⚡️オーラム逆侵攻~その選択は?~
●逆侵攻大作戦
「『レリギオス・オーラム』に逆侵攻をかけるのじゃ!」
星詠みであるヴィルヴェ・レメゲトン(万魔を喚ぶ者・h01224)は、踏み台の上で踏ん反り返って√能力者達による大規模作戦の開幕を宣言した。
「統率官『ゼーロット』は、王劍『アンサラー』を奪取すべく√EDENへの侵攻に乗りだそうとしている。じゃが、そちらに潜入した『裏切者』のおかげで情報は筒抜けじゃ! 先制して√ウォーゾーンの敵拠点『レリギオス・オーラム』をこちらが逆に急襲してやるのじゃ!」
レリギオス・オーラムは、『√ウォーゾーンの川崎市・川崎臨海部周辺』に存在する。そちらへと襲撃をかけることになるのだが、この作戦の目的は定まっていない。
「目的は5種類ほどが考えられるじゃろうか?
皆で相談して決めるのじゃ!」
そのため、ヴィルヴェは√能力者達に相談して目的を決めてほしいと促した。
それはそれとして、敵拠点のある√ウォーゾーンの川崎市へと侵入すると、すぐさま戦闘になるとヴィルヴェは話す。
「ここには『レリギオス・オーラム』の戦闘機械群である『ヤラレイター陸戦型』が溢れかえっておる。先ずはこいつらを撃滅するのじゃ!」
とはいえ、敵が多すぎるので倒しきるのは無茶だろう。それでもここでなるべく削っておけば、その後の作戦が楽になるはずだ。目的決定の相談のタイムリミットは、この戦闘が終わるまでとなる。
「どのような選択をするかは全て任せるぞ! 戦闘機械群に大打撃を与えてやるのじゃ!」
彼女自身は√能力者の選択には関与する気は無いらしい。そして√能力者達はどの目的にするかを検討しつつ、√ウォーゾーンへと向かうのであった。
第1章 集団戦 『ヤラレイター陸戦型』

√EDENより√ウォーゾーンへと繋がる道へと進むのは、土方・ユル(ホロケウカムイ・h00104)だ。
「まさか√ウォーゾーンから攻め込もうとしてる計画があったとはね」
敵陣に潜入する『裏切者』達のおかげで、事前にそれが判明したのは僥倖だ。そして大規模な逆侵攻作戦が計画され、彼女はそれに従いこうして戦場へと向かっているわけだ。
「幸い逆侵攻の好機も掴めたから、エデンの護り手たる第零課の役目を果たそう」
攻撃は最大の防御である。先に倒してしまえば、√EDENを護ることができるだろう。
そしてユルは『レリギオス・オーラム』の存在する√ウォーゾーンの川崎市周辺へと辿り着いた。そこは√EDENの同じ場所と類似した地形であるも『戦闘機械都市』に造り変えられており、たくさんの『ヤラレイター陸戦型』が闊歩していた。それらは侵入者であるユルを見つけると、『アームガトリング』で攻撃してきた。
「おっと、ガトリングガンによる弾丸の物量は侮れないね。
とは言えホーミング性能や偏差射撃を行ってくるだけの性能もなさそうかな?」
咄嗟に遮蔽に隠れたユルは、敵の性能を分析する。近距離から遠距離まで対応した武装を持ち、特に中距離のガトリングガンは範囲攻撃でありなかなかに面倒だ。さりとて、純粋な戦闘力の面でいえば√能力者に幾分か劣る程度だ。腕部の可動域さえきっちり把握しておけば、手痛い被害を受けることはなさそうだ。
「よし……舞え、『クンネカムイ流秘伝・剣の舞』!」
両手に刀を構えたユルは一気に敵へと接近すると、流れるような動作で装甲の間隙を縫って刃を通す。そうされては頑強な装甲も無意味だ。ヤラレイター陸戦型は次々に撃破されていく。
「さあ、目指すは市の中心部だね」
彼女は本命の作戦目標であるオーラム派機械群の壊滅を目指し、敵を蹴散らし突き進んでいくのであった。
ぽつぽつと振り始めた雨、点在する光源はその雨粒に乱反射してぼうっと光っている。そして次第に雨の勢いが増す中、仮面をつけたマハーン・ドクト(レイニーデイ・ホールインザウォール・h02242)が戦場となる戦闘都市群へと現れた。
「……待ってたような、こんな日が来なくてもいいと、どこか諦めていたような。ただ、どこまでも気兼ねなくやれるのは間違いない」
今回の戦いは防衛戦ではなく逆侵攻と言うことで、敵拠点たる『レリギオス・オーラム』へと√能力者達は急襲を仕掛けていた。周りは基本的に全て敵、攻撃に集中すればよい状況だ。
「クソッタレ世界で必死こいて、死にたくないって無様に足掻いて、ヒィヒィ言いながら生きてきた俺の、些細な八つ当たりだ」
そう言いながら、マハーンはスマホを操作、送信された認証コードが受諾される。
「……『転身開始』」
そして彼の全身を全身を青のスーツが包み込み、さらにその上に羽織るのは黒いレインコート、これがマハーンの戦闘装束だ。それを待っていたわけではないだろうが、ちょうど彼の姿を認識した『ヤラレイター陸戦型』達が、赤熱した『アームブレード』を振りかぶり襲い掛かってくる。
「雨の中で、俺にそんな攻撃が当たるものか」
『R・O・C』にて能力が上昇しているマハーンにとって、その攻撃を回避することはたやすいことだ。装甲を貫く『オーバーヒートスラッシュ』も、当たらなければ意味がない。
「敵の殲滅、大規模集団の攻略。そういったものであれば、俺の……レイン砲台の、得意分野だ」
マハーンの発動した『R・G・C』によって、戦場を無数のプリズムレーザーが乱れ飛ぶ。雨で分散、乱反射するそれは1つ1つは威力が低いものの、圧倒的な数で敵を蹂躙する。反射で様々な角度から降り注ぐそれを避ける術はない。ヤラレイター陸戦型は全身を穴だらけにして機能停止していく。
「……反撃だ。せいぜい多くをガラクタ送りにしてやるよ、屑鉄共!」
マハーンは敵集団を片っ端から殲滅する。この場で出来るだけ敵を倒しておけば、この後の作戦目的の達成にも寄与するはずだ。
続いて二人の√能力者が、戦場へと姿を現した。
「好きなだけ殴ってスクラップにしてもいい戦闘機械軍が山ほどいると聞いて!」
「参上! 必勝! 史上最強じゃ!
武者修行兼ねたおぬしのお出掛けにわしも突撃じゃー!」
敵拠点へと嬉々として殴り込みをかけるのは、サン・アスペラ(ぶらり殴り旅・h07235)だ。勿論川崎市解放を目指して頑張るわけだが、彼女にとっては何より機械群を壊滅させられることがが魅力的に映るようだ。
そしてもう一人は中村・無砂糖(自称仙人・h05327)だ。仙人じみた見た目の彼は、独特な『仙術』の使い手だ。
「おじいちゃーん、折角だからどっちが敵を多く倒せるか勝負しようよ」
「いいじゃろう。わしの仙術をみせてやるのじゃ」
そうして二人は周囲に布陣する『ヤラレイター陸戦型』との交戦を始めた。。
「一切手加減無し! 最初から全力でいくよ!」
一機でも多くの敵を潰せとばかりに、サンは一直線に全力パンチで突っ込んでいく。そのまま震脚で敵集団をスタンさせ、最後は装甲を貫通する強烈な一撃でトドメだ。その『サン式コンボアーツ《黎明》』は『ヘッドキャノン』で応戦するヤラレイター陸戦型にはなかなか相性がいい。接近すればキャノン砲の狙いは付け辛くなるし、突撃プログラムでの一斉突撃もスタンで足止めできる。
「まだここは絶対死領域じゃないんだから、防御は考えない! 捨て身の一撃で一機でも多くを破壊する!」
そしてサンは敵集団を次々に屠っていくのであった。
「奮戦しておるのう。わしも負けじとわしも頑張ってみるとしよう」
無砂糖はいつものように、『悉鏖決戦大霊剣 』を尻に構える。なんとも奇妙な戦い方である。敵も機械でなければ困惑していたことであろう。
「さあ、『仙術、リアルタイム変身変化』じゃ!」
仙術手榴弾の閃光と煙幕からそれらしい雰囲気を作った上で、無砂糖は巨大な『光の巨人』へと変身する。
「そりゃー!」
巨体を生かし、無砂糖は敵集団をまとめて足払いやストレートパンチで蹴散らしていく。巨大化したおかげで単純な攻撃でもその攻撃範囲は広く、『アームブレード』で加速した敵もなんのそのだ。
「逃がさんぞ、とうっ!」
極めつけはダイビングボディプレスで、彼はヤラレイター陸戦型をまとめて叩き潰した。ところで、この戦い方だと最初に剣を尻で構える意味は何処にあったのだろうか?
「わしのほうが倒した数が多いじゃろう?」
「ぐぬぬ……流石おじいちゃん。でも本番はここからだよ!」
撃破数勝負は無砂糖の勝利だ。やはりサイズが物を言ったようだ。しかし、サンの言う通り、ここからが個別の作戦目的のための行動となる。そこでも集団相手の激闘が待ち受けているだろう。
「よォーし、よし。作戦目的も決まった。後は取り敢えず……こいつらの殲滅だな?」
続いて凍雲・灰那(Embers・h00159)が、√ウォーゾーンの川崎市へとやって来た。これまでの戦闘と並行して進められた話し合いにて、今回の作戦目的は『オーラム派機械群の壊滅』と決まっている。となれば、この場の『ヤラレイター陸戦型』を撃破することはそのまま作戦目的の達成に繋がるはずだ。
「広範囲をぶっ潰すのはおねーさんの得意分野だ。任せときな!
術式燃焼――――『緋岸華・岩漿鮫群』!!」
そして灰那は敵集団に向けて√能力で煮え滾る灼熱のサメを生み出し、敵集団を襲わせる。
「お得意のガトリングもよォ!
足元チマチマ撃ってるんじゃァ大したことねェよなぁ!?」
範囲攻撃の『アームガトリング』も、地面に潜られてしまえば通じない。
「噛み砕け! 焼き焦がせ! どいつもこいつも燃えカスの廃材にしちまいなァ!!」
熔岩鮫の攻撃はその威力こそ低いものの、何度も噛まれれば脚部が破壊され、倒れた後は全身に食いつかれてお終いだ。
「……にしたって数が多いな。
焼け石に水ですらねェ気がするが……
ま、やらねェよりはやった方が、今後の為にもなるだろ」
流石に敵拠点だけあって、いくらでも敵が湧いて出て来る。結構な数を√能力者達は倒しているが、それも敵戦力の一部に過ぎないのだろう。しかし、倒すことは無駄ではない。着実に敵の戦力は減少しているのだ。
第2章 集団戦 『レオボルト』

√能力者達は、今回の作戦目的を『オーラム派機械群の壊滅』と定めた。となれば、目指すは川崎市中心部だ。
進軍を開始した√能力者達であったが、当然ながらその道中でもたくさんの戦闘機械群が犇めいている。この場に布陣するのは、『レオボルト』の集団であった。それらは連携戦闘を強みとする厄介なWZだが、逆に言えば指揮官機さえ倒せれば連携戦闘特化のAIのため大幅な弱体化が見込めそうだ。指揮官機は見た目こそ他と同一であるが、その性質上戦場を見渡す場所にいることが多かったり、攻撃を受けにくいような立ち回りを行うため、その辺りから見極めることができれば戦闘を有利に進めることができるだろう。
√能力者達よ! レオボルトの集団を蹴散らしつつ、川崎市中心部へ向けて進撃せよ!
川崎市中心部を目指し、サンと無砂糖は進んでいく。しかしここは敵地、そこに至るまでにも、目の前に蔓延る『レオボルト』の集団を倒す必要がある。
「虎穴に入らずんばなんとやら……じゃろうか?」
「おじいちゃん、ここには穴も子もないよ?」
「なーに、戦功はあるじゃろ」
二人は軽口を叩きつつも、戦闘を始める。まず動いたのはサンだ。彼女は先ほどの挽回とばかりに張り切っている。
「今度こそは良いとこ見せなきゃだね!
狙いは当然敵の指揮官機!」
『陽翼モード』を発動したサンは、上空を飛び回りながら指揮官機を捜索する。統制の取れた動きを見せるレオボルトの集団も、指揮官機あってこそのものである。それを撃破することができれば、戦況を決定づけることになるはずだ。
サンは太陽の翼で地上の敵を焼き払いつつ、怪しいと目星をつけた相手には直接殴りかかっていった。
「では『仙術、マルチバース』じゃ! 全員着剣!!」
そして地上では無砂糖が√能力を発動し、事前に仙術多次元宇宙論発動から招集しておいた12体の無砂糖にて、攻め寄せるレオボルトの集団を迎撃する。
「なるほど確かに厄介な連携じゃ。
じゃが、『わしら』の連携だって負けてはおらん!
群れの中や物陰に隠れようともそうはいかぬぞっ」
指揮官機によって同時攻撃や立て続けに襲い掛かってくるレオボルトだが、無砂糖たちの連携はそれを上回る。何せ全員同一人物だから当然だ。
レオボルトが『隠密行動』をとって視覚以外の探知を無効化しようとも、無砂糖たち26対の目がしっかりと標的を定め、それぞれの尻剣を振って撃滅する。
そうして無砂糖が敵を迎撃していても、なかなか指揮官機撃破の報はサンからもたらされない。発見に苦戦しているのだろうと、彼は敵を斬りつつ彼女に助言を投げかける。
「ほれサンちゃん、この戦況をよく見ておくんじゃ……群れの長がどこにいるのか、なんとなーくわかりそうであろう?」
「戦況をよく見る……分かったよ、おじいちゃん!」
アドバイスを受けたサンは、上空に舞い上がり戦場を俯瞰する。すると、少し高台となったところで、あまり動かずに無砂糖の戦いを眺めている個体を発見した。それは、指揮をするならば絶好の配置である。
「見つけたぁあああああ!」
こいつで間違いないと、サンは一気に急降下して指揮官機と思われるレオボルトへと突っ込んでいく。相手は別の機体を盾にして逃れようとするも、サンはそれを許さず粉砕した。すると、敵集団の動きが目に見えて変わる。あれだけしっかりしていた連携がバラバラで、今倒したものが指揮官機で間違いなさそうだ。
「おじいちゃーん! やったよー!」
「流石サンちゃんじゃ!」
こうなれば後は掃討戦だ。二人は周囲の敵を片っ端から倒しつつ、目的地へ向けて進んでいくのであった。
「先程までの如何にもメカメカしい機械群と違って
子供向けアニメに出てきそうな動物を模した機械群も居るんだね」
『レオボルト』の集団を見て、ユルは素直にそんな感想を漏らす。√ウォーゾーンの戦闘機械群は千差万別、方向性もだが、その形状も人型や動物型など多様である。それぞれの特徴を見極めて戦っていくことが重要だ。
「むぅ……見た目同一の指揮官機とかタチの悪い。
そういうのピンポイントでブチ抜くの、オレ苦手なんだよなァ……」
そして、このレオボルトの特性としては、指揮官機による連携攻撃だ。それを防ぐためにも指揮官機を狙いたいところだが、灰那にはあまり自身が無い様子で、苦い顔をしている。
「なら、ボクが指揮官機を探すよ」
「ああ、確かに別にオレが指揮官機を見つける必要はねェな?
戦場を掻きまわしてやるから、後はたのんだぜ!」
複数人の√能力者がいるのだから、全て一人でやる必要はない。発想の転換と言うやつだ。ここは役割分担をすることに決まり、先ずは灰那が行動を始める。
「さァ、蹂躙してやるよ――――『鏖灼戦禍』!」
五つの爛頭、八つの怪腕、そして十四の槌脚と身体部位を√能力で増やした灰那は、炎の異形となって敵集団へと吶喊していった。
「きひははははは!!! オレは厄災! 焔の轍を刻む者!!
止められるってンなら、止めてみやがれよォォオオオッッッ!!!!!」
敵の中心に突っ込んで大暴れする灰那に対し、敵の動きが変化する。なるべく被害を減らすように散開しつつ、『電磁パルスブレード』を準備している。その様子を離れて観察いたユルは、あることに気づいた。
「あっ、アレは確か指揮官機の承認が必要なやつだよね?」
指揮官機を発見するためには、敵の集団戦術を読み取ることが重要だ。それを元に考えていけば、指揮官機は電磁パルスブレードを準備している個体からそう離れてはいないはずだ。そして付近を注視していけば、攻撃に巻き込まれないように他の個体の影に隠れるようにしているレオボルトを発見した。
「見つけたよ! 『舞え、クンネカムイ流秘伝・剣の舞』!!」
二刀を構えたユルは標的へと突っ込んでいき、流れるような動きで庇うものもまとめて指揮官機と推測される機体を滅多切りにした。
……すると、敵集団の動きが劇的に変化した。電磁パルスブレードは機能を停止し、隠密も使わずに近くの√能力者に向けて散発的に襲ってくるだけとなる。
「よしっ! 後は倒すだけだね!」
「ナイスだぜ! そらっ、焼き果てろォォオオッ!!」
そして二人は指揮官機を失い烏合の衆と化したレオボルトの集団を倒しつつ、川崎市中心部へ向けて進撃していった。これまでもかなりの数を相手にしてきたが、この先ではさらに敵が増え、更なる激戦が予想されている。
「相手が変わっても、俺がやる事は変わらない」
『レオボルト』の集団を相手にしても、マハーンは臆さずに戦闘を始める。敵を倒し、道を切り開く、ただそれを行えばいい。
対するレオボルトたちは、発光部分を黒く変化させ、それぞれが『隠密行動』をとって探知を無効化する。奇襲を狙っている部分はあるのだろうが、何処か消極的に過ぎる印象も受ける。それは、これまでに通った√能力者達が指揮官機を撃破した影響だろう。
「隠れたか……だが、それで何とかなると思うなよ?」
ここでマハーンが取り出したのは『レイン砲台』だ。
「……もともと、こいつはこの√ウォーゾーンでの決戦兵器だった。
本当に偶然の積み重ねで手に入れて……その詳しいマニュアルもないままに何とか我流で使ってきただけだった」
それ故に、彼がそれを十全に使いこなせていたとは言えないだろう。宝の持ち腐れにしてた感は否めない。
「……だからこそ、折角だ。暴れてこい、システムレイン!」
そんな因果を持つからこそ、この場にはふさわしい武器だろうと、マハーンは『R・G・C』を発動して周囲を攻撃する。レイン砲台より放たれたプリズムレーザーは、降り注ぐ雨の中を分散、乱反射して彼が指定した範囲を蹂躙する。
この攻撃の前には隠密など意味がない。何処にいようと、無数のレーザーから逃れることができないからだ。その1つ1つにはレオボルドを倒せる威力は無くとも、何発も当たれば話は別だ。穴だらけになったレオボルトは機能停止しするとともに隠密がとけてその場に転がっていく。
「いつもはこそこそ隠れながらヒィヒィ情けなく隠れつつ動いてるもんだから、こうやって大っぴらに暴れまわるのは新鮮だな。
……慣れないことだらけで緊張するともいうけれど」
今回の目的の達成には、弱い敵を数多く倒すことが重要となる。戦い方もそれに合わせていく必要があるだろう。そしてマハーンは慣れない、緊張すると言ってはいるものの、それを十分に成しているのであった。
「ヒャッハー! 真綾ちゃんちょっと出遅れちゃったデスネェ」
遅ればせながら、白神・真綾(首狩る白兎・h00844)がここから参戦だ。もっとも、敵地なだけあって倒すべき敵はいくらでも存在する。ここでは川崎市中心部へ向けて進むついでに、『レオボルト』の集団と戦うことになる。
「敵は数と連携で圧倒してくるタイプデスカァ。
……でも、その得意の連携もイマイチデスネェ。
思ったよりつまらねぇ戦いになりそうデース 」
星詠みからは連携が得意な敵と聞いてはいるものの、実態は数体がまとまって襲ってくる程度。一応『隠密行動』を取る個体もいるが、あまり統制が取れている印象は無い。
それもそのはず、既に指揮官機が先に進んでいる√能力者達の手で撃破されているからだ。この状況では敵は真価を発揮できない。今のうちになるべく数を減らしておくのが良いだろう。
「遅れた分は戦果で償うデスヨ。
ヒャッハー! 鉄屑掃除の時間デース!」
真綾は『レイン砲台』を取り出して、『驟雨の輝蛇』で周辺を纏めて攻撃する。その光の雨の密度の前には、いくら隠密行動で探知から逃れても無意味だ。レオボルドたちはまとめて撃破され、スクラップと成り果てるのであった。
「長距離射程の武器があるならともかく、近接しか出来ないくせに目視を無効化できない隠密とかあんまり意味ねぇデスヨ」
あっさりとレオボルドの集団を殲滅した真綾は、先に進んでいる仲間を追いかけ走りだしたのであった。
第3章 集団戦 『バグ・アーミー』

レオボルドの集団を蹴散らして、√能力者達は川崎市中心部へと辿り着つく。そこには、これまで以上の数の戦闘機械群がひしめいていた。
『バグ・アーミー』と呼ばれるそれらは、クモやサソリ、バッタにカマキリなど、様々な虫を模した形状の戦闘機械群である。ただし、飛行が得意なタイプはおらず、基本地上戦専門の様子だ。こちらも連携戦闘を行うが、先ほどのレオボルドにそれは劣る。しかし指揮官機を持たないので、明確な弱点は存在しない。また、模した虫に近い行動をとり、壁を走ったりジャンプして不意打ちしてくることもある。
何より面倒なのはその数だ。これまで戦った相手も数は多かったが、バグ・アーミーはその数倍は存在する。流石にこれを殲滅させるのは不可能だ。今回はこの敵集団をできるだけ倒し、オーラム派機械群の戦力に損害を与えることが目的となる。敵を倒すことは重要ではあるが、無理はしすぎずに適度なところで撤退してほしい。
目標地点に辿り着いた真綾の前には、数多の『バグ・アーミー』が蠢いていた。
「害獣駆除から虫潰しデスカァ。数だけ増えてもやってること変わんねぇ気がするデスネェ」
今回の目的がレリギオス・オーラムの戦闘機械群の壊滅とする以上、雑魚敵との連戦は必然である。しかし、少々単調となるのは否めないか。
「まぁ嘆いてもしょうがねぇデス。今回は撃破数を競うゲームだとでも思うデスヨ」
ならばと発想を切り替えれば、モチベーションを保つことができるか。真綾は敵集団の撃滅に向けて打って出る。
「ヒャッハー! 楽しい楽しい殲滅時間の始まりデース!
敵機の在庫は十分か? デース!」
『驟雨の輝蛇』によるレーザーの雨が、周囲を無差別に薙ぎ払いバグ・アーミーたちをスクラップへと変えていく。慌てて隠密奇襲を目論む個体もいるが、それは先ほどのレオボルトとの戦いで攻略済みだ。
「探知もくそも無く周辺一帯全て平等に満遍なく焼き尽くすだけデース!
ヒャーッヒャッヒャッヒャー!」
如何に探知不可になろうと戦場に存在しているならば、広範囲攻撃で薙ぎ払ってやればよい。虫を模するが故の変則的な動きも、レーザーの雨に呑まれればお終いだ。
真綾は哄笑を上げながら、調子よく敵集団を撃破していくのであった。
「ほほぉ、ものすごい数の機械虫じゃ」
これらが侵攻してきたらたしかにたまったもんじゃないのう」
「うん、コイツらが√EDENに侵攻してくる前に、ここで少しでも数を減らそう!」
引き続き無砂糖とサンはペアで戦闘機械群へと挑む。その周囲には一面埋め尽くすほどの『バグ・アーミー』の群れ、『レリギオス・オーラム』の戦力の凄まじさが伺える。なればこそ、ここで削っておくことに大きな意味があるはずだ。
「あっちが数で押してくるなら、こっちも数で対抗だ!
みんな! 祭りの時間だよ!」
一体一体はさほどでもなくとも、これだけ多いと流石に厄介だ。そこでサンは敵の数に押し負けないようにと、『格闘者達の夜』を発動して仲間の格闘者達を召喚した。
「援護するぞ。『仙術、テレパシー』じゃ!」
おぬしとその同志達にわしの|結《ケツ》束力を仙力念波で披露してやろうぞ!」
その援軍を最大限に活用すべく、無砂糖も√能力を発動する。仙力念波による接続で、各自の命中率と反応速度が向上する。敵も無線の暗号化通信ネットワークを使用しているようだが、これで条件は五分になる。後は地力の勝負だ。
これで準備は整った。サンは格闘者達の先頭に立って彼らを鼓舞しつつ、バグ・アーミーへと攻めかかる。
「敵の数は多い! だけどこんな虫なんかにビビって逃げるヤツはここにいない!
恐れるな! 私達は一人じゃない!
それにこっちには頼もしい尻の霊剣士も付いている!
機械どもに見せてやろう! 私達の|結《ケツ》束力を!
突撃!!!」
格闘者達は雄叫びをあげて敵に突撃し、連携を取りつつ鍛え抜かれた肉体と技でバグ・アーミーを粉砕していく。その様子を見た無砂糖は当面はこれで大丈夫そうだと、乗用車で戦場を駆って仙力念波の効果範囲内の維持に専念する。
「囲まれないように気をつけてゆくんじゃぞー」
そうして順調に敵の殲滅が進むかと思われたが、ここは敵の本拠地である。そうそう簡単にはいかない。無尽蔵に増える増援の前に敵の数は一向に減る様子が無い。遂に疲労で格闘者達も押され始めた。無砂糖もすでに乗用車を降りて、手のリボルバー銃で撃ちながら尻の剣で切り払いと、バグ・アーミー相手に奮戦していた。
「くっ……にしても数が多い……!
おじいちゃん! なんか切り札とかない!? 」
この状況にサンは隣で戦う無砂糖へと助けを求める。
「で、なんと? 切り札じゃと?
せがまれちゃ仕方ないのう」
その言葉を受けた無砂糖は、尻の剣を手に持ち替える。どうやら普通の使い方もできるようだ。どちらで戦うかは使う技次第なのだろうか。
「ちょいと傍に居ておれ……『仙術、居合いじゃ』!」
仲間を後ろに下げ、無砂糖は『仙術・流水撃』を連発する。目にも止まらぬ抜刀の連続で、彼はバグ・ アーミーたちをまとめて斬り捨てていく。と、ここで、頼りになる援軍が到来した。
「爺ちゃん、サン、助太刀に来たぜェ!」
「ウィズくん!」
「おお! 助かるのう」
それは闇色の水大蜥蜴、ウィズ・ザー(闇蜥蜴・h01379)であった。彼は到着した勢いのまま、敵集団へ突っ込んでいく。
「殲滅不可……って事は……、食べ放題のバイキングぢゃねェの!」
この数の多さも、彼にとっては喜ぶべきことでしかない。ウィズは敵集団へと突っ込むと無数の闇に溶ける刻爪刃や融牙舌で、敵の回路を一撃で確実に焼却切断して確実に葬っていく。ここにきて新手の登場に、バグ・アーミーたちの一部が擬態により潜伏する。どうやら探知から逃れ、奇襲を目論んでいるようだ。
「隠れたか……だがな、俺は陰影のあるモノは知覚出来る闇の精霊だ」
そう彼の視覚については、人間が光の屈折で目視するのとあんま変わらない。それでいてその視認範囲には壁の向こうも含まれる。
「つまり……隠れても無意味っつー事だよ!」
『星脈精霊術【山然】』でもって、ウィズは潜伏する個体もまとめて撃滅する。見破ってしまえばただの無駄行動だ。逆に倒しやすくて助かるくらいか。
そして三人は連携を取りつつ、無尽蔵に出現するバグ・アーミーとの交戦を続けていく。そうしてさらにしばらく戦ったところで、無砂糖が撤退の判断を下す。
「さてさて、キリのいいところまでいったじゃろうか?
ほれ二人とも、わしの車に乗るがよい」
「うん!」
「そろそろ潮時だァな 」
元より殲滅は不可能だ。相当な数を倒し、戦果は十分だろう。むしろ、これ以上の長居は危険となる。
そしてサンが車に乗り込み、ウィズが車の屋根にとりついたのを確認すると、無砂糖は走り屋仕込みの猛スピードで車を走らせ、迅速に退却するのであった。
「数はたくさん、純粋な戦力で地上制圧を……ってところか?
ま、ある意味一番原始的かつ手っ取り早い方法だよな……」
バグ・アーミーの大群を見て、マハーンはそんな感想を漏らす。やはり数というのはシンプルに脅威である。だからこそ、ここでそれを削っておくことに意味があるのだ。
そして戦場では彼の『R・O・C』によって雨脚が強まり、豪雨となったそれが、床も、壁も、あらゆるところを濡らしていく。
「さっきより更に多く、連携は弱め、だけど不意打ちもこなせるし、何よりひたすらに数の暴力、か」
そんな中で、彼は『バグ・アーミー』の軍勢を分析する。その特性は先ほど倒した『レオボルト』の集団との類似点が多い。多少の違いこそあれど、それはあまり重要なポイントではないか。
「うん、やっぱりやる事は変わらないな。
どんなに数が多かろうが、どんな道を通ろうが、どこから動こうが……」
よってマハーンがとる戦術は先ほどの戦いと同じだ。
「……虫が、雨に少しも濡れずに動けると思うんじゃねぇぞ」
溢れかえるバグ・アーミーに対し彼は『レイン砲台』を起動、『R・G・C』を発動する。放たれた無数のプリズムレーザーは、降り注ぐ雨の中を乱反射しながら敵を襲う。
「……これより、大雨警報を発令いたします。
屑鉄の虫様におきましてはどうか……
そのまま、木端微塵となりますように、ってな……!」
なるべく多くの敵を巻き込めるようにと、敵集団の特に集中している場所を取り囲むように光の奔流が押し寄せる。その強くなる雨と共に降り注ぐ光の乱反射は、どこに逃げようが壁へ隠れようが、その場所にいる限り避ける手段は無い。バグ・アーミーがいくら隠密しようが意味がない。強固な装甲でもあれば耐えられる目もあっただろうが、残念ながら彼らのコンセプトは虫の姿を模すことで特殊な動きと圧倒的な数である。レーザーはあっさりとバグ・アーミーの装甲を貫いて屑鉄へと変える。
「後から後から出てきやがるな。殲滅不可能っていうのも納得だ」
折角倒したというのに、それを補充するようにバグ・アーミーは湧き出してくる。マハーンは何度も√能力を発動して撃破していくものの、敵の増援は途切れることがない。
「ま、こんなもんか」
十分すぎるほどに敵は倒すことができた。底をついていないだけで、確実に敵戦力は減少している。このあたりが退き時だろう。マハーンは他の√能力者に合わせ、余力を残したまま撤退に移るのであった。
続いて灰那とユルが『バグ・アーミー』の集団と交戦する。
「うーむ。雑兵がごみごみと鬱陶しいな」
「指揮個体は居なくても、その分だけ数が増えているのは何だかなって感じだよね」
個体の強さとしてはそれほどではなくとも、やはりその数が問題だ。敵拠点の中心部だけあって、凄まじい数が存在していた。
「しかも虫を模した機械群がワラワラと蠢いてるのもゾッとするね」
「これだけ群れているとなると……ああクソ、柄でもなく弱気な」
虫そのものよりは多少はマシとはいえ、人型と大きく異なるバグ・アーミーの集団を見てユルは嫌悪感を覚える。灰那の方は見た目よりも数に気圧され気味か。
「ああもう! 寧ろこういう、何処にどうブッ放しても当たるって戦場は、オレの独壇場だろうに!」
そんな心の弱さを吹っ切るために、彼女は声を上げて気持ちを切り替える。これならさほど心配する必要も無さそうだ。冷静に敵を観察していたユルは、役割分担を伝え行動を開始する。
「幸いなことにどの機体も地上戦専門みたいだから、付け込む隙はあるね。
ボクが敵の動きを止めるから、殲滅はよろしくね」
一通り見まわしてみても、飛行が得意なタイプの虫を模した物はいない。そこでユルは、『霊震』が有効であると判断した。
「それっ!
これなら多足歩行の機械でも自在に動けなくなるよね?」
霊能震動波は震度7相当で敵を揺さぶる。この状態ではまともに動くことは不可能だ。そうして動けなくなれば、敵の暗号通信による集団戦術も命中や反応速度の増加も意味をなさない。
もっとも、敵の動きを止めただけでは倒せない。ここで灰那の出番だ。
「さァさァ、教えてやんぜ。
焔の災厄、万物焼き尽くす灼熱の火力――――その真なる恐怖をな」
ちゃちい電子回路の奥底にまで刻み込んでやる!」
そして彼女が召喚したのは沢山の『焔の精』達であった。
「来いよ下僕共。好きに暴れなァ!
殴り、貫き、奔り、爆ぜ、焼き尽くせ!
その熱量の全てを以て、敵軍を削り熔かせ!!」
呼び出された炎の精たちは、灰那の指示を受けてバグ・アーミーたちへと襲い掛かる。振動で動けぬ彼らは、次々と炎の精の餌食となっていった。多少の討ち漏らしも、振動を与える合間にユルが処理して盤石の布陣だ。
そうして調子よく敵集団を撃破していったものの、無尽蔵に湧き出してくる敵を相手にしていてはいずれ限界が来る。退却タイミングの見極めも重要だ。
「たくさん倒したし、そろそろ撤退かな。この増援は相手にしきれないね」
「いやァ、全部焼けなかったのは不満だがそれでもスカッとしたぜ」
十分に余力を残した状態で、二人は撤退に移るのであった。
倒しきることは元より不可能として、√能力者達は相当な数の敵を撃破することができた。これなら戦果は上々だろう。これで目的であるオーラム派機械群の壊滅も進展したはずだ。