
そしてリズは最後まで言い切った。
言い淀むことなく、恥ずかしがること無く、楽し気に語る姿はレプリカントには見えない。
というか貴女もベルセルクマシン出身者でしたよね? と疑問を浮かべる者もいるかもしれない。
「また主武装のLXMと防具のLXFは、レイン兵器から追加エネルギーを得る事で一時的に強化されるという性能をしています」
「ん? ああ、そうか。電動自動車がバッテリーを逆用して、小型の道具なら簡単に動かせるようなもんか」
そうですとも! 特に口にはしていないことまで、リズの表情からは伺えるようであったという。
第3章 ボス戦 『鐵浮屠』

●
『オオオー!』
ドーン! と音がして戦場の一角が揺らめいた。
どうやら大将機が出陣して、戦局を変えようとしたのだろう。
残りのマシンは援護ではなく、やや引いて移動力を担保した形である。
「あれは……奴さんが前衛を突破したら、一気に来る心算みてえだな」
「ということは、キーであるそれを防ぎきったら、今回の侵攻は防げるって訳ね」
敵は愚かではない。勝つためには大将機も損壊の危機を賭けるし、勝てないならばさっさと引くべきだからだ。彼らはマシンであり、その思考は何処までも冷徹であった。だからこそ、その戦略も読み易くはあった。
●
「おっと……とうとう大将のお出ましか」
ルーネシア・ルナトゥス・ルター(銀狼獣人の職業暗殺者・h04931)は黄金の瞳をキュっと絞った。腹が座り手足の健に力が入る。
「いよいよ敵の大将機が出てきたようですが、此方も整備を終えて準備万端です」
「なに、焦ることはないさ。お相手は切り札を切ってきた。なら、それを防ぎきればこの戦場は私達の勝利だ。終わりが見えてきたよ」
リズ・ダブルエックス(ReFake・h00646)が凛と語り始めると、ルーネシアはむしろ力を抜いた喋り方をする。そして暴れたくなる心を適度に弛緩させた。
「決戦開始であります! この厳しい戦線を終わらせましょう!」
そしてリズは華やかに指揮を開始した。
仲間達に見せた幾多のレイン兵器が煌く様に飛び立って行く。
「気力も十分だ、さぁ行こうか」
ルーネシアはへらっとした笑みに牙を隠して緩やかに歩いて行った。
まるでワンコの散歩に行くかの様であり、そして……あえてパワーでパワー系の相手に立ち向かうかに見えたのだ。それは人々に勇気を与えるかのようであった。
「そうです、恐れないで! 先ほどのショーで紹介した、レイン兵器からのエネルギー供給システムをお見せしましょう。レイン兵器の出力を防具機動力と武装破壊力の2点に集中。高速近接戦へと移行します!」
リズはまるで愛と勇気以外に何も無くなってしまった、故郷が全滅してしまったヒーローの様に果敢な戦いを挑む。だが、そこに気負いはなく、ただ勝算があるのみだ。
(「反応速度が半減という敵のデメリットに対して速度で攻めるであります。固定目標に対し、機動力を伴う大規模火力による一斉攻撃を!」)
リズは大型のレイン兵器からエネルギーを供給し、背中や足に光の翼を生やした。そしてプラズマで大型のブレイドを形成して突撃して行く。
『オーン!』
「遅い! このまま引きつけて削ります! 追い討ちを頼みますね」
敵は十二体の量産型を引き連れ、指揮しているからこそ鈍い。そこへ各種レイン兵器たちの火砲で削り、自身は大型ブレイドで切り刻む戦法である。青い手が反応した時にはもう遅い!
(「あー。始まったね。祝砲は派手な方が良い。大将機を完全に破壊する必要はなさそうだね。これ以上コストをかけても勝てないと判断させればお帰りいただけそうだ」)
ルーネシアは四つん這いの体勢で、地形の起伏に隠れた。
いつでも飛び出せるようにしつつ、戦場を観察しながら移動している。
彼女は敵から見えない様に隠れているが、普段ならばセンサーが反応する筈だった。だが、√能力によりそれらを撹乱し、AIその他を白痴させていくのだ。それは暗黒の帳であり、月のマイナス面でもある。
(「確か何機かWzが居たよね。機体乗りがいるのなら、私は私は遊撃隊にでもなろうかな」)
パワー重視の機体にパワーで挑むと見せて、最初から彼女はそのつもりはなかった。姿を隠し、敵から見つかり難いという利点を活かして戦場を駆け巡る。
(「恥ずかしがり屋ですまないね。目立つのは柄じゃなくてね。出会ってしまった不運な仔ならば相手するのもやぶさかじゃないけどね」)
そして白昼の残月が太陽の明るさに溶ける様に。
激動たる戦場に小さな音が紛れる様に、幻惑するような閃光が戦場を彩る中で、静かに敵のセンサーを潰して歩き、あるいは不意打ちで量産型を狙っていく。
●
「デカブツの割にぴょんぴょんしてくれるじゃない」
|鋼河・桜《こうが・さくら》(風遁の討魔忍・h06126)は口笛でも吹きそうな気軽さで、敵の巨体を眺めた。
「あの質量で踏み潰されたら流石にキツいわね。ここは前衛に任せて、みんなで遠距離攻撃が妥当かしら」
桜は戦場を確認し、能力者以外の仲間や、それらに混じっている『星詠みから派遣されてない能力者』達を眺めた。みんな気の良い仲間だが、彼らを死なせたくないものである。
「あんなの相手に足止めかよ? いいぜ。やったろうじゃないの!」
その言葉を聞いた継萩・サルトゥーラ(|百屍夜行《パッチワークパレード・マーチ》・h01201)は酔狂な笑みを浮かべた。どうせ戦うならば華やかな方が良い。死人に過ぎない自分ならば良い、生きて帰るのは他のメンツで良いと割り切ったのだ。
『オーン!』
「まぁ焦んなや、楽しいのはこれからだ」
サルトゥーラは牙を剥いて戦場を掛けたが、決して愚かではない。
むしろ楽しく戦うからこそ、冷静に成れる面も存在した。
ゆえに前衛として足止めは行うが、走りながらショットガンを使って、出来るだけ相手の攻当たらない位置に移動しつつ、ガトリング砲による戦場制圧を行う。
『オー!』
「あ? バリアーか! ならこいつはどうだ! ……せっかく俺が食い止めてんだ。後はまかせたぜ!」
サルトゥーラの叩き込んだ弾丸はエネルギーバリアで弾かれていく。ゆえにケミカルバレッドを使用し、超強酸で持ってエネルギーバリアを無効化しながら内側の装甲を削って行く。そして反撃の体当たりを受けてしまうが、気にせず仲間の攻撃を促したのである。
「今よ! 全軍砲撃開始ってね!」
「あの兄ちゃんだけに良い恰好させんな!」
「ここはオレらの故郷だぞ! せっかく取り戻したんだ!」
そこで桜は間髪入れずに現地組と共に攻撃を始めた。
大口径のライフルをぶっ放し、ミサイルで結界をこじ開けながら射撃して行く。同様に仲間達もバズーカやらサイボ-グ用のライフルを放ち、あるいは迫撃砲なども動員して火力を結集した。
「量産型の指揮にリソースを割いてて処理能力が落ちてるから、回避能力は下がってる筈! そうでなくなくたってあんなデカブツ、撃てば当たる! 出し惜しみはなし! オールウエポンズフリー!」
「「おお!」」
実際にそうであるかなど確認をする余裕などないし、その必要もない。仲間たちと戦う事で火力を底上げし、敵が突入する前に少しでもダメージを与えようとしたのだ。それでも動きが止まらないのを見ると……。
「華奢な美少女だからってナメないでよね! サイボーグアームでアッパー! か~ら~の~! |風裂穿杭撃《エアロバースト・インパクト》ォ!!」
敵がバリアーを保って突撃して来るので、桜は合わせて前に出る。
他のメンツを出す訳にはいかないのと、彼女には強力な白兵戦能力もあるからである。なお、忍者であり情報の秘匿を旨とする彼女が、あえてサイボーグアアームであるとか、技名を口にしたのには意味がある。乙女心は複雑だよね。
●
その様子を離れたところで見守る者たちがいる。
「依頼の対象を発見したよ、マスター」
『こちらも確認した。遠慮はいらんぞ』
第四世代型・ルーシー(独立傭兵・h01868)は通信機越しに自らのAnkerであるオペレーターと会話した。いつもの様に、既に受けて居るオーダーが変わっていないかを確認。変わって居ないからこそ、攻撃を開始する。
「相手の戦略がわかりやすいのはいいね」
一方で、クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)はもう少し戦場を俯瞰していた。ただ戦うのではなく、何をすべきなのかを把握する。
「突破されればこちらの負け、防ぎ切ることができればこちらの勝ちだ。勝利を掴むために全力を尽くすとしようか」
クラウスは操縦桿に指を懸け、汗や摩耗で滑らないことを確認。モニターを眺めて全装備の状況を確認すると、目を閉じてそれらを暗記した。何処で何をどれだけ使っても、間違えない様にするための……。精神を統一するためのトリガーだ。
「これより任務を開始する、マスター。全感覚投入、カウントダン省略」
『システム戦闘モード起動』
ルーシーが先行して戦場を疾駆し始める。
戦闘強化剤が注入され、マシンヴォイスが空しく木霊する。
ルーシーの意識は既に均一化され、特に感動も焦りも存在しない。常に平常時の状態を保つのだ。
(「今回の依頼は、『鐵浮屠』っていう敵みたいだねうーん。見た感じだいぶ重装甲で生半可な攻撃は通らなそう、やっぱり愛用|の《・》でいつも通り攻撃しようかな……ブレードいつもありがとう!」)
ルーシーはどこか間延びした意識の中でWZを操った。
戦場に立っているとは思えない呑気さだが、冷静に状況に対してWzを動かしている。こちらの意思を汲んだかのようなAIにお礼の目線を向け、アイドリング中のパルスブレードを抜刀!
『牽制。制圧射撃』
必要最低限の事を口にした瞬間、4連装ミサイルランチャーが火を噴いた。それらは全て彼女が近接距離につくまでの繋ぎ。そしてバリアーの状態を固定して置くための手段に過ぎない。
『オーン!』
『消えろ、イレギュラー』
敵の体当たりとルーシーの声は同時。
既に行動している彼女の方が早い。
パルスブレードの直撃と同時に、肘関節に物凄いカフカが掛かった。放熱冷却でも間に合わず、ヒートシンクのの表示が既に真っ赤だ。遅れて腕が使えなくなった事が表示され、赤いランプが付いた。
「援護する! 合わせよう!」
(「WZに腕はもう一本あるけど……。あ、そう言えばもう一機居るんだっけ。なら、このまま一撃離脱で、反転してもう一撃かな」)
その時、クラウスの駆る『蒼月』が見えた。
ルーシーよりも後から行動したはずだが、相当な機動性であることが見て取れる。ルーシーはその動きを確認すると、無理をせずに離脱。反転してクラウスが攻撃を仕掛けるのに合わせた。
「まずは足を止める!」
クラウスは高速で機動を掛けながら、重い一発を放った。
グレネードをぶっぱなし、直ぐに別の火器に変更して撃ちまくる。
動きを止めるために撹乱しつつ。盾を構えて相手の牽制攻撃をガード。その陰で今度はプリズムランチャーへ変更、スタンロッドへと順次変更を掛けた。
「行け!」
『了解』
クラウスはルーシーの機体の為にランチャーで砲撃。
その閃光が途切れる間もなく、ルーシーがパルスブレードで切り掛かったのだ。そしてクラウスはすかさずその動きを見守り、もし突破されたりピンチに成ったら割って入ろうと、スタンロッドを抜いたのである。バシィ! と弾けるような音は、敵に一閃炸裂させた音か、それとも別のナニカであろうか?
●
能力者側のWZ部隊はまだ存在している。
次々と現れる、オリュンポス驚異のメカニズム(なおウォーゾーン由来)。
「ほう、大将機、自らが戦線を押し上げるか」
コマンダー・オルクス(悪の秘密結社オリュンポスの大幹部・h01483)はニヤリと笑った。中二病である彼は、CEOと違ってちゃんと戦術マニュアルを読み込んでいる。世が世ならば中華に居たという諸子百家にも成れただろう。
「確かに、下手に兵力を消耗するよりも、強力な一手で、突破が可能かどうか判断するのは、理にかなっていると言えるな……つまり、小細工はないと見える!」
彼の灰色の脳細胞は、敵がコンコルド効果を避けたのだと理解した。
未練がましく戦線を維持せず、勝てないならばさっさと引き揚げ、勝てるならば戦力を集中投入する気なのだろうと判断したのだ。
「コマンダー。『量産型WZ分隊』配置完了なのです」
「さぁ、我らがオリュンポスが誇るWZ部隊よ! 行け、行って、散ってこい!」
そこにウェスタ・プロメシアン(PR会社『オリュンポス』の|量産型戦闘冥土《ジェネリックメイドトルーパー》・h05560)が十三体+@のWZ部隊の集結を告げると、コマンダー・オルクスは高らかに戦争介入を宣言した。
「コマンダーより、任務受諾。|お掃除《戦い》の時間なのです! 中央に続いて、右翼、左翼、一斉攻撃開始なのです!」
ウェスタは意気揚々と自らの存在意義を示しに向かった。
戦うために生まれて来た彼女たちにとって、実戦テストを終えることは重要だ。参考にした原型機でもなく試験機でもなく、ジェネリック品として完成した以上はその性能を見せねばなるまい。
『オー!』
「どうやら、向こう側も、数が同じく、指揮官機の量産型が出て来たのです。敵は、量産型といっても、見たところ重装甲タイプ。各ウェスタたちは、レーザーライフルとMLRS『ククヴァヤ』で攻撃開始なのです」
敵も待機させている量産機を出動させたので、ウェスタはガップリ四つに組んだ。量産機同士のぶつかり合いで、さっそくこちらに損傷が出ている。やはり重装甲型と相手十分に戦うのは旨くない。ゆえに射撃戦に持ち込み、白兵戦は突破口を開くために温存しておく。
一方、その頃……。
「さて、私は敵がやらない小細工とやらをさせて貰うとしよう!」
(「|あの男《コマンダー》は、銃火器が飛び回る戦場で、何で、生身でちょろちょろと動こうかと思うのかしら!?」)
コマンダー・オルクスが鼻歌謡いながら色々と仕掛けているのをヘカテー・ディシポネー(悪の秘密結社オリュンポスの女幹部候補生(仮)・h06417)は横目で見ていた。かつての自分の本体をWzとして騎乗しているとはいえ、やる気はあまりない。
「フハハハ、これがお前の監獄だ!!」
コマンダー・オルクスはワイヤートラップを用意する事で、『偽物の目標』を用意した。敵が『あそこを落せば終わりだ』とリソースを投入する様に間違った判断を導こうというのだろう。
(「鼻歌も歌っててムカつく!」)
ヘカテーは指示に従ってレーザーライフルや大砲をぶっ放しているが、反撃もきつい。気分は『だんち●う、何やってんだよ!?』状態であろう。
「っ!?」
「戦闘による損傷が酷い量産型WZで、撤退困難なウェスタは、敵機体ごと|爆破《自爆》特攻なのです!」
あーっと! ウェスタの量産個体がふっとばされたあ!
誰かさんが鼻歌謡っている間に、グシャっと行ってしまったかもしれない!
まあ、その指示を出したのは、他ならぬウェスタ本体なのですけどね。
「私の控えは、まだ会社にいっぱいあるのです! あ……、でもWZは、あまり多く壊すと、会社にも赤字なのです!?」
なお、ウェスタは指揮官ではなく、歩兵であるWZは騎兵かもしれない。
つまり、誰かの指示で動く場合はその通りに動けるのだが……指揮官が夢中で何かやってる時に、予算の心配をし始めると空回りしかねない。
「見てられないわね! しかも、あのエネルギーバリアは、相当厄介ね。敵の速度が、通常の3倍に上がった!?」
ヘカテーもレーザーライフルがエネルギーバリアで弾かれたり、高速で突っ込んで来るのにキリキリまいさせられていたのだ。ハッキリ言って、『●さん。ピンチです』状態かもしれない。
「間に合わない……そうか、そうだ。この機体は、機体にして機体に非ず。WzにしてWzに非ず!」
その時、ヘカテーは自分が乗っているのが本来のボディであることを思い出した。もしかしたら、コマンダー・オルクスの行動はポーズかもしれない。つまり、この時に、危険そうなタイミングで御膳立てのされたのだろう(きっと)! シンプルに言うと、新たな√能力に目覚めたのです。
「これこそ、私の真の姿だ! コア・リンケージ・マキシマムブースト!!」
ヘカテーは己の本体と現時点のコアをリンクさせ、極限まで能力を高めた。正確には本来の力の数分の一を取り戻したと言って良い。そしてWZ用として開発され、かつての体には無かった対√能力相殺銃を起動させる。能力を底上げした状態で撃ちまくりながら、破壊された盾の代わりに光の剣を抜いて白兵戦を挑んだのであった。
『オーン!』
「古より、自慢の武力で馬鹿正直に挑んで来る大物は、網に弱いと相場が決まっているのだよ!」
そして体当たりをぶちかまして抜けて来た敵に対し、コマンダー・オルクスは紐状になった刃を引っかけて雁字搦めにするのであった。
●
その頃、本陣では残った戦力を何処に使うかを話し合っていた。
(「人は疲弊していくもので御座る、そろそろこの戦線に決定打を叩きつけなければ」)
|夜雨・蜃《よさめ・しん》(月時雨・h05909)は冷静に戦況を見守っていた。現在は味方有利だが、この街の周辺含めた戦線が開かれており、所詮は一局面に過ぎない。
「成る程、あれが大将機でござるか。はは。大将が自ら前に立つとは敵ながら天晴れで御座るなあ。まるで名乗りを上げる様で御座る」
蜃は仲間達の気分を盛り上げる為、あえて古めかしい表現を使った。
東洋の侍も、西洋の騎士も、大昔は一騎打ちで戦ったものだ。
西部劇だって腕利き保安官と悪のガンマンは一騎打ちではないか。
「敵の拠点攻略の要を抑え、不幸な未来を砕く。相手にとっては『先生お願いします!』という所でしょうか」
その流れを受けて、|森屋・巳琥《もりや・みこ》(人間(√ウォーゾーン)の量産型WZ「ウォズ」・h02210)はもう少し新し目の考察をしてみた。『要所を叩くために精鋭を投入した』という言葉を茶目っ気効かせて話してみたというあたりであろう。
「足留めを行い|突破《一機駆け》を防ぐことで相手の士気を砕く……基本的に相手にそんなのは無いか」
巳琥の表情は変わらない。でも眉毛は上下している。
彼女自身は別に焦っているわけでもなく、ただ周りの雰囲気を変える為なのだ。
「……うむ、まぁあれは心なき機械群。その方が効率が良いと判断したのであろう」
(「|変わったAI《変態》はたまに見るけど」)
蜃が冷静な分析で占めると、巳琥はそれ以上追及しなかった。
√能力者に影響を受けたのか、偶に変人ならぬ変な個体も居るのだが、ここでまぜっかえしても意味がないと判断したのだ。
「あの大将首の正面は、√能力者が対応致す方が良さそうでござるな。その間、敵の後方機の様子も気にしておいて欲しいで御座る」
蜃は地面に描いた地図を前に、本陣前にトラップの最終防衛ラインを設置、そこからザっと横から牽制をする提案をした。
「拙者は進行方向に銃火器爆薬のトラップを仕掛けてから、拙者は進行方向の横からつついて見るでござる。今ならば同じことを考えている仲間も居ますゆえ」
どうやら援軍に来た何処かのWz部隊が戦う間に、同じような事を考えている者が罠地帯を構築中との事。蜃はそこに合流してトラップを仕掛けた後、回り込むようにして戦うらしい。
「了解です。ここを押さえて作戦続行が不可能になった旨をお相手に伝えてあげないとですね。ええと……」
巳琥はその案を受け入れて、自分が最終防衛ラインに立つと告げた。
そして本陣に居る仲間の駒を指さし、実際に転がっている武装に視線を向けた。
「基本は[スナイパー]からの[制圧射撃]が主です。他の皆含めて着実にダメージを稼いでいくのです。|兵装《戦い方》は皆違っても力を合わせることはできるのですから」
「その辺は判ってる。場合に寄っちゃ明日も続くからな。無茶はしねえよ」
巳琥の言葉に仲間達は頷いた。
此処で無理をして心配をかける方が問題だろう。
それゆえに指示通り、遠距離攻撃に徹することを了承したのだ。
「必殺の一撃のみだと相性的には良くないので攻撃回数を稼ぎ総火力を上げながらもある程度分散して、相手に|√能力《リソース》を切られた際の成果を防ぐのです。この場合は、この手前で用意しているトラップ地帯なのです」
巳琥は今行われて居る作戦について説明した。
強力な重装甲個体に罠は通じないよう一見える。
だが、そこを本陣と思わせておいて、リソースを使わせる作戦だ。相手が全力を使った所でそれを受け流し、逆撃で仕留める案である。
やがて敵が紐上の刃に絡み取られ、あるいは爆発物で吹き飛び始めた。
「今でござる! 疾れ轟音」
蜃は御去年とばかりに苦無を投げつけ、その周囲に電撃を浴びせた。
それが敵へ弾丸を勇往する形になり、相手が避けられない所へみんなが狙撃や砲撃を行っていくのである。本陣にあるのは迫撃砲であったり、やはりスナイパーライフルなどが主だ。小隊火器やバズーカは既に前線に持ち出しているとか。
「お主達はそれで突破する算段だった様だが、大きな間違いだった様で御座るな。此処の者達には、一概に勘定できぬそれぞれの強みがあるので御座る」
蜃は苦無による牽制と支援から、抜刀しての白兵戦に切り替えた。
氷龍の力を纏い、高速で突っ込んでいくのだ。冷却された刃に先ほど放った雷電が乗り、超電磁現象が起きて雷が迸り始めた。
「……忍法氷龍纏い、霞千靭奔り」
基礎戦闘力が強化された状態での高速斬撃!
走り込んでの一撃が敵に見舞われ、バリアーを貫くほどの一撃は、量産個体を滅ぼしながら本体に迫る!
(「ヒットアンドアウェイ出来ればよいですが目的は拠点防衛なのです」)
そして本陣に籠った巳琥は仲間たちの攻撃に続いて自身のWz投入を決定した。敵はエネルギーバリアであったり、追加装甲を用意できる。ゆえに仲間たちの攻撃で削り、自身もまた可能な限り強力な状態で、一気にトドメを刺しに向かったのであった。
「高負荷リスク承認、限界のその先へ……」
巳琥の操る量産型WZ『ウォズ』は真紅の輝きを放ちながら決戦モードへ以降。炸裂弾を何度も撃ち込みながら、出来るだけ敵の攻撃を本陣に届かせない様に、『偽物の絶対防衛線』で踏み留まって戦い抜くのであった。
「終わったで御座る!」
「人類の勝利なのです!」
やがて敵は動きを止め、量産型個体は殲滅。
本体も崩れ落ち、一応は葬り去ったように思える。
何ぶん、機械文明相手だけにまた増えた利メモリーが回収されて居ないとは限らないが、この戦線を押し返すことに成功したのであった。