浮気男に制裁を
華やかな花が舞う。町中の花が集まっているのかと思うほど、あちらこちらに季節の花が咲き、飾られ、華やかな彩りとなる町の中のとある居酒屋で、がーん!!とビールジョッキをテーブルに叩きつけた女が一人。
「なんでよ……なんでなのよぉ!!」
うぐぅと唇を引き締め、泣くものかと我慢しながらもその瞳には涙が溜まる。
「なんっっで……花祭りの日に浮気なんて見ちゃうのよおおお!」
彼女はこの町で行われる花祭りの日に、彼氏の浮気を目撃してしまい、こうしてヤケ酒をしているのだった。それは言ってしまえば、日常の悲劇のひとつ。これだけであるなら、一人の女が可哀想なだけで終わる話。
『…………ならその恨み、私がはらしてあげましょう』
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「どこの世もどの時代も、男女関係なく浮気ってぇのは罪なもんで」
くるりと傘を回して|護導・桜騎《ごどう・おうき》(気ままに生きる者・h00327)はやれやれと言わんばかりに呟く。
「さて、√EDENで古妖「紅涙」の出現が予知されやした。「裏切りに基づく理不尽や悲劇」に嘆き苦しむ女性の元へ訪れるってぇわけで、どうやら今回は男に浮気されて振られた女の元へ来るようですよ」
そう、どの時代でもそういう話は常にあり、日常の悲劇のひとつ。浮気を許せるか否かはその人間の価値観によるものであるが、ここに古妖が手を出すのであれば話は変わる。
「このまんまじゃ、浮気男は殺されちまう……まぁ、半分自業自得とも思えやすが、とりあえず今回はそれを阻止してもらいたいんですよ。どうやら現場の町は今、花祭りって祭りをしているようでね……そこで、まずは今回古妖が現れる予定の女に先に接触し、彼女と話をしてほしいんですよ」
「話を聞いてやるなり、共に過ごすなりして男への恨みが消えりゃ、先の運命も変えられるでしょうよ。とはいえ、当然恨みが消えたとこで古妖は止まらない。下手すりゃ、今度は女を殺そうとする」
古妖「紅涙」の精神は壊れ、歪んでしまっている。それ故に、同情をよせ、恨みをはらしてあげましょうと寄り添った相手すら何かのきっかけであっさりと殺してしまうのだ。
「どちらにせよ、一般市民が殺されるのを見逃す訳には行かねぇって訳でしてね……ま、頼みましたよ」
あ、そうそう、と思い出したように声を出し、
「女の名前は『井上沙也加』。今はどうやら、やけ酒の真っ最中、ってとこらしいですよ」
第1章 日常 『四季折々の花祭り』
「お客さん、飲み過ぎだよ」
「これが飲まなきゃやってらんないってもんよぉ!!」
花祭りで賑わう町の一角の居酒屋、そこではぐすぐすと泣きながらビールジョッキを重ねる女が一人。井上沙也加を見つけた|青柳・サホ《あおやぎ・さほ》(忘れじの春・h01954)は彼女に近寄り、自然な仕草でその隣へと腰かける。
「ここ、いいかしら?」
「へ……?え、ああ、どうぞ……」
どうやらヤケ酒をしつつもまだ多少なり理性は残っている様子で、沙也加がそっと空になったビールジョッキを自分の方に寄せるのに礼を言ってから、自身も居酒屋の大将に酒を頼んで、さて、と彼女に目をやった。
「なにかあったの?随分と飲んでいるようだけど……」
「…………浮気をされたの」
心配そうに声をかければ、酒のおかげか、はたまた同性という気安さか、ぽつんと沙也加が呟いたのに青柳は目を細める。これなら話ができそうだ。
「わかるわ……私も同じような経験があるの。飲まなきゃやってられないわよね」
「え?!」
がばっ!と沙也加が顔を上げる。そんな彼女にほんの僅かに笑みを浮かべて、大将にチェイサーも頼み、彼女にそっと差し出し、
「良かったら、話を聞かせて?」
その言葉に目を潤ませた沙也加の口からは、ぽろぽろと言葉が溢れ出していくのだった。
●●●
「今日、約束してたのよ……一緒にデートしようって!けどあいつ、急な仕事が入ったって言うから……それなら一人でお祭り巡ろうと思ったら、あいつ!私の後輩とお祭り巡ってたのよォ!!しかも、腰なんか抱いちゃって!なにしてんのよって突撃したら、後輩とも付き合ってたって言いやがってぇ……!!」
ワーーン!と堰が切れたように泣き出す沙也加に、傍に寄り添って水を差し出しつつ、こくりと頷く。つまり彼女は二股をかけられたらしい。
「わかるわ……私も同じような経験したもの。昔、付き合っていた彼氏が就活失敗したから実家に戻るからついてきて欲しいって言い出して……、無理すぎてね、別れたんだけど、そいつ、2ヶ月も経たずに結婚したって!」
「え、なにそれ……別に付き合ってた人がいたってこと?」
沙也加の言葉に深々と頷く。
「私がダメだったからもう1人と結婚したんだろうね。ほんとあり得ない」
「なにそれ有り得ない!!」
「そうよ。何にせよ私は悪くないし、貴方も悪くない。
飲もう!飲んで忘れよう!そんなつまんない男に時間使うの勿体ないよ。そしたら次のいい男探そ!」
世の中、もっといい男がいる!それこそ、本当に大切に思ってくれる人もいるはずだ!と彼女を鼓舞すれば、そうだよね、と沙也加も乗り気で頷く。
「貴方はどんな人が好みなの?」
「傍に居て笑顔になれる人……、一緒に笑い合える人がいいな……」
「素敵じゃない。今回の男はそういう男じゃなかったのよ。そんなやつ、忘れた方がいいわよ」
「そうだよね……、恋はこれっきりじゃないものね!」
沙也加の目が輝く。そうして彼女はにっこりと笑い、青柳との恋の話に楽しげに花を咲かすのだ。浮気男への恨みの念をしっかりと忘れ流すように。
第2章 ボス戦 『紅涙』
ああ、ああ……、なぜ、なぜ、忘れてしまうの。
女の声が響く。冷たい風がふきぬける。
恨みは恨みのままに、男を罰さないのならば、
「お前を殺してしまおう」
許してはならない。恨みは晴らすべきだ。そうでないならば、お前を殺そう。
「え……」
沙也加が顔を上げた瞬間、そこにその古妖は現れる。彼女が恨みを抱いた男を殺すためではなく、恨みが消えたと前を向き始めた彼女を殺すために。
「男にビンタのひとつ見舞ってやる所を見たかったのは同意だがね」
今まさに紅涙が沙也加を殺そうとした瞬間、凛とした声が響き渡った。
「それと同じくらい、吹っ切った女の顔ってのは美しいのさ」
鋭く放たれた鎖が紅涙を拘束すると、一気に沙也加から引き離し、クリスティーナ・ガトルード(羽舞うように・h07533)は目を大きく見開く沙也加に「離れてな!」と声をかけた。
「は、はいっ!」
慌てて沙也加が引き下がったのを確認すると、すぐさま紅涙へと目をやる。紅涙は自身を拘束する鎖から逃れると、標的を沙也加からクリスティーナに変えて、その手で近くに街灯を引き抜き、それを槍のように構えた。
なるほど、この古妖は周辺にあるものを武器とすることが出来るらしい。
「はん?まぁ、いいさ、かかってきなよ」
たんっ!とその衣装に見合わなぬ素早さで紅涙がクリスティーナに接敵する。グッとクリスティーナが踏み込み、素早い動きで紅涙の足元を鋭く払った。いわゆる、足払いであり、ぐらりと彼女の動きが一瞬止まった隙にキャリーバッグを構えてその額に向かって振り下ろす。
「っっ!!!」
ぼきぃ!!という音がして、紅涙の額の角が音を立てて折れた。
「アンタはもっと風を浴びるべきだ。
恨みつらみは何もしなけりゃ自身に纏わり澱んでいく一方だからな。
美しくない以前に健康に悪いぞ」
紅涙がクリスティーナを見上げ、街灯を振り上げる。それがクリスティーナにかすり、痛みに一瞬舌打ちをするも、ふん!と直ぐに笑みを浮かべる。
それはどこまでも強く、美しい笑みだった。
「……ここはどこだ」
男は白い仮面越しに周囲を見渡して低く声をこぼした。
これから重要な会議があるのだ。時間にはまだ余裕があるが、だからといって呑気にしている場合ではない。最近こういうことが多い気がする、が……今はひとまず知っている場所へ出ることが先決だ。
うん、と頷いて男ことプレジデント・クロノス(PR会社オリュンポスの|最高経営責任者《CEO》・h01907)は歩き出す。今までもこうしていればいつの間にか元の場所へ戻っていたのだ。なので今回も経験則に従って歩き出す。
「……邪魔をするの?」
ふと声が届いた。振り向けば、女がいた。なにやら重苦しい着物を着ているが、それは個人の自由だ、構いはしない。
「私はただ仕事へ行きたいだけだ」
はて、この女の邪魔になるようなことを自分はしていない。ただ普通に歩いて前を通り過ぎようとしただけだ。少し離れたところに別の女も立ってなにやら怯えた目をしているが、あちらも知り合いでは無い。ので、別に邪魔をするつもりは無いので失礼と通り過ぎようとした瞬間だった。
女が、腕を振り上げたのが見える。その手を振り下ろそうとするのを察して、すぐさま拳で受け流す。
「貴様も襲撃をかけてくる質の者か……」
大変不本意ではあるが、こういうことは多々、ある。自分をCEOと知ってか知らずか、こうして襲撃を仕掛けてくるものがいるのだ。とはいえ、こちらも簡単に負ける訳には行かない。
「ならば、押し通らせてもらおう」
こちらには仕事がある。5分ほど相手になろうと告げて、プレジレントは拳を構えた。
女が繰り出す攻撃を拳で受け流す、動きは早いが避けれないほどではない。ならば、勝機はある。
「はああ!」
受け流した攻撃に女が一瞬、ほんのわずか気を逸らした瞬間、咄嗟の一撃をその腹に向かって叩きつける。どんな生き物でも、大抵腹部というのは弱い。ぐっと女が膝を着いたのを見遣り、自身のスーツの皺をびしりと伸ばして、
「では失礼する。仕事があるのでね」
さぁ、急がねばと、プレジデント・クロノスは歩き出す。ここが別の√であることも、自身の動きによって一人の女性の命が助かったことも何も知らずに。
彼は今日も、仕事へ向かうのだった。
ふと、『臭い』が漂った。
「っっ」
襲われている状況だというのに、決して無視ができない悪臭が、ゆっくりと向かってくる。
「なるほど、鬼、ですかね」
ぬぅと背後から出てくるような声と悪臭に沙也加がひっ!と小さく悲鳴をあげて背後を見る。そこには鎧武者がいた。ぱちりと目を大きく見開いて固まる沙也加をよそに、鎧武者……|白影・畝丸《しらかげ・うねまる》(毒精従えし白布竜武者・h00403)は、ふむ、と首を傾げる。
「毒は効くんでしょうか……」
鬼のように思える女、紅涙を見やる。まぁ、物は試し、
『精霊の皆さん、出番ですよ…』
その囁きとともに現れる精霊たちが一気に紅涙へと突撃していく。
「くっ!」
一体一体は大したものではないだろう。だが、数が多い上に、その精霊達が触れた瞬間、紅涙の体が僅かに動きを止めた。
「効くようですね」
よしよし、と満足気に白影は頷く。
「あ、あの……」
「ああ、そこに居てくださいね。なにか攻撃が来ても、僕が守れますので」
恐る恐ると言ったふうに声をかけてきた沙也加にそう答える。自身の大鎧型祭壇と鉄壁であれば、彼女の事を身を呈して守れるだろう。
さて、毒を浴びてるとはいえ、まだまだ動けそうな紅涙に、白影はさて、どうしようか、と思案するのだった。
尽く邪魔が入るのに紅涙が僅か、イラついたように目を細める。
ああ、この女を殺せればいいのに、それでいいのに。
対して沙也加もまだ動けずにいた。
先程から助けがなぜ入るか分からないが、下手に動けば殺されてしまうと直感してだ。
硬直状態とも言える瞬間、二人の間を割くように【霊柩車】が勢いよく割り込んできた。
「えっ」
「おっと失礼!お邪魔させてもらいますよ!」
中から出てきたのはどこか気楽な笑顔を浮かべる男、|写・処《ウツシ トコロ》(ヴィジョン・マスター・h00196)であった。
彼は霊柩車から降りて、紅涙と対峙するとやはりにっこりと笑う。
「さて、パパッと片付けちゃいましょうか!」
カチャリと彼の腰には一振の刀、【霊剣・一文字】がその存在感を放つ。そして、グッと踏み込んだ。
宵闇抜刀術……、元来抜刀術とは間合いの見極めが難しい。しかも、紅涙は決して刀の扱いに長けているわけではない。あくまでも嫁入り道具たちの怨嗟の力を借りているのだ。
「……ああ、また邪魔をするのね……」
彼女が血の涙を流しながら語る、かつて幸せだった頃を、その断片を。
それは物語となり、彼女の周囲を変えていくが、それを見過ごす訳には行かない。
「おっと、その前に片をつけさせてもらいますよ!」
写の構えた【霊剣・一文字】が一条の光を2度放つ。それは美しい白刃の煌めき。
それは攻撃を行おうとした紅涙の体を確かに傷つけたのだった。
「大丈夫か?」
沙也加にそう声をかけ、|十束・新貴《とつか・あらき》(三度目の正直・h04096)は、紅涙と対峙した。
幾人かの√能力者との戦闘により、彼女はだいぶ弱っているようであったが、まだ沙也加を害す気であるらしい。全く見習いたくない執念というかだが、困っている人間を放っておけない十束はここで沙也加を放っておくという選択肢はなかった。
「……あぁ、邪魔ばかり……!」
血の涙を流しながら紅涙は語る。それはかつての幸せな日々の欠片、満ち足りていた時の欠片を。
その語りに目を細めながら、十束は同時に動きだす。向こうの攻撃を浴びる前に倒してしまった方がいい。その判断からだ。
「|電爪索敵《エレクトロ・ハント》、作動」
その言葉と共に周囲に球体のファミリアセントリーが現れる。そして次の瞬間には、一気に加速して紅涙を包囲し、
「やれ」
「っっ?!」
その一言と共にファミリアセントリーは一気に紅涙へ向かって電撃を放った。
一撃一撃は確かに弱い、だが、数があれば威力は上げられる。
25体ものファミリアセントリーの攻撃に、紅涙は大きく目を見開き、やがてその姿を消し去るのだった。
第3章 日常 『お洒落なカフェで一服』
花が舞う。
人知れず戦いは収まり、夜の帳が降りた街中にはそれでも花が舞い、人々の楽しそうな声があちらこちらで上がる。
花祭りも終盤、恋人がいるものもそうでないものも、揃って街中に繰り出して最後のひとときを楽しむ。
「……よし」
その中で沙也加は立ち上がると歩き出した。その顔に憂いは最早ない。
何故か助けられた命を胸に、彼女は前を向いて歩き出した。
さぁ、ここからはエピローグの時間。
穏やかに束の間の平和な時間を楽しむとしよう。
花が舞う。ひらりひらりと、人びとの笑顔をのせて。
きらきらと輝くように花びらが降り注ぐのを、ハッハッハッ!と舌を出し、目をキラキラと輝かせ、くるんと巻かれたしっぽを元気に振りながら|見下・ハヤタ《みした・はやた》(弾丸黒柴号・h07903)は、見上げていた。
今日も今日とてごしゅじんにバレぬよう脱走してきた黒柴仔犬は、気づけばたどり着いた、花がまう街中をぽてぽてと歩く。
くむくむと鼻を鳴らしながら嗅げば、香しいというより、人より何倍も嗅覚の鋭い彼からすればちょっとキツすぎる花の香りに、ぷしっ!と、くしゃみをひとつ、ふるふると首を振る。
匂いは些か濃いけれど、人々が笑顔で歩いている様子は中々に楽しい。気後れすることなく、好奇心いっぱいに目を輝かせて歩き進むハヤタを、周囲の人々はあらあらとなんだか微笑ましく見ていた。
「わんっ、わんわんっ!」
(ひらひらだー!)
そうしてたどり着いたのは、広場。そこでも花が沢山舞って、風に運ばれて自分に降り注ぐ花びらに、たん!としっぽを揺らして体を跳ねさせる。
脱走から家に帰った時、彼の体には花びらが着いていて、ご主人があれ?と首を傾げるかもしれないが、そんなこと気にもせずに黒柴の仔犬は今日も元気にはね回るのだった。
花が舞う。
人々の楽しげな笑顔と共に、ひらりひらりと花が舞う。
「……美しい」
人々が笑い、花が舞う光景を見ながら、|ルイ・ラクリマトイオ《涙壺のルイ》(涙壺の付喪神・h05291)は、ほうと吐息を吐き出した。
人々の笑顔、それは愛ある光景だ。老若男女問わず、楽しげに笑いながら祭りの最後を惜しんでいる。
そっと足を踏み出して、花のアーチによってトンネルとなっている広場をゆっくりと歩き進めていけば、ぽつり、ぽつりと恋仲らしき、あるいは夫婦らしき人々が互いに体を寄せあい、美しい花々をみながら語り合っていた。
「…………」
ルイは涙壺の付喪神だ。かつて、戦場へ赴く夫を思い妻が流した涙を溜めるために作られた壺……。夫の無事を願いながら流された涙、あるいは夫の不幸を伝えられて流された涙、多くの涙が彼の壺に溜められ、その思いはやがて形となった。
「……」
そっと柔らかな笑みを浮かべる。この光景がずっと続けば良い……。戦場へ夫を取られることもなく、ただ、寄り添い、共に暖かな日々を送る幸せをいつまでも感じていて欲しい。
そんなことを思いながら、ルイは楽しげな音に、声に、目を細め歩き進むのだった。
「賑やかですね……」
花の舞う街を見、その顔に穏やかな笑みを浮かべて|峰・千早《みね・ちはや》(ヒーロー「ウラノアール」/獣妖「巨猴」・h00951)はゆっくりと足を進める。
ここへはたまたま立ち寄っただけであるが、√を守り、人間の命を守り、酒や食事を楽しむ。登山を楽しむ。そんな価値基準を持つ彼にとって、この光景は決して嫌なものではない。むしろ暖かなものが心に満ちるような光景だ。
「いらっしゃい、お客さん、なんにします?」
「ならオススメのおつまみとお酒を」
そうして何気なく入った一件の居酒屋で、カウンター席に座りながらそう注文をする。その土地その店特有のおすすめ品や酒というのはいいものだ。なんて思いながら、陽気に酒を、食事を楽しむ人々をカウンター席から見守る。
「はい!お待ちどうさま!地ビールと焼き鳥の盛り合わせだよ!」
「ありがとうございます」
そうして運ばれてきた酒と料理に礼を言って運ばれてきた料理を見る。湯気を立てる焼き鳥はタレの味付けがされているようで、その甘辛い香りが食欲を唆る。その横には地ビールと言っていた、泡を立てる金色の酒がひとつ。
いただきます、と告げてまずはそのビールを1口。
「……美味しい。少し花の香りがしますね」
「お客さん気づいたかい!こいつはここらの名物でねぇ!」
「ええ、飲み口も爽やかでとても美味しいです」
微笑みながらもう一口のみ、焼き鳥を頬張る。濃厚なタレの味に、肉の旨みが相まってこれも美味い。
うん、いい店だなんて思いながら、ゆっくりと花の街の夜を千早は楽しむのだった。
●●●
こうして、ひとつの事件は幕を閉じ、花の街の祭りの夜はゆっくりと終わりを告げていく。暖かな光を人々の胸に宿しながら。