賑やかな共生
「――分かった、分かったって!」
|溝渕・浩輝《みぞぶち・ひろき》 (worry worry・h02693)は在る時間になると鳴り止まない電話を取った。
これが誰からの着信なのかは、分かっている。
今日の声は、父親だ。代わる代わるに電話向こうで変わってー!声を聞きたいー!とワイワイ賑やかなものは実家からの実況中継だ。思わずいつもと変わらない日常で嬉しくもなるが、もどかしい。
「風邪ひかないようにな」
話の締めはいつも名残惜しそうに言葉が収まる。
自身に|隠神刑部《いぬがみぎょうぶ》が憑いた事を家族は知らない。
浩輝は憑依された事堺に、大切な家族への危害を恐れて実家から飛び出して極力戻らずに居る。
通話を終えて、着信終了の画面に少し寂しさを思う浩輝はいる。
妖怪に憑依されたまま実家ぐらしではまずい、と思ったのだ。
できるだけ早く、家族と距離を取るべきだと自分の運の悪さを最初こそは呪ったもの……なにしろ、浩輝の家族は両親と自身の下に弟が3人・妹2人の合計8人家族だった。誰にどんな危害や恐怖を与えるか分かったものではない。
しかし、空気は読まないいわずと知れた妖怪狸は、声を頭に響かせてくる。
――いじらしいものよ。
――小僧、今日もそのような態度をとるか。
妖怪狸がいじらしいと思っていないことは声色だけでよく分かる。分かってしまった。
ああ煩わしい瞬間とはこの事だ。
誰のせいで実家を飛び出したと!想い爆発しそうになる気分をなんとか落ち着かせる。
憑いてる隠神刑部の脅威は未だに未知数。獣故に感の良さが、やばいのはわかる。
「なーんだ狸様も同じ扱いがいいって?」
――ワシを褒めてもワシが気分良くなるだけだぞ。
隠神刑部は、憑依の器として相性が良かったと現代の人の世を見るいい機会とからかい半分、茶化すの半分で存在感を潜めている。いつ考えが変わるかわからぬ不発弾だ、ただしく爆弾として成立した時浩輝は体を完全に乗っ取られてしまう可能性もある。
絶対乗っ取らせてやるもんか、むしろ利用してやる! 浩輝の考えも隠神刑部とある意味で同一だろう。
これはそう、不運から生まれた|共存《ビジネス》だ。
どちらもが、お互いの方法と最良で使い使われている。
「家族とは違うだろ、つーわけで却下!」
ただし、浩輝のほうが隠神刑部に口論でよく負けてしまう――浩輝の弱点を、"家族"であると最初から理解している妖怪狸は今日の口論も勝ちに行く。
――ほう、では小僧。家族以外に酒を奢るのだな!
――少なくとも週1の酒なぞ赤の他人にただ奢るものではなかろう!
「……次はどの酒が飲みたいって話?」
これから財布の痛い話が繰り広げられていく事となる。
しかし、その酒の開封は来週以降だ。今日の酒はもう消費済み。
あーあ、残念だったな、狸様。