シナリオ

天使化事変~大を活かすために小を殺す

#√汎神解剖機関 #天使化事変 #羅紗の魔術塔

タグの編集

作者のみ追加・削除できます(🔒️公式タグは不可)。

 #√汎神解剖機関
 #天使化事変
 #羅紗の魔術塔

※あなたはタグを編集できません。


 少女は逃げる。一歩でも遠くへ、あの怪物達の狙いは自分だと分かったから。
 少女は逃げる。一歩でも遠くへ、自分が逃げれば怪物達は自分を追いかけて故郷の村から離れると分かったから。

 ハァ・・・・ハァっ!

 息を切らしながらも体に鞭打って彼女は森へと飛び込んでいく。ここはあまりにも広く似たような光景が続く上に危険な動物も多いということで地元の猟師ですら滅多に立ち入らないことで知られていた。
 少女は子供のころから周囲に内緒でこの森に入り込んで遊んでいたことがありここならば自分に怪物達を引き付けながら逃げられると踏んだのだ。
「あっ!」
 だが少女は森に突入して5分も経たないうちに地面から飛び出した木の根に足を取られて転んでしまう。すぐさま起き上がろうとした少女はしかし自分の脚から砕けるような痛みを感じ身をすくませる。
(こんな体でも痛みを感じるなんて…!)
 口惜しさと自嘲交じりで見つめる彼女自身の脚は人の肌をしていなかった。いや、脚だけではない。彼女の体全てが未知の金属でできたかのような肌色をしており背中からは純白の羽が生えている。
 そんな彼女の耳に近づいてくる怪物達の足音がしっかりと聞こえていた――


「皆さん、天使化をご存じですか?」
 集まった能力者達を前に座頭・瑞稀(ザッパ・h02618)は唐突にそんなことを聞いてきた。
「なんでも√汎神解剖機関のヨーロッパで流行った風土病の様なのですが発症条件が特殊で《善なる無私の心の持ち主のみ》が発症感染する病だそうです。」
 返事を待たずに話を進める瑞稀。どうやら会話の枕であったらしい。
「ですがそういった善良な人間は滅多にいません。特に人心が荒廃してしまった今の時代では猶更です。天使化もそれに伴って自然と根絶されたはずでした・・・」
 だがヨーロッパ各地で突如人々が天使化するという事件が頻発し始めたのだという。
「とはいえ全ての人が天使になるわけではありません。大抵は不完全な天使擬きオルガノン・セラフィムという怪物となってしまいます。ですが今回は正真正銘の天使となった少女の存在を予知できました。皆さんにはこの少女の救出をお願いしたいのです。」
 なんでもその少女は天使となった後自分を囮にしてオルガノン・セラフィムを引き付けて近くの森に逃げ込んだらしい。随分と思い切りがいい娘である。
「ですけどその子は森に入った直後に足を挫いたのか動けなくなっています。このままでは彼女がオルガノン・セラフィム達に食べられてしまいますので彼らを倒して何としても彼女を助けてください!」
 オルガノン・セラフィムはもはや人としての善心も理性も失われ本能のままに天使を捕食する存在だ。終わりにしてあげる事こそ救いだという。
「ですが今回の天使化に気付いた羅紗の魔術塔もまた戦力を動かして天使という|新物質《ニューパワー》を確保しようとしていますので彼らとの戦闘も覚悟しておいてください。」
 そこまで言った瑞稀は時計を見て
「それでは時間となります。皆さん、どうか良き結末を手繰り寄せてください!」
 どこか祈るような縋るようなそんな眼差しと口調で皆を送り出していく瑞稀であった。

マスターより

開く

読み物モードを解除し、マスターより・プレイング・フラグメントの詳細・成功度を表示します。
よろしいですか?

第1章 集団戦 『オルガノン・セラフィム』


白影・畝丸


 少女はもはや袋のネズミと言っていい状況であった。異形…オルガノン・セラフィムは間近に迫り少女の脚は未だ治らない。
「安心なさい。貴方は必ず守って見せますよ。」
 これまでと覚悟を決めた少女の前にそう言って異形たちの前に立ちはだかるのは白影・畝丸 (毒精従えし白布竜武者・h00403)、人の様に見えるが白うねりという妖怪が人の形に収まっている存在だ。
「あ、ありがとう。でもこのままじゃ貴方も!私の事は気にしないで逃げてください!!」
 白うねりである彼は体から雑巾みたいな悪臭を放っているけど少女はそんなことを気にせず目の前にいる侍の身を案じた。相手は異形の怪物でしかも数は10や20どころではない。どう考えても一人では勝ち目のない話であったのだから…ただの人であったのなら。
「ギャウ!」
 隙を見出したのか或いは捕食本能が勝ったのか畝丸 に向けて跳躍しその鋭い爪で引き裂こうとし
「そうはいきませんよ!」
 その俊足に反応した畝丸 は左手に装備した白竜霊手で受け止めさらに来る追撃を鎧で受け止め一歩たりとも引かず全てを凌ぎきって見せる。
「敵には毒の汚染を受けていただきましょう!」
 虹色の燐光に包まれ後退する刹那の隙、その瞬間の敵を狙い畝丸 は精霊弓銃を抜き放ち毒の弾丸をありったけ叩き込む。
「ギ、ギギg・・・・」
 全身を毒が駆け巡り倒れ伏す怪物。だが、まだ後続が続々と現れ襲い掛かろうとしている。
「いくらでもかかって来なさい。ここは一歩も通しませんよ!」
 それでも白き侍は怯まない。後に来る者達が来ることを信じて少女を守るべく精霊弓銃を構え敵の大群に立ち向かっていく――

不動院・覚悟
神鳥・アイカ
ウィズ・ザー


 果たして白き侍の後に続く者達が少女を守るべく駆けつけてきた。
「ナイスファイト白影さん!」
 そう言いながら白い鳥の如く舞い降りた神鳥・アイカ (邪霊を殴り祓う系・h01875)は少女を護るべく壁の如く仁王立ちしオルガノン・セラフィムの群体と対峙する。元より殴り合いは得意分野だ。この程度の魑魅魍魎など恐れるものではない。
「助太刀します!」 
 そんな彼女と共に並び立つように屈強な体躯の少年不動院・覚悟(ただそこにある星・h01540)にあるのはその名の如く少女を絶対に守り抜く覚悟を手にする圧滅銃と鉄塊の如き巨剣『滅巨鋼刃』を以て示す。
「しかし、やっと追いついたと思ったら中々の修羅場じゃん?迫りくるキモいクリーチャー、ホラー映画の監督もビックリだね。」
 アイカが隣の覚悟に対してというより背後にいる少女を安心させるように軽口を言うが実際悲嘆してはいない。|ボク達《・・・》ならばこの程度十分に対処できると踏んだうえでの発言でもある。問題はこの後だが・・・
「さぁ出来損ない共、たかが10や20程度でボクらを抜けると思うなよ!!」
それを一旦脇に置いてアイカは全身に纏う破魔のオーラが緋色に輝き両手足に集中。勢いよく敵陣只中へと飛び込んでいく。
「援護します!」
 そのアイカを覚悟は自身の感覚を鋭敏化させ周囲の状況を把握し彼女の針路を阻むオルガノン・セラフィム達に圧滅銃を向け制圧射撃を敢行。その精密な射撃の前に怪物達は倒れ伏し開いた道からアイカは吶喊、スピードを増した拳はそのまま手数を増やすことになり次々とオルガノン・セラフィム達を殴り飛ばしていく。
(異形の怪物になりたくてなったわけではないなら、終わりにしてあげることこそが救いだというのなら…救います。)
 無事暴れまわるアイカを見届けた覚悟は少女に襲い掛かろうとするオルガノン・セラフィムの爪を滅巨鋼刃で受け止め力任せに押し返し吹き飛ばしながら静かに決意を胸に秘める。
 オルガノン・セラフィム達は天使になれなかった元人間だと言う。ならば彼らはあの少女と顔見知りだったのだろうか?顔見知りだとしたら家族か?友人か?それとも恋人だったのであろうか?
(いや、今は彼女を救うことを考えましょう。)
 脳裏によぎった雑念を振り払い覚悟は両手の武器を縦横無尽に振るい敵を殲滅し続ける。今背後にいる少女を守るために。

 敵陣に飛び込んだアイカの戦いは彼女の優位で進んでいた。彼女が納める岩飛流は鳥の妖怪が開祖となった独特の滑るような歩法と全てを切る手刀で戦う流派だ。彼女は体得した技術を最大に生かし生い茂る木々を滑るように移動して敵を翻弄し小柄な体躯から放たれる一撃は迫り来るオルガノン・セラフィム達を次々と葬っていく。
(へぇ…話には聴いてたけど白影さんの『毒』の加護面白いね。)
 アイカは内心先に戦場にいた白き侍の|加護《エンチャント》に感心する。彼女の拳を或いは手刀を受けた敵はもがき苦しむように倒れ伏していった。
 彼女の流派では敵を痺れさせて動きを束縛することはできてもこうもあからさまに毒にやられたような反応をするようなことはできないからの推測だが・・・・
(これは戦略に幅が広がるよ。)
 思索に耽ったのは一瞬。だが、それが明暗を分けた。
「!!ヤバイ!!」
 生い茂る木々は彼女を敵の視界から遮り優位に戦いを進める一助となったがそれは敵から見ても同じ、オルガノン・セラフィムにそういう知性があるかは不明だが背後を取られたという現実は変わらない。

「アイカさん!」

 その叫びよりも早く森に響く轟音が異様に開いた口事オルガノン・セラフィムの頭を吹き飛ばす。倒れる躯を尻目にアイカが視線を送ればそこにはライフル銃「終焉烈火」を手にしていた覚悟の姿。
「あちゃ~、これは借りができちゃったね。」
 無事を確認した覚悟が戦闘に戻るとこを見ながら彼女はそう独り言をつぶやく。防御は当たらなければ問題ないと思っていたがもう少し周囲を警戒していればこうはならなかったかもしれない。
 思考を切り替えた彼女はそのまま戦いへと戻っていく。まだ少女の安全を確保できていないのだから…

 鬱蒼と茂る森の中、オルガノン・セラフィム達の足元の影から目のない闇色の蜥蜴の姿をしたウィズ・ザー(闇蜥蜴・h01379)がその爪と牙を駆使して食らいつく。
「足元がお留守だぜェ?」
 闇から現れた6体の顎が容赦なくオルガノン・セラフィム達を貪り食いどこかのクイズ番組の人形よろしく地面もとい闇の中へと葬っていく。
「あ~、あんまりうまくねェな。」
 目の前のオルガノン・セラフィム達を食い尽くしたウィズの感想がそれだった。彼はグルメなのだ。
「さて、向こうの様子を見に行くとするか。心配無用だろうけど。」
 そう言いながらウィズは再びその身を影へと落とし込んでいった…

 森の戦いは佳境を迎えていた。
 覚悟は両手の圧滅銃と滅巨鋼刃を蒼炎に輝かせて
「守るべき者のために、破壊の力を解き放つ――『阿頼耶識・阿修羅』!」
 裂帛の叫びと共にその身体能力を極限まで高め破壊の権化と化す。嵐の如き銃撃はオルガノン・セラフィム達を粉砕し滅巨鋼刃を振るえば残った敵を悉く肉塊へと変えていき戦いを終わらせたのだ。後に残るのは怪物のなれの果てだったものの山のみ。
「おー、やっぱ特に心配無かったな?」
「きゃっ!!」
 そう言って少女の影から出てきたウィズは驚かせたことを少女に謝罪し覚悟を労おうと賞賛の言葉を贈ろうとして異変に気付き瞳のない貌を向ける。
「・・・覚悟、ボク達はヒーローじゃないんだ。全てを救うなんてできないよ。」
「全てを救うことはできない、分かっています。それでも、悲しいものは悲しいのです。」
 アイカが彼女なりにフォローしようとしていた言葉に覚悟は応える。とめどなく涙を流しながら・・・

「それじャ、お嬢さん。背中に乗りな運んでやるからよ。」
 話を切り替えてウィズは少女に声をかけて背中を差し出す。ひとまずここを離れるべきだろう。
「ありがとうございます、トカゲさん。あの、できれば村へ向かってくれませんか?お父さんやお母さん、村の皆が無事か知りたいので」
 少女から頼みを受けウィズは少し考えこむ。羅紗の魔術塔の者達がいるかもしれない以上迂闊に向かうのは危険すぎる。しかしどういえば少女は納得してくれるだろうか?

「あまり動かれると迷惑ですからやめていただけますか?」
 そんなウィズの思索を断ち切るように冷たい女の声が森の中を木霊する。皆が向けた視線の先には――

第2章 ボス戦 『怪異蒐集家マレーネ・ヴァルハイト』



 視線を向けた先にいたのは一人の昏い女であった。
 上から下まで黒い装いの女は背後に今にも襲い掛からんとする夥しい怪異を従わせたまま口を開いた。
「成程、オルガノン・セラフィム達を葬り去ったの貴方達でしたか」
 あれも蒐集対象だったのですが、と続けるその表情は怒りにかられるでもなく落胆に覆いつくされるでもなく淡々としている。
「ああ、自己紹介がまだでしたね。私はマレーネ・ヴァルハイトと申します。」
|怪異蒐集家《オカルトコレクター》などと言われていますが、と簡潔に自己紹介する彼女の視線は天使の少女に固定されておりその挙動を逃さないように観察していた。決して逃がさないという意思を込めて。
「一応、お尋ねしますがあれをこちらに渡して・・・・くれませんね。その態度だと」
 形式だけの引き渡し勧告を終えた彼女は手にした書物を開きそれに呼応するように悍ましい気配が一層濃くなる。
「では貴方達を排除してその天使を蒐集します。いかなる犠牲を払ってでも世界は救わねばならないのですから」
 殺意が戦場に満ちる。彼女を倒さねば天使の少女を逃がすのはかなわないだろう。
 
*MSから
・戦場は引き続き森の中です。
・マレーネ・ヴァルハイトは天使の少女確保優先で動きます。万が一確保した場合全力で逃走を優先しますので確保されないように注意してください。
・天使の少女はまだ動くことができません。
不動院・覚悟
ウィズ・ザー


「この戦場に一筋の炎を灯します。絶望を払うために――『守護する炎』!」
 不動院・覚悟(ただそこにある星・h01540)は守護の炎を纏いその行動を以て返答とした。絶対に渡さないという意思を!
 最も言ったマレーネ当人ですら色好い返事は期待していない。あっさり応じるような手合いがオルガノン・セラフィム達を殲滅するような戦い方などするはずがないだろうし、それ以前にこんな辺鄙な場所に来ることもなかったであろう。
「渡せ?」
 巨大な蜥蜴の姿をしたウィズ・ザー(闇蜥蜴・h01379)は敢えてその形ばかりの勧告に反応した。別に無視してもよい事であったし実際隙あらば逃げようと伺っているのだが彼女は自分に…正確には自分の背に乗った天使の少女から視線を一切逸らさないので迂闊に動けない。
「お断りします。ってなァ?」
 ならばとばかりに自分の意思を目の前にいる蒐集家に叩き付ける。それは少女を決して見捨てないと背に乗った当人に告げる誓いでもあった。
「ほう?・・・いいでしょう。どちらにしてもそれを蒐集するのは変わりません。そのままいただくとしましょう!」
 期待していなかった返答(拒絶であったが)が返ってきて意外そうに眼を丸くするマレーネだがそれも一瞬。その言葉が終わらないうちに縮地の如き速さでウィズの傍まで跳躍し|蒐集対象《背に乗る天使の少女》を奪わんと手を伸ばし―
「やらせません!」
 ウィズが反応するより早く覚悟は炎を纏って二人の間に割って入り終焉烈火を振るってマレーネの動きを牽制し
「逃げてください!」
「あァ、村はもーちょい後だな。それより、舌噛むなよ?」
「は、はい!」
 言葉に応える少女を背に乗せたウィズは豹海豹型へ姿を変え木々の間を泳ぐように高速で離れていく。それを視界の端で見届けた覚悟は圧滅銃を怪異に包まれて姿を隠すマレーネに向けて乱射、一気に仕留めようとするが・・・
「流石に捕らせてくれませんか・・・・とはいえ逃がしませんよ。この怪異達が!」
 怪異に紛れて隠れた彼女には当たらずそのまま後退、すかさず手にする怪異蔵書「クヴァリクの呼び声」から夥しい数の怪異を呼び出しウィズと少女に向かわせる。
「悪ィが捕まる気は無ェよ!」
 三倍まで増した速度で以て少女を載せて怪異から逃げるウィズだが怪異達は生い茂る木々などを障害物をすり抜けまっすぐに彼らを追跡してくる。
「やらせないと言ったはずです!」
 覚悟の叫びと共にウィズを救うべく放たれた銃弾が過たず怪異達を撃ち抜くが無尽蔵ともいえる数の怪異達に対しては焼け石に水としか言いようにないほどの数が追加されていく。
「無駄ですよ。いい加減にしてほしいのですが?」
 距離を置いて体勢を立て直したマレーネは切り札というべき巨大な蜘蛛を呼び出しともに覚悟に襲い掛かる。最優先に排除すべきと見做したのだ。
「なぜ邪魔をするのですか?我らの目的は世界を救うこと。貴方達も手段が違えど目的は同じはず。」
 蜘蛛の怪異は容赦なく鋭い脚で串刺しにすべく覚悟に振り下ろしそれを終焉烈火で受け止めるが怪異の一撃は鋭さと重さを兼ね備え更には彼の得物である終焉烈火を通して膨大な呪いが彼を蝕んでいく。
 そんな中発したマレーネの疑問。覚悟の挙動を油断なく注視しながらも言わずにはおれなかった。お前達は何をしているのだ?と。
「・・・・ずっと自問していました。いかなる犠牲を払わなければ救えない世界なら、その世界は本当に価値があるのか?と」
 蜘蛛の怪異と鍔迫り合いをしながら覚悟は血を吐くように言葉を紡いだ。彼自身多くの者を犠牲にして生き延びてきた。決して望んでいたものではないけど、この世界は犠牲を望んでいるのか?それがこの世界では正しい事なのか?
 先の戦闘で葬った|嘗て人であった怪物達《オルガノン・セラフィム》を思い返しながら覚悟の疑問は止まらなかった。
「愚問です。その価値があるからこそ世界を守るのです。其の為なら如何なるものも犠牲にしても。さぁ、あの天使を渡しなさい。」
 覚悟の自問に即答するマレーネの表情に一切の迷いはない。だが、彼女の通告に応えたのは覚悟ではなく…
「言ったろう?お断りしますってなァ!」
 木々の闇から躍り出たウィズが少女を乗せたまま一気にマレーネの懐に潜り込む。
「そんな!?怪異達はどうしたのです!?」
 まさか戻って来るとは思わなかった彼女は動揺を取り繕うこともできないまま口ばしる疑問
「どうしたってェ?食ったのさ、こうやってなァ!」
 その回答にウィズは自分達を追跡した怪異達を食い尽くした闇顎とそれぞれ270もある刻爪刃と融牙舌がマレーネに襲い掛かる!
「こ、こんな、こんなことがァァァァァァっ!」
 闇に溶けた不可視の刃に体を切り刻まれ黒き焔に焼かれて絶叫を上げてもまだ彼女は倒れない。体の大半をなくそうとも後退する意思を一切見せないのは√能力者故か魔術士としての矜持か。
「例え、貴方のいうことがこの世界で正しいとしても!」
 召喚者が致命傷を受けて存在が揺らいだ蜘蛛を完全に押し返しながら覚悟は圧滅銃をマレーネに向け
「救うために踏みにじっていい命なんて、どこにもないです!守り抜きます!」
 答えと共に放つ弾丸は未だ残っていた彼女の眉間を撃ち抜きその命を他の√へと飛ばしていき
「終わりだぜェ!」
 ダメ押しとばかりにウィズの闇に飲まれて怪異蒐集家は完全に消滅した。
 手にしていた蔵書だけをその場に残して――

第3章 ボス戦 『羅紗の魔術士『アマランス・フューリー』』



「まさか彼女が敗れるとは・・・・決して弱いわけではないのですけどね。」
 そう言いながら木々を薙ぎ払う輝く文字列と共に現れた白い女は一瞬瞑目するかのように目を閉じ
「私達の目的は天使の確保ですがこのままでは果たせませんね・・・・月並みですが貴方達を力づくで排除してからと致しましょう。」
 そう言いながら目を見開いた女、羅紗の魔術士アマランス・フューリーは殺意を漲らせ√能力者達と対峙する。

*MSから
・最後はアマランス・フューリーとの決戦となります。戦場は引き続き森の中ですがアマランスが木を片端から薙ぎ倒しながら戦場に来たために視界は良くなっています。
その分隠れるなどの行動はやりづらくなっていますので注意してください。
・アマランスは天使の少女を後回しにして皆さんを排除してから確保するつもりですので天使の少女を守る必要はないです。(危害を加えることもありません)
・天使の少女は歩ける程度には回復しましたが走れるほどではありません
天霧・碧流


「おいおい、アンタ、綺麗な顔してやってることは暴走重機だな!」
 片端から薙ぎ倒された木々を見て顔をしかめた人相の悪い青年天霧・碧流 (忘却の狂奏者・h00550)はアマランスを視界にいれた瞬間、敵に出会えた歓喜に満たされる。
 久々の解体しがいのある敵だ。羅紗の魔術士を解体できる機会が訪れたこともありテンションが際限なく上がってくるのを抑えきれない!
 背後にいる天使の少女を差し置いてこれから彼女が浮かべる苦悶、悲鳴を想像しながら随喜に悶える様をまじまじと観察していたアマランスは
「・・・・なるほど、随分と悍ましい輩のようですね。レムレース・アルブスよ、この者を我が目の前から消し去れ!」
 羅紗を周囲に駆け巡らせ号令する彼女の意に従い亡霊の如き怪異が碧流に襲い掛かり体に突き刺さるように同化しようとする。
(別にダメージを食らうのはどうでもいい。)
 自身の体を蝕む苦痛など彼にはどうでもよかった。
(だが、全く動けなくなるのはつまらん!)
 彼にとって我慢できないのは敵の苦しむ様を見れないままくたばることなのだから。
「力がみなぎって身体が暴れだす…最高だ!痛みなんて感じねぇよ。碧流ぅ、お前は痛いか?どんな痛みなんだ、ククク…」
 次の瞬間、影の如き彼の左腕が赤く輝く。そして赤き茨の鞭となった左腕を撓らせ凄まじい速さでアマランスに巻き付く。
「くっ!これは!?・・・・ひぎィっっ!!」
 余りの速さに反応が遅れた彼女は引きはがそうとするよりも早く締め上げ食い込む激痛に悲鳴を殺しきれず白き衣装を朱く染め上げる。
「似合っているぜ、アマランス・フューリー」
 自分好みの真っ赤なドレスに仕立て上げられた満足感を乗せた碧流の声にアマランスは言葉を返さない。
 自らを朱に染めた茨の鞭を破壊しその持ち主に対して殺意と憎悪を込めて睨むのみである。天使を巡る最後の一幕はこうして降ろされた――

保稀・たま


「わたしがいる限り思い通りにはさせてあげないんだから!」
 そう言いながら保稀・たま (スきなコとスきなコト・h02158)は天使の少女との間に入り壁になるようにアマランスの前に立ち塞がった。
「・・・そうですか。私も引く気はありません。押し通らせてもらいます!」
 朱に染めた装束を翻し彼女は周囲を漂う羅紗から縫い込まれた文字列が輝きだしたと思えば列をなして飛び出し凄まじい速さでたまに襲い掛かる!
「痛っ・・・・くない?」
 激突に身構えて防御の体勢を執ったたまだがあまり痛みを感じなくて思わず拍子抜けした声を上げた。まぁ、このまま放置していたら遠からず死ぬのであるが。
「あ、あの~大丈夫ですか?」
 割と平気そうな感じのたまにどう声を掛けたらいいのかわからない天使の少女はそれでもと声をかけるが
「大丈夫!ケガも返り血も何だってわたしをカッコよくしちゃうから!」
 と、(今のところ)ぜんぜん応えてなさそうに陽気な態度をとるのでそれ以上何も言えなかったのか口を閉ざして成り行きを見守る。
「とは言え、やられっぱなしは嫌だからお返し行くよ!」
 そういうと彼女は片腕で文字列を受けながら大いなる星空のワンドを握る手に力を込めて一気にアマランスへ間合いを詰めていく。
 足に履く魔導スケーター・スピーカー搭載modelが唸りを上げていき
「わたしの限界で壊してあげる!」
 それにつられて爆上がりする|感情の高ぶり《テンション》のままに竜漿兵器でもあるワンドを力任せにアマランスの頭部へと振り下ろす!
「くっ!」
 流石に直撃することはなかったがあまりの速さに対応できず咄嗟にかばった腕を折られ苦痛に呻くアマランス。
 だが、たまもまたワンドを手にした腕を骨折してだらりと下げワンドを落してしまう。それと引き換えに羅紗の魔術士に着実にダメージを重ねてみせた――

ウィズ・ザー
不動院・覚悟


「すまねェがちょいとここで待っててくれよ?すぐ片を付けてくるかやよォ。」
 天使の少女を無事だった木の根元で降ろしながらウィズ・ザー(闇蜥蜴・h01379)は敢えて気楽な口調で言って彼女を安心させようとする。実際は口で言うほど楽な相手ではない。しかし、不安を抱えているであろう少女を怯えさせる気も更々なかった。
「・・・はい、ここで待ってますね。」
 ウィズの言葉に一瞬不安に満ちた表情を見せた少女は笑顔でそれを覆い隠して言葉を紡ぐ。そこにはこれまでの戦いを見届けてきた幾許かの信頼が籠っていた。
 彼女の表情を見てその言葉を聞いて答えるようにうなずくと海豹の体を翻してアマランスと対峙する不動院・覚悟(ただそこにある星・h01540)の側へと移動する。もはや隠れられる場所などないし仮にこの状況で隠れても即座に発見されるだろう。なら開き直って真正面から挑むしかない。
「あぁ、弱い訳じゃァ無かったぜ?」
 代わりにウィズが仕掛けたのは挑発だった。ワザとらしくゲップを交えながら彼女の末路を暗に示して見せるがアマランスは眉を微かに跳ね上げただけで応じ
「・・・・そうですか。ならばせめてそこの獣の躾はせねばならないでしょう。今私にできる全てを尽くして」
 そう言うと静かに瞑目し目を閉じ周囲を漂う羅紗に刻まれた文字が妖しく輝きだす。
「この戦いを以て終わりにしましょう。」
 最後の弾倉を交換した圧滅銃と刀身の傷みが目に見えてきた終焉烈火を構えて覚悟は静かに呟いた。多くの命を奪ったこの戦いはほんの前哨戦に過ぎない。本格的な戦いがすでに迫っている以上時間をかけるわけにはいかなかった。最もそれは向こうも同じであろうが。
「来なさい&%$#!!」
 他人には聞き取れない否発音すらできない音がアマランスの喉から発せられた直後、彼女の背後から未知としか形容しようのない何かが現れる。
「これがあの女の切り札って奴かい?」
 ウィズの声音に微かな緊張が走るのを覚悟は感じ取り
「ウィズさん、行きましょう。まだ僕達の仕事は終わっていませんからね。」
 言うと覚悟はちらりと背後に視線を向けて敵へと戻す。
「嗚呼、そうだな。俺達にはまだ仕事が残っていたよなァ。」
 その視線の意味を理解したウィズもまた不敵に笑って見せる。彼らの背後には天使の少女がいる。
「行くぜェ!」
「滅びろ下郎」
 ウィズが飛び出すのとアマランスの怪異が同時に動き出す。ウィズが魔導SMGを体から分離させ闇顎から270もの爪と牙を生やして怪異に挑み怪異もまた同じ数の牙と爪を生やして突撃する。
「やらせません!」
 猛烈な速度で渡り合うウィズと怪異との一騎打ちに割り込む覚悟の射撃を受けて怪異の動きが鈍りウィズがすかさず追い打ちを仕掛ける。
「それはこちらのセリフです!」
 ウィズと共に怪異に追撃をしようとした覚悟にアマランスが輝く文字列を放ち割り込み介入を中断させやむを得ず覚悟は彼女と対決する方針に切り替える。
「消えなさい。この世界から!」
 羅紗から放たれる輝く文字列を覚悟は終焉烈火で受け止めるが刀身が文字列に蝕まれ軋みがひどくなっていく様を見て取った彼は最早もたないと悟り
「ならば!」
 終焉烈火を盾としてアマランス目がけて突進し一気に肉薄しようとするが
「流石にあなたと接近戦をやるつもりはありませんよ!」
 それに気づかない彼女ではない。即座に後退し間合いを取る彼女に覚悟は圧滅銃を向け
「逃がしません、貴方はここで仕留めます!」
 その彼女の逃げる動きを予測し牽制すべく残る弾丸全てを撃ち退路を塞ぎながら限界を迎え刀身が砕けた終焉烈火と共に銃を捨て更に迫る!
「!!な、なんですって!?」
 急に召喚した怪異の気配が消えて戸惑う彼女の耳に先ほど聞いた獣の声が響く。
「クカカ、ようやく追いついたぜェ。それはそうとよく似合うドレスじゃねェか。前衛的な模様だぜェ?」
 怪異との死闘を制したウィズが彼女の予想を超える素早さで退路を塞ぐように回り込んで覚悟と共に挟み撃ちしようとする。この危機に対処しようとする彼女の思考に微かな隙が生じた。
「これが、限界を超えた渾身の力です。燃え尽きる覚悟はできていますか――『阿頼耶識・修羅』!」
 そして覚悟はその微かな隙を逃さなかった。天使の少女の生きる意志を踏みにじろうとした敵に対する怒りが彼の拳に蒼炎となって宿り覚悟に気付いたアマランスの胸を渾身の一撃と共に撃ちぬいた!
「俺の中で再会すると良いぜ?」
 血を吐いて倒れようとする彼女に止めを刺したのはウィズの顎であった。闇に飲み込まれた彼女の躯は欠片も残さずにこの√から消え去っていく…
「なァ?」
 腹のうちに収まった魔術士に向けウィズが満足げに呼びかけた声が辺りに小さく響ていた。

「お~い、嬢ちゃん。待たせたなァ、これから送っていくぜェ。」
 そう言ってウィズは身を隠していた少女に呼びかけるとまだ辛うじて残っていた木陰に隠れていた少女が顔を出し
「あの・・・・それは嬉しいですけど皆さんお怪我はありませんか?」
 自身の無事よりもウィズ達の無事を気にしている少女に彼らは安心させるように笑ってみせる。
「僕達は大丈夫ですよ。村まで送っていきますので彼・・・ウィズに乗って・・・?」
 覚悟が少女に言い終える前に彼女は血を流す彼の左腕を手に取った。その傷は終焉烈火が砕けた時にできた傷かはたまた羅紗の文字列を受けた時にできたものか。
「これは、気づきませんでした。でも大丈夫です。大したことでは・・・え??」
 実際覚悟にとっては大した傷ではなかったが安心させようと声をかけようとした時彼女の手のひらから柔らかい光が発せられたのを見た。戸惑っているうちにその光は収まり
「なんだァ、こりゃ?」
 覚悟の傷を観察するウィズの声音に戸惑いが混じる。渇き始めていた血が傷口で完全に凝固していたのだ。
「この分だと傷も早く治りそうですね。もしかしてこれが?・・・・いえ、今は彼女を送ることを優先しましょう。」
 一瞬これが天使の√能力なのか?と考えた覚悟だがそれをすぐに振り払いウィズに促す。
「それもそうだなァ。お嬢ちゃん乗りな、送っていくからよォ。」
 そう言ってウィズは少女を乗せ彼女の案内の元村へと向けて泳いでいき覚悟が二人を守るように続いて森であった場所を後にする。
 こうして一つの戦いは終わったが完全に終息したわけではない。
 今回倒したアマランス・フューリーともいずれ再会することになるだろう。
 その時が近づいていることを二人は感じ取りながら二人は少女の故郷へと歩みを進めていった――

挿絵申請あり!

挿絵申請がありました! 承認/却下を選んでください。

挿絵イラスト