Diabolic iDOL~殺戮の歌姫
●悪魔のライブステージ
日々がどんなに過酷でも、戦火が多くの街を焼いたとしても。
犠牲の上に建つ|天蓋大聖堂《カテドラル》の下で、人々は命を叫ぶのだ。
「みんな~っ!! 今日は来てくれてありがとーっ!!!!」
華やかな衣装に身を包んだアイドルがステージの上から手を振った。ステージをぐるりと囲んだ観客席では、人々の振るサイリウムが七色に煌めく。
かねてより企画され、ようやく実現した合同ライブだ。戦時下でも活動し続けるアーティストたちが順にステージに上がり、歌やダンスを披露する。
「次のグループを紹介するね! 次は……」
「次は私よ」
それは予定にない登壇であった。上空からアイドル衣装に身を包んだツインテールの少女が降りてくる。浮遊自体に驚きはしない。元より天蓋大聖堂は重力を制御できるからだ。だが、明らかに用意されていた台本と違う。
「だ、誰……?」
「知らないなら教えてあげる。私は少女人形系アイドル『イドロ・ディアボリカ』!」
火炎機械虫『フライボム』の軍勢を引き連れて、イドロは観客たちへと声高に言い放った。
「さぁ愚民どもっ! 私の歌を聴きなさい!!」
フライボムが演出に火柱を上げた直後、ハックした音響設備から音楽が鳴り出す。激しくもダークなロックナンバーと共に、イドロは空中を舞い力強い声で歌う。
「な、なんだ!? あの少女は……!?」
「体の奥まで声が響く……魂が震えるみたい……!」
圧倒的な歌唱力とパフォーマンスに、観客たちは魅了された。盛り上がる人々にイドロは満足げに笑う。
「コレは死にゆくお前たちへの手向けなのよ。私の存在を心に刻んだところで――」
フライボムの演出が人々へと向いた。炎が瞬く間に観客席を包み込む。
「炎と弾の嵐に呑まれてお逝きなさい!」
機関砲6門、高性能センサー他、多数の火器から弾丸が射出され、観客へと降り注いだ。歓声が悲鳴に変わり、ライブ会場が血と炎の赤に染まる。黒煙の中で、イドロの前に歌ったアイドルが声を荒げた。
「なんで……なんでこんなことを!? みんなを夢中にする歌声を持っているのに……!」
叫ぶ彼女に、イドロは凶悪な笑みを滲ませる。
「そんなの決まってるでしょ? 人類は戦闘機械群に支配されるべきなの。従わない者たちは皆殺しよ」
●人々の危機
「……覚えてもらっても、殺してしまったら意味がないでしょう。色々と破綻していますが、これも彼女に寄生する戦闘機械群の影響かもしれませんね」
本来の彼女の音楽性や性格は、現在とは異なるのかもしれない。|泉下・洸《せんか・ひろ》(片道切符・h01617)は淡々と語りつつ、依頼について説明を始める。
現場は√ウォーゾーン。人類によって奪還された都市で合同ライブのイベントがあるらしい。そのイベントに襲撃を仕掛けるのが、暴空機構『イドロ・ディアボリカ』という簒奪者だ。
「イドロはライブに乱入し観客に歌を聴かせた後、観客を皆殺しにします。皆様にはイドロの凶行を阻止していただきたいのです」
イドロの殺戮がなされてしまえば、犠牲者の数は計り知れない。
「イドロは歌を聴かせ終えるまで人々に手を出しません。つまり、最初から彼女のライブを妨害してしまえばよいのです。乱入ライブに『乱入』してください」
イドロと同じタイミングでライブに乱入し、彼女と被せるようにパフォーマンスするのだ。彼女から観客を奪うわけである。パフォーマンスではなく、騒音や爆発などで直接的に妨害しても構わない。その場合は観客の安全にとくに注意してほしい。
「せっかくのライブを台無しにされたイドロは、観客ではなく皆様に殺意を向けるでしょう。そうなればこっちのものです。あとは彼女とその配下『フライボム』と戦闘を行い、撃破してください」
選ぶ手段にもよるが、今回は戦闘力だけでなく人々を惹き付ける魅力も試される。人々の生命を守るためにも、全力で彼女に挑んでほしい。
●乱入
依頼を受けて現地に赴いた√能力者たちは、身を潜めてイドロの襲撃を待っている。
事前に行動を起こすと予知の内容が狂う危険性があるため、まだ表に出ることはできない……来ると知っている襲撃を待つだけというのは、なんてもどかしいのだろう。
アイドルが歌い終え、次のグループを紹介しようとする。予知どおり、そこにイドロが現れた。
――今だ。ようやく時が来たと、彼らは行動を起こす。
第1章 冒険 『カテドラル・パルクール』
●ステージに迫る鉄拳
人々の賑わいと希望が集うライブ。それが今、危機に瀕している。
ライブ会場にイドロが現れた瞬間、ざわめく観客たちの中から彼は凛と立ち上がった。
ラディール・メイソン・らでぃーる・めいそん(サティー・リドナーの元Ankerの「天使」・h06597)だ。
「一般人をライブで勧誘し、騙して無差別に殺めようなんて許せませんね!」
絶対にイドロを妨害してみせる。当然、観客をパニックで危険に晒さない安全な方法で。
(観客にはライブを純粋に楽しんでもらいたい……!)
イドロを真っ直ぐに睨み、ラディールはその身に特殊爆煙エネルギーを発生させた。
余剰エネルギーが解き放たれた瞬間、ゲーミング爆発が巻き起こる。これもショーの演出だ。ド派手な爆発音と虹色のキラメキを纏い、ラディールは舞台に上がる。
「イドロ! ボクが相手です!!」
客席から歓声が上がった。
「お前何なの? お子様は引っ込んでて!」
イドロはラディールより年上に見えるが、「お子様」と言えるほど大人ではない気がする。
「引っ込みません! 必ず人々を守ります!」
拳を構え、|百錬自得拳《エアガイツ・コンビネーション》の構えを取った。ステージ上で対峙するラディールとイドロ。まるでヒーローショーの幕開けだ。
(格闘もライブバフォ-マンスと観客に伝わればいい、出来るだけステ-ジに止めて襲撃する隙も与えないようにしないと)
誰かが観客を避難誘導するならば、その手助けにもなるだろう。
拳による攻撃と怪力、牽制など技能を駆使し、百錬の鉄拳を次々に繰り出した。
「私の歌を邪魔するなんて! 忌々しいわね!」
鉄拳を受け止めながらイドロが悪態をつく。
「何を言われようと構いませんよ。ボクは拳を振るい続けるだけですので」
緊張と悪意に満ちた空気の中でもラディールは冷静だ。イドロに狙いを定め、鋭いパンチを何度も打ち込む。
少なくとも観客の避難が終了するまでは、イドロを追い詰め、彼女の気を引き続けたい。
●かわいいペンギンショー
ルスラン・ドラグノフ(лезгинка・h05808)は、依頼のために万全の準備をしてきた。あとはイドロ乱入のタイミングで突入し、作戦を実行するだけだ。
「На кригу, сини Морозка мої!」
|モロズコ皇帝の軍隊《モローズィクインペラトル》を呼び出す。
12匹のコウテイペンギンの兵士が、空間の裂け目から飛び出し、てちっと着地した。
「よし、揃ってるね。みんな準備はいいかな?」
「グワー!」
ペンギンが元気に鳴く。同時、ライブに乱入したイドロの声が届いた。
「次は私よ」
「グワアアアッ!」
「良い歓声ね……でも、なんだか人類の声とは違うような……?」
ルスランが呼んだペンギンたちの鳴き声だ。ペンギンたちは、てちてちと小走りにステージへと飛び乗った。
「は? ペンギン?」
状況を飲み込めないイドロ。彼女の理解を置き去りに、スピーカーから音楽を響かせる。√WZで老若男女に人気で踊れる明るいナンバーだ。燕尾服を纏ったルスランが、ペンギンたちに続いてステージに上がった。
「はーい、みなさん! ここで愉快なダンスはいかがですか? 12匹のペンギンダンサーズが踊りますよー! 踊れる人は一緒に踊りましょう。もちろんクラップで盛り上げるのも大歓迎!」
よちよち、ぴょんぴょん。一生懸命踊るペンギンたちに、観客の目は釘付けだ。
「えっ、かわいい!」
「ペンギンなんて久しぶりに見たぜ!」
ヒレのような翼をぱたぱた、くるんと右回り、左回り。こてんと腹から転がって、わたわたしながら起き上がる。テンポもバラバラだけれどそこはご愛嬌!
「だって可愛い生き物は何したって可愛い! ですからね」
まさに可愛いは正義。ちょっとだけペンギンが羨ましい。イドロが唇をギュッと噛み締めた。
「か、かわいい……じゃなくて獣風情が私の歌を邪魔しないで!」
「本音が漏れてる……」
こんなに可愛らしいペンギンたちに邪魔されてはイドロも歌えない。
●護るための爆弾
√WZという過酷な世界で合同ライブ開催に至るまで、多大な時間と労力を要しただろう。準備が大変だったことくらい簡単に想像がつく。
|徒野・廉《あだしの・れん》(【Digitalis】・h09001)は、スタッフとして舞台裏に潜入した。
(俺に歌って踊れるような愛嬌と技術があったらステージに乱入もできるんだけど俺にはそんなのないし。スタッフとして紛れるのが手っ取り早いよね。一般人が入れないようなところにも入れるし)
せっかくの合同ライブだ。戦闘機械群に滅茶苦茶にされてはたまらない。
待ち構えていると、カテドラルの上空からイドロが降りてきた。
「来たね。そう簡単には歌わせないから☆」
タイムフェーズ・グレネードを内臓したドローンを複数、舞台裏から上空へと飛ばす。観客に危害が及ばず、なおかつ気は引ける程度の距離まで高度を上げた。
(空高くまで上げて〜、はい爆破☆)
爆破の指示を出した直後、ドローンが爆発する。
カテドラルの天井を爆炎が染め上げた。大きな爆発音が、歌い出そうとしたイドロの声を遮る。
廉はすぐに観客席へと飛び出して、大声で人々に呼びかけた。
「警告! 警告~! 爆発があったんだよ! ここは危ないから避難して~!」
廉の呼びかけに観客たちが騒めき立つ。
「爆発だって?」
「もしかして戦闘機械群の襲撃……!?」
廉は観客を避難経路へと誘導し始めた。
「はい、こっちだよ~! この避難口から外に出てね~!」
ステージから視線を感じる。強烈な敵意に満ちた眼差しが、肌に突き刺さるようだ。
ちらりと目をやれば、イドロが忌々しげに廉を睨んでいた。
「爆発は私が演出するつもりだったのに。誰?」
「……『イドロ・ディアボリカ』か……」
魂を震わせる歌声を持ちながら、その手は人々を殺害する。才能があるのになんて勿体無いのだろう。
「戦闘機械群として歌って踊って戦うなら……俺が相手をするよ」
彼女に人々を殺させはしない。
●射撃の名手
アイドルの歌声と観客の歓声が耳に届く。
ビルのように聳え立つ構造物から、|東雲・グレイ《しののめ ぐれい》(酷薄なる灰の狙撃手・h01625)はライブ会場を見下ろしていた。
「まったく、私は踊るの苦手なんだけどな」
波打つサイリウムを眼下に捉えつつ、パワードシャープシューターを構える。
ダンスとは感情表現の一種とも言える。出自の関係で感情に乏しかった彼女にはハードルが高い。
「……けど、こっちのやり方なら得意だ」
ライブ会場の上空には、サテライトバウンサー展開済のスナイプスポッターを複数機飛ばしている。ドローンカメラに偽装しているため、怪しまれることもない。グレイは狙撃体勢を維持しつつ、イドロの襲撃を待った。
「……そろそろだね」
アイドルが歌い終えた直後、イドロがカテドラル内に出現する。
「ターゲット、ロックオン」
狙うのはライトやスモーク発生装置といったライブ会場の設備だ。
位置はあらかじめスナイプスポッターで観測済。観測情報は狙撃観測型スマートフォンを介し、パワードシャープシューターのAI搭載炸裂弾頭に送信する。
銃弾が空を裂いた。正確な弾道計算によって、的確に狙いの設備へと着弾する。破壊されたライトは火花を散らしながら砕け、制御を失ったスモーク発生装置は白煙を噴き上げた。会場に発生した異常に観客が気付く。
(まだだ。もう少し破壊する必要がある)
イドロ登場のインパクトが霞むまで狙撃を繰り返すべきだ。空中を飛行するフライボムがグレイを感知し、銃口を向けた。
――そんな攻撃は見えている。
「焦るなよ、あとで相手してやるから」
グレイは即座に跳躍し、ステルス迷彩で姿を隠した。使い捨ての迷彩だが、別の狙撃ポイントに着くまでもてばいい。敵はグレイを見失った。ならば引き続き破壊活動だ。
観客が本格的に避難を始めるまで、徹底的に射抜いてやろう。
●お淑やかな爆破
√WZの人々が楽しみにしていたライブを、戦闘機械群に破壊させるわけにはいかない。|戀ヶ仲・くるり《こいがなか・ーーー》(Rolling days・h01025)は表情を引き締め、旅団の面々に呼びかける。
「観客さんの安全、守りたいですねっ。シンシアさん、守りをよろしくお願いします……! 私、足止めするので、帝凪さん、ツィリちゃ、」
「ライブステージと、ビジュアル満点の俺……! この二つを合わせて観客の興味を惹くとなれば手はひとつ! そう、爆発だな!」
そこに重ねられたのは、|皮崎・帝凪《カワサキ・ダイナ》(Energeia・h05616)の大きな声だ。|魔王様の玩具箱《ダイナサマボックス》から発明品の爆弾を召喚する。
「えっ……どうして危険物を!? あれっ、歌って踊って妨害する流れじゃ……ビジュ💮の使いどころはここでは!?」
どちゃっと溢れ出す無数の爆弾に、くるりは目を疑った。
一方で、シンシア・ウォーカー(放浪淑女・h01919)は爆弾の使用に乗り気である。
「爆破集団の本領発揮ですか! とはいえ一般客がいる状況、お淑やかにいきましょう。大丈夫ですよ淑女なので」
淑女による爆破行為。なんと優雅な立ち振る舞いか。……本当に?
「お淑やかに優雅に爆破してこそですもんね。これでまた迷周の名が世に知れ渡る……! 良い事です!」
|夕星・ツィリ《ゆうづつ✱⃟۪۪۪͜ːु⟡⋆⁺.⋆》(星想・h08667)が期待に瞳を輝かせた。爆破というインパクトを与えてこそ、迷周の名を残すことができるのだ。
「お淑やかで優雅な爆破ってなに!? 迷周は爆破集団じゃないよぉ!? 方向性も迷子だよー!」
くるりのツッコミが虚しく響く中、帝凪は召喚した爆弾を両手に構える。
「肝心の破壊力を搭載し忘れて倉庫の奥底に眠っていた慎ましくお淑やかな逸品だが、この状況には最適だろう。観客の保護はシンシア、頼んだぞ!」
「任せてください! 盾持つ乙女の名の下に、観客の皆さんを守りましょう」
シンシアは|Hervor《ヘルヴォル》を発動し、観客に向けて防護属性の弾丸を乱れ撃った。プリズムランチャーから放たれた光が観客を覆い、彼らの盾となる。
「ふふっ、これで観客の皆さんにも安全にお淑やかな爆破をご覧いただけますよ!」
準備は整った。ツィリは自前の|腹腹時計《刻の礎》を起動する。
「シンシアさんに守っていただけるなら安心です! これで遠慮せず、お淑やかに爆破できますね!」
なるべく爆破の勢いをお淑やかめに調整してから投擲。|Lumière Stellaire《ホシノヒカリ》も共に発動すれば、優しい星灯りが灯る。花弁を散らしながら爆弾は上空で爆発した。それを開幕の合図に、帝凪も爆弾を怒涛の如く放り投げる。
「さあ! お淑やかな爆破ショーの始まりだ!」
音響弾から発生した衝撃波が、会場の空気を震わせた。驚く観客と眉を寄せるイドロ。だがそんなことなどお構いなしに、帝凪は会場のあちこちに爆弾をばら撒き続ける。イドロの足元に転がった爆弾がピカッと光り、空気を裂くかの如き音を響かせた。
止め処なく響く爆破音。もはや歌どころではない。
ツィリは爆弾が上空で輝く様を、清々しい表情で見上げた。
「冬の空に響く爆破音も良いよね! 花火みたいで綺麗だし、これもきっと風流。新しい風物詩にならないかなぁ」
シンシアも花火を見る感覚で、のんびりと爆破する様子を眺めている。
「暖も取れますし一石二鳥では? いやあ爆破は風流ですねぇ」
カテドラルの内壁が衝撃波の影響で剥がれ落ちた。破損した箇所は雑用インビジブルに修復させる。お淑やかな性能の爆弾なので、少しインビジブル融合させるだけで元通りだ。
一方で、現実を受け入れたくないくるりは、空に咲く爆発を見て絶叫している。
「あああ、派手な爆発! やだよぉそんな風物詩!」
しかし、今の彼女は悲しくも少数派。爆破は今や迷周の冬の風物詩となりつつあった。団長が少数派とは、一体どういうことか?
「この短期間で驚くべき(※爆破の手腕の)成長だ、ツィリ! そろそろ俺も後進に道を譲る頃かもしれんな……!」
ツィリの鮮やかな爆破に、爆破の師たる帝凪も喜びを噛み締める。
「ありがとうございますダイナ様! でも私なんてまだまだ新米ですから、これからも(爆破の)ご指導お願いします!」
ツィリがぺこりとお辞儀をした。美しい師弟関係だ。
シンシアは最初こそ爆破する仲間を見ているだけだったが、楽しそうな彼らの様子に触発される。
「私も爆破したくなってきましたね。魔法を使うか……その辺のインビジブルを爆弾にしてもいいですね」
周辺のインビジブルを寄せ集めて一つに固める。爆破の技能をお淑やかに込めて、インビジブル爆弾を作り上げた。えいえいっ、と軽いノリでぶん投げる。インビジブルたちが悲鳴を上げながら爆散した。
「あああああ、シンシアさん爆破参戦!?」
叫ぶくるり。
「楽しくなってきたな! いいぞ、もっとやれ!!」
帝凪がぽいぽいと爆弾を投げ続ける。
イドロは苛立たしげに爆破に対処していたが、肝心なことに気付いたようだ。
「なにこれ、威力が全然ないじゃない」
「あっ、あ! 帝凪さんの爆弾が威力ないって気付かれた!? 歌っちゃいそう!」
くるりが咄嗟に|PsychoQuake《カミガリゴヨウタシ》を発動させ、霊能震動波でイドロの足元一帯を震動させる。
――ころころん。それは奇跡のタイミングとも言えた。イドロの足元に爆弾がころころと転がる。
「……ん? 足元のあれって」
ちゅどおおおおおん!!!!
「うわあっ!!?」
ド派手な音と衝撃に、くるりは思わず頭を抱えてしゃがみ込む。
くるりの記念すべき初爆破だ。ごくりと固唾を飲んで見届けた帝凪が、盛大に拍手を送る。
「素晴らしい! 一切の無駄がないお淑やかな爆破だ!」
拍手喝采――ツィリも感激に胸の奥が熱くなった。
「ちょっと転がしてみた腹腹時計を……! くるりちゃんが爆破……!」
おめでとう、おめでとう!
祝福ムードの中で、シンシアの顔にも笑顔が浮かぶ。
「わあ、くるりさんも爆破を! ファンサください!」
「ふ、不慮の事故! 爆破したかった訳じゃ……!」
くるりは慌てふためいている。だが、この爆破の流れに抗うことなとできはしない。
ツィリが控えめにファンサ団扇をふりふりしながら、追加の爆弾を投入した。
「爆弾はまだいっぱいあるよ! 思う存分爆破してね!! 追加|ファンサ《爆破》お願いします!!」
「爆破はファンサじゃない!!」
ツッコミが追い付かない。こうなっては、くるりもお淑やかに爆破をキメるしか――。
「こらあぁっ! ライブ会場で爆弾遊びするのはやめなさーい!!」
聞こえたのは警備員の怒鳴り声。観客を掻き分けて4人を捕まえようとしている。
「……これ警備に摘まみだされる可能性? いけませんね! 頑張って逃げましょう!」
シンシアがライブ会場の出口を指差した。場を散々搔き乱した後は、すたこらさっさ。逃げるが勝ちだ。
「こんなこともあろうかと! 逃げる時用に煙幕も多めに準備してきたよ!」
ツィリが煙玉を警備員の方向に向かって投げれば、濃い白煙がぶわりと巻き上がった。
4人はライブ会場から素早く走り去る。
「さらばだ、観客たちよ! 我ら迷周の名をその胸に刻むがいい!」
帝凪は迷周の名を知らしめるべく、高らかに最後の台詞を残した。
他の面々が颯爽と逃げ出す中、くるりも激流に呑まれるような気分で逃げるしかない。
「ど、どうしてこんなことにぃ……」
こうして√WZの一部地域に、迷周という名の爆破集団の存在が、見事知れ渡ることとなった。
●希望の歌
空から訪れるのは、死を齎す歌姫。
戦時という過酷な状況で必死に生きる人々を、彼女は踏み躙ろうとする。
「そんなこと、絶対にさせません」
|大海原・藍生《わたのはら・あおい》(リメンバーミー・h02520)はステージに突入し、イドロをまっすぐに見据える。
「なぁに? 私の邪魔をするつもり?」
イドロが邪魔くさそうに藍生を睨んだ。藍生は凛と立ち、彼女から目を逸らさない。
「歌には家族や恋人を愛する気持ち、困難を乗り越え立ち上がる勇気、傷ついた魂への温かな優しさとかが込められているんです」
アーティストたちも危険を覚悟して活動しているはずだ。戦時中であっても、人々の心に希望を与えるために。そんな彼らの意志を、終わらせたくない。
「……だから、させるつもりなんてないんです! 殺戮のライブなんて」
|Fabulous Fabula《マモルベキホコリ》を発動する。
(俺には女神様の加護があるんだ、失敗なんて出来ない)
勇気と持ち前の歌唱力を駆使し、生きとし生けるものの幸いと誇りを守る歌を歌う。イドロに歌わせるつもりはない。藍生は会場全体に歌声を響かせた。
「素敵な歌声……」
「元気が湧いてくる……!」
観客が彼の歌声に聴き入る。七色のサイリウムが藍生の歌声に合わせて揺れた。
(ここに来ているみなさんは、心を癒やすためにここに来たんでしょう。歌は人々が辛い日々に立ち向かうための力を奮い立たせるものであるべきです)
藍生のパフォーマンスに心を掴まれた観客の傍らに、願いを叶える|小妖精《ピクシー》の群れが現れる。
「そう、今こそ立ち上がる時なんです!」
ピクシーたちは小鳥のように飛びまわり、観客に加護の光を降らせた。藍生の願いが、観客の『安全な場所に避難できる確率』を最大まで引き上げる。
この荒れ果てた世界と自然を象徴する妖精は遠い存在だ。それでも夢と希望を伝えたい。夢と希望があれば、人は前を向いて歩いていけるから。
●Silent Snow
イドロの襲撃直前。アイドルがCメロに突入し、ライブ会場は一気に盛り上がる。
沸き立つ観客席の隅で、|神花《かんばな》・|天藍《てんらん》(白魔・h07001)と|史記守《しきもり》・|陽《はる》(黎明・h04400)は敵を待ち構えていた。
「じきに敵が襲撃してくるな。此処は我が陽動を務めよう」
「えっ天藍さんが囮をするの? さすがに危険だよ、ここは警察官である俺が……」
陽らしい反応だ。だが、今回ばかりは適任ではない。天藍は首を横に振ってみせる。
「別にお前の名は陽動の陽ではない。警察官であるならば陽動よりも市民の安全を優先すべきだろう。それに我の記憶が正しければ、お前は音楽とは少し相性が悪かった気がするのだが」
痛い所を指摘され、陽は言葉に詰まった。
「うぐっ……それは事実だけど……」
天藍は以前自宅の風呂場から聞こえた陽の歌を思い出す。
何ともコメントし難い――よく言えば無難、悪く言えば印象に残らない歌声であった。
「以前宴会芸用に風呂場で歌を練習していたようだったな。あの練習の成果はあったか? 我にはとても――」
それ以上はいけない。陽が恥ずかしさのあまり声を上げた。
「わーー! わかった! もういいから! そうだよ! 練習したけど結局上手くないし音痴でもない聞いた人が反応に困る腕前だよ! 俺、避難誘導するから! だからもうそれ以上はやめて!」
天藍の話は正論ではある。今回は剣舞で誤魔化せる状況でもなさそうだ。
だが、それはそれとして恥ずかしいものは恥ずかしい。
「よし、納得したか」
「もう、何もこんなところで人の恥ずかしいことバラさなくてもいいじゃないか……」
「心配するな。皆らいぶとやらに夢中で、お前の話など聞いていない」
「それはそうだけど……」
言い合っている間にアイドルの歌も終わり、イドロが会場に現れた。二人は早速行動に移る。天藍は敵のもとへ。陽は警察手帳を見せながら、観客へと大声で呼びかけた。
「皆さん! 落ち着いて行動してください! 指示に従って会場の外に移動をお願いします!」
陽が避難を呼びかける中、天藍はステージに上がる。
イドロが歌い出すよりも先に、有無を言わさず展開するのは|千重の雪《トザスフユ》。風花の扇を手にして舞うは、冬を呼ぶ静かな舞だ。扇を扇げば、氷の神気が氷雪を生む。
「この舞とお前の騒々しい音楽とやらは対極を為すもの。何も無闇矢鱈と音楽をかき鳴らすだけが正しいものではない」
ライブステージが千重に雪花舞い散る銀世界へと変化した。
「あら、雪ね……それも普通の雪じゃないわ」
イドロが鋭く天藍を睨んだ。
白銀の世界が音を閉じ込める。雪には元々遮音効果がある。それを√能力でさらに強化した。
「静寂の雪だ。ゆえにお前の声は届かないだろうな」
「馬鹿にしないで。これでも歌の練習は毎日してるの」
戦闘機械群に寄生されていなければ、人々に希望を与える歌手としてステージに立っていたかもしれない。
――実に勿体ない。天藍は心の内で呟きつつ、イドロへと氷のように厳かな眼差しを向けた。
「雪に視界を遮られ観客の姿も見えず、声も届かない中で、お前はどのように歌うのか我に見せてみよ」
「やってやろうじゃない!」
イドロの歌声と天藍の静寂の雪が衝突する。
銀世界の結界をイドロが突き破ろうとしていた。分厚い壁越しに聞くような籠った歌声に、陽は複雑な想いを抱く。
(二つの力が鬩ぎ合ってる……今は天藍さんの方が勝ってるけど……)
完封されないあたり、イドロも中々の力の持ち主のようだ。
(折角良い歌なのにね。戦闘機械群って本当に厄介な敵なんだな)
色々と思うことはあるが、今は避難誘導に専念しよう。陽は気持ちを切り替え、人々に会場の外への避難を促し続ける。
●災厄&邪神ライブ
会場の熱気と歓声に包まれながら、アイドルは歌を届ける。
星のように輝くライブステージは、人々の血で穢していいものではないのだ。
「むぅ~、ファンと観客はアイドルとして大事にするものですよ」
混沌とする舞台に、|神咲・七十《しんざき・なと》(本日も迷子?の狂食姫・h00549)は軽やかに降り立つ。
イドロの鋭い視線が突き刺さるも何のその。ぱちりとウィンクしてみせ、七十は言葉を紡ぐ。
「演出含めて面白いですしこういうのって勝ち負けではないですが、今回は負けません」
|『フリヴァく』《邪神系アイドル》イン・ステージ、スタート!
√能力を発動し、邪神系アイドル『フリヴァく』を召喚する。
「と、言う訳で行きますよフリヴァくちゃん♬ 今日は√WZでのライブステージです!」
『張り切って歌うよっ!』
白い体に青い瞳、そして無数の触手。√能力者なら誰もが知っていそうな見た目の彼女。そんな彼女の名は『フリヴァく』。逆から読まないようにご注意を!
最初の選曲は『チル・マイ』だ。歌声によって隷属者を増やす。バックダンサーや演奏を行う個体、観客側で盛り上げる個体をライブ会場に産み出した。
「では、行きますよ~♬」
『はーい!』
二人のデュエットは『アイズ』。歌声に隷属の力をのせて観客へと届ける。ちなみにライブが終われば治る程度に調整してあるので後も安心だ。
「うおおおおっ!」
「最高~っ!」
曲が進むごとに魅せられ、観客たちの興奮がどんどん膨れ上がる。
「やっぱりライブは最高ですね♬」
『うん! すっごく気持ちいい!』
サイリウムの煌めきと歓声を浴びながら二人は笑い合う。一方で、注目を奪われたイドロは不満げだ。
「私が歌おうと思ってたのに!」
「文句を言うわりには、あなたも聴いてくれてますね?」
「それは……っ」
言い訳が思い付かなかったのかイドロは言葉を詰まらせた。彼女にも、何か思うところがあったのかもしれない。
第2章 集団戦 『火炎機械虫『フライボム』』
●
√能力者たちの乱入はイドロを徹底的に妨害した。歌うこともままならず、イドロは強烈な殺意を彼らへと向ける。
「よくも私のライブを邪魔してくれたわね……絶対に許さないから!」
火炎機械虫『フライボム』に命令を出し、空中に陣形を展開させた。フライボムの軍勢は赤く輝き、照準を√能力者たちに定める。
フライボムの支援攻撃があるかぎりイドロの撃破は難しい。まずはフライボムの軍勢を撃破して、イドロを孤立無援の状態に持ち込もう。観客の避難は完了しているので、心置きなく戦ってほしい。
●爆炎を制す
カテドラル上空はフライボムの軍勢に覆われる。
埋め尽くす赤い輝きを、|東雲・グレイ《しののめ ぐれい》(酷薄なる灰の狙撃手・h01625)は視界に捉えた。彼女自身は高所に陣を敷き、既に敵陣をパワードシャープシューターの射程圏内におさめている。
「集団戦は苦手なんだけどなぁ……まあ、既に倒す方法は思いついているけど」
周囲に配置した自爆フレシェットドローンへと指示を出した。ドローンはフライボム周辺に素早く下降する。自爆用量産機体が爆発するその前に、先手を打つ。
「――爆ぜろ」
ドローンを起爆した瞬間、爆風と共に六千本の鉄の矢が放出された。敵陣の外側に位置する自爆用量産機体が攻撃を受け、黒煙を噴き上げながら墜落する。
フライボムの1体が機体中央部の赤いコアを光らせた。爆風の中でも、グレイはその光を確と捉える。
(恐らくあれが統率個体)
残存する自爆用量産機体がグレイに向かって飛来した。
「来ると思ってたよ」
囲まれる前に対処する。|反射狙撃作用《カウンタースナイプ・フェノメノン》を発動し機体を狙撃。ステルス迷彩を纏い身を隠した。
敵がグレイを見失う。彼らが彼女を探す間にも、彼女は敵機体の包囲網から逃れていた。別の狙撃ポイントに移動し、スナイパーライフルの照準を目標に合わせる。狙いは統率個体だ。自爆フレシェットドローンも、統率個体の真上に位置を取っている。
「鉄の雨に貫かれて落ちるといい」
起爆命令を下す。ドローンは自爆し、統率個体に爆風と鉄の矢を浴びせた。
動きが鈍化した統率個体の中央部をスナイパーライフルで撃ち抜く。圧倒的な質量の衝撃に穿たれて、統率個体は火柱を上げた。爆炎を操るはずの火炎機械は炎に呑まれ、機体を焼かれながら燃え落ちる。
まずは1部隊撃破。しかし、敵は未だ多数残存する。
「ほんと、虫みたいに湧いてくるね」
名前のとおりだなんて思いながら、グレイは新たな弾丸を高速装填した。
●炎を氷で染め上げて
ライブ会場は緊迫した空気と熱に晒されている。
歌の邪魔をされて激怒するイドロ。そんな彼女の配下であるフライボムと、√能力者たちは対峙する。
「わぁ当たり前だけどガチギレしてる」
突き刺さる殺意に、ルスラン・ドラグノフ(лезгинка・h05808)が率直な感想を口にした。
一方で、|大海原・藍生《わたのはら・あおい》(リメンバーミー・h02520)はイドロに強く言い返す。
「絶対に許さない? それは殺戮のライブの方ですよ、イドロさん。手下は俺達がやっつけて、あなたを完全なるソロに追い込みます」
イドロの発言はブーメランなのだ。元々ライブの邪魔をしたのは彼女自身だ。この場にいる全員がわかっている。故にイドロの怒りの言葉に耳を貸すことはない。
「じゃあステージショーはもうお終い。ここからは力と力の対決だね」
ルスランが召喚したペンギンたちは帰還した。ここから先は、敵を倒すために行動するのみ。
「負けるわけにはいきません。絶対に勝ちましょう」
力強く紡ぐ藍生に、頷くルスラン。二人はフライボムの軍勢を叩くべく動き出した。
ルスランの戦い方を把握して、藍生は射線上に立たないよう立ち回る。
「歌よ、世界を巡れ」
|Cantus Orbis《セカイヲメグルウタ》を奏で、敵の目からは見えない音符の刃を編みあげた。『みょるにる』に刃を集束させ、堅く構える。
「硬そうな装甲ですが、この力で切り裂いてみせます」
さらに付与する魔力は氷の力と霊的エネルギー。三つの力を纏った武器が、青白い輝きを放つ。
藍生が攻撃準備を整える中、ルスランも√能力を発動した。
「炎にはやはり氷! お客さんはいなくなったとはいえステージ上では火気厳禁ですよ」
そういうステージ上のパフォーマンスもあるがそれはさておき。|降誕祭の前夜《スヴィヤティイ・ヴェチル》によって、氷属性の弾丸を創造する。
「氷華をこのライブステージに咲かせましょう」
弾丸は空気を凍らせながら飛んだ。フライボムに着弾し、氷結の魔力が煌びやかに花開く。氷華は咲き誇り、敵機体の発射口や関節を氷で覆って動きを鈍らせる。
同時に発せられた氷華の加護を藍生に注げば、武器が更なる冷気を帯びた。
「氷の力がさらに強く……ありがとうございます!」
「うん、思いきり殴ってください!」
ルスランの支援を生かしたい。藍生は武器を手に敵陣へと走り出す。
敵は赤いナノマシンの結晶体を創り、無数の弾丸を撃ち出した。迫る弾を武器で弾き、オーラで受け流す。避け切れないものは心を強く持ち耐えた。
「切り裂け……っ!」
高く跳躍し、ついに敵陣へと肉薄。魂を込めて全力でぶん殴った。氷の魔力が渦を巻き、凛冽な霊気が空気を乱す。怪力によって繰り出された衝撃、そして音符の刃が合わさり、敵陣の外側を守る部隊へと直撃した。
装甲が凹み、ズタズタに切り裂かれたフライボムが次々に落下する。凍り付いた機械は爆発することも許されない。
穴が開いた敵陣へと、ルスランが追い撃ちを掛けるべく氷弾を浴びせた。襲い来る極寒は敵の炎を弱らせる。苦し紛れの反撃に、敵が爆炎の弾丸を発射した。氷弾と衝突し、膨大な量の蒸気が発生する。
「分かってたけど蒸気が凄いことになってる!」
濃厚な蒸気が視界を遮った。
「大丈夫ですか!」
藍生の声が届いた。ルスランは即座に返す。
「大丈夫! この調子で行きましょう!」
蒸気に紛れ敵陣の後方へと回り込むルスラン。死角から弾丸を射撃し、背後から敵の装甲を砕く。蒸気の中はまるで白い闇の世界だ。野生の勘を研ぎ澄まし、常に本能を働かせながら戦い続ける。
敵の数は多い。だが、二人はその数を着実に減らし続けていった。
●奔る光
観客は避難させた。仲間たちがイドロの妨害もしてくれた。
作戦は順調。あとはライブ会場に残った敵を撃破すればミッションクリアだ。
焼け付くような殺意が心臓の裏側にひりつく。戦場ならばよくあることだ。|徒野・廉《あだしの・れん》(【Digitalis】・h09001)は、朗らかな笑みを崩さない。
「あ! イドロの殺意がこちらに向いたね♪ これならもう大丈夫かな?」
マルチツールガンを構え、銃口を空中に陣取るフライボムの軍勢へと向けた。火炎を操る戦闘機械群。彼らを一掃すれば、イドロを孤立無援の状態にできる。
「観客は避難してもらったし。これで派手にやれる」
マルチツールガンから光が奔った。|スティンガーズ・ストーム《スティンガーズ・ストーム》を展開し、拡散ビームを発射する。
「下手な光線も数撃ちゃ当たるってね」
2回攻撃かつ範囲攻撃の性能も利用して、立て続けの撃破も狙う。隣り合ったフライボムが誘爆してくれたなら万々歳だ。
光線は空気を焦がし空中を駆ける。浮遊する敵に命中し、機体から炎が上がる。
数秒後、ボカン! と爆発音が響き渡った。可燃性の物質に炎が到達したのだろう。爆風に巻き込まれた敵機体が損傷し、黒煙を噴き始めた。
「巻き込めてるね、ラッキー♪」
廉を視認した敵群が迫り来る。創造される赤いナノマシンの結晶体に、廉は攻撃の気配を察知した。
「その結晶体、俺の√能力を複製したんだね」
Crimson Constructだ。敵の√能力を即座に把握し、ハッキングツールを起動する。戦闘機械群の電子頭脳に介入し、攻撃を遅らせた。飛来する光線は、廉が発射したそれとよく似た軌道を描く。
「俺の攻撃は俺が一番よく知ってるからね⭐︎ 直撃なんてさせないよ」
光線を回避する。発射タイミングを遅らせたことが功を奏した。集中を切らさぬよう意識を尖らせて、廉はフライボムとの交戦を続ける。
●守り抜く意志
会場から入場者を避難させることはできた。だが、安心は束の間。本当の戦いはここから始まる。
(……コンサートを妨害された以上、直接破壊活動をするつもりみたいだ)
計画が上手くいかなかった腹いせか。空中に広がるフライボムの軍勢を、ラディール・メイソン・らでぃーる・めいそん(サティー・リドナーの元Ankerの「天使」・h06597)は鋭く睨み上げる。
(人は守れた。あとはコンサート会場を守るために彼女たちを倒す!)
コンサート会場に影響する被害を最小限に抑えたい。狙うは敵軍勢の多数撃墜だ。自由に破壊活動させてやるつもりはない。憩いの場である会場を爆破で壊滅させて、人々を悲しませてはいけない。
フライボムが飛来する。ラディールは敵群を確と視界の中心に捉えた。
「これ以上好き勝手はさせない!」
羅紗爆弾を襲来するフライボム目掛けて投擲する。一見布切れのようにも見えるそれは、時限式の爆弾だ。先頭を飛ぶ敵にぐるりと巻き付いて爆発を起こした。
爆発音が空を裂き、爆炎が周囲の敵を巻き込む。爆発の影響から逃れた敵が、黒煙の内から飛び出してきた。
「逃がさない」
ラディールの額にエネルギーが集中する。キラリと光が瞬いた刹那、纏う気配が鋭さを増す。
「我の額に収束せよ、悪鬼を撃ち滅ぼせ」
放たれる輝きは|破魔光線《タイマコウセン》。光は真っ直ぐに飛び、誘爆から逃れた敵に命中した。爆炎を上げながら敵が大爆発を起こす。
残存する敵が、反撃に爆炎属性の弾丸を射出した。迫り来る弾丸にラディールは身構える。魔力から編み上げたオーラ、インビジブルから創造する透明な装甲、天使としての鉄壁の肉体を以て、爆発と火柱を耐え抜いた。
「守ってみせると決めたんだ。絶対に倒れない!」
高らかに告げる。会場は必ず死守してみせると、ラディールは覚悟を漲らせた。
●ライブ続行
「ふにゅ、ライブを邪魔したのは謝りますがファンを犠牲にする訳にはいきませんからね♪」
怒りを燃やすイドロに対し、|神咲・七十《しんざき・なと》(本日も迷子?の狂食姫・h00549)は涼しげな笑みを浮かべる。フリヴァくも爽やかな笑みを崩さない。
『ファンは大切にするべきだよね!』
「そのとおりです♪ フリヴァくちゃん、いきましょう♫」
『うん! みんなのために歌うよ!』
二人のアイドルステージはまだまだ続く。チル・マイを熱唱し、隷属者達を次々と呼び出した。
フライボムが対抗するようにSuicide Swarmを展開する。12体の自爆用量産機体が迫り来る。
「ふむ、自爆する機体を操るんですね。まぁ……数の勝負は得意ですし♬」
アイドル業は多数相手のお仕事。物量作戦だってお手の物だ。
『たくさん押し寄せてくるけど、どうってことないよ』
ちらりと邪神らしさを覗かせるのもご愛敬。フリヴァくの言葉に頷いて、七十は隷属者達へと命じる。
「さあ、隷属者達よ。推し活の時間です♬」
隷属者達は雄叫びを上げながらフライボムの軍勢へと突撃。弾丸の如く自爆用量産機体にぶつかり、その衝撃で自爆を誘発した。敵機が爆発する度、隷属者も消失するが、歌い続けることで再生し続ける。まるで尽きることのない弾丸のようだ。
「自爆に巻き込んで機械虫も倒してしまいましょう♬ なんだか反応が鈍いですし、多分いけますよね♪」
いくら数が多くとも反応速度が鈍ければ、隷属者達の餌食になる。推し活真っ最中の隷属者達はテンションMAX。彼らを止められる者はいない。
自爆用量産機体が爆発することで、激しい風と炎が巻き起こる。その衝撃はフライボム本体にも損傷を与えた。
『この調子で倒しちゃおう!』
「はい♪ どんどん行きますよ~♬」
華やかな歌声がカテドラルに響き渡る。煙を噴き始めるフライボムに、二人は歌を届け続けた。
第3章 ボス戦 『暴空機構『イドロ・ディアボリカ』』
●
「私の舞台装置が! ステージは火力が大事なのにっ……」
イドロはギリッと唇を嚙み締めた。配下のフライボムは壊滅状態だ。
「もう! 全部台無し! 私だってっ、ステージで歌って踊って――」
高揚の中に響く歓声を浴びたかった。みんなの喜ぶ姿が見たかった。
イドロ本来の人格から生まれたであろう感情は、体内に寄生する戦闘機械群によって改竄された。その事実にイドロが気付くことは無い。
「……殺すわ。全員残らず。√能力者だからどうせ後で蘇るのでしょうけど関係ないわ」
人類の味方をする者はすべて殺害する。それが暴空機構『イドロ・ディアボリカ』としての意思だ。
●魂と共に
機械虫の軍勢を越えて、ついに最終戦のステージが始まった。
ルスラン・ドラグノフ(лезгинка・h05808)は、多数の火器を展開するイドロを見据える。
「復活するとはいえ殺されるわけにはいかない。僕達を全滅させた後に会場の外に出て大暴れするのが目に見えてるからね」
√能力者としての力を駆使し、彼は空へと駆け上がった。決して立ち止まらず、高速での移動を繰り返す。
「ちょこまかと鬱陶しいわね」
空中に浮かぶ残像を目で追いながら、イドロが忌々しげに顔を歪めた。
「アイドルがそんな怖い顔してたらダメですよ!」
ルスランは機関砲からの砲弾をエネルギーバリアで受け流す。弾き落とした砲弾から、寄生型戦闘機械群がこぼれ落ちた。
「なんか気持ち悪い見た目だなぁ、寄生されるなんてお断りです!」
挑発的な言葉を投げる。それは本来の目的から意識を逸らすための陽動だ。イドロを翻弄しながらも、死せる魂を蓄積し続ける。
(死角のない空間防御システムなんていうけど、それはあくまで理論上の話)
戦場は生き物と同じく常に変化する。行動を積み重ねれば死角も生み出せる。
側面から味方の光線が飛んだ。迫る光にイドロが気を取られた刹那、ルスランは一気に距離を詰め、|死せる魂《メルトヴィ・ドゥーシ・ヴォスターニエ》を放つ。
「死せる魂よ、立ち上がれ! 我が元に集え!!」
呪詛の衝撃波がイドロを襲った。装甲の一部を砕かれ、イドロが舌打ちする。
「ちっ……!」
「後ろからごめん。でもこれも作戦ってことで……」
命を懸けた戦いに正面も背面も関係ないのだ。ただ、流石に二度目は難しいだろう。|月すらも盗む魔女の鳥の杖《Вешница-сорока》を掴み、思い切り振るった。狙いは傷付けたイドロの装甲だ。
「弱った箇所から攻めるのは基本だからね」
傷口を抉るように杖を捩じ込む。反撃に放たれる弾丸から身を守りながら、ルスランはイドロを攻め続けた。
●命の価値
|脇役《フライボム》は退場した。|徒野・廉《あだしの・れん》(【Digitalis】・h09001)は独りステージに立つイドロに視線を送る。
「ステージに大事なのは火力はちょっと違う気がするけど……これで君のオンステージだ」
マルチツールガンを構える廉に、イドロも火器を展開した。
「お前たちには私の殺戮を引き立てる演出になってもらうわ」
「ド派手な演出がお望みかな? いいよ、たくさん輝かせてあげる☆」
廉は光線を放つ。幾重もの光がイドロへと向かった。
「ライブの演出だ。キラキラ光って綺麗だよ☆」
「フン。まだまだ派手さが足りないわ!」
攻撃に耐えながら、イドロは銃火器から弾丸を発射する。寄生型戦闘機械群の端末が多数搭載された弾だ。直撃すれば、思考を操作される危険すらある。迫る弾丸に廉は軽やかに笑った。
「さぁ、踊ろうか♪ ステージには役者も音楽も揃ってる」
廉はステップを踏みながら弾を躱し、ドローンを盾にしながら受け流す。イドロへと肉薄し、彼女を射程圏内におさめた。
「君がその技を使うなら向かうところは死でしかない……ならば俺もそれに応えてあげる」
奥歯のスイッチを起動した瞬間、人間爆弾としての狂気が爆発する。
「君の言う通り√能力者は死んでも生き返るからね。先に逝ってるね」
|ヴァルパイン・ヴェノム《ヴァルパイン・ヴェノム》――廉が自爆すると同時、体内に埋め込まれていた無数の金属片がイドロへと降り注いだ。
花吹雪のように注ぐ金属片に毒されながらイドロが問う。
「自爆して命を投げ捨てるなんて! 蘇生するっていっても怖いものでしょ?」
恐怖がないわけではない。それでも、迷わずに自爆できるのは。
「なんだろうね、あんまり、気にならないというか……」
自分の体よりも優先したいことがあるからだ。
目的を達成するためなら死んでも構わない。どうせ、すぐに生き返るんだから。
廉の意識は炎に呑まれた。
●信念の|雷《いかずち》
『本来のイドロ』の魂の叫びを聞いた気がした。それが戦闘機械群によって容易く歪められてしまった事実に、|大海原・藍生《わたのはら・あおい》(リメンバーミー・h02520)は心を痛める。
殺戮を許すわけにいかないのは勿論だ。けれど、歌で歓声を浴びたいという気持ちもわかってしまう。
(もしも改竄されていなかったら彼女はどうなっていたでしょう)
人々のためステージに立っていたのだろうか。この残酷な世界で、人々に希望を与えるために。だが、戦闘機械群に寄生された彼女には叶わぬ夢だ。
「……彼女が人々を殺すことがないように、今できることは戦うことだけ!」
自分が寄生されてしまったら、という想像は頭から追い出した。戦いの中で考えるべきではない。その雑念は足枷となるだろう。
「殺戮のライブはもう終わりです」
藍生はみょるにるを凛然と構えた。イドロと向き合い、武器にエネルギーを込める。
「終わるのはお前たちよ!」
イドロの大鎌が鋭く光るが、藍生は決して怯まない。
「あなたに人々を殺させるわけにはいかないんです!」
きっとそれが本来の彼女のためにもなるから。藍生は強く信じ、|Mjölnir’s Rage《ライジンノイカリ》を発動した。勇気によって高めた魔法力を身に纏う。身体能力を強化し、風のようにイドロへと接近。武器を振るい、凝縮した霊力エネルギーの波動を打ち出した。
「今すぐに痛めつけてあげる!」
イドロが大鎌を振り下ろす。軌道を見極め、藍生は武器で受け止めた。衝撃が体を揺らすが、気を強く持ち激痛を耐える。
「これは誰かを守るための力!」
気合の叫びを放ち大鎌を押しきった。
イドロが体勢を崩した瞬間を藍生は見逃さない。
「あなたの――いえ、植え付けられた殺意を打ち砕きます!」
勇気を奮い立たせ、全力の一撃を叩き込んだ。雷神の怒りがイドロの蝕まれた肉体に強烈な電撃を与えてゆく――。
●焔に降る雪
寄生から始まる洗脳は残酷だ。本来ならば己に反する意思でさえ、己のものと思い込んでしまう。
イドロは不幸の成れの果てだ。|神花《かんばな》・|天藍《てんらん》(白魔・h07001)は心の底から思う。
「元の気持ちはとても純粋なものであったのだろう。其れが外的要因で歪められた末路は哀れなものよ」
哀れみの裏側によぎる過去の情景は、かつて憎悪に染まった咒いの色だ。
(……如何しても同情の念を切り捨てられぬのは、きっと彼奴の姿が何処かで見た姿に似ておるからだろう……であるならば、せめて終わらせてやるのが彼奴にとっての救いになるだろうか)
目の前に在る景色を見つめる。殺意に満ちたイドロが彼を睨んでいた。
「お前に、幸いの終焉をやろう」
天藍は静かに降る雪のように告げる。彼の隣に立ち、|史記守《しきもり》・|陽《はる》(黎明・h04400)も言葉を紡いだ。
「君の歌を出来れば聴いてあげたかったけれど、でも君が自分の力を、誰かを害する行為に使うのは看過できないんだ」
どんなに素晴らしいものも、使い方を間違えれば悪魔の道具になる。イドロは|人類にとっての悪魔《戦闘機械群》に支配されているのだ。
「それに多分、本来の君は人々を傷付けることは望んでないと思うんだ……望んでないって、そう俺が信じたいだけかもしれないけれど」
優しい声色で続けるが、その手には払暁が確と握られている。
「だから、心苦しいけど、俺は全力で君を止めるよ。君も、君の本当の気持ちを全力で俺にぶつけてね」
陽は前へと踏み出した。
「天藍さんは後ろに。俺が前を引き受けるよ」
「わかった。くれぐれも無茶をせぬようにな」
天藍は前衛を張る陽の背後に立つ。天藍の言葉に陽は深く頷いてみせた。
「うん、俺は大丈夫だから」
大丈夫ではないからこそ、わざわざ言っているのだが。陽は強いが何処か危なっかしいところがあるのだ。
(……目が離せぬな。見張っておこう)
イドロが怒りに身を任せ、火器を展開し弾丸を嵐の如く撃ち放つ。
「死になさい!」
同時に陽も|暁降《ソール・オリエンス》を発動し、焔を体に巡らせる。
「戦闘機械群にも色々いるのは知ってたけど、こうやって寄生するタイプもいるんだね」
寄生型戦闘機械群が搭載された弾を、刀に纏わせた炎で焼き切った。悪いものだけ焼き祓えるならばどんなにいいか。それが無理なら、せめて苦しまないように倒したい。
イドロの弾丸の嵐に耐えながら、陽はチャージを完了させた。
「すべて焼き祓うよ。戦闘機械群も、君のことも」
決意を込め払暁に滾らせた炎を放つ。暁光の如く赫灼たる黄金の光焔が奔り、イドロの体に燃え移った。
「あっつぅ……!?」
イドロが叫んだ。天を焦がす炎がカテドラルを眩く染め上げる。
「君の悪夢が終わるように、目覚めの朝が訪れることを願うよ」
「よくもやってくれたわね。私の大切な衣装が丸焦げ……」
陽の祈りを無視して反撃に出ようとするイドロ。だがそれは、舞う純白に止められた。天藍の|蹌踉の雪《トドメルフユ》だ。濃い霧が視界を奪い、積もる雪がイドロを氷結させた。
「たかが雪だと侮るな。我の冬は如何な存在であろうと熱を奪い、その身を捕える」
「体が、凍って……っくそ!」
動きを鈍らせるイドロの頭上に、天藍は氷柱の弾幕を生み出す。
「一面雪景色だ。身を潜めるのも難しかろう」
隕石のように落下する氷柱がイドロの体を貫いた。衝撃が体内に寄生する戦闘機械群ごと圧し潰してゆく。
天藍は前に構える陽を見やった。氷柱に巻き込まれかねない位置だが、上手く立ち回っているようだ。
(……しかし、毎回あのような状態で前にいるのか?)
敵の攻撃を耐え続ける陽は傷だらけだ。それでも立ち続けているのだから、なんと頑丈なのだろう。
だが、頑丈だからと無理をしていいわけではない。天藍は溜息を零した。
帰ってから小言のひとつでも言ってやろう。天藍はそう心に決めるのであった。
●凛冽
離れた位置に陣を敷いていても、敵の殺気が伝わってくる。
「始まったね」
|東雲・グレイ《しののめ ぐれい》(酷薄なる灰の狙撃手・h01625)は、イドロと仲間の位置を把握する。
彼女のメインウェポンはパワードシャープシューターからの狙撃、そして自爆フレシェットドローンによる自爆範囲攻撃を入り混ぜた『面』の攻撃だ。広範囲にわたって攻め続けることで敵の消耗を加速させたい。
(ベストなタイミングは攻撃と攻撃の間)
ドローンを操縦しイドロを範囲攻撃の射程内におさめる。
仲間が攻撃を繰り出し、次の行動に移行するまでの僅かな時間。仲間がイドロから距離を取ったほんの一瞬にグレイは仕掛けた。
「貫け」
ドローンは彼女の命令に従う。自爆し、六千本の鉄の矢を雨嵐の如くイドロに打ち付けた。装甲を砕かれたイドロからの強烈な視線を感じる。
(当然敵も私の存在を認識しているだろう)
イドロは小さな狩を始めたようだ。戦闘によって発生した煙に紛れ気配を消す。肉眼での探知は可能というが、迷彩機能も施しているらしい。空間の歪みを捉える必要があった。歪みを見つける観察力、そして次の一手をグレイは持っている。
「見えないなら、炙り出すだけ」
グレイは|強化術式「死刻冰颪」《アイスコル・フレシェットウィンド》を発動した。狙いを定め、パワードシャープシューターから二度の範囲攻撃を放つ。
「一万二千発の鉄の氷柱、喰らってみるか」
広範囲に及ぶ制圧射撃が、小さな狩の隠蔽能力を上回った。
「くっ、強引な子……!」
迷彩を剥がされ姿を現したイドロが悪態をつく。
「物量で攻めるのも戦術のひとつだよ」
グレイから滅多撃ちにされながらもイドロは攻撃を試みる。だが、その背を追ってきた仲間たちが叩いた。
「別の狙撃ポイントに行くからあとはよろしく」
グレイは狙撃用バイクに乗り込む。近接戦闘は仲間に任せ、彼女はイドロから距離を取った。己が最も強く立ち回れるポジションで、グレイは戦い続ける。
●憧れのキラメキ
本当は空を羽ばたきたいのに、自由を奪われた飛べない鳥のようだ。
イドロから感じる違和感に、|神咲・七十《しんざき・なと》(本日も迷子?の狂食姫・h00549)は首を傾げる。
「んぅ……アイドルのポテンシャルは抜群みたいなのに……何かが邪魔してますかね?」
『あの子の内側に寄生してる存在が悪さをしてるみたい……』
フリヴァくの瞳がイドロの内を視るように細められた。哀れだ――イドロの現状はその一言に尽きる。
しかし彼女が人類を殺戮しようとしている以上、倒さないわけにはいかない。
「なら、歌い合いましょう? 私はフリヴァくちゃんのファンだけど、観客にはなってあげられますからね♬」
『うん! それが唯一、彼女にしてあげられることだよね』
√能力を発動する。七十はフリヴァくと共に、最終決戦のステージに立った。
「共に奏でるメロディ♪ フリヴァくちゃんとのデュエットで、あなたのココロを夢中にさせてあげます♬」
再生と隷属者生成の歌――『チル・マイ』を歌う。歌の力に引き寄せられて、隷属者達が再び姿を現した。七十とフリヴァくの周囲を隷属者達が埋め尽くす。
イドロがごくりと息を呑んだ。
「ファンがこんなに沢山……」
悔しそうな彼女へと、七十は明るく語りかける。
「ステージで輝く貴女の歌を聞いてみたいですけど、今の貴女自身の状態では難しそうですから私達が独占してあげますね♬」
2曲目は『アイズ』。隷属させるデュエットの歌を高らかに奏でた。
「私はまともに歌えていないのに……!」
イドロは小さな狩で七十を仕留めるべく動き出す。だが、隷属者達が邪魔をして七十まで辿り着けない。まるで推しに近付けないファンのようだ。
「なによこれっ、アイドルは私よ!」
イドロが声を荒げた。どうにか届かせた弾丸も、再生力で癒されてしまう。曲の間奏で七十はイドロへと誘いを持ちかけた。それは隷属化の力を伴う甘美な誘惑だ。
「ふふ、私のものになればその邪魔しているものを抑制して、ステージで歌って踊って、喜ぶファンの顔を見れるようにしてあげれますよ♪?」
「邪魔してるもの……? 意味不明なことを言わないで!」
怒り、吐き捨てるイドロ。
『本当に気付いてないんだね』
ぽつりと呟くフリヴァくに、七十が深く頷いてみせた。
「それほどまでに強力な支配を受けているのでしょう。でも、諦めずに攻め続けますよ♬」
本来の人格に揺さぶりかけるのは止めず、アイズを歌い続ける。音楽に合わせ、隷属者達がイドロへと攻撃を繰り返した。
「くうっ……頭が、痛い……!」
イドロが耐えるように顔を歪める。苦しむイドロに七十は朗らかな笑みを向けた。今の彼女はファンであり、アイドルでもあるのだ。
「アイドル自身もファンも楽しいのが一番ですから。邪魔する様な存在は何処までも追い詰めてやりますよ♬」
フリヴァくも笑顔を振りまきながら歌い続ける。彼女たちの歌声とステージで輝く姿は、イドロの心を激しく震わせ続けた。
●葬送
アイドルを目指した少女は殺戮人形と化した。眼前のイドロは人類に敵対する存在であると同時に、被害者なのかもしれない。
なればこそ必ず討伐しなければ。それが本来の彼女のためにもなるだろう。
「ただコンサートするのみなら、きっと君の歌声は、素晴らしく感動したのかな、戦闘機械兵として殺戮暴走プログラムを発動しなければ」
ラディール・メイソン・らでぃーる・めいそん(サティー・リドナーの元Ankerの「天使」・h06597)は静かに語りかける。
イドロは血を流しながら彼を睨んだ。ラディールの言葉がいくら重みを持とうとも、イドロに届くことはない。
わかっていたことだ。ラディールは既に心を決めていた。
「だからもうこの偽りのコンサートは終幕に、フィナーレに終わらせなくてはならないから!」
「お前たちを殺して、外に逃げた奴らも殺すのよ!」
イドロが小さな狩からの一撃を狙う。放たれた弾丸へとラディールは右掌を翳した。
「目前の超常力を、無力化せよ」
|不可思議無効《フカシギムコウ》を発動し、√能力を無効化する。
「お前も喰われてしまえばいいわ!」
それは間違いなく寄生型戦闘機械群の意思だ。目前にゴルディウスの結び玉が迫る。鎌でラディールを挟み、口移しで強引に寄生型戦闘機械群の端末を流し込むつもりだ。
振るわれる鎌をラディールは右掌で遮り、動きを封じられぬよう弾く。
「おっとキスは、大切な想い人に贈る愛情表現だ、受け止めてあげるわけにはいかないな!」
「ちっ……」
限界を迎えつつあるイドロの装甲が黒煙を噴いた。彼女は舌打ちしながらも、多数の火器を展開する。
無尽蔵に放出される弾丸が届くより速く、ラディールはエネルギーバリアを前面へと広げた。羅紗曼陀羅に宿るオーラに加え、インビジブルから創造する『透明な装甲』が弾丸を防ぐ。無効化した弾から小さな機械群がボロボロと零れ落ちた。
「これがイドロに寄生している戦闘機械群……」
鋭く睨み据える。聖浄なる天使砲を構え、高らかに紡いだ。
「天上の光よ、聖歌と共に撃ち払え!」
レーザー砲が弾丸と機械群を焼き払う。開けた視界の先に、イドロを確と捉えた。戦闘開始時よりチャージし続けていた羅紗全魔力を、今すべて解放する。
極光の光に包まれた拳を強く握り締めた。ラディールの魂は、イドロを葬る覚悟に激しく燃え立つ。
「目の前の敵を、死力を尽くし打ち砕く!」
|極光の聖拳《キョッコウノセイケン》――光の如き速さで肉薄し、イドロへと拳を叩き込んだ。繰り出される強烈な衝撃は、彼女の魂深くまで届き、殺意に支配された体を打ち砕く。
「ガ、あ、ッ……」
寄生支配する機械群とイドロの肉体が壊れ始める。死に逝く姿を、ラディールは目を逸らさずに見届けた。
「安らかに眠れ。夢の中でステージに立ち、観客の歓声を浴びるといい」
彼女は蘇生するだろう。だが、それでも彼女の平穏を祈らずにはいられない。ラディールが見つめる中、イドロは壊れた人形のように崩れ落ちた。