シナリオ

夜空から繋がり断つ

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●星空を見に行こう
 新月の日。
 月と太陽が同じ方向にある。その為、地球からは、この√EDENでは殆ど月の光がない日となる。静かで、いつもより少しだけ暗い夜。
 温かくなってきたと言っても、夜はまだ少し肌寒い。外を歩くと、自分の足音と呼吸の音が少し大きく聞こえる気もする。

 そんな日のここは、街の喧騒から離れた、小高い丘。
 ふわふわに生えた、新芽の芝生の上。小さなベンチは木製で、少し離れたところに幾つかずつある。

 空を見上げれば、月明かりが邪魔にならず、いつもより色濃い夜の闇には、星や銀河が瞬いて。一晩中楽しむことが出来るだろう。
 誰かが言った。「夜の散歩をしよう。」「夜のお出掛けをしようよ。」と。

 飲食を持ち寄って、星空の下でパーティーをしようか。
 折角だから星を見上げて、星座の勉強をしようか。
 静かに星を見上げて、そっと普段言えないような話をしようか。
 自分に語り掛けてみようか、大切な人に語り掛けて見ようか。

 夜の過ごし方は、人それぞれ……。何者にも縛られず、自由で、静かな時を――。

●夜闇を切り裂いて
 夜空を見上げていたのは貴方だけではなかった。
 待ちの喧騒の中、|風凪・真白《かぜなぎ・ましろ》もその一人で。そして、見てしまった。星の瞬きに混ざる|未来予知《ゾディアック・サイン》。
「あ……。このままじゃ……!」
 そう思った彼女は霊気を飛ばす。

「皆さん、聞いてください。新月の日に皆さんの大切なAnkerさんが狙われます。」
 震える少女の声が静かに語る。

 謎めいた外星体同盟の刺客『サイコブレイド』がAnkerやAnkerに成りうる者を暗殺しようとしている事が予知されていた。
 普通、Ankerを判別することは不可能である。しかし、厄介なことに『サイコブレイド』は”Ankerを探知する√能力”を有しているとのこと。これを用いて、配下をAnker抹殺に派遣している事件が起きている。

「今回見たゾディアック・サインは、新月の日。小高い丘で皆さんが大切な人たちと過ごしている時間に起きます。」
 それならば、その時間に出かけるのはやめようか。
「いえ、かと言って、先にAnkerさんを逃がしている隙もないです。それに、素敵な夜を過ごしているのを遮るのは、不自然になります。襲撃者に察知され、散り散りとなった状態で襲撃される可能性が大きいです。」
「ですから、さり気なく紛れ込み、襲撃者を迎え撃てるように備えてください。」
 霊気で出来た蝶は静かに羽ばたく。
「襲撃は恐ろしいと思います。でも、どうか……大切な時間を、星の様に一瞬だけれども、静かで穏やかな夜を大切な人や大切な物と過ごす時間に当ててください。」

 最後に霊気の蝶が消えると共に響く一言。

「そして、サイコブレイドの配下達から守りぬいてください。」

 Ankerを救い、サイコブレイドの作戦を打ち砕く、第一歩を……。

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第1章 日常 『夜空の下で』


ジルベール・アンジュー
ジュヌヴィエーヴ・アンジュー
ヴァニタス・ヴァニタートゥム
アルカウィケ・アーカイック
紬・レン
朧谷・千里
シル・ウィンディア
エアリィ・ウィンディア
ヨーキィ・バージニア
エリオット・バックマスター
朝霞・蓮
朝霞・風
山橋・羽根子

 月明かりのない、少しいつもより暗い夜。新月の日。小高い丘の上では、星がキラキラと静かに輝いている。

 白いブラウスにブラウンチェック柄のジャンパースカートを着た少女、ジュヌヴィエーヴ・アンジュー(かつての『神童』・h01063)が丘を駆け上がる。その握った手の先にいるのは最愛の兄で、そして最愛の夫のジルベール・アンジュー(『神童』の兄・h01027)。
「ああ、そんなに急がなくても大丈夫だよ、ジェニー!」
 そんなに急がなくても星は逃げたりしない、と言いたげに、困った声をあげるジルベール。忙しないが最愛の妹で、最愛の妻の手を離さないように、必死について行って。
「星は逃げなくても、時間が惜しいの!」

(これで、半年前まで寝たきりだったんだからなぁ……。)

 明るく忙しないくらいのジュヌヴィエーヴの声を聞いて、ジルベールはふと、半年前までの事を思う。世界を一つ救う為に、正真正銘の全身全霊を賭け、能力を失い、全身麻痺になってしまったジュヌヴィエーヴ。彼女のことを心配もしている、が、動けるようになったことに安堵もしている。お転婆で少し我儘なのは変わらないが。
 月の光の無い、満点の星空の下でも輝くような真白い髪を揺らし、ジュヌヴィエーヴはジルベールの手を繋いだまま、丘を駆け上がり切る。
 丘の上に辿り着き、二人が天を仰げば、そこには、街の灯りからも月の光からも逃げて来た星々が輝いていた。
「敵航空兵の探査任務でも夜空は駆け回ったけど……星空だけをただ見上げるのは初めてかも!」
 星の瞬きを赤い瞳に映さんばかりに、ジュヌヴィエーヴは目をキラキラとさせる。
「ジェニーは覚えてないかもしれないけど、孤児院では天体観測の行事もあったよ。まだ小さかったから覚えてないかな?」
 同じく赤い瞳に光を宿して見上げるジルベールは、以前の記憶を語る。
「うーん、天体観測なんてあったっけ……?」
 覚えていない。ジュヌヴィエーヴの記憶のほとんどは軍での生活だった。ジルベールは、ジュヌヴィエーヴが、ジェニーが軍に入ったのが6歳の時だったと思うと、それがどれだけ過酷だったのか、と。そう思うと、自然とジルベールの口からそっと優しい言葉が零れる。
「もう、戦いだけを考えなくてもいいんだよ。」
 握ったままの手をまた少し強く、二度と離れないようにと言わんばかりにぎゅっと握るジルベール。
「ぼくと一緒に想い出を一杯作っていこう。」
「うん、お兄ちゃん!愛してる!」
 無邪気なジュヌヴィエーヴの笑顔と愛を伝える言葉。ジュヌヴィエーヴは柔らかそうな草むらにジルベールを誘って。寝転んで夜空を見上げよう、と。
 寝転んで視界いっぱいに星空を見上げれば、|天の川《ミルキーウェイ》が、星が落ちて来るように見える。
「『降るような星空』って言うんでしょ、こういうの?」
「そうだね。」
 ぴったりと寄り添った二人は、握ったままの手を、どちらからともなく指を絡めて。服越しにお互いの心地よい体温を感じて。ジルベールとジュヌヴィエーヴは互いに口にはしないが、同じ事を思う。

(いっそこのまま二度と離れなければいいのに……。)

 明るさを抑えたスマートフォンを片手に丘に辿り着いたのは、ヴァニタス・ヴァニタートゥム(旧約・h07453)、本名|一橋・里香《ひとつばし・さとか》。SNSでひっそりと話題になっていた星の良く見える小高い丘に、わざわざ来た甲斐があったと、ぽつり呟く。緑色の瞳に流れ星の一つが映る。
「おー、星出てる星。」
 星空の下で、体をぐーっと伸ばして、溜息一つ。

(やっぱ勉強ばっかしてても肩が凝っちゃうしね、息抜きしないと。)

 高校3年生に上がってから、周囲の学友達は受験、受験と。まだ5月だと言うのに、とヴァニタスはせっかちだなぁと思っていた。
「でも、あたしも、推薦は無理そうだからなぁ。」
 自身の学校生活と成績を思い浮かべ、浮かない顔になる。せめて、春の空に輝く北斗七星に願う。

(大学受験、なんとかなりますように……。)

 一縷の望みをかけるように、でも、己の力で大学生活を勝ち取らないとならないか、とも思う。
 ふと、周囲を見る。静かさの中にも人の気配が思っているよりもあった。大切な人と過ごす人、家族と過ごす人……。

(あたしも、友だちとか誘ってもよかったかも……。)

ふと、そのような中で一際目立った子を見つけ目にとめる。ゆるゆるっと癖のあるピンク色の髪に、淡いピンクとフリルやリボンをあしらった、なんだかユニコーンコーデに見えるアルカウィケ・アーカイック(虚像の追憶・h05390)から、何故か目が離せなかった。

 アルカウィケも緑の瞳に流れ星を映して、綺麗だな、と地面にそっと座って星空を見上げていた。

(僕は星座、夏の大三角形と北斗七星くらいしかわからないですけど……。)

 それでも北斗七星を見上げて、一際煌めく星と星を繋げるように指でなぞるアルカウィケ。周りに人が多いのもいいなぁ、賑やかだなぁと思うと、視線に気づいた。
「あっ、ごめんなさい。邪魔してたみたいで……。」
「いや、邪魔されてないから大丈夫。」
「あ、違うんですね。」
 ヴァニタスは小学生くらいのアルカウィケが気になり、声をかける。
「小学生?1人で来てんの?夜だし、家族とか……。」
 星を見ているけど、近くに親や年上の兄弟が近くにいるように見えなくて、ヴァニタスは、一橋・里香として声を掛ける。
「ご心配いただきありがとうございます。僕の家族でしたら、向こうの方にいますから。」
アルカウィケは、慌てる様子を何とか誤魔化すように丘の向こう側、離れた所に指を向けて。
「僕ももうちょっとしたら戻りますよ。」

(ごめんなさい!本当は嘘ですけど!!)

 と、言葉にはできないが、内心で良心が痛むので謝りつつヴァニタスに笑いかける。
「好きなの?星見るの。小学生?にしては珍しいな、って思ってね。」
「えっと、そうですね。好きなので、|ひとりで《・・・・》ゆっくり星を見るの。」
 ふわっと笑うアルカウィケ。これも、嘘かな。と疑問に思う。もしかしたら、嘘じゃないかもしれないが、確信も持てなかった。
 その笑い顔に、ふんわり緩い恰好に背丈に、なんだか既視感を覚えているのはヴァニタス。

(気のせいだと思うけど、なんか妙にあたしの小さい頃に似ているというか……。)

「……ドッペル?」
「え?」
「いや、なんでもない。」

(まさかね。)

 そんな会話をして二人は別れた。しかし、ヴァニタス……里香は離れても、時折、アルカウィケの方に視線をやる。気になってしまう、何故か。
 アルカウィケの方も、誤魔化せたと思ったものの、視線を感じて。多分、きっとアルカウィケが家族の方に戻るまで見守っていてくれているのだろうと思うが。

(……どうしましょう。)

 視線を感じて、星と彼女の視線をちらちらと交互に見るのだった。

「ふむ……新月の夜か。」
 月が隠れ、薄暗い夜だからこそ、星がよく見える。そんな夜も悪くないと、朧谷・千里(清廉なる蒼・h06232)は星空のよく見える小高い丘の情報を見ながら思う。しかし、このまま一人で過ごすのも勿体ないように感じるな、とも思った。

「たまには出かけるか。」
 そう声を掛けた相手は自身の弟子でもあり、居候先の主人でもある紬・レン(骨董品店「つむぎや」看板店主・h06148)。
 珍しく夜に出かけたいと言い出した千里に驚きもした。しかし、悪い気はしなかった。事前にあった星詠みの情報を考える。

(俺の|ダチ《Anker》は元√能力者とはいえ、狙われたらひとたまりも無いな。)

 一緒に星を見るだけも悪くないが、レンをまともに戦えるように鍛えてくれた恩人でもある千里。守らないと。それが何よりの恩返しになる筈だ、と決意も可愛らしい服のポケットに詰め込み。

「お出かけ日和、だな?」
 そう言いつつ、レンと千里は星が降り注ぐように見える丘に辿り着く。
「近頃は何かと慌ただしそうだったからな、気分転換も必要だろう。」
 今日は新月で星がよく見えるから、と言う千里に素知らぬ顔でレンは返す。
「そっか、今夜は新月なんだな。てっきり愛の告白でもされるのかと思ったぜ……なんて。」
「……そういう軽率な冗談は止せ。私はもう慣れたが、他人に聞かれたらどうするんだ。」
「冗談だよ、冗談。」
 月が綺麗ですね、の定番のお言葉も。新月では通じない。どちらかと言えば、星が綺麗ですね、かもしれない。レンの冗談に、千里は呆れたように、しかし、距離を離すようにではなく、心配も混ざる声音で返す。レンはニヤリと黒いマスクをずらして冗談と笑って見せる。

 普段より色濃い空と、キラキラと瞬く星。色濃い空は千里の髪の様で、溶けてしまうように見えた。この星空を布にして切り取った服は可愛いだろうか。
 二人でベンチに腰を落ち着けて、ゆっくりと二人は程よい距離で、語り合う。
「『つむぎや』の方はどうだ?」
「ん、まぁ、ぼちぼちってやつだぜ。」
 レンは亡き祖母から受け継いだ店骨董品店『つむぎや』を護りつつ、その業務をこなしている。千里はその骨董品店『つむぎや』に居候として住んでいる。彼女とも見える中性的な彼の働きぶりを見ていないわけがない。
 また、人知れず戦いに身を投じるレンの事も知っている。日々を忙しく紡いでいるレンを労わるように、千里は言葉を紡いでいく。

(何か千里がいつもより優しいような……俺の事気遣ってるのか?)

 他愛のない日常会話、星の事、新月の事を語らう内に優しさや労わりを感じて、レンは思う。
 これから起こる事を思い出せば、寧ろ心配なのは千里の事なのに。千里はレンを心配してくれている。
 千里は千里で、既に失ってしまった力……|同じ立場《√能力者》で戦えない事をもどかしく感じている。だから、せめて。

(せめて、このひと時が彼の心を慰められれば。)

 そう思う千里。そして、レンもまた、今この時だけは、千里との語らいを楽しむとしようと思うのだった。

 太陽が沈む少し前、エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)は、母であるシル・ウィンディア(エアリィ・ウィンディアのAnkerの師匠・h01157)に強請る。
「夜のお散歩に行きたいのっ!」
「ん?夜のお散歩?……まぁ、たまにはいいか。」
 娘の誘いに、シルは悪い気がしなかった。偶には親子で出掛けるのも良いかもしれない、それも少しだけ特別な日に、と。
「ちょっとだけ待ってね。」
 そう答えたシルに、エアリィは両手をあげて喜んだのが数時間前。シルはエアリィに内緒で何かしらの準備をして。

 新月の日、少しだけ大人な時間と世界のお散歩。小高い丘に辿り着く親子。エアリィは丘の上に駆けていくと、わぁ!っと声をあげる。
「こーんな綺麗なお星さまとお月様。とっても綺麗だよねー!」
 エアリィの言葉を追うように、丘に生える草を踏み締めて登って来たシルも、また空を見上げて。風に吹かれた青い髪をそっと耳にかけて、呟く。
「ん、綺麗な月と星だね。」
 満月のように主張はしないが、そこにそっとある新月にも目を向けて。普段出かけないような時間にはしゃぐ娘のエアリィを愛おしそうに、優しく微笑み見る。
「そういえば、お母さん。なんの準備してたの?」
「……さ、それじゃ何を準備していたかというと、これだよ。」
 そう言って、エアリィの前にシルが差し出したのは、2人分がちょうど入るくらいの容器に入ったおにぎりとお団子。小さくコロンと結ばれたおにぎりに、一口大の粒の3連団子。
 それを目にしたエアリィは目をキラキラさせる。それは夜空の星よりもキラキラと。
「お母さんのお弁当、お夜食だ!」
「食べ過ぎないように、量は少しだけど、ね。」
 ふわりと月光のように優しく微笑むシル。エアリィは、一番良い所で食べよう!っと、丘の上にシルを招く。
 丘の上、芝の上に腰かけて、シルの膝の上にお弁当を広げて。エアリィはさっそく小さなおにぎりを、美味しそうに頬張る。
「んー!おにぎり美味しいー♪」
 もう一つ、とエアリィは手を出そうとするが、お団子にも目がいって。
「あ、これ、お団子?かわいい♪」
 兎の形の団子もある串団子に、きゃいきゃいと喜ぶエアリィに、シルは満足気に。張り切って準備してきて良かった、と笑む。
「こういう所で食べるのもいいよね。エアの為に張り切って良かった。」
 シルもまた、花より団子って訳でもないが、星を見つつ一口団子を頬張る。

「ね、お母さん。一緒に飛ばない?綺麗な夜空だし、一緒に楽しも?」
 一通り夜食を食べ終えたら、エアリィは母のシルに提案する。√能力『|精霊交信《エレメンタル・コンタクト》』でインビジブルを風の精霊に変えて、少しだけお願いをするエアリィ。それを見てシルも、また、頷いてトンと地を軽く蹴って空中浮遊で浮かんで上空へ。
 スルリと抜けるように流れる風に、髪を靡かせて。
「夜風が気持ちいいね。」
「やっぱり、お母さんと一緒だとうれしい♪」
 夜空に舞うようにしてのんびりと星の海の中で空中散歩を楽しむ。

(エアったら、すっごくうれしそうにして……。)

「空が好きなのは、わたしに似たのかな?」
 そう微笑み、娘の成長と豊かな感情を見て暖かくなるシルだった。

 新月だからと思い立って出かけるのは、一人や二人だけではない。その内の一人、エリオット・バックマスター(ヨーキィの指揮官・h01925)は、天体観測をしようと思い立ち、望遠鏡を片手に丘へと向かおうとした。
「指揮官様、出掛けるのかい?ヨーキィちゃんも行くー!」
「えぇ、ヨーキィ。ついてくるの……静かにしててよ?」
 一人そっと出かけようとしたエリオットに、見つけた!とばかりにハイテンションで近づき後ろにぴったりとくっつくのはヨーキィ・バージニア(|《ワルツを踊るマチルダ》ワルチング・マチルダ・h01869)。エリオットと一緒にいて、守るのがヨーキィの使命とばかりに。

 小高い丘も星空も新月も、何物も拒まない。
 望遠鏡を抱えたエリオットと、ルンルンとスキップをするヨーキィも丘に辿り着く。
 エリオットはさっそくとばかりに、持参した天体望遠鏡の組み立てをする。こうして天体望遠鏡を組み立て準備するのも、また、天体観測の醍醐味だと、心躍るエリオット。
 その近くで、ヨーキィは夜間迷彩塗装をした、偵察・爆撃型レギオンをブゥンとそっと何機か飛ばして警戒させるようにした。
「何してるの、ヨーキィ?」
「なんでもないよ、指揮官様。……やっぱりこっちの指揮官様も星空が好きなんだね。」
 ヨーキィが何か悪さをしているんじゃないかと思ったエリオットの問いに、誤魔化して答えつつ。ヨーキィは、組みあがった天体望遠鏡を見て、懐かしそうに、寂しさも混じる瞳でエリオットの目を見る。若くしてヨーキィの指揮官だった彼の異世界同位体のエリオット。亡くしてしまった彼の異世界同位体に、ヨーキィは半ば依存している。
「星は好きだよ。星だけじゃない、月も惑星も。星空の数だけ、この世界にはロマンがあるんだ。それに、アメリカも日本も星は同じだから。」
 そんなヨーキィの感情を汲んでか汲まないでか、エリオットは望遠鏡を覗き込みながら、答える。エリオットは、在日アメリカ軍の父を持ち、日本に住む唯の学生だ。ヨーキィに指揮官と呼ばれる事に困惑はしている。が、ヨーキィが嫌いなわけでもない。彼女の明るさに救われることだってある。

「おー、夜やね。」
 普段よりもちょっとだけ暗い夜に山橋・羽根子(雪女憑き・h03051)もまた、小高い丘に歩いてくる。
 Anker抹殺計画の事を頭に入れているが、少し考えてしまうこともある。

(ウチで言う所のAnker誰やろ……。憑いとる雪女とちゃうやろし、オトンかオカン?)

 自身のAnkerをはっきりと認識しているわけではない羽根子は、小高い丘に集まる人々を見て、どんな人なんだろうと思案する。
 それでも、今はのんびりしてもいいのかもしれない、と周りを見て、そうも思う。その辺を漂っていたインビジブルに√能力『雪だるま変化の妖』をして、小さな雪だるまを持って。

 ぎょうさん人来とるのに、今日はなんか静かだな、と思いつつ。
 ふと、ヨーキィの姿が目に入る。エリオットが望遠鏡を覗くのを、隣で体育座りして見ている彼女に、興味が湧いた羽根子。傍にいるのはきっと彼女のAnkerなのだろうか。
「こんばんは。ウチ、山橋・羽根子言うんやけど、ちょっと話さん?」
「こんばんは!私はヨーキィちゃん!陽気なヨーキィと覚えてね!」
 と、明るくそれでも少し静かに挨拶するヨーキィ。
「思い入れのあるAnkerの話が聞きたくて……。」
 羽根子のその問いにヨーキィは喜んで!と話し出す。話が話しだけに、少しだけエリオットから離れて……。

 羽根子とヨーキィはごろりと丘で転がって星を見ながら語り合う。Ankerとはなんだろうか、自分を繋げる為のもの?自分の大切な人?自分の大切な物?それとも……。

 羽根子は、ふと宙を泳ぐインビジブルを見て。

(インビジブルはんはこういう星空、一緒に誰かと見て過ごした記憶とかあるんかな?)

 そんな疑問を抱く。そんな彼女に憑いている雪女の白璃がインビジブルに霊力攻撃で雪を降らせる、小規模にだが。

(え、ちょっと……。星の輝きには雪も映えるぞ?えぇ……寒いな……。)

 戸惑う羽根子の横で、語りテンションが上がったヨーキィは、雪までも煌めくのを見て。
「みんなー! ヨーキィちゃんのナイトライブ、はっじまっるよーっ!」
 と声をあげ飛び起きる。
「ちょっと、ヨーキィ。静かに過ごしたい人もいるんだから、いきなり歌い出さないで。」
 流石に歌いだしたヨーキィにエリオットは気が付き、止めに入った。

 月が隠れるように、秘密を隠すように……。
「大切な人と過ごす素敵な夜に襲撃してくるなんて、なんて無粋なんだろう。」
 小高い丘の隅っこで呟くのは朝霞・風(忘失の竜姫・h02825)。兄の朝霞・蓮(遺失の御子・h02828)は「そうだね。」と、どこか心此処にあらずとばかりの返事をして、直ぐにハッとして気づかれないように、風に星座の本を渡す。

 蓮にはまだ、妹の風に言えない秘密が幾つもあった。風が成長した時に話そうと思うが……それでも『話せない』事もある。蓮個人だけの問題でもなく、世界や過去と未来に関わるからでもあって。

(でも、今、それは些細な話だ。重要なのは……風が僕のAnkerなんだ。)

 そしてそれは、絶対に訪れるであろう日まで話せない事だ、と蓮は思考する。思う。その日がいつ訪れるのか、それは未だ分からない。
 風は、蓮から渡された星座の本をペラペラと流し見るように捲る。
「今日も学園での講義が終わってから急遽やってきたけど、Ankerが襲撃されるんだって。」
 淡々と風は蓮が思うことなど分からないとばかりに。Ankerってどこにいるんだろう、誰がAnkerだろうか、どう対処しようか、など考えて。ぽつぽつと呟く風。風には、自分のAnkerはいるのか、わからない。
 本の中身は頭に余り入ってこない。待機している時間は、自由時間とは聞いたが。
「蓮、星座の話をしてよ。蓮と話していたい。」
「……いいよ。」
 風にそう強請られて、蓮は星空を見上げる。蓮は、今は、自由な時間を、その時が来るまでを穏やかに過ごそうと切り替える。
「あっちが北で、そこを見上げると……あれが北斗七星。」
 蓮は指差し、そしてひしゃく型に指をなぞるように、星を繋げる。そこを起点に星座の話をしていく。時折、先ほどの本をペラリと捲って、順に説明して。静かに、穏やかに……。星座の本を捲っているだけでは伝わってこない、小さな小話を交えて。

 そのうち、静かな雰囲気と穏やかな声音に、風は眠気を感じて。
「膝、貸して。眠くなってきた……。」
 トントンと風は蓮の膝を叩いて降ろすように促し。蓮は少し悩んだが、それでも、膝を降ろして。そして、コロリと蓮の膝の上に風は頭を預けて、膝を借りて星空を見る。
温かさと静けさと声音が心地よかった。キラキラと光る星が視界いっぱいに、そして視界の隅に大事な兄の蓮が見えて。悪い気は微塵も感じない、寧ろ幸福とはこんな形かな、なんてロマンティックな事をぼんやりと考えて。
 風はその内に、持ってきた大きな毛布を掛けて寝息を立てる。
 蓮もまた同じ毛布に器用に包まって、交戦が始まるまで、風を休ませようと思った。スース―と穏やかな寝息をたてる妹に、蓮は愛おしそうに、優しく風の髪を指で梳きながら星空を見上げた。
 絶対に大事な妹を守ってみせる、と決意を固めて。AnkerとかAnkerじゃないとかは関係なく……。流れる星にそう誓って。

第2章 集団戦 『未完成のツギハギドール』


 星空を見上げていると、度々泳ぐ半透明な魚類が空を漂っていく。見ることが出来るのは限られた者だけだったが、それもまた幻想的だった。
 しかし、そのインビジブルが集まって、円を描き、くるくると泳ぐ。そうしている内に、インビジブルの形が変化する。未完成のツギハギドールとなって、全方位から続々とAnkerを狙って襲い掛かって来た……!

 逃げる隙はない。小高い丘は既にインビジブルが、いや、豊富なインビジブルを利用して現れた敵『未完成のツギハギドール』が包囲襲撃を仕掛けてくる。

「大切にされているのがずるい。」
「大切にしているのがずるい。」
「愛してくれなきゃ、大切にしてくれなきゃ傷つける。」

 それは複雑で狂った感情も伴って。
ジルベール・アンジュー
ジュヌヴィエーヴ・アンジュー
シル・ウィンディア
エアリィ・ウィンディア
紬・レン
朧谷・千里
ヴァニタス・ヴァニタートゥム
アルカウィケ・アーカイック
ヨーキィ・バージニア
エリオット・バックマスター
山橋・羽根子

 インビジブルの動きが、不規則なゆったりした動きから、変化した事にいち早く気づいたのはジルベール・アンジュー(『神童』の兄・h01027)。最愛の妻である妹のジュヌヴィエーヴ・アンジュー(かつての『神童』・h01063)の手を取って、起き上がる。
「ジェニー……!」
「分かってる、お兄ちゃん!」
 二人は小高い丘を素早く滑り降りると、近くの駐車場に止めてあったウォーゾーンキャリアに急ぐ。
 体高2.5mの量産型ウォーゾーン【エリュシオン】へとスッと躊躇なく乗り込むジルベール。手慣れた動作で、各種スイッチをカチカチカチとオンにする。すぐに各種画面がピコピコピコンと立ち上がり、起動する。
 ジュヌヴィエーヴもまたジルベールがウォーゾーンを起動させると同時に、思念制御型空戦用フライヤーに乗る。逃げるわけではない、かつての神童が敵に背中を向けるわけにはいかない。
 すぐに二人は戦場になった小高い丘へと戻る。

「ジェニー、今夜の前座が始まったみたいだ。状況は?」
 ジルベールがウォーゾーンで飛行しつつ丘に辿り着けば、既にインビジブルは未完成のツギハギドールへと変化していて。
 ジュヌヴィエーヴは、自身の周囲にホログラムディスプレイを展開、火器管制レーダー『ミネルヴォワ』に指示する。
「敵味方の現状を提示。――これから始まるとこ。今からなら十分間に合う。」
 ジュヌヴィエーヴは敵味方識別信号をジルベールの乗る機体に送信。
「データ受信。行くよ、ジェニー!」
「マインドセット。『戦場の私』へ。……了解!」

「ん、この敵意……。」
 インビジブルの変化によって現れた敵の殺意を感知したシル・ウィンディア(エアリィ・ウィンディアのAnkerの師匠・h01157)。狙いは娘のエアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)かと思う。
「あれ?なんか変なお人形さんが?」
 そのエアリィも、母のシルと共に地上に降り立つ。徐々に増えるツギハギドール達を見て、エアリィは声をあげる。
「ええーっ!こんなに多いのっ!ちょ、ちょっと大変そう。」
 ツギハギドールは、豊富なインビジブルのあるこの√EDENでどんどんと数を増やす。敵意の方向を先に分析したのはシル。

(狙いは、エアよりわたしかな?……最近、結構狙われている気がするけど、何も悪いことしてないのになぁ。)

「ま、しかたない。何とか切り抜けようか、エア。」
「う、うん!頑張るよ、お母さんを守るっ!」

 ジルベールの乗る機体が変化する。それは科学技術では説明できない機械パーツの変化可動。夜空の流星のように輝き、駆けるその白い機体は――最終決戦型ウォーゾーン【セラフィム】。
 ジュヌヴィエーヴの乗るフライヤーと並んで戦場を駆ける。
「大切にしている。」
「大切にされている。」
「「ずるい。」」
 ツギハギドール達が身体を構成するあらゆる人形の記憶を覚醒させ、腕力を強化させる。人形の腕が幾重にも増える。
 ジュヌヴィエーヴが無人機母艦『ハニカム』から無人機『ホーネット』を、それはまるで、蜂の巣から蜂が総攻撃をするように、多数の無人機を山ほど出す。
「敵勢力を撃ち、切り、特攻して自爆しろ。」
 ジュヌヴィエーヴが夜空に白い髪を揺らしつつ、指示を出す。ツギハギドール達がその大群を腕力で叩き潰す。と、同時に爆破される。が、それを掻い潜ってなお、ツギハギドールは襲ってくる。前面からだけではない、側面、背面からも。
「くっ……!」
 ジュヌヴィエーヴの乗るフライヤーを、ツギハギドールの殴りが霞める。体勢が崩れる。敵意はジュヌヴィエーヴに集まっている。
「妹が戦場に立つというなら、彼女には指一本触れさせない!」
 妹の、妻の、ジュヌヴィエーヴの危機にセラフィムに搭乗しているジルベールが、両腕に破壊の炎『Blake Éden』を纏い、ジュヌヴィエーヴを追撃せんとするツギハギドールを炎で包んだ剣で叩き斬る。
「狙いはやっぱり|妹《Anker》か!」
 ジュヌヴィエーヴの機体ごと、ジルベールは自身の機体の影に隠し、ツギハギドールに向けて砲剣から炎弾を発射。ツギハギドールを確実に1体ずつ、近寄ってくるものから破壊していく。
「ぼくがいる限り、妹にお前達の手が届くことはないんだ!」
 時には身を挺してジュヌヴィエーヴを守り、反撃とばかりにセラフィムを操縦し、殴り、斬り、ツギハギドールからジュヌヴィエーヴを守るジルベール。

 ツギハギドールの攻撃は、小高い丘で一斉に行われていた。
陶器のように綺麗な色白の腕を可愛らしいリボンの巻かれた鋭利な裁ちバサミに変えて、突撃してきたツギハギドールの一軍。
「初撃から一気にっ!」
 エアリィが高速詠唱をする中、シルは左手に風翼の装飾と杖頭に藍鉱石の蕾を鏤めた白銀の長杖、世界樹の翼『ユグドラシル・ウィング』と右手に翼の意匠を持つ美しいライフル銃『蒼翼砲』を構える。
「メインアタッカーはエアに任せるね。」
 そう言うとシルは、詠唱中のエアリィを狙ってきたツギハギドールに『ユグドラシル・ウィング』で鎧無視攻撃を仕掛けて、牽制。一瞬行動を遅らせる。
「世界を司る六界の精霊達よ、銃口に集いてすべてを撃ち抜く力となれっ!!」
 詠唱を済ませたエアリィが、√能力『|六芒星精霊速射砲《ヘキサドライブ・ソニック・ブラスト》を放つ。
 狙いは、シルもいて、味方が固まっていて半径31mに入るポイントへ。

(Ankerさんを襲うなら、必然的に近寄ると思うしね。)

 シルもまた、その意図を汲み取って。エアリィの攻撃の着弾点半径から離れないように、接近してきた敵には、杖での鎧無視攻撃。そこにすかさず、エアリィが左手に持った精霊銃から火・水・風・土・光・闇の6属性の属性攻撃をランダムに乱れ撃つ。
 ツギハギドールのリボンが燃えて、裁ちバサミが折れる。
 それでも攻撃は、エアリィに向くより、シルに向くものが多く。
「お母さん、危ない!」
 戦闘経験のあるシルでも捌き切れない敵の数に、エアリィが割って入る。右手の精霊剣を構え、裁ちバサミの刃と鍔迫り合い。キリキリと刃と刃の擦れる音がする。
「簡単には……簡単には通してあげないよ!!」
 エアリィは、ぐっと力を込め直して、裁ちバサミごとツギハギドールを両断。

(狙いがわかるから、やりやすいといえばやりやすいけど複雑だぁ。)

「ありがとう、エア。」
「うんっ!」
 シルは幻影使いと残像の技能を組み合わせて、移動し、攪乱。それでも襲ってくる攻撃にはエアリィが対処をして。見事な親子の連携を見せる。

 次々と襲い来るツギハギドール。突然の襲撃に、混乱が起こるのは予想していたアルカウィケ・アーカイック(虚像の追憶・h05390)は臨戦態勢に入る。

(もしかして今、ヤバいんじゃ。とにかくこの場を離れないと……。)

 この場を離れようとするヴァニタス・ヴァニタートゥム(旧約・h07453)、改め一橋・里香は逃げようと思った。しかし、ふと、先ほど話した子の事を思い、探す。すぐに目に入るユニコーンのようなふわふわな子――アルカウィケ。まだいる……放ってはおけなかった。
 臨戦態勢に入っているなんてお構いなしに、ヴァニタスは逃げるよ!とアルカウィケの手を掴む。気になることは沢山あるが、話しはそれからでも遅くないはず、と。
「えっと、今逃げるのはちょっと都合が悪くて、ここが一番安全なんですよ。」
「はぁ? この状況が安全とか、あるわけないでしょ。」
 アルカウィケのたどたどしい言葉に、ヴァニタスは里香として反論する。
「理由は、話せないですけど……。」
 どうしようか、どう彼女を此処に留めて守ろうか考えるアルカウィケ。

(でも、たどたどしい説明の割に落ち着いているというか、こうなることが判っていたみたいな。)

 ぐっとヴァニタスの手を掴むアルカウィケの手を振りほどくのは簡単だったが、ヴァニタスは思うことがあって。

(さっきのことといい、誤魔化されてばかりいる気がする。)

「それとも、あいつらを呼び寄せてこの騒ぎを引き起こしたのはアンタだから、そう言ってるワケ?」
 ヴァニタスはブラフとして、確率は低いと思いつつ、そう吹っ掛けてみる。
「仲間とかでは、確かに似ているかもしれませんが、この姿は……この姿は、えっと……!」

 確かに、ふわふわとしていて、リボンが沢山で、ゆるふわで、どこか雰囲気がツギハギドールと似ているアルカウィケ。似ているが、この姿は、実は……いや、それは今言えなくて、関係なくて、でも忘れないように。

「本当にごめんなさい!!」
 気にかけてくれて、そして、守りたいと思った彼女を守る為に、アルカウィケは√能力『|天空遊覧《ラリヴェ・アドーラブル・ディプノス》』を発動。
 ツギハギドールの大群をぬうように現れたのは、空飛ぶ獏の群れ。その獏の群れから放たれるのは|眠りのうた《睡眠音波》。
「しずかな空に、明日の夢を願って。――あなたにも、眠ってもらいます。」
「なに、し、て……。」
 √能力で強い眠気に襲われたヴァニタスの身体を支えて受け止めて、地面に横たわらせたアルカウィケ。
 そうして、アルカウィケは透き通った赤の刀身を持つレイピア、『|薄紅の秘奥《L’Écarlate》を構え、遊撃に加わる。

(あの方も、今日のことは都合よく忘れていただけるとよいのですが……。)

(敵が来たか。こいつらは……いや、考えるのは後だ。)
 様々な人形の部位が寄せ集められ、可愛くなろうと愛されようとリボンを結んだツギハギドールを見て、紬・レン(骨董品店「つむぎや」看板店主・h06148)は何か思う事があったが、そっと頭の隅に追いやった。
「……!よもやこの場に敵が現れるとは。」
「えらいぎょうさんきおったな!」
 朧谷・千里(清廉なる蒼・h06232)もまたツギハギドールの数を目にして、逃げ場がないか素早く思考する。山橋・羽根子(雪女憑き・h03051)もまた同じく周囲を見る。しかし、周囲をぐるりと囲む敵の数に逃げ場はないと判断するのに時間は掛からなかった。
「千里!俺の近くに……。」
 レンは自身の師でAnkerの千里を守ろうと近くに呼ぼうと視線を向ける。そこには、護身用卒塔婆を構える千里の姿があった。
「……って|卒塔婆《ソレ》持ってきてたのかよ、用意周到だな全く。」
 千里の得意気な雰囲気と、彼の戦闘経験に多少安堵するも、油断はできない。
「己が力で道を切り開く他あるまい。戦いの備えは出来ているか、レン。油断はするなよ。」
「こんな時までお説教は勘弁してくれよな。後で聞いてやるからさ!」
 背中合わせに立つレンと千里。
「しろりんと分離する√能力、鍛えておけばよかったか……。」
 自身に憑りつく雪女の白璃との連携も考えなければ、とも思いつつ。羽根子は今この状況をどう切り抜けようかと考える。

「相棒……大切。」
「ずるい。」
 レンと千里、羽根子と白璃の関係だけでなく、レンの姿を見るとツギハギドールが呟く。
「かわいい、ずるい。」
 ツギハギドールがボロボロのプレゼントボックスを用意する。その数は数えきれないくらいで、クリスマスでも、誕生日でもこんなに受け取らないという量で。

(やり様はあるけど……あるけど……。)

 ツギハギドールの襲撃に受け身で、何とか攻撃を避けつづける羽根子は思案する。とても考える。
「……あのこれホンマにやらなあかん?うわ迫ってくる。あ、ぅ。」
 顔を真っ赤にして羽根子は意を決して、√能力を発動。
「やっぱりナイトはこうでナイトー!!」
 この戦場に響くくらいの大きな声で駄洒落を全力で叫ぶ。と、なんと言う事か、視界内のツギハギドールの動きが麻痺する。
 レンが浮遊砲台『|玻璃鈴蘭《はりすずらん》』と名付けた、鈴蘭型ランプを模した硝子製の浮遊砲台を展開する。更に√能力『|宝石衛星群"蝶"《スターライトバタフライ》』を発動。
「煌めき、羽ばたけ――宝石蝶!」
 ツギハギドールのリボンの色数にも負けない、色とりどりのキラキラと光る宝石の蝶が羽ばたく。宝石蝶の導きにより、瞬いて知らせる方向。羽根子の√能力によって動きを止めたツギハギドールへ、レンは援護射撃。プレゼントボックスを投げられる前に破壊する。
 他のツギハギドールに投げられたボロボロプレゼントボックスを、千里は両手で構えた護身用卒塔婆で吹き飛ばし、ホームランが如く夜空へと打ち返す。
 戦闘知識を活かし、分断されないように、レンの背後にピタリとつける千里。足並みは一寸の狂いもない。
 千里は、レンよりも前に出過ぎず、向かってくるツギハギドールだけに対処。護身用卒塔婆で叩き返し、ツギハギドールと距離を取る。
「愛されなかった人形か。物悲しいが、我らの命が狙いならば容赦は出来ん。」
「|ドール《お前》たちが抱える思いも、何となく理解はできる。愛されている物を羨んで、憎む気持ちもな……。」
 レンは振るうたびに花弁が舞う不思議な傘、つむぎやの奇物『お守り花傘』を開き、オーラ防御で千里を庇いつつ。そうして言い放つ。
「けど、だからって。好き勝手に傷つけさせる訳にはいかないんだ!」

「始まった!こんな突然現れるなんて……。」
 ヨーキィ・バージニア(|ワルツを踊るマチルダ《ワルチング・マチルダ》・h01869)もまたツギハギドールの発現に身構える。
「え、えぇ!?突然何?」
「指揮官様、これを受け取って。」
 そう言って、驚き慌てるエリオット・バックマスター(ヨーキィの指揮官・h01925)にヨーキィはF2000ベースのアサルトライフル、アサルトウェポン『F2000A』を半ば押し付けるように渡す。
「またアサルトライフル!?ええい、やるしかないか。」

(大丈夫。いつものサバゲと同じだ。ヨーキィと初めて出会った時にもやれたじゃないか。きっとやれる。)

 エリオットは、状況を全て飲み込めなかったが、ヨーキィと合った時は出来た、と自身を鼓舞し、アサルトライフルを構える。震えるのは、今は我慢だ。
「指揮官様のことは、このヨーキィちゃんが守るからね。」
 ヨーキィはそう言うと√能力『|ワルツを踊るマチルダ《ワルチング・マチルダ》』を発動。12体の砲と魚雷を装備した駆逐艦ベースの少女人形を指揮しだす。
「指揮官様とヨーキィちゃんを中心に輪形陣!いざ、迎撃!」
 戦闘型レギオンも同時に展開し、ボロボロのプレゼントボックスを抱えて突っ込んでくるツギハギドールに向かって攻撃。
 エリオットは、ヨーキィとヨーキィがどこからともなく連れて来た駆逐艦ベースの少女人形の影に隠れながら、アサルトライフルの引き金を引く。

(実銃の引鉄を引く感覚は、まだ慣れないな。)

 近づいてきたツギハギドールに当てることは叶わなくても、足止めをしようと、弾があるだけ撃ち続けるエリオット。殆どの弾は、撃ちだす反動によって逸れ、明後日の方向に飛ぶも、幾つかはツギハギドールのプレゼントボックスに当たる。爆破する。

(相手は爆撃か。)

 それを見たヨーキィ。
「さぁ、ヨーキィちゃんの艦載機隊、出撃だよっ!空からの贈り物は、こっちのほうがずっと素敵だって教えてあげようね——!」
 腕を伸ばすと、そこに装備した甲板から爆撃型レギオンも発艦するヨーキィ。爆破に爆破で相殺する。
「うわぁ!」
「指揮官様!」
「ずるい。」
 エリオットに近づくツギハギドール。まずい、と。それに向かって、ヨーキィが随伴少女人形を割り込ませる。少女人形はツギハギドールに抱き着くと、そのまま自爆。
「ごめんね、指揮官様が最重要だから……。」
 自爆させた少女人形に謝るヨーキィ。

(人形同士、気持ちは分かるよ。でも、ごめん、指揮官様はヨーキィちゃんのものだ。)

 まだ襲い掛かるツギハギドールの群れにヨーキィは、エリオットを背に庇い、立ち向かう。
「うわぁ、ドールが突っ込んドール!」
 エリオットへと突撃してきたツギハギドールへと、羽根子がまた全力の√能力『|駄洒落《ダジャレ》』を叫び、行動麻痺を付与する。更に、その内に雪女の白璃、しろりんに凍らせに行かせる。
 そこにヨーキィの爆撃。目を一度閉じた羽根子も、雪女が宿っていた冷気を帯びた霊刀、霊刀・白璃を構えて斬りかかりに行く。周囲をよく見て、Ankerを守るように、立ち回る。
「エデンを壊しちゃあかんデン!」
 もうこうなったらやけくそだとばかりに羽根子は耳まで赤くしながら、ツギハギドールにだけ視線を向けて殴り、斬りかかる。

第3章 ボス戦 『プラグマ大幹部ザイカ・ディスアーク』


 数十分か、数時間か、分からないくらい。
 それ位の大群で押し寄せたツギハギドールの最後の1体を倒した√能力者は、己の大切な物――Ankerを守り切れたことにホッとする。

 それも束の間。

 突如、何処からか伸びてきた漆黒の触手がAnkerに巻き付き、逃げられなくする。空間を超えて、√を超えて、√マスクド・ヒーローの薄暗いプラグマの倉庫に壁にAnker達を縛り付ける。

「笑って笑って。最期ですよ~。楽しく死にましょう?」
 そう倉庫の中で声を響かせたのは、プラグマ大幹部ザイカ・ディスアーク。
ジルベール・アンジュー
ジュヌヴィエーヴ・アンジュー
山橋・羽根子
エアリィ・ウィンディア
シル・ウィンディア
アルカウィケ・アーカイック
ヨーキィ・バージニア
紬・レン
朧谷・千里
静峰・鈴

 突如伸びてきた漆黒の触手は、いとも簡単に大切な物を捉えて、√マスクド・ヒーローのプラグマの倉庫の壁へと縫い付ける。手首、足首、首、腰、腹部……身動きが取れないように、まるで古の神の磔刑のように。
「あ、ジェニー!?」
 突如の事に、大切な妻であり妹であるAnkerのジュヌヴィエーヴ・アンジュー(かつての『神童』・h01063)の名を叫ぶジルベール・アンジュー(『神童』の兄・h01027)。
「えっ!?お母さん、お母さん大丈夫っ!?」
 エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)も、お疲れ様と労ってくれた母のシル・ウィンディア(エアリィ・ウィンディアのAnkerの師匠・h01157)を呼ぶ。実戦経験もあるシルまでも囚われるとは思わなかった。
「千里っ!」
 紬・レン骨董品店「つむぎや」看板店主・h06148)もまたそうだ。朧谷・千里(清廉なる蒼・h06232)の身を案じて、名を呼ぶ。

「ぐっ…不覚を取ったか。」
 千里は自身の体を締め付ける漆黒の触手を一目見て、周囲を見る。

(見慣れぬ地だが、恐らく此処は別の……?)

 無機質で剥き出しの天井に、転がる鉄筋等。冷たい雰囲気が漂う倉庫に千里は見覚えがなかった。
「ええ、なにこれっ!どこから飛んできたのっ!」
 シルは拘束を解こうと、ぐぐっと力を込めるも、拘束が強くなるだけで。

(くぅ、実戦感がやっぱり鈍っているなぁ……。この状況だと狙ってくるよね。)

 シルは自身の勘の衰えと、娘へ心配を掛ける事への申し訳なさに項垂れる。
「油断した、とは言うまい。しかし、首謀者はサイコブレイドとやらではなかったのか?貴様はさしずめ下請けか?」
 そういうジュヌヴィエーヴは囚われている身でも、鋭い眼光を真っ黒な衣装に身を纏った少女、プラグマ大幹部ザイカ・ディスアークに剥ける。
「下請けとかそんな言葉使わないでくださ~い。サイコブレイドからこの剣を受け取ってパワーアップしたんですよ。」
 と、片手で持つ剣『サイコブレイド』を一振りすれば、漆黒の触手がぐっとジュヌヴィエーヴの拘束を強くする。
「ぐっ……。」
 喉が絞められて声が出しづらくなるジュヌヴィエーヴ。まるで以前の動かない体に戻ったようだ。

「貴様が何者かは知らんが……驕りは破滅を招くぞ。」
 千里の言葉に、ハンっと笑って見せるザイカ・ディスアーク。
「このわたしに限ってそのようなことはないですよ?」
 動けないキミたちに何が出来るのですかね?と、じわじわと手首から順に体の中心から遠い部分から拘束をじわじわときつくする。

(私のように驕った者の末は決まっている……。)

 千里は静かに信じているように、自身の過去と重ねて、思う事があった。

「いまのわたしの状況で出来ることは……。」
 シルは小さく気づかれないように詠唱をして、全力の魔法でオーラ防御を自身の身体周辺に纏うように展開し、じわじわと閉めて来る漆黒の触手の侵蝕と抵抗する。少しでもダメージを減らせるように。

「くそ、追いかける。今ならまだ、向かってきた√世界に繋がってるはずだ。」
「いざ、参りましょう――澄み渡るは冬月の如く。」
 焦るジルベールに、鈴のようにか細くも芯の通った声で肯定するのは静峰・鈴(夜帳の刃・h00040)。新月の夜よりも濃い髪を揺らして、トンと地を蹴ると、漆黒の触手が消えた方向へと先陣を切る。

 √能力者たちもまた、√マスクド・ヒーローの倉庫に辿り着く。その気配にザイカ・ディスアークも振り向き、あぁこれが悪の顔かと言いたくなるような笑いで歓迎する。
「ようこそ、ようこそ、雑魚の皆さん。」
「お前、お前。許されないことをしたな!」
 普段は元気で明るく活発なヨーキィ・バージニア(|ワルツを踊るマチルダ《ワルチング・マチルダ》・h01869)は怒りを隠し切れない。磔にされている指揮官様を目にすれば、それは燃え上がるような感情になり。
「温厚なヨーキィちゃんでも、指揮官様を傷つけるモノは絶対に許さないぞ。」
「許してもらわなくて結構結構。どうせ皆死ぬのですからね。」
「くっ、何か外面も内面も悪趣味な奴がきおったで!こいつが主犯か!」
 テレビで見たような悪の大幹部のようだと思う山橋・羽根子(雪女憑き・h03051)。確かに悪の大幹部ではある。

「遅くなってごめん!助けに来たよ、ジェニー!」
「遅いぞ、兄さん……!」
 ぎりぃっと首を絞められながらも、ジュヌヴィエーヴは兄である夫のジルベールに余裕を見せる。
 エアリィも母のシルの姿を見つけて、今すぐに早く助けたい気持ちが逸る。が、Anker達はザイカ・ディスアークの後ろ。今、敵に背中を向ければ間違いなく攻撃されてしまう。
「エア、あなたはしっかり敵を討つ事。それがわたし達を助ける近道だからね。」
「……!」
シルの言葉に、ハッとするエアリィ。
「だいじょうぶ。少しくらいなら耐えられるから。」
 シルは、エアリィを安心させるように微笑む。柔らかく、出来るだけ温かく……。
「……うん、早く倒して助けるよっ!」
 エアリィは左手の精霊銃を握り直す。
「……そうか、お前が襲撃者のボスって訳か。折角皆が心穏やかに過ごしてたってのに、邪魔するどころか殺そうとするなんて、許される事じゃねえな。」
 穏やかな平和主義な性格のレンでも、この出来事に怒りを抑えられなかった。ただ、Ankerを囚われているのはマズいとも思って、慎重に動かないと、となる。
 と、バチっと囚われている千里と視線が合う。

(お前も、このままやられっぱなしなんて嫌だろ?)
(――フッ。)

 レンの視線に千里が目で笑って見せた。
 一歩退がり、レンは√能力『|未来を奏でる百合水仙《メロディオブアルストロメリア》』を発動する為に歌う。前に進むための、希望の歌を。明日を共に迎える為の歌を。そうして、囚われたAnker達の傍にはアルストロメリアの花が出現する。幸せ、持続、そんな花言葉のある花を咲かせる。

 先手を切ったのは鈴。自らが大切な、いっとう尊き星であるAnker。鈴の、自身のAnkerは此処にいなくても、それを守る為に刃を抜く。√能力『|明澄《メイチョウ》』。顕明剣『夜帳』に破魔の力を纏わせて、真っ向から躊躇うことなく踏み込む。
「わたしに勝てるなんて思いがっているのですか?」
 ザイカ・ディスアークが魔剣メギドライザーをサイコブレイドと持つ反対の手で抜き放ち、間合いに入って来た鈴に向かって振り下ろす。その直前に左右へとフェイントで切っ先を惑わそうとする鈴。しかし、その魔剣の動きもまたフェイントが仕組まれていて。
「……っ!?」
 鈴の長い髪の一部が宙を舞う。
「まだまだ始まったばかりじゃないですか!ほらほら!」
「……留まるを知らず、進み往くを、ご覧あれ。」
 ザイカ・ディスアークの初撃を避け切れず、二撃目を落涙で濡れた霊刀で受け止める鈴。受け、流し、三連撃目も翻し、カウンターの一閃。切断する刃は、ザイカ・ディスアークの臓腑にまでは届かず、その黒い髪を一部斬り舞うだけ。
「そんな顔しないで、笑って笑って~。死ぬ前ですよ。繋がりが消える前ですよ。」
「ひとは繋がり続ける。故に、美しく輝くのです。」
 そう語る鈴に続くように、戦場に躍り出たのは|ブロッケンの怪《霧影》と完全融合したアルカウィケ・アーカイック(虚像の追憶・h05390)。
「最期は笑顔……それくらいの心持ちが、この場にはちょうどよいのかもしれません。」
「そう思うでしょう。じゃあ、死んでください。」
「|僕で試してみますか?《試し斬りにつかってもいいですよ》」
 そう茶化すように言うアルカウィケに、ザイカ・ディスアークが魔剣メギドライザーを振るう。それはアルカウィケの身体を分断する強撃。

(いえ、大人しくやられるつもりはないですけれど。)

 アルカウィケは√能力『|霧影の円舞《ワルツ・ド・ハルツ》』で、即座に蘇生すれば、大鎌の柄で魔剣を受け、弾き返し、刃で次撃をいなして。躱しきれない連撃には、無理に体勢を崩さず、蘇生後にカウンターできる体勢で攻撃を受ける。
「言ったのはあなたですから。お互い、その瞬間まで笑顔で頑張りましょう。」
 死後即蘇生するアルカウィケに、ザイカ・ディスアークは面白い、と笑い、何撃も魔剣を振るう。
「はははは!面白い奴だな、じわじわと殺してやろう。」

 アルカウィケの大鎌と魔剣が火花を散らす。どちらが優位か不利かと言われれば、ザイカ・ディスアークの方が傷少なく。

 敵のように楽しむ心持ちにはなれないが、それでもアルカウィケは囚われたAnkerを見て思う。

(今日の後ろめたさを忘れて没頭できるという意味では、闘いも悪くないですね。)

 一歩も譲らぬ攻防の中でふと思う。そして、自身の蘇生攻撃が尽きるのが先か、敵の連撃が切れるのが先かの戦いに没頭する。

「聞いていた相手と違うね。……まあ、いい。|妹《つま》に手出しした以上、容赦はしない。」
 ジルベールが最終決戦型WZ『セラフィム』の飛翔翼を大きく広げ、戦場の士気をあげるように声高らかに宣言する。
 それと同時にザイカ・ディスアークは遠隔爆破による牽制、念動力により捕縛、そして爆破による強撃を、パチンと指を鳴らして発動する。
「派手に死んだ方が楽しいですよ?」
「いくらでも攻撃すればいい。ジェニーがいる限り、この機体は無敵だ。」
 爆破の中から最終形態化したウォーゾーンに身を包んだジルベールが、破壊の炎を弾として剣砲から放ちつつ特攻。
「では、そのAnkerを先に殺しましょうか。」
「させない!」
 ザイカ・ディスアークの刃からジュヌヴィエーヴを守るように、ジルベールが身を挺する。
「下請けだか孫請けだか知らないけど、狙った相手が悪かったね。」
「本当に邪魔ですね。」
 ジルベールの背に守られるようになったジュヌヴィエーヴは、その隙にと幸運にも持っていた指輪の中に仕込んだ単分子ワイヤーで拘束する漆黒の触手を切断しようと試みる。なかなか切断まではいかない、幾重にも巻かれた触手。しかし、声をあげられるくらいの隙間は作れた。すぅっと喉を空気が通る。
「牽制射撃だ!」
 ジュヌヴィエーヴは束縛されつつも召喚した浮遊砲台群で牽制射撃を試みる。それは些細な攻撃かもしれぬが、射止める目的ではない中では十分だった。

「くっくっく、羽根子よ、今こそあの手で行こうぞ。」
「……何か、しろりん言うとる?何?」
 羽根子が戦場を駆けまわる中、自身に憑りつく雪女の白璃が言う。と、同時にインビジブルの群れが羽根子を一瞬で喰らう。と、その体は山よりも大きな体へと変化し、巨大雪羽根子が出現する。あまりに大きく、倉庫の中で身動きが取りにくい、前かがみ、膝抱えの体勢になる。
「ど、どないなっとんねんウチの体ー!!」
「何、戦闘が終われば生き返るじゃろうし好きにその姿で暴れるがよいぞ♪」
 と、楽し気に言う白璃はその羽根子の肩に飛んで乗る。
「え、えぇい、ままよ!」
 羽根子は、もうどうにでもなれの精神でその巨大な雪の体を動かそうとする。
「へぇ、大きすぎじゃないか。動きが遅いね。」
 ザイカ・ディスアークもまた究極魔怪人ゴエティアアークに変身する。その手にあった魔剣が|絶界魔剣《デアボリカソード》ハルメギドへと変化する。と、雪の巨腕を振り上げた羽根子の腕を切断する。氷を割るよりもあっさりと。
「い……っ!」
「想い人の邪魔者は、極北の果てに送ってやろうぞ!」
 痛みに声が詰まるも、白璃の言う事ももっともで、痛みを堪え、Ankerの周囲を囲むように雪でかまくらの様にガードを固めることには成功する。

 左手の精霊銃で火・水・風・土・光・闇の六属性をランダムに乱れ撃ちをするのは、エアリィ。お母さんを、Ankerの皆を助ける一心で精霊銃を構え続ける。ザイカ・ディスアークのハルメギドを狙って、耐性を作られる前に何度も属性を替えて撃ちつつ、高速詠唱。
「六界の使者たる精霊達よ、集いて力となり、我が前の障害を撃ち砕けっ!」
「ちょこまかと……!」
 ハエが煩そうに、剣で魔弾を払うザイカ・ディスアーク。が、遅かった。
「あたしの全力もってけーーっ!!」
 エアリィの√能力『|殲滅精霊拡散砲《ジェノサイド・エレメンタル・ブラスト》』が発動。火・水・風・土・光・闇の6属性の魔力弾の雨が降るが如く、300回の攻撃がザイカ・ディスアークを襲う。
「ぐっ……。」

(今だ……!)

 攻撃の中のザイカ・ディスアークに背を向けて駆け出すエアリィ。精霊剣に力を込めて、シルを含むAnkerを縛る漆黒の触手を切断する。
「大丈夫ですか?」
「ありがとう、エア。」
 解放されたAnker達を守るように立つエアリィは、オーラ防御とエネルギー防御を展開する。
「絶対に守り切るよっ!」
「エアの気持ちと覚悟、伝わったよ。」
 シルも開放されると蒼翼砲を構えて援護射撃。属性攻撃で風属性を付与して、吹き飛ばしを狙う。また、幻影も創り出し、再び囚われないように立ち回る。
 娘のエアリィの成長と逞しさに、瞳が潤むのを我慢するシル。
 エアリィの斬撃で緩んだ漆黒の触手を、怪力とグラップルの力業で千切り抜け出す千里。先ほどまでもっていた、床に落ちた卒塔婆を持ち、何が起きても良いように構え備える。
 自分は一線から身を引いた者。ザイカ・ディスアークとの戦闘はレンたち√能力者たちに任せようと思う。しかし、これ以上足を引っ張る気もなかった。卒塔婆をブンブンと振り、レンに言う。
「レン、こちらは心配するな。存分に戦い抜け!」
 それは弟子を鼓舞する言葉。

 右腕に付けた甲板を前に突き出し、ヨーキィは叫ぶ。
「全艦載機隊発艦!敵を討てーー!」
 F4Fワイルドキャットを発艦。機銃掃射がザイカ・ディスアークの動きを牽制する。その隙を狙うように、発艦されたSBDドーントレスが投網爆弾による捕縛で動きを完全に止める。
「真正面から、これほどの……。」
「ヨーキィちゃん、激おこだから!」
 TBDデバステーターの空飛ぶ魚雷が動きを止められたザイカ・ディスアークを襲う。それは嵐の中で行われるような、空襲攻撃。
 ザイカ・ディスアークが怯む。その隙にダッシュで、ヨーキィの指揮官が落としたF2000Aを回収し、構え、発砲しながら一気に接近するヨーキィ。
「今だよみんな!集中攻撃!」
 その言葉に、前線へと、ザイカ・ディスアークへと全員が攻撃を仕掛ける。

 それはレンも例外ではない。千里の無事を確認すれば、花で装飾された綺麗な霊剣『花霞』を持ち、ダッシュ。自身の移動速度を上げ、駆ける。その後ろには無数の花弁が散る。無数の花弁を伴う神秘の風を纏ったレンは、まるで春嵐。
 レンは剣を目の高さまで持ち上げて、構える「霞の構え」。Ankerが捕らわれの身から解放されたのならば、この目の前の敵を倒すだけだ、と。もう、弱くて、運動音痴の自分じゃない。自身の護るべきものの為に振るう力があるのだ。
「穢れ無き花、清浄なる風―――闇夜を穿つ刃となれ!」
「逆らうんですか?じゃあ苦しんで死ね。」
「楽しくも悲しくも死なない。それは一度で十分だ。死ぬのはお前と私だけだ!」
 ヨーキィが飛びつき、ザイカ・ディスアークごと自身を、ヨーキィが発艦した艦載機で攻撃させる。
「この……!」
 ヨーキィの作った特攻の隙を、レンは見逃さない。早く、速く、素早く、嵐の如く――。
「最期になんかさせてたまるか!俺達は互いを支え合って、戦い抜くんだ……!」
 フェイントをかけ、常に花弁を舞わせ、動き、そして出来た隙を見抜く。霞の構えから、一気にザイカ・ディスアークの正中を一撃で叩き込む。
 防御したザイカ・ディスアークのサイコブレイドの剣を弾き飛ぶ。ザイカ・ディスアークの体が、レンの一撃……√能力『|百花烈迅《ヒャッカレツジン》』で二つに分かたれる。

 くるくると宙を舞ったサイコブレイドが地面に突き刺さる。
 と、同時にそこは小高い新月の丘に戻って来て。
 空にはキラキラと星が瞬いていた――。
 一番、綺麗で特別な星と共に――。

挿絵申請あり!

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挿絵イラスト