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あやかし縁日、夏祭り
ふらりと気侭に路地を曲がれば、いつの間にか迷い込んだそこは妖怪たちの世界。
耳を澄ましてみれば、どこかから聞こえてくる賑やかな祭囃子。
そして楽し気な音色に誘われれば――辿り着くのは、真夏の夜の縁日。
ほおずき提灯がゆうらり揺れて灯る中、ずらり並ぶお祭り屋台。
タコ焼きにイカ焼き、焼きそばに焼き鳥、チョコバナナや林檎飴などなど、お祭り定番のものは勿論。
長ーいろくろ首ソフトクリームや目玉白玉クリームあんみつ、フルーツほおずきのパフェ、ぱちぱち花火かき氷、おばけわたあめなどの、妖怪メニューの屋台だったり。
混ぜるとどんどん色が変わる不思議フローズンはしゃりっと涼し気で、成人していれば不思議フローズンカクテルにもしてくれるし。他にも夏らしいドリンクや、妖怪地酒などの酒類も振舞われる。
そして、射的に妖怪型抜き、ヨーヨー釣りや金魚掬い、お面屋さんやガラクタ千本くじなどの、食べ物以外の遊べる屋台も沢山。
夜空には定期的に打ち上げ花火もあがって、広場では手持ち花火が配られており、手持ち花火定番のススキ花火やスパーク花火や線香花火、奇想天外な動きをする妖怪ねずみ花火、ロケット花火なんかも楽しめるようだ。
さらに、今年の夏の夜祭りの目玉は、何といってもこれ。
「よってらっしゃい見てらっしゃい! ほおずきランタン片手に、思わずぞくぞくひやっとする『うらめしやしき』に挑戦してみるかい?」
そう――肝が冷えすぎるお化け屋敷と噂の、『うらめしやしき』!
さあ、祭囃子が響く真夏の夜祭りに、折角迷いこんだのだから。
どこから巡って楽しもうか。
●真夏の夜祭りと肝試し
「夏祭りは心躍るな。個人的には、祭りならではな甘味の屋台を全制覇したい」
楪葉・伶央(Fearless・h00412)はそう穏やかな笑みで皆を迎え、礼を告げてから。
星詠みの予知の内容を語り始める。
「今回皆に赴いてもらうのは、√妖怪百鬼夜行で催される夏の夜祭りだ。凶暴で他者の血肉を喰らう危険な「古妖」の封印は、√妖怪百鬼夜行の各地に存在するが。「情念」を抱えた人がこの封印に引き寄せられ、その願いを叶えるという約束と引き換えに、古妖を封印から解き放ってしまったようだ」
解き放たれた古妖を自由にのさばらせておく訳には当然いかないし。
封印を解いてしまった人のフォローもしてあげられるといいかもしれないし。
また、古妖や人々に怪しまれぬよう、真夏の夜祭りを目一杯満喫している一般人のフリをすることも必要だろう。
そして時が来れば、解き放たれた古妖を倒す――これが今回の依頼である。
それから伶央は、詳細を説明する。
「古妖を解き放った人は、この夏祭りの目玉であるお化け屋敷『うらめしやしき』の責任者だ。話題になるようなお化け屋敷を企画しなければと思いつめてしまい、廃墟と化していた屋敷の視察の際に、屋敷に封印されていた古妖に唆されたようだ。彼は「自分の願いの為には必要だった」と自分にいい聞かせるように、お化け屋敷の運営にひたすら勤しんでいるようで。そして解き放たれた古妖は、次に唆すターゲットを探しつつ、件のお化け屋敷に潜んでいる。『うらめしやしき』は祭りがはじまったばかりの頃はまだ準備中なので、準備が終わるまでは自由に夏祭りを楽しみながら自由に過ごしてもらって構わない。そして先行入場券を入手して全て押さえているので、時間になれば「うらめしやしき」に入場して、潜んでいる古妖を倒して欲しい」
敵が潜む「うらめしやしき」は、妖怪スタッフたちの気合が漲る、この祭りの目玉といわれているお化け屋敷。
けれど夏祭りが始まった頃はまだ準備中だというので、入場が開始する時間までは自由に過ごせるから。敵に怪しまれぬよう一般人を装い、真夏の夜のお祭りを自由に楽しんでほしい。
そして「うらめしやしき」に入場し、屋敷に潜む古妖を倒して欲しいというのが、今回の依頼内容である。
そこまで星詠みの説明した後、皆を見回して。
「古妖を退治するのが一番の目的だが、お化け屋敷が開く時間までは自由に過ごして貰って構わないし。夏祭りを目一杯楽しめば、敵を欺くことにもなる。それに、妖怪世界ならではな珍しいものもあるだろうし、花火なども夏の夜らしくて良いな」
だから、折角なので夏祭りも楽しんできてくれ、と伶央は笑んだ後。
改めて、よろしくお願いする、と丁寧に頭を下げて皆を送り出すのだった。
第1章 日常 『お祭りを楽しもう!』

夕日が水平線の向こうに沈めば、かわりに灯るのは、ほおずき提灯。
「ほおずきがなんで鬼灯って書くか知ってるかい? お盆の時期に先祖の霊を迎えるための提灯に見立てて飾られたからだ。今年もお盆の時期がやってくるからなぁ」
他にも、ほおずきの赤い実が火の玉のように見えることから「|火々着《ほほつき》」と呼ばれ、それが変化したという説もあるという。
そう話してくれる赤鬼が教えてくれるのは、よーく実を揉んで種を取り出して鳴らす「ほおずき笛」の作り方。
そんなずらりと並ぶ仄かな赤き炎に照らされて、賑わいをみせるのは、お祭り屋台。
祭りといえば、定番の屋台フードや屋台スイーツは勿論のこと。
此処はなんていったって√妖怪百鬼夜行、この世界ならではな妖怪屋台も沢山。
例えば「タコ入道のビッグタコ焼き」に、負けじと大きな「大王イカ焼き」だとか。
激辛な「地獄焼きそば」に、怪火でこんがり焼いた焼き鳥屋台、「七色ゲーミングチョコバナナ」や、紫色の飴がかかった「毒林檎飴」、香ばしく焼けた「鬼火もろこし」だとか。
バニラやチョコやミックスが選べる「長ーいろくろ首ソフトクリーム」や、「目玉白玉クリームあんみつ」、「ふわふわおばけわたあめ」などの妖怪メニューも沢山だし。
トロピカルな味わいの食べられるほおずき「フルーツほおずきのパフェ」や、シロップの味やトッピングが選べる「ぱちぱち花火付きかき氷」等の期間限定スイーツ屋台。
それに、ドリンクも妖怪仕様のものもいっぱい。例えば、混ぜるとどんどん色が変わる「七不思議フローズン」はしゃりっと涼し気で味も七変化、成人していれば「七不思議フローズンカクテル」にもしてくれるし。他にも、成人していれば珍しい味わいの貴重な妖怪地酒「神隠し」などの酒類も振舞われ、燃えるようにしゅわしゅわ弾ける真っ赤な不死鳥ソーダは勿論未成年でも飲める。
これらの妖怪メニューは、見目は物珍しいが、味は美味しいものが多いらしいし。
当然ながら風変りな妖怪メニューだけでなく、普通のスタンダードなお祭り屋台フードも沢山売っているので、妖怪メニューに抵抗がある人も安心だ。
また、ちょっと変わった商品が並ぶ射的屋や、妖怪のカタチをした型抜き、喋るヨーヨー釣りやおばけ金魚掬い、妖怪お面屋さんやガラクタ千本くじなどの、食べ物以外の遊べる屋台も沢山。
これらも、妖怪仕様のものだけでなく、普通の馴染みある形式のものもあるので、お好みで遊んでみるのもいいだろう。
それに、夏や鬼灯にちなんだ雑貨やアクセサリーや根付、そして鬼灯提灯を買える出店も並んでいるようだ。
そして、時間になれば夜空に咲くのは、大輪の光の花。
やはり夜祭りといえばそう、花火大会!
まさに色も形も七変化、拘りの花火職人妖怪の自慢の打ち上げ花火である。
さらに祭りの広場では手持ち花火が配られ、自分達の手で花火をすることもできる。
手持ち花火定番のススキ花火やスパーク花火や線香花火にロケット花火、中には奇想天外な動きをする妖怪ねずみ花火なんてものも……?
そしてこの夜祭りの目玉は、何と言っても。
肝が冷えすぎるお化け屋敷――『うらめしやしき』!
けれど、今はまだ準備中だから。
屋台で腹拵えしたり、花火を鑑賞したり、他のことを楽しんでおこう。
真夏の夜のお祭りは、まだまだ始まったばかりなのだから。
<マスターより補足>
遊べる屋台の景品などはご指定のものでも、お任せのものでも構いません。
OPや断章にないものでも、ありそうなものを食べたり買ったり遊んだりできます。
妖怪仕様のものだけでなく、普通のものもひととおり勿論あります。
基本お好きなように、夏の夜祭りを楽しんでいただければです!
たくさんのほおずき提灯たちがゆうらり、宵闇を明るく照らす中。
ライラ・カメリア(白椿・h06574)は思わず、真夏の夜空を仰がずにはいられない状況に陥っていた。
だって、早速の供給過多に内心極まりまくりなのだから。
「祭りといえば浴衣だな!」
……提灯の薄明かりに照らされた――優美なる俺!
そう紺色無地の浴衣を纏った推し・皮崎・帝凪(Energeia・h05616)の姿が、あまりにも尊すぎて。
そして、そんな彼の姿をそっとガン見しながらも。
「ああっ……! 浴衣姿のダイナ様のなんという美しさ……! 真夏の夜のような高貴な紺のお色がとてもよくお似合いですわ! ダイナ様のこのような御姿が拝めるだなんて、生きている喜びを感じますの……!」
溢れる気持ちのままに心なしか早口で、賞賛と感謝を帝凪へと捧げる。
そんな色々と極まっているライラだが、ダイナ様の隣を歩くに相応しくあらんと、今日は白地に金魚が泳ぐ浴衣姿。
……いや、こういうところがまた推せるのだ。
「ライラもよく似合っているぞ!」
そんな気遣いの言葉をかけてくださる、なんともお優しいところがまた!
そして夜祭り独特の灯火に照らされた姿をうっとりガン見するライラであったが。
刹那、大きく瞳を見開いてしまう。だって、気づいてしまったのだから。
(「はっ、まさか、このお姿を独り占め……!?」)
そんなライラは今夜も推しに情緒を殺され、そして推しに生かされているのである。
それからふたりで巡ってみるのは、良い香りが漂う屋台が並ぶ広場。
屋台といってもただの屋台ではなく、この世界ならではな、妖怪屋台がずらり。
その中で、帝凪が選んだ妖怪屋台メニューは勿論これ。
「魔王たるもの、大王イカ焼きには挑まねばならんだろう!」
大王という名に相応しい、大王サイズのイカ焼き!
ライラもその大きさに思わず驚いてしまうけれど。
でも、イカ焼きが大王と言うのならば。
「相当なサイズだが、このダイナ様の胃袋を侮るなよ」
――余さず平らげてくれよう!
そう自信に満ち溢れ言い放つ帝凪は魔王なのだ。この戦い、負けられぬし負けるわけがない。
ということで、大王イカ焼きを早速、はむり。
ライラも普通サイズの大王イカ足を口にすれば、さすがは大王、その美味しさに破顔して。
そして、それ以上に感動してしまう。
「このダイナ様の胃袋には敵わずとも、大王もなかなか美味だったぞ」
「さすがダイナ様……!」
ダイナ様が|完食《勝利》するご様子と、やはり大王イカ焼きを讃えることも忘れぬその優しさに。
それから美味しくおなかも満たされれば、次に足を運んでみたのは、賑やかな声が聞こえるヨーヨー釣りの屋台……なのだけれど。
『イラッシャイ! ワタシタチヲ、ツッテイカナイ?』
「ふむ、喋るヨーヨーか。これは興味深い」
『アラ、アナタニナラ、ツラㇾテモイイワ!』
ヨーヨーはヨーヨーでも、喋るヨーヨー釣り!
そんなヨーヨー達にも大人気で、興味深々眺めているダイナ様の様子に尊さを感じながらも。
まずはライラが、大人しそうなヨーヨーを釣ってみようと挑戦したものの。
「あっ、紐が切れてしまいましたわ」
あと少しというところで釣り上げられず、ちょっぴり残念に思うも。
逆に、オシカッタワ! スジハワルクナカッタワヨ! などヨーヨー達に言われれば笑んでしまうし。
何より、続いてチャレンジするダイナ様の一挙一動を見逃すわけにはいかないから。
ヨーヨーの釣り竿を持つ様も素敵な推しをじいとライラは見つめ、決して邪魔にならないように見守ることにして。
『ワタシヲツッテイイワヨ、オニイサン!』
『ワタシノ色モ、ステキデショ!』
「ダイナ様はお上手そうだけれど……あ」
何せ相手は喋るヨーヨー、集中しようにもその声に注意が逸れて、帝凪も惜しいところで失敗してしまう。
けれど、アーンオシイ! と本人よりも残念がるヨーヨー達に笑い掛けて。
「なかなかの強敵たちだな!」
そんなヨーヨー達とダイナ様のやりとりに、ライラも楽しくなって思わず笑っちゃう。
それから次にふたりが足を止めたのは。
「射的か、任せるがよい! 照準計算は得意なのだ!」
ずらりと大小様々な景品が並ぶ、射的屋台。
早速コルク銃を手にし帝凪が狙いを定めるのは、魔王たるものに相応しい大物!
ピカピカ光っている、大きな雷神妖怪貯金箱!
そして自信に溢れていながらも、照準計算し慎重に狙うその姿を見れば、またライラの中の尊さが一瞬にして極まってしまう。
だって、銃器を持つダイナ様は世界一お似合いで。
(「狙われる景品も幸せなことでしょう……!」)
見事こてんっとダイナ様に撃ち倒された雷神は、光栄で幸せに違いない。
そして尊いその一挙一動を存分に堪能した後、ライラもチャレンジしてみるけれど。
何せ射撃は初挑戦、ドキドキしつつも小さなお菓子を狙ってみることに……したのだけれど。
「ライラ、もう少し肩の力を抜くと良い」
「……ダイナ様!?」
「軽く脇を締めて、左手は……うむ、この辺りだ」
「だ、ダイニャさまっ!?」
ふいに重なった大きな手に、ライラの心は大騒ぎ。
そう、銃を持つライラの手に、自身の左手を添えてフォーム調整をしてあげる帝凪。
そして思わず蕩けて溶けてしまいそうになるのを必死に耐えながらも、でも、折角ダイナ様がご指導くださるのだからと。
ライラはそのお優しさに応えるべく、彼の言うように慎重に狙いを定めて。
色々な感情が入り混じってドキドキしつつも、ぐっと引き金を引けば――ぽこんっ。
「! あっ、ダイナ様、当たりましたわ……!」
狙ったお菓子に見事命中!
そして、キラキラと喜びに満ちた瞳で振り返れば。
「どうだ? 撃ちやすくなっただろう!」
思わず瞬きも忘れて、ライラはまたガン見してしまう。
自分へと笑み向けるダイナ様のお姿や言動に。
そしてその尊さにぷるぷると小刻みに震えながらも、心の中で絶叫するのだった。
――これでは景品よりわたしが撃ち抜かれてしまいますー! なんて。
日が落ちて夜になれば、かわりに一斉に灯るのは、ゆうらり揺れる数多のほおずき提灯。
そして夏の夜風が吹き抜ければ、ふわりと香るのは、たくさんの美味しそうな匂い。
そう、今夜は夏祭りで|食べ歩き《デート》です!
「ここは賑やかだね」
ニーム・ティリス(世界移動者・h07621)は青の瞳を細め、夜祭の喧騒を楽しむように歩きながらも。
愉しい気配に迷子になりそうなくらい足取り軽い、隣の彼女へとこう訊ねてみれば。
「すずやはどこか行きたい場所とか食べたい物とかある?」
「すずやね、まず「毒林檎飴」食べたいかな~?」
八束水・珠洲夜(出来損ない硝子細工の鵺・h06306)が向けた視線を追った先には、林檎飴の屋台が。
でもここは√妖怪百鬼夜行。林檎飴は林檎飴でも、ちょっぴり毒々しい色をした毒林檎飴……!?
というわけで、いざ!
「毒林檎飴良いね〜僕も食べてみたいな。食べられる毒が入ってたりしてね」
まずは毒林檎飴をわくわく購入してみて、ぺろりと味わってみれば。
口に広がる病みつきになりそうな甘さは、ニームの言う通りもしかして、食べられる美味しい毒?
だって……食べた後、舌の色が紫になってないかな、なんて。
珠洲夜が出して見せてみた舌はやっぱり、すっかり毒々しい紫色に染まっちゃっているから。
そして毒林檎飴を美味しくいただいた後、ふたりお揃いの紫色の舌になれば。
再びきょろりと活気溢れる屋台広場に視線を巡らせてみては、そわり。
「次は「長ーいろくろ首ソフトクリーム」で、ミックスがいいなぁ~」
「お、珍しい物に行くじゃん」
「ニームちゃんは?」
「そうだなぁ、僕はビッグたこ焼きが気になってるんだよね」
「そっちも美味しそうだね!」
妖怪屋台は何だかわくわくへんてこで、とても美味しそうなものでいっぱいだから。
でも、あれもこれも、色々と気になっちゃうならば。
ニームが持ちかけてみるのは、こんな名案。
「どうかな、どうせなら一口ずつ交換しない?」
そう、お互いが選んだものを交換こ!
勿論、珠洲夜もこくこくと頷いて返して。
「うん、交換しよう~♪」
噂通り、ながーーいろくろ首ミックスソフトクリームを早速差し出して。
「あーんしてね。すずやもあーんするから♪」
「あーん。うん、美味しいな」
あーんしてもらった長いソフトクリームをはむりと口にすれば、ニームも冷たさと美味しさをお裾分けしてもらって。
それから今度は、自分の買ったやたら大きな熱々ビッグタコ焼きを、このままでは入らなそうだから彼女の口のサイズに割ってから。
火傷しない程度に、ふーふーしてあげた後。
「はい、すずやもあーん」
「あーん♪」
はふはふ、熱いのと冷たいもの、どちらも美味しく分け合いっこ。
それからニームは、とある出店を見つければ、こう切り出す。
「あ、僕からも良い? 七不思議フローズンカクテル、飲みたいんだけど、一緒にどう?」
……混ぜたら味も変わるか気になるんだ、って。
話に聞いていた、ひんやり摩訶不思議なカクテルを飲んでみたくて。
その申し出に、珠洲夜も勿論賛成!
「いいよ! お酒って久々かも~」
早速、しゃかしゃかシェイクされたフローズンカクテルが、ふちにガイコツがしがみついているグラスに注がれて。
ふたりでくるくる、ストローでかきまぜてみれば。
「綺麗だなぁ~。これってカクテルだからやっぱり甘いねぇ~」
「不思議だね、色と一緒に味も変わってる。白はミルクだったけど、赤になったらベリー味になったよ」
「あ、すずやのは黄色になったよ~。パイナップルかなぁ~?」
七不思議の名前の通り、不思議で美味しい、お酒タイム。
そしてふたりカクテルの感想を言い合ったり、お喋りを愉しんでいる間に。
「これで飲みながら、食べれるからね!」
珠洲夜はばっちり、配下妖怪たちにおつかいを。
怪火焼き鳥や鬼火もろこしなど、他にも気になっていたおつまみになりそうな妖怪メニューを追加で買ってきてもらえば。
ぐるぐる色が変わる、1杯でいくつもの味が楽しめるカクテルと一緒に、いただきます!
それから、美味しく楽しくふたりで過ごしていれば。
ニームはふと夜空を見上げ、紡ぎ落す。
「見て、花火だよ」
――綺麗だね……って。
向けた青の瞳に、弾ける光の花を映しながら。
それから、すぐ傍で花火に見惚れている彼女へと視線を向ければ……その頬へと、そっとキスをして。
大輪の花火が再び上がった夏の夜空の下、自分に向けられた緑色の瞳に、ニームは咲かせた微笑みを返すのだった。
夏らしく燦燦と煌めいていた太陽はすっかり沈んでしまったけれど。
でも、かわりに数多燈るのは、赤く仄か光るほおずき提灯たちの灯火。
そして真夏の夜を楽しむ人々の声で賑やかで。
「いいわね、夏祭り!」
リリンドラ・ガルガレルドヴァリス(ドラゴンプロトコルの屠竜戦乙女《ドラゴンヴァルキリー》・h03436)もわくわくと、心も声も弾ませれば。
根津・道雄(快傑ビッグ・マウス・h00465)も賑やかな光景に視線巡らせながら、頷いて返して。
「いつの時代も場所でも祭りは良いものだなあ」
「元々いた世界なので見慣れた雰囲気のお祭りですけど……久しぶりなのでワクワクしてしまいますね」
九ノ里・深月(元・因習村の巫女男の娘・h08145)も、馴染みのある祭りの風景に瞳を細める。
そしてふいに夜風が吹けば、ふわり香るのは、沢山の美味しそうな匂い。
そんな食欲をそそる匂いに誘われるように、自然とふらり足が向くのは。
「まずは屋台でしょうか。しっかり食べて力を付けておきたいですね」
ずらりと並ぶ、お祭り屋台。
そして深月と同じく、久しぶりの縁日だというリリンドラは、彼の声にひとつこくりと大きく頷いて。
「これは旅団の二人と目一杯堪能せねば不作法というものね」
そう紡ぐやいなや、まっしぐらに向かった屋台はというと。
――なれば早速リンゴ飴!
「これは外せないわ、4個は買うわ」
お祭りといえばこれ、まんまるつやつやのリンゴ飴!
それを4個買って、二刀流ならぬ4本持ちしながらも、勿論早速ガリガリ食べます!
そんなリリンドラと一緒に、道雄もリンゴ飴を買ってから。
美味しくかりかり齧りつつ、ふたりと共に屋台巡りを楽しんで。
それから林檎飴をガリガリ食べながらも、リリンドラはきょろり視線を巡らせる。
「甘い物が食べたらしょっぱいのも欲しくなる、これは自然の摂理ね」
というわけで、次のお目当てはしょっぱいもの。
深月も、祭りの定番メニューが並ぶ屋台を見ていきつつ。
「たこ焼きとか、イカ焼きとか……そういえば根津さんは何でも食べられるのでしょうか?」
猫舌ならぬ鼠舌……? なんて。
そうふと首を傾けながら、道雄へと訊いてみれば。
「私はだいたい食べれるぞ? 今度は七不思議フローズンを食べようか」
「あと林檎飴に……七不思議フローズンというのも美味しそう」
深月も、ふたりが食べているリンゴ飴と、道雄が見つけた七不思議フローズンを買ってみて。道雄と一緒に、ストローでくるくる。
「おお、本当に色が変わるんだな」
「面白くてついつい混ぜ続けてしまいそうです」
聞いていた通り、白から赤、黄色や青に紫、混ぜるたびに色が変わる不思議。
楽しくなってつい、ずっとくるくるしちゃいそうだけれど。
不思議なのは色だけではなくて、飲んでみれば、色によって味も違って。
何より、ひんやりシャリシャリ、美味しい味わい。
そしてリリンドラは、買ったたこ焼きと焼きそばをモリモリ食べながらも思う。
屋台グルメの味はやはり、ちょっぴりチープなものかもしれないけれど。
でも、このお祭り特有の雰囲気と、何より知り合いと一緒にお祭りにきているということが、美味しさを増してくれる――って。
それに夜祭屋台は、グルメなものだけではなくて。
「屋台と一口に言っても、色々と種類があるのだなあ」
射的やヨーヨー釣り、射的などの遊べる屋台だったり、お土産にできそうなものが売っている屋台も。
そんな屋台をふたりと見て回っていた道雄は、ふと足を止めて。
「お、これはちょっと気になるな」
見つけたのは、沢山のお面が並ぶ屋台。
そんな色々なものがある中、道雄が手に取ったのは。
「素顔でもいいんだが、やはりこういう顔を隠して正義を成すヒーローには憧れを抱いてしまうな」
そう、マスクドヒーロー的なお面!
そして早速、買ったお面をすちゃりとつけてみれば、心做しかはしゃいでしまうし。
「正義を成すヒーロー! いいわね!」
「根津さん、とても似合っています」
そんなリリンドラと深月の声に、ますます尻尾もご機嫌にゆうらゆら。
それからやはり、夏祭りの目玉といえば。
「打上げ花火もあるらしいし、そちらも楽しみだな」
屋台で買った美味しいものをお供に、夜空に上がる花火を見るのも醍醐味だから。
「打ち上げ花火を眺めながらのんびりと……」
深月も道雄の言葉に頷き、花火がよく見えそうな場所を探してみれば。
かわりに見つけたのは、広場でパチパチと弾ける沢山の光。
「……おや、手持ち花火もありますね。折角だし少しだけやっていきません?」
「お、手持ちもあるのか」
打ち上げ花火だけでなく、手持ち花火も配られて楽しめるというから。
リリンドラは手持ち花火を早速貰ってきて、皆にも配って。
「スパーク花火を手に持ってクルクル回ると綺麗なのよね」
「やはりここは両手持ちだろうな」
激しく弾けるスパーク花火を手にくるくる回ってみせるリリンドラと、両手持ちした花火の火の軌道で丸・三角・四角と描いてみる道雄。
そんなふたりの姿に、ススキ花火を手にした深月も笑み宿して。
「ふふ、童心に帰ったようで楽しいです」
「面白次いでに妖怪ねずみ花火もやるわよ!」
「……妖怪ねずみ花火……?」
リリンドラの声に顔をふと顔を上げれば――わぁっ!? っと。
火が点いた途端、くるくる回転しながら予測できない動きで走り回る妖怪ねずみ花火にびっくりして。
同時に打ち上げ花火も上がり始めた夏の夜空の下で思わず、正義のマスクドヒーローに飛びついちゃいます……!