シナリオ

かの者たちは蠢いて

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「よう、来てくれてありがとうよ。早速だが予知をしたんで、聞いてってくれ」
 月形・|夜刎《よはね》(Vendredi Treize・h01023)は、自らの呼びかけに答えた√能力者たちにそう礼を述べると、彼らに説明を始める。
「√汎神解剖機関の怪異が、√EDENで事件を起こし始めてる。怪異にあった人間は「忘れる力」のおかげで異常現象に会った記憶は忘れて行っちまうが、それでもネット上に痕跡だけはあった」
 怪異に会った非√能力者は、異常現象を忘れていってしまう。だが、まだ「忘れる前」に残したネット上への書き込みは、書き込んだ本人も忘れてしまって消えない。
「書き込みには必ず写真がついてた。それらの共通点は「血のような赤い塗料で描かれた奇妙な魔法陣」だ。そして、それらの書き込みから調べた結果、この魔法陣は「|三途《みと》町」っていう町の中で描かれてるってことがわかった」
 現在、関東近郊にある「|三途《みと》町」では奇妙な魔法陣が発見される事態が起きている。そして、運悪く怪異に遭遇してしまった者は「忘れる力」によって事件そのものを忘れてしまうか――。
「怪異によって、書き込みすらできない状態にされちまったか、どっちかだ」
 この事件の親玉は既に予知によってわかっている、と夜刎は言う。
「だが、順番に説明していくぜ。まず|皆《手前ら》には「|三途《みと》町」で、「血のような赤い塗料で描かれた奇妙な魔法陣」を探してほしい。既に「|三途《みと》町」内ではちょっとした噂になっててな、まだ核心に触れてない事情通みたいな奴もいる。そんな奴を探して接触してみるでもいいし、怪しそうな場所を片っ端から当たっていくのもいい。あえて言うなら、この魔法陣は必ず「単体でいる奴が発見する」「集団でいるときに見たやつらはいない」ってところが鍵だな」
 魔法陣を探していけば、そこで戦闘になるだろう、と星詠みは言った。
「ここから先は揺らいでる事象。まだ確定していない未来だから、確かなことは言えないが、|皆《手前ら》は今から言うどちらかの敵の集団と戦うことになる。ひとつは√汎神解剖機関から親玉が連れてきた「狂信者達」。もうひとつは敵側が既に入手した√EDENの邪悪なインビジブル「ポルターガイスト現象」だ」
 どちらにせよ、√能力者ひとりあたりにつき一体から三体と戦うことになるであろう。そして、どちらかを撃退し終えれば、もう片方は出てこない。
「狂信者達かポルターガイスト現象か、どっちかを倒せば、次にようやく親玉のお出ましだ。魔法陣を通して現れる怪異「対処不能災厄『ネームレス・スワン』」が現れるぜ」
 無数の頭部から放たれる、聞く者を狂わせる悲鳴と共に出現すると言われる怪異「ネームレス・スワン」。この怪異を倒せば、「|三途《みと》町」で起きている事件は解決となる。
「それじゃあ、まずは魔法陣を件の町で探すところからになるが、よろしく頼んだぜ」
 星詠みは憂いを含んだ声で、|√能力者《あなたたち》にそう告げた。

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第1章 冒険 『怪しい事件』


アダン・ベルゼビュート

「ほう……『血のような赤い塗料で描かれた奇妙な魔法陣』とはな……?」
 アダン・ベルゼビュート(魔蠅を統べる覇王・h02258)は星詠みから齎された情報に、ひとりくつくつと笑う。
「果たして其れは本物の塗料か、或いは……ククッ、此れ以上の推測は野暮というものだな」
 怪しい魔法陣はアダンの心の中学二年生大爆発な部分を大いに擽った。もうわっくわっくしてたまらない。しかしそれをひた隠し、アダンは覇王然として振舞う。
「其れを知る者が居るのならば!俺様自身の手で探し出し、全てを詳らかにするまでの話だ!」
 前言撤回である。何にもひた隠せていない。もうわっくわくである。

 ひたすら中学二年生大暴走したあと、アダンは三途町に向かった。今までどこにいたんだ、というツッコミは野暮である。
「星詠み曰く、「魔法陣は単体でいる奴が発見する」……だったか」
 |携帯端末《スマートフォン》を取り出し、ストリートビューで三途町内の人目のつかない路地裏などの場所をあらかじめ調べておく。無論、幾百もの条件に合う場所が見つかった。
「確か、もうここでは噂になっている、という話だったな。ならば「核心に触れていない事情通」とやらを探すとするか」
 魔法陣いくつかのSNS上で発見されているようだが、やはり会話を主とする媒体が最も発見件数が多いようだ。該当する魔法陣をアップロードした本人は「忘れる力」によりその魔法陣を見たことさえも忘れている。だが、その魔法陣をSNS越しに見た者は「怪異に会っていない、ただ魔法陣を見ただけ」であるから、「SNS越しの画像の魔法陣」を忘れていない。
 ここでアダンは一つの仮説を立てる。
 ――どこかの学校の生徒Aが魔法陣を発見し、そしてそこでSNS上にアップロードした直後、怪異に遭遇してそれを忘れる。生徒Aは勿論学校内で何らかのグループに所属しているだろう。そして、そのグループの別の生徒Bが魔法陣を発見し、Aと同じ行動をとったなら、グループの仲間の中には仲間二人が同じ行動をとって「魔法陣を発見した」という証拠をSNS上にアップロードしておきながら、本人たちは綺麗さっぱり忘れている、という状況が起こる筈だ。そして、現実には「グループの仲間二人が同じ魔法陣をSNS上に残しながらそのことを忘却している、しかし自分は怪奇現象に出会っていないから「忘れる力」も働かない」という秘密を抱えたグループの人間が残る。これを、「対象α」と仮に名づける。恐らくこの人間は、孤独に心を蝕まれているはずだ――と。
 アダンはその仮説に基づき、様々な方法で「対象α」を探し、そしてその相手にアクセスをした。
『なんですか。あなたは、誰ですか』
『あなたの周囲で、画像の魔法陣をアップロードした人物が三名いる。彼女たちはみな、その魔法陣のことも忘れているはずだ』
『そうですけど それが何か』
『あなたはそれぞれに心配するコメントを残している。彼女たちがどうにかなってしまっているのではないかと、怯えているのではありませんか』
『何で知ってるんですか わたしに何をしろって言うんですか』
 「対象α」はアダンの送ったメッセージに喰いついてきた。
『彼女たちのコメントには「学校帰り」とあった。ですから、あなたたちが通学に使う通路を教えてほしいだけです』
 ―—じわじわとした恐怖に捕らわれていた「対象α」は、アダンの言った通りに通学に用いている道順を教えてくれた。その中から、人目につかない路地裏を探す。
 ここからは、アダンの足で情報を稼ぐことになる。ストリートビューで検出した路地裏から、該当の路地裏を探し出す。
 そして、アダンは発見する。
 袋小路になった路地の突き当り、真っ赤な塗料で描かれた奇妙な魔法陣。
「これか……ようやく見つけたぞ……!」
 その塗料が何なのかを確認する前に。
 ――アダンの意識は、ホワイトアウトした。

月居・朔

「っあー、さむさむ」
 月居・朔(半人半妖の雑貨屋店主・h03131)は|三途《みと》町まで来ると、不意に吹いた冷たい空っ風にぶるり、と身を震わせた。
 着こんできたというのに、やはり12月の中旬ともなればやはり外は寒い。特に朔は普段引きこもっている。感じる寒さも|一入《ひとしお》というものだ。
「一人でいるときしか例の魔法陣は発見できない、んだったよな……。だったら、人の気配のない方向に行けばいいか……?」
 朔は魔法陣の写真がアップロードされたSNSにアクセスし、件の画像を参考に片っ端から|三途《みと》町内の路地裏、日中も日の当たらない場所、暗い場所、を当たっていく。
 件の魔法陣の画像は、画像をやり取りするSNSよりもコメントをやり取りするSNSの方が多くアップロードされている。やはりオカルト色が濃いからか、魔法陣の画像をアップロードした者は「なにこれこわい」などのコメントを残し、そしてその直後に怪異に遭遇し「忘れる力」によって事件のことを忘れたのだろう、心配するコメントなども放っておいて普段通りの日常を過ごしているようだ。時には、画像を最後に書き込みが途絶えてしまった者もいるが――そちらの者は、どうなったのか。今は考えることをやめる。
「それにしても、はあ。赤い魔法陣……ねぇ。何で描かれているんだか。考えたくもないけどな」
 どうせ、ろくなもんじゃないだろ。
 朔の当初の方針で探していくのにはかなり時間が必要となることがわかり、策は少し考えをめぐらす。魔法陣が同じ場所で発見されているのかどうかが気になったのだ。魔法陣の画像をSNS上で調べていくうち、「撮影された日時は違うものの、画角を変えれば同じ場所だろう」と考えられる画像がいくつか見つかる。ならばその場所には、何度か魔法陣が描かれているということになる。
「だったら……その場所を見つけられれば、今も見つかるかもしれないな……!」
 朔はさらに|携帯端末《スマートフォン》の機能を駆使し、|三途《みと》町内に場所を絞って、ストリートビューでその場所がどこなのかを調べていく。行ってみて、一つ目はハズレであった。二つ目。やはりハズレであった。
「複数人でいるときは、例の魔法陣を発見することはできない。一人でいるときにのみ発見して……「忘れる」前に記録を残せなかった奴は、まぁ……怪異に出会ってそのまま「忘れてしまっている」」
 ふと、朔の脳裏に恐ろしい想像が浮かぶ。この|三途《みと》町内で、魔法陣を目にして「忘れてしまった」人間は、実はすごく多いのかもしれない、という想像だ。SNSに画像を――痕跡を残せた人間は、この事件の被害者の、ほんの一握りである可能性が非常に高いのだ。
「……急がないと」
 そうして足早に辿り着いた三件目の場所、そこでようやく朔は目当てのものを発見する。
 袋小路の路地裏、コンクリ塀の壁に赤い塗料でべったりと描かれた奇妙な魔法陣――。
「見つけた」
 これからどうすればいいのか、怪異の下僕が現れるのを待てばいいのかと考える、その暇もなく。
 朔の意識は、ホワイトアウトした。

瀬堀・秋沙

「にゃ!魔女として、悪い魔法陣はほっとけないにゃ!はやく見つけるにゃ!」
 瀬堀・秋沙(都の果ての魔女っ子猫・h00416)は、|三途《みと》町内にはいってぐ!と両胸の前で拳を握る。やるきはまんまんだ。
 秋沙が選んだのは、自身の魅了能力をフル活用しての足を使っての聞き込み作戦。
「にゃにゃ、『赤い塗料の魔法陣』を探してるにゃ!このへんで見なかったかにゃ?」
「ううん、最近そういうのが町中にあるって話は聞くけどねえ、アタシは見たことないねえ。おみかん食べるかい?」
「食べるにゃ!じゃあ、『噂好きの知り合い』はいるかにゃ?」
「それは三丁目の山下さんの奥さんかしらねえ、麦茶のむかい?」
 とにかく魅了されているおばちゃんは秋沙を家に上げてくれ、いっぱい食べものをくれた。秋沙が求める「噂好きの知り合い」にも、連絡を取ってくれる。おばちゃんは魅了されて秋沙の願いなら何でも叶えたいしできるだけ力になってあげたい、いわば……オレオレ詐欺に遭っている最中のおばあちゃん状態で、秋沙は孫!噂好きの知り合いに家まで来てくれないかと頼んでもくれた。
「あらあらまあまあどうしたの本田さん」
「こんにちはにゃ!」
 問答無用で山下さんのおばちゃんに魅了の力を使う秋沙。もうおばちゃんたちはメロメロである。
「あらあらあらあらまあまあまあまあ、あなたどうしたの可愛いわねえ、カステラとようかん持ってきたのよ、食べる?」
「食べるにゃ!」
「本田さん、お台所借りるわね?」
「あらあらいいのよおアタシが切るわよぉ、そうだわ、お紅茶も入れましょう。ミルクとお砂糖は入れるかしら?」
「どっちも入れるにゃ!」
「山下のおばちゃん、聞きたいことがあるにゃ? 最近この町で見つかってるって言う『赤い塗料の魔法陣』を探してるんだにゃ、知ってるかにゃ?」
「あら、そんな危険なもの見に行きたいの? 駄目よお嬢ちゃんみたいなかわいい子」
 魅了されたおばちゃんは秋沙の身を案じているのでこうやって秋沙の身を案じてなかなか話してくれない時もある。魅了は使いようである。
「それでも教えてほしいにゃ……駄目かにゃ?」
 これで駄目なら諦めようと秋沙が思い始めたころ、噂好きのおばちゃんは秋沙を心から案じながら少しだけ話してくれた。
「アタシの友達のね、いとこの弟さんの娘さんなんだけど、見たらしいのよ、その「赤い塗料の落書き」だったかしら? お嬢ちゃんが話してる「マホウジン?」かどうかはアタシはわからないんだけどね?」
「うん、それでその娘さんはどうしたにゃ?」
「とにかくすごく怖がってたの。どこで見たのかしらねえ……でも、一日経ったら綺麗さっぱりそんなことなかったみたいに忘れちゃったっていうのよ。すっごく怖がってたのに。だから、そのいとこの弟さんがおかしな薬にでも手を出したんじゃないかって心配してるの」
「あらやだそんなことがあったの?」
「そうなのよぉ」
「それじゃあ、どこで見たのかはわからない、にゃ……?」
「そうねえ、本人が忘れちゃってる、というか、何にも覚えてないって言い張ってるもんだから」
「にゃにゃ……」
 これは手詰まりか、と秋沙は思う。だが、噂好きのおばちゃんはもう一つだけ情報を教えてくれた。
「でも、いとこの弟さんがどこに住んでるかは知ってるのよお。だけど、本当にあぶないわよ? 変な男に、最近は若い女もそういう危ないお薬売りつけて来るって言うんだから、気を許してついて行っちゃあだめよ?」
「わかったにゃ!」
 おばちゃんたちを魅了したまま本田さんちの家を出て、秋沙は教えてもらった住所にまで足を伸ばす。無論、魔法陣を見つけたという娘は「忘れる力」によってもう何も覚えていないから、彼女に魅了を使ったところでもう何も情報は出てこないだろう。それにしてもおばちゃんたちの孫かわいがり力はすごい。秋沙はいろんなものをごちそうになった。もうおなかパンパンである。
「……でも、この近くに魔法陣が描かれたのは確かにゃ。なら……」
 秋沙は星詠みの言っていた「書き込みすらできない状態」という言葉が気にかかっていた。
「|そーいうこと《・・・・・・》も、あり得るかもしれないにゃ」
 √能力【ゴーストトーク】
 秋沙は祈り、その場のインビジブルを生前の姿に変える。インビジブルは若い女の姿になり、とまどいながら秋沙を見下ろしていた。
『あ、ええと……そうだった、あたし、死んじゃったんだった。そうか、あのまま……』
「にゃにゃあ。もしかしておねーさんは「赤い魔法陣」を見たにゃ?」
『……うん。見た。そうしたら、意識がなくなって……気づいたら、変な場所にいて……怖い格好した奴らに……多分、殺されちゃったんだろうなあ』
 恐らく彼女は三日以内に死んだインビジブルだ。
「絶対、そいつらに私が仇討ちしてやるにゃ!ゆるせないにゃ!だから、教えてほしいにゃ? おねーさんが「魔法陣」を見たのは、どこにゃ?」
『うん、ありがとう。教えるけど、今あるかどうかはわからないよ?』
「それでもいいにゃ!」
 インビジブルの若い女は秋沙に見た場所のことを教えてくれる。そうして、力なく消えていった。
 秋沙は箒に乗って空を飛び、その住所にまで飛んでいく。上空から見た三途町は、平和な町に見える。見えるのだが。
 そして、秋沙は見た。袋小路の路地裏、コンクリートの壁に紅い塗料で描かれた奇妙な魔法陣を。
「にゃにゃ。これは私が知ってる魔法陣とは異なってるにゃ……」
 自身の知る黒魔術の知識と照らし合わせて、秋沙がそれをもっとよく見ようとした、その時。
 ――ふいに、秋沙の視界は、ホワイトアウトした。

橘・あき

「なるほど、ねえ……今回は、縁のある二つの世界が繋がっちゃった、ようね」
 橘・あき(人間(√EDEN)のフリークスバスター・h00185)は√EDEN世界の税理士である。そして、税理士が結構時間が自由になるのを利用し、√汎神解剖機関でフリークスバスターとしても働いている。
「私の愛する世界で、好き勝手される訳にはいかないのよね」
 |三途《みと》町まで訪れたあきは考える。聞き込みをしてみるのもいい、だが、「忘れる力」――「異常現象を忘れてしまう力」により、実際に赤い魔法陣を見た人間はその後怪異に出会い、記憶を失っているという。
「だけど、逆に言えば。魔法陣を「見た」人間は、もうその時点で「怪異に出会う」ということが決まっているということよね。魔法陣を「見て」怪異に会わなかった人間は「いない」ということだわ。……なら、魔法陣を見つけて「見て」しまえば、確実に怪異に会えるということ」
 —―問題は、その魔法陣を見つける方法だけれど。
 そのままあきは思考を巡らせる。今は星詠みから齎された予知での情報しかない。けれど。
「なぜか「単身」でしか魔法陣は見られない。「複数人」では、この魔法陣は見られない。これはどういうことかしらね? ……一人の方が襲いやすいから?」
 だが、噂は「魔法陣」についてのことばかり。奇妙な死体が発見されただとか、犠牲者については何も星詠みは言ってはいない。
「……魔法陣を「見た」人間は、確実に怪異に出会っている。そうでなければ「忘れる力」は働かない。ただ奇妙なものを見たとして、記憶は残る筈だわ。でも、怪異が√EDENの人間を見つけておいて、「何もしない」とは考えられない」
 これは、あきのフリークスバスターとしての経験からくる推理であった。
「もしかして。犠牲者は出ているけれど、「遺体は発見されない」状態になっている……?」
 そこまで考えて。あきは結論付ける。
「「遺体の発見されない犠牲者」を探したほうが早そうね」
 そうしてあきは、自分の√能力を発動させる。その名は【|秘跡《 パースウェイド》】。
 空中を漂うインビジブルを、生前の姿に変え、知性を取り戻させる。白い髪の老婆があきの前に立っていた。
『あらあら、まあまあ。こうしておしゃべりできるのは久しぶりねえ』
「ねえお婆ちゃん、聞いてもいいかしら? あなたが覚えている間に、「血のような赤い塗料で描かれた奇妙な魔法陣」を見た覚えはある? それを見ていたような人間に心当たりはある?」
『うーん? 「魔法陣」って言うのはわたしはなんだかわからないけれど、新聞でよくおじいさんが解いていたあのパズルかしらねえ?』
「それはちょっと別物のやつね」
『あらあ、ごめんなさい』
 おそらくそれはナンプレだとか数独パズルだとか言われているものだ。あれも、「魔法陣」などという名前で呼ばれることがある。
 実際の所、「魔法陣」と聞いて何のことかすぐにピンとくる高齢者は少ない。若者が「魔法陣」と聞いてすぐにそれを想像できるのは、ゲームや漫画で得た知識によるところがある。
「ごめんなさいね、聞き方を変えるわ。多分、人が立ち入らない場所。そこに赤い落書きがされているはずなの。それを一人で見ていた人を見たことはない?」
『……あら、それなら不思議なことがあったのを覚えているわ』
「不思議な、こと?」
『ここからちょっと行った先の路地裏にね、女の子が一人入っていったのよ。その道は袋小路なのだけれど、そこからその子はいつまで経っても出てこないのよ』
(――アタリ、かしらね)
「お婆ちゃん、その場所教えてくれる? 道案内は……念のため、要らないわ」
『あらあらあら、念のために要らない? なんだか変わった言葉ね、ふふふ』
(もし「単体」「複数」の「複数」の方に「生前の姿を取り戻したインビジブル」が含まれていたら困るものね。それに、もしかしたらこのお婆ちゃんを巻き込んでしまうかもしれない)
「ごめんなさいね、お婆ちゃんのためなの」
『まあ、優しいのねお嬢さん。ええいいわ、教えてあげる』
 老婆からその袋小路の路地裏の場所を聞いたあきは、そこへ急ぐ。
「――あった」
 血のような赤い塗料。描かれた、魔法陣。ここから出てこないということは、……恐らくは。
(どこか別の場所に、移動させられている……?)
 あきの視界がぐにゃりと歪む。
 そのまま、秋の意識はホワイトアウトした―—。

第2章 集団戦 『狂信者達』


 魔法陣を単独で見つけた√能力者たちは、みな一様に意識を失った。
 そして次に目覚めた場所は、やけに広大な白い部屋。
 恐らくはこうして、以前に魔法陣を単独で「見た」者たちも意識を失い、別の場所へと運ばれたか、飛ばされたかしたのだろう。
 
 そして、その白い部屋の中には、被り物をした奇妙な服装の集団が|√能力者《あなた》たちを見下ろしている。
 これこそが、星詠みの言っていた怪異の尖兵、「狂信者達」か。
 ならば好都合。ここで戦っても、外部に被害は出ないということだろう。
 彼らを倒し、その裏にいる怪異まで打ち倒してやろうではないか—―!
========================================
第二章 「狂信者達」 が 現れました。

 おめでとうございます。√能力者たちの探索の結果、みなさまは「血のような赤い塗料で描かれた奇妙な魔法陣」を発見。
 そして、奇妙な力でそれぞれに意識を失い、気づけば広大な白い部屋で目が覚めました。
 目の前にいるのは怪異の尖兵「狂信者達」。
 以下に、詳細を記します。
 
 「★注意★」
 (以下の戦闘におけるルールは「ライブラリ」の「シナリオ参加方法」→「シナリオの判定システム」の「戦闘ルール」から確認できる、青文字部分に記載されています)
 敵はみなさまがプレイングに使用した√能力に必ず設定されている能力値【POW】【SPD】【WIZ】と、全く同じものを使って反撃、あるいは攻撃してきます。(リプレイ内では必ず反撃となるとは限りません。みなさまのプレイング、および状況次第です)
 プレイングで気をつけるべき敵の攻撃は、みなさまが指定した√能力の能力値の√能力です。
 (例えば【POW】の√能力で攻撃したなら、敵は必ず【POW】の√能力を使ってきます)。逆に言うと、指定した能力値以外の攻撃に対策するプレイングを書く必要はないとも言えます。
 指定した能力値に対応した攻撃の対策に専念して結構です。

  「戦場について」
 上下左右どこもかしこも真っ白な広大な部屋です。多少の大技をぶっ放しても壊れたりする様子はありません。
 窓も明かりもありませんが、奇妙な力により白い部屋の中はどこまでも灯りに困ることはりません。
 一般人はいません。
 戦闘に利用できそうなものは何も無い場所ですが、敵が持っている物を奪うことは出来ます。「何を」「どうやって」使うかをプレイングに明記くださるようお願いします。「使えるものは何でも使う」的なプレイングだと、何かを利用する描写を行わない場合があります。
 この章から参加される方も、既に気づいたら白い部屋にいたことになります。
 すでに敵が登場しているため、技能による準備行動を行っておくことは出来ません。(例:準備体操を行い体の「パフォーマンス」を良くしておく、など)なんらかの準備行動を行いたい場合は、戦闘と並行して行うことになります。
 
 「集団敵 「狂信者達」 について」
 怪異を信奉する危険なカルトに所属する、√能力者の集団です。怪異への信仰により、彼ら自身もまた新たな怪異と化しつつありますが、それも彼あるいは彼女らの望みかもしれません。
 基本的に言葉は発しません。対話による説得や懐柔などは不可能で、戦うしかありません。
 √能力者一人につき1体から3体と戦うことになります。 何体と戦うかはプレイングや使用する√能力により決定されますが、「○体と戦う」とプレイングに明記され、それに対策するプレイングが書かれていた場合はそのようにします。
 なお、チームを組むなどして√能力者の頭数が増えた場合は、それに応じて敵の数も増えます。ご注意ください。
 √能力者が√能力を使わず、技能とアイテムだけで戦おうとした場合でも、斧槍などの武器を使って攻撃してきます。
 √能力を使わなければ動けない、ということにはなりません。
 
 第二章のプレイング受付開始は、この断章が公開され次第即時となります。
 プレイングを送ってくださる方は、諸注意はマスターページに書いてありますので、必ずマスターページの【初めていらっしゃった方へ】部分は一読した上で、プレイングを送信してください。
 
 それでは、まず怪異の尖兵たちを倒しきり、この事件の黒幕をおびき出してください。
瀬堀・秋沙


(本田のおばちゃん……山下のおばちゃんも……いい人たちだったにゃ。あの人たちをこれ以上こんな事件に巻き込みたくないにゃ)
 秋沙はここに至るまでの間に情報提供をしてくれたおばちゃんたちのことを思う。
(殺されちゃったおねーさんの無念も晴らすにゃ……!仇討ちするって、約束したからにゃ!)
 インビジブルになってしまった名も知らぬ女のことをおもう。彼女たちのおかげで、秋沙はここに来られたのだ。
 目の前の狂信者たちをキッと睨みつけ、戦闘態勢をとる。三体の狂信者たちは秋沙を囲むようにじりじりと迫ってきた。そこにどこから現れた者か、新たに同じ装束を纏った狂信者たちが加勢しに来る。初めの三体よりはずっと弱そうに秋沙の目には見えた。
「√能力で呼び出したにゃ!? ……なら、まとめて相手してやるにゃ!!」
 秋沙は箒に跨ると部屋の中を縦横無尽に飛び回り、ところどころに自身の残像を残して狂信者からの攻撃をひきつけさせる。
 指先にぽう、と青白い光が点る。それは魔法の弾。青白い魔弾を空中から撃ち出し、15体の狂信者達をひとところに誘導して集めると、秋沙は箒を複雑に動かし、空中でバレルロールを決める。そのまま箒から飛び降り、自身の√能力を解放した。
 【|追風狂浪如奔猫《ボニンブルー・スプラッシュマニューバ》】。
「うにゃにゃにゃぁ!!必殺、ネコキックにゃあー!」
 蒼い海の如き魔力が秋沙の両足に纏わりつき、その脚で狂信者達を蹴散らしていく。瞬く間に制圧され、煙のようにその場から消え去っていく狂信者達。
「うにゃあっ!!」
 最後にその場に残っていた一体に強烈な蹴りを喰らわせて、秋沙は叫んだ。
「猫は、怒ってるんだからにゃーっ!!」

アダン・ベルゼビュート

「ククッ……フハハハハハハハ!まさか、強制的に俺の意識が切断される、などとはな……!ハハッ!面白い体験をさせてもらったぞ?」
 アダンは中学二年生大爆発のままで狂信者達を睥睨する。アダンの前に立っていた三体の狂信者達はその覇気に押されたのか、仲間を呼ぶ。通常個体よりも多少貧弱そうな、同じ装束に身を包んだ狂信者がさらに増えたが、アダンは意にも介さない――いや、的が増えたのならば上々か!
「礼と言ってはなんだが、覇王である此の俺様の全力を以て……貴様たちを手ずから消し炭にしてくれよう!」
 アダンは√能力【|魔焔の宴《テネーブル・フラム》】を発動させる。
「万象の焼却、強化の呪い。覇王たる俺様の黒炎は、其の全てを内包すると知れ!」
 闇と炎、二つの属性の弾丸が狂信者達の中心に放たれ、爆発的に燃え広がる黒炎が狂信者達を焼き焦がしていく。
 多少貧弱そうであった個体はその時点で瞬く間に焼き尽くされて煙のように消え去った。
「フハハハハッ!わざわざ群れて攻め込んでくるのであれば、全てを纏めて焼き尽くすのみよ――!!」
 ――さあ、魔焔よ、思う儘に燃え盛るが良い!
 アダンの哄笑が響く中、二体の狂信者達も炎の中に焦げて消えていく。
 たったひとり、彼らのリーダー格であったらしい狂信者が炎を乗り越えてアダンの服につかみかかろうとしたが、それはアダンの思う壺であった。
「ククク、近接戦闘ならば有利と見たか? 残念だったな……!」
 アダンの影は魔界と現世を繋ぐ門。そこから片腕を纏うように漆黒の腕部装着型杭打機――すなわち、パイルバンカー「尖影」が形作られる。
「万物を穿て」
 静かな命に従って撃ち出された杭は最後の狂信者の腹を穿ち貫く。それで死を迎えた狂信者達は、やはり仲間たちと同じように煙のようにその部屋から消えた。彼らも√能力者であるからには、いつかどこかの√で死後蘇生されるのであろうが――
 今、アダンの前から敵は消え去った。部屋に残る狂信者達が先を進むアダンの前に壁のように立ちふさがる。
「さあ、道を開けてもらおうか――!」
 アダンは高らかに、狂信者達の前でそう言い放つのであった。

月居・朔

「お前らが、星詠みの言っていた狂信者達だな……これは、随分な歓迎の仕方じゃないか」
 朔は目の前に立つ二体の狂信者を睨めつけると、半眼になって言う。
「今までもこうやって、一般人を連れて来てやがったのか」
 ――ま、せっかく招いてもらったんだから……。
「しっかり相手、してやらないとなァ!」
 朔の前に立った狂信者は、朔が殴り棺桶を手にしたのを見るや床を蹴る。手にした斧槍、それは朔が攻撃を仕掛けるよりも早かった。殴り棺桶の棺桶部分で斧槍の一撃を受け止めると、攻撃してきた狂信者はふっと姿を消す。朔がもう一人の狂信者に殴り棺桶でもって殴りかかろうとした瞬間である。恐らく相手の√能力によるものだろう、殴り棺桶の間合いにいたはずのその狂信者は朔にむかって斧槍を突き出してきた。速さ――いや、瞬間移動か? それを判断している暇はない。突き出された斧槍の直撃を避けるが、一本髪の毛が切断されて宙に舞った。そして、やはり姿を消す二人目の狂信者。
「ちまちまちまちま……隠密状態になるなんて、めんどくせぇな……!!」
 朔はそう毒づくと、ふっと体中の力を抜いた。魔力を纏って隠密状態になった敵は、気配すら感じ取ることができない。否、集中すれば、この部屋中に彼らが纏うものと同じ魔力が充満していて気配が上手く探れない。何もない真っ白な部屋の中と見せかけ、木を隠すための森がすでに出来ているのだ、この部屋には。
 ――刹那、朔に向かって斧槍が突き出された。その斧槍の刃を、朔は素手で掴み取る。てのひらが切れて血が流れる。されど皮一枚だ。武器を掴まれて動きの止まった狂信者に向け、足払いをかける朔――【怪異殺し】。
 牽制からの、殴り棺桶についた長い鎖を巻き付けることによって狂信者を捕縛する。そこから一気に、殴り棺桶でもって超強力な殴打をぶちかます!
 ぐしゃりと嫌な音がして狂信者の被り物の下で何かがつぶれ、そして殴られた狂信者は煙のように姿を消す。死んだのだろう、と判断し、朔は再び姿を消したままの狂信者を待つ。元より無傷で帰るつもりはない。一撃くらいは受けてやる覚悟は決まった。
 目の前に突き出される斧槍から逆算し、狂信者の位置を掴んでまだ見えないその場所へと足払いをかける。無様にまろび出た狂信者を鎖で捕らえ、朔は殴り棺桶を頭上に持ち上げて宣言する。
「オレはあんたたちの親玉に用があるんでね。さっさと終わらせて親玉の慌てるツラを拝むとしますか」
 そのまま殴り棺桶を振り下ろし――がつんと音がして、先ほどと同じ、硬いものが砕かれ潰れる感触を、朔は味わっていた。

橘・あき

 あきの前に立った狂信者は一体。か細い女だからと、見くびられているのか。
 あきは冷静に、自分の置かれた状況を判断していた。
(一般人がいる様子はないわね。なら、ここなら好きに暴れていいということだわ……それなら、私の得意分野)
「思う存分、この子を振り回しましょうか」
 あきは右手に金色で縁取りがされたた漆黒の殴り棺桶「coffin*」の鎖を握り。左手にイニシャルの刻まれた銀色の槍「thunder*」を携える。
「ふふ。こう見えて、力には自信があるの」
 自身が相手の――あきの力量を見誤ったことに感づいたのだろう。狂信者はそのまま床を蹴り、あきに何かをさせる暇を与えずに斧槍での彼女の体を穿ち抜こうと躍りかかってくる。それを「thunder*」の柄で弾き返し、あきは刃の直撃を避ける。一瞬、一瞬抑えるだけでいい。斧槍の使用範囲であれば、殴り棺桶の鎖が届くとあきは冷静に判断し、鎖をかける。狂信者が怯んだ一拍の隙を見誤らず、右手で握った殴り棺桶「coffin*」をその細い体のどこにそんな力があったものか、恐るべき剛力によって薙ぎ払い、狂信者の頭部に向かって思い切りぶつける。がつん、と嫌な音がして、白い床に赤黒い液体がぼたぼたと滴った。重傷を負ったまま狂信者は魔力を纏って姿を消す。この白い部屋の中に充満し渦巻いている魔力。おそらく「親玉」から発されるものであろう、それと狂信者達が纏う魔力はひどく似ていて、気配を探ることさえままならない、しかし――。
(大丈夫。同じ槍使いとして、大体の間合はわかってる。今さっきの一撃で、ほぼ把握できたと言ってもいいわ)
 あきは冷静に隠密状態にある相手からのわかりきった|ブッシュ《不意打ち》を待つ。時間にしてきっかり三秒後、その攻撃は来た。
 間合いを読み切って、姿を消した相手から繰り出される刃を体をねじって避け。そのまま見えぬ相手に足払いをかける。あきは確信する、相手が姿を消していようと、その場に「いる」のならば問題ない――仕掛ける!
 【怪異殺し】。距離を完全に読んだあきの鎖によって狂信者は捕縛され、姿を現す。その動けない相手の頭部めがけて、あきは殴り棺桶「coffin*」を全力でぶちかます!
 硬いものが砕け、柔らかいものがつぶれる音がして、狂信者はその場から煙のように姿を消す。――死んだ、のだろう。相手も√能力者である以上、死後蘇生によっていつかどこかの√で復活するだろうが、今は、死んだ。あきが殺した。
 そしてそれにより、この場にいた狂信者達はすべて倒され。
 同時に、部屋に渦巻いていた魔力がひとところに集まった――!

第3章 ボス戦 『対処不能災厄『ネームレス・スワン』』


 何も無い、真っ白な部屋。そこにいた狂信者達はすべて倒された。
 彼らも√能力者である以上は、いつかどこかの√で死後蘇生するであろうが、今はすべてを殺しきった。
 と、同時。
 この部屋に渦巻いていた魔力が、中心に集約する。
 怪異が、顕現する。
 そこに現れたのは――「対処不能災厄『ネームレス・スワン』」。
 無数の白い翼と、無数の白い頭蓋を持つおぞましくも、どこか名状しがたい神々しさを持つ怪異。
 聞く者の頭蓋を砕くような悲鳴と共に、その怪異はそこに現れた。
 その部屋に集った|√能力者《あなた》たちは、確信する。
 これこそが今回の事件の「親玉」。「黒幕」。この怪異を斃さずして、事件の終結も、そして――この部屋からの、自分たちの無事の帰還もありえはしないと!
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 第三章 ボス戦「対処不能災厄『ネームレス・スワン』」 が 現れました。
 
 おめでとうございます。√能力者たちの活躍により、謎の白い部屋にいた狂信者達はすべて倒されました。
 そして、彼らの命を贄として、この部屋に怪異が顕現しました。
 以下に詳細を記します。
 
 「★注意★」
 (以下の戦闘におけるルールは「ライブラリ」の「シナリオ参加方法」→「シナリオの判定システム」の「戦闘ルール」から確認できる、青文字部分に記載されています)
 敵はみなさまがプレイングに使用した√能力に必ず設定されている能力値【POW】【SPD】【WIZ】と、全く同じものを使って反撃、あるいは攻撃してきます。(リプレイ内では必ず反撃となるとは限りません。みなさまのプレイング、および状況次第です)
 プレイングで気をつけるべき敵の攻撃は、みなさまが指定した√能力の能力値の√能力です。
 (例えば【POW】の√能力で攻撃したなら、敵は必ず【POW】の√能力を使ってきます)。逆に言うと、指定した能力値以外の攻撃に対策するプレイングを書く必要はないとも言えます。
 指定した能力値に対応した攻撃の対策に専念して結構です。
 
 「戦場について」
 引き続き、上下左右どこもかしこも真っ白な広大な部屋です。多少の大技をぶっ放しても壊れたりする様子はありません。
 窓も明かりもありませんが、奇妙な力により白い部屋の中はどこまでも灯りに困ることはりません。
 一般人はいません。
 戦闘に利用できそうなものは何も無い場所ですが、「何を」「どうやって」使うかをプレイングに明記いただければ「そこにあった」ことにします。「使えるものは何でも使う」的なプレイングだと、何かを利用する描写を行わない場合があります。
 この章から参加される方も、既にこの白い部屋にいたことになります。
 すでに敵が登場しているため、技能による準備行動を行っておくことは出来ません。(例:準備体操を行い体の「パフォーマンス」を良くしておく、など)なんらかの準備行動を行いたい場合は、戦闘と並行して行うことになります。

 「ボス敵「対処不能災厄『ネームレス・スワン』」について」
 あらゆる『窓の隙間』から現れうるとされる『対処不能の災厄』です。無数の頭部から放たれる、聞く者を狂わせる悲鳴と共に出現し、周囲に天災にも等しい被害をもたらしていきます。
 今回は狂信者達の命をも生贄として「白い部屋」の中で顕現したため、この場で倒しきれば周囲に被害をもたらすことはありません。
 怪異であるため、意図は全く読めません。ただすべてを破壊し狂わせるものであるようにしか思えません。
 基本的に理解できる言葉は発さず、無数の頭部からの悲鳴だけを発します。
 対話による説得や懐柔などは不可能で、戦うしかありません。
 ボス敵のレベルは、対峙する√能力者のレベルと同じです。√能力者が上回ることはなく、チームを組むなどした場合は最も強いレベルの√能力者と同等となります。
 √能力者たちが√能力を使わず、技能とアイテムだけで戦おうとした場合でも、殺傷力を持つ叫び声などによって攻撃してきます。√能力を使わなければ動けない、ということにはなりません。

 第三章のプレイング受付開始は、この断章が公開され次第即時となります。
 プレイングを送ってくださる方は、諸注意はマスターページに書いてありますので、必ずマスターページの【初めていらっしゃった方へ】部分は一読した上で、プレイングを送信してください。
 
 それでは、あなたたちが無事に生き残るため。そして、この事件を終結させるために。
 顕現せし怪異を、倒してください。
アダン・ベルゼビュート

「ふむ……実際に|相見《あいまみ》えるのは初めてか……」
 アダンは事前に√汎神解剖機関のライブラリを見聞きし知っていた「対処不能災厄『ネームレス・スワン』」をじかに目にして、ふ、と唇を吊り上げる。
「直接見るからこそ、|理解《わか》るものもあるではないか」
 ネームレス・スワンはその白色の無数の頭蓋から悲鳴を上げ続ける。アダンの言葉に応えはしない。
「貴様の全てが、酷く悍ましい……覇王である俺様にこのような感情を抱かせるとは、クハハッ!『対処不能災厄』の称号は、飾りではないようだな!」
 めきめき、ぼきぼきとアダンの前で、ネームレス・スワンはその形を変え続ける。脊髄が増え、獲物を狩りやすくなる。悲鳴を上げ続ける頭部が増え、獲物を喰らう口が増える。翼が増え、その場を飛び回り蹂躙することがスマートに行えるようになる。
「悲鳴、絶叫……悲嘆の絶唱。好き放題に喚くのは、大いに結構だが……よもや、此の程度で覇王を狂わせられるとは思っていないだろうな?」
 ――フハハハハハハハハッ!!
 アダンの哄笑が、ネームレス・スワンの悲鳴さえ凌いで白い部屋に響き渡る。
「笑止、千万!……俺様を止めたければ、聲だけでなく力尽くで止めて見せるがいい――!!」
 はたしてその言葉を受けたのか、どうか。ネームレス・スワンがアダンに襲い掛かる、それと同時に、アダンは己の√能力を発動させる。
「覇王たる俺様の力、其の一端を味わえ!」
 【|覇王の喝采《ベルゼビュート》】。アダンの影から黒い狼の群れが現れる。獲物に食らいつかんとする白い頭部には、飢えた黒狼の顎がそれぞれに噛みつき。どこまでも伸びて被害者を穿たんとする脊髄には、アダンが影で作った黒い鎖が絡みついて動けなくする。動きを止められたネームレス・スワンはその場で|白鳥《スワン》の翼をばさばさと羽撃かせ――そこに、黄昏よりも昏き黒炎の波が襲い掛かる。
「貴様の純白を、俺様の黒炎で染め上げてくれよう……!!」
 白い翼を焼き焦がしていく黒い炎。それ以外にも、アダンは影からじわじわと燃え広がる魔焔を操りネームレス・スワンを火責めにしていく。
 果たしてネームレス・スワンに痛覚というものがあるのかはわからない。上がった悲鳴が、苦悶によるものかもわからない。
 ただ、ネームレス・スワンは黒狼に喰らいつかれた白い頭部から悲鳴を上げ続け。
 アダンはそれを、覇王の笑みを浮かべながら見ていた。

月居・朔

「……は、さっすが狂信者。自分たちと引き換えに、親玉の怪異を召喚してみせた、ってことか……多分今までに消えたヤツらも、これに飲まれたってわけだろうな」
 朔がそうぼやく前で、「対処不能災厄『ネームレス・スワン』」は無数に存在する白い頭部から悲鳴を上げ続けながら、その肉体を変異させる。
 獲物に食らいつくための頭部が増える。獲物を穿ち貫くための脊髄が増える。獲物を蹂躙するためのま白き翼が増える。ネームレス・スワンは、そのまま脊髄を伸ばし、朔を串刺しにせんとしてくる。朔はそれを、殴り棺桶の金属面で受け止めた。
(こいつが消えれば町の怪異も収まって、みんな忘れていくだろう)
「……ははっ、ならさっさと終わらせないとな!」
 脊髄による攻撃を鎖で絡めとり、殴り棺桶でもって頭部を叩き潰す。真っ白な頭蓋は思ったよりも簡単に潰れて、そして残った頭部が絶叫を上げる。
「足がねえ相手に足払いもかけられねえが!コンボは成立させるぜ!」
 そのまま鎖を握りしめ、朔は殴り棺桶を宙に舞わせてぶんぶんと振り回す。頭蓋を潰し壊すだけの重量のある殴り棺桶は遠心力により、ネームレス・スワンの頭部を次々に破壊していく。これもまた、朔の√能力【怪異殺し】の応用だ。
 ネームレススワンからは一滴の血も流れない。ただ、悲鳴を上げ続ける。それが痛みからなのか苦悶からなのか、朔の攻撃に痛みを覚えているのかどうかも計り知れない、だが、朔は愚直に殴り棺桶でネームレス・スワンを殴り続ける。そのたびに白い頭部がひしゃげ、砕けていく。朔は知っている、自分にできることは殴り潰すことだけだと。自分には小細工は似合わない、と。だから愚直に、ネームレス・スワンを殴り続ける。
「……ああ、寒っみ……!はやく帰ってのんびりしたいぜ……!」
 そのためにも、朔は、殴り棺桶の鎖から、決して手を離しはしない――。

橘・あき

「……ああ、何度あなたを見ても、胃のむかつきは起こるわね……!」
 あきは√汎神解剖機関にてフリークスバスターを営む身だ。今回現れた「対処不能災厄『ネームレス・スワン』」と戦ったことも初めてではない。だが、最初にそう口にしたように、幾度それを下したとしても嫌悪感は拭えない。
 その身にネームレス・スワンから齎されるだろう狂気と呪詛への対策を施すと、あきは叫んだ。
「――そこを動くな!」
 鎖を握って殴り棺桶を振り回し、あきはネームレス・スワンへと遠心力を利用して殴り棺桶をぶちかます。しかし、ネームレス・スワンはその異形の肉体に生えた無数の翼を羽ばたかせ、殴り棺桶の攻撃を避けた。そうする合間にも、ネームレス・スワンの得物を喰らうためのま白き頭蓋は次々と増える。獲物を貫くための脊髄が増える。獲物を蹂躙するための純白の|白鳥《スワン》の翼が増える。増殖した部位の数は、合わせて20個。
(|思った通り《・・・・・》、当たらなかった――ええ、ええ、当たらなくても構わない!)
 あきは既に√能力【|探偵活劇《レミイ》】を発動していた。殴り棺桶は当たった場合、ネームレススワンにより強力な打撃を齎しただろう。だが、外れても、そこから半径20メートルが「移動禁止エリア」となる。あき以外のすべての対象の行動成功率が半減する。
(たとえ相手が私より格上だろうと……さっきのようにはいかないでしょう……!)
 あきは殴り棺桶を引きずってネームレス・スワンの前に立つ。ネームレス・スワンはそこから逃れ羽ばたこうとするが、あきの√能力によりずるずると這いずるようにしか動けない。
「もう二度と、その|顔《・》を見たくはないものね」
 ――まあ、これからもきっと、あなたに出会って、私はあなたを何度でも殺すのでしょうけれど。
 あきがフリークスバスターをしている限り、何度も。
 彼女はそう言って、怪力でもってネームレス・スワンの無数の頭蓋を叩き壊すように殴り棺桶をぶつけていった。
 ぐしゃり、ぐしゃりと硬い頭蓋が壊れる音が、断続的に響いていた。

瀬堀・秋沙

「おまえが親玉にゃ……?」
 ――おねーさんの、仇にゃ?
 ふかーっ、と毛を逆立たせて威嚇する秋沙に、「対処不能災厄『ネームレス・スワン』」は答えない。秋沙もまた、相手が返事を返さないことは理解していた。だからそれは、疑問ではなく、問いではなく。今から仇討ちを行うという宣告である。
 箒に跨り、撃ち込まれる脊髄を避ける。その隙にもネームレス・スワンの脊髄は増え、また意味のない悲鳴を上げながら獲物に食らいつかんとする頭蓋が増え、その場のものすべてを蹂躙せんとするましろき|白鳥《スワン》の翼は増える。頭蓋が食らいついた秋沙は残像。的を絞らせずに縦横無尽に飛び回り、呪文を一瞬で唱え終わってバチバチと明滅する魔法の弾丸を撃ち放ち――乱立する脊髄のジャングルの中を、秋沙は恐れずに潜り抜けていく。
 そして、弾丸と自分自身の動きによってネームレス・スワンを理想の位置まで誘導すると、秋沙は自身の√能力を解放する。
 【|鐵血覆海猫突撃《ボニンブルー・ファイアコンビネーション》】。いくつもいくつもの幽霊船団が、海なき真っ白な部屋の中に現れ、砲撃によってネームレス・スワンを追い詰め。鯨砲が四方八方から銛を射出して、銛につけられたワイヤーが|名もなき白鳥《ネームレス・スワン》をがんじがらめにする。
「みんな、撃って撃って、撃ちまくるにゃー!!」 
 そして、秋沙は自身に魔力を纏い、船団からの放火を避けると、自分自身を一つの魔弾、砲弾と化す。
(おねーさんの……それ以外の、みんなの仇!)
「これで、おしまいにするにゃあああああああ!!!!」
 秋沙のダイレクトアタックを受けて、ネームレス・スワンは内部から爆裂する。
 その存在を形作る脊髄も、無数の翼も、頭蓋は悲鳴すら上げられる暇もなく、ただ萎れて消えていく。
 
 √能力者は、ここに一体の怪異殺しを成功させた。
 もう三途町に、魔法陣が現れることはない。
 
 けれど√EDENは最も弱く、最も資源にあふれた√。どのルートの悪しき√能力者からも狙われる立場にある。
 だから束の間、誰も知らぬ平和が戻った三途町の片隅で。
「あらあ本田さん、あなたもおやつ?いいお紅茶の葉っぱもってきたのよお」
「あらやだ山下さん。あらあらやだわもう。これねえ、お世話になったからってお嬢さんが持ってきてくれたのよぉ」
「ああ、あの可愛らしい猫耳のお嬢さんね、うちにも持ってきてくださったのよ、アタシはお風呂上りに食べようと思って」
 そんな会話が繰り広げられ。
 どこかの路地裏では、浮遊し続けるインビジブルの一体が、そっと置かれたアイスクリームを、溶け切るまで見守っていた。
 そのアイスクリームのパッケージには、【Nyaagen-Cats】と書かれてあった。

挿絵申請あり!

挿絵申請がありました! 承認/却下を選んでください。

挿絵イラスト