①クリムゾン隊、発進!
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『√境界まであと10秒! 各員、突入に備えよ!』
赤いランプがところどころで点滅し全体的に明かりを抑えた暗い通路の中を武装した戦闘機械たちが駆けていく。
固い金属で作られた頭部はもちろん微動だにせず表情など伺う術もないが、飛び交う通信と彼らの機敏な動きが緊張の高さを物語る。
『√EDEN境界突破、√EDENへ侵入しました!』
突入した途端、セオリー通りに展開し一斉に銃口をそれぞれの担当方向に向ける。
突然の戦闘機械群の登場に秋葉原駅の利用客はパニックに……なったりはせずに何かのイベントかコスプレ集団かと勘違いし見事なフォーメーションに関心し、ある者は写真を撮り、ある者は賞賛の拍手を贈る呑気さだ。
しかしそんなどこか奇妙な平和さは長くは続かなかった。
突入してきた戦闘機械たちは駅構内に監視カメラを確認すると一斉に発砲し全て破壊したのだ。
呑気な利用客たちもこれにはさすがに本物の襲撃だと理解するとたちまち半狂乱で悲鳴をあげながら逃げ散っていく。
一方、戦闘機械たちは利用客たちの背中を撃つこともなくひとまず確保した駅の一部で油断なく警戒を続ける。
『大したことないではないか』
先鋒を務めていた1機が拍子抜けしたように独言る。
『オーラムの連中、君たちも√EDENでの実戦を経験しておいたほうが良い、だと?』
『このような軟弱な世界、精鋭部隊たる我らの敵ではないわ!』
同僚の各機体も予想された熾烈な抵抗もなくあっけなく確保できた目標地点で√EDENの脆弱さを嘲笑する。
『目標エリアに到達、作戦通り行動を開始する』
戦闘機械たちは司令部に意気揚々と報告すると誇らしげに宣言する。
『クリムゾン隊、発進!』
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「みんな緊急事態だよ! √ウォーゾーンから懲りずに敵が攻めてくるの」
集まった√能力者たちに状況を説明するのはアイドルのような大胆な衣装に身を包んだ『星詠み』のシュネー・リースリング(受付の可愛いお姉さん・h06135)だ。
ちなみに『星詠み』とは特殊な√能力者で、十二星座から『ゾディアック・サイン』を得て、将来起こり得る事件や悲劇を予知することができる。
「すでに予告された通り王劍戦争が始まって、王劍『|明呪倶利伽羅《みょうじゅくりから》』を確保した大妖『|禍津鬼荒覇吐《まがつおにあらはばき》』によって『|秋葉原荒覇吐戦《あきはばらあらはばきのいくさ》』が起こされたんだけど、便乗して他の王権執行者も攻めてくるのよ」
ふりがな無しではとても読めない難読ワードをカンペ片手に噛まずに言い切ったシュネーは予知の内容を説明する。
「√ウォーゾーンから、この前ボッコボコにしたゼーロットの『レリギオス・オーラム』とは別の巨大派閥『レリギオス・リュクルゴス』が秋葉原駅を機械化して今回の王劍戦争に介入してくるの」
察知もされずにしっかりこっち側に侵攻してくるあたりゼーロットよりは遥かに優秀な指揮官がついていると考えた方がいいわね、とはシュネーの敵への評価。
「いきなり奇襲されたから秋葉原駅には多くの一般人が残ってるわ。だからみんなにすぐに現地へ行って機械化された秋葉原駅にいる敵を撃破して欲しいの」
敵地に一般人多数とのことで事は急を要する。
敵は積極的に一般人を狙ってはいないが戦闘に巻き込まれればひとたまりもないだろう。
「今回予知した敵は秋葉原駅構内から電気街口へ押し込んできてるわ。でも幸いにも電気街口付近は複数の『絶対防衛領域』が確保されてる」
この『絶対防衛領域』とは戦争時にその領域では絶対に民間人が死ななくなるという領域のこと。
「大変な状況だけどしっかり準備してきたから人的被害0を狙えるわ。一般人を逃せばあとはいつも通りに叩きのめすだけね」
説明を終えたシュネーは可愛く敬礼すると、戦果を期待してるね、と√能力者を送り出すのだった。
第1章 集団戦 『クリムゾン隊』
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√EDENでの橋頭保を確保し、さらなる占領地獲得へ向けて機械化秋葉原駅電気街口から秋葉原の街へと進撃を始めたクリムゾン隊。
だが、この状況を√EDENの能力者たちが黙って見過ごすはずはなかった。
「リュクルゴス……あの雷バリバリスーパーロボットの派閥ですね」
進撃する敵軍を視認しつつ彼らの所属派閥について語るのはスミカ・スカーフ(FNSCARの|少女人形《レプリノイド》・h00964)だ。
√EDENから√ウォーゾーンに迷い込み人体実験の果てに廃棄された彼女――元は男性とのこと――にはかの地の派閥に関して知見があるようで。
「星詠みの連絡を察するに|どこぞの戦争で大敗した指揮官《ゼーロット》から、そそのかされてやってきているようですね」
そんな彼女のブリーフィングでの情報を改めてリマインドする言葉にはどことなく楽しげな響きをはらんでいた。
歴史的大敗北を喫した指揮官が偉そうに兵を語る様子を想像したのか、またはそんな指揮官の話を真に受けて攻め込んできた敵の滑稽さか、あるいはその両方か。
「どうにも油断しているようなので、そのまま油断させつつ民間人の避難を優先しましょう」
「確かに敵が油断してくれてるのは大いに利用すべきだが、この戦闘機械……カラーリングが俺の通常フォームに似てるせいで、倒すのがなんとなく複雑だな……。いやまあ、被害をださせるわけにはいかないし、普通に倒すけど……」
スミカの隣でスミカとは別の感想を敵に抱いている空地・海人(フィルム・アクセプター ポライズ・h00953)はその複雑な心境を吐露していた。
海人の言う通常フォームとは赤を基調とした戦闘服でカメラがモチーフなのだが、頭部のカメラのレンズマウントを模したあたりなど、他人とは思えなかった。
今日は緑を基調とした【フィルム・アクセプターポライズ √汎神解剖機関フォーム】を纏っているが、特撮とかによくある敵として現れたもう一人の自分と戦うような感覚になってくるのだ。
だがヒーローはそんな相手さえも乗り越えてみせるもの。
さしあたっては民間人を守るためにまずは敵から引き離さなければならない。
敵の進路上に要救助者を確認すると海人は空撮爆弾・ハイアングルボマーを急行させてその案内で避難するよう告げ、自身は敵の注意を引き付けるべくイチGUNでクリムゾン隊に射撃を加えていく。
攻撃を受けたクリムゾン隊はようやく遭遇できた敵に対処すべく海人に向き直るとビームサーベルを抜刀しブースト急加速で迫るが、それを阻むように無数の銃弾が浴びせかけられた。
スミカとスミカの率いる|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》からの制圧射撃だ。
|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》の半数は避難誘導にあたっているが、残りの半数はスミカとともに敵の足止めを図っている。
さすがにこの弾幕に突撃は分が悪いと悟ったか、クリムゾン隊の各機は機体から自律戦闘端末を分離させてスミカと|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》に全方位飽和攻撃をしかけていく。
あちらこちらから放たれるビームに焼かれながらも少女たちはライフルで果敢に応戦し、電気街口では熾烈な銃撃戦が繰り広げられていた。
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「もうだめだ……おしまいだ……!」
スーツ姿の若い男性は逃げる気力もないのか、ところどころ破壊された駅の構内でうずくまっていた。
「お兄さん、しっかりして! こんな危険な場所から早く逃げなきゃ!」
そんな男性に其之咲・光里(無銘の騎士・h07659)は必死に避難を呼びかけている。
しかし、おそらく生まれて初めて見たであろう本物の爆発にすっかり怯えきってしまっていた。
「もう! 爆発は厄介だなぁ……!」
絶望しきった男性に希望の光を見出してもらうため光里は√能力『|迷えども、その命尽きるまで《ネイムレス・ライト》』を発動すると、改めて男性に呼び掛けていく。
「お兄さん、あの光が見える?」
呼びかけに応じて顔をあげた男性の視線が光里の指さす方向で止まると、何かを見つけたように表情が変わる。
「見えるよね? 帰るべき場所のことを思い出して! 大丈夫、その光にまっすぐ進みさえすれば無事に帰れるから!」
光里の言葉で瞳に光が戻った男性はしっかりとした足取りで立ち上がり光里に向かってお礼を告げると、逃げるべき方向へ向かって駆け出していく。
これでこの辺の避難は概ね完了だろう。
「それじゃ行きますか!」
民間人の避難がひと段落した今、光里は積極的にクリムゾン隊に挑みかかる。
光里を見つけたクリムゾン隊がすかさずバズーカを構えるが、光里が床に転がるコンクリートの破片を無銘輝剣で強かに打ち付けると、散弾のように飛び散ったコンクリートがバズーカの発射を阻み、懐に飛び込む隙を作る。
「この距離まで近づけばそのバズーカも迂闊に使えないでしょ!」
剣の間合いまで距離を詰めた光里は躊躇せず無銘輝剣を振り下ろした。
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電気街口での戦闘は依然として続いていたが、避難誘導を終えた|少女分隊《レプリノイド・スクワッド》が参戦してきたのを確認すると海人はいよいよとばかりに反撃に転じた。
「……よし、みんな避難したか? 民間人がいない今なら、この力を使っても問題ないよな」
民間人を巻き込むリスクがなくなったことを確信した海人はとっておきの√能力を発動する。
「お前らに今から見せてやる、俺の覚悟を――」
「覚悟だけで勝てるほど戦場は甘くないのだ!」
海人の√能力の発動にすかさずクリムゾン隊が急加速からの斬撃を繰り出すが、突然現実が歪んだとでも表現のしようがない奇妙な軌跡を描いてビームサーベルは空を切った。
オブスクラパララックス――歪んだファインダーを備え、実際とはズレた景色を無尽蔵に放出する撮像歪曲体に変異する海人の√能力だ。
いったい何が起きたのか理解できないといった様子で海人に振り返った戦闘機械の眼前に、左腕に同化したイチGUNの銃口があった。
次の瞬間、零距離射撃を浴びて爆発四散する。
「さあ、|この姿《撮像歪曲体》の間は手加減できないぜ。徹底的に破壊してやる!」
ズレた景色を放出しながら海人は動揺するクリムゾン隊に襲い掛かっていった。
「戦闘訓練ですか、私達も混ぜて貰えませんかね?」
秋葉原電気街口から逃げていく民間人、その後ろから進撃するクリムゾン隊であったが不意に横っ腹から砲撃を受け、次の瞬間、先頭の1機が未確認WZからのタックルを受け転倒。
しかし突然の不意打ちにも動じることなく、乱入者に即座に対応する。
乱入者は森屋・巳琥(人間(√ウォーゾーン)の量産型WZ「ウォズ」・h02210)が駆る量産型ウォーゾーン。
民間人の逃走を助け、敵の追撃を阻むためにあえて隊列に機体ごと割り込んだのだ。
「ウォーゾーンだと!?」
「これは訓練にあらず! 未確認機を敵と認識する! 撃破せよ!」
クリムゾン隊は一斉にビームサーベルを抜刀し巳琥のウォーゾーンに切りかかってくる。
だがこれもすべては巳琥の目論見通り。
接近戦の間合いにすることにより民間人に被害が出かねない射撃武器の使用を抑止したのだ。
「狙撃銃で接近戦とは、馬鹿なやつだ!」
「あらそう?」
巳琥が初弾で放ったのは√能力による|対装甲侵食弾『ヴェノム・バレット』《ヴェノム・バレット》だ。
敵の装甲を劣化させるとともに味方の装甲を強化する効果がある。
その強化された装甲でビームサーベルを受け流すと流れるような動作で試作型対物狙撃銃【Proto-Meteor shower】を切りかかってきた戦闘機械に密着させると引き金を引いた。
劣化した装甲は脆くも貫通し致命的な一撃がもたらされる。
着弾の衝撃で飛んでいった戦闘機械はそのまま爆発。
「民間人のみなさんは危ないですから|『絶対防衛領域』《そこの建物内》に避難してください」
巳琥は民間人を背後に庇いながら残りの敵を数えると。
「それでは訓練ではなく、本当の戦闘をしましょうか」
秋葉原駅が√ウォーゾーンからの侵攻を受けたと聞いて白石・明日香(人間(√マスクド・ヒーロー)のヴィークル・ライダー・h00522)もまた現地に駆け付けた√能力者のひとりだ。
愛車のライダー・ヴィークル『ダムナティオ』で乗り付けると、民間人を守るため、民間人を狙っている敵を優先的に攻撃するべく戦場を確認すると興味深いことがわかった。
戦闘機械たちは逃げ回る民間人を積極的に狙ってはいないが攻撃を避けているかというとそうでもなく、攻撃の際に射線上にいても躊躇せず発砲するといった具合だ。
彼らにとって資源としては殺害すると都合が悪いのだろうが、だからといって戦闘となれば配慮して不利を甘受するほどでもないといったところか。あるいは積極的に撃つ必要はないが邪魔ならまとめて薙ぎ払うといった具合に、民間人を戦場に居合わせた野生動物くらいに思っているのだろう。
いずれにしても敵の行動原理が分かれば対応がしやすい。敵の戦闘要員とみれば向かってきてくれるのだから民間人のいない方向に誘導して戦えばいいのだ。
明日香はダムナティオを急加速で発進させるとエンジンの轟音を響かせながらギアを上げ、通常であればバイクでの走行など考慮されていない駅構内をアクション映画さながらのダイナミックな走りでクリムゾン隊めがけて疾走していく。
さすがにエンジンの爆音に気が付いたクリムゾン隊は迫る明日香に対応して戦闘機動に入るが、元々ウォーゾーン向けではない狭い駅構内で縦横無尽というわけにはいかなかった。
だが、それでも精鋭部隊を名乗るだけあって狭いながらも見事なブースト加速を見せダムナティオを駆る明日香に追いすがる。
しかし、それこそ明日香の思うつぼ。狭い場所で高速機動となればとれるラインはおのずと定まる。そしてこれはレースではなく戦闘なのだ。
どれほど速かろうと未来位置の予測が容易であれば当てるのは難しくない。
予測された進路にバラまかれた弾丸を避けきれず1機が被弾、態勢を崩したところで制動をかけ、どうにか持ち直したが。
「おのれちょこまかと! 小賢しい人間が!」
苛立ちを隠さず戦闘機械が叫ぶ。
だが、この高速機動戦で足を止めたのは命とりだった。
ドリフトで見事なターンを決めた明日香は停止した戦闘機械に急接近するとマグナム『ブラッド・レイン』で頭部に狙いをつける。
「こいつで終わりだ。あばよ」
明日香の纏う赤よりもなお鮮やかな鮮血の弾丸が戦闘機械の頭部を撃ち抜くと、まるで血が吹き上がるように炸裂し、金属の装甲や電子部品があちらこちらに飛散すると、頭部を失った戦闘機械はそれっきり動かなくなった。
「おのれ!」
復讐に燃える敵の斬撃を柱を盾にして躱すと離脱し、仕切り直しとばかりにダムナティオのエンジンが轟音を響かせる。
「そういえば……どこかで見た面だな」
明日香は自身の記憶を辿りながらそう独り言ちる。
それは過去の戦場かはたまたどこかで見た誰かの想像の産物か。
まぁ……赤い色は人気がありますからね。
「あれはウォーゾーン……ではなさそうな。武装ピックアップやガンワゴンの類だろうか?」
侵攻してきたクリムゾン隊は目の前に立ちはだかった珍妙な敵機にいささか困惑していた。
二本の腕を備えた二脚型の武装ロボットとでもいうべき姿をしているが、操縦席が丸見えでカラーリングも道路工事でもしそうな色合いをしているのだ。
元々は兵器ではなく民生品に武装を施した急造兵器……そう分析していた。
それはあたらずも遠からずで、天羽・渚彩(重機オペレーター・h07912)が搭乗する|この機体《二脚重機「ダイダラボッチ」》は民生用重機を戦闘用に改造した代物だ。
ただし、急造品などではなく民間機ならではの整備性の高さや換装による汎用性の高さが持ち味の渚彩の相棒である。
一方の渚彩も交戦にあたって悩みを抱えていた。
民間人を守る能力に乏しく、また火力が出せるが民間人を巻き込む恐れのあるミサイルの使用も躊躇しなければならない。
最終的に渚彩は乗機の性能と状況を鑑みて両腕の荷電粒子機関砲による掃射を軸に、電子戦の併用で敵を制圧する作戦を立てた。
「それじゃいこうかな。|【KOTOSIRONUSI】《侵食通信波放出装置》起動、敵対対象の思考中枢への侵食開始」
機関砲を撃ちまくりながら同時に敵への電子戦も開始する。
対する戦闘機械群は意外にも動きが鈍い。
渚彩は使うつもりはなかったが、|彼ら《敵》にしてみれば両肩のミサイルを使うのは当然なのだから、腕の機関砲だけで攻撃してくる渚彩の意図を図りかねていたのだ。
とはいえこのまま撃たれっぱなしというわけにもいかない。
ミサイルを警戒しながら適度に散開して陣形を整えると複数の方向から同時にブースト加速で急接近し、ビームサーベルでコックピットにいる渚彩を狙う。
だが渚彩も甘んじて斬撃を受けるつもりはない。
幼少期から戦場に身を置いてきたのは伊達ではないのだ。
慣れた動きで乗機に指示を出すと脚部の|CD-205【IDATEN】《高速駆動装置「イダテン」》が唸り斬撃をかいくぐっていく。
華麗な回避機動と巧みな射撃で2機撃破したが、相手は精鋭部隊を自称するだけはあり、渚彩の動きに対応すると小賢しい学徒動員兵を始末するべく、数の利を生かして追い詰めにかかる。
あわやエネルギーの刀身が渚彩を貫こうという刹那、横合いから無数の弾丸が飛来し、真紅の戦闘機械を次々と貫いていく。
「新手か!?」
「こいつは、ウォーゾーンです!」
渚彩を救ったのは機神・鴉鉄(|全身義体の独立傭兵《ロストレイヴン》・h04477)が駆る決戦型ウォーゾーン『|W.E.G.A.《ウェーガ》』の|回転式多銃身機銃《ガトリングガン》から放たれた無数の弾頭だ。
鴉鉄の登場が遅れたのにはわけがある。
彼女はつい先ほどまでウォーゾーンを降りて民間人の避難誘導をしていたため戦場への到着が遅れてしまったのだ。
冷徹で感情を表に出さず、必要最低限の言葉しか話さない故、この場では何も語らないが、プロとしてやるべきことを着実に実行していく。
窮地の友軍機を救出するとすぐさま残りの敵機へ弾頭の嵐をお見舞いする。
しかし敵もさるもの。
新たな敵の出現にすぐに対応し、遮蔽をとって銃撃から身を隠すと自律戦闘端末を展開し、全方位飽和攻撃で戦闘を優位に展開しようとする。
だが、これこそが鴉鉄が狙っていたもの。
自律戦闘端末を展開しようとする動きを見逃さず、ブースターで一気に間合いを詰め、その無防備な一瞬をパイルバンカーで完膚なきまでに撃ち抜いた。
鴉鉄は突然のことに何の反応もできず無残な大穴が開いた敵からすぐに離れると直後の爆発で生じた爆炎を隠れ蓑に次の獲物に襲い掛かっていく。
立て直した渚彩の援護も加わるともはや戦況は一方的なものとなり、クリムゾン隊は次々とその数を減らしていくのである。
この戦場のすべての敵の掃討が完了したころ、敵司令部では戦況に関してひとつの報告が読み上げられていた。
『クリムゾン隊、全滅! 敵部隊、|機械化秋葉原駅《基地》へ接近中!』
