シナリオ

融合|迷宮《ダンジョン》の先で求められる覚悟とは

#√EDEN #√ドラゴンファンタジー #融合ダンジョン

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●√EDEN:三重県某所――とある中学校付近
 四方を山々に囲まれた小さな集落を照らす夕陽が、少しずつ山々に沈み始めている。
 少しずつ夜の帳が降りつつある集落内にある、小さな中学校の校庭の木の下に、全身青痣と傷だらけの少年がひとり、蹲っていた。
「どうして、僕だけ……」
 少年は青痣だらけの己が腕を見つめながら、先程かけられた言葉を思い出していた。

『誰も構ってくれないお前に、わざわざ俺様が構ってやってるんじゃないか? 出すもん出してくれなきゃなあ?』

 その言の葉をかけてきたのは――地元でも素行が悪いことで知られている、ある男子生徒。
 ある日突然、その男子生徒に目をつけられた少年は、幾度となく人目のない場所に呼び出され、暴力を振るわれ、金銭を巻き上げられるようになった。
 何度も両親や担任に相談はしているが、地元の名士の息子が故になかなか手は出せずにいて。
 そして、同じ中学校の生徒や他の大人たちも、男子生徒の矛先が己に向くことを怖れ、少年に近寄ろうとしない。

 ――もう、誰も僕を助けてくれない。

 絶望と諦観に囚われている少年の目の前に、突然怪しい影が現れる。
「――復讐したいか?」
 その影は、男とも女とも判別つかぬ声で、少年に問いかけた。
「復讐……?」
 思いもよらぬ言の葉に、少年は思わず顔をあげ、影を見つめる。
 怪しい影の表情は、夜の帳に隠れて見えないが、なぜか影から目が離せない。
「もし、復讐したいなら手を貸そう――この手を取るがいい」
 怪しい影は、少年に向けてゆっくりと手を差し伸べる。
 その手を見つめる少年の目には――いつしか復讐の炎が宿っていた。

●融合ダンジョン
「今日の星の輝きは激しいわね……大変な事件のようよ」
 街中を歩いていた星詠み、水尾・透子(人間(√EDEN)のルートブレイカー・h00083)が、空を見上げながら呟く。
 その呟きを聞き留めた√能力者たちが足を止め、透子の話を聞こうと耳を傾け始めた。
「みんな、聞いてくれるかしら。√EDENの三重県にある中学校の校舎が、突然ダンジョン化したそうよ」
 √能力者たちに軽く一礼した後、透子はゾディアック・サインが齎した予知を伝え始める。
「事件の現場は、山間の集落にある小さな中学校。元の建物全部が√ドラゴンファンタジーのダンジョンと融合してしまったようなの」
 透子いわく、1学年1クラスしかない小さな中学校の校舎全体が、突然ダンジョン化したという。
「ダンジョンと化した校舎内には、逃げ遅れた生徒と教師が数名取り残されているようなの。しかも彼らはダンジョン内でゴブリンに襲われているらしいわ」
 そう話す透子の口ぶりは、どこか歯切れが悪い。
「そこでみんなには現場に急行してダンジョンに突入し、この事件を解決してほしいの。お願いできないかしら?」
 歯切れの悪い口調のまま頭を下げる透子に、√能力者たちは其々の想いを胸に頷いた。

「融合ダンジョン化現象そのものは、ダンジョン内から人間がいなくなるか、ダンジョンのボスを倒すかすれば解決できるわ」
 ダンジョン内から人間を全て救出し脱出させるか、ダンジョン内の人間が全員死亡するかすれば、この事件は解決する。
 あるいは、ダンジョンの何処かにいるであろうボスを撃破しても、その時点でダンジョンは消滅するので、解決はするだろう。
「一般人の被害を減らしつつ、可能ならばボスの撃破も行って欲しいのだけど……できるかどうかはダンジョンに入ってみないとわからないわ」
 どちらも成し得ようとする欲張りな方針では、中途半端に終わる可能性もある。
 場合によっては――覚悟を持った決断が必要になるだろう。

「とにかく、最優先は事件の解決よ。これだけは忘れないで頂戴」
 私はみんながどんな決断をしても受け止めるから……と呟く透子に見送られながら。
 √能力者たちは、突然ダンジョン化した三重県の中学校に向かった。

マスターより

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第1章 冒険 『ダンジョンへの突入』


メイド・メイド
総統・シン・ディスアーク


 ――√EDEN、三重県某所。
 突如ダンジョンと化し、数名の教師と生徒が内部に取り残された小さな中学校に、メイド・メイド(学名:霊長目ヒト科メイド属メイド・h00007)が足を踏み入れた。
 メイドの方針は――救出と攻略の両立。
(「学び舎の方々を助けるのはもちろんだが、そもそもなぜこのようなことが発生したのかを究明する必要があるでしょう」)
 今回解決しても、いつかどこかで再発するかもしれないし、またこの学び舎がダンジョン化するかもしれない。
「ですがそれは今日決断するのか、あるいは未来に犠牲を出してしまうのか違いなのではないかと愚考いたします」
 そして先に進むのだとしても、それまでに犠牲を出してしまいわからずじまいなのかもしれない。
 ――ならば、少しでも犠牲を出さぬためには?
「であるならば、護りながら行くのも違いはありません」
 そう心に決めながら、メイドが昇降口からダンジョンに足を踏み入れると、数体のゴブリンと、腰を抜かしたまま動けない男子生徒が目に入った。
「ご安心下さい。|当機《わたし》がお守り致します」
 すぐさま男子生徒とゴブリンの間に割り込むも、メイドは攻撃手段を持ち込んでおらず、攻撃に出れない。
 ゴブリンたちは一瞬足を止めるも、メイドがすぐ攻撃してこないのを見るや否や、ゆっくりとふたりに迫り始めた。
(「今はこの生徒だけでも、|当機《わたし》がお守りしないと」)
 迫るゴブリンを目にし、メイドが決意した、まさにその時。

 ――突然、ふたりの目の前に怪人が姿を現した。


 ――少しだけ、時は遡る。
「迷宮事件とな。よかろう。余が直々に手を貸してくれる」
 |√マスクド・ヒーローの三重県《・・・・・ ・・・・・・・・》にて、総統・シン・ディスアーク(|復讐の敗残者《アーク・リベンジャー》・h00027)が、自信に満ち溢れた声音で言い放つ。
 今、総統がいるのは、事件現場ですらない、それどころか√すら異なる地。
 共通点があるとすれば、√EDENの中学校と同じ位置、ということか。
「さて……『行け、我がディスアーク怪人よ! 奴を血祭りにあげるのだ!』」
 周りの目をはばからず、堂々と√能力【|怪人攻撃命令《ディスアーク・アサルトオーダー》】を発動した総統の目に、ダンジョン化した√EDENの中学校の風景が飛び込んできた。
 周囲を見渡してみると、ダンジョンの入口――おそらく、中学校の昇降口付近に、数体のゴブリンと腰を抜かして動けなくなっている男子生徒がいた。
 その男子生徒の前に、メイド服を着用した√能力者が割り込むも、反撃手段を持っていないようで、守るのが精いっぱいのようだ。
(「あのメイドや他の者どもがどう動くか知らぬが、突破するにせよ民草を守るにせよ逃すにせよ、敵を潰す方向で動けば邪魔にはなるまい」)
 そう考えた総統は、朗々たる声で命じた。

「チャンピオンベルトアークよ。我が意に従い、下劣な|小鬼《ゴブリン》どもを皆殺しにせよ!」


 ――場所は、√EDENのダンジョン化した中学校の内部に戻る。
「ウオオオォォォォォ……!!」
 メイドと男子生徒の前に現れた怪人――チャンピオンベルトアークが、威嚇するかのように咆哮しながらゴブリンを掴む。
 突如現れた怪人の咆哮に、足がすくみ動けなくなったゴブリンを、チャンピオンベルトアークは片っ端から掴み、引き裂き、遠くに放り投げた。
 程なくして、メイドと男子生徒の前から、ゴブリンがいなくなる。
(「これは、他の√から覗いている方がいるようです」)
「ありがとうございます。助かりました」
 おそらく、覗いている√能力者がいるのだろうと見当をつけたメイドは、怪人に向けて一礼する。
 その間に、男子生徒は壁に手をつきながら立ち上がっていた。
「あ、ありがとう……ございます」
 男子生徒も礼を述べるが、その声も足も震えている。
 この状態では、護りながら奥に行くのは難しいだろう。
「|当機《わたし》も1度外に出ます。一緒に行きましょう」
「お願い……します」
 メイドと男子生徒の目の前で、チャンピオンベルトアークが了承したと頷く。
 そんな怪人をひとり残し、メイドと男子生徒は昇降口からダンジョンの外に出た。

 同じころ、総統はチャンピオンベルトアークの所業に満足していた。
「余の予測通りだ。この状況にチャンピオンベルトアークは適任であった」
 プロレス技に精通し、火器や光線を用いない怪人ならば、救助対象者を巻き込むことなく戦えると予測していたが、うまくいったようだ。
「さて、他の√能力者を待つとしよう」
 メイドと男子生徒がダンジョンの外に出たのを見届けてから、総統はいったんチャンピオンベルトアークを呼び戻し、引き続き√マスクド・ヒーローからの観察を続け始めた。

エアリィ・ウィンディア
贄波・絶奈
シアニ・レンツィ

 突然ダンジョン化し、異彩な雰囲気を醸し出している中学校の校門前に、贄波・絶奈(|星寂《せいじゃく》・h00674)が駆け付ける。
「これはまた随分とキナ臭い事件な事で」
 明らかに異質の空間と化した校舎を見て、思わず呟く絶奈。
「とはいえ、まずは調査をしない事には始まらないか」
「そうだね。何が起きても不思議じゃないしモンスター化の可能性もあるから」
 同じく駆けつけたシアニ・レンツィ(|不完全な竜人《フォルスドラゴンプロトコル》・h02503)も絶奈に同意しつつ、不気味なダンジョンと化した中学校の校舎に目を向ける。
 ――突如、√EDENの建物と融合し出現した、√ドラゴンファンタジーのダンジョン。
 この√の人々にとっては、それだけでも脅威と言えるが、さらに内部に取り残された一般人のモンスター化の可能性まで含めれば、到底放置しておけない現象だ。
「大好きな人に危険を背負わせるのはやだなぁ……脱出優先に一票!」
「私もだな。腰を据えて調査できるとも限らないし、そういう意味では事件の立会人という意味でも取り残された人間を救出する事が優先かな。」
「そうだね。人が襲われているのなら助けないとねっ!」
 新たに駆け付けたエアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)の方針は、もっとシンプル。
「両手いっぱい……助けることのできる命をかき集めるだけっ!!」
「そうだね。じゃあ行こう!」
 かくして、絶奈とシアニ、そしてエアリィの3人は、昇降口からダンジョン化した校舎へと突入した。


 昇降口から一歩踏み入れると、周囲の光景が現代風のそれから湿った土壁のダンジョンに変化する。
『みんな集合ーっ! ドラゴン会議、はっじまっるよー!』
 明らかに異質極まりない状況を見て、シアニがミニドラゴンの幻影の群れを召喚した。
「ユア、そしてミニドラちゃんたち、一般人を探して!」
 シアニの意を汲んだミニドラゴンたちが、シアニの目となり一般人を探すべく、ダンジョン内を進み始めた。
『精霊達よ、あたしに力を……』
 エアリィも高速詠唱で複数のインビジブルを光の精霊に変えて召喚し、尋ねる。
「ね、精霊さん達。このダンジョンに取り残されている人がどのあたりにいるか教えて? あなた達が頼りだからっ!」
 質問、というよりお願いするエアリィに、光の精霊たちはしばし考え込み、答えた。
『中の雰囲気がすごく変わっているから、取り残されている人がいるかどうかはわからないけど、中が変わる前に教室や職員室で何人か見かけたから、構造が変わっていなかったらまだいるかもしれないよ?』
 協力的、かつ正確な情報を齎してくれる精霊たちでも、環境が変化した後の状況はわからないらしく、返答も歯切れが悪いが、全く情報がないよりマシだろう。
「それじゃあ、一番近くの部屋に案内してくれる?」
『わかった~』
 エアリィたちを案内すべく、光の精霊たちが歩き出す。
「方針は決まったか。『――それじゃ行こうか。顔も知らない旧友さん』」
 事の成り行きを見守っていた絶奈も、12体のインビジブルを機関職員に変身させる。
「ふたりはここに残れ。残りは私と一緒に」
 そのうちの2体をダンジョンの入口たる昇降口に残し、絶奈は残り10体を引き連れてシアニとエアリィの後を追った。


 ダンジョン内をミニドラゴンたちと光の精霊が先行し、エアリィと絶奈、そして機関職員たちがついていく。
 道中、シアニたちも人は勿論、何かを追うようなゴブリンの痕跡はないか、足音はしないか注意を払っていたが、どうやら先に何体かは掃討されているようで、今のところ気配はない。
 やがて、光の精霊が分岐路で足を止める。
『ここを左に行ったところに教室があったはずだけど、雰囲気が変わり過ぎているから、今もいるかどうかはわからないよ?』
 光の精霊が指し示した先には、ひとつの小部屋があった。
「ある程度までは元の構造が生かされているのか?」
「そうだといいんだけど」
 絶奈とエアリィが考えている間に、ミニドラゴンたちが小部屋に突入し、シアニに知らせる。
『シアニ、一般人とゴブリンがいるよ!!』
 その知らせを聞いて、目を大きく見開くシアニとエアリィ。
「迷う必要はないな。行くぞ!」
 絶奈が機関職員を連れ、一足先に小部屋に向かう。
「あたしたちも行こう!」
「怖いよね……。お願いお願い、どうか無事でいて……」
 その後を追う様に、エアリィとシアニは女子生徒の無事を祈りながら向かった。


 一斉に室内に突入すると、部屋の隅に女子生徒がふたり、ゴブリンたちに追い詰められていた。
「あ、あ、あ……」
「もう、だめ……」
 ゴブリンという未知の恐怖におびえているのか、女子生徒たちは助けの声もあげられず、動けなくなっている。
「撃て!!」
 絶奈が短く命ずると、機関職員たちが銃を構え、ゴブリンたちに向け一斉に発砲した。
「あたしも加勢するね!!」
 エアリィも精霊剣を手にしながら精霊銃を連射し、ゴブリンの四肢を撃ち抜いてゆく。
「ユア、ミニドラちゃん、お願い!!」
 シアニの願いを聞いたミニドラゴン達も、ゴブリンたちに向けて一斉に火球を吐き出した。
 銃撃と火球、精霊銃の連射を受けたゴブリンたちは、背後からの不意討ちに対応できず、そのまま地面に倒れ消滅した。
(「半減した反応速度でも十分対応できたか。あまり強くなくて助かったな」)
 今の物音を聞いて他のゴブリンが駆け付けるかもしれないと考えた絶奈は、先制できるように機関職員たちに部屋の入口を警護させる。
 その間に、エアリィとシアニが女子生徒たちに駆け寄った。
「大丈夫? けがはない?」
「私は大丈夫ですが、この子が……」
「ちょっと見せてね」
 エアリィが女子生徒の足を見ると、転んだようで擦り傷を負っていた。
「消毒と止血だけでもしておくね」
「ミニドラちゃんたち、ドラゴンキッスで回復してあげて!」
 エアリィが傷口を消毒し止血し、ユアがドラゴンキッスで回復すると、たちまち擦り傷が消える。
「わ、わぁ……可愛い!」
「ドラゴンちゃん……でいいのかな? ありがとう」
 怪我をしていない女子生徒が、ミニドラゴンたちの頭を撫でながら立ち上がる。
 彼女たちの脚が軽く笑っているのを見て、絶奈がシアニとエアリィに話しかけた。
「さて1度入口に戻るか……こんな怪しいダンジョン、あんまり長居したくないな」
 もともと絶奈は、生存者を発見したらすぐに避難誘導するつもりだった。
 それはシアニとエアリィの方針とは少し異なるが、ふたりも女子生徒の現状を見て意見を変えたようだ。
「そうだね。一通り回ってからのつもりだったけど、いったん外に出よう」
「うん、あたしも自力で脱出してもらうつもりだったけど、帰り道にまた襲われたら大変だからね」
 女子生徒の安全を守るという方針に、3人とも異論はない。
 かくして3人は、いったん女子生徒たちを外に連れ出すべく、ダンジョンの入口たる昇降口まで引き返した。

第2章 冒険 『ダンジョンに取り残された一般人の避難誘導』


●√EDEN:三重県某所――とある中学校、校庭
 ダンジョンの入口付近で生徒たちを救出した√能力者たちは、生徒たちを連れて1度ダンジョンから脱出する。
 入口となっている昇降口から一歩校舎外へ足を踏み出した瞬間、周囲の光景がダンジョンから√EDENの学校に変化した。
「あああ……助かった……」
 見慣れた風景を目にした生徒たちは、一様にほっとした表情を浮かべる。
 少しでもダンジョンから離すために、√能力者たちは救出した生徒たちを校庭の片隅に連れて行った。

「助けてくれてありがとうございます。放課後に教室で話していたら突然周りが土に変わって、見たことのないモンスターに襲われて……逃げられなくて」
「僕も驚いて腰を抜かしてしまって……情けないところをお見せしました」

 校庭の隅に避難した生徒たちは、√能力者に口々にお礼を述べつつ、見聞きした情報を話す。
 助けられた生徒たちの証言を総合すると、放課後に突然、校舎内が√ドラゴンファンタジーのダンジョンに変化し閉じ込められたのは間違いないようだ。
 一方で生徒たちいわく、ダンジョン内に取り残されている教師や生徒の数は分からないらしい。
 放課後でほとんどの生徒が下校していたことと、この中学校の規模を考えれば、残されている教師や生徒の数はさほど多くないと思われるが……。
「お願いです。中に残っている先生や友達を助けて下さい」
「私たちにとっては、みんな大事な仲間です。お願いします!!」
 生徒たちは頭を下げながら、口々に懇願する。
 その真摯な願いに、√能力者たちは一も二もなく頷いていた。

 ダンジョン内部は多数のゴブリンがうろついており、いつ教師や生徒が手にかけられてもおかしくない状況となっている。
 一方、ダンジョン内から一般人がいなくなるかボスが討伐されればダンジョンは消滅するが、ダンジョンが発生した原因は判明していない。

 発生した原因も気になるかもしれないが、生徒たちの頼みも優先すべきだろう。
 かくして√能力者たちは、ダンジョン内のゴブリンを掃討ながら残されている教師や生徒を全員救出すべく、再度ダンジョンへと突入した。

※マスターより補足
 第1章の判定の結果、第2章はダンジョン内に取り残された教師や生徒たちの救出となりました。
 皆様にはPOW/SPD/WIZの中からひとつ行動方針を決めていただいた上で、一般人をダンジョン外に避難させてください。

 参加者間で方針が分かれた場合は多数決で決定。同数の場合はプレイング勝負となります。
 この章で採用した方針によって、第3章のルートが決まります。

 なお、参加者間の相談は「一言雑談(このページ右上の『…』ふきだし)」をご活用ください。
 ――それでは、最善の結果を目指して。
シアニ・レンツィ
贄波・絶奈
エアリィ・ウィンディア


「校舎が突然ダンジョンに……大方、誰かがダンジョンの核でも持ち込んだのかな」
 ダンジョンの入口にて機関職員に変化させた12体のインビジブルを3人ずつの4チームに分けながら、贄波・絶奈(|星寂《せいじゃく》・h00674)はダンジョンが出現した理由を考える。
「ともあれある程度は救助したけどまだ残ってるみたいだ。状況が状況だから急いだ方が良さそうだ」
「そうだね。あたしも避難を優先したいかも」
 絶奈の言葉に、シアニ・レンツィ(|不完全な竜人《フォルスドラゴンプロトコル》・h02503)が妖精さんを召喚しながら首肯する。
「あたしはやっぱり目の前の人を優先して考えちゃう。怪我なく、全部忘れて、元の生活に戻ってほしいんだ」
「うん。ダンジョン踏破もすっごく気になるけど。でも、怖い思いをしている人がいるなら……それを助けるだけだよっ!」
 エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)もシアニに同意しながら、ちらりと昇降口に目をやった。
「エアリィ先輩、どこから探そう?」
「入り口近くも気になるけど、それ以上に奥深くに行って逃げようにも逃げられない人がいるなら、そっちを優先かな……」
 入口近くから順に探索するか、それとも思い切って奥に行くか。
 エアリィが迷っていると、絶奈が先程チーム分けした機関職員に指示を出した。
「Aチームはエアリィさんと、Cチームはシアニさんと一緒に行動せよ。Dチームは私と同行、Bチームは単独でゴブリンを掃討しつつ生存者の捜索に当たれ」
「絶奈さん、ありがとう!!」
「何、分かれて探す方が早そうだから。だからエアリィさんには奥を頼む」
「うん!!」
 その間に、シアニはスマホを操作し、何かの図を画面に出す。
「あった! この学校の構内図!!」
「共有してもらえる?」
「うん! 何か探索の助けになるものが見つかるかもしれないからね!」
 シアニが中学校の構内図が掲載されているwebサイトのURLを、エアリィと絶奈のスマホにも送る。
 内部の地図を手に入れた3人は、お互い顔を見合わせながら、機関職員と共にダンジョンに再突入した。


 絶奈と機関職員Dチームは、行き先を決めているシアニとエアリィを先に行かせつつ、自らはあえて入口から順番に探索していく。
 最初の探索で入口付近の部屋は粗方探したつもりだが、それでも見落としがあるかもしれない。
 シアニと共有した構造図と照らし合わせながら、絶奈と機関職員はひとつひとつ部屋を探し、生存者が残っていないか確認していく。
 人海戦術でしらみつぶしに探していくが、やはり既に探索済みか、あるいは最初から誰もいなかったかで、生存者は見つからなかった。
 そうして探していると、数部屋目でゴブリンの群れと遭遇する。
「撃て!!」
 間髪入れずに絶奈が命令を下すと、機関職員が一斉にゴブリンに火線を集中させ、撃ち抜いて行く。
 絶奈自身も銃を手に、次々とゴブリンを撃ち抜き、地面に打ち倒していくと、やがて動くものはいなくなった。
 倒した後、絶奈は教師や生徒がいた痕跡がないか探してみたが、痕跡は一切ない。
「ここも最初から誰もいなかったか……よかった」
 生存者が犠牲者となっていなかったことにほっと息をつきながら、絶奈は機関職員と共に次の部屋の捜索へと移った。


 一方、シアニと機関職員Cチームは、妖精さんたちの目を借りて1階の職員室に向かっていた。
(「先生なら、校内に残ってる人の心当たりがあるかもしれないから」)
 道すがら遭遇したゴブリンを機関職員と協力し掃討し、ダンジョンの通路を進んでいくと、職員室と思しき部屋の入口が見えて来た。
「ひ、ひいぃ……っ!!」
「く、来るな、来るなああああ!!」
 職員室から聞こえてくるのは――大人の悲鳴。
 シアニと機関職員が職員室に突入すると、部屋の隅で教師と思しき大人が数名、ゴブリンの集団に囲まれていた。
 教師たちは防犯用のさすまたで牽制しているものの、教師たちよりゴブリンの数の方が多く、近づけないようにするのが精一杯のようだ。
「今助けるから!!」
 シアニが背後からハンマーを振り回し、ゴブリンを纏めて薙ぎ払うように吹き飛ばす。
 ハンマーで薙がれて散開したゴブリンは、機関職員が個別に銃で撃ち抜き、ないしはナイフで斬り裂いて確実に倒した。
「あ、ありがとう……ございます」
「校内に残ってる人に心当たりはある?」
 怪我人を光癒で治癒しながら、シアニは教師のひとりに聞くが、教師も首を横に振る。
「情けないことだが、我々も誰が残っているかまでは把握できていない……すまない」
 教師たちいわく、ダンジョン化と同時にスマホを含めた通信機器と放送機器が全て使用不能になり、それでも状況を確認すべく職員室の外に出ようとしたらゴブリンを発見したため、職員室の片隅で息を潜めているしかできなかったそうだ。
「だが、完全に変わる前に環境調査票を持ち出せたから、生徒たちの連絡先はわかる。電話で連絡して居所を確認できれば、この中に残っている生徒がわかるはずだ」
「それなら、一緒に外に出よう! 外に出ればスマホも使えるようになるから!」
「お願いします!」
 シアニは機関職員Cチームといっしょに、教師を連れて職員室を出る。
 出たところで別の生徒を保護していた機関職員Bチームと遭遇し、大所帯となった一行は、いったんダンジョンから脱出した。


 一方、エアリィと機関職員Aチームは、無暗な交戦を避け、探索を重視しながらひたすらダンジョンの奥に奥にと進んでいた。
「結構深いダンジョンになっているね……」
 シアニに共有してもらった中学校の構内図を眺めてみるが、構造が若干変化しているのか、いまひとつ居場所が掴めない。
 とりあえず、もとは階段であったであろう坂を登って2階へ突入しようとすると、突然坂の奥から悲鳴が聞こえた。
「う、うわああああ!!」
 エアリィと機関職員が一気に坂を登り切ると、男子生徒がひとり、ゴブリンに襲われているのが目に入った。
「今助けるよ!『光の精霊よ、我が身に宿りて空間を超える力を……。一気に突破する!』」
 エアリィは高速詠唱で魔術を発動し、男子生徒とゴブリンの間にいるインビジブルと自分の位置を入れ替え、男子生徒を庇う様に立ちはだかった。
「な、なんだよあんた!?」
「襲わせない!!」
 喚く男子生徒を無視し、エアリィはゴブリンに精霊銃を乱れ打ちしながら精霊剣で斬りつけた。
 突然攻撃を受けゴブリンが怯んだ隙に、遅れて駆けつけた機関職員Aチームがゴブリンに向けて銃を連射し、仕留める。
 ゴブリンが全滅したところで、エアリィが男子生徒に向き直った。
「こわかったよね。大丈夫?」
「救助が遅えよ!! 俺様を誰だと思っているんだ!!」
 助けた男子生徒からエアリィに投げかけられたのは――傲慢極まりない言葉。
 その言葉に強いショックを受け、続く言葉を失ったエアリィをさらに男子生徒が怒鳴りつけようとしたその時、エアリィの背後から低い声が響いた。
「怒鳴るな、黙れ」
 エアリィが振り向けば、駆け付けた絶奈が男子生徒に銃を突き付けている。
「誰に銃を向けてんだ。人に物事を頼むなら、先ずそれを下ろせ!」
「さっきのような輩を呼び寄せてもいいのか?」
 絶奈の声に重なるように、室外から銃声が立て続けに響く。
 おそらく、男子生徒の声に反応し集まって来たゴブリンを、室外で待機していた機関職員Dチームが銃の一斉射で追い払ったのだろう。
「……っ!」
 絶奈の言葉の意味を理解したのか、男子生徒はバツが悪そうな表情を浮かべながら黙り込む。
 その間に、絶奈はショックで黙り込むエアリィに話しかけた。
「エアリィさん、大丈夫か?」
「絶奈さん……」
「あの手の輩は何処にでもいるものだから、気にしないのが一番」
 それに、と絶奈は声を落とし、エアリィだけに告げる、
「……あの傲慢さ、後で災いの種になりそう」
「そう、かもね……」
 軽くかぶりを振りながら、エアリィは精霊銃と精霊剣を収める。
 その間に、絶奈も銃を収め、男子生徒にあえて丁寧に一礼した。
(「また騒がれてはかなわないから、ここはあえて丁重に扱うか」)
「それでは、地上まで丁重にご案内させていただこう」
「ああ、しっかり俺様を護ってくれよな」
 傲慢さを崩さない男子生徒を機関職員たちにエスコートさせながら、エアリィと絶奈は部屋を出る。
 出る間際、男子生徒は倒れて動かぬゴブリンを蹴りつけていた。


 その後も、√能力者たちは何度かダンジョンに突入し、片っ端から生徒や教師を救出していく。
 機関職員Bチームが教室で息を潜めている生徒を発見し救出すれば、シアニと機関職員Cチームも別の教室で生徒を囲んでいたゴブリンをまとめて蹴散らし助け出す。
 奥へ進んでいたエアリィと機関職員Aチームも、音楽室と思しき階段状の部屋でゴブリンを蹴散らしながら追い詰められていた生徒と教師を救出し、絶奈と機関職員Dチームも別の教室で震えていた生徒を発見する。
 救出した生徒と教師たちは、その都度ダンジョン外まで付き添い、確実に避難させてゆく。
 そうやってダンジョン内外を数往復した後、√能力者たちはダンジョンの最奥部と思しき部屋で合流していた。
「そろそろ、粗方踏破したくらいだと思うけど、どう?」
「うん、ここが最後の部屋だと思う……隠し部屋がなければだけど」
 シアニが手にした構内図には、探索済みの部屋に印がつけられている。
 彼女の言う通り、隠し部屋がなければ、おそらくここが最後だろう。
 念のため、全員で得物を構え、部屋に突入するが、室内には生徒や教師どころか、ゴブリンの姿も見当たらなかった。
「誰もいない、か……」
「だとすると、もう全員救出した、ってことかな?」
「そうなるよね。これからどうしよう?」
 シアニの問いに、エアリィと絶奈が少し考え込む。
 ――今回、全員が『確実に一般人を救出する』方針で動いている。
 ボスの行方も気になるし、そもそもこのダンジョン自体も気にはなるが、今のところボスの居所が掴めていないため、探そうにも探せない。
(「光の精霊さんを呼び出しても、さっきダンジョンの中の様子は知らないと言われたから、多分ボスの居場所も知らないよね……」)
 おそらく、エアリィの√能力で光の精霊として呼び出されたインビジブルは、|現地《√EDEN》のインビジブルゆえ、|このダンジョン《√ドラゴンファンタジー》の知識は持っていない可能性が高い。
 ならば――ボスの捜索は諦め、生存者の捜索に全力を尽くすべきだろう。
「先生たちが、まだ残っている生徒さんがいるか調べてくれているから、1度聞きに戻ってみる?」
「そうだね。1度外に出ようか」
 行方のしれない生徒の有無がわかれば、今後の行動指針を決めやすくなるだろう。
 そう判断したシアニと絶奈、そしてエアリィは、機関職員たちとともにダンジョンを脱出した。


 エアリィたちが外に戻ると、教師たちが集まり、情報交換をしていた。
「生徒たちの安否は確認できたか?」
「ひとりを除いて全員連絡が取れました。既に帰宅済みか、ここにいるかのどちらかです」
(「ひとりを除いて……か」)
 普通に考えるなら、ダンジョン内にあとひとり残っている可能性が高い、ということになる。
 再突入すべきか否か絶奈が考えていると、偉そうな態度を取り続けている男子生徒が教師に食って掛かっていた。
「おい、そろそろ帰ってもいいか?」
「もう少しだけ待って――」
「――俺様を誰だと思っているんだ、なあ?」
 教師が怯んだ隙に、男子生徒は教師が手にしていた名簿に手を落とし――ニヤリと笑う。
「しかもいねえのはあいつだろ? 俺様が直々に見つけ出してやってもいいんだぜ?」
「それは……」
 教師がどこか口ごもると、突然ダンジョンの入口が騒がしくなる。
 咄嗟に機関職員たちがダンジョンの入口に銃を向けると、ダンジョン入口の昇降口から、ゴブリンが飛び出して来た。
「追って来た!?」
 生徒たちが悲鳴を上げている間にも、次々とゴブリンたちが昇降口から飛び出してくる。
 機関職員らが一斉に射撃し、数体程打ち倒すが、残ったゴブリンたちは銃弾を掻い潜り校庭に足を踏み入れた。
『ニゲルナ! ヒキョウモノ!!』
 先頭を走る1体のゴブリンが、人語を口にする。
 人語を口にしたゴブリンは、瞳に憎悪を宿しながら全身から激しい殺気を迸らせていた。

第3章 集団戦 『ゴブリン』


●√EDEN:三重県某所――とある中学校、校庭
「きゃあああ!!」
「ま、まだ……!?」
 次々と昇降口から飛び出してくるゴブリンの集団を見て、ダンジョンから救出され校庭に避難した生徒たちが騒ぎ始める。
 その声に反応したか、あるいはもともと狙っていたのか、ゴブリンたちが一斉に教師や生徒たちに向けて走り出した。
『シネシネシネ!! ココデシネ!!』
 その中のリーダーらしきゴブリンは、人語を発しながら殺気を振りまき、憎悪に染まった瞳をある方向に向けている。
 その視線の先には――先ほどまで√能力者や教師たちに傲慢さをふりまいていた男子生徒がいた。

 飛び出してきたゴブリンたちの狙いは――ダンジョンから救出した生存者。
 とりわけ、傲慢な男子生徒は、人語を話すゴブリンの標的となったように見える。
 一方で、憎悪を瞳に宿しているのは人語を話すゴブリンのみで、他のゴブリンはただ人を襲いたいだけのようだ。

 ダンジョンから飛び出してきたモンスターが、ダンジョンから救出した生存者を襲うという状況下で。
 √能力者が考え、選んだ道は――。

※マスターより補足
 第2章の判定の結果、第3章はゴブリンとの集団戦となりました。
 3章の成功条件は『校庭に飛び出してきたゴブリンの全滅』となります。

 人語を発するゴブリン(仮称:ゴブリンリーダー)はある男子生徒を狙っており、その他のゴブリンも校庭に避難した教師や生徒に襲い掛かろうとしています。
 狙われている教師や生徒(特に男子生徒)の扱いは、皆様にお任せします。

 なお、ゴブリンのSPD【弱者の戦術】は、その場で教師か生徒を攫って肉盾とすると判定しますので、対策を立てる際の参考にして下さい。
 ――それでは、最善の結末を目指して。
ル・ヴェルドール


 ダンジョンと化した中学校の昇降口から、次々とゴブリンが飛び出してくる。
 外へ飛び出してきたゴブリンたちは、ダンジョンから脱出した教師や生徒を狙うべく、校庭を駆け出した。
 そんなゴブリンたちの目の前を、1体のインビジブルが通過する。
 ゴブリンたちがインビジブルに目をやった瞬間、シルクハットを被ったル・ヴェルドール(青き黄金・h07900)が忽然と姿を現した。
「ボクの|Anker《悪性インビジブル》が皆様にご迷惑をおかけしそうだったので、転移して来たのですが……」
 そう、口にした時には、ル・ヴェルドールは既に弓を構えたゴブリンたちに囲まれている。
 もちろん、ゴブリンたちの矢の狙いは、ル・ヴェルドールの心臓だ。
「――ちょうど、集団内にポップアップしたようですね」
 改めてル・ヴェルドールが軽く周囲を見回すと、ポップアップした場所は校庭のど真ん中。
 しかも、校庭の端にある校舎の昇降口からは、今でもゴブリンが飛び出してきている。
「どうやらボクは、ダンジョンから校庭に飛び出してきたゴブリンたちの真っ只中に転移してしまったようです」
 ――つまり。
(「ここはダンジョン前……というか、学校がダンジョンと化したのですか」)
 ――と、なると。
(「このゴブリンの中に、巻き込まれて異形になった生徒もいるかもしれません」)
 弓の毒矢による長距離狩猟の構えを取り、機を伺っているゴブリンたちを観察しながら、ル・ヴェルドールは|光線銃《scientiae》を構える。
 もっとも、ル・ヴェルドール自身は生徒が異形化していても気にしない。
 というか、最初から囲まれている以上、気にしてもいられない状況なのだが。
「……まあ、生徒たちから遠いとこに突然現れたら、狙いを僕に変えて来るよね」
「ゴブゴブゴブ……!!」
 邪魔をするな、と言わんばかりに、ゴブリンたちは次々と毒矢を放つ。
 ル・ヴェルドールもゴブリンに狙いを定め、|光線銃《scientiae》を連射した。
 毒矢がル・ヴェルドールの身を掠めるより早く、ゴブリンたちが光線に貫かれ、次々と地面に倒れていく。
(「今はまだテスト段階の銃だけど、反動がない分、体勢を問わず連射できるのは便利ですね」)
 毒矢をひらりと躱すと同時に、校庭に一筋の風が吹き込んで来る。
 その風に乗って、校庭の端に固まっている大人の声がル・ヴェルドールの耳に届いた。
「最後のひとりと連絡は取れたか?」
「いえ、まだ……」
 その声を聞いて、心配事が杞憂だと確信するル・ヴェルドール。
(「ひとりを除いて全員連絡が取れているなら、異形になった生徒や教師は、今のところこの中にはいなさそうです」)
 どうやら、このダンジョンに捕らえられていた一般人は、他の√能力者の手で全員救出されていたらしい。
(「今回に限った話にはなるだろうけど、捕らえられた一般人が異形化する心配はなかったのでしょう」)
 そんなことを考えていると、|Anker《悪性インビジブル》がゴブリンとル・ヴェルドールの間を揺蕩う様に横切ってゆく。
「――――!!」
 気まぐれに揺蕩う悪性インビジブル目がけてゴブリンが一斉に射かけるより早く、ル・ヴェルドールは再度|光線銃《scientiae》を構え、連射した。
 銃口から幾筋もの光線が伸び、|悪性インビジブルと一緒に《・・・・・・・・・・・》ゴブリンを貫く。
「ゴブゴブゴブ……ッ!?」
 ――よもや、インビジブルごと攻撃して来るとは!?
 そう、ル・ヴェルドールに瞳で訴えながら、ゴブリンは地に伏し、息絶えた。

ヒルデガルド・ガイガー


 ダンジョンと化した中学校の昇降口から飛び出してくるゴブリンの姿は、ヒルデガルド・ガイガー(怪異を喰らう魔女・h02961)も目にしていた。
「知性なき獣も集団となれば十分脅威ですが、それは一般人相手の話。√能力者相手に同じ手は通じませんよ」
 ヒルデガルドの目の前では、何処からか転移して来た他の√能力者がゴブリンに囲まれながらも光線銃で応戦している。
(「あっちは放っておいても大丈夫そうですね……それなら」)
 そう判断したヒルデガルドは、ゴブリンに対妖力機関砲「デストルドー」の銃口を向けながら、生徒や教員に呼びかけた。
「できるだけここから離れるように避難なさい!」
 その声に生徒や教員が反応するより早く、ゴブリンたちが生徒や教員に襲い掛からんとヒルデガルドを無視し走り出す。
『ニゲルナ!!』
 特に、人語を話すリーダー格のゴブリンの狙いは、傲慢極まりない態度を取り続けている男子生徒に向けられていた。
(「生徒や教師は本当に避難してくれるか……?」)
 一瞬だけ脳裏を過った不安は、しかし他の√能力者らしき快活な声で打ち消された。
「こっちだよ!!」
 ダンジョンから生徒たちを救出した他の√能力者が、引き続き避難活動を引き受けてくれたらしく、ヒルデガルドの背から生徒と教員の気配が急速に遠ざかっていった。
 もちろん、ゴブリンたちも避難する生徒を追いかけようとするが、ヒルデガルドはデストルドーの銃口を向け、引金に指をかける。
「追わせねえよ……『天をも焦がす迅雷よ、穢れし怪異どもを誅伐せよ』!」
 ガラリと口調を変えて敵を挑発しながら、ヒルデガルドはデストルドーの引金を引き、毒と呪詛が仕込まれた雷属性の弾丸を発射した。
 弾丸は生徒に飛び掛かろうとしたゴブリンに命中し吹き飛ばしながら、周囲に高圧の電流を放出する。
 高圧電流に巻かれたゴブリンは、脳髄を焼かれ、四肢を痙攣させながら頽れた。
『ゴブゴブゴブ……』
 だが、高圧放電の影響を免れたゴブリンの一部が、避難している生徒たちに追いつき、最後尾の女子生徒の腕を掴んだ。
「いやあっ!!」
 腕を掴まれた女子生徒も抵抗するが、ゴブリンは女子生徒の腕をねじり上げながら勢いよく引き寄せる。
『グッ……ヒキョウモノ!! トマレ!!』
 人語を話すゴブリンも、高圧放電を食らってもなお、男子生徒から憎悪の狙いを外そうとしない。
(「リーダー格を優先したいが、肉盾にされている女子生徒も放っておけないねえ!」)
 ヒルデガルドは軽く舌打ちしながら、女子生徒を捕えたゴブリンに向け走り出す。
 ゴブリンも女子生徒を肉盾の如く突き出しながら、ヒルデガルドに向け不気味に光る毒を塗った斧を振り上げた。
「獣にしちゃ悪知恵が回るじゃねぇか。けどこの程度、俺様にしちゃ序の口だぜ?」
 ヒルデガルドもデストルドーを手に別のゴブリンの前に回り込み、振り下ろされる毒斧に向けて勢いよく突き飛ばす。
 突き飛ばされたゴブリンは、毒斧で真っ二つに両断され、事切れた。
「そいつは俺の専売特許でな、獣風情が下手に真似するとこうなるぜ?」
「ゴブゴブ……!!」
 ヒルデガルドに挑発まがいの言葉を投げかけられたゴブリンは、同志を両断し振り下ろし切った斧を再度振り上げるが、それより早くヒルデガルドもデストルドーから雷の弾丸を発射する。
 雷の弾丸はゴブリンを掠めながら、その背後に着弾した。
『ゴブゴブ……』
 外したと嘲笑うゴブリンたちの背後で雷の弾丸が爆発し、ゴブリンだけ巻き込むように高圧の電流を放つ。
 背後から高圧電流を浴びたゴブリンたちは、肉盾としていた女子生徒から手を離し、全身を痙攣させながら事切れた。

エアリィ・ウィンディア
贄波・絶奈
シアニ・レンツィ


 ――時は、ゴブリンの群れが校庭を駆け抜け、避難した生徒や教師たちに肉薄したころに戻る。

「たったいへん! とにかく全員集合!!」
 シアニ・レンツィ(|不完全な竜人《フォルスドラゴンプロトコル》・h02503)は、ゴブリンの群れを目にするや否や、ありったけのドラゴンの幻影を召喚する。
「数には数! 全員で火球をぶっ放して相手をお願い!!」
『りょーかーい!!』
 ドラゴンの幻影たちは、生徒や教師に迫るゴブリンたちに向け、一斉に火球をぶっ放した。
 ゴブリンたちも火球を避けるべく次々と跳躍し、毒を塗った槍をドラゴンとシアニに突き出そうとするも、狙いすましたかのように吐き出された火球の直撃を受け、次々と墜落していく。
 かろうじて火球を避けたゴブリンたちも闇を纏い隠密状態になるが、ドラゴン達の火球の絨毯爆撃は止まらず、次々と焼かれていった。
「怪我した子はいる? いたら治したげてね!」
「みんな、こっちだよ!!」
 ドラゴンが負傷者を治療する傍ら、シアニとエアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)が生徒や教師を誘導し、さらに安全な場所に移動させ始めている。
 その最中、女子生徒がひとり、他√能力者に対する肉盾にされたものの、肉盾にしたゴブリンが高圧放電で頽れた隙に、贄波・絶奈(|星寂《せいじゃく》・h00674)がインビジブルとの位置転移を利用して一気に接触、救出した。
『コロスコロスコロス!! ヒキョウモノハシネ!!』
 そうして避難誘導を終えたエアリィと絶奈の耳に、憎悪に満ちた声が飛び込んできた。
「ん? 狙われている子がいる?」
 エアリィが目を向けると、一際憎悪を滾らせ、殺気を迸らせているゴブリンの姿がある。
「えー……あのリーダー格のゴブリンなんだか嫌な予感がするんですけど?」
 その予感に従い、絶奈は反射的にライオットガンを人語を話すゴブリンに向けた。
 そんな√能力者たちを見て、男子生徒が声を荒げ、叫ぶ。
「おい、お前ら! さっさとこのバケモノを追い払え!!」
「助けに入ってくださっている方に何てことを言うんだ!!」
 教師に諫められても、傲慢な男子生徒の口は止まらない。
「知らねえよ!! そもそもこのバケモノ、こいつらが呼び寄せたんじゃねえのか?」
 シアニや絶奈、エアリィを指差しながら声を荒げる男子生徒に、シアニもエアリィもも言葉を失った。
 教師と生徒たちも反論すべく声を上げようとするも、男子生徒が一方的に喚き続ければ沈黙するしかできない。
(「まあ、状況的にそう見えてもおかしくはないけど、あの男子生徒以外は正しく状況を見ているようだから、問題はなさそう」)
 絶奈は喚く男子生徒を意図的に無視しつつ、ライオットガンで他の生徒や教師を狙うゴブリンを優先して撃ち抜いていく。
(「ぶっちゃけ、傲慢な生徒の事なんか放っておきたいワケだけど」)
「ま、一度助けちゃったワケだし、最後まで責任持って世話しないとか」
 いまひとつ乗り気にはなれないが、責任は果たすと口にする代わりに、絶奈はシアニのドラゴンたちに火球を浴びせられているゴブリンたちに銃を向け、撃ち抜いていく。
「……それでも、あたしは助けるって決めているんだ。だから、助けはするよっ!」
 暗にこの後までは責任取らないよ、とのニュアンスを含めながら、エアリィも精霊銃を連射し、生徒や教師たちに追いすがろうとするゴブリンたちの四肢や心臓を撃ち抜いた。


 他√能力者の助けもあり、ダンジョンから飛び出してきたゴブリンは、絶奈の銃とエアリィの精霊銃で次々と排除されてゆく。
 エアリィが全体を牽制するよう射撃し、シアニのドラゴン達が火球を吐き出せば、ゴブリンたちの矢が届く前に
 万が一、隙を見て生徒たちを狙うゴブリンがいたとしても、絶奈がすぐにインビジブルとの位置交換を利用した転移で割り込み、暗殺するが如く仕留めていく。
 ふたりの攻撃とドラゴンの火球で、ゴブリンは一体、また一体と倒れ、姿を消して行った。
 そんな中、シアニはひとり、人語を話すゴブリンの動向を追っていた。
(「……このダンジョンは、ダンジョン内から人間がいなくなったら消えるんだよね?」
 ――じゃあ、今は?
 シアニが縋るようにダンジョンの入口を見ると、少しずつダンジョンの壁が元の学校の姿を取り戻しつつある。
(「ダンジョンが消滅し始めている――つまり」)
 ――ダンジョン内に|生きている人間は残っていない《・・・・・・・・・・・・・・》。
 しかし、教師たちいわく、ひとりの生徒の行方がまだわかっていないという。
 教師たちは今でも連絡を取ろうと試みているようだが、漏れ聞こえてくる声を聞く限りでは、居場所の手掛かりすらないらしい。
 シアニの脳裏に、最悪の予想が過る。
(「じゃあ、この、人語を喋るゴブリンは――」)

 ――モンスター化した生徒?

 目の前のゴブリンの正体が行方知れずの生徒だと断定できる証拠は全くないし、そもそもモンスター化なのかどうかは、シアニ達が見聞きした限りの情報だけではわからない。
 だが、人語を喋るだけならともかく、ゴブリンの憎悪と殺意に満ちた顔を見れば、ゴブリンのほうに男子生徒を狙うよほどの理由があると感じてしまった。
『ヒキョウモノ!! シネシネシネ!!』
 そんなシアニの想いを気にする様子もなく、人語を話すゴブリンは毒を塗った槍を構え、傲慢な男子生徒に迫る。
「だめっ!! 殺させない!!」
 シアニも急ぎ割り込み武器を振るおうとするが、ゴブリンもそれを遮るように槍の射程まで跳躍しながら槍を引く。
 毒が塗られている槍の穂先が、ひゅっ、と鋭い風切り音を伴いながらシアニの顔面を貫かんと勢いよく突き出された。
 シアニも咄嗟に避けはしたものの、穂先に籠められた殺気に驚き、バランスを崩し転倒した。
「きゃっ!!」
「シアニさん!」
 絶奈がシアニの目前にいるインビジブルと自分の位置を入れ替え、ゴブリンの動きを制するようライオットガンを一斉射し足を止める。
「危ない!!」
 エアリィも精霊銃で牽制射撃を行い援護つつ、自身に火・水・風・土・光・闇の精霊達の力を纏いながらゴブリンに向け駆け出した。
 精霊達の加護で瞬く間にゴブリンに肉薄したエアリィは、複合魔力を束ねた斬撃の六芒星精霊収束斬を両手で確りと構える。
「全てを断ち切れ、六芒星精霊収束斬!!」
 誰ひとり殺させないとの強い意思を籠めながら、エアリィは六芒星精霊収束斬を勢いよく振り抜いた。

 ――斬ッ!!!

 六つの属性が束ねられた斬撃が、ゴブリンの装甲たる皮膚を、そして胴を易々と斬り裂く。
『ガハッ……!』
 胴を袈裟に斬られた衝撃で、ゴブリンはその身を大きくのけ反らせるが、瞳はまだ憎悪にぎらつき、足は倒れぬよう踏ん張っている。
「まだ倒れない!?」
『ジャマヲ……スルナ!!』
 驚くエアリィの目の前で、ゴブリンは胴から大量の血を流しながらも長距離狩猟の構えを取り、毒矢を放つ。
 毒矢はエアリィの真横をすり抜け、傲慢な男子生徒に向けて飛んでいった。
(「あくまでも狙いはあたしたちじゃなく、あの男子生徒……」)
 エアリィは男子生徒に風のオーラを纏わせ、吹き飛ばすように毒矢を大きく逸らす。
「さすがにそろそろ助けるかな」
 絶奈もライオットガンを刀に持ち替えつつ、男子生徒の目前に揺蕩うインビジブルと位置を入れ替え、男子生徒を庇う様に立ちはだかった。
『ソコヲ……ドケ!!』
「どかないよ」
 瞬時に目の前に現れた絶奈に、ゴブリンも毒の弓矢を構えるが、それより早く絶奈が刀を逆袈裟に振り下ろした。

 ――斬ッ!!!

 絶奈の刀が、ゴブリンの胸を肩から脇腹にかけてさらに大きく斬り裂く。
 それが致命傷となったか、ゴブリンは弓から手を離し、ゆっくりとうつ伏せに倒れていった。


 絶奈たちの目の前で、人語を話すゴブリンが地に伏している。
(「刀から伝わってきた手ごたえは、確かに致命傷だった……もう助からない」)
 だが、死に瀕してもなお、ゴブリンの瞳に宿る憎悪の炎は未だ激しく燃え盛っており、隙あらば弓を引こうとしている。
『ヒキョウ……モノ……コッチヘコイ!』
 その様子を見て、シアニはエアリィと絶奈に向き直った。
「エアリィ先輩、絶奈先輩。あのゴブリンともう1度話させて」
「どういうこと?」
「……この子の言葉、ちゃんと聞きたい」
「うん、わかった」
 エアリィと絶奈が一歩下がると、シアニはかがみ込みながらゴブリンを目を合わせる。
「ねえ、なんで怒ってるの? 教えて?」
『グルルゥ……ハナスコトハナイ!!』
 ゴブリンから拒否されるも、シアニはさらに食い下がる。
「どうして殺そうとするの?」
『アナタニヨウハナイ。ヒキョウモノ……ココニデテコイ!』
 人語を話すゴブリンは、シアニの問いには答えず、憎悪を言の葉として吐き出し続ける。
 その激しい憎悪と殺意も、そして言の葉も、シアニ達√能力者ではなく、常にたったひとり――傲慢な男子生徒にのみ向けられていた。

 ――いったい、どれだけ苦痛に耐え抜いて来たのか。
 ――いったい、どれだけの絶望をため込んできたのか。

 ゴブリンが抱える底知れぬ憎悪と殺意の源を知る術は、もはやない。
 確実なのは、いまだ憎悪と復讐の炎に囚われているゴブリンには……もはや誰の言葉も届かないことだけ。
『オマエ……ノ……セイ……ダ……!!』
 ゴブリンは男子生徒を睨みつけながら、最後の力を振り絞り、弓を引こうとする。
 だが、弓を引き切る前に、手から力が失われ――弓ごと地面に落ちた。
「……ひとりで怖かったよね」
 物言わぬゴブリンに、シアニは小声で呼びかける。

 ――もっと早く助けに行ってあげられなくて、ごめんなさい。

 そう、謝るシアニの目の前で、人語を話していたゴブリンが消滅する。
 最後に零した謝罪の言の葉が空しく消えていく中、校舎内はダンジョンの土壁からあるべき姿へと戻っていった。


「ふぅ、つかれたー」
 エアリィが一息つきながら、精霊銃を納める。
 その間に、シアニは傲慢な男子生徒に近づき、呼びかけた。
「もう、やめよう? 怖い思い、いっぱいしたよね」
「ふん、お前らに説教されるいわれはねぇ」
「みんなも同じだよ。ひどいことされたら痛くて、怖いの。ずっとそんな態度してたらひとりぼっちになっちゃうよ」
「はっ、俺様を誰だと……」
「もう誰も助けてくれない。|あの子《・・・》みたいに復讐しに来るかもしれない。そんなのやだよあたし……」
「復讐だなんて、俺様には心当たりはねえぞ……言いがかりも程々に――」
「だから、やめようよ?」
 ――ポタリ。
 シアニの瞳から、涙が零れ落ちる。
 見ず知らずの子の涙を見て、傲慢な男子生徒も一瞬怯むが、すぐさま高圧的な口調で言い放つ。
「はっ、泣かれようがお前らの――」
「――黙って」
 根拠のない言いがかりに耐えかねたか、絶奈が男子生徒に銃を突き付ける。
 銃口を向けられた男子生徒は、さすがに言葉を詰まらせ、そのまま引き下がった。
「今回は助けたけど、次はないから、覚えておいて」
「うん、ちょーっとは顧みてね?」
 畳みかけるよう告げながら絶奈が銃を納め、エアリィも軽く男子生徒を睨みつける。
 そんな二人を見て、シアニは小声で謝った。
「絶奈先輩、ごめんなさい……」
「気にしないで。……あの性格では、いくら私たちが言葉を尽くしたとしても届かないだろうから」
 シアニを取りなしながら、絶奈は男子生徒の言動を振り返る。
(「おそらく、あの男子生徒は――ああやって心の底から他人を見下し、蔑んでいるのね」)
 この危機的な状況に至っても、教師たちや他の生徒の前で己を優先し傍若無人に振る舞う様子を見ていると、この場の声かけだけでは改心は見込めまい。
 だからこそ、絶奈は助けるならギリギリで助ければいいと思っていたし、実際そうしていた。
 ――ふと、絶奈の脳裏にある推測が過る。
「もし、あのゴブリンが復讐を遂げていたら……シアニさんの言葉は届いたのかな」
 絶奈が口にした推測に首肯したのは、シアニではなく……エアリィ。
「……届いていたかも、しれないね」
(「他の融合ダンジョンでは、人語を話すゴブリンに言葉が届いたこともあったから」)
 その言の葉を、そっと胸の裡にしまいながら、エアリィはシアニと絶奈に告げる。
「ダンジョンも消えたようだし、帰ろう?」
「そう、だね……」
「そうしようか」
 声を届けられなかった後悔を抱えながら、3人は中学校を後にし、それぞれのあるべき場所へと帰っていく。
 ダンジョンが消滅し、あるべき形に戻った中学校と救出された教師や生徒たちを、夜闇がそっと包み込んでいた。

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