シナリオ

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左足の美

#√妖怪百鬼夜行 #受付中 #~6/18(水)18:00まで

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 #√妖怪百鬼夜行
 #受付中
 #~6/18(水)18:00まで

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●硝子の靴
 一生に一度の大切な日。
「僕と結婚をして下さい。」
 不器用な彼が、プロポーズに選んだそれは指輪ではなく硝子の靴。童話が好きな彼女の夢を叶えようと、何度も何度も絵本を読み返した。
 目にたっぷりと涙を浮かべながら、彼女は硝子の靴へとそっと足を差し込んだ。

 六月の花嫁は幸せになれるのだと。折角だから彼からもらった硝子の靴を履いて式を挙げたい。そんな可愛らしい夢を語っていた彼女のために、彼は当日のプランをしっかりと練っていた。
 おめでとうの言葉を告げる人々、幸せそうな新郎新婦。誰もが大切なその日を祝うはずだった。
「……あれ?」
 白いスーツの新郎が声を上げる。
「どういうこと?」
 白いドレスの新婦が口を押さえた。
 二人が見つめていたそこには、何もなかった。本来ならば招待客がいるはずの席は空っぽで、それどころか彼女が履くはずだった硝子の靴も消えている。
 新郎新婦を残して、他は綺麗さっぱりと姿を消してしまった。

●彼女曰く
「硝子の靴だって。夢があるよね。」
 アンジュ・ペティーユは小さな硝子の靴を掌に乗せて、あなたたちを見る。
 ここは√妖怪百鬼夜行のとある靴屋の前。硝子の靴を専門に扱うその靴屋は、一見して硝子の靴を作っているとは思えない外観。趣のある木の建物に、白と青に塗られた看板とレトロな文字が印象深い。一年を通して忙しいのだろう、硝子の窓から中の様子を伺えば、職人や店員が忙しなく動いている。
「ちょっと困った事があるみたいで、結婚式の会場で新郎新婦を残して他が消えてしまう。って事が起きているみたい。」
 アンジュ曰く、不思議な事が起こっているのは、この靴屋で硝子の靴を購入し、プロポーズをした者の周りのみとのことだ。
「一年を通して、それなりの注文を受けているみたいだから、近い内に式を挙げる人と難なく接触はできると思うよ。」
 接触が出来たら、あとは周辺を調べれば良いだけのこと。不審な動きが見られたら、そこを突いて追いかければ、自然と元凶に辿り着くはずだとアンジュは言う。

「堅っ苦しいことを言ったけど、この靴屋さんは硝子の靴以外にもオーダーメイドで自分の靴を作ってくれるみたいだから、キミたちにはそれも楽しんでほしいな!」
 アンジュは硝子の靴をポケットにしまいこみ、店の説明を続ける。
 一番人気はメインの硝子の靴。プロポーズはもちろんのこと、誕生日用に好きな生花を添える注文が多いと言う。
 その人をイメージしたデザインを心がけており、同じデザインの硝子の靴は無いという所が、更に人気に火をつけているようだ。オプションでリボンや誕生石など、ちょっとした小物を付けられる所も人気が高い。履く事のできる靴だが、もちろん履かずとも良い。
 二番人気はアンジュが手にしていた硝子の靴の置物。実際に履ける靴も良いが、インテリアとしても長く楽しむことの出来るそれも、その人をイメージしたデザインとなっている。実際に履く靴よりもリーズナブルな値段となっており、プロポーズ以外の注文も多いようだ。こちらも通常の硝子の靴と同じオプションを付けることができる。
 それから硝子の靴以外にも靴のオーダーを受けているようで、あなただけの一足を作って貰えるのも魅力の一つだろう。
 硝子の靴を専門にしてはいるものの、店内にももちろん普通の靴は並んでいる。店の奥にひっそりとではあるが、スペースが設けられており、天気に合わせたお気に入りの一足も見つかるかもしれない。

「オシャレは足元からって言うからね、自分に合った一足が見つかったら嬉しいよね。」
 アンジュは靴屋への扉に手をかけた。
「それじゃ、いってらっしゃい!楽しんできてね!」
これまでのお話

第2章 冒険 『不思議なお屋敷』


「ありがとうございました。」
 退店を告げる声に見送られ、あなたたちは式場周辺の調査を行う。店員に聞いた場所へと足を向ければ、既に式が始まっていたようで、新郎新婦を祝う賑やかな声が聞こえて来た。
 そんな光景を横目に、更なる調査を行おうとした矢先である。狭い小道の隅、ちょっとした段差に、一足の硝子の靴が落ちているのを見つける。
 左足。確か、童話の中の姫も左足の一足を落していたはずだ。物語があなたたちの脳裏を過った時、不意に周囲の景色が変わる。目の前には見慣れぬ洋館が現れ、周囲には先程の式場にいた者たちが不思議そうな顔で立ち竦んでいた。
 ここは一体どこだろう。迷い込んでしまったあなたたちは、ここから抜け出すための手掛かりを掴まなければならない。

 洋館の玄関の前には、硝子の靴が脱ぎ捨てられていた。