紅き涙は血の雨を呼ぶ
●全てに裏切られた者
「クックック……我が内なる暗黒竜が、今宵も星辰の歪みを感じ取ったか。このままでは、遠からず血の雨が降ることになるだろうなぁ」
その格好に違わず物騒な予言をする神代・騰也(|常闇の暗黒竜《ダークネス・ノワール・ドラゴン》の|契約者《パクトゥム》・h01235)だったが、彼は断じて楽しんでいるわけではない。ただ、普段から悪人のような恰好をしているので、誤解されやすいだけである。
「汝らの中にも、既に聞いている者もいるだろう。ジェミニの審判にて選ばれし新たな|王権執行者《レガリアグレイド》……『紅涙』と名乗りし堕ちた神が、√の壁を越えて行動を開始したという話をな」
その目的は、√を問わず何かしらの『裏切りを受けて苦しむ少女』の前に現れ、その少女を裏切った者を殺すというもの。要するに復讐代行なのだが、それだけで話は終わらない。
「紅涙自身も既に遠い過去の悲劇によって、精神を破壊されている。歪み切ったその感情は、もはや常人には理解できぬものよ。最終的には己が同情を寄せていた少女は勿論、あらゆる者に対して理不尽な理由で怒りをブチ撒け、そして殺害することが予知されている」
なんだかんだで、放っておけば最終的に待っているのは無差別殺戮。それを避けるためにも、まずは『裏切りを受けて苦しむ少女』の心を救ってやることが重要なのだが、これが一筋縄には行かないという。
「紅涙に目をつけられたのは、|叶野・柚葉《かのう・ゆずは》という高校生だな。内気で奥手な性格が災いして一部の者から虐めを受けていたようだが、同時に親友と呼べる者の存在や、交際している男子にも支えられていたらしいが……」
ここから先は、実に胸糞の悪くなる話であると騰也は凄むような口調で続けた。
柚葉の親友であった少女、|小野寺・未来《おのでら・みらい》。彼女こそが、柚葉の虐めを裏から扇動している張本人だった。そして、柚葉と交際しているはずの少年、|工藤・真人《くどう・まさと》。彼にとって柚葉は単なる遊びでしかなく、あろうことか彼の本当の交際相手は他でもない未来だったというのだ。
「闇の住人である我から見ても、こ奴らは紛うことなき外道の類よ。その所業を、偶然にも学校裏サイトに辿り着いたことで知ってしまった柚葉は、もはや誰も信じられなくなっているようだなぁ……」
絶望した柚葉に紅涙が接触を試みるのは、学校の昼休みの時間だという。それまでに柚葉と接触して彼女の心の傷を癒してやることができれば、あるいは運命を変えることができるかもしれないのだが。
「正直、これは物凄く難しい賭けになるぞ。気休め程度の慰めでは、却って事態を悪化させ兼ねん」
残念ながら、柚葉にどのような言葉をかければ良いのかは、騰也も分からないようだった。それでも、まだ諦めてはいけない。柚葉の心を救うことに失敗しても、チャンスはまだ残されているのだから。
「柚葉の心を癒せなければ、紅涙に従う下級の妖怪どもが校内に放たれ、未来や真人、そして柚葉を虐めていた者どもへ襲い掛かろうとするだろう。それを逃さず叩けば、紅涙本人が姿を現すはずだ」
紅涙さえ倒せば、この事件も一応の解決となる。勿論、虐めなどの問題は棚上げになってしまうので、全てを滞りなく解決するためには、柚葉の心を救うことは必須である。
行動と選択次第で、運命は大きく分岐するはず。今回の依頼、様々な事態に対処できるよう、常に準備しておいた方が良さそうだ。
第1章 日常 『学食天国』

●深淵からの誘惑
昼食時になると、学園の食堂は様々な学生で賑わう場所となる。中高だけでなく、初等部まで儲けた私立の一貫校。そこが叶野・柚葉の通う高校だった。食堂で学食を食べているのは主に中等部と高等部の者が多いが、中には初等部の生徒の姿もちらほらと確認できる。
一見して、それは青春溢れる文武両道のエリート進学校の光景だった。だが、柚葉には青春を共に過ごすための仲間などいない。親友だと思っていた人間も、恋人だと思っていた人間も、影では柚葉のことを嘲笑っていたのだ。
『柚葉ってば、本当にマジでウケるよね♪ 私のこと親友だと信じて何でも話すから、虐めのネタにも事欠かないし♪』
『ってか、そろそろ本気で自殺でもしてくれねーかな。あいつ、遊びで付き合っても全然ヤラせてくれねーし、マジで鬱陶しいだけで飽きてきたわ』
ネットサーフィンをしていたら、偶然にも辿り着いてしまった学校裏サイト。そこで繰り広げられていた会話を目にした際、柚葉の心は絶望に塗りつぶされてしまった。
(「酷い……酷いよ……。未来ちゃんも、真人君も、裏では私のことを玩具にして遊んでいたんだ……」)
親友や恋人だと思っていた者達は、あくまで柚葉を嘲笑うために、最初から仲の良い人間を装って近づいてきただけだった。学園内でも劣等性の問題児でありながら、しかしスクールカースト的には上位に位置するギャル達から今も虐められている柚葉にとっては、最後の心の砦だったというのに。
(「……おお、なんと哀れな|女子《おなご》よ。その恨み、妾が晴らしてくれようぞ」)
そんな柚葉の頭の中に、突如として響く謎の声。思わず辺りを見回して見るが、当然のことながら彼女に話しかけている者など誰もいない。
(「妾に任せておけば、汝の憎い相手を全てこの世から消してやろう。汝の手が汚れることもなければ、汝を疑う者もおらぬ。斯様な者どもは、全て地獄に堕ちるべきなのだ」)
再び、頭の中で声がした。何が起きているのか分からず困惑する柚葉だったが、しかし消耗しきった彼女の精神は、その言葉に抗うことも限界だった。
「そう……そうね……。それでも……いいかもしれない……」
声のことを誰かに告げたところで、どうせ頭がおかしくなったと思われるだけ。ならば、声の主が悪魔であったとしても、それに従ってみるのも悪くはない。
自分には、もう何も残されていないのだから。それに、悪魔の囁きを信じるならば、自分を裏切った者や虐める者がどれだけ死んでも、自分は何の罪も被ることがないのだから。
柚葉の心は、既に紅涙の言葉に傾きかけている。今、ここで彼女の心を救わなければ、遠からず学園は血の惨劇に見舞われることになるだろう。
●優しき復讐者
親友や恋人だと思っていた人間の本性は、偽りの仮面を被って他者を貶め嘲笑うだけの外道だった。そんな者達に弄ばれた柚葉のことを、ルビナ・ローゼス(黒薔薇の吸血姫・h06457)は放っておくことはできなかった。
(「.…..愛する者と友に裏切られた、ですか。あまりに自分と重なり過ぎて、我が事のようにつらいですわ」)
ルビナもまた、自分の信じていた者達に裏切られた者の一人だ。世界が違えど、同じような仕打ちを受けた者を放ってはおけない。だからこそ、彼女は何の躊躇いもなく食堂に入り、柚葉の隣の席に腰掛けた。
「ごめんあそばせ。お隣、よろしくて?」
一見して小学生にしか見えないにも関わらず、ある意味では気品のあり過ぎる振る舞い。一般的な学校であれば不自然極まりないのだが、しかし私立のエリート進学校ということで、そのような金持ちの令嬢も通っている可能性があることが幸いした。
「え……? べ、別に構いませんけど……初等部の子が学食に来ているなんて、珍しいわね」
ルビナの纏う空気に飲まれ、柚葉の思考が一瞬だけ停止した。そのせいで、紅涙からの声が聞こえなくなったことは好都合。ここぞとばかりに、ルビナはさも自分が全てを知っているかの如く、柚葉に対して同情の念を抱いていることを告げた。
「あなたの境遇、小耳に挟んだものでして……深く、同情致しますわ」
「境遇? ああ……なんだ、小学生にまで噂になっているのね。はぁ……もう、本当に最悪……」
自分が虐められていること、影で笑い者にされていることが広まっているのだと思い、柚葉は大きく溜息を吐いた。そんな柚葉に、ルビナは改めて声をかける。自分は柚葉を笑いに来たのではなく、力になりに来たのだと。
「かつて、わたしも婚約者に裏切られ……悪意ある言葉を真に受けた友に掌を返されました。…...わたしの場合は、無理やり犯されて純潔を奪われましたわ」
ルビナにとっては、単に自分の過去を語っただけのこと。だが、それを聞いた柚葉は思わず口元に手を当てて俯いた。
「それは……酷いわね……。こんな小さな子に乱暴するなんて……そんなこと……」
平和な日本で暮らしていた柚葉からしてみれば、10歳程度にしか見えない少女が性的な暴行を加えられたという事実でさえ、信じられないものだったに違いない。無論、それでルビナを疑っているというわけではなく、むしろショックの方が大きかったようだ。
「……もし、あなたが復讐するというならば、わたしを傭兵として雇いなさい。信用できないならば、契約書も作って差し上げますわ」
辛く苦しい目に遭った自分だからこそ、柚葉の復讐心は否定しない。だが、その復讐は周囲を巻き込む惨劇ではなく、より現実的な形で行うべきだとルビナは告げる。
もっとも、その言葉を聞いた柚葉は静かに苦笑すると、ルビナの頭に優しく手を置いて首を横に振った。
「ありがとう……私を慰めてくれているのね。でも……もう、いいの。そんな無理を言ってもらわなくても……それだと、私が虚しくなるだけだから……」
ルビナのことを小学生としか思っていない柚葉は、ルビナの提案も単なる子どもの気休めにしか思えなかったのだろう。√EDENの日本において、いきなり傭兵だの契約だのといった話は現実味がないものだ。そのため、柚葉はルビナの話も小さな子どもが『私が魔法少女になって、悪い人にお仕置きしてあげる!』といった類の話にしか思えなかったのかもしれない。
しかし、ルビナからしてみれば、これは本気である。ここで柚葉の心が紅涙の言葉へと向いてしまったら、全ては最悪の方へ転がってしまう。
「あら、わたしは本気ですわよ? わたしの家の力を以てすれば、奴らの行いを世間にばらしたり、この学校に通えなくする工作をしたりするのは、造作もないことですわ」
なぜなら、自分はそれだけの力を持つ家の令嬢なのだから。それはハッタリも多分に含まれるものだったが、話の流れに現実味を持たせるのには必要なことだった。
この学校に通う者の中には、それこそ政界や財界のトップに君臨する者達の子息もいる。要するに、上級国民というやつだ。そんな彼らが本気で金や権力を行使すれば、虐めっ子を退学に追い込むくらいは簡単だと。
「お望みとあれば、死ぬよりもつらい目に合わせましょう。わたしは、そういうことができる家の者でしてよ?」
「……そ、そうなの!? ……えぇと……ちょっと、考えさせてもらっていいかしら……?」
まさかの上級国民の登場に、柚葉の心も少しばかり揺らいだようだ。このまま上手い具合に説得を続けて行けば、彼女の中にある恨み辛みの感情も、より良い方向に昇華させてやれるかもしれなかった。
●逃避と否定
心の内に抱いた復讐心を、言葉だけで消失させる。果たして、そんなことが本当にできるのか。『説得』という行為に対し、赤銅・雪瀾(『|隠者《ハーミット》』の『|魔法少女《タロット・シスターズ》』・h02613)は他の者達と比べても懐疑的だった。
(「説得……って魔法よね。言葉なんて、目に見えないもので心を動かすなんて」)
それで争いがなくなり、憎しみが消えるのであれば、世界からとっくに戦争などという行為は消えているだろう。しかし、現実を見れば、世界は正にその反対だ。どの√でも大なり小なり戦いはあり、悪の能力者達は√を超えてインビジブルの簒奪に現れる。
(「ま、全力を尽くすとしようか。見たくなくても、向き合わないと」)
それでも、現実を直視することが唯一の解決策であると信じる雪瀾には、全てを放り出して諦めるという選択はなかった。その結果、更に過酷な運命が待っているとしても、それはそれ。いつまでも、淡い夢や希望を抱いて、理不尽から目を反らしているだけでは何も解決しないのだから。
「君が叶野? 裏切られた、だっけ。そ、ご愁傷様」
食堂で俯いたままの柚葉に、雪瀾はぶっきらぼうに声をかけた。いきなり声をかけられ、しかもプライベートな部分に踏み込まれたことで、柚葉は警戒心を露にして距離を取った。
「……っ! な、なんですか、急に! あなたも、私を馬鹿にしに来たんですか!?」
「……うん。あ。私? あー。カウンセラー、とか?」
とりあえず、適当に話を合わせることで、雪瀾はなんとか誤魔化した。だが、これはあまり良くない流れだ。これから話をする相手に、こうも警戒心を抱かれては、とてもではないが本音で語ってはくれないだろう。
「え〜と……とりあえず、ここ辞めちゃえば? 転校とか。あ。ごめん。ここに拘る理由、わからなくって」
「拘る理由……ですか? そんなの、決まってます」
虐められているのであれば、逃げればいい。そんな雪瀾の提案に、柚葉はしっかりとした声で返す。どうやら、惰性で学校に通っているわけではなさそうだ。
「この学校に入るのだって大変だったし……それに、お金を出してくれるお父さんや、お母さんの期待も裏切れません……」
虐められたから逃げる。それが簡単にできるのであれば、とっくの昔にそうしている。だが、それをしてしまったが最後、この学校に入るために積み上げてきた自分の努力、今まで苦労して学費を支払ってくれた両親への感謝、そういったものさえも全て捨てることになる。
それは、自分を裏切った者達と、なんの違いがあるのだろうと柚葉は続けた。悪意の有無こそ違えど、自分が裏切られたからといって、自分で自分を裏切ることや、自分の親を裏切ることが正当化されるはずもないというのが柚葉の答えだ。
「……と、いうかさ。復讐なんてしたくない。じゃない? 小野寺とか工藤が虐めの首謀者だったとしても、大切な人だったから、憎悪に変えられないでしょ。割り切れない。違う? 殴りたいくらいはあるかもだけどさ」
話が更に拗れそうだったので、雪瀾は話題を切り替え、そもそもの復讐心について是非を尋ねた。学校から逃げるのが裏切りであるなら、かつて自分と親友だった者や恋人だった者に憎悪の念を向けるのもまた、過去の思い出まで否定することになりはしないのかと。
「吐き出して、泣いて叫んで思いの丈ぶつけなよ。私は聞く。君の心の叫びを。発散してから、落ち着いて考えてみな。ね」
嫌なことがあっても、泣いて叫べばすっきりすることもある。その後のことは、それから考えれば良い。確かに、突発的に不幸に見舞われた者に対しては、それは有効な言葉だったかもしれない。
「吐き出す……ですか? でも、そんなことしても……現実は何も変わらないですよ?」
しかし、柚葉は泣いて叫ぶことはせず、あくまで淡々とした口調で雪瀾に返した。
ここで泣いたところで、気持ちは一時的にすっきりするかもしれないが、問題の根本は何も解決していない。だが、少なくとも安易に復讐したところで、この気持ちが晴れないことだけは理解した。そう言って、柚葉は静かに席を立つ。
「心配は要りません。もう、変な復讐とか考えてないですから」
そもそも、安易に復讐などしたところで、ますますこちらが悪者にされるだけだ。それに気づけただけでも嬉しかったと告げ、柚葉は静かに去って行く。
「一応、現実を見るようにはなったのかな? これで、少しは前向きになってくれるといいんだけど。ね……」
だが、そんな柚葉の背中に未だ影が射していることを、雪瀾は見逃さなかった。
果たして、柚葉は復讐の代わりに何を決意したのだろうか。復讐を諦めさせるという点では雪瀾の行動は成功だったが、柚葉が何を考えているのかまでは、最後まで全ては掴めなかった。
●本当に願っていること
虐めの首謀者が恋人と親友。そんな事実を知ってしまったら、平静でいられる人間はどれだけいるだろうか。
(「さぞ辛いだろうな。人の悪意は本当に厄介だ……」)
物陰から様子を伺っていた不動・影丸(蒼黒の忍び・h02528)は、頃合いを見計らって二匹の猫を柚葉の足元に放った。
「え……猫? なんでこんなところに?」
食堂に猫が現れたことで、柚葉は面食らったようだ。猫たちは、まるで撫でて欲しいと言わんばかりに、柚葉につぶらな瞳を向けて来る。
平時であれば、そのまま頭を撫でてやったかもしれない。しかし、ここは食堂で、おまけに柚葉は悩んでいる最中。猫の可愛さに気を惹かれこそすれど、とてもではないが楽しく一緒に遊ぼうという気にはなれない状況である。
「どこかから、迷い込んで来たのかな? 騒ぎになる前に、外に連れて行かないと……」
それでも生来の優しさ故か、柚葉は猫を放ってはおかず、優しく抱きかかえて外へ連れ出そうとした。奇しくも影丸の考えていた通りにはなったのだが、それで柚葉の心が癒されたかと問われれば、必ずしもそうとはいえない。
猫がいるには、些か場違いな食堂という場所。そして、心に余裕がない程に追い詰められている柚葉の状況。そこから考えた場合、彼女が猫と戯れる選択などしないのは明らかである。
そもそも、食堂に猫などいては問題になるのに、虐めを受けているような柚葉が猫と戯れていたら、それこそ誰に何を言われるか分からない。最悪、校則違反で訴えられてもおかしくないわけで、そんなことになれば、彼女はますます孤立してしまうだろう。
どちらにしろ、このまま柚葉を見失っては意味がない。頃合いだとばかりに、影丸は物陰から姿を現した。一応、この学校の制服を着ているので、怪しまれることはないのだが。
「俺の猫達はきみが気に入ったみたいだな。相手をありがとう」
「あなたの猫? ここは学校よ。猫なんて持ち込んで、どういうつもりなの?」
開口一番、柚葉は影丸に怪訝そうな視線を向けた。学校内に猫を持ち込む。それが校則違反であることは明らかであり、今の影丸は柚葉からしても、随分と非常識に映ってしまっていたのかもしれない。
「柚葉くんのことは知っている。私見だから間違っているかも知れないけど、醜い奴らと同類に堕ちる必要はない。そんな奴ら無視してやったら?」
虐めを行うような相手は程度が低い人間だ。ならば、無視して関わらなければ良いと告げる影丸だったが、柚葉の口から出て来たのは大きな溜息。
「無視……無視ね……。皆、そう言うわよ。何も知らない人は、特にね」
虐められたことのない人間は、虐められる者の気持ちなど分からない。そう言わんばかりに、柚葉は影丸から目を逸らした。
虐めを受けている者に対し、相手を無視すれば飽きて虐めなくなるという者もいる。だが、それこそ理想論に過ぎない。無視をしたらしたで生意気だと因縁をつけられ、より酷い形で虐められるようになる。言葉の暴力が力での暴力に変わったり、私物を盗まれたり破壊されたりするようになる。
虐める側からすれば、虐める理由など何でも良いのだ。だから、相手が無視したらしたで、無視できないようにより酷い虐めの方法を考えれば良いだけの話。中途半端に反抗しようと、中途半端に逃げ出そうと、どちらにしろ虐めはなくならない。
「自分の人生を生きる……そんなこと言っても、あいつらがいる限り、私の人生はメチャクチャにされるわ……」
虐めが解決しない限り、何をやっても無駄なのだ。そんな諦めが、今の柚葉を支配していた。ならば、学校ではなく課外活動に居場所を探してみれば良いのではと提案する影丸だったが、それでも柚葉は首を縦には振らなかった。
「例えば、学校外の活動とかもあるよ。捨て猫や犬のレスキューのボランティアとか、柚葉くんを必要している命が沢山いるかも……」
「それって、私に学校を止めろって言いたいの? 確かに、ボランティアは魅力的かもしれないけど……それで、私の問題が解決するわけじゃないと思うし……」
今の柚葉は、確かに復讐など望んでいなかったのかもしれない。だが、それならば、彼女が本当に望んでいたことは何か。彼女が真に助けて欲しいと考えていたことは、果たしてどのようなことだったのか。
虐められた者が発するSOS。それが意味するところに踏み込めなかったことで、柚葉に復讐を諦めさせこそすれど、彼女自身を覆う影は、取り払うことができなかったようだ。
●魅了の形は千差万別
虐めを受けている者を、果たしてどのように救えば良いのだろうか。あれこれと考えるアーシャ・ヴァリアント(ドラゴンプロトコルの|竜人格闘者《ドラゴニックアーツ》・h02334)だったが、どうにも良い案が浮かんでこない。
「うーん、ネチネチ虐めるとか何が楽しいのかわかんないわね。アタシだったら、気に入らないなら即ぶっ飛ばすけど……」
ある意味では、それも解決策のひとつではある。だが、それはこちらの力が圧倒的に上であればの話。相手の方が数だけは多いのだから、力で抗ったところで多勢に無勢。一人や二人を痛い目に遭わせたところで、その翌日にはより多くの者達から集団リンチを受けるのがオチである。
「……まぁ、普通のお嬢様には難しいのかしらね。|義妹《サーシャ》も|大人しい方だし《裏の顔を知らない義姉ちゃん》」
√が違えば常識も違う。ならば、自分にできることができない人間がいても不思議ではないと、アーシャは自分の中で割り切ったようだ。もっとも、彼女自身、義妹の本当の顔は知らないので、一部には誤解が含まれているのだが、それはそれ。
「それで、心を癒すねぇ……ぶっ壊すのなら得意なのだけど。……うーん、どうしたもんかしら?」
とにかく、今は復讐心を捨てさせることが第一であると考え、アーシャはそれだけに絞って動くことにした。見れば、既に柚葉は食堂を出て教室に向かい歩いている。ならば、これは好機であると判断し、アーシャは柚葉に声をかけた。
「ねぇ、ちょっといいかしら? あなたに、大事な話があるんだけど……」
とりあえず、ここでは話すことができないので、校舎裏に来て欲しい。そう言って強引に柚葉の手を引き連れ出したものの、果たしてここからどうするのだろうか。
「えっと……話ってなに? それと、あなたは誰なの?」
いきなり強引に連れ出されたことで、柚葉はかなり戸惑っているようだった。それでもアーシャはお構いなしに、自らの√能力を使って柚葉のことを魅了した。これで意識が自分に向いて、復讐を忘れてくれれば好都合。√能力の効果で、対象となった者は特にアーシャの性的な魅力に抗えなくなるので、これで新しい恋でもしてくれればと思ったのだが。
「……あなた、よく見ると素敵な人ね。私も、あなたみたいに素敵な人だったら虐められたりしないし……真人君も、私のことを本気で好きになってくれたのかな?」
どうやら、柚葉はアーシャに対して憧れに近い感情を抱いているようだった。確かにアーシャの√能力は相手を魅了するものだが、それで相手がどのような形でアーシャに魅了されるのかまでは選べない。柚葉は同性愛者ではないので、当然、アーシャには恋愛ではなく別の形で魅力を感じてしまったのである。
「さあ、それはどうかしらね? 外見だけ変えても、女を遊んで捨てるような男が、本気で誰かに惚れるとは思えないけど……」
なんだか話が妙な方向に進んでしまったと感じながら、アーシャは柚葉の話に言葉を合わせることで精一杯。しかし、それでもアーシャの心の中からは復讐心が殆ど消滅していたので、そう言う意味では紅涙の計画を邪魔することはできていたのかもしれなかった。
●本当の望み
復讐は望まない。だが、今のまま現状を維持することも耐えられない。
果たして、自分はどうすればよいのか。悩んだ上に未だ結論が出ない柚葉は、出口のないトンネルを彷徨っているかのようだった。
「ねぇ、ちょっといいかな?」
そんな柚葉に、星宮・レオナ(復讐の隼・h01547)は静かに声をかけた。今、彼女を悪目立ちさせるのは良くないことだ。そのため、なるべく目立つことのないように、辺りに人が少ないことを見計らって。
「柚葉ちゃんだよね? 君の置かれていること、黙って見てはいられなかったんだ。できれば協力させてくれないかな?」
もしかすると、何か力になれるかもしれない。そう言って声をかけたレオナに対し、柚葉はまだ少しばかり懐疑的だ。
「力? うん、ありがとう。でも……私にも、どうすればいいのか良く分かっていないから……」
虐められたからといって、何らかの形でやり返すことが、決して正しいとは思わない。しかし、その代わりに何か良い方法があるのかと問われれば、それも否。柚葉自身、もうどうして良いのか分からないのだ。それだけ彼女は追い詰められており、だからこそ助けを必要としていた。
「柚葉ちゃんが復讐を望むなら協力するけど……できれば、相手が死ぬようなことは避けたいよね。どうせやるなら、破滅して生き続ける人生の方が殺して終わるより良いと思うんだよね」
自分は復讐を否定はしないし、悶々とした気持ちのまま過ごすくらいなら、しっかりやり返した方が良いというのがレオナの考えだった。もっとも、さすがに無関係の人間まで巻き込むやり方は論外だ。直接でないにしろ、自分が誰かを殺すのに関与したとなれば、その事実は永遠に心を蝕む可能性もある。
だからこそ、レオナは殺人以外での方法での復讐を進めた。必要ならば、虐めの証拠も集まっているので、それで何かができないかと……そう思って提案してみたのだが。
「悪いけど……もう、私に復讐をする気はないの。そんなことしても……あの人達は、反省なんてしないだろうし……」
復讐で一時の喜びを得たところで、それで虐めがなくなる保証がないのであれば、復讐そのものが無意味である。もはや柚葉の望みは復讐ではなく、どうすれば虐められないかという点だけに絞られていた。
(「確かにね……。復讐しても、しなくても……虐めそのものが無くならない限り、前向きに考えることなんかできないものね」)
虐めというものは、想像していた以上に根が深い問題だ。そのことを痛感させられ、レオナはそれ以上は、何も言うことができなかった。
新しく友達や恋人を作ろうにも、目の前の問題が解決しない限りは難しい。柚葉の心の中から復讐心が消えていたことで、紅涙の企みは阻止できたようだが……最後まで、柚葉の中で納得の行く結論は、出すことができないままだった。
第2章 ボス戦 『紅涙』

●悩みの果てに
能力者達との交流を経て、柚葉は復讐という考えを捨て去った。
暴力的な復讐は勿論、誰かの力を借りて復讐したところで、虐めの実行犯であるギャル達は元より、未来も真人も反省などしまい。ただ、偶然に酷い目に遭ったと考えるか、あるいは自分達を悲劇の主人公と思うだけだろう。
こちらの名前を出すにしても、それでは自分が復讐したことがバレてしまう。そうなると、翌日からはより酷い形で虐められるだろうし、非合法な手段を用いての復讐依頼は万が一にも周囲にバレた場合、自分の家族にまで迷惑をかけることになり兼ねない。
そんなことをしても、結局は何も変わらないのだ。そう、柚葉が考えた時点で、紅涙の計画は既に破綻していた。そういう意味では能力者達の行動も、確かに間違いではなかったのだが……。
「はぁ……。もう、なんだか疲れちゃったな」
屋上の上で、柚葉は静かにグラウンドを見下ろしていた。復讐したところで虐めがなくなる保証はなく、さりとて逃げ出したところで悔しさが残るだけ。もう、自分だけではどうすることもできない。そう考えた柚葉が辿り着いた結論は……自らの手で、全てを終わらせてしまうことだった。
「もう、いいよね……。もう、私には何もないんだもの……」
親友や恋人と思っていた人間からも裏切られ、虐めを止めさせる方法も分からない。完全に行き詰まってしまった柚葉は、既に自分の命さえ大事なものとは思えなくなっていた。
能力者達が彼女に提案したのは、間接的に復讐することか、あるいは現状から逃避することばかり。誰一人として、柚葉と一緒に真っ向から虐めに立ち向かい、正攻法で虐めと戦う形で協力することを申し出た者はいない。
嘘偽りのない本当の友達として彼女を応援し、虐めを解決するために周囲の大人を味方につける。相手を破滅させて留飲を下げるのではなく、現実的に問題と向き合う。そういう形で彼女を支えることができていれば、あるいは違う結果に行き着いていたのかもしれないが。
夕暮れ時の屋上で、柚葉は意を決して靴を脱いだ。だが、そんな彼女を呼び止めるかの如く、細く伸びた影の中から恐ろしい声が聞こえて来た。
「妾が力を貸してやろうと申し出たというのに……自ら絶望し、自死を選ぶとはなんと愚かな! これは妾に対する裏切りであるぞ! ならば……その罪、万死を以て贖い、そして彷徨える魂として妾の糧になるがよい!」
影がゆっくりと起き上がり、その姿が徐々に人間の女性に近いものとなって行く。口に短刀を咥え、髪を振り乱した狂気の女性。√を越えてやってきた『紅涙』が、ついに姿を現したのだ。
「所詮、人は誰しも他者を裏切る者よ。汝も、そして汝を虐げて来た者達も……」
だから、そんなに死にたいのであれば、ここで一思いに殺してやろうと告げる紅涙。放っておけば、柚葉はそれを受け入れて、自ら紅涙に殺されることを選ぶかもしれない。
虐殺を止められた以上、ここが柚葉を救う最後のチャンスだ。紅涙さえ倒してしまえば、当面の憂いはなにもない。柚葉に改めて生きる希望を抱かせるためにも、ここで負けること、柚葉の命を失わせることは、絶対に許されないことだった。
●集いし者達
放課後を迎えた学校の階段を、ルビナ・ローゼス(黒薔薇の吸血姫・h06457)は息を切らしながら全力で駆け上がっていた。行先は、当然のことながら柚葉のいる屋上だ。
(「なぜ、わたしはもっとも基本的な事に思い至らなかったの? 彼女と似た経験をしていたというのに!! 彼女と共に立ち向かう、独りではないと言えば良かったのに!」)
柚葉の心から復讐心を消す代償として、彼女を自死に向かわせてしまった。そのことが、ルビナには悔やまれて仕方がなかった。
一度力を持ってしまうと、人はそれに慣れてしまう。自分にできることが、他人にも容易にできるものだと錯覚し、誰でも自分と同じ様に一人で理不尽に立ち向かえると思ってしまう。
だが、それは誤りなのだ。本来、人は決して一人では生きて行けないもの。柚葉が今まで虐められながらも決して自殺を選ばなかったのは、そこに親友と恋人の存在があったから。
ところが、柚葉はそんな親友と恋人に、同時に裏切られてしまったのだ。そうなると、彼女の心を支えるものは何も無い。希望の糸が断たれた状態で、真の意味で自分に寄り添ってくれる者がいないとなれば、この結論も当然である。
(「お願い! 間に合って!!」)
必至の思いで屋上に続く扉を開け放てば、そこには柚葉と対峙する紅涙の姿があった。柚葉は既に自分の運命を受け入れているのか、奇妙な光景に戸惑いつつも、逃げる素振りは見せなかった。
「……っ! させない!!」
紅涙の力によって屋上のフェンスが歪み、それは鋭利な凶器となって柚葉の喉元へ放たれる。その攻撃を、ルビナは身を挺して受け止め……そして、右の掌を掲げることで、次なる攻撃を相殺した。
「え? あなたは……」
見覚えのある少女に庇われたことで、柚葉はますます混乱しているようだった。もっとも、この状況で彼女に全てを説明している暇はない。紅涙も執拗に攻撃を繰り出してくるため、その全てをルビナだけで防ぐことは殆ど不可能に近かったが。
「そなたは、我の邪魔をする者か? ならば……等しく骸となりて、その魂を我が糧として捧げよ……」
その場にあるものを、四方八方から凶器に変えて投げつけてくる紅涙。防戦一方のルビナでは、彼女を打ち倒すのは困難に思われたが……幸いなことに、この場所に駆けつけたのはルビナだけではなかった。
「大急ぎできたけど、確かに緊急事態ね」
多数のミサイルが降り注ぎ、凶器と衝突して相殺した。見れば、そこには小型無人兵器を携えた和泉・玲香(家族の護り手・h07590)が立っており、それ以外の能力者達も続々と屋上に駆けつけていた。
「力を貸してやろうと申し出たって上から目線だけど、元からお呼びじゃないってーのよっ!!」
上空より飛来する赤き竜。本気を出したアーシャ・ヴァリアント(ドラゴンプロトコルの|竜人格闘者《ドラゴニックアーツ》・h02334)の口からは、怒りと共に赤い炎が吹き出しており。
「……どうやら、柚葉くんは直ぐに飛び降りるようなことはなさそうだな」
ルビナが寄り添っていることで危険はないと判断したのか、不動・影丸(蒼黒の忍び・h02528)は改めて忍者刀の先を紅涙へと向ける。
「復讐するかしないかなんて、それこそ詮無い話だった。自分で自分を信じてあげられるまで、何度でも声をかけてあげないといけない。よね」
赤銅・雪瀾(『|隠者《ハーミット》』の『|魔法少女《タロット・シスターズ》』・h02613)もまた、本当は何が必要であったのかを悟った上で、改めて今の柚葉に必要なことが何かを告げる。もっとも、それを成すためには、まず目の前の敵を倒さねばならないわけで。
「ん。そのためには……邪魔者に消えてもらわないと」
一転して雪瀾が鋭い視線を紅涙へ向ければ、それに続けて玲香も告げる。
「話している間の敵は任せなさい。その娘にしっかり向き合うのよ」
ルビナが静かに頷き、周囲の空気が一瞬にして変わった。夕日に染められた屋上は、日常との境界が破壊された、異能者達の戦場となったのである。
●
ルビナが攻撃から外れているとはいえ、それでも数だけあれば能力者達の方が上回る状況。しかし、そんな圧倒的不利に置かれていても、紅涙の怨念は枯れることがなかった。
いや、むしろ圧倒的に不利であるからこそ、彼女の恨みは無限に膨らんで行く。自分が悲劇のヒロインであると思いこんでいる紅涙は、己が理不尽であると考える事象に対し、壮絶なる怨嗟をぶつけてくるからだ。
「あの頃は……妾も幸せであった。まさしく、至福の絶頂にいた。なのに……それなのに……」
全てが憎い。自分から幸せを奪った存在も、それを黙認した世界も。そう言って、紅涙が過去を語る毎に、周囲の様相も変化して行く。学校の屋上は紅涙の語る話に合わせて姿を変え、それと同時に繰り出される彼女の攻撃は、回避という概念を消滅させて能力者達へと襲いかかる。
「なるほど、なかなかやるわね。これは油断できないわ……」
長く伸びた髪を一振りするだけでミサイル群を叩き落としてくる紅涙を前に、玲香は柚葉と対話を続けるルビナへと視線を向けた。
こちらができるのは、時間稼ぎがせいぜいかもしれない。だが、今はそれでも構わない。このまま柚葉のことを放っておいたら、それこそ何をするか、どのような悲劇的結末になるか、誰も保証はできないのだから。
「柚葉さん、似たような経験をしていたのに独りにしてごめんなさい。味方になることをせず、復讐の代行を唆したわたしはあの『紅涙』と同じ事をしてしまいました」
最初にルビナの口から出たのは謝罪の言葉。復讐代行の提案をした時点で、自分は本気で柚葉の抱える闇に向かい合っていなかったと。
「でも、もう一度だけ、貴女と共に立ち向かわせていただけませんか? 傭兵などではなく、貴女の力になりたい一人の人間として。先生方やご両親を味方につける為に全力で協力します。説得するための証拠集めにも!」
必要なのは復讐ではなく、これからも戦って行くための力と覚悟。出会ったばかりの人間を、どれだけ信じてくれるかは分からない。だが、ルビナの言葉に怒りで返してこない時点で、柚葉もルビナを拒絶しているわけではないのだろう。
「フフフ……無駄なことよ。その娘の心は既に折れ、闇の中に沈んでいる。妾の手により現世の因果から解放されることこそ、この娘にとっての救いとなるのだ」
そんな中、紅涙だけは勝利を確信しているような口ぶりで柚葉を渡せと迫ってくるが、当然のことながらそんな言葉に耳を貸す者はいない。
「アンタは、自分の凶行に他人を利用する最低なヤツ。そんなヤツの思い通りにさせるなんて、これっぽっちも認めたくない」
紅涙の放ってきた凶器を、雪瀾は軽く右手で払い除けることで無効化する。そこにあるのは、何をされても柚葉を守るという鋼の意志。
「裏切りも何も、押し売りに来て断られたからってかってに迷惑金徴収しようとしてる悪徳業者がっ!! アンタを裏切った連中になら兎も角、他所の無関係な人物巻きこむなっていうの! 迷惑、迷惑、大迷惑だわ!」
同じく、飛来する凶器を物ともせず、アーシャは炎で紅涙へ反撃の狼煙を上げて行く。赤竜と化した彼女は文字通りの無敵状態なので、積極的に柚葉の盾となることも厭わない。
その一方で、影丸だけは紅涙の言葉に耳を貸しつつ、ともすれば彼女に同情の念さえも抱いていた。確かに、それは狂気に陥る前の紅涙の願いだったかもしれない。だが、今の紅涙にはそれを理解するだけの心は勿論、己の言葉に耳を傾けてくれる存在でさえも、怨嗟の対象にする程に狂っていた。
「おのれ、小僧! 安い同情で、妾を愚弄するというのか? 許さぬ……許さぬぞ!!」
もはや、今の紅涙には、あらゆる言葉も想いも無意味であった。それこそ、迂闊に言葉を口にすれば、それだけで火に油を注ぐ結果に成りかねない。咄嗟にインビジブルと場所を入れ替えることで攻撃をやり過ごす影丸だったが、膨らんだハリセンボンと化したインビジブルに触れて負傷しようと、紅涙の怒りも呪詛も止まらない。
「肉体の痛みなど、妾の心の痛みに比べれば些細なことよ。我が恨み……その身を以て、思い知れ!!」
紅涙の髪が扇の如く広がり、それに伴って紅涙の力も増して行く。√能力の類ではない。純粋な恨みの念だけで、彼女は己の力を限界以上に引き出しているのだ。
もう、これ以上は抑えているのも限界かもしれない。何らかの決定打がない限り、遠からず全滅する危険性もある。それはルビナも理解していることであり、だからこそ彼女は最後に思いの丈と全て柚葉へとぶつけた。
「貴女は独りで十分頑張った。今度はわたしが貴女を支えます。だからお願い、命を捨てることはしないで。貴女が死んだら、身を引き裂かれる様に辛いの! 生きて、お願いよ!」
いきなりこんなことを言われても、信じる方が難しいかもしれない。しかし、それでもこの気持ちだけは本物だ。それだけは、嘘偽りのない自分の本心だ。そんなルビナの頬を涙が伝わったことで、柚葉も何かを悟ったのだろうか。
「……ありがとう。そんなこと言われたら、さすがに死ねないわね」
先程までは、誰かを信じたところで、また裏切られるだけだと思っていた柚葉。それでも彼女はルビナのことを信じてみようと思った。
なぜなら、自分のために泣いてくれた者など、それこそ親以外には今までにいなかったから。親友や恋人を騙っていた未来も真人も、思えば自分のために泣いてくれたことなどなかった。
「私……もう一度、信じてみるわ。ここで死んだら、あなたを裏切ることになってしまうしね」
柚葉の心に、もはや迷いはなかった。彼女は何の特殊な力も持たないが、しかし彼女の心から闇が晴れた時点で、戦いの流れは能力者達の側へと傾き始めていた。
●払えし闇、消えぬ怨念
柚葉が完全に立ち直ったことで、彼女の紅涙に対する拒絶の意思もまた明確となった。
それは紅涙の逆鱗に触れ、彼女の恨みをより一層に強くする。もっとも、柚葉の自殺を心配しなくて構わなくなった以上、能力者達にも時間稼ぎをする必要はなくなったわけで。
「行くぞ! ノーマクサーマンド! バーサラ! ダンカン!」
真言を唱え、影丸は焔を身に纏い加速する。相手が目で追えないほどの速度で肉薄しながら、幾度となく斬りつけては離脱する。
「フフフ……そのような経文の力で、妾を浄化しようというのか? 笑止!!」
それでも、未だ怨念を消すことなく、むしろ強めて行く紅涙。人としての心を一片も残していない今の彼女は、もはや単なる魔性に過ぎない。故に、完全に動きを止めるまで攻撃し続けなければ、その怨嗟もまた切れることはない。
時間をかければ紅涙を完全な灰にすることもできたかもしれないが、紅涙も殆ど捨て身で仕掛けてくるため、このままでは相討ちに持ち込まれる可能性もあった。ならば、同じ灰でも一撃で灰燼に変えてしまえばよかろうと、なんとアーシャが盛大に紅涙のことを踏みつけた。
「妾を踏み殺そうというのか? その程度の力で、妾に勝てるなどと……」
「うるっさいわね! だったら、恨みも辛みも怒りも全部受け止めた上で、灰燼に返してやろうじゃない!!」
踏みつけは動きを封じるための布石に過ぎず、本命は殆どゼロ距離から放たれる炎のブレスだ。自分の身体が焼けないのを良いことに、アーシャは紅涙へ容赦なく紅蓮の炎を浴びせて行く。もはや勝利は近いと確信した玲香は、ミサイルで更なる追い打ちを加えつつも、最後はしっかりと自分の手で決めるようルビナへと告げ。
「断罪の時は来た、首を出せ!! 月の力よ、聖なる鎧を今ここに!!」
大鎌を片手に鎧を纏い、ルビナが紅涙へと肉薄する。彼女の行動を阻害すべく紅涙はあらゆる手段での妨害を試みるが、それも虚しい抵抗だった。
「おっと。そうはさせないよ!」
赤い霧の中から呼び出された存在を、ルビナに代わって雪瀾が軽々と打ち消した。こんなところで足止めをされてなるものか。なにより、自分が散々に利用されて捨てられた身でありながら、他人を好き勝手に利用して平然とした顔をしていられる紅涙のことが許せない。
「目の前のこの子も、自分の復讐のための道具くらいしか思ってないって顔してる。私は宣言する。彼女は生きている。生きている限り希望はある。彼女は玩具や道具なんかじゃないって!」
あまり、人間を舐めないでもらいたい。そう、雪瀾が告げたのと、ルビナの手にした大鎌が紅涙の首を刎ねるのが同時だった。
「これで終わりにして差し上げますわ! 迷える者を誑かし、己のエゴで命を奪おうとする罪は重いですわよ!」
切断された首が宙を舞い、紅涙の身体が崩れ落ちる。それでもなお、意識を失うことがないのは、彼女が人を辞めた魔性の存在だからだろう。
「あぁ……なんと……なんということ……」
既に髪の大半が燃え尽き、首だけになった状態であるにも関わらず、紅涙は未だ現実を受け入れることを拒絶していた。往生際の悪さも、ここまでくると一級品。
このまま放っておいても、紅涙は絶命して遠からず消滅する。しかし、さすがに見苦しさを感じたのか、飛んできた紅涙の首を、影丸は一撃の下に斬り捨てた。
「これで終わりか……。とは言え、狂気のまま、また蘇ってくるんだろうな……」
片手で合掌しつつも、影丸はどこかやるせない虚しさを覚えていたようだ。紅涙を完全に滅する方法も、救う方法も自分にはない。骨の髄まで狂ってしまった紅涙には、あらゆる想いも言葉も、全て無意味なものでしかなかったのだから。
●新しい希望
屋上での戦いは能力車達の勝利に終わり、彼らは改めて柚葉と対峙していた。
「柚葉くん、大丈夫か? 色々とすまなかった……」
開口一番、影丸は柚葉に謝罪の言葉を述べた。虐めに対する知識がなかったのもそうだが、今回はあまりにも配慮がなさ過ぎたと。
「気にしなくても大丈夫よ。だって、私のためを想ってしてくれたんでしょ?」
そんな影丸に、柚葉は気にするなと言葉を返す。全てに絶望していた少女は、もういない。なぜなら、彼女は新しい希望を見つけたのだから。
「柚葉さんが笑顔で過ごせるように、全力を尽くしますわ!」
「ルビナと同じく私も力を貸すわ。貴女に笑顔を取り戻してみせるわ」
ルビナも玲香も、それぞれ柚葉への協力を改めて約束する。そこにあるのは打算ではなく、純粋に彼女を想ってのこと。
「どうやら、信じられる者、見つかったようだ。ね」
とりあえずは、これで一安心だと雪瀾が安堵の溜息を吐いたところで、気がつけば空には月が登り始めていた。時間は掛かったが、これで一件落着だろうか。これが他の√であれば、あるいはそうだったのかもしれないが。
「まあ、問題なのはこれからよね。√EDENにいる限り、今日の記憶も自然に改竄されちゃうわけだし……」
果たして、その部分をどうするのかと、アーシャは肩を竦めながら言葉を紡ぐ。
どうやら、真に問題を解決するためには、もうひと頑張りしないといけないようだ。
第3章 日常 『この世界の優しい忘却』

●忘却の定め
紅涙の起こした事件の果てに、柚葉は新たな希望を見出した。
だが、それも全ては一瞬のこと。√EDENに生きる者達は、√能力者でない限り、極めて強力な『忘却の力』の影響を受ける。
柚葉とて、それは例外ではない。彼女は確かに希望を見つけたが、それがどのようなものだったのかは、紅涙との戦いの記憶が薄れるにつれて、同じように忘れてしまうのだろう。
現に、柚葉の中では紅涙が暴れていた際の記憶も、猟奇殺人を目論む不審者が学校に現れた暴れたという認識に書き換えられていた。それでもまだ不自然な点は十分にあるのだが……時が経てば、より現実的な当たり障りない記憶として、それさえも変わってゆくのだろう。
このまま放っておいても、柚葉は心に微かな希望を抱いたまま、それなりに暮らして行くかもしれない。だが、虐めの問題が解決していない以上、彼女が再び絶望を抱く可能性も否定はできない。首謀者である未来や真人は勿論、実行犯のギャル達や、悪意の温床である学校裏サイトも放置されたままなのだ。
これらの問題を解決するための策は、幸いにも先の戦いの中で見えていた。虐めの首謀者や実行犯を痛い目に遭わせることも可能だろうが、それだけで虐めは解決しない。彼らと柚葉が真っ向から戦えるようにするには、力のある大人の存在が不可欠である。
虐めに理解のある教師や柚葉の両親、あるいはより外部に力を求めるのも良いだろう。今後、能力者達がいなくとも柚葉が希望を失わずに生きて行けるように。紅涙に関する恐ろしい記憶は忘却させつつ、彼女のために大切な何かを残してあげることはできるはずだ。
●できること、やれること
能力者としての戦いは終わりを告げたが、しかし真の戦いはこれからとも言えた。
柚葉を虐めていたギャル達と、彼女達を裏から操り事態を楽しんでいた未来に真人。彼らを断罪しなければ、柚葉はこの先も延々と虐め続けられることだろう。
「行きがけの駄賃っていうのは正確には意味違うけど、最後まで面倒みてあげる」
もっとも、手助けはするが最後は自分の力で立ち向かわなければならないと、アーシャ・ヴァリアント(ドラゴンプロトコルの|竜人格闘者《ドラゴニックアーツ》・h02334)は柚葉に告げた。この先、行き続けたいと思うのであれば、恥も外聞も投げ捨てた上で、本当に信頼できる者に助けを求めるべきであると。
「両親に正直に話して対応してもらえば? 裏サイトまだ残ってるようだし、親を納得させる証拠としては十分でしょ」
それでも駄目なら、教師や教育委員会を巻き込んで騒ぎを大きくすればいい。元より、相手は裏から手を回して事の成り行きを楽しむ陰湿なタイプ。そういう相手は、一方で強大な権力の前には滅法弱い。
「真正面から立ち向かうのリスク高いだけだし、安全策取りましょ。色々噂が立つかもだけど死ぬよりましでしょ?」
「確かに……。でも、どうすれば、先生達に信じてもらえるのかな?」
誰が信用できる大人か分からない以上、柚葉としては迂闊に動けないようだった。エリート名門校で虐めがあったなどと公になれば、マスコミなどから学校側が責任追求されることは必至。それを嫌がり、事態を隠蔽するような教師がいてもおかしくはないのだが……現状では、誰がそのような教師なのかまで判別がつかない。
「それでしたら、まずは虐めの証拠集めですわ。それまでは、柚葉さんには我慢をしてもらうことになってしまいますが……」
決定的な証拠を掴んでいれば、どれだけ卑劣なことをされても真実は揺るがないとルビナ・ローゼス(黒薔薇の吸血姫・h06457)は柚葉に告げる。その一方で、裏サイトの問題は任せておけと、和泉・玲香 (家族の護り手・h07590)が名乗りを上げた。
(「ま。頼れる大人の力を借りよう、は大賛成。人は誰しも一人で生きてはいけないよ。というのは痛感している……」)
最後に、赤銅・雪瀾 (『|隠者《ハーミット》』の『|魔法少女《タロット・シスターズ》』・h02613)は小声で背中のAnkerにだけ聞かせるように、心の中で呟いた。記憶が上書きされるその前に、できる限りのことはやっておきたい。それが彼女の未来を救うことになるのであれば、仮に自分達の存在さえ忘れられたとしても本望であると。
●いざ、証拠集めを!
数日後、能力者達はそれぞれに、柚葉の虐められていた証拠を集め、次なる策を考えていた。
「虐めの証拠と思しきものは、嫌というほど集まりましたわ。まったく……あそこまで堂々と虐めが行われているのに、誰も注意をしないなんて……」
デジタルカメラに納めた大量の画像を整理しながら、ルビナは大きな溜息を吐いた。
これだけ証拠があれば、相手を追い詰めるには十分だ。もっとも、敢えて幻影や迷彩など使わなくとも、特に問題はなかったかもしれない。
柚葉が虐められているところを目撃しても、誰一人として助けたり、あるいは心配して声をかけたりしてくれる者はいなかった。誰も彼も、自分が巻き込まれるのを恐れて関わろうとしないのだ。当然、そんな光景を誰かが撮影していたところで、誰も咎めなければ気にもしなかった。
虐めのターゲットにされたことで、柚葉の味方は学園の中で誰もいなくなってしまった。そんな彼女の唯一の支えであったのが、親友だと思っていた未来や、恋人だと思っていた真人の存在だったのだろう。
人は、どれだけ深い絶望の中にいても、微かな希望さえあれば命を繋ぎ止めていられるものだ。だが、その希望さえも偽りであり、それどころか真の邪悪であったことを知ってしまえば、その際の絶望はより深いものになる。
まったくもって、胸糞悪い話だ。堂々と虐めを楽しむギャル達も問題だが、味方のフリをして裏で人を蔑み、嘲笑う未来や真人の行いは、真に人の心を踏み躙る行為である。
「正直、見ているだけでキレそうだったわよ。一応、余計な手出しはしないようにしていたけどね」
これが私事であれば、遠慮なくブン殴っていたとアーシャは憤慨していた。勿論、ここで殴ってしまうと話が拗れてしまうので、彼女にしては珍しく忍の一文字で耐えていたのだが。
「こちらも、裏サイトの方の処理を完了したわ。重要な証拠だけコピーして、後は書き込みを削除させておいたから心配は要らないわよ」
その際、かなりの権力を用いることにもなったが、それはそれ。個人が訴えても動かないのに、大企業が訴えれば直ぐに動く。なんとも不愉快な忖度であるが、ならばそれを利用してやれば良いのだと。
「そうなると、後は首謀者二人のスマホですわね。こちらからハッキングして、何か情報が得られれば良いのですけれど……」
どうやら、玲香にはもう少しだけ仕事をしてもらわなければならないようだとルビナが告げる。面倒事の大半を押し付ける形になってしまい申し訳ない限りだが、しかし玲香が大切な義娘の頼みを断るはずもなかった。
●裁きの時、そして……
十分な証拠が集まったところで、能力者達は一斉に動き出した。結論から言ってしまうと、虐めの首謀者は纏めて学校を退学になった。
「まだ、学校には通いにくいかな? 養護教諭とか、カウンセラーとかいると思う。ん。そういうのはプロに任せた方が、いい」
心の傷を癒やすための動きは、主に雪瀾が提案してくれた。しばらくは人間不信が続くかもしれないが、それで保健室登校になっても構わない。養護教諭にしろスクールカウンセラーにしろ、そういった子を助けるために存在するのだから。
「皆さん、ありがとうございます。その……両親だけでなく、警察にも掛け合ってくれたんですよね?」
能力者達の行動に、柚葉は改めて感謝を述べた。両親に真実を伝えることは勿論、やはり警察にも話を持って行ったことが大きかったようだ。受けた虐めの中には明らかに犯罪に該当する行為もあったので、刑事事件として告訴されれば、もはや虐めを行っていた者達に逃れる術はないのだから。
「地域の教育委員会にも話は通しておいたわ。勿論、証拠も一緒にね」
これで学校側も、姑息な隠蔽など行えないはずだと玲香は告げる。万が一にもそのようなことをしようものなら、それこそマスコミ等にスッパ抜かれた際、校長から揃って全員教師の大半が辞職に追い込まれ兼ねない。
「後は、学校や警察に任せるしかありませんわね。ですが、最後に……」
虐めが発覚したことで、逆恨みから何かをされるのではないか。そんな心配を柚葉の心の中から払拭すべく、ルビナは大いなる守護神を呼ぶ。
「守護神ディアナ様、願いを聞き届けください...…」
天より光が差し込めば、そこに顕現せしは高貴なる守護神。柚葉が呆気に取られる中、ルビナは守護神ディアナに祈った。
もう、誰も柚葉を虐めることもなければ、彼女に逆恨みから復讐することのないように。その願いを聞き届けた守護神は優しく微笑むと、何らかの不思議な力を発し、そのまま天に消えて行く。
「え? 今の……何が起きたの?」
「神様にお願いしたのですわ。もう、二度と貴方が虐められることのないように、と……」
この記憶も、明日になれば何か別の形に塗り替えられてしまうのだろう。それでも、これで心配することは何もなくなった。今夜からは枕を高くして眠れるとルビナが告げれば、柚葉にもその気持は伝わったのだろうか。
「ありがとう。私……もう、死ぬなんて言わないわ。復讐もしない。だって……」
世の中には、まだこれだけ自分のことを気にかけてくれる人がいるのだから。それだけで、柚葉にとっては新たな希望となったのだ。
(「嫌なことはずっと記憶に残って、よかったことなんてすぐ忘れちゃう。だから、嫌なことと向き合って戦い続ける……それは本当に見習わないと」)
自分も、いつ気の迷いが起きるか分からない。だからこそ、自分自身とも戦い続けなければならないのだと、雪瀾は心の中で呟いた。
「これでもう、大丈夫だね。いっぱい悩んで考えて、嫌なことは忘れてしまおう。ね」
短い青春だからこそ、目一杯走り抜けて欲しい。そんな雪瀾の言葉に柚葉は笑顔で返す。復讐を忘れ、絶望からも解き放たれた今の彼女の前には、もう紅涙が現れることもないはずだ。
「ま、これで一件落着ね。たまには、こういうのも悪くないわ」
物理で解決する以外の方法も、時には良いものだとアーシャが大きく腕を伸ばしながら言った。実際、彼女の言う通り、この先に柚葉が新たな虐めに遭うような可能性は、殆どゼロに等しかった。
警察も動いたことで、今回の事件は少なからずマスコミにも取り上げられている。虐めの首謀者達が下手なことをすれば、それこそ自分達の方がネットの玩具にされ、特定班に自宅を特定された挙げ句、あれこれと悪戯をされる対象となるだろう。他人を虐めていたからこそ、彼らにも分かるのだ。次におかしなことをすれば、今度は自分達が世間という実態のない存在から、延々と虐められることになるのだと。
斯くして、紅涙の絡んだ一連の事件は、虐めの解決という形で終わりを迎えた。守護神ディアナの叶えた願いにより、虐めの首謀者達はこれ以上の問題が公になることを恐れて離散。それぞれ、違う学校に転校したものの、そこでは随分と大人しくしているようだ。
人の心を壊すのが人間ならば、救うのもまた人間である。絶望しかないと思った時こそ、もう一度よく考えて欲しい。
世界はまだ、そこまで自分を見放してはいない。世の中には、まだまだ自分の味方になってくれる者、利用できる存在もあるのだと。