|Ding Dong《ディン ドン》
●クリスマスの鐘が鳴る
「√能力者のみんな、初めましてになるな。オレは、『√ドラゴンファンタジー』の『星詠み』、ガーデニア・エレスチアルだ。よろしく頼むな!」
青銀の髪の少年、ガーデニア・エレスチアル(|聖竜騎士《ドラゴンナイト》・h03944)は、そう言うと自分が予知した『ゾディアック・サイン』に関する話を始める。
「オレが視た予知は、『√マスクド・ヒーロー』の怪人が『√EDEN』の繁華街に現れるというものだ」
ガーデニアが見た限りでは、最終的に襲ってくる怪人は『マンティコラ・ルベル』――薔薇と蠍の特性を併せ持つ怪人だという。
「おそらく、『マンティコラ・ルベル』と戦う前には、多数の『潜入工作用改造人間『スニーク・スタッフ』』と戦うことになると思うんだけど、もしかしたらこの戦いは√能力者のみんな次第では、変わってしまうかもしれない。確定してない、未来ってやつだな!」
軽い調子で言うガーデニアだが、つまり『マンティコラ・ルベル』が連れてくる怪人ではなく、他の敵と戦うような未来もあり得ると言うことだ……どちらにしろ、√能力者が倒さねばいけない敵に変わりはないが。
「それとだな、敵が現れる繁華街の場所は分かっているし、戦闘をしても問題なさそうな場所もあるから、一般人を巻き込む心配はしなくていい。ただ、少し待ちの時間が発生しそうなんだよな」
『マンティコラ・ルベル』が現れるのをただ待つだけの時間というのは、いささか無為な時間だと感じる√能力者も当然いる。
そんな時、ガーデニアが満面の笑顔でカラフルなチラシを√能力者達に見せる。
「今日ってクリスマスだろ? ちょうどさ、怪人たちが現れる繁華街でクリスマスバザールをやってるらしいんだよな。クリスマスっぽいハンドベルとか、リースとか、オルゴールなんてのもあるみたいだな。折角だから、ちょっとバザールを見て回ったり、ショッピングを楽しんでみるのもいいんじゃないか? 英気を養うのも大事だからな!」
ガーデニアとしては、最終的に怪人『マンティコラ・ルベル』さえ倒すことができれば問題ないのだから、クリスマスを楽しむことは大賛成なのだ。
「敵怪人が現れるのはおそらく夕方。昼間は、クリスマスをたっぷり楽しんで、その後、怪人『マンティコラ・ルベル』を倒してほしい。√EDENの平和のためだからな、しっかり頼んだぜ!」
強く言うとガーデニアは初めての『ゾディアック・サイン』の説明を終えるのだった。
第1章 日常 『今日は街に出かけよう♪』

●クリスマスの日の魔女
「ふふ、クリスマスと言うものはいつも賑やかでいいね」
クリスマス・イルミネーションに彩られた街を眺めながら、星村・サツキ(厄災の|月《セレネ》・h00014)柔らかく呟く。
「この活気や喧騒が“日常”っていう感じがして、ボクは好きだな」
人々の毎日は、いつも通り変わらず送られているからこそ、愛しくて優しい日々なのだとサツキは感じていた。
「『怪人』と言うのがどんな相手であれ、せっかく皆が|今日と言う日《クリスマス》を満喫しているんだ。邪魔だけはしてもらいたくないね」
一年に一度しかない|特別な日《クリスマス》なのだから、幸せな笑顔を守りたいとサツキは自身の黒い髪を撫でる。
(「とは言え、予知された時間に、まだ早いなら少しバザールを見てみようかな」)
足を進めるサツキは、なんなら『両親にプレゼントを用意するのもいいかもしれない』なんて、少しワクワクしていた。
「オルゴールもあるんだっけ、二人にぴったりなのがあるといいのだけど」
流れるメロディーと|聖なる日《クリスマス》に相応しい、素敵なオルゴールが見つかれば良いなとサツキは考えていたが、思い出したように立ち止まる。
「あ、その前に。――巡る星々の一欠片。キミ達の力をボクに貸してね」
サツキが囁くように言うと、白いカラスの幻が一斉に羽搏き、クリスマスの空を翔ぶ。
(「ガーデニア君から聞いているのは夕方だけど、『目』は多いほうがいいからね」)
念には念を……放った白い羽根のカラスたちがすぐに怪人を見つけられれば、被害は少なくなるとサツキはわずかに笑う。
「杞憂ならいいさ、平和が何よりってね?」
言ってサツキは両親に送るオルゴールを探しに、キラキラ輝くバザールを見て回るのだった。
●|特別な日《クリスマス》の街並みに
「クリスマスマーケットに来るのは、どのくらいぶりだろう」
クリスマスムードで賑やかな繁華街で、橘・あき(人間(√EDEN)のフリークスバスター・h00185)が呟く。
あきは普段、『√EDEN』で公認会計士として忙しく働いている。
特に12月末決算の外資系企業が多い、年末年始ともなれば、あきも事務所も大忙しで、てんやわんやしている時期だ。
「クリスマスプレゼントは、用意してあるものね。そうだ、喫茶店のオーナメントの参考になるものはあるかな」
家で待つ夫へのクリスマスプレゼントは当然のように準備済みなあきは、折角なら『cafe 星影』に飾ることのできるオーナメントを見てみようかと考える。
賑やかな音楽に、色取り取りの飾りの数々。
|クリスマス《聖なる日》は、毎年来るのに、あきはどうしても毎年ワクワクしてしまう。
クリスマスにワクワクするなんて子供っぽいとあき自身が一瞬考えるが、 『感性が豊かなの!』と頭の中で否定する。
それにショッピングは大好きだから、思わず口元が綻び、『ふふ♪』と優しい声が漏れる。
クリスマスカラーに彩られた小物や飾りは、どれも可愛く、どれも素敵で、あきは色々と目を輝かせてしまう。
けれど、どんなに可愛く素敵でも、その品々をあきは決して手に取らない。
(「これから戦いだもの。壊れる可能性がある物の購入はできないもの」)
――買えなくてごめんなさい。
惹かれる可愛い品々に心の中でそう言って、もう一つ、あきは呟く。
「でもね、お店の人や商品は、ちゃんと守るからね」
怪人さえ倒してしまえば、いつもと変わらない|Xmas《クリスマス》が待っているのだからと、あきはクリスマスの飾りの鮮やかさに目を細めた。
第2章 集団戦 『潜入工作用改造人間『スニーク・スタッフ』』

●『マンティコラ・ルベル』の部下達
クリスマスの一日が少しずつ進み、やがて『潜入工作用改造人間『スニーク・スタッフ』』が『√マスクド・ヒーロー』との境界から、多数現れる。
予知は変わらず、『マンティコラ・ルベル』が部下を連れて『√EDEN』に侵入してきたのだ。
戦いに勝利しXmasという特別な日を守る時だ!
●愛されし雷の槍
「やってきたわね」
数多の『潜入工作用改造人間『スニーク・スタッフ』』を前に、橘・あき(人間(√EDEN)のフリークスバスター・h00185)がわずかに語調を強め言う。
「『√マスクド・ヒーロー』の『怪人』と戦うのは、初めてだけど――見た感じ、普通の人間ね」
あきから見た『潜入工作用改造人間』は、一見、普通の人間と変わらない……気になるのは、鋭く光る赤い瞳程度だろうか。
「普段、『√汎神解剖機関』で『怪異』ばかり相手にしてるから、何だか安心しちゃった」
これまで戦ってきた『怪異』の異形の姿に比べれば、気味の悪さはほとんど感じないことから少し気を緩め、あきは言うが、あきの視界にスニーク・スタッフが手にしているある物が入る。
「あなた達、その手に何を持ってるの!?」
スニーク・スタッフと『プラグマの待機要員』が手に持つ銃が、どんな姿をしていようと、彼らが『簒奪者』であることには変わらないのだと、あきに認識させる。
「数が多いわね。それなら、私も手数多めに戦うわ!」
すぐに敵の数を確認したあきは、自身も攻撃の手数を増やすことにする。
「――私、愛されてるから」
あきが自身の周囲に連続で、複数の雷を絶え間なく降り注がせれば、プラグマの待機要員たちは雷を受け、痺れ声を上げ倒れていく。
「あなたたちも、私と同じ√能力を使えるみたいね。でも、――数は私の方が多い!」
威力が1/100になるのならば、数を作ればいいと割り切ったあきは、雷を槍のように止めどなく降らせる。
「どれだけ多い敵も、190本の槍の前では敵うまい!」
念動力で操るあきの雷がプラグマ待機要員の数を確実に減らしていく。
●一緒であることは喜び
「反応速度が半減? 好都合であーる!」
『潜入工作用改造人間『スニーク・スタッフ』』の能力で『プラグマの待機要員』の数が増えるといっても、その分敵全員の反応速度が半減すると知り、声を上げるのは、同道・宙太 (黒穴・h00903)だ。
宙太は、怪人たちの前で堂々と腕組みをし、敵が襲ってくるのを待ち構える。
(「12体の待機要員や本体が、囲んで突っ込んでくるのをまだ見ているのである!」)
その表情には余裕と自信が満ちている。
敵が自分を包囲するギリギリの瞬間、宙太は自信ありげに口を開く。
「キミもソラであるか?」
言葉と同時に宙太はインジブルと場所が入れ替わり、そのインジブルに触れたプラグマ待機要員たちがみんな“ソラ”に変わっていく。
「キミは――キミたちは、ソラになーる! そう、一緒になるのである。一緒であることは喜びである! 心地よくて幸せである。寂しくなくて元気になれるのであーる!」
『ソラ』に変えられた怪人たちはソラとして動き始める。
「嬉しいであろう? 素晴らしいであろう? ……ふむ。なぜそんなに倒れそうになっているであるか?」
『ソラ』に存在そのものを変える、宙太の√能力は戦場に混乱を巻き起こす。
●星々の涙
「へぇ、あれが……。望まぬ来訪者のご登場、ってところかな」
興味深げに星村・サツキ(厄災の月セレネ・h00014)が、『潜入工作用改造人間『スニーク・スタッフ』』をジッと見る。
「怪人って言うのは、初めて見たけどなるほど。……見た目は普通に人っぽいね」
この見た目なら、他√に侵入しても怪しまれまいと、サツキは一人納得する。
「そう言う意味では……ふふ、似てるねボクと。まぁ、そう言った所で親近感が湧く訳でもないけど。だって、ボクは人様に迷惑はかけないからね?」
人間災厄「夜天の魔女」であるサツキは、√能力者として簒奪者と戦う道を選んでいるため、怪人たちとは明確に違う。
「多数が相手なら【星の涙】を使わせてもらおうかな。数には数を……ってね」
足止めも兼ねられると、サツキは自身が起こす一つの【災厄】を選ぶ。
「我が災厄の一端、その身で存分に味わうといいよ」
|星の涙《ティアーズ・レイ》は魔力を持って、小隕石となりスニーク・スタッフとプラグマ待機要員を纏めて吹き飛ばす。
「1体だろうと、人のいる方には向かわせない。残念ながら、ここは行き止まりってね」
小隕石を降らせ続けながら、サツキは微かに笑い言う。
「……しかし本当、数が多いね。キミ達も、もう少し慎重になってもいいんだよ? ……って、聞く耳持つわけないか」
分かっていたこととはいえ、残ったスニーク・スタッフがサツキ目掛けて駆けて来ると、サツキは追い打ちの小隕石を落とすのだった。
●夢を空想し、実現せよ!! 実現戦隊リアライザー!!
「あー、 すまない皆。本当だったら、クリスマスバザールも楽しんで貰いたかったけど、 営業許可に手間取った……」
自身のヒーローヴィークル【日替一品わんだぁ】を、元々のバザールの営業予定地の傍らに停め、巨海・重吾(|虚構の巨人【ゲイジークラフター】《食欲・面白トラブル巻き込まれ枠》・h02176)がそう言う。
今回は市民の皆様に危険が及んではいけないため、ど派手な演出『ダイナミックエントリー』は控えた……まあ、市街地だしね!
「クリスマスだというのに、悪事を働く者達! このライズ・ブラックと仲間達が許さん!」
勇ましい名乗りを上げ言うのは、『ライズ・ブラック』黒統・陽彩(ライズ・ブラック・h00685)だ。
「行くぞ諸君! みんなのクリスマスを護るのだ!」
戦隊カラーはブラックだが、ヒーローらしく、勇ましく、仲間たちに言う姿は流石のリーダーと言えるだろう。
「既に、戦闘が始まっているみたいね」
数多の潜入工作用改造人間『スニーク・スタッフ』を、構えたアサルトライフル『HK416』で強襲しながら言うのは、八木橋・藍依(常在戦場カメラマン・h00541)。
「あ、そうだ。重吾さんは、運んでくれてありがとうございます」
引き金を引き続けたままで、重吾に礼を言う藍依の瞳は真っ直ぐにスニーク・スタッフたちに向いている。
「折角のクリスマスなのに……。それを邪魔するのは、許せない」
重吾の駆る【日替り一品!わんだぁ】から射出され戦場に降り立ち、一言そう呟くのは、天神・珠音(どこにでもはいないトウテツ・h00438)だった。
すぐに珠音にも、スニーク・スタッフたちの銃口が向くが、珠音はそのスニーク・スタッフたちの弾幕すらも喰らい尽くすほどの勢いで、苛烈な攻撃を始める。
「お腹すいた……お腹すいた……オナカスイタ……!」
髪の先に、巨大な口『饕餮の牙』を幾つも出現させた珠音は、自分に向け放たれる弾丸を全て喰らい、そのままの勢いでスニーク・スタッフたちを捕食し、彼らの腹部を抉り、貫いていく。
「この大切な“クリスマス”は、誰にも邪魔させない……!」
キッチンカーの中には、クッキーや様々なお菓子も用意してある、手早く倒してみんなに笑顔になってもらおうと、珠音は『饕餮の牙』の数を増やす。
「諸君! そちらは任せるぞ!」
藍依と珠音にそう言い、陽彩は一般人の避難誘導に専念する。
敵を殲滅出来ても、住民に被害が出てしまえば意味がない。
だが、そんな陽彩の前にもスニーク・スタッフたちが銃を構え向かって来る。
陽彩は巨大剣『ブラック・ザンバ・ブレード』を構えると、確認するようにスニーク・スタッフたちに聞く。
「隙が、見えるのだったな? 私の攻撃は、確かに隙が大きい。――だがな? それであれば、隙すら飲み込む、重い一撃を叩き込むだけだ」
陽彩は瞬時に黒影を纏うと跳躍し『ザンバ』を真横に薙ぎ払う。
「私が、腕力だけの戦士だと思ったか?」
黒影を纏った陽彩をスニーク・スタッフたちが捉えるのは難しく、隠密状態のまま陽彩はさらに多くのスニーク・スタッフを切り払っていく。
「黒いスーツは良い。仕事人らしい。――だが! ソレは悪の黒! “正義の黒”たる私には、遠く及ばない!」
強く言い放つと、陽彩は正義の黒を纏い、また闇に消える。
仲間たちがスニーク・スタッフとの戦いを繰り広げる中、重吾は【日替り一品!わんだぁ】内を簡易シェルター化して、避難住民を受け入れ、守ることに徹底していた。
仲間たちの射出は、補助AI|アンサラー・チューニング・スパロー《略して朝チュン》の活躍により、完璧に終了している。
朝チュンのサポートがあれば、車載武装射出機構を完全に制御し、仲間達を個々に“ダイナミックエントリー”することも容易い。
そして重吾は、鳥形歌唱支援システム『Assistant Servant Tuner Operations Bird』を使い、さらに避難誘導を迅速に済ませていく。
だが人々は、突然の怪人の襲来に恐怖を覚えていることだろう。
人々を励ますように、重吾は自身の歌声を町中に響かせる。
「“楽園”の人達は悲劇を忘れても、僕は手を伸ばせば届く“星”になりたい」
重吾の歌声は、√能力者となり、人々が安全に避難できる|世界《√EDEN》を構築していく。
それでも危うい人々がいると、朝チュンからの報せがあれば、脚部用特装圧縮銃|【ゲイジーシューター】《重吾式擬似パイルバンカー》でプラグマ待機要員を蹴り倒し、おじさん系ヒーローは、住民の避難ルートと安全地帯の確保を確実に済ませていく。
仲間たちが、それぞれに街を護る中、藍依の前に立ちはだかるスニーク・スタッフの数も目に見えて少なくなっていた。
スニーク・スタッフやプラグマ待機要員が死角から攻撃をしてきても、逆に自身が操るドローンを以て射撃し、確実に撃破していく藍依。
藍依が予め|ルート前線情報網!《ジャーナル・ネットワーク》を使用していたことも、この戦いで敵を圧倒する力となっている。
「清く正しい情報網こそ、正義です!」
思い思いに戦いながらも、それぞれに支え合う。
それこそが『実現戦隊リアライザー』なのだ――。
彼らの勇気と、『アドヴェント特製クッキー』が街の人々の不安をゆっくりと消していく。
そして、避難する子供たちの心を、甘く温かいココアの香りが包んでいた。
第3章 ボス戦 『『マンティコラ・ルベル』』

●嫋やかに艶やかに
√EDENに侵攻した、潜入工作用改造人間『スニーク・スタッフ』を全て打ち倒すと、周囲に薔薇の香りが立ち込める。
怪しくも蠱惑的な香りだった。
「薔薇の香りは好きよ。手を尽くしてあげなければ、失われてしまうものだから……」
嫋やかに言うのは、マンティコラ・ルベル。
怪人の幹部でありながら、薔薇の女王――。
マンティコラ・ルベルを倒さなければ、この街は甚大な被害を受けるだろう。
――決戦の時だ!
●薔薇の香りを纏わせぬほどに苛烈に
「薔薇は私も好きよ。自宅の敷地内で、薔薇を育てるくらいには」
姿を見せた怪人幹部『マンティコラ・ルベル』にそう言うのは、橘・あき(人間(√EDEN)のフリークスバスター・h00185)だ。
「でも、どうやら、私達は仲良くはなれないみたいね。私の世界から、さっさと退いてもらうわよ!」
言うとあきは、得物を愛用の槍『thunder*』から、金で縁取りされた漆黒の殴り棺桶『coffin*』に変える。
「そこを動くな!」
言いつつ細い身体で巨大な殴り棺桶を振り回し、マンティコラ・ルベルが動く前に先制の一撃を放つべく、あきは力の限りで『coffin*』をマンティコラ・ルベルの蠍と薔薇が融合した身体に叩き込む。
(「当たれば相当なダメージが行くはずだし、極論、当たらなくてもいいの。動きは止められるから!」)
攻撃を躱された後の動きも考え、あきは|探偵活劇《レミイ》を使うと決めていたのだ。
外れたとしても、移動禁止エリアに出来れば、その後の戦いが有利になる。
「外れようと、お前の成功値は半減できる!」
言いつつ『coffin*』を怪力のままに振り回すあきは、あまり外す気がないように見えるのだが。
あきが『coffin*』を薙ぐように振れば、マンティコラ・ルベルの足もわずかに下がる。
薔薇の香りを纏うことさえ出来なければ、マンティコラ・ルベルが自身の√能力で強化できないと見越し、あきは怒涛の攻めを見せる――けれど。
「必ずしも、私が仕留める必要はない。トドメは任せた!」
力任せにマンティコラ・ルベルを殴りつけながら、あきは仲間の√能力者達にそう叫んだ。
●魔女と護霊
「バラに限らず、花はボクも好きだけどね」
薔薇を愛する『マンティコラ・ルベル』の登場にそう言ったのは、星村・サツキ(厄災の|月《セレネ》・h00014)だ。
「それなら、大人しく帰って、手入れをするっていうのは……どうかな?」
月と夜の彩を乗せた瞳を向け、サツキが言うが、マンティコラ・ルベルは薔薇の香りを纏おうと動く。
「帰ってくれる……訳はないよねぇ、やっぱり。だったらボクは、変わらず立ち塞がるだけだよ。月並みだけどね、ここは通行止めって言うやつさ」
言いつつもサツキはマンティコラ・ルベルを見ながら思考する。
(「怪人って言うのは、それこそ……テレビで見る程度のイメージしかなかったけれど……。この雰囲気は……やられ役だなんて、思わない方がいいんだろうね」)
怪人であろうと『√能力者』なら、自分たちと変わらぬ力が使えるのだからと、油断はできないとサツキはしっかりと理解していた。
「おいで、ハティ。油断は禁物だよ」
ハティを呼び出したサツキは、|月霊の加護《ゲツレイノカゴ》を発動すると、牙撃を使用しマンティコラ・ルベルへと攻撃を仕掛ける。
(「出来そうなら、相手の気を引いて隙を作れればいいんだけど」)
ハティに融合の指示はできない。
ならばと、サツキは星の杖を手に自身の魔力で、ハティを援護する。
「ハティのムーンライトなら、怪我も回復できるしね。一手一手確実に行こう」
敵幹部との戦闘が簡単に終わらないことを理解しているからこそ、サツキは確実にマンティコラ・ルベルにダメージを蓄積していくと決めるのだった。
●実現戦隊リアライザー VS 薔薇蠍の怪人
「現われたな、マンティコラ・ルベル!」
巨大剣『ブラック・ザンバ・ブレード』を構え、黒統・陽彩 (ライズ・ブラック・h00685)が強く言う。
「赤き薔薇の蠍姫よ! この街に手を出すならば、問答無用! 我らが討伐してくれよう! 行くぞ諸君!」
振り返り、陽彩は仲間たちに言う。
「奴へのトドメは、私の“必殺武器”を使う!」
それ故に、仲間たちにマンティコラ・ルベルの動きをを止めてほしいと陽彩は既に仲間たちに伝えていた。
(「無論、私も前衛を務めさせてもらう!」)
必殺技はマンティコラ・ルベルの動きを止めてからだが、『ザンバ』さえ手にしていれば、充分にダメージを与えられると、陽彩も動く。
その陽彩の言葉に、天神・珠音 (どこにでもはいないトウテツ・h00438)も『マンティコラ・ルベル』に対して口を開く。
「申し訳ありませんが……。クリスマスは邪魔をさせません」
あくまで戦う意志を乗せて珠音の美しい瞳が煌めく。
「それに、わたしは……。あんまり、きつい香りは好きじゃないんです」
事実としてバッサリと、マンティコラ・ルベルの発する強いバラの香りを否定し、珠音は力強くマンティコラ・ルベルに迫る。
『実現戦隊リアライザー』の先陣として動いた珠音は、マンティコラ・ルベルの動きを止めるために、マンティコラ・ルベルの挙動や攻撃を見切りながら、自身の身を守りつつ攻撃機会を窺う。
「痛いの……いやだから……」
素早く放たれるマンティコラ・ルベルのルベル・アローを自身の能力で耐え、深い傷とならないように受け止めた珠音は、自身の傷を自在に伸びる巨大な口に変え、再度放たれたマンティコラ・ルベルの薔薇の矢ごと、マンティコラ・ルベルの右腕を喰らう。「あなたの全てを、噛み砕く……! 動きを止められるのなら……それでいい!」
自分が傷を受けてなお、その痛みが相手を噛み砕く牙となるのであれば構わないと、珠音は薔薇の矢を受けるたびに、牙を増やしていく。
(「念の為、マンティコラ・ルベルが一般人の避難している方向へ向かわないように、誘導するように行動しましょうか」)
思考しながら、八木橋・藍依(常在戦場カメラマン・h00541)は戦場の数多のドローンをマンティコラ・ルベルの攻撃誘導や撹乱として使用する。
マンティコラ・ルベルが薔薇の矢を使うこともを藍依はしっかりと把握しており、陽彩や巨海・重吾(虚構の巨人|【ゲイジークラフター】《食欲・面白トラブル巻き込まれ枠》・h02176)が狙われれば、ドローンを操り防御としようと考えていた。
珠音が庇う対象に入っていないのは、この戦場において珠音は、わずかな傷でも受ければ受けただけ攻撃の手数が増えるため、珠音の攻撃回数を減らさぬためには、容易に庇うことができないのだ。
だが、それで珠音が戦闘不能になってしまえば意味がないため、もし珠音が危機的状況になれば、藍依は自分の身を挺してでも庇ってみせるとまで強く思う。
補助AI『朝チュン』が空を飛び、上空からの戦場把握は完璧だと、重吾は普段通りのルーティンとして、優しい歌を口ずさむ。
響く歌声と共に、ゲイジーマルチデバイスを刺又へと変え、重吾はしっかりと握り構える。
(「マンティコラ・ルベルにとって、僕は的としてデカいから狙いやすいし、天神さんがこのまま攻撃を続けやすいようにするとしようか……!」)
勢い乗せて宙を駆けた重吾は、マンティコラ・ルベルの動きを制御するように迎撃すべく、より良い未来が選びとれるように、重吾は刺又でマンティコラ・ルベルを押さえつける。
(「実際、僕の攻撃は、決め手には欠けるしね」)
そう思考しながらも、攻撃をメインで受けることになる、珠音に重吾は眉を顰める。
珠音が過剰に攻撃を受ける必要性はないからだ。
「マンティコラ・ルベルだったかな? “クリスマスローズ”のつもりなら、あれはこんなケバケバしてない、慎ましやかな花だけどね」
――|星を仰げ夢を見据える為に、手を伸ばそう夢への距離を測る為に、いつかを叶え手にする為に、人はそう星へと届く……《説明しよう!》。
囁くように、歌うように、重吾は言葉を紡ぐと、雷を纏った強力な蹴撃をパイルバンカーの如く、マンティコラ・ルベルの腹部に打ち込む重吾。
次の薔薇の矢が放たれる前に重吾は高く足を上げると、マンティコラ・ルベルの頭上から踵落としの要領で思い切り、自身の脚で蠍の妖女を蹴り落とす……地面に埋め込む勢いで。
そのタイミングで、重吾は珠音を両腕に抱え、もう一度宙を蹴るとマンティコラ・ルベルの攻撃範囲から脱出する。
重吾が目指す先に居るのは陽彩だ。
「あなたが、今回の事件の黒幕ですよね。クリスマスを楽しく過ごしている人は、沢山居ます。そういう人達を狙った、襲撃だと思いますが……」
クリスマスを楽しむ人々、その瞬間をカメラに収めるべきで、収めねばと藍依は強く思う。
だから、マンティコラ・ルベルにカメラを向けるのは一度だけ。
「無辜の人々を狙うなど、決して許されてはならないことです。今回の事件、記事にさせてもらいます……! あと10秒! ……3。……2。……1。……ゼロ!」
藍依が向けたカメラから、目が開けていられないほどの眩い閃光が放たれ、マンティコラ・ルベルはサソリの尾針をうち放つことすらできず動きを止める。
「実現戦隊リアライザー集結!」
陽彩の言葉で、藍依も陽彩との合流を優先し四人が揃う。
「動きが止まった! これが最後の一撃だ! くらえ! マンティコラ・ルベル!!」
今ここで放たれる、あらゆる悪を討つ『実現戦隊リアライザー』の“邪悪撃滅・超必殺砲”!!
「グレイテスト・フィニッシュ・リアライザー!! シュート!!!!」
その4人の力を収束した必殺砲は、マンティコラ・ルベルの全てを呑み込む光となって、街を奔り抜けた。
あとに残ったのは、悪の怪人の残り香だけ。
クリスマスの街に、こうして平和が訪れた。
――そう、正義は必ず勝つのだ!
●街が全てを忘れても
『√EDEN』のクリスマスの日、怪人マンティコラ・ルベルの野望は潰えた。
だが、街の人々は、すぐにこの事件を忘れることだろう。
この地に住む人々は、強い『忘れようとする力』により、√能力者たちの存在も忘れてしまう。
だが、それであっても√能力者たちは、これからも戦い続ける。
√EDENが、人々の“楽園”であり続けるために……。