シナリオ

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⚡️大規模シナリオ『オーラム逆侵攻』

これは大規模シナリオです。1章では、ページ右上の 一言雑談で作戦を相談しよう!
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(毎日16時更新)

 生命攻撃機能を無効化した機械都市の片隅で、ひっそりと明かりを零す店がある。夕になるとぽつりぽつりと人々が集まるそこは、小さな食堂だった。
「よう、今日もやってるか?」
 店の扉を潜った青年が、正面にあるカウンター向こうに声を投げ掛ける。瞬きを二度するだけの時間が過ぎて、店主と思しき男が奥から姿を見せた。
「おう。今日も運良く、運び屋が来てくれたからな。好きなもん頼みな」
「つってもあんまり選択肢ねぇけどなぁ」
 からからと笑い、青年はカウンター席に座る。左手にあるテーブル席には空席が目立つが、カウンター周りの埋まり具合は上々だ。
 けれどもこの店が明日も営業している保証は無い。食料は常に不足しており、運び手が一日来なければそれだけで店は回らなくなるのだ。
「どっかから食料持ち込んでくれる奴、いねぇかなぁ。なんなら料理持ってきてくれてもいいんだけどな」
「そんな都合のいい話、あるわけねぇだろ」
 店主のぼやきに、青年はまたからからと笑い声を上げた。

「来てくれてありがとう」
 メイ・リシェル(名もなき魔法使い・h02451)は√ウォーゾーンの片隅で、そう言って耳を押し込んだ帽子の鍔を持ち上げた。
「レリギオス・オーラムの統率官ゼーロットが、王劍『アンサラー』を奪取するために、√EDENへの侵攻に乗り出そうとしてることが分かったんだ」
 幸いにも、戦闘機械群へ侵入した二重スパイの妨害もあり、敵は未だ完全に軍備を整えられていない。
 今なら拠点のレリギオス・オーラムを、こちらが逆に急襲しゼーロットの軍備を破壊する事も可能だ。
「あなたたちにはまず、√ウォーゾーンの川崎市にある、小さい食堂に行って欲しいんだ」
 生き残った人類のために食事を提供し続けているそこは、√ウォーゾーンの大半の例に漏れず食料不足に悩まされている。食料や料理を持ち込めば、店主は勿論、客も口が軽くなるだろう。彼らと接触し、戦闘機械群と戦うレジスタンスの噂や、辺りを支配する戦闘機械群の戦力等の情報を聞き出せれば、その後の作戦もやりやすくなる。
「情報を聞き出した後にどうするかは、あなたたち次第だよ」
 目標として定められる事は、大まかに五つある。
「一つ目は、統率官ゼーロットの撃破」
 ゼーロットの所在は√ウォーゾーンの羽田空港に築かれた『カテドラル・ゼーロット』である事が既に判明している。こちらへ急行し、ゼーロットに直接対決を挑むのだ。
「二つ目は、オーラム派機械群を壊滅させること」
 √ウォーゾーンの川崎市中心部で、レリギオス・オーラムの戦闘機械群と積極的に戦えば、敵勢力の壊滅を目指す事が出来る。
「三つ目は、大黒ジャンクションの破壊」
 敵は√EDENに通じる巨大通路となっている大黒ジャンクションから、大量の軍勢を√EDENに送り込もうとしている。これを阻止するのだ。
「四つ目は、√能力者の解放」
 √ウォーゾーンの扇島の地下には、ゼーロットの一派が捕えた√能力者達を幽閉するための、巨大な『扇島地下監獄』が建設されている。ここを襲撃すれば、√能力者達の救出を狙えるだろう。
「五つ目は、カテドラル・グロンバインの破壊」
 √ウォーゾーンの三ツ池公園にある、花と緑に囲まれた|天蓋大聖堂《カテドラル》『カテドラル・グロンバイン』。そこは知られざる簒奪者である、合体ロボット『グロンバイン』の拠点であると噂されている。
 グロンバインは現在不在のようだが、ここを破壊出来ればゼーロットを飛び越えて、戦闘機械群全体に打撃を与える事が出来るだろう。
「どれを目標にするかは、あなたたちで決めて欲しい。ボクに分かることは、今伝えたことでぜんぶだから」
 食堂へは、大通りに出てすぐの脇道に入ると行けるらしい。
 気を付けて、と声を掛けるメイに見送られ、√能力者達は足を踏み出した。

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第1章 日常 『食卓を囲もう』



 周囲を鉄骨に囲まれた√ウォーゾーンの一角に、√能力者達は足を踏み入れた。目的の食堂は、ひっそりと、人目を憚るようにして佇んでいる。少し近付いてみれば、店内の物音がほんのりと漏れ聞こえた。
 星詠みの話によれば、この店は食料不足に悩まされているという。料理や食べ物を持ち込んだなら、店主もお客も喜ぶ事だろう。そうなれば、情報収集も円滑に行える可能性が高い。
 √能力者達はそれぞれに考えを巡らせ、食堂へ足を向けた。
 
神薙・ウツロ


「コーンニーチハ~~~」
 神薙・ウツロ (護法異聞・h01438)は、軽やかな声と共に食堂の扉を開けた。
「通りすがりの爆買い成功民でーす」
 目を瞬かせてこちらを見る店主とお客達に、食材が山と入った袋をずいと示して見せる。
「この通り、食材とか色々手に入ったんだけどさ? すぐ食べられるやつじゃないんだよねぇ。全部あげるから、なんか一品二品作ってくんない?」
 ふわと風に舞うような笑顔を浮かべ、ウツロはカウンターへ近付いた。食材を詰め込んだ袋が、天板の上を通り過ぎて店主へ差し出される。
「でさ、皆にパーッと振る舞っちゃってよ。お金とかいいから」
「いいのかい? こんだけの食材、手に入れるの大変だったろうに」
 もらっとけよ、と、カウンター席の一つに座る青年が声を上げた。
「食料持ち込んでくれる奴いねぇかって、ぼやいてたとこじゃねぇか。食べ物ムダにすると、バチが当たるぜ」
「まあ……それもそうか」
 店主が袋を受け取ると、ウツロはカウンター席の一角に腰掛ける。食材を確認した店主の、小さく唸る声が聞こえて来た。
「これは、餃子作るっきゃねぇな」
 店主の言葉に、ウツロの目が弧を描く。持ち込んだ袋には豚ひき肉に白菜やニラ、にんにくといったそのまま使えそうなものに加え、調味料と山ほどの餃子の皮が入っているのだ。完全に、餃子を作って貰う為の布陣が完成していた。
「餃子かぁ。食べるの久々だな!」
 白菜をざくざく刻む音に、青年の声が被さる。店内の空気も、ほんのりと明るさを増したように思えた。
 程なくして大量の餃子が出来上がり、店内のお客へと皿が配置されて行く。餃子を噛み締める音があちらこちらで響き始めると、ウツロは店内の様子を素早く観察した。一際体格の良い青年を見付け、そろりと席から立ち上がる。
「やあ、コンニチハー」
「ん? ああ、こんにちは」
 ぱちぱちと目を瞬かせる青年の隣席へ、ウツロはするりと腰を下ろした。そのまま流れるように、落とした声で言葉を紡ぐ。
「私ね、√能力者。噂の統率官をしばきに来たの」
「統率官って……ゼーロットのことか?」
 こちらも低い声で応じた青年に、こくりと頷きを返した。
「攻めるのに何かよさげな情報とか持ってたりしない?」
「そうだなぁ……」
 餃子を掴んでいた箸を置き、青年は緩やかな呼吸を一つする。そうして、ひっそりと口を開いた。
「ゼーロットが羽田空港にいるのは知ってるよな? そこまでの道のりはとんでもない数の戦闘機械に守られてるらしい」
 その戦闘機械群は、少女のような姿をした飛行型偵察ユニットだという話だ。
「でも噂だと、ゼーロット自身はあんまり強くないらしいぜ」
 ふむ、とウツロは口元に手を当てる。
 この情報は、ゼーロット撃破を目指す際に使えそうだった。

鸙野・愛宕


 人が冒険者稼業を楽しんでいる最中に、侵略計画を企てるとは。
「……無粋な奴め!」
 鸙野・愛宕(気になる、ドラゴンファンタジー!!・h00167)はむうっと軽く頬を膨らませ、右手をぎゅっと握り締めた。その右手にも、左手にも、大量の食材が入った袋がある。
 先ずは情報収集と、愛宕は軽く頭を振って気持ちを切り替えた。今こそ、√ドラゴンファンタジーの世界で磨いた冒険者スキル、酒場で培った情報収集能力を発揮する時だ。
 ――私のコミュ力が火を噴くぜ!
 勢い良く食堂の扉を開くと、正面にあるカウンターの向こうから店主が視線を投げ掛けて来た。仄かに紫を滲ませる碧眼を、笑みの形に細める。
「食材が足りないって聞いたから、いっぱい持って来たよ!」
 溌剌とした声が食堂の中を跳ね回り、店内の視線が愛宕の持つ袋に集まった。軽やかにカウンターとの距離を詰めて、店主へ食材を差し出す。
「へえ……珍しい食材もあるんだな。これは、どう捌くんだ?」
「あ、それじゃあ、料理のお手伝いするよ!」
 お気に入りのキャスケット帽に長い髪を押し込み、愛宕はカウンターの中へ入った。助かるよ、と店主が笑んで、そのまま厨房へと移動する。
 厨房の中に入っても、耳をそばだてれば客席の会話は漏れ聞こえた。既に食事を取っている者は、口が滑らかになっているようだ。
「ゼーロットがいる羽田空港までの道って、戦闘機械群が守ってるんだよな?」
「ああ。とても全部倒しきれる数じゃないらしいぜ」
 耳に届いた情報に、愛宕は暫し考えを巡らせる。ゼーロットの元を目指すのであれば、戦闘機械群の中をどう突き進むかが重要になるかもしれない。
 お酒があれば、話はもっと弾んだ可能性がある。けれども、見た目も齢も二十に届かない愛宕には、お酒の調達は難しかった。
「これだけたくさん貰っちまうと、食材が余るかもしれねぇなぁ」
 店主の声が、愛宕の意識を引き戻す。まだ手の付けられていない食材に目をやって、にこりと唇の端を持ち上げた。
「食材が余る様なら、無理に使い切らず保存して今後の腹の足しに使っておくれ……」
 ここは食堂。腹を満たす場なのだから。
 意識の幾許かは耳に向けて、愛宕は包丁を持つ手を動かし始めた。

千堂・奏眞


 店の営業も、運び屋次第。
 この√ウォーゾーンにおいては、それが常である事を千堂・奏眞(千変万化の|錬金銃士《アルケミストガンナー》・h00700)はよく知っていた。
 奏眞は普段、貧困層や戦場近くの地域に、食糧支援等の支援ボランティア活動を行っている。その分、ここでも錬金術で大盤振る舞いさせてもらうかと、食堂の扉を開いた。
「こんにちはー。魚介系の食材いらないか?」
 手にした荷物を示して見せれば、食堂が大いに沸く。魚だ、という声が、漣のように連鎖して食堂を満たした。
「魚は、ここら辺じゃあんまり手に入らねぇからなぁ。ありがたいよ」
「良かった。じゃあ、厨房使わせてもらうな」
 店主がカウンター奥への道を開けたのを確認して、奏眞は食材を持ったまま厨房へ入った。手袋を調理用のものに手早く取り替え、調理台の上に食材を並べて行く。
 |展開《アインザッヅ》、と呟いた刹那、包丁を握る手が瞬きする間に魚の刺し身を作り上げた。それに合わせた調味料も、他の新鮮な魚介料理も、息を一つ吐くごとに出来上がって行く。
 食材をあらかた調理してしまうと、奏眞は保存の効く食料の料理へ取り掛かった。√EDENで言うところのレトルト食品が、調理台の上に積み重なる。
 運び屋が来られなくとも、数日は店が営業出来るように。そう思って作り上げた料理に、店主がほうと息を零した。
「これは凄いな……代金は、いくらだい?」
「代金? |臨時の食糧支援《ボランティア》しに来ただけだ。気にするな」
 代わりにと、奏眞は店主へ顔を寄せる。
「この近辺の戦闘機械群とか地図や地形とかの情報が欲しいんだが、詳しい奴を紹介してもらってもいいか?」
「……もしかして、あんたもゼーロットの所に行くのかい?」
 店主の言葉に、奏眞は緩やかに頷いた。
「あの統率官をぶっ飛ばす為にも、情報が欲しいんだ」
「それなら、ちょうどいい奴がいる。ついて来てくれ」
 手招きする店主に続いて、厨房を出る。カウンター越しに案内されたのは、今まさに刺し身を呑み込んだ一人の青年だった。
「この人もゼーロットの所へ行くんだそうだ。この近辺の地形とか、戦闘機械について教えてやってくれ」
「旨い刺し身の代金にしちゃ、随分と安いな」
 からりと青年が笑って、上着のポケットから紙を一枚取り出す。そこにペンでざっくりと地図を描き始めた。
「カテドラル・ゼーロットまでは、この大きい道沿いに行けばまず迷う事はねぇ。足元もしっかりしてるし、邪魔になりそうなもんも無いな」
 ゼーロットまでの道のりで問題となるのは、やはり大量の戦闘機械群なのだという。
 こちらの戦闘の邪魔になりそうなものが無いという事は、相手にとってもそうだという事だ。加えて、戦闘機械群は飛行性能を有しているという。
 いかに敵の攻撃を捌き、ゼーロットの元までたどり着くか。それが問題になりそうだった。

太曜・なのか


 そこにお腹を空かせている人がいるのなら、太曜・なのか(彼女は太陽なのか・h02984)は黙って見てはいられない。
 食堂の前に立った時、なのかは大型のクーラーボックスを肩に掛けていた。自身が女将を務める宿屋兼食堂から、食材を詰め込んで来たのだ。
「こんにちはー! 差し入れだよ!」
 食堂の扉を弾むような動きで開き、からりと晴れた空を思わせる声を中に響かせる。カウンターの奥からは、店主が小走りに出て来た。
「やあ、今日は持ち込みが多いなぁ」
「さっきまで食料ぎりぎりだって、ぼやいてたじゃねぇか」
 なのかからクーラーボックスを受け取る店主に、カウンター席の青年がからからと笑って見せる。この食堂は、本日においては千客万来であるらしかった。
「ありがたいが、一人で捌き切れるかねぇ」
「それじゃあ、私も手伝うよ!」
 なのかも、食堂メニューには一日の長がある。店主の手伝いならば、問題無くこなせる自信があった。
「多少のアレンジは大目に見てよね♪」
 片目を軽く瞑って見せるなのかに、店主は却って助かると笑顔を見せた。開かれたカウンターを通って、奥の厨房へ入る。手際良く注文を捌いて行くと、持ち込んだ食材は見る間に嵩を減らした。
「はい! 七楽風ラーメンセットお待ち!」
 フリルの付いたエプロンの裾をひらりとなびかせて、なのかはラーメンセットをお客の前に置く。わあと箸を取る様に頬を緩ませつつ、軽く周囲の様子を窺った。
 食堂内の空気は、吸い込めば体が暖かくなりそうなほど和やかになっている。そろそろ情報収集に入っても良いだろう。
「実は、ゼーロットの所に攻め込もうと思ってるんだけど……どこか安全なルートって知らないかな?」
 一人で魚料理を食べていた青年に、声を潜めて話し掛ける。
「例えば、哨戒が少しでも少ないルートとか、敵兵の往来が少ないルートとか」
「うーん……そりゃ難しいんじゃねぇかな」
 口の中のものを呑み込んで、青年は眉を寄せた。
 カテドラル・ゼーロットまでの道のりは大通りが多く、敵兵を避けて進む事は難しいのだという。
「少しでも消耗を抑えたいなら、戦闘機械群の攻撃をどうにかかわしながら進むのが一番だと思うぜ」
「そっか……ありがとう」
 念を入れて他のお客にも尋ねてみたが、返答は似たりよったりだった。
 なのかは小さく息を吐いて、携帯端末でこの√の直近の天気予報を検索する。
 少なくとも、カテドラル・ゼーロットへ攻め込むまでの間は、晴天が続くようだ。ウェザーアクセプターとしてどう立ち回るか、なのかは考えを巡らせた。

櫂・エバークリア
黒野・真人


 食料不足。
 それは、√ウォーゾーンならば何処でも同じ。けれど命に関わる悩みの種である事を、櫂・エバークリア(心隠すバーテンダー・h02067)は身に沁みて理解していた。
 櫂には、√EDENの出身である黒野・真人(暗殺者・h02066)がいる。共犯関係にある彼の少年に買い出しを頼める事が、どれだけ運の良い事か。それもまた、よく解っていた。
 だからこそ、櫂がやるべき事は決まっている。
「わりーな真人。また買い出し頼むぜ」
 真人にそう言ってリストを渡したのは、目的地である食堂へ行く前の事だった。書き付けられた食材の多さに、真人は思わず目を見開く。
「大量じゃねーか……」
「色々あってな。至急で頼むわ」
 話もそこそこにそう言われ、真人は√を渡った。√ウォーゾーンと√EDENを往復する事、実に五回。頼まれた品物を買い揃えた頃には、真人の全身を綿のような軽い重みが包んでいた。
「こんだけ買ってどーすんだよ。カイの店で使うにしたって、限界ってモンあるだろ」
「ああ、うちで使う分とは別なんだ。歩きながら話すぜ」
 買った食材を二人で分けて持ち、食堂へ続く脇道へ足を運ぶ。その間、櫂は今√ウォーゾーンで起こっている大規模侵攻作戦と、これから向かう場所で行うつもりの事について手短に話した。
「今回もほんとにありがとな」
 依頼だったし、デケエやつだし。
 櫂の話を聞いて、真人は規模の大きさに背筋がぴんと張り詰めるような気になった。
「んじゃあたりめーにそっから先もちゃんと手伝うって」
 それでも共犯者が行くと言うのなら。真人に手伝う以外の選択肢は存在しない。
 そっか、と短く口にした櫂の目元が僅かに綻ぶのを、真人の目はきちんと捉えていた。
 とん、と靴音を一つ鳴らすと、食堂の扉が目の前に現れる。二人は静かに扉を開けて、店内へと入った。
 カウンターの向こうにいる店主へ、櫂は食料の入った袋を掲げて見せる。
「俺もこっちの出なんだ。食料、持ち込みに来たぜ」
「おお、そっちも苦労してるだろうに。ありがてぇな」
 店主が明るい声を出すと、周囲のお客もじわりと温もりの滲む歓声を上げた。その間に、厨房を借りたい旨を店主へ伝える。
「折角だからな。腕を振わさせてくれ」
「おう。好きに使ってくれりゃいい」
 店主の快諾を受けて、真人と共にカウンターの奥にある厨房へ足を踏み入れた。持ち込んだ食材を、ひとまず調理台の上へ並べる。
 味付とかはカイの独壇場だけど。
 すいすいと準備を進めて行く櫂を見ながら、真人は腕を捲って手を洗った。大量の料理には大量の準備がいる。洗ったり切ったり剥いたり。それなら真人の出番もある。
「これ、洗って皮剥いといてくれ」
「よっし、任しとけ」
 真人へ作業を割り振りつつ、櫂は手際良くシチューの準備を進めて行った。厨房が食欲をそそる香りで満たされるまで、さほどの時間はかからない。
 煮込んだシチューを深皿に盛り付けて、二人で食堂のお客へ運んで行く。
 くう、と腹の虫が鳴り、真人はカウンター席の一つに腰を下ろした。自らもシチューを口に運んで、お客に声を掛ける。店内にいる者は、櫂と真人が√能力者である事に、もう気付いているようだった。
「あんたらが少しでも安心できるように」
 オレたちは出来るコトするぜ。
 そう告げて、気になる事や注意すべき事、何でも教えてくれと言葉を重ねる。まっすぐな眼差しを受けたお客の一人が、そう言えばと口を開いた。
「ゼーロットのいる羽田空港までの道中を守ってる戦闘機械群だけどな、どうも強力な近接攻撃能力を持ってるらしい」
 当人も代償を伴うようだが、大量の機械群が一斉にそれを使ったなら。√能力者といえども無事では済まないだろう。
 更に、ただでさえ数が多いというのに、部隊を増やす事も出来るらしい。
 やはり、ゼーロットの撃破を狙うには、道中の戦闘機械群にどう対処するかが重要になりそうだ。
 主要な情報を真人が集めてくれた事に気付き、櫂は自身が気になる所を軽く尋ねる事にする。
「そういやレジスタンスとか居るんだろ?」
「ああ、レジスタンスの連中は、大黒ジャンクションや扇島で動いてるみてぇだ。ゼーロットまでのルートで会うことはねぇだろうな」
 カテドラル・ゼーロットを目指す道筋が、彼らと交わる事は無いと見て良いだろう。
「あんたたちも、戦いに行くのか?」
「ああ、後は任せろ」
 ふわと軽やかに笑む櫂を見て、真人はスプーンを持っていない方の手で拳を作る。情報を貰ったならば、後は鼓舞だ。
「負けねえ戦を約束するぜ!」
 張りのある声に、わっと食堂が沸き立つ。店内を満たす熱量が、二人の中にも滑り込んだ。

第2章 集団戦 『ナイチンゲール』



 食堂で情報収集を済ませた√能力者達は、目的地を統率官ゼーロットがいるカテドラル・ゼーロットに定めた。羽田空港へ続く道を、急ぎ足で進む。
 金属と金属の触れ合う、硬質な音が耳を打ったのは、羽田空港へ通じる大通りへ入った時だった。青い髪と瞳を持つ、少女めいた容貌の戦闘機械群が、道を埋め尽くさんばかりに集まっている。
 周囲を探っても、戦闘機械群の配置が薄い所は見付からない。空は晴れており、戦闘の障害となりそうなものも存在しなかった。
「敵性反応を確認。殲滅行動を開始します」
 少女の声が幾重にも重なり、それと共に彼女らの体が地からふわりと浮かび上がる。
 全てを相手取る余裕は無い。ならば、可能な限りその攻撃をかわして、先へ突き進むしかないだろう。
 √能力者達は、戦闘機械群に向けて、一歩を踏み出した。
 
神薙・ウツロ


 大通りに陣を展開する少女型の戦闘機械群を見て、神薙・ウツロ(護法異聞・h01438)は金の目を僅かに細めた。
 敵布陣に隙は無い。全てを相手取るには、敵数が多過ぎる。この先にある、本丸に辿り着いた所でへばっていてはしょうがない。
 ――こりゃもうスピード重視の強行突破で決まりだね。
 そう決めたウツロの動きは早かった。最初に目に入った個体を視線で撫で、その身が金属パーツで出来ている事を確認する。
「君達はロボだし、陰陽五行的には『金行』のカウントでいいかな」
 五行相剋『火_剋_金』。
 軽く右手を握ったウツロの背面に、朱い翼を持つ鳳凰が顕現した。火の粉を散らして羽ばたいた鳳凰は、するりと流れるように身の内へ降りる。
「ちょっと急ぐから、容赦なくガンメタ張らせてもらうよ」
 とん、と地を蹴ったウツロの体が、瞬き一度の間に機械群の中へ入り込んだ。数で押し潰さんと迫る少女達へ、細く息を吐いて霊気を放出する。体内の血が、ふつふつと熱を持った。
 展開された結界術は、少女とウツロの間にある距離を操作し、一定以上の接近を許さない。同時に発生した斥力に弾き飛ばされた少女達は、直後に空間もろとも分断された。
 自らの周囲に一定の空間が出来た事を見て取ると、ウツロは眼前に浮かぶ少女の一体に狙いを定めた。朱雀の炎を纏った拳を腹部に叩き込み、足払いで体勢を崩す。
 別の少女が片手を掲げ、鼓動が一つ打った後に同型の戦闘機械群が招集された。だがその部隊の動きは鈍く、呼び集めた少女の動作も軽快さを欠いている。ウツロが軽く左手を振るだけで、少女らは容易く結界に弾き飛ばされた。
 足払いから立ち直った少女が、戦闘機のそれを思わせる翼を広げて高く飛翔する。瞬きを一つする間も無く、少女が飛び込むように接近して来た。
 ウツロは朱に揺らめく炎を、人差し指と薬指を添えて伸ばした中指へ集める。振りかざされた少女の手が胸元へ届くのと入れ違いに、肩へ指を突き立てた。
 ばきん、と硬いものが折れる音が響く。体勢からして、少女の背骨が折れたのだと、ウツロはすぐに察した。再び飛翔し飛び降りた少女へ、もう一度貫手を放つ。上腕への痛みの後、ばきんと、また背骨の折れる音がした。
 二度の骨折を経た少女は、もはやウツロの脅威ではなかった。
 結界術で分断し、少女を構成するパーツをばらばらにする。散った少女の残骸を、ウツロは手早く観察した。
 壊れ具合から見て、動作に関わる機構は背骨と各関節部だろう。この部分を集中して攻撃すれば、早期に撃破出来る可能性が高い。
 前進し、立ちはだかる少女の膝へ蹴りを突き込みながら、ウツロは大きく声を張った。
「この戦闘機械群、背骨と関節部が弱いよー!」
 少女達の奏でる硬い音の中でも、人の肉声はよく響いた事だろう。味方へ情報を伝え終えたウツロは、目的地までの最短距離を驀進する。行く手を阻み、避け切れぬ相手だけは、見付けた弱点を的確に五行の『火』で突いて行った。
 接近を試みた少女がまた一体、斥力に弾かれて宙を舞う。ウツロは朱雀の朱をなびかせながら、更に前へと突き進んだ。

太曜・なのか


 少女型戦闘機械群が響かせる冷たい音に、太曜・なのか(彼女は太陽なのか・h02984)はふっと小さく息を吐いた。この数では流石に見付からずに進むのは無理だ。
 けれど可能な限り消耗は控えたい。ならば最速で駆け抜けると、なのかは手の中にあるバッジを握り締めた。
 紫の瞳が、周囲の様子を確認するべく動く。
 天候は晴れ。立地は沿岸部。肌を撫でる八月の季節風は、東南からの暖かい風を抱いて強く吹き付けている。
 ――こんな日は、正にこのバッジが一番力を発揮する時!
「行くよ! サニーバッジ、白南風バッジ、フォーキャスト!」
 高らかに宣言し、晴れの空模様を司るバッジをウェザリエドライバーへ装填する。瞬き一度の後、なのかは力強い太陽そのもののような、朱の装甲とマスクを纏った姿へ変身した。炎と光を司るサニーフレームとしての力が、降り注ぐ太陽の光を体内で増幅させる。
 戦闘機械の少女達が、動きを止めて抑揚の無い声で詠唱を開始した。炎と陽光が混ざり合ったような色合いのブーツが地を蹴って、なのかの体を少女達の中へと飛び込ませる。
「吹き散らせ颯惑の風!」
 後の嵐を予感させる晴れやかな南風が、なのかの背を押し走る速度を上げた。ソードモードへ変形した武器を、すれ違いざまに少女達の体へと振るう。
 弱点は背骨と関節。
 耳へ届いた言葉の通りに刃を少女の肘へ滑り込ませると、機械の体ががくんと安定を欠いた。紡いでいた詠唱が中断され、少女の一体がばらばらになって散らばる。
「てやあああ!」
 裂帛と共に戦闘機械群を斬り裂きながら、なのかは全速で少女達の間を突っ切った。目潰しをしに来た小夜啼鳥型のロボットも、気合と同時に叩き落としてしまう。
 今日この道を通るのは、なのかだけではない。統率官ゼーロットの撃破を目指す、他の√能力者達も存在するのだ。
 それならばと、なのかは力強い太陽光を少女達へ照射する。目が眩んだ少女らが隊列を乱すのが、不規則な金属音で分かった。
「必ず皆で辿り着こう!」
 なのかは光の名残を零す剣を、またすれ違いざまに少女の背骨へと叩き付けた。

鸙野・愛宕


 戦闘機のそれを思わせる翼が緩やかに動いて、少女型の戦闘機械群が滑らかに宙へと浮かび上がる。機械のうごめく音は、鸙野・愛宕(気になる、ドラゴンファンタジー!!・h00167)の耳を惑わせるに十分なほどの量を持っていた。
「こっちも数で対抗だ!」
 敵数が多いというのなら、こちらも物量で攻める。愛宕がレギオンコントローラーを操作すると、小型のドローンが唸りと共に現れた。レギオンミサイルを搭載したそれを、少女達の更に上へと飛ばす。常に愛宕の周囲を舞っている青い炎達が、ドローンの後を追って空に舞った。
「確か、背骨と関節が弱いんだったね……」
 前方から聞こえて来た声を思い出し、愛宕は少女達の関節部を狙って一斉にレギオンミサイルを放つ。青い炎が空中で曲線を描き、少女の背を燃え上がらせた。
 攻撃の射程外にいた少女の一体が、素早く手を振って新たな部隊を招集する。些か反応速度の落ちたそれは、ドローン達にとって格好の的だった。
 威力の低い攻撃でも、重ねれば弱点を貫く事は出来る。ドローンの放つ小型ミサイルは、青い炎と共に少女達を着実に地へ落として行った。
 遠く響く金属音に、愛宕の意識は近くで戦っている仲間へと軽く引き寄せられる。万一にも誤射などしないようにと、手早く弾道計算を行った。ドローンと炎は少女達だけを確実に撃ち、仲間の背を狙う戦闘機械群をばらばらに壊す。
 もう一度レギオン達を呼び寄せ、砲台の数を増やすと、少女達が傾き落下する速度が上がった。レギオン達は仲間へ射撃が当たらない位置を探して飛び回り、機械群の急所を撃ち抜く。
 徐々に少女達の隊列が乱れ、陣の薄い箇所が目に見えるようになる。愛宕はレギオンコントローラーを小脇に抱えて、地を蹴った。淡い緑に縁取られたスニーカーの底が、ぎゅっと小さく音を立てる。
 全てを相手取る事は出来ない。ならば、隙を見付けた今、突破あるのみだ。
 少女達の間を走り抜け、愛宕は大通りを駆ける。
「おさらば!」
 軽く振り向いて投げ掛けた言葉に、少女達は気付いただろうか。
 愛宕はすぐさま視線を正面へ戻して、全速力で大通りを走り続けた。

千堂・奏眞


 道中で障害となる戦闘機械群は、飛行能力を有している。
 ふわと浮かび上がった少女型の戦闘機械群を前に、千堂・奏眞(千変万化の|錬金銃士《アルケミストガンナー》・h00700)はその言葉を実感していた。
 制空権が向こうにあるのはキツイな。
 胸中で呟き、手袋をはめた手ですいと宙を払うような仕草をする。紡ぎ上げた能力を、今は飛行ユニットの召喚へと全て注ぎ込んだ。
 瞬き一度の後、サーフボードめいた浮遊式の飛行ユニットが奏眞の周囲に現れる。ユニットの周りには、鋭利な刃が付かず離れず漂っていた。
「先に行かせてもらうぜ」
 呼び出した飛行ユニットを、少女達の中へと突撃させる。突き進むユニットは少女らの腕や肩を裂き、パーツを破壊して行った。
 飛行ユニットの動きに反応した少女が、高速で奏眞目掛けて飛翔して来る。少女達の中で回転する飛行ユニットは、その一つを直立させて突撃を阻んだ。浮かぶ刃に裂かれた少女の背骨が、派手な音と共に折れる。
「背骨が弱いって話は確かみたいだな」
 耳にした情報は、目の前で事実として展開されている。
 大きく体勢を崩した少女へ、飛行ユニットの一つが追い打ちをかけた。機械の体を刃に刻まれて、細かなパーツが地面に散らばる。
 奏眞は一歩前へ進むと、刃持つ飛行ユニットを新たに召喚した。相手が飛行能力を持つ以上、それに対処出来るユニットは絶やさない方が賢明だ。
 がりりと関節を削られて行く中で、一体の少女が高々と飛び上がる。少女は飛行ユニットの包囲を飛び越えて、まっすぐに奏眞の元へと突っ込んで来た。
 飛行ユニットの召喚に全て注いでいた力を、今度は錬金獣の展開とユニット召喚の二つに半分ずつ割り振る。
 獅子の姿を取った錬金獣が唸りを上げ、新たに召喚された飛行ユニットと共に、突撃して来る少女へその身をぶつけた。金属の奏でる硬質な音に続いて、がしゃんと調和の乱れた音が響く。
「全部は相手してられないから……!」
 奏眞は飛行ユニットを前面へ展開し、少女達の中へと足を踏み入れた。ユニットの刃に裂かれた少女達が、陽光にきらめく部品をばらばらと落として行く。
 目的地までの最短距離を。
 飛行ユニットを盾として、奏眞は被弾を最小限にしつつ足を速めた。

櫂・エバークリア
黒野・真人


「多!」
 大通りを埋め尽くす少女型戦闘機械群を目にして、黒野・真人(暗殺者・h02066)はその数に息を呑んだ。
「多いとは聞いてたけどよ」
 櫂・エバークリア(心隠すバーテンダー・h02067)も、その隣でほんの少し上体を反らす。もはやこれは、道上に詰まっていると言っても良い。
 けれども二人は任せろと言ったのだ。負けぬ戦を約束したのだ。
 視界いっぱいに広がる戦闘機械群など、不退転の意で蹴散らしてみせなければ。
 意識を切り替えた二人の目が、勝機を探って少女達の合間を縫う。ぱちりと、櫂より少しだけ深い黒を宿した真人の瞳が瞬いた。
「……コレ全部ブチ壊す必要はねぇな」
 機械である少女達は疲れない。馬鹿正直に相手をすれば、斃れるのはこちらだと真人は見抜いていた。
「俺達は突破すりゃいいんだしな」
 応じる櫂も、この数を一々相手取ってはいられないと分かっている。黒一色の狙撃銃が、その手に握られた。
「っし、いなして通っちまおうぜ」
 終焉の名を持つ刀を真人が抜いたのを合図として、少女達が戦闘機状の翼を広げる。金属音が急速に接近して来た。二人と少女達の間に、ぴんと見えぬ糸が張り詰める。
 それでも即座には動かない真人の狙いを、櫂は察していた。
「りょーかい。まずは任せるぜ」
 それでも撃鉄は起こし、必要があればすぐに撃てるよう備えはしておく。
 殺到して来る少女型の戦闘機械群の外見を、真人は妙に可愛いと感じる。それでも数に物を言わせて迫る様は、内心にさざめきを起こすに十分だった。
 本能的なその衝動を、武器が届くぎりぎりまで抑え付ける。
 少女達が更に高く飛び上がろうとしたその時、真人の体から闇色の精神波が溢れ出た。可能な限りの全てをと、広がる黒が少女達を捕える。
 進行方向へと伸びたエネルギーの波は、内に抱いた少女をしっかりと固定していた。震えよと、真人の声に応じ、地に震えが走る。瞬き一度の間に激震にまで育った震動は、少女達だけを襲った。足元から来る震えに、少女達の隊列が乱れる。
「よっし、今のうち」
「行くっきゃないな」
 次の動作に移ったのは、二人同時だった。
 揺れに襲われまともに立つ事すら出来ない少女達の間を、二人は全速力で駆けて行く。行きがけの駄賃にと、真人は正面で揺らいでいる少女の胴に刀を叩き付けた。
 あの揺れではまともに動けないだろうと、櫂は空いた空間に身を滑り込ませる。
 震動の影響を受けなかった少女の一体が、宙を舞うべく翼を動かした。瞬きする間に突進して来た少女の一撃を、櫂は左腕で防ぐ。
 櫂は息を一度吸う間に狙撃銃へインビジブルを纏わせ、引き金を絞った。乾いた銃声が響き、少女が地へ落ちる。左腕に受けた傷は、その刹那に治ってしまった。
「前の処理は任せな」
 これだけの数がひしめいていては、飛行能力があろうとも少女達がまともな連携を取れるとは思えない。櫂は自身の読み通りに、行く手を阻む少女を一体ずつ確実に撃ち抜いて行く。
 少女の一体が詠唱を紡ぎ上げ、小夜啼鳥型のロボットを創造する。櫂の目を狙い飛んで来たそれを、真人は壊れた少女型戦闘機械にぶつけて阻んだ。真人へ伸びた少女の手は、櫂の狙撃銃が撃ち抜く。
 互いを補い合いながら進む二人に、敵はもはや存在しなかった。
 やがて、カテドラル・ゼーロットを擁する羽田空港が見えて来る。
「ゴールライン、見えてきたぜ」
「んじゃ、もう一息!」
 少女達の奏でる硬い金属音を置き去りにして、二人は残りの道のりを走り抜けた。

第3章 ボス戦 『統率官『ゼーロット』』



 少女型の戦闘機械群の中を突っ切った√能力者達は、羽田空港にあるカテドラル・ゼーロットへ足を踏み入れた。靴音がかんと高く響き、ゼーロットがこちらを振り向く。
「なぜ生肉如きがここにいる! 侵略計画はどうなっておるのだ!」
 喚くゼーロットの前で√能力者達が武器を構えると、ゼーロットの手がふるりと揺れた。肘から伸びる装甲に繋がるコードが、静かに青白い光を散らす。
「さてはあやつら、人類側のスパイであったな! だから人類の如き生肉など、さっさと殲滅しておくべきだと吾輩は言ったのだ!」
 ゼーロットの足が、一歩前へと進む。その動きに冷静さは欠片も無い。
「ええい、もういい! まずは貴様らからブチ殺してくれるわ!」
 腹部にある砲台めいた器官が、ちかりと赤く瞬いた。
 
神薙・ウツロ


 ゼーロットと対峙した神薙・ウツロ(護法異聞・h01438)が真っ先にした事は、周囲のインビジブルの気配を探る事だった。
 ゼーロットは視界内にいるインビジブルと、自身の位置を入れ替える能力を持っている。ならばと、入れ替え先に指定されそうなインビジブルを探し当て、その位置を気付かれぬよう密かに操作した。
「貴様、何をしておるのだ」
「うん? 戦いの準備だよ」
 仕込みは大事だよねと笑むウツロに、ゼーロットはマントに隠された喉元から低い音を漏らす。
「ふん。肉塊如きが何をしようと、吾輩の計画に支障などないわ!」
 |青龍《アオ》、|白虎《シロ》、|朱雀《アカ》、|玄武《クロ》。
 ゼーロットが声高に言う間に、ウツロはゆっくりと天之四霊の名を言葉で紡ぐ。
「まず雷は『木行』に相当する」
 金の瞳でゼーロットを見据えて、ウツロはすっと右手の人差し指を立てる。ちりと空間が揺らめいて、周囲を包む空気が僅かに変質した。
「木に雷が落ちる様子とか、雷による大気中の窒素循環が植物の生育に大きく関わる感じを引き合いに出せばピンと来るでしょ?」
「それがなんだと言うのだ!」
 言葉に言葉を返すゼーロットは、己が既に術中にはまっている事に気付いていない。ウツロの語りを遮る事すら、頭に上らないようだった。
「お次は『木_生_火』――木を薪にして火が燃える様ね」
 ゆらりと、朱い翼持つ鳳凰が、ウツロの周りを漂う。羽ばたく動きに合わせて、朱い光の粒がカテドラルの中に舞った。
「それで最後は『火_剋_金』。これ、なんだかわかる?」
「知ったことか! 吾輩は貴様らの如き生肉に用など無い!」
 叫んだゼーロットの体が、僅かに揺らいで目の前から掻き消える。インビジブルと自分の位置を入れ替えたゼーロットはしかし、己が立ち位置に微かに揺れる声を漏らした。
 ウツロがインビジブルの位置を精妙に操作した事に加え――護霊「天之四霊」の領域と化したカテドラルの中では、主役はウツロとなっているのだ。
「ロボットを大火力で焼き溶かすって意味だよ!」
 放電状態のインビジブルを触媒として、護霊の朱雀の力が膨れ上がる。必中のその攻撃に、ゼーロットは対処する術を持たない。
 ゼーロットの腹部で火が赤く爆ぜ、砲台めいた部分がぐにゃりと曲がった。

鸙野・愛宕


「誰が生肉だ! 無粋な鉄屑ボーイめ!」
 レギオンコントローラーを手に、鸙野・愛宕(気になる、ドラゴンファンタジー!!・h00167)はゼーロットを睨め付けた。青い瞳の中で、淡い紫が爆ぜるように揺らめく。
「生肉を生肉と言って何が悪いというのだ! 完全機械へ至る可能性すら無い肉の塊が!」
「問答無用! 数の力をくらえ!」
 愛宕はレギオンコントローラーを操作すると、周囲にレギオンミサイルを搭載したドローンを出現させた。ゼーロットを囲むようにドローンを動かし、一斉にミサイルを放つ。
 ゼーロットは周りに漂うインビジブルと自らの位置を入れ替え、ミサイルの直撃を逃れた。放電状態となったインビジブルが空中を泳いで、ドローンの何体かを床に落とす。
 ゼーロットの姿は、傍目には冷静さを失った小物に見える。けれど腐っても今回の騒動の元凶であるのだ。愛宕に油断するつもりは無かった。
 目的を同じくする仲間達を巻き込まないよう、弾道を計算して残りのドローンを旋回させる。もう一度ドローンを呼び出して数を増やすと、一箇所に集中してレギオンミサイルを撃ち込んだ。
「君が! 折れるまで! 攻撃するの! 止めない! ってやつだ!」
 火の玉くんも追加だと、愛宕は自らの傍を舞う青い炎をドローン達の隙間に滑り込ませる。炎はインビジブルと位置を入れ替え続けるゼーロットを追跡し、的確にその身を焦がして行った。
「ほら! 謝れ! 生肉って言ったこと謝れ! 謝るんだ!!」
 生肉って言ったこと謝れぇぇぇえええぇぇぇ!!!
 腹の底から叫ぶ愛宕の声が、カテドラルの空気を揺らす。インビジブルの放電によりドローンが落下する音と重なって、耳を塞ぎたくなるような音の連なりが生まれた。
「私のドラゴンファンタジーな生活を邪魔したことを謝れぇぇぇえええぇぇぇ!!!」
「待て! それは吾輩とは関係無い! ここに飛び込んで来たのは貴様ではないか!」
 もはや八つ当たりと化した愛宕の絶叫に、ゼーロットが頭部を焼かれながら返す。勿論、愛宕に相手の言い分を聞く気など無かった。
「どうしても謝らないというなら仕方がない……最後の奥の手! 百鬼夜行だぁぁ!」
 ぐにゃりと、愛宕の周りの空間が捻れる。両手の指では到底足りぬほどの妖怪がそこから零れ落ちたのは、それから瞬き一度の後だった。
 ゼーロットが妖怪の出現に反応して新たな兵装を創り出すが、愛宕がレギオンコントローラーを操作する方が早い。ドローンと青い炎に加え、呼び寄せられた妖怪達が、一斉にゼーロットへと突進した。
「これが私の最大数だ!」
 その宣言に恥じぬほどの猛攻が、ゼーロットを兵装ごと撃ち抜いた。

太曜・なのか


 体の所々から白煙を上げるゼーロットを前に、太曜・なのか(彼女は太陽なのか・h02984)はぎゅっと奥歯を噛み締めた。
「あなたがこの侵攻作戦の首謀者。罪なき人々を虐げる人類の敵!」
 かつて目にした、強制収容所に囚われた人々の姿が脳裏を過る。身の内でふつりと、熱が滾るような感覚が芽生えた。
「皆からお日様と美味しいご飯を奪った罪、断じて許さない! あなたの運命、予報します!」
「生肉如きが調子に乗るな! そもそも吾輩は貴様らになど用は無いのだ!」
 ぱちん、とゼーロットの腹部にあるいびつな砲台めいたものが、赤い光を散らす。なのかは深く息を吸って、剣の形に変形した武器に力を集めた。
「私本当に怒ってるんだよ。だからこそ確実に、今繰り出せる最大の一撃で木っ端微塵にしてやるんだから!」
 ここまで来たら後は攻めきるだけ。
 なのかは自身の役割を、攻め役と認識していた。刃が赤く熱を発するほどの力を剣に蓄えつつ、太陽めいた朱のブーツで床を蹴って走る。ゼーロットの腹部からは光線が数え切れぬほど発射されていたが、今のなのかには傷一つ付けられない。
 熱で赤に染まった刃が、ゼーロットを射程に捉える。頭部の器官を僅かに瞬かせて、ゼーロットは左腕を体の前に出した。
 防御姿勢。
 そう認識した直後、なのかは山颪バッジを取り出してベルトへ装填する。
「本日は猛暑、所により山颪!」
 とん、と爪先で軽く床を叩いたなのかの体が、瞬きする間に上空へと瞬間移動した。赤熱した刃を振りかぶり、ゼーロットの頭部を狙う。
「小癪な真似を!」
 ゼーロットはなのかの姿を追って、視線を上へと移動させた。読み通りの動きに、朱の装甲の下で唇の端を持ち上げる。
 この時間、この場所での太陽の位置を、なのかは把握していた。飛び上がったのは、自分を見上げた相手に直射日光が差し込む位置だ。
 ゼーロットが陽光に目を灼かれ、体が僅かに揺らぐ。無防備なその一瞬があれば、なのかには十分だった。
「積乱雲から吹き下ろす風は熱風となり、悪の黒鉄を切り裂くでしょう!」
 落下の勢いを載せて、太陽を連想させる赤い刃がゼーロットの頭部を直撃した。装甲に亀裂が走り、なのかの着地と時を同じくして呻き声が響く。
 ふうと息を吐いた時、なのかは胸の下に強い痛みを感じた。強力な能力の反動で、あばら骨が折れている。剣に力を蓄えていた時に攻撃を受けた部分も、思い出したように傷口を開いていた。
 これから仲間達が後に続いてくれるだろう。なのかはそう判断し、ゼーロットの傍から離れた。

千堂・奏眞


「ええい、なぜ吾輩が生肉如きにこんな目に遭わされなければならんのだ!」
「生肉生肉うるせぇんだよ」
 毒づくゼーロットへ、千堂・奏眞(千変万化の|錬金銃士《アルケミストガンナー》・h00700)は銀の瞳を半ばまで伏せた。
「テメェはもうすぐ文字通りの|スクラップ《物言わぬゴミ》になるんだ。|簒奪者だろう《いくら復活しよう》が、どこまでもミンチにしてやるさ」
 手袋をはめた手が、精霊の力を宿すスナイパーライフルを取り出す。瞬き一度の後、奏眞は既に詠唱を終えていた。すぐさま引き金を絞る。
 ゼーロットが腹部から光線を放つが、それは奏眞に届く事は無い。重力の属性を宿した弾丸は、光線の軌道を変え、我が身に攻撃を集中させる。いびつな砲台めいた部分に弾丸が命中した時、それは、生み出した衝撃波でゼーロットを縛った。
「なんだこれは! 吾輩に何をやった、この脆弱な肉塊め!」
「脆弱になってるのはテメェの方だぜ」
 奏眞の放った弾丸は、精霊術と錬金術を掛け合わせて作られている。衝撃波がゼーロットに与えた効果は三つ。視界不良と捕縛――そして、体が脆くなる事だ。
 奏眞は詠唱を重ね、更に錬金弾を立て続けに放つ。時間差で襲い来る脅威に、ゼーロットは無秩序に光線を撃つ事しか出来ない。
 弾丸が捌き切れなかった光線が、まっすぐに奏眞の元へと飛んで来る。左手にアサルトライフルを握ると、手袋越しに指先で銃身を軽く叩いた。
 りん、ときらめく音がささやかに空間を揺らし、アサルトライフルが大盾へと変化する。前方へ突き出した大盾は、小さな旋律を奏でながら光線をその身で受け止めた。
 ふっと軽く息を吐き、奏眞は大盾を前に出しながら床を蹴る。勢いを付けて前進する奏眞の背中で、一つにまとめた緑の髪が柔く躍った。
 ゼーロットの体を穿つ弾丸は、もう幾つになったのかも分からない。重なる視界不良の効果で、ゼーロットは奏眞を捉える事が出来なくなっていた。
「おのれ、生肉どもが……!」
「言っただろ。テメェは|スクラップ《物言わぬゴミ》になるんだよ」
 熱を秘めた声が響いて、スナイパーライフルの銃口がゼーロットの胸部に押し当てられる。
 零距離からの射撃が、ゼーロットの体を貫いた。

黒野・真人
櫂・エバークリア


 相対するゼーロットの体には、既に幾筋もの傷が付いていた。黒野・真人(暗殺者・h02066)と櫂・エバークリア(心隠すバーテンダー・h02067)の姿を目にして、ゼーロットは苛立たしげに左手を振る。
「この生肉どもが! どこまで吾輩の邪魔をすれば気が済むのだ!」
「生肉かぁ……こーゆーの言い得て妙ってんだろ?」
 夜そのもののような真人の目が、ちらと傍らの櫂を見た。中学から学校へ行っていない真人にとって、隣の共犯者は自身の知らない事を教えてくれる相手でもある。
「あってるぞ。この場だと特にな」
 夕暮れめいたサングラス越しにゼーロットを観察し、櫂は唇の端をほんの少し歪めた。
「脳みそもねえ木偶人形が、よく言うぜ」
「脆弱な生肉如きが、統率官たる吾輩を愚弄するか!」
 微かにノイズの混じった声の響きを耳にして、真人はみぞおちの辺りで渦巻いていたものがすとんと胃の腑に落ちて行くのを感じた。
 生肉とは、吐き気がするほど腹立たしい例えだ。しかし真人の頭は逆に冷静になる。
 ゼーロットの姿は、どう見ても人間の姿を思い切り真似ている。このカテドラルへ到達するまでに突っ切って来た少女型の戦闘機械群も、それなりに人間に近い姿をしていた。その癖、こんな事を言うのだ。
 つまり。
「単に羨ましいだけだろ」
 血が通い、死ねばそこで終わりのはかない生きた人間に――生肉に、戦闘機械達はどう頑張っても至る事は出来ない。だからこそ、激昂する。真人はそう察していた。
「ふざけるのも大概にしろ! 貴様らの如き人間を羨む事などあるか!」
 今迄対応してきた機械群もだが、こいつはトビキリってやつだな。
 櫂が視線を動かす仕草に伴って、丸くまとめた髪から零れた毛先が首の後ろを擦った。
 人を人として見ていない等という次元ではない。それなのにヒト型を模るのは、真人の言葉が大正解という所だろう。
 そう思いつつ、会話を続けるのは戦う前にも丁度良いと櫂は判断する。なんといっても、いくらでも動揺は誘えるのだから。
「お前が目指すのは完全機械ってやつなんだろ?」
 完全なるモノを目指しておきながら、自分達の形状は生肉と馬鹿にするものを模倣している。戦闘機械群の行動は、どうにもいびつだ。
「あぁ、それとも。お前にとって馬鹿にするそれこそが完全だって感じたか?」
 しゅっと唇で弧を描き、櫂は右手をゼーロットへ見せ付けた。ギアの軋みも油圧の重さも、球体の繋がりも無く、ただ当たり前に動く手指。肉の体に鉄は無いけれど、触れれば温もりが確かにそこにある。
「木偶人形にゃできない芸術だもんな、こりゃ」
「この……肉塊が! どこまで吾輩を馬鹿にするのだ!」
 いきり立つゼーロットへ、真人はふうと息を一つ吐いた。
「バッカじゃねえの」
 遠慮など欠片も持たずに言い放つ。
「どんだけ何しても人間になる訳ねえよ」
 ゼーロットの言う生肉、人間は、生きて自分で考えて動くものだ。悔しくて、妬ましくて、貶める思いは分かるけれど。
「こっちも抵抗するに決まってっし」
 冴えた音を立てて、終焉の名を持つ刀が鞘から引き抜かれる。意識は既に、戦闘態勢へ移行しつつあった。
 あ、けど一個だけは認めてやるよ。
 真人の声が仄かに柔らかさを孕む。
「やっかめるってコトはそこはちゃんと近いんだよな」
 良かったじゃん。
 目を細めたその表情は、微かに笑んでいるようにも見えた。
 ほんとこいつ、すげーよな。
 真人の一言にほんのり目を丸くしながら、櫂は素直な思いを吐息に変えて唇から吐き出した。二人は共犯関係にあるけれど、その目はいつだって一人では見えないものを見付け合うのだ。
「羨ましいって気持ちこそか。成程な」
 ゼーロットの体がふるりと揺れる。向こうにしてみれば、思考がループしてしまいそうな難題だ。だが、動くなら思考に捕われている今しかない。
「解体しちまおう。こいつは此処でおしまいだ」
 すいと滑った櫂の手に、刀身まで漆黒に染められたナイフが握られた。鉈のような厚みを持つ刃の重さが、戦いへと意識を引っ張り上げる。
 既に全力での戦闘へ頭を切り替えていた真人が、先に動いた。大管狐である帚木の分霊を呼び寄せると、目線でゼーロットを示す。
「構わねえ! 中から壊しちまえ!」
 帚木はつと首を軽く動かして、墨のような黒い影を引きずりながら鉄の体へ入り込んだ。ごとんと鈍い音が響き、帚木が質量持つ幻影を作り出したのが分かる。
 帚木とて一応は生き物だ。ゼーロットのような輩には特に容赦が無い。
「生肉如きが舐めた真似をしおって! 我が力を見せつけてくれるわ!」
 ゼーロットの左手で青白い光がばちりと爆ぜ、瞬く間に大型の槍を形作った。鋭く投擲されたそれが頬を掠めても、真人は一歩も引かず前へ進む。
 ばちんと、ゼーロットの腹部にある砲台のようなものが、赤い光を発した。その照準が自身に向けられていると気付いた刹那、櫂は一足飛びにゼーロットへ肉薄する。ナイフの刃が首を叩いた時、櫂の姿はインビジブルで形成した影を纏っていた。隠密状態となった櫂を見付けるのは、王権執行者とはいえ容易ではない。
 ゼーロットは腹部からでたらめに光線を放つが、櫂は既に背後を取っていた。無秩序な攻撃を受けるほど、真人も甘くはない。
 ごとん、とゼーロットの中から鈍い音が響いて、帚木が攻撃を続けている事を教えてくれる。
 けれど任せきりにするのは、真人にとっては業腹だ。それに、ゼーロットはそれだけで壊せるほど安くはないだろう。
 真人は一族から受け継いだ力を解放し、漆黒の精神波を放った。真正面にいたゼーロットは、まともにその直撃を受ける。呼吸を一つした後、ゼーロットの作り出した大型の槍が、穂先を逆にしてゼーロット自身へと襲い掛かった。
「なんだ! そこの生肉、吾輩に何をした!」
 叫んだ時には、槍が足の部分を貫いている。動きが鈍り、攻撃を回避する力が削がれるのが分かった。
 ゼーロットが光線を放ちながら体の向きを変える。一筋が櫂の上腕を掠め、シャツの袖に赤を滲ませた。
 ふっと息を吸う間もあればこそ、櫂はナイフにインビジブルを纏わせて、ゼーロットの肩に突き立てる。力を汲み上げるような感覚が来たと思った時には、もう腕の傷は塞がっていた。
 ゼーロットは櫂の姿を捉えようと、体の向きを右に左にと変える。けれど敵と化した自身の兵装が絶え間なく穂先を繰り出して来るため、それもままならない。
「ブッ壊してゴミにしてやるよ!」
 生きてる肉が、一番強いってコト思い知れやと、真人は音で届く帚木の動きに合わせて刀を振るった。金属同士が激しく打ち合う音がカテドラルに響く。
 二人の一挙動ごとに、ゼーロットはどちらを優先すべきか選択を迫られる。その果てに、自身の終わりを感じ取っている事だろう。
「俺達らしい終わりをプレゼントしてやろうぜ」
「ああ! 終わらせてやろーぜカイ!」
 帚木がゼーロットの内側で牙を剥く。真人の刀が腹部の砲台を貫いて、火花を一つ弾けさせた。
「お前の企みも此処までだぜ」
 兵装がゼーロットを貫いた直後、櫂は首の付け根にあたる部分へナイフを突き刺した。濡れた烏羽を思わせる刃が、背骨に沿って金属の体を縦に引き裂く。
 ゼーロットは何かを言ったようだった。しかしすぐにその身は傾いで、カテドラルの床へと倒れ伏す。そうして、金属の体が空気へ解けるようして消えて行く。
 二人は顔を見合わせて、口元を軽く緩ませた。
 例え、ゼーロットがいずれ蘇生するとしても。今ここで撃破した事で、ウォーゾーンに一つの楔が打ち込まれた事は確かだった。

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