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うつつのぬれぎぬ

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モルドレッド・アーサー

 「偉竜の一族」と呼ばれる竜の一族がいた。
 皆、いつの時代・どこかの世界で語られた伝承の人物の名前を名乗ることが慣習となっている独特な文化のある一族だ。
 その一族はそれぞれ特定の属性に干渉する力を持ち、それが二つ名になるのだという。例えば風に干渉する竜ならば「風竜」と呼ばれるように。
 そんな一族の長の次男として生を受けたモルドレッドは炎と氷を操ることができた。
 今まで二つの属性に干渉できる者がいなかったことから周りは彼に強い敬意を示したが、当の本人は「熱」という一つの事象にしか干渉していないので敬意を示される意味が解らなかった。
 最初は興奮する年長者を見るたびに、自分は一つの属性にしか干渉してないことを伝えていた。しかし「熱」という物に対する知識が気薄だったのか、謙遜でモルドレッドが誤魔化そうとしているのだと決めつけたのか、本気で受け止められることは無く、「炎と氷を操る天才」だともてはやした。
 どれだけ言っても収まるどころか過熱していく状況に、モルドレッドは説得するのを諦めて放置することにした。……そんな様を面白く思わない者は当然いた。
「長男である自分が何ひとつ干渉できないのは、自分が得るはずだった力をあの男が簒奪したからだ」
 モルドレッドの双子の兄として生まれた彼は干渉する属性を持たず、一族の物から「早く生まれただけ」と蔑まれ続けていた。
 そのコンプレックスによって非常に傲慢で短絡的な性格に至った彼は「オレサマが何の干渉の力が無いのはコイツがオレサマの分も奪ったからだ」という理不尽極まりない言い分を構築し、公の場に訴えるまでに至った。
 起き抜けに裁判の場に叩き出されたモルドレッドは理路整然と自分は二つの属性に干渉することは出来ないこと、そもそも偉竜の一族全てが属性に干渉できるわけではないことを実際の例を交えながら説明する。
「うるせぇ、それは全部テメェだけの認識だし、よそはよそうちはうちだろう! オレサマの炎か氷の属性を奪って、それを誤魔化すために『熱』なんてよく分からねぇ存在をどっかから見つけて言い張ってるだけだろう!」
「よく分からない存在ではない。物理学でちゃんと研究がなされている分野だし、旅の商人に今度その学術書を仕入れてもらう様に頼んだ。我々一族がそういう存在に疎くて知らないだけで、兄上にもそういう類の属性が対象なのかもしれない。そこを組み解かずに他者に押し付けるのはいささか短絡すぎやしないだろうか」
 感情的で独りよがりで行き当たりばったりな兄の訴えと、冷静に淡々と紡がれる弟の反論。どちらの方が信憑性が感じられるかは聴衆からは明らかだった。
「モルドレッド・アーサー、貴様をガノ・シャルルマーニュの干渉の簒奪の罪で廃嫡とした上、竜の姿を取り上げ罪人の谷に落とすこととする」
 しかし判決を下す一族の長―――モルドレッドの父親は兄の意見を支持した。
「父上!?」
 父親は納得できず詰め寄ったモルドレッドの体を、鉱物に干渉する自らの力を使って拘束する。
 「出来の悪い子ほど可愛い」と何だかんだで兄に甘く、長男思想があり、元よりモルドレッドの力に警戒心を抱いていた父は今回の穴だらけの主張に乗っかって排除に動いたのだ。
「廃嫡と言っただろう、貴様はもうワシの息子ではない。……連れていけ!」
 這いつくばるモルドレッドを取り押さえた者によって「何か」が行われると同時にモルドレッドの体から力が抜けていく。
 正しさよりも自らの地位を守ることと長男を優先した父親と思った通りに事が進んだことに嬉々とする兄、そして長い物には巻かれようと掌を返して罵声を浴びせかける者達の視線を一身に浴びせかけられ混乱するモルドレッドは部屋から引きずり出され、雪解けの水によって増水した川が流れる谷に突き落とされた。
 ――そこで、モルドレッドは目を覚ました。
 汗でじっとりと湿った寝巻きが体に張り付いているのを感じながら、荒い息を落ちつけさせる。
「……嫌な、夢だったな」
 義娘が「これ最近ギルドで流行ってるんだ」と持ってきた「追放物」と呼ばれるジャンルの小説を就寝前に読んだせいか……とモルドレッドは独り言つ。
 竜の時代の記憶はない。だから今見た夢で映っていた自分の姿は終ぞ人の姿だったし、あの裁判が実際に行われた物であるかどうかの確証もない。
 ただ、人の身に堕とされたことへの怒りだけは覚えている。あの人と出会うまで、自分はその怒りに狂わされながら人の身としての生を足掻いていたから。
 「追放物」の主人公は多少の差異はあるものの冤罪が晴れ、元の地位を取り戻すかどうかの選択に迫られることが多いという。
 もし竜としての姿を、記憶を取り戻した時……自分はどうすべきなのだろうか。
「……くだらないな」
 モルドレッドは首を横に軽く振ると、朝餉の準備をするためにやかんの中の水を煮立たせた。

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