お嬢様のグルメなわがまま
●
「パティシエになりたいんですの」
金髪の縦ロールくるくるした見るからにお嬢様という少女が、ドレスの裾を翻して歩き出す。
「お嬢様、だからと言って材料まで取りに行くのは」
「そうです、ダンジョンの近くは大変危険です!」
メイドさんや執事さんらしき人がお嬢様を止めようと言葉を尽くす。だが、お嬢様は譲らない。
「パティシエなら、素材を追求してこそ一流ですわ!」
「お嬢様ー!」
●
「甘いものは正義だけど、危険なことはよくないのね。ひなもわかるの」
うんうん、と頷きながら星詠みの春日・陽菜(h00131)が言う。
「でも、熱意は買うのよ。だから、√ドラゴンファンタジーのお嬢様を助けてきてほしいの」
ひなが言うには、お嬢様の名前はエイミー。金髪縦ロール、ふわふわドレスのいかにもなお嬢様だと言う。
「まずはね、お嬢様が出したクエスト……牛乳持ってきてとか、よい卵選んでとか、お砂糖は上白糖!とかお菓子つくりの材料を街で揃えてもらいたいの」
√ドラゴンファンタジーは幸いにして食料に困っている√ではない。その辺にコンビニもあるし、お菓子だって一通り揃っているくらいだ。
「でもね、パティシエになりたいお嬢様なのよ。普通の牛乳じゃ見向きもしないの。だからね、普通の牛乳になにか、こう、すっごいこと付けてもらいたいの。例えばね……うーん、この牛乳は千頭いる牛の中で一番美人さんな牛から取れましたー!とか」
箔をつければ勝ちらしい。
お菓子作りの材料は無難なものが一通り揃えば大丈夫だと言う。
「材料が揃う時間によって、その後の未来は変わってくるのよ。待ちきれず出かけてしまったお嬢様を探すか、お嬢様の無理難題をさらに聞くか」
どちらにしても、最後はダンジョンに入らなければいけないらしい。
「ダンジョンの奥にね、伝説の『パフェ』の資料を持った敵がいるのね……伝説のパフェ……じゅるり」
陽菜は慌ててよだれを拭う。あぶないあぶない。
「お嬢様は一流のパティシエさんになるため、その伝説のパフェも狙っているの。だから、お嬢様がダンジョンに行ってうっかりモンスターになっちゃったりしないように、助けてあげてほしいのね」
陽菜はうんうん、と頷くとぺこりと頭を下げた。
「お嬢様のこと、お願いしますなのよ。助けてあげてなの」
第1章 日常 『クエストを受注しました!』

「普通の食材でいかに特別感を出せるか研究してみるのも、勉強になると思うんだけどね」
少し腕組みをし、呟くのはノア・キャナリィ(自由な金糸雀・h01029)。銀の瞳を少し伏せると長い睫毛が影をつくった。
ノアの言ったことは正論で、きっとお嬢様付きのメイドさんや執事さんは泣きながら頷いただろう。
「(まぁとはいえ、素材を追求してみたい気持ちもわからなくはないから手伝ってあげますか)」
良い子である。
「(お菓子作りは得意だから知識を活かして、品揃えと制限時間の範囲内でそれなりに良いものは選んであげる)」
この場合の制限時間とは、お嬢様がダンジョンに飛び出して行かない間、である。そう考えると時間は案外と短いかもしれない。
この街ならば、卵も上白糖も簡単に買うことができる。
問題は、お嬢様が納得する箔――最高級と認める理由である。
さて、と考えながらノアは卵と上白糖を購入すると、お嬢様のところへ向かった。
「こちらの卵は?」
尋ねるお嬢様に、ノアは自信たっぷりに言う。
「拘り配合された高級餌で育成された鶏の中でも、特別に定められた基準をすべてクリアした高品質な鶏が産んだ卵だけを厳選した卵パックです」
流れるような言葉に、なんだかわからない言葉が入っていても反論のできないお嬢様。
「で、ではこちらの上白糖は?」
「世界的にも数少ない、育成に必要な全ての条件が一定基準以上を満たした特別な土地で、更に肥料にも拘って育てられたサトウキビだけを用いて作られた、資産家が大金叩いてでも欲しがるほどの上白糖です」
今度も流れるような言葉のノア。自信たっぷりな笑顔に、さすがのお嬢様も文句のつけようがない。
「なんてすごい冒険者ですこと……!」
「ありがとうございます」
ノアは心の中でぐっと握りこぶし。ちゃんとそれなりの物は選んである。あとはお嬢様の熱意次第だろう。
「パティシエ凄いわ!」
アプリコット・プラム・ナイチンゲール(冒険者デビュー!・h02497)が目をきらきらさせれば、一緒のアメ・ドライスデール(氷雨・h01051)もうんうん、と頷いた。
「パティシエかぁ、ボクは食べる専門だから作れる人は尊敬するよ」
「私も食べる方が好きだから、作れる人は凄いわね!」
二人の中では「お嬢様=凄い」の図式ができあがっているようだ。きっとお嬢様、喜んじゃう。
早速二人は情報収集。できるだけよい素材をお届けしたい!
「すみませーん」
アメが街の人に声をかける。アプリコットも一緒に尋ねれば、親切な街の人は二人に色々教えてくれる。
お嬢様が危ない所へ行かないくらいの時間、聞き込みをすれば、いくつか特別な素材を提案されるが……。
「あの山に住むモンスターの卵がすっごい美味しいって噂だよ」
とか。
「お菓子の飾り付けなら高山ベリーよ! つやつや真っ赤で、齧ると甘酸っぱくて最高なの」
とか。
「森の奥の泉に湧くソーダ水! どんな果物ともぴったり!」
とか。
「森に一本だけ生える木から採れる木の実。歯ごたえがいいんだぁ」
とか。
「……どれも時間が掛かっちゃうね」
「うん……」
やっぱり特別な材料はそれなりに苦労も必要そうで。
「お嬢様がダンジョンへ行っちゃう前に何とかしないと!」
アメがぐっと握りこぶしを作れば、その脇を通っていく自転車。
「牛乳~、本日採れたての牛乳~」
「牛乳屋さん!」
これだ! とばかりにアメがひらめく。本日採れたての牛乳なら、きっと美味しいに違いない!
アメとアプリコットは牛乳を買って、お嬢様のお屋敷のほうへ。
とは言え、アメはなにかもう一息ほしい、と考える。
「箔はどうしよう? 『すっごい牛乳!』」
すごそうです。
「『空から落っこちてきた牛乳!』」
それもある意味すごそうです。
「あとは……『激辛牛乳』?」
「激辛?」
アプリコットが思わず尋ねれば、アメはテヘペロ。
「これはボクが嬉しいだけか」
紫の瞳がきゅっと閉じると可愛くて、アプリコットも許しちゃう。
「わーん、アプリコットちゃん何か良い案ない!?」
頼まれたアプリコット、むむむ……と考える素振りをして√能力を発動!
――|はたらく妖精さん《ヘルプミーユウシキシャ》。
予めしっかり用意しておいたおもてなし空間に、よい食材に詳しい有識者さんとお世話係さんが召喚される。
「(きっと|有識者《ようせい》さんが教えてくれる! お手伝いの人頑張って!)」
考える(素振りの)アプリコットとそれを固唾をのんで見つめるアメ。
緊迫の沈黙。
そして、ぴこーん! と閃いたかのように。
「『広々とした牧場で、のんびりとした音楽と優しい香りを味わって、ストレスなく育てられた牛から採れた牛乳』!」
いい感じに纏めてもらえたので、能力解除。
「アプリコットちゃん、すごい美味しい牛乳っぽい!」
「これでいいかな、アメ?」
「うんうん! 早速お嬢様に差し出しに行こう!」
二人は嬉しそうに牛乳を抱えてお嬢様のもとへ。
勿論、お嬢様にもハイクオリティーの牛乳ということは一発で理解してもらえた。二人はとっても喜んでもらい、出来たお菓子をご馳走してもらう約束までしたのだった。
――伝説のパフェ。ならば!
「お仕事しに来ました!」
爽やかな声でお嬢様のもとへ材料を持ってきたのは、野分・時雨(初嵐・h00536)。
「どんな素晴らしい材料ですの?」
尋ねるお嬢様に時雨がまず差し出すのは牛乳だ。
「さて、お嬢様」
一拍置いてから語られるのは、素晴らしい牛乳のお話。
「こちらの牛乳はぼくが頭突き死合った中でも一番の石頭」
見れば時雨の頭には野牛の角。実際は時雨は人妖「牛鬼」なのだが、お嬢様が大きく頷いているので細かいことは語らなくてもよさそうだ。
「ここら一帯の牛を全て倒しましたが、彼女が一番でした。母は強し。強い牛に宿る最高級の牛乳。如何でしょう」
仮にも√ドラゴンファンタジーのお嬢様である。そんなわくわく冒険譚、食いつかないはずがない。
「残念ながらぼくが勝ちましたが」
しかもにっこりと言う時雨への尊敬の念まで湧いちゃう。
「そしてこちらの小麦粉。まさに魔法の粉」
すっと差し出された紙袋にお嬢様の目は釘付けに。
「一見何の変哲もない小麦粉ですが、|秘めたる力《爆発力》は侮るなかれ。火力とあわせれば人々を巻き込み下が爆発せんばかりの旨味でございます」
「そ、それは……!」
感動して震えるお嬢様。さらに時雨はにっこり。
「火を扱う際は気をつけてくださいね」
「こ、こんな素晴らしいものを……! 私、絶対に美味しいスイーツを作りますわ!」
ぐっと握りこぶしを作るお嬢様に、時雨はひとつ提案を。
「ぼく的には中にプロテインとかサプリメントとか入れた方が、力をつけるために合理的だと思うのですが」
お嬢様は目を瞬いた後、ふるふると首を振る。
「ダメ?」
こくり。
「ですよねぃ」
新作お菓子は合理的なものではない、甘いもので決定のようだ。
「(チョイと向こう見ずな冒険の向こう側から口八丁で身を守れるってンでしたら海石榴屋の本懐ってもんで)」
お屋敷の前に紙芝居屋さんの自転車を止めて、お嬢様に面会を求めるのは二代目海石榴屋・侘助(胡乱な紙芝居屋さん・h01536)。
出てきたお嬢様に侘助は小さな紙袋を差し出した。
「サテサテまずはこいつを召し上がっていただきてェンですよ」
お嬢様は怪訝そうな表情で黒い棒状のお菓子を取り出す。
「これは?」
「コレ、海石榴屋印のかりんとう。まァパフェみてェに小洒落ちゃおりやせんがね」
どうやらお嬢様、かりんとうは初めてのご様子。指にもって右に左に縦に横に。
「なにしろ本物を追求しようってェ粋なお嬢さんでございやすから、このカリッと軽くサラリと潔い後口の良さがわからねェ訳がございやせんでしょ?」
そう言われてしまえば後には引けないお嬢様。初めてのかりんとうを、カリッと。そして目を見開く。
「なんですの……!? 油を使っているはずなのに、この後口は……!」
「その秘訣がコレ!」
そこで侘助がすっと差し出すのは小さな油の瓶。
「揚げに使ったこの椿油が決め手ってなもんで、古椿ってェ人心を惑わすおっかなァい妖怪、否サ、モンスターからおっかなびっくりかき集めた種を昔ながらの手仕事でじっくりとっくり絞り上げた逸品なんでございやす」
「モンスターから種が?」
そんな冒険譚、聞いてしまったら√ドラゴンファンタジーのお嬢様だってわくわくしちゃうわけで。
「如何です? お眼鏡にゃ適いやせんかね?」
「いただけるなら、是非にほしいわ。でもあの」
お話も聞きたそうなお嬢様。それなら、侘助の十八番だ。
「では、本日の紙芝居、演目は『小悪妖怪、道惑わさんと欲するも天罰覿面、因果応報を蒙ること』と参りましょう」
拍子木をチョチョン。紙芝居のはじまりはじまり。
「(あらぁ、うふふ。夢を追って脇目も振らず、なんて。可愛らしいお嬢さま)」
ユッカ・アーエージュ(レディ・ヒッコリー・h00092)はふんわりと微笑み、思う。
「(こういった瞳のきらきらした子を見ると、おばあちゃん何だか嬉しくなっちゃう)」
ユッカの外見は20代にしか見えない。銀の髪に金の瞳の長命種、エルフ。だからこそ、「あらぁ」で全て温かく包み込んでしまう優しさと度量がある。
ふわり、ふわりとお散歩するような歩幅で、よく見知った街を歩く。
「(お菓子に使う材料なら、私は果物を見に行きましょう)」
果物も大事な材料だ。スイーツの主役にもなりうる材料ならば、とびきり美味しいものが必要だろう。八百屋さんに並ぶのは旬の果物たち。
苺に林檎、柑橘類。柑橘類もオレンジから蜜柑――いわゆるテーブルオレンジ、柚子、ちょっと早めの伊予柑などなど。何しろ苺だけでも何種類も並ぶのだ。
「(どれも見目麗しくて、きっと甘くて香しくて。どれを持っていっても美味しいお菓子が出来ると思うけれど)」
旬の果物なら箔などつかなくても美味しい。そのことを、ユッカはよく知っている。
けれども、お嬢様はどうだろう?
そう思えば、優しいユッカは迷ってしまうが、彼女には力強い「友人」がいる。
「どれがいいかしら? 迷っちゃうわねぇ」
傍らに寄り添う|友人《せいれい》たち。ユッカは森羅万象、どんな精霊とも心を通わすことができるのだ。
「貴方たちならどれを選ぶ?」
尋ねれば、ふわりふわりと集まってくるのは色々な精霊たち。精霊たちも優しければ、ユッカの問に我先にと答えたがるのだ。
「どれが美味しそう? どれが好き?」
勿論、それは√能力「|形あるものはいつか羽ばたく《オーバーチュア・ビギンズ》」の力もあるのだが、そんな力なんてなくたって、精霊たちはユッカのことが大好き。
ちょっと人見知りの精霊も、悪戯な精霊も、みんなみんな、ユッカのそばで囁く。
――ボクはその大きな苺がいいな!
元気に答えるのは北風の精霊。
――私は、よい香りの柚子が好きよ。
気取って答えるのは木漏れ日の精霊。
――我は林檎がよい。その林檎はよい木をしていた。
尊大に答えるのは大地の精霊。
返事を聞くたびに、ユッカはその果物を手にとって購入していく。色々な精霊がいるから果物は小さな籠にいっぱいだ。
その籠を大事に抱いて、ユッカはお嬢様に会う。
「これは?」
お嬢様が苺を手に取ると、ユッカはにっこりと微笑んだ。
「これはね、大自然にひそむ精霊たちが『絶対に美味しい!』って太鼓判を押した果物なのよ」
目を瞬くお嬢様に得意げに微笑み、エルフの耳を指してみせるユッカ。
「私は精霊たちの声が聞けるの」
「まぁ……!」
目を大きく見開くお嬢様。
「苺はね、北風の精霊が絶対美味しいって言っていたのよ。あの子は冷たい中で赤く輝く苺を探し出すのが本当に上手なの。きっとその苺は甘くて酸っぱくて、苺の美味しさがぎゅって詰まっているわ」
ユッカは驚くお嬢様にひとつひとつの果物を説明していく。
「自然のことは自然に訊くのがいちばん。こんなに確かな品は無いわよ、ふふふ」
「(うん、やっぱりスイーツは特別感があるものが好まれるかな。というか我も食べたくなってきたぞ)」
しみじみ思うのは雪願・リューリア(願い届けし者・h01522)。
見様見真似の古風な女性の言葉を使いながら、藍色の髪を少しいじって。
ならば、やることはひとつ。
「(|神聖竜《ホーリー・ホワイト・ドラゴン》にお願いして、お菓子作りに良さそうな卵や牛乳、砂糖を持ってきてもらうぞ)」
他にもパフェに合いそうな甘くて酸味のあるフルーツもあるといいかも、と思って、リューリアは√能力を使う。|神聖竜詠唱《ドラグナーズ・アリア》。優しい竜は、困難を解決する為に必要で、誰も傷つける事のない願いを叶えてくれる。
そして何より、竜が持って来た食材なら、箔もつく筈! そのために最後にお嬢様に竜も挨拶ができれば最高だ。
「お使いのようなお願いだけれど、後で皆と一緒にパフェを食べよう」
|神聖竜《ホーリー・ホワイト・ドラゴン》が頷いてくれれば、リューリアは食材を買う為のお金を渡す。竜が帰ってくるまで、リューリアは少しだけ待って。
竜が選んだ材料を持ち、リューリアはお嬢様の元へ。
「これは、竜が選んで持って来た材料なんだ」
お嬢様にそう説明すれば、リューリアについてきた小さくなった竜はぺこりと頭を下げて。勿論、竜など見るのは初めてのお嬢様。√ドラゴンファンタジーに住むお嬢様ならば、リューリアにも竜にも興味津々。嬉しそうに材料を受け取ろうとする。
けれども、リューリアは渡す前に、ひとつだけ伝えることがあった。
「ダンジョン攻略は我に任せて、エイミーさんはお菓子作りの準備を進めて欲しい」
お嬢様はリューリアの言葉にじーんと胸を打たれて。
「かしこまりましたわ。冒険者の皆様のご無事をお祈りします」
そして、お菓子をリューリアのために作っておくことを約束したのだ。
第2章 集団戦 『あばれうしぶたどり』

かつて、お嬢様は無謀な冒険に出ることなく、ダンジョン攻略を能力者たちに頼んでくれた。
腕利きの能力者と見込んで、お願いしたことは2つ。
1つ目はダンジョンの中層にいるという、美味しいお肉のモンスターを倒してお肉を持ってきてほしいということ。
2つ目はダンジョンの奥にいるという、パフェの秘密を持つモンスターを倒してきてほしいということ。
「お肉?」
能力者の一人が聞くと、お嬢様は少しだけ照れながら言った。
「心配をかけたメイドや執事にご馳走したいんですの」
かくて、能力者たちはまずお肉を取りにダンジョンに挑む――!
「(ご馳走したいというお嬢様の素晴らしいお気持ち。喜んで協力させていただきましょう)」
野分・時雨(初嵐・h00536)はお嬢様に一礼をして、粛々とした気持ちで来たというのに。
現れたのは牛とも豚とも鶏ともつかないモンスター……モンスター?
「ぶもーこけこけ」
しかも鳴き声までなんだか締まらない。
「(何だこの中途半端な。焼き肉のために生まれた生物?)」
なんかやる気もなくなっちゃう。時雨はため息をつきつつ、
「腹ぺこなご友人がいたら即座に食われていたことでしょう。ぼくで良かったですね」
「本当にそうだねぇ。オレで良かったね」
暗闇からすっと現れるのは『ご友人』たるところの緇・カナト(hellhound・h02325)。何かちょっと言いたげな時雨の視線を仮面で受け止めて、カナトはふふり。
「顔見知りも真面目にお仕事してるようだし、オレも頑張ってしまおうかと」
「真面目にお仕事してますよ、でもですね」
「気持ちはわかるよ。此のモンスターは牛なのか豚なのか鶏なのか」
「ぶもーこけこけ」
「……頭部と胴体と脚が増えることは構いませんとも。強さの現れでしょう。でも何? この変な生き物」
「イイとこ取りとか言うけれど欲張りにも程があるんじゃないかなぁ、まぁいいや」
時雨とカナトは同時に頷いた。
「個人的に好きなのは牛肉だけど鶏肉だって捨てがたい」
「ですよねぇ」
時雨はもうツッコミ疲れた表情。カナトは眼の前にお肉があるからか、やる気十分。
でも、二人とも√能力者。敵がいるからには、しかもうようよといるからには、しっかりお仕事、そしてお肉!
「昏い月夜にご用心、」
カナトが喚び出すのは|千疋狼《オクリオオカミ》。ただでさえ薄暗いダンジョンの中に、オオカミを思わせる影の獣の群れが放たれる。月を思わせる銀の瞳、そして鋭い嗅覚が敵の数を索敵し――。
「(見つけ次第で狩りのお時間と行こうk)」
影の獣さんたちが不服そうな顔でカナトを見ています。
「……いや、未だ食べたらダメだからな?」
影の獣さんたち、大変不服そうです。
「美味しいお肉らしいからって喰うなよ??」
影の獣さんたち、一匹くらいばれないよって顔です。
「ばれるよ。ちゃんとお仕事しような?」
影の獣さんたち、ストライキに入りそうです。カナト、どうする!
カナトが交渉をしている横で、時雨は少し考えて。
「(じゃあ……牛揃えで|牛脊雨《ギュウセキウ》で)」
眼の前の敵を牛と言うのは牛鬼たる時雨には非常に、こう、納得のいかないことではありますが、仕方ない。
「|牛《べこ》の背を分けしとど触れ」
雨雲と敵を融合させる。敵、あばれうしぶたどりがとてもしっとりする。つやん。すっかり鈍化した敵へ時雨は鎖鎌を構え肉薄。
「お嬢さまのための、可愛いお肉になって下さいませ」
ざっくりお肉狩り。
カナトのほうも無事交渉は終了していて、何故かお腹いっぱいという顔の影の獣さんたちと数匹のお肉が転がっていた。
「……少し数が減ったかもしれないけれど、キチンと持ち帰れた分で良しとして貰いたいなぁ」
「それはそれとして!」
時雨は鎖鎌を再度構えて、こちらを見ているあばれうしぶたどりたちを睨む。
「牛の名を冠する以上、中途半端なことはしないでください。ツッコミ疲れるんですがッ」
「ぶもーこけこけ」
「その鳴き声も!」
「あ、そういえばこのあばれうしぶたどり、ホルスタインだねぇ」
「そういう細かいところも!」
この後、時雨が牛について熱く語り、あばれうしぶたどりたちは反省して寄ってこなかったとか。
「(なんだ、ちゃんと仕える人達の事も考えられるんだ)」
お嬢様に我儘な印象を持っていたノア・キャナリィ(自由な金糸雀・h01029)はわざわざノア達のことを見送ってくれたお嬢様のことを思い出しながら、強く頷く。
「(いい子のお願いにはしっかり答えてあげないとね)」
薄暗く、ひんやりとしたダンジョンを灯りを持って進む。遠くから見えてきたのは……確かにモンスター。でも、想像してたよりもかなり可愛い。しかもまんまるな姿は抱っこしたら気持ちよさそうだ。すべすべしていそうな皮?はきっとつるんとしてて触り心地もいいだろう。
「ぶもーこけこけ」
威嚇らしき声も、ちょっと間抜けて可愛い。
「(これは……)」
実は可愛いもの好きのノアとしてはちょっと見逃せない。
ちょっとくらいもふり……いや、愛でたい……いや……。
「(でも、狩るために来たのに、裏切りみたいで悪い気もする)」
そこはノア、√能力者として、いや、一人の人間、否、セレスティアルとして譲れない線。強くて優しいのだ。
手を上げれば、収納魔法の応用で虚空から取り出した花弁郡を集めて、その花弁で硝子のように透き通る紅色の美しい鎌、精鎌曼珠沙華を作り出す。曼珠沙華のような鮮やかな透き通る紅の持ち手をしっかり握りしめ、ノアはまっすぐ敵へと向かう。
集中力と常に浮遊しているゆえの機動力、そしてオーラ防御で相手からの攻撃は防御と回避。
氷魔法と組み合わせるのは√能力、紅花乱舞。
「熾烈なる散華の舞、乱れ咲け」
冷気を漂わせた精鎌曼珠沙華は、まるで氷に咲く花のよう。
「(なるべくサクッと終わらせるよ)」
それが可愛いモンスターへの、ノアなりの鎮魂。
薙ぎ払いで切断、ニ回攻撃と範囲攻撃を織り交ぜて仕留めれば、鎌にまとわせた冷気が肉を凍結させる。
「(新鮮なまま保存してお嬢様へのお土産にします)」
お嬢様が嬉しそうに笑う顔が、ノアには今から思い浮かべられた。
「ぶもーこけこけ」
まんまるな体と羽にしては短いそれをぱたぱたさせている「それ」を前にして雪願・リューリア(願い届けし者・h01522)は考える。
「(モンスターとは聞いていたが、何だか可愛く見えるな)」
モンスターの名前はあばれうしぶたどり。お肉として生まれたけどモンスターになっちゃった系の生き物なのだろう。
「(その名前の通り美味しそうだけれど、見た目で躊躇ったりしたらこっちが食材にされかねないし、確実に倒さないと)」
うん、と大きく頷いて、リューリアはなるべく遠くから敵を撃退することにした。
「ぶもーこけっこー!」
近づかれる前に、霊能波で霊波ダメージを与える。
リューリアは、とても冷静だった。
「(複数体を同時に相手にするには厳しいから少数でいる個体を狙うぞ)」
一体でいた敵を狙えば、こちらに向かってくるのも一体。それなら、霊波でしっかり狙いをつけられる。しかも、後で食材にすることも考慮して、なるべく急所だけ攻撃する。
しかし、接近される前に倒しきれないことも。
「(それならこうだ)」
リューリアのヴォルテクスブレイドは強力な磁力と回転力により、電気を生み出しながら、自在に飛翔する自律式機械剣。それを遠隔操作して、リューリア自身は敵と距離を取り直す。敵が電撃で怯んだところに霊能波を叩き込み、しっかりと息の根を止めた。
数匹倒せば、リューリアは手を止める。十分に食材として確保はできた。それならそれ以上無駄に倒す事はしない。
「(しっかりと残さず持ち帰り、せめて美味しく食べてもらわないとだな)」
命は万物に等しく。無駄に倒さず、美味しく食べれる量だけ。
「料理人の腕に期待だぞ」
リューリアは倒したあばれうしぶたどりを持ち、目を細めた。
足取り軽くダンジョン内を歩くのはアプリコット・プラム・ナイチンゲール(冒険者デビュー!・h02497)。そしてその後ろからちょっと心配そうにアメ・ドライスデール(氷雨・h01051)がついていく。
アプリコットはこれが初ダンジョン! わくわくどきどきが止まらない。
「目標は豚さんですよ、アメ」
自信満々、先輩風に声もしっかりと告げれば、後ろからアメがうん、と頷く。
「(冒険者としてはボクが先輩だけれど失敗も経験って言うし、アプリコットちゃんの意思を尊重して行動するよ)」
アメはとってもしっかりした先輩でした。
「豚さんと言ってもモンスターだから気を付けよう……って」
「ぶもーこけこけ」
出ました、モンスター「あばれうしぶたどり」!
「可愛いモンスターだね!?」
さすがのアメ先輩もびっくりの可愛さ。
「(軽率に近づくと危ないけれどこれも経験だと思って黙っていよう)」
ウズウズ、アメも触りたいですがここは危険をしっかり心得て。アプリコットに何かあれば援護できるよう気持ちを整える。
一方のアプリコットも、可愛らしいモンスターに毒気を抜かれた様子。
「どうしましょうか? あ、仲良くできますかね?」
「(無理だよ、アプリコットちゃん!)」
考える様子のアプリコットにアメはウズウズはらはら。
「ちょっと話してきま――って向かってきました!」
「ぶもーこけこけーっ!」
短い脚と短い羽?でばたばた威嚇をして突進してくるあばれうしぶたどり。名前どおり、しっかりあばれてアプリコットに向かってくる。
「これはちょっとお話し合いはできなさそうです!」
言葉も通じないしこれは仕方がない。
とは言え、そこからのアプリコットの気持ちの切り替えは早かった。馴染みのあるバトニングナイフを取り出す。薪割りから怪異を捌くまでこれ一本、大変便利なナイフだ。
暴れる豚へヒットアンドアウェイで挑むアプリコット。
援護射撃の位置へ素早くつくアメ。
「よし、蹴散らすぞー!」
アメが取り出すのは守護精霊フロストが氷弾を撃ってくれるフロスト・ガン。
「フロスト、お願い!」
√能力、|氷雨散々《ヒサメサンサン》。あばれうしぶたどりには絶対零度の霧でダメージを与え、アプリコットには氷晶オーラでバリアを張って……。
「あの豚さん、頭とか足とか増えてるんだけど!?」
「本当、さすがモンスター!」
「こわいから早く倒そう!」
「アメ、わかった!」
増えた足を狙って、動きを止めるアプリコット。そこへ再びアメがフロスト・ガンで氷弾を放つ。
「トドメは任せたよ!」
半分凍ったあばれうしぶたどりを最後に捌くのはアプリコットの役目。
「こう、です!!」
|見様見真似・怪異解剖執刀術《フェイク・サージャリー》。命中した部位を軽く切断すれば、あばれうしぶたどりはころんと倒れて増えていた足とかも消えた。
二人はしげしげとそのころんとした体を眺める。
「これ、美味しいのかな……ちょっと気になる!」
「火であぶってみる?」
手際よく怪異を捌いていた経験を使って持ち帰りやすく捌いていたアプリコットがアメに尋ねる。アメは少し考えてからふるふると首を振って。
「豚さんはよく焼けないとお腹壊すから」
「そうだね。じゃあ、お嬢様にお願いして食べさせてもらおうか!」
持ち帰りやすく捌いて、二人で持てば、それはなんだか「やり遂げた」満足感の重みがする。
「これでお嬢様もみんなに食べさせてあげられますね!」
「アプリコットちゃんは初ダンジョン、おめでとう!」
二人はにこにこしながら、そこを後にするのだった。
「(心配をかけたことを承知して労おうなんて、なんともお人のできたお嬢さんじゃァございやせんか)」
二代目海石榴屋・侘助(胡乱な紙芝居屋さん・h01536)は人情の人だ。お嬢様の人柄に触れて、ぐっと紙芝居屋の魂に火がついた様子。
ダンジョンを進めば「ぶもーこけこけ」という鳴き声が聞こえてくる。これが労うためのお肉なのだとわかれば、かたんと紙芝居を用意する。ここから先は侘助の舞台だ。
「(切った貼ったの大立ち回りは大して得手でもございやせんがね、チョイとお手伝いくらいはさせていただきやしょう)」
「ぶもー?」
興味を持ったのかあばれうしぶたどりが集まってくる。侘助は拍子木をチョチョン。
「お次の演目は先代の十八番から『凄腕の狩人、狩りの腕に驕りて山神の怒りを賜ること』」
――広がるのは√能力「|再演・海石榴屋十八番《マァムカァシムカシノオハナシデゴザイマスヨ》」。
「むかァしむかしあるところに、百発百中、野山の鳥獣にあって撃ち落とせぬものなしと謳われる凄腕の狩人がいたそうでございます」
侘助の周囲がダンジョンから山々の景色に変わる。そして、キャスケット帽をちょっと引けば、まるで侘助が「凄腕の狩人」になったかのよう。
否、それはそういう√能力。
「まァ、演者が演者でございますから、手にしたエモノが弓矢でなしに拍子木をぶん投げるンでもそこはどうぞお目こぼしを」
放たれる殺気にあばれうしぶたどりは鶏の羽や頭を増やして襲いかかってくるが、侘助は冷静に拍子木の片側を持ち、片側で狙いを付けて鎖鎌のような要領で敵をぶん殴る。
「なんせ由緒正しい破魔の音鳴らす拍子木だ」
侘助の拍子木は椿の木で出来ている。椿の木は吉祥木。厄除けなどの意味もある縁起物だ。
侘助はころりと倒れる敵を見ながら、微かに笑んだ。
「うようよ増えるような魔性にゃよく響くんじゃねェですかね」
「(皆にご馳走するためだなんて、とっても素敵!)」
お嬢様の意外に可愛らしいところを見られたことが自分のことのように嬉しいのはユッカ・アーエージュ(レディ・ヒッコリー・h00092)。軽い足取りでダンジョンに向かうのは、やはり√ドラゴンファンタジー世界出身のせいだろうか。
「(待っててね、おばあちゃんが張り切って探してきてあげましょうね)」
まるで先刻の特別な果物を探すときと同じように、気負いも緊張もなく、ただ可愛らしいお嬢様のためにダンジョンの中を進んでいく。
とは言え、ダンジョンも広い。無目的に歩き回っても疲れてしまうだけだろう。
「みんな、お願い。力を貸してちょうだいな」
それは√能力「|形あるものはいつか羽ばたく《オーヴァーチュア・ビギンズ》」。ユッカのことが大好きな精霊たちは、呼ばれたことが嬉しく、頼まれることも嬉しい。
ユッカが事情を話せば、風の精霊は一番乗りを目指して吹き抜けていき、ダンジョンを形作る石の精霊はダンジョン内の様子を探る。少し崩れた箇所から落ちる雫の精霊はユッカの足元を先導し、微かな光の精霊はユッカの視界を助ける。
これだけの仲間がいる上、ユッカはダンジョン経験も少なくはない。だからこそ、慌てることなく、足取りは軽やかに。 余計な殺生を避けるように落ち着いて探索していく。
風の精霊が曲がった先に狙いの「あばれうしぶたどり」がいると告げに来た。覗き込むユッカと精霊たち。
「ぶもーこけこけ」
なかなか特徴的なモンスターがうようよごろごろしている。これが目的の敵だとわかれば、ユッカは唇に指を立てた。精霊たちにも自分にも、静かに、静かに。
「――それじゃあ、お話をしましょうか。沢胡桃の木々が肩を寄せ合う、あの優しい森の思い出話を……」
精霊に語り聞かせるような小さな声で発動するのは「|沢胡桃の乙女《レディ・ヒッコリー》」。するとモンスターたちが沢胡桃の森に包まれる。此処はユッカの大事な場所。
異変に気づいたモンスターたちがきょろきょろとする。
「ぶも?」
「こけこ?」
必要なお肉は多くない。あれだけまんまるなお肉なら、数匹で十分だろう。
「精霊さんたち、力を貸してね」
風の精霊が、石の精霊が、水の精霊が、光の精霊が、さらにはモンスターにくっついていたらしい砂の精霊なども、ユッカのためにその攻撃力を振るう。
そしてこの森の中なら、攻撃は必中。
「みんな、いいかしら。せーの!」
そうして一斉に発射!
「(一気に倒して無駄に苦しませないようにしましょうね)」
ユッカは数匹を苦しませることなく倒すと、周囲は静かになった。
「それじゃあ……いただきます」
そうして、これから食材になるモンスターに、命に、お辞儀をして精霊たちにも頼んで持ち帰るが……。
「(あら? そういえばあのお嬢さま、自分で捌けるのかしら……?)」
お嬢様が目指していたのはパティシエだ。ユッカの疑問はお屋敷で直接聞いてみるしかなさそうだ。
第3章 ボス戦 『パフェ・スイート』

ダンジョンの奥からは甘い香りがしてくる。
それは果物系の甘い香りもあるが、どちらかと言えばクリーム系の甘さだ。
現れた可愛いモンスターは√能力者たちを見るとパフェのような武器を構えた。
「あなた達もパフェの秘密を盗みに来たの? あたしの秘密は教えてあげない!」
モンスターの秘密はいらないけれど、やっぱりパフェの秘密は欲しい。√能力者たちは臨戦態勢に入った――。
ダンジョンの暗闇をものともせず、歩いていくのは二人の青年。足音を立てることもなく、暗闇に目を眇めることもなく、二人は軽口を叩きながら歩く。
「ところでお友達からオレは生肉食べるようなヤツだと思われてたなんて心外だなぁ」
さも悲しそうな口調で言うのは緇・カナト(hellhound・h02325)。そんな口調を受け流し、野分・時雨(初嵐・h00536)は理解しているかのように頷く。
「さすがに生肉はいきませんよねぃ」
「流石に食べないよう……今は」
「失礼しました……今はって何??」
そこは突っ込まずにはいられないポイント。時雨が訊くが、カナトは仮面の下でふふり。
「さて次はパフェのレシピだってね、頑張ろ~」
「ちょっと? 一人だけ切り替えないでください」
しっかり後々のためにも聞いておきたいところをカナトはするりと躱してダンジョンの最奥へ。
「……このダンジョンにいる敵、色々ファンシー過ぎやしない?」
「あらら、可愛いお嬢サンで」
パフェの秘密を握っているらしいモンスター? はパフェやゼリーで飾り付けされた女の子、パフェ・スイート。
「かっこいいお兄さんだけど、あたしの秘密は教えてあげない!」
パフェの形のステッキをぐるぐる回しながら、パフェ・スイートは臨戦態勢。
「モンスターの秘密がいらないのは同意しよう」
カナトは冷たいお返事。
「なんで! あたしの好きなスイーツや男性のタイプはいらないの!」
たぶん、その秘密はいらない。
「パフェの方は仕事だから持ち帰ろ~」
「依頼主のお嬢様を優先するのはもちろんですが」
時雨は少し悩み顔。
「女の子の大将首ってすごく取り辛いんですよねぃ」
何故かパフェ・スイートがにっこりした。たぶん「女の子」って言ってもらったからだろう。
「あなただったらあたしの秘密おs」
「あんまり手汚したくないんで」
すっと上空に手を伸ばす時雨。パフェ・スイートの周囲に霊力弾が降り注ぐ。それはまるで、真白の雨のように。
「――それは粛々と降っている」
√能力、「|白驟雨《ハクシュウウ》」。驟雨のように突然降り出す雨。
「いた、いたたたた」
パフェ・スイートはじたばたしながらソフトクリームミサイルを周囲に乱射。乱射ならば当たるはずもない。二人は大変に力のある√能力者なのだ。
時雨は早業で回避しつつ、受け流せそうなミサイルは卒塔婆で弾きかえす。この卒塔婆、手に入れるのが結構大変なので、あまり無茶な使い方はできない。かすめていくミサイルは指ですくってぺろり。
「うーん。ぼく実は甘すぎるもの得意じゃないんですよね。特にクリーム」
何故かショックな顔のパフェ・スイート。
「カナトさん食べます?」
パフェ・スイート、今度は期待の目でカナトを見る。
「確かに甘いのそんなに得意ではないかも……わぁ、摘み食いしてる」
パフェ・スイート、さらにショックな顔。そのパフェ・スイートににっこり笑顔のカナト。
「食べ物あんまり粗末にしたらダメだよぅ? コワ~いオオカミが出てきたりするからねぇ」
「え?」
オオカミと言われてそわそわ周囲を見回すパフェ・スイート。そこへ時雨が詰め寄る。
「パフェのレシピどこにあるの? 持ってる?」
「いえ、あの、クリーム得意じゃない敵には、あたし」
「早くしないと大雨が降りますが……」
時雨がちらりと目をやるのはカナト。
「変生せよ、変生せよ」
カナトは灰狐狼の毛皮を纏う。そうして駆け出す姿は、確かに狼。闇から三叉戟トリアイナを掴み、一気にパフェ・スイートに詰め寄る。
――√能力、|狂人狼《ウールヴヘジン》。
「その前に狼さんがフォーク持って迫ってきますよ!」
「なるべくクリーム攻撃は避けたいところ……」
「きゃああああ、狼ー!」
モンスターとは思えない悲鳴を上げて、またソフトクリームミサイルを乱射するパフェ・スイート。毛皮がクリーム色に染まる。
「げぇ、服洗う方が面倒だから未だマシか」
さすがに苦い顔になるカナト。仮面の下で敵を狩る目が細まる。
「悪~い子には三叉戟でお仕置きもしないとなァ……ザクっと」
白い雨の中、刺し貫かれたパフェ・スイートはどろりとゼリー状の赤いものを零した。
「(思っていた以上に可愛らしいモンスターだぞ)」
傷だらけにはなっているが、ソフトクリームやゼリーでデコった姿はやはり可愛らしいモンスター、パフェ・スイート。
「(パフェの秘密もだけれどモンスターの秘密も知りたいかも)」
とても優しいことを考えるのは雪願・リューリア(願い届けし者・h01522)。とは言え、リューリアは気を抜かない。
「(少し気が引けるけれど、甘く見ていると痛い目に遭いそうだ)」
そこまで考えて、ひとつの可能性に思い当たる。
「(秘密を教えてくれたなら無理に倒す必要はないのかな?)」
そう、物事が穏便に済むのならそれに越したことはない。リューリア、優しい。
「パフェの秘密を教えてくれないか?」
丁寧に尋ねると、パフェ・スイートは眉を寄せた。
「美味しいパフェの作り方は、あたしが編み出したものだもの。そう簡単に教えてあげられないわ」
「そう……」
「パフェ目当ての相手なら容赦しないわよっ。えいえいえい!」
パフェ型のステッキを振り回してソフトクリームミサイルをばらまくパフェ・スイート。だが、それは先にリューリアも見越していた。
「(相手は遠距離攻撃が得意なようだし、逆にそれを利用するぞ)」
喚び出すのはヴォルテクスブレイド。自律式機械剣は電気を放ちながらクリームのミサイルを迎え撃つ。息が詰まるような緊迫したクリーム対電気の弾き合い。
それを破ったのはモンスターのほう。
「じれったいなー!」
パフェ・スイートは地団駄を踏むとえいやっとリューリアめがけて大量のソフトクリームミサイルを放つ。
「(今だ)」
それは本当に1秒よりも短い時間の判断。放たれる能力は|位置強奪《ソコカワッテ》。
インビジブルはどこにでもいる。それこそリューリアの傍にも、パフェ・スイートの傍にも。ただ、パフェ・スイートは実体を持っている。彼女と場所を変わることはできない。
それでもパフェ・スイートの傍のインビジブルと位置を変われば、インビジブルにクリームは命中し、リューリアはヴォルテクスブレイドを従えて、敵の喉元に剣先を突きつけることはできるのだ。
「ひっ」
「パフェの秘密を、教えてもらおう」
この勝負、リューリアの勝ちだ。
「(パフェの秘密を手に入れたらエイミーお嬢様に報告しよう。きっと喜んでくれる筈だぞ)」
リューリアは微笑む。
「(でも甘い物の食べ過ぎには注意だぞ)」
「(さっき食べたクッキーはもう消化しちゃったよ、お腹空いたぁ)」
アメ・ドライスデール(氷雨・h01051)は一緒にいるアプリコット・プラム・ナイチンゲール(冒険者デビュー!・h02497)にバレないようにお腹をさする。前を行くアプリコットはダンジョン初心者。だが、先刻戦ったせいか、足取りは軽い。
「(しかし先輩のボクが頑張らねば)」
お腹が賛成とばかりにグゥと鳴る。聞こえてないよね? とアプリコットを見るもアプリコットは前だけ見ているので大丈夫な様子。
そんなアメの鼻によい匂いがふわふわ。
「(良い匂いだなぁ……)」
錯覚かな、と思うが、アプリコットもちゃんと感じていたようで。
「凄くスイーツな香りがしますね!」
「だよね!」
元気が出るアメ。二人で先へ進むと……。
「ってモンスターですか!」
ちょっぴりズタボロになったパフェ・スイートが。でもパフェやゼリーでデコったかわいさ? は未だ変わらず。
「パフェの秘密おしえてください!」
「伝説のパフェ、ボクも食べてみたーい!」
「あたしのこと? どうぞ!」
何故か嬉しそうにパフェ・スイートが羽の飾りにしていたゼリーを差し出そうとする。いい子ではあるらしい、モンスターだけど。
「いや、キミのことじゃないよ! ややこしいなぁもう」
ぷくりとアメが膨れると、パフェ・スイートもぷくりと膨れた。
「あたしのことじゃないなら、パフェのことは教えてあげない! 代わりにシュークリームをどうぞ!」
途端に降り出すシュークリームの雨! 生地さっくりで甘い香りがして、なんだか美味しそう。
だけど、ぽん! ぽん! とシュークリームが落下するたびに爆発するものだから、クリームが飛び散るし、生地はクリームまみれで美味しそうだし、なんというか……。
「美味しそうなシュークリームが爆発する悲しい事件現場……」
「思わず食べたくなる爆弾だね、こわい!」
アプリコットは美味しそうなシュークリームが次々壊れるのに胸を痛め、アメはさすがにお腹空いていても近づかないように警戒。
「(当たるとどうなるか分からないので!)」
アプリコットはえいっと√能力|百花繚乱《ミラージュ・カレイドスコープ》を使って小鳥さんに変身。
「わ、アプリコットちゃん可愛い!」
よし、ボクも! とばかりにアメは「小鳥の小箱」の鳥さんが手伝ってくれないか訊いてみることに。
ダンジョン産の小箱をぱかりと開けると赤い鳥がアメを見上げて首をかしげていた。
「鳥さん、手伝ってくれる?」
赤い鳥さん、しばらくアメを見上げ、それからシュークリームの惨憺たる状況を見てふるふると首を振る。
「え、やだ?」
赤い鳥さん、こくり。
「そっかぁ……」
仕方がない。アメはそっと小箱を閉めた。また後でご飯あげるね、の一言は忘れない。
「(じゃあ、|氷雨散々《ヒサメサンサン》の霧で無効化しちゃおう!)」
今も降り続くシュークリームに向けて、√能力を使う。ふわりと冷気をまとって出てきた守護精霊のフロストがフロスト・ガンを撃つと、絶対零度の霧がシュークリームを爆発させず、凍らせていく。
その凍りついてぽとぽと落ちる中を、アプリコットの小鳥がシュークリームを躱しながら近づき……。
「えい!」
近づけた瞬間に、変身解除。
「わっ」
驚いているパフェ・スイートへアプリコットはその拳でえいや!
「美味しそうな食べ物を戦闘に使うのはよくないと思います!」
「そうだよ、お腹空いちゃう!」
アメもその言葉には大賛成。フロスト・ガンで援護射撃をしていたが、シュークリームの雨が止めば、身軽に走り込んでアプリコットと連携を。
「フロスト、またお願い!」
フロスト・ガンをしまい、今度はフロストの加護をうけた二振りの剣を取り出して。
「パフェの秘密を教えてください!」
「そうだ、そうだー!」
二人がかりでパフェ・スイートを攻撃すると、パフェ・スイートは逃げるように頭のソフトクリームを放り投げた。
「え?」
「これがパフェの秘密……?」
二人がソフトクリームを拾うと何か書いてあるようだ。パフェ・スイートは奥に逃げてしまったけれど、二人はわっと笑顔になる。
「お嬢様に持っていってあげよう、アメ!」
「そうだね、アプリコットちゃん!」
二人の冒険は成功のようだ。
ノア・キャナリィ(自由な金糸雀・h01029)はとても悩んでいた。
「(盗みに、っていうか……教えてもらうだけじゃダメなのかな)」
ノア、とっても優しいのである。
「(穏便に済ませられるならそれが一番いいんだけどなぁ)」
ということで、甘い匂いを発しているパフェ・スイートを発見すると、まずは交渉をしてみることに。
ちょっとパフェ・スイートがぼろぼろだけど、それは気にしないようにする。
「僕もお菓子作り得意だし、代わりに別のもの教えるとかじゃダメ?」
パフェ・スイートは目を瞬いた。
「別のもの?」
「パフェは勿論、薔薇のアップルパイとかそういう凝ったデザインのものとかも出来るけど……」
「薔薇のアップルパイ!」
パフェ・スイート、その存在意義がなくなるようなものに惹かれた様子。
「え、アップルパイもいいね、でもあたし、やっぱりパフェだから……」
「パフェも色々なものを教えられるよ。ゼリーのアレンジだけじゃなくて、たとえばフルーツを使ったものとかは?」
「フルーツ!」
パフェ・スイート、目を輝かせちゃう。
「すごくそのレシピ、欲しいけど、あたしのレシピはあたしのものだからあげられないんだ……」
しょんぼりしながら、パフェ・スイートは言って、ぱっと笑顔になる。
「だから、あなたのレシピを教えてもらうね!」
交渉決裂。
「(まぁ、交渉は難しいか……)」
先手を打ったパフェ・スイートがパフェのステッキでえいや! とソフトクリームミサイルを撃ってくる。ノアはそれを見て、ひとつ頷き。
「(決裂したら仕方ないから戦うよ)」
優しいけれども、そこは√能力者。しっかりすべきところはしっかり。
ミサイルをオーラ防御で防ぎ、回避は空中へ舞うことで回避。当たらないように警戒しつつ、精鎌曼珠沙華を取り出し、防げないクリームは鎌を盾代わりに。クリームを受け止め、また薙ぎ払いで弾道をそらしたり。
「むぅ、どうして当たらないのっ」
パフェ・スイートが悔しそうに言う中、トドメの一撃は|切華爛漫《セッカランマン》。
「咲き乱れよ、花嵐」
精鎌曼珠沙華をすっと上に上げると、曼珠沙華の花弁が舞い踊り、赤い雨が降る。花弁はパフェ・スイートを切り刻む。
花びらひとつひとつの威力は弱くても、数が当たれば当然痛いわけで。
「(虐めてるみたいでちょっと可哀想だけど……話聞いてくれない方も悪いって事で)」
ノア、やっぱり優しいのだ。
「ごめんね?」
ずたぼろになってしゃがみこんだパフェ・スイートに言えば、パフェ・スイートは背中のゼリーをえいやっと投げて奥へ走っていく。
「これは……パフェの秘密?」
ゼリーには何か文字が書いてある。ノアの気持ちは通じたのかもしれない。
甘い香りの中に、ふわりと√ドラゴンファンタジーでは馴染のない香りがまざった。
香りと共に現れたのは二代目海石榴屋・侘助(胡乱な紙芝居屋さん・h01536)。香炉煙管で線香の煙をくゆらせながら、パフェ・スイートに笑みをかける。
「ヤァヤァどうもお嬢さん」
パフェ・スイートは胡乱げに侘助を見るが、侘助としてはそのくらいの視線はお馴染のもの。
「モンスターってのァあんまり馴染みもございやせんで、チョイとお話伺いてェンでございやすがね」
侘助はこの√出身ではない。どちらかと言えばモンスターより古妖などのほうが馴染みがある。煙をくゆらしちょっと声をかけるが、パフェ・スイートは警戒してしまったようだ。くるりとパフェのステッキを回すとソフトクリームミサイルを撃ってくる。
「オットおっかない。食いモン粗末にすンのァいただけやせんね」
肩を竦めてミサイルを避け、侘助は首のあたりをふわふわしている紫煙入道――煙管の煙に見えるが、立派な死霊だ――を軽く叩いた。
「紫煙入道、ホラいっつも私の生気ばっかり喰ってないでたまには甘いモンでも食いな。お嬢さんがソフトクリーム馳走してくれるそうだから」
そいつはありがたいと言ったか言わないか。どちらにしろ、それは√能力「|紫煙延々埒もなし《ゴメンナサイネケムタクシチマッテ》」に変わる。紫煙入道はちょっとだけ本気を出して、侘助とパフェ・スイートが会話をできるように、場を整える。つまりはソフトクリームをぱくぱくいただいた。
さすがに煙がソフトクリームを食べるのは見たことがないのだろう。パフェ・スイートは驚いたように手を止め、無事に二人の会話の場ができる。
「それでエエト、なんの話でございやしたか」
紫煙入道がするりと、心持ち太くなったような感じで侘助の元へ戻れば、ぽん、と侘助は手を叩いた。
「そう、パフェの秘密!」
パフェ・スイートの顔が「え?」というように歪む。
「払えるお代でしたらお払いしやすんで、ここァひとつ穏便にお教えいただくわけにゃァまいりやせんか?」
「穏便に……?」
「知りたがってるお嬢さんだって熱意十分、よくできたお嬢さんでございやすよ?」
侘助が説得を始めるが、パフェ・スイートは乗り気ではなさそうだ。
「あまりお金は興味ないもの」
「じゃあ、別のものでお支払いいたしやしょう。なんでしたらお教えいただけますかねェ」
侘助の言葉に、パフェ・スイートは少し考えて。そしてにやっといかにもモンスターらしく笑った。
「あなたの目、とっても綺麗ね! あたし、その目をあたしのスイーツに飾りたいわ!」
パフェ・スイートは再びくるりとステッキを回し、ソフトクリームミサイルを撃ってくる。侘助はため息をひとつ。
「(……まァ、お話にならねェからモンスター、なんでございやしょうかネェ)」
侘助としてもさすがに目を差し出すつもりはない。
「どうしても力尽くでッてェことならお相手しましょ」
ソフトクリームミサイルを躱しながら、取り出したるは紙芝居。
「ただ今の演目は『凄腕の狩人、狩りの腕に驕りて山神の怒りを賜ること』」
侘助とパフェ・スイートの周囲が山に囲まれる。山は√ドラゴンファンタジーで見るような山ではなく、ゆるくやんわりした高さの、√妖怪百鬼夜行の山々。吹く風もどこか生ぬるい。
「腕前に驕った狩人は、山神サマの怒りでもって自分の射る矢に貫かれっちまったそうで」
ソフトクリームミサイルを躱し、侘助は一気に間合いへと入る。手には客寄せ拍子木「土蜘蛛降しの椎音」。椿の木でできた拍子木は破魔の力を持ち、チョチョンと一度いい音を立てる。
「……狩人サンはきっちり神サマのお叱り受けときやすんでね」
侘助は少しだけ優しく笑った。拍子木の片方を片手で持つと、ぶんと片方を宙に踊らせ打ン殴る。
「恨むンでしたらどうぞアタシを恨んでくださいな」
勢いがついた拍子木はパフェ・スイートを打ち据え、吹き飛ばす。這々の体で逃げ出すパフェ・スイート。その跡にはゼリー状の飾りが落ちており、何か書いてあるようだ。
侘助はそれを拾う。何かお嬢様が読めばわかることなのかもしれない。
「お叱りを受けにいきますかネ、紫煙入道」
ふわりと、お香の香りが漂った。
ふわふわ甘い匂いを辿ってユッカ・アーエージュ(レディ・ヒッコリー・h00092)が辿り着いたのはダンジョンの奥も奥。アイスクリームやゼリーでデコったモンスター、パフェ・スイートがずたぼろになっている。
「(あらぁ……可愛いモンスターさんね?)」
ずたぼろとは言え、可愛らしい顔立ちは変わらない。さすがにユッカも攻撃をする手が鈍ってしまう。
「(誰かを害す簒奪者ならば手加減はしないのだけれど、パフェの秘密に興味津々なだけの子なら、できるだけ手荒な真似はしたくないわね……)」
ユッカはモンスターが驚かないように「こんにちは」と優しく声をかけてみる。
パフェ・スイートはユッカの声にぱっと顔を上げた。
「パフェの秘密はあげないから!」
色々なことがあって、ちょっぴり頑なになってしまっている様子。
「ん~……秘密を共有して、一緒に美味しいパフェを作りましょ、じゃダメかしら?」
「共有?」
不思議そうな顔をするパフェ・スイート。
「貴女にも私がパフェを作ってあげるわよ。自分で作っても人に作ってもらったことはないんじゃないかしら」
優しく友好的にユッカが言えば、少し興味をもった様子。
「確かに、あたしも誰かに作ってあげたことはないかも……」
「でしょう? みんなで食べるパフェはきっと美味しいわよ」
「みんなで……」
想像しているパフェ・スイート。もう一押し、とユッカが思ったとき。
「でも、みんなの中であたしだけスペシャルなパフェだったらもっといいなあ」
パフェ・スイートがそういう考えになってしまうのは、我儘というか、モンスターの性というか。
「うん、やっぱりあたしだけがパフェを食べたい! だから、ごめんね?」
「仕方ないわね……」
これは戦うしかなさそうだ。ユッカは覚悟を決めた。
「喰らっちゃって、シュークリーム爆弾ー!」
先手を取ったのはパフェ・スイートだ。魅惑のシュークリームが雨のように降ってくるが、その前にユッカは|友達《せいれい》を呼ぶ。
「土の精霊!」
「任せておけ」
頼もしい声が耳元に届くと同時に砂の壁がユッカを防ぐように展開した。シュークリームのクリームのベトベトもユッカには届かない。
悔しそうな顔のパフェ・スイートを見つつ、さらに放つは√能力「|遍く御座す全ての友よ《アブソリュート・トーカー》」
「力を貸してちょうだい。私たちの物語を紡ぎましょう」
その声に呼応するようにユッカのまわりに遍く精霊たちが集まってくる。ユッカの友達は皆、ユッカのためにその力を惜しまない。
光も闇も、土も風も、水も火も。
今回、ユッカが一番頼りにしたのは火の精霊だ。火属性攻撃を重視することでクリームやアイスを溶かしていく。
そして、火が溶かせば、土が防御を固め、そのほかの精霊たちがパフェ・スイートへと属性の一斉発射を。
パフェ・スイートが悲鳴を上げるのを、ユッカは歯を食いしばって聞いた。分かり合えなかったモンスターなら倒すしかない。でも。
「美味しいものを愛する心が一緒なら、分かり合えると思うのだけれど」
「あたし、は」
パフェ・スイートはモンスターらしく嫌な顔で笑った。
「あたしだけ、美味しいものを食べたい」
貪欲で、我儘で。
「……そう」
ユッカは悲しそうに俯いた。
「精霊さん、痛くないように」
全ての精霊たちが、ユッカの悲しさを代弁するように一斉に攻撃をする。それで、終わった。もう、そこには残ったアイスクリームのコーンしかない。
ユッカが拾い上げると、そこには何かメモが書いてあるようだった。
「本当にわがままだったのはどちらだったのかしらね」
ユッカは苦笑して、そのコーンを大事にしまった。
お嬢様の家に帰ったら、皆の話が聞けるだろう。お嬢様はお肉やパフェを振る舞うのかもしれない。
その時を思いながら、ユッカはダンジョンを戻っていくのだった。