シナリオ

⑮泡沫夢幻に消ゆ

#√汎神解剖機関 #秋葉原荒覇吐戦 #秋葉原荒覇吐戦⑮

タグの編集

作者のみ追加・削除できます(🔒️公式タグは不可)。

 #√汎神解剖機関
 #秋葉原荒覇吐戦
 #秋葉原荒覇吐戦⑮

※あなたはタグを編集できません。

⚔️王劍戦争:秋葉原荒覇吐戦

これは1章構成の戦争シナリオです。シナリオ毎の「プレイングボーナス」を満たすと、判定が有利になります!
現在の戦況はこちらのページをチェック!
(毎日16時更新)

●Accident
 悲鳴が泡になっていく。
 ノイズ交じりの声は聞き苦しくて、醜くて、こんなものは自分の声ではないと喉を掻き毟る。うつくしい指先は白い皮膚を突いて、喉を掻き、肉を裂いた。ぷくりと盛り上がった赤い血の珠を泡が吸ってぷかり、ぷかりと周囲に揺蕩う。己の未熟を、これが叶わぬ悲願の末路だと見せびらかすように。
 痛い。
 痛い。
 激痛が思考を奪い、世界は痛みで白く明滅する。
『……おう■……さ、ま』
 電子の泡に、声すら奪われてゆく。

 どうか、たす■て――。

●Caution
「√汎神解剖機関から神田郵便局に現れたのは王権執行者『エレクトリック・マーメイド』でした」
 しかし、突如として現れた王劍「|縊匣《くびりばこ》」を撃退した際に、その欠片が瞳に刺さり、彼女は今その欠片に操られている危険な状態にあるのだと物部・真宵(憂宵・h02423)は言った。
「エレクトリック・マーメイドは我を忘れているようです。でも「王子様」を求める彼女の心に寄り添うことが出来れば、きっと届く言葉があると思うのです」
 狂えるエレクトリック・マーメイドの周囲には、√能力者だけを自動迎撃する無数の「電子の泡」が浮かんでいる。なんとかそれらを対処しながら正気を取り戻すよう対話に臨まねばならない。言葉が届けば迎撃もやわらぎ、瞳に刺さった欠片を抜けばエレクトリック・マーメイドの沈静化を狙える。
「ですが「電子の泡」が√能力者だけを攻撃するということは、つまりAnkerはその対象ではないということになります」
 自分が王子様を演じてあげる。自分の思う王子様を話してみせる。まだ見ぬ王子様に会う前に泡となって消えてしまわないよう、心を支え奮い立たせてあげるのもいいかもしれない。
「この人魚さんは、どのような王子様を求めていらっしゃるのでしょうね……」
 ぽつりと零した星詠みは「そもそも王子様とは一体?」ふしぎそうに首を傾げてみせたが、最後にはやさしげに微笑んだ。
「きっと皆さんの心が伝わってくれると、信じております。どうか、泡になってしまう、その前に」
 救ってあげてほしい。

マスターより

開く

読み物モードを解除し、マスターより・プレイング・フラグメントの詳細・成功度を表示します。
よろしいですか?

第1章 ボス戦 『エレクトリック・マーメイド』


聖夜・前々夜

 ――泡になっていく。
 悲鳴も、言葉も、想いも全部、うたかたに消えてゆく。
 ――いやだ。
 こわい。感情にノイズが走る。
 それでもただひたすらに思い描くのは――。
「ごきげんよう、私の可愛い|人魚姫《マーメイド》ちゃん!」
 痛みの向こう側から聞こえてきた声に、ほんの一瞬だけ意識が逸れる。けれど所詮はまやかしだと言い聞かせるように、あるいは思考を掻き消すように電子の泡が立って視界をなびいている。
 聖夜・前々夜(クリスマスの魔女・h01244)はお姫様を守る兵隊たちのような泡を前にして、むふんと胸を張る。王子様に胸をときめかす、だなんて。なんて可愛らしい子なのだろう。
「良いわよ~~~~!! |魔女《わたし》がお話を聞いてあげましょう!」
 残念ながら脚はあげられないけれど、心に寄り添って欲しいと言うのであればお任せあれ。
 明確な意思と殺意をもって飛来する電子の泡を杖でさばきながら、
「人魚姫ちゃんは、どんな王子様が好きかしら?」
 前々夜は一歩を踏み出す。
『……おう■……さ、ま?』
「ええ、そうよ! よぉっく考えて。陽だまりのような金髪? 陶器の様な白い肌?」
 泡を弾く。打ち返す。跳ねのけるように、ゴルフでもするかのように、押し寄せる泡の群れを顔色一つ変えずに前々夜は対処する。ただ一点、虹色にきらめく泡の向こう側で怯え苦しむお姫様だけを見つめて。
「燃える様な瞳? 魅力的な声? 柔らかな唇? セクシーなホクロ?」
『……わ、からない……』
「そうよね。王子と一言で言っても悩ましいわよね~~……王子様なんて星の数だけいるんですから!!!」
『……そんなに?』
 ぽかん、と呆けたようにエレクトリック・マーメイドの口から言葉が零れた。前々夜は泡の勢いが削がれた瞬間を見計らい、眼前の泡を杖の一振りですべて破壊。
「こんな見るからに怪しい、電子の泡に溺れてる場合じゃないわよ!」
 ぱちぱちと弾けて咲く電子の泡のその奥で、人魚姫が泣いている。
「人魚姫ちゃん、一緒に王子様でも探しに行きましょう~~!!」
 |魔女《わたし》の前で、泣いている子がいるならば、その涙はすべて拭ってあげなくてはならない。
「恋と理想は、待ってちゃダメなの。自分の力で掴み取るのよ!!」
 なぜなら前々夜はクリスマスの魔女。
 |クリスマス《わたし》を前にして泣く子が居るだなんて、そんなの許せない。前々夜が見たいのは、ほころぶような笑顔だから。
「さぁ、星にお願いしてみて。あの星は、あなたのためだけに輝くから」
 頭上に輝く|願い星《ステラ・アウレーア》を指差すと、涙に濡れた美しい青色の双眸が上向く。唇がふるえて、それから。
『――わ、たしの……おうじ、■、ま』
 ――あいたい。
 想いを受けた星が、瞬いた。

四之宮・榴

(……ぼ、僕の王子様……っ……?!)
「王子様」という言葉は、口にするのも何だか躊躇われるほど、むず痒くて心が落ち着かなくなるものだった。四之宮・榴(虚ろな繭〈Frei Kokon〉・h01965)はどきりとする胸を押さえて、ちいさく深呼吸。
 ――王子様。
 考えてみて、浮かぶのはやっぱり|相棒《半身》の顔。
(……そ、そんな……王子様なんて……。ただ、僕を救ってくれた……|相棒《半身》は……|希死念慮の塊《死にたがり》の……僕を、叱って……何度も、僕の手を……取ってくれました)
 思えば思うほど、お腹に陽だまりを抱きしめているようなあたたかな気持ちになる。このあたたかさを人魚姫も探し求めているのだろうか。欲しいと、想い焦れているのだろうか。
 ――無限に?
(……信じられなくなった……人を、信じられるように……と、共に歩んでくれる……と、何度も……伝えてくれました)
 こんな自分にも想いを、言葉をくれる|相棒《半身》が居てくれる。まるで奇跡じみたことだと自分でも思う。
 ――だから。
「負けないで……僕は、貴女様を救いたい……」
 電子の泡に身を秘された人魚姫を見つめて、榴は指先をきつく握り込む。
 泡の数は数え切れないほど。ひとつが飛来すると、ふたつみっつと息つく暇すら与えぬ速さで飛んでくる。泡と言えどやはり痛い。ちいさな雫も数十、数百となれば岩をも穿つ。
「……人を好きになる想いを……とても大事にしてる貴女様だから……僕は救いたいと、思うんだ」
『……す、き……?』
 ノイズ交じりの掠れた声。悲鳴なのか猛りなのか分からぬ言葉が、けれど泡に呑まれていく。榴はサッと視線を上空に向け、素知らぬ顔で揺蕩うインビジブルを見つけると、自分の位置を入れ替える。距離を詰めたら、その分泡も増える。しかし、複合毒を散布するインビジブルたちが電子の泡へと噛みついていくのを尻目に、さらに転移。
「……怖がらないで。貴女様に痛い思いを……させるつもりは、ありません」
 そばに近付くとひときわ大きな泡が飛び込んできた。華奢な躯体をまるごと喰らおうとする泡を、すかさずジャストガードで受け止め、そのまま人魚姫とは別方向へと押し返す。
「……どうか、今だけは信じてください」
 細かな泡の群れが押し寄せる。タロットカードを飛ばして道を開くと、霧消した泡の奥で人魚姫が榴のことを見上げていた。ノイズと血液の珠が浮く痛々しい姿に思わず眉根が寄るが、すぐに表情をやわらげ、視線を重ね合わせたまま近付いて――。
「大丈夫」
 伸ばした指先が、ちいさな欠片に触れた。

アリス・アイオライト

 ――王子様みたい。
 あの時、彼はどんな表情を浮かべていたのか、アリス・アイオライト(菫青石の魔法宝石使い・h02511)は思い出せずにいる。
 ノイズが交じる声は泡沫に囚われ、今にも電子の海に消え入りそうだ。それでも何とか逃れようと、深海の色をした美しい髪を振り乱して暴れている。赤い血液の色が、しろい指先を染めているのがひどく痛々しい。
「人魚姫さん、少しお話しをしませんか」
 敵意はないのだと伝えるように、努めてやわらかさを意識したアリスの言葉が人魚姫――エレクトリック・マーメイドに届く。長い睫毛を震わせて、眼差しが持ち上がった。
 ふんわりと、花がほころぶようなやさしさで笑むアリスを見つけた人魚姫。とたん、電子の泡が波となって押し寄せる。しかし慌てず、騒がず。アリスはそれらをひとつずつ潰すように杖で突き、弾き、道を開く。
「あなたの想う王子様はどんな方ですか?」
 ぴくり、と引き結ばれていた唇が震える。
「私は……友人に『王子様みたい』ってよく言われていた人がいるので、彼の姿が浮かんでしまうんですよね」
 泡の数が減る。
 アリスは一歩を踏み出し、赤い血液を閉じ込めたそれを、人魚姫の目の届かぬ遠くへ押しやった。
「金のさらさらした髪に、青い瞳。誰にでも優しく微笑んで、困っている人を放っておけない人」
 言葉にしていくと、なんだか懐かしい気持ちになって笑みがこぼれる。
「所作はいたって一般人ですけどね。それでも彼は、私にとっても王子様みたいな人でした」
 ――過去形、ですが。
 アリスは喉の奥に詰まっていたものを吐き出すように吐息して、そんな自分を悟られぬように笑顔の裏側に隠してまた一歩、前へ踏み出す。
「私は、魔法使いですから」
 どこか自分に言い聞かせるように。
 アリスは傷付いた人魚姫のそばに寄ると、虹を映す遊色の魔力を裡に巡らせる。白虹の輝きを帯び放つアリスに電子の泡が驚いたように霧消して、その奥でひとり蹲っていた人魚姫が光を見つけてまばたいている。
「人魚姫、あなたが求める王子様に出会えるよう、欠片の呪いを解きましょう」
『……あ、■ぁあ……』
「……お姫様には、ハッピーエンドを迎えてほしいですからね」
 それがたとえ泡沫の夢であったとしても。

集真藍・命璃

 ぷかり、ぷかりと揺蕩う電子の泡。赤い血液交じりのそれは、姿を現した集真藍・命璃(生命の理・h04610)には見向きもしない。
(この泡、本当に私は狙わないんだね)
 Ankerは自動迎撃の対象外だと事前に聞いてはいたけれど、だからこそ命璃はこの場にやって来たのだけれど、やっぱり少しどきどきしていたから、ほっとしてしまった。
 これなら、真っ直ぐに近付けてしまう。
 未だ痛みに喘ぎ、混乱している人魚姫の元へ。ジジとノイズの走る泡には触れないように、春色の髪が舞い上がらぬよう手で抑えて掻い潜る。
 しろい指先は赤く染まっていた。湿り気を帯びた空気が乾くことを許さないのか、鮮血のように鮮やかな赤に命璃はすこしだけ、くらりとした。追い払うように、かぶりを振る。
「人魚姫さんの気持ち、痛い程分かっちゃうや。昔の私がそうだったから」
 自身を傷付けるしろい指先に手を添えて、やさしく呼びかけると青い双眸がようやく命璃を見つけた。
「助けて。――助けて、お父さんって、ずっとそう思ってた」
『……たす、■……て、』
 うん。命璃は頷きながら、昔日を思い返している。
 |生命《いのち》は世界で一等尊い宝物。命璃の生命は何よりも大切な贈り物だから「命璃」そう名付けたのだとやさしい父は言った。
 それなのに命璃の母と新しい父親は、命璃を毎日甚振った。尊い|生命《いのち》は守られなかった。
「私の王子様は間に合わなかったけど。でも貴女は違うハズだよ」
 頬を濡らす涙を拭う。
「だからどうか、顔を上げて? 私と違って、貴女はまだ泡になっていないから」
 人魚姫は、涙の珠を拭った命璃の指先が景色を透いていることに気が付いた。身体が透けている――つまり。
 視線の意味に気が付いても、命璃はただやさしく微笑むだけ。
「貴女の|物語《人生》はここからなんだよ。えへへ、素敵な貴女だもん。絶対、格好良い王子様と出逢えるからっ」
『……おう■……さま、に……?』
「そうだよ! だから負けないで」
 ぷかり、ぷかりと泡が立ち昇る。青い空を、広い空を目指して。
 水底から見上げた春の光は眩しくて、エレクトリック・マーメイドはちいさく吐息した。

香柄・鳰

 ――王子様。
 正直なところ、香柄・鳰(玉緒御前・h00313)も、それが一体どのような人物を指すものなのか、明確には知らなかった。御伽噺の一頁を捲る暇など、与えられなかったから。
(白馬に乗った王子様ならぬ、死神をつれた主様なら存じておりますが)
 思って、ふ、と吐息が漏れるような笑いが零れてしまう。何て正反対の存在なのだろう。王子様について真剣に考えている、自分も。
 それまで凪いでいた世界が姦しくなる。鳰を見つけた電子の泡が揺蕩いから目覚め、波となって襲い掛かってきたのだ。鳰はそれを大太刀で捌きながら、ノイズ交じりの悲鳴を零す人魚姫の元へと一歩踏み込む。
「――ですから教えてくださいますか? 人魚姫。あなたが恋う方はどんな方なのか」
 人魚姫の血液を吸った電子の泡が鳰の頬を掠めていった。気配を横目で見送り、それからあぶくでひしめき合うその奥に囚われた人魚姫へ呼びかけた。
「大事な方を心に擁けば、それは力になる。これだけはよく識っているの。貴女にとってもそうではありませんか?」
『……ここ、ろ……?』
 言葉が届く。
 たとえその正体を知らずとも、見つけてあげられなくても、連れてくることができずとも。
「あなたの求める王子様に私は成れないかもしれないけれど、心に想い描き直せるまで話を聞く事は出来るわ」
 大太刀が閃く。泡を断ち、薙いで、道を切り開く。いつだってそうしてきたから。涙が零れる音のするほうへ、鳰の爪先が向く。
 皮膚を打つ鋭さも、息苦しくなるような酸素の薄さも、|鶎《キクイタダキ》によって増幅した回避力と生存力で耐えることは難しくない。
『……おう■……さ、ま。わた、しの……』
「ええ、そう。痛みに支配されていても、思考することを止めてしまってはだめよ」
 ――|人魚姫《あなた》にとっての王子様って?
「王子様はお姫様を信じ、愛し守ってくれるもの? それとも優しく誠実で、情熱のまま必ず迎えにくるもの?」
 言葉を待つ。
 震える唇から泡が逃げ出し、空へと昇る。まるで告げられずに散って行った御伽噺の人魚姫のよう。
 それでも彼女は痛みの奥で必死に考えている。
 電子の中の夢幻だとしても、彼女には真実なのだから。せめて己の理想とするその人を想うくらい、許されていいのではないだろうか。
 けれども鳰は思うのだ。
(……もし本当に、そんな存在が居たのなら)
 ――なぜ、助けに|来てくれない《来てくれなかった》のだろう。

架間・透空
アクセロナイズ・コードアンサー

『たす■て――』
 涙が流れる音がする。
 ひとりで泣いているあの子の心に寄り添いたい。涙を流す者が居れば、駆け付けなくてはヒーローの名が廃る。架間・透空(天駆翔姫・h07138)とアクセロナイズ・コードアンサー(飛来する銀蝗・h05153)の想いは重なり合い、一条の光を生んだ。
「ヒーローの力をお借りしたいんです! お願いします、アクセロナイズさん!」
 電子の泡は泣いているお姫さまを隠すように、守るように、あるいはただ邪魔者を排除するためにふたりを目掛けて押し寄せる。
 迫りくる泡を前にして動じぬ透空は、
「――変身、解除」
 可憐な女子中学生から物々しい怪人の姿に変じてゆく。
「さあ、一緒に踊りましょう!」
 その解除と共に波動纏う黄金の強化フォーム、ゴルドタイガーへと変身したアクセロナイズは、波動虎輪ゴルドエナジー・ヘイローで電子の泡を弾き飛ばして、蹲る|お姫様《人魚姫》の元へと恐れぬ一歩を踏み出した。
「アクセロナイズ・コードアンサー、ただいま参りました!」
 アクセロナイズがヒーロー、透空は怪人。
 きっと何も知らないひとが見れば、とつぜん少女が悪の手によって改造されてしまったと思うだろう。事実、悪の秘密結社の手により怪人となったのだけれど。
 |カミサマだって知らない物語《ハイペリヨン・ザ・ワールド》。
 透空の能力で、彼女が歌えば神田郵便局の周辺はヒーローショーの舞台と化す。開かれたショーは、どこからか聞こえてくるリズミカルなテンポの音楽に満ちていて、アクセロナイズが電子の泡を砕く音すら合いの手のよう。
 ダンスも歌も及ばないけれど、アクセロナイズは「心がこもっている」それこそが大切なのだと信じている。だからスキャンした爆運金虎のカードによってグンと跳ね上がった運気――幸運を伝播させながらも、電子の泡をオーラ防御で受け止め、潰していきながらお姫様の元へ颯爽と駆けてゆく。
「見えていますか、聞こえていますか!」
 大きな声ではっきりと。
 想いが真っ直ぐ伝わるようにヒーローは泣いている心に呼びかける。
 人魚姫は俯いたまま。けれど、泡の大群の奥でかすかに肩が揺れるのを見た。
「ねぇ、画面の前の|人魚姫《プリンセス》。もう大丈夫、こわくないよ」
 美しくもやさしい歌が周囲に満ち満ちて、天に虹色のきらめきを帯び放つ。たとえどんな困難が待ち受けていようとも、決して後ろを振り返ったりしない。いつだって助けを求めるひとは、夢は、前にある。
「だって、カッコいい|王子様《ヒーロー》が、キミを助けに来てくれたから」
 無限の泡にも負けず、いくら隔たれようと構わず透空は歌い奏でる。その歌声を、呼び声を、人魚姫に伝えようと、響かせようとアクセロナイズは声を張り上げた。
「彼女の姿が、彼女の歌声が! あなたを想う、優しい人の声が! 聞こえるでしょう?」
 細い肩が跳ね、震え、そろりと双眸が上向く。
 赤い血液を吸った電子の泡が、ヒーローの頬を掠めて行った。
「あなたも同じはずだ、声に想いを乗せるあなたなら、架間さんの想いもわかるはずだ!」
 びゅんびゅんと、風を切るような鋭い泡の群れを押しのけながら、アクセロナイズは一歩、また一歩と進んでいく。黄金の虎は、波動放つ幸運の証。ならばその輝きに照らされた者はすべからくしあわせを得るべきだ。
「辛い時があったら、いつだって駆けつけるよ。ヒーローは困っている人を絶対に見捨てないんだから!」
「貴女の本当の心と声は、自分たちが取り戻す――だからどうか、応えてください!」
 ふたりの想いが、声が重なり、やがて――。
 長い睫毛が震えると、涙と血に濡れた瞳が泡を掻き分けてやってきたその人を見つけてまばたいた。
『ヒー■ー……?』
 痛みで白く明滅していた世界に、やさしい光が射す。それはどこかあたたかくて、賑やかに踊っている。なんて眩しいのだろう。眇めた目はやわらかく、まるで微笑んでいるかのように見えて、胸が熱くなる。
『おう■……さ、ま、じゃ……ないのね』
 ふ、と吐息が漏れるようなかすかな笑い声が、ひとつ。ふたりの耳にそっと届いた。

雨夜・氷月

『――たす■て』
 言葉は弱り果て、立ち昇るあぶくのノイズにすら掻き消される。幽かで儚い女の声。
 救いを求める声に応えるなどというのは正直鳥肌が立つ。しかも声の主は王権執行者だというからなおさらだった。歪みそうになる口元を手で覆い隠し、長い指先で顎をなぞりながら思案する。
(でも、ソレが最善って言うなら話は別)
 雨夜・氷月(壊月・h00493)は頭の中で御伽噺の王子様を思い浮かべていた。とりあえず、微笑んで、やさしい言葉を使い、物腰柔らかにしておけばいいか。あいにくと白馬は用意が出来ないので、ぞろりと羽織った上着を外套のようにひらめかせればそれっぽい。
 束の間の夢くらいならば、見せてやれるだろう。
 氷月はすぅと細く息を吸うと、常ならば悪戯に笑んでいる双眸をやわらかに下げ、微笑みを浮かべ|歩み寄る《演技する》。
「どうしたの、人魚姫。苦しいの?」
 氷月が歩き出すと周囲を揺蕩っていた電子の泡がうねり、襲い掛かってきた。
「どうか待っていて。今、迎えに行くから」
 細かな泡沫を避けるのは難しいが、視認できるものはおおよそ回避できそうだった。それでも無傷とはいかず、氷月の白い膚を裂いて血液の珠が浮く。
 血を吸って赤く滲む泡を横目に一瞥しても、一瞬の素顔すら見せぬよう氷月の表情は笑んだまま。痛みや傷を顧みず、己を排除しようとする電子の泡に向かって進み続ける。
(それが、オヒメサマを助けるオウジサマでしょう?)
 ――もっと他に適任、いたかもしれないケド。
 でもたまにはこういうのもいい。日々の享楽を存分に味わうなら砂糖もスパイスも必要だから。
 青い双眸が泡の隙間から氷月を――王子様を捜して惑っている。宵の瞳を細くして、氷月は微笑う。
「泣かないで、苦しまないで」
 ふたりを裂く泡を払い、押しのけ、お姫様のもとへ。
「泡となって消えてしまわないよう、あなたの願いを叶えてみせるから」
 ――だから、どうか手を取って。
『……おう■……さ、ま?』
 氷月は答えなかった。
 けれどその代わりに、縋るように伸ばされた人魚姫の血濡れた指先を取り、眼前に膝を突き、そっと抱き寄せる。冷たい温度のいのちに柔く触れながら、至近で交えた眼差しに応えるように淡く笑む。
「その痛みは、あなたに埋め込まれた欠片によるもの」
 おそらく幾らかは取り除けたのだろう。残る傷跡は生々しくて、氷月の瞳に映り込んだそれを彼女が見ぬように睫毛を伏せながら、か細く震える両手を握り込む。
「俺はその苦しみを取り除きたい。だから、俺を信じて……身を委ねて」
 ――わらって。
 欠片に触れる指先を受け入れるように、人魚姫は幽かに、安堵するようなやわらかさで微笑んだ。

チェスター・ストックウェル
ヒュイネ・モーリス

「ねえ、薬屋さん。女の子が求める理想の王子様って?」
「女の子の数だけあるんじゃない」
 チェスター・ストックウェル(幽明・h07379)の純然たる問いに対するヒュイネ・モーリス(白罪・h07642)の答えは淡泊だった。
 そもそも「理想」自体ひとにとって千差万別。そこからさらに概念を固定してしまうのは実に危うく、おそらく争いが勃発する。それはきっと終わりなき戦いに違いない。
「でも強いていうなら……」
「……ま、正直見当もつかないけど、君がイメージするそれが世間一般の王子様像からズレてるのだけはわかるよ」
「って、おーい。まだ何も答えてないぞ」
 ひとに聞いておいてそれか。ヒュイネは白手袋を嵌めた右手をひらめかせたが、するりと交わしたチェスターは街に蠢く電子の泡を見やり両手を頭の後ろで組んだ。
 ノイズ交じりの泣き声は聞いていて気分がいいものではない。電子の泡も想像していたよりずっと少なく、奮闘した仲間たちの気配を感じる。
「仕方ない、それぞれが思う王子様になりきって彼女に声を掛け続けよう」
 二人なら正解を引ける確率も倍になるでしょ? とピースサインを作ったチェスターに、ヒュイネが吐息する。おどけているのか大真面目なのかよくわからない。が、その提案は決して悪くはなかったから。
「女の子を口説く趣味はないけどまあ仕方ない。その方法でいってみよう」
 ふたりは頷き合う。
 それから電子の泡に護られる人魚姫に視線を向け、
『……おう■……さ、ま』
 求める声に動いたのはヒュイネであった。
 電子の泡が膨れ上がる。ふたりを目掛けて波のように押し寄せ、人魚姫から遠ざけようとする。踏みとどまり、掻い潜った泡の向こうへ、ヒュイネは呼びかけた。鼓動を、つよく高鳴らせて。
「やあ、呼んだ? きみが探している王子様っていうのは俺、のことさ」
 びくり、と白い肩が跳ねた。
 痛みで顔を覆っていた両手の隙間から視線が覗く。
「どうやら相当お困りの様子。こっちにおいで、助けてあげるよ」
『……おう■さ、ま?』
 ――あなたが?
 という副音声が聞こえた気がしたが何のその。言葉が届いた時点でこちらのもの。確かな手応えを感じるのは泡の勢いが削がれたから。手の甲でふよりふよりと浮いたそれを弾き飛ばしながら、ヒュイネは振り返る。
「我儘ニーズに答える――これで間違いなし。勝利はこっちのもんだぜ」
「ちょっと、しぃー! 聞こえたら台無しじゃないか」
 親指を立ててキリっとしているヒュイネの言葉を掻き消すようにチェスターがわあわあ喚く。だが意識が向いたのは確かだ。ここは一気に攻めるが吉と見た。
 チェスターは「えーと」こほん、と咳をひとつ。
「美しいお嬢さん。俺に君を救わせてはくれないだろうか。君が苦しそうだと、俺も胸が張り裂けるくらい苦しくなるんだ」
「胸が苦しいって心筋梗塞の前兆? 大丈夫そ?」
「いや、病気じゃないし! いいところでツッコまないでよ」
「面白くて、つい――うわ危ない」
 まるで茶々を入れてしまったヒュイネをなじるように、大きな電子の泡がすっ飛んでくる。寸前でのけ反り避けたヒュイネと、うっかりまともに喰らってしまったチェスターは、それでも怯まない。
 痛みに混乱しているのか、ふたりの言動に混乱しているのか目を白黒させている人魚姫は、しきりに首を傾げていて、それがちょっと可愛らしい。少しは自我を取り戻せているのだろうか。そうだといい。
「ふん、この程度で退くもんか。君を助けたいと思う気持ちは本物だからね」
 念動力で適当な破片を拾い上げ、電子の泡を潰していきながらチェスターは手を伸ばす。ヒュイネもそれに続いた。
「いいから早くこの手を取って」
 この指先は誰かの傷を縫うために、いのちを救うためにあるのだ。
「助かりたいんだろ? 嘆くだけじゃだめなんだ、手を伸ばせ!」
 だから、伸ばしてくれないと助けてあげられない。
 ほんの少しだけ熱を帯びた指先に、血で濡れたほっそりとした頼りなげなそれが、重なった。
「よくできました」
「じっとしていてね」
 ヒュイネが欠片のひとつを取り除く傍ら、チェスターは反対の手を握り締めてやる。自分たちとはまた違う冷たさを宿した掌。どこかかなしい温度を励ますように、慰めるように。

澪崎・遼馬

(王子様を待つ人魚姫ときたか)
 第三戦線のさなかに斯様な悲劇が起ころうとは、誰が予想できただろうか。
 王権執行者『エレクトリック・マーメイド』、その瞳に刺さった王劍「縊匣」の欠片が彼女を苦しめている。
(哀れに思う気持ちがないわけではない)
 群れる泡の奥から聞こえてくる悲し気なノイズは、人魚姫の救いを求める言葉の残滓。澪崎・遼馬(地摺烏・h00878)はその欠片を拾い集めるように進んでゆく。
 途端。
 遼馬の気配に気が付く矢庭に、それまで揺蕩っていただけの泡が一斉にざわめき出し、耳障りなノイズを走らせながら押し寄せてきた。
(いずれにしても傍観しているわけにはいくまい)
 今は能力者だけを狙う電子の泡だが、一般人を巻き込む可能性も、被害が大きくなる恐れもある。一抹の不安が生まれるのであれば、それは全て取り除かねばならない。
 とは言え「王子様」という存在に、さしたる理解があるわけでもないので、人魚姫が望む「王子様」になれるかは分からないが、演技には多少の自信がある。
(心配ないとも。――この無表情も所詮は演技に過ぎないのだから)
 泡を二丁の魔銃で払い、撃ち抜きながら掻い潜る。
「泣くのはお終いだ。悪い魔法はここで解こう」
 泡の奥で蹲る人魚姫に呼びかけると、深海で染めたように美しい髪がふわりと揺れる。そっと頤を持ち上げ、見上げる瞳は涙と血で濡れていた。反射する光は涙か、欠片か。
『だ、れ……?』
 人魚姫が遼馬を視認すると、電子の泡の勢いが少しだけ緩くなる。薄く開いた唇から零れ落ちた言葉は、掠れていて物悲しい。
 浮かぶ電子の泡の勢いが削がれたとて、これで攻撃が終わるわけではない。
 遼馬は自身や周辺の建物の影から創造した仮死の棺で電子の泡を囚えながら、真っ直ぐに人魚姫の元へと駆ける。近付けば近付くほど増える泡をひとつ、ふたつ、棺でどんどん囚える。たとえ己の肉体が傷付こうが、その痛みを耐えて、飲み込んで、視線は真っ直ぐ涙で濡れたその瞳に注ぐ。
 理想の王子様。
 演じるならば、応えるならば、人魚姫を救いに行くというその覚悟を、彼女自身に見せなくてはならないと遼馬は考える。これしきの攻撃で怯んでいるようでは、きっと人魚姫の望む王子様にはなれないだろう。
 景色は変わり周囲は電子の海に変貌する。目がちかちかするような白い発光、ノイズ交じりの泡の群れ、ぷかりぷかりと舞い上がってはきらめく水の珠。それらすべてが遼馬を喰らうように集まってくる。
 だが遼馬は歩みを止めなかった。
 真っ直ぐ、もう彼女しか見えていないのだと示すように青い眼差しで人魚姫を見つめて、棺を振るう。魔銃で電子を破壊。
 血濡れた指先が、不確かに揺れ、痛みで霞む自我を掴もうと中空を掻く。
『……おう■……さ、ま』
「ああ。ここに居る」
 人魚姫の元へとたどり着いた遼馬は、彼女の前に膝を突き、いちどその手を取ってやった。冷たい指先はまだ濡れていて、血の温度がする。縋るように仰がれた瞳には、王劍「縊匣」の欠片が。
「今、破片を取り除く。大丈夫だ、信じてくれ」
 人魚姫はゆるく頷いた。
 その拍子に眦から零れ落ちた涙が、ふわり舞って、割れた電子の空から射しこむほんとうの陽射しのなかできらりと光った。

鷲宮・イヴ
鷲宮・カイン

 泡になった悲鳴は、言葉は、想いはどこへいくのだろう。
 深海の底からきらきら光る水面に向かって、あるいはこの蒼い空へと昇っていって、それから――?
「人魚姫を助ける王子様、かあ。そういうのはカインが得意だよな」
 抜けるような蒼い空を見上げていた鷲宮・イヴ(人間爆弾のレインメーカー・h08968)は、ふと傍らを歩いていた鷲宮・カイン(人間爆弾のレインメーカー・h08951)へ視線を向けた。
 目が合うと、カインは灰の髪から覗く右目をやわらかに細くして微笑んだ。人好きのする笑みだと兄ながら思う。
「僕は演技は得意だけど、女性に優しいのはイヴ兄じゃないかな」
「俺? はは、俺は女の子の扱いに慣れてるって言っても……誑かす|悪いヤツ《ヴィラン》の方だろ?」
 戦場を生き抜くために、利用できるものは何でも利用してきたし、これからもきっとその手段を取っていく。それが最善であるならば、なおのこと。
「ふふ、たとえ|悪いヤツ《ヴィラン》でも、相手がそう思ってなければいいんじゃない?」
 あっけらかんとした言葉だ。けれど同じ時を生きて、戦い抜いてきた兄弟の気安さと言葉ゆえにか、よく響く。
「僕達にとっては、イヴ兄は誰よりも優しい長兄だよ。戦場を生き抜く為ならなんだってするのは、僕だって同じだ」
 おそらくイヴよりカイン自身のほうがその実情を多くのひとに知られているだろう。それでもこうして兄弟妹たちと肩を並べて歩くことが出来ているのは、生きてきた世界を思えば僥倖と言えた。
「そうやって兄弟妹で生き抜いてきたからね」
「……そうだな、それが俺達の生き方だ」
 今さら変えられない。
「でも今日はそんな泥臭さはうまく隠して、慣れない王子様役だって、ちゃんと演じきらなきゃな」
 意気込む兄の言葉に肯きながら、カインは思案する。
 ――王子様、ね。
 難破した船から放り出された意識のない自分を一晩中支え続けて浜辺まで連れて行ってくれた人魚姫に、他の女性を恋しく思っていると語り聞かせていた挙句に、どうしても結婚しなくてはならなくなったらお前と結婚するなどと宣う男が参考になるはずもない。
(それなら僕達流の王子を演じよう)
 幸いにして、相手を信用させる演技力がカインには備わっていた。さすがに、こんなところでそれを発揮する日が来るとは思わなかったけれど。

 ぷかり、ぷかり。
 空に向かって立ち上る泡は時おり赤い。涙で濡れた声はざらついて、ノイズが交じる。助ける求める祈りはただひたすらに一心で、一途で。分解されてしまいそうな感情を「王子様」によって必死に繋ぎ合わせているようにも思えた。
 自分が消えるのは怖い。となりに、そばに誰も居ないのは、もっと怖い。
 イヴとカインは、気配を察知して流れを変えた電子の泡を認めると、揃ってレインの光線でそれらを撃ち抜いた。ちいさな泡すらも的確に貫き破壊すると、泡はぱちぱちと弾けて霧消する。
 音はむなしく|響動《とよ》もして、電子の海に還っていく。
 イヴは御伽噺に出てくるような王子様を想像してみた。およそ自分からは遠い存在だとは思うけれど「王子様」のようにやさしい微笑みを浮かべることくらい造作もない。
「やっと見つけた、俺達の人魚姫」
「迎えに来たよ、お姫様。痛かったね、もう大丈夫」
 眦をいっそう和らげたカインも言葉を重ねると、長い睫毛に縁どられた双眸が上向く。頬に流れる赤い血の跡は生々しく、口端から零れた吐息が泡になって消えてゆく。
『おう■……さ、まが……ふた、り?』
 すこしぽかんとした瞳を真っ直ぐに見つめて、カインが微笑う。
「ふたりも要らない? じゃあ選んでほしいな」
『えら、ぶ……?』
 はく、と唇が震える。その拍子に傷付いた喉から血が滲んで、それが痛いのか白い指先が喉を押さえた。痛みで俯いた矢庭に、生まれた隙を狙うように電子の泡が集まってくる。すかさずレインで泡を跳ねのけながら、けれど何てことないかのようにイヴが人魚姫の左手へと、そっと自身のそれを重ね合わせた。冷たい指先だった。
「そんなに自分を傷つけないでくれよ、君が痛いと俺達も悲しくなってしまうから」
「その手を、僕達に預けてくれるかい?」
 同じように、人魚姫の右手をカインがやさしく掬い、そうっと持ち上げる。白い手の甲に唇を寄せると「え」と驚きの声が零れて落ちる。その表情は、ただの女性のようで。いっそあどけなくもあるので、少女にも見える。
「俺達が君を守るから、安心して」
 イヴも手の甲にキスを。
 血に濡れているのも厭わぬふたりの王子様の口付けに、人魚姫の頬がふわりと赤く染まってゆく。見開かれた瞳には、王劍「縊匣」の欠片、そのさいごの一片が。
「僕達がそばにいるよ」
 カインの肩口を電子の泡が直撃して、その振動が指先から伝わり人魚姫にも走る。けれどカインの微笑みは絶えず、眼差しは真っ直ぐに人魚姫に注がれたまま。自分を――自分だけを見てくれている。その事実に安堵したのか、強張っていた肩がゆるりとほどけていくのが分かった。
『おねがい、――助けて』
 願いの言葉は滲まずにふたりに届く。
 イヴはしっかりと頷き、やさしく、安心させるように声をかけながら欠片へと指を伸ばす。励ますようにカインが掌を握り込み、最後の抵抗とばかりに押し寄せる泡からふたりを守る。
 そして――。
『う、ぅ……』
 人魚姫――エレクトリック・マーメイドを操っていた縊匣の欠片が取り除かれた。瞬間、周囲にあった電子の泡がすべて弾けて泡沫と化す。まるで祝福の花が咲くように、解放された想いが昇華するように蒼い空に昇っていく。
「――ありがとう」
 するりとイヴとカインの掌から、冷たさの宿る手が引き抜かれた。深海の色をしたうつくしい髪をたっぷりと揺蕩わせ、疵付いた瞳にどこか慈しみを滲ませて微笑む人魚姫は、鰭を翻して泡沫と一緒に空へと游いでいく。
「無理させちゃった?」
 笑いを含んだ言葉にふたりが顔を見合わせる。それからもう一度空を仰いだときにはもう、人魚姫の姿は泡に紛れて消えていた。

挿絵申請あり!

挿絵申請がありました! 承認/却下を選んでください。

挿絵イラスト