シナリオ

トロイに揺れる都市を救え

#√ウォーゾーン

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 #√ウォーゾーン

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●戦場の習い。
 √ウォーゾーン。常に機械との絶望的な生存競争を行っているこの世界において、『機械の鹵獲』というのはさして珍しい事ではない。
 機能停止したものを使う、というのならそれこそWZやベルセルクマシンはよく使われるものであるし、そう言ったものを使わないと圧倒的な勢力を誇る機械に、人類は対抗できないのだ。
 ゆえに、|そこに罠が《・・・・・》|仕掛けられる《・・・・・・》事もまた、必然であった。

●トロイの木馬にかかった都市を救え!
「緊急事態だし!」
 星読みの御伽・光華があなた達に声をかけてきた。やけに慌てている彼女は君たちに状況を説明する。
「とある√ウォーゾーンの都市が襲われてる」
 それだけならある意味日常茶飯事ではあるのだが……。
「今回は悪いよ。トロイの木馬みたいなことしてきてるし!」
 曰く、人類側が戦闘機械を鹵獲したところ、どうやらそれが|トロイの木馬《・・・・・・》だったらしい。
 つまり、鹵獲した戦闘機械を都市内に運び入れた所、それが暴走し始めたとの事だった。
「今はまだ鹵獲した機械が都市外角で暴れているだけだけど……」
 もしこの状態を放置すれば、ひいては混乱が広がり都市全体が機能不全に陥る。それどころか、最終的に『スーパーロボット』が降臨して都市そのものが陥落する恐れがあるとの事だった。
「とりあえず、あんた達にはまず暴走した戦闘機械を鎮圧して欲しいし……。その後の事は、相手にも星読みがいるからなんとも言えない。けど!最終的にトロイの木馬でしっちゃかめっちゃかになった都市にスーパーロボットが降臨するのは変わらないよ!ええと、場所は天蓋大聖堂じゃなくて……きっと市場区画」
 なのでまずは暴走する機械たちを止める必要があるとの事だ。ただ問題なのは、暴走を止めた際の敵の対応がなんとも言えないとの事だ。
 敵の大将であるスーパーロボットが能力者達の力を重く受け止めて単騎で襲来。市場区画で待ち構える事が出来るかもしれないし、もしくは数で押せばすりつぶせると判断して、あらたな戦闘機械軍を送り込んで本格的な戦闘になるかもしれない、との事だった。
「とりあえず暴走する機械だけど、いろいろと止める方法はあると思う。真正面から鎮圧することもできるだろうし、あとはそもそも|鹵獲兵器に偽装していた《・・・・・・・・・・・》んだよ。だからきっとバックドアもあると思う。そういう所から突いていく、とか。もしくは機械だからそのまんま分解しちゃう、とかかな?」
「もし追加で投入された戦闘機械群れと戦う状況になったら……特にその時は住んでる人達に気を付けてあげて。きっと相手は市民を連れ去ろうとしてくるだろうから。あと、遠距離攻撃主体のはずだよ!」
「あと……スーパーロボット。移動速度が3倍になったり、広範囲に雷撃を叩き込んでくるみたいだから、とにかく頑張って!」
 そう言って光華は君たちに祈る様に見つめた。
「もう状況は始まってるし!余談は許されない状況だから、どうかみんな。急いで都市に向かってみんなを助けてあげて……!」

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第1章 冒険 『鹵獲した機械が暴走している!』


ヨーキィ・バージニア
夢野・きらら
アーシャ・ヴァリアント

「くそ!こいつら暴走しやがった……!」
「一体どうする!?」
 都市外周の港湾区域は今現在非常に混乱状態に陥っていた。何せ都市内に入るなり鹵獲機械たちが暴走を始めたのだ。
 しかも性格の悪い事に、どうやら目指す場所は市場の方らしい。たしかに都市中枢は天蓋大聖堂の方だが、こちらの方が市民は多い。殺戮するならうってつけだ。
「おい!行かせるな!絶対に行かせるな!」
 人々が暴走を始めた機械をどうにか止めようとし四苦八苦しているところに、
「さぁ、ヨーキィちゃんの艦載機達! 暴れん坊さんをおとなしくさせるよ!」
 ヨーキィ・バージニアの声が響き渡った。ヨークタウン級航空母艦ヨークタウンの|少女人形《レプリロイド》である彼女は、かつての自身を模した戦闘服を身に纏い、高らかに宣言する。
 
 己の背部ユニットから|レギオン《小型無人兵器》を一斉に射出する。射出されたそれがまずは暴走する機械たちの外周に展開。
「さぁてまずはソロライブだ! 皆! いくよ!」
 そい言って取り出すのは|ペンライト《レギオンコントローラー》。それをぶんぶん左右に振る。
「ほら!港湾区画の皆も! |ペンライト《照明器具》持ってるでしょ!?振って振って!」
「あ……ああ」
 いきなり現れた少女人形の言葉に、皆が圧倒されながら各々照明器具を振り始める。
 するとそれは即席のライブ会場のようになって、
「ありがとう!|これで被害箇所の外周が確定したね!《・・・・・・・・・・・・・・・・・》いっくよー!」
 言葉と共にレギオンが光の帯に沿うように再度展開。そして爆弾などを投下して、ドンドン機械たちを沈黙させていく。だがしかし、それでも数は多い。
「でも大丈夫!予想済みだよ!」
 そう言ってヨーキィが見るのは、レギオンのうち戦闘に参加しなかった一機。|電子専用機《・・・・・》だ。

 それが返して来た信号を確認して、

「きららちゃん!アーシャちゃん!場所わかったよ!」
 と声をかけた。

「ありがとう!それじゃあ、きららちゃん!行くわよ!」
「ああ。頼むよ。アーシャさん」

 そう言ったやり取りの後、|ヨーキィの《・・・・・》|艦載機に《・・・・》|背中を支えられて《・・・・・・・・》|遥か上空に滞空していた《・・・・・・・・・・》アーシャ・ヴァリアントが、自身がお姫様抱っこで抱える夢野・きららに声をかけた。

「それじゃあスカイダイビング、楽しもうかしら!!ヨーキィちゃん、やって!」
「リフト、オフ!」
 その言葉を受けて、ヨーキィがアーシャの懸架を外す。すると当然物理法則に従って一気にスピードをのせて、アーシャが落下し始めた。
 ヨーキィが先陣を切ってとある対象を索敵し、その場所が判明したらアーシャときららで空から襲撃をかける作戦である。

 すさまじい風を受けてきららの可愛らしい白いひらひらの服がたなびく中、きららがぼそりと一言。
「これ、大丈夫なんだろうね?」
「まかせなさいっ……て!」
 言葉と共に、ドラゴンプロトコルの少女の羽が大きくばさりと展開した。一気に空気を受けて減速。
「くっ!」
「大丈夫かい?」
「大丈夫よちょっと重いの抱きしめてるだけだから」
「心外だね。ぼくはこれでも本三冊分くらいの重さしかないと自認しているのだが」
「自認でしょそれ!?」
 と漫才みたいなやり取りを経て二人が下を見据える。ヨーキィのレギオンも攻撃しているが、それでもアーシャたちを新たな脅威とみなしたらしい。対空砲撃が襲い掛かってくる。
 せまりくるそれを器用に羽を使って避けていったアーシャだが、
「面倒ねこれ」
「任せてくれたまえ。目を閉じて」
「え」
 その言葉同時、きららが手を前に出した。

 |光あれ《リャクシテマジュツ》が発動した。閃光が閃く。
「ああもういきなりね!」
「ちょっとしたサプライズってやつじゃないか」
 そう言いながら強烈な光で光学センサーが一時的に無力化された機械がアーシャたちの姿を見失っている間に、アーシャが地面に到達。優しくきららを降ろして、
「ここからはアタシの番よ!」
 宣言通りにアーシャが暴れ始めた。まずは自分の尻尾を使って周囲一帯を薙ぎ払う。
 それによって開いた空間に体を滑り込ませ、|竜斬爪《ドラゴニック・クロー》を振るう。
 
 ただの手甲に備わった爪というなかれ。かつての竜であった存在の持つそれは、この工学の発達したウォーゾーンにおいてすら比肩する者のない硬度と鋭さを持つ。ゆえにひとたび爪を振るえば、機械はバターのように切り裂かれていった。
「本当にみみっちぃ作戦ね!さっさと親玉出てこないかしら!」
 そう言いながら|竜斬爪連撃拳《リュウソウレンゲキケン》で敵をなぎ倒していくアーシャの後ろを、きららはとことことついていく。
「ところでアーシャ君。そろそろヨーキィ君が見つけた|対象《・・》がいるはずなのだが……」
「分かってるわよ。ほら、こいつでしょ」

 その言葉と共に、アーシャがとある戦闘機械を引っ掴んできららの前に突き出してくる。ご丁寧に武装された箇所は全部爪で剥がされていた。
「ありがたい。では……|頂きます《・・・・》」
 |プログラムとは言語で構成されている《・・・・・・・・・・・・・・・・・》。
 ならば、それは一種の書物であり、|書物であるならきららは食べることが出来た《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》。
 ゆえに今、この区画の暴走を制御していた指示個体のプログラムを丸々食べたという事は……

「どうだった?」
 と聞くアーシャに対して、苦虫をかみつぶしたような顔できららはこたえた。
「サイケデリックな味だ」
 その言葉と共に、周囲の機械が一斉に停止する。
「で、スーパーロボットの情報は?」
「そこまで|食べようとした《・・・・・・・》ら、相手から遮断された。まぁ……最終的な目的地はやはり市場の方みたいだし、相手には脅威をアピールできたんじゃないかな?」
 そう言いながら、何か途方もなく苦いものを食べたと言わんばかりに、きららは舌を突き出すのだった。

神之門・蓮人
リズ・ダブルエックス
深雪・モルゲンシュテルン

「……」
 暴走する機械群を前に、リズ・ダブルエックスは僅かに動きを止めた。
「どうかしましたか?」
 バーチャルデバイスを展開し始めた深雪・モルゲンシュテルンが静かに彼女に問いかける。

「いえ。ちょっと感傷的になってしまったのです。|ベルセルクマシン《・・・・・・・・》と、この鹵獲され暴走している機械群と、一体何の差があるのか、と」
「そんなもの、飼い主に手を噛むかどうかでしょう」
 とバッサリ深雪は切り捨てた。
「ええと……」
「単純な話やお嬢ちゃん。あいつらは野良や。しかもエライ行儀の悪い野良。それに対して、ちゃんとお行儀よく飼い主の話を聞ける飼い犬もおるって話や」
 と神之門・蓮人が会話に加わる。
「それだと……どうにも飼い犬の方が立場が下のような……」
 とどこか困惑したようにリズは返すが、
「そんな事ありません。古来より人類は良き隣人として狼を迎え入れ、犬に変えて家族とし、共に生きてきました。互いに持ちつ持たれつ。信頼関係を得ようとしたところ」
 深雪は脳内に仮装デバイスを展開。網膜に照準された暴走機械を見つめる。ハッキングの準備だ。

「彼らは手ひどい裏切りを行いました。とてもではありませんが、許せるものではありません」
「そういうこっちゃな。まぁお嬢ちゃん、そないに悩まんでもええって。良い感じに戦って活躍しておまんま頂く。それでええやろ」
 その『おまんま』という言葉に、リズはハッとした顔をした。
「そう……ですね。たしかに悩むのは後でできます。そして何より……」
 ぐっと自身の手に持ったLXMをぎゅっと握りしめた。
「まだまだ美味しいものが沢山あるのです……!」
 そう言って、LXMを電子戦モードで移行する。

 その様子をちらりと見て、
「リズさん。それは……」
「これは電子専用の砲撃モードなのです!着弾した相手に物理的ではなく電子的な衝撃を与え、そのまま情報侵蝕で相手の回路を焼き切るモードになってます」
「ふむ……でしたらリズさん。端子ありますか?」
「勿論です!」
 そう言ってLXMに備わったデータリンク用の端子をリズが見せてきた。
「おお。さすが同じ世界。規格は一緒ですね。でしたら」
 と深雪が蓮人とリズを静かに見据える。
「蓮人さん。護衛お願いします。リズさん。共同作戦と行きましょう」

 迷っている暇はない。深雪の提案はすぐさま受け入れられた。
「だ、大丈夫なんだよな!?」
 と暴走する機械群の区画の避難を指示していた責任者が3人へと心配そうに声をかけた。いずれにせよ避難をしっかり完了させている辺り、この責任者も有能である。だがしかし、迫りくる暴走機械を止めなくては、その有能さも無駄になる。
 3人と彼の背後には、避難所があるからだ。

「まぁ安心するといいですよ、おっちゃん」
 と蓮人がニコリと笑いかける。すると責任者は年甲斐もなく顔を赤らめた。
「あ……アンタほどの人がそう言うなら」
「なんとまぁ」
「美しさは罪、という事でしょうか」
 どこか呆れた様子でこちらを見て、特に蓮人の容姿になんとも思ってなさそうな二人に、蓮人は肩を落とした。
「ボクもちょっとは見た目に自信あるねんけどな……」
「?」
「?」
 リズも深雪も、それぞれ出自が出自だったので、いまいち美醜の判断基準というモノがよくわかってなかったのであった。

 ともかく、
「それじゃあまずは僕からだね。いくでぇ!」
 言葉と共に、その手から雷鳴が迸った。
「まぁ勿論機械やし、感電対策位してるやろうけど……」
「これは辛いんとちゃう!?」
 雷紅拳。その感電対策版である。比較的弱い電流を一瞬で何度も小刻みに流す。大電流を防御できる絶縁体も、一定の電流を短時間で何度も喰らったら当然劣化して意味を無くすのだ。
 実際、3人に迫りくる戦闘機械群。その先鋒たちが一斉に機能を停止してぶっ倒れた。

「リズ君!」
「任せてください!」
 そうやって先鋒を戦闘不能にさせた蓮人が鋭く叫ぶ。己の役割を果たした仲間に応えるように、リズが|感電した戦闘機械へと照準した《・・・・・・・・・・・・・・・・》。

(どれを狙えば……!)
 事態は急を要するのだ。どの感電した機体が一番ファイアウォールが消耗しているか狙わなければならない。


―――リズさん―――
 ジャックにて電脳をリンクした深雪が声をかける。
―――とりあえず特殊弾を打ち込んでください。|私が浸透して《・・・・・》探ります―――
―――了解したであります!―――

 言葉と共に、リズが特殊弾頭をとある戦闘機械に打ち込んだ。瞬間、隣でリズのLXMと物理接続した深雪が目を見開く。


―――さて、どこでしょうか―――

 電脳世界に仮装体を構築した深雪が、鹵獲し暴走した機械の電脳内を探る。

―――当然、鹵獲機体はその段階で|洗われる《・・・・》筈。それをくぐり抜けるほどの偽装ということは……あった―――

 たかだか既製品の電脳と、生体脳によるクラッキングではあまりにも性能に差がありすぎる。
 すぐさまバックドアを見つけた深雪がそこに入って行こうとして、瞬時、視界が赤く染まった。

―――攻勢防壁……!―――
 破る分には問題ない。ただし今は時間がない。さてどうしょうかとピコ秒迷っていた深雪に、

―――深雪さん!|視界を貸してください《・・・・・・・・・》!―――

 リズの声がした。

「ちょっと!ちょっと大丈夫なん!?僕も結構キツいんやけど!?」
 行動不能になった暴走機械群を乗り越えてさらに迫ってくる暴走機械を前に、蓮人が焦った声を上げた。リズに深雪の二人が微動だにしなくなって、3分ほど経過している。
 たったそれだけの時間だが、状況が悪くなるには十分だ。
 どんどん迫りくる機械群。もうこうなったら張り倒してでも二人を目覚めさせたる……!と覚悟を決めた蓮人の前で、

―――|ユーハブ《メインアカウント返上》―――
 深雪がぼそりと呟いた。

―――|アイハブ《メインアカウント受領》―――
 それに対して、リズが呟く。

「おや……?」
 その後、一斉に暴走機械群が停止した。
「ふぅ……どうにかなりましたですね!!」
 とリズが楽しそうに宣言し、
「ええ。ただ、敵の主力の情報は抜く前に逃げられましたが」
 と深雪も頷いた。リズが攻勢防壁をいなし、その間に深雪が機械の暴走を止めたのだ。
「な……なんやよかったぁ。ところでこの止まってるやつらって、使えたりするんか?」
 と蓮人が安心したように言うと、
「当然です。全機フォーマットをかけましたからもう安全です。資源の乏しいこの世界ですから、無駄に出来るものなどありませんからね」
 と深雪が心なし胸を張るのだった。

丹野・脩里
戦術具・名無
神元・みちる

―――はい。みちる。突っ込まないよう。突っ込み過ぎると囲まれます―――
「とりあえず止まればいいってことで、おっけーでしょ!?」
―――ああもう全く……!―――
 迫りくる暴走機械を見て、|自分達しか聞こえない言葉《念話》で冷静な助言の言葉をかける|己の日本刀《戦術具・名無》 に神元・みちるはにこやかに返答した。
 みちるは難しい事などよくわからない。日がな鍛錬をして暮らしていた。だから暴力沙汰には人一倍敏感である。
 だからこそ今回も、
「叩かれたらあたしも痛いぞ!」
 
 そう言いながら、暴走する機械群へと刃を向ける。
―――それはそうでしょうが……―――
 と困惑する名無しを前に、にっかりとみちるは笑った。
「ってことは、難しい事なんか考える間に、叩けば解決すのは機械も多分そう!」
―――ああ……!―――
 根拠零の脳筋解決法に、名無は存在しな手で存在しない目を覆った。
(機械との交戦、一筋縄ではいかない経験は、きっと力任せで勢いで進めるみちるには、丁度いいかとも思ったのですが……)
 加えて、罠を仕掛けてくる程の相手だ。警戒しすぎるに越したことはない。が、
「とりあえずさっさとやっちゃおう!」
 と楽しくあかるく、みちるが機械の群れへと突貫していった。

―――いいですかみちる。しらみつぶしでは、いたずらに体力を消耗します―――
「そう?あたしは気にしてないよ!」
―――いやあなたの感情の話ではなく……!いえ。そういう事にしておきましょう。でしたらみちる。せめて峰を使ってください。そちらの方が叩けますよ―――
「わーい!わかった!」
 と楽しそうにみちるが返す。そしてそのまま、暴走する機械たちを叩いていった。もしこれが刃であったら、たしかにみちるなら斬鉄もできたかもしれないが、その刃が装甲に挟み込まれて隙が出来たかもしれない。
 何より、

―――万が一でも、折れる可能性もありますからね―――
 そうやってドッカンドッカン吹き飛ばしていく。豪快な彼女の周りには、一部の装甲を破壊されてじたばたとうごめく機械が広がっていた。
「どう?そろそろ終わりそうかな?」
 とみちるが興奮のあまり、大きな声で念話だけでなく実際の声も発して名無へと問いかける。
 すると、

「これはなかなか派手にやっておりますね……!」
 と何か大きな人型機械がやってきた。
「……!」
 思わず、襲い掛かってきた|敵《・》かとみちるの体が反応する。くるりと右の足だけを地面に残し、遠心力で名無をバット代わりにジャストミートしようとしたその瞬間、

―――みちる、ストップ!―――
「わぁあああ!? いきない襲われるのはアテクシも想定してないんですが!?」
 と機械から聞こえた女の子の言葉と、名無の言葉にみちるは刃を止めた。
「ええと!?」
 機械から女の子の声?とみちるがきょとんとした顔をしていると、
「アテクシ! アテクシも同じ! 同じですから!」
―――つまり同じ√能力者という事ですね―――
 という名無の言葉に、みちるはポンと手を叩いた。

「ああ、そういう事! アタシは神元・みちる。よろしくだぞ!」
 その言葉と共に、今まさにみちるに襲い掛からんとしていた暴走機械が、後ろ手に振るった刃の峰で吹っ飛ばされていった。
「アテクシは……丹野・脩里っす」
「わかった。脩里さんだなっ!さっきは叩きそうになってごめんね!」
 そう言ってニカリと笑うみちるの笑顔に、なんというか脩里の怒る気を無くすのだった。

「とにかく、たしかにぶっ叩いて戦闘不能にするのはある意味正しいですけど……それだけじゃか、片手落ちです」
 そう言いながら、脩里は自身の登場する工兵仕様のWZの持つ大型レンチをジャキン!と構えた。
「じゃあどうすればいいんだ?」
「とりあえず、みちるさんが強いのは分ったので、そのままぶっ叩いていってください。アテクシが、その後ろをついていくので」
 ここは、|生前の知識《・・・・・》の見せ所だ。
「んー、つまり? まぁ、いいや。それじゃあよろしくね!」
 
 と難しいことを考えようとして速攻で放棄したみちるが、楽しそうに暴走機械群をどかんどかんとぶったおしていく。その後ろで、
(たしかに完全に中枢をやられて戦闘不能になっている個体もいるけど……そればっかりじゃない……)
 今も動かないのは、ただ単にぶっ叩かれてバランサーがイカれて、その修復が間に合っていないだけの個体もある。
 つまり、
(それを、僕がどうにかする……!)

 ギャギィ!金属と金属が触れ合う不快な音をさせて、暴走機械にレンチを噛ませる。そのまま、
 
―――ゴギン!―――
 躊躇なく脩里は、脩里の乗るWZは、暴走機械たちを『解体』していった。
(こうすればそもそも、動くこともない……! それに後々の資源回収が、楽になりますからね)
 切り込み隊長として突貫してゆく、みちる。その後ろを脩里がついていき、二人はどんどん暴走機械を無力化していくのだった。

白皇・奏
イリス・フォルトゥーナ
久瀬・八雲

「聖なるかな聖なるかな聖なるかな」
 戦場に、少女の声が響き渡る。
「血はなく、肉はなく、鋼あり」
「電子と鋼の聖霊の御名において、主の祝福ぞあらん」
 迫りくる暴走機械へ向けて、その少女。イリス・フォルトゥーナは悲しそうな目を向けた。
 この世界に存在する完全機械などという偽りを信奉する機械たちもまた、イリスの信ずる教えが導くべき存在だ。
 加えて、此度のかれらは偽りに濡れている。
「汝ら欺瞞の罪有りき者達もまた、楽園に見え、その罪が雪がれますよう」
 祈るように合わせた手を、機械達に受け入れるように広げる。するとイリスの体に、彼女の信奉する機械天使が|憑装《オーバレイ》され……

「|憑装:楽園の聖域《オーバーレイ・サンクチュアリ》」
 言葉と共に、その身に天使の羽が生え、巨大な聖祓鎌が現れた。
「さぁ……貴方達も、楽園へ、至れますよう!」
 その言葉と共に、鎌を振るえばその軌道に沿って極光が煌めく。光り輝くそれが、暴走機械達を吹き飛ばして、

「くっ……まだまだ私は未熟という事ですか……!」
 それでもなお、暴走機械たちの勢いは止まらない。迫りくるそれにもう一度鎌の一振りを浴びせかけたとしても焼け石に水だ。未熟な使徒はそれでも、自分も傷つくことを覚悟で救済の一振りを叩き込もうとして、
「久瀬・八雲、参ります!」
 その言葉と共に、焔で形作られた兵の群れが、暴走機械を押しとどめた。

「八雲さん……!」
「すいません!ちょっと【義憤の炎】を出すのに手間取りました」
 とイリスを守る様に刀を構えて立った八雲は、イリスへと振りかえりニコリと笑った。
「とりあえずなるはやで止めないといけないみたいですからね。白皇さんも|目当てのもの《・・・・・・》を手に入れてきたので、ささっと終わらせてちゃいましょう!」
「分かりました」
「それで……」
 と兵の群れで暴走機械を押しとどめている八雲は、少し気恥ずかしそうにポリポリと頬を掻いた。
「指揮しているやつって、分かりますか?わたしもなにぶんこっちの生まれじゃないから、よくわからなくて……」
「任せてください!とりあえずまずは、もう一度鎌をふるわせていただければ……」
「わかりました!それじゃあ一旦、いきますよ!」

 その言葉の後に、八雲はパチン!と指を鳴らした。そして、

「爆破―――!」
 言葉と共に、兵の群れが爆炎を噴き出し爆発した。いきなり押しとどめられていた前衛が吹き飛んで、暴走機械達も一旦判断を保留する。その隙に、イリスが爆炎に紛れて、白翼を使って空に飛び上がる。
 そして、
「導かれて、ください!」
 言葉と共に、今度は空から暴走機械の全域へと向けて、聖抜の刃を叩き込む。すると、ほとんどの暴走機械はその一撃で行動不能になっているのに、未だに半壊しながら行動できる機械が存在した。すなわちそれが、上位個体だ。

「八雲さん、見つけました!」
 と翼を大きくはためかせ、イリスが八雲に声をかけると、
「りょーかいです!それじゃあ白皇さん、行きますよ!」
「ははは。お手柔らかに」
 まるで女性と見まがう少年、白皇・奏が、八雲にお姫様抱っこされていた。

「よっっと!」
 と軽い掛け声で、八雲が奏をお姫様だっこしたまま、兵の群れによって爆破された暴走機械の残骸へと走ってゆく。そのまま、機械の残骸を足場に宙へ飛び上がると、暴走機械達が空に飛んだ八雲を追って、対空射撃を行ってくる。それに対して八雲は本能のままに空中ダッシュ。
「おお……出来るもんですね」
「凄く不安になる言動ですね」
 八雲本人は緋焔の持つ記憶から『出来る』という確信があったからやったわけだが、それにしたって本当に出来るとなると感慨も一押しである。ああ、空中って空気の壁を蹴って進めるんだ……

 とはいえ、そこまで融通が効くわけでもない。何度か軌道を変えると、鎌の一撃を振るった後は混乱から立ち直った機械群に八雲同様対空砲火を浴びていたイリスの元へと八雲がやってくる。
 そしてそのまま、
「はいどうぞ!」
 と奏をイリスにバトンタッチ。白翼で実際に飛んでる彼女の方が、いろいろと融通が効くものだ。
「ありがとうございます」
「よろしくお願いします」
「はい!任せてください!必ず送り届けますから!」

 奏をイリスに渡したことで仕事は終わったと言わんばかりに八雲はそのまま重力に従い自由落下。迫りくる対空砲火を器用に緋焔で防いで地面に降り立ったら、そこで周囲の暴走機械相手に大立ち回りをしている。
 それに対してイリスは奏を抱きかかえたまま、先ほど見つけた半壊した指揮個体の方へと接近する。
 対空砲火は憑装によるオーラ防御で弾いてついに、
「奏さん、つきましたよ!」
「ああ。ありがとうございます」
 と奏を上位個体の所で降ろした。
「ええと……たしか。あったあった。これだ」
 そう言って、都市の人間から教わったコネクタを見つけ、そこに奏は情報端末を差し込んだ。

 彼が行ったのは、|都市の人間の説得《・・・・・・・・》だ。美貌の呪いはたしかに基本的に他人を破滅させるが、今この一瞬だけ付き合うなら、その美貌によって|限界以上《・・・・》の力を引き出させる事も出来る。
 それによって作り出させたのは、『対暴走用のプログラム』。暴走機械群は基本的に上位の指揮個体によって暴走させられているらしかったので、その指揮個体を停止させるプログラムを|無理やり作らせた《・・・・・・・・》。その結果が、これである。
 コネクタからプログラムを入力された指揮個体が停止すると、周囲の機械もまた一斉に停止した。こうして、この区画の暴走機械達は、鎮圧される事になったのである。

虚峰・サリィ
ヘカテイア・オリュンポス

 暴走する機械達を前にして、空間が引き裂かれる。突然の事象に、暴走する機械達はただ、慄くばかりだ。
 その慄きを受けながら、空間のひずみに巨神の鉄の手のひらがかかる。そのまま、右手に誰かをのせて、ヌっとそれが現れた。
「トロイの木馬……でしたか。彼のヘクトールが健在なら、そのような作戦に掛かる事はなかったでしょうね」
「あら、その木馬の中にはメネラオスだの、オデュセイアだのがいたんだったかしら?だったら恋文の一つくらいあの中にあっても面白いわねぇ」
「そんなの、無いともいますが……」
「あら。『ないかもしれない』って事はあるかもしれないのよ?そういうのがロマンチックというものだわ!……これ、次の曲のネタにしようかしらぁ」
 かつての黒き機神の姿を顕わしたヘカテイア・オリュンポスの右手に立った虚峰・サリィが、ニコニコと機神へと語りかける。

 目の前には、暴走する機械達。それらに向かって、にやりと笑いながらサリィは己の|魔導弦《ホワイトスター・トップテン》をGAAAAA!!!と鳴らした。
「こんな場所で|乙女達への応援歌《ヒットナンバー》を鳴らすのも、ちょっとどうかと思ったけれど、聞いてくれる乙女がいるなら気合も入るってもんだわぁ!」
 その言葉に、機神となったヘカテイアは首を傾げた。
「乙女……既に住民の方の避難は済んでいますが……」
「何言ってるのよ! |乙女はあなたがいるじゃない《・・・・・・・・・・・・・》!」
「乙女……|私《機神》がですか?」
 普段はたしか現在、黒髪の美少女の姿であるが、本来はこちらの姿であるへカテイアは首を傾げた。

「そうそう乙女よ!あなたは乙女!そして私は、乙女の為ならテンションが上がっちゃうの!さぁヘカテイア!|オーディエンス《暴走機械達》を沸かせて頂戴!」
 そう言いながら、サリィがぱちんと指を鳴らした、そして|急雲・恋はサンダークラウド《フォーリンサンダークラウド》を奏で始めた。
「恋の乱雲、愛の積雲、落ちる先は貴方の胸元♪」
 サリィの奏でる曲と共に歌が始まれば、周囲に落雷が降り注ぐ。それらを脅威と捉えたのか、暴走機械達がヘカテイアへと迫りくる。
「ああもう!めちゃくちゃですが……好都合ですね……!」

 プロジェクトカリギュラ。機神の体が真紅に輝きその力を倍以上にも引き上げる。右手に乗せたサリィには一切の衝撃を与えず、器用に左手と足で機神が暴走機械達を殴り、蹴り壊す。サリィもヘカテイアも残念ながら電子戦は得意ではなかった。その代わりに物理的に暴走機械達を黙らせてゆく。
「ここですね……!」
 暴走機械達を破壊しながらも、ヘカイテイアは着実に彼らの急所を把握し、狙い打っていた。すなわち、背部の制御ユニット。ココを破壊すれば機械達は停止する。

「それにしても数が多い……!」
 ヘカテイアが的確に機械を停止させてゆくのを見て、暴走機械達もヘカテイアが自分たちの弱点を見つけたのを理解したのだろう。それを阻止するかのように、ドンドンと群がってくる。そうなると、不利なのはヘカテイアの方だ。
 何せプロジェクトカリギュラは、自身の戦闘能力を高める代わりに、その防御力を下げてしまう。
 ゆえに今はこちらが攻勢にでて暴れまわっているが、数の暴力におして暴走機械達が四方八方から襲いくれば、ダメージが蓄積して機能停止する恐れもある。
 だがしかし、
「その身を貫く電撃情緒はきっと恋の始まりだから♪」
 乙女が傷つくのを、サリィは決して許さない。歌声によって四方八方からヘカテイアめがけて集まった暴走機械は、むしろ飛んで火にいる夏の虫のような状態である。
 彼女の放った雷撃が、ヘカテイアに群がった|悪い虫たち《暴走機械》を一掃する。
「……!助かりました!サティさん!」
「お安い御用よ!二人で一気に片づけましょう!」
 そうして二人は、自分たちに群がっていた暴走機械を一気に片づけたのだった。

第2章 日常 『|天蓋大聖堂《カテドラル》から市場区画へ』


 どうやら、敵将はあなた達の脅威を確かなものと捉えたらしい。雑魚は必要ない。
 スーパーロボットたる自身の力で君達を倒す。
 出現予測地点は市場区画だ。君達はその場で市民と交流するもよし、なんらかの備えをするもよし。だが、気を付けて。大いなる力の降臨は、すぐそこまで迫っているのだから……
虚峰・サリィ
夢野・きらら

「ハロー、市場のボーイズ&ガールズ。元気かしらぁ?」
 ギャイ~ン!!!と今日も調子よく虚峰・サリィの|エレキギター《ホワイトスター・トップテン》は鳴り響く。
 その音の大きさに、一体なんだと市場にいた人々はそちらの方へと振り向いた。
 聴衆に一体これはどういう事だとサリィは言わない。なんたってこれはゲリラライブ。ぶつけるのなら、言葉ではなく、|歌《コトバ》で伝えるのが流儀である。

―――貴方に言葉を叩き付けるわ。素敵な所を44個♪―――

―――溢れる想いは44倍♪―――

―――そう、いつだって乙女は一直線♪―――

 そうやってサリィが音を奏でれば、皆が皆、彼女の光り輝くステージに、目をくぎ付けにせざるを得ない。 
 |吶喊・一直線乙女44マグナム《 ヴァージンマグナムフォーティフォー》を歌い終われば、フロアのテンションは最高潮。
 やりきったとばかりにサリィが拳を突き上げれば、皆が拍手喝采を送ってくれた。それを見て、サリィもまた確信を得たと言わんばかりに、
「センキュー、ボーイズ&ガールズ。これからここはちょーっとデンジャラスになるわぁ。隣の区画まで移動してくれるぅ?」

 と声をかける。すると、皆が皆、サリィの言葉に従って移動を始める。が、
(あちゃー。ちょっとこれは、ミスったかしら?)
 サリィの言葉に人を|動かす《・・・》力はあっても、その性質上、人を|整列《・・》させる力はあまりない。
 ゆえにサリィの言葉に合わせて皆が移動し始めたが、その流れはあまりにも無秩序だ。このままではそれで被害が出かねない。

 だからこそ、


「それはこちらに任せてもらおうか」
 夢野・きららの|WZ小隊《ウォーゾーン・スクワッド》の出番だ。
「わぉ!」
 現れたWZ達に、驚いたのは何も市民だけではない。リリィもまた驚きの声を上げる。
 住民たちは突如現れたWZに驚きの声を上げつつも、やはりなじみがあるからだろう。
 特に不満も持たずに誘導されてゆく。それを主導するWZの主、きららは、サリィのステージで彼女の隣に並んで、声をかけた。
「あなたの人を集める力……音楽というのも素晴らしいものだね。ぼくの専門は文字のほうだけれど」
「あははは!あなたもやってみる?音楽。乙女はいつだって歓迎よ!」
「そうだね。世界中の紙を、文字を、本を味わいつくしたら、それもいいかもしれないね」
 そう言いながら、きららが用意したWZが、適切に住民たちを誘導してゆく。

「『お前たちを信じきれない。自分は死んでもここに残る』なんて言われたら、苦労が水の泡だから持ってきたけれど、問題なかったらしいね」
 決戦型WZ『マスコバイト』を中心としたWZ小隊の威容は、たしかに市民を安心させるのにはうってつけだ。
「あら。そんな事ないわよ?現にこうして役に立ってるじゃない。わたしだけじゃ避難する人々をこんなに安全に誘導できなかったわよ。男の子を射止めるには事前の準備だってとても大切。その点アンタは、ちゃんと準備できる乙女なのね!」
「それはどうも。それにしても……」
 ときららは空を見つめた。

「戦闘機械群がお払い箱にしたうえで、市場区画を非戦闘員がいる場所を狙ってくるのは、どういった理由だろうね?」
 民間人を庇いつつ戦う相手の方が御しやすいと思ったからか、それとも星読みでいい結果が出たからか。
「ポジティブに考えましょうポジティブに!」
 と、サリィがきららに声をかける。
「それもそうだね。ところで、アンコールは受け付けているのかい?」
「それは全部終わった後に!」

アーシャ・ヴァリアント
白皇・奏

「ん-。結構おいしいわね。ここのものも」 
 と言いながら、今しがた手に入れた焼き鳥の串を頬張って、アーシャ・ヴァリアントは満足そうにつぶやいた。
「正直アタシだけじゃこんなにいい店探せなかったわ。アンタ様様ね」
「ええ。そう言って頂けるとありがたいです」
 そんなアーシャの言葉に、隣を歩く白皇・奏は微笑んだ。ストロベリーブロンドの長い髪に、水色のロリータドレス。見た目通りのお嬢様と言った雰囲気で、彼が街行く人に声をかける。

「すいません」
「ああ……なんだろうか」
 彼に見つめられたその初老の男性は、トロンと目を蕩かせた。奏の魔性にやられたのだ。
「……さっきから見てるけど、本当に魔性ねぇ」
 アーシャがそうぼやくと、奏が秘密ですよ、と言わんばかりに人差し指を立てる。
 そして、
「この市場で、あなたの知っている美味しい店を教えてもらっていいですか?」
「ああ……それは~~~だ」
 と初老の男性がぼぉっとしながら教えてくれる。それを聞いて満足そうに頷いた奏が、
「ついでにもう一つ。今からここは戦場になります。すぐに非難しなければなりません。なので、あなたは近しい人を説得して、すぐに避難してもらっていいですか?」
「ああ……わかった……」
 そう言って頷いた男性が、すぐに走っていくのを見送った奏が、
「これでよし」
 と頷く。
「よし……なのかしら?」
 いや、よしか、なんてアーシャも思いつつ。じっと奏を見つめる。

(魔性の、宝石のような子)
 自分はドラゴンプロコトル。竜の成れ果てだ。そして竜は本来、財宝を自分の巣に集めてしまいこんでおくらしい。なら、もしかすると、記憶を失う前の自分もこういった宝石を集めていたのだろうか。
「……ま!どうでもいい話ね!」
 今は今。昔は昔。気を取り直して、アーシャは前を向いた。二人はこのようにして周囲を回っている。奏が住民に声をかけ、美味しいものを聞き出し、ついでに避難勧告を行う。そして、アーシャがそのご相伴に預かるという形だ。こうでもしないと、この物資に乏しい√ウォーゾーン。美味しいものにありつくのは難しかったかもしれない。

「で、次はどんな美味しいものを聞いたの?」
「あっちにバナナジュースの美味しい店があるそうですよ」
「……あのおっさん。思ったより可愛いものを出して来たわね」
「人は見た目によらない、という事かもしれません」
「ま、じゃあ次はそっちね!」
「ええ。そっちに行きましょう。そしてアーシャさん……」
「分かってるわよ。敵が来てからがアタシの本番。安心しなさい。ぶっとばしてやるから!」
 ニカリとアーシャは、微笑みを浮かべるのだった。

戦術具・名無
神元・みちる

「休憩ー」
―――第一波は退ける事ができましたね。みちる、お疲れさまでした―――
 場所は次なる戦場。市場区画。そこを、神元・みちるは己の愛刀である戦術具・名無と共に歩いていた。
「んー。食べられそうなものあるのか?」
 先ほど動いたからだろうか、ぐぅぅ……となるお腹を押さえ、みちるは周囲を見渡した。先ほどから他の能力者達も避難のために動いているからだろうか、人通りは全くない。
「……ないかー?」
 とみちるとしてはしょんぼりだ。それに対して名無の方は、

―――みちる。聞いてますか、みちる。次の相手はどうやら大将が出陣のようです。ですから、時間がる今のうちに出来る事を済ませましょう―――
「できる事って何があるの?とりあえず来たらズバッと斬れば解決だぞ!それに大きい相手だから細かい事かんがえてもしょうがないんじゃー?」
―――はぁ……まったく―――
 あまりに直裁な物言いに名無も鋼の体を持ちながら、念話でため息をつくという器用な事をしていた。

「あ……こっちに裏道がある。いいね!がっこの帰りにする寄り道みたいでたのしいぞ!」
 とみちるの方は人の気配がなくなった街中を楽しそうに散策するばかりだ。
―――……仕方ないですね。いいですかみちる。裏路地探索の中で、効果的な道具を探してみてください―――
「だから道具なんて考えたって仕方ないって。大きい相手にやるなら近寄って斬る!っていうか相手が大きいから斬り放題だぞ!」

―――しょうがないですね。分かりました。ではみちる、その|寄り道《・・・》をしっかり楽しんでください―――
 そう言ってくる名無に、みちるはにっこりと笑った。
「え!?いいの!?」
―――ええ。その代わり、その寄り道でこの市場一帯をしっかり把握……は難しいでしょうから、とにかく。次の戦いでは大きさに差があるわけですから、こういった裏路地などを活用する機会は多くなるでしょう。ですからしっかりと有利を獲れる場所……|みちるが《・・・・》|楽しいと《・・・・》|思える場所《・・・・・》を探しておくように。
「わかったぞ!」

――――ちなみにカバンの中に携帯食が入ってたはずですよ―――
「え!? ほんと!? ありがとう!!」
 そう言ってみちるはいそいそと携帯食を取り出して食べながら、裏路地を冒険するのだった。

丹野・脩里
リズ・ダブルエックス
深雪・モルゲンシュテルン

「さて……そろそろ完成しますよ」
「いやぁ……壮観でありますな」
 戦闘後、深雪・モルゲンシュテルンがリズ・ダブルエックスに提案したのは、防御陣地の作成だった。 
 当然、完ぺきなものが出来上がるわけではない。あくまで仮設だ。幸いにして資材はたくさん存在する。機械の暴走で破壊された都市や、暴走機械の残骸たち。それらを、『クラフト・アンド・デストロイ』にて解体し、適切な形でくみ上げてゆく。
 するとどうだろう。機銃やレーザーガンを対空砲に見立てて屋根に備え付けたり、またもし万が一逃げ遅れた人々がいた時ように塹壕も緊急で設置することが出来た。
 ちなみに、対空兵装が多いのは、何よりも相手が空を飛んで一方的に撃ち下ろされてはこちらが圧倒的に不利だ。
 そのため、すこしでもプレッシャーをかけて地上での戦闘にもっていけるようにという配慮の為であった。

「いやぁ……私も|昔《ベルセルクマシン》の頃は、建築にもっと協力できたものですが……」
 そう呟きながら、リズも建材などを運ぶのを手伝う。たしかにかつての頃の方がこういった設営には向いているが、今でも重いものを運んだりするのは得意であった。
「こうやって資材を運んで頂けるだけでも大分助かっていますよ……おや?」
 と深雪が不思議そうにとある方角を向いた。
 するとそこには、
 小さな男の子が泣きべそをさ迷っていた。どうやら迷子になったらしい。
「深雪さん。失礼するであります!……少年!どうしたのでありますか?」
「その……お母さんと父さんとはぐれちゃって……」
「そうでありますか……」
 その言葉を神妙に聞いたリズは、すっとお菓子を取り出した。ほかの|√《世界》で手に入れた、濃厚な甘いキャンディだ。
「これを食べるでありますよ」
 そう言って男の子の口の中にそれを放りこむと、
「凄い……!これ、甘いよ!」
 と男の子も驚きの表情だ。一気に泣きべそをかいていた表情が明るくなる。

 それをみてリズもうんと頷き、
「よく聞いてほしいであります」
「えっと?何を?」
 それに対してリズはしーっと人差し指を立てるジェスチャー。
 すると、

―――あー。あーテステス。マイクテス……ひっ!アテクシなんかがマイクテスしてすいません……―――

―――ええとですね。こちら。こちらは 都市防災防衛放送です。つい先ほど起こりました、外周部における鹵獲機械の暴走は、幸いにも鎮圧されました―――

―――幸いにも人的被害ありませんでしたが、今後さらなる攻撃が予想されます。被害予想箇所は市場区域になっております。現在市場区域にいらっしゃる市民の方々は、至急避難を行ってください―――

―――セクションAー1から10にいらっしゃるかたは、第一シェルターに。セクションA-11から……―――

 と随時避難箇所を読み上げていくのは、丹野・脩里の声だ。放送網を『ハッキング』した彼女が、いち早く避難の箇所の読み上げを行っている。

「ええと……」
「みんな避難を始めているであります。きっとご両親も、そこにいらっしゃいますよ」
「……!うん!」
 そう言って頷く男の子にリズはニコリと頷いた。
「可惜命を散らす必要はありませんからね。いつかの誰かのために、あなたの命はとっておいてください」
 と深雪の表情も優しそうだ。
「お姉ちゃんたち、ありがとう!」
 と男の子が走ってゆく。
「今度はお菓子もっとたくさん売るので!楽しみにしていてください!」
 とリズは手を振るのだった。

第3章 ボス戦 『スーパーロボット『リュクルゴス』』


 そうして市場区域に天より龍のような、天使のような機械が降り立った。雷撃を鱗とし、咆哮を光として放つ、スーパーロボット。
 言葉は必要ない。いや、|人類に放つ言葉などない《・・・・・・・・・・》。
 それは、ただ咆哮をあげた。さぁ、龍退治だ……!
アーシャ・ヴァリアント
虚峰・サリィ
フッリーヤ・ビント・ハーリド

 会戦の合図は、龍の咆哮から始まった。全高はどれくらいあるだろうか。少なくともスーパーロボット『リュクルゴス』の名に恥じないその威容を以てしても、
「はっ! スーパーロボットっていうほどだから人型と思ったら、|鳥《・》なのね!」
 アーシャ・ヴァリアントの余裕を崩すことはできなかった。
「美味しいものを食べて英気を養ったアタシに敵はなしっ!」
 市場区画の尖塔の上に立ち、リュクルゴスと視線を合わせたアーシャがにやりと笑うと、

―――◆◆◆!!―――

 龍は威嚇するように咆哮した。
「へぇ……」
 その叫びと同時に超大型光線砲が何門の展開される。それらすべてが、アーシャへと照準を合わせていた。
 雷撃が、砲門へとチャージされてゆく。
 それを見てなおアーシャは余裕の表情だ。
「いいかしら?」
 光が、迸ろうとしたその瞬間。
「咆哮っていうのは」
 アーシャ―の四肢が金色に輝く竜漿に覆われる。
「こうするのよ!!!」

―――GAAAAAA!!!!!!―――
 |竜王煌羅《ドラゴニック・オーラ》を煌めかせて、アーシャがかつての、龍としての威容を|咆哮《こえ》に乗せた。
 そんなアーシャの不遜を咎めるように、瞬間光が放たれる。
(所詮は機械かしら!?)
 光が放たれる一瞬前、アーシャは既に尖塔から飛び出していた。|光の速さで迫るなら《・・・・・・・・・》、|砲口の向きから攻撃を見切るのは容易い《・・・・・・・・・・・・・・・・・》のだ。
「貰ったわ! 下手な鉄砲は数打っても当たらないのよ!」
 そのままアーシャがリュクルゴスへと一気に肉薄し、その金色の爪を振るったその瞬間、

―――ガァン!―――
「!?」
 その一撃が、エネルギーフィールドによって防がれた。


「ああもう全く! 乙女の頑張りを無下にするなんて、つれない|リトル・キティ《可愛いドラゴン》ね!」
 自分の一撃が防がれたアーシャは、その瞬間一気に機動力を増したリュクルゴスと拮抗しあっていた。アーシャの爪をエネルギーフィールドで防ぎ、自身は素早い動きとエネルギーフィールドの防御で攻撃をいなす。『斬光飛翔翼アポロニアウイング』の本領発揮だ。
 だが、それでもアーシャはリュクルゴスを引き付け、市街に被害をもたらしていないのは彼女の矜持であろうか。

 そんな矜持に応えるために、虚峰・サリィは|ホワイトスター・トップテン《魔導弦》をかき鳴らす。
「さて、|プリンシパル《アーシャ》が魅せるなら、ダンスナンバーが必要でしょう!?」
 サリィの言葉とテンションに応じて、かき鳴らされるホワイトスター・トップテンが音に宿る魔力を高めてゆく。
「……ああもう、器用ねリトル・キティ!」
 リュクルゴスもまたサリィを脅威とみなしたらしい。羽の刃がアーシャを狙い、砲門がサリィを狙う。
(さて……引き付けるのには成功したけど……)
 幸い、サリィは標的としては非常に小さい。その特性を利用して、市場を走り回りながら器用に避けていたが、攻め手にかけていた。
 きっとサリィの持つ能力はリュクルゴスに直撃すればエネルギーフィールドを剥がせるだろう。だがそれはサリィの足も止まるという事で、代わりにサリィが砲撃に捉えられるという事だ。
「あの|ヴェール《エネルギーフィールド》が邪魔ね……!」
 

「だったら、私に任せてもらおう」
「あら!? デュエットがお好みかしら!?」
 突然耳元に聞こえた聞こえた言葉にサリィが応えると、声の主はフっと笑った。
「おあいにく様。歌劇の方の知識は疎くてね。まぁ……今は些細な事だろうか」
 場所は市場区画の最高峰。前に出て戦うアーシャ。そのすぐ後ろのサリィに比べて遠い位置にいる彼女、フッリーヤ・ビント・ハーリドはサリィへと錬金術の応用でその耳に己の言葉を届けた後、その手に持つ剣を、まるで矢のように捧げ持った。
「拓け。ロスタム」
 言葉と共に、魔剣が|戦闘錬金術《プロエリウム・アルケミア》によって本来の姿を顕わす。
 すなわちそう。弓矢とパワードスーツへと。
「さて。それでは一つ射抜いてみようか」
 言葉と共に、巨大な弓をパワードスーツを持って番えたフッリーヤは、じっと機械の竜を見据える。
「ああ……それにしても動きが素早いね。なんたる移動速度だ!」
 まぁ、
「偏差射撃すればいいだけなのだが」
 そうして、リュグルコスがアーシャとサリィに気を取られている隙に、フッリーヤは矢を放った。
「貫き通せ、ロスタム」

 |宣誓《ことば》と共に放たれた矢は、狙い通りにリュグルコスのエネルギーフィールドに直撃した。当然、威力があるとはいえたかが矢である。科学技術の粋を極めたスーパーロボットのエネルギーフィールドを貫く威力などある筈もない。 
 だがしかし、
「残念。|それは錬金毒《・・・・・・》だ。」
 黄金が、愚者の黄金へと変じるように。卑なるモノを、貴きモノへと変じるのが錬金だとするなら、それは全く逆順の動きだ。 
 矢が当たった瞬間、エネルギーフィールドが、|ただの空気の層《・・・・・・・》へと変換される。

「あははは! ヴェールが脱げたわね! それじゃあ私の歌も、十分に聞こえるかしらぁ!?」
 言葉と共に放たれるのは|吶喊・一直線乙女44マグナム《恋の歌》。いつだって、乙女の歌は一直線。
 物理的な衝撃を伴った乙女の想いが、リュクルゴスに直撃する。そして、乙女の想いは、たった|一言《一小節》で語りきれるものなんかじゃない。
「|まだまだいくわよ《アンコール》!」
 言葉と共に、魔力弾が連続して放たれる。突然解除されたエネルギーフィールド。今自分を打ち据えるサリィへと、砲撃を与える暇もない。

 そしてその状況を好機と見たアーシャが、一気にリュクルゴスへと近づく。
「ありがとう! よくやってくたわ! はぁああああああ!」
 言葉と共に金色に煌めく爪を一閃。一気にリュクルゴスの装甲を切り飛ばした!

久瀬・八雲
戦術具・名無
神元・みちる

「すげー! でっけーのがぶっ倒れそうになってるー!」
 仲間の一撃を受けてぐらついたリュクルゴスを見て、神元・みちるが興奮しながら楽しそうな声を上げた。
―――ええ、たしかに大きいのが崩れました。ですがみちる。こういう時こそ急がば回れ、ですよ。散策していた路地などを使って―――

 戦術具・名無の窘める声に、みちるもまたわかってるわかってると言わんばかりに大いに首を縦に振った。
「うん!わかってるぞ!あれが暴れるらあたしでもダメだって!だから!」
 本当は、まっすぐ行きたい。だが、この巨体。下をくぐるのは大変そうだ。だったらどうするか。
「よっ! ほっ! はっ!」
 軽い掛け声で、市場区画の尖塔の上へと昇ってゆく。
「上からいけばいいか?」

―――ステイ……! そんな迂闊に動けば……!―――
 当然。相手も対策はしてくる。無数の砲門が、尖塔の先へと走ってゆくみちるを狙って咆哮を上げる。だがしかし、そのどれもが、みちるに直撃するに至らない。
 尖塔の壁に|足をめり込ませながら《・・・・・・・・・・》駆け上がってゆくみちるはしかし、ふと思った。
(よく考えたらこれ、他の所にも飛び火するんじゃない?あ。だったら他の人に飛び火しないくらいに動くのが良い?)
 と思ったとしても、みちるは直情径行。ゆえにそういった事を考えるのは、
「名無、細かい所よろしく!あたし集中するからいつものやーつ!」
 
―――ああもう!仕方ありませんね!―――
 そう言ってみちるが|集中《気分常勝》したなら、名無はその補助だ。こうなったみちるは、ただ己の目的のみ突き進む弾丸のよう。
 今の彼女の目的はすなわち、『尖塔の一番上に登り切って、そこからリュクルゴスを叩ききってやる事』。ゆえに、

―――右。左。後方に一歩下がって。ワンテンポ動きをずらす―――
 |どう回避するか《・・・・・・・》は名無の領分だ。みちるが回避しやすいように、言葉で以て誘導する。彼女の願ったように、できるだけ周囲に被害を出さない形で。
 そうしてついに尖塔の先へとやってきて、眼前には刀傷を負って体勢を乱したリュクルゴスがいる。
「すぅ―――」
 名無を両手で握りしめ、みちるが静かに息を吸って、そして吐く。目指す先は、『でっけーやつ』。
 呼吸を整え、斬鉄の意思を刃に乗せて振りかぶろうとしたその時、

―――!? みちる、回避……!―――
 名無が鋭い言葉をあげた。そう、今みちるは尖塔に、|市場で最も高い場所《・・・・・・・・・》に立っている。
 すなわちそれは、|雷が落ちれば《・・・・・・》|避雷針になる《・・・・・・》場所という事で……

―――◆◆◆―――
 竜が、咆哮する。『電撃放射角ケリュネイアホーン』が放たれた。たしかに威力は本来のリュクルゴスの持つ出力の100分の一である。だが百分の一とはいえ、雷撃を喰らってしまえばみちるとてただでは済まない。
 ゆえに、

「いっけー!!!!」

 雷が降り注ぐ一瞬前。みちると名無が雷に反応するその隙間を貫くように、真紅の槍が飛翔した。

―――ズガアアアアアン!!!―――

 降り注ぐ雷に対して、みちるの代わりに真紅の槍が避雷針となる。迫りくる無数の雷を受け止めて、
「久瀬・八雲、参ります!」
 霊剣の使い手が参戦した。

 流れは単純である。アーシャの一撃を好機と見たのは何もみちるだけではない。八雲もまた、市場区画を縫うように走ってリュクルゴスへと接近していたのだ。
 丁度尖塔を登るみちるがいい感じの目くらましになっていた。そのおかげで八雲の方に砲撃は来ず、さてどのように攻め立てるか考えていたところ、みちるを砲撃で執拗に追い立てるリュクルゴスの、その角のそこかしこに電流がとどまっているのを八雲は見とがめたのだ。

 あとはほとんど反射の域だ。霊剣より得た知識が、『できる』というのだからやっただけ。
「はぁああああ!!!」
 柄に巻いた耐電性のある布を片手に持ち、思いっきり尖塔の上へと向かって霊剣の柄を蹴り上げたのだ。
 そうすれば、霊剣はたちまち紫電纏いし真紅の槍となり、物理法則を無視して八雲を空へと引っ張ってゆく。

 そうして、みちるに対する避雷針の役割と果たした緋焔の柄をつかみ取る。もとより、槍と化した緋焔は雷を纏っている。今更雷撃を受けた所でどうという事はない。

「やるじゃん! ありがとー!」
 というみちるの声を背にうけて、霊剣の勢いを受けて尖塔よりも高く飛び上がった八雲は地面を背にして一回転。
 相手の事はよくわからない。だが、今この戦場で共に戦う者として、
「お願いします!」
 とお礼への返答の代わりに彼女は叫んだ。

「わかったよ!」
 その言葉と共に、雷撃によってぶれた心を再び無心にする。リュクルゴスとの距離は離れている。本来刀が届く距離ではない。
 |だが、それがどうしたというのだ《・・・・・・・・・・・・・・・》。|気分常勝《テンションアッパー》なみちるに、できない事は無し。
 ゆえに、
「……ふっ!」
 鋭い呼気と共に、無名を振るった。

 ―――紗―――

 涼やかな音が聞こえて、次の瞬間、リュクルゴスが叫びをあげる。アーシャが気付つけたのとは別の箇所に大きな亀裂が走っていた。
 
 その疵を、見逃す八雲ではない。八雲が地上に背を向けた刹那の間、力をためるための一回転。その間にみちるは確かにおのれの役目を果たしていた。ならば次は自分の分。
 雷鳴蓄える真紅の槍を、
「負けるつもりは……ありませんよ!」
 鋭い叫びと共に、今しがた出来た疵めがけて投げつけた。

―――GAAAAA!!!!―――
 
 所詮、緋焔は形態を変えた今はただの槍。本来であればサイズを考えれば槍が刺さろうと何らダメージを与えるものではない。だが、みちる、アーシャによって外部装甲を損傷し、内部に直撃した紅の槍は、雷鳴を帯びていた。まさに傷口から体のなかに、毒を直接叩き込まれるようなもの。
 スーパーロボットは、苦悶の叫びをあげるのだった。

夢野・きらら
リズ・ダブルエックス

「さて。任せてって言った手前、逃げる訳にはいかないね」
 WZ『マスコバイト』に登場したきららが、雷撃を纏った竜を見据える。八雲とみちるの攻撃は確かにリュクルゴスへとダメージを与えていた反面、その体を撃ち貫いた雷撃は、動力源のリミッターもまた破壊した。
 今のリュクルゴスは、機械の将というよりも暴走する小型発電所の状態だ。いつかは停止するだろうが、そのいつかは分からない。
 ゆえに、できるだけ早く破壊する必要がある。


「さて……プロジェクトカリギュラ、起動だ」
 言葉と共に、マスコバイトが赤く染まる。
「いくよ、リズくん」
「はい!よろしくお願いするであります!」
 そう、マスコバイトの肩には、リズ。ダブルエックスが乗っていた。今のきららの役目は、彼女をリュクルゴスへと届ける事だ。
 

―――|LXF・LXM並列高出力モード《デュアル・アームズ》、Stand by―――

 リズの網膜に、各種パラメーターが投影される。背部から光の翼を展開して、接近に備える。

「それじゃあさっさと接近しようか。エネルギーフィールドも、長くはもたないから……ね!」
 その言葉と共に、マスコバイトが疾走する。
 
 新たな脅威をリュクルゴスも排除すべきと認めたらしい。いくつもの砲台から光が迸る。

―――ズガン! ドガン!―――

 幸いそれらはエネルギーフィールドが受け止めて、そのおかげで
「私も、全力を温存できるであります」
 当然、リズだってこの砲火の嵐を自力で抜ける事が出来ないわけではない。|LXF《戦闘用ボディースーツ》が生み出す光翼は、それだけの推進力をリズに与えるし、これくらいの修羅場ならいくらでもくぐってきた。

 そのうえで、適材適所だ。エネルギーフィールドを展開できるきららのWZが、リュクルゴスの至近までリズを送り届ける。
 そうすれば、エネルギーの消耗がなく、リズの全力の一撃を叩き込める。砲撃はたしかにがりがりとエネルギーフィールドを削っていく。だがしかし、
「これくらいのペースなら……!」
 安全にリズをリュクルゴスまで届けられる。きららがそう確信した瞬間、


―――ガガがガガガガガ!!!―――
 雷撃が、降り注いだ。
「っ……! ああもう|そっち《・・・》で攻めてきたのかい!?」
 雷撃は、砲撃よりも威力は圧倒的に低い。だがしかし、その数が問題だった。無数に降り注ぐ雷撃はフィールドを破壊できはしないが、|フィールド展開《・・・・・・・》|のエネルギー《・・・・・》は攻撃を受けている為ドンドン消耗していく。

「大丈夫であります!」
 鋭い声と共に、リズが放ったのは|レギオンフォートレス《無数のドローン》だ。それらは、きららとリズの頭上に展開し、一瞬で焼け焦げて、しかしその一瞬だけ、雷撃の降り注がない道を作る。
「……ッ!消耗はさせないと約束したのに、すまないね!」
「いいえ!これはサブですから! 私自身の|LXM《主武装》の出力には何一つ影響しておりません!」
「それは幸いだ!幸いついでにそのまま避雷針を展開しておいてくれ!エネルギーがつきそうだ!フィールドを解除してブーストにすべて回す!」
「承知しました!」

 その言葉と共に、フィールドが解除された。刹那、マスコバイトのブースータ―の吹き出し口が赤熱する。そして一気に、加速。幸い相手は雷撃で仕留められると思ったのか、砲撃の嵐はやんでいた。
 ゆえに、雷撃をドローンが防いで作った道を、マスコバイトが疾走する。
 そしてその終点で、
「はあああああ!!!!」
 リズが飛翔した。大型のブレードを振りかぶる。そして、

―――ZAN!!!!―――

 その一撃が、竜の右腕を、溶断した。

丹野・脩里
イリス・フォルトゥーナ
白皇・奏

「スぅーぱぁーろぼっとぉぉ!?」
 迫りくるそれを見上げ、丹野・脩里は情けない叫び声を上げた。思い起こすのはかつての記憶。いまだ只人だった頃。そういった存在に追い立てられた覚えが脩里には存在した。
「うう……」
 逃げたい。正直言って、逃げたい。けれど、
「敵前逃亡なんて、できやしないんですよね……!」
 なにせ逃げたら銃殺刑である。とはいえ本質は底ではない。もはや|死人《デッドマン》である彼女に銃殺刑なんて、ハナから屁ではない。ゆえにただ単にそれは、
(結局の所、逃げおおせたとして他が死ぬだけなのでね……!)
 そうならないために戦う位の意地は、彼女にだってあるのだ。
 ゆえに、
「こ、こうなったらやるしかないっ!」
 右腕を溶断されて倒れ伏した竜に向かって、脩里は走ってゆく。当然、走って近寄るだけではない。

―――ファハハハハ、此処は大人しくワタシを受け入れなさいな―――

「今はそれしか、ありませんかね……!」
―――悪魔さん、お力、お借りします……!

 そうして|憑依覚醒《ポゼッションアウェイクニング》を発動した脩里がリュクルゴスに迫りくる。
「昔とは、違うんだっ!」
 そんな叫び声と共に妖しく変異した肉体を以て魔焔妖術を行使する。魔焔によって空間を|灼《・》き、歪め、無理やり引き裂く。そうすればいくらスーパーロボットの装甲が厚いものであろうと無意味だ。容易く引き裂くことができる。
 実際、脩里の一撃はただでさえ損傷していたリュクルゴスの体をさらに引き裂くことになった。
 当然、人型サイズの脩里がそんな事をすれば、それまで評価されていた脅威度が爆上がりする。なけなしのエネルギーでフィールドが形成され、翼剣の嵐が脩里を襲った。
(あっ―――死)

―――ザシュ!

「んでも生き返っちゃうんですよねこれが!」
 叫びと共に、翼剣の嵐の中から、脩里の声が響く。そして魔焔の爪はなおも襲い掛かる。そういう風に脩里が奮闘している訳だが、その本質は、


「ありがたい限りだね」
 そう、目くらましである。市場区画の狭いところに隠れ潜んでフードをかぶっていた状態の白皇・奏がぼそりと呟いた。脩里が派手に囮役を買って出ていてくれるからこそ、彼もひそやかに準備することができる。
「さて、それでは行こうか」
 唱えるのは|月光魔召派 《ウィザードルナティック》。それによって月明かりの妖精を召喚する。それもただ一つだけではない無数に。3秒に一度というスピードでドンドンドンドン、増えていく。そうして奏の居る路地を埋め尽くしたところで、

「皆、おれを見てくれ」
 そう言ってフードを下ろした。するとそこには、魔性の美が。|当然、奏の美は人の《・・・・・・・・・》|みを対象とする《・・・・・・・》|訳ではない《・・・・・》。
 その美しさは人どころかこういった魔性をも魅了する。そうして月明かりの妖精たちにその貌を見せた奏は微笑んでこういうのだ。
「俺の為に死んでくれ」

 そうしたなら、月明かりの妖精たちが限界を超えて飛翔する。すぐさま、奏の隠れている路地から月明かりの妖精たちが飛び上がり、皆が限界を超えた力で以てリュクルゴスへと突貫してゆく。
 所詮、それで力を増したからと言ったって、か弱い妖精であることに変わりはない。
 リュクルゴスの装甲に激突しては、儚く消えてゆく。それによって与えられるダメージは微々たるものだ。
 だが、右腕を溶断されて大きな傷を負ったリュクルゴスにとって、その微々たる一撃も積み重なれば大きなダメージになりうる。
 そのうえで、迫りくる妖精たちは非常にはかない存在だ。つまり、電撃放射角ケリュネイアホーンの雷撃で、ほぼすべて防御することができる。

 それに気づくなり、リュクルゴスは脩里を翼剣で叩きのめしながら、雷撃を撃ち放った。大きく威力を減じる代わりに広範囲へと放たれるそれは、たしかに妖精たちをかき消してゆく。

 |それが《・・・》|相手の思うつぼ《・・・・・・・》なんて思いもせずに。
「ありがとうございます……! 白皇さん!」
 妖精たちに降り注ぐ雷撃の雨の中を、その翼持つ妖精たちに紛れて、翼持つ少女が飛翔する。 
 そう、|憑装:楽園の大天使《 オーバーレイ・アークエンジェル》によってその身に大天使を憑依させたイリス・フォルトゥーナだ。
 現在、リュクルゴスの動力炉は暴走している。いつ爆発するとも知れぬ状態で、過剰な出力を叩きだしているのだ。
 ゆえにイリス単体で飛翔してリュクルゴスに接近すれば、おそらく襲い掛かってくるのは威力がさらに増加した超大型光線砲リュクルゴス・レイだっただろう。

 そうしたなら大天使の加護を受けるイリスとて、その極光に焼き尽くされて撃ち落される事は恐らく必至。
 ゆえに、月明かりの妖精たちに紛れて近くまで接近する必要があったのだ。威力を減じた雷撃程度なら防ぐには問題ない。
 こうして、イリスはリュクルゴスの前に躍り出た。右腕を溶断されたことでわずかに顔をのぞかせるエネルギーコア。それめがけて、最大の一撃を放つ。

―――聖なるかな聖なるかな聖なるかな―――
 戦場に、少女の声が響き渡る。まるで祈る様に両手を組んで、大天使の羽が大きく広がる。

―――血はなく、肉はなく、鋼あり―――
 言葉と共に、大きく広げられた羽の後ろに幾何学的な光輪が展開され、それが高速回転してゆく。 
 この段階でリュクルゴスもまた迎撃しようとするが、もう遅い。大口径の砲門にエネルギーがチャージされるより先に、イリスの祈りの方が早い。

―――電子と鋼の聖霊の御名において、主の祝福ぞあらん―――
 イリスが、願いの言葉を重ねる。光輪が、さらに開店するスピードを速めた。

―――今浄罪の光を以て、あなたの罪を洗い清めん。さすれば、楽園の扉はあなたにも開かれるでしょう―――

 その言葉を区切りとして、光輪が、リュクルゴスへと狙いを定める。
「楽園へ、みんなで至るために―――貴方へも、加護のありますよう!!」
 鋭く叫んだイリスの声に導かれ、放たれた極光が、リュクルゴスのエネルギーコアを撃ち貫く。

 光が、完全にスーパーロボットの機能を完全に停止させた。こうして、今回の事件は一件落着を迎えるのであった。
 

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