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ヨーロッパ「天使化」事変~魔術士路地裏暗殺作戦
「奴らめ、何という進軍速度だ……|王権執行者《レガリアグレイド》の権能を以てしても、”王権決死戦”を防げるか……否、防げんな」
自身の確定した死……絶対死が待ち受ける戦いを想い、ヨーロッパの魔術を統べる組織の代表者……その一人たる『アマランス・フューリー』は苦い顔立ちで路地裏を散策する。
絡むチンピラを一蹴しながら、不衛生な暗がりを早足で女は疾走していく。
「既に私はどれまで殺されている? ただでさえ”王権決死戦”は私ですらも未知数な部分が多いのだぞ……」
既に百に届こうかとしている『ヨーロッパ天使化事変』の星詠み。
その数近い分だけ羅紗の魔術士は死んで、復活している。
「……その数が、”王権決死戦”に影響しないという事だけはないだろうよ」
歯噛みしながら、フランスの治安の悪い路地裏を『アマランス・フューリー』は走る。
ここらをたむろする破落戸等、彼女の敵ではない。
彼女を苛むのは、この|世界《汎神解剖機関》の、外なる|世界《√》を渡る√能力者だけである――。
「ここで『アマランス・フューリー』の討伐数を稼ぎましょう……つまりは、暗殺ですわ」
そう言って人間災厄『ウタウタイ』たる星詠み……|アレクシア《Alexia》|・《・》|ディマンシュ《Dimanche》(ウタウタイの令嬢・h01070)は羅紗の魔術士を暗殺する依頼を√能力者に紹介する。
今回、件の|王権執行者《レガリアグレイド》はフランスの某スラム街……その路地裏で隠匿しながら逃亡を図っている。
既に回収した『オルガノン・セラフィム』を手土産として、本拠地である『羅紗の魔術塔』に帰還するつもりだろうか。
「ですが、予知出来た以上は活用しましょう――路地裏で、奇襲を仕掛けて下さいな」
まず、√能力者達は暗殺の為に先回りして路地裏に辿り着く事が出来る。
そこで暗殺の準備等が出来るだろう。
「どれだけ有利に準備を整えられるか。それを完遂した後、路地裏にやってきた魔術士に奇襲を仕掛けて下さいな」
そうしてイニシアチブを握った戦いで『アマランス・フューリー』を葬った後、速やかに路地裏から脱出すれば依頼は完了だ。
「汚れ仕事となりますが、4月中旬に行われる”王権決死戦”……其れは『アマランス・フューリー』の討伐数が影響する事でしょう」
そう言って、アレクシアは深々と√能力者達に頭を下げるのであった。
これまでのお話
第1章 冒険 『治安の悪い路地裏』

「ワタシ、メリーさん。暗殺なんて大それたことをするのねえ……うふふ、いいんじゃないかしら♪」
蠱惑的な笑みを浮かべ、|赤煉瓦《アカレンガ》・メルフリーデ(甘色吐息・h05523)……人妖「メリーさん」である女性は、古い肩掛け式の携帯電話を弄りながら路地裏を進む。
「そうねえ、羅紗の魔術士ちゃんはイベントは好きかしら?」
他人の後ろに立つことが好きであり、肩を叩いて振り向いたら頬っぺたをつんつんする悪戯が好き……というメルフリーデ。
そんな彼女は√能力『|Ein Prosit《アイン・プロージット》』……√能力の歌を歌い上げていく。
「|ins, zwei, drei, g'suffa!《アインス、ツヴァイ、ドライ、ズッファ!》……研究するにしてもずっと研究は行き詰ってしまうでしょう?」
メルフリーデの歌が路地裏に響く。
「あら、ここはフランスだし今はオクトーバーじゃない?……良いじゃない、オクトーバーフェストは雰囲気を楽しむイベントよ♪」
彼女は好きなイベントはオクトーバーフェストであり、どこかから取り出したカクテルグラスに注がれたシャンディガフ……ジンジャエールとビールを用いたビアカクテルに口を着ける。
「アマランスちゃんもお酒で辛い事を忘れてもらいましょう♪――Ein Prosit, Ein Prosit, der Gemütlichkeit♪」
メルフリーデは謳う、オクトーバーフェストの礼賛を――
「ふにゅ……ここで暗殺……確実に食べきる必要があるんですね……そうなると植物系はあまり使えませんか」
次に路地裏へとやってきたのは|神咲《しんざき》|・《・》|七十《なと》(本日も迷子?の狂食姫・h00549)。
彼女はある程度裏路地を俯瞰できる位置に陣取り、周囲を観察しながらどうやって『アマランス・フューリー』を食べきるかを考えていく。
「まずは確実に逃げ道を塞ぐことですね。そして、そんな罠があることを悟らせない事……」
そんな方法があるかについて、頭を悩ませていく七十。
何せ、√能力は『強力な超常』であっても『万能』ではない――
「う~ん、ならあの子? あの子という手も……あぁ~、いや別に絞る必要も全てを兼ね備える必要もないですね……」
√能力『|万花変生《バンカヘンジョウ》』を発動し、隷属させた存在を召喚する七十。
主に植物操作系統の√能力でもあるこの異能を使い、お菓子を食べながら罠の隠蔽・誘導・効力……それぞれに特化した隷属者を罠として未知の植物と共に設置……羅紗の魔術士を確実に『捕食』する事が出来る様に、十二分の注意を払いながら――
「時間があるなら複数の子にそれぞれを補わせることも出来ます……それなら特化している子を選んでも問題はないですね」
裏路地にしっかりと、植物と隷属者を添える事で|王権執行者《レガリアグレイド》の死地に出来る様に。
七十……人間災厄「万理喰い」は準備を整えるのであった。
今回の『アマランス・フューリー』の暗殺作戦……団体規模で参加した√能力者達が、路地裏に現れた。
彼らの名は『画廊『カゼノトオリミチ』』……元喫茶店の画廊であり、√能力者が集う『旅団』となった組織であり、団長であるルクレツィア・サーゲイト(世界の果てを描く風の継承者・h01132)は詠唱錬成斧槍【フラウ・フラン】を構えて言葉を紡ぐ。
「『暗殺』って随分物騒だけど、ここで止めなきゃ更にヤバい事になる――やるしかないわね!」
「うん、暗殺っていうと物々しいけど、息を殺して獲物が罠に掛かるのを待つ……ドラゴンファンタジーの魔物狩りみたいなものだよね! まっかせて!」
ルクレツィアの言葉に反応するのは、シアニ・レンツィ(|不完全な竜人《フォルスドラゴン・プロトコル》・h02503)。
欠落として”真竜への竜化能力”が失われており、ドラゴンプロトコルとして身体の一部のみしか変化させられないシアニであるが、元気いっぱいな声色で√能力『|幼竜の集会所《サモン・ミニドラゴン》』を発動。
「みんな集合ーっ!――ドラゴン会議、はっじまっるよー!」
ミニドラゴンの群れを召喚し、真っ先に自身の元へとやってきた緑竜「ユア」の頭を撫でながらシアニは、潜伏場所を探す他の画廊のメンバーへのサポートを彼らに依頼する。
「見付けた情報はテレパシーで共有してね」
「はーい、ありがとねー……しかし、暗殺かー……まあ正面切っての戦いになるよりは得意かな?」
ミニドラゴンの支援を受け取り、シーネ・クガハラ(魑魅魍魎自在の夢幻泡影・h01340)は√能力『|空想は手で描き血に汚れる《ハンドメイド・ブラッドメイト》』により小さなネズミに変身。
物陰の隙間みたいな隠れられそうな所に潜伏し、ミニドラゴンも同じ姿にして共に様子を窺っていく。
「ちょっと汚いかもしれないけど、そこら辺は我慢って事で……こういう地道な積み重ねが大事になってくるかもだし、皆も一緒に頑張ろうねー」
気遣うシーネに対し、ミニドラゴンは気負わなくてもいいと言わんばかりに小さく鳴き声を漏らす。
そんな彼女らの近く……壊れかけの自販機、その陰にいるのは|大海原《わたのはら》|・《・》|藍生《あおい》(リメンバーミー・h02520)。
「暗殺とは穏やかではないんですが、予知は仕事ですしね」
藍生は路地裏の中でも特に人目が無い所に忍び込んで聞き耳を立てていく。
歌……レゾナンスディーヴァとしての√能力を使わずとも、藍生は音楽家としての優れた聴覚と感覚を介し、裏路地に流れ響く空気と音を感じ取る。
同時に、霊能力者としての感覚を研ぎ澄ませ、息を潜め、第六感を働かせつつ、かすかな人の声や物音にも注意する事。
すると驚く程の情報が、藍生の中に流れ込む――その中には、他の『カゼノトオリミチ』のメンバーの活動を確認が出来た。
「みんなで一緒に動くのは初めてですね、がんばります!」
|川西《かわにし》・エミリー(|晴空に響き渡る歌劇《フォーミダブル・レヴュー》・h04862)はルクレツィアと同行して路地裏にいる破落戸……隠れるのに邪魔になりそうな場所にいる者共を軽く捻り、追い出していく。
二式飛行艇の|少女人形《レプリノイド》であるエミリーにとって、√能力所か技能的異能を持たない破落戸を捻るのは簡単な事。
「急いでるんだけどさー、さっき通った妙な格好の女が逃げた方角はどっち?」
ルクレツィアの方も、尻もちをつかせた破落戸の首へと詠唱錬成斧槍【フラウ・フラン】の切っ先を突きつけ、駄目押しに『竜漿魔眼』の能力によって燃え盛る右目をギラつかせる様を見せつけていく。
そんな光景を見せつけられたら、力自慢の破落戸はあっさりと知っている事を全部吐く。
「正体を隠して後ろからぐりっとして邪魔にならないところにぽいです」
その間に、エミリーが隠密状態で他の破落戸達を軽く捻ってテキパキとその体を隠せる場所に収納。
また、破落戸からドロップしたスマホを介して『アマランス・フューリー』が通る所にいる破落戸へと、注意を促すチャットを送って警戒させていく。
「魔術塔の姉ちゃんを直接狙う依頼か。もうそういうことが出来る段階に来てるんだな……なら、折角なら画廊の連中と一緒にぶちのめしてやるとするか!」
ルクレツィアとエミリーの奮戦を遠くから見据えながら、|橘《たちばな》|・《・》|創哲《そうてつ》(個人美術商『柑橘堂』・h02641)も行動を開始。
√能力『グレネード・レモネード』を以て『レモン型のガラス細工』を創り出し、裏路地の各ルートへと配置していく。
「まずは、下準備からだな……皆が色々と調べてくれるはずだから、オレは誘導用のモン用意しておくか」
件の|王権執行者《レガリアグレイド》が何に興味を示すかは創哲には分からない。
しかし、路地裏に綺麗な物があれば、興味は惹ける――創哲は不思議美術商店主としての観点から、罠を配置していく。
「普段は画廊で過ごしているところしか見たことないから、旅団メンバーの知らない一面を見られる事にワクワクが止まらないわ!」
そんな動きをしている創哲の姿を見て、リリンドラ・ガルガレルドヴァリス(ドラゴンプロトコルの屠竜戦乙女《ドラゴンヴァルキリー》・h03436)は興奮しながら√能力を起動。
「暗殺って言い方は物騒だけど、要は先制攻撃して速やかに撤収すればいいのよね?――いつも後手に回る依頼が多いから、こう言うのは新鮮ね!」
√能力『|正義覚醒《アクノシュウマク》』――それは『並行世界の自分の記憶を共有する』という異能。
その平行世界の己の記憶を以て、隠密技能をリリンドラは二倍に増強して隠密パトロールを開始。
「アマランスとのファーストコンタクトの際、有利になりそうな場所を探してみるわね」
他にもリリンドラは路地裏のマッピング作業を並列して行い、その情報を『カゼノトオリミチ』のメンバーに共有。
悪意を欠落した|屠竜戦乙女《ドラゴンヴァルキリー》から齎された路地裏のマップ情報に、他のメンバーは己の行動を更に詰めていく――
「成程なぁ……なら、出来るだけゴミ箱等の高さがある物に置いて、目線に入るようにしておくか」
持ってきたガラス細工もその隣に置き、何時でも起爆できる様に準備を整えていく創哲。
その用意が出来次第、画廊のメンバーから教えて貰った隠れ場所に不思議美術商店主は潜み、待機していく。
「魔術塔の姉ちゃんがどう吹き飛ぶか楽しみだぜ」
「さて、創哲さんの《ガラス細工》がチカチカする建物の照明にキラッと反射して光るように……照明を調整しないとですね」
迷い込んだ別の√では華やかな舞台で披露される歌や踊りが老若男女を楽しませ、笑顔にさせていた――√ウォーゾーンでは失われていた光景、舞台劇場では照明の調整調律は必須。
故にエミリーもその技能をある程度以上習得しているのだ。
「これで良し……分隊の方も、順調みたいですね」
|少女人形《レプリノイド》としての機能もフルに活用し、魔術士の感知範囲外の上空から破落戸が蹴散らされているのを観測しながらエミリーはリリンドラが作り上げたマップデータを見据え、移動経路を確認。
暗号通信を通して『カゼノトオリミチ』のメンバーと共有しながら、合流に向かう。
「得た情報を基に『イイ場所』へ誘導するよう道を塞いだり、穴を開けたりしましょうね……」
ルクレツィアは『アマランス・フューリー』が通るルートを限定し、仲間が待ち受ける場所へ誘い込む為に路地裏全体の調整を担当。
時間の限界までそれらの工作を担った後、画廊の主はシーネの元へと向かう――
「女神よ、俺に加護を――『|Bless of Diva《メガミノシュクフク》』」
自慢の妖精の靴で足音ひとつ立てないよう気をつけ、闇に紛れて気配を殺しながら藍生は秘かに『|歌の女神《ヘブンズ・ディーヴァ》』を顕現させる。
頭と心の中に刻んだ旋律にて呼び出た女神へと願うのは、更なる隠密の完璧さ。
「(……なんとか隠れたいという望みを叶えて頂けないですかね?)」
その藍生の思念に、無言で『|歌の女神《ヘブンズ・ディーヴァ》』は願いを叶える形で応えていく――
「(これが無音の旋律ってやつなんでしょう)」
「あたしも魔物狩りの経験を活かしつつ、良い感じのところを探すぞー」
シアニは敵の方向からだと見え辛く、いつでも飛び出せる隙間や物陰、部屋を探し出している所。
屋根の上に出られるところがあるならそこもいい――そんな風に脳内で呟きながら、シニアは複数の潜伏地点を見つけ出していく。
「ここで逃がしたら、きっとあの人はまた誰かを悲しませてでも天使を連れ帰ろうとするんだろうな……」
確かに√汎神解剖機関は超常と怪異がすぐ傍にあり、武力が無ければ滅ぼされる非情な|世界《√》だ。
しかし……少なくとも、シアニにとって『アマランス・フューリー』のやり方は決して認められないものであった。
「天使を奴隷化する……そんなこと、させるもんかっ」
義憤を胸に抱きながら、シアニは合流地点でもある潜伏場所に向かう――
「あっ、先客の動物さんが居たら手伝ってもらったり、ここら辺の情報が得られないか頼んでね?……見返りがご飯ぐらいで良いなら安いもんだしねー」
「成程成程、良い事ね!」
やがてリリンドラはシーネの元へ合流。
同じ様に『|空想は手で描き血に汚れる《ハンドメイド・ブラッドメイト》』の力で小さなネズミにリリンドラは成った後、路地裏に『アマランス・フューリー』が来るまでシーネと共に待機する――
「……今の所、√能力者共は見かけられない、か」
やがて路地裏に『アマランス・フューリー』は現れる。
√能力者達……その中でも『カゼノトオリミチ』の七人が仕掛けたトラップや仕込みによって、既に包囲網は出来上がっていた。
「――チェックメイトよ」
シーネとリリンドラの元に合流し、彼女らと共に潜伏していたルクレツィアは『アマランス・フューリー』の姿を見据え……静かに開戦の号砲となるその言葉を告げるのであった。
第2章 ボス戦 『羅紗の魔術士『アマランス・フューリー』』

「――成程、罠か……」
仕掛けられたそれらによって負傷と不利を背負い、その女は苦々し気に呟く。
「だが、引っかかる方が愚かなのだ――卑怯とは言わん」
しかし、優雅に怜悧に――女は羅紗を手繰る。
すると虚空からは、彼女が隷属させた怪異が出現していく――
「――羅紗の魔術塔所属の魔術士、アマランス・フューリー……征くぞ」
瞬間、眦を上げて|王権執行者《レガリアグレイド》は自身の√能力を励起させていった――
「やったろうじゃないの!」
最初に『アマランス・フューリー』へ攻撃を仕掛けたのは継萩・サルトゥーラ(|百屍夜行《パッチワークパレード・マーチ》・h01201)。
ガトリング砲から『化学属性の弾丸』を射出し、超強酸による腐食攻撃を『アマランス・フューリー』に与えんと引き金を絞って弾幕を形成。
対して羅紗の魔術士は『輝く文字列』を手繰る魔術用の触媒から具現化。
この『輝く文字列』を叩き込まれた時、耐久力が3割を切っていた場合……即座に死亡する凶悪な√能力だ。
「見た所、死体人形……なら、耐久力は知れる」
「まぁ焦んなや、楽しいのはこれからだ」
しかし、笑みと共にサルトゥーラはその『輝く文字列』を頭部で受け止め……そのまま突っ切り、不意を突いた『アマランス・フューリー』へとガトリング砲を突きつけ――
「狙え――『ケミカルバレット』」
「しまった……『万全の死体人形』、という√能力者だったか!」
自分のミスに気が付いた羅紗の魔術士は、舌打ちしながら身をよじる。
が、もう遅い――叩き込まれた化学弾薬は、彼女の怜悧な美貌を外見からも内側からも焼き尽くし腐食していく。
「グゥゥウッ……!!」
「楽しいねぇ……自分の外見を活かして、不意を突くのは」
弾丸が直撃した際の衝撃を活用し、距離を取った『アマランス・フューリー』へと笑みと銃口を向けながら、サルトゥーラは再び引き金を引くのであった。
「ワタシ、メリーさん。貴女がアマランスちゃんね♪……一緒にフェストビアはいかが?」
「生憎……ビールよりは――」
焼けて爛れた皮膚と内臓を回復魔術で治癒した直後……『アマランス・フューリー』の眼前へと|赤煉瓦《アカレンガ》・メルフリーデ(甘色吐息・h05523)が登場。
右手にフェストビアの入っている1000mlジョッキを持ちながら、陽気な声をかけるメルフリーデだが――左手にはハチェットを握っている。
「勿論、戦闘の意志はあるわよ♪」
「なら、殺し合うのみだな」
再び√能力『輝ける深淵への誘い』――自身の羅紗から『輝く文字列』を放つ魔術を再び起動させ、目の前にいるメルフリーデへと射出。
しかしメルフリーデはフェストビアを飲みながら近づく――ふりをして、フェストビアの残りを『アマランス・フューリー』の顔面へと振りかける様に投げつける。
「甘い! 背後に来るのは分かっている!」
メリーさん……その都市伝説は有名であり、だからこそ『アマランス・フューリー』は振り向く事なく背後へと『輝ける深淵への誘い』を解き放ち――
「ワタシ、メリーさん、今は貴女の後ろに居るわ」
瞬間――”側面”から魔術士の首目掛けてハチェットが投擲される。
動けば背後にメルフリーデが立つ――だからこそ『輝く文字列』を迫り来るハチェットへと放ち、迎撃するが……
「まぁ、陽動と隠密よね」
瞬間、ハチェットが迫る方向の反対……その『斜め後ろ』からメルフリーデは空になった1000mlジョッキで『アマランス・フューリー』の後頭部を強打。
「ゴフッ……!」
全ては、メリーさんとしての知名度と卓越した戦術と心理戦ノウハウ……倒れ伏し掛けながら、即座に『輝く文字列』をカウンターとして放つ魔術士を見据えながらメルフリーデは退却するのであった。
「ふにゃ~、しっかり生きてますね……ここで確実に倒してと言われてますので、逃がしませんよ?」
次に『アマランス・フューリー』へと襲い掛かるのは人間災厄、|神咲《しんざき》|・《・》|七十《なと》(本日も迷子?の狂食姫・h00549)。
√能力『|万花変生《バンカヘンジョウ》』の発動によって召喚された七十の隷属者……その中でも巨大な個体が裏路地の道を塞ぐように出現し、そのまま魔術士に攻撃を仕掛けていく。
「一応、妨害しきれない事も想定はしてますからね……」
「瞑想を、か……ここまで連続して襲撃されれば、襲われながら瞑想しきる事のコツも掴めるというものだ」
汚れて破損した羅紗を手繰り、アマランスは√能力を起動。
瞬間、知られざる古代の怪異が巨大な隷属者を相手にして暴れ回る。
「私から言えることは、普通に私たちに倒されるか……私のお腹の中に収まるか、どちらか選んでと言うだけですかね?」
「どちらも、お断りだな……!」
しかし『|万花変生《バンカヘンジョウ》』のもう一つの能力である植物操作により、丸腰に近いアマランスを七十は追い詰めていく。
ダメ押しに、追加の隷属者を召喚する人間災厄『万理喰い』……数を以て、押し切るべく自身もアマランスに肉薄する。
「出来れば私のお腹に収まって欲しいですね……どんなお味なのか気になりますし、その後も何かと有用でしょうからね♪」
「何という、悪食だろうか……」
舌打ちしながらハイキックを七十に向けて放つアマランス。
対して七十は上段受けの要領で鋭利な蹴りを受け止め、その衝撃で距離を取る。
同時に植物と隷属者達をアマランスへと差し向けて攻防を繰り広げていくのであった――
そして『アマランス・フューリー』を暗殺する為の依頼は、終盤へと移っていく。
最後にかの魔術士の前に立ちふさがったのは、画廊『カゼノトオリミチ』のメンバー。
彼らはそれぞれ|王権執行者《レガリアグレイド》を相手するにあたり、隊列を組み魔術士へと挑んでいる。
「立ち位置は前衛!……ふふー、みんなと一緒なら負ける気がしないや」
「チューチュー! 窮鼠猫を嚙むじゃなくて、窮竜アマランスを嚙む!……意外と潔いのね、もっと悪態をつかれると思ったけど?」
シアニ・レンツィ(|不完全な竜人《フォルスドラゴン・プロトコル》・h02503)とリリンドラ・ガルガレルドヴァリス(ドラゴンプロトコルの屠竜戦乙女《ドラゴンヴァルキリー》・h03436)は前衛としてアマランスの使役する怪異等を食い止め撃滅する役割を。
「ハァイ魔女さん、急いでる所悪いけどココで止めさせてもらうわよ」
「どーも、いらっしゃい……どうして天使さんを狙うのか気になるけど、教えてくれないかな?」
「|前奏曲《オーヴァチュア》はいかがでしたか? みんなでがんばったんです!」
中衛にはルクレツィア・サーゲイト(世界の果てを描く風の継承者・h01132)、シーネ・クガハラ(魑魅魍魎自在の夢幻泡影・h01340)、|川西《かわにし》・エミリー(|晴空に響き渡る歌劇《フォーミダブル・レヴュー》・h04862)等の遊撃と魔導が得意な面々が、いつでも対応できる様に構える。
「本当は男子たるもの、女子のみなさんの盾にならねばなんですけど……いかんせんまだ実力不足で」
「ま、実力は後から付ければいい……さぁて、魔術塔の姉ちゃんとご対面だな」
後衛には|大海原《わたのはら》|・《・》|藍生《あおい》(リメンバーミー・h02520)と|橘《たちばな》|・《・》|創哲《そうてつ》(個人美術商『柑橘堂』・h02641)の二名が、後方支援の為に待機をしている。
この面子と布陣に対し、すっかり純白から程遠くなった自身の羅紗を見据えた後……アマランスは語り掛けていく。
「なぜ、天使を狙うか、か……愚問だな、根絶した筈の病とその症例を有する検体でもあるのだ。類似の超常への対策と研究として、非常に有用なのは変わりない」
「例えそれが、被害者でも?」
「この非情なる世界で、お前達程――私は勇気は無い。蛮勇も抱いてはいないがな」
シーネの問いに対して憮然とした態度で返答を返し、
「悪態をついてチャンスを掴めたり、状況が良くなるなら幾らでも悪態をつくのだがな……まぁ、感情が乱れている時なら思わずそんな言葉を吐くだろうがな」
「……あんた達にも正義があるのかもしれないけど、わたし達も譲れないから」
リリンドラの疑問にはそんな風に返答し、
「|前奏曲《オーヴァチュア》、か……それをウィーンやプラハ辺りで講演する事で満足していれば、もっと良いのだがな」
「そうですか……なら、本番では期待に応えられると良いのですが」
そんな、無自覚な悪態をエミリーに投げかける。
やがて、戦う前に交わす言葉が全員分伝え終わったのだろう……その事を理解した『アマランス・フューリー』は戦闘態勢に入る。
「俺は、誰も傷つけさせはしない……決めたんです」
「まあ教えてくれてもくれなくても倒すしかないんだけど――今回は貴女の運が無かったねって事で」
「戦闘の花形は若いモンに任せて、オレはサポートに回るとするか」
「ここで確実に仕留めさせてもらうわよ!」
「貴女達が“天使”を使って何をするのか知らないけど、絶対にさせないわ!!」
「なんにせよわたしたちの舞台は始まりました、途中退場はご遠慮ください」
その覇気を察知した『カゼノトオリミチ』のメンバーは、それぞれ武器や術式を起動させていく――!
「刮目せよ、シーネとの合作!――双竜作戦!」
「それじゃあ……リリンドラお姉ちゃんみたくドラゴンに変身して戦うよ」
最初に動いたのはリリンドラとシーネ。
彼女らはネズミに変身したまま、竜化の√能力であるリリンドラの『|正義完遂《アクソクメツ》』を介し、シーネの『|空想は手で描き血に汚れる《ハンドメイド・ブラッドメイト》』を用いる事で、プラズマのブレスを放つ無敵の『|黒曜真竜《オブシディアンドラゴン》』へと変身。
聖なる|竜《たて》として、中衛と後衛にいる仲間にアマランスの攻撃が届かない様に防御を担っていく。
「わたしの役割は皆の壁になること、体、翼、尾全てを使用して……味方への攻撃を遮断する事を目指す!」
「とは言っても、私は肉弾戦は苦手だから……」
シーネは不利っぽく見せかけ……反撃覚悟で一直線に突っ込んでいく。
反撃として√能力『輝ける深淵への誘い』が飛来した場合、攻撃が当たる前に体を暗闇に変化させて攻撃を躱す……其れがシーネの策。
例え『輝ける深淵への誘い』来なくても、暗闇を顔に集めて視界を封じさせる事も考えていた。
「ついでに体の一部分を蝙蝠に変化させて、血もいただくね?」
「――! 吸血鬼、か!」
肩を軽く噛みつかれ、吸血を許した事にアマランスは不覚、と自身を詰る。
勿論、肉薄した以上『輝ける深淵への誘い』を直撃させる事は出来たが、それでも回復した直後に直撃したのだ――真価である即死効果は、発動しない。
「(ブレスは町に被害が出ると困るから、今回は封印ね……)」
心中で呟き、代わりに竜としての爪牙でアマランスを切り裂かんと迫るリリンドラ。
彼女の隣で、シアニは共に走っていた。
「あたし、あなたの事そんなに嫌いじゃないんだ」
潜ませておいたミニドラゴンたちにテレパシーで指示し、シアニは一斉に魔力の鎖を魔術士目掛けて撃ち込んでいく。
生じたその隙に、シアニ自身も飛び出して『奴隷怪異「レムレース・アルブス」』……呼び出されたアマランスの使い魔相手にハンマーを振るう。
「でもね――一方的に犠牲を強いるやり方で本当に平和が手に入るなんて思えない……から」
倒すのではなく、遠くへと吹き飛ばして数的有利を自分達が確保する……其れがシアニの目的。
その確保された数的有利を活かし、ルクレツィアとエミリーは共に仕掛けていく。
「この地に住まう精霊達よ、我が銃弾に宿りて魔を祓う『銀の弾丸』となれ!」
ルクレツィアは精霊が宿った銃弾の零距離射撃・全弾連射する√能力『|おしゃべりな精霊達の輪舞曲《ラピッドファイヤー・フルバレット》』を。
右手は近距離用に斧槍型の竜漿兵器、左手は遠距離用にリボルバー型の精霊銃を構える形で精霊が宿った弾丸を前衛に向けてルクレツィアは放っていく。
「また白い花が咲いたなら、一番美しい歌をあなたにささげましょう、何度でも……」
エミリーは自身の上方から複数の眩い光が差し込み、装備が『光を受けて煌びやかに輝く美しい舞台衣裳』へと変化する√能力『|約束された代役《オルタネート》』を。
アマランスに向けて強力な照明を当てて見やすくし、空中からレーザーを弾幕の如く射出する事で仲間達へ火力支援を施していく。
「この能力は「生きることを諦めない」者のための歌――まさにルクレツィアさんたちにぴったりだと思うんです」
戦場である路地裏内に、歌声が満ちる……その名は『|Vivere est militare!《イキルコトハタタカイダ》』――藍生が歌い上げる『生きるため困難に抗う力』を増幅する歌唱系√能力。
藍生自身も、アマランスからの攻撃を何とか必死に交わして受け流しながら歌唱を続けていく。
「生きて、抗い、戦うんだ、沈黙したままでは空に羽ばたく翼は得られない」
力強い歌詞は、藍生の覚悟と信念を現した言葉――其れが世界に轟く度に『カゼノトオリミチ』のメンバーは死から遠ざかっていく。
「成程ね……こっちも隙は作っといたから、皆で楽しく殴ろうぜ!」
そこに創哲が√能力『大玉スイカボンバー』で作り上げた『スイカ型のガラス細工』……それを『アタッシュケース』から取り出し、シアニと激戦を繰り広げている奴隷怪異目掛けて投擲。
中衛から連絡を受け、シアニが大きく後退した直後……奴隷怪異を巻き込んで『スイカ型のガラス細工』が炸裂する。
「そいつは敵に対してデケェ振動を与え続ける!――ホラ、第二弾だ!」
更に創哲は『ガラス細工』を取り出し、グレネードを投げ込むかのように投擲して『アマランス・フューリー』が呼び出す奴隷怪異を爆殺し続けていく――
「――うっ!」
やがて、戦いは終曲を迎える。
当然ながら7対1で襲い掛かり続けたら、幾ら|王権執行者《レガリアグレイド》と言えど体力諸々が持たない。
そんな極度の消耗から、致命的なまでに体勢を崩してしまったのだ。
「さて、みんなでフィナーレを飾りましょう――」
「……止めるよ、何度でもあなたを」
エミリーの言葉に、他のメンバーが『アマランス・フューリー』目掛けて一斉攻撃を仕掛け……シアニが小さく誓いの言葉を呟き、羅紗の魔術士にトドメを刺すのであった。
第3章 冒険 『路地裏を駆けるもの』

暗殺は完遂された。
後は、魔術塔からの追撃などのリスクを考慮して路地裏から撤退するのみ。
√能力者は、これより脱出のシークエンスに移るのであった。