⚡️秘匿されし『な号作戦』
●名無しの『な号』たち
とある大型モニターが居並ぶ作戦本部で、
金菱は集まった√能力者たちを相手に説明を始める。
「さて、お前さんたちも知っての通り、
現在√WZにてオーラムの統率官『ゼーロット』が、
王劍『アンサラー』を奪取すべく、
√EDENへの侵攻に乗り出そうとしている」
そして多くの√能力者がそれを阻止せんと、
現在戦いの真っ最中である事は周知の事実である。
しかし、その計画を内側から妨害すべく動き出した者達がいた。
金菱は意味深にニヤリと笑い資料を取り出す。
これはその成果の一端だという事らしい。
「で、今回とある名無しの権兵衛からのリークがあったとする。
仮にそいつを名無しの二重スパイ『な号』とでも呼ぶとするか」
人類を裏切ったふりをして戦闘機械群の懐に潜り込み、
二重スパイとして活動していた人間爆弾達や、
虜囚となりながらも反抗の機を狙い続けている者たち。
そんな秘匿されし有志達が、
今どれだけ生き延びるているのかも分からない。
金菱は意味深な表情になって説明を続ける。
「どうやらコイツは今回ゼーロットが計画した。
侵攻作戦の計画書の一部分らしい……」
彼ら彼女たちの知られざる犠牲の上に得られた、
僅かだが確実な血の結晶。
その情報が反撃の一手を打つのは未だと、
目の前の資料は教えてくれていた。
「『な号』の掴んだ情報は大まかなものだが、
今回のオーラム陣営の戦力、作戦、川崎市の情勢について、
今回の敵の動きを包括的にまとめてくれている。
そのおかげである程度こちらとしては敵の手の内を読んで動ける訳だ。
お前さんたちはこの情報を元に自由に動いてくれていい」
羽田空港で指揮を執るゼーロットを狙うも良し。
川崎市に駐屯するオーラム軍の殲滅に重点を置くも良し。
この機に他に捕まっている√能力者の解放活動を行うも良し。
√Edenにとって最大の脅威となる大黒ジャンクションの破壊を第一とするも良し。
もちろん大穴狙いのカテドラル・グロンバインの破壊を狙うのも良し。
機械群に散発的な抵抗をしていただけの人類が、
遂に組織的かつ大規模な反撃を仕掛ける機会を得たのである。
「もっとも有力な情報が手元にあるからと言って、
真正面から機械群の軍団を打ち破れるとは思わんでくれよ。
あくまで圧倒的な敵の戦力を消耗させるようお前さんたちは、
悪知恵を働かせて動いてくれ。
と情報提供するにあたり『な号』は釘を刺している。
俺もこれには同意見だと添えておこう」
手元にある情報を元に金菱は慎重な見解を述べる。
「派手に暴れてやりたい者も居るだろうが、
それはまだ後に取っておいてくれ。
人類にとっては幸いな事にオーラムとクロンバインの陣営は、
敵対関係にある。大黒ジャンクションを経由しての√Eden侵攻も、
どちらが王劍『アンサラー』を手にするか。
あるいは√Edenが敵派閥に奪われる前に占領しようと、
そんな皮算用でもしている事だろうぜ。
さて、俺の言いたいことが分かるか?」
金菱が不敵に笑って見せる。
つまりどういうことかと言うと、
機械群の派閥同士の対立を上手く煽り、
可能な限り√WZでの機械群の戦力を削ぎ、
人類サイドは更に力を付けるべく、
今はしたたかに動けという事らしい。
「手始めにオーラムとグロンバイン両者の対立を煽って欲しい。
それが成功し人類側が動く時間を稼げたら、
後は雑談で決まった戦略目標達成のため、
各々自分の力と知恵を振り絞って動いてくれ。
それで諸君らの健闘を祈る!」
金菱はピシリと一同に敬礼してみせる。
戦場の動きは常に霧の中で諸々の摩擦により、
予想外の事態が起こるもの。
それをいかにして利用し最大の戦果を上げるのか?
√能力者達の知恵と機転が試される。
第1章 冒険 『敵対派閥同士を消耗させよ』
「囚人虐待反対!
3食おやつお昼寝付きの
待遇を私は求めます!!」
リズ・ダブルエックス(ReFake・h00646)は、
鉄格子を駄々っ子のようにガタガタゆらし、
怠惰で身勝手な要求を押し通そうと喚く。
「理解不能!理解不能!」
看守のロボットが呆れ気味に、
同じ言葉を繰り返しながら、
相手にしてられないとばかりに、
プイッとそっぽを向く。
が、それこそリズにとって、
我が意を得たりであった。
オーラム軍にわざと負けて幽閉されたリズの狙いは、
敵軍の攪乱にあった。
加えてリズは捕縛された時に、
武装解除されてはいたものの、
大事な武器は持ち込まず事前に、
遠隔操作可能な「レイン砲台・電子戦型」を、
敵拠点の周囲に配置しこれから行う電子戦への
備えは既に整っていた。
「さて、今の内にやりますか。
レインシステム起動」
レイン砲台を起動させたリズは、
オーラムとグロンバイン双方のデータベースにアクセスし、
オーラム派閥がグロンバイン派閥を、
探っているかのような偽装工作を残し、
次にグロンバイン派閥がオーラム派閥を、
探っているかのような偽装工作の痕跡を残す。
その上で、サイバー上の微妙に見つかりそうなポイントに、
今侵攻でオーラムがグロンバインを囮にしている、
という改竄データをゼーロットの元に届くよう、
さりげない偽情報を流すことも忘れない。
「これで良し。あとは獲物が掛かるのを待つのみですね♪」
工作活動を完了させたリズが悪戯っぽく微笑んで見せる。
●そのころ羽田のゼーロットは
「何ぃ?グロンバインの連中が、
我々を囮に使おうと画策しているだと!」
部下からグロンバインの不穏な通信傍受を聞いた
ゼーロットは神経質に声を荒げる。
「サー、我々の狙いを先読みし、
王劍を先に奪わんとしているのかもしれません」
「ええい、忌々しいグロンバインめが、
私の手柄を邪魔だてするか!」
「サー、統率官殿いかがなされますか?」
「侵攻作戦の最中だが仕方あるまい。
幾つか偵察部隊を向かわせろ。
連中に不穏な動きあらば、
すぐに私に知らせるのだ!」
王劍奪取に固執するあまり、
ゼーロットは戦力の分散を決定してしまう。
その兵力は僅かばかりだが、
密かに反撃を狙う人類にとっては重要な布石の一手である。
「とりあえず襲撃に行こうかニャン」
広瀬・御影(半人半妖の狐耳少女不良警官・h00999)は、
ストレートに打って出る作戦を提案する。
今回の作戦はオーラムとグロンバイン、
両者の対立をまずは煽りその隙に、
人類側が反撃の糸口をつかむ事にある。
「なるなる、お互いをぶつけて
消耗させるって
なかなかお主も悪よのぉ」
日南・カナタ(新人|警視庁異能捜査官《カミガリ》・h01454)
が往年の悪友のように御影へ悪戯っぽく笑って見せる。
「なんて言ってる場合じゃないよね!
俺はあんまり頭が回る方じゃないから
……あ、謙遜だからね!」
具体的な策は任せたと、
カナタが御影に目線を送る。
「もっちろ~ん、分かってるニャン」
御影の頭の中には既に策があった。
自らの√能力「最適化」でグロンバイン派閥の
襲撃者な演技をしながら襲撃する腹積もりである。
偽装工作は他の√能力者が既に実行している様子である。
この機に乗じれば露骨にグロンバインを主張しなくても
オーラム陣営は勝手に勘違いしてくれそうだと、
御影は踏んでいた。
「武器庫とか貯蔵庫とか、
重要そうな場所で銃乱射や
手近な物を使って荒らすワン」
任せろとばかりに御影が、
ポンと胸を叩き作戦を説明してみせる。
「よしきた!
手っ取り早く双方の基地を
攻撃して互い誤解して貰おう!」
カナタもカナタなりに閃き、
その閃きを実行に移す。
その為にまずはこっそり戦地跡に行って
戦闘で破損したであろう転がっている
双方の敵機械群の武器を調達する必要があった。
そして数十分後。
「おっ、早速取って来たワンね」
「ハイこれ、みーくんの分」
「ありがとニャン」
御影はカナタから敵機械群の武器を受け取り、
二人は早速両軍の境界線に向かう。
オーラム側にはクロンバインの、
クロンバインにはオーラムの武器を使って、
隠密行動を取りつつ基地への攻撃を開始する。
「直接姿を出して攻撃するとバレるだろうから
離れた所からコレを武器に当てて
基地に向けて吹っ飛す!」
カナタの|鉄槌の大砲《ハンマーキャノン》がオーラムの基地に炸裂する。
同時に御影はグロンバインの基地を攻撃してみせる。
「よし、こんなもんかワン。
そろそろ撤退するニャン」
「おっし了解っと!」
御影の合図にカナタが応じ、
後はすったかたーっと、
二人は走り去って行くのであった。
志藤・遙斗(普通の警察官・h01920)は、
グロンバイン側の軍事施設を見渡せる場所で、
タバコを吸いながらゆっくりと息を吐き出す。
「こういうスニーク系の指令は
苦手なんですけどね……」
こそこそ動くのは性に合わないと、
志藤はわざと歩哨に見つかるよう派手に動いてみせる。
「アヤシイヤツメ!
大人シク武装解除シナサイ」
「たまには捕まる側になるのも一興ですね」
駆け寄ってきた機械群の兵士に、
志藤はあっさりと両手を上げ投降の意思表示をする。
●グロンバイン派基地内での至高の一服
こうしてグロンバイン側の機械群に、
わざと捕まり投獄された志藤であったが、
基地に連行される際武装解除に応じつつも、
タバコだけはしっかり持ち込んでいた。
「何とか中に入れましたし、
次は内通者の確保ですね」
そうして機械群が捕らえた人間の捕虜と一緒に、
労働に従事する志藤であった。
労働の後にタバコで一服するささやかな楽しみを思えば、
キツイ労働も黙って耐えられた。
そしてしばらくして休憩時間がやってくる。
「折角の一服タイムですが、
情報収集もしておかないと」
志藤は労働中に目星をつけていた
とある臭いを漂わせる囚人に目を移す。
その囚人は先ほどから落ち着かない様子で、
そわそわと何かを探している様子であった。
やがて囚人はゴミ捨て場の生ごみを漁りそこから、
吸い終わった短いシケモクを吸おうとしているではないか。
囚人は正真正銘のニコチン中毒者であった。
「となり、失礼します。
そんなシケモク吸わなくても、
ちゃんとしたの持ってますよ。
良ければ、一本いかがですか?」
志藤は囚人の隣に座りタバコを一本勧める。
そして、これ見よがしに自分のタバコに火をつけ、
美味そうに紫煙をくゆらせるのであった。
「おお……まともなモクなんざ久しぶりだ。
あんちゃんホント恩に着るぜ」
囚人は地獄に仏とばかりにありがたやと、
合掌してから至高の一本を受け取るのであった。
「いやぁ、あなた只者じゃない気がしたんで、
あと愛煙家として見過ごせなかったんで、
声をおかけしたんですがね……実は」
一緒にタバコで一服しつつ、
志藤はゼーロット側のスパイだと身分を明かし、
美味そうにタバコを吸っている囚人の反応を見る。
「へへっ、俺も実はスパイ……いや情報屋ってとこか。
ここの基地の情報を高く買ってくれるんなら、
人類でも別の機械群でも良かったんだがね。
至高の一本を恵んでくれたお礼に、
あんちゃんにとっておきの情報を教えてやるよ」
囚人が志藤にこっそり教えてくれたのは、
基地の防備と警備体制についてだった。
情報屋の囚人によると今夜基地内の、
索敵機能がメンテナンスのため一時的に、
停止するとのことらしい。
その隙を突けばこの基地への奇襲も可能かもしれない。
「ありがとうございます」
貴重な情報提供に志藤は丁重に頭を下げる。
「いいってことよ。
ついでに、ゼーロットの野郎がここの襲撃を
画策してるとデマをサラッと流しておいてやる。
後はまぁ、上手く立ち回るんだな」
偽情報が上手く回ればオーラム陣営と接する方角に、
警備の兵力が偏りその反対側から奇襲が掛けやすくなる。
情報屋の囚人はタバコを一本吸い終わると、
志藤の肩を鷹揚にポンと叩きいずこかへと去って行った。
「これで良しっと、
後は野となれ山となれってやつですね」
志藤はしたたかにしぶとく生き抜く、
情報屋の後ろ姿を見送り自身もまた、
至高の一本を吸い終わり動き出すのであった。
第2章 冒険 『夜襲作戦』
●夜襲決行!
√能力者たちの諜報活動の甲斐あって、
グロンバインとオーラムの機械群は散発的に戦闘を始め、
両者共にテリトリーを境に睨み合う状態が続いている。
そして夜の帳が下りる頃合いになる。
グロンバイン派は戦力を分散させ、
オーラム軍の動向を注視するように警戒している。
すなわちグロンバインの基地を襲うなら、
√能力者たちにとって今が絶好の機会である。
この機を逃さず可及的速やかに基地への夜襲を決行するのだ!
「うまく行きましたね!
志藤先輩の情報もナイスです!」
先輩の志藤から情報共有してもらった、
カナタは次なる行動に出るため、
愛用のハンマーを引っ下げグロンバインの基地に、
忍び込もうとする。
が、なにか引っ掛かりを感じるのか、
カナタは足を止め少し考えこむ。
「しっかし、戦力が分散して手薄になってるところに
索敵機能がメンテナンスで一時停止って、
こっちはすごい助かるけどあまりにも
危機感ないんじゃないですか……」
敵も敵で何か策を弄している可能性も、
なくはないとカナタは懸念を抱く。
「もしや、そう思わせて油断させる作戦!?
いやいやいや……
そういう事もあるかもしれないから、
一応は慎重に行くぞ」
カナタは心霊聴取を使い近くにいるインビジブルに、
基地の事を聞き出そうとする。
「|揺蕩う者《インビジブル》よ、在りし日の姿を現せ」
カナタが意識を集中させると、
人類側の学徒兵だったインビジブルが姿を現す。
「この基地への侵入経路?
僕はここへ偵察中に見つかって、
歩哨に撃ち殺されたんだけど、
知ってる情報としてはこんなとこかな」
学徒兵のインビジブルが言うには、
グロンバインの基地はオーラムのテリトリーに隣接しているため、
敵の流れ弾が基地に飛来し索敵用のアンテナが被弾する事もあった。
そのため定期的にメンテナンスをするというのは本当らしい。
そしてオーラムを一番に警戒する以上、
オーラムに面していない搦手からであれば比較的侵入は容易。
とのことであった。
「ありがとう、アドバイス通りにやってみるね」
貴重な情報を得たカナタは、
基地の搦手から侵入し、
道中見つけた重要そうな機械を、
ハンマーでコソコソと破壊して回る。
「敵襲!敵襲!ハンマーを持った不審人物を発見!」
が、運悪く哨戒中の敵兵に見つかってしまうカナタであった。
「やっぱ見つかったらもう、
派手に行くしかないよね!」
敵に見つかってもめげることなく、
カナタは遠慮なくハンマーを振りかざす。
「夜はいいね。月の無い晩なら尚いい」
今の御影は普段の明るい御影とは違う。
職業暗殺者としての冷たい殺気を帯びた眼差しで、
御影は静かに独り言ちる。
御影が見上げる夜空には、
夜襲にはちょうどいい塩梅に月が雲で隠れ、
僅かばかりに星々が疎らに瞬いている。
夜陰に紛れ基地に侵入するのは訳もないであろう。
「夜襲なら銃よりハチェットで
静かに仕留めて行こうか」
銃では銃声によって敵に存在を悟られる。
ならばハチェットで淡々とこなすのが良いだろう。
御影は愛用のハチェットを手に取る。
「まずは一体……」
侵入した先で御影は歩哨のロボット数体の首を、
ハチェットの刃で斬り落とす。
仕留めたロボットの残骸を御影は、
引きずっていって物陰に隠しておく。
「気付かれないに越した事はないし」
破壊工作の一環として御影は、
手近な通信機器もついでに壊してゆく。
気配を殺してもいずれは敵に見つかるだろうが、
それまでにできるだけ多くの破壊工作を仕掛けるだけだ。
志藤が貴重な情報を得て基地を抜け出し、
仲間たちと情報共有を済ませる頃には
すっかり夜の帳が下りていた。
「ふぅ、何とか同士討ちの形には
持っていけましたね……」
志藤はタバコを吸いながら周りを見渡してみせる。
手筈通りであればそろそろ仲間たちが、
この基地への夜襲に動き出す頃合いだ。
「後は、グロンバイン基地の襲撃をして
さらに混乱してもらうとしますかね」
志藤も夜襲に加わるにあたって、
攻めやすい場所や警備が手薄な場所は、
既に情報屋から入手しており、
自分が侵入するルートも既に目星を付けてある。
志藤は一服を終えると次の行動に移る。
「彼の言葉を信じるなら、
ここから行けそうですね。
後は野となれ山となれ、
出たこと勝負と行きますかね」
基地の搦手から侵入した志藤は、
『正当防衛』を発動し、
自らの移動速度を3倍にあげ、
一気に重要拠点を守る歩哨ロボット数体を、
出会いがしらに小竜月詠で袈裟斬りにする。
「敵襲!敵ノ正体ハ……」
「おっと、それから先はオフレコで」
司令部へ連絡しようとした一体の首を刎ね、
志藤は放送室らしき部屋に目を向ける。
すでに、他の仲間たちも動き出しているらしい。
既に基地の各所で物々しい雰囲気が広がりつつあり、
指揮系統が混乱するまであと少しかもしれない。
「敵襲!オーラム軍の夜襲だ!
敵数は不明、至急防御を固めよ!」
放送室から志藤はグロンバイン陣営を、
更に攪乱するため偽情報をスピーカーで大音量で流す。
そして、志藤は放送回線をぶっきらぼうに切ると、
ため息交じりにタバコに火を付けて一服する。
「一先ずこれでよし……と」
深呼吸をしてニコチンを体内に行き渡らせ、
志藤は一本吸い終わると、
まだ火の残った吸い殻を可燃性のゴミが満載された
トラッシュルームに当てつけのように投げ捨てる。
「収容所でストレスたまっていましたし、
これくらいやってもばちは当たらないですよね」
タバコの火は志藤の鬱屈を表すかのように、
燎原の火の如く広がって行く。
ちょっとしたボヤ騒ぎでも、
敵軍攪乱の一助となればしめたものである。
「中々に忙しい状況です」
オーラム陣営基地にて、
グロンバイン側の基地で活動する√能力者たちの
動きを確認したリズはため息交じりに、
装備を整え始める。
「3食おやつお昼寝付きの待遇とは
正反対すぎて残念ですね」
光翼のエネルギーをMAXに輝かせ、
リズは牢獄の壁ごとぶち破り自由な空へと、
舞い戻って行く。
「この任務が終わったらしばらく、
ゴロゴロします……」
リズは新たなる決意を胸に、
グロンバインとの小競り合いの最中の
オーラム派閥の基地からドサクサで脱出し、
グロンバイン派閥の基地に夜襲を掛けるため、
空を駆けてゆく。
やがてグロンバイン派の基地を上空から確認。
「LXMの斬撃機能と本体の同期確認。
隠密モード移行も問題なし。
ハッキングで頂いたデータも中枢への侵入に、
しっかり使わせて頂きますよ!」
リズは眼下の対空機銃の掃射を掻い潜り、
LXMとレイン砲台で砲撃を駆使し空から、
急降下で敵基地の中枢へと肉薄してゆく。
対空機銃掃射のタイミングはハッキングの情報により、
見切る事が出来ている。
そして敵の弾に被弾することなく基地の中枢に着地。
「さて、3食おやつお昼寝付きの休暇のため、
とっと終わらせますよ~」
リズはレイン砲台からレーザーによる弾幕で、
派手に基地の中枢部分を破壊してゆく。
第3章 集団戦 『シャクティ』
●対√能力者特殊部隊
「先ほどからのオーラムの不穏な動き、
やはりあなた方の画策でしたか……」
やはり、敵もそう愚鈍ではないらしい。
グロンバイン派の基地内で、
立て続けに起こる破壊工作に気が付いた
者たちがいたようだ。
「これより敵√能力者の排除に移ります」
グロンバイン派に仕掛けられた破壊工作を阻止するため、
√能力者一同の前に現れたのは「シャクティ部隊」。
√能力者を屠るために組織された常在戦場の少女人形。
その五体を駆使した殺人拳は、
√能力に劣らぬ脅威となって、
一同の前に立ちはだかるであろう。
「あなた達のような優秀で勤勉な敵がいるから、
私が常時3食おやつお昼寝付きで
生活出来ないんです!」
グロンバインの基地に降り立った
リズが自分を包囲しつつある隙のない、
敵部隊に斜め上な敵意を向ける。
「理解不能……敵殲滅すべし」
リズの怠惰な嘆きを無慈悲に突っぱねるかのように、
シャクティたちが拳を構えリズに襲い掛かる。
敵は格闘術の達人であり、
極めて厄介な能力も保有している。
リズは相手の得意なペースに、
付き合うべきではないと判断し一旦後方へ退く。
「そう簡単に、近寄らせません!」
LXMとレイン砲台による遠距離からの攻撃によって、
リズは敵を牽制し格闘の間合いに入らず、
斬撃やビームで距離を稼ぐ戦いを維持する。
「私のレイン兵器!
戦闘後の3食おやつお昼寝付きのため。
想定スペックをも超えた実力を、
今こそ見せるであります!」
更にリズは√能力、
【決戦気象兵器「レイン」・精霊術式ver2】を使用。
敵を攪乱する意味でも局地的な暴風を纏い、
落雷の援護を受けながら今度はこちらから打って出る。
「あなた達は対人戦のスペシャリストでしょうが、
対自然も同じようにやれますか?」
「この動き、読めない……」
不可思議な異常気象をその身に宿したリズに、
シャクティたちも攻めあぐね、
戦いの主導権はリズに移りつつある。
●三課たちの決戦
やはりというか、
志藤はタバコに火を付けながら、
やれやれと頭を掻く。
「せっかく同士討ちを促して、
漁夫の利を狙おうと思ったんですけどやっぱり、
そこまでうまくはいかない物ですね」
いつかはバレると分かっていたが、
志藤としてはもう少し粘りたかった。
せめてあともう一本タバコを吸うゆとりが
欲しかったが見つかった以上仕方がない。
「一応確認なんですけど、
撤退するつもりはないですか?
お互い無駄な戦闘は控えた方が
得策だと思うんですよね」
「これまで散々我々を妨害しておきながら、
白々しいですね。投降するなら認めます。
今回の妨害工作の件洗いざらい話しなさい」
シャクティたちは問答無用で拳を突き出し、
力づくでこちらの計略をねじ伏せるつもりらしい。
「まぁ、無理ですよね。
仕方ありません、
強行突破させてもらいます」
こんな展開は馴れっこだと志藤が刀を抜く。
少しでもタバコを吸う時間を稼いでおこうとするも、
それも虚しく不発に終わったようだ。
「生憎と僕は真正面から
やり合うタイプではないのでね」
志藤の傍らでハチェットを構える御影が、
冷たい一瞥をシャクティたちにくれる。
敵も暗殺拳の使い手らしい。
正々堂々の戦いだけでなく、
搦手からの意表を突いた戦い方も、
慣れている事だろうと御影は分析する。
「お互い戦いやすい方法でいこうか」
御影は影に隠れ自らも意表を突いた戦いで、
敵を出し抜くため夜の闇に紛れる。
「騙し打ちみたいな事して申し訳ないけど
俺たちは警視庁異能捜査官カミガリ!
√EDENを守る為に侵攻は絶対に阻止してみせる!」
最後にカナタが少し気後れしつつも、
胸を張り愛用のハンマーを引っ下げ啖呵を切る。
「さぁ、かかってこい!」
同じ三課の先輩たちの手前、
引き下がる訳にはいかないカナタであった。
「では、お望み通りに」
シャクティたちが一斉に拳を握りしめ、
カナタに御影に、そして志藤に襲い掛かる。
カナタは格闘戦主体で襲い来る敵の、
統率の取れた動きを冷静に見切りつつ、
更に追撃して来る拳の流れを、
ダッシュで回避していく。
「さて、これならどうかしら!」
シャクティが基地内に転がっていた、
金属製のひしゃげた瓦礫を、
弾丸のようにカナタへと蹴り飛ばす。
「っと危ない……
ビビリな俺だけどお陰様で、
戦いの場はそれなりに踏んで来てる!」
土壇場でカナタはオーラ防御を張り、
飛んできた瓦礫をハンマーでなぎ払う。
「そこ!もらったよ」
それまで闇に紛れていた御影が、
シャクティたちの攻撃の隙を付き、
ハチェットでの反撃を試みる。
「その程度の奇襲など」
前腕部に仕込んだ強化手甲で、
シャクティは御影の一撃を防ぐ。
回避や距離を置く事を重視し、
職業暗殺者らしい気配を殺しての、
一撃だったが敵も似たもの同士らしく
御影の手の内を読んでいたらしい。
「しっかり気配を殺したはずニャンだけどな~」
「この程度の戦闘技術ならば、
私たちも弁えていますから」
御影とて舐めてかかった訳ではない。
しかし改めて敵の力量の高さを認識し、
御影はハチェットでの牽制をより慎重に行いつつ、
ヒットアンドアウェイで間合いをコントロールし、
敵に対する攻撃と離脱を繰り返してゆく。
シャクティたちに追いつかれそうになれば、
武器を拳銃に持ち替え後方へ退きつつ引き金を引く。
「なるほど、伊達に暗殺部隊は名乗ってないワン」
シャクティの拳による怒涛の連撃を、
今度は御影がハチェットで防いでみせる。
「遅いですね。その程度のスピードでは
かすり傷程度付けることはできないですよ?」
一方の志藤は自身の√能力『正当防衛』により、
速度を大幅に上げスピードで翻弄しようとする
シャクティたちを更に俊敏性で一時的に上回り、
刀と銃による応戦を続けていた。
「おしゃべりは後でじっくりお聞きします。
一念通天!これで決めます!!」
シャクティは防具を脱ぎ捨て、
放たれた拳銃の弾丸を手甲で弾き、
正面から跳躍し志藤へ正拳突きを喰らわせる。
「こちらのスピードを上回るとは……
流石にやりますね。
油断しないようにしないとな」
志藤は咄嗟に受け身を取り、
打撃のダメージをいなしたものの、
もろに直撃を喰らえば骨の二三本は
訳もなくへし折られていたことだろう。
「し、志藤先輩!」
頼れる先輩が劣勢なのを見て、
カナタが思わず狼狽える。
カナタ自身もシャクティたちと戦いつつ、
攻撃を回避するのもそろそろ限界に来ていた。
「やっば!アドレナリンで心臓バックバク!
この与えて貰っちゃった興奮を、
逆手に特大のお見舞いしてあげるよ!」
早期に決着を付けねば不利になる一方だと、
悟ったカナタは自身に残った力を籠め始める。
「無駄なあがきです。大人しく投降しなさい」
「出てこい鉄槌の大砲!敵を打ち抜け!」
直後、複数の鉄槌の大砲がシャクティたちを
包囲するように召喚される。
間髪を入れず砲身から砲弾が一斉発射される。
「そんな数任せの攻撃が、
当たると思ったのですか?」
が、砲弾の一斉発射を回避したシャクティが、
再度拳を構えカナタにトドメを刺そうと歩み寄ってくる。
カナタにとって万策尽きたかに見えたが、
カナタは打てる手はすべて打ったと満足そうに、
笑って見せるのであった。
「いいや、僕も思っちゃないよ。
志藤先輩……今だ!」
「肉を切らせて骨を断つ!」
砲弾の着弾によって舞い散る粉塵の中から、
身を隠していた志藤が大きく踏み出し、
リーダー格のシャクティを袈裟斬りにする。
「馬鹿な、この間合いで敗れるなんて!」
「よし、僕も続くニャン」
リーダーを失い一瞬我を失った他のシャクティたちを、
御影がハチェットで仕留めてゆく。
「僕たちの連携勝ちってやつだねぇ……」
自分たちの勝利を見届けた事で緊張が解け、
今になって疲労が一気に込み上げて来たのか、
カナタがそのまま地面にへたり込む。
●戦後処理
戦闘後、痛む傷を抑えながら、
志藤は新しいタバコに火を付け一服していた。
「ふぅ、戦闘終了っと、
後はこんなところは破壊してしまいましょう」
「おう、あんちゃんたちやり遂げたんだな!」
志藤が声のする方向に目を向けると、
先ほど志藤に情報を提供した情報屋が学徒兵数人を引き連れ、
グロンバインの基地まで来ていた。
「あんちゃんたちに加勢しようと、
近くの学徒兵を連れて来たんだが、
この様子じゃ助太刀は無用だったらしいな」
「あなたでしたか……
ちょうどよかった。
この基地を破壊するのをお任せしても
よろしいでしょうか?」
「ああ、その程度どうってことねぇよ。
ど~んと引き受けてやらぁ」
情報屋が豪気に胸を叩き頷いて見せる。
「さてと、これで良しっと、
後は戻って報告書の作成と経費の精算……
戦闘よりも忙しくなりそうですね」
志藤はやれやれといった様子で
タバコを吸いながら現場を離れようとする。
「ちょっと待ってニャン」
気だるげに立ち去ろうとする志藤の背に、
困惑気味の御影の声が響く。
「カナタ君運ぶの手伝って欲しいのでワン」
よくよく見ると戦闘の緊張と疲れからか、
カナタはそのまま地面に倒れ込み、
呑気に鼻提灯を膨らませながら爆睡していた。
「まぁ、カナタ君の機転が無ければ、
かなり危ういところでしたし……
今回は、まぁ仕方ないですね」
タバコを吹かしつつ志藤は、
ぐっすり眠るカナタを優しくおんぶして、
黙って立ち去るのであった。