シナリオ

アルティメイト・クライム

#√妖怪百鬼夜行 #A.Z.T.S #教授

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 #√妖怪百鬼夜行
 #A.Z.T.S
 #教授

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●願い星を落とせ
「プロフェッサー! プロフェッサー! これで、本当に私達も『本物の魔女』になれますか? いいえ、あなたを疑うつもりはありませんが、それでも、もう一度聞いておきたいのです。プロフェッサー、私達は本当に『魔女』を名乗る事が赦されるのですか?」
 彼女等は『ウィッチ』ではない。本物の魔女が『名乗ること』を赦さなかった結果『ウィッシュウィッチ』と嗤われた。魔女に瓜二つな『人間』の簒奪者たち。彼女等の視線はひとつの『古妖』に釘付けとなっていた。
「何を迷う事がある。私のプランは完璧なのだ。いや、今回は|完全犯罪《パーフェクト・クライム》と謂うには些か強引だがね。いっそ|終局的犯罪《The Ultimate Crime》と口にした方がしっくりくる。そもそも、この会話も聞かれているのだ。ならば、ド派手に『計画』をしてみても、偶には面白いだろう」
 すらりとした鬼がひとつ。魔女の娘たちの『プロフェッサー』と慕われる彼は、おそらく、最も名のある『悪役』として振る舞う事を愉しんでいた。何を隠そう彼こそがジェームズ・モリアーティ。犯罪界のナポレオンと呼ばれる「鬼」であった。
「さて……『小惑星の力学』、読んでくれた事だろう。あれは私が導き出した方法に過ぎない。悔しい事に私一人の力では出来そうになくてね。嗚呼、これが成功すれば君達は立派な|魔女《キザイア・メイスン》になれるさ」
 おそらくは嘘だ。教授は一人でも遂行できる。
 本を開こう。
「|宙亡《●●》について、君達は何処まで理解をしている?」

●安楽椅子は要らない
「……まずいねぇ」
 星詠み、暗明・一五六の一言、その不穏さに君達は目眩を覚えた。
「君達ぃ。ちょっと√妖怪百鬼夜行で最悪を止めてきてくれないかい。ジェームズ・モリアーティの『小惑星の力学』って言ったらわかるかもしれないねぇ。まあ、つまりは、それの再現をしようってわけさ。たくさんの魔女っ娘までついてくるって噂だぜ」
「……言っておくけどねぇ。これが失敗したら、我輩にも何が起こるのかわからない。いや、わかるかもしれないが、それを口にしてしまうのはダメなのさ。ともかく、生きて帰りたいのであれば参加しない事をオススメする。まあ、実際には死なないけどねぇ。アッハッハ!」

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第1章 冒険 『洋燈煌めく仮面舞踏会』


 まるで|無貌の神《ナイアルラトホテップ》だと何者かが喚いた。
 まるで|獣の数字《にんげん》だと何者かが嘲った。
 まるで|登場人物《キャラクター》ではないか、と、何者かが呟いた。
 √妖怪百鬼夜行――奇妙建築――その最奥、君達は不明な儘に|仮面舞踏会《マスカレイド》へと招待された。招待状にはしっかりと『モリアーティ』の名が記されており、君達は復活した古妖に『発見された』というワケだ。ぐるり、周囲の人型に目をやれば、くるり、くるりと、正体を失くしている仮面ばかり。ふと、視線を止めたのならば、其処には鬼が潜んでいた。……待っていた。随分と、顔色が悪いようだがね。
 この鬼こそが『モリアーティ』。大胆不敵と表現すべきか、或いは、蛇足を好んでいると描写すべきか。兎も角、君達はこの男の『笑み』を歪ませなければならない。EDEN、君達とひとつ『ゲーム』をしよう。私が完遂しようとしている『犯罪』の内容について、見事、当ててくれると面白い。勿論、舞踏会を愉しんでくれても構わないが。
 まだ、準備中なのだよ、探偵たち。
ディラン・ヴァルフリート

 黄色い衣の代わりとして、皇太子の真似事として、ディラン・ヴァルフリート、オマエは如何様な『罪』を纏うのか。ヴェールの柔らかさにも、脆さにもオマエは精通しているのだから規模を世界に移すとよろしい。仮面に仮面を被せるというのも、嘘に嘘を重ねるというのも、まったく陳腐な話ですが……。ナンセンスを味わおうとしているのだ。ならば、より、ナンセンスな舞踏の仕方と謂うものを教えてもらわねばならない。大袈裟なくらいが丁度良い事もあるでしょう。詐欺師と罵られるほどの『もの』が好ましいのかもしれません。最早、竜は悪魔として会場内部へと身投げした。見繕い、這うようなサマはまさしくユダ。或いは、獣の数字としての象徴を掲げるかの如くに。いいえ、僕は、そのような『勿体ない』事はしません。ひとつ残らず、今日の僕は咀嚼をしてみせましょう。貴方が、招待してくれた|簒奪者《かた》でしょうか。タバスコ多めのブラッディ・メアリーで乾杯したいところですが……今の身は未成年ゆえノンアルコールで御容赦を。ひどく赤い目玉ではなかろうか。点眼をしようにも仮面が邪魔でたまらない。
 ほう……君はどうやら、けっこう、此方側の人間らしい。開口したかと思えば、教授、随分と愉快そうな雰囲気だ。そうですか。僕も貴方には多少の興味があったものですから。Mr.モリアーティの名には"意味"がある。ところで、貴方は自由ですか? ドラゴンプロトコルの質問に対して|鬼《それ》は蛇のように嗤いで返した。ふふふ……まさか。私が自由を手にする事など、それを証明する事など、誰に出来ると謂うのかね。
 いやはや、君は如何やら脚本家というものが好きではないらしい。
 ……さて、謎解きでしたね。
 例えば派手で、絶対的で、混沌として、誰もが納得せざるを得ないような|幕引き《終焉》。最後の要素は……終局的である事は……覗き見ありきのようで、些か気が引けますが……貴方は『星』をかなり気に入っていると見えます。
 素晴らしい。いや、君には簡単な謎解きだったか。
 君の思考は、私に、近いところにあるのだから。
 折角の大作、阻む側なのが惜しいですね。勿論冗談です、ええ。
 正義の味方も楽ではない。

アーシャ・ヴァリアント

 妹ふたりが苛立っている。面白くないと覗き見している。
 空隙に溜まっていた埃――あまりに最悪な記憶――大切なものをすっかり洗い流されてしまったアーシャ・ヴァリアント。スッキリしたご様子で√妖怪百鬼夜行へと身を投げた。ハートの数を認めてやる必要などなく、偽りの情念、義妹ちゃんとやらへと投げつつ思考を巡らせよ。小惑星の力学……ん……知らないわね。とりあえず犯人は、簒奪者の名前は分かってるんだからぶっ飛ばせばいいんでしょ。安楽椅子探偵の出番はないわ。現地集合なマスカレイド。ありとあらゆる地位の妖怪その他が奇怪なまでに旋回している。まあ、招待状をくれたんだし、それらしい格好はしてきたのよね。ほら、このドレス。本当なら|義妹《サーシャ》だけの『もの』なんだけど。けっこうな肌色ではなかろうか。嗚呼、黒と赤の派手さといったら『教授』にも発見され易くてよろしい。
 誰かと思えば『猿』の時の君か……いや、あの時はかなり凄惨な殺し方をしてくれたね。踊る気もなく、おいしいお肉を頬張っていたらボスのお出ましだ。モリアーティの面構えから|感情《●●》を読み解く事は難しく。しかし、わざわざ、腹の探り合いをする所以もなし。で、犯罪の内容ねぇ……そういう事考えるのは苦手だし、頭痛がしそうだからアンタ自身がべらべら語ってくれると楽なんだけど、例えばどっかの滝の前でとか。私は確かにモリアーティだが『その』モリアーティとは少し違う道を歩んでいるのだよ。初歩的な……いや、根本的な話にはなるのだが。君は、君自身を信じられると?
 アタシがアタシを? 考えるのは苦手だって言ったばかりよね。アンタ、鶏の真似が得意なんじゃないの。まぁ、まだやり合う気ないなら……暇だから付き合いなさい。義妹ちゃんも実妹ちゃんもレヴィアタンと化す展開だ。教授が姿勢を正したならばお嬢様へと手を伸ばす。では、踊りましょうか。せめて、へたくそを演じてあげましょう。
 アンタ……いつか、絶対死するわよ。

星越・イサ

 過去現在未来、総ての√において、膨らむのか、萎むのか。
 真っ黒い果実へと口づけをし、そのまま、ひどく苦いものを反芻していく。何度も、何度も、舌を這わせて、まるで蛇に対しての宣戦布告が如くに。マスカレイドの暗渠にてふたつの影が出会ったならば、冥々、迷い込むかのようにして星越・イサは挨拶をした。あなたが『モリアーティ教授』でしょうか。私は星越・イサ、私もあなたに興味があります。じっと、じっと、深淵のような双眸が教授の胸中に突き刺さる。ええ、何処まで理解しているか、そのように問われてしまいますと……困ってしまいます。理解できないものを理解できないままに用いることが、愛でることが、私の『在り様』ですので。ゆえに、重要なのは、表に出すべきは『何が理解できないか』だと思うのです、プロフェッサー。めまいをめまいの儘に受け止める。アカシックレコードをアカシックレコードの儘に堪能する。まさしく混沌の極致として只の人間は触れ合いを希望した。お行儀が悪いことを承知で、あなたに、同じ問いをそのまま返させて頂きます。あなたは、自分が宇宙の理を……全てを、理解しきれていると? まったく、饒舌な狂人だ。少なくとも私は、君よりかは、下位に存在していると認めてはいるのだ。……あなた……うふふふ……そうやって、理解をされているのに、こうやって振る舞う。おもしろいです……あなたはきっと、|不確定さ《私》が嫌いでしょう?
 膨大な情報を屑とするならば、まさか、それを棄てるなんてつまらない。混沌は、私は、どんなに嫌がっても、そこに生ずるのだから受け入れるしかない。ですので、私は、謎を解き明かすのではなく『謎』の側。そのような『もの』です。まずは自己紹介……いえ、存在の証明までに。君は……ハハハ……アハハハハ……いや、君。君こそを必要としていたのだ。君のような存在こそ、膨大な情報への投身こそ、成し遂げる為には不可欠なのだよ。つまり……あなたは、私を酷使すると、冒涜したいのでしょうか。
 制御できないものを手招くのだ。
 イレギュラーこそ鍵なのである。

一ノ瀬・シュウヤ
ゼロ・ロストブルー

 止めなければならない。
 ひどい眩暈の所以については、ふたつ、存在していると考えられよう。酩酊を促すかのような、朦朧へと導くかのような、強烈なまでの旋律とやらが一ノ瀬・シュウヤへやってきた。夜勤明けの帰り道、知らず知らずの内に迷い込んでしまった無気味な雰囲気。ああ、この感じは……妖怪がいる世界か。何度も、何度も、わざと足を踏まれるかのような不快感だ。何処かの趣味のよろしくないお嬢さんに声を掛けられそうな奇怪である。仮面舞踏会……マスカレイド……嫌なことを思い出させる……帰りたい……。ぼそりと、口にした刹那の視界。待機していたかのように『プロフェッサー』と目が合った。何故、ここに……? 嗚呼、君を招待した記憶はないのだが。さては君、迷い込んだらしい。イレギュラーは大歓迎だと鬼は嗤う。今度は何を企てようとしている。俺は、彼等でもなく、探偵のような推理もできないが……。悪の権化を、災厄よりも『らしい』男を放っておくわけにはいかない。話をしよう。たとえば、あの、最悪な贈り物についても含めて。ああ、あの品のない男か。勿論、君の想像している通りだとも。
 空がヤケに青かった。雲も、太陽もなく、まるでブルースクリーンの中を往くかのような。ゼロ・ロストブルーの眼鏡に這入り込んできたのは、実に騒がしい仮面舞踏会であった。気づいたら、招待状を持っていた。気づいたら、このような場所で突っ立っていた。有名人のサインを認めて、ぐらりと、脳髄が揺さぶられる。ハンカチに包んだ、あの小さな命だったもの……ははは……参ったな、とても嫌な予感がする。ひどく、頭痛がしそうだ。テキトウな仮面を被ったのならば、発見、お目当ての教授は健在であった。ご招待どうも、モリアーティ教授。今度は何を企んでいるんですか。やはり……君にも、招待状を出したつもりはなかったのだが。しかし、これも何かの縁だろう。それで? 君は、今の私を見て何を想像する? 教授はまったく愉快そうにしていた。誰かに犯罪を授けたのか? それとも、その者を利用し、自身の犯罪にするのか? ヤグサハ、準備中だとも。それと、君にも別室を用意しておいた。君の事を待っている男も席に座っている筈だとも。……俺を待っている? どういう意味だ。準備をする誰かがいるのか、それともこの場が、招待した者が、集まる事自体が意味を……? 意味などない。ただ、君達には見てもらいたいのだよ。
 かくして役者は揃った。別室に案内された|二人《●●》。別々の扉を開けてのご対面だ。成程、奇妙建築を彷彿とさせる再会と謂えた。あなたは……いえ、今はあの男の『企て』を阻止するのが先決です。『小惑星の力学』は……火星と木星の間の惑星を破壊する論文だったような……。一ノ瀬・シュウヤの一言、最初に反応したのはゼロの方だ。はは、まぁ……月とか落とされない限りは、立ち向かえることならば、抗わせてもらうけどな。それか、月で収まらないとか、言うんじゃないだろうな……。
 月ではない……? 宙亡……が何かは知らないが、エミが教えてくれた百鬼夜行では空亡というのが出てくるそうだが……。君達は『良いところ』までは暴いてくれそうだ。その通り、赤い球体だ。もっとも……私が招くものは『太陽』よりも巨大だけれどね。
 この際だ。答えてしまおう。
 私は……あまねく√に存在している、あまりに自在で、強大なエネルギーを、混沌を……ある種の終焉を、落とすつもりだ。

和紋・蜚廉

 蛇蝎を誇りとするならば、犬猿を前提とするならば、艶やかな黒に対してマイナスを抱く必要性などない。異物の混入こそを『是』とするが故に『プロフェッサー』を冠していた。何処で聞きつけたものか。耳聡いにも程がある。だが、こうして邪魔立てに来る我らも、結局は同類か。我は同族嫌悪の類を抱かぬが、ともかく、似た者同士である事に変わりないか。ハロウィンよりも騒々しいクリスマス・シーズン、随分と冒涜的な舞踏会ではあるのだが。だからこそオマエの姿形は歓迎される。我が姿は元より仮装じみている。仮面が必要というのなら、素顔を不要とするならば、|擬殻布《けはい》を殺しておこう。これも、舞踏会の……仮面舞踏会の趣向だな。誰も彼もがオマエの影を踏んでくれない。悲鳴も絶望も今はなく。淡々と、悠々と、悪の種とやらが撒かれていた。君は……楽しんでくれているかな。残念ながら、君を喜ばせる食事は用意できそうにないが。汝、それは我に対する侮辱の類か? いや、何にせよ、犯罪の前とは思えぬ華やかな宴だな、教授。乾杯でもしておくか? テキトウに用意されたグラスの中身。これをアイスコーヒーとしたならばカフェインの背中押し。……我を覚醒させるつもりか。ともかく、この妨害こそが、望外に成功するように。
 教授、汝の謳う『完全犯罪』というものは存外単純だ。目撃者も証言者も残らぬ状況を作れば、成立する。訴える者がいなければ、誰も存在しなければ、罪は無いのだからな。素晴らしい……君の言の葉通りだ。誰も存在しなくなる事こそ終局的。私は、私自身も被害者とする予定なのだよ。汝……その為には、実行犯を別に用意する必要が……?
 蜘蛛の糸のように繊細に、蝶のように美しく、手を引き、指揮を執る。そのようなイメージをオマエは抱いてみせたが、その実、教授は真逆を纏っていた。汝……そうか。星詠みをされるのを大前提として、犯罪計画を練っているのか。刃が届く事を覚悟の上で。成程、ならば……我としても、やり易い。汝は世界の崩壊こそを罰としたいのか。
 最早、教授は潜まない。最早、鬼は目立っている。
 流石は能力者、私のやり口を理解してくれている。

四之宮・榴

 同じ土俵に立ってはいけない。
 ダイス・ゲームにご執心な妖怪ども、人間を駒としたならば、ぐるぐる、独楽遊びと洒落込むがよろしい。何処かの太夫も辟易とした眩暈、得難い完治と謂うものは遥か彼方の光景と解せよう。……今度は……僕達が……探偵なの、ですか……でしたら、ゲーム……で、破壊行為を……しないで、頂きたい……。呟いたとしても、囁いたとしても、仮面舞踏会の騒々しさに呑み込まれていくだけか。知性の行方すらも曖昧な最中で四之宮・榴、オマエは如何様な答えに辿り着く。……此れだけの|半身《レギオン》が、いるならば……僕は、半身の上に座りましょう。まるで、帝のような行いだ。いいや、勿論、オマエは贄の側なのだから、帝の精神性など欠片として解りはしない。……見下ろすのが、良いのかも……しれません。まったく、見下ろすべきだと謂うのに、探索すべきだと謂うのに、その目隠しは如何なものか。身に纏ったアオザイが花咲き、くるくると、宙へと上昇していく。
 見えなくても、聞こえなくても、触らなくても、総ては掌の中だと考えられた。僕の目は、僕の耳は、ちゃんと、全体的に……在りますので。隅から隅まで弄ってしまえば良い。すっかり右往左往にも慣れた頃、如何してか、いつもよりも目が廻りそうでたまらない。……これは……あの……教授の、気配……この量の、情報を……もらいたくは、ありません……だって、僕は……。探偵ではない。なりたくもない。只、依頼を完遂するべく|将軍《●●》は半身を揮ったのだ。随分と忙しそうだが、君は、私を探しているのだろう。この機械仕掛けを通して『私』を暴くだなんて勿体ない。それとも、胎児のように永遠に回りたいとでも。……なぜ……こちらに、声を……邪魔しそう……。
 四之宮・榴は我慢した。何を我慢したのかと問われれば、見つかった事への反応だ。応える事こそが、答える事こそが、鬼を雀躍させる鍵なのだから。今直ぐに、呑み込んでしまえばよろしい。其処に『僕』は存在しないのだと。

第2章 集団戦 『魔女の娘『ウィッシュウィッチ』』


 仮面舞踏会は幕を閉じ、教授は手を鳴らしてみせた。
 待っていましたと言わんばかり「プロフェッサー!」と無数の声。
 いっせいに仮面を外した彼女等こそ今回の『犯人』。
 たくさんの魔女が、魔女っ娘が、無邪気にくるくる笑い出す。
「プロフェッサー! この人たちと踊ったりすれば良いんだね! プロフェッサー! この人たちを足止めすれば良いんだね! そうしたら、きっと、私たちの『ねがい』は神様に届くんだ。神様は私たちを|魔女《キザイア・メイスン》にしてくれる!」
 元気いっぱいな魔女見習い。出来損ないのレッテルに塗れても尚、向上心は失われない。そんな無垢に祝福投げて、教授は奥へと引っ込んだ。
「宙亡が何なのかは、私たちにはよくわからない。でも、きっと、この召喚に……招来に、成功したら、世界中が認めてくれる筈。だからさ、皆も一緒に頑張ろう! いあ。いあ。※※※※……」
 魔女の娘は愈々、羊だ。
 愛らしい贄の情念がおぞましい魔を孕んでいく。
星越・イサ

 終局的犯罪が、見事、完遂されてしまったら。
 果たして、現実は夢幻とされるのか。
 砕け散った小太鼓を如何にかして直さなければならない。
 押し出されてしまった小さな卵、林檎のような自由落下のラスト、でろりと中身をこぼして終った。生命としての意識の有無はおそらく重要ではなく、嗚呼、不可欠とすべきは魂の行方と謂えよう。塵芥のように、山のように、積み上げられてしまった情報の数々。ほぐし倒してくれたのが鬼の面だったに違いない。かわいい……いえ、見とれている場合ではありません。情念を、彼女等に向けている暇はありません。今は黒幕……教授の足取りを追うべきですね。怪盗を追いかけ回すよりも難易度が高いのではなかろうか。何せ相手はプロフェッサー・モリアーティ。生半可な追跡能力では迷いに呑まれてコーカスレース。……勿論、物理的な話だけではありません。私は、これでも『名探偵』よりかは『ひとのこころ』がわかりますので。思考の足跡を辿れば宜しい、意図の行く先を引っ張れば宜しい。ええ、そういうことです。少なくとも教授は、召喚しようとしている『もの』とは違って、思考が出来ていますから。この場所と、残された彼女たちは『かっこう』の餌食というわけです。
 時間稼ぎに付き合ってやれ、きっと、良い感じのリアクションを返してやれば木にも登ってくれる筈。信仰に対してまっすぐなあなたたちの行い、魔女として振る舞おうとするその執着心、私は認めますけどね。ざわつく魔女たち。オマエからの『誉め言葉』にキラキラしたおめめを向けてくる。……いあ、いあ……ところで、いったい何を呼ぶつもりなのですか。何を呼ぶのかもわからない、成程、けっこうな不確定要素です。惑星級も吃驚な舞台装置だ。或いは、機械仕掛けも困惑する痴愚神の蠢き。
 覗き込みたくて仕方がない。見たくて、聞きたくて、触れたくて、たまらない。しかし、この好奇心は絶対的に自滅への近道だ。今回は……私も、我慢を覚えておきますね。星越・イサ、珍しくも正気ではなかろうか。せめて、ああ、私を……別の方のところへと掻っ攫って……なんて。玉虫色なお返事が欲しい。

和紋・蜚廉

 混沌より――泥濘より――矛を突き刺すよりも素早く――成長を始めたのは如何様な独神か。父も母もなく気が付けば生じていた『それ』は類稀なる未曾有さ以てその身を隠した。いや、成程、目には目を歯には歯を、神には神を、そのようなシンプルさこそが現状打破に繋がるのかもしれない。我は汝のような傲慢は……油断大敵は、絶対にしないと『ここ』に誓おう。禍津鬼荒覇吐――和紋・蜚廉が想起したのは王権執行者の最期であり、改めて己の精神の強さを問う。十分だ。十分に、我は覚悟をしている。故に、我は汝を今こそ揮ってみせよう……。手にしているのは鹵獲した王劍。最早、その名はEDENの下にあり『明呪倶利伽羅』は龍の如くに刀身を露わとした。魔女たちの詠唱がぴたりと止む。それほどまでにオマエの構えるサマ、おそろしかったに違いない。
 一瞬だ。一瞬の動揺が、怯みが、戦慄が――神への祈りを台無しにした。刹那の内に駆け出した|蛇蝎《オマエ》、無形なる原初の神を模倣する。ああ、完璧だ。あまりに不完全であるが故に『そのもの』だ。しかし、総ては捕縛する為の布石でしかなく。だからこそ、魔女は睨まれた蛙どもとされたのか。不完全の劣化版……本来ならば回復の側面もあるのだが……贄を止めるには、十分な拘束。出来損ないの魔女はお顔を蒼くした。これじゃあ、こんなんじゃあ、誰にも認めてもらえない。
 どんな手合いを寄越すかと思えば……成程。信仰すら願いへと歪め、冒涜そのものとし、使い捨てるか。この反応すら含めて、背後で……物語の終盤で、愉しんでいるのだろうな、教授。鬼に金棒を渡すのではない。鬼が金棒を渡したのだ。先程のやり取りで腹の底は見えた。ならば、無駄に……僅かでも……時間を与えるわけにはいかん。
 藻掻いている。足掻いている。上下をひっくり返されたかのような、滅茶苦茶にされたかのような、そんな表情で繋がれている。残念だが……汝らの願いも、教授の望みも、ここでは叶わん。仮に、次が有るのだとしても……我が一切合切を『完全』にはさせん。
 荒覇吐倶利伽羅之大太刀――ひとつ残らず薙ぎ払った。

アーシャ・ヴァリアント

 深淵と深海を違えるかのような失態であった。加えて、己が失態をしているのだと、決して、認めようともしない精神性なのであった。いっそ、洗脳され、催眠され、云々とメルヒェンな有り様なのであれば救いようもあったと謂うのに。いうこと聞いたらお願い叶えてくれるとかアンタら大丈夫? 頭の中お花畑もたいがいにしときなさいよ。相手は自称しているくらい犯罪者なんだけど。アーシャ・ヴァリアントの正論が出来損ないの魔女っ子の心に突き刺さった。否定をされればされるほど、真実を叩き付ければ、付けるほど、莫迦につける薬はないと悟らせてくれるか。騙されて使い捨てられるのがオチなんじゃないの、神頼みなのかアイツ頼みなのかしらないけど。むぅ……ひどいこというお姉ちゃんだね。私たちは、心の底から、わかっていないからこそ、この信仰ができるんだよ。眩暈はない。頭痛の種にもなりはしない。何故ならばアーシャ・ヴァリアント、オマエの現は『|義妹《●●》以外には無関心』なのだ。まぁ、どっちでもいいからさっさとそこをどいてよね。でないと……人の前のアリンコみたいに、竜に踏み潰されちゃうんだから。移動をせずに三秒間の詠唱。これほどまでに『難しい』条件を達成しなければならないとは、可哀想な小娘たちである。
 宣言したのだ。宣告したのだ。ならば、微動だにしない連中を踏み潰してやるとよろしい。竜の鱗を加工して作られた靴の嗤い。最早、跫音などと、優しい言の葉では表現できそうにない。いや……アーシャ・ヴァリアント、ドラゴンプロトコルが踏みつけたのは地面だ。そのまま噴き出た竜漿の地獄――舌を噛む幼子が続出した。あらら、失敗しちゃったのかしら、まだまだ未熟ってわけね。ちんたらしてたら吹っ飛ばしちゃうわよ? 随分とひどいやり口だ。いいや、これでもマシな方である。少なくとも教授の腹の黒さよりかは……義妹ちゃんの情念の色よりかは。踏みつけるんじゃなかったのかって? 残念、アタシ足癖が悪いの。ひとつ、ひとつ、確実に蹴りつけてやれ。壁へとめり込んだ彼女等の尊厳、愈々、塵芥もない。……壁と仲良くしてると良いわ。アタシは、もう行くけどね。

一ノ瀬・シュウヤ
ゼロ・ロストブルー

 プロフェッサーの真骨頂、その正体については見ての通りだ。
 二人が出会い、言葉を交わし、魔女に判決を言い渡す。
 信じて疑わないのだから、それこそ、水に沈める必要もない。
 野生の獣にでも遭遇したのかと、飼い慣らされた狼にでも遭遇したのかと、そのような矛盾が急激に襲い掛かってきた。願い、魔女……ろくでもないものを、途轍もないものを、落とそうとしているんだろうが、ひとまずは……。ゼロ・ロストブルー、オマエの双眸が捉えたのは神聖祈祷師を彷彿とさせる無邪気であった。或いは、彼女達こそが確信犯。この信仰には如何様な『悪』もないのだと、心の底から信仰し尽くしている。いあ……はは、まいったな。そのフレーズはオカルト雑誌だけじゃなく……様々なもので、聞くようになった言葉だ。随分と腹を空かせているご様子だが仕方がない。相手が、そのような盲目なのだとしたら容赦の類は出来そうにない。双斧を構え、祈りを捧げ、駆け抜けよ。神様か……申し訳ないが、かなり残酷な事をするかもしれないが、せめて、苦しまないようにと、しておくよ。なるべく多くの敵を、なるべく多くの狂信を、藁のように薙ぎ払ってやると良い。詠唱はさせない。何を招くのかは知らないが……あまねく√に存在している、あまりに自在で……見えない怪物の話か? 或いは……別の世界を、そのものを招く気か? 問答をしたところで答えはない。ぜえ、ぜえ、呼吸をしたくても、魔女たちは最早、術を知らない。だめだな……どうも、俺は平常を保てていない。俺が、彼女たちを苦しめているようだ。目の前の『敵』から目を逸らすな。柄を握り締め、そのまま、喉元だけではなく。
 熟達の側。一ノ瀬・シュウヤの双眸にも『信者』の影は映っている。教授は……モリアーティは、太陽ではなくある種の終焉を落とすと言ったな。名前をはっきりと言ってはいけない神でも落とす気なのだろうか……。おそらく、その予想は正しいのだろう。名前を口にしてはいけない、の部分は教授の戯れなのかもしれないが。後を追いたいが……彼女達がそれを許しはしないだろう。視線を下に向けたならば輝かんばかりのキャンディ。星々へと期待を向けるかのような、見習いどもの、出来損ないどもの、頑張りの証拠。ああ……この感じ。俺も亡くなった教授を……師を信じていたら、同じ穴の狢だったのかもしれない。ひどく眩しいお相手だが、だからこそ、気が進まなくとも『やる』他にない。悪いが、俺も死ぬわけにはいかない。たとえ、死ぬような目に遭ったとしても、俺は息絶えるわけにはいかないんだ。展開してみせたサイコドローン、詠唱をするならば、その口を麻痺させてやれば問題ない。……此方は無力化に成功したが、ロストブルーさんの方は……? 倒れている。ウィッシュウィッチの幾つかが重なり合っている。支援する必要はなさそうだ。山の向こう側から『彼』が顔を出してくれた。
 まるで、母親の胎内から這い出てくるかのような。
 一種のイメージが互いの脳髄を締めつけた。

ディラン・ヴァルフリート

 エレクトリック・マーメイドの歌声を彷彿とさせるほど、嗚呼、綺麗なものなど存在しない。成長すれば、大きくなれば、人魚姫を誑かす事くらいは可能なのかもしれないが、残念。ディラン・ヴァルフリートとぶつかってしまったのだから何もかもは『おしまい』と謂えた。お喋りな|演者《キャスト》ですね。此方も仮面を……悪魔らしさを、外すとしましょうか。無論、一つだけ。膨れ上がったオフィーリアの破裂を臭わせる暴力的なまでの気配だ。びくりと、魔女のひとつが身体を震わせる。嫌な予感を覚えたのか、或いは、微かな違和感を覚えたのか。……想定していた以上に、此方が、暴かれてしまう『可能性』もありそうです。なら、僕も全力を以て『作品』を読み解いてみせましょう。犯行の証拠を集めよ、散らかった部屋を片付けよ。やけに広大無辺な密室とやらを須らく、蹂躙してやると宜しい。
 詠唱については、三秒間程度であれば、少しくらいは赦してやれ。相手は夢を見ている魔女なのだから、出来損ないなのだから、英雄らしく、悪の所業とやらを認めてからに『してやる』と良い。全ては、教授の仕込んだ芸次第ですが……。最初にオマエが受け止めたのは『プラン』を肝とした代物だ。たとえば、籠められた魔力の量に応じて揮われる鋭利。引き起こされた事象については――成程、素晴らしくもグロテスクな|音楽《トルネンブラ》であった。かなり面倒なものを押し付けられたようです。だからこそ、僕は……あなた方に、心の底から『哀れみ』の想いを向けましょう。
 諸々を白紙に戻すほどの星型。
 一切を浄化するほどの聖なる哉。
 旧き神意からの贈物――ええ、摘み取りましょう、その悉く。
 実行犯の役割は最早なく、今までの努力は水の泡だ。
 見習いたちの顔は絶望の一色だ。私たちには何もできない。これ以上のことは、奇跡だって起こりはしない。快刀乱麻というものですね。謎は全て解けた……と決めるには尚早かもしれませんが。がくりと、舞台上から落ちていく願い事。萌えぬ彼女等にせめてもの沈黙を。演出は此方でも考えておきましょうか、プロフェッサー。

四之宮・榴

 不安定なまでの魔力の膨張。贄とされたのだから、ちゃんと『殺される』までがお仕事だ。気づいた時には手遅れなのかもしれないが、しかし、虎穴に入らずんば虎子を得ず。プロフェッサーを仕留めれば大団円なのだから、最果て、彼方まで歩む他にない。
 モリアーティの|計画《プラン》は上等だ。故に、魔女、彼女たちは自身の純真さに胡坐をかいている。そう思えてならないほどに欣喜雀躍、眩むほどに騒がしいのか。……きっと騙されてる、のだと……思います。僕も、このようなことをされたら……頷いてしまう、かも、しれません……しかし、人々に害を成すのなら……判決を待つ必要も……ありません。安楽椅子探偵の亜種のくせに、いいや、亜種だからこそ現場に降り立たんとしているのだ。或いは、降り立たずとも邪魔くらいであれば容易なのかもしれない。……真犯人は、隠れているのでしょう、か? わからない。理解できない。本当ならば、このまま、臭い物には蓋をしておきたいものだが――四之宮・榴、オマエは前向きに事を捉えようと頑張った。ええ……自覚がないのは……見なくてもわかります……そんなに、魔女に……悪人に……なりたいの、でしょうか……。訊ねたところで、問うたところで、総ては魔女の釜の底。情けも容赦もなく掻き混ぜられ――黒焦げになった蜥蜴も原形失くすほどに。
 |半身《レギオン》の群れが魔女どもの|儀式《おはなし》をナンセンスとした。口を塞がれた彼女達は必死にそれらを振り払おうとしている。……貴女様方のしている事は……召喚で……これが、成功しても……魔女にはなれませんし……信者になるか、贄ですよ? 叩き付けられた愚者と魔術師。まったく、その通りだと、最後の魔女が笑みをこぼした。ええ、ええ、構わないのです。私達はちゃんと理解をしています。大丈夫、たとえ、私達が『贄』なのだとしても――真っ黒い書物には、名を連ねたのですから。
 深海よりも、深淵よりも、ねばつく混沌。
 度し難いほどの正体に、あとは、近づいていくと良い。

第3章 ボス戦 『犯罪鬼妖教授『モリアーティ』』


 仮面舞踏会――魔女どもの莫迦騒ぎ――斃れた『もの』から魔力を簒奪する。成程、犯罪鬼妖教授『モリアーティ』の『らしさ』全開と謂えた。会場の外で、摩天楼の最上で、鬼は|文句《●●》を唱えんとするか。ようやく追いついた君達は『空』を……『宙』を見るだろう。たとえば、混沌の化身。たとえば、黒山羊の胎。たとえば、鍵と門。ある種の父性とやらが――盲目している儘に――その蠢動を見せつけようとしていた。
 では、答え合わせだ。
 宙亡とは確かに|空亡《●●》から取られただけの名に過ぎない。私が『名』を唱えなかったのは『魔力が不足していた所為』だ。この場合、インビジブルと言い換えても良いのかもしれない。まあ、兎も角だ。招来は想像していた以上に楽だったのだよ。ああ、そうだ。長ったらしく説明する必要もないだろう。『小惑星の力学』の再現とは、即ち――A.Z.T.Sの覚醒である。まあ、これも、君達が【門を閉じたのなら】台無しだがね。私が痴愚神の世話を焼く、随分と、素敵な破戒だと思わないか。
 |終局的犯罪《The Ultimate Crime》――。

 ※※※
 この章では『モリアーティを倒す』必要はありません。
 倒すのも手段のひとつではありますが。
 宙亡を招く為の『門』を閉ざしてください。
 方法は自由です。
星越・イサ

 病的かつ冒涜的な禍々しい混沌とした痛み、そのように連ねた言の葉を受肉させたかのような有り様と謂えた。天、或いは宙、エネルギーの一部だけを|挨拶《はじめまして》した痴愚神は覗き込まれている事すらも解りはしない。あれこそ混沌、あれこそ私。ちっぽけな肉の袋でしかない星越・イサだが、オマエの頭の中では確かに『似たような』カオスが蠢いているのだ。教授に感謝を、犯罪界のナポレオンに感謝を。狂気に喝采を、混沌に歓喜を。痴愚神に――ありとあらゆる惰眠に、祝福を――止めるだなんてとんでもない。きっと、私は、これに遭うために来たのです。まったく惑星級な望外だ。小惑星の力学、などとお行儀よく書いてはいるのだが、これは最早『黒の書』だ。ええ、確かに、教授の言っていたことは嘘ではないのです。あの魔女たちは、ちゃんと、魔女にはなれたのです。それに、私は、混沌に身を投じ混沌を手招きしてしまうのです。しかし、ああ、這い寄るかのような混沌だ。反芻をすればするほどに、味わえば味わうほどに、総ては未曾有へと昇華されてしまう。
 教授……ジェームズ・モリアーティ……かわいらしい簒奪者、ゆめゆめ忘れませんことを。混沌は……私たちは……あなたの思い通りに働きませんし、私は|混沌《『わけがわからない』》の中から人類のために|未来《●●》を選ぶもの。鬼が嗤う。まるで、それすらも『予想』していたかのようにEDENを観察した。ああ、君ならば『できる』だろう。私は、君のような者にこそ混沌を名乗ってほしいのだ。宙が亡くなったのであれば、破滅がカタチとなったのであれば――不定へと直してやると宜しい。
 どんなに不可解な過程を辿っても、どんなに眩暈を覚えたとしても、最後は人類のためになる――私を用いるとは、そういうことです。嗚呼、混沌。新たに生じていた|混沌《ナイアルラトホテップ》――恍惚と溺れるが儘、見上げ、手を伸ばすといい。
 揺るぎなき確信を以て|門《●》を、
 √の傷を治していく。

アーシャ・ヴァリアント

 お話にならない。お話が出来そうにない。
 匙を投げつけるかのように鬼は嗤った。
 焚べた情念の数多、その未曾有については最早、アーシャ・ヴァリアントにはわからない。教授の精神状態など、プロフェッサーの想いなど、オマエにとっては欠片としても如何でも良く。仮に、真に|世界《√》が滅んだのだとしても、其処に義妹ちゃんが在れば関係ない。言わんこっちゃないわ、大層なこと言ってたけど上手いこと言って調子に乗せて……都合よく操って一方的に使い捨てて、挙句、貰うものは貰うって単なる詐欺師よね。いや、そもそも犯罪者なのだ。犯罪界のナポレオンなのだから、詐欺くらいは当然、熟してくれるに違いない。妄想なんかしてるから、夢を見ているから、こういう目に遭うのよ、アタシのようにしっかし自分を持ってれば平気なのに。流石はアーシャ・ヴァリアント、痴愚神も吃驚なほどの盲目だ。此処までまっすぐ混沌とした精神をしていれば、嗚呼、直視したとしても狂ったりなんかは出来ないだろう。んで? 門だっけ、要は自分じゃ壊せないから助けてくださいよ神様ーってわけね。知らぬが仏、無知蒙昧、そのような言葉が金魚のフンになってくれたのだが、オマエは臭いに気づけない。煽りに煽りを重ねんとする赤色の咽喉、教授は如何様に答えてくれるのか。成程、あれを神とするならば『そう』かもしれない。だが、あれは只の兵器に近しい。それこそ、使おうとする者がいなければ終局は来ないのだよ。
 んなこと言われても、アンタ。過程も他人頼みで実行も他人任せじゃないの、せこいわね。男だったら自分でなんとかしなさいよね、自分で。へえ……君は確かに、何処かの、暴力的なタイプの男に好かれそうだ。もしや、そういう趣味でも持っているのかな。ああ、勿論、私は別に、それを罵る為の種にはしないが。あ? なんですって??? アタシがマゾだって言いたいの? そんな言葉でアタシが揺らぐとは思わないことね。小男の総身が知恵もたかがしれっていうわよ、筋肉つけなさい筋肉、アタシと似たような角生えてるんだし。教授はため息を吐いてみせた。少なくとも鬼なのだ。おそらく、殴り合いをしたとしても『己は強い』と証明してくれるだろう。だが、教授はそのような沙汰には興味がない。
 ああ、鬼なら鬼らしくふるまったら? まぁなんだっていいんだけど。
 上を見よ、ドラゴンプロトコル。蓄えに蓄えた|竜漿《ちから》を発揮する時だ。さてと……門を閉じるとしますか。どうするかって? そりゃ文字通り外から閉じるのよ、アタシの『力押し』は鬼神じゃなくて機神だけどね。嗚々、知るが良い。ひどくじゃじゃ馬な女の超常性を。竜の鱗を彷彿とさせる機械仕掛けの|竜《神》が混沌の坩堝へと突撃した。ああ……教授? さぁ、余波かなんかで燃え尽きてるかもね。もしくは踏みつぶしたかも。何方にしても押してダメならもっと押せ、格納されている誰かさんの事など気にする所以なく。焚べろ、燃やせ、いつかは綺麗サッパリいなくなる。
 あの玉座を台無しにせよ。

和紋・蜚廉

 ひとつの布が戦況をひっくり返す。
 痴愚神からの祝福が、より、原初のカタチを確かとした。
 勝利を確信しているのか、もしくは、完敗に喜悦しているのか、星詠みでもある鬼は金棒を持たずとも老獪であった。ある種の無聊に塗れていた悪役は英雄の姿を歓迎しているとも考えられよう。嗚呼、汝……何処までも、我等を愚弄したいのか。和紋・蜚廉、成程、オマエはちっぽけな蟲なのかもしれないが、生き残った誇りに懸けてこの破滅を喰い散らかさなければならない。閉じる……か。生憎こういった、超常的な、神秘的な手段は苦手だ。いや、汝、あの『穴』は一種の巣窟へと繋がる道なのではなかろうか。ならば……物理的に埋める事を試させてもらおう。神意であると同時に只のエネルギーなのだ。教授も口にしていた通り、あれらはインビジブルが集った結果とも解せよう。蟲には蟲のやり方が、蛇蝎には蛇蝎の在り方が、しっかりと見出せるのだと理解させてやると宜しい。
 長い物に巻かれるつもりはないが、しかし、煙に巻くこと、躊躇はない。展開された蟲煙袋――果たして、増える鼠を如何様にして潰すと謂うのか。いいや、鼠を、殻を潰したのはオマエ自身である。自棄でも起こしたのか、狂気にでも陥ったのか。否――殻より出現した|分体《くろ》がスタンピードに駆られるかの如く、波の如く。汝、我が身を留めると宣うのならば、我が身を失態させると宣うのならば、焼け石に水という諺を咀嚼しておく必要がある。封じられたところで、計画を練られたところで、方舟は最早ないのだから。
 生憎、まざまざ正面から突破するだけの愚直さを、発揮し続けるだけの頑固さを持ってはいない。為すべきことを為そう。我が我たる所以を示そう。なにせ、乾杯したからな。この妨害は――望外こそを――成功させよう。
 視よ、蟲によって始まったバベルの完成を。
 宙が亡くなると謂うのであれば、オマエこそを夜とせよ。
 壮観だな、我が影は。
 門が詰まるまで――何処かの白鳥のように――喰らわせてやろう。

一ノ瀬・シュウヤ
ゼロ・ロストブルー

 教授に|致死《きず》を負わせた。その瞬間、魔力の流れに歪みが生じた。
 時間稼ぎとしては上出来だろう。
 脳髄を締め付けられたのか、或いは、精神を摩耗させられたのか、最悪のバイキングとやらに二人、脅かされるほどの眩暈を覚えた。正直なところ、神意なところ、尋常な心にとって『これ』は救われたくなるほどの奈落と謂えた。一種の悪夢を迎えた|世界《√》の悲鳴に抱擁され――刹那、自らが完全に発狂をしたのかと錯覚するほどに――気分が優れない。……門を閉じたのなら、と言ったのか。そうしたいのは山々だが、それに必要なものは……。一ノ瀬・シュウヤの眼球がようやく正常になってくれた。そのまま、周囲を見渡したところで『目当て』の品は見つからない。確か、何かの印が必要だった気が……? 枝であろうと、星であろうと、藁であろうと構わない。焼け石に水だとしても……? 待て。あったとしても呪文も必要だとエミが言っていたか。なら……即座に『ふたつ』も用意できるほど、俺は利口な人物ではない。困難だな……。達人には達人なりの想いがある。一ノ瀬・シュウヤには一ノ瀬・シュウヤなりの希望がある。先人の知恵が手元にないからといって諦めるわけには……何もかもを放棄するわけにはいかない。通じるか分からないが……いや、ロストブルーさん? 何か、考えが……。
 巨大だ。あまりに巨大で強大な|終局《門》なのだ。ひとつの生命体だけで、ふたつの生命体だけで、封じ込められるとは思えない。ただ……門ならば戸が、鍵があるんだろう。開ける呪文があるなら……創る文句があるなら……その逆もあるのではないか? ゼロ・ロストブルーの解答は一ノ瀬・シュウヤと同じであった。俺にできることは……あまり、人には見せたくはないのだが……背に腹は代えられない。元冒険者としての生き方が此処に来て『活きてくる』か。倒れている魔女たちの『生き残り』に懸けてやると宜しい。仕事道具を、カメラと手帳を手にしつつ|被害者《●●●》へのインタビューだ。ああ、少なくとも君は英雄になれるだろう。魔女たちの暴走から、狂気から、ひとり世界を守った者として。真実を見ているのは――これを知っているのは、俺たちだけなのだから。つまりは『呪文』を教えてほしいという懇願。だが、果たして効果はあるのだろうか。元冒険者はこの行為が無意味なのかもしれないと薄々気が付いている。
 ……だれが、いいますか。
 わたしたちは、キザイア・メイスンですよ?
 おそらくだが、ロストブルーさんの考えはあまり良くない結果になったらしい。なら、せめて、足掻いてやろうと一ノ瀬・シュウヤは全力を尽くす。白鳥の出入りを禁止にする、それの巨大なバージョンなのだ。じわり、じわり、限界を突破してようやく『門』が動いた。まだ、希望はある。精神的なダメージは極めて深刻かもしれないが、そのような些事にやられている場合ではない。死ぬよりはマシだ。俺は……俺たちは、帰らなくちゃならない。そうして一所懸命をしているオマエ、目の前に直立してみせたのは教授の嗤笑か。正気ではないと……そう、言いたいのか。その通りなのかもしれない。俺には特別な力など『ない』からな……だが、こうして足掻けば、藻掻けば、必ずや突破口が……。
 油断していたのだろう。傲慢をしていたのだろう。
 綺麗な青空の為に何度でも……。
 何者かの無駄|ではない《●●●●》足掻きによって、教授の首が刎ねられた。
 ああ、そうだ。モリアーティ教授。
 部下や妹の情報を、ろくでもない男に贈らないでくれ。
 聞き流すかもしれないが……いや、もう、聞いていないのかもしれないが、構わない。いいや、聞こえていた。首だけにされても尚、犯罪界のナポレオンは健在である。では、探偵諸君。最後の最後まで諦めてくれないことを祈るよ。
 言われなくても、煽られなくとも、
 サイコドローンは止められない。

四之宮・榴

 地面が抉れるよりかはマシな被害だ。
 数多の人や妖が直視して惨事を招く前に〆ると良い。
 名もない霧の彼方にてひとつの可能性を引き留めた。
 教授は――悪役は――勝ち誇った|演技《ふり》をして、敢えて、正解とやらを示したのだ。ひどく腹立たしいが、ひどく苛立たしいが、その線路とやらに乗っかってやる他にない。いや、四之宮・榴にとってはそのような感情、それこそ、塵芥のような大きさなのかもしれないか。……つまり、力が足りないから……インビジブルが無いから、やれなかった……? それならば何故、EDENで行わなかったのか。それならば何故、楽園を落とそうとしなかったのか。もしかしたら教授は犯人として旋回しようと試みただけなのかもしれない。大渋滞する『かもしれない』の最中、オマエは一種の満点に到達する。……むしろ、現在だって維持に……門を開き続けていることに、使われているはず……です。相手はインビジブルを掌握している。しかし、王劔ほどの支配力は有していない筈だ。ならば、為すべきことは、成すべき沙汰は『ひとつ』だけ。……彼らには、協力者になって、いただきましょう。嗚呼、見えるわけがない。たとえ、宙亡が√能力者なのだとしても、盲目なのだから。
 神に情念が存在するのだとしたらダイスゲームが大好きなだけか。
 何方が贄なのかを教えてやるといい。己こそが美味しいのだとハッキリ伝えてやると宜しい。……愛されているのは……きっと、僕の方ですから……此れだと、巫女のようです、ね。大きな、大きな、鯨の群れが|門《ゲート》を離れていく。そのついでと言わんばかりに教授へ。素敵な、素敵な、贈り物か。まったく、私のやり方を理解してくれたようだ。君であれば次の『門』になってくれるかもしれないな。勘弁してほしいお言葉だ。……贄は、よく選ばれた方が……宜しい、ですよ? 教授を覆い尽くしたかと思えば|遊泳《そら》へ。閉じるなんて生易しい。いっそ、物理的に壊すべきだ。
 宙亡に知性はない。だが、少なくとも、浅くなった眠りの中で。
 四之宮・榴を睥睨している。

ディラン・ヴァルフリート

 プロフェッサーは何度目かの死を悟った。
 悪くない、死に方だ。責任くらいは取ってあげよう。
 無差別殺人、大量殺人、いいや、最早、この場においては虐殺、もしくは鏖殺に等しい。成程、そう思惟してしまえば今回の教授は立派な加害者であり、情けも容赦もない猟奇の化身と謂えよう。何故、彼女達を贄の役に? 問うてみたところで教授は答えてくれないか。いいや、おそらく。ディラン・ヴァルフリートなりの『こたえ』を見つけてほしいと、そういった意図なのかもしれない。今のところ莫迦を見たのは簒奪者の雛だけ。ああ、無辜の民でも殺していれば爪痕くらいは残せたというのに。まさか、爪痕を残す事を嫌っているとか。違う。あの男は星詠みの力を理解している。なら、失敗作を……出来損ないの魔女を、残す気が無いとでも言うなら……まぁ。その程度の気障であれば流しはしますが。
 沈思黙考――仮に、その全てが読まれているのだとしても、続けずにはいられない。詠まれている事だって、それこそ構わないか。仮に、僕が座視していれば|百鬼夜行《この√》は終わるのか。もっと、言葉にするのなら全ての√は潰えるのか。おそらく――招来が順調に進んだように、黒い書物に名を連ねたかのように――そうはならないのでしょう。これは確信だ。ある種、前世から受け継いできたデウス・エクス・マキナの正体だ。次はあるかも不確かな星の巡り。ならば此度は……此処まで漕ぎつけて猶も叶わない、此処まで積み上げてきて尚も届かない、相応の理由を手向け代わりに。
 君はやはり、此方側だ。
 君にとって最上のプランを用意してやってもいい。
 あまりにふざけた返しであった。あまりに知性的ではない返しと思えた。ジェームズ・モリアーティの名を冠する簒奪者は、より、汚泥な『もの』を掬おうとしたのだろう。ならば、いよいよ、ディラン・ヴァルフリートは『オマエ』をしなくてはいけないのだ。世界の終わりを拒むには世界を滅ぼすだけの力を。ええ、ひとつ間違えれば、彼方と同じように、世界を砕き得る荒業ですが……どうせ、そうはならないのでしょう。これは|再現《リプレイ》にすぎない。これは|勧善懲悪《リプレイ》にすぎない。これは……。
 すべては簒奪者の仕業です。
 敵の強大を制しきれぬ事を悔やむばかりです、ええ。
 ――最果て、言葉も無くなった。
 黒く、巨大な竜が――災厄の権化が――王座を砕かんと、概念を殺さんと、門へと往く。終末こそを権能として『門』の彼方、ギミックボスへとご挨拶した。終局的犯罪の『核』を蹂躙する事はそれでも難しいのかもしれないが。しかし、門の機能は屠り尽くした。これで幕引きだ。教授の断末魔については、嗚呼、誰も耳にしなかった。

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