シナリオ

天使はそこに居た

#√汎神解剖機関 #天使化事変 #羅紗の魔術塔

タグの編集

作者のみ追加・削除できます(🔒️公式タグは不可)。

 #√汎神解剖機関
 #天使化事変
 #羅紗の魔術塔

※あなたはタグを編集できません。

 楽しい列車の旅となるはずだった。
 だが突如車内は、美しき羽と悲鳴に包まれる。
 列車に乗車していた全ての人々が、まるでサナギから蝶が羽化するかのように、その背から翼を広げ、内腑も皮膚も人とは違う何かに成り果て。在る者達は、まるで骨としか思えぬ悍ましい姿の『オルガノン・セラフィム』へと変貌し、ヒトなる心までも失った。

 ――これは悪夢だ。

 この騒動が起こった時、車掌だったアルは後部車両を巡回している時だった。
 何かが伝染していくように、乗客も自分も変貌してしまい、更にセラフィムへと変貌してしまった者達が手に入らなかった何かを渇望するかのように、牙を剥き捕食しようと襲い掛かってきた。
 急に列車が速度をあげた混乱で、難を逃れたアルは同じ状況の人達と逃げ出し最後尾車両に立てこもったが……。
 塞いできた連結ドアの1つが破られるのが見えた。後、残るドアは3枚。
 このまま、食べられるのを待つしかないのか。それよりも前に、加速した列車と共に事故に巻き込まれるかもしれない。
 どうしたらいいのか分からないまま、アルは生えたばかりの翼を震わせるのであった。

 √汎神解剖機関のヨーロッパで、善なる無私の心の持ち主のみが感染する「天使化」という病が広がっているようだ。
「殆どの感染者は理性を失い怪物へと変貌してしまうようですが、無事な方もいるようです」
 天使となってしまった状態を無事と称していいか疑問ですがと、煽・舞(七変化妖小町・h02657)は小首を傾げ、広げた扇で口元を隠した。
 案内する列車も、天使に至る病に襲われた一つ。
「セラフィムと化した者は天使を捕食しようとしますので、皆さんには彼らを助け保護して欲しいのです」
 暴走した列車は、運転席と先頭は無人で、後ろを目指すセラフィムが中央車両辺りに集まっており。最後尾車両には生き残り逃げてきた天使が立てこもっている状況だ。
「放っておけば天使はセラフィムの餌食になるか、『羅紗の魔術塔』によってさらわれ奴隷とされてしまうかもしれません」
 強大な羅紗魔術士『アマランス・フューリー』の姿も確認されているので、彼女の介入あるいは呼び出された怪異と対峙する事になるかもしれないので注意して欲しい。
 勿論、天使となった人達を護りながら戦わず、追手を振り切ることもできるかもしれない。
「天使が羅紗魔術士の手に渡らないよう、どうか彼らを助けてあげてください」
 全ては星の導きにと、舞は扇を閉じる。どうするかは、あなたが選んだルート次第――。

マスターより

開く

読み物モードを解除し、マスターより・プレイング・フラグメントの詳細・成功度を表示します。
よろしいですか?

第1章 冒険 『大暴走列車』


矢神・霊菜
アリスマ・マティクス
エアリィ・ウィンディア

●混乱の列車
 伝染していく混乱と共に列車は加速していく。
 きっと運転手もあの『オルガノン・セラフィム』となってしまったのだろう。理性を手放し求めるものは天使の血肉。だから先頭車両は無人に、最後尾へと逃げた天使達を追って移動していったのだろう。
 こうして速度をあげた列車がまだ正常に走れているのは、このあたりの線路が比較的真っ直ぐであったおかげで、いつ脱線してもおかしくはない。
 美しい緑の絨毯が広がる大自然を駆ける列車の旅は、きっと爽快であっただろう
「楽しい旅が惨劇に変わるなんて、まさに悪夢ね」
 こんな状況でなければ、この雄大な大自然を駆ける景色を楽しめたかもしれない。頭の端でそんなことを思いながら|矢神《やかみ》・|霊菜《れいな》(氷華・h00124)は迫る列車へと視線を向けた。
「んー、直接的な脅威が二つ。敵陣を突撃するのもいいけど、まずは電車を止めることからかな?」
「そうですね。まずは列車を停めましょう。ですが、素人の私が下手に弄るより車掌のアルさんと合流した方がよさそうですね」
 どうしようと可愛らしい眉を潜め悩むエアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)に、アリスマ・マティクス(四則演天・h01904)が言う。
 だが手遅れになり、暴走したままどこかに突撃されても怖い。
 そう考えると、迷っている暇はなかった。
「……|氷翼漣璃《ひよくれんり》、空から運んでちょうだい」
 霊菜の喚び声に、氷の身体を持つ2体の鷹の神霊が召喚され姿を現す。
 その1体の足に片手で霊菜はつかまり、もう片方の手でエアリィを支え。もう1体にはアリスマを運んでもらい列車の上へ。
 1両目の列車の屋根の上へと着地すると、走行する勢いで一気に後方へと身体が飛ばされそうになる。風を受け過ぎないよう身体を低くし列車にしがみつく。
「では、こちらはお任せします。私は、アルさんのいる車両を目指しますね」
「気を付けてね。お姉さん」
 エアリィに見送られ、アリスマは任せてと笑顔で答えると最後尾を目指し列車の上を駆けた。

 後部車両への移動は然程難しくはない。
 うっかり足を滑らせない気を付ければ、ある程度風が背中を押してくれる。
 3両目の屋根をアリスマが渡っていれば、車内で暴れているのか何者かが窓ガラスを砕いたのだろう。中から呻きと叫びが漏れ聞こえ。
 外へ出てこようとしているのか、悍ましい手が窓から伸ばされる。
「急いだほうが良さそうですね。まだセラフィムとの接触は避けておきましょう、私も異なる√の天使ですので……」
 あの手はアリスマの接近を感じ、捕えようと伸ばされた手なのだろうか。
 どちらにせよ、こんな足場の悪いところで接触すれば、まともに戦うこともできないだろうし何より囲まれたら厄介だ。
 ここは飛び出してこないうちに通過し、その勢いのまま最後尾車両の屋根へ。

 ドンっと、屋根から響いてきた音にアルを始めとした天使たちは身を固くした。
 乗客を護らねばと恐る恐るアルが窓に近づくと、ほぼ同時にアリスマが中を覗き込む。
 驚いたアルの悲鳴に、列車から滑り落ちそうになったアリスマであったが、そこはしっかりと列車に掴まり、そっと窓をノックする。
「ハロー? 驚かせてすみません。私は皆さんを助けに来ました」
 敵ではないと笑顔を見せアピールすれば、警戒心は薄れる。だが何故窓からと疑問を抱きながら良く見れば、アリスマの背にも翼が広がり、自分達と同じなのだとアルは気が付き広がる悲劇に震えた。
 自分に、乗客に……。
「あのー、出来ればそろそろ開けてもらえますでしょうか」
 そろそろ列車にしがみつく手も痺れてきそうだと、アリスマが遠慮がちに言った。

 先頭車両の方に残った霊菜とエアリィは、何度か列車の勢いで吹っ飛ばされそうになりながらも、割れていた窓から車内へと潜入し。運転席へと辿り着いた。
 本来であれば閉ざされていた運転席と客席を阻むドアも、開け放たれたまま。
 きっと運転手は、向こうで騒ぐセラフィムの中に……。
 どれだけ悲惨な状況だったのか、車内に散らばっていた荷物が状況を教えてくれる。所々に飛び散った血は天使のものなのか。血だまりに倒れた小さなぬいぐるみは踏みつぶされ、今にも首が落ちそうになっていた。
 隣にいた誰かが、そして自分が。訳もわからないままに変貌し、人によっては家族や知人だった者に襲われたのかもしれない。
「魔術塔に連れていかれたらどんな扱いを受けるかわからないもの。これ以上の悪夢も絶望も、もう十分よ」
 早く助けなければと霊菜は運転席に向き合う。
 ボタンやスイッチがいっぱい、何かの計器メーターとモニターが複数、それからレバーハンドルが2つ。
「……とは言ったけど……列車の操作はわからないのよね。それっぽいレバーとかを触れば止まるかしら?」
 それらしいマニュアルはないかと霊菜は、辺りを探し。その横を通り抜け、ちょこんとエアリィが運転席に座った。
「……ええと、どうやって止めるんだろ? ね、この電車の操作方法ってわかるかな?」
 運転士さんのやってた行動を思い出してもらえたらうれしいなと、エアリィは精霊交信で精霊さん達に聞いてみるが、レバーを引くとか戻すとか緩めるとか。ボタン押していたとか、スイッチが……なんて、細かな情報が多くて良く分からない。
 もしかすると精霊が列車を止める操作として理解してないのかもしれない。
「こうなったら第六感に頼って操作するしかないよね」
 覚悟を決めそれらしいレバーにエアリィが手を伸ばした時だ。
 同じように第六感で何か気づけないかと見回してた霊菜が、幸運にも無線が何か受信していることに気が付きスイッチをオンにした。
『聞こえますか? 運転席の方、聞こえますか?』
 必死に無線ごしに呼びかけてくるのは、車掌のアルだ。アリスマに状況を聞き、列車を止めるべく最後尾の操縦席から通信してきたのだ。
「聞こえるよ。列車を止めたいけど、操作が分からないの」
 エアリィの返事にアルは、直ぐに操作を教えエアリィを手助けし、暴走していた列車は段々と減速を始め。
『今です!』
「りょうかーい!」
 元気に答え、言われた通りエアリィが加速用ハンドルを切り、制動用ハンドルを完全なブレーキ位置まで一気に引いた。
 ギ、ギギギギキーーーーィ!!
 急ブレーキの音をあげ、車両同士がぶつかり合いながらも列車は停止した。
 衝撃でセラフィムも天使たちも列車の床を転がったようだが、依然として状況は変わっていない。
 最後尾車両の中で、セラフィムに狙われる天使達は孤立したまま。
「待っててね。すぐに助けに行くからっ!!」
 今度は天使を捕食しようとしてるオルガノン・セラフィムの脅威を退けようと、エアリィは中央車両へと向かうのであった。

第2章 集団戦 『オルガノン・セラフィム』


 急停車した車内では『オルガノン・セラフィム』や天使も転がり、騒ぎになっていた。
 幸いまだ最後尾車両を隔てるドアは破られていないが、危険な状況に変わりない。
 天使を捕食せんとセラフィムが渇望し続ける中、停止した列車へとこれを追う『アマランス・フューリー』が追いつくだろう。
 襲い掛かってくるであろうセラフィムを退けたとしても、ここに天使がいればアマランスから彼らを護る必要もあるだろう。
 天使を回収しようとする彼女と戦いながら天使を護るか、それとも護りながら逃げるのか――。
 だが、まずは目の前の脅威を取り払おう。叫び声をあげるセラフィムを排除せんと動き出すのであった。
アリスマ・マティクス

●渇望する本能
「みんさん落ち着いてください」
 列車が急停車したことで新たな混乱が広がる車内を鎮めようと、 アリスマ・マティクス(四則演天・h01904)は声を上げた。
 転倒し身体を痛めた者も居るようだが、天使達を狙う『オルガノン・セラフィム』との間を隔てるドアが壊されなかったおかげで不要な混乱が広がらずにすんだ。
 いち早く、車掌のアルもアリスマと同じように周囲に声を掛け天使となってしまった乗客たちを落ち着かせてくれている。
「さて、問題は天使を捕食する『オルガノン・セラフィム』ですね」
 さすがに私の√能力と相性が悪いと、アリスマは表情を険しくする。
 こちらから率先して攻撃を仕掛けるには不向きと思案してる間に、停車した車両の窓を割りセラフィムが暴れ出そうとしているのが見える。
「このまま、じっとしている訳にはいきませんね」
 皆さんはここから出ないようにと念を押し、アリスマは最後尾車両の外へ。この場を護ろうと表へと出た。

 ――|楽園顕現《セイクリッドウイング》!

 撃破することが出来なくとも、そのまま車両の中に押し込めれば、時間が稼げるはず。
 放たれた楽園の叢檻は飛び出そうとしていたセラフィムを押し留め行動不能にしようとするも全てを止めることは敵わない。力の範囲外に抜け出たセラフィムが、自らの身体が傷付くことを恐れず列車のまどを壊しアリスマを目指し飛び出してくる。
 無茶な破り方をしたせいでセラフィムの身体からは腕や手が外れ、折れている個所もあったが、聖者本能が働きそれらが何も無かったかのように元の姿に戻っていく。
「どこまでもつか分かりませんが、耐え抜きましょう」
 こうしてセラフィムの注意がアリスマに集まっている間に、仲間が撃破してくれると信じて。

矢神・霊菜

●殺戮獣の悲しみ
 やれ、『天使化』の反応があったのはあちらだろうか。凶暴な殺戮獣しか期待できないかもしれぬが、価値はある。先程まで動いてたと思ったが、それも止まったか。
 何があったにせよ『アマランス・フューリー』のやることは変わらない。
 天使を探し気配を追うように、線路伝いに列車に近づいていくのであった。

 無事に列車を止められたものの、まだ天使達への危険は遠ざかっていない。
「私としては、さっさとセラフィムを倒して天使たちを保護したらこの場から離れたいわね」
  列車が止まった以上、アマランスがいつ追いついてもおかしくないわと、| 矢神・霊菜《 やかみ・れいな》(氷華・h00124)は周囲への警戒を強め、後部車両へと視線を向けた。
 中央車両に集まっている『オルガノン・セラフィム』の大半の注意は、最後尾車両の方と窓の外に向かっている。どちらも彼らの本能が天使を求めているが故の行動だろう。
 その姿は悍ましくも悲しい。失った何かを取り戻したいと求めているかのようにも見えた。
「元の姿に戻せない以上は……ごめんなさい……」
 舞のような霊菜のしなやかな動きより放たれた一閃が、真っ直ぐ車両の中を飛びセラフィムの首あたりから背を斬り付け、別の一体の腕を斬り飛ばし同時に走り出した。
「ぐぎゃ……!?」
 悲鳴をあげかけたセラフィムであったが、その言葉は途中で途絶える。斬り付けられたところより本来起こるはずの再生が始まらず代わりに凍結し始めたからだ。
 首辺りから広がった氷はセラフィムの喉まで達し、声を奪い。隣では腕を斬られたあたりから半身近く氷が広がっているのが見えた。
 霊菜の|氷宴の舞《ヒョウエンノマイ》による斬撃は、斬り付けた所より氷を広げその部分を凍結させるのだ。
 このまま聖者本能を使われる前に。
 放った斬撃と共に動き出していた霊菜は、凍りかけた身体に右往左往していたセラフィムへと接近し一気に倒し切る。
 だがもう一体は間に合わない。仲間が凍結した身体を躊躇なく引き千切り、聖者本能によって身体が再生されていく。彼らを倒しきるには、再生が終わるより早く死なせてあげるしかない。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!」
 無理矢理生やされる骨と肉の痛みにセラフィムは悲痛な叫び声を上げた。
「本当に厄介だわ……」
 早く彼らをこの区苦しみから解き放ってあげなければ――舞い散れ。
 冷たく鋭く、霊菜は斬撃を放つのであった。

エアリィ・ウィンディア
イリス・フラックス
継萩・サルトゥーラ

●堕天の行先
 停車した電車の騒動に、ここかと『アマランス・フューリー』は確信する。
 天使を喰らわんとする『オルガノン・セラフィム』の悲痛な声が、列車の中より良く聞こえていた。
 眼下に停車する列車からはセラフィムが何者かと交戦しており、退治されているようだ。
 一人でも多くのセラフィムを捕え奴隷に。その身に纏う|羅紗《らしゃ》を翻し、アマランスはゆっくりと列車の上に着地した――。

 最後尾の天使の無事が、蠢くセラフィムの向こうに見える。
「急いでいかないとっ!」
 電車が止まっている以上、追手がセラフィムと天使を見つけるのも時間の問題。エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)は左手に精霊銃を構え中央車両へと突撃した。
「世界を司る六界の精霊達よ銃口に集いてすべてを撃ち抜く力となれっ!!」
 高速詠唱しながら扉にを開けると同時に、 引き金を。
「こんにちわっ! そして、ふっ飛べーーっ!!」
 一斉に振り返ったセラフィムに、複合六属性の弾丸|六芒星精霊速射砲《ヘキサドライブ・ソニック・ブラスト》を放つ。
 危険を察知したセラフィムは咄嗟に跳躍するも、そこに思いがけない何かが居た。放っておいても天井にぶつかっていたかもしれないが、更にもう一手。
 気が付いていたエアリィが、意味深に微笑む。
「こんな狭いところで跳躍するときは、上方向にご注意をっ!!」
「こんにちは。でも、|触れる《開ける》ことなんて許してないわ」
 一足先に天井近くに跳躍していた輝く緑色の瞳が何か言いたげに見つめ返し、イリス・フラックス(ペルセポネのくちづけ・h01095)から離れた悪霊『わたしを好きなひと』が揺らめきセラフィムに襲い掛かった。
 ここはイリスの|小さな鍵の小部屋《ラ・バルブ・ブルー》、彼女が認めないものに自由を与えるつもりはない。
 反応が遅れたセラフィムは攻撃から逃れきれず、他はエアリィの精霊速射砲に吞み込まれる。
 それでもまだセラフィムが動けていたのは、聖者本能による再生のせいかもしれない。
 苦しみながら、だが彼らの受けた傷は塞がり元へ戻ろうとしていく。これを止めるには、確実に息の根を止め死を与えるしかない。
 一思いに――。
 右手で精霊剣を引き抜いたエアリィが斬り込んだ時だった。

 ダンッ!

 鈍く何かが列車の屋根に着地した音が響く。
 何が?
 疑問と答えがほぼ同時に浮かんだ時には、答えが列車の屋根を吹き飛ばしていた。
 どこか冴え冷めとした瞳でアマランスは、セラフィムを見下ろし身に纏う羅紗に込めた古き呪文を解き放とうと手を伸ばした。
 彼女にとってセラフィム以外の何かが居たとしても関係ない。セラフィムを回収し奴隷化出来ればいいのだから。
「させねぇよッ!!」
 喜々とした威勢のいい声と共に、大量のミサイルが列車とアマランスに向かってくる。
 弾幕を張るかのようなアバドンミサイルの攻撃に、再生しかけていたセラフィムは爆発に次々と巻き込まれ炎に包まれた。
 小型改造無人ドローン兵器「アバドン」と共に駆け付けた継萩・サルトゥーラ(|百屍夜行《パッチワークパレード・マーチ》・h01201)が、アバドンプレイグを放ったのだ。
 さすがに不意打ちとはいえ、アマランスは横へと飛び躱している。
「邪魔をするか」
 険しい表情をアマランスが浮かべるも、今はそれどころではない。
 彼女が現れた以上残るセラフィムを一掃し、更に天使の安全も確保しなくては……。
 再び放たれたエアリィの精霊速射砲からの六属性の精霊の加護を受け、サルトゥーラは列車を飛び出そうとしていたセラフィムらの前に躍り出ると車内へ蹴り落とし、アバドンでその周りを囲み、
「逃がすかってんだよッ!」
 一斉にアバドンレーザーを浴びせ、セラフィムを黒焦げにしていった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁ……!!」
 再生する暇を与えず炎はセラフィムとなってしまった者たちに、苦しみから解かれる死を与える。
「これでもう回収できるやつは居なくなったぜ!」
「くっ……貴重な|新物質《ニューパワー》が……」
 想定外の邪魔に、歯嚙みするアマランスであったが、その視線は何かに気づき驚愕に変わる。
「……天使。本当に居たのか」
 見落としていた最後尾車両で怯える天使達の姿に、アマランスは目的を切り替えた。
「ふぅ、一息つくにはまだまだだなぁ~」
 天使を護る為にも、もうひと頑張りとエアリィは精霊銃を構えた。

第3章 ボス戦 『羅紗の魔術士『アマランス・フューリー』』


獅猩鴉馬・かろん

●純白の奴隷
 セラフィムが集まっていた中央車両の屋根は吹っ飛ばされ、飛び出してきたところを回収しようと目論んでいた『羅紗の魔術士『アマランス・フューリー』』であったが、それより早く駆け付けた√能力者によって奪われた。
 アマランスとしては、目的を失ったわけで早々にこの場を去り、別の発生源に向かいたいところであった。だがその瞳は、最後尾車両の中にいる天使の姿に気づく。
 アマランスは身に纏う羅紗の呪文を解き放ち、奴隷怪異「レムレース・アルブス」を召喚し、捕えよと命じた。
 召喚されたレムレース・アルブスが一斉に天使に向かおうとした時だ。
「いけー!」
 美しい山の獣と眷属の山犬が、レムレース・アルブスに飛び掛かる。
「かろんもおてつだいするぞー! まかせろ!」
 天使には近づけさせないと、|獅猩鴉馬《しじょうからすま》・かろん(大神憑き・h02154)が小さな身体で立ちはだかる。
 細かな状況は分からないが、かろんなりにあの女の人が悪者で、恐ろしいお化けをいっぱい喚び出して、後ろの車両の中に居る人達を狙っているらしいと理解した。
「わるいやつはお尻ぺんぺんだ! みんな、やっちゃえー!」
 かろんの号令に宿している大きな山の獣の姿をとっている大神とその眷属達が、|壱百壱獣壱式爪牙霊撃《ワンワンワンゴーストコンボ》で、嘆きの光ラメントゥムで攻撃してこようとしたレムレース・アルブスに喰らいつき、鋭い牙と爪を持って蹴散らしていく。
「どーだー!!」
 お子様は最強だと言わんばかりの様子で、かろんはどやっと胸を張って見せ天使を護り抜く。
 次々と奴隷怪異を消滅させられ、アマランスは自ら回収に動こうとしたが、それは他の√能力者が許さないのであった。

矢神・霊菜
エアリィ・ウィンディア
アリスマ・マティクス

●羅紗の魔術士
 身に纏う羅紗が広がるように浮かび、込められた呪文へと魔力が込められていくのが分かる。
 セラフィムを回収するつもりであったが、これだけの天使が実在していようとは、『羅紗の魔術士『アマランス・フューリー』』としても想定外の収穫であったことだろう。
 ここは何としても貴重な天使を回収していきたい。だが――。
「さ、お姉さん、ここから先は通せんぼだよ」
 左手に握る精霊銃の銃口を向けたままエアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)が、その前に立ちはだかる。
 守るためにもうちょっと頑張るっ! 気合も十分だ。
「あなたがアマランス・フューリーですね」
 エアリィとは反対側より挟みこむように近づきながら、アリスマ・マティクス(四則演天・h01904)はアマランスへ鋭い視線を向ける。
「アルさん……」
 言いかけた言葉をアマランスは呑み、余計な情報を与えない方がいいですねと頭を横に振るい。
「天使は渡しません」
 それに、ここで倒しきれば問題ない。
 ここは大きなものを一発撃つ事を優先するかなぁと、エアリィは精霊銃を乱れ打ちしながら詠唱を始め、大きくその場より広がる。当然、狙いが別れればアマランスの注意もそれぞれへと分かれ、その分隙が生まれやすくなるだろう。
 もしもエアリィのそばへと接近してくるような事があれば、右手の精霊剣で捌きながら対応すればいい。
 それに仲間がいる。
「訳も分からずこんな状況になっている天使達に、これ以上の絶望なんて必要ないわ。彼らは私達が保護するから、羅紗の塔はお呼びじゃないの」
 |矢神《やかみ》・|霊菜《れいな》(氷華・h00124)が片腕を伸ばすとそこに一羽、もう一羽は反対側の肩に。氷の身体を持つ鷹の神霊|氷翼漣璃《ひよくれんり》が舞い降りる。
「列車の屋根を吹き飛ばしてくれたのは好都合ね。遠慮なく|√能力《これ》が使える」
 アマランスが羅紗に込められた古き呪文を解くより早く、二羽の氷鷹が翼を広げる。
「雪風かぜが満ち、白氷覆う。敵絶える凍界せかいには何もなく。孤高に舞うは護盾たての翼。来たれ、氷天そらの王――|天に舞え氷翼の守護者《グラキエス・アーラ・カエルム》」
 氷翼漣璃と共に纏う凍結エネルギーが強大な鷹の姿へと変形し、鋭くアマランスに襲い掛かる。
 攻撃を放とうとしていたアマランスは手足と共に羅紗を凍結させられ、表情に険しさを浮かばせる。決して壊せない凍結ではないが、この数秒動きが制限されることが命取りになりかねないとアマランスは分かっていた。
 急接近した霊菜は腕輪状であった融成流転を刃へと錬成し、凍り付いた羅紗へと振り下ろし、砕き斬る。
「ソレは厄介だから手数を減らしておきたいのよね」
 攻撃を受け、短くなったとはいえ羅紗に込められた古き呪文が使えない訳ではない。アマランスは大きく広げると輝ける深淵への誘いを解き、輝く文字列を放つ。
「あいにく幼い頃から数式を扱ってきた私に、その程度の文字列で頭はパンクしません」
 この程度の文字列であれば、速やかに演算処理すれば頭への負担を軽減できるだろうとアリスマは抵抗し、霊菜は放たれた文字列から第六感を存分に発揮し、列車の座席の背を遮蔽物に利用し切り抜ける。
「下手に溜め込むから、処理に困るのです。すぐに終わらせれば、何も問題ありません。さて、お返しに戦闘錬金術で錬金毒の組成式を送りましょう。あなたの魔術でこの錬金毒を分解できますか?」
 竜漿兵器を|戦闘錬金術《プロエリウム・アルケミア》で|対標的必殺兵器《ターゲットスレイヤー》へと変形させたアリスマは、斬りつけ錬金毒をアマランスへ付与した。
 蝕む錬金毒は、たちまちアマランスの全身へと広がっていく。
 何とか呪を放とうとアマランスは羅紗を手繰ろうとするが、間近に接近していたエアリィが精霊銃と精霊剣を真上に投げ、そのままドサッと小さな身体を預けるように。しっかりと抱きつき、不敵に見あげる。
「お姉さん。……こうやって抱き着いたら回避は難しいよね?」
「離せっ!?」
 エアリィが小さな体躯の割りにアマランスが振りほどけないのは、その小さな身体に精霊六属性の魔力がチャージされているから。
「それじゃ、あたしの限界突破の全力をプレゼントっ!」
 高まるエアリィの魔力からアマランスが逃れるすべはない。
「六界の使者よ、我が手に集いてすべてを撃ち抜きし力を……!!」

 ――|六芒星精霊収束砲・零式《ヘキサドライブ・エレメンタル・ブラスト・ゼロ》。

 零距離から放たれた魔力砲は、すさまじい閃光エネルギーとなって弾け、アマランスと辺りを真っ白に吹き飛ばした。
 光が収まった後も、まだ目がチカチカするような残像が目の奥に残っていたが、エアリィの腕の中に何も残っていないのははっきりと見えた。
 一片も残さず。凍り付いた氷が一瞬で蒸発したかのように、アマランスはこの場から消滅させられたのだ。
 これで無事に天使達を安全な場所へ保護できるだろう。
 脅威がひとまず去ったことを教えるように、アリスマは心配そうな顔を浮かべてるアルに向かって大きく手を振った。

挿絵申請あり!

挿絵申請がありました! 承認/却下を選んでください。

挿絵イラスト