⚡️オーラム最終決戦~黑き雷霆
⚡️最終決戦:通信網破壊戦
これは大規模シナリオの最終決戦です!
9/15朝8:30までの「戦勝数」に応じて、得られる結果が増えます!
戦勝数=作戦1〜5の成功シナリオ数÷2+最終決戦の成功シナリオ数
9/15朝8:30までの「戦勝数」に応じて、得られる結果が増えます!
戦勝数=作戦1〜5の成功シナリオ数÷2+最終決戦の成功シナリオ数
※つまり、現存する作戦1〜5を攻略する事も、勝利に貢献します!
※到達した戦勝数までの全結果を得られます。つまり戦勝数80なら、全ての結果をゲット!
※到達した戦勝数までの全結果を得られます。つまり戦勝数80なら、全ての結果をゲット!
結果表
戦勝数50:解放地域の拡大(闘技場新マップ「ビーチ」追加)。戦勝数58:オーラム以外のレリギオスに、逆侵攻の事実を伝達阻止。
戦勝数66:👾ナイチンゲール鹵獲。
戦勝数74:今後のウォーゾーン大規模全てに「内部撹乱作戦」を追加。
戦勝数82:各レリギオスが各々に蓄積した『|完全機械《インテグラル・アニムス》』の研究データを全て破棄
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『なんと、大黒ジャンクションが落ちたというのか』
聳え立つビル群の屋上からは、目を凝らさずとも煙を上げる大黒ふ頭が見えた。少なからず驚愕を孕んだ機械音声は、次に悩み深い唸り声をあげる。
飛び込んでくる通信はどれも混乱しきったものばかり。同時多発的に起こった事件はどれもレリギオス・オーラムに多大な被害を齎している。その中でも大黒ジャンクションは√EDENへと通じている要所。軍備が整う前に彼の地への移動が阻まれたとあっては侵略計画が根本から破綻してしまった。
『……やられたな』
金の鬣を靡かせた武人の如き戦闘機械は、己が認識を改めざるを得ない。
人間というものを過小評価していたのかもしれない。世界を戦闘機械が掌握してはや幾年。衰退した人類にここまでの反抗作戦を決行する力があろうとは。
『だが、それでも結果は変わらない。人類の反抗など、今まで幾らでも鎮めてきたのだから』
燃え上がる大黒ふ頭を見据え、戦闘機械『黑麒麟』は手にした弓に矢を番えて構える。
人類が足掻くというのなら、見せてもらおう。そしてその武を、力を学び、我らが力として再び地にねじ伏せてやろう。
●
「皆、暑く騒がしい日々が続いているが息災か」
集ってくれた能力者たちに、ようやく穏やかな顔ひとつ見せられるようになった竜人――ベネディクト・ユベール(ドルイド・h00091)は、開口一番に皆を労う。
王権決死戦。Anker抹殺計画。ジェミニの審判。病院事件に√EDENの融合ダンジョン事件。
事件は各ルートで立て続けに起こっており、能力者たちに暇はない。その中でも√ウォーゾーンで現在展開されているオーラム逆侵攻はかつてない大規模反抗作戦となっている。
ベネディクトの背後にある異世界の扉の先では、今まさにその反抗作戦が新たな局面を迎えていた。
「敵の大規模侵攻を阻止したと聞いた。皆の勢いと戦果は凄まじいな。そしてこの作戦が成功したことで、どうやら別の作戦を展開する余裕とチャンスが生まれたようだ」
現在√ウォーゾーンの川崎市・川崎臨海部周辺を支配する戦闘機械群派閥のひとつ、『レリギオス・オーラム』。
√EDENに存在する王劍『アンサラー』の奪取を目的とした侵攻計画は、彼の地へ繋がる大黒ジャンクションを破壊されたことで準備が整う前に頓挫させることが出来た。
当初の目的はそれで達成されたが、要所で巻き起こる襲撃によって未だ混迷を極めている現状をただ放っておく手はない。打てる手は先に打ち、敵戦力は削げるだけ削いでおくべきだ。
「この混乱に乗じて次の手を打とう。即ち、連絡手段の断絶だ」
大きな軍を動かすには、密で素早い連絡を隅々にまで届けることが肝要だ。レリギオス・オーラムとてそれは変わらず、豊富な通信拠点と通信手段を以て軍の統率を図っている。
故にこそ、この状況で一気に通信拠点を破壊することが出来れば、混乱した状況を更なる渾沌へと叩き落とすことが可能となるだろう。
「皆に向かってもらいたいのは、川崎市の中心部にあるこの施設。レリギオス・オーラムの通信拠点のひとつだと情報を貰い受けた。ここを破壊してもらいたい、の、だがな」
広げられた地図の一点を指差したベネディクトは言葉を切る。
重要な通信拠点であることは間違いない。だがそこは、隠された場所ではなくむしろ開けた場所にぽつんとあるたった一つの施設だった。
公園であったのだろう場所の中心にあるたった一つ。攻め込むのも狙撃も容易であるはずのその場所が今まで不落であったのには当然理由がある。
「この拠点を守る為に、どうやら幹部クラスが配属されている。名を黑麒麟。獣か龍のような出で立ちの戦闘機械だ」
この混乱の中でも、黑麒麟は持ち場を離れはしなかった。それだけ、自分が守っている施設が重要だと理解しているのだ。
そして、彼がたった一体でここを守っているということは。たった一体で防衛出来るだけの戦力を黑麒麟が有しているということだ。
「黑麒麟は手にした弓矢で近づく人間や武器、果ては攻撃まで防いでしまう。この拠点を破壊する為には黑麒麟を撃破するよりあるまい。無事撃破が叶えば、あとの仕事は楽だろう」
そこまで告げて、ベネディクトは地図から顔を上げ能力者たちを見渡す。その目には、はじめの穏やかさはなく。代わりに鋭さと能力者たちに対する信頼があった。
「口で言う程容易いことではないことはわかっている。だが、長く飼い殺されてきた√ウォーゾーンの者達にとってこれは大きな反逆の狼煙。そして人類の胸に再び希望を灯すための篝火だ。――無事、成し遂げて帰ってきてくれ」
そう力強く告げて、竜人は能力者たちを戦火舞う地へと送り出すのだった。
第1章 ボス戦 『黑麒麟』
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ここはきっと、戦闘機械群に占拠されなければ大きな公園だった。
子ども達が遊び、散歩に訪れる人が居て、穏やかで平和な時間を過ごすことの出来る憩いの場だったはずだ。
けれどもすでにそんな面影はこの場に――ひいては世界になく、ひたすらに無機質で無骨な軍事施設が鎮座するだけ。もしかしたら噴水があったかもしれない場所にぽつんとある通信施設は、そんな人類の営みそのものを否定するかのように佇んでいた。
(開けた戦場に遠距離が出来る弓。……相手の得意な戦場だな)
そんな世界で戦い続ける傭兵、クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)は静かに現場を分析する。
自分達が潜む茂みから先に遮蔽物となるようなものは何もない。目線を挙げれば黒き龍が如き機体が、弓を携えて施設の屋上に佇んでいる。
この施設の防衛に当たっているのは黑麒麟のみ。だが、たった一体で守り切ろうとし、また守り切れている現状を鑑みれば、その実力は疑う必要すらないのだろう。
一対一はもちろん、一対多にも柔軟に対応できると思って間違いあるまい。こちらのペースに持ち込まなければ一方的に矢を受けて終わりそうだ。
「困難な戦いだろうけど、人類の勝利の為に頑張ろう」
深呼吸一つ。
深く息を吐ききって、鋭く息を吸った瞬間。クラウスは走り出した。
『……鼠が居るな』
僅かな反応を敏感に感知した黑麒麟は、振り向くと同時に迷うことなく弓を引いた。狙いをつける間などほとんど必要ない。
放たれた矢が瞬時に拡散し、矢が雨が如く降り注ぐ。だがその雨が当たるよりも早く、クラウスの姿が掻き消えた。
『なに?』
「機械でも驚くんだな」
――声は、黑麒麟のすぐ近くで響いた。
敵のすぐ近くを浮遊していたインビジブルと位置を入れ替えたクラウスは、スタンロッドを構えて一気に距離を詰める。黑麒麟が二の矢を番えるより早く懐に潜り込むと、思い切りスタンロッドを叩きつける。
バチン!!
高圧電流が青く弾けて火花が散る。
すぐさま次のインビジブルを捕らえて跳躍する瞬間、クラウスは確かに黑麒麟の動きがほんの少しのぎこちなさを見せたことを見逃さなかった。
相手は鋼鉄の機械だ。中には当然配線や電気信号の類が走っていることだろう。氷の跳躍での短距離移動を織り交ぜ、位置を入れ替えたインビジブルの冷気も重ねていけば、ほんの少しだったぎこちなさは次第に麻痺のように蓄積していくはず。
(動きを乱し続けて、追い詰めていくよ)
たった一機でここを守る黑麒麟は大したものだが。クラウスは、人類は、独りではない。
次の一手を、繋げ。
●
『クハッ! 今日は鼠が随分と騒がしいな。良い、此のところ退屈していたところだ』
戦闘機械にもそんな仕草をする意味があるのか。肩を揺らして笑ってみせる黑麒麟に、瀬条・兎比良(善き歩行者・h01749)はアヤナスピネルの如き瞳を僅かに細める。
「加害者の傲慢はどこに行っても同じですね」
いつの時代も、何処の世界でも変わらない。それどころか種族を越えても意志があるのなら変わらないものなのか。それとも『ひと』を学んだから似たのか。
いずれにせよ、目標を速やかに排除するのみだ。
自らの行動に法的正当性を当て嵌めてしまえば、兎比良に迷いも躊躇いも生まれはしない。
|「四十と一の切断」《ディジー・リジー》にて『推定被疑』を纏った兎比良は、略式允許拳銃を手に敵の攻撃範囲内へと駆け出していく。牽制射撃にも黑麒麟が避ける素振りをみせないのは、『人類が作った銃弾』が己を貫けるはずなどないとでも思っているからか。
――構わない。
黑麒麟が放った矢が空中で幾百と拡散して降り注ぐ。さながら流星群の如き範囲制圧攻撃を見て、兎比良は早々に回避を捨て去った。
駆ける速度を緩めることなく、自らに向かう矢だけを撃ち落とし、身をかする程度は捨て置く。
「腕に自信があるのでしょう。矢を射るならばきちんと狙いなさい」
『ハッ!』
急所を的確に狙ってくれるならば此方としては読みやすいのに、と。煽るように告げた言葉を黑麒麟は一笑に伏す。ノらせるつもりが、中々どうして冷静なようだ。
それも構わない。
避けきれなかった矢が散らす赤色を置き去りに、兎比良は最短距離を最速で駆け抜けて接敵する。
『どこまで足掻ける、人類よ。よもや弓使いは接敵すれば役立たずと思ってはいまいな』
「まさか」
加速の勢いのままに振り下ろした兎比良の斧を鋼鉄の弓で受け止めて、黑麒麟は笑う。その笑いを兎比良は即座に否定した。
牽制を兼ねた近距離射撃を絶え間なく撃ち込みながら、弓を受け流して斧を手繰る。
鋼鉄の身体はそれだけでも凶器になる。思い切り殴られればそれだけでひとの骨は砕け散るだろう。だが、兎比良には油断も慢心もない。
一機で施設を守り抜けるだけの幹部だ。近距離対応は当然出来るだろうし、かといって力比べをするつもりもない。
鉄杖の如き弓を躱し、術式を込めた射撃で鏃の軌道を逸らし、すり抜けた先に見えた隙に正確に斧を叩き込む。
「これは知恵比べです、あまりヒトを侮らないことをお勧めします」
――鋼鉄に深く食い込んだ斧を、無力と嘲っていられるのも今のうちだ。
●
高圧電流が弾け、斧と拳銃が踊る。
仲間が仕掛けたと同時に、二階堂・利家(ブートレッグ・h00253)もまた施設に向けて飛び出していた。
『今日は随分と鼠が多い。自分達の起こした火事に炙りだされでもしたか?』
「驕るなよ殺戮兵器」
嘲り挑発しようと見下す黑麒麟に、利家はノらなかった。レリギオス・オーラムにとって、今回程の大規模な損害は初めてのはずだ。侮っていたはずの人類に噛みつかれ作戦を阻止されて、彼らの指揮官は大いに慌てているというのに。この殺戮機械にはそういった焦りは見えない。
「随分と殺しの技に自信がある様だけど。その余裕と、過小評価に胡坐をかいて戦線が此処まで押し込まれたんだろうが」
『如何にも。だがそれだけだ。人類の反抗作戦などこれまでもあった。だが、いずれも鎮めてきた。今もきっとそうなる。我はただ、我の本分のままに鼠を駆除するまでよ』
「全部手前で尽くを殺せば差し引きゼロってか?」
舌打ちひとつ。
迫撃形態へと瞬時に変化した弓を黑麒麟が引いたと同時に、利家は篭手とシールドで急所を守り接敵する。
急所以外を貫通した矢はこの際どうでもいい。こいつが格上であることは疑いようがないのだ。必要なのは次の矢を番えさせない程の速度と攻撃の乱舞。その為になら、多少の怪我は織り込んで突撃せねばならない。
口の中にあらかじめ仕込んでおいた仙丹を嚥下し、周囲を漂っていたインビジブルで貫通された傷口を埋め、利家は屠竜大剣を手に狂気を抱く。
「舐められたもんだ。人類も、俺たちも」
黑麒麟にあるのは慢心ではない。過去の実績に基づいた絶対的な自信だ。
彼は今までも一機でこの施設を守り抜いてきたのだろう。人類の反抗も抑え込み、向かってくる敵を蹂躙し、人類の武を学んできたのだろう。
だがそれを今、過去をしてやる。
敵が弓矢を構えるより早く、利家はスモークグレネードのピンを抜いた。地に叩きつけると同時に噴射した煙幕が黑麒麟の視界を塞いだ。
これで撒けるとは思っていない。センサーの類をすぐに総動員するだろうことはわかりきっている。だが、その切り替えの一瞬。たった一瞬の間があればいい――!!
「これ程の一斉反抗作戦は今までにない。分かってる筈だ」
腕に込めた全力で、重い屠竜大剣を叩き込む。敢えての大振りは囮。まんまと受け止めた弓では、次の攻撃は防げまい!
「鉄屑どもにツケを贖わせる時が来たってな!」
『なに!?』
煙幕から現れたのは肉体を依り代に生成された|異形の機械腕《タイラントギガース》。驚きに染まった黑麒麟の弓の弦が、強靭な爪によって断たれる。
これを小さな一歩と嘲るなら嘲るがいい。それを積み重ねた先に望む未来があると、戦闘機械にはわからないだろうから。
●
嘗て公園の広場であったのだろう場所に、ぽつんと立つひとつの軍事施設。
本来は子ども達の笑い声があったかもしれない。そんな場所に飛び交うのは無骨で血も涙もない軍事情報だけとは、皮肉もいいところだ。
「地の利は彼にあり。であればこちらが不利か」
痛ましさを胸の内だけに秘めて状況を見据え、ジュード・サリヴァン(彼誰・h06812)翠玉の瞳を細める。
既に戦いは始まった。幾人かが黑麒麟の元に辿り着いているとはいえ、流石は一人で施設を守り切った幹部クラスなだけはある。弦を切られた弓を即座に捨て、新たな弓を手に取った黑麒麟は近距離で能力者たちと戦いながらも未だに此方に注意を払い続けている。
視力ばかりではなく数多のセンサーに頼り、人間のように脳で思考するばかりではなく並列で思考処理が出来る機械ならではの戦い方なのだろう。
機械と人。それだけで生まれる有利不利がある。そんなことはわかっていて、尚。
「生憎此方も諦めが悪いのが取り柄でね。示して見せようじゃないか、人類の生き汚さと云うものを」
告げた瞬間、ジュード戦場へと駆け出した。
『また鼠が増えたか、今日は騒々しいな』
忌々し気に呟く黑麒麟に眉一つ動かさず、ジュードは最短距離を駆ける。
黑麒麟の弓が形態変化したことにも気がついたが、踏み出す足を止める理由にはなりはしない。既にジュードは自らの行動を定めている。相手が弓使いである限りこの身がすべきことは変わりはしない。
天に放った矢が花火の如く弾けた。それらが描く射線を見定めながら、ジュードは自らに向かう矢だけを正確に叩き落とし、返す刃で斬り払い、空いた手で銃を抜いた。
英雄の妖精を宿せば、銃弾は翠嵐を纏う。軌道を定めずに放った銃弾はそれだけで矢の軌道を逸らしてくれる。
黑麒麟はそんなジュードを一瞥してから、くるりと背を向けた。
放った銃弾は黑麒麟の装甲をかすりもしない。ならば今はこの身に纏わりつく鼠共の処理が先だと。
――きっと、お前はそう思ったことだろう。
「注意を逸らしてくれて助かるよ。――此方が本命なのでね」
涼やかな声は、黑麒麟の間近で響く。
咄嗟に黑麒麟が振り返った先。空間引き寄せ能力によって一気に距離を詰めたジュードが、そこにいた。手にはソードブレイカーの性能を備えたショートソード。
金属の防御など易々と切り裂いてしまえる程の鋭さを持ったその武器の名を――|Judah《ユダ》と言う。
「お前達が軽んじてきた命の全てに貴賤などありはしなかった。それを今ここで知るといい」
『貴様……!!』
黑麒麟の装甲に深々と刃が突き刺さる。そのまま振り抜けば、矢を番える左腕に大きな亀裂が走った。
「結果は覆るさ、人類が希望を捨てない限り。きっと」
それを今、証明してみせる。
●
『珍しく粘るではないか、人間! だが貴様らがいくら小さな狼煙をあげようと変わらない。貴様らが相手をしているのは“世界”だ!』
火花をあげる左腕を抑えながら、黑麒麟が吼える。
それは、世界を掌握している側の言葉だ。今や√ウォーゾーンに生きる人類は最盛期の30%以下。人類の命の手綱は今や戦闘機械群が握っていると言っても過言ではない。それは事実だ。事実なのだが。
「結果は変わらない……? どこまでも人間を見下してて腹立つ」
静かな怒りを込めた声音で、汀・コルト(Blue Oath・h07745)は黑麒麟を見据える。けれど、余裕を持つだけの強敵なのは認めるしかない。
「守護者がひとりばかりとは。一騎当千を体現しておるという訳か」
傍らで目を細めていたツェイ・ユン・ルシャーガ(御伽騙・h00224)も、それに頷く。
√能力者を複数人相手取りながら、更に近づく別の侵入者への攻撃も怠りはしない。機械であるがゆえのアドバンテージを最大限活かした戦い方は、たった一機で重要施設の守護を任されているだけのことはある。
「ふふ、さりとて退く道などなし」
退かぬと決めたならばあとはどう進むかだけだ。
幼き兵士を先に進ませるのは気が進まぬと、ツェイが先に敵の射程内に踏み込む。距離を遠く空けられぬよう、敢えて無防備な身を晒して敵の目線を誘う。
『次から次へと、鼠のように……!! 撃ち殺してくれるわ!』
「やれ、そう急がずともよかろ。御伽話のひとつも聴いてお行き」
黑麒麟が矢を番えるのと、ツェイが静かに語りだすのは同時。天にて拡散し、無数の矢が雨となって降り注ぐのを見ながら、ツェイはすばやく印を結ぶ。
――此なるは神域。天より注ぐは慈雨。応え芽吹くは火ノ花なり――
語り騙る即興の御伽。結んだ印が発動した瞬間、ツェイの足元からふわりと燃えるような赤の草花が咲き広がった。半径にして36メートル程。さりとて矢はツェイに降りかかるように自らこの|神夅灯騙《カムヨル》の理へと足を踏み入れるのだ。
「そら、御返しするよ。お気に召すかは分からぬがの」
『……っ!?』
理の範囲へと踏み入れた矢が雨粒へと変じたのを見て、黑麒麟が思わず動きを止めた。しかし、ツェイの術はそれで終わりではない。
矢が慈雨と成ったかわり、応えて芽吹くは火ノ花――即ち、地より火ノ矢が生じ、黑麒麟が放った拡散矢と全く同じ軌道を描いて返る。……ツェイが|語る《騙る》御伽に同じ。
「おいき、今のうちに」
火矢にて黑麒麟をその場に縫い付けている間に、ツェイは後ろで飛び出す機会をうかがっていたコルトへと優しく語り掛ける。
止まれば狙撃される。ゆえに義足機能を全開にした上で義眼の演算機能を待機させていたのだが、ツェイが黑麒麟の矢を御伽噺に変えてくれた。
彼が作った好機を逃す手はない。コルトは確りと頷くと、義足機能を全開にして飛び出した。
ツェイを追い越し、火の花と慈雨の相反する御伽の理を走り抜け、火矢と共に黑麒麟へと飛ぶ。
ツェイが防ぎきれなかった矢はlunaのバリアで軌道を逸らし、義眼の演算が瞬時に叩き出した回避率が一番高い方向へと避ければもう施設は目と鼻の先だ。
黑麒麟の注意が未だ襲い掛かる火矢に向いている間に、ジェットパックを起動して跳躍した。
上空高くに一気に跳び上がったコルトの両の義眼に確かに黑麒麟を映し、そして。
「……干渉、開始」
告げた瞬間、コルトの瞳が鮮やかに輝いた。
√能力にまで練り上げ強化された強制ハッキング能力。目に映る対象の制御系に無理矢理入り込んで、かき乱す力。
咄嗟にファイアウォールを展開しようが攻性防壁を貼ろうが、そんなものは関係ない。黑麒麟の抵抗を突破して視覚と聴覚に異常を起こし、一瞬動きを麻痺させる。
幹部級の動きをこれで全て制限できるとは思っていないが、それでも。
「私の攻撃を届かせるには、十分」
『き、さま、ら……!!』
黑麒麟の回路が復帰するより早く、コルトはハウリングキャノンを放った。
「……この眼は、あなた達に対抗する手段として作られたもの。学ぶのは、お互い様だよね」
戦闘機械群はコルトから多くのものを奪った。この眼も、両脚もそう。だからコルトは兵士になった。
奪われたものはもう戻らないのだとしても。それでも――。
「もう、私は奪われたくないの」
砕け散った肩の装甲目掛けて、コルトは渾身の力でバトルガントレットを振り抜いた。
●
黑麒麟の右肩の装甲が弾け飛ぶ。機械であるがゆえに痛みや呻くなどと言った人間らしい反応はなかったが、それでも大きなダメージであることには変わりないだろう。
その隙を、クレス・ギルバート(晧霄・h01091)は逃しはしない。
「一体で拠点を守る気概ってのは嫌いじゃないぜ。けれど俺らにも譲れないものがあるからな」
『ちっ……! 次から次へと!』
傷付きながらも黑麒麟は舌打ちをしながら矢を射る。
天にて拡散する矢の雨を見据えながら、クレスは刀身に紫電を纏わせる。バチリと弾ける音と共に、霆哭が戦いの始まりを告げた。
降り注ぐ矢の雨に向けて冗談から皎刃を振り下ろせば、その斬撃に無数の疾雷が付き従って空を駆け上がる。互いに迎え撃つような形で相対した鏃と疾雷は、激しい音を立ててぶつかり合った。
鏃が吹き飛び、雷が弾ける。鋭い音が連続で鳴り響く中、接戦を制したのは疾雷の方だ。天を劈き爆ぜ舞い散る霆が矢の雨を飲み込み、矢の雨の軌道を正確に辿って出所たる黑麒麟を穿たんと降り注いでいく。
「力を示せだなんて随分と余裕みたいだけど。これまでと同じように容易くねじ伏せられるなんて思ってんなら大間違いだぜ」
『この、鼠共の分際で!!』
「鼠じゃねえ。|ヒト《・・》が持つ力、その身で篤と味わいやがれ!」
既に複数の能力者によって傷つけられている身。避けることは却って不利になると演算した黑麒麟が、矢を射るはずの弓で紫雷を払い除けようとする。だが、右肩にも左腕にも大きな傷を与えられている黑麒麟の動きは、戦いのはじまりの時からすれば随分と動きが鈍い。過冷却と強制的なハッキングからの立ち直りもしきってはいないのだろう。そしてその好機は仲間たちが次々と黑麒麟に立ち向かい、紡いでくれたものだ。
降りしきる矢と天雷の中、クレスの赫焉の焔が燃え上がる。
この焔は世界を覆う昏き夜を灼き祓い、希望を燈す暁を連れ来る為にある。
ならばこの焔こそ、人類の反逆の狼煙――否、篝火にこそふさわしい!
焔を身に宿してクレスは駆ける。
瞬時に黑麒麟との距離を詰める。その間に紫雷が弾ききれなかった矢が身を貫いても、痛みになど怯まぬとばかりに嗤ってみせた。
散る赤もまた真白きこの身を彩る色彩とばかりな剛毅な笑みは、いっそ清々しい。
『調子に、乗るなぁッ!!』
着弾地点を己が眼前と定めた矢の雨――否、もはや矢の滝がクレスの前を塞ぐ。だが、こんな矢など何するものぞ。希望を灯す為の刃には既に、焔が宿っている。
あとは、抜き放つのみ――!
「悉く、貫け」
絳燬、一閃。
抜き打ちからの峻烈な一閃が、踏み込む勢いを乗せて鋼鉄の胴を一息に貫く。
深く深く食い込ませた刃を渾身の力を篭めて横薙ぎに振り抜けば、いくつもの機械の破片と共に明らかなショートの音が大きく響く。
焦ったように睨みつける黑麒麟の目に、会心の笑みを浮かべたクレスが一際鮮やかに映った。
●
此度の敵は、たった一機で重要施設を守る精鋭だという。黒い麒麟。なるほど、姿を遠目に見るだけでも武人のような出で立ちだった。
強敵と戦うと聞けば、自然と心が湧きたつような気がする。けれども、今はそれよりも一√能力者としての使命感や責任感の方が強くなったと、祭那・ラムネ(アフター・ザ・レイン・h06527)は一人思う。
――世界とか、命とか、未来とか。そういうの、かかってるから。
ただ心を湧き立たせてはいられない。これは本物の『人類の生存を賭けた戦い』なのだと強く心を引き締める。星詠みの彼に「任せてくれ」と笑えば、「武運を」と力強い声が背を押してくれた。そしてそのまま戦場に降り立ったラムネは、迷いも恐れもなく駆けだした。
敵の注目を誘う蠱惑的な香りを纏ったラムネは、敢えて目立つように声を張り上げた。
「おい、こっちだ!」
『ぬぅ、更に鼠が湧くか。この辺りの駆除が足りんようだな!』
香りが風に乗って届いたのだろう。戦闘機械に香りの誘惑が効くかは賭けだったが、既に近接戦を開始している能力者たちを差し置いてでも此方に注目したということは、香りの効果は十分にあるということだ。
確信を胸に、敵の攻撃を自らに誘導するように派手に動き回る。
自分は盾だ、という自負がラムネにはあった。守る為にこそ戦場に立つのだという気概が、ラムネを突き動かしている。
ラムネは施設育ちだ。血の繋がった両親が傍にいない代わり、血の繋がらない妹と弟が何人もいる。その中で一番の年上がラムネだったから、自然と全員の兄代わりになった。いや、本当の兄のつもりだったのだ。自分が一番年上なのだから、兄になって幼い弟や妹たちを守ってあげなければと自然に思った。
そう思ったら、なんでもできるような気になった。
護るものがあったから、怖かろうが何だろうが身体を張って前に出ることが出来るようになり、何かを『守る』ことを行動の中心に据えることが日常となっていった。
怖くても、痛くても、『護らなきゃ』という使命感と自ら背負った責任が、視界を覆い足止めしようとする恐怖も何もかもを吹き飛ばしてくれる。
――今だって、そう。
黑麒麟が目の前の相手に集中できないよう派手に動き回り、敵のセンサーをかき乱す。複数のものに同じだけ注意力を向ければ、いくら機械とはいえ演算能力が落ちるはずだ。仲間の能力者たちの攻撃を受けて傷付いている今ならばもっと。そこに大きな隙が出来るはずと信じて、時に仲間を庇い、たとえ幾千の矢を己に向けられても身に纏ったオーラを盾にして受け流す。
そうして遂に生まれた隙を、弾ける星のような瞳は見た。
全速力で駆ける。
焦って大降りに振り抜いた弓に、また矢を番える前に。
恐れも怯みもなく、果敢に懐に飛び込む。その姿に薫る、雨上がりの匂い――。
『き、さま……!』
魂の断片で紡いだ天槍アルカンシェルが煌く。蒼穹の彼方まで届く虹のような一撃が、黑麒麟を貫いた。
●
黑麒麟の尾が天槍に貫かれて落ちる。
たかが尾。されど尾だ。弓を射るという行為には存外繊細な挙動とバランス感覚が必要だ。矢を番え、狙いをつけて弦を引き、放つ。反動を逃がす。一挙一動に正確な動きが必要だ。
敢えて黑麒麟が人間が使っていた原始的な『弓』というものを武器にしていたのは、それだけこの武器の扱いが難しいからだろう。研究者でありながら人間の『武』を学んでいた黑麒麟が最終的に己の武器を『弓』と定めたのは、自らの強さと自信の証明に他ならない。
戦闘機械の身体であれば、弓を射るに必要な所作など簡単に演算し、最適解を瞬時に叩き出して正確にその動きをすることが出来る。人が作り出し、それでいて扱いが難しい武器など戦闘機械にとっては何するものぞ。人が作り出した武器で人を蹂躙してやろうという傲慢さが、黑麒麟には伺えた。
「人間に対する過小評価、大変結構です。大いに舐めたまま窮鼠に心臓を食い破られるといいわ、戦闘機械ども」
――その驕りを、いい加減叩き斬る時が来た。
仲間たちが次々と攻撃を繋ぎ、作り続けた傷と好機は十分な程。なればこそ、しんがりはこの世界の出身たる香柄・鳰 (玉緒御前・h00313)がつとめるべきだろう。
相手は射手なれど、鳥を名に含む者としては易々と射られるわけにはいかない。
常ならば音の反響を聞いてあらゆるものの位置を把握する為の鈴の音は、此度は鳴らさぬように仕舞いこむ。
代わりに聞くのは金属音と弓弦震える微かな音。既に戦闘が激化している中であっても、常々耳を澄ませてきた鳰ならば、きっと聞き分けられる。
まず必要なのは、把握。
怒り狂って矢を乱射する戦場に、ハチェットと|鷦鷯《たんとう》による投擲を繰り返し、距離を取って応戦する。その間、鳰はずっと耳を澄ませて音を聞き分ける。
弓を引く音。引く際の仕草やクセ。それらを音で聞き分け、耳に叩き込むのだ。
そうして気づく。黑麒麟は最早満身創痍なのだと。
バチバチとショートする音を纏い、傷付いてオイルを零す音混じりに弓を引き、バランスが取りにくくなったせいか駆動系を軋ませながら矢を射ている。
矢の狙いも正確性を欠いてきているようだ。音に合わせ飛んでくる矢をオーラで受け流し、掠める程度のものなら神気を纏えば僅かな傷すら鳰につけることは能わない。
侮った人間たちによって、黑麒麟の傲慢は崩れ去ろうとしていた。
これならば、行ける。
好機と判じて鳰は鉄火場へと飛び込んだ。神速で振り抜いたことにより生まれた剣閃と共に一息で黑麒麟の懐へと踏み入る。
『鼠風情と侮った、我の判断ミスか……だがせめて、貴様ぐらいは!』
鳰を迎え撃たんとして振り翳した矢が、剣閃によって手首ごと落ちていく。
「あら、まあ。それではもう矢を番えることはできませんね?」
告げた鳰は既に黑麒麟の懐の中。この距離ならば、いくら黑麒麟が反応しようと決して外しはしない。
「ひとつひとつ、お前達が奪っていったものを取り戻してやる。覚悟なさいな」
鳰の大太刀が狂刀へと変化する。
神気纏った刃の鳥が欲するは、――戦闘機械の早贄。
『これが、にん、げん……』
黑麒麟の腹を一息に串刺す。そしてそのまま力いっぱい薙ぎ払ったならば、先鋭たる射手、黑麒麟が胴体から真っ二つに斬り払われる。そうして驚愕に彩られたあまりにもあっけない言葉が、彼の最後の断末魔だった。
やがて、無事に安全を確保された通信施設に、爆弾が取り付けられていく。スイッチ一つで簡単に炎に包まれた施設は、広場の中にたったひとつ燃える大きな篝火のようだ。
その炎が、人類の反逆の狼煙となる。
√ウォーゾーンの世界を踏み荒らし、人類を支配する戦闘機械たちへの反抗のはじまりの火が眩く揺らめいた。