最強 DRAGON 爆滅バトル!
「みんな、朗報だ。喰竜教団の教祖『ドラゴンストーカー』が弱体化したぞ」
連取・佐(不死身の強面系百面相おじさん(婚活中)・h02739)は今回の星詠みに関わる情報をルート能力者へ伝える。
「みんなが何度も根気強くドラゴンストーカーを倒してくれたおかげで、やつと融合していたドラゴンプロトコルの遺骸は消失した。今の教祖は本来の肉体で√能力者と戦わなきゃいけなくなるほど切羽詰まっている」
それでも、彼女は「自らの肉体を用いて真竜を復活させる」という目的を諦めておらず、弱体化した姿でなおもドラゴンプロトコル殺害作戦を続けようとしている。
「簒奪者をそう簡単に殺すことは出来ないが、弱体化した今なら完全に殺しきれるかもしれないな。それこそ『王剣』がないと仕留めきれないだろが……できるだけ叩いておけば、有事の際は更に弱体化しているはずだ」
佐が早速、今回の事件の予知を能力者達へ伝達する。
「今回の事件は、√ドラゴンファンタジーで開催される武術大会だ。ドラゴンストーカーも考えたようで、合法的にドラゴンプロトコルを殺せる状況と場所を探したようだ。この武術大会はルールなんてあってないような闇武術大会だ。巨額の掛け金が動き、優勝者は巨万の富と裏社会最強の称号を獲得できる。んで、予知の通りだと、荒くれ者のドラゴンプロトコルの青年剣士がドラゴンストーカーに殺されて、その遺骸を持ち去られてしまうってわけだ……」
要するに、√能力者達もその闇武術大会に参加して、ドラゴンストーカーを撃破してしまおうという魂胆だ。
「ついでに、決勝に残った件の竜青年の剣士をみんなが敗走させてくれると助かる。もちろん、命を奪わずにという前提だがな?」
予選トーナメントから準決勝までは各ブロックに分かれてのトーナメント戦。出場枠1つにつき参加人数は自由なので、チームで登録してもOKだ。決勝は誰かが残るまでのバトルロイヤル形式。ただし、この時点でドラゴンストーカーが本性を表すので大会は大混乱、勝敗どころではなくなる。√能力者達は同士討ちを気にすることなくドラゴンストーカーのみを討伐してほしい。
「ってことで、今回もよろしく頼んだぜ。今回の境界の入口は神社の鳥居だ」
佐は近所の小さな神社を指差すと、√能力者達の健闘を願った。
第1章 冒険 『武闘大会に参加しよう』

血気盛んな猛者たちが集まる、闇の武術大会。血の匂いが立ち込める受付フロアの中で、リグ・レイヴン(穢れた血・h02427)は嫌気が差しながらも任務に当たるべくエントリーを済ませた。
「古い友人が言うには、どれだけ強くとも自分より弱いものにしか勝てないのなら、それを誇る意味はなんなのか。それを答えられないものに力を扱う資格は無いそうだ」
独り呟くリグ。彼女にとって、闇の武術大会など、弱者をいたぶるだけのゴミのような見世物小屋程度の認識でしかないようだ。
「まぁ、金銭や名誉のために命のやり取りをしようなんて言う公共の害悪には無縁の話か。私は平穏を脅かすあらゆる存在を憎む、この機会に纏めて駆除しておきたいところだが………おっと」
考え事をしていると、屈強な筋肉を持つ蛮族めいた斧戦士とぶつかってしまった。
「ああ? どこ見てやがるんだ!? つかカワイイ顔してやがんなァ! なぁ、俺とベットで『対戦』してくれたら、同じチームに入れてやってもいいぜ? なにせ有償はこのハザン様が掻っ攫うんだからな! キャッハハハ!」
下図な笑い声がリグの耳元でざわつく。
「チッ、試合前に処するなど、あまり許される行為でもないか? だがここはルール無用なんだろう? 失せろ、クズが! 死ね!!」
リグは天理の剣でハザンと名乗った男の左肩から先をスパッと切り落としてしまう。更に剣から放たれた電撃で、ハザンは急性心不全を起こして、白目を向いたまま死に絶えてしまった。
「フン……エントリーを済ませたのなら、もうすでに予選は始まってるとも過言ではない。迂闊に死にたくなければ、私に二度と声を掛けるな! 試合でならば命乞いを聞いてやるが、そうでなければこのクズと同じ命運を辿ると思え!!」
天理の剣が雷竜の爪を再現した巨大な刃へ変化し、それを荒くれ者共へ見せつけるリク。すでに自身の心身は穢れていると考えている彼女は、他者の命を奪うことに一切の躊躇などしないのだ……。
自分の命を天秤にかけて、巨万の富と栄誉を求めるならず者達が一同に集結する闇の武術大会。神咲・七十(本日も迷子?の狂食姫・h00549)も任務のために参加を余儀なくされた。
「あんまり良い気分じゃないですね、こうして『見世物』として腐った金持ち連中の賭けの対象になるのはね……」
予選とはいえ、一試合ごとに莫大な賭け金が動く。生死を問わない戦いを安全圏から眺めて楽しむ輩に、神咲は顔にこそ出さないが不快感を抱く。
そんな彼女の予選初戦、相手は5人組の女性傭兵チームだ。だがその雰囲気は『傭兵』の纏うそれではない。神咲は訝しがった。
(女性の……殺し屋チーム? あぁ、合法的に対象を処理出来て、対象じゃなくても技術向上の実験体として処理と……どちらにしろ死に追いやる感じですか)
討伐対象のドラゴンストーカーも、標的以外の道中で出会ったドラゴンプロトコルを惨殺して合法的に自信と融合を果たすつもりであろうから、本当にここは無法地帯である。
(……そんな悪い人達なら、食べちゃってもいいよね……♪)
浸食大鎌『エルデ』を手元に呼び寄せた神咲の口元が、ニタリと怪しく釣り上がった。
試合開始から15分が経過した頃、観客は神咲への嘲笑と罵倒で溢れかえっていた。
「さっきからやられてばっかだなぁ! 殺される前にママのところへ帰って泣き付きな!」
「おい、トロトロと試合を長引かせてんじゃねぇよ! さっさとそのガキぶっ殺せ!」
「馬鹿か? もっといたぶって苦しませてからだろ! まずはそのガキの服と下着をひん剥いてくれよ〜ぉ!」
観客の好き勝手な暴言の数々。女性『傭兵』チーム達は次第に、この状況を盛り上げようと考え始める。目の前の少女はたった独りで守りに徹するのが精一杯だ。ならばこの試合は確実に勝てると踏んだ彼女達は、次の試合にも自分達へ掛けてもらえるべく観客の『要望』に応え始めた。
まずは大盾持ちが神咲へタックル。激突されて後ろへ吹っ飛んだ彼女へ、狙撃手のクロスボウの矢が飛び込んでくる。これをもう一振りの大鎌『アリル』で矢を遮るが、盾兵を飛び越えて斧使いが全体重を乗せた一撃を振り下ろす。凄まじい金属音が会場に轟けば、観客のボルテージも一気に上る。そこへ、後方から術師が神咲の身体を茨で拘束すると、真っ赤なモッズコートを引き裂くべく締め上げてゆく。
神咲は状況をよく観察していた。そして会場の熱気と、相手チームの慢心が最高潮に達した瞬間を見極めて√能力を行使する。
「んぅ……私もやりましょうか」
次の瞬間、身体を縛り付ける茨が未知の植物によって食いちぎられてゆく。傷ついたモッズコートと彼女の肉体は瞬時に再生され、大鎌が禍々しく赤い輝きを放つ。相手チームは信じられないと言いたげに、あからさまに動揺している。
「さて、準備はいいですかね? 大丈夫ですよ、優しく食べて上げますから♪」
振り上げる紅の大鎌。相手チームの盾兵がすぐさま仲間を庇うべく、前へ躍り出る。しかし、頑丈な大盾を『貫通』する紅の大鎌が盾兵の上半身と下半身を一撃で刈り取って上下真っ二つにしてみせたではないか。
「はいオシマイです。今まで手を抜いてあげたのに、まさか私に勝ったつもりですか? 凌辱ショーを始めるくらいには余裕でしたか? この糞ロリコンが。わかりました、では意趣返しとして……私は『ライブクッキングショー』を始めますね♪」
真っ二つになった盾兵の肉体が、隷属培養能力によってゾンビめいて動き出す。その全身はまるで血液で出来た刃が生えた生物のようだ。
「さ〜て、まずは『具材』は一口大にカットしましょう♪ みんなみんな、私が一片残らずくらい尽くしてあげます♪ あ、どなたかお醤油持ってますか? ない? 残念です……」
操られた死体が、かつての仲間を襲撃する。神咲の物質貫通する大鎌の一撃も、移動速度3倍になったことと合わせて相手チームは一変して狩られる側に堕ちた。
「どうせ日の目の見ない殺し屋ですし、殺されたって文句ないですよね? ああ、もう食材担ったので喋れないんでした♪ あっははは!」
血みどろになった口元を拭う神咲の姿は、その場にいる観客を恐怖と困惑でざわつかせたのだった。
雨神・死々美(紫相の忌術師・h05391)の出自は特殊だ。平和な√EDEN世界にて、裏闘技の賭博会場で日々の糧を得るアングラファイターだ。故に、違う世界線の裏闘技大会とあらば出場するに決まっていた。彼女は√ドラゴンファンタジーの空気や土の匂いを嗅ぐ。
「スンスン……ニオイも、フンイキも……『らくえん』と全然違え。ふふん。たまにゃアウェーで闘んのも、新鮮で楽しいモンだ」
彼女は慣れた様子で客席へ手を振りつつ入場。こうすれば自分の心象が良くなり、賭け金が釣り上がると経験から知っている。なお、今回は武器は不使用での参加だ。
「んー? 客層は、だいぶ荒っぽいカンジ? いいね、ブチ上げてやったるぜ」
そんな雨神の対戦相手は、二丁拳銃遣いのようだ。
「お嬢ちゃん、止めておきな。アンタじゃ俺に近付けやしないさ」
これに雨神がニタリと口角を吊り上げながら言葉を返す。
「カワイイ女のコっつっても、手加減はナシで、ね。そっちの本気が見てえんだ、私は……」
「徒手空拳でその自信、よっぽど腕が立つらしい。だったら、まずは俺の帽子をその拳で撃ち落としてみろ!」
男はすぐさま魔法弾を雨神へ発砲した。開戦後、暫くは相手の攻撃を避ける事に雨神は専念する。挙動は大きく派手に、見栄え良く動き、客を満足させることを忘れない。これも経験からの行動だ。自分に金を賭けさせる小技だ。その一環で、壁際に追い詰められたフリをして会場の空気を更に温める、
「んー。うん、だいたい分かった。アンタじゃ痺れねえ」
次の瞬間、雨神の身体は雷光めいて凄まじい速度で前へ飛び出し、一気に男の懐へ肉薄。
「くそ! 今まで様子見だったのか!?」
男は至近距離から雨神を狙撃するが、彼女は男の腕を手刀で外へ弾いて被弾を免れる
「ズバズバーっ!」
√能力が乗った右手「爛斬」を真っ向から男の拳銃とカチ合わせ、そのまま手から溢れる高濃度の酸で切断してみせる。拳銃には銃剣が付属していたにも関わらず、素手で刃物を溶断してみせたのだ。
「わはは、んなナマクラじゃ斬れねえよ!」
男が動揺した隙に、次々とその防具をバラバラに斬り壊す雨神。
「こ、降参だ! なんだよ、手から強酸が出るって!?」
男は恐れをなして全力で逃げ出してしまった。
「あー、行っちまった……次はもっと滾る相手だといいんだがな……」
全身から猛毒を発する体質の雨神に、観客達から歓声とどよめき湧き上がった。
カシム・ディーン(小さな竜眼・h01897)は一攫千金の匂いを嗅ぎつけ、この闇闘技大会に参加していた。
「ご主人サマー☆ 武術大会だぞ☆ 武術大会とか、なろう系ファンタジーの王道だぞ☆」
「おめーは何言ってやがる……!?」
相棒のメルクリウスの妄言を聞き流し、カシムは参加受付を済ませた。
「メルシー、おめーとは今回別行動だ」
「えー?」
「おめーだけでも十分勝てるだろうが!」
「あ、なるほど☆ ご主人サマとメルシーで賞金独占作戦だね☆」
「話が分かるじゃねぇか……健闘を祈る!」
カシムはすぐさま人混みの中へ逃げていった。
(うおおお! 久々にあいつの目から逃れて自由だー!!)
思惑とは別に、カシムはたまの単独行動に喜ぶのだった。
そして肝心の試合の方は、カシムの相手はイケメン金髪殺し屋であった。
「ふん、まだ子供じゃないか……殺してしまうより、私が育て上げて駒として遣いたいものだ」
「なんだとてめー!? オウオウオウオウ! 随分スカしてるじゃねぇかこらぁ! ちんこ蹴り飛ばすぞぼけぇ! ぶっとばしてやんよごらぁ!」
対してカシムは完全にド三下チンピラムーブである。
互いにスピードを信条とした戦いは、意外にもあっけない幕引きを迎えた。
イケメン殺し屋の投げナイフをかわしたカシムは、手に握っていた賢者の石を蛇腹剣に変えて魔力をまとわせた。
「前の任務で意外と使い勝手良かったんでな……つーわけで、色んな意味でフラグブレイクな戦いなんだよボケナスがぁぁぁー!」
不規則な剣身のうねりがイケメン殺し屋を翻弄し、更に剣身から火炎弾が発射されて爆撃してみせる。
「そんなの初見でわかるかー!!」
爆発に巻き込まれたイケメン殺し屋は、天高くふっ飛ばされて二度と戻ってこなかった。
竜宮殿・星乃(或いは駆け出し冒険者ステラ・h06714)はドラゴンストーカーの動きを察知すると、すかさず裏闘技大会へ参加した。
「弱体化したと聞いたけど、相変わらずねドラゴンストーカーっ。彼女の悪行は必ず止めてみせるから!」
今日は普段のお嬢様の肩書ではなく、ビキニアーマーを着込んだ冒険者ステラとして行動する。その扇情的な装備に、周囲の男性の眼差しがまとわりつくのを彼女は感じている。
「……この武術大会、やっぱり男性の参加者の方が多いのかしら? 私の流派的には都合が良いけど」
しばらくして、星乃は対戦相手の屈強な男性格闘家との試合に臨む。
「そのような裸同然の姿で俺に勝とうと言うのか? 笑止千万!」
熊の如き巨体が星乃の身体めがけて突っ込んできた。
「き、来たわ! 本当は恥ずかしいけど……ええいっ!」
星乃はなんと、向かってくる巨体の男へ目掛けてしがみついたではないか! その豊満な胸元や絹のような肌の太ももを相手にこすりつけ、涙ぐみながら上目遣いで見詰める。
「こ、こんな怖い大会だって知らなくて……痛くしないで……?」
「な、なにをしている!?」
「貴方だって……痛いのはイヤでしょう? ほら……よしよし……」
「はァふ!? ば、馬鹿者!! 衆人環視の状況で、どこを触って……! あ、擦るな! やめてくれ……!」
どうやら女体に免疫がないのか、対戦相手の男は丸太のような陰根を隆起させて興奮を隠しきれない様子。
(きゃあ……! すごく……おっきい……! 私の腕より長くて太いです……! その先から濃厚な雄の匂いも漂ってきて……ハァ……身体が熱くなっちゃう♪)
男性のソレを目の前で見詰めて星乃も徐々に興奮してゆく。
観客達も突然の「イベント」にやんややんやと声援を送ってみせる。
そのまま乱痴気騒ぎは60秒間ほど続くと、いつの間にか男は顔面蒼白になっていた。
「今です! ごめんなさい……!」
必殺の手刀が男の頸部を強打、一瞬で意識を奪ってみせた。
「相手の生命エネルギーを吸い取って消耗させた上で、必殺の手刀でとどめを刺す作戦。うまくいきました……殺害まではしないけど」
男が気絶した瞬間、その下腹部からむわぁ……と雄の香りが一気に解き放たれる。気絶したことで筋肉が緩んで、一気に精が放出されたらしい。
「私の流派は『究極の男殺し』なの。……ごめんなさいね。ハァ……」
胸いっぱいに血の香りではなく男の香り吸い込んだ星乃は、このあと、自ら蹂躙されたい男達から言い寄られて決勝まで進むわけだが……それはまた別の話である。
殺伐とした空気の闇闘技大会の会場で、似つかわしい黒猫がおヒゲをピンと立てて意気込む。箒星・仄々(アコーディオン弾きの黒猫ケットシー・h02251)だ。
「なんと、教祖さんの弱体化は嬉しい知らせですね。もう犠牲となる方を出したくありません。今度こそ教祖さんを倒しましょう。……そのためにも、まずはトーナメントを勝ち進まないといけませんね」
箒星は早速出場の受付を済ませて身体をグーンと伸ばす。ストレッチすることで歌声がよく通るようにするためだ。そしてとうとう試合開始だ。
「戦闘開始時はきちんと礼をしなくては。よろしくお願いします!」
「ハン、猫獣人が相手かい?」
性悪そうな女盗賊がナイフを見せびらかしながらニタリと笑みを浮かべた。
「すぐに片付けてあげるさね!」
すると女盗賊の姿が目の前から忽然と消える。なんて素早い機動力か!
「死ね!」
一瞬で箒星の背中へ回り込み、ナイフをその背中へ突き立てんと振り下ろす。だが、箒星はそれをあらかじめ想定している。猫耳や猫のヒゲで空気の振動を感じることで、背後や死角からの攻撃をささっと余裕で避けてみせる。
「なに!?」
「私は『音楽家』ですので、些細な音にも敏感なのですよ」
にっこりと笑ってアコルディオンシャトンを奏でる箒星。奏でられる音色は元気いっぱいの流行のポップス。
「呑気に演奏なんて、アタシを舐めるな!」
女盗賊は箒星の真横へ回り込むと、ナイフではなく鋭い蹴りを放った。蹴り飛ばされた箒星は空中で一回転してリングの上に着地するが、ズキズキと脇腹に鈍い痛みが走っている。
「大丈夫です、√は見えてますから。ラララ〜♪」
すかさずアドリブでメロディーラインを歌い上げる箒星。すると突然、女盗賊が自分の脇腹を抑えて苦悶の声を上げた。
「うぐッ!? なんだ? おェ……! まるで脇腹に牛か馬か何かが激突したみたいな痛みが……」
箒星は√能力の歌声によって、ダメージを3倍にして女盗賊へ跳ね返したのだ。更に蹴られた箒星の脇腹は瞬時に治療されて痛みが引いてゆく。こうして箒星は敵の攻撃を回避しながら演奏は続けていく。受けたダメージは即座に3秒以内に跳ね返し、自分は無傷のまま女盗賊を追い詰める。
「うーん、そんな単調なリズム攻撃には当たって上げられないですよ。今度は此方の番です」
響き渡る音色が女盗賊とその得物であるナイフを震度7の振動で激しく震わせる。突如ブルブルと震え始めた自身の身体とナイフを抑えきれない女盗賊は、その場に倒れて起き上がれなくなってしまった。
「この振動はマヒ攻撃も組み合わせていますので、ぶるぶるしながら動けなくなりますよ」
「あばばばばばば!? きもちわるいぃぃぃぃ……!」
頭部も激しく揺さぶられる女盗賊は、脳も揺さぶられて三半規管の感覚が崩壊してしまった。目がまわり、その場でゲーゲーと嘔吐。試合続行不可とみなされ、箒星の勝利だ。
「悪人さんでも命はひとつですからね。甘いのかもしれませんけれど、私は貴女を殺しません。ちゃんと真っ当に働いてくださいね。でないとまた『演奏』しに向かいますので」
「オエ……わ、わかったよ……盗賊から足を洗うから……うぅ……」
顔面真っ青になった女盗賊は、箒星へ更生を誓うのだった。
「さて、教祖さんも勝ち上がってくるはずです。決勝は乱戦になりそうですね……」
今のうちに準備を整えなくては、と箒星は人混みの中へ消えていった。
命護・凌哉(大地を守護せし白黒の残滓・h01033)という男は「不器用」である。優しい凌哉は常に誰かのために動く。自分のことは割と後回しで、人助けに精を出す。だからだろうか、いつの間にか彼は苦労人属性がつきまとい、自然とツッコミ体質になっていた……。
「ま、俺が苦しむ程度で周りが笑顔になってくれるなら頑張り甲斐があるってもんだ。つか、今回の教祖様は至って単純明快な作戦内容で助かるぜ。喧嘩が好きっつーワケじゃねえけど、ここはいっちょやってやるか――」
意気揚々と闇闘技大会の受付を済ませようと会場へ足を踏み入れる凌哉は、片目を眼帯で覆うモヒカン半裸マッチョマンや全身ジャラジャラとピアスを鳴らす狂人達の巣窟に思わず呼吸が止まる。
「ヒュッ……ガラ悪すぎじゃね???」
「あ? なんつったてめー!?」
血の気の多いモヒカン頭が凌哉を怒鳴りつける。慌てた凌哉はモヒカン頭をなだめようと試みる。
「おっと悪い、つい本音が出ちまった。だって絵に書いたような悪人面がところ狭しと並んでたら、思わず出るだろ……本音が」
凌哉自身は謝罪と弁明のつもりのようだが、モヒカン頭にとっては完全に煽り文句二しか聞こえないようだ。
「んだとガキが!?」
「いや、ガキって。俺より身長低い奴に言われてもなあ」
凌哉はモヒカン頭を『見下ろす』と、苦笑いを浮かべながらそそくさと受付へ向かっていった。露骨に煽る180.3cmの青年に自尊心をバキバキオラれたモヒカン頭は、その後エントリーを取りやめて故郷でシークレットシューズ職人になるのだが、それはまた別の話である。
そして遂に凌哉の試合が始まる。
「あ、もしかして対戦相手はお前だったの? さっきはごめんな? 迷子かと思って係員に引き渡しちまってさ」
「アンタまじでノンデリすぎじゃね!? これでも成人してんだバーカ!」
「いやだから謝ってるだろ……? あ、そうか。成長しても小さいままの種族だったりするのか?」
「ちげーわボケ! 単純にガキん時に栄養失調で発育不十分な三十路だわって、歳言っちゃったよ絶対殺す!! うわーーーん!」
背の小さい女児のような女性が眼を血走らせて激怒。その手に握る杖から雷を放った。
「黒焦げになりやがれ! サンダーレイ!」
「あ、悪ぃ。俺、魔法耐性がかなりあってさ?」
こんなこともあろうかと、多重詠唱による対魔法防壁によって雷が弾かれてしまった。これに小柄な女性の顔が引きつる。
「ハァァァ!? 自慢の無詠唱の魔法が!? 小型のドラゴンを炭化させたこともあるにに!?」
「うん、まじでなんか、ごめん……。つーわけで今度は俺の番だな」
気まずそうな凌哉は一歩も動かぬまま、その目で他の√を観察し、視界に収めた小さな女性へ手をかざす。
「其は全知全能の瞳、仇為す者を逃さぬ一条の流星! 術式展開!」
「え? なに、なになに!?」
女性の頭上が途端に晴れ渡り、青空から神々しい光条が降り注ぐ。
「|【昇華】千里を見通せし父天の断罪《ピュリフィケイト・クレアヴォヤンスサンクション》ッ!」
次の瞬間、女性の頭上に降り注ぐ裁きの光がその皮膚を焼き焦がす!
「あちちちっちち! もう嫌だーーーーーー!!」
太陽光でトーストされた女性は、全身が真っ赤に腫れ上がったままリングから飛び降りて逃亡してゆく。後に彼女はこの経験から鉄板焼料理の鉄人として名を馳せるのだが、凌哉にそれを知る由はない。
一方、全く動かず無傷で相手を負かした凌哉に、会場から拍手喝采が沸き起こる。
「ふう、なんとか勝てたな。これで教祖様も俺に目をつけてくれりゃいいんだがな、俺もドラゴンプロトコルの端くれだし」
凌哉は最初から、予知で示された被害者の代わりに自分を標的に仕向けるべく行動シていたのだ。やはりこの男、自ら苦難の道を選ぶ『お人好し』である。
第2章 集団戦 『堕ちた近衛騎士団』

かくして、√能力者達は順調に勝ち上がってゆく。
次は準決勝グループ戦、ここからは完全に敵が入り乱れて潰し合うサバイバルバトルだ。
「さあ、騎士達。邪魔な参加者は殺して構いません。ドラゴンプロトコル様は半死半生で私のもとへ連れてきてください。いいですね?」
「「はっ!」」
西洋鎧甲冑を纏った騎士達は、喰竜教団の尖兵達だ。彼らもここまでチームを組んで勝ち抜いてきた実力者達である。この騎士達はなんとしてもこの準決勝で全身倒しておかねばなるまい。そして――。
「ガッハッハ! 死にたい奴だけ前に出てこい!」
予知で示唆されたドラゴンプロトコルの竜剣士も健在だ。彼にはまだ敗退してもラテは困る。程よく彼を援護しつつ教団の騎士達を全滅せよ、√能力者達!
√ドラゴンファンタジーでの闇闘技大会も白熱してきた。準決勝グループはバトル酔いやる形式だ。その中に喰竜教団の信者である騎士団が紛れている。このままでは一般人(とはいえ世間では賞金首やら犯罪者にあたる悪党ばかりだが)がむざむざ殺されてしまう。なにより教団側の思惑を放置するわけには行かない。
柳・依月(ただのオカルト好きの大学生・h00126)は|警視庁刑事部特殊捜査四課《カミガリ》の要請を受けてこの大会に潜入しており、自身は勝ち上がるつもりは毛頭ないが、喰竜教団の手先を排除することに専念するよう命じられているのだ。
「おお、怖い怖い。こちとら単なる|都市伝説《ネットロア》なのに、怪異よりも怪異じみた殺戮者ばかりかよ」
周囲では早速、躊躇せずに相手を真っ二つに斬り裂いたり、巨大な武器で叩き潰したりと凄惨な戦いが繰り広げられている。当然、立ち尽くしている依月にもその魔手が伸びる。
「スカしてんじゃんぇよ兄ちゃん! 俺の斧でそのキレイな顔を薪みてーにぶった斬ってやるぜ!!」
屈強な山賊風の大男が、最上段から斧を振り下ろして飛びかかってくる。依月はそれを手にしていた番傘を閉じたまま、斧の柄をしたたかに真横へ打ち払った。
「突っ込んでくるだけが取り柄か? このイノシシじじいが」
斧の軌道を逸らされた大男の鼻っ柱に、7cmヒールの蹴りが勢いよく突き刺さった。
「ホゲェーッ!?」
前歯と鼻血をばらまきながら場外へ転がり落ちる大男はすぐさま失格となった。続けて冒険者風の3人組の男女が依月を取り囲んだ。件の騎士団だ。
「悪く思わないでくれよ? 俺達は大金が必要なんだ!」
「でも気を付けて! この人、すごく強いわ!」
「なに、こっちは3人だぜ!? いくぞ!」
三人組は見事なコンビネーションで依月を翻弄してみせた。どうやら彼らが装着している魔導通信機が素早い連携を可能にしているらしい。
「なるほど? お姉さんが俺を足止めして、そっちの盾持ちがタンク役だろ? んで……」
依月は背後から迫る長剣の冒険者の一撃を、番傘の柄を引き抜いた仕込み刀の峰で受け止めた。
「本命の奇襲役はお前って感じか?」
「コイツ、俺達よりも素早いぞ!」
すぐさま長剣の冒険者は依月と距離を取る。他の2人も接近戦は不利だと判断して様子を見るように、しかしながら包囲網は解かずに警戒を怠らない。
「いいのか? そっちが近付かないなら……俺から仕掛けるが、構わないか?」
依月は呪髪糸――呪いを籠めた頭髪を編んだ糸状の暗器を中へ放り投げる。
「壁に乱るる蜘蛛の網は、庭の真葛が蔓にあらそふ……ってな」
次の瞬間、呪髪糸は一瞬で3人組の四肢を絡め取り、きつく縛り上げて皮膚と肉を裂く。
「これこそ√能力『呪髪糸操術:絡新婦』……悪いな、俺は対多数戦闘のほうが得意だ」
うっ血して泡を吐く3人組に絡む糸をビンッと弾けば、伝わる振動は鋭利な鋸刃となって鎧甲冑ごと彼らの四肢をバラバラに斬り刻んでしまった。転がる敵の部位を蹴っ飛ばした彼はふと気づいた。
「ああ、遺言を聞き忘れてしまったな……まぁいいか」
依月はその後は適当に襲ってくる参加者をあしらい続け、どうにか試合終了まで残り続けたのだった。
竜宮殿・星乃(或いは駆け出し冒険者ステラ・h06714)は準決勝でも『冒険者ステラ』として参加している。ちなみに肌を密着させて男を誘惑してからぶん殴る戦術をここまでくるのに多用していたおかげで、他の参加者からは『ドスケベ真拳の使い手』と呼ばれていた。
「……こ、ここまでに色々とやらかしちゃった気がするけど……は、反省は後回し! 今は喰竜教団の尖兵たちを片付けるわ!!」
試合が始まると、一気に周囲は乱戦の様相を見せる。目に入った相手をとにかく攻撃するような無軌道な戦いの中で、彼女は教団の標的のドラゴンプロトコルを挑発していた。
「わ、私を倒せたら、このカラダを一晩好きにしていいわっ」
「出たな、ドスケベ真券のステラ!」
「確かにすごくスケベなオーラを待っているな……!」
「うぐッ! 槍ではなく別の得物で突きたくなってくる! なんて魔力だ!!」
勝手に誘惑されて悶々とし始める鎧甲冑の騎士達の様子に、星乃はこころの中でガッツポーズした。
(教団の尖兵たちは、教祖から『彼は半死半生で』と言い含められてるし、他の参加者に殺されたらまずいはず。焦って乱入してくると思うから、そこを撃破していけるはず!)
すかさずルート能力を発現。燃え盛る真紅のドラゴンが闘技場に召喚される。
「私の情熱が天をも焦がす爆炎となる――未来示す道標となれ! 紅焔竜顕現! 燃え盛れ、クリムゾンフレア・ドラゴン!!」
紅焔竜を顕現させると、件の竜剣士への攻撃はわざと外させて灼熱の聖域を展開。そこに踏み込んで弱体化した喰竜教団の尖兵たちから仕留めていく。
「隙あり! はぁぁ!!」
ディヴァインブレイドを空中で操り、自在に騎士達を鎧ごと突き刺して撃破してみせる。重い甲冑は転ばせてしまえば、あとは剣先で刺し殺すだけの的となる。あとは紅焔竜が勝手に強靭な顎で噛み砕してくれるはずだ。
「ド、ドラゴンが怖くてドラゴンプロトコルがやってられるか!」
切り込んできた竜剣士の攻撃もきちんと回避。
相手を傷つけさせないように、適度にその戦意を削いでゆく星乃。
「きゃあ〜! ま、負けたら私をめちゃくちゃにするんでしょう、性的な行為で!? あの人、ケダモノよ!!」
「おい、ちょっと何言ってやがるんだ!? って、痛ぇーな、観客共! ゴミを投げるな!!」
星乃の言葉を真に受けたガチ恋勢の観客達が、件のドラゴンプロトコルの竜剣士を妨害するべく酒の空き樽や石を投げつける。お陰で彼はしばらく戦闘どころではなくなる一方で、彼を襲う参加者をそれとなく星乃が教団信者の騎士達と一緒にふっ飛ばすのだった。
乱戦が繰り広げられる中、命護・凌哉(大地を守護せし白黒の残滓・h01033)は喰竜教団信者の騎士達の存在を最初から警戒していた。
「いやいやいやいや! 見るからにキナ臭い感じ半端ねえな……? あれか、露骨すぎて逆にバレねえ奴か? √能力者じゃなけりゃ有り得るかあ……って、モノローグ中に殴ってくんな!」
「オアーッ!?」
騎士達を注視して立ち尽くす凌哉を背後からハンマーで殴りかかる与太者を、自分の魔術で生み出した氷を溶かして操るウォータージェイドでバシャンと受け止めると、ノールックで鉄砲水を浴びせて場外へ突き飛ばした。
「ンまァーいッ! 負けちまったけど……こんな美味い水を飲んだの、俺はじめてだ! まるで砂漠を放浪中に見付けたオアシスの最初の一口っつーかよォォォ〜!? 何もかも澄み渡ってって……俺、真面目に働く! そういや、なんで誰も水を売り歩かなかいんだ……? 俺、天才じゃん……!!」
どうやら彼が纏う浄化のオーラと魔術の水が合わさって、とんでもなく美味しいミネラルウォーターの弾丸が生成されたようだ。更には与太者の腐った性根も正してしまったようだ。そしてこの√世界にミネラルウォーター販売の概念が生まれた瞬間である。
「あ、もしかして俺がボコした対戦相手が総じて改心したのって、そういう理由かよ!? ともかく……ま、明らかに殺人レベルのK.O出す気満々なのは嫌でもわかるし、そういう奴はさっさとご退場願わねえとな!」
騎士達も凌哉に気が付いたらしく、槍の連続突きによる牽制、メイスに仕込まれた鎖による捕縛、長剣による強撃の連続攻撃を仕掛けてきた。
「√能力者め……教祖様の邪魔はさせない!」
「相手はたった独りだ! 連携を取るんだ!」
「オデ、槍で突いて殺す! 時々外して、フェイント入れる!」
見事な三段階連携。並の冒険者なら太刀打ちできないだろう。だが凌哉は身に付いた自動防御で槍の刺突と鎖の捕縛を跳ね除け、斬り掛かってきた騎士へ痛烈なドロップキックを叩き込む。
「おらよ! ホント同情するぜ……不運は足元に絡みつく……てな!」
凌哉は闘技場に充満する黒い感情や怨念などを『穢れを喰らう黒き竜性』で周りからを取り込む。幸い、試合中に殺された者の怨恨や怒号を撒き散らす参加者の憤怒など、供給源に事欠かない。
「ついでに、狙われてる竜剣士が負けるという"不運"も食っておけば、ここでリタイアするこたーねえだろ。で、俺には穢れがいっぱい溜まって、一時的に不運になるわけだが……織り込み済みだ。オラこいよ騎士団! 教祖様に褒めてもらいたんだろ? ここに格好の得物がいるぜ、なにれ俺はつよつよドラゴンプロトコルだからな!」
「確かに……!」
「教祖様にあいつの肉体を捧げなくては!」
「オデ、槍で突く!」
再び激しい連携攻撃にさらされる凌哉。身につけた自動防御オーラ障壁での防戦一方と見せかけて、凌哉は遂に真の狙いを動かした。
「文字通り『震えて』眠れ! |【喰穢】深淵に眠る厄災の波動《ファウルネシヴォア・ヴィブラショナルディザスター》! 最初からこちとらカウンター狙いだっつーの!!」
次の瞬間、騎士団達は全身を震度7相当の振動に襲われてその場に倒れ込む。
「うわぁぁあ!? 立っていられないぞ!?」
「頭が揺さぶられて……オエッ……」
「オデ、ぶるぶる!! 肩こり取れた!?」
「お前ら、ちょっとそこで寝てろ。その間にあの竜剣士とか他の参加者の相手してくっから。じゃあな!」
凌哉が立ち去ると、ハイエナめいた他の参加者達や例の竜剣士達が一斉に騎士達の鎧へ殺到していった。こうなってしまえば、もはや凌哉が手を下すまでもない。
「なにせ俺が吸い上げた『闘技場全体に漂う不運』を全部まとめて3人に押し付けたわけだからな、さもありなんってか。まったく……"運が悪い"こって。さて、決勝で教祖様をどうしてやろうか?」
凌哉の背後から騎士達の断末魔が聞こえてくるが、もはや凌哉は次の教祖との戦いへえ思いを馳せていた……。
乱戦の中、神咲・七十(本日も迷子?の狂食姫・h00549)は空腹を訴えていた。とはいえ、好き勝手に殺戮を繰り広げて暴飲暴食に勤しむわけにはいかない。なぜなら彼女は√能力者であり、|倒《食》すべき相手は簒奪者だけなのだから。
「次の食材は騎士ですか……意外とそれっぽいのも従えてるんですね。……メインディッシュの前菜に丁度良いですね、お腹を満たすのに最適です。だんだんあの鎧がムール貝の殻に見えてきました。早く殻を剥いて中身を貪りたいですね♪」
神咲は獲物に狙いを定めると、未知の植物を操って騎士へ迫る。騎士達も通信機を用いて失し乱れぬ連携で互角の戦いを繰り広げる。
「まったく、活きが良いですね。っておっと!」
突如、真横から飛んできた矢を避ける神咲。他にも神咲を狙う参加者が続々と集結してきた。そして教団信者である騎士が叫んだ。
「こいつは大罪人で、莫大な懸賞金がその首に懸けられているぞ!」
全くの大嘘だが、この場にその真偽を問うものはいない。一斉に参加者がカネに目がくらんで神咲へ殺到する。
ふむ、さっき目立ち過ぎましたかね? まぁ、でも……やりようですよ……。最後…最後に相手になる騎士さんは、ゆっくり時間をかけて食べて上げますよ♪」
乱戦の中で足元に這わせる植物の根。更に√能力によってえ瞬間再生力と隷属化能力を身に着けた神咲は、一撃離脱戦法を駆使して参加者達を各個撃破。死角から襲いかかろうとしても、足元に蔓延した植物の根が隆起して相手を転倒させる。
「あなた達は食べませんよ、不味そうですし?」
大鎌の柄で殴打して気絶させる程度に留め、そのまま場外へポイポイと放り投げてみせる。
「そろそろ勢いも失ってきましたか? 騎士達も他の参加者達の攻撃を受けて崩れてきましたか。では、そろそろ……」
手にしているのは、今まで倒した参加者の肉片だ。日常生活に支障をきたすことがない部位をこっそり切り取っておいたのだ。全ては隷属培養によって神咲に従順な肉人形達を作るために。
「ほら、行っておいで? あの騎士達を弱らせたら、あとはまとめて食べてますね♪」
肉人形達は歓喜に打ち震えつつ、身体のあちこちに生やした隷刃で騎士達を強襲してゆく。さすがの騎士達もどんどん生まれてくる肉人形の群れに押されてゆく。そして遂に神咲が大口を開けて飛びかかってきた。
「い た だ き ま す !」
あとは凄惨な食事風景が闇闘技大会の一角で披露される。骨肉を砕く咀嚼音と騎士達と肉人形達の断末魔は、観客達の加虐心を刺激。一躍神咲を闇闘技のアイドルとして応援する。
「まったく、私はどうにもアイドルの星に愛されてるみたいですね☆」
口元を真っ赤に染めながら、神咲は観客達の声援に満面の笑顔でファンサするのだった。
カシム・ディーン(小さな竜眼・h01897)はこういった乱戦は今まで何度か経験してきたらしい。故に、相棒のメルクリウスへ自信満々に告げる。
「こういう時の必勝法を教えてやる……サバイバルバトルは、共闘が必須だ。つまり、今手を組むべき相手は……理解るな?」
「あのドラゴンプロトコルの竜剣士さんだね☆」
メルクリウスは珍しく理解力が高い。カシムは頷くと、すぐに戦闘準備を整えた。
「つーわけで、やるぞ! メルシー、おめーが勧誘してこい!」
「オケガワ物産株式会社☆」
メルクリウスは自身の姿をドスケベビキニアーマー女戦士に変身させると、甘ったるい声で竜剣士の青年に泣きついた。
「たすけて〜! このままじゃ『弟』が殺されちゃうよ〜!」
よよよ、と涙を拭うふりをするメルシーがちらりとカシムを盗み見る。
(誰が弟だぼけ!)
むっとするカシムだが、話を合わせるために演技を欠かさない。
「うわー! お金が必要だから大会に出たけど、殺されちゃうよー!」
なおすごく棒読みだった。普通の感覚なら一瞬で怪しまれそうな状況。しかし、青年の目の前のたわわな胸元と持ち前の正義感が怪しさなんて投げ捨てた。
「うおおおお! 大丈夫か、少年! 俺が助けてやるぞ!」
「ありがとーおにいさん♥ こっちもチームで対抗するぞ☆」
「うわーい、ありがとうー」
カシムは相変わらず棒読みのまま術式を編み上げると、光学迷彩魔術を発現させる。
「よーし、メルシーお姉ちゃんが護ってあげるね☆」
主従逆転のシチュエーションに興奮しつつ、メルクリウスはカシムの√能力で強化されて無双を始めた。
「ひゃっはー☆ おにいさんとなら力が湧いてきちゃうよ☆ イケメンだもん☆」
「そ、そうか? 俺もかっこいいところを見せなきゃな!」
竜剣士の青年は襲ってきた騎士達を鋭い剣筋で追い詰める。光学迷彩魔術で常に敵の不意を突けるアドバンテージはとても大きい。
だが、騎士達は予備部隊を招集し、どこからともなく12人の騎士が駆けつけてきた。
「むさい騎士なんぞお呼びじゃねーよ! 倒れろ!」
カシムは魔法銃で予備部隊を狙撃してゆき、本命の騎士達をメルクリウスに仕留めさせる。
「賢者の石、ハルペーモード☆ その命、冥界へ送ってあげるね☆」
白金に輝く巨大な大鎌に騎士達は引き裂かれ、あっという間に沈黙してしまった。
「おいおい、俺がいなくても勝てたじゃないか!」
これには竜剣士の青年もびっくりだ。
「てへぺろ☆ いっけな〜い☆ やりすぎちゃったぞ☆」
「おねーちゃんってば、ドジっ子だなぁー」
メルクリウスとカシムの演技が急に胡散臭く感じた青年は、黙ってその場から離れてゆくのだった。
箒星・仄々(アコーディオン弾きの黒猫ケットシー・h02251)は血腥い乱戦の中でも、元気よくアコーディオンを奏でてしぶとく生き残り続ける。
「そんな大きなハンマーで殴られたらひとたまりもありません。そこで震えてくださいね」
「お、おおお!? 頭が揺さぶられて、気持ち悪ィ……!」
アコーディオンから放たれた音撃が大木槌を振り上げる筋骨たくましい男に命中すると、突然ブルブルと激しく震えて身動きを封じてしまった。
「それにしても、邪教に従うなんて。悪い騎士さん達ですね。教祖さんに洗脳でもされてしまったのでしょうか? 何にせよ、簒奪者さんなら倒すまでです。ついでにイケイケのプロトコルさんもお助けしますよ」
箒星愛用のアコルディオンシャトンで演奏するのは、巷で流行りのポップスだ。リズムに乗ってステップを踏めば、槍の連続突きやメイスに仕込まれた鎖の捕縛も、はたまた長剣の一撃も、トンテンシャンと軽快に踊りながら騎士達の攻撃を回避し続けてゆく。
「ほらほら、にゃんぱらり♪ 全く届いていませんよ?」
「この猫風情が!」
「ドラゴンのほうが優れていることを証明してやる!」
「すばしっこい奴め!」
騎士達が箒星を取り囲んで更に苛烈な連携を繰り出してみせるも、箒星はひらりひらりと軽業めいてすべて避け切り、そのまま演奏を続ければメロディが闘技場全体に響き渡る。すると、再び√能力が発動する。
「騎士さんとその得物をぶるぶると震度7で震えさせますよ〜」
この√能力はピンポイントに対象を選んで効果を発動できる。故に騎士達の鎧甲冑を震度7相当の振動で揺らし、ガチガチと継ぎ目が擦れ合う音で騒音が発生してしまう。
「うるせぇ! なんだこれは!?」
「ぶ、武器も振動してて、握ってると手が痺れてきやがる!」
「おおおおおおおれななななななんんてぇぇぇじじじぶぶぶんんがががあしししししんんんどおおおおしてぇえぇぇぇ!」
効果は地味だが、箒星はその√能力を最大限活用できる柔軟な思考力を持ち合わせている。これが彼の最大の強みだ。
「その様子では槍もメイスも剣も狙いを定められないでしょう。強い振動に武器を落として拾えないでしょうね」
あとは周りの参加者が勝手に騎士達を仕留めてくれるだろう。無力化された騎士達を箒星手ずから討つ必要なないのだから。
「そういえば、プロトコルさんはどうでしょう? もし苦戦したり背後から狙われているようでしたらお助けしなくては」
箒星は乱戦が続く会場を探し回ると、例の竜剣士の青年がピンチに陥っていた。すかさず箒星は震度3くらいの威力で軽く、一瞬だけ相手の上半身を震わせて三半規管を破壊する。
「な、んだ……? 急に目が回って……うおっ!?」
竜剣士の相手をしていた壮年剣士は、千鳥足のまま場外へ落下した。
「あれ? なんかラッキー! まぁ運も実力のうちだな! ハハハハ!」
竜剣士の青年は箒星の助力が合ったことに気付かぬまま、順調に参加者をK.O.してまわっていった。
「ふう、あからさまに長時間震わせると私の助力がばれてしまいますので。それにプロトコルさんが対戦相手を殺めないようにしなくては。なので気付かれないくらいの一瞬だけその剣を揺らして、致命傷にならないように……」
さりげないフォローで竜剣士の青年は見事に決勝へ進出することが出来た。
一方、騎士達は他の参加者達に袋叩きに遭ってしまい、その生命を潰えていた。
「蘇った時には教祖さんが元の肉体に戻ったように、貴方がたが堕ちる前のお心を取り戻すことを願っています」
動かなくなった騎士の鎧に、哀悼のレクイエムを奏でる箒星であった。
第3章 ボス戦 『喰竜教団教祖『ドラゴンストーカー』弱』

(※現在、プレイング受付を停止中・再開予定日は7月2日朝9時以降)
●
遂に決勝戦の舞台まで上り詰めた√能力者達。決勝に残った強豪の中に、喰竜教団の教祖「ドラゴンストーカー」の姿もある。ついでに標的の竜剣士の青年ドラゴンプロトコルの姿も健在だ。
「うう、やはりこの姿では力が出ません……先程も巨漢を防具ごと叩き割るくらいしか出来ませんでした……! 以前なら跡形もなく消し去れたのに……ああ! ドラゴンプロトコル様の肉体を浄化して、早く私の身体に縫合しなくては!! そして真竜様の復活を急がなくてはなりません!」
ドラゴンプロトコルへの眼差しは慈悲深いが、歪んだ情愛と目論見がクソすぎて反吐が出る。√能力者達は試合開始直後に件の竜剣士へ襲いかかるドラゴンストーカーへ攻撃を仕掛けていった。ついでにこんな闇闘技大会はぶっ壊してしまおう!
正直に言うと、カシム・ディーン(小さな竜眼・h01897)は何故かドラゴンに対して奇妙な対抗意識と嫌悪感を持ち合わせている。しかしドラゴンストーカーのドラゴンプロトコルへ寄せる偏愛と殺戮の限りには怒りを抱いていた。
「なあメルシー? 中々にふざけた野郎だな、こいつ」
「ご主人サマー☆ そんな酷い人にはメルシーの超必殺技の出番だぞ☆」
「おめーそんな技あったのかよ!?」
「やっと封印が解けたんだぞ☆ ほら乗って乗って☆」
メルクリウスは少女の姿から巨大な人型ロボット『機神』の姿へ変身する。これも彼女が賢者の石で出来た存在だから為せる御業なのだろう。
「前から思ってたが、これどうやってんだ?」
「あ、『こっち』のご主人サマはそこ気になっちゃう? でも今はそこは重要じゃないぞ☆」
体高5mの白金色の機体の足元では、恐れ慄く他の参加者達が逃げてゆく中で、ドラゴンストーカーだけは巨大な大剣を抱えて見上げていた。
「巨大魔導人形!? でも私のボンテージストームで操縦者ごとその装甲を貫いてみせます!」
ドラゴンストーカーが身にまとう唯一の服……むしろ革ベルトに備わったトゲが伸びたり引っ込んだりしている。確かに至近距離で刺突することで中にいるカシムに届かせることもできよう。だがみすみすそれをメルクリウスが許すわけがない。
「安心して☆ 今から君がどうあろうとどうにもならない格の差を思い知らせて上げる☆ それでは記念すべき1発目のハイパーリンク開始☆」
ブゥゥンと重低音がメルクリウスの機体から発せられると、コクピット内部のカシムの肉体に変化が現れる。
「何だこれ……!?」
突如、彼の肉体が霊体の様に透き通り、意識がメルクリウスの機体と融合!
「今のご主人サマの身体はメルシーだぞ☆ まさしく合一神☆ 今のご主人サマは世界も創造できるぞ☆」
「なに言ってんだ? しかし言われてみれば、今まで感じたことのない万能感が全身にみなぎるな……! これならあのクソ教祖なんてミジンコみてーに恐れることないな!」
メルクリウスの機体が一瞬で上空へ飛翔すると、一気に第三宇宙速度まで加速する。
「うおおおお! すげー速いぞ!! しかも全然酔わねー!!」
「今、ご主人サマは秒間16.7kmで飛翔してるぞ☆」
「とにかくやべぇくらいに速いってことだな! だったら超音速爆撃だ!」
カシムは魔法で大気を冷却させると、巨大な氷の魔弾を生成してドラゴンストーカーへ降り注がせる。
「爬虫類は冷気に弱いだろ、知らんけどな!」
「ぎゃあああー!? 流石にこの物量を対処はできません!!」
天災クラスの大量の雹の弾幕を叩き付けられたドラゴンストーカーは、あっという間に肉体が砕け散っていった。
ドラゴンストーカーと√能力者の戦いが勃発すると、周りの参加者は何が起きているのか理解らず戸惑い出す。
「何が起きてやがるんだ!?」
「喰竜教団だって?」
「ドラゴンプロトコルの肉体を繋ぎ合わせるって、イカレてやがる!」
いよいよドラゴンストーカーの言動の異常性に気が付く参加者。その中には本来この事件の標的になるはずだったドラゴンプロトコルの竜剣士の青年も含まれていた。
「おいおいおいおい! もう賞金どころじゃないだろ、こんなの!?」
ドラゴンストーカーのねっとりとした殺意と寵愛の眼差しに悪寒が走る。それを竜宮殿・星乃(或いは駆け出し冒険者ステラ・h06714)が立ち塞がるように視線を遮った。
「あら……あなた、エルフだったのね、ドラゴンストーカー。何が切っ掛けでこんなに道を踏み外したのかしら……?」
ビキニアーマーを纏った『冒険者ステラ』が闘気を高める。すると周囲の男性参加者達は彼女の闘気に当てられて熱狂し始めた。
「うおおおお! ドスケベ真拳! ドスケベ真拳のステラだ!」
「キター!! ドスケベ過ぎる! これは勝ったな!」
「だが相手のドスケベパワーも相当なものですね……!」
「言われてみれば、スパイク付きベルトって服ですらねぇ!? ドスケベじゃねぇか!」
「ドスケベボンテージエルフじゃねぇか!!」
「ドスケベvsドスケベの頂上決戦だと……? 興奮してきたな……!」
外野が盛り上がる中、星乃は顔から火が出そうなほど紅潮させてしまう。
「……何か、不名誉な称号が付いてるけど……こ、後悔は後回しっ。……泣くのはドラゴンストーカーを倒した後で……!」
目尻に滲んだ涙を拭うと、星乃は先制攻撃!
「私の勇気が彼方へ駆ける風となる――未来示す道標となれ! 轟嵐竜顕現! ひた疾れ、バーストストリーム・ドラゴン!」
次の瞬間、星乃の頭上で渦巻く暴風。その中から轟嵐竜が顕現すると、彼女は竜の背中に飛び移る。
「……悪いけど、迅速に片付けさせてもらうわ。――な、何か、ドスケベ真拳とボンテージエルフの戦いだって変な盛り上がり方してるし! 少しは露出を控えなさいよ、ドラゴンストーカー!!」
「私の正装に文句がおありですか!? あなただって対して変わらない軽装ではありませんか!?」
「全然違うわよ! うわぁぁぁぁーん!!」
ボンテージベルトのトゲを伸ばして迎撃態勢をとるドラゴンストーカーに対して、トゲの射程外である上空から竜の暴風ブレスで牽制する星乃。敵の姿勢が一瞬崩れたその時、彼女は竜の背から飛び降り、その背に竜の竜巻ブレスを浴びて急降下加速!
「ゲイル・スパイク! そんなトゲなんて怖くないわ!!」
彼女の先を征く飛翔剣「ディヴァインブレイド」がトゲを破壊。剥き出しになった敵の柔肌に竜巻キックが直撃!
「グワーッ!!」
錐揉み回転しながらドラゴンストーカーは闘技場のステージへ突き刺さってゆく……!
ドラゴンストーカーは命護・凌哉(大地を守護せし白黒の残滓・h01033)を見付けるやいなや、興奮と感動で舞い上がりながら駆け寄ってきた。
「ああ! ドラゴンプロトコル様! 貴方様はドラゴンプロトコル様ですよね!? 今すぐ浄化して差し上げます! さあ早く私に殺されてくださいませ! その肉片を私の肉体に縫合しますので! ご希望の部位はおありでしょうか!? 何なりとお申し付け下しあませ!」
「うわ、キッッッショいっつーの、ボケェ!!」
「おほぉ!?」
駆け寄ってきた変質者を助走付きドロップキックで迎撃する凌哉。蹴り飛ばされた敵を腐った玉ネギめいて見下す凌哉は鳥肌を抑えられずに全身が震えている。
「ドラゴンプロトコルとして言わせてもらうわ、お前気持ち悪ィんだよ!!!!!! 何が浄化だ逆に濁るわ!!! ぶっ殺した上に肉片まで刻んで自分の体に縫い合わせるとか何喰ったらそんな発想が思いつくんだよ逆ベクトルの天才かよマジでキショいつーの!」
凌哉の罵声を浴びせられたドラゴンストーカーは、それでもすがりつくように説得を試みる。
「そんなことをおっしゃらないでくださいませ! そうです! 勇敢なドラゴンプロトコル様、私と二人だけの星座を作りましょう! その肉体が失われたあとも、私が貴方様というオリオン座の接点Bと接点Pをなぞって差し上げますから!」
「勝手に俺を星座にするんじゃねーよ! というかなぞる場所がなんで胸元なんだよ接点BとPじゃねーよクソボケ! というかお前ら俺らドラゴンプロトコルの感情を勝手に決めつけやがって何様だ!!!? 腹立つな!!! テメーは死刑だ! 完膚なきまでにぶっ潰してやる!!!」
凌哉の身体から穢れた黒い竜のオーラと清浄な白い白い竜のオーラが螺旋を描いて怒髪天を衝く! 衝撃波が周囲の出場者を吹き飛ばすほどの勢いだ!
「ガチの全力をお見舞いしてやんよ! とくと目に焼き付けて死にやがれ!」
「なんて神々しい! ええ、挑ませていただきます!」
ドラゴンストーカーは大剣を構えると、一気に間合いを詰めて斬り掛かってきた。
だが、これをバールのような杖のフルスイングで武器受けすると凌哉はそのまま膂力で大剣ごと敵を殴りぬく!
「お前が!!!動かなくなるまで!!!!殴るのを!!!やめねえッ!!!!!!!」
敵の腕を折った直後に、旋回してからの逆回転斬り!
「一発ホームラン決めてやらァ!!!」
真正面から殴打した一撃が敵の顔面にクリーンヒット!
「|ドラゴンプロトコル《俺ら》にお前は必要ねえんだよ!!!! 二度とこの世に姿を為すな!!!!!」
凌哉怒りの連撃が変態を圧倒する!!
箒星・仄々(アコーディオン弾きの黒猫ケットシー・h02251)はドラゴンストーカーを追い込むべく、全力で演奏を続けている。血なまぐさい闇闘技場はさながら華麗な独奏会の会場に代わってゆく。
「ツギハギだらけの肉体を失っても妄執に囚われたままなのですね。残念です。ここで私が葬送いたしましょう」
ドラゴンプロトコルの竜剣士の青年を守り抜きつつのミッション、自慢の耳とヒゲで気配を感じながら討伐を開始する。
「おっと、竜剣士さんの元へは行かせませんよ?」
「退きなさい! あの御方を救わねばなりません!」
「まぁまぁそういきり立たずとも。一曲いかがでしょうか?」
箒星はアコルディオンシャトンで軽快なポップスを奏で始める。すると√能力によってドラゴンストーカーの肉体と彼女が携えている大剣が震度7相当の振動で激しく震え始める。
「な、なんなのです!? 頭がグラグラ揺れて……気持ち悪い……!」
演奏中はずっと陸酔い状態になっているドラゴンストーカー、これではまともに剣を振るどころか立ってすらいられない。
「おっと、イケイケの竜剣士さんが積極的に戦って、万が一のことがあっては大変です」
箒星は青年の頭部を震度7で一瞬だけシェイク。
「ほわぁ!?」
脳震盪を起こした彼はその場でしゃがみ込んでしまう。ついでに青年に近付く不届き者も脳味噌ブルブルさせて戦闘不能へ追い込んでゆく。
「やれやれ、場外以外の相手なら容赦なく殺しに来るのですね。なんて野蛮なことを」
呆れ返っている間も教祖はぶるぶると振動中。演奏を続けてリズムに乗って、軽やかなステップを踏みながら大剣を避けたり掻い潜ったりして誘導、兼を空振りさせて地面にに回叩きつけさせる。
「うぐッ! 腕が折れましたか……こんなもの、しばらくすれば復元魔法で……」
「おや骨折とは痛々しい。ですけど、これまでされてきたことに比べたらまだ生やさしいのかも知れませんね?」
気づけば、箒星の周囲に満ちる音色は響き溢れ、音撃や光の音符と変じてゆく。それは夜空に瞬く星星のようにキラキラと瞬いている。だがそのひとつひとつがブロック塀を一瞬で粉々に砕けるほどの超破壊力を宿しているのだ!!
「さあ、元気良くいきますよ! 愉快なカーニバルの開幕です!」
攻撃手段を失ったドラゴンストーカーへ、音の弾幕が面攻撃で一斉に押し寄せる。骨折した腕はもちろん、大腿骨頸部骨折、肋骨複雑骨折、頭蓋骨陥没骨折などなど、振動と音圧の組み合わせでドラゴンストーカーの骨肉はみるみるうちにひしゃげて変形してゆくのだ。
「ギャアアアー!?」
膨大な空気の振動が炸裂! ドラゴンストーカーの肉体を粉砕! 人の形を保っていないドラゴンストーカーだが、復元魔法とやらで徐々に元通りに鳴ってゆくではないか。
「むむ、しぶといですね? ですが魔力切れですか。さて、竜剣士さんは大丈夫でしょうか?」
演奏を続ける箒星は、青年の護衛に回ってゆく……。
神咲・七十(本日も迷子?の狂食姫・h00549)の空腹加減はいよいよ限界を迎えていた。目的は「ドラゴンプロトコルの捕食」。しかし今この状況では目立ちすぎる。
「ドラゴンプロトコルさんは……こっそり場外に投げて置きましょうか……気付かれない為に……ついでにこんな状況でも残ってるどうしょうもない観客達に最後の楽しみを送ってあげましょうか♫」
他の√能力者が都合良く半無力化してくれたお陰で、容易く標的を場外へ蹴落とすことに成功すると、神咲は自身も場外に下りて棄権する。そして本番の場外乱闘……メインディッシュを堪能するのだ。
「場外、ですって? ああ、こうなったらルールなど無用です! 今すぐドラゴンプロトコル様を殺害して……」
「ねぇ? その見た目になって愛らしさが増した気がする貴女には、これから私に付き合って貰いますよ♪ ……貴女の信仰する真竜を呼び出すなら、待って上げますから呼び出しては?」
神咲はすかさず√能力を行使。未知の植物が肉体を侵食するかのごとく纏わりつき、矯正するかのように馴染んでゆくことで身体能力が増大してゆく。ドラゴンストーカーは自身の目的を邪魔した神咲に怒りをぶつけ始める。
「邪魔をしないでください! 『|エルフの世界樹《ユグドラシル・メモワール》』! おいでくださいませ、真竜様方!!」
10秒の瞑想の後、ドラゴンストーカーの背後に出現したのは2体の巨大なドラゴンだ。不完全ながらも真竜の力を宿す巨竜達は、ドラゴンストーカーとともに神咲へ場外乱闘を挑む。
「偉大なる真竜様の御力にひれ伏せ!」
小さな神咲の身体が巨体に押し潰される……かと思った次の瞬間だった。
「ああ、やっぱり不完全の偽物では、この子達程度にも及ばないのですね?」
神咲の周囲からは無数の異形達が地面から芽吹くように湧き出してくる。隷属化させた怪物達を己の肉体に宿した植物を介して召喚しているのだ。それらは神咲を護るように更に融合を果たし、強固な植物の鎧を形成してゆく。
「ふふっ、こういう状況で盛り上がる内容の定番と言えば、やはり最も信じているものが目の前で打ち砕かれて絶望している所をそのまま喰らい尽くされる内容ですよね♫」
隷属化させた異形達の肉体を変形させると、ドラゴンストーカーと巨竜2体を絡め取ってジャイアントスイングを開始。
「さあ、お楽しみはここからですよ♪」
遠心力でふっとばせば、敵は場外の場外……闇闘技会場の外の暗く深い森の中へ落ちた。
神咲も異形達の力でそれに追いつくと、誰もいない森の中で敵を締め上げ、骨肉を夫妻してゆく。
「ふにゃ……以前相手にした時より確かに弱体化しているようですね。信仰心だけで頑張って立っている姿……可愛らしいですよ♪」
「は、なせ……!」
「嫌です♪ さて、じゃぁ貴女の事……喰らいますね♫」
神咲に纏わりつく植物がドラゴンストーカーの肉体を飲み込んでゆく。
「ごちそうさまでした♪」