⚡️オーラム逆侵攻~道を見据えて
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「集まってくれてありがとうな。今回は√ウォーゾーンで発生した大規模な作戦、『オーラム逆侵攻』に関する依頼を頼みたい」
赤神・晩夏(狐道を往く・h01231)は能力者達の姿を確認すると、早速口を開く。
「目的地は川崎市・川崎臨海部周辺に存在する『レリギオス・オーラム』っていう敵拠点だ。ここの支配者である統率官『ゼーロット』が√EDENへの侵攻を行おうとしているんだが、そこに逆に急襲してやろうっていう作戦だな」
『ゼーロット』は王劍『アンサラー』を奪取するべく√EDENへの侵攻作戦を準備していたのだが、敵拠点内に潜入した二重スパイの妨害により軍備に手間取っているようだ。この機会に逆侵攻を成功させれば、ゼーロットの目論見を阻止することも出来るだろう。
「今回案内するのは、外部から『レリギオス・オーラム』に潜入するための作戦だ。スパイ達が作った経路を通って、敵拠点へと入ってくれ。しばらく進めば、侵入者を察知した戦闘機械群が押し寄せてくると思う。まずはこいつらの数を減らし、道を切り拓いてくれ」
現れるのは機械で出来た竜のような戦闘機械『シャドーウィン』。群れでやってくる彼らをすべて殲滅するというのは難しいかもしれないが、数を減らしておけば先へと進みやすくなるだろう。
「『シャドーウィン』を倒した後なんだが……そこからどういうルートを辿るかは皆で相談して決めてほしいんだ。『レリギオス・オーラム』でやるべきことは大まかに5つに分けられていて、その内の1つを今回の全体方針にしてほしい」
続けて晩夏が述べたのは、5つの作戦の具体的な内容だ。
作戦1、統率官『ゼーロット』の撃破を目指す。
作戦2、オーラム派機械群の壊滅と川崎市の解放を目指す。
作戦3、敵拠点から√EDENへと通じる『大黒ジャンクション』の破壊を目指す。
作戦4、√能力者達が捕らえられている『扇島地下監獄』を目指す。
作戦5、知られざる簒奪者『グロンバイン』の拠点である『カテドラル・グロンバイン』を目指す。
「どの作戦も今後のことを考えれば、挑む価値があるものだと思う。『ここに行ってみたい』とか『こういう作戦はどうかな?』って気軽に相談してもらえれば助かるぜ」
どの選択を取ろうとも、√ウォーゾーンを救うことや√EDENを守ることに繋がるだろう。
今回の作戦は大規模なものだが、だからこそ得られるものも多いはずだ。
「説明はこのくらいかな。そろそろ準備するぜ」
晩夏は説明を終えると、能力者達に笑顔を向ける。
「それじゃあ気を付けて。みんなが無事に帰って来るの、待ってるな!」
第1章 集団戦 『シャドーウィン』
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二重スパイの手引により、能力者達は敵拠点『レリギオス・オーラム』の内部に潜入することが出来た。
ここからどのように動くにしても、ある程度は拠点の奥まで踏み込む必要が生じるらしい。
その道中には、侵入者の存在を察知した戦闘機械群が待ち構えている。
先へと進む能力者を迎え撃つのは、黒い機竜達だ。
『シャドーウィン』と呼ばれるその存在は、機械でありながら残忍狡猾な性格を有している。
彼らは新たな獲物が現れたとなれば、執拗に追いかけてくるだろう。
これからの作戦を成功させるためにも――まずはこの機械の群れに対処しなければ。
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愛用のヴィーグル『イロタマガキ』に跨がりつつ、ベニイ・飛梅(超天神マシーン・h03450)は静かに呼吸を整える。
(√ウォーゾーン。私の故郷。この作戦が成功すれば。ウォーゾーンのみんなにとって安全な場所が出来る)
今回の逆侵攻は、戦闘機械群に侵略された世界を解放するための一歩になるはず。拠点の確保、統率官の討伐、人員の救助など――成功で得られるものは多くある。
だから『成功すれば』なんて言わない。心に決めることはただ一つ。
「――させてみせます。たとえ無理でも」
ベニイは命を賭けて故郷を救うべく、ヴィーグルを空へと駆けさせる。彼女の眼下には、蠢く機械竜の群れが集まってきていた。
機械竜シャドーウィンはベニイの姿を認識すると、一瞬にして陣形を組み上げ迎撃の姿勢を取る。
彼らの周囲には赤い光が展開され、光に包まれたシャドーウィンは凄まじい速さでベニイの元へと向かい始めた。
ベニイはすかさず小型ドローン群を展開し、周囲に防壁を作り上げる。身を守る態勢を整えれば、今度は攻撃の準備だ。
「寄らせません!」
まずはテンジンリボルバーを構え、高速射出した金属片にて最接近している敵を撃ち落とす。
そのままの流れで更にドローン群を呼び出して、電撃弾も展開。この弾なら直接敵を攻撃するだけでなく、動きも阻害出来るだろう。
迫りくる敵の対処を行いつつ、ベニイは地表にも視線を向ける。数体のシャドーウィンがこちらに飛来することなく、じっと周囲の様子を観察しているようだった。
情報収集用のドローンでも確認すれば、地表の敵の周囲には強力なエネルギーが観測された。おそらくあの個体が赤い光で仲間を指揮しているのだろう。
「よし、見つけました。それでは――」
ベニイはヴィーグルから勢いよく跳躍し、飛び蹴りの姿勢を取る。狙いは当然、地表の指揮個体だ。
ベニイの身体からは電撃が迸り、バチバチと周囲を照らす。雷を纏いつつ放つのは――。
「――戦術飛梅!」
流星の如く飛翔したベニイは、指揮個体に全力の飛び蹴りをお見舞いする。同時に周囲に放電し、他の個体も纏めて焼き尽くす。
衝撃と電撃は一瞬でシャドーウィンを飲み込み、彼らを物言わぬスクラップへと変えていった。
そのままの勢いでアスファルトを蹴り、ベニイは再びイロタマガキの元へと飛ぶ。そのまま跨がり、思わず大きく息を吐いた。
「……最初の作戦は成功ですね」
見事な第一歩を踏んだことを確認し、ベニイは目を細めていた。
けれど油断はしていない。次の戦いに向け、イロタマガキは勢いよく敵拠点を進むのだった。
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スミカ・スカーフ(FNSCARの|少女人形《レプリノイド》・h00964)は敵拠点の入口まで辿り着くと、準備のために建物の影に身を潜める。
まずは少女分隊を招集し、彼女らの武装を確認。今回の作戦は市街戦となるため、それに合わせた準備もしておいた方がいいだろう。
一通り準備が終われば、今度は作戦の確認だ。
「レリギオス・オーラムへの逆侵攻作戦ですよね。それにしても、どうにもゼ―ロットは詰めが甘いというか」
この世界において戦闘機械群というのは優良種、人類に対して優位な立場に立っている。
彼らが純粋に人類の殲滅だけを考えたのなら、とっくの昔に敗北しているだろう。しかし彼らは傲慢になり、自分の力を過信している。ゼ―ロットは特にその傾向が強いのだろう。
そうなってしまう気持ち自体は理解出来る。だからこそ、容赦なくそこを突かせてもらおう。
「ひとまず、目の前の敵機を沈めていきましょう。それでは作戦開始です」
スミカは少女分隊と共に影から飛び出し、戦場へと足を踏み入れる。彼女らを出迎えるよう、何体ものシャドーウィンが集まってきていた。
「敵機は速度重視の近接型です、距離をとり各個撃破に努めましょう。逐次連携を忘れず、周囲の建屋など環境を存分に生かしてください」
手短に作戦を共有し、少女達は数人に分かれて敵を引き付ける。シャドーウィンは邪悪なオーラを纏いつつ、高速でこちらを追いかけてくるようだ。
スミカはビル群の合間へと身を滑らせ、周囲の状況を確認する。シャドーウィンは機動力に優れているが、体躯はスミカ達より大きい。狭い空間に連れ込めば、自慢のスピードも活かしきれなくなるだろう。
シャドーウィンが壁に追突しないように減速する瞬間を見計らい、スミカはアサルトライフルを構える。合わせて他の少女達も銃を構え、敵を睨んだ。
「弾幕、展開」
次の瞬間、ビルの隙間から大きな音と火花が弾けた。スミカ達の弾丸はシャドーウィンを蜂の巣にし、あっという間にスクラップに変えていく。
他の少女達も廃ビルの中に突入したり、高い位置に上っていったりと様々な手段で敵を引き付け、そして撃ち抜く。
見事な作戦と連携によりどんどん敵の数は減っていき、道が切り開かれた。
「十分な数の敵を対処出来ましたね。それでは先に進みましょう」
作戦の第一歩は無事に成功だ。さらに先へと進むため、再集合したスミカ達は軽やかに駆けていくのだった。
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√ウォーゾーンの空気は√EDENよりずっと張り詰められているような気がする。その雰囲気を全身で感じ取りながら、平野・空(野良ティラノサウルス・h01775)もまた敵地へと足を踏み入れた。
この地のリーダーであるゼーロットは戦闘機械群を引き連れ、√EDENへ大規模侵攻を仕掛けようとしているらしい。侵攻が起きれば、多くの生き物が傷つけられるだろう――見過ごせる訳がない。
「どう動くにせよまずは先へ進まねえと話にならねえか。という訳で……」
空は堂々と拠点を進み、シャドーウィン達に姿を晒す。赤い液晶を瞬かせ殺意を向ける機械を前にして、空は身を低くした。
「どいてもらうぜ、機械ども」
次の瞬間、戦場に大きな風が吹いた。敵は空の戦意を感じ取り、すぐさま攻撃を仕掛けてきたようだ。
狩猟包囲陣を展開しつつ突進してきたシャドーウィン達は、目視で追いかけるのもなかなか難しい。しかし空は焦らずに、大きく息を吸って構えた。
「――ガアアアアアアアア!」
空が凄まじい声量で咆哮を放てば、その音の圧はシャドーウィン達の動きを止める。数体の敵はかなり近い位置まで接近してきていたようだ。しかし、それも空にとっては好都合だった。
狩猟包囲陣を展開したシャドーウィンはナノフィラメントによって互いを結びつけている。つまり――。
「……よし、捕まえた!」
空は敵が再び動き出すより早く、一体のシャドーウィンに食らいつく。そのまま大きく引っ張ってやれば、他のシャドーウィンもグイ、とそちらへ引っ張られた。
思った通り。敵が互いを結びつけているのなら、まとめて引っ張ってやればいい。単純なフィジカルなら、空は決して機械達に遅れを取らない。
空は身体を振り回し、食らいついた一体を思い切り振り回す。その動きにつられて他のシャドーウィンも引き上げられ、遠心力によりナノフィラメントを外すことすら出来なかった。
戦場内には建物も多い。それらにぶつけるようにシャドーウィンを振り回し、一体、また一体とスクラップに変えていって。
ひとしきり暴れ終われば、この地に立つのは空だけとなった。
残骸を口から離し、空は大きく息を吐く。
「ふう、どうしても体力使っちまうな」
けれど休んではいられない。本命はこの後だ。空はぐっと脚に力を入れて、さらに拠点を進んでいった。
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敵拠点を警備していたシャドーウィンの数は減り、残った個体は完全に警戒状態に入っていた。
彼らは拠点内部を駆け回り、新たな侵入者を探しているようだ。センサー類を駆使し、生命反応を探し続けるが、今のところそれらしいものは見当たらない。
シャドーウィン達が次のエリアに移動しようとした瞬間――彼らの周囲で炎が踊った。
炎が一本の太刀筋を描いたかと思えば、そこ場に立っていたシャドーウィンは真っ二つになり倒れ伏す。仲間が慌てて周囲を探るが、やはり生命反応は見られない。
代わりにセンサーが捉えたのは熱源だ。その中央には長大な長巻が浮遊していた。
この長巻の名は霊剣・緋焔(義憤の焔・h03756)。幾多の兵を宿す霊剣であり、自らの意志で戦場に介入し√能力者を助ける存在でもある。
彼女は警戒にあたるシャドーウィンを撃破することで、√能力者の進軍を支援するつもりのようだ。戦意を示すかのように炎を滾らせ、その刃をシャドーウィン達へと向けている。
シャドーウィンもこの霊剣を敵だと認識したのか、邪悪なオーラを纏いつつ迎撃の構えを取った。そのままシャドーウィンは突進を開始し、一気に緋焔の元へと迫る。
緋焔は咄嗟に炎を展開し、自身の周囲に広げた。シャドーウィンは構わず炎に突っ込むが――直後、彼らの動きが大きく鈍った。
この炎は破壊の炎。√能力者にだけ見えて、かつその能力を無効化する炎だ。シャドーウィンは破壊の炎をセンサーでだけ捉え、本物の炎と錯覚したのだろう。
敵の動きが鈍ったことを確認し、緋焔は即座に動き出す。まずはもっとも近くにいた敵を切り払い、流れるように次の相手へ。
誰に握られていることがなくても、緋焔は自らの意志で斬撃を繰り出し続けた。時に大きく薙ぎ払いを繰り出し、時に鋭い刺突を繰り出す。シャドーウィンも対応しようとするが、小回りのきく緋焔を捉えるのは難しいようだ。
相手が動き出そうとすれば再び破滅の炎を展開し、能力の発動を阻止する。その隙に再び斬撃を繰り出し、緋焔はあっという間に敵の数を減らしていった。
遠くでは、別の能力者達の足音が聞こえる。そろそろ作戦も動き出すだろう、そう認識し、緋焔は戦場を飛び立つのだった。
第2章 集団戦 『レギオン』
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無事に拠点へと入り込んだ能力者達は、富士見公園の方角を目指して進んでいた。
ここにはサッカーやラグビーの試合に使われるスタジアムが存在し、敵の待機場所に使われる可能性が高いと予想しての行動だったが、能力者達の予想は見事に的中したようだ。
広いスタジアムの内部には、球体のような戦闘機械群――レギオンが待機している。
彼らは静止しているようだが、能力者の来訪に気付けば迎撃モードに移行し襲いかかってくるだろう。
オーラム派機械群の壊滅と川崎市の解放を目指すために、この戦闘機械群も破壊しておかなければ。
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オーラム逆侵攻の作戦自体は順調に進行している。その報告を確認し、スミカ・スカーフは小さく安堵の息を吐く。
しかし、参加中の作戦はまだ進行中だ。少しでも多くの成果を出すために、この拠点もどうにかしなければ。
スミカは気を引き締めて、改めて少女人形部隊との陣形を確認する。
「後顧の憂いを減らしていきましょう。破壊した敵の素材も有効活用できるでしょうし、そのためにもの敵機を一機ずつ確実に沈めていきましょう」
スミカの言葉に仲間の少女人形もこくりと頷く。みんな気持ちは同じだ。
今回の戦いはもちろん、これからのこの世界のためにも――スミカ達は武器を手に取り、次なる戦いへと身を投じた。
スミカ達は陣形を組み上げたまま、戦場となるサッカースタジアムへと足を踏み入れる。そのまま向かったのは、観客席側の入口だ。
待機していたレギオン達も能力者の出現に反応し、赤い瞳のような部位を光らせる。彼らも集団戦を行おうとしているのか、数体ずつでまとまってスミカ達を追いかけてきたようだ。
「観客席を上手く利用して。敵の数こそ多いですが、高低差の面ではこちらが有利です」
スミカの声に合わせ、少女人形が所定の位置に立つ。全員が観客席を盾にできるような位置につき、それぞれがアサルトライフルを構える。
レギオンも少女分隊を狙ってミサイルを撃ち出すが、それが彼女らの元へ届くことはなかった。
「弾幕展開、制圧射撃を開始します」
少女分隊は冷静にライフルを操り、迫る攻撃を圧倒的な弾幕にて撃ち落とす。そのまま近くの敵から一体一体狙いを定めて、的確に撃ち抜いて。
少女分隊は人数も多い分、反応速度には若干の難がある。それを冷静な行動と物量で補うのがスミカ達の作戦なのだ。
もし弾幕から逃れられたミサイルがあっても、観客席の間を滑るように動いて対処する。そしてすぐに陣形を組み直し、再び攻撃に移る。
引き金を引く最中、スミカが思うのはこれからのこと。
(あのレギオンの部品も地域復興や防衛設備の増築に使えるでしょうね)
この地での戦いが終わっても、この世界の戦いは続く。
けれど戦い続ければ、いずれは戦闘機械群へ反逆する機運は高まっていくだろう。
そんな未来を掴むために――スミカ達は的確に行動し、レギオンを次々に撃ち抜いていくのだった。
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作戦の遂行中でも、オーラム逆侵攻全体の報告は入ってくる。ベニイ・飛梅はそれらをサッと確認し、改めて呼吸を整えた。
(大勢は決した。でも、こういうときが一番危険)
ゼーロットが企てた作戦は間違いなく失敗に終わる。しかし残存兵がどのように動くかはまだ未知数だ。今戦場となっている川崎市の行く末もまだ分からない。
それなら――少しでも良い未来を掴むために、できるだけのことをやらなくては。
(減らせるだけ減らします。ここを、みんなの手に取り戻すために)
ベニイは巡航単車イロタマガキに乗り込むと、そのまま空を駆け出す。まずは上空からスタジアムへと突入するつもりだ。
レギオン達も目敏くベニイの姿を捉え、睨むように赤い光を瞬かせる。攻撃が来ることを確認し、ベニイは瞬時にエネルギーバリアを展開した。
(相手もまだこっちを認識したばかり、最初の攻撃はそこまで激しくないはず……!)
予想通り、レギオンが放ったミサイルはまだ威嚇程度の数でしかなかった。それらをバリアにて退けつつ、ベニイは勢いよく敵陣へと突っ込む。
ベニイの動きに合わせるよう、レギオンの群れも動き始めた。自分についてくる敵影を確認し、ベニイはヴィークルを巧みに走らせていく。
敵の攻撃は回避できるよう、それでいて引き離しすぎないように。
丁寧なコントロールで敵集団を纏め上げれば、今度は反撃の時だ。
ベニイは再び上空へと飛び上がり、眼下のレギオン群に掌を向けた。
「まだ出来立ての新装備ですけれど……これを準備したのは、こういう集団戦のときのため! いきます、電撃断行!」
掌から放つのは、凄まじい輝きを放つプラズマ砲だ。激しい雷は次々にレギオン達を飲み込み、着弾点周囲にいた個体はあっという間にスクラップへと変えていく。
余波によって吹き飛ばされた個体も無事では済まないだろう。ゴロゴロとスタジアムの上を転がるレギオン達は、もはや満足に逃げることもできないはずだ。
ベニイはすかさず小飛梅・玉を展開し、次の行動に移る。
「一体も逃さないで! ここで着実に数を減らします!」
ベニイの意思に従う白梅を模したドローンは、次々にレギオン達を撃ち抜いていく。
一体、また一体とレギオンがスクラップとなっていけば、その度にこの地の奪還へと一歩ずつ近付いていくのだった。
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「うへえ、予想が当たったのは嬉しい事だけど……」
ここに至るまでに仲間と交わした言葉を思い出し、平野・空は目を丸くする。
敵の待機地点は皆で予想していた通り。しかし、その光景が嬉しいものとは限らない。
「実際こうもうじゃうじゃ居るのを見るとげんなりするなあ。まあ数倒すのを狙ったのはこっちなんだ、泣き言言わずに頑張るとしますか」
グッと身体に力を入れて、姿勢を整える。敵の数が多い分、しっかり倒せば敵軍勢の壊滅にもより近付くだろう。ここは前向きに頑張るしかない。
それなら作戦も相応に分かりやすいものにした方がいいだろう。空は身を低くして構えると、スタジアム目掛けて一気に走り出す。
広いスタジアムの真っ只中に飛び込んできたティラノサウルスを前に、さすがのレギオン達も動きを乱す。しかし彼らもすぐに空を敵性存在だと認識し、攻撃のための陣形を組み直した。
「っと、もうちょっと驚いてくれても良かったんだがな。だけど、その分やりやすいか」
相手は殺戮のためのための兵器だということを、改めて実感する。それなら後腐れなく、思い切り壊してやるだけ。
空は全身に力を漲らせ、能力者として、そしてティラノサウルスとして堂々と構えた。
レギオン達は陣形を組んだまま、無数のミサイルを放ち始める。
最初の数発は動きも疎らで回避するのは難しくない。しかし相手の作る弾幕はなかなか隙がなく、攻撃が続けば回避し続けるのは難しいだろう。
そのことは空も十分理解していた。身体の大きな彼にとって、この手の攻撃に対処するのは難しい。
それなら攻撃ではなく、敵そのものへの対処を考えればいい。空はミサイルをできるだけ掻い潜りつつ、手近な敵へと接近する。
「特に恨みはねえが残しておいちゃ次の作戦に使われるかもしれねえ。ここでまとめてぶっ壊れてもらう!」
空の振るった尻尾は鞭のようにしなり、的確に敵を打ち据える。そのまま流れるように身体を回転させ、今度は別の敵へと牙を突き立てる。
なるべく多くの敵を巻き込むよう、そして素早く戦闘を終えられるように。空は全身を使った攻撃で、どんどんレギオンを破壊していく。
「こっちも大事な作戦中だからな。悪く思うなよ!」
その様子はまさに暴君。スタジアムの中で空が堂々と動くと、その度にレギオンの残骸が芝生の上に転がっていくのだった。
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「っと、ここは……」
新たな戦いの気配を感じ取り、若命・モユル(改造人間のジェム・アクセプター・h02683)は戦場へと足を踏み入れる。
現在戦場となっているのは巨大なスタジアムのようだ。広い芝生の上に、何体ものレギオンが待ち構えている。
彼らは√EDEN侵攻作戦のために用意された兵器で、放っておけば多くの人を傷つける存在だ。ならば放置はできないと、モユルは腕の装置を構えた。
「わらわらいるし、とにかく倒さないとね! いくよ、ジェム、セットオン! 変身っ!」
装置に赤いジェムを組み込むと、その輝きがモユルの全身を包み込む。直後、彼の身体を輝く装甲が覆い、手には燃え盛るシャクネツブレードが握りしめられた。
変身したモユルは躊躇することなく敵の元へと飛び込み、剣を構える。
「オイラが相手だ、かかってこい!」
モユルの宣言を宣戦布告と受け取ったか、あるいはただ敵性存在を認識したか。レギオン達は液晶のような部位を瞬かせつつ、陣形を組み上げる。
隙間なく並んだレギオン達が放つのは、嵐のような物量のミサイルだ。モユルは咄嗟に剣を構え、防御の姿勢を取った。
(大丈夫、モード・フレイムは頑丈だから……!)
迫る攻撃はなるべくブレードと装甲で受け止めて、その威力を軽減する。おかげで衝撃が身体に伝わるが、レギオンのミサイルがモユルを直接傷つけることはなかった。
攻撃の勢いがある程度弱まった瞬間を見極め、モユルは大きく剣を振るう。炎を纏った軌跡がミサイルを薙ぎ払ったのを確認すれば、反撃に出る時だ。
モユルは勢いよく芝生を蹴り、一気に敵との距離を詰める。
「くらえぇ!」
まずは手近なレギオンに刃を振るって一閃。怪力まかせの一撃で敵を倒せば、そのまま今度は炎の刃を振るう。薙ぎ払いは多くの敵を巻き込み、新たなスクラップを生み出していく。
敵に囲まれそうになれば急いでその場から離れ、態勢を立て直して。モユルはなるべく冷静に状況を観察し、狙える敵から的確に攻撃していく。
「まだまだ!」
炎が迸る度にレギオンは切り捨てられ、物言わぬ残骸へと変わっていく。
小さなヒーローの全力の戦いは、殺戮兵器の数を減らし、スタジアム奪還への道を進めていくのだった。
第3章 集団戦 『カリオペ』
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レギオン達は数を減らし、敵戦力は大いに削られた。
いよいよ作戦も大詰めだ。戦闘機械群は最後の力を振り絞り、せめて能力者に一矢報いようとスタジアムへ迫る。
現れたのは戦車型の戦闘機械『カリオペ』の群れだ。
彼らを倒し撤退すれば、この作戦は完了となる。
最後まで敵戦力を減らし、無事に帰還するために――この戦いを乗り切らなくては。
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赤い瞳を輝かせつつ、龍守・清流(シャドウペルソナの幻実性精神生命融合体・h07089)は戦場と化したスタジアム入口に佇んでいた。
彼の手にはミラーキーホルダーが握られている。そこに映る清流は茶色の瞳を伏せていた。
『セイル、大丈夫?』
鏡の清流――主人格のセイリュウが、現在肉体の方に出ている人格・セイルへ不安げに声をかける。その声にセイルはこくりと頷いた。
「ああ、行ってくる。すぐに終わらせてくるから待ってろ」
オーラム逆侵攻は能力者側の勝利で幕を閉じた。しかし、すべての戦場において戦いが終わっていたわけではない。
残った敵を倒すための作戦があると聞き、セイルは川崎市のスタジアムへと足を運んだのだ。相手は残党兵の群れであり、対処が難しい相手でもないだろう。
それでも不安を抱く主人格に対し、セイルは頼もしい様子を示した。言葉通りすぐに終わらせれば、セイリュウも安心するだろう。
「それじゃあ行ってくる」
セイリュウはキーホルダーを懐に仕舞い、スタジアムの内部へと突入する。彼の目に映るのは、一人でも多くの能力者を打ち倒さんとするカリオペの群れだった。
カリオペはセイリュウの姿を認識すると、すぐに砲口を構えロケット砲による射撃を行ってきた。
セイリュウは身を翻して攻撃を交わしつつ、ナックルダスターをつけた拳を強く握りしめる。すると周囲のエネルギーが流れを変え、セイリュウの拳へと集い始めた。
このエネルギーの正体は現実と相反転を繰り返す幻想。彼だけが認識できる生命だ。
彼らの力を十分に束ねれば、敵を一気に吹き飛ばすことができるだろう。しかし、力の収束には60秒ほど時間がかかる。
(どうにか時間を稼がないとな)
スタジアムの観客席や選手席、先の戦闘で生じた瓦礫などを盾にしつつ、セイリュウは戦場を駆け回る。時間が経つほど、彼の拳から陽炎のような揺らめきが広がっていく。
そうして十分に力が集まったことを確認し、セイリュウは一気に敵陣へと飛び込んだ。
「俺の幻実が、おまえの現実を壊す」
宣言と共に放たれた拳の一撃は何体ものカリオペを巻き込み、彼らを崩壊させていく。
そうして現実に残るのは、佇むセイリュウと破壊しつくされたスクラップのみだった。
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戦場に投入されたカリオペの数は多い。もし先のレギオンと同時に投入されていたら――と思うと、ゾッとしてしまう。
ベニイ・飛梅は改めて戦況を確認し、内心ホッとしていた。
「空と陸、同時に相手取ったら、きっと手間取ったろうけど――皆様のお陰で、こうして!」
能力者全体で作戦を進めてきたからこそ、ここまでの戦果が得られた。
ならば最後の戦いも気持ちよく終わらせようと、ベニイは改めてヴィークルのハンドルを握る。
「……よし、最後まで頑張りましょう!」
再び空を駆け、周囲にエネルギーバリアを展開する。ベニイは眼下の敵を睨み、此度の戦いを終わらせるために動き始めた。
まずは敵より早く小飛梅・玉を展開し、自身もテンジンリボルバーを構えて。
ベニイが空から試みた奇襲は成功し、数体のカリオペが致命傷を負った。しかし残りの敵はすぐに臨戦態勢を取り、砲口をベニイへと向ける。
直後、ベニイが見たのは大気中のインビジブルが大きく動く様子だった。どうやらカリオペ達はインビジブルを装填し、大掛かりな攻撃を仕掛けてくるつもりらしい。
(この状態の敵は攻撃しても破壊できない。けれど攻撃しておくことに意味はあるはず。それなら……!)
ベニイは瞬時に敵の布陣を確認し、その中心にいる敵を確認する。そちらへ向けてヴィークルを走らせると同時に、ベニイはシートから立ち上がった。
十分な位置まで近付いたのを確認すれば、ベニイの身体からは電流が迸る。
「放電実行、準備完了……いきます、|戦術飛梅《プラム・ミーティア》!」
勢いよくヴィークルから飛び降り、ベニイが放つのは雷撃を纏う飛び蹴りだ。
ベニイの足が狙っていた敵を蹴りつけると同時に、そのまま彼女の身体は空へと戻る。走ってきたヴィークルに座り直したタイミングで、敵もまた動き出したようだ。
インビジブルをチャージしたカリオペ達はいよいよ大掛かりな攻撃を放とうとするが――それより早く、ベニイの攻撃を食らった個体が大爆発を巻き起こす。
「アンコールなんて頼まない、これでフィナーレです!」
爆炎はあっという間に敵陣を呑み込み、彼らを行動させる前にスクラップへと変えていく。
スタジアムの中で赤々と燃える炎は、戦いの終わりを知らせる狼煙。改めて作戦の終わりを実感し、ベニイは安堵の笑みを浮かべるのだった。
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全体作戦の完全な完了、および能力者達の勝利を祝う連絡にはすでに目を通している。スミカ・スカーフは最後の詰めを行うべく、スタジアムでの行動を続けていた。
目の前の敵軍を各個撃破するだけでも、敵戦力を削ぐことはできる。まだ√ウォーゾーン全体の戦いは続いている以上、できるだけの戦果は得られる方がいいだろう。
それに敵の残骸や戦場に残った物資も、近隣の味方軍にとって有益なものとなるはずだ。
もっと先の未来を良くするために、スミカは改めて武器を手に取る。彼女の視線の先には、何体ものカリオペが動き回っていた。
スミカは先の戦いで生じた瓦礫に身を隠し、敵の様子を伺う。相手はある程度規律正しく動いているようだが、それでもレギオンよりは動きが大雑把だ。
(急遽投入された援軍、という感じでしょうか。それなら動きも乱しやすそうですね)
マナバッテリーを取り出し、アサルトライフルに装着。魔力が十分に供給されたことを確認すれば、スミカは瓦礫の影から敵の姿を確認する。
狙うは相手がある程度密集している地点。そこへ目掛けて撃ち込むのは、純魔力でできた弾丸だ。
薄く青白く輝く弾丸は着弾すると同時に、凄まじい爆発を巻き起こす。着弾地点にいたカリオペはスクラップと化して、その破片が芝生の上を転がった。
爆発に巻き込まれたカリオペも混乱しているようで、とにかく弾丸が飛んできた方向へ向けて攻撃を開始したようだ。
混乱するカリオペ達の攻撃は大雑把で、スタジアムに土埃が舞い上がる。
その中に身を隠しつつ、スミカが次に向かうのは選手用のベンチ付近だ。その影に潜り込むと同時に、スミカは再び銃を構える。
魔力の余裕は十分。それらを駆使し、さらに純魔力弾を撃ち込めば、さらなる爆発がカリオペ達に襲いかかった。
数十発撃ち込めば移動を行い、進行ルートにはぐれた個体がいるなら先制攻撃で潰す。スミカは大胆に、けれど敵への攻撃を行い続けた。
(これぞ、弾幕ばらまき+爆風作戦ですね。シンプルですが、一番効き目があるはずです)
敵の戦力や様子を確認し、戦場の立地を活かし、迷うことなく行動する。そんなスミカの戦い方は、着実にカリオペの数を減らしていく。
彼女の放つ弾丸は勝利への序曲。オーラム逆侵攻の成功のように、いずれこの世界を解放に導く――そんな予感を感じさせる戦いとなるのだった。
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「よし、あとはこいつらで最後か」
残ったカリオペの群れに視線を向けつつ、平野・空は頭を擡げる。
ここまでずっと敵陣の真っ只中で戦い通してきたわけで、心身ともに疲労を感じているのは間違いない。
けれどここにいる奴らを倒して撤退すれば、間違いなく作戦は成功に終わる。最後の一仕事をこなそうと、空は気合を入れ直す。
敵は戦車型の兵器であり、数は多いが動きはそう速くない。地上を走るだけの相手だし、戦場は変わらず広いスタジアム、戦う条件としては先程のレギオン戦よりも良いだろう。
(囲まれないようにすれば十分だな)
徹底的に暴れてやるとするか。|全力全開の《すごくがんばる》心構えで、空は顎と脚に力を籠める。
そのまま芝生を蹴り飛ばし、まずは手近なカリオペの元へ。ティラノサウルスの巨体を全力でぶつけてやれば、戦車だろうと無事では済まない。
動きが怯んだ相手にはすかさず食らいつき、分厚い金属の装甲を噛み砕く。戦車の中は無人のようで、コックピットにあたる部分を破壊すればそのまま機能停止するようだ。
空は噛み砕いた破片を放り投げつつ、再び芝生を蹴る。直後、彼がいた地点には砲撃が降り注いだ。
カリオペ達は13体ずつの中隊で纏まって動いているらしい。空の周囲を取り囲もうと、指揮者以外のカリオペ達が陣形を組み上げようとしている。
「っと、油断できねえな」
すぐに相手の包囲を突破し、空はカリオペの中隊を観察する。その中でも特に動きの鈍いものを探り当て、そちらへと一気に距離を詰めた。
「よし、こいつがリーダーだな」
そのまま体当たりをかましてやれば、リーダーカリオペはあっさりと転倒した。すさまじい轟音とともにひっくり返ったカリオペへ、空は思い切り牙を突き立てる。
強化された空にとっては、どんな硬い装甲だろうと簡単に噛み砕くことができる。破壊するためだけの兵器は、より強靭な存在によってあっさりとスクラップへ変えられた。
ティラノサウルスの強靭さ、能力者としての戦略、双方を兼ね備えた空にとって、カリオペ達は難しい相手ではなかった。
最後の一体を破壊して、目に飛び込むのはスクラップの山々。
「しかしよくもまあこんなに戦闘機械を用意したもんだ」
もしこれだけの兵器が楽園へと派遣されていたら――考えるだけでゾッとしてしまう。
それと同時に胸に過るのは、恐ろしい未来を阻止できた実感。
これで心置きなく帰ることができるだろう。空は満足げにスタジアムをあとにするのだった。
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こうして作戦は終了し、ゼーロットの目論見は阻止された。
この戦いの結果は、きっと√ウォーゾーンの未来を大きく変えていくだろう。
それを引き寄せたのは――間違いなく、能力者達の尽力だった。