シナリオ

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秩 序 隷 羊

#√マスクド・ヒーロー #シデレウスカード #プレイング募集中 #途中参加歓迎

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 #√マスクド・ヒーロー
 #シデレウスカード
 #プレイング募集中
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●狂 気 引 金
「どうして分かってくれないんだい?」
 ここは√マスクドヒーローのとあるハイスクール。
 陽光が差し込まない校舎と体育館の間には数人の生徒が屯していた。
 いや、屯していると表現するには、その状況は些か治安が悪い。
 壁際に追い詰められた気弱そうな少年と、それを取り囲む複数人の制服を着崩した男子生徒たち。いわゆる典型的なイジメの現場。
 そんな光景を目の当たりにし、風紀委員長――有栖川は深く溜息をもらした。
 有栖川は銀色に縁取られた眼鏡を押し上げ、少年を取り囲む男子生徒たちを冷ややかに睨めつける。七三に撫で付けられた前髪と、ぴっちりと閉じられた詰め襟。誰が見ても一目で優等生と分かる有栖川の出で立ちは、いじめっ子である不良生徒にとって癪に障る要素の塊であった。
「前に注意したはずだよ。僕はいじめを止めてほしいだけなんだ」
「ちっ、うっせえなぁ! おめーには関係ねーだろーが!」
「ブガイシャが出しゃばんじゃねーよ。空気読めねーな!」
 向けられる剣呑な視線に臆すること無く問いかけを繰り返す有栖川であったが、不良生徒たちから返ってくるのは返答とも言えないような罵声ばかり。
 有栖川はそんな彼等の態度に、自身の脳内がみるみる冷え切っていくのを感じていた。
(ああ、こいつら、もう駄目だ。僕の学校にはいらない存在なんだ)
 冷たくなっていく思考と反比例するように彼の胸は熱を帯び始める。
 そして胸ポケットから淡く光る2枚のカードを取り出すと、有栖川は斧を振り下ろす断罪者のような冷酷な眼差しを不良生徒達に向けるのだった。
「……最後通告のつもりだったんだけどね。ああ、もう喋らなくていいよ。これ以上、僕の秩序を乱さないでくれ」

 『ARIES×ARISTOTELES!!』

 校舎裏に響き渡る奇妙な笛の音。
 そして一瞬の静寂の後、不良生徒たちは一斉にその場に崩れ落ちた。
 状況が読み込めないまま、ピクリとも動かなくなった不良たちを呆然と眺めるイジメられっ子。しかしなんらかの方法で風紀委員長が自分を救ってくれたのだという事だけはなんとか理解すると、彼は有栖川に感謝を述べようとおずおずと歩み寄る。
 しかし有栖川はそんなイジメられっ子を手で静止した。
「何を被害者面しているのかな? 彼等ほど直接的ではないにしろ、君にも非はあったろう」
 未だ冷たい影を孕んだ瞳を覗かせる有栖川。そして手に握った2枚のカードを再び掲げると、その体は見る見る変化していった。
「クラスメイトと調和しようとせず、それでいて、そこで寝ている彼のガールフレンドにストーカー紛いの事をした。それが今回のイジメの発端らしいじゃないか。僕の学校の秩序を乱す者という意味では、君も同罪だ」
 厚く盛り上がったくすんだ金色の装束。頭上に鎮座するねじ曲がった角はさながら王冠。
 アリエスアリストテレス・シデレウスへと変貌した有栖川は、その凶手をイジメられっ子に伸ばした。
「法は社会の秩序であり、良い法は良い秩序である。故に僕は秩序のためにこの学校に法を敷こう。法に隷属しない者には罰を」

●楽 園 食 堂
「皆さん事件です!」
 所変わって、ここは宿屋『七つの楽園亭』の食堂。
 テーブルについた√能力者達に麦茶を配り終えた太曜・なのか(彼女は太陽なのか・h02984)は、彼等に向けて自身の|予報《予知》を告げる。
「事件が起こっているのは√マスクドヒーローの高校。そこで一人の生徒がシデレウスカードを使って悪さをしてるみたいなんです!」
 シデレウスカードとは、怪人ドロッサス・タウラスが市井にばらまいた変身の力を宿すカードのことだ。多くのカードアクセプターが持つ『レオペルセウス』がその代表例と言えよう。
 一人の人間のもとに『黄道十二星座』と『英雄』が描かれた2枚のカードが揃いし時、その所有者に絶大な力をもたらすと言われているが、力を正しく使いこなせるのは√能力者のみ。
 一般人が所持してしまうと、多くの場合その凄まじさ故に精神に異常をきたしてしまうという人の手には過ぎた代物である。
「ただ、偏に悪さといっても色々あるみたいで……今回の事件を起こした有栖川君っていう男子生徒は、シデレウスカードを高校の規律を守る事に使っているみたいなんです」
 説明をしながら、なんとも歯切れの悪い表情を浮かべるなのか。
 規律を守る。ソレだけを聞けば、なにも悪いことは無いではないかと思うかもしれないが、事はそう単純ではなかった。
「有栖川君がやっているのは、ぶっちゃけ恐怖政治そのものです。学校のルールを細かく取り決めて、破った者にはシデレウスの力で罰を与える。そしてルールは日増しに厳しく、多くなっていく……今の彼は秩序を守る事に躍起になって、暴走してしまっているんです」
 なのかが予知で見たもの。
 それは生徒が誰一人として廊下を走ること無く、大声で挨拶を交わしあい、授業では皆が必死に手を挙げる、一見すると理想的な学校の風景。
 しかしその体育館には、死んだように眠った多くの生徒や教師が無造作に打ち捨てられていた。恐らく些細なルール違反を咎められ、罰せられてしまった者達の末路なのだろう。
「有栖川君が持っているシデレウスカードは恐らく眠りの呪力を持つ牡羊座のカード。彼を倒しカードを取り上げることが出来れば、呪いをかけられてしまった人たちを開放できるはずです」
 そのためにも有栖川と接触しなくてならない。
 まずは彼の高校に潜入したり、生徒たちの動向を探ったりするのが得策だろう。
 もしくは高校の周辺で敢えてルールに違反するような行動をしておびき寄せるのも手かもしれないが、彼の敷くルールは厳密には解明できていない上、有栖川の逆鱗に触れた場合は奇襲を受ける可能性も高い。十分に注意し、もしもの時は一旦逃げる事も考慮して動いたほうが得策だろう。
「あっ、有栖川君はあくまで一般人ですので、酷い目に合わせるのは出来れば勘弁してあげてください。そして私の予報が正しければ、彼の背後にはカードを渡して唆した怪人がいる筈です。有栖川君からカードを奪い取れば現れると思いますので、そいつは容赦なくケチョンケチョンにとっちめちゃってください!」
 皆に明るく発破を掛けつつも、予知の中にうっすらと見えた邪悪な影に密かに身震いするなのか。
 しかし√能力者達ならばきっとそいつも打ち倒すことが出来ると信じ、彼女は明るく彼等を送り出すのだった。
「穏やかさと調和を重んじる筈の牡羊座が迷走し、人を縛る暴君に成り果ててしまった……今の有栖川君は謂わば迷える子羊そのものです。どうか皆さんの力で彼を止めてあげてください! 無事帰ってきたらまた夕食をごちそうしますからね! 今日のメニューはジンギスカンですよー!!」
これまでのお話

第3章 ボス戦 『朧魔鬼神【怪人態】』


●朧 魔 君 臨

「アリエスアリストテレスの反応が消えた、か……」
 茜色に染まる校舎の前に突如として降り立つ凶悪な影。
 彼奴の名は朧魔鬼神。かつて√マスクドヒーローに弓引いた悪の組織「朧魔機関」の首領である。
 一度は敗れ現在は死体に憑依する形で復活しているに過ぎない存在ではあるが、その邪念に満ちた魂はそこに存在するだけで周囲に重苦しい|圧迫感《プレッシャー》を放っていた。
「有栖川め……ふん、所詮は奴も羊。生贄になるしか能のない衆愚の象徴か」
 そう、彼奴こそが今回の事件の元凶。
 シデレウスカードを手渡すことで有栖川の正義感の歯止めを壊し、生じた心の隙に悪の思想を教唆する。たったそれだけの事で有栖川は見る見る内に暴走し、高校は彼の帝国となったのだ。
「まったく出来の悪い生徒であった。だが、まあいい。これで全ての星座が市井に行き渡った」
 落胆の言葉を吐き出す朧魔鬼神。
 しかし口振りに反し、その声音がはらむ感情はどこまでも無感情。まるで有栖川には元から期待していないとでも言うように淡々と言葉を紡ぎ、朧魔鬼神は校舎――体育館へと足を向ける。
「『ジェミニの審判』の日まで猶予は幾ばくもない。来る日まで我はシデレウス怪人を生み出し続けるとしよう。手始めに奴が眠らせた生贄共を頂戴するとするか」

※補足情報
 朧魔鬼神と接触するのは校門から体育館までの道程。
 生徒の居残り禁止令が敷かれているため校庭は無人。
 体育館内には多くの生徒や教師が眠らされ囚えられているが、現在はアリエスが倒されたことで徐々に眠りから覚めつつある。