シナリオ

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学園祭強襲計画~守れ我が子を、友人を~

#√EDEN #√マスクド・ヒーロー #Anker抹殺計画 #学生Anker大歓迎 #シナリオ分岐あり

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 #√EDEN
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●華やぐ学園祭。その裏に。
 √EDENのとある学園。
 小中一貫校であるその学び舎は、今まさに学園祭の真っ最中。
 校舎の中はどこも色とりどりに飾り立てられ、各クラスでは趣向を凝らした様々な出し物が催されていた。
 廊下を歩けば学生の家族や他校に通う友人達がたくさん訪れており、そんな|お客様《ゲスト》を自慢のクラスに招待すべく生徒達の客寄せの声がそこかしこで響き渡っている。
 また部室棟や体育館に足を運べば、そこでは日頃の成果を家族や友人に披露するべく意気込む文化部の生徒達の姿を見ることができるだろう。
 生徒たちの若々しい活気と情熱は今や学園から溢れ出さんばかりに膨れ上がり、この学園祭は大成功のうちに幕を閉じる。そう誰もが信じて疑わなかった。

 しかし、この時はまだ誰も気づいていなかった。
 そんな輝かしい青春の舞台に似つかわしくない、ギラギラとした輝きを放つ存在が学園内に忍び込んでいることに。
「まったく、サイコブレイドの奴も人使いが荒いでおじゃる。この広い学園の中からAnkerを探して抹殺しろなどと」
 学園のどこか。暗く湿ったその場所に静かに響きわたる不満げな声。
 薄黄緑色のケミカルな蓄光色に光る着物を纏い、闇の中に薄ぼんやりと佇むその者の顔は不気味な白塗りの骸骨。
 名を『|破蛇麻呂《いしかわのへびまろ》』。かつては√妖怪百鬼夜行で名を馳せた古妖であり、封印の際に√マスクドヒーローに逃げ延び改造手術を受けてプラグマの参加に下ったガシャドクロの妖怪である。
「まあ、善き哉」
 憎々しげに言の葉を吐いていた蛇麻呂であったが、その手に握った|大太刀《サイコブレイド》を見て奴はその顔をにたりと歪めた。サイコブレイドから借り受けた刀身に満ちた異能の力は凄まじく、握っているだけで万能感を感じさせる。
「こうして強い力を借り受けたからには一仕事くらい勤め上げてやらねばのう。もし邪魔が入れば、逃げ帰って後の事はサイコブレイドに擦り付けてしまえばよいのじゃし。上手く行けばこの太刀も手中に収めたままにできるやもしれんしの」
 下剋上に息を巻き、言の葉の端に熱い色を醸す蛇麻呂。そしてその伽藍洞な眼窩に光る光球を細めると、蛇麻呂はまた違った熱を込めた囁きを漏らし、厭らし気に微笑むのであった。
「なによりマロは子供が好きでおじゃ。そのAnkerたる童は存分に可愛がってやろう。それに……少しくらい無関係な童を攫っても、勤めを果たしておればお咎めはないでおじゃろう」

●みんなにとって学園祭といえば?
「いらっしゃいませ! 七つの楽園亭にようこそ!」
 √能力者たちを明るく迎え入れたのは星詠み、太曜・なのか(彼女は太陽なのか・h02984)。
 彼女は君たちを食堂の席に通すと、氷を浮かべたキンキンの麦茶を配って回った後に自らも席についた。
「この度は要請に集まっていただきありがとうございます。今回私が予報《予知》したのはとある学園に通うAnkerさんをサイコブレイドの刺客が狙っているという事件です」
 サイコブレイドのAnker抹殺計画。
 Ankerを探知する√能力を有するサイコブレイドによって、√能力者の魂の核ともいえるAnkerが狙い撃ちされるという恐るべき計画である。
 これまでも多くの一般人が危険に晒されてきたこの計画が、遂に学校にまで魔の手を伸ばしてきたのだ。
「そして残念ながら、この学園のどの生徒が狙われているAnkerなのか。そこまでは私の予報では分かりませんでした。だから皆さんには学園に直接訪ねて、その全域を監視してほしいんです」
 口惜しそうに唇を噛みながら資料を配るなのか。それによると、その学校は小中一貫校であり生徒の数もおよそ1000人と非常に規模の大きな学校のようだ。その中からAnkerを探し出すのは簡単な仕事ではないだろう。
 いや、何より無関係な√能力者は無遠慮に学校に入ることすら許されないのではないか。
「そこはご安心! この学校では運の良いことに今がちょうど学園祭シーズン! 生徒さんの友人や父兄の方になりすませば簡単に入ることが出来ちゃうんです。よほど変な事をしなければ多少人ならざる姿をされている方でも『忘れようとする力』のお陰で無目立つことはありませんし、せっかくだから事が起こるまでは学園祭を楽しんじゃうのもアリですね! むしろ私が行きたい! カフェをやってるクラスに遊びに行って子供たちにお給仕してもらいたい!(だめです)」
 逆を言えば、目立つような事をすればサイコブレイドの配下に√能力者の存在をアピールする事になり、敵への牽制にもなるかもしれない。……が、子供たちが楽しく盛り上げている学園祭に水を差すことにもなるため行動の選択は慎重に行ってほしい、となのかは付け足した。
「ただ、少し懸念点があって……今回学園を襲撃する簒奪者、破蛇麻呂は非常に狡猾で周到で、尚且つ子ども好きでもあるんです。奴はAnkerの生徒さんを抹殺するだけでなく、自分好みの子供の誘拐も企んでいるかもしれません。ですので、どの生徒さんがAnkerか見定めることが出来なくても、皆さんが学園中に散って監視の目を光らせるだけでも防衛には大きな効果があると思います」
 敵のターゲットはAnkerだけではない。誰が狙われるか分からない。
 それならば学園全体を守ればいい!
 なのかはそうシンプルに作戦を纏め上げたのだった。
「資料の通りこの学校に通う生徒さんはたくさんいるので、もしかしたら皆さんのAnkerさんもここに通っていらっしゃるかもしれませんね。その時はぜひ一緒の時間を過ごしながら守ってあげてください。それではいい報告を待っています! 無事帰ってきたらAnkerさんの分も腕によりをかけてお料理を作るので、一緒に祝勝パーティーをしましょうね! それではいってらっしゃい!」
これまでのお話

第2章 集団戦 『クマクマパレード』


  潜入した√能力者達の警戒網が学園内に張り巡らされていく。
 ただの一般人であれば何も気に止めるほどのことでもない、ほんの些細な緊張感。
 しかし用意周到かつ慎重派な破蛇麻呂は、その緊張の糸が張り詰めていく音を敏感に察知していた。
「……むう。まさか早くも何者かが嗅ぎつけたでおじゃるか? 確証は持てないでおじゃるが、念には念を入れて早めに動いたほうが良さそうかの」
 そう即決すると、蛇麻呂は学園の周囲に潜ませていた配下たちに司令を下す。
「クマクマパレード達よ、予定繰り上げでおじゃる。Anker反応がある者の下へと向かい、その周囲の子供ごとを誑かして我らが本拠地に|誘《いざな》うでおじゃる!」

 司令が下った瞬間、学園の周囲に現れたのは無数のクマの着ぐるみ軍団。
 着ぐるみ達はファンシーな見た目そのままに可愛らしく、しかし機械のように寸分たがわぬ挙動で体を震わせると、一斉に学園に向けて行進を開始した。
「くまっ♪ くまっ♪ くまっくまっくま♪」
 どこからともなく鳴り響く賑やかなファンファーレ。
 それ目にし、または耳にした子供たちは、クマ達の後を追いかけるようにふらふらと歩き始めるのであった。

 しかし√能力者の中には、学園の周辺にも目を光らせ、奴らの暗躍を事前に察知していた者達がいた。
 クマクマパレードの出現は直ちに√能力者たちに知らされ、その動向はリアルタイムで共有されることだろう。
 どうやら奴らは学園中の様々な場所に向かって行進しているが、中でも小等部の階層に向かう一団が最も数が多い。どうやら『サイコブレイドが狙っていたAnkerは小等部にいる』ようだ。
 またとある√能力者は囮を用意するという作戦を選んだ。その狙い通り、クマクマパレードの一部は囮の方へと引き寄せられているようだ。
 そしてその他にも学園内に無数に罠を仕掛けた者や、またあるいは小等部の教室の傍に身を寄せて警戒を強めていた者もいる。事前の備えは万全と言えるだろう。
 迫りくる怪人達を打倒し、学園祭の平和を守り抜くのだ!
古谷・カナオ
空地・海人

 楽しげな音楽で子供たちを誑かすクマクマパレード。
 奴らが出現した瞬間より、時はわずかに遡り。
 カナオはルンルン気分で学園祭を巡っていた。彼の手に握られているのは 海人がヒーローとして戦う為に必要不可欠な|変身ベルト《フォトシューティングバックル》だ。
「親分から変身ベルトを託されるなんて……これぞ我が世の春ってやつっす!」
 |海人《親分》の力の象徴を預かったという事は、それ即ち尊敬する人に命を預けられるほど信頼を寄せてもらっている事と同義。腰巾着冥利に尽きるというものなのだろう。
 カナオはカメラ型の変身ベルトを見つめると、それを大切に胸に抱えこんだ。
「たしか、異変があったらすぐシャッターボタンを押せって言ってたっすね。ヨシ! ばんばん異変を見つけるっすよ~」
 そしてカナオは飛び上がりそうになる気持ちをぐっと堪え、キョロキョロと辺りを見渡す。
 と、その時。
「くまっ♪ くまっ♪ Ankerを目指すっくま♪」
「くまっ♪ くまっ♪」
「Ankerどこっくま♪」
 耳に飛び込んできた愉快な歌声。
 子供たちを引き連れて現れたクマクマパレードの一群が奏でる行進曲だ。
「あれが親分の言ってた異変? いや、あれは……かわいいクマちゃんっす~♡」
 実はクマのぬいぐるみ集めが最近のカナオのマイブーム。
 ワイルドな男に憧れている事を公言しているカナオにとっては可愛すぎる趣味故に、普段はなかなか表に出してこなかったが、しかし、『好き』の気持ちに嘘をつけないのもまた彼であった。
「これは追っかけるしかないっす!」
 思わず反射的にパレードに追従してしまうカナオ。何か大事な目的を記憶の彼方に吹き飛ばした気もするが……。
 一方、蛇麻呂の命によりAnker反応を追って校内を練り歩いていたクマクマパレード達は、ふと後ろを振り返ってびっくり仰天。
 なにせ探せと言われていた反応を持つ者が、探すまでもなくいつのまにか自分達のパレードに加わっていたのだ。
「わーっ! もういるクマっ!」
「クマの誘惑|力《ぢから》も捨てたもんじゃないクマね~」
 心なしかどこか嬉しそうなクマ達。
 そのままこの可愛い気のあるAnkerも連れ帰りたい衝動に駆られるが、しかし司令は絶対。
 彼らはAnkerを抹殺すべく瞑想すると、夢の国より来たりし巨大なクマの王――クマクマキングを召喚した。
「わあっ! 王様クマちゃんまで出て来たっす! クマちゃんの王様……きっとクマオウって名前っすね」
 それを見たカナオはテンション最高潮。
 さりとて他の生徒たち同様に誘惑されて自我を失っているわけでもないカナオは、とにかく今を楽しむべく行動を開始した。
「そういえば、自分は今カメラを持ってたっすね! 記念に1枚パシャリっす!」
 現れたクマオウ(勝手に命名)は僥倖な事に自分に向けて目線を送ってくれている。このチャンスを逃すものかと急いでシャッターを切り……。
 瞬間、世界を渡る光が校舎内を駆け抜けた。
「うおっ!? クマさん近っ!」
 √能力『|フィルム・アクセプター ポライズ 参上!《サモンヒーロー》』によってクマクマキングの眼前に降り立ったのは空知・海人。
 √能力者の唐突な登場にまたもびっくり仰天するクマクマパレードの面々だったが、それは海人も同じ。まさか、いきなりこんなギリギリの場面に呼び出されると思ってもいなかったのだ。
「でもまあ、これは|攻撃の好機《シャッターチャンス》だな!」
 しかし海人もさすがのヒーロー。
 状況を即座に理解すると、生身のまま恐れること無くクマクマキングに掴みかかった。
「クソ重い……けど、この程度……変身しなくても……!」
 廊下を踏みしめ一気に力を爆発させると、なんとクマクマキングの巨体が宙に浮く。
「どおおおりゃあああ!!」
 そして気合の掛け声と共に勢いよく背負投げ。受け身を取る暇もなく地面に叩きつけられたクマクマキングは目を回しながら消滅するのだった。
「ああっクマオウ様が! って親分、どうしてここに!?」
「異変が起こったらすぐにシャッターを切れって言ったろ!」
 駆け寄ってくるカナオのリアクションから、どうやら自分とカメラのことはすっかり忘れられていたらしい事を海人はなんとなく察する。
 だがそのお蔭で強敵の不意をつくことが出来たのだから結果オーライか、と海人は怒りの矛を収め、彼は大切なAnkerの頭をクシャッと撫でた。
「ありがとな、カナオ。さあ、他の生徒を連れて安全なところまで逃げるんだ。奴らの相手は俺がする」
 そう言ってクマクマパレードに向き直る海人の目は、既に戦士のもの。
 クマクマパレードはなおも愛嬌のある表情を浮かべていたが、その所作からは獰猛な獣の野生を感じる。
 それに対し海人はラフな喧嘩殺法の構えで対峙すると、先手必勝とばかりに勢い任せに飛びかかった。
「わ、分かったっす! あ、でもクマさんにあまり乱暴なことしちゃだめっすよ。あと、できれば一体持って帰りたいっす!」
「いや、そりゃだめだろ!」
 そして海人は力強いツッコミと共に、眼前のクマ目掛けて渾身のソバットを叩き込むのであった。

春尾・志選

「現れたみたい……」
 屋外を警戒していた仲間から、不審な着ぐるみ軍団の報せを受けた|志選《しぇーら》。
 彼女が今いるのは小等部の教室がある1階の廊下。
 とその時、視線を巡らせ警戒を強める|志選《しぇーら》の耳に届いたのはなにやら軽快な歌声。
「くまっくま~♪」
「この歌は……どこかのクラスが合唱してるわけじゃ、なさそうだよね」
 歌声が聞こえるのは廊下の曲がり角の更に先。下駄箱の方から響いてくるその愉快なメロディは少しずつ大きくなってくる。
 そして。
「クマーっ!」
(なんか可愛いクマのぬいぐるみが来た!)
 曲がり角から現れたのは、つぶらな瞳とモコモコの毛並みを持つ、大人の背丈よりも更に大きいクマの着ぐるみ。それも1体や2体ではない。
「1階は特にAnkerの反応が強いクマ!」
「でも誰がAnkerかは蛇麻呂様にしか分からないっクマ~!」
「手分けして片っ端から連れていっクマ! 蛇麻呂様に一人ひとり確かめてもらうっクマ!」
「僕らはあっちに向かうクマ! クマックマ~♪」
 メロディに乗せてそんな言葉を交わしながら廊下を進むクマクマパレードたち。
「わー! クマちゃんだー! 待ってー!」
「クマックマ~♪」
 その姿は異様ながら、子供心に直接訴える魔力のような物があるのだろう。廊下や教室に屯していた子供たちは歓声を上げながら駆け寄って行き、パレードはあっという間に長蛇の列に変わった。
(う、うん、たしかに可愛い。小等部の子供なら着いていっちゃうのも仕方ないくらい……まぁ私も子供だけど)
 その光景を眺めながら、|志選《しぇーら》は自分もあのパレードに付いて行きたいという衝動が胸の内から湧いてくるのを感じていた。
(でも敵の手先なのは分かってるんだもん、騙されないよ。それを知ってるとこの可愛さが邪悪なモノに見えてきちゃう)
 少しずつ子供たちの精神を狂わせながら列を伸ばしていくクマクマパレード。
 初めて見る簒奪者の脅威に対しても臆すること無く、|志選《しぇーら》は静かな怒りを燃やしていた。
(でも、廊下だと狭くて他の子達も戦いに巻き込んじゃう。こ、ここは私もあいつらに誘惑されたふりをして……)
「~~っ! く、クマックマ~♪」
 そして|志選《しぇーら》は意を決すると、奴らの歌を復唱しながらパレードの中へと飛び込むのであった。

 1階を練り歩くクマクマパレード。
 その間にも列はどんどん伸びていき、遂にその人数は100を優に超え始めた。
(これだけ人数がいれば少しくらい変な動きをしても不審には思われないはず。それに、この先には……)
 パレードが向かう先。その廊下の脇には中庭への通用口があることを事前の校内探索で把握していた|志選《しぇーら》は、遂に動くことを決意した。
(お姉さん、力を貸して!)
 念波で指示を飛ばしたのは|志選《しぇーら》の協力者である謎のお姉さんから授かった|レイブンズ《2体の鴉型ドローン》。
 司令を受け取ったレイブンズは待機していた中庭から即座に飛び立ち、窓ガラスを突き破ってクマクマパレードに奇襲をしかけた。
「クマッ!? なにごとクマ!!」
 着ぐるみの上を機敏に旋回しながら、その頭を鋭利な鈎爪で引っ掻くレイブンズ。
 その隙に|志選《しぇーら》は通用口を通って中庭に脱すると、√能力『憑神九魂儀』を発動させた。
「皆から離れて!」
 猫神と融合した|志選《しぇーら》の手が次元を超えてクマ達の腕を掴み、思いっきり引っ張る。
 すると次の瞬間には、奴らは空間を引き寄せる能力により瞬きする間もなく中庭の芝生へと引きずり倒されていた。
「皆に怖い思いをさせるなんて、絶対に絶対に許さない。私が、私が皆を守ります!」
 子供の身であっても|志選《しぇーら》は戦う力を持つ者の宿命から逃げたりはしない。むしろ堂々とクマクマパレードに向けて啖呵を切れば、彼女の頭部にいつの間にか生えていた猫耳がブワッと逆立った。
「ひっ! まさか子供の中に√能力者が紛れ……クマァッ!?」
 最後まで言葉を口にする暇もなく、1体のクマが更なる空間引き寄せの先に待っていた猫爪によって引き裂かれる。
 そして鋭利な爪を持つ猫の手へと変化した両手を振り上げながら、|志選《しぇーら》はクマクマパレードに向けて飛びかかった。
 更にはレイブンズたちも彼女の奮戦に応えるように合流し、芝生にはたちまち白い中綿が飛び散るのであった。

和田・辰巳
四之宮・榴

 いち早くクマクマパレードの存在に気づき、その行動に目を光らせていた榴と辰巳。
 校内に散っていた仲間に状況報告を終えた2人は、パレードが校舎内に入っていく様子を眺めながら密かに作戦を練り上げていた。
「へぇ、カワイイ熊さん達か」
 クマクマパレードの姿は一見すると脅威度はそこまで高くないに見える。子供を誘惑し連れ去るという能力からもおそらく戦闘向けの怪人ではないのだろう、と辰巳は分析を進めていた。
「うん、作戦が決まったよ。これなら、戦う必要すらないんじゃない?」
 こうすればさ……と、辰巳はその場に手を掲げ、小さく祝詞を紡ぐ。
「贄たる我が声が聴こえるのなら、その雍護を行使して……」
 すると彼の前に出現したのは半透明の触手を持つインビジブル『|箱水母《ハコクラゲ》』。
「箱水母には様々な毒素を調合する力がある。僕はこれからその力で幻惑系の毒を作るから、榴はパレードの中に忍び込んで、誘惑された子供たちの認識をその毒で上書きしてきてもらえないかな?」
「……相変わらず、僕に……負担、多くありませんか!?」
 また自分が現場での実行役かと榴はジトリとした眼差しを辰巳に向ける。
「そんなことないよ気のせい気のせい!」
 しかし辰巳はどこ吹く風。
 彼が手際よく箱水母たちに指示を飛ばせば、幻惑の毒素を蓄えた水母たちはその身を空気に溶け込ませるようにしながら校舎内へと散っていった。
「さあ、賽は投げられたよ。後はよろしく」
「……僕は、匙を投げたい気分です……」
 とはいえ始まってしまったものは仕方ない。
 榴は箱水母の後を追って校内を進み、先んじて侵入していたクマクマパレードの一団を発見する。
(……既に子供たちを、たくさん引き連れていますね……なら、まずはあの中に紛れるとしましょうか……。……幸い身長的……僕なら、小等部でも……ですので……混ざるのが容易い……)
 その小柄な背丈を活かし、誘惑された子供のようなフラフラとした足取りでパレードに合流する榴。事前に学園の制服を仕入れていたことも幸いしたのか、その行動に疑問を抱くクマ怪人は1体もいなかった。
(……本当に、成功してしまいました……疑われもせず……)
 若干のショックを受けつつも、榴は周囲に眼を走らせる。そして先程辰巳が校内にばらまいた箱水母の姿を確認し。
「……贄たる我が声が聴こえるのなら、この身を入れ替えて……」
 小さく呟くのは辰巳と対になる祝詞。
 すると彼女の体は瞬時に掻き消え、その場に残るのは居場所を交換された箱水母。
 箱水母は素早く触手を伸ばすと、パレードに誘われた子供たちに次々と幻惑の毒素を注入していく。
「クマっ!? 子供たちが勝手にパレードから離れて!」
「どこに行くクマー!」
 先程までは自分たちが先導していたのに、今度はクマ怪人達が勝手に離れていく子供たちの行列を追うことになるという逆転現象。
 その様子を背後の物陰から確認しながら、辰巳は静かにほくそ笑んだ。
(生徒たちはこれから体育館で全クラス合同の合唱コンクールに出なければならない。そういう風に洗脳を上書きさせてもらったよ。これで子供たちはコンクールが終わるまで体育館から出ようとはしなくなるはず……)
 クマクマパレードが破蛇麻呂から受けた司令は子供たちを攫うこと。ならば子供たちに直接的な危害を加えるようなことはしない筈だと読んだ辰巳は、誘拐の妨害を第一の目標に据えて作戦を立案していた。
 現状では時間を稼ぐことしか出来ないが、逆を言えば時間さえあればどうとでもなる。あとは隙を見て忍び寄り、ゆっくりとクマ怪人に神経毒を注入して回れば後始末は完璧だ。
「……ただいま、もどりました……なんとか、バレずに潜入完了……。……多分、瀬戸際でした……」
「……うん、おかえり。おかげで上手く誘導できたよ。榴もお疲れ様」
 何か言いたげな榴に対し“優しい”笑みを向け、冷たいジュースを手渡す辰巳。
「さあ、この調子で他のパレードも誘導してしまおうか。学園祭をこれ以上中断させるわけにはいかないよ」
「……やっぱり……人使い、荒いです!」
 しかし榴は学園に訪れた当初から、いやその前の準備段階の時から、辰巳がこの学園の生徒たちの時間を大切にしていることは感じ取っていた。
 今だって生徒たちに魅せている幻覚は、さも学園祭が通常通り続いているような設定のもの。
 生徒たちの楽しい時間を奪わせない。そのためなら辰巳は毒素の調合がどれだけ複雑なろうとその労力は惜しまないのだ。
 そんな彼の想いを察してか、榴もそれ以上の泣き言はいわない。ジュースと共に一気に飲み下すと、気合を込め直すように小さく頷くのだった。