海の上の炎
太平洋のどこかにそれはあった。元々は戦闘機械群が石油と天然ガスを掘り出すために作ったプラントだった。鋼鉄でできた基部に何本ものパイプ。時折吹き上がる炎がその場所の存在意味を示していた。そのプラントを人類が手に入れたのは数年前、海上の基地に改造されたそこはギルロウと呼ばれていた。基地の中心には社と鳥居があった、海と火の神が奉られたその社を中心に基地は成り立っていた。あるべきものへの感謝が基地運営の基本となっていた。魚や海鮮資源の養殖とその実験も行われており研究施設としての側面も持っている。目下のテーマは海産資源の安定供給と海底の研究だった。海は地球の7割を占めているのだ、人類が有効に使うことができれば戦闘機械群に対してアドバンテージを持つことができる。
そんなギルロウの通信機が救難信号を受信したのは今朝のことだった。間違いなく人類の船からのものだった。太平洋とは言え嵐が来ることもある。補給基地でもあるギルロウである、救助の準備は迅速に行われていた。
「事件を一つ予知しました。太平洋上の基地、ギルロウ付近で嵐が起き、巻き込まれた船が助けを求めています。船の持っている何かを追って戦闘機械群が近づいているようですので早急に船の救助をお願いします。船をギルロウに寄港させることができれば後はやってくる戦闘機械群を倒すだけです。こちらの撃退もお願いします」
木原・元宏(歩みを止めぬ者・h01188)は海上の基地の様子をARのスクリーンに映しながらそう言った。
「無事に船団を助けることができればギルロウで一休みすることができるはずです。みなさん、よろしくお願いします」
元宏はそう言って√能力者達を送り出した。
「これが本物のクジラから取れたものなら龍涎香ってことになるのかもしれないけどな。クジラ型の戦闘機械群から取れたとなると話は変わってくるよな」
「倒したヤツらじゃ分析できないって言うから預かったけど、嵐は来るし機関部をやられるしで疫病神みたいだ。もしかして呪われてるんじゃないのか、これ」
「よせよ、確かにうっすら光ってるけどただのカプセル型のパーツだろ?」
「でもよ。低いうなり声のような鳴き声みたいなのがする気がするんだよ。海の怒りなんじゃないか?」
第1章 冒険 『船団を救え!』

太平洋は穏やかな海ということになっている。その日も太陽の下光る水面が続いていた。
愛機蒼月で空を飛び救難信号を出している船を探していたクラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)は雲一つない穏やかな空を満喫していた。春の陽気があたりを包んでいる。穏やかな雰囲気の中だったが、クラウスは少しだけ難しい顔をして呟いた。
「戦闘機械群が襲ってくるような物って何だろう……? 気になるけど、何であれ早く船を助けないとね」
程なくして目的の船を見つけることができた。クラウスは遊軍であることを示す信号を出すと船の甲板に着陸する。WZから飛び降りると挨拶がてら船の修理を手伝いたいと申し出る。
「戦闘機械群がこの船を襲うという情報を得て助けに来たんだ」
クラウスがそう言うとWZを固定していた船員がびっくりした顔をする。
「なんだって!? おいおい、ただの貨物船だぞ。いや、ヤツらに見つかったら襲われるだろうけどよ。わざわざ狙ってくるほどのものはないだろう?」
クラウスは思案げな顔をする。
(誰か詳しいことを知っているものはいないだろうか、いや、まずは修理しないと逃げるのも無理か)
機関室にやって来たクラウスは工具を取り出すとエンジンの修理に取りかかる。不自然に焼き切れているパーツがいくつかあった。制御プログラムに異常があったらしい。何者かの妨害だろうか。それでもやらなくちゃいけないことがある、船の修理だ。
「まずは、船を動かせるようにしないとね」
スペアのパーツが無いものは【忘れようとする力】でなんとかするが動くようになるまでにはもう少し時間がかかりそうだった。その時間を待つ間、クラウスは船内で情報を集める。
「……ところで、戦闘機械群は何かを追っているみたいなんだけど、何か特別なものを持っていないかな」
何人かに当たると訳知り風の男が顎の髭を撫でながら答えてくれた。
「特別って言ったらな。一つだけ思い当たるよ。戦闘機械群と戦った船から貰ったものがある。なんでもクジラ型の戦闘機械群を倒したらしい。その腹の中から出てきたカプセル型の機械を受け取ってね。食料を分けてやった見返りに貰ったんだけどさ、うっすら光ってて不気味なんだ。確かに価値はありそうだけど、その後で嵐には遭うはエンジンは壊れるはでさ。どこかで調べれば何か分かるかもな」
クラウスはふうむと頷いた。そのカプセルが戦闘機械群を呼び寄せている可能性は高いだろう。もしかしたら、船の不調もそのせいかもしれない。嵐はさすがに運が悪いからだろうが。
船にやって来た石動・悠希(ベルセルクマシンの戦線工兵・h00642)は船長に修理に来たことを申し出ると船長は快く悠希を迎えてくれた。船の修理は7割くらいは終わっているようだった。悠希は修理がてらに件のカプセル型の機械を調べていた。
「まぁ戦闘機械群の合理的判断を考えたら余程ヤバいものを拾ったかそれ自体が撒き餌って可能性も否めないが…」
案の定、それは何らかの電磁場を発生させているようだった。それは中身を守っているようにも見える。まるで卵か何かのようだ。
「多分ぜったい碌なもんじゃないが…出所がクジラ型戦闘機械群の腹から出た…カプセル型」
と、突然、カプセルが脈打つ。電磁場が強烈に変化して周囲に火花が散った。機関室から悲鳴が聞こえる。
「おい! またエンジンが止まったぞ。どう言うことだ」
「うわっ、またプラグがいかれた。さっき飛んだ火花のせいか?」
どうやらこのカプセルが悪さをしているのは明らかなようだ。悠希はカプセルの解析を急ぐ。
「元戦闘機械群に属してた身として解析結果と照らし合わせてみるとなんか覚えがあるんだが…」
そう、これは何かに似ている、生物であるならば、卵。その中には複雑な情報がいくつも収められていた。回路が明滅し、驚異的な速度で何かが組み上がっていた。それはデータだった。
「多分これもしかして」
悠希は嫌な予感がしていた。カプセルが生成しているデータは卵が保持しているものに等しい。人間の卵子なら、そこにあるのは遺伝子。それは人間の設計図とも言えるものだ。戦闘機械群にとってはまさしく設計図がそれに当たるだろう。このカプセルは卵なのだ。戦闘機械群が次の知性を得るための揺りかごなのだ。恐らくこれを手に入れられた戦闘機械群は他の戦闘機械群を凌駕する知性を手に入れられるだろう。追ってきている戦闘機械群の狙いもこのカプセルである事は間違いなさそうだった。そしてこれを敵の手に渡してはいけないことも。
「これはかなり危険なものね。簡単に壊すこともできなさそうだし、ギルロウに付いてから壊すなりどうするなりを考える方が良さそうね」
悠希は船長にそう伝えると、機関部の修理を急いだ。
伏見・那奈璃(九尾狐の巫女さん霊剣士。・h01501)が船に着くと船はなんとか動くようになっていた。
「何か戦闘機械群と関係のありそうなもの積んでたりしませんかね?」
那奈璃が聞くと機関室を担当している技術者が答えてくれた。
「どうやら、戦闘機械群から奪い取ったカプセル型の機械が悪さをしてみたいです。カプセルに刺激を与えると強力な電磁場を発して周囲の機械を使えなくするみたいです」
ふむふむと那奈璃はそのカプセルを見に行く。黒いカプセルの表面は滑らかでうっすらとパルスのような光が浮かんでいる。
「先ほどまで調べてくれていた方の話によると、これは戦闘機械群の設計図を収めた卵のようなものだと言うことです。これ自体に通信機能はありませんが、電磁場のバリアが発する電波を感知して戦闘機械群がこちらに向かっているとのことです」
那奈璃は状況を把握すると艦橋に移動してここからギルロウまでの航路を割り出しにかかる。
「うーん嵐ですか、苦手ですけどもう来ないなら大丈夫かな…? 船の修理はある程度済んでるようですし、早く誘導してあげないと大変です」
その頃、真珠湾秘密基地から出撃した川西・エミリー(晴空に響き渡る歌劇・h04862)は救難信号を辿って船にたどり着いていた。船員から状況説明を受けると行動を開始する。
「クジラ型の戦闘機械群ということは…対潜哨戒かな? 分隊にこの海域を広く哨戒して情報収集させます」
そう言うとエミリーは分隊達を船の周囲に飛ばしソノブイを投下させる。今のところ戦闘機械群の気配はないようだが油断はできない。少しするとエミリーは艦橋に呼ばれた。
「この航路でいこうと思うのですが、だいじょうぶそうでしょうか?」
そこでは那奈璃と船長がギルロウまでの航路について相談していた。
「潮流を考えても問題ないでしょう。わたしが先行して誘導しますし、索敵についても手は打っていますから」
エミリーがそう言うと船長がそれで行こうと言った。
「兎も角、ギルロウまで行ければですね」
那奈璃がそう言うとエミリーも頷く。
「それではわたしも警戒のために出撃します」
「よろしくお願いしますね」
那奈璃はエミリーを送り出した。
時刻は夜になり、月明かりの下船は進んでいた。エミリーのスポットライト・マジックが海面を照らし、エルベのほとりが発生させた霧が船のまわりを柔らかく取り囲み幻想的な景色を作り出していた。注意深く周囲を警戒している事もありこのまま何事もなくギルロウまでたどり着けそうだった。エミリーは霧と光の舞台の上を舞う俳優のように空を進んでいった。
第2章 日常 『信仰の拠り所』

船は無事にギルロウまでたどり着いた。ギルロウは基地中央の社を中心にした人類側の基地だ。燃料の採掘と海洋資源の研究をしている。レーダーからの情報によると敵が来るまでに数時間は余裕があるようだった。ここでしばらく休息を取ることが出来るだろう。基地の中心にある社に参拝してもいいし、基地名物の魚介類を食べてもいい。もちろんカプセル型機械を調べたり破壊を試みてもいいだろう。
船がギルロウにたどり着いたのは太陽が南天を少し越えたあたりだった。ギルロウのドックに停泊した船は積み荷を降ろすと本格的な修理を受けていた。
(無事に辿り着けて良かった)
クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)はギルロウの地面を踏みしめるとそんな感想を抱いた。海の上にあるとは言え海底から基礎が伸びているのだ。船のそれとは全然違う、揺れない地面がそこにはあった。安心とはこういうところから得られるのかもしれない。
「御社が有るのでしたら参拝しませんといけませんね」
伏見・那奈璃(九尾狐の巫女さん霊剣士。・h01501)はそう言うとギルロウ中心部にある神社へと赴いた。簡素ではあるがしっかりとした社と石でできた鳥居が那奈璃を迎えた。那奈璃が参拝を済ませると奥から宮司とおぼしき男性がやって来た。
「神職の方ですか? ここにそう言った方がいらっしゃるのは珍しい。船乗りや軍人の方がほとんどですから」
「ええ、神職の矜持として、ここに参らせていただきました」
那奈璃がそう言うと宮司は頷く。
「そうでしたか。ここには海の神と火の神が奉られています。海の平穏と、希望を照らす火を奉っています。本来ここは戦いの場というわけではありませんから。しかし、文明の光と平穏を守るためなら、力を貸してくれるでしょう」
宮司がそう言うと那奈璃はもう一度祈りを捧げる、この後起こる戦いの必勝を願って。
「これで全部ですね?」
川西・エミリー(晴空に響き渡る歌劇・h04862)が聞くと船員が答えた。
「そうだな。ありがとう。お嬢ちゃんのおかげでだいぶ楽をできたよ。食料は早めに売らなきゃならないしな。それに、天然物の魚介類が手に入ったんだ。丘のヤツらにはいい土産になるだろう。小さいけど、この船に冷凍設備があって良かったよ。俺らが生きてるのも嬢ちゃん達のおかげだ。ありがとうな」
「どういたしまして。わたしに出来ることをしたまでです。お役に立てたなら良かったです」
そう言うとエミリーは笑顔で船員達と別れた。
ギルロウの一角にある研究所で石動・悠希(ベルセルクマシンの戦線工兵・h00642)はカプセル型の機械と格闘していた。
「このカプセルの中身の設計図を解析しない事には何も始まらない…。設計図が人類に役に立つものなら転用すればいいから問題はないだろう。敵に奪われないように守りながら敵を撃退すればいいからね。問題は…」
悠希は難しい顔で解析をはじめる。
「指示通りに配線しました。プログラムの準備も出来ています」
協力してくれる研究員が言うと悠希は改めて指示を出す。
「こいつに何かしようとすると強力な電磁場が発生するんだ。それ用の実験室はあるか?」
「大丈夫です。今から使えるよう手配します」
「頼んだぞ。ともするとこりゃ工兵としても元戦闘機械群在籍者としてもやるべきことをやっておかねばなるまい…」
悠希は浮かない顔で作業を続けた。
ギルロウの端にはテラスがある。そこはレストランになっていて住民とやって来た船員達が羽休めする場所だった。船の船員達は合成アルコールのカクテルやビールを飲み、あまり食べることが出来ない天然物の魚のフライをおいしそうに食べていた。クラウスは海が見える特等席に案内されていた。
「折角だし名物の魚介類を食べてみようかな。他の√ならともかく√ウォーゾーンで合成じゃない魚介類を食べられるの、なんだか新鮮だ」
「そうですね。普段わたし達が食べているのは命を繋ぐための栄養という側面が大きいですからね。本当なら、食事も歌や踊りと同じように人を笑顔にするものですのにね」
やって来たエミリーがそう言う。√ウォーゾーンは厳しい世界だ。笑顔を失ってでも必死で生きている人達がいる。それでも、だからこそ、人に笑顔を届けられるようになりたい。エミリーはそう思っていた。
「ご一緒してもよろしいですか?」
那奈璃がそこにやって来た。
「ここの神社に行ってきました。祈りとは心を安らげるため。そして、未来を願うことなのかもしれませんね」
しばらくして料理が出てきた。白身魚のフライ、ポキ、カルパッチョ、メカジキのソテー……。南洋らしい豪快な料理が並ぶ。
「なんでもあそこの船を助けてくれた人達なんだってね。今日はうちのおごりだよ。楽しんでってね」
ウェイトレスが笑顔でそう言った。
「あるがとうございます」
エミリーも笑顔で返す。味はもちろん、養殖とは言え天然物の食材だ、抜群においしかった。生きている実感みたいなものがほんのりと感じられるような気がした。
「おいしいですね」
那奈璃がそう言うとクラウスも頷く。
「……人類が負けずに持ち堪えられているの、きっとこういうものの研究をしてくれている人達のお陰なんだよね。ここの研究を未来に繋げるためにも、次の戦い、負ける訳にはいかないね」
クラウスはそう言うと食べ物とそれを作ってくれる人達に感謝しながら残りをおいしく食べた。
解析の結果が出た。それはあまりよいとは言えない結果だった。
「中身の設計図が人類側にとって危険極まりないものであった場合…その場合は破壊とまではいかないにしても設計図の改竄もしくは抹消を考えた方がいいだろう」
事前にそう言っていた悠希も少し動揺しそうになるくらいだった。カプセルの設計図は、強力な自己進化システムだ。これを手に入れた戦闘機械群は次代に大きな進化を約束される。戦闘機械群の代替わりは早いだろう。手に入れた瞬間から生産される戦闘機械群にこのシステムが搭載されればその戦闘機械群は飛躍的な進歩を遂げるだろう。戦闘機械群による戦闘機械群の技術的特異点が生まれることになる。そうなればその戦闘機械群が覇権を握ることになるだろう。そして人類は大きく後れを取るに違いない。もちろん、機械であるが故に人間には適用できないし、人類側のコンピューターに組み込んだところで第二の『戦闘機械群』にならないとは言い切れない。人類にとっては猛毒にしかならないものだった。
「危険すぎる。これはカプセルごと抹消するしかないか」
悠希がそう言うとその場に居合わせたエミリーが言う。
「人を笑顔にさせるような進化ならいいのですけどね」
「残念だけど、最悪の場合を想定したうえで対処したほうがいいだろう」
悠希が悩んだ顔で言うとエミリーも頷いた。
第3章 ボス戦 『Great-Invasion『ORCA』』

数時間後、カプセルの電磁場を検知してやって来たのは『Great-Invasion『ORCA』』だった。クジラではなくシャチだった。恐らくクジラ型の戦闘機械群と同族と思われるORCAは件のカプセルを得て次なる段階に進化しようとする戦闘機械群から送り込まれたようだった。ORCAを倒すことが出来ればカプセルをもっと研究する時間も、破壊する時間も確保することは出来るだろう。
空を飛ぶシャチがギルロウを目指していた頃。また別の方角からギルロウに向かう者がいた。ヨーキィ・バージニア(ワルツを踊るマチルダ・h01869)は真珠湾秘密基地を出航し、増援としてギルロウに向かっていた。
「海上戦と聞けば、艦船ベースの少女人形としては聞き逃せないね!」
ヨーキィは意気込むと速度を上げてギルロウに向かう。波しぶきが白く跳ね、長いウェーキが船の後に続いた。
「最悪の場合を想定してもらったからあれさえ倒せばまだ何とかできる時間は確保できる。だから皆には時間を稼いでもらう」
石動・悠希(ベルセルクマシンの戦線工兵・h00642)はカプセルを見つめながら難しい顔をしていた。
「ぶっちゃけ解析したうえで破壊するしかないが普通に破壊しても残骸からデータを得られかねないからね…だから皆が戦ってもらってる間こっちはもうカプセルの方をどうにかして安全な形で敵の手に渡っても無害な形…出来れば損害を与えれる程度に改竄しておきたい」
カプセルは進化の鍵とも言うべき恐るべきものだった。戦闘機械群に渡すわけには絶対にいかない。もう一つの戦いがギルロウの研究施設で始まろうとしていた。
「やって来ましたね、ギルロウの人達にとっては迷惑な話です。速やかにお引き取り願いましょう」
伏見・那奈璃(九尾狐の巫女さん霊剣士。・h01501)はギルロウに配備された対空砲の上からORCAを見て言う。空を飛ぶシャチ型の母艦、大型空母よりも一回り大きいくらいのそれが悠然と空を泳いでいた。刀を使う那奈璃がORCAを攻撃するには数少ない遠隔攻撃を使うしかない。攻撃は他の者に任せて、援護に徹することにする。
「牽制は任されますので、申し訳ないのですが後はお任せしますね」
「何言ってんだ? 弾はしこたまあるんだ。あのデカブツを蜂の巣にしてやりゃいいんだ!」
テンション高く継萩・サルトゥーラ(百屍夜行・h01201)が叫ぶ。戦いに魅入られたサルトゥーラは巨大母艦との戦いにアドレナリンを放出させていた。戦闘用ドラッグの効果もあり、さながらバーサーカーと言った風情だった。両手に持ったガトリングガンのずっしりとした重さを感じながらサルトゥーラは開戦の時を待つ。
「シャチ型だったんだ…今回はこれだけかもしれないけどまだ本隊がいるってことだよね。あとでカプセルも壊さないといけないし…」
川西・エミリー(晴空に響き渡る歌劇・h04862)はそう言うとギルロウから飛び立つ。カプセルのことは悠希に託しつつヨーキィと合流するべくエンジンを吹かす。プロペラが風を切り、雲が後ろに流れていった。
(でかいな……。母艦みたいなものなんだろうか。あんなのがこれ以上進化するのは絶対に避けたいね)
クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)は愛機、蒼月に乗り上空からORCAを迎撃する。その威容は蒼月に比べれば小さな島くらいに思えた。並んだ砲塔がこちらを威嚇するように向きを変え、低い声でORCAが鳴く。
戦端を開いたのはヨーキィとエミリーだった。海上スケーターシューズで海上を滑るように駆けるヨーキィと空を駆けるエミリーが上下から挟み撃ちにする。
「上側の装甲は厚そう。ところどころ追加装甲がなさそうな場所があるみたい? 下側は副砲がいっぱいついてるからこれを壊しながら無力化かな…?」
エミリーが分析した結果を伝えるとヨーキィが頷く。
「わかったよ。全艦、全兵装使用自由! 攻撃開始!」
少女人形達を展開させるとORCA下部の砲塔へ射撃を始める。
「さあ行きましょう、フィナーレはもうすぐです!」
エミリーは陽動で上空へと滑り出るとORCAの装甲の薄そうな場所を探しはじめる。エミリーの上からまばゆい光が降り注ぐとエミリーを照らした。月の下でエミリーは舞台俳優のようにきらびやかに輝く。ORCAは口の手法を撃つがエミリーはひらりと舞うようにそれを躱した。
前線を支えたのものはもう一人いた。空中を風のように舞いながらミサイルを撃ち続けるクラウスだった。ORCAからの砲撃を急加速で避け、確実にミサイルを当てていく。ORCAはじれるように距離を取った。
「おいおい、ORCAの名前が泣くぜ! ガンガンかかって来いよ。ずいぶん活きが悪いじゃねえか!」
サルトゥーラがそう挑発するとORCAが砲門をサルトゥーラに向ける。弾丸の雨が降り注ぐがサルトゥーラはどこ吹く風だ。肩や腕に被弾するのもかまわずにガトリング砲を打ち続ける。命中した弾丸の発する酸がORCAの砲塔と装甲を弱らせていった。
「だいたいわかってきたがもう一息か。自己進化、つまり、進化が進化を呼び人には及びもつかない次元にまで知性を高められるという事だ。指数関数的に進化が進む。ならその底を小さくしてやればいい。そうすれば使ったものを退化させることができる。問題はそのための関数の組み込みか。もう少し時間が欲しいな」
悠希は唸りながらも作業に取りかかる。進化カプセルを退化カプセルにした後に破壊すれば万一戦闘機械群が残骸からサルベージ下としても毒薬として機能するだろう。
「いけません!」
那奈璃の声が響く。ORCAの砲門がギルロウを向いている。折るかが一声鳴くとギルロウに向かって一斉射撃が飛んだ。
「舐めんな!」
サルトゥーラが前に出てガトリング砲で威嚇すると砲撃はサルトゥーラの方に向かう。クラウスの蒼月もギルロウを背にするとORCAの主砲に狙いを定める。ギルロウに砲撃が届く寸前、那奈璃の霊能波がORCAの下部砲塔を内側から壊す。サルトゥーラの強酸でボロボロになっていた砲塔はボロボロと破片となって海に消えていった。
「さぁ、好き勝手はさせませんよ」
那奈璃はそう言うとORCAに向かって追撃の一撃を放つ。残る主砲がギルロウを狙うが蒼白に染まった蒼月が一気に近づくと主砲にグレネードを投げ込んだ
「させないよ」
主砲の発射と同時にグレネードが爆発しORCAの口付近を吹き飛ばす。
「今だ! 囲んで仕留めちゃって!」
ヨーキィが指示を出すと鶴翼陣をしいた少女人形達が一斉に魚雷を撃ち出す。そのさなか、急降下したエミリーが残像を残しながらORCA前面に接近すると零距離から銃弾を見舞う。前面の装甲が剥がれ内部がむき出しになったORCAにエミリーが爆弾を投げ込むとORCAは内側から弾けるように爆発して海に消えていった。
「こんな感じの襲撃が続いてしまうのなら、カプセルは破壊してしまう方がいいのかもしれない。人類側が上手く活用できそうなら、その限りじゃないけど」
クラウスが懸念を口にすると那奈璃も続く。
「このままだとまた次の戦闘機械群がやってくるかもしれません、何らかの対処は必要と思いますが」
研究施設で作業をしていた悠希が疲れた声でそれに応えた。
「インバースプログラムを組み込んだ後で入念に破壊したよ。これでサルベージされても自己退化プログラムとしてしか機能しない。ひとまずは安心ってところだ。時間を稼いでくれて助かった。自分はもう休むよ」
カプセルだったものは海に流されその後のことは知られてはいない。だが、超進化した戦闘機械群が現れた報告がないところを見ると悠希の仕事はうまくいったのだろう。海の上の炎はまだ人々の希望として太平洋の上に浮かんでいるそうだ。