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煌めく宝珠のホーリーリース
澄んでぴしっとした空気。少し淡い空の色。
冬の訪れを感じさせる街は何処かしら浮かれていて、きらきらと輝いている。
|来《きた》るホリデーを心待ちにしている様に。
○
「嗚呼、いらっしゃいませ。」
貴方の来訪に気付いた星詠み――リヒャルト・クロンクヴィストはカップを磨く手を止めて笑顔を向けた。
「皆さん、戦争お疲れさまでした。見事な完全勝利で……情報や戦利品などを色々得られた様ですが、それは一旦置いておいて。」
今日のお誘いは、戦争などで忙しかった日々を忘れて来るホリデーに向けたリフレッシュだ。
「気付けばもう12月、クリスマス目前ですね。其処で、です。折角なので自分だけのクリスマスリースを作ってみませんか?」
リヒトはそう云って輪を描く様にくるりと指先を回す。
「リースを飾るヒイラギ……正しくはセイヨウヒイラギですが。緑のギザギザ葉っぱに可愛らしい赤い実が印象的ですよね。その見た目からクリスマスホーリーとも呼ばれています。」
――此の『|ホーリー《HOLLY》』はモチノキ科の植物の総称なので〝聖なる〟の『|ホーリー《HOLY》』とは違うのですが……雰囲気はピッタリですよね、とリヒトは笑う。
「√ドラゴンファンタジーのダンジョン内に、此のセイヨウヒイラギに似た植物で、実の色が様々なものが生えているみたいなんです。」
カラフルな実が生っている様子は、小さな宝石やビーズ細工の様で可愛らしいのだと云う。
「好きな色の実を付けたヒイラギで、クリスマスリースを作りましょう。」
先ずはダンジョン近くの街で、土台となるリースを作る処から。
「ヒイラギ以外にも好きなもので飾って自分の好きを詰め込んだリースを作るのも良いですし、土台の蔦をメインに飾りは抑えてシンプルに纏めるのもお洒落で良いですね。」
土台が出来たら、次はメインのヒイラギを採りにダンジョンへ。
「実の色は本当に様々あるので、好きな色や宝石に似たものなどを選んでください。欲張って沢山の色を飾るのも、同系色や一色で纏めるのもお好みで。……あ、偶に硝子やビーズみたいに透明な実もあるみたいですから、頑張って探してみるのも良いかもですね。」
最後は選んだヒイラギをリースに飾り付けて完成だ。
「そうそう、此のダンジョンの奥には『白月の幻主』がいるみたいなんです。害意の少ない簒奪者なのですが、放っておくことも出来ないので……。願えば消えてくれるので、可哀想ですが去っていただきましょう。」
願えば良いだけなので戦闘などと気負う必要はない。
「そうですね――『白月の幻主』と云えば願いを叶える存在です。彼の者は去った後ですが、折角なので、完成したリースにクリスマスの願いを込めるのは如何でしょう?」
クリスマスの奇跡が起こるかも知れませんし、ね、とリヒトは悪戯っぽく笑って。
興味を惹かれた貴方は、試しにリースを作ることにする。
詳しい場所を聞き、店を出ていく貴方の背にリヒトは微笑んで声を掛けた。
「――どうぞ、良いクリスマスを。」
これまでのお話
第1章 日常 『季節の彩りを形に』
○季節のアトリエ
√ドラゴンファンタジーにあるクラフト工房。
作業のしやすい大きな机と、色んな素材が詰め込まれた一面の棚。
色とりどりのリボンや様々なオーナメント。
動物や人形のマスコット。
ドライフラワーから造花まで。
きっと貴方好みの飾り付けが出来るはず。
――さぁ、どんなリースを作ろうか。
光の差し込む明るいアトリエに、ワクワクと眼を輝かせながら訪れたのは仲良し姉妹。
「クリスマスリース! 素敵です。戦争であわただしかったですし、ちょっとのんびり楽しみましょうか、秋沙ちゃん。」
アトリエに飾られているリースを眺めながら、見下・七三子(使い捨ての戦闘員・h00338)は瀬堀・秋沙(都の果ての魔女っ子猫・h00416)に優しく微笑みかける。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん! 素敵なリース、作ろうにゃ!」
戦争も無事に終わり、お姉ちゃんと迎える初めてのクリスマスに思わず笑顔が零れる秋沙は、ほっぺをふくふくさせながら七三子を見上げた。
二人で顔を見合わせて、えへへと笑い合うと、早速素材が並んだ棚を眺める。
「せっかくだから、秋沙ちゃんをイメージして作りましょうか。土台もかわいくしたいなあ。」
七三子はちらりと秋沙を見遣って、青色の飾りが入った箱を手に取った。
「青や水色の、透かし模様が素敵なリボンがあるので、これを飾ろうかな。」
秋沙のトレードマークである魔女っ子帽子やワンピースを飾る大きなリボンを思いながら。
「……あ、このフリルもいいですね。秋沙ちゃんっぽい。」
ケープや裾口を意識したフリルを追加すれば秋沙のお洋服イメージが完成する。
一方で秋沙も色んなアイテムを両手に持っては吟味していた。
「んーと。まずクリスマスっぽいベルに。このお人形さん、人間さんも動物さんも、お姉ちゃんっぽいにゃ……? どっち使うか迷うにゃ……!」
むむむと悩んで、「コレ!」と選んだ飾りを手に作業台へ向かう。
土台のリースを置いて、バランスを見ながらアイテムを並べた。
「『お姉ちゃん』のお向かいに、サンタ帽を被った『子猫』の人形を置いて。その真ん中にはプレゼントの箱!」
にこにこと、ストーリー仕立てで飾り付けていく。
「あ。ふふ、秋沙ちゃんのリースもかわいいですね。」
元気よく作業を進めている秋沙の手元を見た七三子は、可愛らしい人形に眼が留まった。
「なるほど、飾りをつけるのもかわいくて素敵ですね。私ももっと何か飾ろうかな。」
七三子はもう一度素材の棚を眺めて、イメージに合いそうな飾りを探す。
「あ。この星の形の真鍮のプレート。いいですね。これをいくつか飾ったら、かわいい感じになりそう。」
星のプレートと他にもぴったりな飾りを見付けた七三子はそれを早速リースに付けた。
「真ん中にこんな感じで小さな箒を飾って。えへへ。おしゃれかわいくなりました!」
きらきら星が輝く中で箒が揺れる様は、自由に空を飛ぶ秋沙を思わせる。
その横で秋沙も仕上げの作業に入っていた。
「最後に、お姉ちゃんの瞳や夕焼けのような、優しいヴァーミリオンのリボンを巻いて完成にゃ!」
くるくるとリースにリボンを巻いて、大きな蝶々結びで留める。
むふーと完成に満足した秋沙は、此方も完成しているらしい七三子を振り返った。
「ね、ね、お姉ちゃん! お姉ちゃんの、見てもいい?」
「ふふ、もちろんです。」
愛沙ちゃんをイメージしたんですよ、と見せてくれるリースに秋沙は眼を輝かせる。
「にゃにゃっ! 凄いにゃ、猫のお洋服みたい!」
秋沙はくるりと回ってスカートを翻して見せた。
そんな秋沙の喜ぶ様子が可愛くて七三子はへにゃりと笑う。
「秋沙ちゃんのリースは、子猫のサンタさんですか?」
「そうにゃ、それでこっちはお姉ちゃん。」
向かいに配置した人形を指しながら秋沙は胸を張る。
「今のお姉ちゃんは良い子だからにゃ! サンタさんも絶対にプレゼントをくれるのにゃ!」
悪の組織から足を洗い、秋沙の優しいお姉ちゃんになった七三子の処にサンタが来ない訳がないのだ。
「それは! 楽しみですね……!」
秋沙の言葉に七三子は顔を明るくした後、柔らかく微笑む。
「ふふ、これだけでも素敵なリースが出来上がったにゃ!」
「ですね!」
秋沙と七三子は互いのリースを見せ合いっこしながら笑い合った。
光の差し込む明るいアトリエの大きな作業机。
そこに並べられた材料を前に饗庭・ベアトリーチェ・紫苑(|或いは仮に天國也《パラレル・パライソ》・h05190)はむん、と気合を入れる。
「植物を操るのは得意ですが……こういうのを作るのは初めてなので頑張ります!」
「リース作りは子供の頃、施設のクリスマス会でやったきりなので、少し懐かしいですね。」
その隣で土台となる蔦を伸ばしながら志藤・遙斗(普通の警察官・h01920)が眼を細めた。
「遙斗さんは経験者なんですか。ちょっと意外……。」
遙斗の言葉に紫苑はエメラルドにも似た透き通る瞳をぱちりと瞬かせる。けれどそれならば心強い。
「ふふ、自分たちで用意から始めるクリスマス会は気合はいっちゃいますね。」
「そうですね。……紫苑さんはどんな感じにしますか?」
「まずは基本の形から作っていきましょうか。」
そう云って紫苑も蔦を手に取った。
小振りながらしなやかな手が、渇いた蔦をまるで絹糸でも扱う様に軽やかに纏めていく。
蔦をくるくる捩じりながら巻いて、見る間に綺麗な円形が出来上がった。
「結構難しいですね。えーっと、ここを通して、こっちをねじって?」
そんな紫苑の手元を見ながら、遙斗も蔦を巻いていくが、蔦の個性が強くて綺麗な円にまとまってくれずに苦戦する。
遙斗も手先は器用な方なのだが、自然物を扱うコツがつかめず苦労していた。
「……なるほど、無理にいじらないで、蔦の形を見ながらねじっていけばいいんですね。」
一度手を止めて、再度紫苑の手捌きを観察する。
見て、理解した手順を自分の手元で再現しようとして、やはり手が止まった。
「……えーっと、ここなんですけど、どうやったらいいですかね?」
普段ならあまり見られない、蔦相手に手こずっている遙斗の姿を見て笑っていた紫苑は教えを請われてそっと手を伸ばした。
「そうですね、もうちょっとねじってあげると綺麗に曲がると思いますよ。」
そう云って紫苑が蔦をねじって束に添わせると綺麗な弧を描く。
そうして蔦を遙斗に返すと紫苑は眼を細めて微笑んだ。
――植物は素直にいうことを聞いてくれる。もう生きてないものでも神様の権能は健在なのかも、なんて。
「おお、ありがとうございます……。」
遙斗は渡された蔦を何とか巻き終えて、端を留めた。
リースの円が形になった処で、間にヒバの葉を詰めていく。
「クリスマスと云えばモミの木のイメージでした。」
鮮やかな緑を保った葉の房を摘まんで呟く遙斗に、紫苑は頷いて。
「モミの木はツリーにはいいんですけど、リースに使うには固いんですよ。」
葉を惜しみなくぎゅっぎゅと隙間に差し込んで蔦を覆っていくと、良く見る緑色のリースになっていく。
「出来てきましたね……。」
苦労した分感慨深そうにリースを瞶める遙斗に、紫苑もリースを両手で持って掲げてみる。
「まだメインの飾りもありますし、あんまり整えすぎないようにしましょうか。」
「そうですね。」
出来上がったもこもこの緑のリースを二つ並べて、さて何色が合うだろうかと二人は思案した。
「ユウキくんに誘われたのですが……ついてきて大丈夫だったでしょうか、」
アトリエの扉の前まで来たものの、浮かない表情をしているアリス・アイオライト(菫青石の魔法宝石使い・h02511)は小さく息を吐いた。
――最近ちょっといろんなことが楽しめる気分ではないのですけど……。
精神的に摩耗する事があり、伏し目がちな菫青石の瞳は少し曇っている。
そんな様子の師匠を天ヶ瀬・勇希(エレメンタルジュエル・アクセプター・h01364)は眉を下げて眺めた。
アリスが最近心此処にあらずな事も、その原因も察しているけども。
――でもせっかくのクリスマスだし、師匠と一緒に楽しく過ごしたい。
自分の気持ちもそうだし、沈みがちなアリスの心も少しでも軽くしたい。
勇希はきゅっと拳を握ってアリスに声を掛けた。
「師匠。リヒトが言ってたけどさ、ヒイラギの実、小さな宝石みたいだって。」
星詠みの言葉を借りて、アリスの気が惹けそうなワードを選ぶ。
「……え? 宝石?」
勇希の読み通り、アリスの視線が此方に向いた。
なにせ寝食より魔法石の研究の方が好きな位の『宝石オタク』なのだ。
「それでリース作ったら、店の飾りにぴったりだろ?」
彼女の営む魔法道具店は研究成果を基にした魔法宝石を扱うものも多い。
「なるほど、宝石に見える植物ですか……確かにお店の扉に飾るのによさそうです。似合うものを作ってみましょう。」
「あ、やる気になった。」
アリスの瞳に光が戻った事を確かめて、勇希はにかっと笑う。
「よーし、じゃあ俺は家に飾るリースを作る!」
師匠がやる気になったなら自分も全力で楽しまなくては。
早速リースの構想を練りながら師弟はアトリエの扉をくぐった。
「クリスマスリースって言ったら、緑のふさふさしたやつだろ!」
大きな作業机の上に材料を並べて、勇希はまず基本的なリースを作ることにする。
「私は宝石のような実を散りばめたいので、それが際立つように土台はシンプルに蔓をまとめましょう。」
アリスも作りたいリースのデザインを考えて、材料を手に取った。
二人共まずは蔓を丸くまとめる作業からだ。
「蔦をまとめるのも結構大変だな……、」
「う、ぐ、これワイヤーがけするのなかなか力がいりますねっ……、」
蔓をまとめるのに苦戦しているアリスに気付いて勇気が手を差し出す。
「あ、師匠、力の必要なとこは俺やるよ!」
勇希はアリスからリースを受け取ると、蔓が緩まない様にしっかりワイヤーで固定した。
「あ、ユウキくんありがとうございます。ふふ、頼りになりますね。」
普段はまだまだ少年だと思っていても、能力者で男の子なだけあってアリスよりは力も強い。
師匠に頼りにされて勇希も満更ではない様子でリースを返した。
「へへっ、はい師匠! 後は飾りだな。」
勇希も自分のリースに葉っぱをいっぱい差してふさふさの緑色にしていく。
「あ、松ぼっくりもかわいいかも!」
気に入る形の松ぼっくりを選んで、幾つかは金色のスプレーで輝きを足してみる。
アリスも、メインはヒイラギにすると決めているが土台にすこし色を入れる事にした。
「土台には、下に来る部分にだけグリーンを、上部に赤いリボンを飾りましょう。」
くるくると主張しすぎない程度に品良くリボンをまとめると、ぐっとホリデーらしい華やかさが増す。
「緑と赤があると、一気にクリスマスらしくなりますね。」
「ん、いい感じじゃないか? どんなヒイラギが似合うかな、選ぶの楽しみだ!」
アリスの言葉にそちらのリースを覗き込み頷く勇希も、自身のリースを掲げて眺めてはわくわくが溢れる様子だ。
「ふふ、ユウキくんのも完成が楽しみです!」
ふさふさの緑に松ぼっくりが覗く愛らしいリースに、どんなヒイラギが彩を添えるのか。
小さな宝石の様だと云われるその実に思いを馳せて、二人はリースを眺めた。
第2章 冒険 『果実を摘んで』
○色付くヒイラギの森
ダンジョンの中は、冬の柔らかな昼下がりの日差しに満ちていて、緑の鋸歯が茂っている。
まるで迷路の様にぎっしりと生えているクリスマスホーリー達は色取り取りの実を付けていた。
アトリエから借りた籠に、好きな色の実を摘んでいこう。
透き通る実を探して探索するのもきっと楽しい。
――さあ、貴方の望む色は何色?
街から少し離れた森の中に、そのダンジョンはあった。
石造りの通路の先から光が差して、抜ければ其処は緑茂るヒイラギの森。
「わあ、すごいです、秋沙ちゃん。きれいな光景ですね。」
「にゃっ! 本当! きらきらで、とってもきれい!」
艶のある緑の葉も、それに生る彩りの実も穏やかな冬の日差しに輝いている。
その輝きに見下・七三子(使い捨ての戦闘員・h00338)は微笑むように眼を細め、瀬堀・秋沙(都の果ての魔女っ子猫・h00416)を見遣った。
秋沙のボニンブルーの瞳には散った光がキラキラと反射する。
「それに少し寒いけど、陽射しはぽかぽか! お姉ちゃんとのお散歩日和にゃ!」
「ほんとに、空気が澄んでいて気持ちいいです。あ、でもちょっと寒いので、ちゃんと風邪ひかないようにあったかくしていきましょうね。」
「……はっ! 心はぽかぽかでも、体は冷えるもんにゃ! ポンチョで暖かくするにゃ!」
七三子の忠告に秋沙はいそいそとアウターを着込む。その様子を微笑ましく見守っていた七三子は、秋沙があったか装備になったのを確認すると実はと切り出した。
「私、せっかくなら透き通る実を探したいんですけど、いいでしょうか。」
「透き通る実にゃ? もちろんにゃ! 猫の手を無料貸し出しにゃ!」
大好きなお姉ちゃんからのお願い事、しかもこんな可愛いお願い、秋沙には聞かない理由がないので笑顔で手を差し出す。
秋沙の快諾の様子に七三子は嬉しそうにへにゃっと笑い、見付けたい色を告げた。
「できれば、濃い水色と、鮮やかな水色がグラデーションになっているやつ。……えへへ、欲張りすぎでしょうか。」
「お話を聞いてると、何だか猫の色みたいにゃ?」
ぱちりと眼を瞬く秋沙に、七三子はその瞳を瞶めて。
「ふふ、そうなんです。きっと秋沙ちゃんの瞳みたいできれいだと思うんですよねえ。」
「にゃっ!」
真っ直ぐな誉め言葉に秋沙は少し恥ずかしそうにはにかみ、微笑んだ。
「ならお姉ちゃんの為に、猫の手、張り切っちゃうにゃ!」
ポンチョの裾を揺らして、立ち並ぶヒイラギを覗き込む秋沙の隣に七三子も並ぶ。
「ヒイラギの葉っぱ、結構硬くて鋭いので怪我しない様に気を付けてくださいね。」
「お姉ちゃんもにゃ!」
自然とヒイラギの木の上の方を七三子が探し、下の方を秋沙が探す分担で森を進んでいく。
お目当てではなくても色々な実を見付けて楽しんでいた処、秋沙が声を上げた。
「あ、お姉ちゃん! 透明な実、あったにゃ!」
「ほんとですか?」
七三子が秋沙の手元を覗き込むと、青系の実が集まる中に透き通るものがある。
「しかも双子みたいに連なってるにゃ! 半分こ、しない?」
「良いですね! 此の実も私達みたいな姉妹かも知れませんね。」
笑い合いながら、摘んだ実を半分こして籠に入れた。
「あ、そうだ、秋沙ちゃん。迷路みたいになってますし、はぐれないように手をつないでいきませんか。」
気付けば随分と森の深くまで入ってしまった。七三子がそう云って空いている手を差し出すと、秋沙は以前の遠慮もぎこちなさもなく、きゅっとその手を掴む。
「ふふ、これで逸れないわね。私も、お姉ちゃんも。」
嬉しそうに、でも少し大人びた様子で心からの言葉を零す秋沙に七三子も嬉しそうに眼を細めた。
「秋沙ちゃんも探している色の実が見つかるといいですねえ。」
「あ、猫が探してるのは……朝焼けの様な、『はじまり』を感じさせる赤のグラデーションにゃ!」
大切な、姉の瞳の様な。そんな気持ちで秋沙は七三子の瞳を見上げる。
「赤い実も、双子だったら半分こしようにゃ!」
「ふふ、楽しみです!」
繋いだ手を振り振り、仲良し姉妹のヒイラギ探しはもう暫く続きそうだ。
ダンジョンの中とは思えない、高い空と柔らかな日差しにつやつやと葉を輝かせるヒイラギの森。
色取り取りの実を付けた一面の光景を見て天ヶ瀬・勇希(エレメンタルジュエル・アクセプター・h01364)は声を上げた。
「わあ、本当にいろんな色がある! このギザギザ葉っぱの実と言えば真っ赤なイメージだけど、色が変わると雰囲気違うな。」
赤だけでなく青や緑、更にはグラデーションの様に僅かずつ色味の違う実を眺めながら感心した様に呟く。
アリス・アイオライト(菫青石の魔法宝石使い・h02511)も連なる実を突いて微笑んだ。
「なるほど、確かに小さな宝石みたいです。……では早速、」
アリスはアトリエから借りた鋏を手にヒイラギの木を覗き込む。
「ルビー、サファイア、エメラルド、アメジスト……いろいろな宝石に見える実を集めて、より宝石に似た実を探してみましょう。」
赤、青、緑に紫と鮮やかに色付いた実を選んで摘んでいく。良い色があれば迷わず確保。此の迷路の様な森で、後から同じ実を探し出すのは困難だろう。
そんな師匠とは対照的に、勇希は幾つかつやつやの赤い実を摘んだ後で首を傾げていた。
「俺は赤と……赤と……うーん、あとは何色がいいだろ! 好きな色で作るなら赤一択だけど、せっかくだから違う色も使いたいよな、」
「ユウキくんは色に悩んでいるんですね。」
勇希の悩みを耳にしたアリスが隣に並ぶ。
「まずは気になる色を何色でも集めてみてはどうでしょう。収穫したものの中から、さらに使うものを厳選するんです。」
そう云いながらアリスは自身の籠を勇希に見せた。
「私も、使うかは一旦置いておいてより宝石らしい実を集めてますよ。」
勇希は師匠からのアドバイスになるほど、と思いつつその籠の中身を見て眼を細める。
「……にしても師匠のそれはとりすぎじゃないか? どんだけ飾るつもりだ……?」
「……えへへ、収穫するのが楽しすぎて、つい……。」
弟子からの指摘にアリスは少し恥ずかしそうにしつつも笑顔で誤魔化した。
「でも、そうだな。赤と同じ暖色系を集めておこう、橙や黄色、白もあるといいかも。」
何となく方向性が見えて来た勇希は再びヒイラギの木と向き合う。
「金色や銀色はないかなー?」
見付けられたら、スプレーで色付けた松ぼっくりにきっと合うだろう。そんなことを考えてわくわくと葉をかき分け探す。
「あ! ユウキくん、見てください!」
そんな中少し離れた場処
「ん、なんだ師匠? あっ! 透明な実!」
「ダイヤのようで綺麗ですね。」
今度は勇希がアリスの隣に並び、彼女が指差す辺りを見上げる。勇希が試しに手を伸ばしてみるが、背伸びしても届かない高さにあった為、代わりにアリスに摘んで貰った。
「2粒あったから、ユウキくんとひとつずつにわけましょう。」
アリスはその実を陽光に翳して、きらりと光るのをにこにこ眺めてから、ひとつを勇希に渡す。
「ふふ、たくさん探したから見つけたんですよ、こういうのもいいものでしょう?」
「む、ものは言いようだな……。」
先程よりもまた増えているアリスの籠の中身を横目に勇希は透明な実を受け取った。同じ様に陽に翳してみる。
光の向こう側でアリスが楽しそうにヒイラギの実を選んでいるのが見えて勇希は笑った。
「ま、いーや師匠が元気になったみたいだし。」
師匠に負けない様に、自分もまだまだ綺麗な実を探すかと勇希は透明な実を大切に籠に入れる。
この後の厳選作業は大変かも知れないが、きっとそれも楽しいだろう。
艶やかな緑茂るヒイラギの森は、昼下がりの柔らかな日差しを受けて静かに息づいていた。
細い枝葉の間に色取り取りの実を抱えて、陽光をきらきらと弾いている。
「わぁ、取り放題……!」
そんな一面の光景を見た饗庭・ベアトリーチェ・紫苑(|或いは仮に天國也《パラレル・パライソ》・h05190)は声を弾ませた。
「いっぱい付ければ良いというものではありませんが、いい形を厳選できますね。」
「ヒイラギの実を自分で取るって実は初めてなんですよね。」
アトリエから借りた鋏の使い心地を確かめながら志藤・遙斗(普通の警察官・h01920)も立ち並ぶヒイラギの木を眺める。
「こんなに色々な色が有ると悩みますね……、」
鮮やかな赤、落ち着いた青、優しい緑に輝く黄色。雪の様な真白に、影の様な真黒。それらも生っている場所によって微妙に色味に差があって、色相環が作れそうな程だ。それでも、一通りの色を確認した遙斗は見慣れた色の実に手を伸ばした。
「無難な所で赤にしようかな? 紫苑さんは何色にします?」
「私もスタンダードに赤と、あとは白も可愛いですから取りましょう。」
紫苑もより艶やかな実を選んで鋏を鳴らす。
「黒もいいなとは思うんですが、リースの全体色が重くなるので今回はスルーですかね。」
白いリースになら映えそうですけども、と呟きながら黒い実をつついた。
「……記念に少し持って帰っても良いでしょうか。」
今回のリースには使えなくとも、別の装飾には使えるかもしれない。
そんな悩む紫苑の様子を伺いながら、遙斗も自分用の赤色の実を幾つか籠に収穫する。
「上の方が欲しい時は言ってくださいね? 手伝いますよ?」
「……はい、その時はお願いしますね。」
遙斗の申し出に紫苑は嬉しそうに微笑んで頷いた。
そうして暫く黙々と理想的な実を探しては摘んでいた折、遙斗はきらりと反射する光に気付く。
「おや? コレは少し変わっていますね。……コレを飾ったら綺麗ですかね?」
光の先、木の上方に硝子玉の様な透明の実を見付けて摘み取った。声を聞いて寄って来た紫苑にその実を見せる。
「あ、遥斗さんのそれ綺麗ですね! 透明かぁ、キラキラ反射して個性的になるかもです。」
遙斗の差し出す実を眺めて、紫苑の瞳も輝いた。
「どこにありましたか? 私も欲し……、」
「紫苑さんもいりますか? ならもう少し探しますね。」
紫苑がきょろきょろとヒイラギの木を眺めるのと、彼女の分も探そうと木の方に視線を戻した遥斗の視線が一点に集まる。
「……うわ高いなぁ……すみません、遥斗さんお願いできますか。」
キラキラと光る実を見付けたものの、紫苑の身長では背伸びをしても届かない高さにあって。
「勿論です。……はい、どうぞ。」
遥斗は小さく微笑んで、丁寧に摘み取った硝子玉の実を紫苑に渡した。
「はい! ありがとうございます……!」
紫苑は笑顔でその実を受け取ると、早速陽の光に翳してみる。
きらきら、ちらちらと光が反射するのが美しくて、さてリースの何処に飾ろうかと思いを巡らせた。
「……あ、最終的なリースの色数もこの段階で決めておくといい感じになると思います!」
「なるほど。」
ヒイラギを見て決めようと、二人のリースはまだ装飾を固めていない。
籠と一緒にアトリエから持参した、使いそうなチャームやリボンを並べてそれぞれ想像を膨らませる。
「お互い良いものが作れると良いですね。」
「ふふ、きっと素敵なリースになりますよ。」
迷う時間すら楽しいけれど、リースの完成まで後もう少し。
第3章 ボス戦 『白月の幻主』
○月は天を渡り、雪花舞う
ヒイラギの森を抜けると、大きな|樅木《モミノキ》がそびえ立つ丘だった。
日が暮れて、東の空から大きな月が昇ってくる。
――『白月の幻主』。
|彼《彼女》に意思があるかは定かではない。唯、願いを叶えて消えていく。
此度現れたその月は誰が願ったか、満ち欠けの姿を変えながら優雅に天を渡り、西の空へと沈んでいく。
月が見守る内は昼かと紛う程の明るさだ。その内に、リースを完成させてしまおう。
沈んでいく月の零した夢映しの花弁が、樅木に散って淡く光り出す。
強い光の消えた夜空は降り注ぎそうな星空だったが、実際に振り出したのは触れれば消える程の淡い雪花。
静かな丘に残されたのは淡く光るツリーとホワイトクリスマス。
――さあ、貴方はクリスマスに何を願う?
明るい月光に見守られて、見下・七三子(使い捨ての戦闘員・h00338)と瀬堀・秋沙(都の果ての魔女っ子猫・h00416)の真ん丸リースの完成は間近。楽しさと幸せから溢れる秋沙の鼻歌がクリスマスソングを奏でて、辺りの雰囲気を華やかにしている。
二人の手には透き通る青と赤の実を分け合って作った特別なヒイラギがあった。半分こした実を器用な七三子がそれぞれ枝葉に留め直して、元から輝く青赤が連なっていたかの様に仕立てたのだ。
「秋沙ちゃんと見つけて半分こした柊の実を、リースに飾ったら、完成。」
「お姉ちゃんと半分こした柊の実を……ここにこうで、完成にゃ!」
最後の仕上げを終えて、二人は達成感と共に完成したリースを掲げた。
「お姉ちゃんと一緒に素材を集めて選んで作った、世界にたった一つのリース! 形になって、とってもうれしいにゃ!」
「えへへ、秋沙ちゃんリースの出来上がりです。」
お互いに出来上がったリースを見せ合って、笑みが溢れる。そして伺う様に七三子が秋沙に提案した。
「……ね、秋沙ちゃん、よかったら秋沙ちゃんが作ったリース、私に下さいませんか? かわりに、これ、もらっていただけると嬉しいです。」
自身のリースを口元に持っていき、少し恥ずかしそうに七三子は続ける。
「秋沙ちゃんが作ってくれたリースなら、私のお願い事、なんだか絶対叶う気がするんですよね。……あ! もちろん私のリースにも、いっぱい秋沙ちゃんへの思いが詰まってますよ? どうでしょうか。」
そう云っておずおずと自らの作った青いリボンが飾られ星と箒の揺れるリースを差し出す七三子に、秋沙は眼を丸くした後、水面に反射する光の様なキラキラの笑顔を見せた。
「にゃ? 猫のを? もちろんにゃ! 猫も、お姉ちゃんに渡すつもりで作ってたから!」
「! 秋沙ちゃんもですか……では交換、ですね。」
想いが一緒だった事に七三子は驚いた後、ふわりと笑顔を返す。
お互い完成したリースを交換して、愛おしそうにそれを眺めた。相手が自分を想って作ってくれたリースだ。
「にゃっ! 優しくて、あったかいにゃ! 願い事が叶うパワーを感じるにゃ! 後は、猫が叶えられるようにファイトにゃ!」
秋沙は七三子の作ったリースを掲げる様にして眺め、優しくそれを抱き締めた。
「それに猫、この広くてたくさんある世界の中で、お姉ちゃんに出逢えたくらいに運がいいからにゃ! 叶うにゃ!」
そう云って笑い掛けてくれる秋沙に、七三子も秋沙の作ってくれたリースを両手で抱えた。
「ふふ、私も秋沙ちゃんのリースと一緒に願いが叶えられそうです!」
七三子を模した女の子の人形に、子猫のサンタがプレゼントを持って訪れる、そんなモティーフのリース。正しく、七三子にとって秋沙は沢山の贈り物をくれたサンタさんだ。
リースを交換して暫くすると、明らかに周囲が暗くなったのに気付く。既に白月の幻主は姿を消し、辺りは星明かりだけが照らしていた。
「あ! 見て、お姉ちゃん、ツリーが光ってるにゃ!」
月が残した花弁を纏って淡く光る樅木に気付いた秋沙が声を上げる。
「本当ですね! 綺麗……あれ? 雪……?」
ふわりと舞い降りてきた白い影に七三子が手を伸ばすと、それは掌で儚く溶けた。
「ほんとにゃ……空は晴れてるのに不思議……でも綺麗にゃ、」
戯れる様にふわりと舞い降りる淡雪を追い掛ける秋沙を七三子は微笑ましく眺める。
「……あ、そうだ。えへへ。……お願い事……。」
「はっ、そうにゃ!」
七三子の呟きに秋沙も最後のイベントを思い出した。ててっと七三子の隣に戻ってくる。
「このきれいな景色を、秋沙ちゃんと一緒に見られただけで、わりと私満足ですけど。」
「一緒に景色も工作も堪能できて、猫も大満足!」
満天の星空に、大きなツリー。柔らかく踊り降る淡雪のホワイトクリスマスは中々見られない。
「でも……そうですねえ。……来年も、秋沙ちゃんと一緒にいっぱい楽しいこと、できますように! かな。」
秋沙を眺めつつ満点の笑顔を見せる七三子に、秋沙は嬉しそうに笑う。
「……ふふ。猫のお願い事。お姉ちゃんと、おんなじだったみたい!」
秋沙の手がきゅっと七三子の手を捕まえて、二人で温かさを分かち合う。
「思い出、たくさん作ろうにゃ!」
「はい!」
仲睦まじい姉妹は淡く光るツリーを共に見上げた。
クリスマスを越え新しく迎える年も、一緒に思い出を積み重ねていこう――そう、心を重ねて。