シナリオ

「ぼくはヒーローになりたかったんです」

#√マスクド・ヒーロー #シデレウスカード

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 #√マスクド・ヒーロー
 #シデレウスカード

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●今日からヒーロー
 その少年はヒーローに憧れていた。
 画面の中で暴れまわる怪人を、いとも簡単にやっつけてしまう、かっこいい大人。
 あるいは、どんなにボロボロにされても最後には必ず勝つ、正義の味方。
 まあ、少年にとっては簡単にやっつけてくれるほうがスカッとするのだけど。
 そんな少年はヒーローのカードを集めるのが趣味だった。
 そして、いつも通りカードショップでカードパックを購入し、家で開封すると、そのカードが入っていたのだ。

「なんだこれ……? こんなカードあったっけ?」

『いて座』と書かれた星座のカードと、もう一枚は上半身がヒトで、下半身が馬の奇妙な生物が描かれたカード。
 ――『十二星座』と『英雄』のカードがご丁寧に二枚セットで入っており、少年はその日を境に『|ヒーロー《怪人》』として活動を始めることになる。

●星詠み
「シデレウスカード。変身の力を宿した不思議なカードが何者かの手によりばら撒かれている」

 星詠み――|氷室《ひむろ》・|冬星《とうせい》(自称・小説家・h00692)は、あなたにそう告げた。

「シデレウスカードは『十二星座』と『英雄』のカードが描かれたカードだ。単体で持っていても影響はないのだが、『十二星座』と『英雄』揃ってしまうと所有者に影響を及ぼす。もし√能力者であれば、膨大な力を制御して『カード・アクセプター』になれるかもしれないが……何の能力もない一般人は星座と英雄の特徴を持った怪人『シデレウス』に変貌してしまう、恐ろしいアイテムだよ」

 怪人と化した人間が世界に良い影響を及ぼすことは想像できない。
 混乱が巻き起こる前に、なんとかシデレウスになった人間に接触し、止めなければならない。

「しかも厄介なことに、今回シデレウスカードを入手した人間、小学生くらいの少年らしくてね……。カードパックの中にシデレウスカードを紛れ込ませるのはもはや罠だろう……」

 冬星は「まいったね」というふうに肩を竦める。
 シデレウスカードをばら撒いているのが何者かは知らないが、あなたはその卑劣なやり口に怒りをあらわにするか、呆れるかのどちらかかもしれない。

「そういうわけで、今回の冒険譚は怪人と化してしまった被害者の少年を救うこと……かな。少年はヒーローに憧れていて、特撮の撮影現場に紛れ込んでいるそうだ。子どものままでは考えられなかった知恵がついているね。で、その撮影現場にキミたちも潜入して、大人に変身している少年を見つけ出してほしい。そのあとは戦闘に移行して、少年を無力化。シデレウスカードを没収すれば怪人化は止められるだろう。その後、カードをばら撒いている犯人を倒すこと。それで事件は解決だ」

 冬星は「気をつけて行っておいで」とあなたを送り出す。
 これは、ヒーローになりたかった少年を怪人の手から救い出す物語だ。

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第1章 冒険 『撮影事故を阻止せよ』


 とある特撮作品の撮影現場に、シデレウスとなってしまった少年が、大人の姿になって紛れ込んでいるという情報を掴んだあなた。
 少年はヒーローに憧れているというが、その本性は怪人である。
 ヒーローをやっつけて、自分がヒーローになった作品を撮影させようという魂胆かもしれない。
 もちろんそうなれば、子どもがギャン泣き必至の悪夢のような作品になってしまうだろう。
 あなたもこの撮影現場に潜入して、撮影事故を阻止しなければならない。
亜双義・幸雄
第四世代型・ルーシー
東雲・グレイ
黒木・摩那

「依頼の場所に到着したよ、マスター」

 第四世代型・ルーシー(独立傭兵・h01868)は、己のマスターが用意してくれたスタッフ用のIDを使い、潜入を果たした。

「シデレウスカードかぁ……。無差別に怪人を生み出すだなんてひどい話だね、さっさと黒幕を倒して被害が広がる前に対処していかないと」

 さて、どうやって少年を探そうか、とルーシーは思案に暮れる。
 見た目は大人に変身しているとのこと、何の対策もなく探すのは難しいかもしれない。

「ヒーローに憧れてる大人を探したらいいのかな?」

 とはいえ、ここは特撮の撮影現場、ヒーローが好きな大人が大勢集まる場所……。
 うーん、と悩むルーシーに、「映像作品に自分を残したいのなら、撮影開始までは派手に動かない……はず」と、同じく潜入していた|亜双義《あそうぎ》・|幸雄《ゆきお》(ペストマスクの男・h01143)が助け舟を出した。

「まずは√能力でインビジブルから情報収集するかね」

 幸雄の√能力、【|存在定理の実証《ポジティブ・プルーフ・エグジスト》】。
「そこのお前さん達、ちょいと手を貸してくれないかね~?」という彼の呼び掛けに応えたインビジブルが対話できる状態になり、最近3日以内の目撃内容について協力的かつ正確に説明してくれる、聞き込みに特化した能力である。

「ここらで妙な男を見てない? カードを見てるとか、周りをやたら気にしてるとか……」

 そこでインビジブルから得た情報。
 お守りのように定期入れにカードを入れ、それをじっと見つめたり、祈りを込めるようにぎゅっと握りしめたりを繰り返している男がいるという。
 そのカードはいて座と、ケンタウロスの絵が描かれた二枚のカード。

「ビンゴ」

 外見特徴と目撃場所を聞き出し、自分も関係者を装って撮影現場に潜入、少年――が変身している男に話しかけた。

「特撮トレカだよね、集めてるの? いいよね、信念をもって戦う姿勢とか」

 少年は突然話しかけられ、驚いた様子だったが、特撮の関係者がヒーローに興味を持っていると思い、嬉しそうに会話に乗る。
 しかし、「一方的に暴力を振るう乱暴者だったら嫌だよね~」と言葉をかけられると、「そ、そうですよね……」と気まずそうな顔をしていた。何しろ、彼が今からヒーローに暴力を振るおうとしているのである。

 幸雄が少年の足止めをしている間に、別の場所で動いている者もいる。

「カードゲームのカードの中に怪人になるカードを混ぜるとか、やることが悪趣味ですね。まだ犯罪には至っていないようですから、一刻も早く少年を救い出したいです」

 |黒木《くろき》・|摩那《まな》(異世界猟兵『ミステル・ノワール』・h02365)は、エキストラとして撮影現場に潜入していた。
 事前に撮影場所の上空にドローン『アルバトロス』を滞空させて、周辺を警戒。
 少年がヒーローに憧れているのであれば、おそらくこそこそと登場はしないだろう。
 そして、ヒーローがかっこよく登場するとすれば、高いところから、がセオリーである。
 撮影現場にはちょうど崖を切り崩したような丘があり、撮影でもそこからヒーローが颯爽と現れて怪人たちの群れに跳び蹴りで突っ込む、というあらすじを監督から聞かされていた。
 摩那はその丘の上空にドローンを忍ばせながら、幸雄と少年の会話を観察している。

 |東雲《しののめ》・グレイ(酷薄なる灰の狙撃手・h01625)は、撮影スタッフとして現場に紛れ込んだ。
 自前のコミュ力と変装を活かし、傍目から見ればまったく違和感を与えない姿で溶け込む。
 さらに、あらかじめ自分の得物『パワードシャープシューター』を使い捨てステルス迷彩で隠し、パッと見では装備していることを察知されないようにしながら、スタッフとしての仕事をこなした。

「掃除にセット移動に飲み物の準備、落ち着かないな全く。」

 忙しく立ち働きながらも、その目は鋭く周囲を観察し、周囲の高い位置や狙撃行動時に障害物等によって邪魔にならない場所を目測で弾道計算する。

(狙撃するなら……あのあたりで構えるか?)

 たとえ相手が幼い少年であろうとも、グレイは容赦するつもりはない。
 もしも、彼が周囲に害を与えるならば……もちろん、そうならないことを祈るしかないが。

第2章 冒険 『シデレウスカードの所有者を追え』


 少年がヒーローに危害を加える前に足止めをし、撮影は無事に終わった。
 結局、少年は良心に痛みを覚え、撮影をめちゃくちゃにして、自分がヒーローに成り代わろうとするのを思いとどまったのだ。
 しかし、それを良しとしないものがいた。少年の買ったカードパックにシデレウスカードを紛れ込ませた怪人である。

「フン、しくじったか。ならば、強制的に――」

 怪人が指を鳴らすと、少年は「うう……ッ!」と頭を押さえてうずくまった。
 その姿は半人半馬にして弓矢を持った怪人、サジテリアスケイローン・シデレウス。
 怪人は√能力者たちを視界に入れると、手に持った矢をつがえて、あなたたちを狙う。

【サジテリアスケイローン・シデレウス】
 POW:パワーシューター
 弓矢の強大な一撃。矢を一本しか射てない代わりに装甲を貫通する。
 SPD:ケンタウロス・アタック
 馬となった下半身で突進する攻撃。速度と威力が4倍、受けるダメージが2倍になる。
 WIZ:ケイローンの知恵
 10秒瞑想して、自身の記憶から憧れのヒーローを1体召喚する。憧れのヒーローは使用者と同等の強さで得意技を使って戦い、レベル秒後に消滅する。
東雲・グレイ

 東雲グレイは撮影現場に潜入していたときにあらかじめ決めていた狙撃ポイント――高台にダッシュと隠密で、サジテリアスケイローン・シデレウスに気づかれないように登る。
 装備していたパワードシャープシューターを構え、【対敵抹殺態「破城の鋼砲」】に変形。スナイパーとしての経験、弾道計算、そしてクイックドロウによる狙撃で敵を狙った。

「【|変身解除による絶望《ヒーロースレイヤー・タイプディスペア》】――悪夢の時間は終わりだ」

 銃口から放たれた弾丸は怪人を貫き、少年から怪人の化けの皮――『いて座』と『ケイローン』の2枚のカードを引き剥がす。

「うわぁっ!」

 怪人への変身を強制的に解除された少年は地面に転がった。

「よし、あとは周囲を見て……」

 グレイは隠密により姿を隠しながら、これ以上の抵抗がないか確認する。
 周囲には少年を怪人に変えた首謀者の姿は見えない。まだどこかにコソコソと隠れて様子を見ているのか。
 少年は引き剥がされて地面に落ちた2枚のカードを見つめていた。

「ぼくは、ヒーローにやっつけられる怪人にすらなれないの……?」

銘楼院・くしゃら
亜双義・幸雄
第四世代型・ルーシー

 少年は這いつくばり、再び2枚のカードに手を伸ばす。

「ぼくはヒーローになりたかったんです。でもやっと変身できると思ったら、こんな怪人みたいな姿にしかなれなかった……」

 それはまだ世界を知らない、小さな少年にとって人生を左右するほどの苦悩であろう。
 変身の力を与えられ、黒幕の思うままに操られているだけとは知らずに。
 再びサジテリアスケイローン・シデレウスに変身した少年に、|銘楼院《めいろういん》・くしゃら(くしゃくしゃのくしゃら・h01671)は「キミにも良心があるんだ。いいじゃん、良心のないヒーローは単なる嫌な悪役だからね」と言葉を投げかけた。

「でもキミは誰かにまた怪人として操られてる。ならくしゃが自力で解けるように戦ってやるよ」

 くしゃらはギザ歯を剥き出してニィっと笑うと、矢が飛んでくる前にシデレウスの前に躍り出る。
 撃たれるより早くインビジブルを酷使した超加速、【くしゃくしゃ】によりシデレウスを殴りつけた。しかし、くしゃらの耐久力を超えた腕は文字通りのくしゃくしゃになる。

「――ッテェ…くしゃの両腕ダメになっちゃった」

 少年は「ヒッ……!」と戦慄した。
 彼はテレビの中の世界しか知らない。こんなに腕がひしゃげる光景なんて見たことない。
 くしゃらは「止めないなら今度は蹴る。キミが変身を解かないとくしゃはどんどんボロボロになっていく」と猛攻を止めない。

「わかる? くしゃはてめぇの良心に尋ねてんの。他人が痛かったり苦しむのを見るのは嫌? なら変身を解きなよ。ゲスな奴の術に乗ってんじゃねぇ」

 少年は目に涙を浮かべたまま萎縮し、恐慌状態に陥っていた。

「怪人が出てきたよ、マスター」

 くしゃらが少年を説得している間に、第四世代型・ルーシーは事前に隠しておいたWZに搭載されているレーザードローンをスマホで遠隔操作、怪人に制圧射撃を仕掛けた。
 怪人が怯んでいる隙を突いて避難誘導を行い、被害を最小限に食い止める。
 シデレウスと化した少年がかなり思い悩んでいる様子を見て、ルーシーはどう声をかけたものか迷った。

「何も戦うことだけがヒーローではないのだけど良い言葉が思いつかないね。どうしたものかなぁ?」

 とにかく、シデレウスカードをばら撒いて怪人を生み出す悪者を、これ以上の被害が出る前に止めなくては。
 ルーシーは他の能力者に説得を任せることにして、怪人との戦いに集中する。

 亜双義・幸雄は撮影現場から撤収していなかった人々が離脱し、人払いを完了した後に、ペストマスクを装着した。
 攻撃も反撃もせず、説得に専念。
 少年も被害者の一人であり、なにより幸雄自身が「一方的に殴るのはカッコ悪い」と少年に告げた以上、ヒーローに二言はない。

 √能力【|存在理由の解明《ビーイング・ア・ソリューション》】により、ヒーローとしての魅力を強化して説得に臨む。

「怖いでしょ、力に支配されるって」

 幸雄が話しかけると、少年はぴくりと反応し、幸雄に視線を向けた。

「身に余る力は人を狂わせる、だからこそヒーローは苦悩するの。『本当の強さとは?』ってね」

 少年は幸雄が撮影現場で出会ったあの男性だと確信する。
 そして、その男性がヒーローだったということに気付き、ハッと目を見開いた。

「お前さんも考えただろ、『これが憧れた強さ?』って」

 幸雄はよく通る声で少年の良心を揺さぶる。

「思い出せ、憧れたヒーローの姿を……力に飲まれない心の強さを!」

「――!」

 少年は自ら変身を解き、シデレウスカードを遠くに放り投げた。

第3章 ボス戦 『シュルーマン』


「もったいないな、せっかく私が創造した作品を投げ捨てるなんて」

 怪人――シュルーマンが、少年の投げ捨てた2枚のカードを拾いながら姿を現す。
 この男こそが、今回の事件の首謀者である。

「いて座のカードに、その星座のモデルとなったケイローンの組み合わせ、弓兵としての能力に特化した、これ以上ないシンプルな機能美だと思ったんだが、いやはや凡人にはこの芸術が理解できないらしい」

 シュルーマンは、少年には目もくれない。とっくに用済みなのだ。

「まあ、テストとしては良かった。次はもっとうまくやろう。『十二星座』と『英雄』を組み合わせる……可能性は無限大、私の創作意欲も大いに刺激されるからね」

 そう言ってから「おっと……」と黒幕はあなたたちを見る。

「その前に、君たちから逃げおおせないとまずいかね。まずいか。やれやれ、私は戦闘には不向きなのだがね……」

 舐めきった態度の怪人だが、その能力は未知数である。
戦闘機械群・社会式
萩高・瑠衣

「良かったわ、あなたが戦闘向きの怪人じゃなくて。子どもを利用して怪人を生み出すなんて最低の黒幕をボコボコにできるものね」

 |萩高《はぎだか》・|瑠衣《るい》(なくしたノートが見つからない・h00256)は、篠笛を口に当て【|転の閃き《ソッキョウバヤシ》】により腕力を向上させる。そして先手必勝とばかりに譜面台で力いっぱいシュルーマンをぶん殴った。

「突然の暴力ッ!? 君も音楽を志すものであればもう少しおしとやかに戦闘したらどうかね!?」

 頬を押さえて抗議するシュルーマンだが、瑠衣は問答無用と殴り続けた。

「くうう、ならば私も本気で戦わせてもらおう!」

 シュルーマンは両手を瑠衣に向け、「ハァァッ! 食らえ、前衛芸術ビーム!!」と謎の光線を発射する。
 ビームは譜面台に命中し――ゴテゴテと飾りのついた派手な姿に変わった。

「ハァ!? 何よこれ!?」

「おお……ビューティフォー。これぞ芸術……」

 瑠衣は己の譜面台の変貌に目を剥くが、シュルーマンは悦に入っている。
 そう、彼の√能力はおよそデタラメであった。

「もとに戻しなさいよー!!」

「ぐええっ!」

 瑠衣は激怒しながら技術革新された譜面台で殴る。
 ゴテゴテした飾りがついた分、攻撃力が上がっていた。

「敵対者の武器を技術革新して自分が不利に陥るとは……これも一種の愛、なのか?」

 戦闘機械群・|社会式《しゃかいしき》(Block Head・h01967)は、シュルーマンの予測できない行動に首を傾げている。

「まあいい。では、俺も出撃しよう」

 社会式は後衛からの戦闘支援に集中し、瑠衣の攻撃を後押しするようにカノン砲を撃ち続けた。

「怪人よ、俺の愛も受け取るといい」

 制圧射撃や牽制射撃によりシュルーマンの退路を断ち、攻撃を封じ、身動きを取れなくして瑠衣が攻撃しやすいように戦況を整える。

「助かるわ、これで思う存分ぶん殴れる!」

 瑠衣は水を得た魚のように攻勢を強めていった。
 その間に、場に残っている一般人がいれば退避させる。

「大丈夫だ。愛する人間ども。俺が守ってやる」

 社会式のその威風堂々とした佇まいは、避難民にとっては心強く、頼りになるヒーローに見えるだろう。

第四世代型・ルーシー
亜双義・幸雄
東雲・グレイ

「黒幕を見つけたよ、マスター」

 第四世代型・ルーシーはシュルーマンを睨みつけながらメインシステム戦闘モードを起動させた。

「あれが無差別にシデレウスカードをばら撒いている黒幕ね。逃がすとまずいから絶対にここで倒さないといけないね」

”WZ”戦闘強化剤――痛みを遮断し一時的に反応速度を増強する強力な鎮痛剤を体内に注入することでWZに乗り込んでも耐えられるように身体を調整し、WZに搭乗する。
 シュルーマンの背丈よりなお高い人型機械兵器WZ。
 それを見上げ、怪人は「わ、わあ……私を倒すには少しばかりオーバーキルではないかね……?」と震え声であった。

「いくよ、”WZ”パルスブレード!」

 パルスブレードによる一閃、それは同じWZですらも一刀両断に切断する一撃。
 シュルーマンもたまらず「ぎゃああ――!!」と叫ぶ。

「とてもふざけたやつだが、やることは何一つ変わらない」

 およそ戦闘に不向き過ぎる黒幕だが、東雲・グレイは顔色ひとつ変えず、虎視眈々とその生命を狙う。
 あらかじめ決めた狙撃ポイント。スナイパーライフルを構え、ルーシーと交戦しているシュルーマンの隙を狙い、捕食怪異魔弾――怪異の肉を加工して作った魔弾をその身体に撃ち込んだ。

「ぐああああ――ッ!!」

 シュルーマンはその痛みにたまらず悲鳴を上げる。
 捕食怪異魔弾は鎧も周囲の無機物も食らって、標的の内部から食い荒らし、破壊していく。

「うう……ッ、私を舐めるな――ッ! 芸術は爆発して死ね!!」

 息も絶え絶えの怪人は腕から前衛芸術の波動を放ち、グレイを目掛けて攻撃した。
 もしも、グレイの耐久力が足りなければ、即座に爆発して死亡する危険な技だ。
 しかし。

「危ない、ってな」

 グレイは【|反射狙撃作用《カウンタースナイプ・フェノメノン》】により、シュルーマンの攻撃を回避して跳躍、先制攻撃を食らわせてもう一発、捕食怪異魔弾をプレゼントした。

「死ね、ただ内臓食われて死ね」

「ぎょええええええ!!!」

 黒幕は激痛に悶え苦しむのみ。

 その様子を見て「怪人よりキュレーターのが天職でない?」と半ば呆れ声を出すのは亜双義・幸雄である。

「シデレウスカードが子供ウケせず拗ねるとは自信作だったか」

 無力化し、カードの力を失った少年を遮蔽物の陰に運び、「流れ弾が危ないから覗いちゃダメよ~」と場を和ませるおちゃらけた言葉をかけて少年の頭を撫でた。

「さて、俺もあわせて追撃だな」

 懐から外見は万年筆にしか見えない仕込みアイスピックを抜き、【|存在証明の紛失《マイ・ロスト・ビーイング》】で存在感を消失させて接近、シュルーマンの片腕を貫く。

「ぐうううううッ!」

「はい、片腕潰したらおまけでもう一本。これで危ない爆発技は使えないね~」

 アイスの当たりのような感覚で両腕を潰した。

「残念だけど、衣装デザインが好みじゃなかったとさ。趣味に走り過ぎたのも要因だが……お前さんの最大のミスは、子供の憧れを蔑ろにしたことだよ」

「――ッ!!」

 幸雄の鬼気迫る声色に、シュルーマンは戦慄を覚える。
 やがて、グレイの捕食怪異魔弾に身体の内部を食い荒らされ、手の打ちようのなくなった怪人は息絶えた。

『仕事』を終えて帰還する前に、幸雄は少年を避難民に混ざって帰るように促す。

「悪いね、駆けつけたのが悪役ヅラの地味なヒーローで」

「ううん。おじさんはぼくのヒーローです! サインもらってもいいですか? あ、あと写真も撮りたい、です!」

 少年のキラキラした瞳に、幸雄は苦笑を浮かべるだろうか。
 こうして、シデレウスカードを巡るひとつの事件が解決したのであった。

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