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雪に描く星の座
王劍『|縊匣《くびりばこ》』関連シナリオ
これは王劍『|縊匣《くびりばこ》』に関連するシナリオです。
これまでの関連する事件は#王劍『縊匣』をチェック!
●迫る影
柔らかなソファにしっかりとした作りのテーブル、落ち着いた色の照明が照らすリビングには、似つかわしくない殺気が渦を巻いていた。周りを見れば荒らされ、破壊の痕も生々しいその一室、血に濡れた毛足の長い絨毯を踏みしめ、立っていたのはデュミナスシャドウだった。
「√EDENの√能力者が邪魔立てしてきたか、厄介な事だ」
部屋の対角で直立不動の姿勢を取っている配下をひと睨みして、デュミナスシャドウは自らの手元に視線を落とす。そこに握られている王劍『縊匣』、そのオリジナルの一振りである。
どうやら地の利はあちらにあるようだ。しかし、王劍を持つのはこちら。力の差は歴然だろう。しかしながら――。
「お前達に王劍の力の一部を与えたとしても、失敗を重ねるだけか」
前回と同じ轍を踏むわけにはいかない。ならば、やることは決まっている。
「√EDENの√能力者どもは、俺が蹴散らしてやる。お前達は、能力者の邪魔が入る前に、組織を掌握して我が元に連れて来るのだ」
「御意」
黙し、目を伏せていた配下が頷く。先日の作戦における不手際、それを挽回するのだと、瞳には決意が滲む。
「今度は失敗は許されんぞ」
言われるまでもない。黙したまま平伏し、配下の忍びは姿を消した。
●三つ巴
「皆さん、大変です! デュミナスシャドウがまた動き出しました!」
王劍『縊匣』を手にしたデュミナスシャドウは、以前よりプラグマの弱小組織を自らの配下に吸収し、勢力を伸ばそうと画策していたが、今回もまた√EDENに進出した組織のひとつを狙っているようだ。
「目的は変わっていないのですが、前回の失敗を踏まえて対策を取ってきているようですね!」
標的とされたのは、北海道の滝川市に拠点を構える『常夏同盟』。そこにデュミナスシャドウの配下が派遣され、乗っ取りと吸収を試みる。しかし前回のようにこれを妨害しようとすると、デュミナスシャドウ自身がこちらの前に立ち塞がることが予知されている。
「向こうも星詠みの力を使っているのでしょう、どのような策を取ろうが、デュミナスシャドウは必ず現れます!」
王劍を所持したデュミナスシャドウは言わずもがな強敵であり、ここで倒すことは極めて難しい。ゆえに、常夏同盟に対する乗っ取りを妨害することは叶わない、ということになるのだが。
「実は、そちらに関してはちょうど別のチームが動いています!」
デュミナスシャドウとは敵対関係にあるもう一人の王劍所持者、コウモリプラグマ。そちらの動きを追っていた√EDENの能力者達が、既に常夏同盟の拠点を特定し、監視に入っている。
先行しているチームは、デュミナスシャドウとコウモリプラグマの対立関係を利用し、漁夫の利を得るような作戦を展開している。うまくいけば敵の同士討ちを狙えるが、場合によってはコウモリプラグマとデュミナスシャドウの2勢力を同時に敵としてしまう危険性もある。ゆえにデュミナスシャドウの妨害を退けることができれば、急ぎ、救援に赴いて欲しいと星詠みは言う。
「そこからどうなるかはちょっと予測できません! 皆さんの現場判断で、事件を解決に導いてください!」
こちらのチームがまず担当するのは、王劍所持者であるデュミナスシャドウ本人だ。
「デュミナスシャドウは星座の力を使って戦うようで、今回は『ケルベロスライブラフォーム』という形態を取って攻撃してきます!」
素早い動きと、専用武装であるケルベロスソーサー、そして王劍。それらを駆使するデュミナスシャドウは超強敵……というのは先述の通りだが、付け入る隙はある。
飽くまでこちらを足止めするつもりの敵を引き付け、耐え凌げば、必ず反撃を入れる機会が訪れるはず。
「王劍を所持している筈なのに作戦に失敗し、更に、足止めに対しても反撃で痛打を受けたとなれば、デュミナスシャドウも平静ではいられないでしょう!」
相手を精神的に追い詰め、焦らせることもできるし、彼に従う部下の士気にも影響が出るに違いない。
この強敵との戦いが首尾よく進めば、後は先行しているチームの動きと合わせて臨機応変に対応していくことになるだろう。
「場合によってはデュミナスシャドウの再襲撃、コウモリプラグマの乱入なんてこともあり得ます! 油断せず挑んでください!!」
あとはよろしくお願いします! そう言って、星詠みは一同を送り出した。
●雪を踏むウサギ
「今回は、甘い顔をしてやる理由も、余裕もないでござるな」
雪降る通りの向こう側、『常夏同盟』の拠点を見据え、スラッシャーバニーが独り言ちる。なにしろ、主であるデュミナスシャドウ自らが援護に回っているのだ。前回のように潜入や懐柔といった手段を選んでいる暇はない。
かくなる上は、実力行使。この機を生かし、速やかに終わらせるべきだろう。
引き連れた戦闘員達に合図を送ると、スラッシャーバニーは先陣を切って駆け出す。
「片っ端から叩き伏せ、頭目の首でも捥いでやれば、すぐに大人しくなるでござろう」
いざ、参る。
音もなく、軽やかに跳ねて、忍びは目標の拠点へと飛び込んだ。
これまでのお話
第1章 冒険 『デュミナスシャドウゾディアックフォーム』
●
しんしんと降り積もる雪が、商店の並ぶ街を白く染めていく。この季節に相応しい静かな情景に反して、この裏では複数のプラグマの勢力が暗躍している。同じ組織にありながら対立し、ぶつかり合い、相手を呑み込もうとするその様。悍ましいそれを透かし見るように、ゴッドバード・イーグル(金翅鳥・h05283)は雪景色に目を細めた。
プラグマ怪人同士の内部抗争は、こちらにしてみれば対岸の火事に過ぎない。他の味方がそうしているように、同士討ちとして利用価値まであるくらいだ。しかしながら、一つ間違えば、この同士討ちを経た先に『結束した精強な組織』ができてしまうのではあるまいか。
「恐らく……だいぶマズイことになっていますね……」
そしてゴッドバードの何よりの懸念は、内ゲバに夢中で周りを見る余裕がなくなっていることだろう。
まさか、こんな街中で戦い始めるとは――。
「思ったよりも遅い到着だな、EDENの能力者達よ」
冷徹な声が冬の冷えた空気を揺らす。こちらが行動を起こす前に、デュミナスシャドウが立ち塞がった。右腕から噴き出る炎が周囲を禍々しく照らす。そしてもう一方の手には、件の王劍が握られていた。
――ただでさえ強力な相手だと言うのに。
厄介な状況に歯噛みしつつも、クラウス・イーザリー(太陽を想う月・h05015)は油断なく構える。苦戦は免れないだろうが、ここまで来て引くわけにはいかないのだから。
「先日はうまくやったようだが……この俺が来た以上、生きて帰れるとは思うな」
ゾディアックフォーム。星の輝きをその身に宿して、デュミナスシャドウの纏うスーツが形を変える。暗赤色のラインが星々を繋ぐ、その姿は『ケルベロスライブラフォーム』だ。
無駄に時間をかけるつもりはない、そう宣言するように、デュミナスシャドウは前傾姿勢で雪を蹴立てる。機動力を増したその動きは、まるで一瞬で視界から消えたように映る。
「来ます……!」
ゴッドバードが警句を飛ばした直後、飛来した円盤状の刃、ケルベロスソーサーが彼女の張ったバリアに喰らい付く。回転する刃はバリアを破り――襲い来るそれを、クラウスは剣の形に錬成した魔力兵装で受け止めた。
重い手応え、牙を剥くように回転する刃を弾き返すと、空中に跳ねたそれを目にも止まらぬ速さでデュミナスシャドウが回収する。
「そこか」
高速で移動する影に、クラウスの指示に従う砲台が攻撃を仕掛け――その一連の攻防による余波に、何事かとこちらを覗き込んでいた市民達が悲鳴を上げた。
「この人達を避難させます」
「ああ、任せた」
急ぎ翼を広げたゴッドバードがそちらに向かう、が。
「逃がさんと言っただろう」
その動きを目聡く捉えたデュミナスシャドウは、ゴッドバードを叩き落すべくそちらに向かう。強く地を蹴り、一気に加速したそこに。
「ようやく隙を晒したな……!」
注意の逸れた瞬間を突き、クラウスが飛び込んでいた。交錯は一瞬、だが彼の狙いは触れるだけで達成される。
『ルートブレイカー』、クラウスの掌が触れた瞬間、デュミナスシャドウの描く星座が掻き消えた。
「なに……!?」
形態変化を無理矢理に解かれ、デュミナスシャドウがバランスを崩す。突進を阻んだそこで、クラウスは魔力の刃を薙ぎ払うことで一太刀を加えた。元に戻ったデュミナスシャドウのスーツに傷が刻まれ――。
「ふん……それで勝ったつもりか!?」
動揺をすぐさま抑えて、デュミナスシャドウは再度突進する代わりに右腕の炎を迸らせる。
咄嗟に盾を展開したクラウスを後退させ、燃え盛る炎はゴッドバードを包み込んだ……かに見えたが。
「――パージします」
誘爆しかけた装備の一部を切り離し、ゴッドバードはダメージを抑える。そして、空中で爆発したそれは、まるで煙幕のように両者の視界を遮った。
「小癪な真似を……!」
再度ケルベロスライブラフォームへと変じたデュミナスシャドウは、腕の一振りで煙を払う。しかし、既にゴッドバードは庇った市民を避難させた後だった。
●
戦闘において展開された煙幕、それを振り払うようにしながら、デュミナスシャドウは素早く視線を巡らせる。元の目的は能力者達の足止めだが、思わぬ反撃を受けたことへの屈辱感がその眼光に滲む。だが鋭い視線が次に捉えたのは、先行させた部下の姿だった。
「主様」
何をしに戻ってきたのか、訝るデュミナスシャドウに対し、忍びは恭しく頭を下げる。
「ご指示通り常夏同盟の頭目の首を狩り組織を掌握したでござる」
「……それで、その女は?」
スラッシャーバニーの傍らには、縄をかけられたもう一人の能力者……不忍・ちるは(ちるあうと・h01839)の姿がある。
「こちらへ参る途中で捕縛いたした。主様に敵わぬと見て逃げ出したのでは?」
何にせよ仕事は首尾よく運んだのか、部下の言葉にデュミナスシャドウは気を良くしたかもしれないが、仮面の下の表情までは窺い知れない。
「見覚えがないな」
「先日、拙者の仕事を邪魔した者の内ひとりでござる。√EDENの能力者であることは間違いないかと」
ならば人質には使えるか、などと敵が思案する様子を見せたその時、捕らえられていたちるはが拘束を解いた。
デュミナスシャドウの頭上を飛び越え、背後に着地。デュミナスシャドウによる振り向きざまの攻撃を捌き、反撃の機を窺うそこで、スラッシャーバニーが跳ぶ。
「逃がさぬ……!」
首を刈り取るような回し蹴り、だがその狙いは、デュミナスシャドウに向かっていた。背後からの鋭い蹴撃は、しかし掲げられた王劍によって防がれる。完全に死角をついたはずだが、首が三つ付いてでもいるような察知能力を発揮したデュミナスシャドウは、スラッシャーバニーの体を余裕の様子で押し返した。
「まさか、それで騙し討ちのつもりか?」
「あら、ばれてました?」
口調の崩れたスラッシャーバニーは、悪びれもせずそんな声を上げる。
「では仕方ありません、かくなる上は――」
あえて注意を引くように、誰かさんのセリフをなぞって術を解く。どろんと煙が上がって、スラッシャーバニーの姿をしていたちるはが、その正体を現した。
「この顔、見覚えあります?」
「なに……!?」
ならば先程捕らえられていたのは誰だ。思わず再度振り返ったデュミナスシャドウは、こちらでもまた術を解いた煙を見る羽目になる。
突如膨れ上がるようにして、体格の良い男の姿が露わになる。最初にちるはの振りをしていたのは彼、和紋・蜚廉(現世の遺骸・h07277)だった。
「主様、がっかりしました?」
「……!」
からかうようなちるはの言葉に苛立った様子を見せながらも、デュミナスシャドウの思考は相手に合わせた最適な戦法を弾き出す。
しかし。
「遅いな」
二人がかりの二重の偽装に、追いつくところまでは至らなかった。
蜚廉の体重の乗った拳と、槍のように放たれたちるはの蹴り、その双方を捌き切れず、デュミナスシャドウはまともに攻撃を受けることになる。卓越した機動力を駆使し、どうにか追撃を免れたようだが。
「してやられただと、この俺が……?」
一度ならず、二度までも。星詠みの力を利用し、動きを予知した五分の条件、その上に王劍を以てしてなおうまくいかぬ状況に、デュミナスシャドウは明らかに動揺を見せていた。
このまま正面から戦えば、結局は王劍の力にものを言わせて捻じ伏せることも可能だろう……と、そんな結論にさえ確信が持てぬほどに。
「チッ……!」
部下の報告も上がっていない以上、一旦仕切り直すべきだ。そう判断したのか、デュミナスシャドウはそのまま家屋を飛び越えるようにして姿を消した。
「行っちゃいましたね、主様」
「……いつまで続けるんだ、それは?」
安堵の息と共に軽口を交わして、二人はまた先行した者達を追う。
デュミナスシャドウの迎撃を退けた今、常夏同盟の拠点で戦っている仲間達の援護に入ることができるはず。
さて、そちらの戦況はどうなっているだろうか――?
第2章 冒険 『混戦の戦場』
●
寒風の吹きすさぶ中、音を吸う雪の幕を越えて、戦いの音色が響き渡る。
常夏同盟の拠点、商店街にある三階建てのビルの中は、まさに混迷を極めていた。常夏同盟は既にコウモリプラグマの傘下に収まっており、乗り込んできたデュミナスシャドウの手勢と争いになっている。
「やったるプレー!」「死ねレコー!」
熱帯魚のプレコを改造したと思しきゆるキャラみたいな怪人達が、恐らく常夏同盟の戦闘員なのだろう。落とし穴とかを使って迎撃態勢を整えた彼等に対し、デュミナスシャドウ側の黒いスーツを着た戦闘員達が数を頼みに襲い掛かる。
「あいつら寒くなると動きが鈍るぞ!」「エアコンを消してやれー!!」
一見すると微笑ましいが、先陣を切って突入したスラッシャーバニーにやられた戦闘員なども転がっており、まあまあ凄惨なことになっている。
互いの戦力の現場指揮官、Mr.テトラヘドロンとスラッシャーバニーは最上階である三階で戦闘中。そして先行したチームは、この『同士討ち』を利用する方向で動いており……指揮官格に√EDEN側の存在を悟られないようにしつつ、外部からの狙撃で三階の戦いに介入している。
この混沌とした、そして現在進行形で展開中の戦場において、細かい打ち合わせをしている暇はない。『この状況を利用し、敵を全滅させる』……先行したチームの方針を踏まえつつ、こちらのチームはこちらのチームで動くべきだろう。
手始めに、一階と二階の戦闘員達に対処するのが得策に思えるが……?