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暮色蒼然に咲く
● 暮色蒼然に咲く
眩いばかりに輝く太陽が、砂の混じる地面を照らす。時折潮の香りを乗せて、風が通りを吹き抜けていく。二階の出窓から干された真っ白な洗濯物がはためいて、下を駆ける子どもたちに日陰を作っていた。そんな子どもたちの足元を、緑がさやさやと揺れて。夏が来たねという楽しげな少女たちの声が、賑やかな子どもたちの声に混じる。
浜辺から垂直に軒を連ねる店々。様々な職人たちが集う職人横丁があるこの町は、この時期に最も活気付く。
たとえば花火職人たちが、年に一度の祭りに向けて腕を振るう。打上げ花火の他にも、作業場に併設される店頭には色彩豊かに花咲く手持ち花火たちが陳列され、店の前は子どもたちで一等賑やかだ。
たとえば硝子細工の職人の店では、様々な形や色の風鈴が軒を賑やかに彩る。ひとつひとつが手作りの一点物だ。特に人気なのが、夏の祭りの日にしか売られないという、風鈴の中に花火の光を閉じ込めた品。その不思議な風鈴の中で咲く花火は、色も咲き方も様々に、鳴る音色は凛として美しい。
ほかにも、簪職人の店では着物に合わせる様々な簪が並ぶ。硝子職人とともに作り上げた蜻蛉玉があしらわれた簪は、飴玉の様でもあり可愛らしく少女たちに人気で。他にも縮緬細工の職人とともに作り上げた落ち着いた意匠のものも人気なのだという。
夕方になれば、屋台の立ち並ぶ浜辺はいっそう賑やかになる。美味しそうな香りに、子どもたちが小銭を握りしめて列を成して。
そんな誰もが楽しむこの祭りの日を、好奇に満ちた瞳で見つめる影がひとつ。
●星詠み
√妖怪百鬼夜行の海辺の町で、古妖の封印が解かれるのが見えたと一文字・透(夕星・h03721)が、淡々とした声音に少しの硬さを混ぜてそう告げた。
「事情は分からないのですが、封印を解いた当人は後悔してるみたいです。丁度、町のみんなが楽しみにしているお祭りと重なる日みたいで尚更……」
恐らくは、無理に探し出し声を掛けずとも祭りが無事に終われば、同じことを繰り返す心配はないだろう。幸か不幸か、封印を解かれた古妖もまた祭りが楽しく終われば満足し油断するだろうとも。
「古妖は、キラキラしたものが好きみたいです。だから、お祭りを無事に終わらせることに注力して頂けたら……あ、つまり楽しんでくださいということ、です。ちなみに、お店で一番人気なのは風鈴屋さんみたいです」
まずは昼から夕方にかけて、職人横丁で買い物を楽しんで。夜は浜辺でのお祭りを楽しむ。
「夜は打ち上げ花火とか、屋台での食べ物とか、楽しめるみたいです。夕方には暑さも幾分和らいでるみたいなので、その頃から動くのがおすすめです。浴衣で楽しむ人も多いみたいですよ」
それでは、よろしくお願いします。ひとつ頭を下げて、星詠みは海辺の町への道を示した。
第1章 日常 『妖怪横丁』
