シナリオ

悪役令嬢殺人事件

#√EDEN #√マスクド・ヒーロー #Anker抹殺計画 #急がなくて構いません。 #どんなに早くとも21日夜以降にまとめて執筆いたします。

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 #√EDEN
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 #急がなくて構いません。
 #どんなに早くとも21日夜以降にまとめて執筆いたします。

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「貴女、少しばかり図に乗ってるのではなくて?」
「しかも私たちどころか、あの方やあの方の邪魔もしたでしょう」
「は? 何の事でしょう」
 そのお茶会は淑女と、それを取り巻く様々な男たちを舞台に行われていた。
 ただし、その中心的な話題は少しばかり剣呑である。
「しらじらしい。貴女がやらせたのだとみんなて言ってますわよ」
「中には貴女に命令されたと、悔恨の涙を浮かべて贖罪された方も」
「身に覚え有りません。みんなって誰ですか? その命令された人を連れて来てください。そもそも私と知り合いで、しかも命令できる人なのかとか、ちゃんと調べたんですか?」
 あからさまに濡れ衣である。
 そもそも、言いがかり以前に話題になった狼藉どころか、命令する相手にも覚えはない。しかし、その事を告げても誰も弁護してくれなかった。
「まあ……。脅して証言を曲げさせるつもりですわ」
「いえいえ。もしかしたら買収してしまうつもりかもしれませんわ。浅ましいこと」
「ひ、酷い。話も聞かないなんて、決めつけありきじゃないですか! 私何もしてません!?」
 口論の蠅に、周囲から男性陣がやって来る。
 体育会系も居ればクール系も居る。もちろん男装の麗人や男の娘まで居た。みんな彼女を追い詰めようというのだろうか? それとも、ここで弁護に入って助けようというのだろうか? 果たして、結末やいかに!?

 なお、これは執事喫茶の舞台であった。
 お金を払ってのサプライズパーティーだったり、チヤホヤされたい人が悪役令嬢だったり、聖女役に扮して楽しむための場所だ。しかし、一つだけ問題があった。
「キャー!?」
「し、死んでる!」
 そう、その日は本当にその娘が殺されてしまう事であったという。


「と言う感じの執事喫茶を利用して、女の子が一人になった所で殺されるんだ。悪役令嬢でも聖女でも、一人になる状況は必ずあるからね。もちろん配役が複数人でも、相手の数が増えれば殺せるから、少々の介入では、向こうの星詠み次第で軌道修正されちゃうんだろうけど」
 ルベウス・エクス・リブリスが説明を始めた。
 どうやら星詠みの力で未来を読んだものの、相手側にも星詠みが居て、読みにくい状況だという。
「事件自体はバタフライエフェクトを起こして、未来に役立つ人物を殺そうとするものだね。問題なのはその人に、今話題のサイコブレイカーというのが関わってる事かな。未来に役立つ人物だけに、Ankerになり易い候補なんだろうね。そこでこの事件に現場で介入して、細部調整して欲しいんだ。最終的に事件を起こす人か、さもなければサイコブレイカーを何とかして欲しいな。あ、もちろん執事喫茶へのお食事とか、その手前の広場で行われるパレードや舞踏会のチケットは用意するよ」
 そう言ってルベウスは笑って必要な物を取りそろえたのである。

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第1章 日常 『乙女のための執事喫茶「六月の薔薇」』


新見・想
神無・未来
ルーシー・シャトー・ミルズ


 そこは大きなアーケード街だった。
 今では珍しくない光景だが、昔からこんな感じだったらしい。
 とはいえ栄枯盛衰は世の常であり、そこの商店街は様々な町内企画に積極的に成ったという事である。

「お願い未来、わたしの執事になって!」
「は?」
 唐突な告白は女の子の特権だという。
 だが、この日の言葉は一風変わって居た。
 愛の告白ではなく、映画のタイトルコールみたいな唐突なお願いである。
「実は憧れてたの、悪役令嬢!」
 |新見・想《あらみ・こたえ》(そう、わたしが!・h01561)は幼馴染に対して力説した。誰が憧れて居たのか? そう、わたしが! と想は言った。
「あの、は?」
 |神無・未来《じんない・みく》(“ふしあわせ”な人間さん・h00330)は同じ言葉を二回言った。大切なので二回言ったわけではない。何を言っているか本当に判らなかったのだ。

 呼吸を止めて一秒、真剣な目をした少女たちの視線が飛び交う。
 だがそこに恋愛は無いし、百合も無い。たぶん、きっとメイビー。

「と! 言うわけで! 未来と一緒に執事喫茶に来ました!」
 想は満面の笑みでカフェの前に来ていた。
 普通ならばドン引きの一つも去れそうなレベルだが……。
 ここのお客さんは特殊なので、『執事同伴とはやるわね!?』と一目置かれて居たりする。
(「……なぜ私が執事喫茶にいる……?」)
 と未来が思っている所に、唐突に、強烈に、そして鮮烈な言葉が突き刺さったのだ!
「執事も悪役令嬢も、その手の小説だとかを読んだ事が無いから、何も分からないわ……?」
「っふ……!」
 未来が途方に暮れる中、誰かの声が聞こえた。
 より正確には、笑いを堪える声が零れたというべきか。

 閑話休題と言う言葉が零れるよりも先に、鋭い指摘がコンドルのように飛んでいく。

「そして何故笑っている、ルーシー・ミルズ?」
「わ、ルーシーちゃんもいるね! やったー!」
 未来がジト目を送ると、想は握っている拳を上下させた。
 二人の視線からは『遠慮すると思うなよ?』と言う意図が見て取れるが、意味は違っていた。意図と意味は一次違いなのだけど、別の言葉からだからね!
「というか悪役令嬢ってどういう令嬢なんだろう? 単語だけ聞いたことあるよ!」
「つまりその何、突然の思いつきだけであなたたちはこのラノベじみた世界観にお邪魔することになったわけですね」
 想が考えている事を垂れ流すと、|ルーシー・シャトー・ミルズ《るーしー・しゃとー・みるず》(|おかし《・・・》なお姫様・h01765)は堪えきれなくなって笑った。町内会の企画自体が見切り発車だと思うのだが、まさかそれに輪を掛けて見切り発車な人物が異様とは……このお姫様の目をしても見抜けなかったぜい。とでも言わんばかりの表情である

 ちんみに想はというと、こーいう感じで幼馴染を強引に巻き込んだので、そこから先は何にも決めてませんでした! とテテペロも良い所である。

「……まさかの見切り発車だとは」
「なになに想ちゃん、まさかの事前情報無し!? 憧れがどうだのとゴリ押しされてやってきたと!」
 未来は途方に暮れた。まるで屍のようだ。返事はするけど。
 対してルーシーは思わず吹き出し、もしベンチに座って居たらズルズルとズッコケて居ただろう。いや、仮にもプリンセスたるもの、そんな事はしないけどな。まあ、亡国の姫なんだけどさ。いや、亡界か。
「やってるねぇ~流石ネットアイドル」
「はーい♪」
 ルーシーの言葉に想は即座に反応した。
 そして二人は幸せなハイタッチをして、その場のノリを温め合う。こういうのはノータイムでシンキング。ハデに暴れる人間という者は、思った時には実現しているものであり、言葉に出すものではないのである。
「いやあ未来さんや、今も思うけど大層お転婆なAnker持ったね。毎日振り回されて、そりゃ護りたいという望みも生まれるわけだ」
 愛だね。ラブじゃないかもしれないけど、広義の愛ではあるね。
 そう言おうかと思ったルーシーだが、間違いなく『殺すぞ、お前。とか言って良いですか?』と切り返されるので止めておいた。それでこの流れが途切れたら面白くないからだ。

 では何をすべきか? 建設的な回答を!
 もちろん立てるのはタワーではない。

「じゃあそんな世話の焼ける二人の為に、あたしが情報収集技能を使ってしんぜよう。まず、正味の『悪役令嬢』というのは存在しないんだよ。一般的にはスーパーエースなライバルキャラ、お姉さま的なキャラクターを発祥としているとされる」
 ルーシーはネットやなんかをパパっと垣間見て、その情報を一気貫通して考察してみた。百聞は一見に如かず、論理の飛躍は一撃必殺。まずはこれと言うアイデアを代入して、ソレが正しいのかを検算すればだいたい見えて来る。
「んで、ネタとしては『冤罪で排除される高嶺の花』であり、そこから異議を申し立てたり処刑を避けたり、追放されても健気(?)に生きていたりするんだね。この店では、この後半部分を要素に、舞台仕立てにしている訳さ」
 ルーシーはそう言う事を調べたり推敲したりする間、周囲の様子をチラリと確認して見た。どうせ情報を並べ立てて考察するだけだ。ならば、『この場に居る犯人』達に関して監視の目を向けて悪い事はあるまい。

 と言う訳で概略終了!

「ふむふむ、なるほど~! そしたらそしたら、なりきって遊んでみるね!」
「そういうものがあったのね。……"たのしい"かどうかは、分からないけれど。まあ、やってみるくらいなら……?」
 想は情報が整理されたことで何となくやる事を把握し、未来は適当に弁護するAプランと駄目だったら逃避行をするBプランを立てた。とりあえずお嬢さまだけ守り切れば良いらしいと未来は判断したのだ。想? 彼女はウンウン頷いているだけだよ。完璧に判ったわ(判ってないけど未来が居るから良いやの構え)。
「いまーしぶ? で、合ってる?」
「イエース。何だ知ってるじゃん」
 想は『大枠に関して』理解していた。没入型エンタメというやつだ。
 だがルーシーが考えているほどに『中身の方』は理解していない。まさかここで細かいすり合わせをしないことが、あんなことになろうとは思っても見なかったのである。とか言ってみる。

「それで――ちょっと、ルーシーさん……?」
「ちょっとお人形ちゃん借りますね想ちゃん」
「は~い」
 そしてやるべきことを見つけた未来を拉致り、ルーシーはバックヤードへと向かった。そこには男用・女用・男女兼用のパーティー用の着替えと、着替える為の更衣室があったのである。服だけが並んだ、いわゆる衣裳室というやつもあるよ!
「はい執事さんのかんせーい! あたしも執事!」
 その姿は燕尾服。スワロ-テイルに手袋とタイ。
 ルーシーが来ているのが黒地の服に白い手袋やタイ、そしてもう一人はホワイトの燕尾服に赤いタイと決まっていたのだ。

「ありがとルーシーちゃ……ふぁ、すごいよ未来! 立派で完璧な執事様!」
 可愛く礼を言おうとした想だが、ここで目をキラキラさせた。いつも見ている筈の幼馴染に対して、ドキドキしながら夢女子が二次元キャラに対するような目をしてみる。

「私が、執事」
 その時、幸いにも未来の方はまだ冷静だった。
 自分の姿を顧みて、まだ違和感の方が強かった模様。普段から振り回されているだけに(不憫枠というか胃痛枠)、冷静であったともいう。
「未来~♪」
「|運命は信じない《おはようございますお嬢様》」
 想がうるんだ眼をすると、未来はジト目で返した。
 何を馬鹿な事をやっているんだという、何時もの突っ込みに溢れた目である。幼馴染だから五秒の猶予があるが、大概の人には一言目から嵐の様な突っ込みが混ざるだろう。
「――ちょっと心篭ってませんよ未来ちゃん、ほらやり直し!」
「……分かったってば。おはようございます、お嬢様」
「未来~♪」
 ルーシーが先に突っ込むことで、未来はからくも幼馴染である想に冷たいツッコミを入れるのを思い留まったのである。

 なお、重要なのは留まった。と言う言葉は別に中断するという意味ではない。

「これの、何が"たのしい"の?」
「未来……」
 いつもの躊躇の無いツッコミ。
 未来の行う見慣れた態度に、想はやるべきことを見出した。
 こう言っては何だが、『あんた何やってんの?』『あんたこそ』『あんたこそ』みたいな呆れ果てたやり取りをする様な仲ではないのだ。そういう猫かぶり同士が殴りあう段階はとっくに乗り越えている。

 と言う訳で、テイク2!

「一生わたしの下にお仕えする運命なのだ~!」
「そしてわたしも、愉快で素敵な悪役令嬢!」
「お~っほっほ~!」
 想は三面カットで悪役の様な見栄を切った。
 もし三人の悪役が居るならば、中心人物の美女役だ。
 きっと隣には力自慢と頭脳労働訳が居るに違いない。
「おはようございます、お嬢様♪ それ、ちょっと路線が違いません?」
「全ての幸せとなんかこうあれとそれと、全てをこの手に入れてやるので……あれ違うっけ。演技がんばる」
 ルーシーがタイムパトロール的な怪盗がやる事だと優雅に指摘すると、想はようやく我が事を顧みた。さっきも言ったが悪役令嬢に関する意識をマルっとスルーしたために、『悪役の美女』にシフトしてしまったのである。

「アンダスタン? じゃあ三人でこういい感じに遊びましょうよ」
「オッケー! 三人で、そうして楽しむの! うん。そうだよね!」
 それからルーシーが噛んで含める等に継げると、想はようやく勘違いに気が付いた模様である。しかし、強引グ・マイ・ウェイであり、勘違いも含めて全力で楽しむ様は実に面白そうだ。
「……たのしい、か。あなたたちが楽しいなら、きっとそうか」
 その様子に未来は、ベクトルと深度というモノにようやく思い至った。別に悪役令嬢を演じることに、スコアもトロフィーも無いのである。

 ただ、精一杯に遊ぶ自分たちが楽しいかどうかだ。

(「幸せの限界などたかが知れている」)
 思えばやるべき事、やらなければならないことに振り回されて、『自分がどう考えるか』をおざなりにしていた気がする。
(「ふしあわせで執事で感情の無い、透明なわたし」)
 もしかしたら、二人はソレを教えるためにこの喫茶店に連れて来たのではないだろうか? いや、想はともかくルーシーがそうだとは、にわかに信じたくないが……でも、そうなのかもしれない。

「……少しは、もっと、この"たのしい"文化を深く知っても良いのかもね」
「うんうん、楽しいんだよ未来! わたしもルーシーちゃんも未来も、いっぱいたのしいの」
 感情無くした悲しい執事さんに、いっぱいたくさんの幸せを教えてあげる。
(「そんな幼馴染で悪役令嬢――ご自慢のAnkerですっ♪」)
 想は押し付けない程度に、大切な幼馴染が『動き出す』のを待っていたのだ。

 と言う訳で、執事たちはスイーツバイキングから取り分ける。
 銀盆にフルーツサンドイッチやスコーンなど腹に溜まる物、クッキーやビスケットなど固い物、そして各種ケーキを山盛りだ。もちろん執事は二交代で、お嬢様を守りながらね!

「ところで因みに殺人劇の犯人ですけどどうなると思います? あ、これはこのイベントに合わせたお菓子で『令嬢のおもてなし』って言う抹茶風味のチョコね。お嬢様、配っても良い?」
 ルーシーは三段重ねの銀盆を前に、首を傾げてみた。
 ちゃんと取り分けた銀盆とは別に、企画物のお菓子の小箱を持って来た。六個入で全部が緑色のチョコレートだ。
「劇はね、わたしはBかな! がおーって、なるの! 配っても良いって言うか、もう食べちゃう! んむ、おいしーね♪」
「私はAを想定するけど……。ホラ、口元からはみ出てる。ちょっと待って。まったく想は……うっ……これは……」
 想がハムハムと食べながら自分の案を述べると、未来は苦笑しながらハンカチで口元を拭ってあげた。そして自身も緑色のチョコを口に入れたところで違和感に気が付く。

 むぐっ……と口元を先ほどとは違う意味でハンカチで抑える未来は、物凄い目でルーシーを睨んだ。

「ルーシー・ミルズ。これはいったい?」
「今回の企画用だっていったじゃん。お嬢様の許可を得て配布した、ロシアンなチョコだよ♪ ロシアンティーのお仲間かなあ? で、これを公表したらお嬢様のせい。さあ、君はどうする? お嬢様を庇うかい? それとも人狼ゲ-ムでも始める?」
 未来のジト目にルーシーはケラケラと笑った。
 そう、未来が口にしたのはワサビがたくさん入ったチョコなのだ。
 問題のあるお菓子……だからこそルーシーは、想に『配って良いかを確認した』のである。もし指摘した場合は、全てが想のせいと言う事だ。悪役令嬢断罪ゲームが始まってしまうし、隠して何とかするにはここで黙っておくしかない。
「え? なになに?」
「ひ、卑怯な……」
「さーて何の事やら? まあ、楽しんでくれたら幸いじゃない」
 と言う訳で、残りの本題を進めてしまおう。

「あたしはCだけど――ってみんなバラバラだし……すごいな~」
「見解もバラバラなのは、今に始まったことじゃない。最低限の調整はしておきましょうか」
 食べる物に合わせて、コーヒーやらジャスミンティを入れ替えながらルーシーと未来は本題である、この後の事件について話し合った。というか、星詠みの話を聞く限りは『全員が候補』だけど、『実行犯はどれか1グループ』らしいのだ。
「ええと、風が吹けば嬉しいな? だっけ? バタバタ蝶ちょが飛ぶの」
「桶屋が儲かるとか、バタフラ・エフェクトですよ。思わぬ飛び火で、本来とは別の案件が将来の問題を拡大させるとか利益に繋がるという感じです」
 想がジュースを混ぜようとするのを食い止めるため、未来は苦笑しながらその動きを静止した。その時に『お嬢様はお座りください』とか言って、率先して自分が動くことで暴挙を中断させるのだ。しかし、いつもと同じことをしているのは気のせいだろうか?
「この場合はどのお嬢さんが……正確には実家かな?」
「先ほどの説明だと、旦那様が誰になるか次第では? 電力会社の令嬢が、不動産会社の社長と結婚するか、特許を開発する天才科学者と結婚するかで将来が変るとかですね」
「なにそれ!? 面白そう!」
 何てことを言いながら、三人はお茶会を繰り広げるのであった。

コマンダー・オルクス
ヘカテー・ディシポネー
ウェスタ・プロメシアン


「フハハハ、我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスが大幹部、コマンダー・オルクス!」
 コマンダー・オルクス(悪の秘密結社オリュンポスの大幹部・h01483)はいつものようにアーケード街でも同じように宣言。いつものように周囲の部下達に指示を下した。
「さぁ、悪の幹部候補生ヘカテーならびにウェスタよ、メイドさんプロジェクトの本領を発揮せよ!」
「意義あり! 間違っているわ! 今回の極秘任務に対して勘違いをしていない?」
 上司の言葉にヘカテー・ディシポネー(悪の秘密結社オリュンポスの女幹部候補生(仮)・h06417)は珍しく正面から反論を行った。いつもと違って倫理回路が邪魔をしない。そう、今回は反論しても倫理回路が心(推定)を締め付けないのだ。
「メイドさん? ここは執事喫茶よ……。コンセプトに準じるなら、私やウェスタは、悪役令嬢や聖女役の為のエキストラの女性陣役じゃないかしら」
 ヘカテーは胸を張って任務に関して補足を行う。
 今回の事件は会議室ではなく執事喫茶で起こっているのだ。

 ならば自由自在に行動できるのは、執事の方に決まっているではないか! まあ令嬢役のお嬢さんたちも沢山いるけどね。

「え、指揮官が執事で、コマンダーが、ウェスタたちに奉仕するのですか!?」
「そうよ。お金を払ってまで、役を演じるなんて意味が分からないわね。スイーツ・ビュッフェがあるらしいから、軽食を採るだけなら判らなくもないけどね」
 驚愕の表情を浮かべるウェスタ・プロメシアン(PR会社『オリュンポス』の|量産型戦闘冥土《ジェネリックメイドトルーパー》・h05560)に対し、ヘカテーは肩をすくめて苦笑した。随分と人間臭く成ったな……と思わなくもない。その事を気にしないウェスタと、堕落した様な気がするヘカテーと言う差がある。だが妹分に負けまいと姉は苦労するのだ。
「おっと、そういえば今回は極秘任務だったな……」
「ところで、ウェスタは、|『少女分隊』《十三人》もいるのですが、コマンダーは、大丈夫なのですか?」
 コマンダー・オルクスは不承不承と言った態でバックヤードへと向かった。彼は設定に忠実なので、上下関係がどうというよりも、やるべきことに忠実である。
「何も問題は無い」
「任務受諾。作戦遂行の為、|指揮官《コマンダー》への過重労働なのです」
 そしてウェスタの確認に対して、コマンダー・オルクスはクールに去るぜ。あまりにも平然としていたので、ウェスタは頭から信じ込んで全機を同軸稼働させた。

 なお、これを喜んだのは運営会社。
 後に高天原・建速という男が、秘書に対して『これはCM作成でもあるから!』と経費で落ちないかと必死で陳情したという事である。

(「そう、我らが目的は、Ankerとなり得る人物のスカウト!(違)。そして、今の私は家事雑事なんでもござれな執事。クールッにキメる」)
 それはそれとして、コマンダー・オルクスは燕尾服を着込んだ。
 人に寄ってスワーローテイルとかテイルコートとか言ってるが、要するにフォーマルである。コレを主役級ではなく、引き立て役で留まる程度に抑えて、縁の下の力持ちに徹するのが執事と言えるだろう。
「それに、正装ってのも悪くないわね。ふふっ。というわけで、コマンダーには、日頃お世話になっているお礼として、私たちに奉仕する機会をあげるわ」
 その頃、ヘカテーも貸衣装のドレスを着こんでいた。
 フンワリとしたブルーのスカートを中に仕込んだ針金で跳ね上げて、足にはガーターベルトを付けて固定し、傘のように綺麗な三角形に整えている。先に言っておくが頭に鳥の羽根飾りを付けたりはしないよ? アントワネットじゃないし、そんなに胸は無いものね。

「任務中なので、犯人が判明するまで、メイドは封印なのです。準備は良いですか原型機?」
「勿論、ターゲットとなる人間のお守りは、しっかりと私たちでチェックしてあげるわよ。先ずは、誰がサプライズ役をやるのか見当をつけていきましょうか。行動の注視はそれからね」
 ちなみにウェスタの方はやわらかいクリームカラーのドレスである。
 目立たない色彩で、それぞれが別々の色の小物を身に着けて、令嬢の取り巻きのその辺のお嬢さんをやって居た。
(「原型機との意見も一致しました。先ず、他のウェスタたちと協力して、サプライズ役の目標が、単独になるような状況が発生する動きに、すぐに対処できるように、各自、散開して行動を把握するのです」)
 ウェスタは髪型も変えることで、同じ人物と思われないように分散した。幸いにもビュッフェなので移動し続ければ問題無いだろう。

(「敵もどの規模で現れるかも不明な為、それまでは、パーティーを楽しんでいるフリをするのです。……このお菓子は素材の割りに見事ですね。慣れたコックの業と見ました」)
 なお、こんな状態でも地が出るのが性質というものであろうか?
 材料が街中で手に入る物なのに、焼き方や味の付け方で工夫をしているお菓子を食べると、バックからメモを取り出して感想を書き連ね始めた。その様子は令嬢と言うよりは、『都会に来て自分が開く店の研究をする料理人志望の少女』である。
「ところで、ここのスイーツって、頂いてしまってもいいのよね?」
「ほへ? ウェスタ08は既にいただいているであります」
「このイチジク・パイは√再興の為にウェスタ011が戴いていくであります」
「少しくらい食べ過ぎて体重を増やしても、後で運動すれば良いであります」
 少しばかり勇気を振り絞ろうとしたヘカテーであるが、ウェスタ達はみんな好き勝手に行動している。いや、正確には料理研究をしながら、周囲の連中を観察していた。普段のウェスタは任務に忠実でつつましいタイプであるが、今回は執事喫茶に潜んで敵を確認するターンだからね。仕方ないね。

 その様子を見てヘカテーも学習した。
 任務規定から外れても『今回ばかりは』問題ないのだ。
 そこには『機械群はっ測量を食べなくても良いのでは?』という問いは無い。だって派閥によっては人間の行動を研究する場所もあるしね。仕方ないね。

「コマンダーは……見てないわよね…? よし! ……っ」
「何がヨシ! だったのでありますか? ああ、要監視者が居ないという事でありますな」
 ヘカテーが猫のような感じで視線を動かしコッソリと食べ始めたところでウェスタが気が付いた。ヘカテーの表情が無表情なのだ。
「違うわよ。このスープ、すごく美味しいな。と思ったわけよ」
「スープ? ああ、確かに。これはビックリであります。よくできたトマトスープでありますな」
 ヘカテーが口にしたのは宝玉の様なお菓子だった。
 ゼリーの塊だと判断して口にした瞬間、いかにもなトマトスープの味付けであるとウェスタは感じた。もし先に言われなかったら驚いたであろう。もっとも彼女は甘味にそれほどの思い入れは無いのでとくには気にしていないのだが。
「ポイントは形状をギリギリで保つことでありますな。ふむ。こちらは確かに甘い」
「そうね。混ぜてあるから驚くけど、甘い方は凄く甘いわ。……『令嬢の試し?』こんなので試されても困るんだけど」
 ウェスタが甘い方を口にするとジューシーなイチゴ味だった。続けてヘカテーも口にして、最初からこっちが欲しかった……などと愚痴を言う。もしこういうのを複数並べて『これは何味か?』というクイズを身内でやったら、ジョークになるか、さもなければ喧嘩になるかだろう。

 その菓子をヒョイと口に入れつつ、ここで一人の男が戻って来た。

「クククク、情報によれば、敵を含め、断罪プレイを好き好んでやる連中が集っているようだな……。さしずめ、この菓子は『目隠しで五問ほど先に当てた方が勝ち』とかやるためか」
 コマンダー・オルクスは黒地の燕尾服に蝶ネクタイ、白い手袋で戻って来た。だが、それだけでは済まないのが、とある病気に罹患した彼の特徴である。|片眼鏡《モノクル》を右目に付け、左のポケットには黄金の懐中時計を入れて、必要もないのに時間を確認したりする有様であった。
「議事進行が気になるでありますか? やはり、喫茶にはメイドが必要だと思うのです」
「ふっ。何も問題は無い。全ては我が予定のままに進んでいる。ククク。俺には既に犯人の宛ても付いて居るのだからな」
 ウェスタが首を傾げる中、コマンダー・オルクスは懐中時計に挟んだメモを見せた。そこには今回の犯人候補が書いてある。まあ、全員なんだけどさ。その中でも、悪役令嬢を暗殺し易いポジションの者がピックアップされるらしいよ。
(「それにしても、悪役令嬢などを物好きにやる人物とは、向いていると言っておこう。いや……しかし、最近では、聖女が黒幕要素も多いな……うーむ、甲乙つけがたし!」)
 そんな中で、彼はバタフライエフェクトの対象になる人物の選定に思いを馳せた。金持ちの令嬢であり、また旦那になる人間もまた金持ちか、さもなければ社会的成功者である。好き好んでやる人間だったり、嫌われてサプライズプレゼントと称して虐められる……。なんとも事件の中心には丁度良かった。そして|様々な《・・・》文学も好む彼の事、最初の頃の『庶民出身なだけの聖女』だけではなく、レア属性なだけの『自称聖女』が全ての黒幕で逆ハーを目指したりする話を思い描いていたのである。
「……あら。向こうでお嬢さんが泣きながら外に出てるわね。誰かやり過ぎたのかしら」
「外に出たか。ならば敵はパレードの中で動くだろうな」
 やがて招待客であるガス会社の社長令嬢が逃げ出すのが見えた。
 サプライズパーティーで招待されたらしいが、悪役令嬢ゲームに付いていけなかったのだろう。あるいは罰ゲームでロシアンタコヤキならぬ緑のワサビ入れチョコレートでも食べたのかもしれない。

 だが、ここからが事件の起きるタイミングであった。

第2章 集団戦 『クマクマパレード』



「何なの? 何なの? 訳わからない……」
 女の子が泣きながら執事喫茶の外に出た。
 サプライズでパーティーに招待されたのだが、馬鹿にされているとしか思えなかった。
 いや、それだけならば良い。でも、どうして自分がこんな目に合う必要があるのか?
『やあ。お嬢様! 夢のパーティーにようこそ!』
「え?」
 その時、周囲で声がした。
 人形が歩き、ヌイグルミが歩き、あるいは着ぐるみで踊る人たちが居る。
 みんな彼女の周囲でダンスを踊り始める。

 その様子だけならば、少女がパーティーの中心。メインキャストのようだ。
 映画の中の主人公が、王子さまであったり味方に出逢って逆転するシーン。
 逆説的に言えば、この状態が一番どん底である。

「あ、貴方たちは……」
『ようこそ、がおがお~』
 少女が思わず後ずさったところで、直立するクマが居た。
 そいつはファンシーでにこやかな顔で、そして指揮棒にも見えるし、武器にも見えるナニカを持っていたのだ。
「ひっ!?」
 気が付けば少女は独りだった。
 周囲に謎の存在ばかり。そんな中に独りで飛び出てしまったのだ。
 先ほどのように、執事喫茶の中に居れば、一人にはならなかったと言うのに。

 だが、この瞬間。この時には、本当に誰も居なかったのであろうか?
 ここまでは星詠みにも詳細が分からなかったタイミング。
 少女の運命は、ここで動き出す!
ルーシー・シャトー・ミルズ
神無・未来
新見・想


「っふ……! 本当に熊やってきたし……!」
 |ルーシー・シャトー・ミルズ《るーしー・しゃとー・みるず》(|おかし《・・・》なお姫様・h01765)はクスリと笑った。敵が来るのは知っていたが、潜んでいる連中の内、誰が本命になるか判らなかったからだ。
(「Ankerに惹かれて運命が変わったって事かな? 重力みたいだねぇ」)
 ルーシーは星詠みからの情報を思い返す。
 一番あり得る可能性はメイドたちだが、Ankerが居た場合は引かれて運命が変転するのだと。きっとこれが世界の決定なのだろう……とか言ってみたり。
「熊さんだー! わあい!」
 ちなみにそのAnkerさんはメルヘンの只中に居た。
 目をキラキラさせて、直立歩行するぬいぐるみのクマに心を躍らせている。

「未来! ルーシーちゃん! 当たっちゃったの褒めて褒めて!」
「熊がいる。……だから何故?」
 想は幼馴染である|神無・未来《じんない・みく》(“ふしあわせ”な人間さん・h00330)に大して特満面で胸を張った。その様子からはまるで『造り』の香りがしない。うん、純粋天然物の反応である。アイドルだけど、●チューバー扱いされるほどに可愛らしい反応であった。

 だが、とうの想はいきなり表情が曇った。
 何かショックな事があったのだろうか?

「あう、未来またそんなこと言う~……」
 想は『●●ですが何か?』みたいな返しが苦手なのだ。幼馴染に会話のキャッチボールで剛速球を投げ返された気分である。
「え? あ? うん。ぬいぐるみ可愛いね~……!」
 仕方がないのでルーシーは想を宥めすかしながら視線を未来に合わせた。しかし、なんだね。こう書くと予知能力に見えなくもない。
「お人形ちゃん? シンプルさくっと終わらせますよ、いいね?」
「いいけれど。想を危険な目に遭わせるためにここにいるわけじゃない。ごっこ遊びは好きじゃないの」
 ルーシーの言葉に未来はガチの答えを返した。
 もちろん意味深な意味でのガチではなく、心底幼馴染を心配するという本来の意味でのガチである。

「またまたそんな、これもあなたの幼馴染ごと救い上げる一仕事だと思って~……うーん無理ですか」
 なんというか、意味深な方なら『あらあらまあまあ』で済ませられるのだが、真面目だからこそ茶化す訳にはいかない。お姫様にだってそのくらいは判ります。共感性は装備されて居ますとも。まあ、だから説得に苦労するんだけどね。
「ルーシーちゃんも諦めてないでなんとかしようよ~……」
「……分かったから、想。たのしいかも知れないのは、間違いじゃない。その上で、の話なんだからさ」
 どんよりと想の笑顔が来持ったことで流石の未来も折れることにした。幼馴染が心配なだけであって、悲しませたいわけではないのだ。

 と言う訳で! 溜息と頭痛を額に乗せて、目指せ勝利の青信号!

「はっ。どうにかしないといけないのは今のこの状況では……!?」
 ここにきて想は覚醒した。SR幼馴染からSSRに進化したのだ。いや、実際にカード番号が上がった訳ではないが、幼馴染を困らせたくないのは彼女だって同じ!
「悪役令嬢ちゃんとやらなくちゃ。というわけでわたしは未来とルーシーちゃんの応援をしますっ!」
 想は二人の後方に位置し、かつ狙われている子を回収できる位置に付くことにした。何かあったら暴れるだろうし、サクっと説得する訳も重要だよね! 守られるためと言うよりは、足手まといにならず、同時に二人がやらない戦闘以外の担当が重要な事に気が付いたのである!

「まずはカバー……かな」
 その動きを見た未来は頷きながら前に出た。
 一歩、僅か一歩だが洗練された、そして攻めることも守る事も出来る攻防一体の一歩である!
(「この位置なら想を守れるのはもちろん、襲われそうな子と熊たちの間に、ルーシーさんと一緒に立ち塞がれる。後は……紳士的に振る舞いながら……か」)
 未来はその行動に脳裏で予習をしておいた。
 決して天才肌ではない彼女は、どう行動すれば良いのか、どう語り掛ければ良いのか? いやいや、防御や攻撃も、紳士たるべしと心がけようとしたのだ形から入るとか言うもんね。実に真面目だなあ人形ちゃん……とかルーシーは思ったとか思わないとか。

「まあ、お客様におさわり禁止は当たり前。ボディタッチにはご遠慮願わないとね」
 ここでルーシーも敵と女の子の間に入っていく。
 ささっと割って入り、ささっと解決! 執事っぽく格好良く丁寧にという路線は変わらない。暴力を振るわれたら? そんなのに屈しないし、来たら来たらで対処手段くらい108個くらいありそうだから問題ない(筈)。
「さてさて、こんなものですかねえ」
 そして立ち位置は未来とは少し離れて肩を並べる。
 悪役令嬢の左右に並び立つ……というよりは、敵がどっち側に迂回しても、真っ直ぐ直進しても割って入れるだけの距離感を維持しているだけだ。

「一人になってはいけません、お嬢様。このように危険は、何処にでも溢れているのですから」
「え? あ……助けて……くれるの?」
 未来は颯爽と声をかけ、自分が味方であること。
 そしてお嬢さんを守る存在なのだと励ました。
 その時に少しばかり忠告を浴びせるのは忘れない。『死にたくないなら、逃げることね』と思うのだが、その子よりも想の手前、あえて言わないでおく。まあ、周囲の人間にはバレバレな対応だとは思うけど。
「イエース。執事っていうのはね、どんな時でもびしっと決めちゃうものなんだよねぇ」
『あれれ? キミたち、ボクの邪魔をするんだね? 一緒に食べちゃうぞ~』
 ルーシーは女の子の質問に答えていたが、敵がこちらに気が付いて笑顔を浮かべるので彼女も付き合って胸の前へ掌を移動させながら不敵に笑う。

「えと……。わ、私……」
「ご覧なさい、執事たちはこのように、あなたの未来を守ってくれる、そのように仕えていらっしゃるのよ?」
 女の子が戸惑う中、想は毅然とした態度でその子の逃走を促した。他の二人では戦闘しながら念のために声をかける程度であろう。だからこそ、手の空いた自分が声をかけることが最善であると想は自覚していたと言っても良い。
「さあ、早くお逃げなさいな!」
「はっ。はい!」
 想がことさらに強い調子で促すと、その子はおっかなびっくり逃げ出していく。

 パレードの熊がこちらを伺う中、少女たちが立ち塞がった。
 そしてメルヘンタイムは暫しのお休み。まるで魔法少女の戦闘が如き、荒唐無稽な戦いの始まりである!

『このパレードの中の、全てがクマなんだよ。不思議だね、摩訶不思議だね。クマクマクマ~♪』 
 敵の攻撃は、パレードの中なら必中の攻撃だ。
 踊る様に現れ、フラッシュや騒音の中から現れる!
「させないと言いました! はっ!」
 必中ではあるが、庇えない訳ではない。
 未来はその攻撃をあえて自分が受け取ると、そのまま高速でカウンターを与えた。振りかぶる熊の一撃を肩で受け止め、代わりに膝蹴りを浴びせて、回転する様にして体勢を立て直していく!
(「支える役目を忘れないことだと想は言う。だから、想が口にした言葉を否定しない私で居る!」)
 攻撃されても揺らがない。反撃してもその動きは見せない。
 湖に浮かぶ薄氷は人知れず水を掻くというが、まさしく白鳥の如き動きであろう。ただし、その素早さは羽ばたくというよりは、雷光であったかもしれない。

「さあお逃げになって、お嬢様」
 同じ様にルーシーも熊の攻撃を受け止めていた。
 新たに現れた熊が女の子を蹴とばすシーンに割って入り、それを受け止めてポケットを叩く。するとサクサクとしたクッキーに変換され、それを右手で口元へ運んでパリンと割りながら、実際には左手で裏拳を浴びせている。その所作は視線誘導であり、高速の体術による補完行動だ。ちなみにクッキーは青色でサクサク触感! もしかしたらミントなのかもね?
『いたたた。みんな酷いなあ』
「言ってなかったっけ? おさわり厳禁なんですよ」
 気が付けば蹴り飛ばされたのにルーシーには傷が無い。クッキー食べている間に治したのかな? それはともかく、熊さんについた傷は本物だけどね?

「想。怪我は?」
「二人が守ってくれてるもんね! ぜんぜん!」
「とーぜんっ。とりあえず、黒幕ちゃんが監視してると思うから、気を付けてね」
 二人の活躍に満足してるのか、想はフンスと鼻息荒かった。
 あるいはお嬢様プレイで、未熟な子を諭して逃がしたことに満足しているのかもしれない。

コマンダー・オルクス
ヘカテー・ディシポネー
ウェスタ・プロメシアン


「あー、逃げ出した子がいるわね」
 ヘカテー・ディシポネー(悪の秘密結社オリュンポスの女幹部候補生(仮)・h06417)はその優れた能力で状況を把握した。ゾディアックサインを確認すると、仲間の証言からその認識は正しいようだ。
「どうやら着地点は、ガス会社の社長令嬢になったようだな。某デビュタントにはありがちとは言え、このレベルの余興には、不慣れと見える」
「まぁ、単純にサプライズ招待されただけなら、全員が全員、断罪されたいって訳じゃないのも、そりゃ当然よね」
 コマンダー・オルクス(悪の秘密結社オリュンポスの大幹部・h01483)の言葉にヘカテーは正論を返した。どこの誰が締められて嬉しいものか。おそらくは本人としては、『パーティ-をしてくれるの? ありがとう!』くらいの返事しかしてない筈だ。それが断罪イベントと知って居たら話は色んな意味で別であったかと思うが、サプライズされて笑えるような神経が女の子の側に成ったのだろう。

「社内外顧客名簿からも重要取引先と認定。某ガス会社の令嬢の保護任務を受諾なのです」
 二人がそんな会話をしていると、暫しのタイミラグの後、ウェスタ・プロメシアン(PR会社『オリュンポス』の|量産型戦闘冥土《ジェネリックメイドトルーパー》・h05560)がデータベースより情報を上げてくれた。なるほど、ただのガス会社でも大変だが取引先とあれば放置できまい。
「因みにこの会社から指揮官個人宛てに、未払いのガス料金の催促が届いてたのです。ツケにしないで早く払った方がいいのです」
「馬鹿な。そんな無駄使い等……いや。あの時の布石か」
 ウェスタからの忠告に高天原・建速としては本気で首を傾げそうになった。
 一介の高校生がガス料金の未納問題など起こすはずもあるまい。
 だが、コマンダー・オルクスとしてなら? まあ作戦を実行する為に『こんなこともあろうかと!』という感じで、別件の事件を引き超すためにガス漏れとかを意図的に使った事はあるかもしれない。

「ふむ……この会社の将来性を考慮すれば、いずれ、何処かの三冠女王にでもなりそうな逸材かもしれない。介入するとしようか。行くぞ、お前たち」
 そして救援に向かう事をコマンダー・オルクスは決断した。
 女の子を助ける為ではなく、将来に利用する為と前置きをワザワザ言うのが彼らしい。きっと女の子の服を褒める時も、流行がどうのとかにあって居るとかではなく、機能性や発展性を挙げるのかもしれない。
「じゃあ、私たちは一足先に、ウェスタと人間の保護に移るわよ。執事は、片付けてから来なさいな」
 ヘカテーはその命令を受諾しつつも、今回のコンセプト的には言っても許される反撃を述べてから出撃した。指揮官よりも先にコマンドが出るのは当然だが、お嬢様が執事に後片付けをさせるのも当然であろう。
「いえっさー。|原型機《お姉さま》と外のパレードに先行するのです。『少女分隊』、収納武器全機展開、全員、出撃なのです!」
 なおウェスタの方はいつもの調子である。
 こういうと何だが、量産機というものはブレが無いから量産機なのだ。上意下達が当然であり、そこに疑義を挟む気はまるでなかった。

 なお、その頃のコマンダー・オルクスであるが……。

「それにしても、この衣装も悪くない。ふむ、らしく、ナイフやフォークで仕留めるという手もあるが……一考の余地はありだな!」
 どうやって戦うかを真剣に悩んでいた。
 普通は自分が得意とする武器と技を使うか、それともあえて使わない事で個性を隠すかするのだが……。さっぱりそう言う考えは無かったようだ。
「さて、執事といえば、仕事をスマートに熟し、強者の糸使いだったというのは定番。やはりコレで行くか」
 そして堂々巡りの思案の後、最終的に自分の得意技に戻って来たという。まあ、中二病を黒歴史として封印する人間も居るが『アレは良いモノだ!』とお戻って来る人は多いからね。仕方ないね。
「コマンダーが、来るまでに終わっちゃうかもしれないわね。ま、それはそれでアリかもしれないけどね」
 その様子を演算していたヘカテーは苦笑しながら戦闘行動を始めたという事である。

『クマクマパレードの始まりだクマ!』
(「さて、これが、か弱い√能力者とかなら、勝手に殺されてもいいんでしょうけど、対象は『人間』なのよね」)
 暴れ始めている熊を見ながらヘカテーは戦いを挑む事にした。
 本来の彼女は機械群側なので人間に執着は無いのだが、派閥に寄って人間は重要と言うタイプも居るので、その辺を中心に倫理回路を弄られてしまっているのだ。
「哀しい事だけど、これが使命。さて、接近するクマたちも、無駄に数はいるし、ここは使い捨ての手数を増やすわね」
 なのでヘカテーは溜息を吐きながら(こんなことをする必要もないはずだが)、電磁鞭を振り回した。そして相手の攻撃を受け止めて、ソレを再現してぶつけ直す。具体的に言うとBGMを奏でながら、タクトで殴り掛かってるんだけどさ。

『クライマックスはクマクマキングの登場だクマ!!』
「その行動は予測済みなのです。小隊全機、一斉射撃!」
 そして熊が強力な一体を呼び出したところでウェスターは阻止行動に入った。もちろん相手は強大、大してこちらは量産型。勝てそうにないのだが……。
「時間制限の召喚個体と判断し、集団戦術によって消滅時間までの時間を稼ぐのです」
「「了解」」
 ウェスタ|達《・》はレーザーライフルで応戦しているが、熊王の強力な突撃の前に為す術はない様に見えた。だが、それらは全てウェスターの計算の内だ。時間を稼ぐことで、相手の行動を無駄打ちにする為の行為である。何しろこちらは連携戦闘を行っているのだ。ウェスタ一人の行動を無駄にすることで、強力な一体の動きを止めれば元が取れるではないか。

 そしてここで本命が動いた。
 正確にはそのつもりは無かったが、二人の行動の結果、間に合ったのである。

「さぁ、お嬢様方、そろそろパーティーはお開きになりますよ」
 ここでパーティ会場での清掃を終えたコマンダー・オルクスが登場。刃鋼紐を使って、熊の動きを閉じ込める!
「ここの後片付けは、この執事たる私にお任せを」
「あ、ありがとうございます……」
 ニヤリと笑って熊たちを空娶り、刃鋼紐を伸縮させ、網の目状のワイヤーで捉えて動きを封じつつ切裂いて行ったのである。なお、流石に娘さんを脅かしてはいけないと思ったのか『フハハハ、これがお前の監獄だ!!』とは叫ばなかった模様。

 ともあれ、こうして能力者たちは黒幕が用意した罠から少女を救い出した。迫る熊たちをバッタバッタと薙ぎ倒し、命の危機から救い出したのである!

第3章 ボス戦 『『天災科学者』蝶野博士』



『馬鹿な!』
 その光景を離れた位置で黒幕が見ていた。
 彼の名前はひとまず蝶野博士と呼んでおこう。
『ありえない! ありえない!』
『用意した死角が倒されたのはまだ良い!』
『だが! 何故だ! あの小娘を何故助ける!? 放置してた歩した方が早かろう!』
 蝶野博士は悪役として狙われた少女が生き残ったことに憤慨した。
 効率を無視し無力な者を救った事が信じられなかったのだろう。

『それ以上に許せないのは! あの娘だ!』
『無力な癖に、他の者を助けるだと!? しかも自身の危機でもあるというのに!』
『何故だ! 娘の時は! 妻の時は誰も助けてくれなかった! なのに!』
 そこには怒りがあった。彼が正義の味方として活躍した時……。彼の家族が殺された事があったのだ。自分は駄目で、あの少女は良いのか?
『世界は不平等だ! 許せん!』
 いや、世界が自分に優しい必要はない。
 だが、どうして娘に優しくしてくれなかったのか。
 その怒りを持って、蝶野博士はやって来た!

 それが八つ当たりなのは知っている。
 だが、彼の怒りと狂気は、邪魔する者を許せなかったのである。
ルーシー・シャトー・ミルズ
神無・未来
新見・想


「あのね、わたし――えっ」
 |新見・想《あらみ・こたえ》(そう、わたしが!・h01561)が何かを言おうとした時、重なる言葉を聞いた。少女たちのハーモニーである。

「「神様さえ誤り遅れるこの世界で」」
「「未来さえ信じられないあなたが、"しあわせ"になれると思う?」」
 二人の言葉が同じタイミングで呟かれた。
 もし双子や同一存在だったら、そうおかしなことではない。
 だが、そうではないからどこか違和感があった。

 あるいはどこかでこの言葉が使われて、二人の少女はリフレインしただけかもしれないけれど。

「……うわあ引く程息ぴったり。まあそういうことで、諦めてください」
 いずれにせよ、|ルーシー・シャトー・ミルズ《るーしー・しゃとー・みるず》(|おかし《・・・》なお姫様・h01765)はこの事に気が付いた時点でドン引きした。その上で、敵に対し、そして味方と言うか友人である想に大して言葉を送る。
「人の幸せの限界などたかが知れている」
 一方で|神無・未来《じんない・みく》(“ふしあわせ”な人間さん・h00330)はいつもの様に述懐していた。数々の出逢いと積み重ねた経験は、己の心情を覆すほどではなかったのだろうか?

「えっと、あの、……そんなに言うことないもん……」
「……想?」
 幼馴染である思いが悲しそうな顔をしているのに未来は気が付いた。この様子だと何か言おうとして、出鼻をくじかれただけではないだろう。

「あの人だって、そうしたくてそうなったわけじゃないもん……きっと、すごく心が痛くなってるから、少しだけでも、それが和らいだらって、そう思うもん……」
 想は感受性が強く、敵の心に共感していた。
 もし、自分が彼の立場だったらどうだろうか?
 家族が殺され、幼馴染が殺され、友人が殺されたら? とてもとても、心が痛くなるのだ。だからこそ、彼の思いに大して何か声を掛けたいし、同時に声をかけても通じないだろうな……と気が付いて悲しくなるのだ。

「……、……」
 未来は自分の不手際に気が付いた。
 自分が考えている思想は、それはそれで間違っていないとは思う。だが、一緒に時間を過ごして来て、少しは良い流れになっているのではないかと想が思っている……信じている事は知って居た。
「想……」
 ソレを否定したら、想が悲しくなるのは判っていた事なのだ。敵に対して自分の考えたことを押し付けたことはともかく、想の言葉を否定した事はマズかったと自覚した。

「あーもう、ごめんて! 泣かないの!」
「……うん、分かってる。自分の手が、言葉が届かない時だって、あるよね」
 言葉のナイフがザックリやってしまった事を、一足先にルーシーは少しだけ謝罪した。例え体が打ち砕かれようとどうとも思わない彼女だが、想の……友人の悲しい顔には弱かった。肉体は鍛えられても、心は鍛えられないと良く言うではないか。
「お人形ちゃんは兎も角としてあたしも悪かったって!」
「兎も角は余計として、確かに、私も悪い。ごめん」
 ルーシーが未来をあて付けに使うと、未来の方もようやく決心が着いたのか謝罪した。未来は未来で意固地であるため、こういう形で揶揄しないと動かない事があるのだ。自分が悪者になって良い雰囲気にしたいという気持ちがそこにあった。

 まあ、未来をからかいたいと言う気持ちが無いというと明らかに嘘なんだけどさ。

「うおお未来ちゃん謝ってる。えらいねぇ」
「そして茶化すのは後で――今はあれを排除したい」
 ルーシーと未来は互いの顔を見ずに、想に顔向けたまま次のステップについて話し合う事にした。その様子を見て想は、ひょっとしなくても二人は仲良いよね。と思っていたという。

 それはそれとして。

「わたしに仕える執事というのは、ちゃあんと命令を聞くものなのだ……」
 と想はちらっちら。
 隠してコッソリどころか、アイドルというのはアザトイ生き物であることを伺わせる。
「言いたいことは判るけどさ。実際あれがあたしたちの言葉を聞く気が無いのは本当なんだ。何ならあなた今一応危険なんだ」
 そんな彼女に対してルーシーは友人として忠告しようとした。
 しかし、なんだ。『友人として』なんて前置きを置く時、大抵の場合は通用しないんだよね。これが。

「おまじないをしたら、すごくすごく、かっこよくなるの」
(「はあ。想がおまじないをかけたがるのはいつものことだったか」)
 想の事は未来が一番良く判って居た。
 幼馴染の良い部分も悪い部分もしっかりじっくり丸判りなのだ。通じ合ってるねーひゅーひゅー。とかル-シーは目線だけで茶化していたという(仲間外れにされてスネていたとも言う)。
「だから後はあたしたちの仕事あーはいはいリクエストねわかりました!」
 なのでルーシーも観念することにした。
 敵がAnkerを優先的に狙うのだから、後ろに下げるべきだ……なんて意見を撤回することにしたのだ。まあ、全力で守るんだけどさ。

「鍵をかけましょ大事にね――The answer is?」
「かしこまりました、であってる?」
 想がニヒヒと悪戯っ子っぽい笑顔で笑うと、未来は苦笑を交えた笑みを返す。もちろん、これは想を後方に隠して後生大事にするという意味ではない。もちろん、想もまた足手まといに残るという意味ではない。互いに判り合い、相互に逃げ出したり守れる位置に入れるというのを確認し合ったのだ。位置? それは何時もの様に歌を謡う事で、アイドルとしての動きで把握し合う。
「さあ息合わせな。変身ポーズは無くていいよ簡単だし、SELECT!」
「判っているとも、判って居ますとも! SELECT」
 ルーシーはこめかみを右手の人差し指でトントンと突く。
 未来は応じるように頷くが、手袋をギュっと締め直して軽く身を沈ませた。

 するとあら不思議、もっと素敵でかっこいい執事さんになりました姿そのものは変わってません。だって、変身技能を√能力の補助に宛てただけです。今の自分が動き易い様に、将来の自分が動き易い様に少し変えただけ。

「さあ、行きますよ!」
 未来は蒼い光を放つと、鋭い踏み込みを放った。
 そして震脚の様にステップ踏んで手刀を放ったのである!
『ちぃ! 私の、邪魔をするな!』
「邪魔? ええ、しますとも。悪役令嬢には最後まで、歌って貰わなければ」
 視界の端で蝶が舞ったと思った瞬間、肘と肘がぶつかり合う。
 敵が√能力でミラーリングした手刀による攻撃を、肘打ちをぶつけることでカットしたのだ。互いに肘をぶつけ合い、意地をぶつけ合いながら一回転する。
(「敵の狙いは判ってる。なら想への射線を阻めば、おのずと流れが判る!」)
 敵が自分をいなして想の方向へ進もうとしたのを、未来は予想して再度邪魔しに入ったという訳だ。

 そしてこのタイミングで、もう一人が動いていた。

「はーい。良い感じだね。ぱく、ぱく」
 ルーシーは飛び込みながら牽制攻撃。
 攻撃と言うよりは相手の反撃を弾く為の物だ。
 そして顔面パンチを浴びせて相手の意識を揺さぶり、すかさず飛び膝蹴りで追い打ちを狙う。
『ドーピングによる加速攻撃か! どけ!』
「当たんないよってね。で、60秒測る。よーいスタート。終わったら二撃目のすごいやつ!」
 ルーシーは相手の反撃、特に右手の一撃を喰らわないように気を付けながら叫んだ。

(「始まった。ここで万が一を避ける。運があれば問題ない? そんな不確定な確率は必要ない!」)
 未来はすかさず蒼い電子の輝きを瞬かせた。
 あの悪役令嬢の行く先を変えることさえ出来はしない。
 その光は未来を、彼女とその視線の先に居る想を守るための力であった。Ankerが替えるべき場所だというならば、その場所を守るために未来は動き続けるのだ!
(「うふふ、ご自慢の執事さんたち、すっごくかっこいい! 歌で未来とルーシーちゃんを応援だよっ!」)
 そんな中、ご満悦な表情で想いは謡っていた。
 それは少女たちを励まし、自分の願いを伝えるための歌。

 君に届けと言う願いの象徴であったのだ。

(「まるでこの世の全て支配……は、さっきルーシーちゃん違うって言ってたっけ。兎に角、いっぱいすごいんだぞっていうところ、自慢しないと!」)
 想は敵の悲しみを受け止めたかった。
 悲しい世界を否定し、滅ぼそうという彼に何か言いたかった。
 だが、それを否定するのでは敵と同じなのだ。だから、悲しい世界を否定するのではなく、この世界は捨てた物ではないと歌い続けるのだ。
(「手を差し伸べることは出来なくても、わたしなりに、ちゃんと答えを出したいの!」)
 たとえ危険だって、何もしないわけにはいかないから。
 想はただひたすらに歌を謡い、少女たちに勇気を、守るべき場所の事を伝える。そして敵に対して、この世界は捨てた物ではないと歌い続けるのだ。

「そいやっ! まじょまじょまじょりんみらくるりん!」
『馬鹿な! この、私が!?』
 ルーシーは技名を叫びながらとっても凄いキックを放つ! もちろん技名を告げる必要などないのだが、様式美もあるし、仲間に何を告げる必要もあったからだ。反撃? 何それ美味しいの? と言わんばかりであり、もし喰らったとしても60秒の間なら無敵だからね。問題ないね! あ、流れ弾で想が殺されないように、未来が守っているから何の問題もないよね。

「あ、吹っ飛んだ。倒したかな? それとも一時撤退かな? 死から戻ってきたらまた会おう、なんてね」
「いつか、救われるといいわね」
 敵が漫画の様に蹴り飛ばされていく中、ルーシーはニヒルに見送って見た。もちろん真面目な未来は、敵が悲しみから抜け出せるように祈っていたという。
「なんだか、もっとみんなで遊んでみたいな」
「あー確かに。もうちょっと、執事ごっこしたいね~?」
 そんな中で想がポツリと呟くと、ルーシーは笑って調子を合わせた。お茶らけるのは嫌いでは無いし、湿った空気よりも明るく楽しい方が良いものね。
「……まあ。たのしそうなのは、分かるかも」
「じゃあじゃあ、今度は何を食べる? それとも配役変えちゃう?」
 未来は苦笑しながらも、三人で楽しむこの一時がもっと続けば良いというのには納得していた。
「ご自由に」
 だから、そう言ってもう少しだけ幼馴染に引き釣り回されることを受け容れたのである。

コマンダー・オルクス
ヘカテー・ディシポネー
ウェスタ・プロメシアン


『馬鹿な! この、私が!?』
 ふっ飛ばされた黒幕が姿を消した時……。
 その頃、敵部隊を蹴散らしていたもう一チームが動き出す。
「クマ軍団との戦闘状況終了。引き続き、敵対的存在との対処にあたるのです」
 ウェスタ・プロメシアン(PR会社『オリュンポス』の|量産型戦闘冥土《ジェネリックメイドトルーパー》・h05560)は残敵掃討を終えたところで、体勢を立て直そうとした黒幕を発見する。
「それで、あの男が、今回の仕掛けを仕込んだ犯人って訳ね」
 ヘカテー・ディシポネー(悪の秘密結社オリュンポスの女幹部候補生(仮)・h06417)は端的に状況を把握した。星詠みから予め貰っていた情報を踏まえることで総合的に思案していく。

『貴様らも! 貴様らも私の邪魔をするのか! 世界よ! プラグマに狙われた私の家族を放置しておいて、あの娘だけを守るのか!』
「対象の言動再確認。主張する内容の整合性が認められず、精神疾患の√能力者と認定なのです。対象の蝶仮面博士は、特殊病院に行くことをお勧めするのです」
 科学の申し子である、量産型のマシンたるウェスタから見れば相手の言う主張は何一つ理解できない。敵対者なら邪魔するのは当然であるし、世界は誰かを守りはしない。プラグマが狙うというならば、隠し通し護衛チームでも付けておくべきだろう。あるいはいっそ、家族全体がヒーローになるとか。
「ほう、パピヨンマスクに博士風……見るからに怪しい奴だな……それに、あの言動……精神も病んでいるようだし、個人的にセンスも微妙だ」
 そんな姿を見てコマンダー・オルクス(悪の秘密結社オリュンポスの大幹部・h01483)は苦笑した。中二病に掛かっており、同時に高二病も患いつつある彼にとっては、統一感と言うものは重要なのだ。せめて白衣を羽織るのではなく黒にするとか、黒ではないなら白いコートなりマントにすれば良いのにと思わなくもなかった。

「何かプラグマがどうとか娘がどうとかって言ってるようだけど、同じ悪の組織の大幹部として、同類っぽいような感じのコマンダーのご意見は? 私としては、言動もヤバい奴だし、さっと始末した方が早いような気がするわね」
 ヘカテーから見れば同類項の二乗とか五十歩百歩でしかない。参考意見を尋ねはするが、さっさと倒そうぜと意見を言っているにも等しかった。まあ、コマンダーに対して部下が意見具申しているだけとも言う。
「さて、星詠みの力を利用し、バタフライエフェクトで、様々な状況の仕込みをしていたようだが、私もただで何も仕込んでこなかったという訳ではないのだよ!」
 なお、コマンダー・オルクスはここでヘカテーの話をスルーすることにした。彼から見ればこだわりの差は、音楽性の差で解散するバンドと同じくらいに重要なのだ。ゆえに同類と言うう言葉を無視して、自らの意見に邁進する。

 というか、そう言う部分が同類扱いされてるんじゃないですか? とウェスタが疑問を覚えているようだ。

「大企業たるもの全方位戦略は、基本中の基本だ。では、『オリュンポス戦闘員』たちよ。総員、変装を解き、私の代わりに、あのパピヨン男を砂にしろ」
 コマンダー・オルクスは令嬢姿の女性陣に対して指示を出しつつ、パチンと指を鳴らしてモブ戦闘員を召喚した。白い仮面に黒タイツ姿の戦闘員がワラワラと現れて戦闘準備を整え始めたのだ。
「執事指揮官より、命令受諾なのです。全方位戦略了承。敵対的存在に、治療的奉仕開始」
 この命令に対してウェスタは叩けば大体直るというロジックを実行することにした。ちなみに千切れ掛かった配線やら、溶けかけたハンダを衝撃で強制的に繋げる行為のことを参照したロジックのことであるという。

『邪魔をするな! 私の邪魔をするならば! お前たちの全てを破滅させてやる! お前も! お前もだ!』
 敵はこれらの行動に対して、以前から用意していた作戦を決行させる。
 すると博士が少し調整するだけで、任意の行動を失敗させるというものだ。
「1人ぐらい失敗してもいい、1体でパタパタと飛ぶ蝶の舞い程度、数で袋叩きにすれば問題ない」
「敵の作戦は、ニッチ戦略と判断。当方の脱落者は無視し、対象に向かって、全員で、集団戦術と連携攻撃で袋叩きなのです!」
 これに対してコマンダー・オルクスとウェスタは『数は力なのです!』とばかりにウェスタの量産仕様や、モブ戦闘員を集中投入する。きっと肩にドリルを付けたオジサンや、なんとかチェスターとかいう法則を作った人も納得してくれるだろう。

『おのれ! おのれ! おのれおのれ! 何故だ! なぜ邪魔をする! 世界を滅ぼすチャンスなのに。家族の仇を討つチャンスなのに! 許せん! 贔屓は許さん! 世界共々死ぬが良い!』
 追い詰められた蝶野博士は、怒りに満ちた目で周囲に蝶を放つ。だが、数による暴力は無効化しきれない。あらかじめ用意された戦力の数分の一を無力化して何になろうか。
「純粋に賢い人ほど、一度振り切れると危険って聞くけど、あれは、蝶の羽の真似? 動きは滑稽だけど、あの右掌の動きは、何かありそうよね。まあ、何も情報が無いならともかく、場所が判ってるなら問題ないわ。身動きできなくさせて切断してあげるわ」
 ヘカテーは最後まで他人事のように処理することにした。
 せっかくなかまが数で押しているので、そこに乗っかることで、分析を行いながら隙を突く構えであった。
「私の連鎖から逃れて見なさい!」
『ぐふっ。わたしは、わたし……は。世界を壊し、ふくしゅう……を』
 ヘカテーが不可視のワイヤーを鞭のように使って敵を倒した。高圧電流で相手の動きを止め、熱量を上げて溶断して切断したのである。本来であればそれだけでは死なないが、仲間達に集中攻撃を受けてあえなく倒れたのであった。

「令嬢役任務終了。今日はいい経験をしたのです」
「まぁ、今回のパーティ、そこそこ、それなりに楽しめたわね」
 全て終わった所でウェスタとヘカテーはドレスや髪形を確認。戦いでの痕跡を確認し、可能な限り元の状態に戻し始めた。
「そういえば先ほど言っていたな。私は何をするのかだと?」
「言ったような気がするわね。何をするの?」
 コマンダー・オルクスが不敵に笑うと、ヘカテーは首を可愛らしく傾げてみせた。普段はやらないが、今回の任務ならば問題あるまい。
「ふっ、知れたことを……お嬢様方、ゲストが帰るまでが、執事の仕事だ」
「なるほどです。取引先令嬢にも声を掛けて来るでありますよ」
 そしてコマンダー・オルクスが高天原・建速として締めくくるとウェスタは頷いて巻き込まれた少女の様子を確認。みんなで帰還していったという。

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