シナリオ

⑥叶えてシル・ヴ・プレシャス!

#√マスクド・ヒーロー #秋葉原荒覇吐戦 #秋葉原荒覇吐戦⑥

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⚔️王劍戦争:秋葉原荒覇吐戦

これは1章構成の戦争シナリオです。シナリオ毎の「プレイングボーナス」を満たすと、判定が有利になります!
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(毎日16時更新)

●或るアルバイターの嘆き
 ふわりと漂う香りは、思わず頬も緩んでしまいそうな芳しい紅茶とスイーツの香り。
 山手線高架下、東京駅から離れておよそ2k540mの地点に存在するAKI-OKA ARTISAN。白い柱が規則正しく並び、コンクリートの壁に覆われたそこは一見無機質な空間に見える。けれど、そこに在るのは、伝統を重んじながらも新たな彩りとおもしろさを齎そうとやってきた職人たちの工房だ。
 そんな場所に一たび甘い香りが漂えば、人が自然と集まるのは仕方のないこと。
 それが更に"秋季限定パフェ販売中"なんて魅力的な看板を掲げているのなら尚のこと。
 紫と黄緑、瑞々しい葡萄をふんだんに使い、ソルベとホワイトチョコレートアイスの2層の甘みが口の中にたっぷり広がる葡萄のパフェ。
 滑らかなくちどけのブランマンジェにクラッシュしたコーヒーゼリーを乗せ、たっぷりマロンペーストを絞った珈琲風味のモンブランパフェ。
 それから塩気がほんのり利いたクリームチーズのアイスクリームに柿のジュレとスフレチーズケーキの層を重ね、甘く熟れた柿が花開く柿とクリームチーズのパフェ。
 溢れる秋色最前線のパフェを楽しみに来た客で、店は今日も大賑わいだった。

「どうして今日に限ってこんなに賑わっているアル!?」
 そんな中、とあるウェイトレスの娘は悲嘆を叫ぶ。その手には──もとい、背負った触手には既に山ほどの数のパフェグラスが握られていた。繊細な花束にも似て美しいパフェを持つには一見危うく見える持ち方だが、娘はケーキを一口頬張るくらいに軽々と触手の何本もを操り、テーブルを埋め尽くす客たちに颯爽と完璧な配膳をしてみせる。
「わあ、すご~い! お姉さん、どうもありがとう!」
「でへへ、このくらい朝飯前アルヨ」
 その華麗な給仕に客から喝采を贈られれば、娘の表情も調子よく緩んでしまうけれど。
「こんなことしてる場合じゃないアル! もうすぐ√能力者が来ちゃうアルヨ!」
 ハッと我に返ると、娘はぶんぶんと頭を横に振った。民間人を殺してはならないというボスからの厳命を忠実に守っているのはいいけれど、これは本当に悪の怪人として正しい活動なのだろうか? いや、何も間違ってはいない筈だ。何てったって秋葉原荒覇吐戦──偉大なる大首領様が世界を征服する為の重要な大戦争である。その第一陣としてこの人気店を抑えておき、いざという時に√能力者を殺す殺人儀式場として、憎き√能力者を血祭りにあげよというのが上司からの命である。
 ──しかし、次の注文が入れば再び愛想よく振舞ってしまうのが敏腕アルバイターでもある彼女の性分であった。
 そう、なんといっても実りの秋。魅惑のフルーツパフェに誘われてやってくる客は日に日に数を増し、そこに"なんだかすごいウェイトレスさん"までいるのだから、1ミリだって暇がないくらいに店が賑わうのは仕方がないことなのだ。
「ぐぬぬ……こうなったら、ワタシのおもてなしで能力者達のハートを骨抜きにするヨロシ!」
 娘──リンメイは隙を見て拳を握ると、これからやってくるだろう能力者たちへの闘志を高める。既に手段が若干目的と食い違っていることには未だ気付かないまま。

●シル・ヴ・プレ!
「みんな、大事な戦いの途中だけど、甘い物で英気を養わない?」
 桃色の髪を揺らし、あなたと目を合わせた花牟礼・まほろ(春とまぼろし・h01075)は悪戯っぽく笑いかける。
 此度の戦場である秋葉原。そこにあるAKI-OKA ARTISANに季節のフルーツパフェを提供してくれる店があるのだという。
「そこに怪人さんの一人がウェイトレスとして潜入してるんだけど……何だか、美味しいパフェと最高のおもてなしで√能力者を圧倒させてやっつけよう! って考えてるみたい」
 だから、自分がこんなに忙しく働いているのは当たり前のこと!と全く悪の怪人らしくない行為を正当化しているのだそうだ。そんな隙を付いて問答無用でやっつけてしまえば簡単に仕事を終わらせてしまうこともできるのだけれど、少女は人さし指を立てる。
「もし狭い店が戦場になっちゃったら、他のお客さんが困っちゃうよね。だからあえて敵のやりたいこと──流儀に乗っ取ってあげるのもいいんじゃない?」
 怪人達が一般客に手を出さないというのなら、あえて刺激する必要はない。
「……つまり、全力でおもてなしに乗って我儘放題言って、目が回るくらい忙しくして、もうこんな給仕は嫌だ―! って思わせちゃえばいいんだよ!」
 とは言え、大げさな我儘を言わずとも、集まった能力者が一斉にお腹いっぱいになるまでパフェを注文したならそれだけでもう既に限界が近いリンメイの体力も底を尽きるだろう、と少女は笑う。
「でもでも、ちょっとした我儘だったら言ってみたくない? お店にあるだけのトッピング全部盛り! だとか、私だけのオーダーメイドパフェを作って! だとか、お嬢様扱いして! だとか……」
 普通の店ならちょっと遠慮してしまいそうなお願いでも、今回だけは無礼講。また、店のメニューもつい我儘を言いたくなってしまうくらいには魅力的なもので溢れているのだという。
「普通のフルーツパフェも美味しそうなんだけど、今は秋季限定のパフェが人気みたい。でもどんな物でも、怪人さんならきっと要求に応えてくれるはず!」
 少女の口ぶりは明るい。厨房の店主は普通の人だけれど、他の怪人も手伝っているから然程大きな負担にはならないだろう。
「それじゃ、いってらっしゃい! どんなパフェ食べたか、後で教えてねっ」
 くすくすと笑う少女に見送られ、あなた達は美味最前線の戦場へと赴く。

マスターより

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第1章 ボス戦 『中華風タコ怪人娘『リンメイ』』


白玉・やまこ
守澤・文雄

●オーダー、とにかく満足するまで!
 山手線高架下、東京駅から離れておよそ2k540mの地点に存在するAKI-OKA ARTISAN。その一画を賑わせるとある喫茶店にて脅威の暗殺儀式を画策するタコ怪人娘、リンメイと√能力者達の決死の戦いが今、幕を開けようとしていた。

「この水──普通の水だよね」
 √能力者や協力者が多数詰めかけ、がやがやと賑わう──否、緊張感漂う空気の中、まず口火を切ったのは守澤・文雄(北條・春幸のAnker・h03126)である。男は墨色の瞳を細めながら、リンメイに向かって片手を挙げた。
「ちょっと物足りないな、悪いけどレモン水を持ってきてくれる?」
「えっ、天然水アルヨ?」
「うん、でも普通の水ってなんか雰囲気出ないよね。出来るよね?」
「わ、分かったアル。ちょと待つヨロシ」
 ぱたぱたとキッチンへ向かうリンメイを見て、文雄は重々しく頷く。そう、今回のオーダーは"とにかくウザい客”である。カフェでのひとときに一家言ありそうなこだわり客として微に入り細に入り、細かくケチを付けていくのが今回の彼の方針であった。
 すぐに戻ってきたグラスには丸く切られたレモンの輪っかがぷかりと水の上に浮かんでいる。緊張を顕わにして様子を窺うリンメイに、ようやく及第点だとばかりに文雄は笑顔で頷いてみせた。
「じゃあ、次はメニューの説明を詳しくしてもらおうか」
「ええっ」
 動揺の声にも文雄の笑顔は揺るがない。
「いやあ、使ってるフルーツの産地や品種とその特徴も知りたいし、クリームもどの産地の乳牛から取ったものなのか聞かないと……」
「ちょ、ちょと待つアル。店長に聞かないと分かんないアル」
「リンメイちゃーん! 注文お願いしまーす!」
 厄介客の予感にたじろぐリンメイの後ろからぶんぶんと手を振りオーダーを主張する元気な声に、リンメイがあからさまに安堵の表情を浮かべる。
「あっほら、あっちの方から元気な声が。ワタシもう行かないとアル」
「いやいや、まだ僕の注文終わってないんだからこっちを優先してもらわないとね?」
 しかしそんな言葉で逃げられないのがウエイトレスの辛いところ。柔らかくにこやかな表情の筈なのに圧力を感じる文雄の態度に、リンメイは何度も店長と文雄のテーブルを行き来することとなった。紳士的な態度ながらしっかり何度もおかわりを続ける文雄に、リンメイも辛抱強く付き合うこととなる。

 十数分後、ようやくこちらへ歩いてくるウエイトレスにぱっと表情を輝かせたのは、先ほど元気よく手を挙げた白玉・やまこ(甘味系アイドル!ぷにぷにおてての龍拳格闘者・h09299)であった。この戦場で、今日の彼女は人一倍闘志を燃やしていた。
(──こと甘味ならプロフェッショナルのやまこの出番だからね!)
 何と言っても甘味処で看板娘として働いているやまこだ。当然甘いものに目が無い上に、今回はこの戦場にぴったりの秘策を用意していた。
(私のスイーツアイドル・イグニッションならどれだけカロリーを摂取しても一瞬で消費できるもん!)
 メニューを眺めながらテーブルいっぱい溢れる甘味を想像するだけで、思わず涎が零れそうだ。
「これで甘味食べ放……リンメイもイチコロだよ!」
 臨戦態勢で甘いリングに上がったやまこの元へ、リンメイが注文票を片手にやってきた。
「えーと、注文をどうぞアル」
「メニューに乗ってるパフェ! 全種類!」
「ぜ、全種類アルカ?」
 やまこは尻尾をぶんぶんと振りながら表情を輝かせる。その表情はとても無邪気なもので、厄介な大食い注文に一言物申そうとしたリンメイも思わず口を噤んだ。
「……あ、後で領収書お願いします!」
「ハイハイ」
 リンメイは知らない。彼女がしっかり依頼費を請求しようとしていることを。
 それはともかく、溢れる秋の宝石にやまこが舌鼓を打つまで残り僅かだ。

土岐野・仁美
結城・氷華

 自然豊かな√ドラゴンファンタジーの景色から、瞬きの間に無機質な柱が整然と並ぶコンクリートつくりの空間に変わる。突然様変わりした風景に土岐野・仁美(結城・凍夜のAnkerの定食屋「ときの」看板娘・h02426)と結城・氷華(結城・凍夜のAnker~従兄の子でローカルアイドル~・h05653)は互いに顔を見合わせた。
「あれ? ここ、どこ?」
「あら、お肉屋さんは?」
 先ほどまで一緒に仕入れ先の店に行ったり、急に冷え込んできた冬に向けて服を見たりしていたのだけれど、今や影も形もない。とりあえず情報収集してみようと辺りを見て回ってみれば、なるほど、ここもまた何かしらの商店街のようで、小さなお店が並ぶ様は、一見無機質な地下空間でも賑やかなものだ。
 何だかんだ買い物の続きで二人で見て回るのは楽しい。しかし滲む疲労は隠せず、数軒見たところで氷華はがっくりと肩を落とした。
「歩きっぱなしで疲れた……」
「歩き疲れちゃった? そうねえ」
 確かに自分も少し疲れを感じていたところだ。何とかしなくちゃ、と仁美が視線を外に向けたところで、目に飛び込んでくる可愛らしい外装の喫茶店。仁美は朗らかに笑いかけた。
「とりあえず甘いものでも食べて休憩しましょ!」
「うん! あ、見て仁美、秋季限定パフェだって!」
「わあ、どれもすごくおいしそう。さっそく入ってみましょ」
 氷華が目敏く魅力的な言葉が書かれた立て看板を見つければ、二人の期待もぐっと高まるというもの。ドアを開けば、からんからんと牧歌的なベルの音が二人の来客を告げた。

 店はカントリー風の可愛らしい内装で、どこか温かみのある絵本の中のような雰囲気に二人の心もほっと和らぐ。なぜかたこ足のウエイトレスがせかせかと働いているが、まあそんなこともあるかなと√ドラゴンファンタジーで異種族慣れしている二人は気にせずさっそくメニューを開いた。
「何を食べようかな……?」
 手書きの文字でびっしりとさまざまなパフェが紹介されたメニューについ目移りしてしまう。迷って首をかしげる仁美の隣で、氷華がキャラメル色の瞳を輝かせた。
「へぇ〜、色々あるのね。あ、カスタマイズもできるんだ!」
 それなら、と勇んで手を挙げる。注文を聞きに来たウェイトレスににっこり笑いかけた。
「注文お願いしま~す! ──えっと、この葡萄のパフェ、シャインマスカット多め、ホワイトチョコアイスマシマシにして、トッピングにチョコのプレート、メッセージに『氷華ちゃんへ♪』って書いてください。ドリンクは葡萄の100%ジュース、氷無し!」
「なんと、可愛い顔して遠慮がないアル!」
「ちょっと、氷華、そんなに?」
 ぺらぺらと饒舌に語られたオーダーに思わず仁美もウェイトレスのリンメイも目を白黒させるが、氷華は元気よく首を縦に振った。
「だってカスタマイズしていいんでしょ? ほら仁美も好きなの頼んじゃお!」
「あ、うん、わたしもせっかくだから、頼んでみようかな……?」
 親友に促され、仁美もメニューを一瞥する。
「ええと、そうしたら、この季節のパフェ、マロンペーストマシマシ、豆乳クリームにチェンジでフレーク少な目、トッピングにスイートポテト、ドリンクはカフェオレ砂糖無しミルク多めでお願いします」
「こっちはちゃんと素材感を活かしてるアル……。ぐぬぬ、ちょと待ってるヨロシ!」
「はーい♪」
「ふふ、よろしくお願いします」
 程なくしてオーダーを完璧にこなし、華やかな芸術品となったパフェ達が運ばれてくる。マスカットとチョコレートが二層でツリー状になった氷華のパフェにはしっかりデコペンで音符マークも忘れずに描かれたプレートが飾られている。ペーストでボリュームが他より増したマロンパフェにはリーフ状に絞られたスイートポテトが添えられ、秋をイメージしていることが一目で分かる。
「わ、すごい、ほんとに出てきた。おいしそう!」
 多少無茶ぶりした自覚が窺える氷華の発言にリンメイは肩を竦めた。
「他の店じゃあんな無茶言うなアルヨ」
「はーいっ。じゃあ早速食べよう、仁美!」
「うん、いただきますっ」
 そうして口の中に広がる豊かな甘みに二人はぱっと表情を輝かせる。秋の味覚を心ゆくまで頬張れば、きっと疲れも吹っ飛ぶに違いない。

ステラ・ノート

 甘い匂いが漂う店内はにわかに騒がしさの気配を覗かせる。ステラ・ノート(星の音の魔法使い・h02321)は絵本の様なメニューに並ぶパフェの一覧に目を通しながら、ペパーミントグリーンの甘やかな瞳の色を輝かせた。
「どれも美味しそう……」
 今日は全力でおもてなしされにいく所存である。しっかりお腹も空かせて、おもてなしされる準備はばっちりだ。礼儀正しく手を挙げて、注文を頼めばウエイトレスのリンメイが駆け込んでくる。
「ご注文は何アル?」
「えぇと、モンブランパフェ……いや、柿とクリームチーズのパフェ……葡萄のパフェもあるの? どうしよう」
 可愛らしい手書きのイラストと文字で説明されたパフェ達はどれも魅力的だ。ステラはのんびりと目を通しながら、うーんと小首をかしげてみせる。リンメイから若干イライラの気配を感じながらもなおじっくり悩んでいるのは、確かに仕事通りに彼女を困らせるのが目的ではあるけれど、あながちすべてが演技という訳ではない。
「店員さんのおすすめはどのパフェ?」
「ワタシのオススメ、アルカ? うーん、柿とクリームチーズのパフェ美味しかったアル」
「そうなんだ。じゃあ、それなら……」
 注文は無事決まったのだろうか。これでやっと次の客の元へ行けると期待するリンメイの喜ばしい表情を見て、にこりと笑う。
「もう少し考えさせて!」
「なっ、うう、わ、分かったアル……!」
 かわいく微笑まれては文句も言えない。そうしてしばらくたっぷり悩んだ後に、ステラはぱたりとメニューを閉じた。
「……よし、決めた。全部食べたいから、葡萄とモンブランと柿とクリームチーズのパフェにしてくれる?」
「……。分かりましたアル、ではお次はお飲み物をご注文するとヨロシ」
 結局また新しい全部盛りを頼まれている。不満が噴き出しそうになるのを堪えるリンメイの前でステラはこれからに備えて小さく息を吸っていた。リンメイが次を促せば待ってました、とばかりに瞳がきらめく。
「飲み物は……ウインナーコーヒーホイップマシマシ蜂蜜とチョコソース追加……やっぱりチョコソースじゃなくてキャラメルソースで」
「何アル?」
「だから、ウインナーコーヒーホイップマシマシ蜂蜜とチョコソース追加……やっぱりチョコソースじゃなくてキャラメルソースで」
「は、はあ」
 魔法の詠唱を唱える要領で繰り返し早口でドリンクのオーダーを告げれば、流石のリンメイも憔悴した顔になる。それでも何度目かのキッチンに引っ込んだ彼女は、ステラの目の前に豪華な秋の色合いを齎してくれる。
「わあ、ありがとう。いただきまーす!」
 いただいたスイーツは丁寧にお腹の中へ。たっぷり詰まった秋の味覚を味わいながら、少女は表情を綻ばせた。

戀ヶ仲・くるり
ジャン・ローデンバーグ

「王様聞いた? 暗殺儀式を企むあくどい怪人ウエイトレスは全力でおもてなしに乗って追い出すのがいいらしいよ!」
「聞いた聞いた。いやあ、店側を困らせる注文なんて善良な王様には難しいな」
 騒がしい店内の1テーブルに陣取り、少年と少女は囁きを交わす。どうやらこの喫茶店は知らぬ間に悲劇の舞台に作り変えられているらしい。善良な一般女子高生と一般王様ではとても見逃しておけない深刻な事態である。諸悪の根源を追い出すには迷惑客になりきるのが肝心だと聞いたはいいものの、善良な二人には難しいオーダーだ。二人は顔を見合わせる。
「難しい──が! そう言うことなら仕方ない! あー仕方ないな!」
「うんうん。嫌な注文しよ! もー心が痛むけど仕方がないよねぇ!」
 何ともしらじらしい言い回しだ。もちろん上の発言は全てそういうテイである。戀ヶ仲・くるり(Rolling days・h01025)とジャン・ローデンバーグ(裸の王冠・h02072)はニヤリといたずら小僧の笑みを交わすと、メニュー表を大々的にテーブルの上へ広げた。
 これも依頼達成の為のオーダーなら仕方ないこと。でも、とくるりはメニューを眺めながら呟く。
「嫌な注文か〜。パフェ全部頼んじゃうとか、お嬢様扱いしてもらおうとか、そんなことを頼むと良いって聞いたけど」
 くるりの言葉にジャンは小首をかしげる。
「お嬢様扱い? 何だそれ、王様扱いなら当然のように受けさせてもらってもいいが。……あ! 折角だからくるり、受けてみたら?」
「わ、私がお嬢様!? それはいいかなぁ!?」
「えー、でも頼んでみてって」
「ねぇなんで私を困らせる展開にしようとするの?? その方向性は一旦無しで行こう!」
 くるりはぱたぱたぶんぶん全力で首と手を横に振る。元より本気の提案ではなく、そうかあ、とジャンは大らかに頷いた。その視線は既に魅力的なパフェの説明文やイラストに注がれている。
「ようし、行くぞ! 全部乗せスペシャルパフェ!」
「オッケー、みんなの夢、行ってみよう! 店員さ~ん!!」
 気を取り直してくるりが片手を挙げて呼べば、飛ぶ勢いでやってきてくれるウエイトレス。気力を削られながらも、プロのアルバイター魂を感じる愛想のいい笑みを浮かべた。
「ハーイ! ご注文を申し上げるヨロシ!」
「全部乗せスペシャルパフェ2つお願いします! 私は秋限定味のモンブランが気になるからそれは多めで!」
 これが最初のオーダーならリンメイも迷惑客にイラつきを覚えたことだろう。しかし、全部乗せもトッピング追加も既に対応済みだ。余裕を浮かべて頷きかけたリンメイの表情は──次のくるりの台詞によって崩れることとなる。
「あ、あと、謎のいきものデコも追加で!」
「……ハ? 謎のいきものって何アル?」
 謎のいきものとは『メッセージアプリでやり取りしてるところではおなじみ! 私愛用のスタンプ、謎のいきもの! 色が私の髪色と似ててー、よく動いてー、ねずみっぽい…(引用:戀ヶ仲・くるりの日記帳)』いきものである。つまり、マイナー過ぎてくるりとその知人界隈にしか伝わらないネタだ。当然リンメイが知っている筈もなく、レモン色の瞳を瞬かせる彼女にくるりはハッと鼻で笑ってみせた。まるで嫌な客である。
「まさか知らないものは出せないんですか? このお店のおもてなしってその程度なんですかぁ?」
「わ、わかったアル。任せるヨロシ……!」
「あ、俺の分はフルーツは倍盛りで。それとマカロントッピングとかー、できる? できない?」
「そんなのメニューに無……」
「まあ、城の外ならこんなもんか……」
「ぐ、ぐぬぬ……」
 見るからに幼い少年にふっと小馬鹿にした笑みを浮かべられ、リンメイの闘志が燃え上がる。
「分かったアル! ちょっと待つヨロシ!」
 鼻息荒くキッチンへ引っ込むリンメイを、二人は小さく手を振って見送る。

「うわっ」
 怒りと共にドン!と力強くテーブルへ置かれた2つのパフェ。全部乗せスペシャルパフェはその名に恥じぬ貫禄で以て二人の前に並べられた。
「うわって言っちゃった……パフェでっかい……!」
「な、なんか……凄い器に乗ってきてないか?」
 その存在感に慄く二人にリンメイは満足そうだ。しかしジャンはすかさずパフェを検分する。
「いやでもよく見てみろ。なんかなぞものの顔が違わない?」
「あっほんとだ。目の位置離れすぎ」
「うるさいアル! 文句言うならどマイナーなキャラ持ってくるな!」
「本物はもっと可愛いのになー」
 ジャンは大げさなため息を吐いてみせる。まるで嫌な客である。リンメイのどや顔は無事引き攣ったが、最低限のオーダーはこなしたということで作り直しは何とか勘弁してやることにした。

 それでは、両手を合わせていざ実食。
「よし。た、食べるよ! 頼んだからには全部行くよ! 王様ぁ! 覚悟はいいかー!」
「おー!……お、くるり、なかなか美味いぞ」
 人気店の名に恥じない、芸術的なまとまりは新たな甘みのハーモニーを生む。広がる秋の味わいはどこを口に入れても堪能し甲斐がある。──が。
「カロリーの後悔は明日する……!」
 如何せん健全な女子高生にとってスペシャルはカロリーもスペシャルすぎた。くるりに一抹の不安が過ぎる。
「かろりー?」
 しかしそこは偉大なる王様。にやりとエメラルドの瞳を光らせる。
「知ってるかくるり。食べたら食べた分動けばいい」
「そっか動けばいいんだ! ……この後歩いて帰る?」
「うむ、走って帰るぞ」
 カロリーの不安もなくなったところで、改めてジャンとくるりはスペシャルパフェと向き合った。まだまだスプーンがグラスの底に触れることは無い。最後の一匙まで、愉快に食べ尽くそう。

廻里・りり
ベルナデッタ・ドラクロワ

 今日の楽しいひとときは新しいお友達も一緒に。白いテディベアのひとりを抱っこして、廻里・りり(綴・h01760)はふくふくと頬を薔薇色に染めながら表情を綻ばせた。
「今日はフィフィちゃんもごいっしょに女子会ですっ」
「ええ、ノノも一緒に。今日はみんなで一緒に、ね」
 ベルナデッタ・ドラクロワ(今際無きパルロン・h03161)は少女の笑みにやわらかく応える。二人の腰かけた席もまた戦場の一つ。それは傷や痛みとは無縁の、しかし他の戦地とも劣らない闘志が燃え上がる立派な戦場だ。完璧なおもてなしに負けないように楽しく無茶な注文を──思いがけない戦い方ではあるけれど、それが今回の仕事なら、当然乗っからない道理はない。
(ええ、もちろん真面目にやりましょう)
「ベルちゃん、フィフィちゃん、ノノちゃん、なににしますか?」
 ただ甘い時間を楽しみに来たりりが無邪気に笑う。ベルナデッタはメニューを開いた。
「そうね……。店員さん、注文をよろしいかしら」
「ハイハーイ。タダイマ~」
 リンメイはテーブルまで向かうと、2人と2体を見て内心ほくそ笑んだ。さっきから無茶苦茶な客に悩まされているが、このテーブルは華奢な少女とビスク・ドールにテディベア。流石に全部盛り2つなんて頼まれることはないだろうとタカを括り、愛想のいい笑みを浮かべた。
 ベルナデッタは優雅に微笑みを返す。
「この子達にもひとつ頂ける? パフェを4つお願い」
「ぶどう、苺、みかんとチョコレートをそれぞれメインでおねがいします!」
「ハイ、パフェが2つアルネ……ん?」
 今聞こえた数が違ったような、と首をかしげるリンメイ。
「そのテディベアはただのぬいぐるみ。食べる訳ないアル」
「いいえ、もちろん食べるわ。だから、4つ」
「……分かったアル。パフェ4つアルネ」
 ──最終的に、3つはりりのお腹の中だけれど。
 当然手の内を明かす訳もなく、ベルナデッタは笑みを崩さない。その隣で、りりがぱちりと手を叩いた。
「あの、パフェのてっぺんをくまさんのお顔にできないでしょうか……?」
「ああ、いいわねクマを乗せるの。クッキーやチョコレートでいけるかしら?」
「当店はその様なサービスを引き受けていませんアル」
 いい加減わがままなお願いを聞き続けて疲れてきたところだ。つれなく断ろうとするリンメイに、ベルナデッタは尚も余裕を崩さず微笑んだ。
「あら、可愛いウエイトレスさんから素晴らしいおもてなしを受けられると聞いたのだけれど。ねえ、やってみて下さるでしょ?」
「たいへんだと思うんですけど、せっかくなのでとくべつなパフェが食べたくて……おねがいしますっ」
「……むむむ」
 ぺこりと律儀に頭を下げるりりを見れば、リンメイも強くは出れない。渋々といった肯定に、ベルナデッタは満足そうに頷いた。
「ありがと、とても楽しみよ」

 2色の葡萄は光を内包したペリドットにアメジスト、いちごの赤色は艶やかなルビーで、みかんの橙色はいっとう太陽に近いシトリン。チョコレートパフェは見るからに甘く、テーブルに並べられたパフェ達はただしく宝石箱のようだ。そのてっぺんでくまさんたちも誇らしげにニコニコ笑っている。
「わぁ! とってもかわいいっ」
 少女好みの美しく可愛いパフェたちにりりもベルナデッタも表情を輝かせた。いただきますの前に何枚か自分のカメラで撮影した後、りりはそれらを確かめながら首をかしげる。そこに映るのは美味しそうなパフェ。けれど友人と共に過ごす自分の笑顔はどうしたって映らない。
「そうだ。店員さんに、記念でみんなのお写真を撮っていただくのはわがままでしょうか……?」
 再び忙しなく対応に追われているウエイトレスを見ながら、りりはぺたりと耳を下げる。一生懸命がんばる姿を見ていると、必要なこととは言え何だか申し訳なさの方が勝つのがりりの美徳でもあった。
 そんな少女の気持ちを汲み取って、ベルナデッタは微笑む。
「今日は全力でおもてなし……ついでに手一杯になって頂くことだもの。遠慮せずいきましょ」
「そ、そうですよねっ。今日はめいっぱいおもてなしをしてくださるってことでしたし!」
 りりの表情に笑顔が帰ってくる。ベルナデッタは淡い薔薇色の瞳を細めて頷いた。
「遠慮し過ぎるのも逆に失礼というものだわ。ということで、そちらのタコ足の店員さん? またよろしいかしら」
「もうおかわりはやめるアルヨ」
「……いえ! あのあの、とってもすてきなパフェをいただいたのでみんなで写真を撮りたくって、撮影をお願いしたいんです!」
 パフェはともかく、なんと謙虚なお願い。本職ではないけれど褒められたこともあり、調子をよくしてリンメイはカメラを受け取った。はいチーズ、というかけ声に合わせて、4人はパフェと一緒にポーズを決める。
「ありがとうございます! たいせつに保存しますねっ」
 嬉しそうに微笑めば、リンメイもそれ以上言うことはない。翻るスカートを見送り、りりは宝物の詰まったカメラをぎゅっと抱きしめた。
「えへへ……。それでは遅くなりましたけど、いただきますしましょう。パフェがとけないうちに食べないと……!」
「ええ、そうね。いただきます」
「いただきまーすっ」
 挨拶もそこそこにパフェをひと口頬張れば、思わず頬が緩み切ってしまう程の幸せがいっぱいに広がる。
「しっかりおいしいわね。とても真面目な仕事ぶり」
「はいっ、どれもとってもおいしいです……!」
 評判通りの味わいに少女達の笑みは溢れんばかりだ。
「あ、店員さん。紅茶も4つ、お願いね」
 ついでに仕事の通り、追加のお願いも忘れずに。

緇・カナト
夜鷹・芥

「秋季限定パフェ販売中!」
 魅力的な文言に、・カナト(hellhound・h02325)が浮かべる柔和な表情にも期待の光が灯る。夜鷹・芥(stray・h00864)もまた、隣で並びながら目に映った文言に重々頷いた。
「限定と言われると弱い自覚はある。しかも秋の味覚」
「とても魅力的な響き〜。早速食べに行こうねぇ」
 カントリー風の外装はいかにも少女好みの可愛らしさ。とは言え、パフェの魅力は万人共通である。無彩色を纏う無骨寄りの成人男性だからと言ってここで及び腰になるような二人ではない。あるいは一人であれば遠慮しがちな店も、今は二人で集っているから問題はなかった。
「おう。野郎二人で堪能しに行きますか、っと」
 二人は迷うことなく、むしろこれから目に映すであろう秋の色彩を期待しながら、うきうきでドアを開いた。

 それぞれメニューを広げれば、温かみのある手書きのイラストや説明文に期待も高まる。
「夜鷹君は何にする?」
「あー、果物は何でも食えるし好きだし……」
「へ~、果物なんでも食べれるの新情報〜」
 迷ってなかなか決まらないのだと芥が答える一方で、舞い込んできた新情報にカナトはへらりと笑みを浮かべた。仕事や事務所等でそこそこ付き合いのある二人だが、思わぬ一面を知れるのもまたこうした休息の醍醐味である。否、もちろんこの食事は仕事ではあるのだけれど。
「オレは葡萄とか栗とか、甘いものだとチョコ系も珈琲風味も好きだなぁ」
「ああ、甘い系なら芋栗系とかも勿論好き」
「うんうん。秋って美味しいものが沢山だよねぇ」
 恵みの秋と言うだけあって、テイストも含めればその美味しさは無限大だ。だからこそ男性達はたっぷりとメニューと睨めっこを繰り返し──芥はその中でひとつ、目を惹かれるものを見つける。
「あ、俺はコレだな。安納芋アイスとクリームに一口大学芋と葡萄&ジュレのパフェ」
 カナトは、と芥が視線で窺えば、男はにこりと笑って頷く。
「オレも決まった〜」
「じゃあ呼ぶか。そこの店員さん、注文頼む」
「ハーイ!」
 ウエイトレスのたこ足怪人がぱたぱたと駆けてくる。
「俺はこっちのパフェ」
「オレは〜、果実とソルベとアイス増量な葡萄パフェと、ブランマンジェも聳え立ってるモンブランパフェ。それからチーズケーキがわぁいっぱい!な柿のパフェをお願いしまーす」
「……えっ3人前?」
 険しい芥の眼光が驚きと動揺で弛む。その表情を見て、カナトはくすりと笑みを浮かべた。
「二人で来てるし三人前くらいは行けそうじゃない?」
「……。く、食える、はず」
 似たような体格の成人男性でも、その胃袋の大きさには違いがあるらしい。ただでさえ奮発して豪勢なパフェを選んでしまった芥は限界を察しつつも、のんびりと笑うカナトに頷いてみせた。

 テーブルの上に並んだ4つの秋色パフェ。これでもかとトッピングを盛っただけあって、ひとつひとつのボリュームも随分なものだ。壮観な光景にごくりと息を飲みつつ、まずは思い出画像タイムである。
「うん、よく撮れたよ~」
「どーも。じゃ、早速頂くか」
 二人で両手を合わせていただきますのご挨拶。さっそく芥が蜜色に染まった安納芋のアイスクリームを生クリームと共に匙で掬えば、やさしい滑らかな甘みが口の中に広がる。一方で葡萄のジュレは赤ワイン風味で仄かな苦みが豊かな味の重なりを生んでいた。そう甘い物ばかり食べている訳ではないが、これには満足の太鼓判を押すしかない。
 カナトは3種のパフェをとにかく端から手を付けることにしたようで、芥が1つ食べている間に2つは完食してしまいそうな勢いだった。モンブランのてっぺんに聳えた栗をカナトが口に放った瞬間、芥が「あ」と声を上げる。
「それ気になってた。少しもーらい」
「うん、オッケー」
 匙で掬って口に入れれば、珈琲が混ぜてあったようでマロンペーストの素朴な甘みに続いてほろ苦さが後を引く。大人好みに仕上げられたモンブランに芥の口許も僅かに緩んだ。
「うま。あ、こっちの芋パフェも食ってみるか?」
「いただきまーす。ってかそのモンブランパフェ、美味しかったよね。お代わり追加しちゃお~」
「ああ、俺も食べようかな」
 最初は怖気づいていた量も、食べてしまえばあっという間に無くなってしまうことが惜しい。そうしてついつい限界までおかわりしてしまうのも、また思い出だ。
 久しく感じていなかった胃の重たさに、思わず苦笑いが浮かんでしまう。
「こんなにパフェ食ったのいつぶりだろ。腹爆発しそう」
「あはは。楽しめたなら何よりでー」
「ああ。カナトと一緒に来れて良かった」
 食後の一杯で腹を休めつつ、そうして二人は笑い合う。ささやかなひと時を溢れる秋色で満たして、穏やかな時間が過ぎていった。

ナンナンナ・クルルギ・バルドルフルス
小明見・結

「うーん……変な感じはするけど、戦わなくてもいいならそれに越したことはない、よね。ちょうどお腹も空いてたし……」
 賑わう喫茶店のテーブルの椅子に腰かけながら、ナンナンナ・クルルギ・バルドルフルス(嵐夜の竜騎兵・h00165)はぽつりと呟く。本来なら戦って倒さなければならないところをこんな風な方法で倒すなんて、他の戦場に出かけた仲間たちが聞いたらとても信じられないのではないだろうか。
 ちょうど隣のテーブルに座っていた小明見・結(もう一度その手を掴むまで・h00177)も少女の呟きを聞きつけ、うんうんと頷いていた。
「でも戦いにならないのなら良いことだわ。あなたも遠慮せず、頼んでみましょ」
 秋は実りの秋。美味しい食べ物が沢山あるのだから、それを使ったパフェはどれも美味しいに違いない。現にメニューに描かれたイラストはどれも魅力的なものだ。
「うん、そうだね。遠慮しないで──ええと、注文いいかな?」
「ハイタダイマ~!」
 駆けつけたリンメイに、ナンナンナは唇に手を当てながらもさらさらとオーダーを並べていく。
「ハムチーズのサンドイッチとミニサラダにクリームソーダ。食後に秋季限定パフェと一番基本のフルーツパフェ。デザートにはブラックコーヒーで」
「おお、結構行くアルネ、アナタ……」
 さっきからカスタマイズという名の無茶ぶりが溢れる店内で逆にストレートな大量注文だ。そうとは知らないナンナンナはただ心配そうにされたと見て、リンメイに小さく微笑む。
「……あ、うん。大丈夫だよ。ちゃんとおいしく食べきれるので。ご安心ください」
「ならよかったアル」
 ひと安心、とばかりに息をつくリンメイの横で結も片手を挙げる。
「あ、私も季節のパフェをひとついいかしら。……それと、わがままかもしれないのだけれど……作っているところを見せてほしくて」
 ひと安心が揺らいだ。「ん?」と首をかしげるリンメイに、結は遠慮がちな微笑みを浮かべる。
「その、美味しいパフェを作るのにどんな工夫をしているか気になるし。あ、でもこれだとむしろ厨房の人の負担になっちゃうかしら。それじゃあ、リンメイさんに作ってもらうとか……」
「お姉さん、今結構無茶言ってるの気付いてるアル?」
 まさかこんな控えめそうな女の子からとんだ無茶ぶりが出てくるとは思わず、リンメイは神妙な表情になる。その様子を見ながら、ナンナンナも頷いた。恐らく、彼女もまたこの戦場で戦う者の一人として無茶ぶりのオーダーを通そうと言うのだろう。ならば、自分は──と考えたところでハッと片手を挙げた。
「そうだ、僕も追加注文。料理がおいしくなるおまじないと、チェキとかお願いしてもいいかな」
「えっ、ここはメイド喫茶じゃないアルヨ!」
「僕もコスプレ喫茶で働いたりすることあるから、一流のサービスで勉強させてもらいたいなって。ダメ?」
 こてんと可愛らしく小首を傾げられると、お客様のお願いに応えなくてはというリンメイの矜持が大いに揺れる。なるほど、自覚があるのかないのか、ナンナンナのその破壊力は中々のものだ。
「むむ……。分かったアルヨ、二人とも、ちょと待つヨロシ」
「ごめんなさい、ありがとうね」
 無茶なお願いだとは分かっていたから、結は眉を下げて笑った。
(彼女も自分の使命で動いているんだろうけど…、もっと普通に一緒に食事できたらいいのにとは思っちゃうわね)
 とは言え、相手はしっかりこちらを罠に掛けようと企む危険な怪人だ。こんな戦い方ではあるけれど、しっかり妨害を果たしていくのも大事なこと。
 そうして二人は遠慮がちなわがままオーダーを叶えてもらいつつ、秋の豊かな味わいを心ゆくまで堪能していった。

雨夜・氷月
ララ・キルシュネーテ

「パフェ! 秋季限定パフェ!」
 季節限定。それは何と魅力的なものか。幼き聖女様であるララ・キルシュネーテ(白虹迦楼羅・h00189)も当然その魅力には抗いがたく、アネモネ咲く真朱の瞳を爛々と輝かせた。
「氷月、いそぐわよ。パフェがララ達をまっているの」
「あっはは! そんなに急がなくてもヤツは逃げないよ」
「そんなことはないわ。大抵の美味しい獲物は逃げ足も一流よ」
 本日のエスコート役である雨夜・氷月(壊月・h00493)が笑っているのを見てそう言い返しながら、ララはそわそわと開かれるメニューを見守る。熱視線を受けながらも氷月のエスコートは手慣れたもので、姫君の前で実に優雅に開いてみせた。
「はいどうぞ。秋季限定パフェかあ……当然全部頼むよね?」
「ええ。とりあえずララは──」
 一瞥と共に白い指先がメニューの上端から下端までをすっとなぞる。
「ここからここまで……もちろん、全部注文するわ」
「あは、本当によく食べるね」
 何せ出会った頃から印象が食いしん坊だ。この小さい身体のどこにそれほどの食事が入るのか、解体してみたいほどに少女の胃袋は底知れないのが小気味良い。
「だって季節は待ってくれないわ。今日で葡萄も栗も柿も秋の味覚全部味わうのよ」
「良い心意気だね。じゃ、注文お願い店員さーん」
 忙しなく駆けてきたウエイトレスのリンメイに、氷月は遠慮なく自分の分とララの分を注文する。上から下までのオーダーに当然リンメイの顔は引き攣ったが、人に迷惑をかけてなんぼの愉快犯と樂園の姫君は当然気にする筈がない。
「あら、氷月はそれで足りる?」
「ダイジョウブ、足りなきゃ後で追加するよ」
「確かに。足りなかったらオカワリすればいいわね」
 まだ頼むの?と言いたげなウエイトレスの表情は当然スルーである。
「ご注文は以上でよろしいアルカー」
「あ、俺は紅茶もヨロシク!」
「紅茶? ……それって、ララでも飲めるかしら」
 甘いものに組み合わせるとよく合うとは聞いたことがあるものの、案外機会がなかった飲み物だ。好奇心を瞳から覗かせる少女を見ながら、氷月は首をかしげる。
「そうだなあ。ララは……ミルクティーなら飲めそうじゃない?」
「分かった。じゃあそれにするわ」
 どんなモノか分からないけれど、氷月の勧めなら間違いはないだろう。こっくりと頷き、飲み物もきっちりと注文しておく。

 やがてやってきたパフェ達は広いテーブルを埋め尽くす。溢れんばかりの秋の色彩に、ララは瞳を輝かせた。
「むふふ……いただきます」
 ぱくりと頬張れば、なんと甘美で美味しいこと。2つのぶどうがたっぷり入ったぶどうのパフェからソルベと共に果実を口に放れば、瑞々しい甘さが弾けていく。あまりの美味しさにふわふわのモモンガ耳と尻尾がぴんと上を向いた。
「氷月、この葡萄を食べてみなさい。甘さが絶妙よ」
「葡萄? ……ん、ホントだ。美味しいね!」
 氷月から同意が返れば、ララは満足そうにうんうんと頷いてみせる。
「この栗も、こっちの柿もたまらないわね。モンブランにクリームチーズ風も美味しいわ」
 感想を口にしながらぱくぱくと空になっていくグラスの痛快なコト。氷月はララの気持ちのいい食べっぷりを見ながら、けれどパチンと片目を閉じてみせた。
「でもララ、まだ足りないと思わない?」
「……そうね。確かに物足りないわ」
「メニューを全制覇したのにまだ食べ足りないことがアルカ!?」
 聞こえてきた会話に遠くリンメイがツッコミを入れるがどこ吹く風。真剣な顔で悩むララが、唐突にぴこりと電球マークを浮かべた。
「そうね、オーダーメイドにするのはどうかしら?」
「オーダーメイド良いね! ねえ、葡萄、栗、柿の別パターンのパフェをそれぞれ作ってよ。紅茶使ったやつとかないかなあ」
「……一応言わせてもらうアルが、当店にそういったサービスは無……」
「えー、できないの?」
 煽るような氷月の小さな笑いに、おもてなしの矜持をちくちくと刺激され、リンメイは唇を尖らせた。
「……できるアル」
「あら素敵。ではララはMAX秋満載特盛パフェにするのよ。デラックスに頼むわ」
「んは、特盛パフェもいいね!」
 ちゃっかり1番ビッグに挑戦しようとするララに氷月はにやりと笑みを浮かべた。月の浮かんだ夜色の瞳にイタズラな光が宿る。
「あ、そういえばサツマイモって無かったよね。それも追加で!」
「むむ……分かったアルヨ」
 なんだかんだ最多パフェを頼み尽くしたララと氷月に、もはやリンメイが出来ることはいち早くキッチンに戻ることである。
 こうして2人は優雅に、そして誰よりもお腹いっぱいに食べ尽くすことで、この戦場に貢献するのであった。そんな意識なんて1ミリも無いのに、いつの間にか。

櫂・エバークリア
黒野・真人

「オレらブッ殺したい割にめちゃ律儀」
「ホント。こういう敵も居るんだな」
 黒野・真人(暗殺者・h02066)と櫂・エバークリア(心隠すバーテンダー・h02067)は先ほどから忙しなく客の無茶ぶりに応えテーブルを駆け回る怪人の姿を頬杖をつきながら観察していた。他所ではきっと今頃血生臭い戦闘も行われているというのに、なんというか、その姿はとても平和だ。
「なんか笑うのも悪い気がするというか」
 肩を竦める櫂の言葉に真人はくつくつと喉を鳴らした。
「ま、そのお陰でこっちは助かるし、上手く使えるならヨシ。だろ」
「ああ。まぁ折角の機会なんだ。楽しませて貰うとするか」
 櫂の肯定に、機嫌よく真人は目を細める。
「敵とは言えきちんと出してくれんなら──ノってこうぜ」
 形は違えど、この喫茶店だって立派な戦場のひとつなのだから。彼女が己の矜持で以て戦うように、与えられた仕事を与えられたようにただ正確にこなしてみせるのが職業暗殺者の矜持と言うものだ。

 案内された席に腰かける真人の演技は慣れたものだ。偽装されたものとは分からないくらい自然に一般人として紛れ込んでみせるのも、恐らく中学までの経験を活かしてのことだろう。まだ明るい陽の世界に慣れない櫂をリードする必要もあり、メニューをぽんと開くと真人はサッと片手を挙げてリンメイを呼ぶ。
「ハーイ。ご注文をお伺い致しますアル」
「こいつさ、甘いのあんま知らねーんだ」
 櫂を親指で指して、にやりと笑ってみせる。
「おねーさんがこいつに合うイイの作ってやってよ」
「うん。忙しいとこ悪いけど、頼むよ」
 さりげなく柔和な表情にウィンクを添えれば、連続する無茶ぶりに辟易していたリンメイの表情も仕方なさそうに緩んだ。既に掴みはバッチリだろうと確信できるウエイトレスの態度に、櫂は内心舌を出す。
「……仕方ないアルネ、特別アルヨ。じゃ、そっちの黒づくめのお兄さんは?」
「ん、オレ? オレは──じゃあアイスタワー」
「ハーイ」
 ちゃっかり手間がかかりそうなメニューを頼むことも忘れない。こうした場に不慣れであることを上手く利用した二人の態度にリンメイ(魅了済み)が違和感を抱く間もなく立ち去ろうとした所で、櫂が小さく「あ」と声を上げた。
「おっと、飲み物の事忘れてた。お勧めの銘柄とかある?」
「うーんそうアルネ~~」
 わざわざ引き留められて、悩むリンメイの姿に櫂は小さく笑う。後ろの客が困ったように宙ぶらりんになった手を降ろしているのが目に付いた。ワンオペで働く彼女をこうして引き留めるのは本来あまり褒められたことではないけれど、これも仕事である。
(悪いけど手加減は無し、ってコトで)
「あっ、このキーモンは中国のお茶アル。お高いけど美味しいアルヨ!」
「それじゃ、紅茶はその二つとも頼むよ」
 でれでれと嬉しそうなリンメイに笑顔を返し、去っていく後ろ姿を眺めながら真人は肩を竦めた。
「オレのフォロー要らなかったんじゃね? すげえ自然な態度だったし」
 相手が女の子だからだろうか。にやりと笑う真人の眼差しに、櫂も悪友の笑みを返した。
「そんなことねーよ。真人がリードしてくれたしな、ボロが出なくてよかった」

 やがてやってきたアイスタワーはクリスマスツリーのように何個もアイスを重ねてモミの木状に飾られており、真人の注文通りに精密なバランス感覚を以てそこに聳え立っていた。櫂をイメージして作られたのであろうミルクプリンと柿のパフェは、所々紅茶が練り込まれているのかふんわりと香しい香りが漂う。
「ん、いただきます」
「おお、美味しそうだな。しっかり残さず食べようぜ」
 仕事は無茶ぶりだが、それはそれ、これはこれである。その仕上がりまで馬鹿にするような二人ではない。しっかりとオーダーに応えたリンメイと店の矜持に感心しつつ、両手を合わせた。
「あ、お代わりも頼まねえとな。次はチョコ系生クリホットコーヒーとかどうだろ」
「甘いモンが続くな。……ん、ウマ」
「はは、このままノーミソパンクさせてやるぜ」
 仕事ぶりは見事だけれど、ここは戦場なのだから。遠慮なく注文を続けながら、二人は思う存分憩いの時間を楽しむのであった。

躑躅森・花寿姫
ツェイ・ユン・ルシャーガ
夕星・ツィリ

「パフェ! パフェは大好物です!」
 店内に漂う甘い香りに、躑躅森・花寿姫(照らし進む万花の姫・h00076)もまたスイーツが大好きな女の子らしく濃いピンク色の瞳を輝かせた。なんと簡単なお仕事なのだろう、頼みたいだけ頼んで怪人さんの目をぐるぐるさせるだけで良いなんて!
「まさに私の為に用意された戦場といっても過言ではないですわね!」
 過言ではある。けれどウキウキでメニューを開く花寿姫の隣のテーブルで、夕星・ツィリ(星想・h08667)もまた、淡い水底の瞳いっぱいに美味しそうなパフェのイラストを映し、溢れんばかりの期待に表情を輝かせていた。
「どれも美味しそうで迷っちゃう……」
 とは言え、今回の仕事はわがままオーダー。となれば通常のメニューも美味しそうだけれど、ここは前々から叶えてみたかった憧れや夢に挑戦してみる絶好のチャンスである。
(お店でトッピング全部盛り!とかオーダーメイドの作ってくださいって言ってみたりするの、一度してみたかったの……!)
 いつお願いしようかな。忙しなくテーブルを駆け回るリンメイに話しかけるチャンスをわくわく窺うツィリの近くで、もう一人の客もまたウエイトレスの働きぶりを感心感心と眺めていた。若々しい風貌に似つかわぬ老練めいた態度のツェイ・ユン・ルシャーガ(御伽騙・h00224)である。
「しかし見極めておくべきは|暴虐《かすはら》に当たらぬ程度の境目……かのう?」
 メニューを眺めながらくすくすと笑うツェイの隣の席で、花寿姫が元気よく手を挙げる。
「店員さーん、期間限定のパフェ3種全部、お願い致します~!」
 豪快な注文っぷりである。それもその筈、少女は華奢な見目からは想像の付かないような無限の胃袋の持ち主であった。それが大好きなパフェだというのなら、尚更のこと。
 ただしただの大量注文なら他にも頼んできた客は居た。もう既に|暴虐《カスハラ》に慣れたリンメイも慣れた様子で「ヨロシ」と声を上げようとする。その瞬間、花寿姫の瞳がきらりと光った。
「──で・す・が、今回はきっちり順番を守っていただきたいのですの。最初に柿とクリームチーズ、次に葡萄、最後にモンブラン。柿とクリームチーズの時はほうじ茶、葡萄の時は紅茶、モンブランの時は珈琲を持ってきてくださいましね」
「うーん、きっちり無茶ぶりだったアル!」
「いったい何のことでしょう?」
 惚ける花寿姫の横で、ツィリは静かに慄いていた。あのような|暴虐《かすはら》が許されるのであれば、自分の注文なんてリンメイにとっては何てこともないのでは? ──桃色の少女の堂々とした佇まいに、ほんの少しズレた、けれど大きな勇気の光が心に灯り、ツィリはぴしりと白い手を宙に向けた。
「あの、……オーダーお願いします!」
「ハイ、どうぞ~…」
「この秋季限定のパフェをミックスしたようなもの……ってできますか?」
 3つを1つに纏めるくらい、今のリンメイなら簡単なことに違いない。星を水辺に浮かべた様なきらめきでワクワクしながら期待を込めて見つめる少女の眼差しに、リンメイはうっと喉を詰まらせた。
「で、できないこともないアル」
「本当ですかっ? 全部を良いとこ取りしたような、甘くて濃厚で、でもジューシーさもあるようなパフェが食べたくって!」
 嬉しそうに表情を綻ばせるツィリの勇気のオーダーを断れる程、リンメイは悪ではない。──否、本来は悪でなくてはならないのだが。
 そして、その隙を見逃す花寿姫ではなかった。
「今、オーダーメイドを引き受けてました? なら私の大好きな躑躅イメージでもパフェを作っていただけませんか?!」
「ま、まだ頼むアルカ!?」
「えっ、好きなイメージで作ってもらえるのってステキ……! あのあの、じゃあ私も海月と貝殻のモチーフを何かつけてくださいっ。あ、あとカフェラテに猫ちゃんのラテアートとか……!」
「もー、お前達、いい加減にするアルヨー!」
 とは言え、期待たっぷりの少女2人に半ば強引に押し切られては応えずにいられないのが下請け怪人の悲しいところ。躑躅モチーフのスペシャルパフェからねこちゃんのラテアートまで引き受けたリンメイの後ろ姿に、ツェイがそっと声をかける。
「そこな素晴らしき働きぶりの給仕殿。おーだーを頼めるかの」
「もう無茶ぶりは勘弁アルヨ!」
「うむ、大したことは頼まぬよ。こちらの秋季限定のぱふぇ――に、お主ならではの『まじない』を凝らしてくれぬか」
「……」
 大したことじゃないか、と言いたげなリンメイの眼差しを受けて、ツェイはほっほっほと好々爺の笑みを浮かべた。
「我は術士ゆえ、そうした工夫こそが甘露でな。悪運は去り、疲労は癒え元気が湧きおこり、あらゆる困難を打ち払えるよな、そんな一匙を頼みたい。此の街最高の給仕であるお主であれば朝飯前との噂じゃからの」
 もはや何を言っているのか、ツェイ自身にも分からない。とは言え疲れ切ったリンメイでは長々とした口上にツッコむ気力も既に無く、その|暴虐《おーだー》も無事受領されてしまうのであった。

「嗚呼、どれも美味しいです! なんて素敵なのかしら、特にこの躑躅色のお花のチョコレート!」
「こっちもすごく可愛いですっ。貝殻もなかに泡みたいなアラザンがアクセントになってる……!」
 きゃっきゃとはしゃぎながら歓声を上げる少女を横目に、リンメイはツェイのパフェにとっておきのハートマークを贈る。
「もえもえアルアル~! ……はあ、はあ。これで良いアルか?」
「うむ。素晴らしく可愛らしいぱふぇであるな。誠にありがとうの」
 ツェイの朗らかな表情と感謝の言葉に嘘はない。だからこそリンメイも何も言えず──否、もう限界を迎えた怪人はその場にしゃがみこみ、そしてとうとう天を仰いだ。
「もうこんなアルバイト、懲り懲りアル~~!!」
 びええと泣き出すリンメイに、その場の能力者達が対応に追われるのはまた別のお話。
 ともかく、こうしてとある喫茶店での戦争は無事に防がれ、人々の笑顔もまた確かに守られるのであった。

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