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七色に輝くイカを抹殺せよ!
ーーゲーミングイカ。
この名前を知らぬ者は何かの聞き間違いかと聞かなかった事にし。
不幸にも対峙してしまった経験のある者は、即座に目薬とサングラスを用意することだろう。
その名の通り鬱陶しいまでのゲーミング発光をするイカであり、あまつさえ空を飛ぶ。何を言っているのかわからないと思うが、私にもよくわかっていないので勘弁してほしい。
なんなら味にも拘っているため、美味い。
元々は√マスクドヒーローの怪人が作り上げたというが……それが、どうした事か脱走した挙句、√を渡ってしまったのだ。
さて、サムネイルの段階で嫌な予感がした方も多々いる事であろう。
この奇妙奇天烈なゲーミングイカの1匹が、Anker候補である事が判明してしまったのである。
ミラーボールの様に加減なく輝くこのイカが、である。
となれば、あの男……サイコブレイドが動くのは必然の事であろう。
ターゲットを前に、得物を構え。七色の光を浴びながら己の呵責に耐えかね、苦悶の声を漏らす暗殺者。
絵面がもう何だか酷いが、気にしないでいただきたい。
サングラスに覆われた両目は兎も角、心と額の目が痛い。
「お前が何者かのAnkerであるというならば、『外星体同盟』からの命令により、命を奪わねばならぬ。」
殺意を感じたのであろうか。先制攻撃を加えたのはゲーミングイカである。
「ーー抵抗するか。お前にはその権利が……。」
と言おうとして、サイコブレイドは口を閉ざした。
サイコブレイドの身体が、ゲーミング発光していたのである。
浴びせられたのはゲーミングイカ墨。浴びせられた者をゲーミング発光させるという、人間の尊厳を奪うかもしれないし奪わないかもしれない、恐ろしいイカ墨である。
「ーーさらばだ。」
それだけ言って。七色に輝くサイコブレイドは、誰かのAnker候補であるゲーミングイカを斬り捨てるのであった。
なお、斬り捨てたゲーミングイカは、『これも供養だ』とゲーミング発光しながら美味しく頂いたそうです。
●
「またゲーミング生命体にゃ!?猫も見なかったことにしたかったにゃ!」
いつもぺかぺか笑顔の子猫の星詠み、瀬堀・秋沙が遂にキレた!
ゲーミングボラやゲーミングイカが最近一部の依頼で猛威を振るっているとかいないとかいう話だが、また現れやがったというのである。
しかし、今回の目的は駆除ではない。Anker候補なのである。
幾ら美味かろうと、輝きが鬱陶しかろうと、食べてはいけないのである。
「Ankerとしての運命を感じちゃったひとがいたら、連れ帰ってもいいにゃ?」
という話だが、果たしてその様な物好きはいるのだろうか。
さて、このゲーミングイカは、どうも森の中で迷子になっているらしい。
何故森の中かはわからないが、少しでも光が漏れにくい場所を選んで飛んで行ったのだろう。
ゲーミング発光しているが、臆病かつ慎重な個体な様なので、みんなで見つけて保護してやって欲しい。
このゲーミングイカの保護に成功したあたりで、サイコブレイドが使役する赤く輝くクラゲの様なインビジブルが襲いかかってくるらしいので、これもサクッと撃退して頂きたい。
なお、この後サイコブレイド本人も襲撃してくるらしいが……。
絆を結んだ√能力者たちを応援する様にゲーミングイカが輝く度、サイコブレイドは苦悶する様な素振りを見せるらしい。
額の目が眩しくて痛いのだろう。たぶん。
そんな彼を倒すことで、今回の依頼は完了となる。
「こんなゲーミングイカでも、誰かのAnkerにゃ!とっても眩しいだろうけど、守ってあげてほしいにゃ!」
猫は何とも言えぬ顔から、何とか灯台の様な笑顔を浮かべると。
サイコブレイドと対峙するべく現場に向かう√能力者たちの背中を見送った。
これまでのお話
第1章 日常 『ゲーミングイカ』

ーーそのゲーミングイカは彷徨っていた。
群れから逸れ、見知らぬ世界で1匹。どれ程心細いことだろう。
この七色の輝きのために何羽か鳥を撃退したが、それでもこの体は目立ち過ぎる。
(ーー誰かに守ってほしい……。)
鬱陶しいまでのゲーミング発光とは裏腹に、寂しい想いを抱えながら。
ゲーミングイカは森の中をあても無く漂っていく……。
「ゲーミング、イカ……ゲーミングイカ?」
ステラ・ノート(星の音の魔法使い・h02321)が思わずその名を二度聞きするのも無理からぬ事であろう。
何か訳のわからない、或いは質の悪い冗談だとも思いたくなる様な名前ではあるが、残念ながら名前が体を現してしまっている。
ゲーミング発光するからゲーミングイカ。実に分かりやすい。怪異よりも怪異らしいが、宙に浮かんだりゲーミング発光する以外は普通の生物の範疇に納まるらしい。普通って何だろうか。
姿を見れば頭を抱え、眉間や目頭を揉みたくなる様な強烈なゲーミング発光が襲い掛かるのだが……それはさておき。
「発光するイカは自然界でも存在しますが、ゲーミング発光とは……興味深いですね。
変わったイカであろうと、サイコブレイドに狙われているのなら救出しなくては。」
クーラーボックスを肩に掛けた|弓月・慎哉《ゆづき・しんや》(蒼き業火ブルーインフェルノ・h01686)の言う通り、色を自在に変える擬態能力を持つイカや、ホタルイカの様に自ら輝くイカも、実は珍しくない。
所謂『カウンターシェイディング』と呼ばれる護身法で、海面から降り注ぐ光に合わせて発光して己のシルエットを隠し、自身より深い位置にいる捕食者の目を欺くのだ。
あくまで普通に光るイカたちの場合は隠遁術のため、ゲーミング発光する理由は全くない。むしろ、美味しくて目立つ光を放ってしまっては、野生下に於いては長生きできないだろう……と思いきや、野生生物を撃退するほどの輝きを放つ事も出来る様なので、謎が多すぎる。
「ま、まぁ、そうだね。悪い人に見つかる前に保護しないと。きっとちょっと光るくらいの、小さくて可愛いイカだと思うし。」
そう。かのAnker殺しの暗殺者サイコブレイドが、懸命に生きる小さな命を狙っているというのである。
誰かのAnkerという事は、名も知らぬ√能力者の存在の寄る辺。ならば、必ず守り切らねばなるまい。
まだ見ぬゲーミングイカに思いを馳せて、星の魔法使いが小さく拳を握り締めた。
――さて、ここまでがゲーミングイカと対峙した事のない者たちの反応である。
一方で、既にゲーミングイカと相対した事のある者の反応は違う。
「……慣れてしまった自分が悲しいな……。」
クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)はゴーグルをばっちりと着用し、己の目をしっかりと保護していた。
ゲーミングボラ、ゲーミングイカ、と来て、またゲーミング生物である。
流石に三度目ともなれば装備も抜かりない。恐らく、どこかに目薬なども用意している事であろう。
本当に、歴戦の傭兵であり、心身に甚大な被害を受けて気分の悪さを吐露している彼が、どうしてこのような珍妙な依頼に関わってくれるのか。
ゲーミングイカの発光で新たなダメージを負わない事を祈るのみである。
「アロワナ、自力でゲーミング発光できるようになったってよ。」
こちらはゲーミングイカとの遭遇で、インスピレーションが湧いてしまった側である。
|一戸・藍《いちのへ・らん》(外来種・h00772)はアロワナである。アロワナであるが、空も飛べば言葉も話す。この時点でゲーミングイカと通じてしまう何かを感じるが、野良生物と呼ばれる√能力者群はそういうものだろう。深く考えてはならない。
しかし、深く考えたくも無いのに、今回のアロワナは七色にゲーミング発光してきやがった。
あれ、確かアレはゲーミングイカのゲーミングイカ墨を浴びた事による一時的な変異だったはずでは……?
などと、現場に居合わせてしまったクラウスは思った事であろうが。
「なんかやってみたらいけました。私の怪人細胞はやればできる子だったようです。」
と、本|魚《にん》は主張しており……。
アロワナが宙に浮いたりゲーミング発光するのも、きっと全てプラグマの仕業というが、大首領も全力で『何それ知らん』と否定するのではないだろうか。えらい風評被害である。
「せっかくなのでゲーミング生物同士、イカさんと仲良くなりたいですね〜。」
と、魚ならではの無表情でそう口にした藍が、この前ゲーミングイカの群れをミンチにして、ゲーミングいがめんちにした事をクラウスは忘れてはいない。
しかし、それはそれ、これはこれ。Ankerであるゲーミングイカと仲良くなるのは本件においては良い結果を齎す事に繋がるであろう。
「イカって何を食べるんだろう……?」
とりあえず釣りエサを用意してきたクラウスと、ゲーミング発光する怪魚、人間災厄たる|警視庁異能捜査官《カミガリ》と|取り替え子《チェンジリング》の心優しい魔法使いの4名は、迷いゲーミングイカが隠れているという森の中に足を踏み入れるのであった……。
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さて、派手にゲーミング発光するとはいえ、広大な森の中だ。それに命が狙われているというのであれば、一刻も早く見つけて保護してやりたい。
そして、こういった空間での捜索といえば人海戦術が定石である。
「光っているのなら、すぐに見つかりそうな気もするけれど。」
故に、ステラは祈る様に目を閉じると、力ある言葉を唱えて√能力を発動する。
「輝く北極星を目指し、苦難の夜を往く我等を導きたまえ。……おいで。小熊座の使い達。
その輝く瞳と可愛い鼻で、ゲーミングイカを探して?」
――【|クマの子探検隊《ポラリスヲメザシテ》】
現れたのは星のように輝く瞳と嗅覚を持つ、24体の子熊の使い魔たち。
熊の子たちは『ゲーミングイカ?』とそれぞれに可愛らしく首を傾げたが。そういうものだと納得したらしい。
そして、地上を行く探検隊に対し、クラウスが【レギオンスウォーム】で呼び出したのは、小型無人兵器『レギオン』だ。
呼べば呼ぶほどクラウス自身に負担が掛かる為に数は抑えているが、索敵センサーを持ち、空中から捜索できる『目』は非常に心強い事であろう。
「イカが隠れると言えば、海底の砂地や岩陰の様な場所。潜れるような柔らかい土の下や、木の洞や根本などにいる可能性はどうでしょうか?」
数を用いた空地の連携に、イカの生態を基にした慎哉の推論。
「光ってれば、仲間だと思って寄って来てくれるかもしれませんからね。」
そしてゲーミング発光しながら空中を漂う一般通過|龍魚《アロワナ》。独りぼっちの寂しさを抱えているというゲーミングイカにも案外効果があるかもしれない。
それから程なくして、子熊の一匹よりステラに一件の報告が入る。
「そう、ありがとう。あっち、だね?」
この静かな森に不釣り合いな、ド派手な七色の輝きを発見したというのだ。ゲーミング発光という特徴も一致している。
そこにいるアロワナでなければ、まずゲーミングイカと見て間違いないであろう。
むしろ、他が居たら反応と対応に困る。
「怖がらせたらいけないから、みんな、一度戻ってくれるかな。」
如何に子熊といえど、流石の大所帯は臆病なゲーミングイカを怯えさせるかもしれない。
ステラはそう配慮して、探検隊の面々をあるべき場所に送り還すと。
子熊が示した場所へと、一行は彼女を先頭に歩を進めてゆく。
「……確かに眩しいですね。」
「……めちゃくちゃ目立つな。」
慎哉とクラウス、男子2名が思わず頷き合い。慎哉に至っては予め用意していたのだろう。流れる様な動作でサングラスを掛けた。
子熊の報告の通り、七色の輝きは確かにあった。目に痛いゲーミング発光は、やはり間違いない。クラウスの知る、あのゲーミングイカである。
ゲーミングイカの姿は凡そ胴長20㎝程。イカの中でも知能が高いとされ、海の忍者とも称されるコウイカをベースにした様である。
「ええと……こんにちは?」
そう言って前に出ようとしたクラウスを、アロワナが制す。龍魚の身体でどうやって制したのかはわからないが、とにかく制したのである。
「ここは、私にお任せを。」
イカを驚かさぬよう近付いた藍がゲーミング発光すれば、ゲーミングイカも不規則なゲーミング発光で返し、それにまたアロワナが七色に輝き返し……
「大丈夫、あの子とは解り合う事ができました。これぞ怪人細胞が齎したゲーミング発光の力。」
「あれだけで……?でも、警戒を解いてくれたならよかった。」
「本当に。ここまで無事でいてくれて良かったよ。」
元々、イカは体色でコミュニケーションを取るという習性がある。今回はこれがゲーミング発光によって行われたのであろう。その習性を利用したコミュニケーションのお陰で、どうにも話が早く進んだらしい。
ゲーミングイカの発光にインスピレーションを受けて手に入れた怪アロワナのゲーミング発光能力も、中々役に立つものである。今後役に立つかはさて置いて。
ゲーミングイカとゲーミングアロワナの二大ゲーミング生物の眩しさに目を限界まで細めていたステラが、うまくいったとの報告を聞いて、ほっとしたように息を吐いた。
少し、クラウスや慎哉の様にゴーグルやサングラスを用意してこなかったことを後悔し始めているかもしれないが、それはそれ。護るべき存在が警戒を解いてくれたなら、これほど有難い事はないだろう。
さて、保護に来た4人への警戒心が薄れたゲーミングイカは、√能力者の周囲の宙をつん、つん、と泳いでいる。
余程心細かったのであろう。本来は警戒すべき人間の形であっても、お構いなしにその姿を観察している様にも見える。眩しいことこの上ないが。
「私のおやつ用に持ってきた乾燥エビ食べるでしょうか?どうぞ、おいしいですよ〜。」
藍に勧められた小エビをしゅっと触腕で取るあたり、ゲーミング発光でのコミュニケーションがうまくいったのは真実の様であるし。
「そもそもイカって話が通じるくらいの知能があるのかな……。」
手の上に釣り餌を乗せたクラウスにも興味を惹かれた様で、つい、つい、と泳ぎながら近づいてくる。
√ウォーゾーンに生まれた彼にとって、前回のゲーミングイカ事件はさておいて、生きているイカには然程馴染みが無いと言っても良い。
魚類などの生き物の姿と言えば、空を泳ぐインビジブルの方が馴染もあるが……
「あ、食べてくれた。ちょっと可愛い気もする……?眩しいけど……。」
生き物との交流は、疲れ、荒んだ心を多少なりとも和ませるものだ。手の上からエサを取る姿に、クラウスは薄い表情筋を微かに和らげるのであった。
「イカくん、此方にもいらっしゃい。」
そして慎哉は肩に掛けていたクーラーボックスを降ろすと、中の小鯵を見せてやる。
無論、ゲーミングイカにとっては大御馳走だ。寂しさに耐えてきた甲斐もあったであろう。
クラウスの手から、今度は慎哉の方へとつい、つい、と泳ぎ。彼に与えられた小鯵を触腕で抱え、齧り始めた。
「――そもそも、何故ゲーミング発光する生き物を作ったのでしょう。
留守宅でも人が在室していると思わせられて、防犯の一助にはなりそうですが。」
今までのゲーミングボラ事件やゲーミングイカ事件は、全て√マスクドヒーローが発生源と言われている。
愉快犯か、明確な意図あっての事かはわからないが……彼の警察官らしい着眼点の通り、空中を浮かんでいる上に眩いゲーミング発光。
その上、小エビや小鯵、釣り餌など案外餌付きも良い。これなら、光量さえ何とかすれば防犯ペットとしては有りかもしれない。
「あ、私も小鯵、あげてみてもいいかな……?」
「ええ、勿論。」
おずおずと慎哉に声を掛けたステラは、彼の快い返事に顔を綻ばせ。
眩しいながらも、可愛らしい仕草で彼女が与えた小鯵を触腕で捕らえ、これにも齧り付いた。
――さて、タコは非常に高い知能を持つ事で知られるが、イカもまた優れた記憶力を持ち、『鏡像自己認知能力』を持つ生物のひとつ、と言われている。
かの偉大なる哲学者ルネ・デカルトは『動物にも知能はあるが、己を振り返る心はない』と定義した。
人間の自己とは自分を意識する事、『我思う故に我あり』の言葉は有名だろう。
動物の行動は『本能』に基づいた紋切り型であり、融通の利かない、機械と同質のものである。故に『心』は人間にのみあるものとされていたのだ。
この考えが17世紀から20世紀後半、チンパンジーが『鏡像自己認知能力』を証明するまでの主流であったと言ってよい。
この『鏡像自己認知能力』について説明すると非常に複雑となるため端折るが、鏡に映った己を見る事で、それが『自分自身である』と気付く能力である。
たったそれだけの事であるが、これが生物に『心』があるかどうかの証明の一つになるとされているのだ。
無論、生き物を飼った事のある人物なら、『心』を感じた瞬間は幾らでもあるだろう。しかし、『証明』についてはまだ、このレベルなのである。
それをイカはクリアしている。つまり、『心』を持っている可能性が証明されているのだ。
――だから。
「……大丈夫。あなたはもう、ひとりじゃないよ。
あなただけのAnkerが見つかるまで、わたし達が守ってあげる。」
小鯵を食べる姿を観察しながら呟いた、ステラの言葉の意味は解らずとも。
迷えるゲーミングイカの『心』に、確かに響いたのであった。
第2章 集団戦 『インビジブル・クローク』

√能力者たちとの交流で、すっかり彼らに懐いたらしいコウイカの様なゲーミングイカ。
今までの寂しさを発散するように、彼らの周りをゲーミング発光しながら楽しそうに、つい、つい、と泳ぎ回っていたのだが。
突如怯えたかのように、√能力者たちの影に隠れた。
√能力者たちの前に現れたのは、赤く毒々しい体を持つクラゲ状の邪悪なるインビジブル、『インビジブル・クローク』。
ふわふわと漂う姿は妖しく、美しくもあるが。これもサイコブレイドが放った刺客に違いない。
ゲーミングイカを守りながら、Anker候補に害を為すクラゲたちを疾く退治せねばなるまい!