シナリオ

7
ぶよぶよした前奏曲

#√汎神解剖機関 #クヴァリフの仔 #プレイング受付中

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 #√汎神解剖機関
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●こうしん
 彼女は、いつからここにいるのだろう。
 夕焼けの続く窓際。側にはピアノ。窓枠に腰掛け、風に揺れるレースのカーテン越しに見えるシルエット。束ねられた金色の髪が靡いている。

 彼女は、いつからここにいたのだろう。
 思えば随分と前だった気がする。そう、この、変なものを拾った日からだった、ような。

 あれから何日経っただろう。
 ……夏の夕暮れは優しくて。蝉の声がわずかに聞こえてきて。あの鳴き声は、こんなに遠かっただろうか。

 これから何をすればいいのだろう。
 ぞろぞろと、自分の後ろをついてまわる、やわらかく、弾力のある、よくわからないもの。いくつものぐねぐねが生えたそれを抱え上げて、少女は悩んでいる。

 かぞくはみんな「これ」になってしまった。今日も今日とて、私は、かぞくのお世話をしなきゃいけない。
 たくさんたくさん増えたかぞくのごはんを。
 こんなにたくさんの、たくさんの……。

「ああ……ぼくの分はいらないよ」
 優しい女の声に頷いて。少女はうねうねをずらずら引き連れ、部屋を後にする。
 日が沈み、しばらくして響いてきたのは、憂鬱で、けれど甘い、ピアノの音色。

●おかえり。
「『おかえり』諸君。どうだね、うねうねの具合は。そう、クヴァリフの仔のことだとも」
 だらけている。星読み、ディー・コンセンテス・メルクリウス・アルケー・ディオスクロイ(辰砂の血液・h05644)。怪人態ではなく、けだものの姿でソファに寝そべっている。
 フワフワの毛並みに混ざる羽毛がエアコンと扇風機の風に揺れ、相変わらず目元は翼で覆われており見えやしない。

「涼しかろう、涼しいついでに話を聞きたまえ。仔が関わる事件だ。とある屋敷で『クヴァリフの仔』が召喚されたのだが――召喚者はほぼ全滅、とのことでね!」
 ワハハ。ワハハ。けものの口がわらうわらう。すっとお座りの姿勢を取る彼、シルエットは猫、体格は犬。ちょいと太い前足でローテーブルの上の紙を指す。

「こどもだ。小さなこどもひとりを残して、一族みな家に集まり、心中めいた召喚を行った。結果、少女のみ残され――そこに簒奪者が目をつけた」
 ――『人間災厄』が。

「儀式の影響か、現場となった家の周囲まるごと迷宮めいた道になっている。そこにぽつぽつクヴァリフの仔。これを拾い集めるなり――潰してまわるなりで、適切な処理をしていってはもらえないかね?」
 ごく普通の、少し古めかしく見える民家だ。そこを中心として広がる、ぐるぐる、ぐるぐる続く道――そこを行き。散らばる仔を集めよと。

「中央の家からはピアノの音色だ。『グノシエンヌ』はご存知か? あれだあれ。即ち相手も「そう」だ。と、いうことで、仔も頼むが『こども』も頼む。放っておくと奴に食われるゆえ〜」
 くぁ、とあくび。呑気に話すべき事柄ではないのに。

「簡単だろう? 実に。簒奪者、人間災厄の相手など、諸君らにとっては手慣れたものと存じているとも。アッハッハ! では頼んだ。いざ行け諸君! わたくしは働かないぞ!」
 ソファの上で腹を見せ寝転ぶその姿、なぜだかあしが六本あるけもの。
 √能力者に丸投げをして、このまま涼むつもりである……。
これまでのお話

第3章 ボス戦 『人間災厄『グノシエンヌ』』


 息をしていたかった。いきをしていたかった。生きていたかった。
 そう考えていたのは、もしかしたら、自分だけだったのかもしれない。

 さてはて一家心中、その末路。一族の『儀式的集団自殺』。棺のない鯨幕の広間は、『仔』が堕ちてくるには丁度よく。|生き損なった《・・・・・・》少女はひとり、『かぞく』とやらにえさを与えていたようだが、ちょうど、沈黙したところ。
 最期は、かぞくとともにあれたのだろうか。死の行進に、葬列に、並ぶことはできただろうか。

 ――静寂。
 となればピアノの音色、よく響く。静けさに包まれた二階、鍵盤がゆっくりと沈み込み、音が。

「何度目だろう」
 奏者は呟く。また、食いそこねた。ああ、十はとっくに超えてしまったかも。|簒奪者《奏者》として、失敗まみれで情けないとは思わないのか? いいや、思いなどしないよ。既に食らった後に感知された事件だって、いくつかある。
 狡猾に……穏やかに……驕り高ぶることだけは、どうにもやめられないのだけれど。
 このからだと精神、どこまでだって|貶《落と》して、抗おうではないか。

「おいで。ぼくと少し……楽しいことをしよう」
 ゆかいに、さいごのおそうじだ。