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⚡️オーラム逆侵攻『カワサキ・ライジング!』
「ぱんぱかぱーん! パンドラが来ましたよ! 何か大変なコトが起こりそうです!」
賑やかに声を上げた後、星詠み、パンドラ・パンデモニウムはごそごそと服の中から一枚の紙を取り出した。
「ええと……『√EDEN侵攻を企てる、統率官『ゼーロット』……! しかし幸いにも、戦闘機械群に侵入した二重スパイの妨害もあり、敵は未だ軍備を整えていない様子。
√ウォーゾーンの敵拠点『レリギオス・オーラム』をこちらが逆に急襲し、ゼーロットの軍備を先制攻撃で破壊しましょう! 『オーラム逆侵攻』のはじまりです!』
……ふう、噛まずに読めました!」
明らかに棒読みながら、星詠みパンドラはカンペを読みきり、√能力者たちを見回した。
「まあなんて言うんですかね……とにかくいっぱいやっつければこの後の展開が楽になります! くらいのシンプルな考えでもいいんじゃないかとは思います! とにかく、ゼーロットさんとかいうポンコツとその配下との戦いになります。ただし……」
と、パンドラは咳払いし、ピンと人差し指を立てて、ひとこと一言区切るように伝える。
「|前哨戦《第一章》を超えた|次の戦い《第二章》がどうなるかは、今の私では星を詠めません。じゃあどうなるかって言うと、……皆さんです! 皆さん自身が星の動きを定めてください! つまり、皆さん自身で「相談」をすることで、次の戦場が決まっていきます。星詠み以外の√能力者の皆さんも戦いの展開を左右し得る、ということですね。で、具体的には……」
パンドラはもう一度ごそごそと服の中をまさぐり、もう一枚のカンペを取り出す。
「えっと、こうです。
1:ゼーロットを直接ぶん殴るため羽田空港へ!
2:戦闘機械群を殲滅するため川崎市中央部へ!
3:√EDENへの侵略を防ぐため大黒ジャンクションへ!
4:囚われた√能力者を開放するため扇島へ!
5:謎の簒奪者「合体ロボット・グロンバイン」の拠点を破壊するため三ッ池公園へ!
……どれも大事な目標ですよね。どれが絶対必要とは言い切れず悩ましいですが、この5つのうちからどれかを選んでいただくことになります」
その投票は「一言掲示板」で行ってほしい。
もちろん意見を交わし他者を説得するもよし、意見とか大変そうだなと思うなら単純に「行きたい場所・番号だけ投票」でもいい。途中で方針を変えても一向に構わない。二章が始まるまでは自由に発言していただきたい。
……さらに言えば別に発言を強制するわけでもない。誰の発言もなかったら、行先はパンドラが決めることになるだろう。
説明を終えると、パンドラは川崎へと続く√を示す。
「最初からいきなりバトルになっちゃいます。心の準備をしておいてください。戦闘そのものも大事ですが、最終的にどの地を目指したいか、も考えてくださいね!」
第1章 ボス戦 『DEM-504』

√能力者たちの前に現れたのは川崎地区を防衛する無数の戦闘機械群だった。
『グッモーニン√能力者! しかしこの先へ行かせるわけにはいきません! あなたたちの狙いが、この川崎の重要ポイントたる5か所のどこであろうともです!』
なんかすごくいい感じに爽やかな戦闘機械だが、爽やかに重要なポイントのこと喋っちゃってる気がするけどいいんでしょうか。
まあ気にする必要はない、とにかくやっつけろー!!
「こんにちはDEM-504さん!」
「おはよう機械!」
今日も元気だ、いい子は朝の挨拶忘れずに。
『グッモーニン√能力者! 挨拶は大事ですね!』
ぺっこりと頭を下げた|椿之原・希《つばきのはら・のぞみ》(慈雨の娘・h00248)と、勢い良くひょっこり手を上げたシアニ・レンツィ(|不完全な竜人《フォルスドラゴンプロトコル》・h02503)に対し、防衛線を引いていた戦闘機械DEM-504はギアを駆動させギッコンバッタンと大きく上体を倒した。礼のつもりらしい。
もちろん、希はいい子なので礼にはちゃんと礼を返すのである。
「はわわ、こ、これはごていねいに……」
『むっ、これはこれはご丁寧にアゲイン』
「これはこれはこれはごていねいに」
『これはこれはこれはこれは………』
のどかだなあ。
「……いやエンドレスかな! あたし運動力学の法則をぶち破る永久機関オブ挨拶を発見しちゃったかなぁ!?」
お互いに永遠に挨拶し続けかねない勢いの希とDEM-504に思わずツッコんだシアニに、DEM-504はおっと! といった様子で振り向いた。
『これはソーリー、-あなたにも挨拶アゲインをしなければ失礼に』
「いらないから! アゲインいらないから!」
『ホワッツ!?』
「ホワッツじゃないんだよ!? 軽いな! 機械軽いなあ!!」
ロボットとはもっと重厚でかっけー存在であってほしい! そう切に願わずにはいられないシアニが、うがー! と吠えた声に、希は可憐な目を大きく見開いた。
「えっ504さん軽いですか? 重そうに見えるですけど……」
「そっちの重いじゃなくてね! うわあ思ってた以上に大変だぞこのダブルツッコミ空間! でも希ちゃんは可愛いのでよしとするよ!!」
『心配ナッシン。私は全備重量1トン、あなたがたよりは多分重いと想定されます』
シアニの心労なんざ知らねえとばかりにドヤっと鋼の胸を張った504だったが、続けて若干声のトーンを落として続けた。
『もっとも、もちろんこの先の三ッ池公園に現れるというグロンバイン様よりは軽いと思われますが……』
「……そのこうえんにぐろんばいんさんがくるんです? 教えていただいてありがとうございます」
『えっ!? なぜそのことをご存じで!?』
「………いま504さんそういいましたよ?」
『オーマイ! なんという巧みな誘導尋問でしょうか、さすが√能力者です!』
無邪気な希に愕然とする504。何だろうこの機械。思わずシアニは頭痛を抑える。
「……軽いなあ! 機械、口軽いなあ!」
「えっ504さんのお口、軽いんです? お口はなさそうに見えたです?」
「いやそっちの軽いじゃなくてね! まあ可愛いのでよしとするよ!」
頑張れシアニ。ダブルツッコミ超がんばれ。
『くっ、しかしグロンバイン様降臨の場所を知られたからにはこのまま通すわけにはいきませんよ! さあおとなしくゴーホームです!』
「……知られたからにはっていうかさ……そっちが勝手に……まあいいや……これ以上イメージ壊れる前にすぐ壊すよ!」
「通せんぼしちゃいやなのです504さん! もうっ、通してください!」
かくしてなんやかんや、希&シアニとDEM-504の凄まじい戦いの火蓋は切って落とされたのだ!
「ツッコミ過労死する前にとっとと突破しちゃおう! この速さについてこられるかな!『|不完全な竜は急に止まれない《フォルス・ドラグアサルト》』!!!」
シアニの内部から膨れ上がった甚大な魔力がそのしなやかな脚部に収斂し収束する。天空のような輝く色彩の中で、彼女の両脚は変貌する! 竜のそれへと! 竜の疾さを身に宿す、これぞ彼女の√能力だ!
シアニは軽やかに鮮やかに、風を纏う竜の速さで大地を疾駆し、戦闘機械の背後へ廻ろうとする。だが敵もさるもの!
『ほほうあなたも変形型とは奇遇ですな! では私も! チェーンジ決戦モード!
スイッチオン! いやあ変形はいいですなあ!!』
ギガゴゴゴ! 小気味いいギアの駆動音と共に、DEM-504は高速形態へと変形し、シアニに陣形を破らせまいと疾走を開始したのだ!
「あたしは変形違う! 変身!」
『まあだいたい同じですよ!』
「どっちもカッコいいけど同じじゃないと思うな!! ロマンの方向性の違いについて一晩語り尽くしたい!」
ギャリギャリギャリ! 激しく討論する両者の間では、大地を削り土煙を立て、超高速の対決が巻き起こる! 時間を超え空間を歪ませて、翔竜とハイスピードマシンの音を超え光に迫る戦いが繰り広げられた! ロマンについて語りながら!
しかしその両者の均衡を破ったのは――。
「……「しずく」、やっちゃってください!」
『了解しました』
ぷよーんって飛んだ砲台が色々計算してしゅばばばーってレーザーを撃つ攻撃であった!
……よくわからない?
ならばもう一度言おう。
ぷよーんって飛んだ砲台が色々計算してしゅばばばーってレーザーを撃つ攻撃であった!!
まあ端的に言えば、希の結晶型レイン砲台「しずく」が、星降る夜の奇跡のごとく、鮮やかにして華やかなレーザーの雨を降らせたのである。
そしてその対象は――
大地だ!
威力百分の1ながら300発のレーザーは見る間に大地を穴だらけにしてしまった。そこへ超高速の疾走マシンが突っ込んだらどういうことになるだろうか。超高速であればあるほど僅かなバランスの崩れが致命的となる!
『ぐ、ぐわあああ!!!!????』
DEM-504は天空に吹っ飛ばんばかりの勢いで大クラッシュ! そこへとどめとばかりにシアニのハンマーが空気を引き裂いて唸りを上げた!
「うりゃああ爽やかクラーッシュ! 爽やかにさようならー!!!」
爆裂的にぶっ飛ばされたDEM-504はキラーンとお星さまの彼方へと消え去ったのだった。その光景をぶんぶん手を振りながら見送った希は、少し心配そうにシアニを振り返る。
「ばいばいなのですー……えっと、やりすぎちゃいましたか……?」
「希ちゃんは可愛いから何でも良しとするよ! うんうん!」
「おーおー、役に立たねえ|戦闘機械群《ガラクタ共》がいっぱいじゃんね」
楽し気に哄笑する|凍雲・灰那《いてぐも・はな》(Embers・h00159)の痛烈な罵倒に、待ち構えていた戦闘機械DEM-504たちは一斉にブーイングを……いや、BEEP音を鳴らした。
『BEEP! BEEP! √能力者殿、失礼ながら認識に齟齬があるご様子!』
「ふーん。ガラクタじゃなきゃなんて言えばいいんだ? ポンコツ? それともジャンク?」
『むむむ! √能力者殿ののそのお考えは少々問題があります!』
「おー、一丁前にプライドでもあるってか? 鉄クズが?」
顎を逸らし、ギラつく瞳で挑発的に鋼の機械群を見下した灰那に対し、DEM-504たちは毅然と言い返した!
『よろしいですか、今はリユースやリサイクルの時代! ポンコツやガラクタを見下すのではなく、そこから新たな価値を再生することが地球のためになるエコなのです!!』
「……怒ってたのそこかよ!?」
『ポンコツの中にこそ未来がありガラクタの中にこそ可能性が眠っているのです! さあ√能力者殿もエコの道に目覚めましょう! さあさあ!』
一斉に迫ってくる戦闘機械たちに、灰那はブチ切れる! そらそうだ!
「√EDENに侵略して環境ぶち壊そうとしてるやつらがエコ語るんじゃねえ!」
『目先のことに囚われて長期的な視野を見失ってなりません。エコを軽視するのはエゴというものです。HAHAHA今私上手いこと言いました!』
「上手くねェからな!? ええい、兎に角やっつける!」
|おお、讃えよ《イア・イア》! 灰那の髪が真紅に燃え上がったかのような鮮烈なオーラが噴きあがる! いやそれは錯覚ではない、世界が紅に染め上げられたかのような焔が銀河の彼方、フォーマルハウトの虚空より呼び起こされたのだ!
「揺れる燈火、虚ろなる赤。我が命に従い、生命の熱を識り、生命の熱を絶て――――『|炎を齎す者の召喚《サモン・ミニオンズ・オブ・クトゥグア》』ッ!!」
それこそは恐るべき古の物の血を引く灰那の力! 沸き立つ炎の躍動は地上の物理法則に従わぬ異形の落とし仔たる所以を明かすもの。燃え盛る炎の魔神たちは旧き軛から一時解き放たれた喜びを破壊という名で刻み付ける!
「さァさァ御出ましだぜ|下僕共《焔の精》! 獲物は山積み、選り取り見取りだぜ? 雑に薙ぎ払うのは|厄災《オレ》の大得意だ。派手にいこうじゃねェかよ!」
高らかに嗤う灰那の命の下、跳ねまわる炎の精たちは鮮烈な光を引いて一斉に戦闘機械群へと襲い掛かった!!
『むむ奇怪な! 私たちは機械ですが! HAHAHA上手いこと言いました!』
「上手くねェからな!?」
『されどこの速さについてこられますか!』
だがDEM-504どももただのガラクタのポンコツのジャンクではないのだ! 鋼のボディが真紅に染まった次の瞬間、赤い流星が流れ行くかのような色の付いた風が吹き抜ける! それこそは超高速モードへと切り替わったDEM-504の機動戦形態だ!
赤い軌跡だけが残像を空気に刻み、右に左に灰那を目掛けて押し寄せる。炎の精たちは熱線を放ち炎を渦巻かせ迎撃せんと試みるが、戦闘機械たちはその高速機動性を活かしすべてかわしていく。
『HAHAHA!いかがですかな能力者殿! これでも我らがポンコツだと!?』
「気にしてたんじゃねえか! ……だがな」
されど灰那の口元に浮かぶは不敵な笑みに他ならぬ。
「やっぱりてめぇらはポンコツだぜ。マシンであるてめぇらの一番の天敵は何だ? そう、這い寄るものに対する燃えあがるもののような……天敵はよ?」
『何ですと!?』
「そいつぁ……『オーバーヒート』だろうがよ!」
おお見よ! 炎の精たちの攻撃は外れはしたが、同時にその目算を見事に達成していた! 周囲一帯を炎の渦に包み込み、大気の温度を急激に上昇させていたのだ! 焔の嵐のような攻撃を回避するため過剰なほどの超高速形態で機関を過熱化させていた……いや、「過熱化させられていた」ともいうべき戦闘機械たちはもはや冷却が追いつかぬ!
『し、しまったですぞ!?』
「オラオラオラオラァ!!! 燃え尽きなァ!!!」
バーストを起こし動きの止まったDEM-504たちに対し、炎の精は一斉にとどめの業火を撃ち放った!
『GHAAAA!!!!!!』
次々と爆発していく機械群の中を、灰那は悠然と歩み去る。
その顔を炎に照らされながら、まなざしは冷たく冷えて。あたかも――冷たい炎のように。
「いざゆかん巨大ロボ! 目指すは三ッ池公園ですよ!」
『あ……あんた何者だ! 三ッ池公園に我らが偉大なる合体ロボット・グロンバイン様の拠点たる天蓋大聖堂カテドラル・グロンバインがあり、厳重な武装と軍勢に守られているが、川崎市周辺で最も巨大なロボット工場であるここを破壊できれば、ゼーロット様を飛び越えて、戦闘機械群全体に打撃を与えることができることを知っているとは!』
「おっけー今だいたい知りました! ……っていうかあなたたちのプログラムには相当致命的なエラーがあるようですね!」
『ほう、戦闘を極めた私たちのプログラムにエラーが!? 面白い、見せていただきましょうか!』
「わーいアホの子たちだー」
|真心・観千流《まごころ みちる》(真心家長女にして生態型情報移民船壱番艦・h00289)は彼女を取り囲んだ戦闘機械DEM-504に対し、ダメだこいつら―的な天真爛漫な笑顔をにこやかに振りまくと、不意に声のトーンを落とした。
「……えっとですね。私も生態型情報移民船。すんごくでっかいカテゴライズすると、まあ|機械群《あなたたち》の一種に含まれなくもなくもないかなーみたいなスタンスにいなくもないわけで……遠い遠い縁者みたいなあなたたちがそこまでアホを晒すと私まで恥ずかしくなるのでやめてもらえないですかね!」
『な、なんですと! 我々だって一生懸命警備の任務を務めているのです。一生懸命なロボに対してそういう、そういう強い言葉を使うのは良くないと思いますぞ!』
「うわーミニマムに正論吐きながら√EDENに侵略しようとしてる時点でマキシマムにクソ悪党なのもやめてもらえないですかねめんどくさいから!」
観千流は心底うんざりした顔でさっさと戦闘態勢に入る! 彼女はここに漫才しに来たわけではないのだから!
「もうサクッと撃破しちゃいますよ! |異能ならざる未来の予言《ロジカル・デスティネーション》!!」
瞬時、観千流の周囲の時間の流れが鉛のように重くなる。いや、彼女の思考速度が超高速に移行したことにより観測時間が相対的に低下したのだ。刹那と呼ぶのさえ遅いその一瞬の中で、観千流は戦闘機械たちの行動パターンを把握し認識し完全に掌握する!
スローモーな時間の中で観千流は銃を抜き放ちフルオートで斉射。音が聞こえてくるのはまだ先の話だ。
しかし侮ることはできぬ、その瞬くほどの時の間の中でさえ、さすがにマシンゆえの高速性と正確性、DEM-504たちは即座に対応し高速機動形態へと変形を開始していることを観千流は観測している。
迫りくる敵影を空間を歪曲させてかわし、観千流は空を駆け舞うように身を翻しながらその動きを見定めた。
「確かに、あなたたちの反応速度は早く処理も迅速、ですが――」
観千流の弾丸が大地を砕き分解していく。その恐るべき威力を明確に測定した戦闘機械群は、彼女の射界を回避し包囲陣形を取ろうと動く。……観千流の読み通りに。
「だからこそ、あなたたちは1を聞いて10を予測しすぎる。さきほど私が言った一言から情報が全部知られていると思い込んだようにね」
そう、冒頭の会話は観千流が敵の思考パターンを読むために撒いた伏線! 決してただのギャグではなかったのだ! ほんとだよ! 信じよう!
「だから……行動も誘導しやすいんです!」
ばら撒いた銃弾と削れた大地により誘われるように、DEM-504の集団はいつしか大きく動かされていることに気が付かぬ。驟雨のような弾丸を回避し攻撃に転じようとした瞬間に、彼らは理解する。
目の前にもう一団の自軍集団がいたことを!
『こ、これは!! 気を付けるのです私たちぃぃ!!』
「言ったでしょう、あなたたちにはエラーがあると。もう……見せましたよ」
次の瞬間、凄まじい激突による爆発が大地を揺るがした!
戦闘機械群は無情なる同士討ちの衝撃により、天空高く吹き飛んだのである。
『グワアアアアーッ!!!???』
「…………いや、うん。まさかとは思いますが」
観千流は星の彼方へきらーんと消えた機械たちを見送りながら、一抹の不安を覚えていた。
「……いくらなんでも、グロンバインって、きっともう少しカッコいいですよね? あんなアホの子たちじゃないですよね?」
どうかなあ。