中嶋診療所の悲劇
●辛い転院生活
「緊急事態だよ!」
言葉には焦りの色が伺えるものの、平常心を保つことに集中しているのか、それ以外は普段通りの|ピピット・フロントライン《P-pit Frontline》(戦乙女の|精霊銃士《エレメンタルガンナー》・h00911)。
彼女はすぐ集まった√能力者たちに、とある|診療所《病院》が襲撃を受けていることを告げる。
「襲われているのは山梨県にある中嶋診療所という病院で、最近起こったとある事件の影響から、その規模に比べてお医者さんや患者さんの数が倍以上になっているんだ」
その『事件』とは、診療所の近所にあった釜無病院で起こっていた、切断の権能『ロッソ・サングエ』による入院患者の大量殺戮。
その黒幕は√能力者の活躍によって撃退されたものの、悪い噂が真実であると広まった結果、
「……釜無病院は閉鎖。患者さんたちの多くは、近くのこの診療所に転院した」
辛い入院生活は転院生活となり、さらにそこが襲撃され、再び命の危機にさらされる。
「2つの事件が全くの無関係とは思えない。何かしらの意味があるとみるのが妥当かも」
だが、その理由を考えている間にも、|診療所《病院》の人々の命に危険が迫るのを見過ごすことは出来ない。
「襲撃者は√ウォーゾーンの機械兵団。周囲を破壊的な音楽で瓦礫に変えるオルガンで戦車……さらに敵が増える可能性も高い」
|診療所《病院》を守る。人々を護る。敵の正体や目的を掴む。そして……事件の真相を追いかける。
「単純に敵を倒すだけでは、事件を完全には解決できないかもしれない、けど」
既に始まっている襲撃に対しては、急ぎなんとかしなければならない。
「病院が、人々を死に至らしめる場所であってはならないから」
ピピットはそう言うと、仲間たちにあとを託すのだった。
第1章 集団戦 『カリオペ』

●不可解な事態
何故、√EDENの病院が襲われるのか?
何故、転院先の病院でも襲撃されるのか?
……何故、√ウォーゾーンの機械兵団がここに現れるのか?
「ともかく、ここは迅速に対応しましょう!」
わからないことは多いが、まずは襲われる病院の患者さんや職員を護ることが最優先だ。
シンシア・ウォーカー(放浪淑女・h01919)はクラゲ――もとい雑用インビジブルを召喚し、建物の中や影に潜む敵影を索敵しつつ、
「みなさん、逃げられる人はこちらへ!」
外に居る人達に呼びかけ、彼らの退路を作り出す。
「皆さんの道に、光あれ」
入口から彼らの居るところまでの道のりに、無数の流星。|Stellanova《ステラノヴァ》を降り注がせ、カリオペたちの装甲を貫き、彼らの放つ弾丸を撃ち落としていく。
「今のうちに! 動けない方は私が助けます」
それと同時にシンシアは病院の敷地へと足を踏み入れ、怪我などで動けない患者を保護しようと駆け回る。
「急がないといけませんね」
カリオペから放たれる衝撃波は、周囲のインビジブルに干渉して彼らの動力源となる蒸気の力を薄めることで耐えながら、シンシアは人々を順調に避難させていく。
「ティターニア!」
病院の外はシンシアによってあらかた制圧されたのを確認すると、アリエル・スチュアート(片赤翼の若き女公爵・h00868)は、
『承知しました! ニアちゃん様の出番ですね!』
フェアリーズリーダー「ティターニア」に、ドローン「フェアリーズレギオン」の半数を連れて病院内の捜索するよう指示する。
「特にカリオペが攻撃を仕掛けていたと思わしき当たりを探ってね。他にも逃げ遅れている人が居るのならすぐに教えて!」
その間に、アリエルは数がまばらになったカリオペたちの攻撃を、残りのフェアリーズレギオンを展開して牽制すると、
「折角助けた人達の命、これ以上奪わせるわけにはいかないわ」
魔導槍「グリモワールランス」を用いてアウトレンジから1体ずつ破壊していく。
「……意外とあっけなく終わりそうね」
拍子抜けするほど緩い敵の抵抗に、そんな風に思ったのもつかの間、
『公爵! 敵! ててててき敵です!!』
ティターニアが壊れたドローンのように敵と連呼し、彼女の耳を壊す勢いで叫び続ける。
「今行くよ! 敵の数は?」
『1、2、3……沢山!』
どうやら、敵の大半は病院の中にいたため、外にいる敵の攻撃が緩かったようだ。
「もしかして……敵は病院内で湧いたのかしら?」
そんな疑念を持ちながら、アリエルはフェアリーズレギオンたちとともに病院内に突入し、全力で魔法を詠唱しながら目に付く敵に次々と攻撃を仕掛けた。
「どうやら、以前にも狙われた者たちが再度狙われておるということのようじゃが」
続けて病院内に踏み込んだマイティー・ソル(正義の秘密組織オリュンポスのヒーロー・h02117)は、
「狙われるだけの理由とかが、あるのかもしれんの」
その瞬間に一斉に向けられたオルガン砲を沈黙させるため、コラプサー・ライフルを用いて弾道計算の後、それらを一斉に発射する。
「患者の影はなし。存分に戦えそうじゃの」
すかさず蒸気の力を溜め、激しい衝撃波で応戦しようとするカリオペたち。
「隠し手かの? そうはさせんのじゃ」
だが、マイティーは特別に用意した【高重力場発生弾頭】をライフルに装填し、蒸気の力を地べたに張り付け吸い付くと、
「これが妾の隠し弾と言う奴じゃ!」
通常弾を自在に曲射しながら次々と殲滅していった。
「近頃、病院と関連した事件が多発しておるようじゃの」
奥の方から次々と新手が現れるが、その僅かな間に逃げ遅れた人がいないか素早く探るマイティーは、
「√ウォーゾーンの機械兵団が動いておるようじゃが、下手をすれば他の√の勢力も関わっておる可能性も否定できんのじゃ」
この襲撃の裏に何があるのかを疑問に思いつつ、
「このまま殲滅に専念するか、それとも何かを探ってみるかの?」
どう行動するか思案する。
「……病院の中に、√ウォーゾーンと繋がる道が開かれているように見えますね」
カリオペたちがやってくる方角が一定であることに気づいた|深雪《ミユキ》・モルゲンシュテルン(明星、白く燃えて・h02863)。
一応、√の境目はどこに現れてもおかしくないものだ。
「とはいえ、複数の事件において同じような状況が発生しているのは奇妙です」
ほぼ確実に、何者かが意図して、境目を抜けてやってきている……と考えるのが妥当だろう。
では、どうするのか……?
「じっくりと思案を巡らせる時間はありません」
|深雪《ミユキ》はそこで思考を打ち切って、『|殲滅兵装形態《アナイアレイターモジュール》』に移行した。
「院内の敵を速やかに撃滅しましょう」
両手に抱えた六連装思念誘導砲『|従霊《フュルギャ》』を院内に放って先行させ、索敵と先制攻撃を全方位で行い、遭遇するカリオペをレーザー光線を集中的に浴びせることで殲滅していく。
「敵の出どころは地下でしょうか?」
人々の安全を最優先に、地上部分を確実に制圧した|深雪《ミユキ》。
その視線を地下に向けると、逃げ回って迷ったのか、地下からの階段を必死に登って逃げてくる子供の姿が視界に入る。
「こっちです……っ!!」
彼を安全なところへ誘導するため、声を掛けようとした瞬間、その背後からただならぬ殺気を感じた彼女は、
「オーバークロックモード、起動」
身を挺してでも子どもを庇おうと、一時的に電脳化神経のリミッターを解除して、なりふり構わず動き出した。
第2章 ボス戦 『渾身のドヤ顔『ミュゼット』』

●ドヤ顔の好敵手
中嶋診療所の地下から逃げ出そうとしていた子どもを、楽しい鬼ごっこの末に捕まえる直前。
「捕まえ……きゃっ!」
|深雪《ミユキ》に邪魔された彼女、渾身のドヤ顔『ミュゼット』は、現れた強敵に歓喜する。
「どうやら先に行った子達を全部倒しちゃったみたいだし……」
そして、周囲を見渡しながら状況を把握すると、
「わたしの|好敵手《ライバル》にふさわしい相手だね!」
ふふん。とドヤ顔をしながら値踏みをするように√能力者を見つめてきた。
●|運動会《戦い》、開幕
「……また、幼い女の子の姿をした簒奪者」
先日の病院で患者を殺戮していた敵も、見た目は自分より幼い女の子だった。
アリエル・スチュアート(片赤翼の若き女公爵・h00868)はその見た目に驚きを隠せず、
「と言うか、この子、√ウォーゾーンの子なの?」
様々な機械がぶつかり合う世界とは似つかわしくない印象を与えるドヤ顔を見て、既視感を覚えた。
『ドヤっ!』
その正体である、フェアリーズリーダーの「ティターニア」が、通常のドローンの姿でドヤっているが、
「いや、今はメイドの姿じゃないからわからないわよ……」
アリエルは冷静にツッコミを入れてから、彼女に指示を出す。
「良いわ、鬼ごっこをするつもりだって言うなら、フェアリーズが相手をしてあげるわよ」
ミュゼットの|好敵手《ライバル》として、フェアリーズをけしかけ、
『感情豊かな戦闘機械群のようですが、感情の豊かさでは負けられませんね!』
ティターニアも彼女を|強敵《ライバル》と認め、フェアリーズたちを周囲で飛び回らせて鬼ごっこで勝負を始めた。
「いや、そこは勝ち負けするとこじゃないわね!?」
アリエルのそんなツッコミも虚しく、ミュゼットはフェアリーズを追いかけ楽しそうに蹂躙していく。
「今のうちに……!」
そんな尊い? 犠牲を払いながら、アリエルは魔力を溜めて魔法攻撃をしようと試みるが、
『ニアちゃん様の美しさにひれ伏すのですー!』
ドタバタと追いかけっこするミュゼットとティターニアが、アリエルの周りをぐるぐるぐるぐるぐるぐると回り続けるため、的を絞りきれずに攻撃の機会を逸してしまった。
「ちょっと、じっとしてて!」
ティターニアに文句を言うアリエルだったが、
「計画通り! ドヤァ!」
『ドヤ顔なら負けませんっ!』
実は用意周到に攻撃を防いだ敵と、それに乗った相棒のドヤり合いにため息を付くのだった。
「やはり、運動会は一人ではつまらないのじゃ」
唐突に始まったミュゼットとの鬼ごっこに、マイティー・ソル(正義の秘密組織オリュンポスのヒーロー・h02117)は楽しそうに笑顔を見せ、
「ならば、こちらもその方向性で敢えて乗ってやるかの」
事前に招集しておいた【戦隊ヒーロー『十二神戦隊トゥエルヴマキア』】を参戦させる。
「この世に悪がある限り、十二の光で、世界に調和を齎さん!」
「オリュンポス戦隊……」
『トゥエルヴマキア!!』
彼らは十二色のパステルカラーで彩られた男女で、格好いいポーズを決めてから、フェアリーズと連携してミュゼットから逃げ回りだした。
「運動会は、チームで協力するもの、決して、一人でやるものじゃないのじゃ!」
そして、トゥエルヴマキアたちは彼女の隙をつき、それぞれが得意とする技を駆使して次々とミュゼットに襲いかかる。
「それでこそ|運動会《戦い》だね!」
ミュゼットは逆に追われる立場になっても、ドヤ顔を崩さずにひらりひらりと躱していくが、
「全員を相手に避け続けるのは無理なのじゃ」
ティターニア率いるフェアリーズが囮となり、ミュゼットの動きを邪魔することで、トゥエルヴマキアの十二人の攻撃はじわじわと彼女を追い詰めていく。
「集団戦術、連携攻撃でチームプレイの力、思い知ると良いのじゃ!」
個の力ではミュゼットに及ばないが、運動会は団体競技のほうが多い。
マイティーはそこを的確について戦いを優位に進めていった。
「この戦闘機械軍の首領が彼女……でしょうか?」
ゴツいフォルムをした戦車が相手だったため、もっと物騒な見た目の敵がやってくると考えていたシンシア・ウォーカー(放浪淑女・h01919)は、ミュゼットの姿に驚き、
「なんかすごくドヤ顔の女の子が。……いや、やっている事は不可解ながらも悪辣ですし、戦う必要性は感じるのですが」
戦わなくてはいけないと思いつつも、傍から見れば愛らしいと言っても良い容姿に戸惑いを隠せなかった。
とはいえ、後ろからさらなる増援がやってくることも無いことから、やはり首領はこの幼い少女の姿をした彼女なのだろう。
「鬼ごっこも楽しそうですが、そろそろ真剣に『勝負』していただきます」
シンシアはそう判断し、左手の手袋を脱いでミュゼットに投げつけると、
「拾いなさい。次は私との『勝負』です」
彼女に決闘――|淑女の系譜《デュエル》を申し込む。
「いいよ! やろう!」
ミュゼットはそう言うと左手の手袋を脱ぎ捨て、【等賞旗付きポール】を大きく振りかざし、
「残念ですが、あなたには淑女の勝負についてこれるだけの気品が足りません」
シンシアは相手の得物と攻撃範囲を見極め、レイピアを小さく構えて待ち構える。
「いくよー!」
|攻撃範囲《リーチ》はミュゼットの方が広い。だが、長い柄の武器はどうしても大振りになる。
「そこですっ!」
その僅かな隙を小回りを利かせて突いたシンシアの一撃はミュゼットの肩口を貫き、彼女の腕に確かな手応えを感じさせる。
「えいっ!」
だが、その痛みで怯む前に振り下ろされた等賞旗付きポールの一撃がシンシアの脇腹を直撃し、それ以上の追撃に動くことは出来なかった。
お互い二の太刀を考慮せずに放たれた|淑女の系譜《デュエル》の一撃は――互角。
「神経接続型浮遊砲台、全機コネクション確立」
全身全霊をこめた攻撃の後に生じる決定的な隙は、決闘であれば何の問題もなかったかもしれない。
「各砲台、一斉に発射」
だが、|深雪《ミユキ》・モルゲンシュテルン(明星、白く燃えて・h02863)は冷静に戦況を見極め、ミュゼットが全力の攻撃をした直後を狙って移動型浮遊砲台を呼び出し、彼女の全身をレーザー光線で貫いた。
「情熱に水を差すようですが……あなたの好敵手になったつもりはありません」
|深雪《ミユキ》はシンシアには悪いと思いつつも、確実に勝つために最善の選択として|超過駆動・大軍掌握《オーバードライブ・バタリオンコマンダー》による一斉攻撃を選び、
「おねえちゃん……ズルいなぁ……」
「人類と戦闘機械群との戦いは、切磋琢磨ではなく生存競争ですから」
悔しそうに視線と愚痴を投げかけてくるミュゼットを冷静に受け流す。
「それもそうだね……悔しいなぁ……」
素直に納得したミュゼットがその場で力尽きるのを確実に見届け、他に残存する敵がいないことを確認してから、
「前の病院とは違う場所のはずですが……ここにも、敵が消したいと考える何かがあるのでしょうか?」
|深雪《ミユキ》はこの病院が襲撃された理由を考察する。
「……考えていてもすぐには答えは出ませんね」
それであれば、まずは動いてみるべきだろう。
「√ウォーゾーンへ繋がる道が閉じられたとは限らないですから」
その場合、さらなる敵が出てくる危険性もあるから、まずは地下をくまなく調べようと、彼女は仲間たちとともに慎重に地下へと向かうのだった。
第3章 冒険 『襲撃後の病院の探索』

●静かな病院
病院内はあちこち破壊され、瓦礫と化した部分もあったが、犠牲者は出なかったようだ。
彼らが現れたのは病院の地下。
そして、通常病院の地下は頻繁に人が出入りする構造ではなかった。
そのため、地下にいた人は少数で、なにより√能力者たちが彼らの安全を最優先に確保したことが全員無事に繋がったと言えるだろう。
あとは、静かになった病院などに、何か痕跡や手がかりが残されていないか。
これからも同様の襲撃を起こさないためにも、できる限りの調査を行うべきだろう。
●証拠隠滅の訳
「ひとまず、ここに√ウォーゾーンとの道が出来ていたのは間違いないわね」
今回の襲撃の目的は解らないが、病院の地下と√が繋がり、やってきた相手からそう推測するアリエル・スチュアート(片赤翼の若き女公爵・h00868)。
彼女は一連の襲撃が、戦闘機械群のどこかの派閥による大規模な侵攻の予兆であると疑い、
「まずは現場を調べなきゃね」
『はいはい。出番ですね!』
ドローン「フェアリーズレギオン」を呼び出すと、地下内部をくまなく探していく。
(「他の勢力による襲撃や陰謀だけでも手一杯よ。全く……」)
√EDENへ脅威を与えているのは彼らだけではない。
『ニアちゃん様も公爵の無茶ぶりに完璧に対応するのが手一杯です!』
アリエルはそう言いながら胸を張り、褒めてほしそうにしているティターニアをスルーしつつ、自らの目でも√の通り道が有ったと思われる場所を念入りに調べていく。
「うーん……やっぱりめぼしいものは見当たらないかしら」
だが、行動してみたはいいものの、これといった手がかりが見つからず、
「今後も病院には要注意。としか言えないのよね」
諦めて病院の人々をしっかり保護する方に力を入れようかと考えた。
「ちょっといいですか?」
だが、そんなアリエルの思考に、|深雪《ミユキ》・モルゲンシュテルン(明星、白く燃えて・h02863)が待ったをかける。
「この作戦は、病院で起こった一連の事件の証拠隠滅のために行われている可能性が非常に高いです」
他の事件での状況も踏まえてそう考える彼女は、
「正直なところ、下手な騒ぎを起こさない方が予知にかからず、証拠隠滅には有利なはずです」
既に事件が発生していた病院の証拠を隠滅するならともかく、人々の転院先にまで襲撃をかけるのは不自然だと推測した。
「わざわざ転院後も襲撃してきたということは、この病院ないし診療所にいた人を襲わなければいけない理由がある……?」
シンシア・ウォーカー(放浪淑女・h01919)は、それが仮に証拠隠滅のためだとして、病院の患者や勤めていた人の一人一人に至るまで殺す必要があったのだろうかと首を傾げ、
「とりあえず、わからないことは聞いてみるのがよさそうですね」
そう判断して降霊の祈りを捧げると、周囲のインビジブルを生前の姿に変えることで、知性を得た彼らに最近の地下の様子を尋ねてみる。
「ふむふむ。人の出入りが思ったより多いですね。……それが普通だというのですか?」
病院の業務的に、地下に頻繁に出入りするような人は多くないはず。
そんな違和感を覚えつつ、シンシアはカルテなどを確認したら何か手掛かりがつかめるのではないかと考えた。
「では、カルテのある場所……システム管理室でしょうか」
そう考えた深雪《ミユキ》が、地上にあるカルテなどのデータを管理するコンピュータを見つけ、セキュリティを解除しようと試みる。
『ならこっちもハッキングです!』
その間に、狭い隙間を探してもぐりこんだアリエルのフェアリーズたちが、院長室の扉をこじ開け中を捜索し始めた。
「カルテの履歴を確認……これは?」
膨大な量のカルテの中に、以前襲撃のあった病院の患者の記録なども含まれているのを発見し、深雪《ミユキ》は顔を歪ませる。
「別の病院のデータを、この短期間で詳細に。それも実験に関する内容までデータに残している?」
それはつまり、この病院もまた、事件の起こった病院の仲間であるということだ。
「それでしたら、地下への人の出入りの多さも説明できますね」
この病院では『まだ』実験は行われていなかった。
だが、『これから行う』計画があったのだ!
「そのため、過去の事件の病院から患者さんたちを転院させ」
「準備していたものの、敵は証拠隠滅のために病院を破壊しようとした。ですね」
『公爵、院長室にこんなものがありました!』
この病院が襲撃された事情、そして証拠が断片的に見つかり、それが推理によって一本の糸に変わっていく。
念のため、深雪《ミユキ》は|電脳蘇生術《ニューロニック・ネクロマンシー》を用いて生前の言動を再現したインビジブルのAIを呼び出して、実験につながるような不審な点を確認し、
「これは……クロですね」
この病院も実験のために準備され、入院患者の受け入れの有無にかかわらず証拠隠滅が行われた可能性があるのだろう。という結論に至るのだった。