七色に輝くイカを抹殺せよ!
ーーゲーミングイカ。
この名前を知らぬ者は何かの聞き間違いかと聞かなかった事にし。
不幸にも対峙してしまった経験のある者は、即座に目薬とサングラスを用意することだろう。
その名の通り鬱陶しいまでのゲーミング発光をするイカであり、あまつさえ空を飛ぶ。何を言っているのかわからないと思うが、私にもよくわかっていないので勘弁してほしい。
なんなら味にも拘っているため、美味い。
元々は√マスクドヒーローの怪人が作り上げたというが……それが、どうした事か脱走した挙句、√を渡ってしまったのだ。
さて、サムネイルの段階で嫌な予感がした方も多々いる事であろう。
この奇妙奇天烈なゲーミングイカの1匹が、Anker候補である事が判明してしまったのである。
ミラーボールの様に加減なく輝くこのイカが、である。
となれば、あの男……サイコブレイドが動くのは必然の事であろう。
ターゲットを前に、得物を構え。七色の光を浴びながら己の呵責に耐えかね、苦悶の声を漏らす暗殺者。
絵面がもう何だか酷いが、気にしないでいただきたい。
サングラスに覆われた両目は兎も角、心と額の目が痛い。
「お前が何者かのAnkerであるというならば、『外星体同盟』からの命令により、命を奪わねばならぬ。」
殺意を感じたのであろうか。先制攻撃を加えたのはゲーミングイカである。
「ーー抵抗するか。お前にはその権利が……。」
と言おうとして、サイコブレイドは口を閉ざした。
サイコブレイドの身体が、ゲーミング発光していたのである。
浴びせられたのはゲーミングイカ墨。浴びせられた者をゲーミング発光させるという、人間の尊厳を奪うかもしれないし奪わないかもしれない、恐ろしいイカ墨である。
「ーーさらばだ。」
それだけ言って。七色に輝くサイコブレイドは、誰かのAnker候補であるゲーミングイカを斬り捨てるのであった。
なお、斬り捨てたゲーミングイカは、『これも供養だ』とゲーミング発光しながら美味しく頂いたそうです。
●
「またゲーミング生命体にゃ!?猫も見なかったことにしたかったにゃ!」
いつもぺかぺか笑顔の子猫の星詠み、瀬堀・秋沙が遂にキレた!
ゲーミングボラやゲーミングイカが最近一部の依頼で猛威を振るっているとかいないとかいう話だが、また現れやがったというのである。
しかし、今回の目的は駆除ではない。Anker候補なのである。
幾ら美味かろうと、輝きが鬱陶しかろうと、食べてはいけないのである。
「Ankerとしての運命を感じちゃったひとがいたら、連れ帰ってもいいにゃ?」
という話だが、果たしてその様な物好きはいるのだろうか。
さて、このゲーミングイカは、どうも森の中で迷子になっているらしい。
何故森の中かはわからないが、少しでも光が漏れにくい場所を選んで飛んで行ったのだろう。
ゲーミング発光しているが、臆病かつ慎重な個体な様なので、みんなで見つけて保護してやって欲しい。
このゲーミングイカの保護に成功したあたりで、サイコブレイドが使役する赤く輝くクラゲの様なインビジブルが襲いかかってくるらしいので、これもサクッと撃退して頂きたい。
なお、この後サイコブレイド本人も襲撃してくるらしいが……。
絆を結んだ√能力者たちを応援する様にゲーミングイカが輝く度、サイコブレイドは苦悶する様な素振りを見せるらしい。
額の目が眩しくて痛いのだろう。たぶん。
そんな彼を倒すことで、今回の依頼は完了となる。
「こんなゲーミングイカでも、誰かのAnkerにゃ!とっても眩しいだろうけど、守ってあげてほしいにゃ!」
猫は何とも言えぬ顔から、何とか灯台の様な笑顔を浮かべると。
サイコブレイドと対峙するべく現場に向かう√能力者たちの背中を見送った。
第1章 日常 『ゲーミングイカ』
ーーそのゲーミングイカは彷徨っていた。
群れから逸れ、見知らぬ世界で1匹。どれ程心細いことだろう。
この七色の輝きのために何羽か鳥を撃退したが、それでもこの体は目立ち過ぎる。
(ーー誰かに守ってほしい……。)
鬱陶しいまでのゲーミング発光とは裏腹に、寂しい想いを抱えながら。
ゲーミングイカは森の中をあても無く漂っていく……。
「ゲーミング、イカ……ゲーミングイカ?」
ステラ・ノート(星の音の魔法使い・h02321)が思わずその名を二度聞きするのも無理からぬ事であろう。
何か訳のわからない、或いは質の悪い冗談だとも思いたくなる様な名前ではあるが、残念ながら名前が体を現してしまっている。
ゲーミング発光するからゲーミングイカ。実に分かりやすい。怪異よりも怪異らしいが、宙に浮かんだりゲーミング発光する以外は普通の生物の範疇に納まるらしい。普通って何だろうか。
姿を見れば頭を抱え、眉間や目頭を揉みたくなる様な強烈なゲーミング発光が襲い掛かるのだが……それはさておき。
「発光するイカは自然界でも存在しますが、ゲーミング発光とは……興味深いですね。
変わったイカであろうと、サイコブレイドに狙われているのなら救出しなくては。」
クーラーボックスを肩に掛けた|弓月・慎哉《ゆづき・しんや》(蒼き業火ブルーインフェルノ・h01686)の言う通り、色を自在に変える擬態能力を持つイカや、ホタルイカの様に自ら輝くイカも、実は珍しくない。
所謂『カウンターシェイディング』と呼ばれる護身法で、海面から降り注ぐ光に合わせて発光して己のシルエットを隠し、自身より深い位置にいる捕食者の目を欺くのだ。
あくまで普通に光るイカたちの場合は隠遁術のため、ゲーミング発光する理由は全くない。むしろ、美味しくて目立つ光を放ってしまっては、野生下に於いては長生きできないだろう……と思いきや、野生生物を撃退するほどの輝きを放つ事も出来る様なので、謎が多すぎる。
「ま、まぁ、そうだね。悪い人に見つかる前に保護しないと。きっとちょっと光るくらいの、小さくて可愛いイカだと思うし。」
そう。かのAnker殺しの暗殺者サイコブレイドが、懸命に生きる小さな命を狙っているというのである。
誰かのAnkerという事は、名も知らぬ√能力者の存在の寄る辺。ならば、必ず守り切らねばなるまい。
まだ見ぬゲーミングイカに思いを馳せて、星の魔法使いが小さく拳を握り締めた。
――さて、ここまでがゲーミングイカと対峙した事のない者たちの反応である。
一方で、既にゲーミングイカと相対した事のある者の反応は違う。
「……慣れてしまった自分が悲しいな……。」
クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)はゴーグルをばっちりと着用し、己の目をしっかりと保護していた。
ゲーミングボラ、ゲーミングイカ、と来て、またゲーミング生物である。
流石に三度目ともなれば装備も抜かりない。恐らく、どこかに目薬なども用意している事であろう。
本当に、歴戦の傭兵であり、心身に甚大な被害を受けて気分の悪さを吐露している彼が、どうしてこのような珍妙な依頼に関わってくれるのか。
ゲーミングイカの発光で新たなダメージを負わない事を祈るのみである。
「アロワナ、自力でゲーミング発光できるようになったってよ。」
こちらはゲーミングイカとの遭遇で、インスピレーションが湧いてしまった側である。
|一戸・藍《いちのへ・らん》(外来種・h00772)はアロワナである。アロワナであるが、空も飛べば言葉も話す。この時点でゲーミングイカと通じてしまう何かを感じるが、野良生物と呼ばれる√能力者群はそういうものだろう。深く考えてはならない。
しかし、深く考えたくも無いのに、今回のアロワナは七色にゲーミング発光してきやがった。
あれ、確かアレはゲーミングイカのゲーミングイカ墨を浴びた事による一時的な変異だったはずでは……?
などと、現場に居合わせてしまったクラウスは思った事であろうが。
「なんかやってみたらいけました。私の怪人細胞はやればできる子だったようです。」
と、本|魚《にん》は主張しており……。
アロワナが宙に浮いたりゲーミング発光するのも、きっと全てプラグマの仕業というが、大首領も全力で『何それ知らん』と否定するのではないだろうか。えらい風評被害である。
「せっかくなのでゲーミング生物同士、イカさんと仲良くなりたいですね〜。」
と、魚ならではの無表情でそう口にした藍が、この前ゲーミングイカの群れをミンチにして、ゲーミングいがめんちにした事をクラウスは忘れてはいない。
しかし、それはそれ、これはこれ。Ankerであるゲーミングイカと仲良くなるのは本件においては良い結果を齎す事に繋がるであろう。
「イカって何を食べるんだろう……?」
とりあえず釣りエサを用意してきたクラウスと、ゲーミング発光する怪魚、人間災厄たる|警視庁異能捜査官《カミガリ》と|取り替え子《チェンジリング》の心優しい魔法使いの4名は、迷いゲーミングイカが隠れているという森の中に足を踏み入れるのであった……。
●
さて、派手にゲーミング発光するとはいえ、広大な森の中だ。それに命が狙われているというのであれば、一刻も早く見つけて保護してやりたい。
そして、こういった空間での捜索といえば人海戦術が定石である。
「光っているのなら、すぐに見つかりそうな気もするけれど。」
故に、ステラは祈る様に目を閉じると、力ある言葉を唱えて√能力を発動する。
「輝く北極星を目指し、苦難の夜を往く我等を導きたまえ。……おいで。小熊座の使い達。
その輝く瞳と可愛い鼻で、ゲーミングイカを探して?」
――【|クマの子探検隊《ポラリスヲメザシテ》】
現れたのは星のように輝く瞳と嗅覚を持つ、24体の子熊の使い魔たち。
熊の子たちは『ゲーミングイカ?』とそれぞれに可愛らしく首を傾げたが。そういうものだと納得したらしい。
そして、地上を行く探検隊に対し、クラウスが【レギオンスウォーム】で呼び出したのは、小型無人兵器『レギオン』だ。
呼べば呼ぶほどクラウス自身に負担が掛かる為に数は抑えているが、索敵センサーを持ち、空中から捜索できる『目』は非常に心強い事であろう。
「イカが隠れると言えば、海底の砂地や岩陰の様な場所。潜れるような柔らかい土の下や、木の洞や根本などにいる可能性はどうでしょうか?」
数を用いた空地の連携に、イカの生態を基にした慎哉の推論。
「光ってれば、仲間だと思って寄って来てくれるかもしれませんからね。」
そしてゲーミング発光しながら空中を漂う一般通過|龍魚《アロワナ》。独りぼっちの寂しさを抱えているというゲーミングイカにも案外効果があるかもしれない。
それから程なくして、子熊の一匹よりステラに一件の報告が入る。
「そう、ありがとう。あっち、だね?」
この静かな森に不釣り合いな、ド派手な七色の輝きを発見したというのだ。ゲーミング発光という特徴も一致している。
そこにいるアロワナでなければ、まずゲーミングイカと見て間違いないであろう。
むしろ、他が居たら反応と対応に困る。
「怖がらせたらいけないから、みんな、一度戻ってくれるかな。」
如何に子熊といえど、流石の大所帯は臆病なゲーミングイカを怯えさせるかもしれない。
ステラはそう配慮して、探検隊の面々をあるべき場所に送り還すと。
子熊が示した場所へと、一行は彼女を先頭に歩を進めてゆく。
「……確かに眩しいですね。」
「……めちゃくちゃ目立つな。」
慎哉とクラウス、男子2名が思わず頷き合い。慎哉に至っては予め用意していたのだろう。流れる様な動作でサングラスを掛けた。
子熊の報告の通り、七色の輝きは確かにあった。目に痛いゲーミング発光は、やはり間違いない。クラウスの知る、あのゲーミングイカである。
ゲーミングイカの姿は凡そ胴長20㎝程。イカの中でも知能が高いとされ、海の忍者とも称されるコウイカをベースにした様である。
「ええと……こんにちは?」
そう言って前に出ようとしたクラウスを、アロワナが制す。龍魚の身体でどうやって制したのかはわからないが、とにかく制したのである。
「ここは、私にお任せを。」
イカを驚かさぬよう近付いた藍がゲーミング発光すれば、ゲーミングイカも不規則なゲーミング発光で返し、それにまたアロワナが七色に輝き返し……
「大丈夫、あの子とは解り合う事ができました。これぞ怪人細胞が齎したゲーミング発光の力。」
「あれだけで……?でも、警戒を解いてくれたならよかった。」
「本当に。ここまで無事でいてくれて良かったよ。」
元々、イカは体色でコミュニケーションを取るという習性がある。今回はこれがゲーミング発光によって行われたのであろう。その習性を利用したコミュニケーションのお陰で、どうにも話が早く進んだらしい。
ゲーミングイカの発光にインスピレーションを受けて手に入れた怪アロワナのゲーミング発光能力も、中々役に立つものである。今後役に立つかはさて置いて。
ゲーミングイカとゲーミングアロワナの二大ゲーミング生物の眩しさに目を限界まで細めていたステラが、うまくいったとの報告を聞いて、ほっとしたように息を吐いた。
少し、クラウスや慎哉の様にゴーグルやサングラスを用意してこなかったことを後悔し始めているかもしれないが、それはそれ。護るべき存在が警戒を解いてくれたなら、これほど有難い事はないだろう。
さて、保護に来た4人への警戒心が薄れたゲーミングイカは、√能力者の周囲の宙をつん、つん、と泳いでいる。
余程心細かったのであろう。本来は警戒すべき人間の形であっても、お構いなしにその姿を観察している様にも見える。眩しいことこの上ないが。
「私のおやつ用に持ってきた乾燥エビ食べるでしょうか?どうぞ、おいしいですよ〜。」
藍に勧められた小エビをしゅっと触腕で取るあたり、ゲーミング発光でのコミュニケーションがうまくいったのは真実の様であるし。
「そもそもイカって話が通じるくらいの知能があるのかな……。」
手の上に釣り餌を乗せたクラウスにも興味を惹かれた様で、つい、つい、と泳ぎながら近づいてくる。
√ウォーゾーンに生まれた彼にとって、前回のゲーミングイカ事件はさておいて、生きているイカには然程馴染みが無いと言っても良い。
魚類などの生き物の姿と言えば、空を泳ぐインビジブルの方が馴染もあるが……
「あ、食べてくれた。ちょっと可愛い気もする……?眩しいけど……。」
生き物との交流は、疲れ、荒んだ心を多少なりとも和ませるものだ。手の上からエサを取る姿に、クラウスは薄い表情筋を微かに和らげるのであった。
「イカくん、此方にもいらっしゃい。」
そして慎哉は肩に掛けていたクーラーボックスを降ろすと、中の小鯵を見せてやる。
無論、ゲーミングイカにとっては大御馳走だ。寂しさに耐えてきた甲斐もあったであろう。
クラウスの手から、今度は慎哉の方へとつい、つい、と泳ぎ。彼に与えられた小鯵を触腕で抱え、齧り始めた。
「――そもそも、何故ゲーミング発光する生き物を作ったのでしょう。
留守宅でも人が在室していると思わせられて、防犯の一助にはなりそうですが。」
今までのゲーミングボラ事件やゲーミングイカ事件は、全て√マスクドヒーローが発生源と言われている。
愉快犯か、明確な意図あっての事かはわからないが……彼の警察官らしい着眼点の通り、空中を浮かんでいる上に眩いゲーミング発光。
その上、小エビや小鯵、釣り餌など案外餌付きも良い。これなら、光量さえ何とかすれば防犯ペットとしては有りかもしれない。
「あ、私も小鯵、あげてみてもいいかな……?」
「ええ、勿論。」
おずおずと慎哉に声を掛けたステラは、彼の快い返事に顔を綻ばせ。
眩しいながらも、可愛らしい仕草で彼女が与えた小鯵を触腕で捕らえ、これにも齧り付いた。
――さて、タコは非常に高い知能を持つ事で知られるが、イカもまた優れた記憶力を持ち、『鏡像自己認知能力』を持つ生物のひとつ、と言われている。
かの偉大なる哲学者ルネ・デカルトは『動物にも知能はあるが、己を振り返る心はない』と定義した。
人間の自己とは自分を意識する事、『我思う故に我あり』の言葉は有名だろう。
動物の行動は『本能』に基づいた紋切り型であり、融通の利かない、機械と同質のものである。故に『心』は人間にのみあるものとされていたのだ。
この考えが17世紀から20世紀後半、チンパンジーが『鏡像自己認知能力』を証明するまでの主流であったと言ってよい。
この『鏡像自己認知能力』について説明すると非常に複雑となるため端折るが、鏡に映った己を見る事で、それが『自分自身である』と気付く能力である。
たったそれだけの事であるが、これが生物に『心』があるかどうかの証明の一つになるとされているのだ。
無論、生き物を飼った事のある人物なら、『心』を感じた瞬間は幾らでもあるだろう。しかし、『証明』についてはまだ、このレベルなのである。
それをイカはクリアしている。つまり、『心』を持っている可能性が証明されているのだ。
――だから。
「……大丈夫。あなたはもう、ひとりじゃないよ。
あなただけのAnkerが見つかるまで、わたし達が守ってあげる。」
小鯵を食べる姿を観察しながら呟いた、ステラの言葉の意味は解らずとも。
迷えるゲーミングイカの『心』に、確かに響いたのであった。
第2章 集団戦 『インビジブル・クローク』
√能力者たちとの交流で、すっかり彼らに懐いたらしいコウイカの様なゲーミングイカ。
今までの寂しさを発散するように、彼らの周りをゲーミング発光しながら楽しそうに、つい、つい、と泳ぎ回っていたのだが。
突如怯えたかのように、√能力者たちの影に隠れた。
√能力者たちの前に現れたのは、赤く毒々しい体を持つクラゲ状の邪悪なるインビジブル、『インビジブル・クローク』。
ふわふわと漂う姿は妖しく、美しくもあるが。これもサイコブレイドが放った刺客に違いない。
ゲーミングイカを守りながら、Anker候補に害を為すクラゲたちを疾く退治せねばなるまい!
森の中でのゲーミングイカとの心温まる、視覚的にもやたらとカラフルでケミカルで輝かしい交流を経て、イカの信頼を勝ち取った√能力者たちの前に現れた、邪悪なるクラゲたち。
ゲーミングイカの命を狙い、妖しげな美しさを持つ赤く半透明な体がゆっくりと一行の前に前進してくるが。
そうはさせじと集まったのが、今回の√能力者たちである。もしかしたら、Anker候補であるゲーミングイカと数奇な運命を辿る者もいるかもしれないが……今は、それはさておこう。
「光輝く空飛ぶイカと喋るアロワナを見た後だと、ちょっと毒々しいクラゲが浮いている程度では驚かなくなるものだね。」
ステラ・ノート(星の音の魔法使い・h02321)の言葉に、この場の√能力者たちの多くが頷いた。
――慣れとは実に恐ろしいものである。
とはいえ、後者が普段より√世界を当たり前の様に漂うインビジブルであるのに対し、前者2種はどちらも生体、というあまりに大きな違いがある。
√マスクドヒーロー産と言われるゲーミングイカに至っては、√能力すら持っていない。
何故浮かぶ事が出来るのか、それは明かされる日が来るかもしれないし、来ないかもしれない。そんな大いなる疑問はさておいて。
「イカさんは、わたし達の後ろに隠れていてね?」
やはりゲーミングイカに、ステラの言葉は解らぬが。目前に迫る脅威と、ステラの優しい気配から意味を理解したのだろう。
多少は加減を覚えてくれたのだろうか。それでも矢鱈眩い体色で以て、星の魔法使いの背後から視覚的にも輝くエールを送るのであった。
(目に優しいな……。)
空気を孕む様に膨らんでは泳ぐ赤い邪悪なるクラゲを見て、ステラと似たり寄ったりな感想を抱いたのは、クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)である。
特に、ここ最近の彼はゲーミングボラ、ゲーミングイカ、ゲーミングアロワナ、カニビーマー、ゲーミングリンドー……妙に光量強めの事件に関わる事が多いのだ。
ゲーミング発光したりビームを撃ったりしない相手に、少しばかりホッとするのも致し方ない事であろう。
(――……いや、それは当たり前じゃないか?)
どうやら、彼の|頭脳《常識》も1680万色に侵食されていた様だ。
『常識』とは何か。『普通』の敵とは何か。そんな疑念を頭から振り払い、クラウスは拳銃を片手にゲーミングコウイカを守るため前に立つ。
なお、王権執行者の中でも、ドロッサス・タウラスはこれでもかと光り輝く場合があるので、注意して頂きたい。
そして、この後。クラウスの視神経が再び酷使される事となることを、今の彼はまだ知らない。
「おやまあ、クラゲがたくさん。こんなに小さいイカさん相手に、物騒な……。」
プランクトンの如き邪悪なるインビジブルを前に、ネクトンそのものである|一戸・藍《いちのへ・らん》(外来種・h00772)は、警告するようにゲーミング発光した。
赤いクラゲたちは、宙に浮かび光り輝く|怪魚《アロワナ》の発光信号による警告を
を理解したかはわからぬが、例え理解したとて従う義理も無い。
ふわふわ、ゆらゆらと漂う様に近付いてくるが。一方のゲーミングイカは、直ぐに藍の1680万色からなる信号文を理解したらしい。
先にも語った事だが、イカはタコには一歩譲るものの知能も高く、体色の変化によってコミュニケーションを取る事が出来るのだ。
アロワナの発光信号に、『了解しました』というだけの旨を無駄に輝く体色を以て返信した。
「大丈夫ですよイカさん、怖いのはすぐにいなくなりますからね〜。」
護る事を決意した√能力者たちは、実に恐ろしいものである。それは多くの簒奪者たちが苦々しげに、或いは忌々しげに口を揃える事であろう。
この場に新たに現れた、一人の√能力者を加え。ゲーミングイカを護る為の戦いが幕を開けるのであった。
さて、√能力者たちの背後に隠れ、藍の発光信号に従って行動を開始したゲーミングイカであるが。
(……でも、隠れていても光るから目立つよね。)
ステラをはじめとするこの場の皆が否が応にも知る羽目となった通り、このイカ、滅多矢鱈と輝くのである。
それが探索の時は、ステラが使役する子熊の探検隊が発見する鍵となったが……いざ、此方が隠そうとなると、通常の手段では中々に厳しいものがある。
「――ならば。木を隠すなら森の中、光を隠すのなら光の中だよ。」
明星の魔導書に記された楽譜の様な呪文を歌いあげれば、放たれるのは煌めく魔法の流星群。
「みんなでキラキラパチパチ!」
――【|煌めく流星群《スパークリング・スターズ》】
着弾する度にパチパチと可愛らしい音を立てて弾ける火花が、邪悪なるクラゲたちを灼き。
そしてステラの√能力の真価は、支援効果にて発揮する。キラキラと煌めく星の輝きを味方に纏わせることで、戦闘力を上昇させる事が出来るのだ。
もちろん、その輝きは光の中にイカを紛れさせ、クラゲたちの視覚を欺いて。
|藍《アロワナ》が普段使いしている『段ボール』に、ゲーミングイカが隠れる時間を稼ぐことに成功した。更に、である。
「――終焉を、貴方たちに。」
星の光に負けじと、黄金に輝くピラニアやエイなどの形をしたレギオン群が縦横無尽に飛び回り、一斉に赤いクラゲの群れを攪乱し、食い荒らしてゆく。
――【|過背金龍《ゴールデンフィニッシュ》】
アロワナがコントロールする全レギオンを黄金に輝く必殺形態に変形させるこの√能力、攻撃回数と移動速度を4倍にする事もあり、威力的にも視覚的にも優しくはない。
さて、敵はインビジブルではあるが、漂うだけのクラゲに視覚はあるのだろうか。
――答えは、Yesである。
クラゲは複数の『目』を持つ事で知られる。明暗を感知するだけの機能を持つものもいれば、種類によっては非常に高度なレンズ眼を持ち、脳を持たないながらも学習能力を示すものも存在するという。
つまり。ステラの星の輝きも、黄金に輝きながら飛行するレギオン群、そして。
「勿論私もゲーミング発光中ですよ〜。存在感バッチリです。」
怪人細胞により身に付けたというアロワナの1680万色の輝きも、クラゲたちの視覚を攪乱するのみならず、大ダメージを与えるに至った。
「……大丈夫。さっきみたいに限界まで目を細めていれば耐えられる、はず。」
なお、√能力者たちも星の光を纏う様になったため、星の魔法使いは再び限界までエメラルドの瞳を隠す様に目を細める羽目となった事も追記しておく。
「クラゲ型のインビジブルですか。触手には気を付けなくては。」
念のために持ち込んだサングラスがここまで役に立つことになるとは、流石の彼も思わなかったであろうが。
星の光に黄金の光、ゲーミング発光という多種多様な輝きからしっかりと視覚を保護している|弓月・慎哉《ゆづき・しんや》(蒼き業火ブルーインフェルノ・h01686)と。
そして、この現場に新たに加わった|白影・畝丸《しらかげ・うねまる》(毒精従えし白布竜武者・h00403)は、特に戦闘に力を入れた二人である。
「なるほど……。あの謎に光るイカを守れば良いのですね……。」
畝丸が守るべき対象は、既に段ボールに飛び込んだ事を確認している。ならば、ここから先は邪悪なインビジブルたちを一掃していく段階だ。
(他の皆さんや|保護対象《ゲーミングイカくん》を巻き込むようなミスをする心配は……なさそうですね。)
素早く状況を確認した慎哉が纏う、星の輝き混じりの|蒼き焔《インフェルノ》が静かに燃え上がる。
「では。一体として討ち漏らしを出さないために、焔を降らせましょうか。」
その|意思《ほのお》に応える様に、天より蒼く尾を曳き雨の如く降り注ぐのは、超高熱の【|蒼焔の驟雨《フレイムレイン》】。
指定地点から半径24m内に300発もの蒼焔を降らすこの√能力は、ステラが付与した星の輝きの後押しがあるとはいえ一発一発の威力は低いが、彼の狙いはそこにはない。
「これで、包囲網は完成です。後は皆さん、存分に。」
藍の操るレギオン群によって食い散らかされたインビジブル・クロークたちを一か所に集めて逃さぬ、蒼い焔による檻。
「託されました。それでは、僕も一気呵成に攻めかかるとしましょう。
――|龍魚《アロワナ》殿。その力、僅かながら僕が使わせて頂きます……!」
「どうぞ、どうぞ~。」
この際、貸主から気さくに返事が返ってきたのはさておこう。
畝丸が取り出したのは、『変幻の毒霊札』。そして、発動するは……
――【|毒霊融合纏神《ドクレイユウゴウテンシン》】
彼の使役する毒精霊と融合する事により、任意の数の√能力者の特性を模した融合体に変異する√能力である。
今回、彼が模したのは無数のレギオンを従える藍だ。とはいえ、如何に本性は龍のような姿を持つ『白うねり』とはいえ、姿かたちまでは|龍魚《アロワナ》にはならない。
さて、余談ではあるが。|竜《ドラゴン》の名で呼ばれる、クラゲの天敵をご存じだろうか。
その生物は猛毒の刺胞を持つカツオノエボシやギンカクラゲといったクラゲを好んで捕食する。
それだけならば、他にも該当する生物は存在するであろう。しかし、この竜は捕食するだけに留まらない。
クラゲの刺胞を奪い、己の武器として操る『盗刺胞』という生態を持つのだ。
――この生物の名をアオミノウミウシ、又の名をブルードラゴンという。
収斂進化の如きものといっても良いのであろうか。無数のレギオンクラゲを従え、白の大鎧の背からはクラゲの如き触手が背中から生えた姿はどこか、かの青竜を思わせる。
「反撃は届かせません。……全機、斉射。」
畝丸の号令とともに、クラゲレギオン群による毒のミサイルが赤クラゲの群れに降り注ぐ。
「……毒に侵されては回復の意味もないでしょう。」
27秒の限られた時間とはいえ、クラゲ毒に加えて、己が契約した毒精霊による毒を調合したのだ。
例え直撃を避けたとしても、その身を毒が蝕んだのなら。立ちどころに効果は表れ、地に墜ちてゆく。
「こうまで範囲攻撃が合わさると心強いね、俺も合わせるよ。
――イカをこれ以上怖がらせることの無いよう、迅速に撃破しよう。」
そのクラゲレギオンたちに重ねる様に放たれたのは、クラウスが太陽の如き瞳を親友から引き継いだ【決戦気象兵器「レイン」】の300発の針のようなレーザー光線だ。
毒のミサイルを運よく避けたとしても、蒼焔の檻からは逃れられない。
その周囲より僅かに幸運だったクラゲに向けてクラウスは雨の如きレーザーを集中させて無数の風穴を開け、確実に葬り去ってゆく。
「ふふ、イカさんも段ボールの中から見てくれているかな。」
ステラが歌いながら放つ星の光がパチパチと弾ける中、派手な音響弾も織り交ぜて。
華やかに、賑やかに。星の輝きを纏った√能力者たちが駆け回り、色とりどりの光線や魚群が踊る様は、まるで遊園地のパレードのようだ。
静かな森の一角は、すっかり蒼焔に囲まれたステージと化している。
(――怖い中、少しは楽しんでくれているといいけれど。
√EDENには楽しいことがたくさんあるって、イカさんにも興味持ってもらえたら嬉しいな。)
背後の段ボール箱から、小さな視線を感じながら。ステラは胸中で呟くのであった。
――さて。
範囲攻撃に次ぐ範囲攻撃でクラゲの群れは壊滅的打撃を被り、僅かに生き残ったクラゲたちも畝丸の毒で虫の息か、ステラの星の輝きと藍自身の1680万色とレギオンたちの黄金の輝きにより、視覚が潰されている。
僅かながらに接近する気配を感じつつも、闇雲に振るった触手がどうして現場経験を積んだ√能力者たちを捉える事が出来ようか。
赤い触手を掻い潜ったクラウスが形見の拳銃を突き付けると、すかさず発砲して息の根を止め。発砲音を頼りに延ばされた触手を槍の形に錬成した魔力兵装で薙ぎ払い。
触手を斬られ、苦しみ悶える様に震えるインビジブル・クロークの懐に、熟練の体捌きを以て慎哉が飛び込んだ。
「お別れの時間です。――言い遺す口は……残念ながら、無いようですね。」
所属する部署から支給された制式装備の自動拳銃から放たれた超常現象阻害弾が、最後の一体の命脈を絶つと共に。
森を蒼く染めた焔の檻は、静かに消え去るのであった。
●
「……よかった。イカくんも無事なようですね。」
サングラスの下、慎哉の空色の瞳が√能力者たちの無事な姿と、そして藍の段ボールからひょこっと顔を覗かせるゲーミングイカの姿を認めて。彼は僅かに微笑みを浮かべた。
インビジブル・クロークを全て撃破した今、配下を全て失ったサイコブレイドがその姿を現すであろうが……皆の無事を確認して、少しの間、気を緩めるくらいは許されるであろう。
ゲーミング発光をする藍と、笑みを浮かべながらも決して目を開けないステラ、そして初めてゲーミングイカを見る畝丸が、それぞれに1680万色に輝くコウイカを観察する中。
「……目が疲れないのって、いいな。」
暗に、次は目が疲れないといいな、という意を含ませつつ。
クラウスは眉間を揉みながら、ぽつりと呟いた。
――……だが、彼は忘れていたのである。
サイコブレイドもまた、外宇宙の光という強烈な輝きを放つ√能力を持つ簒奪者であるということを……!
第3章 ボス戦 『外星体『サイコブレイド』』
「――やはり、俺自身が手を下さねばならないか。」
ざり、と。落ち葉混じりの土を踏み締めて。
ゲーミングイカなる、七色に発光し空中浮遊までするAnker候補の怪生物の命を奪うため。
『外星体同盟』に所属する|王権執行者《レガリアグレイド》にして暗殺者、サイコブレイドが姿を現した。
彼もまた自身のAnkerを人質に取られ、望まぬ暗殺に従事させられている事を知る√能力者も多く、実際に彼と対峙した者も多かろうと思うが。
現場に姿を見せた以上、苦々しげな表情を浮かべながらも彼の腹は決まっているという事に他ならない。とはいえ、だ。
「……っく。それにしても、眩しいな。」
それは、この現場の殆どの者が強く同意するところであろう。
段ボール箱の中から四方八方にゲーミング色の輝きを撒き散らすゲーミングイカのゲーミング発光は、容赦なくサイコブレイドのサングラスをも貫き、更に額の目をも突き刺した。
良心の呵責に加え、純粋に眩しいのだろう。第三の目が強く瞑られている。というか、直視しては目がやられかねない。
「それでも、俺はやらねばならんのだ。己のAnkerのために……赦されざる悪を全うする。
先ずはお前たちを排除してから、間違いなく命令を遂行させてもらうとしよう。」
邪悪を演じる王権執行者は、己が得物である剣を構えると。
ゲーミングイカを守るべく集った√能力者たちに、その切っ先を向けるのであった。
※Caution
・この戦いでは、ゲーミングイカがゲーミング発光したり、時にゲーミングイカ墨を吐いて、命がけで応援してくれます。
バフなどの効果は特にありません。眩しそうにはします。
・また、サイコブレイドがゲーミングイカを狙う事はありません。
・ゲーミングイカをAnkerとして迎えたいという方……本当にいるのかな……!
兎に角、Ankerとして迎えたい場合、プレイングの頭に【コウイカ】とご記入ください。
驚くべき事に複数の希望者様がいらっしゃった場合、第1章、第2章での交流からお迎えいただく方を決めさせて戴き、エピローグにて発表させていただきます。
クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)という傭兵は、これまでに幾度、|王権執行者《レガリアグレイド》であるサイコブレイドと刃を交えて来たことだろうか。
眼前の三つ目の暗殺者は、ある時は解けない問いに挑み、またある時は猫を襲い、そして今は1680万色に発光するゲーミングイカの命を狙う。
『外星体同盟』なる組織から強いられているとはいえ、Anker候補であれば破壊不能なオブジェクトであろうがなんだろうが殺しに出張らなければならないのだ。
シリアスからこんなトンチキにまで幅広く巻き込まれてしまうのだから、色々な意味で背負わされた気苦労も尋常ではあるまい。その背景を思えば。
「貴方も大変だな……。」
七色の輝きを真っ向から浴びせられ、額の眼を固く瞑ったサイコブレイドに対して。クラウスだって、こうも伝えたくなるというものだ。
「……見知った顔とはいえ、同情は要らん。俺が止まらん事も知っているだろう、いつも通りにかかってくるがいい。」
例え労わられたとしても、それが己の名前と同じ名を冠する得物を納める理由とは成り得ない。
ゲーミングイカなる怪生物を守る、などという珍妙な状況ではあるが。ひとつの小さな命が懸かっているのである。
しかし、だ。『ゲーミングイカの行動はイカ自身に任せる。』それがクラウスの取った方針だ。というのも。
(――俺達がいる限り、イカは狙われないだろう。)
先に述べた通り、クラウスはサイコブレイドと何度も干戈を交えている。その中で、幾らAnker候補がクラウスたちを応援しようと、サイコブレイドが戦闘中にAnker候補に刃を向ける事は無かった。
(彼がそういう人だと、もう知りすぎるくらい知っているからね。)
――奪わなくて済む命は奪いたくない。
それこそが、本来の彼なのであろう。クラウスはそう確信していたし、敵でありながらもその一点に於いては信頼すらしていた。
この様に、場に久方ぶりの緊迫感が訪れようとした、その時であった。
「真面目なかたですね~。もう少しご自身の目を労っても良いのでは?」
妙に間延びした声と共に、サイコブレイドのサングラスと、ついでにクラウスの視力保護のためのゴーグルを容赦なく貫く、鬱陶しい七色の輝きのお代わりが2人の眼を襲った。
(……やっぱり、眩しい……。)
戦場の光源はゲーミングイカのみに非ず。この場にはもう一匹、ゲーミング怪生物が居る事をクラウスは忘れてはいない。
全身をくねらせて宙を泳ぎ、鱗という鱗をゲーミング発光させる、ゲーミングイカと等しく怪異より怪異らしいが『ただの』野良|硬骨魚類《アロワナ》である|一戸・藍《いちのへ・らん》(外来種・h00772)。
――そう、お待ちかねのシリアスブレイカーである。
「ゲーミング発光してる奴が言うなって?ごもっとも。」
ごもっともも何も、まだ、誰も何も言っていないが。|龍魚《アロワナ》は遂に、サイコメトラーにでも開眼して、心を読む能力でも身に着けたのであろうか。
シリアスな空気に真冬の氷水でもバケツで浴びせられたかのような、この状況。
サイコブレイドが何とか、緊迫感溢れる雰囲気を呼び戻すために抵抗するべく口を開こうとするも。
「――やめませんがね!」
この通り、立ちはだかるゲーミングアロワナはその発言を許さないと言わんばかりの、見事なまでの先手必殺である。
「本当に、貴方も大変だな……。」
しみじみと、そう呟くクラウスに。言葉を遮られてしまったサイコブレイドは、何処か助けを求める様な瞳で彼を見遣るのであっt
「くらえ、ゲーミング尾ヒレビンタ!」
「ぅ、お……!?」
そんなサイコブレイドを何の脈絡もないが故に地の文すらも置き去りにする、あまりにも唐突に過ぎる不意打ちが襲う!
ここは既に血風吹き荒れる戦場である。如何に怪魚の対処に困ろうと、その様な場で余所見をする様な奴が悪いのである。
いや、彼を責めるのは酷過ぎる気もするが、戦いに卑怯もらっきょうもない。戦いとはそういうものである。
――だが。
虹の様に、とはまかり間違っても言う事は出来ない、七色に光輝くアーチは……
びったぁぁぁん、と木の葉に覆われた地面を叩いた。要は、見事に空振った。
流石は王権執行者。例え状況に困惑していたとしても戦士としては超一流であるからには、この程度の回避は容易であったという事か。
どぎついゲーミング発光が否が応でも目に入ったから不意打ちになっていなかった、という訳では決してあるまい。
――だが、それがサイコブレイドと、巻き込まれたクラウスの悲劇の始まりであった。
「外れたね……?」
「はい、外れました。」
「その程度、当たりはせん。その自己主張が激し過ぎる光を止めてから出直してくるといい。」
やっと、御尤もな言葉を口にする事ができたサイコブレイドである。
だが、眩しそうに見遣るクラウスに対して、魚ゆえの無表情で事も無げに肯定するアロワナは不気味でしかない。
――いいや、クラウスは察した。第六感の技能を保有していない彼であるが、察してしまった。
これは、とても。とても酷い事が起こる、と。
その証拠に、森の地面は沼となり。ぽんっと。その水面には、丸く艶やかな葉が芽吹いているではないか。
√ウォーゾーンに生を受けたクラウスには、あまり馴染みのない植物であろうが。その水草は、巷では『ホテイアオイ』と呼ばれている。
「ご一緒した皆さんに迷惑をかけそうで、心苦しいですが。」
そう思うなら、止めてほしい。その場の誰かは内心で叫ぼうとしたかもしれない。だが、アロワナはもう、行動を終えてしまっている。
「私がゲーミング発光しているのは、同化した怪人細胞の力なのですが。今出現した水草も体から溢れた怪人細胞なのですよ。」
なんだか、アロワナが恐ろしい事を語り始めたが。クラウスも、サイコブレイドも藍の言葉に何が起きるかは理解し始めている。
――さて。
藍の√能力【|布袋葵《ブラウテロル》】により発生した、ホテイアオイという植物がどの様な植物であるか、端折りに端折って説明しよう。
南米原産のこの植物は浮袋の様な器官で水面に浮かぶ性質を持ち、淡い紫の美しい花を咲かせる観用植物……なのだが。
心無い者が野生に解き放つと、この水草は自然と人類に牙を剥く。そのあまりにも強力すぎる増殖力は時に池一つを覆い尽くして生態系を木端微塵に粉砕し、ダムの取水口すら詰まらせ、腐敗すれば当然の様に悪臭を放つ『重点対策外来種』なのだ。
「「つまり……?」」
クラウスとサイコブレイド、敵味方の声が自ずと重なる。
いいや、本当は聞かずともわかっているのだ。彼らの足元が既に、爆発的な速度で繁茂する、厚みのある葉に覆われている。
しかもそれがサイコブレイドの足元を中心に、彼の影をも消さんばかりに七色に光り輝いているのだ。
そう。この場の誰もが見慣れてしまった光のパターン、ゲーミング発光である。
――ゲ ー ミ ン グ ホ テ イ ア オ イ 顕 現
重点対策外来種とゲーミング発光という地獄の様な悍ましい組み合わせに、後にこの戦いの記録を見て『何てことしやがる』と悲鳴を上げた者が居た事を付記しておく。
さて、アロワナによる環境テロにより、本っ当に、大変に酷い事になっているが。こんなこともあろうかと、視覚保護のためのゴーグルを装着していたクラウスである。
藍の√能力は自身以外の全員の行動成功率が半減するという傍迷惑な効果を持つが、視界を保護しているのだから多少はマシであろう。
彼は己の魔力に形を与え、月光のような光を纏った剣を創り出した。その輝きの、なんと目に優しい事か。
――【|黎明の月《レイメイノツキ》】
ゲーミングホテイアオイの繁茂する沼をざぶざぶと駆けるクラウスの接近に、サイコブレイドも気付かぬ筈がない。
「足場の悪化が、貴様の不利に働いたな。」
目は眩んでいても、音を頼りに|得物《サイコブレイド》を構え。サングラスの下で薄目を開けて、王権執行者はクラウスを待ち構える。
「でもその視界じゃ、この手には気付けないだろう?」
それがどういう意味か。サイコブレイドは己の身を焼く痛みと共に理解した。
降り注ぐ粒子状のレーザーに、|浮遊砲台《ファミリアセントリー》による射撃。
何れもクラウスの思念操作による、支援砲撃だ。ゲーミング発光により視力を低下させられ、更にゲーミング重点的対策外来植物が繁茂する沼地では、碌な回避行動も取れやしない。
弾幕に気を取られれば、クラウスの姿は既に指呼の間にある。
「……ふっ!!」
足場の悪さをものともせず、裂帛の気合と共に月の輝きを纏った剣を振り抜けば。
三日月の様な軌跡を描いた初太刀が、確かに王権執行者の体を捉えた手応えとして彼の手に伝わってくる。
「やるな……!だが、二の太刀までは受けてやれん!」
赤い血を迸らせつつも、追撃を防ぐのは流石と言ったところか。火花を散らして、二合、三合と打ち合い、斬り結ぶ。
(――彼とは、できれば殺し合いなんてせずに終わらせたいけど、そういう訳にもいかないだろうな……。)
相手の戦闘中にはAnkerを害する事はない、という姿勢を信頼するが故に、クラウスはこうも思う。
彼が人質など取られていなければ、きっと共に穏やかに過ごす事が出来る可能性だってあるのではないかと、そう思う。……のだが。
「イカさん、せっかくなので私のレギオンに墨をかけてもらえますか?」
すっかり意気投合したゲーミングイカとゲーミングアロワナにより、ゲーミングイカ墨をかけられ七色に輝く様になったピラニア型レギオンまで乱舞し始めれば、彼の真面目な思考も何だか急速に萎んでゆく。
(――√能力でなくとも、ここまで戦意を萎えさせるなんて……。ゲーミング発光、ある意味凄いものなのかもしれない……。)
数多いる√能力者たちの中でも、群を抜いた戦歴を持つ黒衣の傭兵は。
『ゲーミング発光』という事象について、新たな、そしてどうしようもない知見を得るに至るのであった……。
「来ましたか、サイコブレイド……。噂は予々聞いております。」
日々、己のAnkerを守るべく戦う|白影・畝丸《しらかげ・うねまる》(毒精従えし白布竜武者・h00403)をはじめとする√能力者たちにとって、外星体『サイコブレイド』の名は、特に警戒すべき存在として知られている事であろう。
『外星体同盟』なる組織に己のAnkerを人質に取られ、組織の命令に従ってAnker候補を暗殺する王権執行者。望まぬ殺戮を強いられた者。
そして……解けない問題や破壊不能なオブジェクトに挑まされ、猫や犬などのつぶらな瞳に射抜かれる度に、良心の呵責に耐えかねて、苦悶の声を漏らす者。
――上からの指示とはいえ、中々の苦労人である。
今も、ゲーミングイカが1680万色の輝きを放つ度に痛々しげに額の眼を抑え、これより為さねばならぬ悪事に苦しんでいる。
……のか、サングラスに覆われていない額の眼が、極彩色の七色の輝きによって視神経に猛烈な負荷を掛けられている苦しんでいるのかはわからぬが。
「こんな小さな生き物まで抹殺しに出向かなければいけないとは、貴方も大変ですね。」
|弓月・慎哉《ゆづき・しんや》(|蒼き業火《ブルーインフェルノ》・h01686)が挑発半分、同情半分のつもりで言い放った言葉が、100%の同情にしか聞こえぬ有様である。
なお、その慎哉であるが、しれっとスマートにサングラスを掛けているあたり、実に抜け目がない。
これならば、どこぞのゲーミングアロワナがばら撒いた重点対策外来種たるゲーミングホテイアオイ生い茂る沼地にも適応できるであろう。
とまあ、既に外来生物によって林床が沼地に改変されるという環境破壊行為に加え、視覚的にも大変に賑やかなことになっている中ではあるが。
耳だけは静かな森であったこの空間に、景気の良い声と静かな排気音が加わるとは、いったい誰が予想していただろうか。
「どもー!オマワリさんでぇす!!」
かなり警察車輌めいた外観のデコトラならぬデコキッチンカーが、ざんぶと1680万色に輝く沼地に突っ込み。
ついでに良心の呵責と目の痛みに耐えかねていたサイコブレイドを撥ね飛ばした。
ただの車両であれば、サイコブレイドも気付いたであろうが。この車、なんとステルスマシンに分類されるのである。
気付かれてから地味にバズるという、不思議な特性を持つ高性能偽装車両なのである。王権執行者が接近に気付けなかったのも、きっとステルスマシンという特性が存分に発揮されたためであろう。
ゲーミングホテイアオイの沼から弾き飛ばされ、錐揉み回転から大地を転がる王権執行者の姿は実に痛ましい。
そして、よりにもよって|警視庁異能捜査官《カミガリ》である慎哉の前でのひき逃げ事案の発生である。
だが、大方この様な荒事の場に、好き好んで突っ込んでくるのは同業者であると見て間違いない。『戦闘行為』であれば、過失運転致死傷に問う必要もない。多分。
(――回転灯は……積載されていませんね。)
なので、慎哉が気にしたのは其処……道路交通法及び道路交通法施行令、道路運送車両法、偽造公記号使用であった。
パトカー等に積載されている赤色回転灯について、緊急車両以外が積載して公道を走行する事は禁止されており、いわゆるパトランプの規格についても細かく規定が為されている。
三つ目の王権執行者に特攻し、ゲーミングホテイアオイの七色の輝きに照らされながら停車している、どこまでも警察車両に見えるキッチンカー『Hasta La Vista』は、あくまで『キッチンカー』である。
赤色回転灯や公機関のロゴが入っていたなら物静かな笑みと共に滾々と問い詰めるところであったが、その心配はなさそうだ。
「うっわ!イカチャン、なんかすげー家電量販店とかで売ってそうな見た目してんね!
良かったらボクの車のフロントガラスの上に来てよ。めっちゃイカちくない!?」
何より、初対面のゲーミングイカにテンション爆上げとなっている|逝名井・大洋《イケナイ・タイヨウ》(TRIGGER CHAMPLOO・h01867)もまた、慎哉と同じ|警視庁異能捜査官《カミガリ》なのである。
末端とはいえ警視庁公安部の『第69課』主任を務める警部補なのだから、そこらの法律はちゃんと了承している筈だ。
「令状?ないよぉ!……遊びたくなったから来ちゃったぁ!」
などと本人は供述しているため、法を熟知しながら踏み倒している可能性が大いにあるが……そこら辺を気にしていたらキリがないのが√能力者という存在であろうかと思う。
さて、何とも混沌とした状況ではあるが、誰かが取り仕切らねばいつまで経っても戦いが始まらなさそうな状況に、畝丸はひとつ、咳払い。
「……お仲間、という事ですね。こちらも、イカ殿を守るために尽力しましょう。
ここに居られる皆さんとも、共闘したいですが……よろしいですか。」
「ええ、僕はそのために来ているのですから、連携なら喜んで。逝名井警部補も、そのおつもりでしょう?」
車両をさりげなく観察し点検していた慎哉も、畝丸の言葉に穏やかに首肯し。大型犬の様な気配を持つ警部補も、水を向けられれば戦場に似合わぬ大きな笑顔で『もち!』と頷いた。
新たな乱入者を加え、七色に彩られた森と沼にデコキッチンカーを添え。ゲーミングイカを守るべく始まったサイコブレイドとの決戦は、漸く再開するのであった。
「――敵には毒の汚染を、仲間には毒の加護を与えましょう。」
この戦いの先陣を切ったのは、白の大鎧を身に纏ったドラゴンプロトコルの様な見目の妖怪、畝丸であった。
大洋の運転するキッチンカーに撥ねられ、漸く起き上がったところのサイコブレイド目掛け、素早く精霊弓銃の照星を合わせ。
正確な狙いと共に放たれるのは、己と契約を交わした毒精霊の力を付与した、毒の砲弾。
――【|悪毒霊砲《アクドクレイホウ》】
それは狙い過たずサイコブレイドを撃ち抜き。かの王権執行者は傷口より染入る不快感に、思わず顔を顰めた。
「これは……毒、か。」
そう、彼の身を蝕む、毒。そして、この√能力の効果はそれだけに留まらない。味方の通常攻撃に、一定時間『毒を与える効果』を付与し、戦闘力を向上させるのである。
――故に。
「イカくん、協力をお願いします。」
ゲーミングイカに、人の言葉はわからないが。慎哉が己に呼び掛け。今にも恐ろし気な殺気を放つ男が、畝丸に反撃の一太刀を浴びせようとしているその姿を見て、奮起した。
――【サイコストライク】。
この√能力は高い命中率を誇り、如何に額の目が眩んでいても畝丸のその身を捉えるであろう。
「……何事かっ!?くっ、何も、見えん……!」
しかし、その刹那である。サイコブレイドの視界が、突如として1680万色が織り成す七色の輝きによって覆われたのは。
慎哉の要請に応じ、王権執行者の顔面にゲーミングイカ墨を吹きかけたのである。
そして、効果は目晦ましだけに留まらない。ぴりぴりと己の顔を灼く様な激痛……そう、毒だ。畝丸の√能力により、ゲーミングイカの『通常攻撃』に毒を与える効果が付与されたのだ。
こうなってしまえば、幾ら高い命中率であろうとも、急所を捉える様な正確さは望めないであろう。
畝丸はすかさず、宙に浮かぶ大盾……展開式大盾鎧を展開し、その刃を見事に逸らしてみせる。
「……その様な状態では、再行動をしたところで無意味でしょう?」
「どうやら、その様だ……!」
「ですが。再行動の手段は一つ、奪わせてもらいます。」
そして。この全ての眼が一時的に効かなくなり、攻撃を往なされた、一瞬ではあるが大きな隙。
蒼い焔と共に慎哉が密かに接近している事に、サイコブレイドが気付く術など有りはしなかった。
「――小手調べ、と言えるほど甘い敵ではありませんが。この場から逃す訳にはいきません。」
【|蒼焔の驟雨《フレイムレイン》】が降り注ぎ、三つ目の異星人の逃げ道を奪う中。
歴戦の勘とでも言うべきものであろうか。王権執行者はこの√能力が牽制であると察知し、咄嗟に剣を持つ腕を守るべく左腕を翳すが。その腕から、骨が砕ける様な音が響いた。
至近距離からカミガリの制式拳銃が発砲され、左腕の骨を撃ち折ったのである。
【サイコストライク】が高い命中率を誇るのは先に述べた通りだが、その追加効果に攻撃後『片目・片腕・片脚・腹部・背中・皮膚』のうち一部位を破壊すれば、即座に再行動を可能にするというものがある。
畝丸とゲーミングイカ、そして慎哉の連携により、再行動の条件を満たす一部位を見事に奪って見せたのだ。
「――だが。使えぬ目に、用などない。」
その場に、冷ややかな殺気と共に、王権執行者の低い声が響き。1680万色に輝くサイコブレイドの顔面、その額の眼より血が溢れ出す。
額の眼を潰す事で【サイコストライク】の追撃の発生条件を満たし。愉快な七色に輝くサングラスを捨てる事で、視界を取り戻したのだ。
――狙いは一つ、至近距離にいる慎哉の首!
「うっわ、顔面ゲーミング発光とかすっげイカした事になってんじゃん!?」
だが。その刃が捜査官を捉える事はなかった。
警部補が操るクサリヘビの名を冠する拳銃、その銃床が。サイコブレイドの剣の横っ面をはたき、カミガリの同僚への狙いを逸らしたのである。
そして、逝名井・大洋という人物は、目標の為なら手段を厭わぬ悪辣な一面……抜け目の無さを持つ。
さて、畝丸、慎哉、ゲーミングイカとの攻防で、サイコブレイドは一体どれ程の時間を使ったか。
――実に、60秒である。
大洋が用いる√能力の発動に必要とする時間は、これまた60秒。
そして、二丁拳銃たるANARCHYの鎌首は、ふたつ。もう一方の顎が、返す刃とばかりにサイコブレイドに突き付けられていた。
「こんだけ時間掛けといて、ジャムったらウケるんだけど!」
おちゃらけて笑う大洋だが。全てこの一撃の為に溢れんばかりの霊力を充填し、準備を整えてきた抜け目のない彼が。
その様な愚や、不運に見舞われるような整備をしている訳も無い。
――【|国家機密《ミルクシェイク》】
銃口から放たれ、巻き起こる霊力の奔流、光の嵐。
放たれた超秘匿性・対簒奪者特化型殺傷炸裂霊力弾の威力は、範囲こそ近距離に限られるが、通常の攻撃の18倍にも上る。
この一撃の前に立っていられる者は、余程の実力差がない限りはそう居ないであろう。
――だが。
「なるほど、そう来たかー!」
思わず、大洋は苦笑を浮かべた。
そう。最低でも60秒は耐えきる手段を、サイコブレイドも持っている。
得物であり、己と同じ名前を冠する剣に装填するのは、外宇宙を思わせる眩い輝き。
――【ギャラクティックバースト】
同じような√能力を正に今使用した大洋にはわかる。それならば、確かに『今は』斃れない、と。
しかし、今は斃れなくとも、ダメージを後ろ倒しにするだけだ。ダメージ以外の効果は通る。ならば、もう一手だけ、やれることがあるではないか。
「イカチャン、もう一発!あのおっさんに、とびっきりのぶっかけてやってちょーだいな!」
サングラスを外したサイコブレイドの、エメラルドに輝く両目に。
大洋の陽気な号令と共に、1680万色の鮮やかに過ぎるゲーミングイカ墨が、再び襲い掛かるのであった。
√能力者たちに与えられた時間は、約60秒。それを凌ぎ切れば、大洋の放った霊力弾が与えた激甚なダメージが表に現れ、王権執行者は瀕死の状態に追い込まれるであろう。
「イカくん、ご苦労様でした。後は僕たちに任せて、安全な場所へ。」
【ギャラクティックバースト】の効果範囲は近接とはいえ、範囲に効果を与えるものだ。
慎哉は万が一にもゲーミングイカが巻き込まれることを危惧し、安全な場所へ下がっているよう指示を出す。
イカも、サイコブレイドが出す尋常じゃないエネルギーを肌で感じたのであろう。この場に残る√能力者たちを応援するように輝きながら、段ボールの中に身を隠した。
「……与えたダメージが表に出なくとも、無意味ではないのですね。ならば……今が、畳みかける時。」
畝丸が懐より取り出したのは、変幻の毒霊札。札を掲げ、念ずることで、彼の姿はどことなくサイコブレイドにも似た、星のように煌めく銃剣士の姿へと変身する。
――【|毒霊融合纏神《ドクレイユウゴウテンシン》】
「その力、僅かながら僕が使わせて頂きます……!」
この√能力は、24時間以内にこの場にいた√能力者たちの特性を持った毒精霊と融合する事で、その身を毒精霊融合体に変じ、29秒という僅かな時間ではあるが、対応した√能力の使用を可能にするという効果を持つ。
そして、彼が力を借りたのは……音と星の魔法を操る、心優しい魔法使い。
――【|煌めく流星群《スパークリング・スターズ》】
白い大鎧は星の煌めきを纏い、弓銃は星の銃剣に変化して。銃剣の引き金を引けば、パレードの様にパチパチと弾け、煌めく流星群がサイコブレイドの視界を埋め尽くす。
可愛らしい音を立てる度に、サイコブレイドの身は毒に蝕まれ、60秒後の彼の命を削り取ってゆく。
――が。その効果は30秒にも満たず、解けてしまう。
「せめて、貴様らの命だけでも……!」
畝丸の√能力の効果の切れ目に、サイコブレイドの得物が宇宙を思わせる輝きを宿し切り。
視界を全て奪われた中、何人かは道連れにする決死の一撃を放つべく。√能力者たちの気配目掛けて、一歩踏み込む。
「ですが……これで、十分です。」
「ええ、これ以上、彼を近付かせることはありません。」
再び蒼い尾を曳いて天より降り注ぐのは、【|蒼焔の驟雨《フレイムレイン》】。サイコブレイドの周囲を覆い尽くす様に降る焔は、ダメージは与えられなくても良い。
――もう、命を奪うには十分過ぎる程に、ダメージを与え切っているのだから。
焔の雨音が、√能力者たちの気配を包み、隠し。
ゲーミングホテイアオイが生い茂る沼に足を取られ。
絶大な威力を誇る外宇宙の閃光は、√能力者たちを間合いに捉えることなく。
この場に存在するあらゆるゲーミング発光を打ち消して輝き、空しく消えてゆく。
そしてそれが、サイコブレイドの最期の瞬間となった。
「ぐ……ぁ……。ふ、ふふ……また、殺し損ねる、とは……。
――何とも……無様な、ものだ……。」
大洋が放った霊力弾に加え、毒の流星群に、蒼焔。彼が後ろ倒しにしてきた、絶大なダメージの数々。
それが一息に襲い掛かれば、サイコブレイドの命も遂に限界を迎え。
毒に侵され切った黒い血をごぼり、吐き出した。
彼はそのままゲーミング発光した水草の生い茂る沼地に、もう疲れたと言わんばかりにその身を横たえ。
ゲーミングイカ墨に彩られた顔に、自嘲したような笑みを浮かべたまま。
二度と、動く事はなかった。
●エピローグ
「そっかー、イカチャン、ウチにはこないか!映えると思ったんだけどなー!」
大洋が陽気に笑う中、ゲーミングイカは彼の知己である一戸・藍が持ってきた乾燥エビを触腕で啄んでいた。
「……しかし、見れば見るほどに不思議ですね。空を飛ぶイカと、アロワナ……こうまで眩しく輝く理由も、結局謎なままですが。」
畝丸が首を捻る通り、様々な√でゲーミング発光する生物が確認され始めているところではあるが、その出所が√マスクドヒーローであるという事以外、何もわからない。
今後、何かが解る時がくるかもしれないし、来ないかもしれない。とりあえず、本日のゲーミング発光事件はこれでお終いということで、この場に集った√能力者たちも、やっと目を休める事が出来るだろう。
それにしても、ゲーミングアロワナと、ゲーミングイカ。兎にも角にも1680万色からなる体色が鬱陶しいことこの上ないが。
海水と淡水、軟体動物と硬骨魚類……住む世界も種族も異なる二匹の間で見た目にも輝かしい友情が芽生え、Ankerとしての絆が芽生えたのは喜ばしい事である。
彼女のAnkerである大型熱帯魚オタクがどの様な顔をするかは見物だが……『なんでもしてくれる人』というからには、今回も何でもしてくれるだろう。
ATMの異名は伊達ではない筈だ。信じよう。
(――イカくんが、新しい居場所を見付けられて良かった。)
慎哉がその姿をサングラス越しに眺め、微笑む中。
ゲーミングイカは段ボールの中に納まり、台車に乗せられて新たな生活へと旅立つのであった……。