シナリオ

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俺とお前とデスカブト

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●|青い空、白い雲、でけえ虫《童心ハッピーセット》
「諸君、うまい話があるんだよ」

 相変わらずな態度の星詠み、中条・セツリの言うことに。

「場所は√妖怪百鬼夜行、日本のとある地域。
 まあ、なんだ。『田舎の城下町』を想像してくれ。夏には新緑、秋には紅葉美しい山々。雄大な川が流れた自然豊かな地。かつては地域の要として古刹や城を構えていたが今はちと鄙びた町、ってのをね」

 そんな、分かるような分からないような説明とともにホワイトボードへ地域の地図といかにものどかで風光明媚な町の写真をぺたり。
 そしてもう一枚、それらの横に、まるで「迷い犬探しています」のような、手配書のような妙な形式のポスターをぺたりとする。
 しかしその写真は、犬や人ではなく──。

「それで、こっちはデスカブト」

 こいつ急にギア上げてくるじゃん。

「あ、ごめんごめん……僕としたことが迂闊だった」

 口には出さないが漂う(お前本当なんなんだよ)と滲み出る空気の中で星詠みは流石にハッとし、慌ててもう一枚の資料を……しかし、若干勿体ぶってぺたりとした。

「……じゃーん! ヘルクワガタもいるぜ!」

 求めてるのは詳細な説明であって、クワガタじゃないんだけどな。まあクワガタ派もいるだろうけど──いや違うわ、問題はそうじゃないんだわ。
 場に飲まれかけた√能力者たちは内心思った。

●|現在《いま》は本能の時代
『デスカブトならびにヘルクワガタ』──かつての熱狂的闘虫ブームの主役たち。だが光あるところに影があり、飼育中にうっかり逃げ出した事故やブーム後の不法投棄と言った問題も多発したらしい。
 通常なら逃げた個体は環境に適応できず全滅するはずだったのだが、一部異常な生命力と強靭さを持った個体が冬を乗り越え、繁殖し……そうして一部地域で問題視されている、らしい。

「……それで、まあなんだ。この地域の例の『古妖を封じた祠』が経年劣化もあるけど、その虫によって倒されそうな訳で……つまるところ虫(外来種)>>>>> 祠(土着の古妖)の図が成り立つ恐れがあります。
 困ったね。嫌すぎるでしょ、虫に負ける|古妖《祠》」

 そんな事あるか? あるらしいです。

「で、お察しの通り、今回はそれを未然に防ぐ害虫駆除って案件だけど、何もタダ働きとは言わないさ」

 そう言って各者へ配るのは観光案内所に置かれている「観光マップ」それらを開き、眺めながら星詠みは言葉を続ける。

「デスカブトらは夜行性なのだけど、夜に突撃するのは土地勘がなくて分が悪い。目撃者に聞き込みなんかもしてほしいしね。
 なんで、君たちは時間……夕方くらいかな。その辺りになるまでマップ参考に色々冷やかしといでよ。
 丁度蚤の市が開かれているし、出店も出てる。落ち着いて休憩したいなら茶屋や蕎麦屋もある。紅葉なんかも始まってるからのんびりと観光気分で浴衣で散策するのもいいんじゃないかな。
 ああ、釣りなんかも出来るぜ。それに小舟に揺られて昼寝なんかもね。
 ってな具合に各々好きに過ごしながら、時間になったらお仕事へ……って運びでよろしく。どうだい? のんびりと過ごすのは悪い話じゃないだろ」

 そう言いながら、最後にああそうだ、うっかり忘れていたとばかりに星詠みは手を叩く。

「まあ、でも一つ気を付けてほしいのはデスカブトって虫っていうか、まあモンスターなんだけども」

 あいつら数メートルあるからさ、木とか切断するし。あと飼育下でも年間そこそこ死者が出てるから気を付けてね。皆なら心配ないだろうけど。

 それを早く言うといい──いやもう、なんでもいいか。
 ツッコミ疲れた√能力者達はもう深く考えず、秋の地へ想いを馳せることにしたのであった。

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第1章 日常 『蚤の市をブラブラと』


●本日はお日柄もよく
 油断すると寒さも忍び寄る秋の日だが、快晴に恵まれた空の下で、例の毎月恒例の蚤の市が開かれていた。

 パンフレットの説明によればこの地域は旧家が多く、それが市と何の関係があるかといえば単純明快。蔵持ちの家が多いのである。そして、重ねた歳月に積もる物品の、掃除しても掃除しても物が減らないのである。
 だが、捨てるのも偲びないガラクタでも誰かにとっては宝物──そんなノリで近隣住人が集い、物々交換めいて始まった評判が他地域にもいつしか広まり、そうして骨董品から珍品の類いまで幅広く扱う現在の蚤の市となったのであったとさ。

 そんな事をしているから物が減らないんじゃないかなあ……とかは置いといて、ひとが集まればそこには様々な飲み物や食べ物を扱う店も集うのが道理。
 ということで、市近くには食べ物や飲み物の店が出店し、これらもまた名物となっている。それらを食べながら紅葉に色付く山寺や城下町を散策するのもいいだろう。
 そこに休憩スペースはあるが、秋風を気にせず室内で腰を据えて落ち着きたいタイプには、少し先に昔ながらの甘味を扱う茶屋や蕎麦屋もある。
 打って変わって川へ行けば渓流釣りが名物ときて、道具屋から一式を借りてゆったりと、岩場に腰掛けて己や魚と向き合うのもいいだろう。

 ともかく、今はデスカブトとかいうふざけた存在は忘れてのんびりと秋の日を楽しもう。
 どうせそのうち|地獄《デス》が訪れるのだから。



 選択肢などあまり気にせず、お好きにどうぞ。
 ちなみに蚤の市では品物の『お任せ』購入も可能です。独断と偏見で、富と名声と常識と生き物と親の仇以外を見繕います。(諸々アイテム作成などはご自由に)
煙道・雪次

「デスカブト、か……」

 普段ならもう絶対全く口にする機会のない単語を真顔で呟き、煙道・雪次(人間(√汎神解剖機関)の警視庁異能捜査官カミガリ・h01202)は手配書を眺めた。
 星詠みがホワイトボードに貼ったものと同じそれにはデスカブトの外観を模したイラスト、外来種故に捕獲・駆除を訴える文面。
 そして手配書お馴染みのフレーズ「Dead or Alive」の代わりに「死なない様に頑張って!」と書かれていた。「頑張って!」て。カジュアル。
 恐らくこの地区の商工会か何かの手作りなので仕方ない。ちなみにヘルクワガタバージョンもある。だからなんなんだ。

「しかし……外来のカブトはカッコイイが、野生化すると厄介だよな。付いているダニも良くないって言うし」

 近所で捕まえ、飼育して大変な事になった少年時代を思い出し、雪次はカブトに思いを馳せる。捕まえるには酒とバナナでも調達してトラップでも作るか? しかし別種の虫が取れる可能性もあるからな……カナブンとか。流石にデスカナブンはいないだろうが。

 そして手配書からふと顔を上げれば、目に入るのは雄大な田舎の山々。地元ならいざ知らず、土地勘のない地で足を踏み入れるのは少し厄介である。
 いつもならここで聞き取り調査などを行うのだが、本日は蚤の市が開かれていると言う。地元のにんげんもいるだろう。何か見繕うついでに聞けば自然だと、そうして雪次は市へと足を踏み入れた。

「しかし蚤の市、か……」

 市を眺めながら歩き、よぎるのはどうしても幸せだったあの頃。
 そう、昔は……香菜子が生きていた頃はよく行ったな。並んで歩いて、昭和レトロの花瓶をよく可愛いと言っていたっけ。
 それらしいものはちらほら売っているが、彼女のいない今購入しても意味はない。また、神事用らしき道具に目を止めて再び思い出す。

「一度、神棚の花瓶を一輪挿し用に欲しいと言っていて、流石に嫌な感じがしたので辞めさせたが……|今なら《・・・》何か見えるんだろうか」

 しかし買うならもう少し役に立つもの──そうだ、兄が幽霊の掛け軸を欲しがっていたな。この世界なら売っているだろうか。
 それらしいものを探すと、掛け軸を扱っている区域を見つけて煙草を携帯灰皿に入れて手に取る。

「店主、この絵は──」
「やあ美人だろう! うちのはねえ全員いい|娘《こ》が揃ってるからね! 勿論曰くの方も粒揃いだよ!」

 |別《夜》の店の様な売り文句をめっちゃ早口で捲し立ててくる店主の言葉を流しながら、雪次は掛け軸を見ていく。兄の事だ。いい歳なのにイタズラ好きだからどうせ実家の客室にでも飾るんだろう。ならば折角だし。折角、何が折角かはともかく、曰くが強烈なものがいいだろう。

「では、お薦めの|絵《むすめ》を」
「あいよ、じゃあこれね! いや本当ねえお客さん運がいいよ! これね、まあちょっとここじゃ言えない様なことがね! あってね! いまだに怨みが凄すぎて飾ってると『本人』に会える時もあるんだから!」

 そんな話と共に渡されたのは、成程、美人ではあるがどこか幽玄で怨みがましい目をした幽霊。その目がまた少し妖艶で、一見ただの美人画である。これならば客間にあっても違和感はないだろう。本人登場……幽霊が√を越えられるのかも興味深い。
 ではこれを。お代は……安い。いいのだろうか。いいんだよ、誰も怖がってね! 俺も手放したいのに買ってくれないんだから! そうですか。

「ところで、この山には別のものが『出る』とか」
「ああ、アレだろう……デスカブト……」

 雪次が聞くとまるで幽霊やクマが出る様な恐ろしい口ぶりで店主は声をひそめて言う。昨日もね、すぐそこの山に出たって言うんだよ恐ろしいよね全く……。

 思ったよりすぐ会えそうな気配。いや、幽霊ではなく。ではもう少し、時間もあるし歩いてみるかと、掛け軸片手に雪次は蚤の市を散策するのだった。
 あ、お兄さんおまけにもう一ついるかい!? 掛け軸! いや、それは……まあ。では折角なので。

レイ・イクス・ドッペルノイン

「蚤の市だって……私、初めてだ」

|レイ・イクス・ドッペルノイン《RX-99》(人生という名のクソゲー・h02896)は少し声を弾ませて脳内の|玲子《Anker》に語りかける。

『蚤の市ねえ、レアな掘り出し物もあるんだってさ。まあお約束っていうか醍醐味だよね、そういうところからレア物発掘。確率は低いけど』
「そういう場所なんだ。確かにちょっとワクワクするかも」

 入り口で配っていた「蚤の市散策マップ」──大まかな出店ジャンルが書かれたそれを眺め、なんとなく出発前に計画を練る。適当に歩いて思わぬ品物に出会うのもいいが、こうして文字を眺めているだけでも想像が膨らんで楽しいもの……うん? この「呪い」ってコーナー何? 怖……。絶対近寄らんとこ……。

「ところで私は特に欲しいものはないんだけど、何か欲しいものあるの? 玲子」
『んー、どうせなら激レアアンティーク品がいいよね、アンタが付けてるピリオドブルーみたいな奴』

 玲子の声にレイは自分の装飾品を手に取り、眺める。鮮やかで透明感のある美しい青色。まるでレイの瞳のような色合いのそれ……を、しかし本人は首を傾げる。

「これ?……結構珍しいって玲子言ってたよね? でもこんなガラス玉が?」
『それね、サフィレットガラスって言ってね、EDENじゃ作れた職人一族がもう絶えていないんだよ、そっくりなブツは出回っているけど』

 玲子の言葉にレイはへえと嘆息し、再び眺める。そう言われると高価に見えてきたような、まだただのガラスの様な……確かに綺麗だけどさ、宝石じゃなくてようはガラスだよ? という気持ちは拭えない。

「ところで、そんな貴重品なら幾らくらいするの? あ、興味本位ね、興味本位」
『ピリオドブルーくらいの2cmも行かないサイズじゃ、渋沢数名犠牲は余裕』
「うわ高、ガラス玉なのに」
『だからガラスじゃなくて貴重なんだってば。まあ変に意識するよりそのくらいの方がいいのか? アンタ貴重なアイテムをガンガン使えるタイプだもんね?』
「いやその例えはよく分かんない」

 そんな会話をして、マップを見て装飾品コーナーを目指し歩いているち、その手前で手芸コーナーにあたる。店先にガラスビーズやガラスボタンなどがカラフルに並ぶそこを見て玲子が声をあげる。

『あ、ここにありそうじゃない? こういうビーズとかに紛れてる可能性……それにもしかしたらこっちの方が安く買えるチャンスかも』
「あー掘り出し物ってやつ? けど、ないならないで、あったらラッキーくらいの気持ちで探すからなくてもガッカリしないでよ」
『それは分かってるよ。ただ蚤の市だし、期待するよね。こういうの』

 そうしてレイは店先に置かれたビーズやボタンの類いを眺め、目当てを探していく。色とりどりに分けられた、あるいはごったに混ざったそれらの中から青色でも特に青いもの──お目当ての"サフィレットガラス"
 しかしそう簡単に見つかる訳でもなく、何件か回っていると、ふと店主に声をかけられる。

「お嬢さん、熱心に見てるけど何か探し物かな?」
「あ、あの。これと同じものを探してて」

 自分の装飾品を指したレイに店主はほうと呟く。

「もしかしてそれは……ああ『例のガラス』だね。最近貴重だから、声をかけられたら出そうかなと思ってたんだけど、どうだろう」

 そう言うと、店主が出した小箱には5cm程のまごう事なきサフィレットガラス。お値段は……はい。こんな場所で買うには結構なもので。

『あー……こっちでも貴重品な感じか。どこも一緒だなあ』
「とは言ってもEDENで買うよりは安いよ。さっき2cmで数万って言ってたじゃん」
『まあそうなんだけどね。うーん、でも決めた! 買おう!』

 一世一代と言った玲子の決断にレイは頷く。単にビーズ探しで首が疲れただけかもしれないが目当てのものが手に入ってよかった
よかった……じゃあお会計……あれ? 何か重要な……あ。

「玲子、ところであの、軍資金……」
『アンタの自腹に決まってんじゃん』
「えっ、ちょっ……! え!?」

 今更断れず、こうしてレイは思わぬ出費を強いられるのであった。あ、この後加工するからそっちもよろしく。えっ!!??

尖禍・ネルカ

 所変われば品変わる。人が変わればセンスも変わる。まあでもほらセンスとかはね、人それぞれですから……とは言うものの。

「デ、デスカブト……」

 星詠みが告げた言葉を反芻する様に、文字をひとつひとつ確認するように転がして、身体を震わせているのは尖禍・ネルカ(寓意譚・h02401)そのひと。
 そうですよね普通はそうなりますよこんなふざけた存在いや心中お察しいたします……と思えば次に口をついて出た言葉に。

「デスカブト!! しかもヘルクワガタ!? とんだハッピーセットじゃないか! かつてないほどに心が踊るネーミングだ!」

 顔を上げて歓喜に浸る端正なその顔。人間災厄「ベスティアリウム」──"人々が空想した怪物"をその身に内包するその性質を持つネルカがここまで喜ぶことは、つまり。

「だってカブトムシだぞ!? クリーチャーでも甲虫なんて海外では馴染みが薄いからな……スカラベ以外の甲虫なんてレア中のレアだ! しかもそれがセットと来た……ああ、こうしちゃいられない! 早速現地に向かわないと!」

 めでたく「カブト&クワ」が|ソレ《B級ホラー》認定されたということで、やったね。しかし、もう本当、こういうのは冷静になったら負けですから。その時に感じた|直感《トキメキ》を信じないと、ね。
 ということでネルカは居ても立っても居られないぜと、そんな情熱的なエネルギーに突き動かされて意気揚々と現地へやってきた。

「ふう……流石に少し興奮しすぎた。頭を冷やすついでに、蚤の市でも見て回ろうか。ロケハンも兼ねてね」

 上がりに上がったテンションを落ち着かせるため、ネルカはゆっくりと市を見て回ることにする。フンフン、なるほど、中々盛況だ。並んでいる商品も古今東西、骨董品から比較的最近の玩具など多種多様。こう言う場所では古い映画のパンフレットや、VHSなんかがの映像類が売られていることがあるからね、きちんと目を光らせないと──。
 そう肝に銘じてぶらりと歩いていれば、ふとネルカの目は一つの店に吸い寄せられ……視界に入った瞬間、身体はすでに駆け寄り商品を両手で確保していた。
 そうまでしてネルカの心を掴んだのは一見古ぼけた丸い缶。しかし、見る人が見ればそれは映画のフィルムを保存する缶だと分かるだろう。

「お、これは……やっぱり! しかもきちんと『中身』入りだ! 肝心のタイトルはよく読めないが……この雰囲気……もしかしたらこのあたりで撮られた自主制作映画の可能性もあるな……これはまさに掘り出しものだ!」

 目を輝かせ、フィルム缶を眺め、抱えるネルカに、店主は少し申し訳なさそうに呟く。

「いやあ、そいつぁ蔵から出てきたんだが爺さんかそこらのもんでね……何が映ってるかわからないんだ。多分変なもんじゃないと思うんだが……お姉さんにそんなに期待させて、ガッカリさせちゃ悪い気がしてきたよ」
「──ふふ、大丈夫。もしこれがおかしな映像でも、呪いのフィルムでも、安心していいよ。それはそれで画になるだろう?」

 そう笑い、会計を済ませてフィルム缶をバッグにしまうと、ネルカはふと周囲を見渡す。
 雄大な山々を背景に秋晴れの晴天の下、親子連れや恋人同士、趣味人といった老人など様々な人々が楽しげに行きかう牧歌的な光景──。

「うん、どこを切り取っても平和そのもの。まさに嵐の前の沈黙ってやつだね……うんうん、盛り上がるには緩急が大事だからねえ、俄然やる気になってきたよ!」

 そう、今は映画で言うところの冒頭の|導入部分《日常パート》といったところ。目当ての物が手に入ったとは言え、本番はこれからなのだ。だが──。

「とは言え、山場までスキップするのはマナー違反だ。きちんと日常を楽しんでこそ非日常の恐怖が引き立つからねえ」

 そう言い、ネルカは引き続き、新たな掘り出し物がないか蚤の市の散策を続ける。そうして、想定される惨劇に備え『束の間の平和』を楽しむのであった。

エーファ・コシュタ

「デスカブト……ですか。ええと、どこかで聞いたことがあるような、ないような……あ、そう言えば、前に近場で飼っていた方の話を聞いた事があるような?」

 エーファ・コシュタ(突撃|飛頭騎士《デュラハン》・h01928)は記憶をたぐる。デスカブト、デスカブト……そう、あれは三軒程のお隣さんで、子供の頃は「危ないから近寄ってはいけません」と言われていましたっけ。夜な夜なこの世のものとは思えない咆哮が聞こえてくるとか、餌として生肉が5トン必要だとか……尾鰭がついてどこまでが本当かは分かりませんが、手配書を見たところは普通の……いえ、ちょっと凶悪そうなカブトムシ?

「しかし……」

 街で配られていた手配書をしまい、代わりにエーファは瞳に正義を燃やす。

「デスカブトだろうがデスワームだろうが、何にせよ生き物のお世話は最後までやらないといけません! 脱走しても捕まえるのが飼い主の役目! 何より人々に危険が迫っているとなると、これは見過ごせませんね、騎士として!」

 そう、デスカブトは物騒な名前と生態とは言え、元はギリギリ愛玩動物。娯楽のためと人々のエゴで飼育され、逃げた先でも駆除だのなんだのと平穏には程遠い生活。
 いや『愛玩動物』とは言ったがそれは本当にギリギリ|特定界隈《昆虫マニア》に限る話で、むしろ一般的には超危険生物に分類される生態であるが……しかし|この世界《√妖怪百鬼夜行》、モンゴリアンデスワームなどというデスカブトの比じゃないやべえ名前のモンスターが種族としてそこら辺にいたりするので、まあ、そこは深く考えないことにしましょう!

 そんな訳で、気を取り直してエーファは蚤の市マップを取り出して広げ、その周りをくるりくるりとエーファと同じ顔をした『頭』──デュラハンたるエーファの『|複製頭部《ワタシたち》』が覗き込み、独り言のような作戦会議が始まる。

「デスカブトと大層な名前ですが、生態は恐らくカブトムシですよねえ」
「カブトムシと言えば甘い樹液に集まるとか聞いた事がありますよ」
「なるほど、捕獲のために蜜を探すのも手かもしれませんね」
「……よし、そうと決まれば早速蚤の市で蜜が売っているか探してみましょう! ええと……最悪、飴でもいいですが、ひとまずはそういうものが置いてありそうな、甘味処を当たってみましょうか」

 騎士たるもの行動は迅速。早速甘味処を訪れてメニュー表を見るも『蜜』単独は見当たらない。しかしお持ち帰り品の中にエーファはピンと来るものを見つける。
 それは『クリーム餡蜜』これならバニラアイスに餡子、黒蜜と様々な甘さが混ざり合い、蜜の代わりになるのでは? 木にも塗りやすそうですし、お値段も手頃。

「そう言えば『ヘルクワガタ』もいると聞きましたね。念には念を入れて多めに買っていきましょうか。騎士ですので、闘いには入念な準備をしますよ!」

 そうして意気揚々と餡蜜を大量に買い込んで、後は日が暮れるのを待つだけとなったものの、しかし、何やら先程からジイ……と周囲から感じる熱視線。
 まさかデスカブトがすでに!? と思うエーファがふと見れば、漂う『|ワタシたち《複製頭部》』が何か言いたげな目線で餡蜜の入った袋を見ている。

「……あっ! まさか……って、ダメですよワタシたち! この蜜はワタシたちが食べる為の物ではなくてですね……」

 思わず袋を背後や脇に隠し、餡蜜を庇う様な仕草を取るが頭は構わずふわふわと、なんなく袋を追跡する。うっ流石ワタシたちです……追跡と包囲網が堅牢……!

「でもでも、そんなこと言ってもこの天気だとアイスが溶けてベトベトになっちゃいますよ」
「それにカブトムシは白玉やフルーツまで食べないと思いますし」
「せっかく買ったんだからちょっとくらいは……ね?」
「……た、確かに言われてみれば……」

 ぐらぐらと揺らぐ決心に、エーファはジイと餡蜜とワタシたちを見る。そこへ囁かれる|悪魔の囁き《ダメ押し》──ね、たくさん買ったんですし、ちょっとくらいは……たまには騎士も休息が必要じゃないですか?

「……じゃあ本当にちょっとだけですよ。いえ、決してワタシも味見したいという訳では……」

 大丈夫、ちょっとだけ、ちょっとだけ……そう思いながら数時間後、甘味処に何かを買いに走るエーファの姿が目撃されたとか。

天使・夜宵
チェスター・ストックウェル
古出水・潤

「へえ、ここが蚤の市かあ……どんなところかと思ったら案外普通だね」
「まあ、|場所《世界》は変わるが、一見普通のフリーマーケットだな」
「成程、どうやら軽く販売品によってスペースが分けられてるみたいですね。とは言え、あくまでも自己申告の様ですが……」

 そんな台詞と共にやってきたのはチェスター・ストックウェル(幽明・h07379)と天使・夜宵 (|残煙《ざんえん》・h06264)に、出店マップを広げた古出水・潤 (夜辺・h01309)の、一見共通点のなさそうな三人。
 その実態は『職場の上司/部下/同僚』であるのだが、意外と側から見ると謎の組み合わせだったりしますよね、そういうの。
 それはともかく、潤の広げたマップを横から覗き込んでチェスターは言葉を続けると、とりあえず見て回ろうと三人で適当に市を歩き出す。

「でもただの蚤の市と違って、情報だと『出店者に旧家が多い』らしいじゃん。俄然やる気が湧いてきたよ」
「ほう骨董品に興味でもあるのか、意外だな」
「だってこの世界の蔵から出てくる品物なんて|幽霊屋敷《うち》にぴったりの『曰く付き』の骨董品があるかもしれないからね」
「……なんだよ。珍しく誘うからなんだと思って来てみたが……曰く付きなんかが欲しいのか?」
「正確に言うと『屋敷の侵入者撃退に役立つ品物』かな。ひとりでに動く家具とかさ」

 近くにあった怪しい古箪笥をこっそり指し、そんなことを宣うチェスターに顔を顰めた夜宵。いやお前流石に箪笥は……持って帰れねえだろ? しかも『うち』ってことは英国……空輸か?
 そんな二人の会話を、足を止めた店先で手に取った櫛を手の中で回しつつ目を細めて潤は笑う。

「良いではありませんか、『曰く付き』の品物。私の実家にもいくつかありましたが、あれは在野の品はまた違った趣があって楽しいものですよ」
「実家にあること、あるか?」
「へえ、潤の実家もそういう歴史のある大きな家だったり? 一体どんな物があったの?」
「いえ。両親が『曰く』の専門家でしてね……おや、その品物の話はまた後々ゆっくりと」

 櫛を置き、店主へ礼を言うと三人はまた歩き出す。曰くの有無はともかくとして新旧雑多な売り物は成程、なんとなく歩いて見て回るだけで足を止めてしまい時間が取られるもので。

「この『髪が伸びる人形』って怪異案件? あ、こっちの『深夜に涙を流す美人画』も中々──いや、高!」

 とある店の前、いかにもな品々を見つめて経費が落ちれば即決なんだけどなあ……と呟いたチェスターの言葉に夜宵は『実体化』したかれの頭を軽く小突いてヒソヒソと耳打ちする。

「おい、経費で落とそうと目論むんじゃねぇよ。それしたら首が飛ぶだろ、副班長の」

 そう言いながら、チラリと潤へ視線を向けて反応を伺う。内部事情は分からねども、かような反応から伺える力関係 is パワー。とは言えそんな行為を笑い、潤は事もなく言ってのけることに。

「飛ぶ時は班長の首が先に飛びますので、ご心配なく……しかし総務に借りを作ってしまうのは得策ではありませんし、なんならこちらの【梟】で妥協してみては?」
「まぁ、確かに借りを作るのはな……って」

 いつの間にか潤が手に持っているのは、近くにあった可愛らしい梟の置き物。手のひらサイズながらも表面にモザイクガラスの細工がしてある、中々可愛らしいものなのだが──どこか不穏な言葉と共に梟の首が、取れた。

「班長!?」
「班長の首が!?」
「嫌ですね、こういうタイプの小物入れですよ。お二人もいかがです?『ご利益』があるかもしれませんよ」
「いや、俺は遠慮しておく。チェスター欲しいだろ? もらっとけ。ほら可愛いだろ梟。家に飾ってやれよ。俺? 俺は遠慮しておくからチェスターほら」
「そんな圧をかけられても……だってこの梟、どことなく潤に似てるし、急に驚かしてきそうで家に置いたら気が休まらないよ……遠慮しとくよ……」

 断固拒否、しかし生贄を捧げようとする夜宵とやんわり断るチェスターの姿に、梟の頭を撫でながら潤は気にせずに続ける。

「おや残念。若干の曰くがあるとかで、皆でお揃いも楽しいと思ったのですが……しかしたくさんありますし、お土産に……」
「いや残念って……お土産って……こういう時、潤を止めるバディの有難みが分かるな……」

 そんな会話を続けて歩いているうち、ふとチェスターはとある油絵の前で足を止める。
 これから結婚式やパーティに出席するのだろうか、きちんと正装した可愛らしい、10歳程の年齢の少女の姿が描かれたそれは一見何の変哲もない絵画に思えたが──。

「『足音あり、喋り声あり、徘徊の可能性大』って書いてある……」
「そんな正直に、中古品の動作確認みたいな書き方されんのかよ、『曰く』って。まあ動かなくても雰囲気はあるしいいんじゃねえか?」
「お値段もこの絵画にしては手頃ですしね。家具などより持ち運びも楽ではないでしょうか。良いと思いますよ」
「うーん、そうだね。うちにあってもおかしくない絵だし、これにするよ!」

 曰く付きの品物って背中を押されて買うことがあるんだ。会計をしながらどこか冷静な頭の部分でチェスターは思った。
 人に曰く付きの品物を「いいんじゃないか、買っちまえよ」と言うことがあるんだ。梱包を眺めながら夜宵は思った。
 ふたりとも何かの感覚が麻痺していくことを感じた。怖いですね。

「ところで、今日は付き合ってもらってありがとう。俺は無事いいものを買えたけど、二人は掘り出し物見つけた?
 ほら、自分のじゃなくても妹とかバディとか相棒へのお土産になりそうなもの」
「そうですね……見て回って、あちらの蛍石のネクタイピンや組紐のブレスレットは似合いそうだな、と思いましたが……私はやはり『これ』で」

 いつの間にか購入を済ませて、潤の手には先程と同じ、モザイクガラスの梟の置き物が二つ。けれども少し大きめで、こちらはしっかりとした造りの、曰くがなくて首が取れないタイプらしい。曰くがない品物もあるんですよこの市には。
 そんな楽しそうな二人に、夜宵は先ほどの言葉ととある人物を思い浮かべると、しばし考える。

「……『相棒』に、か。まぁ、確かに折角来たなら物珍しいもんでも買ってくか……とは言っても何喜ぶんだか……」

 二人に断り、品物を見繕いにぶらりと歩きながら思い出すこと──物々交換屋してるし、チェスターに倣って『侵入者撃退』ってのは見繕っても良さそうか。曰くは置いていくとして──そう考えながら目を引いて足を止めたのはとあるアンティーク調の古ぼけた鏡。
 なんの変哲もない、しかしただそこに映る己の姿を見つめていると何やら不安に襲われる錯覚に、店主に聞いてもその謂れは不明と言う。
 とは言え所持していたが何も不幸も現象もがある訳でもないと、その言葉を信じて夜宵はそれを購入した。ああ、とりあえず──包装はプレゼント用で。

 戻ってくれば二人は荷物を一度置いてきたのか手ぶらで夜宵を待っていた。夕暮れまで時間はまだあるのかな。ええ、この後はどうしましょう。もう少し見て回りましょうか? さらに『曰く付き』の物を買うんじゃねえだろうな……。それもいいかもね。
 そんな、穏やかな時間を過ごしながら秋の日は過ぎていくのであった。

天・叢雲

「はいはい、成程成程」

 森羅万象全てを存じ上げますと言ったら物腰で天・叢雲 (咒滓・h00314)の言葉を紡ぐ事には。

「デスカブトにヘルクワガタですね、はいはい。知ってますよ」

 真顔で言うと破壊力が増すワード、デスカブト。でもそういう生き物なので仕方ない。誰だよこんな名前つけたやつはよ。
 でもええ、ほら諺にもありますよね、「男子家を出れば七匹のデスカブトあり」とか「女の敵はヘルクワガタ」とか「立てば益荒男 座れば乙女 歩く姿はデスカブト」とか。

「まぁ、デスカブトならまだいいですね。ジェノサイドサウルスや強盗イルカよりはマシだと思いましょう」

 五十歩百歩ですけども。きっとこの世界にはまだまだ強敵がいますからね、エクスプロージョンバタフライとか、ドラゴニックリザードとか。いや、いて欲しくはないですが。

 それは兎も角、デスカブトの出番はまだ先の夕暮れ時。故にのんびりと叢雲は蚤の市に足を運ぶことにした。時間潰しと言えども蚤の市と聞けばここで掘り出し物を狙いたくなるのが生き物のサガだが──。

「先人曰く、骨董やらの世界に掘り出し物というものは存在しないそうですが……」

 良いものは先に買われていたり、素人判断では価値を見抜くことが難しかったりと、考えてみれば納得しつつもどこか夢のない話ですけども、それでもそんなセオリー無視した高値なものが二束三文で売り出されてたりしませんかね。見たいじゃないですか、夢。

 ぶらりと歩きつつ、様々な骨董を見て回ると、骨董品だけではなく、中には少し前の玩具や雑誌の付録など『一般的にそこまで価値はないが|好きな人《蒐集家》は好き』と言った品物も並ぶ。
 それを見て、叢雲はふむと考える。

 例えば、妖気に満ちた品物──妖刀など大層に禍々しいものではなく一般にはそこまで価値のない、もしくはこの世界ゆえにありふれた、けれども他世界で見ると価値のある品物。そんなものならばワンチャンあるのでは?

「と、いっても。鑑定の専門知識があるわけでもなし……ここはひとつ"凝を怠るな"って感じで自分の第六感を信じつつ、微かでも妖気の宿った品を見切り、さりげなく買い取らせてもらいましょう」

 ほら、そういう変なものを蒐集する好事家がいないでもないですからね。そのあたりを狙っていきましょう。
 完璧な計画のもとで叢雲は自分の感覚を信じながら品物を眺めていく。ええと、刀などの類いは流石に短刀の類いでも中々値がはりますね……もう少し役に立たなそうなものあたりでないでしょうか。

 そうして歩く中で叢雲はふと妖気を感じ、足を止めればそこには砕けた水晶らしき破片が袋詰めにされ、二足三文で置いてあった。
 店主曰く「なんらかの理由で砕けた古い数珠の破片」を適当にまとめたというが、透明色や紫など、様々な物が混ざったそれらは加工すればどうにか使えそうである。
 こうなった『理由』は分からないがなんらかの妖気、それも中々強いものを纏っていることには違いない。修復するにせよ、別のものへ作り直すにせよ加工代の方が高くつきそうだが、この安さなら『掘り出し物』であることには違いないだろう。
 叢雲は適当にそれを買い上げ、一応の目的を達成する。しかしこの様子だとまだ何か、もしや、ワンチャン──。
 時間はまだ十分にあるし、見つからなくてもそれはそれで。そんな気持ちで叢雲はもう少しだけ市を見て回る事にしたのであった。