シナリオ

間守の入江

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「やあ。今日はとある集落の問題を解決して欲しくてね。そこは昔ながらの漁村なんだけど、怪しげな連中が何か企んでいるみたいなんだよ」
 ルベウス・エクス・リブリス(半人半妖の妖怪探偵・h01080)が地図を手に説明を始めた。場所的には千葉とかその辺の海岸である。
「本来ならば潜入にも苦労するんだろうけど、近郊で工場が建って居てね。そこへ色々と納入したり、電気工事だの理由を付けて立ち寄る事も出来る。良かったら協力してくれないかな? 依頼としては、怪しげな連中の陰謀さえ防げれば村には特に何もしなくてOkだよ」
 そう言って地図に赤ペンで線を入れ、地上ルートを描き、そして青いペンで海からのルートを描いた。そう、そこは海辺の村なのである。


 その頃、間守村にて……。
「また分家の小僧は怪しい連中さ引っ張り込んだか!?」
「おババ。そう言うでねえ。こんな小さな村でやってくにゃ大変だあよ」
 激昂する老婆を孫の如き娘がいさめた。
 一見すると逆に見えるのだが……。
「そうはおっしゃっても本来ならばお嬢様が上に立つべきなのです。おいたわしや」
「今時、本家も分家もねえだよ。網元つっても燃料さ高くなって魚さ大して採れねえだ。分相応に暮らしていければええだ」
 どうやら娘は網元であり、おそらくは世が世ならば村長であったのだろう。
 だが身分という程で無し、気にすることはないと老婆をいさめているのだ。
 そして彼女たちに視線の先には、新しくできた工場があったという。

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第1章 冒険 『閉鎖的な村』


水垣・シズク


「ゴーストハントの初歩はデータ調査からですね。まずは外堀から確認しましょうか」
 水垣・シズク(機々怪々を解く・h00589)はビシットしたビジネススタイルで、レンタカーに乗り村を訪れた。車種はライトバン、普通の車サイズだが機材を持ち込めるのがウリである。山々の間にある入り江の村に車がバタンと止った。
「お忙しい所をすいません。少々よろしいでしょうか?」
「あんたは誰だい?」
 シズクは軽く頭を上げ、村の住人に声をかけた。
 そして恐縮して見せながら、相手の様子から名刺の類は不要だと判断して、名刺では無く菓子折りを渡す。
「あの工場周囲の治安状況を確認して回っております。最近は県外から来て、金属ケーブルを切断して盗む犯罪グループがおりますでしょう? そういった存在が目撃したかどうかを聞き取り調査に参って居ります。見かけたという話が無ければ、直ぐに立ち去りますので」
 シズクは工場関係の調査と銘打ち、窃盗を中心に、理屈を二・三用意しておいた。
 正確には『誰から頼まれた』とか、『その後にどうする』などを分岐させるのだ。
 相手の対応に合わせて修正する流れで、例えば今回は『村人は疑って居ない』との趣旨を重視している。古来から村は閉鎖社会であり、嫌われると情報が出てこないからである。
「間守様のところに出入りする漁師にそんな奴らは居ねえよ。ほれ、あそこから全然違うだろ? こっち側は昔ながらの暮らしさ。ケーブルちゅーのは電気屋が出て行ってから見たこたねえな」
 堂々とした姿で誠意ある対応をしているのでまず疑われたりはしない。
 こういう村であっても、車や保険のセールスは訪れる物だ。
 シズクはそういった路線で堂々と話をして、村人から少しずつ話を聞いて行く。
(「そういえば電線くらいですね。少な過ぎるような気がしますが、そんなものですか」)
 村は途中からパッタリと、文明の痕跡が減って行く。
 まるで√妖怪百鬼夜行の世界かと疑うレベルだ。
 しかし住民が次々に出て行くなど、限界集落一歩手前らしい。言われてみれば納得の行く話だ。
「そういえばあの辺りから少し違いますね。何かあったのですか?」
「大したことじゃあねえ。こちらは網元の本家である霧江様に御厄介になってるべさ。向こうさ、同じ間守家でも分家筋。あっちは自分に従えって煩いそうだべ」
 村は本村と支邑に別れており、大多数が村だと思って居る方が本村らしい。
 分家筋が収める支邑は、分家が率先して土地を活用しており、数年前から工場が建設されたという。だからケーブル泥棒が出るとすれば、あちらの住人であろうと……思いっ切り向こう側のサイドに反感を持っている様だった。
(「工場が思ったより嫌われていて情報が出て来ませんでしたが……まぁそれも一つの情報と言うことで。念の為の確認は必要ですが……これで『分別』が出来ました」)
 シズクの家は代々の霊能者であるが、当初は才能が開花しなかったこともあり代替手段でソレを埋めていた。ゴーストハント……心霊調査の基本は、綿密な情報収集と科学的調査である。
(「多脚ドローンでの追跡調査は……特に何も無しですか。やはり村人はシロですね」)
 シズクは車でノートパソコンをポチポチやってる間、周囲に多脚型ドローンを設置。
 自分の周囲を嗅ぎまわる者が居ないかをチェックしていた。
 シズクはこの時点で、村の大部分が無関係であるとの確証を得た。そして、分家筋の支配する支邑サイドが怪しいと特定したのである。

ルビィ・ハーモニクス


「海の近くで悪さする人たちは許せないですねぇ……」
 ルビィ・ハーモニクス(正体不明の災厄歌姫・h01032)は鼻歌を歌っていた。
 何処でかって? 村のハズレにある酒場である。幾つかある支邑との境なので、大きな意味では真ん中の方とも言えるが。
「え? なんでかってですかぁ? ……それはまだ言えないですねぇ」
「ねえちゃんゴキゲンだなあ」
 分かりますかあ? あははは。とルビィは笑った。
 彼女がゴキゲンでなければ世界が危うくなるので、そりゃゴキゲンにもなろうというもの(倒置法ではない)。
「そういえばー、この村って大きいれすよねぇ。網元さんが何人も居るんですっけ?」
 酔っ払い度が進行し、ぐでんぐでんに成る前にルビィは情報収集を始めた。
 といっても既に聞いたことをオオム返しに広げて行くだけなのだが。
「そりゃな。昔はここいらの入り江に居る漁師全員を束ねてたもんよ。なあ!」
「おう! 霧の魔界と呼ばれる危険な場所にいってな。魚をいっぺーつってよ!」
「あー。みなさん腕がよかったんですねえ。さすがは伝説の漁師さんれふ♪」
 この村は大きな入り江を中心に栄えていた。
 幾つかある支村は山々であったり半島部などに存在していた。
 周囲から攻められ難いので戦国時代には海賊だったろうし、江戸から近いので江戸時代では大層儲けたであろう。魔の荒海を乗りこなした間(魔)主が吊って来たと言えば、江戸っ子など好きそうな話ではないか。
「こんなに安くておいひいのに、みんな買ってくれないんれすかねぇ」
「……魚食ってりゃ幸せって時代じゃねえからよ。マグロが高級魚になった時は御本家だけじゃなく分家にまで御殿が建ったくらいだが……今じゃ二束三文よ」
 ただ、それだけに寂れた理由も判る。近海漁業で儲ける時代ではなくなったのだ。例え良い漁場に自分たちだけが行けたとしても、その意味は薄いからだ。
「あれえ? 御本家はあそこのおっきなおうちですよね? 分家の御屋敷はどこです?」
「とっくに人手に渡ってるよ。あそこは見切りも早かったからな」
「代わりにでっけえ工場が建ってるだろ? あそこさ」
 それらの話は、平面的には登記簿でも確認できるかもしれない。
 だが、此処には生の声があった。
 だからルビィは好きなのだ。生々しく実情に満ちて、同時に韜晦した自嘲に満ちていた。
「はぁ~♪ 今日もお酒が美味しいですぅ!」
 こうしてその日も彼女は正体不明になるまで……狂気が失われるくらいに酔いつぶれていたという。

ヴァレリー・クラヴリー


「日本の地方にそう詳しいわけじゃないんだけど、この漁村はどこかしら鄙びた……雰囲気を感じるね」
 村の中を歩くヴァレリー・クラヴリー(一杯の平穏・h01101)はふと古びた匂いを感じた。実際の古さもあるだろうが、どこか本で読んだ古めかしさを感じたのだ。
(「インビジブルもどこかざわめいているな……穏やかでない空気が漂っている。幽冥の境が薄いのかもしれないな」)
 確かにそういう古さや怪しさかもしれない。古事記にもそう書いてある……主に大和尊が海を話あって媛を失った辺りかもしれない。そんなことを考えてしまい、ヴァレリーは言葉には出さずに内心で苦笑した。
(怪し気な連中ね……分家の人達が呼び込んだ工場の事を村で聞き込もうか。本家の人達なら、何か知っているかな」)
 聞くだけならだれでも良いが、そういう手法は先行した仲間が取っているだろう。
 ならば自分は詳しく聞くべきだろうとヴァレリーは自問する。
 交渉の言葉は先に頭の中で作り、読み上げるように話すと人は言う。不信感を買わない様に予習してから本家の方へと向かった。そこは周囲で一番守り易い場所にあり、かなり大きなお屋敷である。川を掘りにしているというか、網元だからそこから船も出せるのだろう。
「失礼します。ここはええと|間守……中摂津《ましゅちゅーせっつ》? おじいさんの名前?」
「それさ本家をさす言葉だあよ。……ですよ。戦国時代で●●守織田家とか自称しているのがありますよね? あんな感じです」
 ピンポーンとチャイムを鳴らして出てきたのはまだ若い少女であった。
 出てくるまでの時間で軽く拝見して、入り口に『中摂津』とあったので思わず戸惑った。
 だが戦国時代に織田弾正忠家とか適当に名乗ったのと同じだと聞けば、まあ分かると言えばわかる気がする。きっと分家は分家で地名なり官位名でもついているのかもしれない。
「やあ、こんにちは。ちょうどあてのない旅をしていて、立ち寄ったんだけど……。あれは工場かい? この村には珍しいというか……違和感のある建物だね」
 ヴァレリーはにこやかなスマイルで話しかけた。
 よそ者は警戒されても仕方がないので、出来るだけ柔らかく話していく。
 もし途中で不信に思われたら、その時点で切ってから、√能力を使う予定であった。
「元は分家さ|夷子《いんす》間守家のあっだ……。分家の家と神社を兼ねた屋敷があったんですよ。確か工場と事務所を兼ねた棟と、医務室と宿泊施設を兼ねた棟があったと思います。家と神社の位置をそのまま立て替えてるんで良く覚えてるんですよ」
 こんな村で本家のお嬢様扱いされたら、畏まり過ぎて肩も凝るだろう。
 子供だからというか、自分でも出来る事を出来るからか楽しそうに話している。
「医務室? まあ工場だからあるか。最近できたのかい? 何を作っているんだろう」
「ん-と。製薬工場で治験もやってるって聞きました。治験ってなんなんでしょうかね?」
 聞きたいことが聞けたような、増えたような感じである。
 どうして医務室がと聞いたら、製薬工場でそのまま治験もやっているという。
 確かに田舎でもできるし、高額の報酬も出るだろう。しかし、当人たちは本当に納得しているのか疑問が湧くのも確かであった。まあズルズル衰退して行って、そのうち漁師どころか家も無く成るとか言われたら、まあ受けるのかもしれないが。
「お嬢様! そげな怪しい連中、お嬢様がお話してはなんねえだ!」
「おババは耳が遠いから……。申し訳ありません。お目付け役が出て来てしまいました」
「いえいえ。これはお土産ですので食べてください」
 もっと聞こうかと思う間に、時間切れになってしまった。
 ただ最低限の情報は聞けたので、後は情報を元に行動してみよう。
「……怪しい連中を見なかったかい? 工場のほうはどうだろう?」
 ヴァレリーは周囲に居るインジブルに話を聞いてみた。
 すると工場棟の端っこ、宿泊施設らしき棟と合体している中間的な場所を指さしたのである。周囲に居る労働者は同じながら、その周囲には外国人が居たという。

第2章 集団戦 『狂信者達』



 製薬工場と治験を兼ねた怪しい場所。
 そこでは怪しい連中が出入りしていた。
 工場労働者が働く場所と、それらを管理する人々の働く場所で明らかに人が違うのである。人種が違って居たり、あるいは体格が明らかにかけ離れて居たりする。
『……』
(「うーん。ただのオジサンたちに見えなくもないけど、酒場で知り合った人たちと違うわねえ」)
 そいつらをただ見ただけだと、ただのガタイの良いおっさん達に見えなくもない。
 だが、ゴーストが怪しいと指摘したという事だけではなく、情報収集の結果からして閉鎖的な村だと判って居るのに、日本人が混ざっているにしても明らかに他所の人間たちなのである。少し怪しいであろう。
『……』
(「普通の労働者が夜間には外出しなくなるのに対し、連中だけは動いているな。警備なのかしらね? それとも実験の成果かしら」)
 見張りを兼ねてドローンなどで監視すると、そいつらは周囲を警戒していたのである。まるで警備員であるかのように。あるいは連中も完全には制御できていないから、隔離しているのかもしれない。
(「怪異の反応もある……今なら敵も気がついてない? チャンスかもしれないな」)
 なにより決定的であったのは、怪異の反応が漏れていた事だ。
 あの区画を守っているのはおそらく実験で作り出された連中であるとして、今ならば容易に倒し、黒幕の元へ急行できるかもしれない。
水垣・シズク


(「真相はともかく代入は可能。ひとまず怪異事件としては十分に成立出来ますね」)
 水垣・シズク(機々怪々を解く・h00589)は仲間たちからの情報込みで紙に二つの図を描いた。一つは工場の地図モドキであり、もう一つは背景情報である。
(「一応は『被害者』も居る用ですしね。単に同じ穴のムジナかもしれませんが……放置していたらああいう連中がもっと増えるでしょう」)
 分家が怪しげな連中に土地を売り払い、購入した連中が怪異を収集に来ているというところだろう。その怪異を元にした超人薬を投与するなり、分家連中を捕まえて多少なりとも有しているであろう怪異の反応を強めているとかそんなところだ。有していない情報はその各省と、黒幕が誰かという目撃例くらいである。
(「情報はおおよそ出尽くしましたし、そろそろリスクを取る段階でしょうか」)
 今から潜入して情報を特定い、黒幕が居るところを特定することも出来る。
 だが、もう怪異の居る場所とそれを守る警備を兼ねた下位の怪異が居るなら、即座に動いた方が被害が抑えられるのも確かだったので行動に出ることにしたわけだ。
(「とはいえ……どうしましょう。陽動作戦……は火力を出せる人員が多ければそれでも良いんですが……」)
 陽動作戦で引き付け、その間に本命を抑えてしまうという手は思いつく。
 だが今の所、戦力が微妙なのも確かだ。逆に有利なのは、今なら奇襲で戦いが楽に推移できるというところだろうか?
(「今回は闇討ちになりますかね。サイコドローンは飛行タイプを使わなければそれほど大きな音も出ませんから。幸い夜間は一般人も殆ど居ないようですし、怪異の反応で判別も付きますから多少やりすぎても多分問題ないでしょう」)
 シズクが選んだ手段はオーソドックスに夜襲である。
 王道とも言えるし、何度も言うが、王道と言うのは有効だから陳腐に聞こえてしまうだけだ。
 それに途中から仲間が援軍に来ることを考えるならば、複雑な作戦よりもシンプルな方が良いと考え、一般人が動き回らない夜間を狙ったのである。
(「最大人数を把握。……援軍、呼んでおくべきでしょうか……。とりあえず情報共有はしておきましょう」)
 シズクはドローンに録画させることで、自分一人では出来ないペースで状況を把握した。少人数が警戒……というか徘徊する夜間であれば、一気に仕留めることも可能だろう。そして、その情報を仲間と共有することで、援軍が来た時に一気に殲滅するなり、逆方向から挟み撃ちできるようにしておいたのである。この辺りは若い頃に霊能力でゴリ押しできなかった生い立ちが性質に出ているのかもしれない。

 やがてシズクはドローンを配置し直し、最も人が居なくなるタイミングで仕掛けた。
「通達、次の指示を最高優先度で実行せよ」
『がっ!? ががが!』
 シズクの指示に従いドローンが徘徊する怪人たちを攻撃し始める。
 そいつらはその場で暴れ始めるが、当然ながら彼女はいないのでダメージを喰らうはずもない。
(「このまま一人一人呪詛をしこたま叩き込んで沈めて行くとしま……あれは?」)
 シズクがドローンを見ながら次の変更を出すか迷っていると、怪人たちの様子に変化が出始める。
『……さま、さまのご指示……かな?』
『ぎ、ぎっどぞう。教主様のご命令!』
 そいつらは顔を突き合わせると、教主の命令という存在しない記憶を参照した。
 おそらくはこいつらを改造した連中が、予め命令しておいたのだろう。
『ほ、ほのおを! 冒涜者を焼く炎を!』
(「っ!? いけない! 巻き込まれる……」)
 怪人が炎を吹き出し、ドローンを巻き込むような火焔攻撃を始めた。
 その炎が彼女の隠れている場所に届くからか、あるいはドローンを操る彼女の思考を焼くからか? その脅威を感じたシズクは足早に脱出することにした。

凍雲・灰那


「おっ。前の情報が集めた情報があんのか。しかも、仕掛けている奴が居る……と」
 |凍雲・灰那《いてぐも・はな》(Embers・h00159)は他の仲間が共有した情報を確認した。別に攻略本を見ながらゲームをするタイプではないが……生き死へ関わる情報である。参照して悪い事はあるまい。
「きひひ。おねーさん聞き込みとか苦手なんだァよね……」
 特に灰那は人々に合わせて話を聞いて回るというのがあまり得意では無かった。村ごと焼き払えと言われたら鼻歌交じりに出来るのだが、それをやったら困……困るに違いない。特に彼女の友人たちが。多分。
「でもまァ、敵を|焼き尽くす《凍て滅ぼす》のなら任せて欲しいってなァ!! 折角奇襲を狙えるんだ、遠慮なくブチ抜いてやろうぜ?」
 今回は強襲戦ということで、気にせずブッパできるのが良い。
 既に一般人が居る場所と、怪異が集まっている場所が特定できているとの事だ。
 なら攻撃をして悪い義理があるか? ないよなあ?
「|奴らに察知されないよう、密やかに詠唱、召喚。《我が命に従い、生命の熱を識り、生命の熱を絶て》」
 灰那は囁くように、笑みを浮かべて嘲る様に呪文を詠唱した。
 それはまるで三昧真火、火に関わる妖怪や仙人が現れただけで生じる命令のよう。

 歌え。謡え。炎をうたえ。
 謳え。詠え。氷をウタエ。
「お前らまとめてぶっ放せ。弱いってったって一応は精霊(?)の攻撃だ。脳みそまでこんがりチンするにゃ十分ってね」
 灰那の指示で精霊たちが熱を放ち始める。
 それらは一点に集約するべき場所で、ジリジリと相手を焼いて行く。
 照応せよ、集約せよ、我が意に従い群れはそこに集へ。集まり踊り、その意義を持って命の継続を絶ち、奴らの運動を失わせるが良い。いわゆる……与え奪ったエントロピーは一致するである。
『ほ、ほのおを! 冒涜者を焼く炎を!』
『教主様のご命令! 冒涜者を焼く炎を!』
 改造され、操られているらしき怪人たちは攻撃に対して反撃以外を判断する能力がないようだ。もし灰那がそのまま脱出すれば、ダメージを追わずに逃げることも出来るであろう。だが……。
「オレに対して炎かよ! 誘ってんのか!? ありったけの熱線照射でカートゥーンのチーズみたいにしてやんぜ。バレてからが喧嘩の華ってなあ!」
 灰那は笑って周囲を燃やしていった。
 逃げてダメージを最低限にする? 何の冗談だ。
 先に相手を焼き滅ぼせば、怪我した分より成果が出せる。損得が釣り合ってるじゃねえか! と笑って攻撃し続けたのである。
「きひひ。随分湿った磯の匂いだったが、ちったァマシになったな。タバコは……吸ってる場合じゃねェか」
 灰那は景気よくその辺を燃やし、敵の漬けていた装備を踏みつけて燃やした。灰となって燃える香りを煙草に代わりにして、次の敵が来るまでの間、戦いの余韻を愉しんだのである。

茶来・優志郎


 田舎の村に存在する、改造された怪異たちが暴れ回る。
 彼らに害意は無くとも、改造された時点で殆どカルト教団の狂信者と変わりない。
「ウェーイw悪党ども見てるぅ? Ww」
 その時、茶来・優志郎(人間(√EDEN)のカード・アクセプター・h04369)が戦場に現われた。それは悪党たちの陰謀を挫こうと思ったのか、あるいは単に改造された彼らを哀れに思ったのかもしれない。
「ここからはオレが相手だ──変身!!」
 優志郎は愛用のヴィークルの上でポーズを決めると、一息に変身した!
 説明しよう! ふだんはチャラチャラした男だし、まんまチャラチャラしている時もある! だがしかし、その本質は優しい男なのだ。だからオタクくんにも優しいし、きっと改造された彼らを哀れに思って苦しみから解き放とうと思ったのだろう。間違いなくバットで百回殴るよりも、彼の必殺技一回の方が慈悲深いからだ。
「危ないおねえさん! ここはオレが前衛を務めるぜ!」
 途中でお姉さんを見かけた優志郎は、なおのこと負けるわけにはいかないと奮起した。そして志の焔を燃やし、風圧でカードをセットすると、必殺技を放ちに掛かったのである!

 レーオー! + ペールーセーウース!! フォーーーム!!

『み、みんな急いで集まっでぐるだ。急いでおらだじのぢがらをみぜるだよ!』
『『おおおお!』』』
 そこに現われ志は十二体の狂信者! いや、改造された下位の怪異たち!
 人数の差に任せ、キョンシーみたいにピョンピョンと飛んで来る!
 急々如律令! という言葉を体で体現するかの如くである! だがしかし!
「遅ええ!」
 速い! 今日の優志郎は何時に無く速い!
 ヴィークルに乗っているからか? 変身しているからか?
 いいや違う、彼らが改造によって苦しめられていると直感的に理解して、その苦しみから一刻も早く解放しようと高速で動き回っていた!
「ソードブレイザーチェンジ! イージス……レオ、ブレード!!」
 優志郎は目にもとまらぬ速度で光の剣を振うと、迫りくる改造怪異たちを切裂いて行ったという。もちろん十二体も敵がいるのだ、無傷ではないが……それ以上に改造された哀れな彼らと戦う事の方が辛かったと後に彼は語っている。

ルビィ・ハーモニクス


「ルビィさん戦うのは苦手なんですよねぇ……」
 好意っては何だがルビィ・ハーモニクス(正体不明の災厄歌姫・h01032)は『戦いことは』得意ではない。得意なのは世界を滅茶苦茶にすることだ。だから普段から酔っぱらってぐでんぐでんに成っている。
「まぁ、やれるだけやってみましょうかぁ……」
 気合を入れるとアルコール臭が漂うのだが……。
 それを攻めてはいけない。ルビィがもたらす災厄は酒を飲んで前後不覚になると起きなくなる可能性が高いとされているのだ。本当に抑えられるかはともかく、可能性が低くなるだけでも御の字である。だからそこ、『本島でゴザルか?』などと言ってはいけない。
(「お歌を謡っている間に何とかしたいところですが、効果範囲まで無事に近づけるかが最難関ですかねぇ?」)
 ルビィは悩んだ。コンマ五秒くらい。
 宇宙で活躍する啓示が変身する時間の数倍くらいだ。すごく悩んだ(当社比)。
(「ルビィさんを守ってくれそうな前衛さんが居ないですし、酔っぱらい女一人として油断してくれることを祈りつつ近づくしかないですかねぇ……」)
 もし、彼女を調査して厄災を抑え込もうと努力をした人間が聞いたら、きっと『どの口が!?』と真顔で問われることを平然と口にした。あ、ごめん。真顔で問い返すのではなく、顔を真っ赤にしてめっさ良い笑顔を浮かべる……の間違いである。きっと酔っぱらいは手に余るという言葉の証左であろう。いや、待て人間厄災の手が余るという事は、還って良い事ではないのか?
(「無駄だとは思いますけど、パック酒と缶ビール持ってお酒の差し入れ装いながら近づいてみましょうかぁ」)
 などとルビィは珍しくまともな心配をした。
 だが、忘れてはいけない。彼女は人間災厄なのだ。
 一周回って、それは攻撃的なドリブルと言う事である。
 正体隠して尻隠さず。それはある種の全力攻撃の宣言でもあった。
「は~い♪ ルビィさんが来ましたよぉ~……皆さんよろしく~! 差し入れでーす。おつまみもあるですよ~。デースでアルとか、まるでエセ外国人みたいですけどねぇ。あははは」
 その時、ルビィは絶好調であった。
 いっと彼女の厄災としての直感が機能していたのだろう。
『あ? ……教主様、命令ない?』
『命令。無い』
 怪異に改造された人間たちは反応したが、攻撃はしなかった。
 もしかしたら、命令系統のプログラムの想定が甘かったのかもしれない。
「おや? おやおやおや? もしかして良いんですか? やっちゃいますよ、謡っちゃいますよ? 聴いてください、子供たちのドリームな国。ネズミーランド銀景色♪」
 ルビィは歌う事で周囲を銀色に染め上げ始めた。
 人々理解できないソレは、改造怪異にとっては攻撃となる。
 何でかって? 彼らにはが言いある攻撃だと理解できるからだ。あるいは吸収されてしまうとか、分解されてしまうと思ったのかもしれない。
『ご、ごろざなきゃ。ぎょうじゅ、ざまのごめい、れ……』
「ぼえ~♪」
 炎の赤と銀が交錯する。
 結果として赤の分だけ銀が相殺されて減って行き、気がつけば下位の怪異たちは存在が許されず朽ちて行ったのである。

第3章 ボス戦 『連邦怪異収容局員『リンドー・スミス』』



『む? この音は戦闘が起きたのか?』
 その頃になってようやく奥の施設から誰かがやって来た。
 おそらくは哀れな連中たちを改造し、下級怪異に仕立てあげた黒幕だろう。
『普通の人間ならば十分な筈だが……いかんな。想定が甘かったのかもしれん……だが、まだまだデータは取れる筈……。それともここで切り上げ脱出するべきか?』
 そいつはその時、任務と施設のどちらを守るべきか悩んだ。
 資料を持って脱出すれば、これまでのデータは回収できる。
 だが、ここで撤退すればせっかく確保した封印されたままの怪異ごと研究施設を失ってしまうからである。
『誰かは知らんが面倒な。我らが任務の成功こそが、世界の為だと分からんのか……』
 この男は決して無能ではない。
 だが、この迷いが彼の動きを縛っていたのである。
夜縹・熾火


「ダイナマイト・エントリーと行こうかな」
 |夜縹・熾火《よはなだ・おきび》|(精神汚染源・h00245)《Walker》は鼻歌でも歌いそうな気軽さでやって来た。肩に重砲を担ぎ破壊のバーゲンセールを開始する。
「さぁさぁ、良い子は眠る時間だよ。悪い子はどうするの? 仕方ないなぁ、キミ等には子守唄をプレゼントしてあげよう。ほら、お眠りなさい?」
 ちゅどんと大爆発が研究所の扉を吹き飛ばす。
 いっそコミカルなほどだが、残念。紙はハレルヤを謡ってはくれない。
『もう来たのか! しかもグレネードだと!? 状況を更新。即座にBプランに移行する』
 施設の長を務めていた『連邦怪異収容局員』リンドー・スミスは舌打ちしながら幾つかある資料を抱えた。片手で黒鞄をひっさげ、ネクタイでも弄るかのようにマイクで指示を出していく。
『何処の蛮地だ。何時から日本は南米や中東になったのだ』
「何時からってキミらが上から目線でそう決めてからだよね? 口では丁寧に言いつつも、最初からその心算のくせにさ」
 あくまで紳士的に語ろうとする敵に熾火は携行砲の挨拶を行った。
 爆炎の向こうから30mmの奏でるイカしたロックンロールが木霊し始める。
 誰だ、航空機用のガトリングなんぞを携行している馬鹿は。って、問うまでもないか。ただし、数寄者の能力者はよくやるオプションなので、熾火だけを警戒して居れば良いわけではない。
「とりあえず、ソレは置いて行ってくれないかな? ああ、あとそこの可哀そうな誰かさんも愛想が尽きたと思って居るよ。多分ね」
『くっ。そう言う訳にはいかんよ。私も仕事でね』
 スミス氏は熾火に対して魚鱗を飛ばして来た。
 まるで手裏剣のようであり、硬質のソレが弾丸と言うには大きな砲弾を撃ち落としていく。恐るべきはその鱗ではなく、スミス氏の技前であろう。
「まだ余裕があるね? その検体はそんなに美味しいのかな? ……迷い断ち切れぬのなら、このまま朽ちて行け」
 敵がある程度の手加減をして、自分だけを攻撃していると熾火は気がついた。
 本来であればもっと広範囲を薙ぎ払うように攻撃しても良いはずだ。
 おそらく抱えている黒い鞄以外にも、ベッドで寝かされている『誰かであったナニカ』は、まだまだ素晴らしいデータを提供してくれるのだろう。
『クソ! ステイツの正義こそが世界を守る。その為に成るのは偉大な功績なのだよ』
「分からないなぁ。キミ等の愚行が成功する見込みなんて無いだろうに。まったくキミのような奴が居るから私まで駆り出されるんだ。過ぎた正義が何を齎すかなんて今までの歴史が証明してるじゃないか。お呼びじゃないんだよ」
 スミス氏はもっと強敵の筈だが、熾火は自分たちが状況を支配していると理解していた。ならばこの状況を最大限に使ってやろうとそのまま周辺に弾丸を打ち込み、隙あれば切り掛かろうと剣を抜く準備を始めるのであった。

水垣・シズク


「あーーー、なるほど彼ですか」
 仲間からの情報を受けて水垣・シズク(機々怪々を解く・h00589)は状況を理解した。連邦怪異収容局がその資金力で間守村の分家を抑えたのであろう。分家筋は神官でもあったとの事で、おそらくは怪異を眠っているまま確保している物だと思われた。
「良かったです。いや、良くはないんですけども」
 シズクにとって良かったことが三つある。
 一つは自体が解明され、背景が分かったので何をすれば良いか判ったからだ。
「神格とか怪異そのものみたいな純粋にパワーのある相手だと私じゃ対処不能でしたから」
 二つ目は邪神の類が復活したわけではないという事だ。
 あくまでその残滓を利用している誰かさん……この場合はスミス氏でしかない。
 戦闘力にしても危険度にしても大きな違いであった。何しろ倒そうと思えば倒せるのだから。
(「とにかく、優先順位としては……」)
 1. 封印の維持。
 2. リンドー・スミスの撃退。
 3. 資料の奪取。
(「になりますかね。ま、この程度の状況でやけになって暴走するような輩じゃありませんし、脅威を認識させれば退却するでしょう」)
 シズクはドローンから送られてくる映像を見ながらそう判断した。
 まだまだ検体から情報を得られるらしく、スミス氏は広範囲の攻撃をしていない。
 やろうと思えば駆けつけている彼女も狙えたかもしれない(そうではないタイミングまで待ったつもりだが)。
(「……あの様子からしてダウンロード中なのかな? 頼れそうな戦力の方もいらしたようですし、私は他の方が動きやすいよう足止めに徹するとしましょうか」)
 シズクは今の状況でスミスが何を出来るかを判断した。
 怪異が存在する世界でも、コンピューターは存在するのだ。
 だから手に持っている資料とは別に、データを何処かに送っているか、さもなければUSBかデータ・クリスタルか何かに記録しているのだろう。
「各員散開、まとめて排除されない距離を保ちつつ包囲射撃。私は状況の固定を狙います」
 シズクはドローンに命令を行いつつ、これからやって来る仲間に対して言葉を残した。
 今は相手が手加減せざるを得ない状況であり、その状況を動かさないと宣言したのだ。
 つまり怪異の封印は破壊しない様に攻撃し、その対象はスミス氏であり、資料の破棄は以後に来る仲間に任せるという事である。
(「問題は反撃ですが……こちらは既に展開しました。私への攻撃は……うっとおしさには割と自信がありますので」)
 シズクが見ている間に、用意しておいたドローンの一つが破壊される。
 だが、即座に次のドローンが指揮個体を引き継ぎ、同時に画像の送信を別々の個体が担い直した。
『仕方ない。脱出を考える時か……』
(「そうはいきません。もう少しだけ、もう少しだけ付き合ってくださいね」)
 スミス氏の言葉が聞こえた時、バキバキと体が変形する音が聞こえる。
 おそらくは四肢を増やし、脱出能力を高めつつ戦闘力を底上げしたのだろう。
 その事を察したシズクは、ドローンの配置を変更し、攻撃と見せかけ……敵の脱出経路を塞ぎに掛かったのである。

青空・レミーファ


「そこで倒れている人に何をしたの? 許せない!」
 怪異のデータを集めるために、誰かが犠牲になっていた。
 その資料を基に、人々を改造して下級怪異を作り出していたのだろう。
|青空・レミーファ《あおぞら・れみーふぁ》(ややこしい子・h00871)
『ふん。金に困っていたゴロツキを有効活用したにすぎんよ。廃物利用というやつだ』
 リンドー・スミスはレミーファの言葉を綺麗ごとだと言い切った。
 そして周囲に怪異を呼び出したのである。
『まずは道を切り拓くか。時間ももう少し必要な様だしな』
 スミス氏はコンピューターの方をチラリと見て、撤退ルートを塞ぐドローンを眺めた。先行した仲間が用意した妨害であり、それらごとレミーファを倒そうというのだろう。
『正義の事を知らない島国の兵風情が。死にたまえ』
「もう許せない! 怒りの拳を受けてみろ!!」
 売り言葉に買い言葉と言うのもあるが、スミス氏の言葉は彼女を怒らせるに十分であった。組織に類する彼はレミーファもそうだろうと判断したに過ぎないが、ここが研究所であり彼女のNGに抵触したことで、思いっ切り地雷を踏んだのである。
「でいやー!」
『ぬおおお!』
 レミーファの拳がスミス氏のカニ鋏を打ち砕く!
 そして彼女が風をまとって三回スピンすると、スミス氏が追い打ちで放った触手を切り拓いていったのである。一言で言うと同種の攻撃がぶつかり合って相殺された感じだが、構図としては実に格好良い。
「……アタシたちは負けない! それがアタシが目指すヒーロなんだから!!!」
 まだまだヒーローには成れないと知っていても、レミーファがそれを諦める筈もない。そして傷ついた相手とはいえ互角の戦いを繰り広げた事で、心を燃やして敵の撤退ルートに立ち塞がるのであった!

エイル・イアハッター
長峰・モカ


『く。これ以上は保たんな。惜しいが検体は捨てて行かざるを得まい』
 比較的に上手くいっていた作戦であった為か、リンドー・スミスはデータを惜しんでいた。だが、その隙を突かれて『二兎追う者は一兎も得ず』な状態に陥ってしまったのだ。ここにきてソレを悟り最低限の資料を抱えて撤退を覚悟する。
「あいつ芋引いて逃げる気? なんとかしいないといけないんだけど……協力してくれない?」
「しーっ。派手にやるのは、クライマックスの時に、だ」
 💠|長峰・モカ《ながみねもか》((売れない)(自称)イタズラ女芸人・h02774)がエイル・イアハッター(陽晴犬・h00078)に声を掛けると、彼は四つん這いになってゆっくり移動していた。どうやら周囲の監視装置の死角から敵の逃走経路に周り込もうというのだろう。
(「ということは……はあ。わたしが向こう張らなきゃいけないみたいね。まったく昔からこういう役回りなのよね」)
 モカはその様子を見て、戦力としてではなく、敵が抱えている怪異の資料を破棄させるための隠し札にすることに決めた。何というか往年の特攻精神が蘇って来る。元ヤンは伊達ではないのだ。その上でエイルを見ると、彼はヴィークルを置いてまで四つん這いになっている。プライドを捨ててまでやっている仲間を前面に立たせる訳にはいかぬと、覚悟を決めたのであった。
『さらばだ諸君。このデータは持ち替えられていただく。ステイツの正義のためにな!』
 スミス氏は黒い鞄を抱えると、コンピューターからUSBを引き抜いて走り出した。
 どうやらダウンロード中のデータを少しでも回収しようとしたのだろう。
 だが、その動きが余計な隙を与えてしまった。もし普通に逃げて居たらこうまで余裕はなかっただろう。
「なん・でや・ねーん!」
『ぐああ!?』
 モカはそこへ飛び込むと、全力でツッコミを入れた。
 ビシ! と手の平で相手の胸を打ち、懐に入れたUSBを破壊。
 そのまま彼に強烈な打撃を加えたのだ。
『馬鹿め。その程度の動きは予測済みだ。そう、このデータは囮。あれば良い程度に過ぎぬ』
(「予定通りはこちらもなのよね。……あとはおまかせ。よろしくおねがいします! ていうか、わたしを踏み台にした!?」)
 スミス氏は高くジャンプしつつ、足元に居たモカを踏み台にして更なるジャンプを行っていった。だが、エイルには気がついて居なかったのだろう。周囲に更なる怪異をバラまくことは無かったのである。
「その思い。受け取ったぜ! さっきのツッコミ、すごくよかったよ!」
『なにぃ!?』
 ここでエイルが飛び出してスミス氏の資料越しに攻撃を掛けた。
 隠密行動中ゆえに威力はそれほどでもなかったが、目標が資料であり、既に傷ついたスミス氏であれば問題ない。
『くそ。何という失態だ。研究室に戻ってもう一度資料を? いや、危険だ。仕方がない。私が記憶しているデータだけでも……』
 スミス氏は最後の力で怪異を使い、エイルたちを攻撃しながら脱出を図った。
 人間は記憶力があり、持てる限りの情報を持ち帰ろうとしたのだ。
 だがしかし、それこそが隙であったと言えるだろう。
「なん・でや・ねーん! リターンズ!」
『そんなばかなあ!』
 モカは痛む手を用い、二度目のツッコミを掛けた。
 何という事だろう、その犠牲は忘れない。スミス氏はまるでコントの様に飛んでいったという事である。
「かなりのダメージだったな! それなのにもう一度戦うなんてすげーや! ねえちゃん、痛いんだろ? 俺のバイクに乗ってけよ!」
「ははは。憧れのシチュではあるけどね……」
 そして最後にエイルがトドメを刺し、魔導バイクにモカを乗せて病院へ治療に向かったという事である。

 こうして間守村に存在した怪異の封印は守られた。
 分家が勝手をしたことで本家も気を付けるであろう。

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