夏風の通り抜ける道で
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「眩き夏の風の中で命は躍動するのに、私たちだけには悲しき定めとして降りかかるというの。ああ、この魂を、穏やかな日の光でもなく優しい月の光でもなく、冷たき刃の光で照らさねばならぬとは。運命とはなんという悲劇、なんという切なき抒情詩なのかしら……!」
川西・エミリーの白い繊手が白鳥の翼のように翻り、慟哭にあえぐその胸元を抑えた。
彼女の細い肩にそっと手を置き、治部・亞比栖は夜風のように静かに、そして深く沁みとおる声で語り掛ける。
「おお我が姫よ、嘆かれるな。運命とは超克するところに意味があり、悲劇は乗り越えるところに人の雄々しさが試される。我が手が剣を取る限り、あなたの薔薇のような吐息を涙の色で染めることなど許しはせぬ」
はいスポットライト1番2番! パパッと照らされた光が眩くエミリーと亞比栖ことアビィのシルエットを浮き上がらせた!
悲嘆にくれる二人の周りには、おお何たることか、無情の武器に隙なく身を固めた8人の戦士が立つ。だがその顔は、いずれも彼らの莫逆の友にして同胞、得難き絆の仲間であった! エミリーが嘆くのも無理はない、よもや深き信頼の紐帯で結ばれしもの同士が刃を向け合うことになろうとは。これは一体どういうことなのか!
では少し時間をさかのぼり、そのプロセスを見てみよう!
ほわんほわんほわん………(回想開始のSE)
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「戦おう!」
「なんて!?」
元気いっぱいに拳を天に突き上げ宣したシアニ・レンツィの言葉に、ルクレツィア・サーゲイトは思わず相手の顔を二度見した。
「えっと、シアニ? 私たちは親睦を深めるために何か催し物をしたいわね、って話をしていたのよ。ピクニックとかハイキング……それともプールに遊びに行くとか……」
「戦おう!」
「話聞きましょう?」
ルクレツィアの優しい顔が僅かに険しくなったのを見て、シアニはぶんぶんと手を振る。
「いやだからね、拳と拳を交えるんだよ! お互いの全力を絞り出し魂までぶつけあって生まれ出る燃え上がるように熱い友情なんだよ!」
「な、なるほど! そして!」
と、目を熱血に燃え上がらせたリリンドラ・ガルガレルドヴァリスがここでエントリーだ!
「全て終わった後は夕日の河原で並んで寝そべりながら言うのね『なかなかやるじゃねえか』『フッ、お前もな』……ユウジョウ! そしてセイシュン! いいわ! めっちゃくちゃいいわ!! 大正義よ!!」
「リリンドラ? もしもしリリンドラ?」
「そしてお互いを認め合った二人は学園を支配する真の番長へ肩を並べて挑むのよ! 『誰が付いて来いって言ったよ』『フッ、勘違いすんな、たまたま行き先が同じになっただけだ』くぅーっ、正義だわ! これぞ絶対無敵の完璧な正義だわ!!」
「学園って何リリンドラ!? 番長って誰リリンドラ!? 戻ってきて! 置いていかないで!」
必死で呼びかけるルクレツィアの後ろから、さらに!
「きゅうううん❤ あーだめだめ尊すぎ! そんな姿見せられたらうっかり恋しちゃうしかないじゃない! 熱い乙女のピュアハートにずっきゅん刺さるぅぅぅ!!!!」
「恋心も来ちゃったー!!!??? っていうかうっかり恋しちゃだめー!!!」
そう、大きな輝く瞳にぎゅんぎゅんにハートを浮かべ、落愛・恋心が両手を可憐に組み合わせて完全にバクアゲハイの状態だ!
「えっなんで? 恋ってうっかりしてするものだよ? っていうか道を踏み外して落ちるものが恋なんだからそもそもうっかりしてるものだよね。そのうっかりした曖昧さこそが恋! 今私いいこと言った!! 明日学校で広めていいよ!!」
「タスケテ……誰か助けて……」
ヘロヘロになりつつあるルクレツィアの肩をいたわしげにぽんぽんと誰かが叩く。そこには。
「まあうん、ツッコミって慢性的に人手不足だよな……ツッコミの人材育成は急務だぜ……」
久瀬・千影がそっとわかるわかる―、と言った表情を浮かべ生暖かい視線を送っていたのだった。
「っていうかだな、強引に話を戻すが……つまりシアニの言うのは、みんなで模擬戦をやろう、ってことだろう?」
「そうそれ! それだよ! 千影先輩さすが!」
嬉しげに手を叩いて、シアニは千影の言に賛意を示した。千影も頷き、続ける。
「俺たちは簒奪者たちとの戦いに赴かなきゃならねえ。自分を鍛えるのはもちろん、仲間たちの戦闘能力を知っておくのも重要になる。あいつはどう戦うのか? こいつはこの局面ではどう判断しどう動くのか? そういったことをあらかじめ知っておくのは悪いことじゃないからな。連携のタイミングや間合い、呼吸。そう言ったもんを知るためにはやっぱり実際に訓練するしかねえ」
ぽむぽむ、と柔らかくも分厚い音を立てて、肉球が拍手を送った。
肉球が? いや、くまさんだ。小山のようにおっきくて迫力ある、けれどそのふわふわの毛皮のように優しく温かい目をしたお母さんくまの獣人――マナ・ウィスタリア・シートンである。
「あたしの子たちもぉ、じゃれ合いながら体の使い方を覚えてぇ、お互いの力を確かめ合っていくんですぅ。だからぁ、それと同じようにぃ、皆さんで模擬戦をするのは、きっといいことだって思いますぅ」
「まあ……そう言われたらそうかもね」
腕を組んで考え込んだルクレツィアに、マナはゆさゆさと巨体を揺らして笑った。
「あとぉ、たぶんストレス解消にもなりますぅ。団長さんのお仕事って、いろいろ大変でしょうからねぇ。パーッと暴れて気分転換するといいですぅ」
「うっ……い、いや、好きでやってることだから……」
「あたしも子どもたちは心から愛していますがぁ、それはそれとして子育てにストレスがゼロですかぁと言えばそうでもないですぅ」
「………|熊生《じんせい》の先輩に言われたら一言もないわね……じゃあ、皆も模擬戦でいいかしら?」
周囲を見回したルクレツィアに、目を輝かせて大きくガッツポーズを見せた少年は大海原・藍生だ。全身から喜びという感情を溢れさせているのが一見して分かる。仮に彼が獣人で尻尾があれば全力でぶんぶんしているに違いないと言えるほどに!
「それはいいですね! ということは、皆さんの戦いを間近で見ることができるんですね! うわあ、勉強させてもらいます! 強いみなさんが俺の目標で誇りですから!」
おお、その天真爛漫にして無垢に澄み切った瞳の輝きはまるで美しい宝石が闇にあっても自ら光を放つがごとし!
「ああっ眩しい! 藍生のピュアな尊敬が眩しいわ! 藍生、私たちは仲間なんだから……あんまり持ち上げなくてもいいのよ? なんだか恥ずかしいわ……」
「いえ! 親しき中にも礼儀あり、仲間内にも尊敬ありです! 頑張って皆さんのいい所を勉強させてもらい、吸収していきたいです!」
「そ、そう……それはいいことだけど」
「シアニさんの明るさ! リリンドラさんの正義! マナさんの優しさと頼もしさ! そして恋心さんのキュンキュン力と千影さん、ルーシィさんのツッコミ力!」
「最後の方は勉強しなくてもよくないかしら!?」
頑張れルクレツィア超がんばれ! ああしかし、そこへ高貴なる高笑いが響き渡った!
「ほーっほほ! ワタクシのお嬢様力も学習なさってもよろしいですわ!」
「もう振りむくまでもなくツッコむけどそれはいらないやつだからねヤルキーヌ!」
然り、一言の元にルクレツィアが斬り捨てた言葉の主こそはヤルキーヌ・オレワヤルゼだ!
「あら、気品と優雅さと立ち居振る舞いの美しさはどなたであろうとも、そしていついかなるときであろうとも身に付けておくべき資質ですわよ?」
「正論で殴ってくるのやめて?」
「ということで藍生様、こうですわ! 手の指を伸ばし逸らし加減に口の横に添えて、高貴に優雅に『ほーっほっほ』!」
「こうですね! 『ほーっほっほ』!!」
二人並んでほーっほっほ! と声を響かせるヤルキーヌと藍生に、ルクレツィアはついに轟沈した。
「……もう好きにして」
「では他の皆様方もご一緒に、さんはい!」
かくして団長の許可を得たメンバーたちは全員一斉に口の横に手を添え、お嬢様力のトレーニングに打ち込むのだった!
「「「「「「「「ほーっほっほっほっほ!!!!」」」」」」」」
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ほわんほわんほわん……(回想終了のSE)
――という流れで、メンバーたちは模擬戦を行うこととなったのだった。
「ああ、なんという数奇にして鮮烈なる運命の導きでしょう!」
「まったくだ、我が姫君よ! だがそれこそ我らの旅路を飾るにはふさわしい!」
相変わらず二人で別の世界に行っているエミリーとアビィの額を人差し指でちょいと小突き、ルクレツィアは腰に手をやった。
「こーら、二人ともいつまでもお芝居入ってないの!」
「あはは、ごめんなさい、つい美味しい状況だなって思って舞台人の血が疼いてしまいました……」
「我はエミリーの騎士ゆえな、エミリーの望む所に応じさせてもらった。……さて」
エミリーに手を貸して立ち上がらせたアビィは咳払いをすると、演技に入っていた時とは別人のような怜悧なまなざしで揃った全員を睥睨する。
「方々、我が提示した案通りに準備はできておられるようだな」
それにルクレツィアは頷くと、周囲を見回した。舞台は山奥のサバイバルゲーム専用フィールドだ。戦場は広いものの、いくつかの障害物が用意され、全体を一目で見通すことはなかなか難しい。それだけに起伏に富んだ戦い方が繰り広げられることだろう。
「武器はすべて非致死性にカスタム。私たちは√能力者だし死んでも生き返れるとはいえ、スナック感覚で死にたくはないしね。武器はカラーインクが出る仕様。みんなは両面に急所マークのついたビブスを着用して、急所マークが相手の攻撃で半分以上ペイントされたらアウト、ってことでよかったのよね」
「いかにも。では準備ができたのならば」
「ええ、――みんな、チームごとに分かれて!」
ルクレツィアの指示に応え、メンバーは即座に左右に分かれた。人数は10名、ちょうど5対5である。
一方にはルクレツィア、千影、藍生、ヤルキーヌ、恋心。
もう一方には、アビィ、エミリー、シアニ、リリンドラ、マナ。
と、その瞬間、アビィが動いた!
「Show must go on!」
その号令に応じ、彼のチームが一斉に――胸の前で手ハートを形作り、一糸乱れずばちこんと魅惑的なウインクを見せつけた!
「せーの、プリティでキュンキュン! We are『かわいいこチーム』!!!!」
どどーん! その決め台詞と共にチームの背後から鮮やかな花吹雪と紙テープが華麗に優雅に舞い散り、周辺の景色を彩った! 世界をカワイイの色に染めるもの、彼らこそ「かわいい子チーム」だ!
「くっ、なんて見事なチームパフォーマンス……やるわねアビィ! でもこちらも負けてはいないわ! レッツ・フォーメーション!!」
おお、しかしなんたることか! ルクレツィアたちもひるむことなく即座に陣形を展開! あれは見事に広がる扇形の組体操だ!
「皆さん元気ですか! 元気があれば何でもできる! 我ら『げんきなこチーム』!!!!」
ばばーん! 今度はルクレツィアたちの背後から色付きの爆炎が天高く噴きあがり、ド迫力の衝撃で世界を震わせる! 未来を元気に変えるもの、彼女たちを人はこう呼ぶのだ「げんきなこチーム」と!
「ほう、さすがだなルーシィ。 初手のチームパフォーマンス合戦はまずは互角というところか」
「ふっ、どうやらそのようね!」
互いに熱く不敵な笑みを浮かべバチバチに視線をぶつけあうアビィとルクレツィアに、ポーズを取ったままの他のメンバーは若干首を捻ってはいたが。
「……これ、やる必要あったか? 毎晩寝る時間削って練習してまで」
「ま、まあ……これでお互いの息も合ったことですし……」
「ってかいつの間に花吹雪とか爆炎とか仕込んでたの?」
「そういえばルクレツィア先輩とアビィ先輩が昨夜それぞれスコップ担いで出かけてたの見たなあ……」
メンバーたちの思惑をよそに、前哨戦を終わって両チームはいよいよ模擬戦の本番へと突入する!
「ではいくわよ、総員戦闘開始!!!!」
●
ルクレツィアの号令一下、両チームは一斉に展開を開始した! 瞬時のうちに色鮮やかな砲撃が――いや、インクの射撃が吹きすさぶ暴雨のように降り注ぎ、大地を、そして遮蔽物をカラフルに鮮やかに染めていく! 無論それはただの牽制に過ぎぬとはいえ、早くも激しい撃ち合いが両陣営の間で凄絶に展開された。
「さあ! 一人残らずワタクシの色で染め上げて差し上げますわ!!」
「うわ、危ない!? あはは、なら今度はこっちの番!」
当然ただ足を止め撃ち合っているわけではない、その射撃戦はあくまでも、両軍の次の一手を容易にするための布石。おお、だが。色付きの嵐をかいくぐって布陣の動きを見せ始めた相手の姿に、両軍はそれぞれ目を見張る!
「むっ、これは……|敵《げんきなこ》は鶴翼の陣を敷いたか!」
「|相手《かわいいこ》はツーマンセルで来たわね!」
然り、「げんきなこ」はチームを大きく左右に展開させ、相手チームを包囲に掛かろうとする。
一方、「かわいいこ」は二名が一組となり個々に打って出たのだ。
いわば――「げんきなこ」は『戦略』で勝負に出たのに対し、「かわいいこ」は『戦術』で戦おうと試みたということができるだろう。
無論、どちらが妥当ともいうことはできぬ。この戦場と模擬戦という状況をどう把握しどう勝利へつなげるか、切り口と観点の相違によるものでしかないからだ。
だが当然、単に一策の打ち合いで勝負を決するような浅薄な盤面ではない。戦いは既に――戦端が開かれるその前から始まっていたのだから。
「そうは参りませんことよ!」
黄金のタブレットを盾にし、降り注いだインクを華麗に舞うがごとき所作で遮断したヤルキーヌは、油断なく身構えながらしかしその一方で美しい柳眉をひそめる。
「想定した以上に射撃戦が長引いていますわね。このインクの雨、世界というキャンバスに夢の形を描き上げようとでもするかのよう……あら思わず詩になってしまいましたわ。って、それはともかく……」
彼女は同じように降り注ぐインクの雨を踊るようなステップでかわしながら近づいてきた一人の人影に目を止める。
「そちらにおいでなのは……恋心様?」
呼びかけながら、ヤルキーヌは長い睫を瞬かせて見せる。
「きゅううん❤ 戦場でもウインクを送ってくれるなんてヤルキーヌさんったらロマンチストぉぉ❤ 恋してもいい? いいよね? 全私がこの運命に泣いた、これは恋、決定!」
「決定じゃありませんわ!? これ! これですわ、目パチ!」
「ああ、合図だっけ! うん、私の恋を受け止めてね、ずっきゅーん❤」
「ずっきゅーんじゃねえですわ……っていうかまあその反応はガチ恋心様ですわね。まさかアビィ様がそのセリフ言ってたら、たとえ負けても永劫擦ってネタにしてあげるところですわ」
恋心の胸元にチラリと揺れるドッグタグを見ながらヤルキーヌはつぶやく。
そう、「げんきなこ」チームが事前から案じていたポイントが一つ。
それは――「かわいいこ」チームのアビィが自チームのうちの誰かに姿を変えて自陣に潜入してくるのではないか、という点だった。
ゆえにその対応策として、ドッグタグの共通装備と、目配せという符牒を打ち合わせてはいたのだが。
「………相手は当然我の変身を警戒するであろうな。そして、それでよい。戦いは戦う前から始まっておるものだ」
一方、全体の趨勢を眺めつつ、アビィは薄く笑みを浮かべていた。
「変身能力は今回の模擬戦には我は持ち込んでおらぬ。だが、相手が我の力を警戒し、そこにリソースを割けばそれだけで相手の戦力は低下する。集中力も反応速度もな。能力は「実際に使う」ことのみに意味があるのではない。「使うかもしれぬ」と思わせればよい」
おお、なんたるアビィの神算鬼謀か! 情報という武器を駆使し、アビィは既に戦う前から布石の一手を打っていたのだ。
彼の思惑通り、「げんきなこ」たちは徐々にだが戦線を押し込まれていくかのようだ。変身を警戒するあまりに反応が僅かに遅延する、それがここまで効果を生み出そうとは。
――いや。
果たして本当に……そうであろうか。
「むっ!?」
さしものアビィと言えども一瞬気づきが遅れた。己の策が的中したがゆえに、遅れたのだ。
「いかん――!」
彼の目に映ったものは「あまりにもスムーズに敵を押し込みすぎる」自陣の状況!
それはつまり……。
●
「ああっこのままではやられてしまうわ―」
「団長ちょっと棒読みじゃね?」
「しまうわー」
最前線で敵の猛攻を受けながら、「げんきなこ」の千影とルクレツィアはじりじりと後退を余儀なくされていた。……ように、見えた。
「かわいいこ」の戦術はツーマンセル、千影たち二人に4人が一斉に襲い掛かっているのである。いかなる場合も戦闘の基本は数的優位を創出することにあり、いかに二人が戦闘巧者であろうともその明らかな不利は覆し得ない。「かわいいこ」はさらに後方からエミリーが狙撃を行っており、フリーとなっているはずの他の三人もうかつに動けない。
事実、集中攻波を受けている千影とルクレツィアの全身はかなりインクで染まってしまっている。
「とはいえ、『マークの半分以上が染まったらアウト』ってのがルール。それまでは攻撃を受けても構わねえわけだ」
飛来したインクの雨が朧のように霞んだ千影の姿をすり抜けるように空に消えた。彼の神業に近い見切りはあたかも現実と夢の中を自在に去来するかのごとし! 加えて「影切」により一時的にとはいえ敵の動きを止める効果も絶大だ。
「つまり、『部分的にあえて攻撃を受ける』ことも戦術に組み込める、敵の攻撃を最小限度に見切れる千影の剣士としての技量を信じることができるからこその戦い方ね!」
「やれやれ、あんまり過大評価はしないでほしいがな。とはいえ……そろそろじゃねえか?」
千影に促され、ルクレツィアは頷くと、さっと手を挙げた。
「今よ、かかれー!!!」
「待ってました、Brave song!!」「爆弾投下!どっかーん!」「ヤルキーヌ、華麗に登場ですわ!!」
ルクレツィアの声が響くと同時、藍生と恋心、そしてヤルキーヌが一斉に動いた!
彼らの標的は――!
「いつもお世話になっていますが今日ばかりは容赦なしです! エミリーさん、お覚悟を!」
「え、ええっ!? 私!?」
不意に襲い掛かられ、エミリーは大きな目を見開く。
おお、これはどういうことか。エミリーは後衛に位置取りし、直接攻撃を受ける確率は低かったはずではなかったか。
「ごめんねエミリーさん、引いたら押す、押したら退く、駆け引きも恋のうちなんだよ❤」
インク爆弾を投げつけながら恋心が申し訳なさそうに手を合わせる。そう、まさにそれは彼女たちの戦術であったのだ。
「げんきなこ」の千影とルクレツィアが、退場のラインギリギリまでインクに身を染めながら「あえて押し込まれていた」のは、戦術的後退によって敵軍に突出部を作るために他ならなかった!
そして戦線が伸びれば必然的に、後衛にいるエミリーも前に進んでくる。そこを包み込むように狙う――!
「釣り野伏、って言うんですよね! 勉強になります!」
藍生が踊り込むように鮮やかなインクをばらまいていく。エミリーは恋心の爆弾と藍生の制圧射撃に対し、天を舞うようにかろうじて回避していくが、さすがに限界が近い! 追い詰められたエミリーに、静かにヤルキーヌが狙いを定める。
「ここまでですわね……美しくラストを飾りましょう」
放たれたインクが、無情に、そして容赦なくターゲットを染め上げたかと見えた時。
「させぬ!」
彼方より華やかに閃いた剣先が空中にその飛沫を跳ね上げていた!
「アビィさんっ!」
胸の前で手を組み、エミリーの叫びが風に乗る。そう、その通り!
戦場に立ちはだかっていたのはほかならぬアビィ!
彼は敵チームの意図を察すると、瞬時に身を翻し、エミリーの元へと駆け付けたのだ! エミリーを護る騎士として、その身を賭して!
「我が姫君に手出しはさせぬぞ!」
猛威と共にアビィの剣が再び大気を斬り裂く! 彼の鮮血の剣は自在に形状を変え間合いを意のままとする!
ああ……だが。
この模擬戦の初の退場者は。
――アビィであった。
「その剣の動き、既に見せていただきましたわ……!」
時が止まったかのようであった。ヤルキーヌはアビィの剣をかいくぐり、胸のど真ん中にはっきりとインクを叩きつけていたのだ。
「わが剣が……読まれた……だと……?」
「エミリー様を救うためとはいえ、動きを一度見せてしまったのは残念でしたわね」
崩れ落ちるアビィに、ヤルキーヌは静かに語り掛ける。されど、ふっ、と笑みを漏らしたアビィの顔に一点の悔いもなし、悲哀もなし。
「そうか、だがそれでよい、我が姫を救えたのならばな」
「アビィさん!!!!」
インクに染まり、がっくりと倒れ伏したアビィをエミリーは抱き起す。
……それこそが「げんきなこ」たちの真の狙いでもあったのだ。
「エミリー様を狙えば必ずアビィ様が駆けつけてくると思いましたわ。頭脳であるアビィ様を初手で落とす、それがワタクシたちの作戦だったのですわ」
ヤルキーヌの傍らで、エミリーとアビィの二人のラストシーンが始まる。
「そんな顔をするな。策に生き、騎士として姫の腕の中で斃れる。天よ、ほむべきかな。我は我の務めを果たした……がくり」
「アビィさぁぁぁーん!! さぁーん!さぁーん……!」
エミリーはアビィを抱きしめ、自分でセリフにエコーを掛けつつその最後を美しく飾ったのだった……。
そしてそんな二人のラストシーンを邪魔しない情けが「げんきなこ」の三人にもあった!
「うおおお! アビィさん……やはり尊敬すべきお方です! 俺もアビィさんみたいにいつかは騎士として死にたいです!」
「うむうむ、そうであろう」
「きゅううん❤ 二人の絆素敵ぃぃぃ❤」
「うむうむ、そうであろう」
「死んじゃった方は喋らないで下さいましアビィ様!」
なんか目をキラキラさせている藍生と恋心の姿に軽く頭痛を抑えつつ、ヤルキーヌは座り込んでいるエミリーにペン先を向ける。この状況からでは、エミリーももう切り抜けることは望めまい。
「終わりました? もういいですわね?」
「ええ、もういいですよ」
「では、お覚悟……」
ヤルキーヌがとどめを刺すべくインクを放った――とき。
「アビィさんに代わって私が叫ばせてもらいます。『赫き魔器の夜想曲』!!」
エミリーの声とともに、彼女の姿が虚空からかき消えていた! インクのみが虚しく大地に印を描く!
「えっ!?」
ヤルキーヌが、藍生が、恋心が、呆然とした一瞬、意識の空白を生み出される!
そして、響き渡る銃声よりも速かったのだ。
……ヤルキーヌのビブスにインクが染み込むのは。
「あ、あらっ!?」
豊満な胸元を汚したインクを見つめ、ヤルキーヌは愕然とする。今、何が起きたのか。
ふわり、と胡蝶のように舞い降りるのは、エミリーと、その背後の鮮やかな真紅の緞帳。
周囲を断絶した舞台を形成する彼女の能力であった。
「戦闘開始時にアビィさんの掛けてくださった催眠術で、私たちの「速さ」は少しずつ上昇していたのです。皆さんの認識を欺けるほどに」
「でも、先ほどまではそんなそぶりは……ああ、そうでした」
ヤルキーヌは細い肩を竦め、苦笑を浮かべた。
「エミリー様は役者さんでしたわね。お見事な演技でしたわ」
アビィ、ヤルキーヌ、脱落。
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「チームベアドラ見参! 1万パワー+1万パワー、私たちは2倍じゃないわよ、10倍よ!チーム力1億パワーよ!」
「えっとぉ、1万の10倍はぁ……」
「1億パワーよ!」
「……まあそれでもいいですぅ」
一方、前線においては、「かわいいこ」のリリンドラとマナのタッグが猛威を振るっていた。何せその両者ともに、力isぱわー! 的な凄まじい破壊力を備えているのに加えて。
「くっ、どんどん速くなっていくぜ、二人とも!」
千影ほどの練達の剣士がその動きを捉えることに苦心するところまで、彼女たちの加速は上昇していたのだ。
その二人に加え、さらに……。
「アビィ先輩は落とされちゃったか……なら、あたしが先輩の分まで頑張らなきゃ!」
シアニが高速で移動しつつ臨機応変にして変幻自在な遊撃を仕掛けてくるのだ。脅威は彼女の振りかざす巨大ハンマーだけではない、虚を突き死角から蹴り上げ砂塵を舞わせる足技の千変万化もまた微塵の隙もないのだ。
千影とルクレツィアの二人がいかに手練れであろうとも、この攻撃にはさすがに手を焼く。先ほどまでは相手を釣るための戦術的後退であったが、今は事実押され気味と評するしかない。
恐るべきはアビィの催眠である。一撃一撃が大地を穿つほどに重い攻撃が残像を生み出すほどの速さで繰り出されたとき、それは例外なき破局以外の何物を生み出すであろうか。たとえその刃先や爪にクッションが巻かれ非致死性となっていようとも、かすっただけでお星さまになってしまいそうなことは疑えない!
「千影、ここは踏ん張り処よ、気合入れていくわ!」
傍らで同じく猛攻に耐えるルクレツィアも、その額には珠の汗を浮かばせていた。
「だが、どうやら俺はここまでだ。釣り野伏で結構被弾しちまったからな……」
千影は胸のターゲットを示す。そこはほとんどインクで染まり、半分を超えればアウト、というルールまであとわずかというところまで来ていた。
「多分後一撃受ければ俺はアウトだ。なら、せめて団長の盾にならせてもらう。俺が突っ込んであっちの脚を止めるから、団長はその隙に反撃を」
「千影……わかったわ、あなたの覚悟は無駄にしない!」
信頼に満ちた視線を結びあい、力強く頷く二人。なんと美しいユウジョウであろうか!
「……ねえマナ、アレいい」
「なんですぅ?」
「あっちのアレ、凄くいいわ! あれ、正義じゃない!? 私もやりたい!いえ、やりましょう!」
「ちょっと何言ってんだかよくわかんないですぅ?」
「マナ! 友のためなら犠牲になるわ! だって友情は正義だから!」
「落ち着いてほしいですぅ……今有利なのはこちらなので……それは不利な方のセリフですぅ」
「そ、そうね……不利にならないかしら!」
「それは難しい問題ですう……シアニさん、どうしたらいいですぅ?」
「えっあたしに振らないで!?」
のんびり話しているように見えるが、もちろん超加速している「かわいいこ」たちのこの会話は超高速で行われており、あたかも動画の10倍再生のごときキュルキュル音でご想像いただきたい!
「まあ、リリンドラさんには申し訳ないけど今はこちらが圧倒的に有利だから……そうだね、突然空から隕石が降ってきたりしなければこのまま勝てると思うな、あはは!」
人それをフラグと呼ぶ。
正確には隕石ではないが――。
「きゃああああああ!!」「はわああああああああああ!!」「うわあああああああああああ!?」
おお、遥か空の彼方より――悲鳴と共に降ってきたものがあった! それは!
「あらぁ、エミリーさんに恋心さんと藍生さん……危ないですよぉ?」
凄まじい勢いで振ってきて、ぽむぽむ、と大きなマナの毛皮にポンと受け止められたものは、まさしく恋心と藍生、そしてエミリー!
「やん、敵なのにありがとうマナさん、キュンキュンしちゃう❤」
しかし彼女たちは少し離れた戦場でエミリーと戦っていたはずではなかったか?
いや、エミリーがヤルキーヌを討ち取ったとき、不利を察した二人はいったん距離を取るべく、恋心の力『運命の恋症候群』を発動したのだ。それは、恋心の指から放たれた赤い糸を味方に結びつける力。そしてその強度は相互の思い合う心の強さに比例する!
赤い糸は戦場を跳んで味方に――千影に絡みつき、恋心はそれを手繰って自分と藍生を高速緊急脱出させたのである。
だがエミリーとてそれを座視してはいない、「待ってくださーい!」と二人の脚に縋りつき、結果的に三人は同時に宙に舞ったのだった。
「いやこれ恋心の糸かよ……急に絡んできたから何かと思ったが」
赤い糸を摘まんだ千影の姿を見た瞬間! ルクレツィアに電流走る!
「そ、そうだわ! 藍生、そのままぎゅって恋心を抱きしめて!」
「え、こ、こうですか!? えっと、失礼します!!」
「きゅうん❤ 年下の少年に抱きしめられるのすっごいロマンス感じる❤」
戸惑いながら素直に恋心を抱きしめた藍生に対し、ルクレツィアは厳命した!
「そのまま恋心をぶん回して!!」
「はい! 思いっきり恋心さんをぶん回します! わけわかりませんが!」
「……え??」
「おい待て、何か知らんがまだ恋心の糸が俺に絡んだまま……」
うろたえた恋心と千影の反応もあらばこそ。純真素朴な藍生は、その自慢の怪力を今こそ十全に完璧に発揮した!
「「うわあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!?????????ちょっと素直すぎるだろおおおおおおお!!!????」」
悲鳴が空気を引き裂き虚空を貫いて、嵐のごとき勢いで藍生は恋心を力いっぱい振り回す! そして恋心の糸につながったままの千影もまた、当然道連れとなってブン回される!
おお、そこに現出したものこそ、おそるべき超回転によるあらゆるものを巻き込む大渦巻だ! そして、千影の手には剣が握られている! 渦巻に触れたものことごとく打ち倒さずにはおかぬ、これこそ「げんきなこ」の合体超必殺技だ!
「ひぃっさつ! 超・げんき・スピィィィィィン!!!」
ルクレツィアのキメキメな叫びと共に、鮮烈なる大渦巻が「かわいいこ」たちに猛烈非情に襲い掛かった! その凄絶なる勢いは、超加速している「かわいいこ」たちでさえも回避しきれぬ全体範囲攻撃、その名も超元気スピン!! いや元気過ぎるわ!
「い、いけません、『語り継がれる朗唱』!!」
エミリーは咄嗟に再び√能力を展開、真紅の緞帳を展開して攻撃を遮断しチームを守ろうとしたが、――無念! 超元気スピンの巻き起こした嵐は緞帳を跳ね上げ、その奥へと恐るべき攻撃を届かせてしまった!
「きゃあああ!!??」
エミリーのマーカーにべったりとインクが噴きつけられる。友を守ろうとした美しき心を記憶にとどめ、エミリーはここで脱落となった……。
だがエミリーの奮励は決して無駄ではなかった! 巻き上げられた緞帳を素早く掴み取り、咄嗟に仲間たちにかぶせたことでインクの被弾から守ったものがいたのである。
もちろん舞台全体に広がる緞帳はその大きさも重さも相当なものだ、並大抵の力では扱いきれるはずもない。だが、彼女ならそれができたのだ。そう――山のような巨体に聖母の温もりを備えた優しき母熊、マナ・ウィスタリア・シートンならば!
「みなさん、大丈夫ですぅ?」
「ああ、マナ……」「だってマナ先輩……インクが!」
緞帳に守られたリリンドラとシアニは布の隙間から除く光景に熱い涙を禁じ得ない。マナは二人を守るため、自らのビブスにインクの被弾を余儀なくされていたのだ!
「『友情は正義』。リリンドラさんがさっき言ったこと、やってみたんですぅ、子熊を守る意識でね、ふふ」
穏やかな微笑みを残し、マナは静かに消えていく。……っていうか、のっしのっしとフィールドを退場していく。
「マナ! あなたの意志は無駄にはしないわ!」
「そうだねリリンドラさん! 今度はこっちの番だよ!」
強い覚悟で結ばれた二人は再び大回転を始めた超元気スピンに立ち向かった! だが必殺の回転は間違いなく脅威。果たしてこれをどう乗り越えるのか!
「合体技には合体技だよリリンドラさん!! あたしの肩に乗って!」
「合体!? 燃えるわ! 合体は正義オブ正義よね! とうぅっ!!」
天に舞ったリリンドラが宙にくるくると華麗なる螺旋を描き、ギャキィィ!!とばかりにシアニの肩にライドオン! 単なる肩車ということなかれ、今こそ二人のドラゴンプロトコルが一つの龍へと変幻したのだ。これこそが!
「双龍合体!! ドラゴントレイン!!!!!」
リリンドラは巨大なる尖刃・正義屠龍大剣を真っ直ぐに突き出し、彼女を肩に担いだシアニは能力を開放し脚部を龍に変化! その凄まじい走力を活かし大地を蹴立て砂塵を巻き上げて爆裂的に疾走する! それはあらゆるものを撃滅粉砕せずにはおかぬ、おそるべき破壊の化身、破滅の権化!
一方、対する「げんきなこ」も超元気スピンの大回転を再び叩きつけんとする。天地を覆滅するばかりの超威力攻撃が相互にぶつかった時、そこに生き残れるものがあろうか。
ああ、だがしかし。
さしもの超元気スピンも、その勢いに僅かな翳りを見せていた。
……だって目が回ったから。
事実上、さっきから千影も恋心もめちゃくちゃジャイアントスイングされまくってるんだから、そらぁ目がぐるぐるにならない方がおかしいというもの!
そしてリリンドラの燃え上がる竜眼は、相手のそのわずかなスキ、バランスの崩れを見逃さぬ!
「そこよー!」
「うわあああああああああ!!!」「やああーん❤」
ドラゴントレインの激烈な突撃は脅威の超元気スピンすら弾き飛ばし、千影と恋心をリタイアせしめたのだった。
●
残るはシアニとリリンドラ、そしてルクレツィアと藍生のタッグマッチ。
ドラゴントレインは再び大地を蹴立てて二人に襲い掛かる。轟然と上げる地響きはまさに怒りに燃える龍の咆哮の如しだ!
「くっ、負けませんよ。みょるにる!!!」
藍生は巨大ハンマー「みょるにる」を振りかざし、大剣と一体となったかのような双龍の突進に備える。後方からルクレツィアも銃口を向け、今両者が激突! 軋む空気と慟哭する風の叫びが周囲の空間を震わせた!
なんたる凄まじき衝突か! 火花とプラズマが走り抜け大地がひび割れる! 正義大剣と「みょるにる」はまさに虚空の一点で完全に互角に打ち合い、一歩も譲らぬ鍔迫り合いを見せていた!
「頑張れリリンドラさん!おりゃあああ!」
「もう一息よ藍生!たあああ!」
シアニは脚にさらに力を籠め、一方ルクレツィアも能力を開放し銃を乱射して藍生の攻撃に勢いを添える! 一瞬に全霊を込めた打ち合いは刹那を超えたプランク時間ごとに相互の威力を増していき……。
おお見よ! 正義大剣とみょるにるから噴出したインクが……空中で止まっている!
正確には、両者の凄絶なパワーに押されて空間がひずみ、インクが相手方に飛んでいけないまま、宙にとどまっているのだ!
一瞬の後……破局が訪れた。
びちゃああ。
なんということか!正義大剣とみょるにるから放たれたインクは、相互の歪曲空間を乗り越えることができず――。
そのまま逆流してお互いの持ち主の体に思いっきり降り注いだのだ!
「きゃあああ!?」「わあああ!?」
「え、ちょっと!?」「わわわー!?」
4人は武器を抱えたまま、ぽかんとお互いを見つめる。インクでびっしょりとぬれねずみになったお互いの姿を。
「ええと……ルールはどうなってたかしら?」
リリンドラは首を捻りルールを想起してみる。その問いに、藍生もう-ん、と腕を組みながら答えた。
「確か『相手の攻撃でインクがビブスを半分以上染めたらアウト』でしたよね?」
「今の場合、確かに『相手の攻撃』の影響で『インクが掛かった』んだよね。『相手のインクで』って条件はなかった……」
シアニが考え考え状況を整理し、ルクレツィアが結論を下した。
「つまり『自軍のインク』でびしょぬれになってもやっぱりアウト! 私たち全員退場で……」
くすっ、とルクレツィアは微笑んで、長き戦闘に決着を告げたのだった。
「引き分けね!」
●
どっ、と笑い声が上がる。退場したメンバーたちが、それまで手に汗を握り大きな声を上げて声援していた休憩所から一斉に飛び出してきたのだ。
「お疲れ様、ナイスファイト!」「みんな強かったね!たのしかった!!」「ふふっ、こっちにきて本当に良かったです、こんな風に遊べるし」「この後のご飯、きっと美味しいですぅ」「合体技はよかったが……次は目の回らないやつにしてほしいぜ……」「みなさんと戦えたことは素敵な思い出として残るでしょう。これからの人生、ずっと先も」「みんな素敵でほんとにときめいちゃった❤」「皆様最後まであきらめず非常に美しゅうございましたわ!」
湧き上がった弾けるような歓喜の中、それぞれの表情には笑顔だけがある。チームの別などなく、お互い全員を讃え、満ちたりた、鮮やかにして暖かな情動だけがある。
――夏風が爽やかに通り抜けていく道の中で。
「……さて、それでは、ルーシィ」
アビィはニヤリと笑みを浮かべ、ルクレツィアに瞳を向ける。
「――『次』はいつかな?」
その言葉にメンバー全員も大きく頷いた。ルクレツィアは一瞬ぽかんとした表情を浮かべた後、すぐに声を上げて笑い出したのだった。
「ええ、きっと……すぐ、ね!」