シナリオ

融合|迷宮《ダンジョン》の根本を断つために

#√ドラゴンファンタジー #融合ダンジョン

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『融合ダンジョン』関連シナリオ

これは√ドラゴンファンタジーのダンジョンが√EDENに出現する融合ダンジョン事件の関連シナリオです。これまでの物語は、#融合ダンジョンの検索で確認できます。
※以前のシナリオに参加していなくても、オープニングを読めば参加に支障はありません。

●融合ダンジョンの芽を摘めるか
「また激しく星が輝いているわね……でも今度はより強く導いてくれているみたい」
 街中を歩いていた星詠み、水尾・透子(人間(√EDEN)のルートブレイカー・h00083)が、空を見上げながら呟く。
 その呟きを聞き留めた√能力者たちが足を止め、透子の話を聞こうと耳を傾け始めた。
「この間はありがとう。みんなが√EDENの三重県の中学校と繋がった√ドラゴンファンタジーのダンジョンに誘われようとしていた一般人を思い留まらせた後、ダンジョンのボスを倒してくれたおかげで、ダンジョンが『融合ダンジョン』となるのを阻止できたわ」
 その言の葉に聞き覚えがあるのか、様々な反応を示す√能力者たち。
 そんな彼らに一礼した後、透子は星から齎された内容を話し始めた。
「この事件で大きな進展があったの。関連する他の事件で得られた情報も含めて精査したところ、敵の活動が活発な地域を割り出すことができたわ」
 透子いわく、最近√ドラゴンファンタジーの南フランスに該当する地域で、一般人の行方不明事件など、不審な事件が相次いでいるという。
「事実、他の融合ダンジョンに向かった√能力者たちから、『ダンジョン内で、√ドラゴンファンタジーから拉致された一般人を用いて実験を行っていた』という報告もあがっているわ。偶然の一致とは考えづらいわね」
 ――と、いうことは。
「おそらく、多くの一般人を拉致するための拠点のようなものが、南フランスの都市内、あるいは都市近郊にあると考えられるわね」
 ひょっとしたら、現地には敵に協力する人間の協力者もいるかもしれないが、融合ダンジョンの黒幕に迫れる可能性が生じたならば、この機会は逃せまい。
「そこでみんなには、南フランスでの調査を通じて、敵の拠点、あるいは協力者などを割り出してほしいの。頼めるかしら?」
 透子のその願いに応えるように、√能力者たちはそれぞれの想いを胸に頷いた。

「今回は、最初の調査で得られた情報を元に冒険を行う事になりそう。だから、現時点で私から提示できる情報は極めて少なくなるわ」
 それでも、これまでの融合ダンジョン探索から得られた情報を総合すれば、今回の調査の方向性はある程度見えて来るだろう。
「例えば、敵が活動している地域なら、近くにダンジョンがあるかもしれないわね」
 その場合は、ある程度当たりをつけながら、ダンジョンがありそうな場所を探すことになるだろう。
「あるいは、敵が活動している地域で、何か大きな事件が起きて無いか調査してみるのもいいかもしれないわね」
 事件は現場で起きるものゆえ、現地に足を運べば、融合ダンジョン事件に繋がる手掛かりが得られるかもしれない。
「他にも、一般人の拉致を行っていた敵の手先を探してみるという手もあるわ」
 その場合、敵の息がかかった組織の場所を突き止め乗り込むことになるだろう。
「もちろん、これ以外にも調査の糸口もあるかもしれないから、みんなでアイデアを出し合ってみるのも良いかもしれないわね」
 調査の方針や実際の調査の結果で得られる情報が大きく変わることが予想されるため、ひとつの手段に拘らず、色々試してみるのも良いかもしれない。

「もう察している人もいるでしょうけど、念のため伝えておくわね。複数の融合ダンジョン事件で、『リンドヴルム』ジェヴォーダンが関与しているとの情報が得られているわ」
 もっとも、各地で事件を起こしているジェヴォーダンには、そこまでの能力は無かったはずだが……。
「……ひょっとしたら、ジェヴォーダンは『王劍』を得たのかもしれないわね」
 以前齎された『予兆』を思い出したか、一部の√能力者たちが渋い顔をするのを見て、透子は√能力者たちに告げる。
「何であれ、南フランスが敵の重要拠点であるのは間違いないわよ。この地域を制圧する事で、融合ダンジョン事件を起こしていた敵の計画を大きく狂わせる事が出来るはずね」
 ――これ以上、√EDENへの侵攻の足掛かりを作らせないために。
「みんなには南フランスでの調査、お願いするわね。でも無理はしないで」
 そう、呟くように添える透子に見送られながら。
 √能力者たちは、不審な事件が相次いでいるという√ドラゴンファンタジーの南フランスに向かった。

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第1章 冒険 『融合ダンジョン関連地域の探索』


和紋・蜚廉
エアリィ・ウィンディア
サン・アスペラ


 ――√ドラゴンファンタジー、南フランス。
「融合ダンジョン事件の解決までもう少し! そのためにも敵の拠点を絶対に見つけてやるぞ!」
 √EDENにおける「ロゼール県」にある都市のひとつに、サン・アスペラ(ぶらり殴り旅・h07235)が気合を入れながら足を踏み入れた。
(「怪しい建物――もっと言えばダンジョンとかがあればいいんだけど!」)
「さーて、『帰り道はどーっちだ!』」
 一般人を拉致するための拠点がどこかにあると踏んだサンは、早速√能力で視界内のインビジブルと完全に融合し、周囲の情報を得ながら捜索を始めた。
 とはいえ、広大な都市を徒歩で探索するのは、なかなか骨が折れる。
 そこでサンは本来入れないような場所や立入禁止になっているような場所に着目し、数日かけてじっくり回ってみるが、概ね工事現場や神聖な場所のようで、特に怪しげな様子はなく、ダンジョンと化している様子もない。
「困ったわね……」
 サンが考えながら広場を歩いていると、妙に焦った人の姿が目に留まるようになる。
 それも、ひとりやふたりではなく……十数人はいるだろうか?
「おじいちゃん……どこ行ったの?」
「うちの子を知りませんか? これくらいの小さな女の子です」
 焦った人々は、次々と似顔絵や写真を提示し、通りがかる人々に情報提供を呼びかけている。
(「南フランスでは多くの一般人が拉致されていると聞いている。なら、それを捜索している人もきっといるはずと思っていたけど」)
 サンは焦っている人々に近づき、声をかける。
「ねえ、何かあるなら力になるから、ちょっと話を聞きたいんだけど――」


 ――一方、その頃。
「さて、我も取り掛かろう」
 ロゼール県の別の場所で、和紋・蜚廉 (現世の遺骸・h07277)が街に潜んでいるであろう協力者の捜索を開始していた。
 昼間は蜚蠊の姿で街を歩き、群衆や物陰に紛れながらそれとなく気配を探り。
 夜は本来の姿で夜街に潜みながら、匂いと足音、運搬の振動で怪しげな気配や声を探り続ける。
 そうやって音と気配で探り続けていたある日の夜、蜚廉の目に、ひとりの怪しげな男が目に留まった。
 見た目はみずぼらしく、街にたまにいる浮浪者そのもの。
 だが、それにしては――目つきがあまりにも鋭いのが気になった。
 まるで何か、通りすがる人々を見定めているような……。
(「あの男が何か知っているかもしれぬな」)
 やがて、男はゆっくりと立ち上がり、のろのろと歩き出す。
 蜚廉も一定の距離を保ちながら、静かに男を追跡し始めた。
 やがて、男が角を曲がり、細い路地に入る。
 蜚廉も続いて角を曲がるが、男の姿は――ない。
(「我に気づいたか、それとも偶然か……何処に消えた?」)
 蜚廉が路地の奥に目を向けると、魔法使いの女の子が歩いている。
(「魔術で姿を変えておったか」)
 女の子は周囲を警戒しながら探査魔術を発動し、細い路地を先に進む。
 視線や気配であればある程度は隠せても、魔術による探査を誤魔化すのは難しい。
 止む無く蜚廉はいったん追跡を諦め、路地から脱出すべく身を翻す。
 振り向きざまに目に入った魔法使いの女の子の目は――どこか闇に沈んでいるようにも見えた。


「――お友達や家族が戻ってこない?」
 サンの質問に、人探しをしていた人々は揃って頷く。
「はい……他にも何人かそういう話は聞いていて」
「いなくなった人も、おじいちゃんや屈強な男の人、女の子と、共通点が全然ないんです」
「お仕事も魔法学校の学生さんとか、大工さんとか、動画投稿者とか……」
 行方不明者の特徴を聞いて、流石にサンも頭を抱える。
 行方不明者の共通点は皆無に等しく、それぞれの行動や生活様式から共通点を見出すのはほぼ不可能そうだからだ。
 だが、たった一つだけ、確実に言えることがある。
 ――間違いなく、街中で多くの一般人が拉致されている。
「お友達を最後に見かけた場所は?」
 サンが地図を差し出しながら人々に問うと、人々は次々と地図を指差していく。
「ここです」
「この場所だって聞いているよ」
 指差された場所にサンが印をつけていくと、印に囲まれたひとつの建物が目に付いた。
「ねえ、この建物って何?」
「小さな教会です」
 マップ情報と、行方不明者の目撃情報のふたつの点を繋いだ結果、浮かび上がったということは――。
(「――ここまであからさまだと、却って怪しいわね」)
「ありがとう。私がちょっと探って来るわ!」
「えっ!?」
 善は急げと言わんばかりに、サンは一目散に駆け出す。
 その背中を、人々は一瞬聞き込みのことを忘れてぽかーんと眺めていた。


 蜚廉もまた、日を改め、細い路地に潜入する。
 先日目撃した女の子が、探査魔術を使ってまで露骨に警戒したということは――。
(「――此の路地の先に、何かがあるのだろう」)
 やがて、蜚廉の目の前に、小さな教会が現れる。
(「此方は裏口か、では表に――」)
 回り込もうとしたその時、裏口に大きな|荷物《・・》を抱えた細身の男が入ってゆくのが目に入った。
 |荷物《・・》の大きさは、大柄な人ひとりが入る程度。
 細身の男が持てる大きさではないが、おそらく魔術で|荷物《・・》を運んでいるのだろう。
 そして、細身の男の瞳もまた――闇に沈んでいる。
(「後を付ければ潜入できるだろうが、魔術を行使する敵となると厄介そうだ」)
 蜚廉が迷っている間に、細身の男は|荷物《・・》を抱え、裏口に消えた。
 裏口が閉じた直後、バタバタと誰かが走っているような足音が聞こえてくる。
(「この案件、他にも捜索している√能力者がいるとは聞いているが……その者か?」)
 もし、目的を同じくする者がいるならば、合流してから突入するほうがより確実だろう。
 そう判断した蜚廉は、いったんその場を後にし、駆け込んで来る気配に向け歩き出した。


 ――さて、蜚廉とサンがそれぞれの手段で情報収集を行っているころ。
 エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)もまた、ロゼール県で調査に動き出していた。
「うーん、調査するとしても、何から手を付けたらいいものか……」
 資料探しもいいとは思うけど、今回はちょっと思い切ったことをしてみたい。
 そこでエアリィが街中を歩き回りながら目を付けたのは、蜚廉が目を付け、サンがマップ情報から把握した小さな教会だった。
「ようこそ。何か御用で?」
 出迎えた牧師らしき男性に、エアリィは丁寧に一礼する。
「お祈りをさせていただけないでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
「ありがとうございます」
 教会内へ入ったエアリィは、神様へのお祈りっぽく呟きながら、こそりと精霊を呼び出した。
『精霊達よ、あたしに力を……』
 エアリィの呼び声に、周囲のインビジブルが六属性の精霊に変化し姿を見せる。
 もちろん、その姿はエアリィにしか見えない。
『ね、おしえて? ここで何があったかを』
『いいよー。何を?』
『この教会でお祈り以外にしている人とかいなかった? 例えば大きな荷物……人が入っていても不思議じゃない荷物を運んできたりとか』
 エアリィの質問に、精霊たちは即座に返答。
『んー、裏口からよく大きな荷物が運び込まれているなー』
『人ひとりは余裕で入れそうな大きさだったねー』
(「この教会に人が運び込まれている……?」)
『荷物じゃなくて、人が連れて来られたこともあったねー』
『それも昼も夜も関係なくねー』
 精霊さんからの情報に、エアリィは息を呑む。
 √能力を用いているゆえ、精霊さん達からの情報は正確だ。
『なるほど……精霊さんありがとう』
 エアリィは精霊さんに礼を述べ、一旦√能力を解除する。
(「ここ、かなあ……中を見せてもらえないかな」)
 エアリィはお祈りを終え(るフリをして)、牧師に話しかける。
「あの……」
「何でしょうか?」
「よければこの教会、見学させてくれませんか?」
 頭を下げながら頼むエアリィに、しかし牧師は申し訳なさそうな表情を浮かべながら告げる。
「申し訳ございませんが、特に見るべき場所もないと思われますので……」
 暗に誰も入れない、との意思を察し、エアリィはいったん引き下がる。
「ありがとうございます」
 見えるところには何もないと判断したエアリィは、牧師に礼を述べ、教会の外に出た。


 いったん外に出たエアリィは、教会から離れ、街中へ向かう。
 誰かが後をつけているのではと警戒するも、今のところ追跡されている形跡はない。
 エアリィが歩いていると、背後から声がかけられる。
「エアリィちゃん」
「汝もか」
 エアリィが振り向くと、そこにいたのはサンと蜚廉だった。
「ふたりもここに?」
「ええ、それぞれ別々にここを突き止めたのよ」
「汝も何か得たようだな」
「うん」
 3人はその場でお互いが得た情報を交換する。
「あの教会に行方不明者が連れ込まれているのかしら?」
「人目を忍ぶように裏口から|荷物《・・》が運び込まれているのは、我も目撃した」
「精霊さんたちは、荷物だけじゃなくて人も連れ込まれているって言っていたね……」
「……ほぼ確実のようね」
 サンが怒りを声に滲ませながら、ぐっと拳を握り込む。
「街中には行方不明者を探している人がいっぱいいた。間違いなく、多くの一般人が拉致されているわよ」
「我も汝と同じ考えだ。一刻も早く潜入すべきだろう」
 同意するよう首肯する蜚廉に、エアリィもそうだね、と頷く。
「でも裏口って、鍵がかかっていそう」
「おそらくかかっているが、我の殻突刃で鍵や封印を慎重に外せば潜入できるだろう」
「それなら安心ね」
 もっとも、内部の様子が全く分からないのが気がかりだが――。
「ま、後は出たとこ勝負になりそうだけど、ぶっ飛ばせばいいよね!」
「そうなりそうだけど……様子は確認してからね?」
 其の場で拳を握り込むサンに、エアリィが微苦笑を浮かべる。
「制圧すれば黒幕にも迫れるだろう――行くぞ」
 蜚廉も同意するように頷きながら、ふたりを促し裏口へと向かい始めた。

第2章 集団戦 『魔術の劣等生』


●√ドラゴンファンタジー:南フランス・ロゼール県――とある都市内・小さな教会
 裏口に回り込んだ√能力者たちは、こっそりと鍵を外し、教会へ潜入する。
 礼拝堂で牧師が信者たちと共に祈る声を聞きながら、裏口付近を捜索していると、やがて地下へ通じる階段が見つかった。
 階段の先からは、ランプの灯りが漏れ出している。
 おそらく、灯りの先に一般人を拉致した組織の拠点があると予想した√能力者たちは、慎重に階段を下り始めた。

 ランプの灯りが漏れ出しているあたりまで降りたその時、灯りの先から男の声がする、
「ほう……ネズミがわざわざ来てくれたか」
 嘲るような言の葉に、√能力者たちは潜入が露見したと悟った。
 おそらく、階段には侵入者の存在を術者に知らせる魔法が仕掛けられていたのだろう。
 止む無く√能力者たちは、警戒しながらゆっくりと室内に入った。

 灯りが漏れ出ていた部屋は、壁や天井、床を石で固めた広大な地下室となっており、部屋の奥にはひとつだけ他の部屋に通じているであろう出入り口がある。
 出入り口の前には、闇色に輝く魔法宝石を埋め込んだ大剣を肩に担いだ男と、ある√能力者が目撃した魔法使いの少女や細身の男など、数名の魔法使いがいた。
「俺たちのことをコソコソと嗅ぎまわっている輩がいると報告を受けてはいたが、わざわざここに乗り込んで来たとはな……探す手間が省けたか」
 男は√能力者を一瞥し、哄笑を浮かべている。
 一方、魔法使いたちは瞳を闇に沈めたまま、√能力者たちを見ても何も反応しない。
「さて……お前達、我々の目的を邪魔する敵を全て殺せ!!」
 男が命令し、大剣に埋め込まれている魔法宝石が光ると、魔法使いたちの闇に沈む瞳に殺意が宿る。
 思わぬ殺意に√能力者たちが身構えると同時に、魔法使いたちが全力で魔法を放ってきた。

※マスターより補足
 第1章の判定の結果、第2章は一般人を拉致している敵の手先である『魔術の劣等生』との集団戦となりました。

『魔術の劣等生』たちは、伸び悩みや挫折などの心の弱みに付け込まれ、敵のボスに闇の魔術で洗脳されており、一切の躊躇なく√能力者たちを殺そうと襲ってきます。
 洗脳は戦闘不能にすれば解除されますので、無理に洗脳を解こうと試みるよりは倒す方が早いかもしれません。全力で相対してください。
 ちなみに、宿敵イラストは魔法使いの少女の姿ですが、この地下室には少年や青年男女の魔法使いもいます。(データは全員共通です。また、全員洗脳されています)

 なお、この章でボスへの手出しはできません。
 また、この地下室の探索は、第3章でボスを倒した後で可能になります。

 ――それでは、最善の戦いを。
エアリィ・ウィンディア


 深い闇を湛えた魔法宝石が光ると同時に、魔法使いたちの闇に沈む瞳に殺意が宿る。
 エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)は、思わぬ形で殺意を向けられながら、闇色に光る魔法宝石を観察していた。
(「……あの大剣の宝石、もしかして催眠とか傀儡とか、そういう力を持っているのかな?」)
 魔法宝石の特性が気になって仕方ないが、魔法使いたちがエアリィに向けている殺意は本物。
 ならば、今は――。
「――まずはここを切り抜けるっ!」
 エアリィが精霊剣の柄に手をかけたその時、瞳に殺意を湛えた魔法使いたちが一斉に絶叫する。
「アアアアァアアアアアア!!」
 石壁や天井に反射し、さらに魔術で増幅された魔法使いたちの叫び声が、四方八方から見えぬ圧力となってエアリィの全身を締め付けた。
「殺す殺すコロスコロスーー!!」
「――っ!!」
 さらに魔法使いたちの絶叫に乗せられた殺意がエアリィの戦意を挫き、正気を奪わんと耳から突き刺さる。
 それでもエアリィは精霊銃を抜き、魔法使いたちに銃口を突き付けながら、絶叫にかき消されぬよう叫んだ。
『世界を司る六界の精霊達よ、銃口に集いてすべてを撃ち抜く力となれっ!!』
 高速詠唱で隙を減らすよう紡がれた魔術に呼応したか、精霊銃の銃口に火・水・風・土・光・闇の六属性の精霊が集まり凝縮し、弾丸となって射出される。
 魔法使いたちも咄嗟に防御魔術を展開するが、エアリィの弾丸は急ごしらえの防御魔術を易々と貫通し、敵陣の中心に着弾した。
 直後、着弾した弾丸が無数に分裂し、四方八方へと飛散しながら魔法使いたちを次々と撃ち抜いた。
「ぐ……っ!」
 撃ち抜かれた魔法使いたちの瞳に宿る闇が僅かに揺らぎ、叫びを止める。
 エアリィは防御のオーラを纏い、少しでも魔術で増幅された絶叫から己が身を護りながら、魔法使いたちに呼びかけた。
「魔術師さん達、意識が少しでもあるなら抗って!」
「ああ……あああ……」
 魔法使いたちの口から漏れたのは、絶叫ではなく――呻き声。
 弾丸に込めた六属性のうち、光属性の精霊が闇の魔術を打ち消したのだろうか。
 あるいは、エアリィの声が届き、洗脳に抗っているのだろうか。
 いずれにせよ、魔法使いたちは――大きな隙を見せている。
(「今のうちに精霊剣を鈍器っぽく使って、気絶で済ませられないかな?」)
 エアリィは鞘に納めたままの精霊剣を握り締め、魔法使いたちに接近する。
 男が再度闇の魔術を発動しようと大剣を掲げようとするが、エアリィは一気に魔法使いたちの懐に踏み込み、精霊剣(鞘付き)の先端でみぞおちを突き、足を払った。
「……っ!!」
 急所を強打され、足を掬われた魔法使いたちが大きく体勢を崩す。
 魔法使いたちが体勢を立て直すより早く、エアリィは鞘に納めたままの精霊剣で彼らの首筋を強打した。
「――ッ!!」
 手刀の如き一撃を首筋に受け、魔法使いたちは一瞬で意識を刈り取られ、床に崩れ落ちる。
 魔法使いたちが気絶する直前、彼らの瞳に宿っていた闇が霧散した気がした。

桐谷・要


 √ドラゴンファンタジーの南フランスに足を踏み入れた桐谷・要(観測者・h00012)は√能力者たちがある教会の裏口から潜入するのを目撃する。
(「何かの事件かな。僕も正体隠して潜入してみよう」)
 要はその場で軽く変装すると、√能力者たちの後をつけ、教会の地下へと潜入する。
 やがて、地下室を見つけた要は迷わず潜入し――魔法使いたちに出迎えられた。

 目の前の魔法使いたちは、どうやら闇の魔術で洗脳されているらしく、要にも殺意を向けている。
 こうなると要自身が直接戦うしかないが、こういう時に限って、魔法使いを複数同時に相手できるような攻撃手段を持ち合わせていない。
 ――まさに|猫の手も借りたい《ヘルプ》状態。
(「こういう時に、都合よく何かが……おや?」)
 要が軽く周囲を見回すと、室内にかつて語り合ったことのあるインビジブルが揺蕩っている。
(「偶然だけど、オトモダチがいるなら好都合かな?」)
『ちょっと手を貸してもらえないかな?』
 要がインビジブルに話しかけると、インビジブルは返事をする代わりにこくり、と頷く。
 直後、目に見えない何かが室内に吹き込んだ風のようにさっと移動し、魔法使いたちを拘束し始めた。
「コロスコロスコロス!!」
 魔法使いたちも星の重力を込めた箒を魔力で操り、要に殴りかかるが、オトモダチとなったインビジブルは重力すらものとせず風の如く軽やかに飛び回り、魔法使いたちの急所を殴っていく。
 インビジブルに殴られた魔法使いたちは、己が身に起こっていることを把握する前に痛みに耐え兼ね、気絶した。

和紋・蜚廉
サン・アスペラ


「ふんっ、私達が探しているのに気付いていたなら、真っ先に尻尾巻いて逃げとくべきだったね」
 サン・アスペラ(ぶらり殴り旅・h07235)は大剣を持つ男に向けてそう豪語しつつ、拳を振り回しながら洗脳された魔法使いたちを見る。
(「洗脳されてるっぽい人達には悪いけど、邪魔だからちょっと眠っててもらおうかな」)
 一方、他の√能力者たちによって眠らされ……もとい、気絶させられた魔法使いたちの目からは、既に闇が払われている。
 ならば、未だ瞳を闇に沈めている魔法使いたちも、気絶させれば闇から解放できるはず――そうサンは踏んでいた。
「……」
 一方、和紋・蜚廉 (現世の遺骸・h07277)は、大剣を手に嗤う男の言葉を聞き流しながら五感を研ぎ澄ませる。
 五感で把握する限り、洗脳された魔法使いは、他の部屋にはいない。
 何らかの理由で外出している魔法使いが戻って来る可能性はあるが……その頃には制圧が終わっているはずだ。
「サン、遠慮はいらぬぞ」
「うん、決めた。全員ボコる!」
 蜚廉の言の葉に続くように、後であなたもボコる! と言外に男に告げながら。
 サンは魔法使いに接敵しようと、全力ダッシュで駆け出した。


 駆け出したサンを見て、魔法使いたちは殺気を放ちながら杖を掲げ、魔術を詠唱する。
『ファイアボール!!』
 魔法使いたちの詠唱が完了すると同時に、空中に複数の火球が浮かび上がった。
 本来なら橙に輝くであろう火球は、空気中の何かと反応したかのように緑に変化する。
 属性魔術に他の魔術を重ね、炎色反応により色を変えられた火球は、サンと蜚廉に降り注がんと膨れ上がり始めていた。
 これを真正面から受ければ、蜚廉もサンも己が攻撃を繰り出す前に火球に焼かれてしまう。
 だが、室内に浮かぶ火球を見て、蜚廉はむしろ、己が狙い通りに事が運ぶと確信した。
(「もとより我は、サンの攻撃を妨害しようとする敵を狙うつもりゆえ、好都合か」)
『視る眼を捨てよ。汝の認識は、歪み堕つ』
 蜚廉が小声で呟くと、魔法使いたちの右脚が一斉に力を失い、膝が折れる。
「なっ……!!」
「足、が……!!」
 全員そろって|右脚を失ったと錯覚した《・・・・・・・・・・・》のか、魔法使いたちはそのまま大きく体勢を崩し、魔術を中断した。
「流石旦那だ! 絶対合わせてくれると信じてた!! ……って!?」
 駆け出そうとしたサンが、蜚廉の足に目をやり、驚く。
 蜚廉の右脚も、魔法使いと同じく、力を失ったかのように垂れ下がっていた。
 それはまるで――右脚の存在を認識できていないかのよう。
「右足を失認しておるが、我は問題ない。未来視のできる超感覚があれば動きを追うは容易い」
「び、びっくりした……」
 全く動じていない蜚廉の言の葉に、内心胸をなで下ろすサン。
 ――でも、これで。
「何も考えずに殴れる!!」
 サンは拳を握り込むと、壁に手をつき転倒を免れた魔法使いを全力パンチで牽制しつつ、別の魔法使いの左足を震脚で一気に払う。
 今度こそ完全にバランスを崩し転倒した魔法使いたちが起き上がるより早く、サンが無差別攻撃よろしく放ったパンチが急所にめり込み、気絶させていた。


 その後も、蜚廉とサンは協力しながら、次々と魔法使いたちを気絶させてゆく。
 サンはいつも通り、真正面から魔法使いたちに突っ込み、拳で殴り飛ばしているだけだが、その動きに合わせるよう、蜚廉が跳爪鉤と斥殻紐を駆使して魔法使いたちを捕縛した。
(「蜚廉の旦那が私の動きに合わせて、敵の動きを阻害してくれている!」)
 サンの期待に応えるよう、蜚廉も右脚を庇いながら、移動中はサンの攻撃を邪魔しないよう超感覚で戦場の気配を掴み、時にサンが攻撃に集中できるよう動きながら魔法使いたちの動きを阻害し続ける。
 だからサンは、何も考えずに、最も敵を纏めて殴れる距離と位置から拳を繰り出し、殴り飛ばせばよくなっていた。
「いつも無茶ばっかしてごめん! ありがとっ!」
「言葉など要らぬ。無茶はお互い様だろう、終わったら一杯付き合え」
「ま、そうね」
 失認している右脚を引きずるように動く蜚廉に礼を告げながら、サンは再び魔法使いたちに接敵する。
 蜚廉の√能力の影響で右脚はあるのに認識できない状態に追いやられた魔法使いたちは、接近したサンの拳を避けられず、次々と殴り飛ばされ気絶していった。
 それでも洗脳された魔法使いたちは、己が主と認識している男の命令に従い、杖と詠唱のみで魔術を構成し、サンと蜚廉を焼き尽くさんと緑色のファイアボールを生み出す。
「――我が気づかぬとでも思ったか」
 魔術の予備動作の気配を潜響骨で拾い、翳嗅盤で魔法使いたちの焦りを捉えながら、蜚廉は手近にいる魔法使いを甲殻籠手を嵌めた手で殴る。
 魔法使いたちも杖で防御しようとするが、籠手を嵌めた拳は鋭く、しかし見た目以上に重い。
 ――ドスッ!!
 結果、魔法使いは杖の上から拳を急所に叩き込まれ、杖を折られた挙句に目を大きく見開きながら倒れた。
 術者が意識を失ったことで、緑色のファイアボールが消滅する。
 これで残った魔法使いは――あとひとり。
「させな――」
「――遅い」
 最後に残った魔法使いが詠唱を始めようとするのを見て、蜚廉は跳爪鉤を投げつけ、魔法使いの腕に引っ掛ける。
 魔法使いが跳爪鉤を外そうと手をかけるが、蜚廉は跳爪鉤を引っ張り、一気に魔法使いに接近した。
 そのまま魔法使いの胸倉を掴み、拘束する。
「ふぁ、ファイア――」
「――唱えさせぬ」
 それでも魔法使いは強引に魔術を発動させようとするが、蜚廉はその前に魔法使いの身体を思いっきりサンに向けて投げた。
「サン」
「あいよ!」
 サンは軽いジャブで、空中から目前に迫る魔法使いを牽制する。
 魔法使いが牽制の拳から顔を背け、詠唱を止めた瞬間、サンは魔法使いの急所に無差別貫通パンチを叩き込み、気絶させた。


 サンと蜚廉の目の前で、最後に気絶させられた魔法使いの身体が頽れる。
 他の魔法使いたちも全員意識を失ってはいるが、目を覆っていた闇は払われているようだ。
 一方、魔法使いたちの戦いを後方で見ていた男は、大剣を肩に担ぎながらサンたち√能力者を一瞥する。
「思ったより時間は稼げなかったか。だが、それなら――」
 √能力者たちの実力を目の当りにした男は、しかし焦るどころか哄笑を浮かべていた。
「――お前たちにこいつらの代わりをしてもらおうか」
 男は倒れた魔法使いたちを一瞥したあと、√能力者たちに大剣の先端を突き付ける。
 それと同時に――大剣の柄に埋め込まれている闇色の魔法宝石が輝き始めた。

第3章 ボス戦 『闇纏う冒険者『ルシウス』』


●√ドラゴンファンタジー:南フランス・ロゼール県――とある都市内・小さな教会
 石壁で囲まれている地下室の床に、大剣を担いだ男に洗脳され、√能力者たちに殺意を向けていた魔法使いたちが倒れている。
 だが、男は配下を全て気絶させられたにも関わらず、√能力者たちを見て哄笑を浮かべていた。
「思ったより時間は稼げなかったか。だが、それなら――お前たちにこいつらの代わりをしてもらおうか」
 男が大剣の剣先を√能力者たちに突き付けると、大剣の柄に埋め込まれている闇属性の魔法宝石が輝き始める。
 その輝きを目にした√能力者たちの視界が闇に覆われるが……すぐに闇は霧散し消えた。
「ほう……√能力者だったか」
 それなら効かないか、とひとりごちながら、男は闇属性の魔法宝石から魔力を引き出し、剣身に闇を纏わせ始める。
「ならば、まずは力ずくでねじ伏せてから、ゆっくり考えるとするか」
 √能力者たちが男の「考え」とやらを問いただすより先に、男は大剣を手に√能力者たちに襲い掛かった。

 √能力者たちは知らぬが、男の名は『闇纏う冒険者『ルシウス』』。
 手にしている大剣は、かつての冒険で手に入れた闇属性の魔法宝石をはめ込んだ、古びた屠龍大剣だ。

 ルシウスの背後には、奥の部屋に通ずる出入り口がある。
 あの出入り口の先を調べるには、ルシウスを排除するしかあるまい。

 魔法使いたちを洗脳し、手駒として操っていた男を倒すため。
 そして、男を倒し――融合ダンジョン事件の黒幕に迫るため。

 √能力者たちは己が得物を構え、闇纏う剣をふるう男と対峙した。

※マスターより補足
 第2章の判定の結果、第3章はこの組織のボス『闇纏う冒険者『ルシウス』』との戦闘になりました。

 ルシウスは闇属性の魔法宝石の魔力で魔法使いたちを洗脳しており、その魔力で√能力者たちを洗脳しようとしてきますが、√能力者であれば抵抗は容易ですので洗脳されることはありません。(Ankerはプレイング次第となりますが、心の弱さを見せない限りは効かないかと)
 ルシウスを撃破すれば、奥の部屋を含めた地下室全体の探索が可能となります。
 なお、予め明言しておきますが、闇属性の魔法宝石は冒険者だった頃のルシウスが手に入れたものですので、魔法宝石を調べても今回の黒幕に繋がる情報は一切出ません。

 2章で気絶させた魔法使いたちですが、ルシウスとの戦闘中は気絶したままです。無差別で範囲攻撃する√能力を使用しない限り、戦闘には巻き込まれません。
 戦闘終了後、魔法使いたちの処遇は√能力者たちに一任されますが、特にプレイングで指定がなければ、自警団に引き渡すことになります。

 ――それでは、最善の結末を求めて。
エアリィ・ウィンディア


 姿を現した『闇纏う冒険者『ルシウス』』の姿を見て、エアリィ・ウィンディア(精霊の娘・h00277)は相手の戦力を見定めようと観察し始める。
「大剣と魔法……魔法戦士ってところかな?」
 ルシウスの背後には、別室に通じると思われる出入り口がぽっかりと口を開けている。
 あの先に何があるか、気になって仕方ないが……。
「今は倒すことを考えるっ!」
 右手の精霊剣、左手に精霊銃を構えながら、エアリィは小声で魔術の詠唱を始めた。
 詠唱完了まで――60秒。
 それまでは詠唱を悟られないようにしながら、ルシウスの攻撃を捌かねばならない。
「まあ、後の事は屠ってから考えよう。では『君のからだ、いただくよ』」
 ルシウスも闇属性の魔法宝石から魔力を引き出し、屠龍大剣を強化しながらエアリィに斬りかかる。
 狙いは――エアリィの口だ。
(「詠唱に気づかれている!?」)
 もし、大剣で口を斬られれば、たとえ浅い傷であってもしばらく魔術の詠唱ができなくなるだろう。
 魔術の性質上、ダメージは全て詠唱完了後に受けるとはいえ、ダメージ以外の付加効果はどうなるかわからない。
(「あの剣だけは何としてでも避けないと!!」)
 何としてでも口だけは大剣に斬られるわけにはいかないと、エアリィは多重詠唱で魔力をためながら、中距離を維持すべく精霊銃で牽制射撃を行う。
 その一撃を、ルシウスは剣に籠めた闇の魔力で弾きつつ、一気にエアリィとの距離を詰めて来た。
 闇を纏う屠龍大剣が、エアリィに向け振り下ろされる。
 エアリィも急ぎ防御用のオーラを頭に集中させ、さらにエネルギーバリアを展開しながら精霊剣で大剣を受け止め、逸らした。
 大剣に掠められたバリアが闇に蝕まれ変色するが、オーラとバリアの二重の守護が大剣が纏う闇の魔力を打ち消し、腕を浅く斬られた程度に留めてくれた。
 だが、それでも至近距離まで詰められたことに変わりはない。
 やむなくエアリィは精霊銃での牽制を繰り返しつつ、精霊剣で屠龍大剣を受け流し、詠唱時間を稼いだ。
 至近距離から精霊銃を撃ち、精霊剣で牽制を続けていると、やがて詠唱と魔力のチャージが完了する。
 今だ、とエアリィは剣と銃を落としつつルシウスの懐に無理やり飛び込み、組み付いた。
「捕まえたっ!『六界の使者よ、我が手に集いてすべてを撃ち抜きし力を……!!』
「!!」
 その言の葉が詠唱完了の合図と気づいたルシウスが、強引にエアリィを振りほどこうとするが、エアリィは構わず魔術を発動させた。
「これがあたしの切り札っ! 遠慮せずもってけーーっ!!」

 ――ドウッ!!

 多重詠唱で通常の18倍にまで威力を高められた精霊六属性の魔力砲撃が、至近距離からルシウスを吹き飛ばす。
「はあっ、はあっ……」
 纏めて襲い掛かって来た傷の痛みに涙を浮かべながら、エアリィはルシウスをじっと見つめる。
(「それでも、切断されなかっただけ幸運だったかも……」)
「全く、痛いじゃないか」
 至近距離から魔力砲撃を浴びたルシウスもまた、全身ボロボロにされながら痛みに顔を顰めている。
 それでも、まだルシウスは戦意を失っていないのか、改めて屠龍大剣を構え直した。
「奥に行きたいけど、まだ元気そうだなぁ……」
 ――ならば。
「もうちょっと頑張って、道を切り開くっ!」
 他の√能力者に追随してもらうために、エアリィは精霊銃と精霊剣を拾い上げ、再度詠唱を始めていた。

ヒルデガルド・ガイガー


 魔力砲撃を受け全身をボロボロにされた『闇纏う冒険者『ルシウス』』の姿は、地下室に駆けつけたヒルデガルド・ガイガー(怪異を喰らう魔女・h02961)も目にしていた。
「いつぞやのダンジョンの同種のようですけど……少し違いそうですね」
 ヒルデガルドの脳裏に浮かぶのは、√EDENのある中学校で目にした、殺意を滾らせたゴブリンの記憶。
(「あのゴブリンの正体は、強い恨みを持っていたためにダンジョンに誘われ、モンスターに変異した√EDENの人間だったと聞いています」)
 しかも√EDENに突如現れたあのダンジョンは、√ドラゴンファンタジーのダンジョンだったと言う。
 ということは、√EDENの人間をダンジョンに誘い、ゴブリンに変化させた黒幕がどこかにいるはずなのだが……。
(「……おそらく目の前の男はそうではないでしょうね」)
 他の√能力者たちの話を聞く限り、この男は何らかの意図をもって一般人を攫っている集団のボスらしい。
 しかも床に倒れている魔法使いたちは、どうやらボスが洗脳していたようだ。
 ――なぜ人間を攫っているのか。
 ――攫った人間はどこへやったのか。
 聞きたいことは山とあるが、それは他の√能力者の役目だとぐっと堪えながら、ヒルデガルドはドSさを隠すように宣言した。
「では、黒幕への見せしめに、全力で塵に還して差し上げましょう」

「人数が増えようが、全員屠ればいいだけだ……ほら、『みんな闇で包んであげるよ』」
 ルシウスが一言唱えると、闇属性の魔法宝石から闇があふれ出し、屠龍大剣に纏わりつく。
「さて、君も闇に取り込んであげよう」
 目前のヒルデガルドに向け、ルシウスは闇を纏った屠龍大剣を振り下ろす。
 ヒルデガルドも麻痺毒を仕込んだ霊波を放ち、ルシウスの大剣を逸らした。
 逸らされた大剣が、派手に床を叩く。
 刹那、大剣から闇の霧が溢れ、部屋全体を瞬時に闇で覆い尽くした。
 ルシウスとヒルデガルド、お互いの姿が闇に包まれる。
 だが、闇の中でも、ルシウスの輪郭と空色の瞳はうっすらと確認できた。
(「闇、といっても全く見えないわけではなさそうです」)
「いい剣だなぁ、気に入ったぜ。そいつでこの俺様を地獄の果てまで楽しませてもらうぜ」
 ヒルデガルドはガラリと口調を変えながら、うっすらと見えるルシウスの姿に向け、右掌を突き出す。
「闇雲に攻撃したところで、『やられるのは君の方だよ』」
 ルシウスもヒルデガルドの狙いを読みつつ、屠龍大剣を構えてあえて接近した。
 突き出している右掌が身体に触れれば、ヒルデガルドが屠龍大剣の間合いにいる証となる。
 そして、右掌で攻撃されれば――その瞬間、魔法宝石で強化した屠龍大剣の一撃がヒルデガルドを至近から襲うだろう。
 ルシウスの脇腹に、ヒルデガルドの右掌が触れる。
 今、とルシウスは闇属性の魔法宝石で屠龍大剣を強化しながら振り下ろすが――魔法宝石はルシウスの意に反応せず沈黙している。
「なっ……!?」
「【|怪異を喰らう魔女の手《ウィッチハンド・オブ・ストレンジイーター》】――てめぇの切り札は封じさせてもらったぜ」
 言葉を失うルシウスに、ヒルデガルドは嗜虐的な笑みを浮かべながら告げる。
 人心の弱みに付け込み洗脳する、忌まわしき怪異の如き闇属性の魔法宝石の魔力は、ヒルデガルドの魔女の手で完全に封じられていた。
 振り下ろされた屠龍大剣の一撃がヒルデガルドの肩を叩くが、魔法宝石の強化を断った今、その一撃は酷く軽い。
「俺の心ん中は闇よりも遥かにどす黒いぜ。その程度の闇じゃ俺の心を閉ざすには眩しすぎるんだよ!」
「……!!」
 周囲の闇よりさらに昏い、心の闇黒に触れてしまったルシウスの目が、大きく、大きく見開かれる。
 動けぬルシウスを見て、ヒルデガルドは至近距離から霊波を放ち、吹き飛ばした。

サン・アスペラ
和紋・蜚廉


 魔法宝石が齎す闇よりさらに深い闇黒を見せられ、動揺している『闇纏う冒険者『ルシウス』』の前に、和紋・蜚廉 (現世の遺骸・h07277)とサン・アスペラ(ぶらり殴り旅・h07235)のふたりが立つ。
「一応確認するけど、この人達を操ってたのはお前ってことでいいんだよね?」
 サンは言の葉の端々に怒りを籠めながら、気絶している魔法使いたちを指差しつつ、ルシウスに問う。
 だが、ルシウスは返事をせず、サンを鼻で笑うだけ。
 そんなルシウスに向け、サンはふつふつと沸き上がる怒りに身をまかせながら告げた。
「みんな大切な人が居なくなって悲しんでた……ううん、今でも悲しんでる」
「ほう、わざわざ代弁してくれるのか」
 嘲笑を崩さぬルシウスを見て、サンはぐっと拳を握り込み、微かに身体を震わせながら叫ぶ。
「なんでこんなことをしたのか……とかは聞かないよ。ただぶっ飛ばされてくれればそれで十分!」
「そう言う事だ。覚悟しろ」
 これ以上の問答は無用、と口にする代わりに。
 蜚廉とサンは同時にルシウスとの距離を詰めるべく、駆け出した。


「そちらから飛び込んで来るなら――『君のからだ、いただくよ』」
 ルシウスは闇属性の魔法攻撃で古びた屠龍大剣を強化し、蜚廉とサンを待ち受ける。
「蜚廉の旦那、正面は任せた!」
 サンは緋環拳からワイヤーを伸ばし、ルシウスの腕を絡め取り動きを阻害しながら一気に背後へと移動した。
「任された。『殻は苦を包み、苦は力となりて我を動かす』」
 蜚廉も潜響骨でルシウスの動作を聞き、翳嗅盤でルシウスの感情を嗅ぎ分けながら接近する。
 ルシウスも蜚廉の背目がけて屠龍大剣を振り下ろすが、蜚廉は研ぎ澄まされた野生の勘で攻撃を読み、避けながら、殻裂転導でルシウスの腹を裂いた。
「くっ……!」
 至近距離、かつ高速で擦れる殻に裂かれながらも、ルシウスは蜚廉の殻を切断せんと強引に屠龍大剣を振り下ろそうとする。
 だが、大剣を振り下ろそうとしたまさにその時、再度蜚廉の殻が激しく擦れ、腹をより深く裂いた。
「さっすが旦那――って!?」
 サンが追随しようとして蜚廉に目をやり――身を固くする。
 見れば、蜚廉の左目は破壊されたかのように潰れていた。
「旦那も無茶をするね!?」
「問題ない。蟲にとって視覚は補助にすぎず、振動と匂いで敵を掴む故」
 それでも目を潰して即座に再行動するのは……無茶の一言に尽きる。
 だが、その無茶のおかげで、ルシウス自身に大きな隙が生じているのも事実だ。
 ――ならば。
「今だ!『私の拳に! 殴れないものなんてない!』」
 サンはワイヤーを引っ張り一気にルシウスに接近し、奥義『|崩天燦華《フラクチュア・カエリ》』で胴を狙う。
 ルシウスも避けようとするが、片腕をワイヤーに捕らえられたままでは思う様に動けない。
 動けぬルシウスを、サンは己が拳で周囲の空間ごと四方八方から叩く。
 拳を引いた直後、左腕がぽきっ、と折れた。
「ぐはっ……!!」
 全方位から叩かれ、ルシウスもたまらずよろめく。
 そんなルシウスの剣を4本の腕で抑え込みながら、蜚廉は3度目の殻裂転導でルシウスの腕を裂いた。
 ルシウスも腹の痛みを闇の魔術で無理やり抑えながら、蜚廉の4本の腕を一気に屠龍大剣で断ち切らんと振り上げようとするも、蜚廉も迷わず右目を破壊し、4度目の殻裂転導で再び腕を裂き阻止した。
 破壊された両眼が激しく痛み、蜚廉の意識を苛む。
 意図的に毒で痛覚を鈍らせ、さらに過剰な程の集中力で意識を常に戦場に縫い付けてはいるが、それでも破壊された目が振動しているような錯覚に襲われる。
 だが一方で――熱が身を焦がし、削れる殻の感覚が心地よく響く。
「昂るな…! サン。汝の拳が、風を裂く音がよく聞こえる」
「いやだから旦那は無茶しすぎだって!!」
 サンの叫びを蜚廉は意図的に無視しつつ、屠龍大剣の腹をグラップルで叩く。
 身体ではなく屠龍大剣に思わぬ圧力を受け、ルシウスが大きく体勢を崩した。
 再び大きな隙が出来たと見て、サンが動く。
 奥義『崩天燦華』は、次の一撃を超強化する代わりに片腕が折れる。
 先ほど、1度奥義を使ったことで、左腕は折れ、自由に動かせない。
 この状態でもう1度奥義を使えば……もう片方の腕も折れ、事実上攻撃不能となる。
 |格闘者《エアガイツ》にとって、両腕が使えないのは、あまりにも致命的。
 だが、それでも、広場で出会った人々を悲しませているこの男は……許せない。
「旦那が身を削って戦ってるんだ! 私だって骨の一本や二本くれてやる!」
 サンは残った右腕で三度ワイヤーを放ち、ルシウスの腕をよりきつく絡めとる。
「ぐっ、この――」
「このまま吹っ飛べえええええ! 奥義『|崩天燦華《フラクチュア・カエリ》』!」
 ワイヤーを解こうとやっきになるルシウスに、サンはワイヤーを引き一気に接近しながら己が拳を浴びせた。

 ――ドゴゴゴゴゴォッ!

 四方八方から放たれる拳が、周囲の空間ごとルシウスの全身を強く、強く打ち据える。
「ぐっ、この――!!」
 超強化された拳に殴られたルシウスは、サンの右腕が折れる微かな音を聞きながら床に倒れ伏し――消滅した。


 ルシウスの身体が消滅した後、蜚廉とサンはお互いを応急手当し、地下室を調べ始める。
 だが、地下室をいくら探っても、黒幕に繋がる資料は見つからない。
「攫った人のリストもないかあ……」
「どうやら、目ぼしい資料は残っておらぬ……否、最初から無いようだ」
 おそらく、ルシウスは己の頭のみに必要な情報を記憶し、資料として残さないようにしていたのだろう。
 それでも、何としてでも情報を、と野生の勘を働かせ探すサンの耳に、突然微かな呻き声が飛び込んできた。
「うーん……」
 サンが耳を澄ましてみると、呻き声は奥の部屋から聞こえてくる。
 蜚廉とサンは顔を見合わせると、他の√能力者たちに自警団への連絡を頼み、急ぎ奥の部屋に駆け込んだ。

 奥の部屋は、先程まで戦場となっていた部屋に比べ幾分か狭く、家具はひとつも置かれていない。
 そんな殺風景な部屋の隅に、両手を拘束された一般人が数名程転がされていた。
「大丈夫!?」
 サンと蜚廉は急いで一般人達の拘束を解き、手当てをすると、やがて一般人達が意識を取り戻す。
「あ、ありがとう……ございます」
「事情を聞かせてくれる?」
「はい、実は――」
 一般人達いわく、彼らはつい最近ここに連れ込まれ、魔術で眠らされていたという。
「眠らされる直前、先に連れ込まれていた人たちが数名程、眠らされたまま魔法使いたちの手で連れ出されるのを見たのですが、覚えているのはそこまでで……」
 他の一般人に聞いても、連れ出された一般人が何処に連れて行かれたかはわからないと返って来る。
 だが、他の拠点にも乗り込んだ経験のある蜚廉は、何となく行き先の見当がついていた。
(「おそらく、彼らはダンジョンに連れ込まれておろうが――ここで告げるべきではないか」)
「とにかく、無事でよかったわ。さあ帰りましょ」
 思考の海に沈みかけた蜚廉の耳に、一般人達を立たせているサンの声が飛び込んで来る。
(「今は此の一般人達を、待つ人たちの元へ帰すのが先か」)
 蜚廉もまた、そう思考を切り替えながら、サンと一般人と共に地下室の出入り口に向け歩き出す。
 地上へと繋がる階段の上に目をやると、他の√能力者から一報を受けた自警団が突入して来るのが見えた。

 行方不明者を全員救うことは叶わなかったが、それでも一般人を攫いダンジョンに送り込んでいた拠点のひとつは潰した。
 かくして、黒幕たる『リンドヴルム』ジェヴォーダンの目論見を潰した√能力者たちは、魔法使いたちの処遇を自警団に委ね、あるべき場所へと帰って行った。

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