脅威!機械メシ!!人類をゲキヤバ料理から救え!!!
「ア、アイエエエエ!?!?!?!」
眠りから覚めて、男は異様な状況に気付き困惑した!!
√ウォーゾーンの兵士である彼は、都市を巡回していたはずだ。
それが、なぜか彼は椅子に縛り付けられていた!!
「な、何だこれ!?」
「ワカンナイ! コワイ!!」
困惑している他人の声を聞き、横を見ればそこには人影が複数!!
年齢と性別に偏りはない! 彼と同様、彼ら彼女らも同じように拘束されている!
「これは……スシ・カウンターだ!!」
「し、知っているのか爺さん!?」
「うむ、√ウォーゾーンに戦闘機械群が現れた1998年以前にあった、飲食店じゃ……!」
鮮魚を食うには燃料・漁船・漁港・運輸と言った資源や施設が必要だ。
しかし、√ウォーゾーンでそれらを兼ね備えられる場所は限定的すぎる。
物心ついたのが戦争開始時よりも後である若手には、知る由さえない。
「あら、お詳しいですわ~」
「説明の手間が省けて助かりますわ~」
状況に似つかわしくない、おっとりとした声!!
スシ・カウンターを挟んだ向こう側に、メイドたちが登場したのである!
「というわけで人類の皆様こんばんわ。お食事の時間ですわよ~」
「皆様の敵、戦闘機械群のメイドロボがご提供いたしますわ~」
パニックの声が響き渡る! しかし拘束された人々は逃げることができない!
おお、ジーザス! ブッダよ、寝ているのですか!?
「ご安心ください。今回のわたくしたちは皆様の命を取るつもりはございません!」
「人間の食文化に、我々は|完全機械《インテグラル・アニムス》化の可能性を見ましたわ~」
「その成果を試すために、皆様に食事を提供しようとしているだけなのですわ~」
何を言ってるんだコイツラは、とそこにいた全員が思った。
√ウォーゾーン人類の大半は、襲われているから戦っているだけである。
戦闘機械群の行動目的が人類の殲滅ではなく、完全機械に至ることだとか。
そのためのモルモットと人類が見做されているとは知らない者も多いのだ。
「というわけで、まず一品目は、鉛のお寿司でございますわ~」
「アイエエエエ!?!?!?」
「ヤメロー!? ヤメロー!!」
つまり、今起きていることは、まさしく人体実験なのである!!
初手から明らかに人間の食い物ではないものを持ち出してきた!!
見た目は鈍色に光る魚だが、鉛と断言してるものは流石に無理だ!!
「あらあら、これが人間さんの好き嫌いというやつなのでしょうか?」
「まぁまぁ、識別名Aさん。食事には選択の自由があるらしいですから」
「そうなのですか、識別名Bさん? 仕方ありません、では次のお品を出しますか」
毒物を食わせられかける事態を避けれたことに、一同は一瞬安堵した。
「では、こちら! 300℃の油で作った、鉄の唐揚げです!!」
「ウワーッ!! タスケテー!!」
「オカアサーーーーーーン!!!」
「だから皆様、なぜ嫌がるんです!? 冷えてませんよ! アツアツです!!」
「選択の自由に拒否権は含まれません! お口を開けさせていただきます!!」
「ヤダーーーーッ!!!!」
●
「という予知がありました。この地獄絵図の発生を皆様食い止めてください」
何だよその事件……という困惑を呼ぶ内容を、淡々と星読みは語った。
星読みの名前は、|彼岸花《ひがんばな》・|此方《こなた》(h04470)と言う。
彼女は√ウォーゾーンで食糧供給を行なう、特殊飛行船の船長でもある。
彼女が今回依頼地点として示したのは、ここ最近に発見された居住可能区域だ。
最前線ではないが、人類の生存域としては端に当たる場所。
新たな調査拠点や橋頭堡として期待されるそこには、人が集まり活気があるという。
「こちらの区域全体で、まず異臭騒ぎが発生します。
この異臭は催眠ガスでして、吸って昏倒した住民が拉致される流れになるようです」
だいぶ|治安の悪い《ろくでもない》話が流れてきた!!
どうも拉致を担当するのもメイドロボたちらしく、絵面がだいぶ特殊すぎる。
今回の作戦、変な絵面しか発生しないんじゃないですか??
「予知によると、メイドロボたちは状況に関わらず|定刻《・・》に出現します。
ですので、催眠ガスを垂れ流しにしておく必要はありません。
むしろ、放置すると人質の発生に繋がりかねませんので、対処をお願いします」
第1章 冒険 『立ちこめる異臭騒ぎ』

この区域には|天蓋大聖堂《カテドラル》がない。
それゆえに天を覆う大地はなく、機械都市の上空は青一色だ。
「こんな日に催眠ガスで拉致事件が起きるとか、なんだかな……」
手で陽を遮りながら、√ウォーゾーンの現地民とほぼ格好の青年が零した。
その名を、クラウス・イーザリー(希望を忘れた兵士・h05015)と言う。
「ようやく陽気になってきたのに、勘弁して欲しいアル」
クラウスにそう返したのは、東洋風の衣装に身を包んだ別の青年。
その名を、|解《カイ》・|有明《ユウメイ》(|風雲彩蟹《ふううんさいかい》・h06623)と言う。
√ウォーゾーンには珍しい服装が、先程まで通行人の目を引いていた。
そう、先程まで。
今彼らがいるのは路地裏だ。人は少なく、目立ちにくい。
ここに来たのは、お互いに調査用の√能力を展開するためである。
「上空から確認。……今のところは、異常無しだ」
まずクラウスが、レギオンスウォームを展開した。
煙のようなものは漂っておらず、人通りが多い場所にも異常はない。
「ちょっとそこらの死霊の方〜、出てきてお話聞かせてほしいアル〜」
次に有明が、ゴーストトークを行使した。
降霊の祈りによって、インビジブルたちに姿が与えられる。
深海魚は人の姿、生前のそれへと戻っていく。
「怪しい動きをしてるメイドさんとか、変なものとか見なかったアル?」
『むしろこう……メイド、|最近見ない《・・・・・》なって……』
「「は???」」
意味不明な発言に、2人は揃って困惑した。
「最近見ないって……前は沢山いたのか?」
『そうそう。というか、ここ、大勢のメイドが建築してたから……』
「作ってたって、え? ビルを……?」
『いや、更地になんかデッカイの埋めて、建物全部……』
メイドが??? 都市開発を????
あと、デッカいのってなんだよ!?!?!?
「予知の時点でもだいぶアレだったのに、また|混沌《カオス》アル……!!!」
「ここ、もしかして区域全体が、人を集めるための罠なのか……?」
困惑する有明と、考察するクラウス。
その2人の反応を知ってか知らずか、突如、ガコン、と音がした。
……マンホールが持ち上がって、巨大な円筒が顔を出している!
プシュウ、という排気音に、クラウスは|早撃ち《クイックドロウ》で反応した!
「おぉー、お見事アル!」
「どうも! ただ、ここ1箇所じゃ済まなさそうだ……!」
破損し、火花を上げる円筒は無害化されたようだ。
しかし、空を見れば、白い煙が何本か立ち昇っている。
「手分けしよう。こっちはレギオンで詳細が調べやすいから、避難と救助優先」
「空見て方向は分かるから、こっちはガス装置の破壊優先するアル」
頷き合い、彼らは二手に分かれた。
クラウスはバイクに乗って。
有明は大蟹の怪異、瑠巨背を召喚し、搭乗して。
……どうにも、長い1日が始まりそうだった。
小鳥たちが、空を飛んでいる。
それは、√ウォーゾーンにおいては希少なことである。
戦闘機械群の作る町に自然はほぼない。
植物は長期的には、人工物を飲み込み破壊するものだからだ。
植物がなければ穀物も虫もおらず、それらを啄む鳥もまた消える。
では、この鳥は何なのか?
「うむ、良く見つけた。良い子らだ」
黒い鳥たちの何匹かが、老紳士の肩に留まっていた。
優美さを感じるスーツと、内側が赤いマントを纏った黒い男。
その名を、|眞継《まつぐ》・|正信《まさのぶ》(吸血鬼のゴーストトーカー・h05257)という。
「霊障を耐えているか。流石は√ウォーゾーン製と言うべきか」
薄暗い路地には、催眠ガスを噴き出そうとする円筒が姿を見せている。
しかし、ガスは放たれていない。
……黒い鳥たち、|クロウタドリ《メリル》が、その円筒に触れているからだ。
彼らの正体はただの鳥ではない。吸血鬼である正信の眷属、死霊である。
その彼らの霊障に、円筒は抗うように基板から光を点滅させていた。
「……とはいえ、|√能力者《私》に勝てるほどではないな」
政信が円筒に触れ、魔力を瞬間的に浸食させる。
わずかな抵抗を流し潰す感触と同時に、光が沈黙する。
「よし、次だ」
正信の言葉に、クロウタドリが羽ばたいて方向を示す。
ガス放出を封じられていた円筒たちが、こうして順次無力化されていく。
順調そうな手際だったが、ここで予期せぬ事態があった。
「さて、次……む??」
近隣でガスの煙が再び上がっている。
クロウタドリの封が解けたのか? なぜだ?
政信が足早に向かった先には、一般人の兵士たちが倒れていた。
「……ふむ、自力で対処を行おうとして、失敗したかな?」
あわあわと羽ばたくクロウタドリたち。
彼らはおそらくは兵士たちに、邪魔だと退かされてしまったのだろう。
しかし、それは円筒の機能を正常化させる悪手だったわけだ。
まずは救助をせねばなるまい、と正信が考え始めた直後。
――壁の割れ目から、奇怪な生命体がぬるりと現れた。
「縺ゅ?魑・縺輔s驕斐↑繧薙□繧阪≧?
縺セ縺∵ゥ滓「ー縺倥c縺ェ縺?@謾セ鄂ョ縺ァ濶ッ縺?o縺ュ?」
謎の音声を発しながら円筒へと近寄るその姿をなんと例えよう。
……あえて一言で言えば、この星の生命体とは思えない姿をしていた。
水色の蛸足が這いずり、橙色の連なった光点が点滅する。
慌てて飛び去ったクロウタドリを、頭部と思しき場所から生えた角が追っていた。
「縺ゅ?魑・縺輔s驕斐?縺ェ繧薙□繧阪≧
縺セ縺∵ゥ滓「ー縺倥c縺ェ縺?@縲∵叛鄂ョ縺励∪縺励g縺」
クロウタドリから興味を失ったのか、その異形は円筒に近づく。
ガスを放つ円筒にのしかかったそれは、ゴリッと音を鳴らした。
「荳ュ縺ョ窶懊¥縺輔>窶昴?縲√?弱Ρ繧ソ繧キ縲上′蜈ィ驛ィ窶補?輔?縺上?縺上?∝精縺?セシ縺ソ閼ア閾ュ縺」?」
……しばし、咀嚼が続いた後に。
異形は梅干しの種を吐くように、折れた円筒を放り出す。
ガスを全て吸い尽くしたのだろうか、漏れ出す煙はない。
次いで、倒れて伏している兵士たちへと生命体は近づいてゆき。
「そこの……|お嬢さん《・・・・》で大丈夫かな?
すまないが私の分かる言葉で、会話をしてはくれないかね」
状況を見守っていた正信は、そこで初めて口を開いた。
クロウタドリが逃げるのを、追いかけようとはしていなかった。
それゆえに、敵対を一旦保留して、観察していたのである。
「濶ッ縺?o繧茨シ ――えーっと、はい、準備OKよ!」
正信が瞬きをした瞬間に、異形は眼の前から消えていた。
代わりにその場に居たのは、水色の服を着た金髪の少女。
彼女は、|アリス・グラブズ《繧ウ繝溘Η繝九こ繝シ繧キ繝ァ繝ウ繝?ヰ繧、繧ケ $B%"%j%9(B》(平凡な自称妖怪(自己改変中)・h03259)である。
「どうしてワタシが女の子って分かったの? 不思議!」
「ふふ、98年も生きていると直感が働くからね、年の功だよ」
実のところ適当に返しながら、正信は記憶を思い返す。
星詠みの説明を受けていた時に、確か彼女の後ろ姿を見たな、と。
そして背後に、異形のときと同じ蛸足が見えていたな、と。
今思い出したが、きっと無意識に|覚えて《見切って》いたのだろう。
うむ、そういうことにしておこう、と正信はひとり頷いた。
最初、犬型死霊のOrgeを召喚しようとしていたことは内緒である。
「そこで倒れている兵士のほうに行こうとしていたが、なぜかね?」
「あっ、そうそう。ガスのクサさを吸い取ってあげようとしたのよ!」
こーんなふうに! と言うが早いが、アリスは分体を兵士にポイ。
ヌメヌメした分体が兵士の身体に覆い被る。
うごうご、ぐねぐね、穏やかながら奇妙な動き。
「これは、一体……?」
「添い寝っ♪」
そうかぁ、何も言わないと捕食シーンにしか見えないなぁ。
ガスを吸い取るというのは、救助の一種なんだろうけれどもなぁ。
正信がその感想を胸に仕舞っているうちに、作業は終わったらしく。
アリスの分体たちは本体へと戻って同化していた。
……粘液塗れの兵士たちが痙攣していたのは、見なかったことにしよう。
「まだまだ、クサさを感じるわ! ワタシ次のところに行ってくるわね!」
「お互い頑張ろう。 ……あと、できれば独り言も日本語で言うのを勧めるよ」
「そういうもの? んー、頑張ってみるわ! ありがと、オジサマ!」
手を振り去っていく少女の姿を見送り、正信はふと思った。
勝手な偏見だが、彼女は機械メシを食べられるのではないかと。
「……私は普通の寿司が食べたいな。寿司は完全食だからな……」
その一言を漏らし、何を言っているんだ私は、と正信は頭を振った。
思ったよりも一連のあれこれで動揺している気がする。
現実逃避していた自身を省みて、落ち着かねば……と溜息を吐いた。
「アバ……アババー……?」
「私はどこ……ここは誰……」
「ふむ、兵士さんたちは……発言以外は大丈夫そうだな」
言動が変なのは寝起きだからだろう、と一般兵士たちに同情しつつ。
他の円筒の処理を優先すべきだなと、正信もまた移動し始めた。
メイドロボが登場するまで、まだ時間はあるが、完了までは遠い。
√ウォーゾーンは常在戦場の世界である。
完全な平和はない。日常を送る人々も常に武器を携行する。
そんな世界であるがゆえに、食糧は通常いつだって歓迎される。
「でも流石に、ミネラル摂取も限度ってものがあるのです」
そう呟いたのは、|森屋《もりや》・|巳琥《みこ》(人間(√ウォーゾーン)の量産型WZ「ウォズ」・h02210)だ。
人生史上、ここまで歓迎できない食事がここにあっただろうか。
いや、あれを食事と呼ぶのは、何かしらの冒涜に値すると思う。
さて、巳琥がまず行ったのは、避難要請の実施だった。
まだガス騒動は発令されておらず、命令系統から降りてきた話でもない。
しかし、√ウォーゾーンの人々はその怪しげな話を、一切疑わずに動き始めた。
「はい、対ガス装備の用意、こちらにあるのですよ!」
√ウォーゾーンの人々は、6歳の子供である巳琥を疑わずに行動した。
巳琥自身が率先し、支援活動を行うこともその信用には寄与しているだろう。
だが、その根本にあるのは、√ウォーゾーンの人々の善性である。
危機が日常と地続きの世界だからこそ、彼らは同胞の真摯さを信じるのだ。
「そこのWZ! こちらの支援は十分だ、活動に戻ってくれ!」
「わかりました! 協力感謝なのです!」
挨拶もそこそこに、WZの機動を開始する。
モニターで後方を見れば、兵士たちの敬礼が見えた。
それに少し微笑みながら、巳琥は機体を加速し、白煙の上がる方向へと|奔《はし》った。
●
ここまでであればシリアスな、しかし、人間の温かみを感じる良い話である。
……しかし!! ここからは胡乱の時間である!!
「行動の成功を祈願して、三三七拍子ィィー!!!!」
「えっ、何!? 何の何!?」
唐突に叫びだした男のエントリーだ!!
「「「「押忍!!!」」」」
「えっ、誰!? どこから出てきたの!?!?」
その男たちも、唐突に現れた!!
避難民たちの横や背中に立つように、唐突に現れた学ラン姿!!
明らかに|世界観《キャラデザイン》が違う、男臭い応援団員、百人単位!!!
「驚かせてすまんな、避難者の方々よ。すぐに立ち去るので安心してほしい!」
「えっあっはい。……いや、あんたら一体何なんだ!?」
「ワシが剛拳番長、|轟《とどろき》・|豪太郎《ごうたろう》である!!』(h06191)
鎖の装飾が付いた学ランをパツパツにする鍛え上げられた筋肉!
避難所においても、堂々と迫力ある奇妙なスタンディングポーズ!!
切れ込みの入った学生帽を冠った、眼光鋭い巨漢がそこに居た!!
●
√能力、番長応援歌。
それは応援歌を聞いた者の傍らに、応援団員を召喚するものである!
その後にも能力説明は続くが、今回に限っては必要ない!!
「番長! 怪しい装置を見つけたぜーっ!!」
「でかした!!!」
今必要なのは人海戦術! |頭数《あたまかず》こそが正義!!
というわけで彼らは無事にガス発生装置を発見した!
ちなみに時系列が少しだけ前なので、まだ他のガス装置は動いていない!
「が、ガスが湧き始めたぞー!!?」
まさに今、時系列が揃って、ガスが噴出し始めた!!
運の悪いことに避難所に近い! 早急に対処せねばならない!!
「ど、どうする番長!? 俺等はともかく、避難所は|拙《マズ》いぜ!!」
「……これより、|臥酸取意瓶足《がすすいびんた》行軍を行なう!!」
「が、|臥酸取意瓶足《がすすいびんた》行軍!? あの歴史の闇に消えた……!?」
「知っているのか、団員!!」
豪太郎の宣言に対して解説が 『ちょっとちょっと!?』 キャンセルされた!
慌てた声を上げたのは、巳琥……と同じ姿をしたアンドロイド的存在!
巳琥の√能力、|蜃気楼の分隊《ミラージュ・スカッド》で指揮された素体だ!
なお、今話しているのは、ドローン中継で通話している本人である!
『発音でなんとなく分かりましたがマズくないですか!?」
「大丈夫だ、予知では拉致されたものは無事だった。ガスは無毒だ!」
『……念の為、どういう作戦か聞いても?」
「ガスを吸いきって寝る者、平手打ちで起こす者を順に切り替える!
これを繰り返してガスを無害化しながら、装置を無人地帯に運搬する作戦だ!」
『やっぱり脳筋戦術すぎる!?!?』
劇画調の|世界観《キャラデザイン》の人って、こういう感じなんですか!?
そんな誤解をしながらも、巳琥はガス装置を銃撃し、破壊!!
『この機械は、壊せばガスが止まるタイプです! 吸収は不要ですよ!』
「そうか! ならば話は早い!! お前たち、数人組で手分けするぞ!」
「|雄々《おお》ーーーっ!!!!」
応援団たちは各所に散らばってゆく!!
白煙が立ち昇っているから、彼らが迷うことも無いだろう!!
『えっ、みなさん、ガスマスク持ってないですよね!?』
「吸わなくてもいいのは分かったが、叩き起こす作戦はまだ有用だ!!」
『や、ヤバいのです、この人たち……!』
巳琥はシンプルに引いた。
「ちなみにだが、そちらはどういう行動をしているのだ?」
『え、救助者を探しつつガス装置破壊ですけど……』
「よし、ではわしと一緒に来てくれると助かる!」
言うが早いが、豪太郎は巳琥の分体を担ぎ上げる!
『えっ、えっ!?』
「わしが気絶したら、殴り起こしてくれると助かる!!」
『な、殴る係なんですか、私!?』
「いざゆくぞ、|白毫號《ビャクゴウゴウ》!!」
「ヒヒィーン!!!!」
『どこから出てきたんですか、この馬!?!?』
巳琥は慌てて素体との中継ドローン1機に、豪太郎を追わせる。
白馬の駆け抜ける空間には、ガス装置が破壊される音。
そして、ビンタの音がそこかしこで鳴り響いていた!!
√ウォーゾーンの人々を狙う、胡乱な料理を出すメイドロボ。
星詠みの予知によれば、彼女たちが現れるのは定刻であるという。
ゆえに、危険な拙速に走るよりも、確実に安全に行くのも良さそうだ!
「というわけで、ガスを吹き飛ばしていきましょう」
スミカ・スカーフ(FNSCARの|少女人形《レプリノイド》・h00964)はそう言って。
今まさに√能力、クラフト・アンド・デストロイで組み上げた送風機を起動した!
風速およそ15m/s。 それは、弱い台風に迫る勢いだ!
この区域には存在しないが、樹木があれば幹まで揺れることだろう!
それは円筒のガス装置が放つ煙を、一瞬で完全に押し流した!
「目論見通りに動いていますね。では……!」
完全武装の現代戦装備を身に着けた彼女は。
アサルトライフル、SCAR-H 435を構えてガス装置を狙撃!
実弾は風で軌道が揺らぐかと考え、アタッチメントは|光線《レーザー》仕様。
その判断は正しく、直線を保った的確な射撃が円筒を射抜く!
「通信で他の方々から共有を受けた通りですね!」
曰く、破壊すればガスは勝手に止まる。
簡単なのは良いことだ。変に複雑だったら大変なところである。
数が多いようではあるが、1撃でも壊せるなら問題もなさそうだ。
送風機のキャスターを転がしながら、スミカは活動を開始した!
●
「食事とは、命を頂き、皆を笑顔にする……そんなモノであるべきです!」
そう宣言したのは|品問《しなと》・|吟《ぎん》(見習い尼僧兵期待のルーキー・h06868)。
卒塔婆を持って路地を駆け抜ける、由緒正しき尼僧少女である!
「わかるわ! 美味しくないだけなら仕方ないけど、死んじゃうものはダメよね!」
吟に応えたのは、黒いスカート軍服に赤褐色のマントを羽織った少女。
その名を、|クーベルメ《Kuhblume》・|レーヴェ《Loewe》(余燼の魔女・h05998)。
VII号戦車の|少女人形《レプリロイド》である。
「無理強いし、害となるものを提供する悪事!見過ごすわけにはいきません!」
「そうだそうだー! 私のミックスナッツじゃあるまいし!」
「なんですかそれ? 名前は美味しそうですけど」
「手榴弾の詰め合わせ」
「怖っ!? あーでも、鉄の唐揚げってそういう枠ですよ実際! 危ない!!」
そんな掛け合いをしながら彼女たちが向かった先は、当然ガスの発生装置。
白煙を分かりやすく上げるそれらがある方角は、非常に分かりやすい!
……しかし! ここで問題が発生する!
「……どこにあるんですか、ガス装置!?」
吟の困惑した発言が、まさにその問題そのものである!
煙の多くは上方向に向かっているが、辺りは煙だらけなのだ!
見えない! そして催眠ガスなので、近づき難い!!
「他の皆さんって、どうやって探してるんですか……!?」
今までの事例を挙げてみよう!
ガスマスクを付けて捜索していたり。
霊障で機械自体を止めていたり、匂いを辿ってもぐもぐしていたり。
あと、ビンタでお互いを起こし合う肉体言語で探していたり。
……力技が数例ある気がするが、意外とちゃんとしているようだ!
「ふっふっふ……! 安心して、吟ちゃん! 私のほうで準備してたわ!!」
クーベルメがえっへんと胸を張ると、後方から12体の影!
それらは、クーベルメのバックアップ素体達!|少女分体《レプリノイド・スクワッド》!
「おぉ!クーベルメさんがいっぱいですね!」
「というわけで、みんなガスの中に突撃して探してきてね!
わたしたち人形なんだし、ガスで昏倒はしないと思うわ!」
「「「「おーっ」」」」
「……なんか、クーベルメさん本体よりも気が抜けた感じしてません?」
「仕様よ! なんでか分かんないけど、ちょっとぼんやりさんよね!」
ちょっと気の抜けた声での応答だったが、分体たちが煙に向かう!
頑張ってね~と、クーベルメ本体と2人が吟が言ったそのとき!
台風じみた勢いの風速で、正面から煙が押し寄せる!!
「「「「ぬわーっ」」」」
「うわーっ!? な、何なの!?」
「クーベルメさん、こっち! 横道あります!!」
分体以外の2人は無事退避!
しかし、分体達は完全に密度の高い煙に直撃した形である!!
「あっ……! すみません皆さん、大丈夫ですか!?」
煙が風で流されたあとに現れたのは……送風機を止めたスミカだった!
ぼんやりと立ち尽くしていたクーベルメの分体はスミカの方を向き。
「「「ドーモ、お仲間=サン。クーベルメです」」」
なんか予知で聞き覚えのある口調でアイサツを始めた!!!
「アイエエエ! 忍●語!? ●殺語ナンデ!?!?」
「えっ!? おかしくない!? ガスって|レプリノイド《私たち》にも効くの!?」
「いや、えっと、スミカさんでしたっけ? あなたの口調も変になってますよ!?」
「あ、これは礼儀としてやってるだけなので大丈夫です」
「この不思議な喋り方で喋るのって、礼儀なんですか!?」
言語野がちゃんとしている3人は、混沌とした会話を渦巻かせ!
言語野がダメな分体たちは、ポコポコと壊れたガス円筒を叩いている!!
ゴウランガ! なんだこの胡乱な空間は!?
●
「うーん、送風機、煙を晴らす効果は良いんですけれども……」
「ガスの暴風っぽいのが、短時間とは言え出来ちゃうのは確かに難点かも?」
「いやでも、卒塔婆で安全に殴りに行けるのは便利ですよ、結構ガンガン壊せてますし!」
色々とトラブルはあったが、3+12人は適切に送風機を運用!
巻き添えがまた起きないかという心配はあったが、あの後に被害はない。
他の√能力者による活動で、一般人にガスマスクの配布と避難がなされていたからだ!
√能力者たちは単独でも強いが、連携することで更に強くなる。
あらためてその事実を認識しながら、ガス装置の円筒を次々破壊していった!
「おふたりとも! 煙が上がってるところ、多分次が最後の一つです!」
「送風機の充電、ちょうど後1回で無くなりそうです。保ってよかったです」
「他の人達も頑張ってる感じね! これで心置きなく、メイド戦に行けそうだわ!」
そうして、最後のガス装置に送風機を向けたその時!
「さ~て、人間さんたちをスシ・カウンターにご招待ですわ~」
「「「あっ」」」
「あら~?」
ガスの暴風が、今まさに登場したメイドロボに直撃!!!
一応忘れないうちにガス装置を破壊し、3+12人は煙が立ち込める先を見る!
けほけほと言いながらメイドロボは現れ、お辞儀をする!
「……ドーモ、邪魔者=サン。メイドロボですわ~」
「「「このガス、|戦闘機械群《あなたたち》にも効くんですか!?!?」」」
このガス、性能おかしいよ!? 流石に機械は眠らないようだけど!!
ツッコミながら、3+12人は一斉攻撃!! 撃破数:1体!!!
とりあえず容赦なく撃破したが、メイドロボは集団敵である。
定刻が訪れたと、彼女たちは通信回線で、仲間たち全員へと情報を共有する。
……さぁ、これからこそが戦いの本番である!!!
第2章 集団戦 『メイドロボ『DSW233系1000番台』』

戦闘機械都市。
闘技場として有名なこの風景の特徴は、ほぼ同じ建物が立ち並ぶことだ。
その様は壮観ではあるが、はっきり言ってしまえば迷子になりやすい。
なので√ウォーゾーンに住む人々は、グラフィティ描いたり外装を加工したり。
そういった工夫によって、現在地を分かるように街を加工していたりする。
そんなよくある路地の壁面から、
「シャバですわ~」
「シャバダバですわ~」
「久しぶりの日照環境、別にあんまり心地よくないですわね~」
メイドロボたちが勢いよくエントリーした!
言葉はほんわかとした感じだが、その勢いは強烈である!!
彼女たちは隠し通路からコンクリートを割って飛び出してきたのだ!
飛び散る石片が路上に散らばり、ガンガンと地面に当たる。
その一つにより……ガス円筒が偶然起動!!
動作不良で地面に出ていなかった、最後のガス装置を起動させた!
「グワーッ、ガス直撃!! まだ放出が終わってないナンデ!?」
「担当者、照会……識別名C=サン! 弁明シロッオラー!!」
「グエー名指しンゴ!! 許してクレメンス!!」
「そもそも言語が変わるの、ナンデ?おかしいと思いませんか?あなた」
ガスが直撃したメイドロボたちの発言が、一気に変化!
なんか詰められてる一人だけ言語が違うが気にしてはいけない!!
「囲んで棒で叩くぞッオラ~!! ケジメすっかオラ~ッ!」
「メイドのおしおきはチャメシ・インシデントですわよっオラ~ッ!!」
「おかしい。こんなことは許されないですわ~!」
「ちゃっかり語録使ってる余裕! ムラハチせざるを得ませんわ~!」
ほんわかデザインのメイドロボが、失敗した一味を吊し上げている!!
おお、ナムサン! なんたるマッポー光景か!
「ひ、ひえぇ~!?」
その光景を見て、一般人兵士が接敵通信を入れながら逃げ出した!
「ン? 今の声はわたくしたちではないですわね?」
「あそこですわ~! |モータル《にんげん》が逃げておりますわよ~!」
「……アレ? なんでモータルが普通に起きてるんですの??」
首を傾げるメイドロボたち。
その答えに彼女たちが気付くより先に、音が近づいてくる。
バイクやバーニア、騎乗生物や、自前の足で走る音。
……新たに立ち昇った白煙の元に、|√能力者《あなた》たちは到着した!
「|√能力者《ニ●ジャ》!? |√能力者《●ンジャ》ナンデ!?」
「星詠みの予知ですわね!? ほんと厄介でヤンナルネですわ~!」
状況を理解し、メイドロボたちは戦闘態勢へと移行する!
彼女たちがスカートから優美に取り出したのは……料理だ!!
……料理だ?? えっ、どういうこと???
「|お仕事《戦闘》モード開始ですわ~! お食事の時間ですわよ~!!」
「攻撃も|食らえ《・・・》って言いますから、つまり料理の一種ですわ~!!」
「口がない方にも、ドタマかち割って詰め込ませていただきますわよ~!」
一般人を拉致してゆっくり|食事させる《拷問する》作戦は失敗だ。
ならば、|√能力者《あなた》たちに喰わせてしまえばいい!!
そうメイドロボたちは判断したらしい! はた迷惑すぎる!!
もしとっ捕まったら、アレ食わされるのか……!? という恐怖!
あるいは、物好きな期待を|√能力者《あなた》たちは感じながら。
さぁ、今まさに戦闘開始である……!!
「Wasshoi!!」
その叫びとともに、マンホールから遥か上方へと何かが飛び上がる!
√能力、先陣ロマンチカ。全ての能力を向上させる、爽やかな風。
それを纏って、空から一人の少女が降りてくる!
響き渡る剣閃!
少女の振るった黒いナイフによる、|アンブッシュ《奇襲攻撃》だ!!
メイドロボはそれを、トレイに盛った鉄の唐揚げで受け止める!
……鉄の唐揚げが幾つか、衝撃で地面へと転がった!!
「アバーッ!? フードロス!! なんてことを~!?」
「ドーモ、メイド=サン。ルビナ・ローゼスです!」
「アッハイ。ドーモ、ルビナ=サン。メイドロボDSW233系ですわ~」
現れた少女の名は、ルビナ・ローゼス(黒薔薇の吸血姫・h06457)!
黒薔薇のゴスロリドレスを着た10歳の少女である!
……ちょっとガスに言語野をやられている気がするが、大丈夫か!?
「催眠ガス対応には間に合わなかったけれど、飯テロを防ぎますわよ!」
大丈夫そうだった! 毒耐性があるからだろうか?
奥ゆかしいアイサツを交わした後、メイドロボがふむ、と首を傾げた。
「これはテロではありませんわよ~? お食事提供してるだけですわ~」
「拷問なんですわよそれは! 鉛や鉄を人間が食べられる訳ないですわ!」
「あらあら、有機生物の方。|諦めない《・・・・》、こそ貴方がたの専売特許では~?」
「|言わせてる《・・・・・》側がよく言いますわね!! 出直してきなさい!」
再び、ナイフと金属料理が弾ける音が鳴り始める!
メイドロボも、スカートから取り出した鎖でルビナの拘束を試みる!
「甘いですわよ!」
しかし、その鎖はルビナの身体をすり抜ける!
……いや、そうではない!
「幻影と残像ですわね~? やっかいですわ~」
「もっと気付き遅れて欲しいですわね……!」
回避の種は割られるが、しかし効果が消えるわけではない。
フェイントを織り交ぜ、ハチェットでの攻撃を絡めた2回攻撃を振るい。
技量比べはルビナに利があり、確実にメイドロボを圧倒していく!
「おおっと~ 1対1をさせると思いまして~?」
しかし、横から別のメイドロボがマシンガンを発射!
即座の判断でルビナは回避し、物陰へと隠れる!!
「良い連携ですわ~! わたくしも一緒に撃ちますわよ~」
「ちなみに、この銃、人類の食文化パワーで強化されていますわ~」
「なぜか弾の初速が2%アップした、鉛の枝豆をお喰らいまし~!」
どういう理屈なんですの、それ!?
そんなルビナのツッコミは数重の銃声に掻き消されて響かない!
多重の銃撃により遮蔽が削られていく! ナムサン!!
「さぁ、早くお食べになってくださいまし~!」
「無理矢理にでも食べていただきますわ~!」
「……そういう態度だから、誰もかれも嫌がるんだって何で分からない?」
ぽそりと呟かれたその言葉は、メイドたちには届かない。
――その代役として、一筋の紫電がメイドの脳天を貫いた!!
「アイエエエ!? 識別名A=サンがやられましたわ~!?」
「テーブルに着かず、狙撃とは卑劣ですわよ~!!」
「その料理を食べに来いって? 素直に嫌だね……!」
|薬莢《カートリッジ》を差し替えながら。
クラウス・イーズリーはそう零して、再びレーザーライフルを構える!
数十メートルほどの距離から離れる狙撃は一方的な蹂躙だ。
しかし、長距離銃撃は精度を出すことこそが最も困難なのである。
弾道計算による確実な着弾! それこそが、彼の技巧の証左である!!
「接敵! まずは接敵ですわよ~!!」
「遮蔽されあれば狙撃なんぞ恐れるに足らずですわ~!」
「いざ、食文化アタックですわ~!!」
しかし、敵もさるもの!
慌てながらも、メイドロボたちは瞬時に戦術を練り直す!
いかに意味不明な理論をぶち上げようとも、腐っても戦闘機械群!
√ウォーゾーンを蹂躙している機械たちは、伊達ではない!!
「相手のことも考えずなにが食文化アルカ!!」
「アバーッ!?」
「グワーッ!?」
だがしかし! そこに巨大な蟹のエントリーだ!!
建物を破壊して現れた数メートルの巨体は、暴の化身である!!
クラウスに近づこうとした、メイドロボたちは轢かれ、跳ねられる!!
「押し付けお断りアルヨ! やられる気分を味わうが良いアル!」
巨大な蟹、|瑠巨背《リューゴゼ》の背から青年の声!
その声と共に、フリーズしてしまったメイドに何かが叩きつけられる!
それは、|解《カイ》・|有明《ユウメイ》が振り回す殴り棺桶だ!
「バカナーッ!?!? ジャイロ装置がバグりますわ~!?」
「そのまま壊れてくれると嬉しいアルネ!」
鎖付きハンマーと化したその棺桶の中で、メイドロボは襲うは遠心力!
棺桶を振り回し続ける有明を乗せたまま、巨大な蟹、瑠巨背は走行!
棺桶の回転薙ぎだけでなく、蟹のハサミもメイドロボたちを襲う!!
「良い強襲だ……! 支援するよ!!」
クラウスはこに向けて、紫電を狙撃する!
それは攻撃ではなく、帯電を付与するための|支援活動《バッファー》!
「あら、わたくしにも来ましたわね、紫電! 助かりますわ!」
ルビナのナイフとハチェットが宙を舞い!
有明と瑠巨背の圧倒的な暴力が猛威を振るい!!
クラウスの狙撃が打ち漏らしを着実に屠っていく!!!
「ええい、どうにもなりませんわね……!」
幸運にも戦闘の中心部から逃れられたメイドロボがいた。
状況のリセットを図るべく、彼女は最終手段を図る!!
「メイド魅了攻撃を受けるといいですわよ~!!」
メイド魅了攻撃!!
それはメイドによる魅了空間を生み出す近接攻撃である!!
一体どのような描写が発生するんだ!?
お色気なのか!? セクシーなのか!? R指定なのか!?
「公共の場でそういうのは、俺良くないと思うよ……!!」
しかし、それに勘付いたクラウスの狙撃が無慈悲に命中!
主の昏倒とともにめくれ上がるメイドスカート!
しかし、クラウスはエネルギーバリアで自らの視界を隠した。
女性の秘密を暴いてはいけない、古事記にもそう書いてある。
事実かどうかはさておいて、クラウスは紳士さを貫ききったのだ……!
●
「よし、一旦片付いたアルネ……!」
有明は起き上がるメイドが居ないことを確認する。
別所から戦闘の音がまだ響いている。そちらに向かわねば。
「金属製の料理を人に食わせるとか、正気じゃないアル!」
ゆえに止めねばならない。
メイドロボは全て撃破しなければいけないのだ!
そう思い、巨大蟹の|瑠巨背《リューゴゼ》へと指示を出そうとして。
相棒が何か咀嚼しているのを、有明は見た。
「……リューゴゼ?」
蟹は喋らない。ゆえに返事を期待していたわけではない。
しかし、相棒の巨大蟹は一瞬動きを止めて。
仕方ないなぁという気配とともに、何かを有明へ差し出した。
……それは、メイドロボの出していた、鉄の唐揚げである!!
有明は言葉に詰まった。
お前、実はボケ側の世界の住人だったアルカ?
というか怪異とは言え、ヤバいの食うの良くないアルヨネ??
そうしたツッコミが幾つも脳内を過ぎり、
「……気持ちだけもらっておくアル」
しかし、有明は見なかったことにして、行き先を指示した。
この混沌とした感情は、メイドロボにぶつけるしかない……!!
敵に厳しく、相棒に優しく、そして己に自制心。
常識人への|苦難《ボケ倒し》は、未だ果てしなく続くのだ……!!
あらためて状況を再確認しよう。
まず、メイドロボの|お客様とのお食事会《一般人・拉致拷問》阻止に成功した!
これは|√能力者《あなた》たちの成果だ! ワザマエ!!
しかしメイドロボたちは、まだ諦めてはいなかった!
お客様は居なくなってしまったが、まだ料理は存在する。
フードロスは大問題であり、誰か1人にでもご馳走しなければ!
金属類の料理にフードロスもへったくれもないが、彼女らはそう考えた!
「そして、次の招待客は私達、ということか……」
|眞継《まつぐ》・|正信《まさのぶ》はそう呟いた。
落ち着き払っている彼は、しかし、まさに戦乱の真っ只中にいた!
暴雨のように放たれる、枝豆型弾頭のマシンガン!
そしてそれに応対するように放たれる、正信の√能力!!
それは、|闇翼乱撃《バティマン・ノクチュルヌ》!
影から生み出す、300匹の蝙蝠たちを撃ち放つ力である!!
「もぉ~! なぜ皆様方、素直にお食べになってくれないんですの~!?」
「食事の定義からまず覚えるべきかもしれないね、君たちは……」
1発の鉛枝豆と、1匹の蝙蝠が相討ちになる。
しかし、蝙蝠は影から生まれる存在であり、尽きず途絶えることがない!
対してメイドロボたちのマシンガンは弾倉の交換ごとにラグが生じる!!
すなわち、天秤は正信に傾きつつあった!!
「百羽の蝙蝠で倒せぬ相手ならば、三百羽の蝙蝠で倒せば良いのだよ」
「決め台詞言われてますわ~! 勝ち確の雰囲気ですわよ~!?」
「そうは問屋が卸しませんわ~! メイド魅了攻撃で逆転狙いですわよ~!」
また出た! メイド魅了攻撃!!
一体どんな攻撃なんだ! 何が起きるんだその攻撃は!!
「気にはなりますが、怪しい準備行動は潰すのが定石です! イヤーッ!!」
「グワーッ!? サヨナラ!!」
非実体の弾丸がメイドロボのジェネレーターを貫き、しめやかに誘爆!!
魅了攻撃を放とうとしていた彼女は、哀れ、爆発四散! ゴウランガ!!
「アイエエエ!? 識別名B=サンがヤラレましたわ~!」
「なんてこと! 一体誰ですの、今の攻撃やったのは!」
「ドーモ、メイドロボ=サン、スミカです!」
名乗りを挙げたのは、スミカ・スカーフである!!
奥ゆかしくオジギをした彼女は、すぐさま戦闘行動に戻る!
構えるは、|少女人形《レプリロイド》たる自身を象徴するアサルトライフル!
「マナバッテリーセット!!」
そしてその弾頭は|古代語魔法により生成した《セットマジック》、|接触拡散式純魔力弾《ザ・カラサワ》!
装填を確認し、スミカは正信とは別方向から射撃を再開!
それは理想的な|十字砲火《クロスファイア》となって、メイドロボたちを撃ち貫く!!
「ドーモ、スミカ=サン! 識別名B=サンの魅了攻撃潰し、卑怯ですわよ~!」
「|奇襲攻撃《アンブッシュ》に対応できないサンシタなのが悪いです!
そもそも詠唱でもない攻撃宣言は何?おかしいと思いませんか?あなた」
「グワーッ! |正論の暴力《ロジハラ=チャント》!! コワイ!!」
レスバに負けるメイドロボ!! 情けないぞ!!
このままレスバで押したら良い感じに動揺させられませんかね、とスミカは連撃!
「素人質問で恐縮ですが」
「ヒェッ! 死の宣告ですわ~!?」
「無機物や金属加工しても料理じゃなく工作では? 根本ズレてませんか?」
スミカは今回の事件の、本質的に変なところを突いた!
「えっ、人間さんも野菜で龍を彫刻したりしてますわよね?」
「トマト投げ合戦みたいな、食材攻撃の祭典もあるって聞きますわよ~?」
「えっ、この流れで反論されるんです?」
しかし、思わぬ反論!
ただ、なんかそういう話じゃなくない? という感じも凄い!
極端なことやってるやつが、発言まで極端なせいで場が混沌としてきたぞ!
「そもそもわたくしたち、|イタマエ《・・・・》の作ったもの出してるだけですわ~」
「責任者ではないので、問答には回答いたしかねますわ~」
「えっ……この金属料理、あなたたちが作ってるわけじゃないんですか!?」
なんか思わぬところでまた秘匿情報っぽいのが漏れた気がするぞ!
でも聞いたところで何かの役に立つ気は全然しない!
「というか、現実のメイド喫茶でも料理作るのは工場だとか裏方スタッフ……」
「あっちょっと! そういうリアルな裏事情は夢が壊れるのでNGです!!」
銃弾を撃つ手は休めていない!
十字砲火で逃げ場を失ったメイドロボたちの残数は着実に減っている!
戦術的には勝っているはずなのに、なんだこの微妙な空気感は!?
「戦闘音がこちらからしておりますわ~!」
「助太刀しに来ましたわよ~!!」
そんな状況を打破しようと、メイドロボたちの増援!
正信とスミカが優勢ではあったが、少し状況が変わってくるぞ!?
別方向から攻撃が来るならば、挟み撃ちになるのは自分たちのほうだ!
「だし巻きたまごハンマーのサビになってくださいまし~!」
「出汁と卵を混ぜたダマスカス鋼を鍛造で折りたたんだ一品ですわ~!!」
それはもはや不純物入り金属ハンマーでしかないのでは? と正信が零す。
もはや食べさせるって名目すら消えてません!? とスミカもツッコむ。
しかし、鈍器を持った集団が駆け寄るのは普通に危険だ!
2人はメイドロボたちに囲まれて、棒で叩かれてしまうのか!?
「わぁっ!だし巻き、おいしそーっ♪」
……否! 増援は、敵側の専売特許ではない!!
増援メイドロボたちの眼前に、アリス・グラブスがぽふっとエントリーだ!!
「アイエッ!? 今どこから出ましたか、あなた~!?」
見逃した人のために、もう一度出現プロセスを見てみよう!
アリスは一体どこから現れたのか、それは地中だ!
マンホールから、とかではなく完全に湧き出る感じで出現している!!
「どういう理屈ですの~!?」
「|妖怪《・・》に理屈とか聞いちゃダメよ!こっちもノリでやってるからっ♪」
アリスは笑顔でバンザイポーズ!!
何の回答にもなっていないが、メイドロボは追求に失敗した!
なぜならば、自分が粘液まみれの憂き目に遭い、それどころではないからだ!
アリスがバンザイで空に掲げた手。
その手のひらで「口」がパカッと開き、そこから粘液が発射されたのだ!
|共棲噴出子《スライミング》という何かは……|生物《・・》である!!
「メイドがスライムまみれとか薄い本じみてるンゴねぇ」
「何を言ってるんですか識別名C=サン!!」
「この粘液、マズイですわ~! 侵蝕されて、ます、わよ~……」
メイドロボの一体が崩れ落ちるように突如崩壊!
生きた粘液が、ロボを食らって自立不可能な状態にしたのである!!
SF映画的なスプラッタに増援メイドたちは戦慄! 脅威認定!!
「りょ、料理をお喰らいまし~!!」
「うわ~! 来ないでくださいまし~! 食べられたくないですわ~!!」
「わ~い! いっぱい色々飛んできてるわ!」
唐揚げやスシ、枝豆鉄砲などの金属料理がアリスに飛来!!
しかしそれらは、スカートから生えている触手が全て受け止め弾き飛ばす!
放出され続ける粘液と金属の化学反応は、甘ったるさで空間を満たす!!
「な、何かがおかしいですわ~!?」
「異常な感覚を検知! 知らないインプットが生えておりますわよ~!?」
「再構築、成功っ! メイドロボさんたちに生えたそれは、味覚よ!」
えっ、なんか凄いことが起きてません?
ハッキングなのか改造なのか、気化した粘液による侵蝕融合なのか。
理屈は分からないが、そういうことが起きたらしい!!
辺り一面は気づけば粘液の海!!
粘液により崩れ落ち、空を見上げるメイドロボの目に映るのはアリスの姿。
「お料理も、なんか色々再構築されちゃったわ!美味しいからいいけどっ!」
「あ、アイエエエ……」
「メイドロボさんも食べるっ?はい、あーん!」
……かくして、バイオハザードにより、増援メイドロボは壊滅!
「……今更だけど、彼女はいちおう味方だから撃たないように頼むよ」
「アッハイ。敵よりも味方が怖く見える時ってありますよね」
元いた殲滅を終えた正信とスミカも、増援の顛末を見届けていた。
宇宙的ホラーを感じなくもない状況だが、メイドたちの自業自得ではある!
料理を正しく理解しないものは、料理に苦しめられることになるのである……!
インガオホー! インガオホー……!!
「戦闘音がさっきこちらからしておりましたわ~!」
「助太刀しに来ましたわよ~!!」
「いや、終わった雰囲気だったのに、普通にまだメイド来るんですか!?」
「ここはポジティブに考えよう。|あの雰囲気《インガオホー》での締め、何となく嫌じゃないかね」
「確かにナンダコレって思いましたけども! あーもう、ぐだぐだしてる~っ!」
「わーい、おかわりが来たわ! いただきまーす♪」
……戦闘は、まだまだ続く!! 続くったら続く!!!
響き渡るは、勇ましいマーチ。番長特攻行進曲!
整列するは、男臭い応援団員が百余名!
異様な雰囲気を漂わせた集団がメイドロボ集団の前に現れた!!
「ワシが剛拳番長|轟《とどろき》|豪太郎《ごうたろう》である!」
その集団の先頭には、白馬たる|白毫號《ビャクゴウゴウ》に乗った筋骨隆々の男!!
この応援団の長にして、魂の在り方が番長という|漢《おとこ》である!
「ドーモ、轟豪太郎=サン。メイドロボですわ~」
「うむ、挨拶ができるものは料理もできる!」
「よくわかりませんが、そうですわね~? ではいざ戦闘を……」
「あいや、待たれよ!!」
戦闘の中断! 一体どういう思惑なのか!?
メイドロボも真顔になったが、一旦武器を構えるのをやめた。
奇襲にあう恐れもあるが、実のところ、メイドロボたちは気にしていなかった。
これまで卑怯とか言ってはいたが、あくまでも|演技のようなもの《・・・・・》である!
彼女らには個性のようなものはあるが、本質的には機械であり、群体だ。
死んでも復活するし、|経験《メモリー》は仲間に共有されるので問題はない。
そう、|経験《・・》こそがあれば、死んでも最悪それでいい。
ゆえに、メイドロボたちは豪太郎の発言を待っていた。
「メイド共よ、貴様らが本当は何をしたいか分かっているぞ!」
「ん? はい~? えっと、それはどういう~……?」
「貴様らは、料理勝負をしたいのだ!」
「ナンデ??????」
メイドロボたちは困惑した。
それはそうである、彼女たちは料理を食わせるためにここに来た。
なぜ? どうして?? と顔を見合わせるのも、やむなし!
「え~っと……お料理を食べさせることが目的ですわよ~?」
「笑止! それはお前たちの本心ではない!」
「アイエッ?」
さらに困惑は深まる!
機械は論理的ゆえに、非論理的な展開に理解が追いつかない!
「人間は欲しいものは分かるが、自分が本当に必要なことを知らないものだ!」
「わたくしたち、ロボですけれども……」
「種族は重要ではない!!!」
「アッハイ」
「つまり、お前たちは手近な命令に従っているだけだ!
本当にお前たちに必要なものは、料理を食わせるだけの行為ではない!
自身が作った食事をこそ人に食わせる|経験《・・》を学ばなければならん!!」
経験というワードに、メイドロボたちは露骨に反応した。
●
「というわけで、第一回!√ウォーゾーン手巻き寿司大会を開催する!!!」
「えっ、えっ!? 今戦闘中ですよね!? えっ何でこんな話に!?」
雄叫びを挙げる応援団員たち!!
歓声を挙げるメイドロボたち!!
その空間のど真ん中で、|品問《しなと》・|吟《ぎん》は困惑していた!!
「えっと、豪太郎さん!? 他所では戦闘起きてると思うのに、いいんですか!?」
「仮にこやつらが満足して退散するならば、戦うよりもいいのではないか?」
「ぐっ、せ、正論!? こんなトンチキなイベント開いておきながら……!?」
彼女は先程まで普通に戦闘をしていた。
していたのだが、応援団員とメイドロボの混在集団が現れ困惑!!
その隙を拉致られて、手巻き寿司大会の会場に連行された次第である!
「……いや、これ私、予知で出てきた被害者ポジションになってませんか!?」
「安心しろ、出てくるのは食べられる料理だ! 食材はワシの自腹である!」
「なんで戦いの予知出てたのに、料理大会の準備してるんですか!?!?」
吟の当然の指摘を気にするものは、しかし、誰もいなかった!
こうして手巻き寿司大会がスタートしたが、詳細を書くには余白が足りない!
ゆえに、ここからは品問・吟氏のツッコミダイジェストでお送りしよう!!
「ウワーッ!? マグロが跳ねてる!? 鮮度のために生きたまま持ち込み!?」
「えっ、何か喋りだしてません!? おのれ人間とか言ってますけど!?」
「ウワーッ!! 飛んだー!? これもしかして√能力者では!?」
「な、なんとか倒せましたね……まさかD.E.P.A.S.種族でしたとは……!」
「コロニー落としサイズの弾道ミサイルマグロに会う機会なんかもうありませんよ!」
「えっ、茹でエビ? 煮穴子!? 普通の食材あるじゃないですか!!」
「いや、この流れで漬けマグロが出てくるのはおかしくありませんか!?!?」
……こうして、ついにメイドロボと豪太郎の手巻き寿司が出揃った!
「もう今日だけで1ヶ月分ぐらいのツッコミした気がします……」
「そういう日もある! 気を落とすな! 尼僧番長!!」
「いや、勝手にアダ名を付けないでくださいよ!?」
こうして尼僧番長、吟の実食が始まった。
彼女は、|二口女《ふたくちおんな》という妖怪種族である。
吟は利き手で頭の口に豪太郎が作ったスシを運び。
もう片方の手のひらに付いた口で、メイドロボのスシを食している!
「食べ比べ審判員に、非常に向いている体質であるな……!」
「そんな嬉しくない褒め方あります……? 普通に美味しい……」
こうして、吟は全てのスシを食べ終えた!
応援団とメイドロボ軍団が、一斉に吟へと視線を向ける。
緑茶を涙目で丁寧に呷る吟は、一体どちらを勝者となすのか!
「メイドロボさんチームの勝ちです!!」
「やった~!!! やりましたわ~!!!!!」
「ぐぬぉああああああああ!?!?!?」
湧き上がる歓声!
観客席ではメイドロボと応援団員が抱き合っている姿さえある!!
自ら仕掛けた試合に負けた豪太郎は、口から一筋の血を垂らし膝をついた!
「いや、なんで物理的なダメージを負ってるんですか!?」
「そんなことはどうでもいい! なぜ、なぜワシは負けたのだ……!?」
「こっちが聞きたいですよ! 何ですかあのワサビしか入ってない巻物!!」
それは、涙巻きというスシである!
ワサビの刻んだ葉や茎を使った料理であり、通好みのチョイスだ!
ちゃんとした料理ではあるが、それはそれとして未成年の少女向けではない!!
「美味しいと、思うんだがなぁ……」
「わたくしたち、手巻き寿司を通して理解いたしましたわ~……」
「いかに美味しくとも、食べる人の好みを無視した料理はダメなのですね~」
項垂れる豪太郎とは反対に、爽やかな顔をしたメイドロボたち!
まさか! まさか彼女たちはマトモな料理道へと目覚めたのでは!?
「最初は何だこれって思いましたけど、作戦は成功ですね!」
「うむ……うむっ! 試合には負けたが勝負には勝ったな。ヨシ!!」
メイドロボたちと応援団員の和気あいあいとした雰囲気!
豪太郎とメイドロボの健闘を称え、握手をした!
「良い経験をさせていただきましたわ~!」
「うむ!! 満足したなら何よりである!!」
「それでは、次は鉄の唐揚げリベンジをお願いいたしますわ~」
……? ……???
え?? 何だって???
今、なんか全部台無しな単語が聞こえた気がするぞ??
「あの、メイドロボさん? さっき凄く良いこと言ってましたよね?」
「はい~、食べる人のことを考慮しない料理はダメですわ~」
「なのに何で!? どうして元の話に戻っちゃったんですか!?」
食べすぎてちょっと重い身体を無理やり起こし、吟は卒塔婆を構える!
豪太郎も苦虫を噛み潰したような顔で、メイドロボを見据えた!
「何事も経験ですので~ダメなものを人に食べさせる経験も欲しいですわ~」
「うわぁっ……! なんか凄く相容れない思考回路を覗き見た感じです……!」
「メイドロボ番長よ……! 貴様と道を違えるのは、悲しいことだ……!」
――戦闘、再開!!!
メイドロボと応援団員たちも、戦いの渦に身を投じた! サツバツ!!
「悲しいが仕方あるまい、お前たち行くぞぉ!!」
「「「応ッ!!!!!」」」
「あー!! もう!! 本当になんだったんですか、ここまで!!?」
喧嘩殺法で金属料理と渡り合う、豪太郎と漢たちを背景に。
吟は袖口から大量の折り鶴を取り出して、空に放り投げる!!
羽ばたきだした折り鶴たちは、制空権を確保した!!
「そちらが数の暴力なら、こちらも数の暴力で攻めましょう!!」
呪符で折られた鶴たちは、地上に向けて霊波光線を射出!!
縦横無尽なレーザーがあたり一面を蹂躙!! ところどころで爆発!!
「あっ、応援団員の人たちがこれまずいのでは!?」
「それで|斃《たお》れる柔なやつらは一人もおらん! 気にせずぶちかませい!!」
「え、ええー!? ま、まぁでもそういうなら、気にしませんよ!? 本当に!!」
爆発、騒乱、大乱闘!!
卒塔婆で、拳で、かち割られたり吹っ飛ぶメイドロボたちの姿!!
それらはまさにツキジのマグロめいた死屍累々として横たわっていた!!
「面白いからってオチにまでマグロ絡めようとするの止めましょうよ!!」
「どうした吟!? 食い過ぎで幻聴でも起こしているのか!?」
真面目な人が壊れかけるほどの混乱!!
とはいえ、メイドロボたちは屠られ、在庫も数を減らしている!!
戦いが終わる時はそう遠くはなくなってきていた!!
頑張れ番町! 頑張れ尼僧少女! もう少しの辛抱だぞ!!
「――並列操作補助機構「|蜃気楼《ミラージュ》」、|再《・》起動」
|森屋《もりや》・|巳琥《みこ》の戦術はシンプルにして王道である。
人間である自身がWZに搭乗し、自身に似せた12体の素体を分隊とする。
さながらそれは戦車と随伴歩兵のように。
強き|巨体《WZ》と、その死角を細やかに埋める素体たち。
何度も戦いに赴いた、安定と信頼がおける|はず《・・》のその布陣は、いま。
『おはよッオラー! スッゾオラー!!』
『敵どこだッオラー! スッゾオラー!!』
「あぁぁもう駄目です!! どうしてこうなっちゃったのですか!?」
異常言語を喋り始める、奇怪集団になってしまっていた!
巳琥は6歳の少女であり、その姿を模した分隊の姿も少女たちである。
つまり、6歳児の集団がろくでもないヤクザスラングで盛り上がっている!!
なんだこの地獄絵図は!?
『気を落とすと良いことがない。古事記にもそう書いてある』
『これから|テッカバ《鉄火場》予定。パッション重点な』
「うう、謎の慰め……! そんな機能入れた覚えないんですが……!」
もちろん、巳琥は頑張った。
自己診断プログラムや、再起動処置など、思いつく限りの対応はした。
しかし、無駄! どうして!? 何なんだ、あの催眠ガスの成分!!
「敵を発見いたしましたわよ~!!」
「メイドロボ部隊~包囲殲滅ですわ~!!」
「うわっ、出ちゃいました……!!」
ここで、メイドロボたちのエントリーだ!
この微妙なタイミングで来てほしくはなかった……!
そう思いつつも巳琥は他の作戦参加者から来ている連絡を思い返す。
メイドロボ部隊には挨拶がスゴイ大事、ってあった気がする!!
「ドーモ、メイドロボ=サン! 森屋・巳琥です!」
「ドーモ、森屋・巳琥=サン。メイドロ 『突撃ー!!』 「えっ、えっ!?」
巳琥は礼儀正しく、しめやかにオジギをしていた!
しかし、分隊が暴走! ゴウランガ! なんたることか!?
騙し討ちに逢う形になったメイドロボは、不意を突かれて爆発四散!
「サヨナラですわ~!!」
「アイエエエ~!!? 識別名D=サンが死んだ! スゴイ=シツレイ!」
「えっあっ、し、知りません! 私は何も見ていません!!」
まさかの身内の裏切りに、巳琥は思わずスットボケた!!
いや、確かに戦う予定は何一つ変わらないんだけれども!
敵相手とはいえ、こんな、こんなことが許されて良いのか!?
「許しませんわ~!! 再教育センター送りですわよ~!!」
『『『ンダッオラー! スッゾオラー!!』』』
「あぁぁもう、戦闘開始! 戦闘開始ー!!」
怒り狂うメイドロボたちのナマリ枝豆弾頭マシンガン。
巳琥の搭乗する、WZ「ウォズ」へとそれらが撃ち放たれるが、機動で回避!
それと同時に、分隊12体が一斉に射撃を開始!!
『|リンピョートーシャ《臨兵闘者》!|フーリンカザン《風林火山》!!』
『インストラクション・ワン! 何事も暴力で解決するのが一番だ!!』
「アバババババッ!! サヨナラですわ~!!」
一糸乱れぬ集中砲火でメイドロボが1体、しめやかに爆発!
言語野が暴走しているにも関わらず、作戦行動は完璧に熟している!!
……というか、いつもよりスムーズに動いている気がしなくもないぞ!?
「こ、これが急に生えた人格のパワー……!?」
『その通り、と古事記にも書いてある』
「絶対書いてない!! 古事記、絶対そんな愉快な本じゃありません!!」
頭痛を感じながらも、巳琥はWZウォズを操作!
建物の側面を蹴って上昇し、メイドロボたちの挙動を上空から確認!
彼女たちは、分隊の射撃を避けるため、建物を遮蔽としている!
「えーい、もう!終わるまでは色々考えるのはやめます!」
言って、巳琥はその建物へとロケットランチャーを構え、弾頭射出!
それは、対装甲侵食弾『ヴェノム・バレット』という特殊弾頭だ!
直撃した建屋は……まるで溶けるかのように崩れ落ちていく!!
ナノマシンによる腐食効果が、容赦なくあらゆる固体を朽ちさせているのだ!!
「ウワーッ! だし巻き玉子ハンマーが崩れましたわ~!?」
「主成分がダマスカス鋼のハンマーが!? 信じがたいですわ~!!」
ダマスカス鋼ハンマーで良いじゃないですか、それはもう!!
巳琥がそのツッコミを入れるより先に、|蜃気楼の分隊《ミラージュ・スカッド》たちが敵陣に突撃!
先ほど、侵食弾はあらゆる固体を腐食させる、と表現をした。
しかし、……それには唯一の例外が有る!
腐食効果を生み出すナノマシンは、分隊たちにだけ異なる影響を与えていた!!
「な、なんですの~!? 枝豆弾頭が刺さりませんわ~!!」
『これぞタタミ・ジツ! 古事記にも載っている、古来ゆかしきジツなり!』
「違います! 古事記関係ないです、これは!!」
ナノマシンで物体を分解させたなら、それを用いることも可能!!
味方へと耐衝撃装甲を付加する能力により、分隊は超防御性能を得ているのだ!!
しかし、巳琥が解説を入れる暇はない!
『イヤーッ!』「グワ~ッ!!」『イヤーッ!』「グワ~ッ!!」
『イヤーッ!』「グワ~ッ!!」『イヤーッ!』「グワ~ッ!!」
分隊たちは強固な防御力でメイドロボへと迫り、手にした銃器で攻撃!!
有無を言わせぬ一方的な攻撃でメイドロボたちは爆発、爆発、爆発四散!!
『|イチモ・ダジーン《一網打尽》!!|キンボシ《金星》オオキイ!』
『俳句を読め! メイドロボ=サン!!』
「なんですの~!? なんなんですの~!? なんですの~!!?」
『アッパレ! タツジン! オタッシャデー!!』
「アバババババッ! アバ~ッですわ~!!」
圧倒的な蹂躙により、メイドロボたちは立て続けに爆発!!
炎と煙を背にして、6歳児の姿の分隊たちはこうして全力で戦っていた!!
彼女たちは楽しそうに笑っており、絵面が……絵面が異様すぎる……!!
「……この戦いが終わったら私、全員にハードウェア・リセット掛けます……」
「よろしおすドスエ」
「|ウォズ《WZ》のシステムボイスまでおかしくなってます……やだぁ……」
なにを、何を見せられてるんですか私は???
巳琥はそんな感じの気持ちで現実逃避をしながらも。
しかし圧倒的優位を維持しながら戦い続けるのであった……!!
唐突だが、√能力と通常攻撃の違いは何だろうか?
色々な回答は出るだろうが、ここではとある一点に着目したい。
……√能力で生み出す攻撃には、弾切れがない!!
「識別名D=サン! お料理の|在庫《残弾》がなくなりそうですわ~!?」
「ええ~ッ!? そんなことあるんですの~!?」
メイドロボたち、渾身の|ポンコツ《やらかし》!!
普段は√能力を用いる彼女らは、残弾の概念自体を忘れかけていた!
メイドロボたちとの一連の戦いで、これまでも少し話は出ていたが。
実はこのメイドロボたち、自前で金属料理を作っていない!
イタマエとかいう謎の存在から料理を預かっているだけなのである!!
「補給部隊いましたわよね~!? どうしたんですの~!?」
「撃破されたのか連絡が取れませんわ~!!」
「仕方ないですわね~! |補給《・・》しにいきますわよ~!!」
戦線から一次離脱するメイドロボたち!
その姿をビル高所から見下ろす影が、追跡を開始していた!
●
さて、皆様は覚えておられるだろうか?
メイドたちが登場時、壁をぶち抜いて現れたことを。
つまり、ぶち抜かれた壁の先には、メイドロボたちの通路があるのだ!
「鉛の枝豆カートリッジ、100ケースですわよ~!!」
「ありがとうございますわ~!」
その最奥! そこに居るのは先程、戦線から離脱したメイドロボたちだ!
よく見ればそこには予知に出てきたスシ・カウンターの姿もある!
此処こそが、彼女たちメイドロボが戦線維持のための物資を受け取る補給基地!
そして、本来|犠牲者《お客様》が座らされたはずの、今は誰も居ない空間だ!
「ぐぬぬですわ……今頃はお客様がいっぱい居らっしゃったはずなのに……!」
「地上部隊っていまどんな感じですの?」
「正直な話しますと壊滅的ですわ~、トンズラ視野に入れなきゃですわよ~」
正直なところ、彼女たちも√能力者な機械たちではある。
壊滅しようとも復活するが、生存していたほうが良いこともある。
具体的には、次の作戦計画を立てるのが早くなる。
「……どうせダメなら、今すぐトンズラいたしません~?」
「地上部隊には尊い犠牲となってもらうのが良いですわね~」
「復活時にすぐ次のお仕事を用意しておけば許していただけますわよ~」
ほんわかふわふわなノリで、仲間を見捨てる算段!
わりと良い性格していたメイドたちは頷き合って、荷物を整え始める!
この場に止めるものは誰もいない! このまま悪は逃げるのか!?
「話は聞かせてもらったわ! 人類は滅亡させない!」
「えっ!? 誰ですの~!? どこですの~!?」
「ネタはあがってるのよ! お寿司だけにね! あと唐|揚げ《・・》的にもね!!」
メイドロボたちは、高所に佇む人影を見出した!!
暗がりでよく見えないが、紛れもない人影が一つ!!
その影は、地上から補給に戻るメイドたちを追跡していた者だった!!
「正体を現しなさいまし~!!」
「いいですとも!! メイドは奉仕を象徴する存在……
これに打ち勝つのは、それを上回る奉仕パワーを持つ対抗存在!」
「えっ、何の口上!?」
「ダイナマイトナースななちゃん! ここに参上よ!!」
人影の背後で爆発がおき! 炎でその姿が明らかになる!!
そこに居たのは、……クーベルメ・レーヴェである!!
その身に纏うのは怪異殺戮装備! 白桃色のナース服である!
ちなみに、|VII《なな》号戦車のレプリロイドだから「ななちゃん」だ! 多分!!
「人類の未来に|誤《・》奉仕しちゃうぞ☆」
背後で巨大な連鎖爆発! 決め台詞とポーズも決まった!!
「あっ、ここ火気厳禁ですわ~!」
「催眠ガスに誘爆しますわ~!!」
「えっ」
大量の火の粉が地上に降下!
メイドロボたちの言葉どおり、ガス装置の予備に誘爆!!
スシ・カウンターが燃え上がり、催眠ガスの残滓がメイドロボに直撃!!
「アイエエエ! あっつ、あっついですわよ~!!」
「えっ、これ攻撃行動じゃなかったんだけど……まあいいわ、ヨシ!!」
一瞬の爆発は強烈だったが、可燃物質自体は少ないのか、継続火災は免れた!
メイドロボもすぐに自身に付いた火を消し、クーベルメに向き直る!
……髪がちょっとちりちりパーマになってる子がいるが、気にしてはいけない!!
「ドーモ、ダイナマイトナースななちゃん=サン。メイドロボですわよ~!」
「あっはい、ドーモ、メイドロボ=サン。 長いから、ダイナマイト7で大丈夫よ!」
「了解ですわ~。面白いですわね、|ご《・》奉仕パワーでメイドロボと戦うと……?」
「おっと、乗り気? |誤《・》奉仕ぢから勝負、受けて立つわ……!!」
消火に成功し、見上げるメイドロボ残党。
それを見下ろす|クーベルメ《ダイナマイト7》ちゃん。
両者、譲れないもののために、鎧袖一触の有り様!!
その譲れないもの、どっちもおかしいし一致もしていないが、戦闘開始!!
「メイドロボ流のシェアを握る方法! それは同機能型の排除ですわ~!!」
「枝豆鉄砲をお喰らいなさいまし~!! 鉛の豆ですけれどもね~!!」
メイドロボたちは迷うこと無くマシンガンを構える!
さきほど補充をしていたばかりなので、弾切れの心配はない!!
だが、乱射をしようとした、まさにその時!!
「――|動くな《・・・》!!」
「ア、アイエエエ!? 指が動きませんですわよ~!?」
「ナンデ!? 指動かないナンデ!?」
全身の麻痺により、メイドロボは|引鉄《ひきがね》を動かせない!!
それをもたらしているのは、クーベルメの√能力だ!!
その名を、|言葉の拘束《スピーチロック》と言う!!
「ワンポイントレッスン!! 看|護《・》で意識すべきポイントには3点あるわ!」
高所から落ちるように降りながら、クーベルメは叫ぶ。
「|言葉《スピーチ》、|物理《フィジカル》、|薬品《ドラッグ》の3手段での|拘束《ロック》よ!!」
これは介護や看護の世界で言われる、事実である!
いわく、従事者は患者たちを|拘束《ロック》するな、というものだが
「看|誤《・》の世界では特に禁止されていないわ!!!」
そう! ダイナマイトナースななちゃんは、看護師ではなく看|誤《・》師なのだ!!
そもそもここは戦いの場なので、相手の嫌なことをすることこそが、重要である!!
まず放った、「動くな」という|言葉による拘束《スピーチロック》!!
「んでもって、武器を撃つのもやめましょう!」
「アイエエエ! 腕が~!! 真っ二つですわ~!!」
武器を持てないようにする、|物理的な拘束《フィジカルロック》!
|秀逸ならざる執刀《ダイナミック・デブリードマン》が、メイドロボの腕を容赦なく切断!
これが手術室だったら、医療ミス待ったなし!!
「識別名E=サン! やりましたわね~、ダイナマイト7=サン!!」
腕を斬られていないメイドロボが銃を向けるも、射線に潜り込むように回避!
そして懐に入ったクーベルメは、
「聞き分けが悪いなら、|投薬で黙らせ《ドラッグロックし》ちゃうわよー!」
「グェーッ!?!?!」
巨大注射器で、メイドロボの胴体をぶっ刺した!!!
もしメイドロボが喋れたら、注射器どこから出したんですの~!?と叫ぶだろう!
その答えは当然、√能力で作り出したものだ!
これぞ、|最速で最短で最先端の荒療治《エンジェリックスレイヤー》である!!
|言葉《スピーチ》、|物理《フィジカル》、|薬品《ドラッグ》、やってはいけない|拘束《ロック》のフルコース!!
大暴れするクーベルメ、ダイナマイトナースななちゃんの戦いは更に熾烈を極めた!!
●
「アイエエエー!? スリケン!? スリケンナンデ!?」
「よく見なさい! それは医療用メスよ!!」
「あっ本当ですわね、って何にも安心でき 「注射器イヤーッ!!」 なアバーッ!!?」
●
「イヤーッ! 包帯で縛られて、ボディラインがなんか、イヤーッ!!」
「なんか今までと違うイヤーッじゃない、これ!?!?」
「ダイナマイト7=サン、あなたがやってるんですわよ~!?」
●
そうこうあって、ダイナマイト7ことクーベルメはメイドロボに勝利した!
「長く苦しい戦いだったわ……!」
「す、好き放題やりましたわね……! しかし、第二第三のわたくしたちが……」
「あ、そういうのは大丈夫よ。はい、|服薬して沈黙《ドラッグロック》しましょうねー」
「えっ要りませんわあがっ!? あがががが!?」
「はい、いっきいっき! |糖衣《オブラート》とかないけどなんとかなるって!」
全身の関節がぶっ壊れたメイドロボに、無理やり薬を飲ませる情景!
なんたる凄惨さ! しかし、これは看|誤《・》なので仕方ないのだ! サツバツ!
「し、信じ難いぐらい、に、苦……ガクッ……」
「悪は……去ったわ!! これで、やったわね……!!」
クーベルメは知らないが、地上のメイドロボ部隊も全て鎮圧された。
地下のメイドロボももはや居ない、メイドロボ部隊は殲滅されたのである!
そう、確かにやった。やり終えた。
しかし、フラグを口にしたらまだ状況が続くのが世の定めである!!
クーベルメは地面が微かに揺れるのを感じ、直後に大規模な震動を身に受ける。
「えっ、地震!? ……いや、違うわね、これ!」
炭化したスシ・カウンターが砕けていく!!
崩落していく地下空間で瓦礫を避けながら、クーベルメは光る球体と目が合った!
……そう、|目が合った《・・・・・》!!
今起きているこの震動は、自然現象としての地震ではない!!
巨大な何かが、地面を割って這い出そうとする動きによる震動なのである!!
メイドたちは去った!
そして、新たなる強敵が現れようとしていた!!
第3章 ボス戦 『鐵浮屠』

メイドロボ軍団の殲滅完了。
それに人々が安堵するよりも早く、大地震のような揺れが辺りを包んだ!!
√ウォーゾーンの戦闘機械都市は、機械が作るがゆえに設計にブレがない。
それ故に地震で倒壊するような事象は通常、存在しない。
ゆえに、13箇所もの場所で土煙が挙がる事態は、明確な異常事態だった!!
「な、なんだありゃあ!?」
「観測結果出ました! 20メートル級の、巨大戦闘機械です!!」
√ウォーゾーンの一般人は、冷静に、そして的確に状況を報告した!!
過去の記録を参照して判明した、鉄の巨人の名前は、|鐵浮屠《ティエフートゥー》!!
中国語にて鉄の仏塔、転じて、重騎兵を意味する名前である!!
……で、一体なにをしに現れたんだ、こいつは!?
先程まで|√能力者《エリート》たちが戦っていたメイドロボと関係はあるのか!?
一般人たちが息を飲む中、突如として地下から這い出し、地上に屹立した巨人は天を仰ぎ、
「「「「おいどんは、悲しかど〜!!!!!!!」」」」
……なんか、方言で喋り始めた!!
巨大な巨体から声が発されるために、ハウリングが凄いが聞き取れなくはない!!
先に言っておくと、発言内容は地の文で説明するので、読まなくてもOKです!!
「調査結果、出ました! 薩摩弁です!!」
「なんで鹿児島の喋り方してんだよ、この機械!?」
混乱する一般兵たち!
彼らを更に困惑させたのは、土煙が晴れて見えてきた全貌である!!
本来の彼らは、古代中国の兵士のような格好をしていたはずなのだ!!
しかし、頭にねじりハチマキ!!
寿司屋の板前が着るような、白衣に前掛けのユニフォーム!!
なんか見た目、でぶっちょな料理人っぽい感じの服装をしているのだ!!
「「「「なんで、誰もかれもおいどんの作った飯ば食わんとや~!?
メイドロボまでが、おいどんの渾身の料理ば武器扱いしよっで、もはや我慢ならんとよ~!!」」」」
どうも、こいつが金属の料理を作りやがった主犯であるようだった!
しかし、メイドロボに武器にされてたことについては、どうもキレているようだ!!
……え、マジかこいつは!? ダマスカス鋼ハンマーとか作ってたんだろお前!?
地の文のツッコミを聞いちゃあいない、地団駄を踏む巨大ロボ!!
普通に震動がひどいことになるので、めちゃくちゃ迷惑である!!
しかし、ちょっと悲しげな声音でキレ叫んでる巨大ロボに、ツッコめる一般人などいない!!
「「「「人間ちゅうもんは、飯食うて大きくなるもんじゃっど!?
そのままじゃ食えんもんば、工夫して食えるごつしたっちゅう食文化、こいはほんのすごかど!!」」」」
「うわぁ、こっち向いて指差してきました、ボスぅ!!」
「う、うろたえるな! とりあえず会話を続けさせろ!!」
状況が状況なので、現場は困惑するばかりである!
食えないものを食えるようにする、人間の食文化ってスゲエ、と言っているようだ!
確かに、フグとかコンニャクとかの、毒を避けたり無くす技術は確かに凄いものではある!
「「「「じゃっどんよぉ、金属ち食えんもんじゃっち思っちょっど、うまかごつ作ったら食えっがな!?
食うてくいやい、誰でもよかけん、おいどんの作った金属飯ば!! 頼むが〜〜!!」」」」
食えないものを食えるようにできるんだから、金属も実は食えるだろ人間!!
そんな感じの無茶苦茶を言いながら、巨大ロボ|鐵浮屠《ティエフートゥー》は手を伸ばす!!
その先に居るのは、先程の兵士たちである!
「ウワーッ!! なんか明らかにこっち捕まえようとしてきます、ボス!!」
「ミサイル発射ー!!」
一般兵士の発射したミサイルが、巨大頭部に直撃!!
爆風にたじろいだ隙に、一般兵たちは戦闘車両を爆走させて距離を取る!
当然ながら、巨大ロボはブチギレた!!
「飯ば食うてくれっち言うちょるだけじゃっちゅうのに、なんじゃこの仕打ちはよ!
よか、もう分かった! こげんまでなったら、おいどんがおまんさぁら何人か|食う《・・》っが!
ほんでな、おいどんの体ん中で、むっぜぇ食わせっがな、飯ばよ!!」
食ってくれないのならば、無理やり食わせるのみ!!
そのために、人間を自身の内部に監禁して、無理やり飯を食わせ続けると宣言!!
……いや、はた迷惑すぎる!!
結局こいつもメイドロボとやろうとしてることは全く変わらないらしいぞ!!
●
あらためて、巨大ロボ|鐵浮屠《ティエフートゥー》の性能を説明しよう。
こいつは本来、大推力をもって、巨体を相手に突撃させるタイプの戦闘機械である!
当然ながら都市部でそんな行動をしでかしたら、大破壊は必至である。
ゆえに、本来こいつは都市に降ろすこと自体が許されないタイプの存在だ!!
しかし、今回に限ってはそうはならないようである。
何故ならば、彼の目的は、自分が作った飯を人間に食わせることだからだ。
「「「「人間、どこにおっど? 殺す気はなかっでよ〜、はよ出てこんか〜い!」」」」
|√能力者《あなた》がたの尽力によって、メイドロボが全滅!
そして、現地の人々が避難に成功して、路上には誰も居ない!!
この2つが功を奏して、巨大ロボの都市破壊が消極的になっている!
避難しているということは、一箇所に大勢が集まっているということだ。
20メートルの巨体からは、人間がどの建築物に居るのかが分からない。
うかつに建築物を破壊し、試食相手を全滅させてしまうことを恐れている!
「「「「車よ、止まれっが~! 悪かごつはせんでよ、ほれ~っ!」」」」
「「「「アバーッ!! ビルに小指激突!! 痛い!!」」」」
「「「「グワーッ!! 人間、おいどんのツラにミサイル撃っじゃなかっど!!」」」」
結果として、確実に人間が居る、一般兵の戦闘車両を追いかけ回している!!
そしてなんか、ちょくちょくドジをやらかしているし、おちょくられてもいる!!
あと、言語が何か少しおかしい気がする。……だから薩摩弁なのか、もしかして!?
『あー、|√能力者《エリート》の諸君! 我々はこいつを引き付けている車両の者だ!』
『こいつら、推力が凄いらしいが、どうも小回りは効かないようだ!!
なので現状はネズミみたいにちょこまか走り回ってなんとかしている!!』
『ついでに言うと、死角も多そうだ。付け入る余地は全然ありそうだぜ!!』
『誘導に専念してるが、作戦があれば協力するので、こいつらの撃破を頼んだぞ!!』
戦闘車両の一般兵との通信は、上記のように明瞭に通っている。
彼らと協力して、何らかの作戦を成功させるも良し。
敵にこっそり取り付くなどして、ステルスキルを狙うも良し!
あるいは敵の前に立ちふさがって、堂々と殴り勝ちを狙ったりも良しだ!!
さぁ、これが最後の戦闘だ! 全ての巨人を倒してしまおう!!
「「「「うおォン、おいどんの飯ば、誰か食うてくいや〜い!」」」」
|イタマエ《板前》の格好をした、巨大戦闘機械、|鐵浮屠《ティエフートゥー》。
作った料理を誰にも食ってもらえない彼の叫びは、怒りと悲しみに満ちていた。
細部と呼ぶには無理がありすぎる諸事情を取っ払えば、同情する余地はあるかもしれない。
「「「「たかが700度の融解アルミスープじゃっど、何がそん嫌じゃち言うとや!?」」」」
すまない、撤回しよう。ナシである!!
「ボス! 大丈夫ですか……!?」
「あぁ、死ぬかと思ったが、大丈夫だ……!」
そんな鐵浮屠は、装甲車1台のクルーを追い込んでいた!
鐵浮屠は都市を破壊する気はない!
しかし、それはあくまでも試食する人間を誤って殺戮しないためのものだ!
つまり、殺戮が起きない手段であれば、こいつらはやる!!
先ほど鐵浮屠が言った700℃アルミスープを、彼は地面にぶちまけた!
タイヤが燃え弾け、戦闘車両がスリップ!横転をかろうじて防ぐも、走行不能!!
機動力が失われれば、人間が20メートルの巨体から逃げることはできない!!
「!! 最悪だっ、ボス……!!」
「もう1体の、鐵浮屠だと……!!?」
そして、絶望とは重なるものである。
車両を捨てて逃げようとした彼らの眼の前に、新たな巨体!!
2体の鐵浮屠が、一般兵たちを前後から追い詰める状態に陥れた!!
「「「「さぁ! おいどんの飯ば、食うっがよ!!」」」」
「た、助けてくれーッ!!」
哀れ、一般兵は犠牲になってしまうのか!?
救いは、救いは存在しないのか!?
「何と殺伐とした食事を提供しようとしているのか……」
「「「「!? だ、誰じゃ!? どこにおっど!?」」」」
突然静かに語るように、しかし通る声が響いた!!
それに一瞬気を取られ、鐵浮屠2体が周囲を見回した隙に変化が起こる!
……追い詰められていたはずの、足元にいた一般兵2人が消えていた!!
「「「「い、いったいどこに……!?」」」」
「こちらだよ、板前さんたち」
声の方向に、鐵浮屠2体が目をやる!!
4階建てのビルの屋上、そこにいるのは、4つの影!
2つは先程まで追い込んでいた一般兵たち! では、残る2つは!?
「わが愛犬、|Ogre《オルジュ》よ。よくやった。
……兵士くん、すまないがもう少し、咥えられたままでいてほしい」
一つは、一般兵の服を噛み、跳躍でここに運んできた大型犬の死霊!
そして、もう一つの影は……!
「食事とはね、板前さんたち、自由で救われていなければ駄目なんだよ」
もう一人の一般兵を抱きかかえて連れてきたもの。
巨大機械たちに語りかける、老齢にして、しかし壮健なる男性。
√能力者にして吸血鬼たる、|眞継《まつぐ》・|正信《まさのぶ》 がそこに立っていた!
「「「「す……救いっち、なんのこっけ!?」」」」
「食事は救いなのだよ。君を含めて誰にも邪魔されることなく、静かで豊かであるべきだ……」
正信の食事観は、つまりそういうものであった。
食事とは、ただの栄養補給ではない。
満足と安らぎを得て、精神を癒やすことこそが食事の本懐であると!
「「「「なんか伝えたかごたっどん……さっぱり分からん!!」」」」
「むぅ……何となくだが、理解自体ができないことだけは分かってしまったな……」
正信は残念に思ったが、しかし、諦めも肝心かと頭を振った。
彼が最も重要とするのは、一般兵たち、ひいては区域住民たちを護ることである。
鐵浮屠に構っていられる時間はそう多くなく、速やかに事を進めねばならない。
ゆえに、彼は|視界に入った《・・・・・・》あるものに、気付かぬように振る舞った。
「「「「分からんばってん……飯ば食わされるんが嫌っちゅうのは、よう伝わったど!!」」」」
「「「「飯ば食わんっちゅんなら、残念じゃっどん……交渉は、最初っから決裂しちょったっが!!」」」」
「決裂……そうか、残念だ。……では私にも、無理矢理に食事を振る舞う腹積もりかな?」
「「「「話が早かとは、助かっど!!」」」」
言うが早いが、鐵浮屠の1体が正信へと手を伸ばす!!
それを予期していた正信と愛犬Orgeはビルの屋上を蹴り、一般兵を連れたまま回避!
「「「「ぬぅっ……! じゃっどん、まだ……っ!!」」」」
追撃を加えようとする鐵浮屠。
しかし、彼がそれを成功させることはない!
鐵浮屠の頭上に、一つの影が舞い踊る。
それは陽光を反射する白銀。青空に浮かぶその姿は、まるで月のよう。
「ディアナ、セイバーッ!!」
手をビルの屋上へと伸ばしきっていた鐵浮屠は、その掛け声に反応できない!
黒薔薇のゴシックドレスを、白銀の鎧へと転じさせたルビナ・ローゼス!
背後のビルから跳躍し、空中で変身した彼女の一撃が、鐵浮屠の脳天へと突き刺さる!!
「「「「グワーッ!?!?!?」」」」
√能力、|月乙女装甲騎形態《ルナヴァルキリーフォーム》!
月の聖なる鎧をまとった彼女は、6枚の光翼による軌跡を描きながら、地上へと降り立った!
その途中にいた鐵浮屠は、大剣ディアナセイバーの剣閃により、両断されている!!
「「「「サ、サヨナラーッ!!!」」」」
――20メートルの巨体が、爆発四散!!
「「「「アバーッ!!」」」」
その爆風を、もう1体の鐵浮屠はマトモに受けて転倒!
飛来する瓦礫と爆風はルビナにも迫るが、しかし彼女が傷付くことはない。
なぜならば、そこにすでにルビナは居ないからだ!
「ちょ、ちょっと心臓に悪かったですわ~!」
顕れた光翼は飾りではない。跳躍の速度を増す力の表象である。
彼女の移動は意図せずとも残像を、光の残滓は幻影を生み出すのだ!
僅かな秒数のうちに、安全圏へと距離を取った彼女を、倒れた鐵浮屠が睨みつける!
「「「「飯ば食うてほしかち言うちょるだけじゃっどん、なんでこげん仕打ちば……!!」」」」
「……さっきも言ったがね、食事は|強制されるものでは《自由でないといけ》ないからだよ」
その声に、鐵浮屠は転がるようにして距離を取りながら立ち上がる!
退避していた正信が、再び鐵浮屠の近くへと現れたのだ!
鐵浮屠の回避行動により建築物の幾つかが崩落する。
……自身の状況が悪いと悟り、もはや鐵浮屠に破壊を避ける余裕は無い!
「「「「さっきの兵隊どんたちは……逃がしたっちか……!!」」」」
「|話が早かとは《・・・・・・》、|助かっど《・・・・》……だったかな?」
爆発四散した方の鐵浮屠が言っていた言葉を、意趣返しとして放ちながら。
正信は夜の気配に満ちた、黒い霧をその身へと纏い始める!
「さて、先程爆発した彼と君を除けば、残るは11体だ」
√能力、|漆黒の外套《クロノガイトウ》。
その力は、ルビナと同じく、行使者たる正信を強化する力である。
「鐵浮屠さん。これが最後の挨拶だ。ここがあなたの墓場となるだろう」
「「「「……!! ぬ、抜かしおったなぁ!!」」」」
鐵浮屠はエネルギーバリアを展開する!
破壊を辞さず、眼の前の敵を屠ることに全ての意識を割く!
その身に宿した大推力を彼は発動し!!
「――君の敗因は単純だ。君は、|私よりも遅い《・・・・・・》」
……その推力を生かす機会を得られぬまま、頭部を大破させられていた!
「「「「オ゛、ア゛……!!?」」」」
鐵浮屠は、暴走する脚部の推力により転倒!
発声機を含む頭部を破壊された彼は、ノイズ塗れの眼球ユニットで正信の姿を捉える。
……正信の手を黒く覆う鉤爪が、自分を屠るものの正体だと把握して。
制御を失ったバーニアとエンジンの爆発が、再び周囲を赤く照らした。
●
「い、いいのかいお嬢ちゃん?」
「大丈夫ですわ! もちろん、無事に返してもらえると嬉しいですけれども!」
鐵浮屠2体を屠った正信とルビナは行動を別にすることにした。
正信はいち早く次の敵を倒すために。
そして、ルビナは車両を失った一般兵のサポートのために。
「あぁ、もう不覚は取らない! しかし、この車は……一体……?」
ルビナは、彼ら一般兵に車両を貸し出すことにした。
それに感謝するも、一般兵たちは戦争に関わりのない車両に疎かった。
正体が分からない車に困惑する彼らに、ルビナは微笑みながら。
「それは、キッチンカーですわ!」
「キッチン……??」
「要するに、出向いた先で料理をするための車両ですわよ!」
それは戦闘が終わった後を考えて、他ルートから持ち込んだ車両だった。
異常な食事に苦しめられる事件を癒やすには、全うで美味しい食事が一番だ。
その車両が事態の直接解決にも寄与するならば、なお話が良いに決まっている。
「料理か……! それは期待したい……!」
「ふふ、期待しててくださいね! では、また後で!」
そう言って、ルビナは光翼を煌めかせながら去っていった。
あとに残された一般兵は、車両に乗り込んで、囮走行を再開する。
「しかし、どういう原理かは全くだが、|√能力者《エリート》の力は、すげえな……」
「あんな可憐な子が、ぶった切るんだもんな、あのデカブツを……」
俺達も負けてはいられない。
直接敵を倒せないとしても、やるべきことをやる、それが重要なのだと。
そう意思を強めながら、彼らはキッチンカーを走らせる。
全ての者たちが、勝利を信じて。
戦闘は始まったばかりだが、誰もが戦意を強く抱いていた。
実践はあらゆるものに学びを与える。
|√能力者《あなた》たちはそうして戦闘経験を得ているわけだが……。
それは、敵側にとっても同じことが起きていることを意味する!!
「「「「やられた分の体から得た知見、ちゃんと活かすっが!!」」」」
「「「「一人で無理なら、複数体で追い詰めっとよ!!」」」」
『畜生、こいつら学習してやがる!!』
鐵浮屠の行動パターンが、複数体で行動するように変化している!
1体であれば誘導は簡単だったが、そうも行かなくなってくるようである!
時間は味方よりも、むしろ相手方の利益へとなるようである!
『こちら一般兵! 時間は相手側を利するようだ!!』
「了解です。|作戦地点への誘導《・・・・・・・・》、確認! 即時離脱を!」
一般兵の通信に応答が返ると同時に、銃撃音が響く!
鐵浮屠は自身の脚部に走った、痛覚センサーの反応に気付いて一時停止。
彼らはカメラアイで確認を行なうが、しかし何も見えない!
「「「「そっちのおいどん、なんか見ゆっか!?」」」」
「「「「なんも見えん……いてっ! こっちにも何かおっどーー!!」」」」
鐵浮屠2体を惑わすその攻撃を実行したのは、スミカ・スカーフだ。
レプリロイドたる彼女を象徴する武装、FNSCARはアサルトライフルである。
対人兵器であるそれは、鉄壁を撃ち通すことを想定された武器ではない。
その射撃は致命打とはならないが、彼女と配下たる少女分隊は攻撃をし続ける。
関節部に撃ち込み、装甲の隙間を狙い、|発光部位《ガラス部位》などを壊して回る。
とにかく、捉えられないように移動し続け、痛みを与え続けるゲリラ戦術である!!
「「「「アバーッ!? 装甲ん下で、跳弾しちょっど!?」」」」
「「「「グワーッ!? こいが、「弁慶の泣き所」ち言わるっやっけ……!?」」」」
「「「「もう一人のおいどん! 立ち止まっちょっは良くなか! 進むっが!!」」」」
スミカの攻撃は、鐵浮屠の巨体を破壊するほどの威力は発せてはいない。
しかし、いわば針で刺されるような痛みが各所で連続、と言えば伝わるだろうか!?
これはたまらんと鐵浮屠は移動を試みるが、すかさずスミカは通信機に叫ぶ!
「|ビル解体用爆薬《・・・・・・・》、点火《・・》!!」
鐵浮屠に隣接するビル、その地上部分が爆発!
少女分隊の攻撃により数秒、位置が固定されていた鐵浮屠は、その直撃をモロに受ける!!
自立不能になった3・4階ビルが倒れて、|6・7階ほど《20メートル》の巨体に伸し掛かる!!
「「「「グワーッ!?!?」」」」
「「「「アバーッ!?!?」」」」
あらかじめ爆破を知っていたスミカたちは、爆破命令と共に遁走!
爆破命令とともにアクセル全開で建物から飛び出した兵員輸送車に飛び乗ったのだ!!
とはいえ、当然のことながら飛散する瓦礫は輸送車にも容赦なく飛来!!
『本体のスミカに伝達です。瓦礫が頭部に衝突。ヘルメットがなければ即死でした』
「大丈夫ですよ、|√能力者《わたし》たちは最悪死んでもそのうち蘇生しますから」
『アイエエエ、ここはブラック部隊ですか? ボクは|訝《いぶか》しんだ』
「一人称とか変ですよ、催眠ガス対応の時には起動してませんでしたよね……?」
多少のダメージはあれど、幸運にも離脱者なし。
瓦礫の煙幕の中で、鐵浮屠たちが身を起こそうと手を振る姿が見える。
撃破はできていないが、しかし、スミカの目論見はここに成功した。
「私の攻撃が敵を撃破する必要はありません」
√ウォーゾーンの戦場には、一人で全てを解決する英雄はいない。
戦いとは一人で行なうものではなく、総員での勝利を目指すものである。
――空に、一条の閃光が煌めいた。
閃光に付き従う、2本の蒼い電流が、鉄槌のように地へ|奔《はし》る!
まさしくそれは、稲妻のような一撃として鐵浮屠たちに叩き込まれた!!
「「「「グワーッ!!! サヨナラ!!!」」」」
鐵浮屠1体が即座に屠られ、爆風が煙幕を吹き飛ばす。
そこから現れたのは、装甲を削り機動性に特化したウォーゾーンだ。
蒼白に輝く決戦モードとして、限界突破した機体が激しく冷却煙を吹く!
『誘導、助かった。ありがとうスミカさん』
WZ「蒼月」から流れるその声は、クラウス・イーザリーのものだった。
WZは平均して2メートル。多少大型であろうとも、|鐵浮屠《20メートル》には及ばない。
また、敵は防御に性能を振っており、生半な攻撃を通すようなものではなかった。
ゆえに、勝つための確実な方法は、奇襲による一撃必殺だったのである。
「「「「ア、アガガ……!」」」」
もう1体の鐵浮屠が発した音に、クラウスは急ぎ機体を振り向かせる。
グレネードの発射準備を行って、しかし、その火力は不要と判断した。
鐵浮屠を攻撃した蒼い電流の正体は、WZ蒼月の武装たるスタンロッドである。
高圧電流での鎧無視攻撃に特化したその杖は、鐵浮屠の胴体を完全に砕いていた。
四肢の機能は完全に停止しており、頭部ユニットの光だけが生きている。
「……思想的には、上手くやりさえすれば、共存もできるかもと思ったよ」
いま必要なのは、慈悲だとクラウスは判断した。
エネルギー導管も破損しているようで、鐵浮屠はもはや機能停止を待つだけだ。
ゆえに、介錯こそが慈悲であると、判断したのである。
「でも、食ったら死ぬものを強制するのは、良くなかった」
鐵浮屠、2体撃破。
●
……スミカとクラウスの状況が終了したちょうどその頃。
「わぁっ、すっごいおいしいっ♪ イタマエのおじさんっ! お寿司追加っ!」
「「「「ハイ、ヨロコンデー!! いや〜、良い食いっぷりで、おいどんはうれしか〜!!」」」」
「「「「よかねぇ、よかねぇ!! お客さん、ほんのこて、よかこっじゃ〜!!」」」」
なんか別の2体は、嬉々として金属料理を作っていた!
こ、これは……!? 今まで読んでいたシリアス描写は一体どこに!?
残念だがここからはギャグパートである!! 正規のシナリオとはやり方が違う!!
鐵浮屠、いや、イタマエ2人が、金属をガコンガコンと手で押し潰しながら料理を成形!!
その姿を「わくわく!」と、実際に発音して楽しそうに待つのは、アリス・グラブズ!!
そして、その様子を横に立って見ているのが、
「ワシが剛拳番長、|轟《とどろき》|豪太郎《ごうたろう》である!」
「「「「アッハイ、たぶんそれ、もう3回目じゃっどね」」」」
寿司を待っているからか、綺麗に正座して状況を待つ少女。
かたや、腕を組んで仁王立ちする筋骨隆々の学ラン男性。
そして、2人がいる4階建てビル屋上に、寿司を握る20メートルロボ2体!!
……あまりにも奇妙な様相がそこにはあった!
「「「「おまっち〜!! こいが、「リュクルゴスの黄金角」になっど!!」」」」
「えーっ、凄い! 確かスーパーロボットの、動物っぽい人でしょ!?」
「戦ったことはないが強敵と聞くな…… どうやってネタを得たのだ?」
「「「「あいは、おいどんと目指しちょる|完全機械《インテグラル・アニムス》ん|派閥《レリギオス》が違っちょったとよの」」」」
「「「「じゃっで、一遍殴り合うたあとに、折れちょったのば見つけて拾うたっち話じゃ」」」」
薩摩弁を読むのが苦手な人のために説明しますと。
戦闘機械の仲間割れがあった後に、落ちてた角を寿司ネタにした、とのことです。
……そんな気軽に、敵スーパーロボットの角って提供していいものなのか!?
ちなみにリュクルゴスの見た目が分からない方向けの情報ですが。
イラスト検索、宿敵イラストの、最古から11番目にある鹿みたいなロボのイラストです。
「ぬぅっ!? 何やら|名状しがたい《メタ話の》気配が……!?」
「? よくわかんないけど、トゲトゲで金キラで素敵っ! いただきまーすっ♪」
もぐもぐ、ばきばき、びびびびび、ごっくん。
これまた名状しがたい効果音を鳴らしながら、アリスは完食!
「電気がビリビリで美味しかったわ! おかわり!」
「「「「あっ、ごめんなっせ。その寿司ネタは、1品だけですたい」」」」
「えっ、そうなの!? がーんだわ、出鼻をくじかれちゃった……」
がっかりした様子のアリスを見て、イタマエ2体は申し訳無さそうな態度を取る。
なお、既にアリスはもう30皿ぐらい食べている状況であることをお伝えしておこう。
「こ、これはどういう状況なんですか……!?」
「た、食べてるのか!? その、金属料理を!!?」
そんな怪状況に、スミカとクラウスが到着した。
常識人サイドである彼らからすれば、その反応は当然である。
「「「「お? あんたらも食うっけ?」」」」
「いやいやいや、金属は食べれないよ……!!」
「「「「またまた〜、人間はなぁ、銅や亜鉛ばちゃんと食うちょっじゃろがい?」」」」
「確かにそうですけど、1日の摂取量はミリグラム単位なんですよ!!」
完全にツッコミと化してしまったスミカとクラウスは、はたと豪太郎を見る。
えっ、この人は人間……だったよな……?
「ワシが剛拳番長、|轟《とどろき》|豪太郎《ごうたろう》である!」
「あっはい……何で今、名乗りを!?」
「ワシは、|大食《おおぐい》番長の限界を見極めている目付役だ!」
「あっ食べてないんですね、良かった……大食番長!?」
ツッコミ組が更に飛び込んでくる謎の情報に困惑している中、イタマエがはたと気付く。
「「「「……そういえば兄さん、まだ寿司食っちょらんじゃんね!」」」」
「気付くの今なのか……!?」
「「「「この屋上はスシカウンターじゃっど! 注文の義務ば果たしてもろうど!!」」」」
「注文の義務って初めて聞く日本語ですね……!?」
ツッコミに反応せず、イタマエ鐵浮屠は豪太郎へと手を伸ばす!
その様子を豪太郎は一瞥し、
「ここは……|歩み寄り《・・・・》じゃあ!!」
叫びながら跳躍し、イタマエの顔へと何かを叩きつける!!
「「「「アバーッ!? な、なんじゃこいは!?」」」
「砂糖たっぷり、フルーツ入りパウンドケーキである!!」
「なんで用意してあるんだ!?」
「どうしてそれを叩きつけてるんですか!?」
「あーっ、ワタシもそれ食べたいわっ!!」
四者四様のリアクションを受けながら、豪太郎はあえて無反応!
鐵浮屠の顔に乗ったまま、混沌とした行為を続ける!!
「もういっちょパウンドケーキじゃあ!!」
「「「「グワーッ!? 視界が黄色いスポンジまみれになっちょっど!!」」」」
「これはオマケのメープルシロップじゃあ!!」
「「「「アバーッ!? 頭部ユニットに、異常な粘っこか液体が付着しちょっ!!」」」」
唐突な暴虐行為にもう一体のイタマエ鐵浮屠は唖然!
味方√能力者たちも、困惑や羨望などで、少なくとも戦闘対応に気が回らない!!
「これは歩み寄りだ。意図が分かるか、イタマエ番長!!」
「「「「わ、わからん!! なんじゃこいは!?」」」」
「ワシの手作りのパウンドケーキを食わないとは、無礼なのではないか!?」
「「「「しょ、食事ユニットはおいには付いちょらんけ、無理じゃっど!!」」」」
「諦めるな! 貴様も金属吸収ユニットが付いていない人間に強制しただろう!」
状況はカオスであるが、言ってる事自体はド正論である!!
自分がやられて困ることを、相手にやることは本来いけないことなのだ!!
主張は一方的に押し付けるのではなく、相互協調が必要なものなのである!!
「ゆくぞ、|白毫號《びゃくごうごう》!」
「ブルルルルッ!!!!!」
「白馬!? え、どっから出てきたんだこの馬!?」
「いざここで新必殺技、番長反動三段キックじゃあ!!!」
突如ビル4階に出現した、白毫號は豪太郎を乗せ跳躍!! 反動一段!
豪太郎は空中で白毫號の背からジャンプし空中に舞う!! 反動二段!!
……豪太郎の足に、光のオーロラが顕れる!
その光と勢いが、パウンドケーキ塗れの鐵浮屠頭部に突き刺さった!!
「「「「な、なんでじゃあ~!? サヨナラー!!!」」」」
鐵浮屠、1体撃破!!!
「これは真の番長反動キックではない。真なるキックだった時は貴様も死んでいた。
なぜそうしなかったのか、その理由が分かるか、イタマエ番長2号!!」
「「「「エッアッハイ、おいどん、2号じゃったとね??」」」」
「そうだ2号! 1号は料理人としての誇りなきがゆえに葬らざるを得なかった。
しかし! 貴様にはまだ、大食番長を満足させる、料理人の使命が残っている!!」
「「「「!! な、なるほど……! 確かに、まだ……死なんわけにはいかんど……!!」」」」
「あっ、まだワタシ注文続けていいのね? やったーっ!」
敵の立場ではあり続けるも、その在り方への尊重がないわけではない!
それがゆえに、使命が終わるときまで決着を付けずにいる漢たちの絆!
何が起きているのか良くわからないが、寿司を頼めるアリスの喜び!!
奇妙な光景は、こうしてまだ終わらずに続いていく!!
「クラウスさん、これ普通にいま終わらせたほうがいいんじゃないですか?」
「いや……豪太郎さん一人で倒せるなら、俺達は別個体に向かうのが効率的だと思う」
ついにツッコミを放棄した2人は、変に深入りしないよう、挨拶せずに退散した!
青空の広がる真昼間にも関わらず、深夜テンションな混沌空間の対処としては最適解だろう!
「あっ、イタマエさん! 自分の分とは別にお土産様もお願いっ!」
「「「「ハイヨロコンデー!」」」」
「数は、えーっと334個っ!」
……いつ終わるんだ、この混沌空間は!?
雌雄自体は決したようなので、もう終わりということにしてしまっていいだろう!
というわけで、次なる戦場へと描写は切り替わるのであった!!
13体いた鐵浮屠は5体が撃破され、残るは8体。
そのうち1体は、大食番長なる少女妖怪(?)につきっきり。
すなわち、実質的に相手をすべき個体はあと7体というわけである。
「機械戦闘群の発想はぜんぜん分からないけども。
それはそれとして、あの金属料理を食べまくってる子、凄いな……」
|八木橋《やぎはし》・|藍依《あおい》(常在戦場カメラマン・h00541)はそう呟いた。
彼女は現在、路駐したキャンピングカーの中から状況確認をしているところである。
彼女は新聞記者であり、カメラマンでもある。
当然、手持ちのカメラでも写真を撮るが、昨今の流行りもちゃんと押さえており。
千里眼カメラと名前をつけた、多数のドローンで多方面を見ている真っ最中なのだ。
「……あっ、これもしかして、使えるんじゃないですか?」
思いついた作戦の現実性を1人熟慮して。
勝算があると確信し、藍依はキャンピングカーのエンジンを掛けた。
●
「「「「そこの蟹どん! さっきおいの飯ば食うちょったん、見たどーっ!!」」」」
「「「「もっとたらふく食うてくれんか! 上ん人も一緒にな!!」」」」
「嫌アルよ!! マジで勘弁してほしいアルね!!!」
鐵浮屠2体に追いかけられながら、そう叫び返したのは|解《カイ》・|有明《ユウメイ》だ。
人間を追いかけるのに夢中ならば、自ら姿を晒しておびき寄せよう。
その発想自体は悪くなかったのだが、ここで一つ問題が発生した。
見た目では見分けがつかないが、敵の巨大ロボ鐵浮屠には本体がいる。
巨大蟹の相棒、|リューゴゼ《瑠巨背》に乗って撹乱すれば、量産型をふるい落とせるだろう。
そう思っていたのが、さて、ではトラブルは何なのか?
「「「「おいも混ぜてくいやんせ!!」」」」
「だぁーっ、増えた!! なのになんで誰も脱落しないアル……!?」
後続の鐵浮屠、全員大体同じ速度なのである!!
それもそのはず、どれが本体かは知らないが、概ね彼らは同性能なのだ!
分隊操作で落ちるのも、あくまで|反応《・・》速度である!
結果からいうと、鐵浮屠3体は、めっちゃすり足でドスドス付いて来続けている!!
「動き方が! キモいアル!!」
「「「「傷つくけん、そげなこつ言わんでくいやんせよぉ〜!」」」」
「「「「こいでもおいどん、一所懸命がんばっちょっど! バレエ始めたりもしてよぉ!!」」」」
「ツッコまないアル!! 絶対にツッコまねえアルヨ!!」
ほんのりデブッチョな巨体がバレエをやっているイメージ図を想像するも、黙殺!
ともかく打開策がないのだから逃げ続けるしかない。
そう思っていた有明に、悪いニュースが飛び込んでくる!!
「あれ、リューゴゼ……? げっ、もしかしてスタミナ切れてきたアルカ!?」
有明を背に乗せ、進行方向に横走りを続けてきたリューゴゼが鈍足になり始める!
機械は燃料ある限り走り続けるが、生物はさらにスタミナの概念を抱えている!
このままだと、金属飯を食わせられる羽目になってしまう!!
「狭所、狭所はどっかにないアルか……!?」
そう思って当たりを見回すが、ここは√ウォーゾーンの戦闘機械都市!!
どんな路地裏でも最低2車線! 闘技場で見かける、無駄に広い道々!!
道が広いのは悪いことではないが、少なくとも今は逆にマズイ!!
(いや、まだ慌てる時間じゃないアル……! 何か、機会を、見つけるアル!!)
そう腹を括って背後の鐵浮屠を見上げた有明は、|それ《・・》を発見する。
――ドローンだ。数台のドローンが、巨大ロボの頭部付近を飛んでいる。
それは何かを投下して、爆発!!
【激写スクープ! 巨大板前ロボ! 金属料理のお得意様を発見!!】
「「「「おぉ!? なんじゃなんじゃ!?」」」」
「「「「別んおいの最新情報が流れてきよっどか!?」」」」
【お得意様、大満足! 334人前の金属寿司を追加発注!!】
「「「「おぉー!? すっげこつ言いよるど、おい!」」」」
「「「「嬉しかー! やっぱ分かってくれる人は、ちゃんとおっとじゃな!!」」」」
爆発は、激しい音ではなくスクープの見出しを大音量で読み上げる!!
……これは、八木橋藍依が放った√能力による爆発だ!
その名を、|虚偽情報告発《フェイクバスター》という!!
【求む! 追加板前@1! 急いでその座を確保しろ!!】
「「「「な、なんち!?」」」」
「「「「こいはもう、じっとしちょられん! 今すぐ行かんといかんど!!」」」」
「「「「あっ、別のおいどん! ズルかー、先行きしやがってー!!」」」」
最初の2つが望ましい真実であるがゆえに、最後の嘘が激しく刺さる!!
そう嘘だ! 別に料理人の追加募集は無いし、1人だけという縛りもない!!
|虚偽情報告発《フェイクバスター》の効果は単なるスピーカーではない!
それは、虚偽の流布により疑心暗鬼と凶暴化を誘う、精神汚染攻撃なのだ!!
「「「「念願の料理人の座ば手に入れるどーー!!」」」」
「「「「させっかーーッ!! 殺してでも奪い取っどーー!!」」」」
「「「「な、なにすっとや、貴様ぁーーッ!!」」」」
出遅れた鐵浮屠がバーニアを吹かし、先頭の鐵浮屠へと殴りかかる!
もう1体の鐵浮屠も乱入して、もはや誰が誰だったか分からない!!
ゴウランガ!! これがデマゴーグの凶悪なる威力だと言うのか!?
「しょ、正直思っていたよりもヤバいことに……!」
キャンピングカーで現場に到着した藍依は、近隣の4階ビル屋上へと到達!
眼の前で繰り広げられる見苦しい惨状に、思わず職業倫理が揺さぶられる!
今回は攻撃だから仕方ないけれど、本業では絶対にやっちゃあいけないね!
元々やる気はなかったが、そう内心であらためて誓う藍依であった!!
「今の、お嬢さんの能力アルか? 正直助かったアル!!」
有明も、同じくビル屋上へと偶然合流!!
偶然だったが、こういう時、ちょうど良い高所には人が集まるものである!
ちなみに巨大蟹リューゴゼは、名誉の休息退場である! よく頑張った!!
さぁ、2人の前で繰り広げられていた鐵浮屠3体の三つ巴もクライマックスだ!!
「「「「アバーッ! サヨナラ!!」」」」
どの個体かもはや不明だが、頭部を完全に破砕された1体が爆発四散!!
残る2体は殴り合い続けているが、もはや精細を欠いている!
物理的な外装が砕けきった鐵浮屠たちは、防御力を完全に失った!!
「さぁ、よろしくアルよ、ヤマノカミ!」
有明は自身に付き従う、魚類、カジカの姿をしたインビジブルを泳がせる!
鐵浮屠の頭上高空に辿り着いたのを確認し、√能力、|禍霊場代《カリョウジョウダイ》を発動!!
インビジブルと有明の位置が入れ替わり、有明は上空で殴り棺桶を振りかぶる!!
「じゃあ私はもう一体のほうに行きますよ!!」
|虚偽情報告発《フェイクバスター》を落とし終わったドローン2体!
それを両手でそれぞれ掴み、全力で浮遊させながら藍依は跳躍!!
あくまで|撮影用のドローンであるが《浮遊・飛行技能がない》ゆえに、上昇力は期待できない。
しかし、鐵浮屠の頭部へと取り付くだけなら、気休めの滑空で十分だ!!
「早く終わらせて、普通のご飯を食べに行くアル!!」
「良い店知ってますよ! 記者なので!!」
全力全霊の、殴り棺桶の叩きつけ!!
アサルトライフルHK416の、零距離射撃一斉発射!!
その攻撃はほぼ同時に、2体の鐵浮屠の致命打となった!!
「「「「なんでこげなこっになったとやーーッ!!」」」」
「「「「仲間割れなんか、すっもんじゃなかどーーッ!!」」」」
鐵浮屠、3体撃破!!
そして、残る鐵浮屠4体も、似たような流れで防御力全損!!
対巨大ロボット戦は、確実に√能力者たちの勝利へと天秤を傾けた!!
ぶち切れて飛んでいくハチマキ!
ボロボロに着崩れして、格闘着の様相が出てきた前掛け白衣!
その下にあった中華鎧風の装甲も諸々崩れてしまっている!
しかし、鐵浮屠2体は未だ壮健に立っていた!!
反応速度が落ちているせいで、三つ巴の組では1体やられていたが。
1対1なら、相手の自分も遅いのだから、実際互角なのは妥当と言えよう!
「「「「おいどんよ。専属料理人ん座ば奪い合うちゅうとは、ほんのこて必要か?」」」」
「「「「……うむ? その心は?」」」」
「「「「新規さん沢山捕まえるほうが、嬉しかっち思うんは女々か?」」」」
「「「「名案にごつ」」」」
拳を下ろす板前2体!
暴走状態が解けた鐵浮屠は、冷静になり、頷き合う!
限られた客を奪い合うのではなく、新たな客を探しに行く。
それは料理人としては確かに大切な心構えなのかもしれない。
「「「「よっしゃー! ほいじゃ、人間さん探しばまた始めるどー!!」」」」
「「「「誰かおいの飯ば食うてくれんかー!!」」」」
ただ、要するにそれは最初の状況に戻るだけということである!!
√ウォーゾーンの人々からすれば、ずっと殴り合っててほしかった!!
「こらーっ!! 人間さんにそんなものを食べさせたらいけません!」
そんな人々の心情に応えるように、新たな人影が参戦する!!
その名は、|エーリカ《Erica》・|メーインヘイム《Mainheim》(あなたの帰りを待つ母艦・h06669)!
その姿は、少し古い時代の正統派ヒロインのような素朴さの、エプロンを付けた女学生である!!
「代わりにわたしが|食べてあげます《・・・・・・・》!!」
ただし、彼女はただの普通の女学生ではない!!
彼女の身長は、8メートル! そして金属を食えるという認識と事実!!
そう、彼女は人型のベルセルクマシン! 巨大メカ娘ちゃんなのである!!
●
「「「「待たせたのーッ!! ウォーゾーン・ゴムロールじゃっど!!」」」」
「「「「こっちも出来ちょっどーー!! 硫化硫黄巻きじゃーーっ!!」」」」
「待って待って、待ってください!!」
鐵浮屠の料理を食えると宣言した彼女は、律儀に色々食べていた!
味がない! あごが痛い! でもなんか可哀想だから、と食べてあげていたが。
ついにろくでもないものをお出しされ、思わずストップしてしまったのだ!!
だが、一体それを、料理人たち以外の誰が咎めようか!?
ダマスカス卵焼きだの、鉄の唐揚げだのは、素材はともかく伝統料理を模していた。
でも何か、いま出てきた2つはおかしくないか!?
参考元にした料理すらついに分からなくなってきていないか!?
「何か巻いてるもの、ってガワさえ保てば寿司になると思ってるんですか!?」
「「「「フォーマットはちゃんと守っちょっどに……いったい何がいかんとや……?」」」」
「食べてもらう相手の気持ちを考えてないですよね!?」
技巧を凝らすことは悪いものではない。
しかし、料理とはまず、食べる人のことを考えて作るはずのものなのだ!
けれど、ここにあるものは、技巧を凝らすこと自体が目的化してしまっている!!
「「「「他人の気持ちっち……そいは、そげん大事な要素なとや?」」」」
「えっ……」
「「「「目標ば定義して、それば満たす。そいが戦闘機械の存在理由じゃろが」」」」
「「「「他人の気持ちば理解するっちゅうのは……そいに貢献すっとかい?」」」」
――何か、何か異常なものが感じられた。
ベルセルクマシン、であるエーリカは、そこにある種の|懐かしさ《・・・・》のようなものを感じ。
しかし、それが何かを言語化することを|本能的に《・・・・》拒絶した!
「わからないけど……なんかわかりました!! あなたたちは、|悪い子《・・・》です!!」
エーリカは、その衝動的な感覚に身を任せる!
後方へ跳び、身につけていたエプロンを取り払い、その目に決意を光らせる!!
エプロンとは何か、それは身を汚さないようにする防具である!
防具を外した彼女は、精神的に戦闘モードへと切り替わったのである!
「「「「食事ん最中に勝手に席ば立つっち、マナー違反じゃっど!!」」」」
「「「「お残しは許さんどーーッ!! 殴ってでも、座らせもすっ!!」」」」
鐵浮屠2体は、エーリカのその変化にいち早く気付いた!
先手必勝とばかりに全力で、エーリカのもとへと走って向かう!!
2体同時ですか、とエーリカが苦戦への予感に眉をひそめたその瞬間!!
「足元がお留守よ!! ウェザーブレイカー斉射~っ!!」
「「「「アバーッ!?!?」」」」
「「「「グワーッ!?!?」」」」
レイン砲台によるレーザーの一斉発射が、鐵浮屠たちの足元を襲う!!
ボロボロになった脚部装甲を撃たれた鐵浮屠は悶絶!!
一体はコケて地に倒れ伏し、もう一体ももんどり打ってバランスを崩す!!
エーリカへと繰り出されようとした鉄拳も勢いを弱め。
それをエーリカは裏拳で払い――そのまま、強烈なビンタを喰らわせる!!
√能力、|平手打ち《ビンタバトル》の8倍ダメージ攻撃が、鐵浮屠頭部にクリティカルヒットした!!
「「「「ひでぶっ!?」」」」
「「「「うわばら!!?」」」」
強烈な一撃で吹き飛ばされた鐵浮屠は、もう1体の鐵浮屠に着弾!!
大ダメージで身動き取れない者と、それに潰されて動けない者がそこに居た!!
「やっほーエリちゃん! 待たせちゃったわね!」
「クーちゃん……!! ずっと探してましたよ……!?」
鐵浮屠の足元を攻撃したのは、一体誰だったのか?
その正体は、クーちゃんと呼ばれた彼女、クーベルメ・レーヴェである!!
なお、メイドロボを撃破した際のナース服から、軍服スカートに戻っているので悪しからず。
「ごめんね、エリちゃん。そこのおっきいのに、真面目に付き合ってたから丁度いいかなって!」
「丁度いいかなって、なにがですか!?」
……地面を割って現れる鐵浮屠を、真っ先に目撃したクーベルメは悩んだ。
自分が直接この巨大ロボを倒す手段が、どうにも思いつかなくて悩んだのだ。
そこで思いついて呼び出したのが、|友達《Anker》であるエーリカだったのである。
「持つべきものは、やっぱり友達よね! 来てくれて助かったわ!!」
「戦いって事以外よく分からないで来たけど……あの人達巨大ロボでしたよね。
もしかして、わたしのこと、巨大ロボ扱いしてませんか……!?」
エーリカは全肯定甘やかし型の人類の味方である。
しかし、人よりも大きいということを気にする乙女さもある!
なのでそこそこ複雑な気持ちで、むーっとほっぺを膨らませながらクーベルメを見た。
「……あっ、大事なことがあるんだけど」
「誤魔化しですか? 騙されませんよ!」
「いや、本当に大事なことなのよ! ほら、上見て上!」
一体何です? と上を見て、エーリカはサァッと顔を青ざめさせた。
「「「「なんちゅう酷かこっすっや……!」」」」
「「「「許してほしかっち思うなら、わっぜ俺の飯ばちゃんと食わんか……ッ!!」」」」
プルプルと震えながら起き上がろうとする鐵浮屠たち。
この期に及んでも飯を食わせようとする意思力だけは未だに凄まじい。
しかし! 彼らの視線の先には既にエーリカとクーベルメの姿はなかった!
わずかな短い時間の間に、エーリカは、クーベルメを抱えて全力で逃走していたのだ!
そう、逃走しているのだ。
一体なにから? その答えが、空から飛来する。
……それは、爆撃機の一群であった!!
「わー、すごーい。怪獣映画の航空部隊みたい!」
「なんで他人事なんですか!? あれ、クーちゃんの航空支援部隊ですよね!」
その発言の終わり際に、激しい爆破音が轟き渡った!!
クーベルメの√能力、|航空支援要請《クローズ・エア・サポート》。
その能力により|呼び《生み》出された航空部隊の攻撃が、容赦なく鐵浮屠たちに降り注ぐ!!
もし気力十分であれば、この爆撃は当たらなかったかもしれない。
しかし、今は違う!! 装甲が壊れ、もんどり打って転んだ巨体など、恐れるに足らず!
「わぁ、エーリカ見て! 爆発がすっごいわ! たーまやー!!」
「背中が熱風で熱いんですけれども! お気楽すぎですー!!」
爆風と瓦礫のオーケストラは、鐵浮屠の姿と声を完全に覆い尽くす。
ゆえに彼女たちはまだ確認ができていないが、ここは断言してしまおう。
――鐵浮屠、2体撃破。残るはラスト、2体である!!
|森屋《もりや》・|巳琥《みこ》は量産型WZ「ウォズ」を駆っていた。
目指す先は、残る2体の鐵浮屠。
颯爽と戦闘機械都市を疾走するその鋼鉄の機体の内部では、
『速い、速い、実際速い』
『サラマンダーより高速、重点な』
『制限違反速度では? |素体《みこ》は訝しんだ』
『戦闘中に違反切符を気にするのはおかしい、そう思いませんか、あなた?』
「っだあーっ!! うるさい、うるさいですよ!?」
WZの基幹システムから流れる複数の声!
自分と同じ声が、明らかに自分が言わないことばっかり言う混沌状況!
いいかげんにしてほしい、とそれらにキレながら巳琥はWZを操縦していた!!
『バイタル情報を確認、血圧が5%上昇』
『健康に悪いので、はい、りらーっくす。りらーっくす』
「誰のせいだと思ってるんですか! おばか!!」
この声は一体なんなのか。
それは、巳琥が運用している|蜃気楼の分隊《ミラージュ・スカッド》たちの声である。
先程のメイドロボ部隊との戦闘で活躍していた彼女たちの物理的な姿はない。
自我っぽいものがメチャクチャに生えた彼女たちの戦果は凄かった。
しかし、命令をする前に勝手に動くわ、無視するわ、とあまりにも自由すぎたのも事実!
コントロール不能なものを野放しにしておくのは、危険があぶない。
というわけで、後で|初期化《メンテ》を入れようと全員の電源を切ったわけなのだが。
そう、電源を切ったはずなんだけれども。
「なんで、|ウォズ《WZ》から声がしてるんですかね、ほんとに……!!」
『回答、|分隊《わたしたち》にも謎です』
『その時、不思議なことが起こった!』
『人格データの移動プロセスをもう一回見てみよう!!』
「やめてください!! 知りたいわけじゃないんですよ!!」
こいつら、ネットワークに繋いであると伝染してしまうのでは?
そう黙したまま考えた巳琥は、|スタンドアロン《絶対に逃さない》環境を用意しようと心に決めた。
『おおっと、なんか嫌な予感がします』
『知ってますよそれ、ウォーズなスター映画だと生存フラg――、』
「管理者権限!! 音量設定、オール・ゼロ!!」
音声命令でOSを動かし、機械の音声をシャットアウト。
12体分の『横暴だー』というシステムログが流れるも、巳琥はガン無視した。
人の声がしない空間のありがたみを感じながら、メインモニタを再度見つめる。
――あと僅かで、最後の敵へと、接触する。
●
『まずい! 車両がオシャカになったっ!!』
√能力の影響で、疑心暗鬼と凶暴化に陥っている鐵浮屠!
巨大ロボ同士が殴り合うダメージは、人類側の利益に繋がっている。
だが、それは全体的な話だ。局所的には被害に遭う者もまた存在する。
たとえば、|鐵浮屠《ティエフートゥー》を撒き続けていた一般兵の車両が。
殴り合いの結果、弾け飛んだ破片の飛来に巻き込まれて大破するような事態である!
そう、彼ら一般兵は、まさに今窮地へと追い込まれてしまっていた。
「「「「そこのあんちゃん、おいどんの飯ば食うてくれーっ!!」」」」
「うわーっ! ウワーッ! やめろーっ!!」
20メートル、6・7階建てビルに相当する巨人の手のひらの威圧感は凄まじい!!
現実的な話として、それが迫る速度は、人間の走力よりも速いのだ!
車両の速度を失った一般人の彼らに、それは圧倒的な絶望以外の何物でもなく!!
「――やらせませんっ!!」
ゆえにこそ、|√能力者《エリート》は彼らにとっての希望なのである!!
彼らを護るように、鐵浮屠の手の前に駆け入ったのは……品問・吟である!!
吟は、巨大な鋼の手のひらを、卒塔婆で殴って弾き飛ばした!
「逃げてください!」
「あ……ありがとう……!!」
それは信じ難い異形のように一般兵の彼らの目には映る。
地獄に仏。走り出す彼らの脳裏には、まさにその言葉が浮かんでいた。
それは言葉には成されなかったが……尼僧である吟にとって、至上の称賛に違いない!!
「「「「おぉ、吟ちゃんか! おいどん、あんたに期待しちょっど!!」」」」
「!? なんで名前を把握してるんですか!?」
自らを掴もうとする鋼の手のひらを、吟は弾き飛ばし続ける!!
そのたびに、吟の顔は苦痛に歪んだ。
……そう、吟はこの打ち合いに、勝算があって飛び込んだわけではない!!
人を助けなければと言う衝動で飛び込んだ吟は、圧倒的不利な戦いに挑んでいるのだ!
「「「「メイドロボが勝った手巻き寿司大会、ライブで見ちょったっどーー!!」」」」
「!? あれを見て、私に何を期待するんですか……ッ!?」
同士討ちの殴り合いをしていた鐵浮屠の指は破損しており、動きに精彩を欠く!
また、この巨大ロボは人間を生かしたまま捕まえようとしている!
これは、圧倒的なハンデであると言って良い!!
「「「「おいどんの飯も、たんと食えっじゃなかかーーッ!?」」」」
「結局それですか! 無理です! 普通にお腹もいっぱいですし!!」
吟は、霊力を籠めて力を溜め、限界を突破し、激痛に耐えながら怪力を振るう。
しかし、鐵浮屠の手は、例えるならば荷物の詰まったトラックに等しい重量の代物だ!
鐵浮屠の手加減と、吟の全力が釣り合った結果として。
この弾き飛ばしによるヒット・アンド・アウェイが、奇跡的に続いているにすぎないのだ!!
弾き飛ばしと回避は未だ成功し続けているが、離脱や反撃の隙がない!
そう、隙だ。いま、吟にとって必要なのは、現状打開の可能性!
その突破口を見つけられないかと、吟は抗いながら鐵浮屠に問いただす!!
「――寿司大会、見てたって言いましたね!
だったら『食べる人の好みを無視した料理はダメ』って、学んだんじゃないですか!?」
それは、メイドロボが発した理解の一言だった!
その後に台無しな会話が続きはしたが、メイドロボは道理自体は解していた!
なのに、なぜこの板前たちは、それを未だ理解していないのか……!?
「「「「? メイドロボの目的と、おいどんの目的は……別もんじゃなかと?」」」」
「目的……!?」
「「「「なるほど、メイドロボは、経験の蓄積が目的じゃったっど!
じゃっから、話が通じたっち思う……ばってん、おいどんには関係なかっど!!」」」」
「まさか……! |自分の目的以外《・・・・・・・》、|大切なことは何も無い《・・・・・・・・・・》って言うんですかっ……!?」
「「「「――正常な機械に感情んば見出すんは、人間の|都合よか癖《・・・・・》っどね」」」」
その声に感情はない。 それがゆえに、吟は思わず顔を歪めた。
おかしな発言をして、感情のようなものを見せて、そこには人間性があるように思えていた。
だったら、話が通じるんではないだろうかと、少なからず吟は思っていた部分もあったのだ。
だが、相手自身がそれを否定した!
それどころか、先程のメイドロボたちとの意思疎通ですら、見せかけの嘘にしか過ぎないと。
√ウォーゾーンの人々が戦っているもののおぞましさ、その過酷さの一端を理解して。
……思わず動揺を誘われたからか、吟の弾きが、失敗する!
「っ、やばっ……!!」
「そこの人、体、反ってください!!」
吟は突然聞こえた声に、反射的に従った。
直後、後方へと倒れるよう体勢を取った吟の眼前を、金属の塊が通り過ぎる!!
「「「「グワーッ!?!?!?」」」」
……それは、巳琥の駆るWZウィズの飛び蹴りだ!
ボロボロになっていた鐵浮屠の手首関節が、質量攻撃によってひしゃげ折れ千切れる!
そしてその手首が繋がっていた、鐵浮屠の体躯自身も前のめりに地面へ転倒!!
WZの飛び蹴りをギリギリで回避した吟は、地面に倒れて動けない!
あわや、巨大ロボの転倒に巻き込まれるかという刹那、巳琥のWZが真紅に発光する!!
「間に合え……っ!」
巳琥は2つの√能力を同時に発動する!
それは、自身の|反射神経《そくど》を倍加させる、|白銀の雫の願い《ウィッシュ・シルバードロップ》!
そして、機体の移動速度を4倍化させる|過負荷機構解放《アプローブ・オーバーロード》を!
反射神経と、機体の反応速度を限界突破させて。
飛び蹴りの加速度を殺す大推力で、巳琥は吟の身をWZで抱きかかえて離脱した!!
一方、激しい勢いで転倒した鐵浮屠は、その場に置き去りにされた卒塔婆に衝突する!
長年霊力により補強されていた卒塔婆は、とてつもない頑丈さを発揮した!!
鐵浮屠は自身の勢いで、杭として鐵浮屠の頭部へと刺さり込ませたのである!!
「「「「アババババ、サヨナラーッ!?!?!?」」」」
偶発的な事故により爆発四散する、鐵浮屠! 残り1体!!
その爆風を受けて横転しながらも、巳琥と吟は安全圏へと生還した!!
「し、死ぬかと思いました……!!」
「こっちもです……! あ、まずい、決戦モード、終わっちゃいました……!!」
万能たる√能力の発動といえども、その影響を受けるWZは万能ではない。
一瞬の黒煙を吹き上げ、WZウィズの色は元へと戻る。
巳琥はシステムを確認するが、すぐの再起動は無理だと判断した。
「「「「くっそぉ、最後の一人になっちもたど!! じゃっどん、おいどんは諦めんどーーッ!!」」」」
「うわあ、諦めててほしかったのです……!!」
巳琥は思わず顔を覆った。
普通こういうパターンでは、本体を倒したら分体は止まるものだと相場が決まっている。
13体居て、最後の1体まで本体が生き残るのはあまりにも確率が悪すぎる!!
「……でも、逆に言えば、アレが最後の1体なのは変わりませんね」
「すっごいポジティブですね……!?」
「明るく元気が取り柄ですし、小難しいこと考えるのは苦手なので!」
巳琥に返しながら、吟はこちらに迫ってくる最後の鐵浮屠を見た。
「というわけで、やっちゃいましょう! すっごいシンプルな方法で、いけそうなので!!」
●
鐵浮屠の最後の1体。
彼はずっと逃げている相手ばかりを見ていたので、目に飛び込んできた状況に歓喜した。
「「「「おおっ、とうとう逃げんで捕まってくれる気になったっか!?」」」」
WZウォズと、その手のひらに掴まる吟の姿。
破れかぶれになったのか、宗旨替えをしたのか、それとも自分を倒すつもりなのか?
そのどれだとしても構わない。
どのみち、他の分体は全て破壊されているのだから、これは負け戦だ。
それならば、%がどれだけ低かろうと、目的達成の確率が高くなることは望ましい。
「「「「もうひとつだけでよか、おいどんの料理ば食うてくれーーーッ!!!」」」」
そう、鐵浮屠にとって、料理が美味しく食べてもらえるかは、おまけに過ぎない。
料理を食わせること、それ自体が達成できればなんでもいい。
人間からすれば破綻した、しかしこの機械にとっての最優先目標へと彼は突き進む!!
すなわち、相手から近寄ってくるのならば、それを逃げる選択肢はない!!
自身が破壊される前に、1品だけでも何か食らわせられればそれでいいのだ!!
「――作戦開始です!!」
巳琥は自身のWZを跳躍させる!
ビル群に足を掛け、壁を蹴って反対側のビルへと移動!!
地形を利用し自身を撹乱させようとする動きに、鐵浮屠はしかし冷静に対応する!!
「「「「最後の1体となった、おいの反応速度は、さっきよりも速かっど!!」」」」
そう! 彼の低下していた反応速度は復活している!
今までであれば遅れていたであろう目線の動きは、完全に巳琥のWZを捉えていた!
伸ばす手が向かう先も、予測位置へと適切に到達する!!
「急に面倒な動きになりましたね……!」
バーニアで無理矢理に機動を変えながら、巳琥は射撃を実行する。
試作型対物狙撃銃【Proto-Meteor shower】。
その名の通り本来は狙撃用の兵器だが、今回の目的は制圧射撃だ。
その光線は、しかし装甲には到達しない!
「「「「負け戦で全力出さんような阿呆は、おらんど!!
エネルギーバリア、展開じゃああああッ!!!」」」」
光線は装甲表面に展開された、バリアによって消し止められる!
√能力、重騎兵衝鋒!
それは自身の移動速度を3倍にし、質量で都市を破壊する攻撃!!
今までは封じていたその能力を、ついに鐵浮屠は発揮しようとした!!
「「「「おまんら2人さえ確保できりゃ、もうこの区画の他の人間んごて知ったこっちゃなか!!
突っ込むぞ、突き進むのみじゃーーーッ!!」」」」
「――そうは、させませんっ!!!」
その声に、鐵浮屠は一瞬思考を止める。
彼の視界には、確かに巳琥のWZが収まっている。
ゆえに、声はそこからしなければいけないはずだった。
しかし……その声は、頭上から、聞こえている!!
「「「「な、何ぃーーーーーーっ!!!?」」」」
空中! そこに吟は居た!!
そう、先程までWZの手にしがみついていた吟がなぜそこに居るのか!?
それは、巳琥の地形利用移動の際に、自ら手を離して空中へと放り投げられたからである!!
彼女は鐵浮屠の頭上で、√能力を展開する!!!
「|いただき《・・・・》、|ます《・・》っ!!」
その能力の名は、大悪喰!!
妖怪、二口女である彼女は、第2の口を自らの手のひらで開かせる!!
そして、鐵浮屠のエネルギーバリアを喰い始めた!!!
「「「「う、うおおお!?!?!?」」」」
「うええええ!! あっつ、熱っ!? 火傷しそう!!!」
エネルギーが、直接吟の手のひらに吸い込まれていく!!
大量の熱量に苦しむ
そのまま全てのエネルギーを吸われたら頭部が丸ごと食われると、鐵浮屠は判断した!!
バーニアの機動を止め、全てのエネルギーを頭部バリアへと回す!!
「|それを《・・・》! |待っていました《・・・・・・・》!!」
巳琥は、ある物体を手に、鐵浮屠へと突撃する!
それは……先程もう1体の鐵浮屠を屠った、吟の卒塔婆だ!!
「「「「な、何ィーーーッ!?!?!?」」」」
鐵浮屠はエネルギーバリアを展開し、卒塔婆を防御する!!
しかし、それは詰みでしかないことに、鐵浮屠は直ぐ様気付いた!!
バーニアを動かし逃げようとすることはできない!
その瞬間、自身の全エネルギーと頭部を喰い切ろうとする吟に喰われる!!
しかし、卒塔婆は僅かではあるが、エネルギーバリアを貫き始めている!!!
バーニアで機動しなければ、巳琥のWZに刺し貫かれてしまう!!!!
「「「「き、金属めしば食うてもらおっち思うただけじゃっちゅうのによぉーーーッ!!!」」」」
「金属に拘らなければ、多分それだけでよかったはずなんですけどね……!!」
「倫理を捨てる研究が進んだら、いずれ食べる変態も現れるかも……ですが今は違いますっ!」
各地で勝利し、応援に向かおうとした√能力者たち。
避難所から勝負の行方を見守っていた人々は、そうして、最後の赤い閃光を目にした。
――全個体、殲滅!!!
●
「……結局、今回の事件ってなんだったんだ?」
「正直なんも分かんねえけど……まぁ、戦闘機械を理解できたこと自体、一回もねえだろ」
全てのメイドロボと、イタマエなる巨体の殲滅が完全確認された後。
√ウォーゾーンのこの都市では、戦後処理が速やかに開始された。
戦闘で破壊された施設の修復や、生存者確認、機材返還など、戦後処理は多岐に渡る。
ここに居る2人の一般兵もまた、機材返還を済ませたばかりだった。
|√能力者《エリート》から貸し出してもらったキッチンカーを約束通り無事に返し。
その√能力者から、炊き出しという名目で彼らは食事を提供してもらった。
それを食おうと道端に座り、彼らは袋を開けて、一瞬黙る。
「……で、これ何、だったっけ?」
「サーモンサンドって言ってたかな……?」
「小麦の香りがするパン自体も珍しいけど……サーモンって何だ?」
2人は揃って首を傾げた。
その姿を見た1人の老人が、彼らの方へと歩み寄る。
「それはな、魚じゃ」
「おぉ? 知ってるのか、爺さん?」
「うむ、√ウォーゾーンに戦闘機械群が現れた1998年以前にはよく見かけた、海の生物じゃよ」
「え、これ|天然物《オーガニック》なのか!? あの嬢ちゃん何者だよ……!?」
鮮魚を食うには燃料・漁船・漁港・運輸と言った資源や施設が必要だ。
しかし、√ウォーゾーンでそれらを兼ね備えられる場所は限定的すぎる。
物心ついたのが戦争開始時よりも後である若手には、知る由さえない。
「ワシも本当に、30年ぶりに見かけるわい……サーモン、寿司屋で食うのが好きじゃった……」
「なんか今日の戦闘機械も言ってたな、寿司……」
大丈夫なものなのか、よく分からなくなったな、と。
そんな不安を抱えながら、彼は一口サーモンサンドを齧り、無言になった。
「……爺さん。昔は寿司って、どれぐらいの頻度で食えたもんなんだ?」
「労働の対価を出しさえすれば、いつでも食えたよ。いい時代じゃった」
「……戦争、早く終わらしたいぜ」
その声音は、明るい。
彼らにとって、今回の戦いは本当に何だったのか、あまりにも謎すぎた。
おそらくは一生正体が分かることはないのだろう。
しかし、一つだけ、彼らが確信を持って言えることができた。
美味いものを食べられること、知っていることは幸福である。