シナリオ

思い出のAnkerランド

#√マスクド・ヒーロー #Anker抹殺計画

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 #√マスクド・ヒーロー
 #Anker抹殺計画

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●故郷
 夏が来れば思いだす。
 ふるさとの遊園地を……。

 そこは何の変哲もないゆうえんち。
 だけれども私にとっては思い出の場所。

 誰かにとっては普通の場所かも知れない。
 ただの遊び場かも知れない。

 それでも彼らにとっては故郷の思い出であり。
 いつか帰ってくる拠り所であり、未来有る者にとっては憧れの地。

 そんな名も無き土地を狙う、一つの影。
「人でなく大地が、たゆまうインヴィジブルの錨となりうるか……」
 影の名はサイコブレイド。
 外なる星からやって来た男。
「――羨ましいな」
 サイコブレイドが呟き、そして頭を振った。
 大地とて人質になる可能性が無いわけではなかったからだ。
 現に今、このAnkerは壊される――一人の外星体によって。
「赦せとは言わない」
 それは謝罪の言葉ではなく。
「だが、背負わないつもりではない」
 覚悟の一言。

「外星体同盟の命令により――これよりAnker抹殺計画を開始する」
 たった一人の男が罪を犯さんとしていた。

●手段は一つ
「サイコブレイドを倒すしかない」
 |佐藤・京《サトウ・ケイ》(たった一人の戦隊ブラック・h02013)が星を詠んだ。
「奴が狙わんとしているのは、とある場所にある遊園地。都心からは外れたところだけれどもそれなりに人口は多い――だからこそ、そこを拠り所にする者も居るかもしれない」

 Anker抹殺計画。
 星間生物として永劫の時を彷徨い、欠落を埋める存在を気が狂う程に探し続けたサイコブレイドが可能とするAnkerを判別する力を利用しての抹殺計画。
 狙われているのは誰も知らぬ√能力者かその兆しを持つものかもしれない。
 けれどAnkerを失えば、ただのインヴィジブルとして漂う危険性もある。

「まずは現地に行って、防衛体制を整えてくれ。ちょうど地元企業出資のローカルヒーローショーもやっているし彼らも客層拡大の為なら歓迎してくれるだろう……それにハコ(遊園地のこと)が壊れると仕事に困ると思う」
 星詠みが具体的な計画を切り出した。
「次がどうなるかは予想つきにくいがおそらくは配下の怪人との戦いになるだろう。戦場は遊園地だけれども幸い彼らは爆発しない。ジェットコースターのレールの上などで遠慮なく戦ってくれ。そして――」
 佐藤は遠くを見てから、一呼吸。
「サイコブレイドとの戦いだ。戦場はAnkerたる遊園地から離れた場所。でないと奴とみんなの√能力の巻き添えを喰らっちまう……以上だ」
 星詠みが全てを告げる。

「予兆を見たかは分からないがサイコブレイド自身も望まぬ行動であるらしい。けれどそれで刃が鈍ることはない。だから奴の事も考えて――倒してくれ」
 それがAnkerを守るためだからと佐藤は告げるのであった。

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第1章 日常 『ローカルヒーローショー』


見下・七三子

●向こう側の景色

 ステージでアクティブに動く熊のような戦闘員。
 文字通り会場に流れる音楽に合わせてヒーローが動くと熊の怪人が吹き飛ばされる。
 その様子を|見下・七三子《みした なみこ》(使い捨ての戦闘員・h00338)は子供達と一緒に眺めていた。
「|実家の家業《悪の戦闘員》やってたころは、むしろ毎日参加してたようなものだったけれど……あんなだったのかあ、私達」
 家の仕事を思い出しつつ、かつての戦闘員375番は隅っこでストローを咥える。
 ステージから見る風景は新鮮でありつつも、何か向こう側の景色。
 決して自分達が犠牲になった世界ではない気がした。

 気を取り直して七三子が立ち上がる。今は√能力者、仕事に集中しないとなんとやらだ。
 会場脇の通路を歩いていけば事前に呼んでおいた戦闘員、いや親族12名。
 一見、スーツに仮面姿の怪しい集団だが、既に仕事は手配済み。右手に広告、左手に風船。
 告知と警戒を兼ねた彼らの姿に頷くと下っ端戦闘員は外に出ていく。
 こういう仕事は特に人数が必要、戦闘員だから分かることもある。手と足が多いほど、他の√能力者も力を発揮できるのだ。
 彼らの後姿を見送ると七三子はステージへと戻っていくと親族達の状況を把握しつつ、戦闘員は向こう側の風景を見守るのだった。

 ……こんな世界だからこそ守らねばならないから。

黒木・摩那

●こちら側の景色

 ステージのこちら側。
 演者と共に舞台を走り回るのは|黒木・摩那《くろき まな》(異世界猟兵『ミステル・ノワール』・h02365)。
「さあ、みんなで呼んでー!!」
 司会のお姉さんとして場を動かしつつ視線は観客席に。
 仕事としては客席に目を配り子供達の安全を確保するのも大事だが、それだけではない。
 √能力者として怪人が観客席に紛れ込んでいる可能性を真っ先に考慮し監視をしているのだ。

 摩那自身も仮の肉体をまとった外星体の一員ではあるがこの地球の人々に義理がある。
 その見えない絆があるからこそ、同じ外星体であるサイコブレイドのAnker抹殺計画は許せないし、外星体同盟の命令だとしても従えない。
 それが宇宙の掟だとしても……。

 摩那が視線を空へと移すと青が少しだけ霞む。
 自らのドローンである『アルバトロス』が仕事をしている証拠だ。上空から観客席とその周辺を監視し、紛れているであろう怪人を探し出す。
 ショーを見ずに周りを気にする者。席を頻繁に移り変わる者……明らかに目的を別に持っている者に当たりをつけてみる。
 幸いにも観客席にも√能力者はいるようで、敵の気配はない。

 状況に摩那は安堵……する事は無かった。
 背筋に冷やす殺気、明らかにホームとは言えない場所に何かがいる。
 どこだ?
 何処だ?
 視線を漂わせながら改めてステージを進行させた時――彼らに気づいた。

 敵役の熊の着ぐるみ。
 彼らが放つ何かが明らかに違う。
 摩那が視線を飛ばすと着ぐるみたちは特に反応を返さない。

 ……今はその時ではないという事ですか?

 そう解釈し、ミステルはステージの人間へと戻る。
 いつでも本当のヒーローになれるよう気を配りながら――

京終・白夜

●外から見たら

「あー、悪の女幹部だ!!」
「よしなさい! すみません、警備員さん」
 指さす子供を嗜め、母親は頭を下げる。
 そんな姿に|京終・白夜《きょうばて・びゃくや》(白日挑燈・h03162)は笑みを返して手を振った。
 その風体と身長から街の子供には怖がられ、自分の住む√では悪の女幹部っぽいとも言われるが本職ぞろいの|こちら《・・・》でも変わらないようだ。
 ……それはそれで厄介ではあるのだけれども。

 とは言え、そのまま悪の幹部を演じるのは粋とは遠いので今回、選ぶは裏方稼業。
 幸いにも警官だ、警備の仕事も仕事の内とばかりにお客さんの誘導を始めに諸々と雑務をこなす……先ほどのように悪の女幹部に間違われるのがしばしばあるが、場所が場所だけに仕方がないか。
 避難経路も確認し、チビッ子たちには怪人が出ても泣くなよと念を押し。ついでに隠されていた爆弾も見つけて、無事無力化。
「……ん? 妾は後でショーに出る悪の女幹部じゃなく、ただの一般的にカッコいいお姐サンでありんすよ?」
 手持ち無沙汰に爆弾を弄んでいる白夜。
 子供達や警戒線を張っている警備員が見つめる中、慣れたかのように軽口で切り返せばたちまち遊園地は歓声に包まれる。
「はてさて」
 呟く不良警官をよそに誰かにとってのAnkerたる土地の時間が進む。

 後は誰が来てもやることをやるだけ……そう考えると白夜の口元は不思議と笑みがこぼれるばかりだった。

ケイ・グレイズ

●そして舞台に戻る

 場は再びヒーローショーの裏側へ。

「ああ、遊園地。懐かしい響きです」
  ケイ・グレイズ(錆びた鎧のクルマ乗り・h00284)が一人呟く。
「ヒーローショーの中にヒーローが紛れていることもありましたか。わりと」
 苦笑しつつ過去を振り返る。
 今はそういう事はない。
 代わりに居るのは怪人だ。
 そう、ここに居る悪役として扮している着ぐるみたち……彼ら自身が怪人であった。

(しかしAnkerが狙われるのは宜しくない)

 敵が潜む中、かつての黒騎士怪人は思考する。

(百歩譲って私が死ぬのはいいですが、マージーは……もう少し現世を謳歌してもらいたいところ)

 思うのはいつだって|Anker《自らの鎖》のこと。
 だからこそ、静かに、そして|わざ《・・》と分からせるために殺意を飛ばす。
 襲撃時の立案などは手慣れたもの。なれば、どのタイミングで√能力を使えばいいかもわかる物。
 あとは|『まるで既に見ていたかのように』《アンチクロックワイズ・トリック》警戒線と踏み越えれば機を逃し一掃されるであろうレベルのトラップを張ってしまえば、他の√能力者もいる中では表立って動けない……怪人達が大規模に行動を起こさない限りは。

 時間を稼ぎ、自分の仕事を行ったケイは異形化を以って錆色の鎧を纏った騎士となり舞台へと上がる。
 ステージの上からは色々と見える上に――
「さあ、ご覧あれ」
 ――此処以上に子供達の笑顔を守る場所は無いのだから。

第2章 集団戦 『クマクマパレード』


●本番はこれから

 はじまりはいつも突然だ。

 まず会場全ての電源が一度落とされ、非常電源に切り替わる。
 手馴れた係員が異常を察知し、√能力者が確認、確保した避難経路を使って来場者を逃がしていく。
 その一方で電源は復旧し、無人の遊具が動き出し、場内に響くのは……。
「ク~~~~マッマッマッマ!!」
 ヒーローショーで悪役を演じていたクマの声。
「この遊園地はサイコブレイド様の命により、我々が占拠したクマ!」
 語尾に何かを付け加えるのはキャラ付けなのか生まれなのかは分からない。だが、ジェットコースターのレール、観覧車のゴンドラ、コーヒーカップの上に乗ったクマの怪人が機械の動きに任せながらもその場を確保している。
「聞こえているだろう、√能力者! 各アトラクションには爆弾を仕掛けさせてもらった……クマ!」
 目を凝らせば怪人達の足元にはダイナマイトと時計を組合わせた爆弾があり時を刻んでいた。
「爆発を止めたければ、我々を止めることだな――もっとも、貴様ら能力者にその余裕があるとは思えない。我々の勝利は確実だ! ……あっクマァ!!」
 慌てて語尾を付け足したクマの怪人達。
 一見、コミカルに見えるが状況はシリアスだ。
 複数の爆弾が爆発すれば遊園地は確実に吹き飛び、誰かの寄る辺は失われる。

 ……太陽が無くなれば地球が凍り付くように、何かが消えれば人の心は凍り付くのだ。

 これはそんな名も無き何かを守る戦いである。


※MSより
 今回の戦場はジェットコースターや観覧車の上などの遊具を舞台に行います。
 特に戦闘において不都合はないのでメタ張りは相手を叩き落とすくらいで大丈夫です。
 因みに爆弾を優先しても成功になりますので非戦闘系のキャラはそちらを狙うというのもありかと思います。

 では、プレイングお待ちしております。
ケイ・グレイズ

●同類、哀れみ

 会場に響くクマの笑い声。
 だが、それは子供達の夢がかき消した。

「語尾を忘れ、キャラぶれを起こすなど怪人の風上にも……」
 ヒーローショーのテーマが響き渡る中、音響装置にアクセスしていたスマートフォンを仕舞い、ステッキ片手にケイ・グレイズがジェットコースターのレースを駆け上がる。
「格の違いというものを教育して差し上げましょう」
 ステッキを手持ち無沙汰に振りまわし、鋼鉄の足場をノック。
 重たい塗料を塗られた金属から甲高い音が響いた。

「格の違いだと……クマァ!?」
 明らかにキャラぶれを起こしているクマの怪人が声を荒げた。
 それは世界を記し、星を詠む者が産み出した不幸な相性の結果なのだろう。
 とにかく世界はそういう無情で出来ている。
 可愛い姿の中に野生を隠しきれない怪人が鋭い刺突武器と化した指揮棒を繰り出すと不安定の足場のうえで受け捌くケイ。
 それはサーカスのように美しく、ある意味では刃のうえでダンスを踊っている様。
 互いの武器をいなし、逸らし、一撃を繰り出すはかつての怪人と今の怪人。
 悪党達のフェンシングに人々は呑まれ、そして何かを願わんとするあまり拳に力が入る。
 それがこの地が|錨《Anker》たる所以なのだろう。

「遊びは終わりだクマ! 今こそ語らん、我らが勝利の行進!!」
 そこに現れるは増援の怪人。
 狭いレールの上で並び、行進を開始すれば、それは圧力を以ってケイを舞台より叩き落し大地に叩きつけるだろう。

 |死のジェットコースター大行進《クマクマパレード》

 迫るクマのパレード。
 だがケイの姿は何処にもない。
「――あそこ!」
 誰かが指さした空、太陽を陰る一瞬の姿、叩き込まれるステッキの一撃。
 跳躍と共に打ち込んだケイの攻撃に意識を持っていかれた直後、また消えるはかつての怪人。
「私は、名乗るほどの者ではありません」
 答えは独白と共に。
 誰かが動かしたであろうジェットコースター。
 その車両に着地したケイ・グレイズが客車と共に突撃する。
 静かな心の中に沈めていた何かと共に。

 |澄心の構え《シーリン・リポスト》

 心は荒波となりてジェットコースターと共にクマどもを跳ねのける。
「子ども達の笑顔に価値を見いだしてしまった、ただの同類ですよ」
 光と価値を見出したものの為に一線を越えた男。
 だがその呟きは届く事は無い。
 もう奈落へと堕ちていったのだから。

 それがケイの戦い。

 何度も報われず、消えていく同類を見つめていく――たった二人だけの|道《ロード》。

見下・七三子

●再び駆け上がり

 √能力者が居ても人々の不安はまだ消えない。
 爆弾という明らかに殺意有る物体が存在しているからだ。
「……爆弾って。割と大事じゃないですか……!」
 見下・七三子が声を上げ、そして思考を巡らす。
 改めて考えればAnkerであるこの遊園地を狙っている以上、規模もそれなりになると言えば当然か。
 そうなると単独で破壊を行えるサイコブレイドの強さは……。
 七三子はそこで思考を止めた。それ以上に、今、やるべきことが有るのだから。
「すいません、戦闘員達。くまさん、どこかで見かけましたか?」
「それならフリーフォールの上に……」
 親族である戦闘員に問いかければ答えるのは叔母の夫の妹。
「え。フリーフォールの上……!?」
 問い返しつつも視線を向ければ確かに自由落下アトラクションの上で爆弾が時を刻んでいる。
「なんでそんな所に、というかなんであなたもそんなところチェックしてたんです……!?」
 流石にアトラクションの上という発想は無かった。
 フリーフォールなら下から破壊して倒してしまえば被害は大きいはずだから。
 そうさせないのは――上空で爆発させた方が威力を発揮する強力な爆弾である証拠。
「ありがとうございます。向かいますので、順次帰還してください!」
 |戦闘員《親族》を帰還させ、七三子は走った――人々を守るため!!

「ヒーローショーの着ぐるみだと思ったんですよ!?」
 |ライド《乗車部》の上で立ち、見上げながら七三子が叫ぶ。
「間違ってはいない。だが、待っていたのだ……時を、クマ!」
 戦闘員の言葉を肯定しつつ怪人は叫んだ。
「サイコブレイド様による計画の始まりを、クマ!」
「させません!!」
 クマを睨みつけるように七三子は応え、そして構える。
「出来るかクマァ!!」
 迎え撃つはクマの怪人複数。
 たった一つの√能力を磨きに磨いたそれが今、アトラクションの上から落下しなだれ込まん。

 |自由落下のクマ雪崩《クマクマパレード》

 自らの名を冠した技と共に怪人の大群が落下していく。
 邪魔する戦闘員735番を巻き込み、高さを活かしたまさしくフリーフォールで圧殺するつもりだ。
 けれど、そこに七三子の姿はなく――一筋の影が空を貫く。

 |ヒット&アウェイ《ワタシカヨワイノデ》

 叩き込まれるはドロップキック!
 下からやって来た一撃に爆弾を守っているクマの意識が飛ぶ。
 直後――影は消え、誰も戦闘員の姿は感じ取れず、ただ乗車用の座席が昇るのみ。
 機械の音が響き、そして闇が……破れた!
 隠密状態を破った七三子の再度の一撃!!
 流石に怪人もこれには対応できず、そのまま落下していった。
「一撃で倒せなくとも」
 爆弾を無力化し、戦闘員は一人唇を動かす。
「この遊具は何度も上へ昇るのです……!」
 けれど、その台詞は自らの悲鳴でかき消された。
「……まあその分下降を何度も味わう羽目になるんですけどねええええええっ……!」

 ですよねー。

 かくして、フリーフォールは守られた。
 ……悲鳴と共に。

写・処

●回る廻るは

 天秤が傾く。
 遊園地の中を不法侵入から爆走する霊柩車。
 ついでにクマを撥ね飛ばし、メリーゴーランドに足を踏み入れるのは|写・処《ウツシ トコロ》(ヴィジョン・マスター・h00196)。援軍の到着が戦いの趨勢を能力者へと引き寄せていく。

「あー、こりゃ参った!さて、片付けていきましょうかねぇ」
 軽く聞こえるのは声のトーン故か、それとも人間災厄たる己を映さんとする何か故か。
 認知能力に影響を及ぼす、整合性すら取れない幻惑の災厄。
 人はそれをヴィジョン・マスターと呼ぶ。
 稼働するメリーゴーランド。
 人造の馬に隠れて、怪人の指揮棒が鋭いレイピアの如き技にて処の心臓を貫かんとすれば、彼の人間災厄は霊剣を抜刀し受け流す。
 剣の銘は一文字、だがその太刀筋は一筋縄ではいかない。
 抜刀居合の剣術は間合いの理。
 正しきもあり惑わしもあり、全てが一つの理。
 だからこそクマの指揮棒と渡り合い、動く足場の中、自らの有利を引き寄せる。
 剣劇が怪人を吹き飛ばし、木馬へと叩きつける。
「おのれぇ……人モドキがクマァ!!」
 怨嗟の声、怪人の言葉は笑って受け流し写・処はテレビを召喚する。
「あー、良く言われるよ」
 そしてテレビが揺れた。

 |緊急速報《キンキュウソクホウ》

 最大震度7相当の振動波がテレビから放たれ、クマの身がその場に仰け反り、倒れていく。
「危ないですよー……いや、手遅れかな?」
 ポケットに手を突っ込んだ人間災厄が見下ろすが怪人は動くことはない。
「じゃあ、僕は用事があるんで、それじゃ」
 踵を返し、写・処は爆弾を解除するために歩く。

 回る廻るはメリーゴーランド。
 返ってくるのはなんだろうな?

京終・白夜

●陸上波乗で引っ立てる

 客車がウィンチとチェーンで引き上げられる音がする。
「そうさな……お前達の相手は妾って所でありんす」
 崩した廓言葉と共に列車の上で立つのは京終・白夜。
「友達と乗る時みたいに無心ではしゃぐってワケにゃいかねェけど、滅多にねェ状況での戦場さね。愉しンでイこうぜェ?」
 見栄を切れば足元の列車が昇り切り――疾走が焦茶の肌を撫でた。

 ジェットコースターが発進する勢いに任せて、まずは爆弾を設置しようとした怪人を撥ね飛ばす。
「轢くなら轢いちまェってトコだが流石に上手くは行かねェか……」
 白夜が呟き、振り返れば列車に飛び乗るクマの軍団。
「おいでなすったさね」
 握るは三尺三寸サアベル拵、客車がカーブにかかる中、遠心力を物ともせず不良警官の一刀が怪人を一人叩き落した。
 次に列車が螺旋を描いたところで今度はクマが鋭い指揮棒で突き刺しにかからん。
 響くは金属音、そしてレールの向こうの奈落へと転落するは怪人ひとり。
「この足場にて一翳在眼、隙が見え過ぎんして些か勿体なき感もありんすが」
 一翳眼にあれば空華乱墜すと言わんばかりの白夜。
 それは二つの意味を持つ。
 一つは禅僧の言葉、そしてもう一つは。

 |一翳在眼《キラーチューン》

 京終・白夜の燃え上がる左目が隙を見透かす√能力。
「初会の前に所払い、爆弾なンて不調法に仕掛けた粋の無さを呪いんせ」
 宙返りの途中でクマの怪人を蹴り飛ばせば、その手にまた爆弾が増える。

「さっき回収したのも含めてコレどうシようかね……」
 流石に爆弾は専門外。
 後の始末に困る白夜であった。

第3章 ボス戦 『外星体『サイコブレイド』』


●思い出のAnkerランド

 爆弾を解除され、無事平和の訪れた遊園地。
 人々にとっての思い出の|土地《Ankerランド》。
 だが、危機はそこで終わらない。

 ――殺気。

 明らかにこの遊園地を破壊できるであろう力量とそれ以上の害意。
 気配は此処から遠く12km。
 そこに奴は居た。

 名はサイコブレイド。
 Ankerを求め旅をする外の星の住人。
 だが、今は敵としてこの地に来た。

 どんな理由があるかは分からない。
 だけれども互いに倒しつくさねばならない。
 手加減する余裕など無く、サイコブレイドにそうする理由が無いのだから。

 浪漫もヒューマニズムもスパイスにすぎず。
 ただ、殺し合う事でか終わらない。
 これから始まるのはそういう戦いなのだ。
黒木・摩那

●語るにはもう遅く

 最初に出迎えるのは同じ外星の戦士。
「わざわざ遠いところからここまでご苦労さまでした」
 黒木・摩那の唇から流れる皮肉の混ざったそれをサイコブレイドはただ受け流す。
 ……今は無用とばかりに。
「遊園地を潰そうとした理由があればお聞きしたいですが、いかがでしょうか?」
「そこは人の寄る辺……Ankerたるなら、殺すだけ」
 返って来たのは遠回しな拒絶。
 遥か宇宙を旅した末に地球へとたどり着いた外星人の言葉は少々の疲れと諦観。
「少しは語りたいこともあるんじゃないですか?」
「……」
 摩那の問いに沈黙を以って答えるサイコブレイド。
「もっとも話し合いはもう遅すぎましたけど」
「そうだな、遅すぎた。色々と」
 外星人が自らの名を冠した剣を構えるともう一人の外星人はコインをトスした。
「|解放《リベラシオン》」
 光と共に走るのはミステル・ノワール――今の名は異世界猟兵ミステル・ノワール!!

 鍔迫り合い、そして刃がぶつかる音が響く。
 聞くものは此処にはおらず、二人の演者は只、剣をぶつけるのみ。
 サイコブレイドの握りはセイバーグリップ。
 可動域が広く多種多様な攻撃を繰りだせるナイフコンバットの動き。
 長い刀身と重さの為保持力に劣るが外星人の手はそれを補って余るのだろう。
 一方でミステルの剣は白波残月。
 刃渡り二尺三寸のマグロ包丁。
 鋭いが油断すれば刃が零れる危うさを持った刀。
 摩那の技量がそれを武器として成立させている。
 互いに剣戟を交わしたのち、最初に離れるのはサイコブレイド。
 自らの名と同じ剣のボルトを引き、リロード、刃が黒と白の輝きに包まれる。
 そう宇宙のエネルギー――ビッグバン。
「させません!!」
 摩那がエネルギーチャージの間隙をついての攻撃。
 ダメージを重ねに重ねて倒しにかかる。
 だが……。
『SPACE ENERGY CHARGE!!』

 ギャラクティックバースト!!

 無情にもトリガーは引かれ、同時に放たれるは外宇宙の閃光。
 だがサイコブレイドの視界にはエステルはおらず、代わりに宇宙の奔流に呑まれるのはその場にいたインヴィジブル。

 |混沌幽凍《メリメロ》

 フランス語で『ごちゃ混ぜ』を意味する√能力はインビジブルと摩那の位置を文字通りごちゃ混ぜに入れ替える。
「……ぐっ」
 √能力の反動でダメージが活性化し身を傾けるサイコブレイド。
「人が繋がりたい場所をわざわざ潰そうなんて悪趣味です」

 追撃の横薙ぎ!!

 胴体から血のような何かを流している外星人を背にミステル・ノワールは刀を鞘に納めた。
 語るにはもう遅かった。
 後は誰かが死ぬだけの話。

見下・七三子
京終・白夜

●不器用には生きにくく

 次に相対するのは二人の女。
「……ここからちょっと離れてるんですね。ここで暴れてしまえばついでに遊園地を破壊できるでしょうに」
 自由落下に持っていかれていた意識を引き戻し見下・七三子は口を開く。
「私たちとちゃんと戦ってから、ということですか?」
「そこまで義理堅くはない」
 七三子の問いに短く応えるサイコブレイド。
「不器用で誠実で、生きにくそうな方ですね……」
「好きに考えるがいい」
 戦闘員だった女の言葉、失ったが故に揺れ動く情動の天秤。外星体にはその秤に重りを乗せる権利を持っていなかった。

「妾は不良警官にて、主さんの戦う理由……つまり、過程に興味はありんせん」
 一方で京終・白夜は割り切っていた。
「求めんすのは、閻魔様の前に主さんを引っ立てた結果のみ」
 ただ結果のみを欲さんとし。
「断ると言ったら?」
「六文銭は既に用意しんした、序に先ほどの爆弾も土産に付けんすので、十万億土の永き途、心置きなく逝きやんせ」
 サイコブレイドの拒絶を受け流すと抜くのは三尺三寸洋刀拵。
「返品するから夜摩大天にはお前が行ってくれ」
 外星人の口から零れる諧謔。
 白夜は笑みを浮かべるのみ。

 太刀に刃に徒手空拳、構えるのは一人の男と二人の女。
 一人は錨を壊すため、二人は思い出を護る為。
 互いに一歩を踏み出さん。

 白夜の太刀を掻い潜り、サイコブレイドが七三子へと迫る。
 心理的に目立つ武器を避けたかったのか、それとも情につけ込み斬ってしまいたかったか答えは分からない。
 だが袈裟に振り下ろされる刃を735番は円を描くかのように回避し膝に蹴りを叩き込み殺陣を切るが如き拳の連打。
 ナックルナイフのストレートから鉄槌につなげ刃を振り下ろせばサイコブレイドも自らの剣で受け止め力比べに持ち込む。
「こちらもお仕事ですので!」
 拮抗するのは勢い故か、それとも何か理由があるのか。
「お互い守るものがある同士、全力でお相手します!」
「護るものなど――ない!!」
 外星体が気を吐いた。
 力づくで組み伏せようとしたサイコブレイド、危機を感じた七三子が距離を取る。
『ASSASSINATION CHARGE!!』
 外の星からAnkerを狩りに来た暗殺者が構える。
「だとしても!!」
 迎え撃つは戦闘員735番――いや、見下・七三子!!

 ――ハンターズ・ロウ!
 |接敵制圧行動《コナイデッテイッタジャナイデスカ》

 √能力には相性がある。
 例え世界を斬る技と言えど機先を潰されれば何も出来ないのと同じように、暗殺にかかる動作を牽制のローキックに潰されれば狩人の法則は通用しないのだ。
 すかさずの七三子のベアハッグ!
「……ちゃんと止めて差し上げますから、ご安心をっ」
 制止の為に放たれるのは関節ロックのスープレックス!
 サイコブレイドが脳天から大地へと叩きつけられた。

 立ちあがる外星体。
 そこへ飛び込む京終・白夜。
 抜かば一刀の居合の構え。
 対するサイコブレイドの引鉄はまだ引かれておらず――いつでも放つことが可能。

 この場に技は無用。
 この場に言葉は無用。
 刃だけがまかり通り、殺意だけがまかり通る。
 互いに放つは只、一刀。
 単純に先手必勝で放つ一撃の名は――。

 ――ハンターズ・ロウ!
 |閃電猶遅《ブルー・シャトウ》

 蒼き雷鳴が戦場に響き渡り、青き雷光が戦場を奔る!
「この星では、攻撃は最大の防禦と言いんすに」
 刃を納める白夜。
「この通り、攻撃一辺倒の妾でも…確りと護れておりんす。閉園の時間も迫って参りんした」
 告げるのは終わりの宣告。
 そう、戦いは終わる、終わるのだ。
 不器用な外星体の旅も望みも、ここに暮らす人々の祈りも全てが……。

ケイ・グレイズ

●それでも剣を振るう

 人にとっては殺し合いは日常であった。
 人によっては闘争は日常であった。
 日常であるからこそ、人は思考し、悩み苦しむ。
 だからケイ・グレイズは知っているのだ。
「貴方の剣は、貴方の抱える痛みによって鈍っています」
「……」
 ケイの言葉に対するサイコブレイドの答えは沈黙。
 Ankerを求め彷徨う男の真実は……
「そしてそれでも振るわねばならない、と」
 振るう刃の向こうにあるのだろう。
 故に、古の騎士の如く運び屋は鋼仕込みのステッキを構える。
 戦士として、サイコブレイドという狩人の技量と意志に敬意を禁じることは出来ないのだから。
 フードを被った外星体が第三の目を開き、かつての怪人は細胞にて赤錆びた鎧を纏う。
 戦いが……始まった!

『PSYCHO BLADE CHARGE!』
 ――サイコストライク!!

 いきなり放つはサイコブレイドの一撃!
 だが、先手を狙うのはケイも同じ。
 宙を舞いステッキの一撃を叩き込めば。

 |澄心の構え《シーリン・リポスト》

 静かな水面のような心にて次の一撃を叩き込まん!
 サイコブレイドの脇腹に打ち込まれるステッキ。
 それでも外星体は剣を振るい、赤錆の戦士は鋼仕込みで刃を受け流す。

 |剣と剣が旋律を奏でる《フラーズ・ダルム》

 精密な技術のぶつかり合いは会話とほぼ同じ。
 人であって人でない二人の男の|決闘《デュオセッション》。
 ただ護りたい物、人としての寄る辺、帰るための|錨《Anker》。
 それは人であるかもしれない。
 それは大地かもしれない。
 それは形のない思い出なのかもしれない。

 そんな何かの為に――二人は戦うのだ。

「私は、貴方の心を、知りたい」
 ケイが距離を取りステッキを構える。
 対するサイコブレイドが自らの名と同じ剣のスライドを引き。
「それが私のエゴであろうとも」
 互いに距離を詰め。
 鋼仕込みを突き刺し!
 剣の引鉄を引いた!!

「……何故、受けたのです?」
 サイコブレイドの腹を穿ち、 ケイ・グレイズが問う。
「エゴだよ」
 外星体は皮肉めいた笑いを浮かべる。
 穿たれた背より火花をまき散らし、命の奔流を炎と化してもなお、笑う。
「それくらいの自由はさせてくれよ」
「…………」
 サイコブレイドの軽口にケイはただステッキに力を込め、そして引き抜いた。

 夕暮れの中、一人の外生体が命を失う。
 それすらも大地は思い出として人々の心に刻むだろう。
 夏がくれば思いだす。
 ここで戦った、あの時を。

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